IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許7125013硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
<>
  • 特許-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図1
  • 特許-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図2
  • 特許-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図3
  • 特許-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20220817BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20220817BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20220817BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20220817BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
B23B51/00 J
C23C16/34
C23C16/36
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019054069
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020151822
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】中村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】石垣 卓也
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 光亮
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚志
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137549(JP,A)
【文献】特開2018-118346(JP,A)
【文献】特開2006-307323(JP,A)
【文献】特開2014-210333(JP,A)
【文献】特開2016-5863(JP,A)
【文献】特開2015-157351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
B23B 51/00
C23C 16/34
C23C 16/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基体の表面に硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具であって、
(a)前記硬質被覆層は、平均層厚が1.0~20.0μmのTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を含み、
(b)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、その組成を、
組成式:(Ti1-xAl)(C1-y)で表した場合、
AlのAlとTiの合量に占めるAlの含有割合xの平均xavgが、0.60≦xavg≦0.90を満足し、また、CのCとNの合量に占めるCの含有割合yの平均yavgが、0.000≦yavg≦0.005(但し、x、y、xavg、yavgは原子比)であり、
(c)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の縦断面のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、前記AlのAlとTiの合量に占めるAlの含有割合xが、50~200nmの平均周期dLavgを有する長周期変化と1~20nmの平均周期dSavgを有する短周期変化を有し(dLavg、dSavgはxの変化の周期が最小になる方向において測定される値)、
(d)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の縦断面を0.5μmの間隔で工具基体側端面から工具表面に向かって順にn個の区間(区間1、・・・、区間n)に分割したとき、各区間の前記長周期変化における隣接するxの極大値と極小値との平均差ΔxLiの平均値ΔxLavgが0.12~0.15で、
各区間の前記短周期変化における隣接するxの極大値と極小値との平均差ΔxSiの平均値ΔxSavgが0.03~0.07であり、
(e)前記各区間の前記長周期変化における隣接するxの極大値と極小値との平均差ΔxLiは、前記工具基体から遠ざかるにつれて、
前記nが3以上のとき、(区間1から区間[n/3]までのΔxLiの平均値)<(区間[n/3]+1から区間[2n/3]までのΔxLiの平均値)<(区間[2n/3]+1から区間nまでのΔxLiの平均値)を満足し、
前記nが2のとき、ΔxL1<ΔxL2
を満たすように増加し、
(f)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、縦断面において、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の占める割合が80面積%以上であって、前記長周期変化と前記短周期変化を有する該結晶粒の割合が50面積%以上である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記長周期変化と前記短周期変化を有する前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒は、前記縦断面において70面積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鋼や高炭素鋼等の高速断続切削加工であっても、硬質被覆層が優れた耐チッピング性を備えることにより、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金等の工具基体の表面に、硬質被覆層として、Ti-Al系の複合炭窒化物層を蒸着法により被覆形成した被覆工具があり、これらは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi-Al系の複合炭窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、CVDによって成膜された複数の層を有し、Ti1-xAlN層および/またはTi1-xAlC層および/またはTi1-xAlCN層(式中、xは0.65~0.95である)の上にAl層が外層として配置されていることを特徴とする、硬質材料で被覆された被覆工具が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、工具基体と、その表面に形成された1または2以上の硬質被膜層を含む被覆工具であって、前記硬質被膜のうち少なくとも1層は、硬質粒子を含む層であり、前記硬質粒子は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、前記第1単位層は、周期表の4族~6族元素およびAlからなる群より選ばれる1種以上の元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とからなる第1化合物を含み、前記第2単位層は、周期表の4~6族元素およびAlからなる群より選ばれる1種以上の元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とからなる第2化合物を含む、被覆工具が記載されている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3には、(a)硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1~20μmの(Ti1-XAl)(C1-Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavgが、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005である、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒を含む複合窒化物層または複合炭窒化物層を有し、(b)前記複合窒化物層または複合炭窒化物層の工具基体表面の法線方向に沿って、前記結晶粒内にTiとAlの周期的な組成変化が存在し、該周期的な組成変化が存在する前記結晶粒は、その工具基体表面の法線方向に沿った組成変化の周期が50~200nmである長周期層から構成され、さらに前記長周期層は、平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されており、A層およびB層における周期は3~20nmであり、A層およびB層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均のそれぞれの差Δx、Δxは、0.02<Δx<0.1、0.02<Δx<0.1を満たし、さらに、A層とB層から構成される長周期層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均の差Δxは、0.05<Δx<0.25を満たし、かつ、Δx>(Δx+Δx)であることを特徴とする被覆工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-516722号公報
【文献】特開2014-129562号公報
【文献】特開2016-137549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の切削加工における省力化および省エネルギー化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性が求められている。
【0008】
そこで、本発明はこのような状況をかんがみてなされたもので、合金鋼や高炭素鋼等の高速断続切削加工等に供した場合であっても、長期の使用にわたって優れた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層(以下、これらを総称して、「TiAlCN層」ということがある)を含む被覆工具の耐チッピング性、耐摩耗性をはかるべく、鋭意検討を重ねた。
【0010】
その結果、TiAlCN層内のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内に、TiとAlの組成の特定の繰り返し変化が2種類存在すると、1種類しか存在しない場合に比して大きな歪みが生じ、この大きな歪みが硬さと靭性の向上に寄与して、硬質被覆層の耐チッピング性、耐欠損性を向上させるという新規な知見を得た。
【0011】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)工具基体の表面に硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具であって、
(a)前記硬質被覆層は、平均層厚が1.0~20.0μmのTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を含み、
(b)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、その組成を、
組成式:(Ti1-xAl)(C1-y)で表した場合、
AlのAlとTiの合量に占めるAlの含有割合xの平均xavgが、0.60≦xavg≦0.90を満足し、また、CのCとNの合量に占めるCの含有割合yの平均yavgが、0.000≦yavg≦0.005(但し、x、y、xavg、yavgは原子比)であり、
(c)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の縦断面のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、前記AlのAlとTiの合量に占めるAlの含有割合xが、50~200nmの平均周期dLavgを有する長周期変化と1~20nmの平均周期dSavgを有する短周期変化を有し(dLavg、dSavgはxの変化の周期が最小になる方向において測定される値)、
(d)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の縦断面を0.5μmの間隔で工具基体側端面から工具表面に向かって順にn個の区間(区間1、・・・、区間n)に分割したとき、各区間の前記長周期変化における隣接するxの極大値と極小値との平均差ΔxLiの平均値ΔxLavgが0.12~0.15で、
各区間の前記短周期変化における隣接するxの極大値と極小値との平均差ΔxSiの平均値ΔxSavgが0.03~0.07であり、
(e)前記各区間の前記長周期変化における隣接するxの極大値と極小値との平均差ΔxLiは、前記工具基体から遠ざかるにつれて、
前記nが3以上のとき、(区間1から区間[n/3]までのΔxLiの平均値)<(区間[n/3]+1から区間[2n/3]までのΔxLiの平均値)<(区間[2n/3]+1から区間nまでのΔxLiの平均値)を満足し、
前記nが2のとき、ΔxL1<ΔxL2
を満たすように増加し、
(f)前記TiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、縦断面において、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の占める割合が80面積%以上であって、前記長周期変化と前記短周期変化を有する該結晶粒の割合が50面積%以上である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記長周期変化と前記短周期変化を有する前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒は、前記縦断面において70面積%以上である、
ことを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面被覆工具は、硬質被覆層の硬さと靱性が向上して優れた耐チッピング性、耐剥離性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Al含有割合xの周期的変化を説明する模式図である。
図2】Al含有割合xの長周期変化と短周期変化の観察方向を示す模式図である。
図3】AlClとTiClの合量を一定としてAlCl/TiCl(容量%の比)の値を周期的に増減させた一例を示す模式図である。
図4】相対的に周期の長い波形(三角波状)と相対的に周期の短い波形(パルス状)を重畳させた一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書および特許請求の範囲において数値範囲を「~」で表現するとき、その範囲は上限および下限の数値を含んでいる。
【0015】
TiAlCN層の平均層厚:
本発明の硬質被覆層は、TiAlCN層を少なくとも含む。このTiAlCN層は、硬さが高く、優れた耐チッピング性、耐摩耗性を有するが、特に平均層厚が1.0~20.0μmのとき、その効果が際立って発揮される。これは、平均層厚が1.0μm未満では、層厚が薄いため長期の使用にわたっての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20.0μmを超えると、TiAlCN層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなる。
したがって、その平均層厚を1.0~20.0μmと定めた。平均層厚は、3.0~15.0μmがより好ましい。
【0016】
TiAlCN層の平均組成:
本発明におけるTiAlCN層の組成は、組成式:(Ti1-xAl)(C1-y)で表したとき、
AlのTiとAlの合量に占める含有割合xの平均(以下、「Al含有割合の平均」という)xavgが、
CのC、Nとの合量に占める含有割合yの平均(以下、「C含有割合の平均」という)yavgが、
それぞれ、0.60≦xavg≦0.90、0.000≦yavg≦0.005(ただし、xavg、yavgはいずれも原子比)を満足するように定める。
【0017】
その理由は、以下のとおりである。
Al含有割合の平均xavgが0.60未満であると、TiAlCN層は硬さが劣るため、合金鋼等の高速切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でなく、一方、0.90を超えると六方晶のTiAlCN結晶粒が析出し、耐摩耗性が低下する。したがって、0.60≦xavg≦0.90としたが、より好ましくは0.70≦xavg≦0.90である。
また、C含有割合の平均yavgを0.000≦yavg≦0.005と定めたのは、前記範囲において耐チッピング性を保ちつつ硬さを向上させることができるためである。
【0018】
TiAlCN層のAl含有割合の平均xavgは、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用い、試料断面を研磨した試料において、電子線を縦断面側から照射し、膜厚方向に5本の線分析を行って得られたオージェ電子の解析結果を平均したものである。
【0019】
また、C含有割合の平均yavgは、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)により求める。すなわち、試料表面を研磨した試料において、TiAlCN層の表面側からイオンビームを70μm×70μmの範囲に照射し、イオンビームによる面分析とスパッタイオンビームによるエッチングとを交互に繰り返すことにより深さ方向の組成測定を行う。まず、TiAlCN層についての層の深さ方向へ0.5μm以上侵入した箇所から0.1μm以下のピッチで少なくとも0.5μmの長さの測定を行ったデータの平均を求める。さらに、これを少なくとも試料表面の5箇所において繰り返し算出した結果を平均してC含有割合の平均yavgとして求める。
【0020】
TiAlCN層のAl含有割合の繰り返し変化:
TiAlCN層の縦断面を0.5μmの間隔で層厚方向に順にn個の区間(区間1、・・・、区間n)に分割したとき、この区間において、NaCl型の面心立方構造(立方晶)を有する結晶粒のAlのTiとAlの合量に占める含有割合(以下、「Al含有割合」という)xの繰り返し変化の平均間隔(平均周期)として、50~200nmである長い間隔のAl含有割合xの繰り返し変化(長周期変化)と、平均周期が1~20nmである短い間隔のAl含有割合xの繰り返し変化(短周期変化)とが、存在することが好ましい。
【0021】
ここで、Al含有割合xの繰り返し変化とは、測定区間のほとんどの位置で、ほぼ一定の間隔(周期)をおいて、ほぼ同じAl含有割合xの値が観察できることをいい、長周期変化と短周期変化を有していることをグラフ化すると、図1に示すような、あたかも、一定振幅の短周期の正弦波と一定振幅の長周期の正弦波とを重畳したものに類似する変化を示す。そして、このほぼ一定の間隔は、前記区間を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)によって観察すると、Al含有割合xの繰り返し変化が観察でき、長周期変化と短周期変化がいずれも最小になる方向(観察方向という。図2の模式図では工具基体から遠ざかる方向であり、必ずしも工具基体表面に垂直な方向ではないが、工具表面方向ともよぶ。)に対して測定する。
【0022】
長い間隔のAl含有割合xの繰り返し変化(長周期変化)とは、次のとおりのものである。すなわち、前記観察方向において、後述するライン分析によってAl含有割合xの繰り返し変化を測定し、この変化を直線近似する。すなわち、直線と繰り返し変化を示す曲線に囲まれた領域の面積が直線の上側と下側とで等しくなるように、前記曲線を横切る直線を引く。この近似直線(x図1では直線mと記載されているもの)の傾きは増加、減少、ほぼ一定のいずれであってもよい。そして、このxがAl含有割合xの繰り返し変化を示す曲線を横切る領域ごとに、極大値または極小値を求めたとき、隣接する極大値と極小値の差が0.10以上であれば、その極大値と極小値をそれぞれ長周期変化の極大値、長周期変化の極小値と呼ぶ。また、前記の隣接する極大値同士または極小値同士の間隔を長周期と呼ぶ。なお、この長周期の平均値dLavgが50~200nmであることが好ましい(図1を参照)。
【0023】
長周期の平均値dLavgをこの範囲とする理由は、50nm未満であると、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒がAl含有割合xの変化として短周期変化に加えて長周期変化を有することによる靱性向上の効果が小さく、耐チッピング性の向上が望めず、一方、周期が200nmを超えると、クラック進展を抑制することができず、耐チッピング性、耐剥離性が低下するためである。なお、長周期の平均値dLavgは80~180nmであることがより好ましい。
【0024】
短い間隔のAl含有割合xの繰り返し変化(短周期変化)とは、前記観察方向において、後述するライン分析を行ったとき、Al含有割合xの増加し減少する変化が、隣接して繰り返される変化であり、この隣接する繰り返しにおいて、隣接する極大値同士、または、極小値同士の間隔を短周期と呼び、この短周期の平均値dSavgが1~20nmであることが好ましい(図1を参照)。
【0025】
短周期の平均値dSavgをこの範囲とする理由は、1nm未満であると、高Al含有領域(Al含有割合xの繰り返し変化を示す曲線において近似直線xより上側の範囲)と低Al含有領域(Al含有割合xの繰り返し変化を示す曲線において近似直線xより下側の範囲)の界面数が増えることにより、局所的な密着強度の低下や塑性変形を生じやすくなるため、耐チッピング性あるいは硬さが低下し、一方、20nmを超えると、切削時のクラックの進展抑制のための十分な緩衝作用が見込めないためである。なお、短周期の平均値dSavgは3~15nmがより好ましい。
【0026】
長周期の平均値dLavgと短周期の平均値dSavgの測定:
前記長周期の平均値dLavgと短周期の平均値dSavgは次にようにして測定する。
(1)TiAlCN層の縦断面を、工具基体との界面から工具表面に向かって、0.5μm間隔で層厚方向に分割して、区間を画定する。ただし、工具表面に最も近い区間の厚さは0.5μm未満となってもよい。
【0027】
(2)TiAlCN層の平均層厚が5.0μm以下の場合は分割したすべての区間を、平均層厚が5.0μmを超える場合は少なくとも10個の区間(但し、区間1(工具基体に最も近い区間)、区間n(工具表面に最も近い区間)を含む等間隔の区間が好ましい)を測定対象とする。
【0028】
(3)前記測定対象の区間の全てに対して、TEMによる観察を行い、Al含有割合xの繰り返し変化を観察できることを確認した後、前記観察方向を確定して5本の後述するライン分析(測定間隔0.5nm以下)を行う。
【0029】
(4)観察方向の位置とAl含有割合xの繰り返し変化との関係をグラフ化し、ライン分析を行った全範囲においてAl含有割合xの繰り返し変化の間隔を測定し、前記のとおり長周期の平均値dLavgと短周期の平均値dSavgを求める。ここで、この平均値を求めるために、前記のとおり、Al含有割合xの繰り返し変化を測定し、この繰り返し変化を示す曲線と直線に囲まれた領域の面積が直線の上側と下側とで等しくなるように、前記曲線を横切る直線を引くことにより、前記曲線を直線近似する。なお、グラフ化に当たり公知の測定ノイズ除去方法(例えば、移動平均法)を行うことはいうまでもない。
【0030】
長周期変化と短周期変化におけるAl含有割合の差
長周期変化における前記区間の内のAl含有割合変化の測定対象区間(i)ごとの前記極大値と前記極小値との平均差ΔxLiを求め、測定対象となった全ての区間にわたって平均した(すなわち、実質的に硬質被覆層全体の平均となる)平均値ΔxLavgは、0.12~0.15であることが好ましい。その理由は、0.12未満であると、TiAlCN層がAl含有割合xの変化として短周期変化に加えて長周期変化を有することによる切削時のクラック進展の抑制効果が小さくなり、一方、0.15を超えると、結晶粒の格子歪が大きくなりすぎ、格子欠陥が増加し、硬さが低下するためである。
【0031】
また、前記測定対象区間(i)ごとの短周期変化である前記極大値と前記極小値との平均差ΔxSiの平均差ΔxSavgは0.03~0.07が好ましい。その理由は、0.03未満であると、切削時のクラック進展の抑制効果が小さくなり、耐チッピング性が低下し、一方、0.07を超えると、前記高Al含有領域と前記低Al含有領域の界面に生じる格子歪が大きくなり過ぎ、切削時に破壊起点となってチッピング等の異常損傷を生じるためである。ΔxSavgは0.05~0.07がより好ましい。
【0032】
ΔxLiの変化
前記各測定対象区間(i)において、隣接する前記極大値と前記極小値との平均差ΔxLiは、前記工具基体から遠ざかるにつれて増加しており、
n≧3のとき、
(区間1から区間[n/3]までのΔxLiの平均値)<(区間[n/3]+1から区間[2n/3]までのΔxLiの平均値)<(区間[2n/3]+1から区間nまでのΔxLiの平均値)、
すなわち、
ΔxL1+ΔxL2+・・・+ΔxL[n/3])/[n/3]<(ΔxL[n/3]+ΔxL[n/3]+1+・・・+ΔxL[2n/3])/([2n/3]-[n/3])<(ΔxL[2n/3]+ΔxL[2n/3]+1+・・・+ΔxLn)/(n-[2n/3])
を満足し、
n=2のとき、ΔxL1<ΔxL2
を満たすことが好ましい。その理由は、この条件を満足すると、TiAlCN層とその直下の層(後述する下部層)または工具基体の歪みの差が抑制されるため、優れた耐剥離性を示すからである。
なお、前記[i](i=n/3、2n/3)はガウス記号を表す。
ガウス記号[i]はiを超えない最大の整数を表す数学記号であり、言い換えれば、[i]は、m≦i<m+1で定義される数値(ただし、mは整数)をいう。
例えば、n=23、すなわち、n/3=7.7、2n/3=15.3の場合、[n/3]=7、[2n/3]=15となる。
【0033】
TiAlCN層内のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の面積割合:
前記TiAlCN層におけるNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の面積割合が80面積%以上であることが好ましい。これにより、高硬度であるNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の面積割合が六方晶構造の結晶粒に比べて相対的に高くなり、TiAlCN層の硬さが向上するという効果を得ることができる。この面積割合は、より好ましくは90面積%以上である。
【0034】
ここで、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒の面積割合は、次のように測定する。TiAlCN層の縦断面(工具基体表面に垂直な断面)において、工具基体表面に平行な方向に100μm、工具基体表面に垂直な方向に層厚分の長さを測定範囲とする。この測定範囲を研磨し、電子線後方散乱回折像装置(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)を用いて、この研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、電子線を0.01μm間隔で照射して得られる電子線後方散乱回折像に基づきNaCl型の面心立方晶構造を有するかについて結晶粒個々の結晶構造を解析する。このとき、隣接する測定点(ピクセル)間で5度以上の方位差がある場合、そこを粒界と定義し、粒界で囲まれた領域を1つの結晶粒と定義する。ただし、隣接するピクセル全てと5度以上の方位差がある単独に存在するピクセルは結晶粒とせず、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒として取り扱う。
【0035】
長周期変化と短周期変化を有するNaCl型の面心立方構造の結晶粒の縦断面における面積割合:
長周期変化と短周期変化を有するNaCl型の面心立方構造の結晶粒の面積割合は、縦断面において50面積%以上であることが好ましい。その理由は、50面積%以上であると、クラック進展を抑制する効果がより大きくなり、靱性向上の効果も一層向上するためである。この面積割合は、より好ましくは70面積%以上である。
【0036】
なお、長周期変化と短周期変化を有するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の面積割合は、次のように測定する。TEMを用いて、1μm×1μmの像におけるAl含有割合xの繰り返し変化に対応する画像のコントラストの変化によって確認されるAl含有割合xの繰り返し変化(長周期変化、短周期変化のいずれか一方のみの場合も含む)を有する結晶粒を特定する。更に、Al含有割合xの繰り返し変化を有する結晶粒すべてに対して、後述するライン分析を行い、長周期変化および短周期変化の有無を確認する。そして、長周期変化と短周期変化を両方とも有する結晶粒の面積をそれぞれ算出し、前記1μm×1μmの観察領域に占める面積割合を少なくとも5視野で求め、その平均値を本発明における長周期変化と短周期変化を有する結晶粒の面積として求めることができる。
【0037】
ここで、前記Al含有割合xを測定するライン分析とは、研磨して作製した試料縦断面において、TEMを用いたエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:EDS)により工具基体から離れる方向(工具表面方向)に5本のラインに沿って分析を行い、得られた解析結果を平均したものである。ただし、測定範囲は、前記観察方向において、少なくとも100nmの長さで、かつ長周期変化の平均周期dLavgよりも長い範囲とする(長周期変化の平均周期dLavgが200nmであった場合には200nmの長さ、長周期変化の平均周期dLavgが50nmあるいは長周期変化が存在しない場合には100nmの長さで測定を行う。)。
【0038】
その他の層:
硬質被覆層として、本発明の前記TiAlCN層は十分な耐摩耗性、耐チッピング性、および、耐剥離性を有するが、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、0.1~20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物(化学量論的な化合物に限定されない)層を含む下部層を工具基体に隣接して設けた場合、および/または、少なくとも酸化アルミニウム層を含む層が1.0~25.0μmの合計平均層厚で上部層として前記TiAlCN層の上に設けられた場合には、これらの層が奏する効果と相俟って、より一層優れた耐摩耗性、耐チッピング性、および、耐剥離性を発揮することができる。
【0039】
ここで、下部層の合計平均層厚が0.1μm未満では、下部層の効果が十分に奏されず、一方、20.0μmを超えると下部層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなる。また、酸化アルミニウム層を含む上部層の合計平均層厚が1.0μm未満では、上部層の効果が十分に奏されず、一方、25.0μmを超えると上部層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなる。
【0040】
工具基体:
工具基体は、この種の工具基体として従来公知の基材であれば、本発明の目的を達成することを阻害するものでない限り、いずれのものも使用可能である。一例を挙げるならば、超硬合金(WC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、cBN焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0041】
製造方法:
Al含有割合xの長周期変化と短周期変化を有する本発明のTiAlCN層は、例えば、工具基体もしくは当該工具基体上にある前記下部層であるTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層の少なくとも一層以上の上に、例えば、NHとHからなるガス群Aと、AlCl、TiCl、N、C、Hからなるガス群Bと、からなる2種の反応ガスを次のように供給することによって得ることができる。すなわち、Al含有割合xの長周期変化を形成するため、ガス群Aの組成は変化させず、ガス群BのAlClとTiClの合量を一定としてAlCl/TiCl(容量%の比)の値を周期的に増減させ(例えば、三角波状、矩形波状等)、かつ、AlCl/TiClの極大値と極小値との差を増加させて供給する(図3を参照)。また、短周期変化を形成するため、ガス群Aとガス群Bを共に組成を変化させることなく(長周期変化を形成するため変化させたAlCl、TiClの値を更に変化させることはなく)、所定の位相差で供給する。
長周期変化を与えるためのガス供給方法に対して短周期変化を与えるためのガス供給方法を組み合わせるため、全体的なガス変化は、あたかも相対的に周期の長い波形と相対的に周期の短い波形(パルス波)を重畳したものになる(図4を参照)。
【0042】
反応ガス組成(容量%):
長周期変化と短周期変化共通:
ガス群A:NH:2.0~5.0%、H:65~75%
ガス群B:AlCl:0.52~0.76%、TiCl:0.08~0.53%、
:0.0~12.0%、C:0.0~0.5%、H:残
反応雰囲気圧力:4.0~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~900℃
長周期変化:
AlCl/TiClの増減の周期:10.0~40.0秒
AlCl/TiClの極大値と極小値との差:0.44~6.23(開始時)
0.65~147(終了時)
短周期変化:
ガス供給周期:1.00~5.00秒
1周期当たりのガス供給時間:0.10~0.20秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.05~0.15秒
【実施例
【0043】
次に、実施例について説明する。
ここでは、本発明被覆工具の具体例として、工具基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、工具基体として、前記のものを用いた場合であっても同様であるし、ドリル、エンドミルに適用した場合も同様である。
【0044】
原料粉末として、いずれも1~3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、ZrC粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370~1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A~C、および、ISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体D~Fをそれぞれ製造した。
【0045】
次に、これら工具基体A~Fの表面に、CVD装置を用いて、TiAlCN層をCVDにより形成し、表5に示される本発明被覆工具1~16を得た。
成膜条件は、表2に記載したとおりであるが、概ね、次のとおりであって、Al含有割合xの長周期変化を形成するため、ガス群Aの組成は変化させず、ガス群BのAlClとTiClの合量を一定としてAlCl/TiCl(容量%の比)の値を表2で示す開始値から三角波状に変化させ、かつ、AlCl/TiClの極大値と極小値との差を線形に増加させて供給した。また、短周期変化を形成するため、ガス群Aとガス群Bを共に組成を変化させることなく(長周期変化を形成するため変化させたAlCl、TiClの値を更に変化させることはなく)、所定の位相差で供給した。なお、ガス組成の%は容量%(ガス群Aとガス群Bの和を全体としている)である。
【0046】
反応ガス組成(容量%):
長周期変化と短周期変化共通:
ガス群A:NH:2.0~5.0%、H:65~75%
ガス群B:AlCl:0.52~0.76%、TiCl:0.08~0.53%、
:0.0~12.0%、C:0.0~0.5%、H:残
反応雰囲気圧力:4.0~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~900℃
長周期変化:
AlCl/TiClの三角波状変化の周期:10.0~40.0秒
AlCl/TiClの極大値と極小値との差:0.44~6.23(開始時)
0.65~147(終了時)
短周期変化:
ガス供給周期:1.00~5.00秒
1周期当たりのガス供給時間:0.10~0.20秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.05~0.15秒
【0047】
なお、本発明被覆工具4~8、11、13、15、および16は、表3に記載された成膜条件により、表4に示された下部層および/または上部層を形成した。
【0048】
また、比較の目的で、工具基体A~Fの表面に、表2に示される条件によりCVDを行うことにより、表5に示されるTiAlCN層を含む硬質被覆層を蒸着形成して比較被覆工具1~16を製造した。
なお、比較被覆工具4~8、11、13、15、および16については、表3に示される形成条件により、表4に示された下部層および/または上部層を形成した。
【0049】
さらに、前記本発明被覆工具1~16および比較被覆工具1~16の硬質被覆層について、前述の方法によりAl含有割合の平均xavg、C含有割合の平均yavgを求めた。また、長周期変化の平均間隔dLavg、短周期変化の平均間隔dSavg、ΔxLavg、ΔxSavg、ΔxLi、NaCl型の面心立方構造の結晶粒の面積割合、および、Al含有割合の周期的変化を有するNaCl型の面心立方構造の結晶粒の面積割合(面積%)を求めた。
さらに、平均層厚は、本発明被覆工具1~16、比較被覆工具1~16の各構成層の縦断面(工具基体表面に垂直な方向の断面)を、走査型電子顕微鏡を用いて適切な倍率(倍率5000倍)を選択して観察し、観察視野内の5点の層厚を測って平均した。
結果を表5に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】
【0055】
続いて、前記本発明被覆工具1~8および比較被覆工具1~8について、前記各種の工具基体A~C(ISO規格SEEN1203AFSN形状)をいずれもカッタ径125mmの合金鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、以下に示す、合金鋼の乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。表6に、切削試験の結果を示す。なお、比較被覆工具1~8については、チッピング発生が原因で切削時間終了前に寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
【0056】
切削試験1:乾式高速正面フライス、センターカット切削試験
カッタ径:125mm
被削材:JIS・SCM440 幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度:1019min-1
切削速度:400m/min
切り込み:2.5mm
送り:0.25mm/刃
切削時間:20分
(通常の切削速度は、200m/min)
【0057】
また、前記本発明被覆工具9~16および比較被覆工具9~16について、前記各種の被覆工具D~F(ISO規格CNMG120412形状)をいずれも合金鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、以下に示す、高炭素鋼の乾式高速断続切削試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。表7に、切削試験の結果を示す。なお、比較被覆工具9~16については、チッピング発生が原因で切削時間終了前に寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
【0058】
切削試験2:乾式高速断続切削
被削材: JIS・S55Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒
切削速度: 400 m/min
切り込み: 1.5 mm
一刃送り量:0.2 mm/刃
切削時間: 5分
(通常の切削速度は、200m/min)
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
表6、表7に示される結果から、本発明被覆工具1~16は、いずれも硬質被覆層が優れた耐チッピング性、耐剥離性を有しているため、合金鋼や高炭素鋼の高速断続切削加工に用いた場合であってもチッピングの発生がなく、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。これに対して、本発明の被覆工具に規定される事項を一つでも満足していない比較被覆工具1~16は、合金鋼や高炭素鋼の高速断続切削加工に用いた場合チッピングが発生し、短時間で使用寿命に至っている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
前述のように、本発明の被覆工具は、合金鋼や高炭素鋼以外の高速断続切削加工の被覆工具としても用いることができ、しかも、長期にわたって優れた耐チッピング性、耐剥離性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化及び省エネルギー化、さらには低コスト化に十分に満足できる対応が可能である。
図1
図2
図3
図4