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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】光応答性化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/95 20060101AFI20220817BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220817BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20220817BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C07D239/95 CSP
A61K41/00
A61K47/55
A61P29/00 101
A61P35/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018165991
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020037539
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会第98春季年会(2018) 予稿集 発行日 平成30年3月6日、日本化学会第98春季年会(2018) 開催日 平成30年3月22日、第29回 万有仙台シンポジウム 予稿集 発行日 平成30年5月15日、第29回 万有仙台シンポジウム 開催日 平成30年6月9日、The 2nd International Symposium on Chemical Communication 予稿集 発行日 平成30年5月28日、The 2nd International Symposium on Chemical Communication 開催日 平成30年5月29日、11th Tohoku University’s Chemistry Summer School 予稿集 発行日 平成30年8月6日、11th Tohoku University’s Chemistry Summer School 開催日 平成30年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】水上 進
(72)【発明者】
【氏名】間下 貴斗
(72)【発明者】
【氏名】小和田 俊行
(72)【発明者】
【氏名】松井 敏高
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-27287(JP,A)
【文献】米国特許第6919453(US,B1)
【文献】特公昭47-11348(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/122151(WO,A1)
【文献】Journal of Organic Chemistry,1962年,Vol. 27, No. 8,pp. 2863-2865
【文献】REGISTRY(STN)[online],[検索日 2022.01.28],2004年11月11日,2004年11月09日, 1984年11月16日,CAS登録番号 779266-39-6, 777795-09-2, 50565-99-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/95
A61K 41/00
A61K 47/55
A61P 29/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I-1)若しくは(I-2)で示される化合物又はその塩。
【化1】

[式中、
式(I-1)のキナゾリルは下記式に示される基であり、
【化2】

及び式(I-2)のインドリルは下記式に示される基であり
【化3】

環Aは、5員又は6員アリールであり、アリールの炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置換されていてもよく、
置換基R1は、アミノ又はヒドロキシであり、
置換基R2は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよく、
置換基R3は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよく、
置換基R4は、反応性官能基又は該反応性官能基を有する基であり、該反応性官能基はカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルエステル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、アミド、アルキルアミド、アジド、チオール、イソチオシアネート、スルホニル、アセトアミド、イミド、ハロゲン、オキソ、アルキニル及びアルケニルから選択される基であり、
mは、0~3の整数を示し、
nは、0~4の整数を示す。]
【請求項2】
前記環Aは、フェニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジル、シクロペンタジエニル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、フラザニル又はチアジアゾリルである、請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
前記環Aは、フェニル、ピリジル、イミダゾリル又はピラゾリルである、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
前記反応性官能基を有する基は、反応性官能基を有するC1-20のアルキルであり、アルキルは反応性官能基以外の置換基を有してもよく、アルキルの炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置換されていてもよい、請求項1~のいずれか一項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
前記反応性官能基以外の置換基は、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はC5-10のアリールである、請求項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
前記反応性官能基を有するC1-20のアルキルは、下記式に示される基である、請求項又はに記載の化合物又はその塩。
【化4】

[式中、
pは、0~2の整数を示し、
qは、0~18の整数を示す。]
【請求項7】
前記化合物は、下記式に示される化合物である、請求項1~のいずれか一項に記載の化合物又はその塩。
【化5】
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の化合物又はその塩の誘導体であって、
前記反応性官能基を介して、生体内分子間相互作用解析、生体内分子の体内動態解析の対象となる物質、生体内分子間相互作用解析、生体内分子の体内動態解析に使用し得る物
質又は疾患の治療に用いる低分子化合物が結合した、誘導体。
【請求項9】
前記低分子化合物は、薬物、リガンド物質、シグナル伝達物質、アゴニスト、インヒビター又は標識物質である、請求項に記載の誘導体。
【請求項10】
請求項又はに記載の誘導体、及び前記低分子化合物に結合し得るタンパク質をさらに含む、複合体。
【請求項11】
請求項もしくはに記載の誘導体、又は請求項10に記載の複合体、及び、ジヒドロ葉酸還元酵素若しくはジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質又はそれをコードするDNAを含む試薬。
【請求項12】
請求項11に記載の試薬を含む、
前記ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質を、前記低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質で標識するため、又は、
ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質と、前記低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質を相互作用させるための試薬キット。
【請求項13】
請求項もしくはに記載の誘導体、又は請求項10に記載の複合体と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質とを反応させる工程を含む、
前記低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質とを結合又は相互作用させるための方法。
【請求項14】
さらに、下記a)及びb)工程から選ばれる少なくとも一工程を含み、誘導体又は複合体と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質との反応を可逆的に行う、請求項13に記載の方法。
a)請求項もしくはに記載の誘導体、又は請求項10に記載の複合体に、紫外線を照射する工程;及び、
b)請求項もしくはに記載の誘導体、又は請求項10に記載の複合体に、可視光線を照射する工程。
【請求項15】
請求項1~のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を含む、抗がん剤。
【請求項16】
請求項1~のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を含む、抗リウマチ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性化合物等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内分子間の相互作用の解析等において、ケージド化合物やオプトジェネティクスは、光を利用した生体機能の時空間的制御手法として広く用いられている。しかし、ケージド化合物は本質的に非可逆であるという点において、また、オプトジェネティクスは作用が持続しない点や瞬時の不活性化が困難であるという点において課題がある。
【0003】
また、メトトレキセート(MTX)(非特許文献1)は、抗がん剤やリウマチの治療薬と
して知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】P. Rajagopalan etal. Proc. Natl. Acad. Sci. USA2002, 99, 13481-13486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、医薬や生体内分子間相互作用解析用試薬等として有用な、新規光応答性化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記従来の技術の課題を克服する、光による生体機能の可逆的な時空間的制御を目的とした。そこで、タンパク質に結合する低分子リガンドに、可逆的な光応答性を持たせることで、タンパク質への結合を光制御する手法の開発を目指した。光照射により可逆的に構造が変化するフォトクロミック化合物に着目し、リガンドとその構造を結合することで、光照射による構造変化によりタンパク質との相互作用が変化すると考え、新規光応答性化合物の設計・合成を行った。ここで本発明者等は、MTXに注目した。MTXはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の阻害剤として知られており、MTX-DHFR 複合体中で、MTXは折れ曲がった構造をとっていることが報告されている。本発明では、MTX にアゾベンゼン構造を導入することで、光照射により可逆的に構造が変化するフォトクロミック化合物を合成した。また、同化合物は、光照射によりDHFRへの結合を制御できることを知見し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に関する。
【0007】
[1] 下記式(I-1)若しくは(I-2)で示される化合物又はその塩。
【0008】
【化1】
【0009】
[式中、
式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルの任意の炭素は、窒素で置換されていてもよく、式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルは部分的に水素化されていてもよく、
環Aは、5員又は6員アリールであり、アリールの炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置
換されていてもよく、
置換基R1は、アミノ又はヒドロキシであり、
置換基R2は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよく、
置換基R3は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよく、
置換基R4は、反応性官能基又は該反応性官能基を有する基であり、
mは、0~3の整数を示し、
nは、0~4の整数を示す。]
【0010】
[2] 前記式(I-1)のキナゾリルは、下記式に示される基である、[1]に記載の化合
物又はその塩。
【0011】
【化2】
【0012】
[式中、R1、R2、mは、前記と同義である。]
【0013】
[3] 前記式(I-2)のインドリルは、下記式に示される基である、[1]に記載の化合
物又はその塩。
【0014】
【化3】
【0015】
[式中、R1、R2、mは、前記と同義である。]
【0016】
[4] 前記環Aは、フェニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジ
ル、シクロペンタジエニル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、フラザニル又はチアジアゾリルである、[1]~[3]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
【0017】
[5] 前記環Aは、フェニル、ピリジル、イミダゾリル又はピラゾリルである、[1]
~[4]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[6] 前記反応性官能基は、カルボニル、アルキルカルボニル、エステル、アルキルエステル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、アミド、アルキルアミド、アジ、チオール、イソチオシアネート、スルホニル、アセトアミド、イミド、ハロゲン、オキソ、アルキニル又はアルケニルである、[1]~[5]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[7] 前記反応性官能基を有する基は、反応性官能基を有するC1-20のアルキルであり
、アルキルは反応性官能基以外の置換基を有してもよく、アルキルの炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置換されていてもよい、[1]~[6]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[8] 前記反応性官能基以外の置換基は、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はC5-10のアリールである、[7]に記載の化合物又はその塩。
[9] 前記反応性官能基を有するC1-20のアルキルは、下記式に示される基である、[
7]又は[8]に記載の化合物又はその塩。
【0018】
【化4】
【0019】
[式中、
pは、0~2の整数を示し、
qは、0~18の整数を示す。]
【0020】
[10] 前記化合物は、下記式に示される化合物である、[1]~[9]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
【0021】
【化5】
【0022】
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の化合物又はその塩の誘導体であって、
前記反応性官能基を介して低分子化合物が結合した、誘導体。
[12] 前記低分子化合物は、薬物、リガンド物質、シグナル伝達物質、アゴニスト、インヒビター又は標識物質である、[11]に記載の誘導体。
[13] [11]又は[12]に記載の誘導体、及び前記低分子化合物に結合し得るタンパク質をさらに含む、複合体。
【0023】
[14] [11]もしくは[12]に記載の誘導体、又は[13]に記載の複合体、及び、ジヒドロ葉酸還元酵素若しくはジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質又はそれをコードするDNAを含む試薬。
【0024】
[15] [14]に記載の試薬を含む、
前記ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質を、前記低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質で標識するため、又は、
ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質と、前記低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質を相互作用させるための試薬キット。
【0025】
[16] [11]もしくは[12]に記載の誘導体、又は[13]に記載の複合体と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質とを反応させる工程を含む、
前記低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質とを結合又は相互作用させるための方法。
[17] さらに、下記a)及びb)工程から選ばれる少なくとも一工程を含み、誘導体又は複合体と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質との反応を可逆的に行う、[16]に記載の方法。
a)[11]もしくは[12]に記載の誘導体、又は[13]に記載の複合体に、紫外線を照射する工程;及び、
b)[11]もしくは[12]に記載の誘導体、又は[13]に記載の複合体に、可視光線を照射する工程。
【0026】
[18] [1]~[10]のいずれかに記載の化合物又はその塩を含む、抗がん剤。
[19] [1]~[10]のいずれかに記載の化合物又はその塩を含む、抗リウマチ剤。
【0027】
[20] [1]~[10]のいずれかに記載の化合物又はその塩を対象に投与し、化合物又はその塩とジヒドロ葉酸還元酵素とを反応させる工程を含む、疾患の治療方法。
[21] さらに、下記a)及びb)工程から選ばれる少なくとも一工程を含み、化合物又はその塩と、ジヒドロ葉酸還元酵素との反応を可逆的に行う、[20]に記載の方法。a)[1]~[10]のいずれかに記載の化合物又はその塩に、紫外線を照射する工程;及び
b)[1]~[10]のいずれかに記載の化合物又はその塩に、可視光線を照射する工程。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、新規の光応答性化合物又はその塩が提供される。
本発明の光応答性化合物は、本発明の光応答性化合物と低分子化合物が結合した誘導体として用いることが可能である。同誘導体は、誘導体とジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質等との結合を可逆的に光制御可能であり、生体内分子間相互作用を解析するための試薬等として有用である。また、生体内分子の体内動態を解析するための試薬として有用である。
また、本発明の光応答性化合物は、光により薬物活性の程度、反応させる部位、時間等を制御可能な試薬又は医薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、熱平衡状態でのazoMTXの1H NMRスペクトル(400MHz、D2O)を示す図である。D2O中、20mMのNaOD存在下、[azoMTX]=10mM。サンプルは測定前に暗状況において25℃で27時間インキュベートした。
図2図2は、azoMTXの光異性化の試験結果を示す図である。(A)100mMのNaCl及び1%のDMSOを含有する100mMのHEPESバッファ(pH=7.4)中の30μMのazoMTXのUV/visスペクトル。(B)交互光照射下における350nmでの時間依存吸収変化。光強度はそれぞれの波長に対し9.0mWcm-2に設定した。
図3図3は、蛍光偏光解消に基づくeDHFRとのazoMTXの競合的結合アッセイの試験結果を示す図である。25℃、100mMのNaClを含有する100mMのHEPES-NaOHバッファ(pH7.4)中、[MTX-FI]=2nM、[eDHFR]=2nM。蛍光偏光測定:λex=497nm、λem=520nm。アッセイの直前に5分間6.0mWcm-2で365±5nmの光をPSS365のazoMTXに照射した。
図4図4は、azoMTXとのeDHFR活性の光学制御の検討結果を示す図である。(A)阻害剤の有無によるeDHFRの酵素反応。25℃、100mMのNaClを含有する100mMのHEPES-NaOHバッファ(pH7.4)中、[eDHFR]=10nM、[NADPH]=60μM、[ジヒドロ葉酸]=50μM。アッセイの直前に5分間9.0mWcm-2で365±5nmの光をPSS365のazoMTXに照射した。(B)阻害剤の有無による酵素反応の初速度(v0)(n=3)。(C)azoMTX存在下での酵素反応の可逆的光制御。光強度は365nmに対し10.8mWcm-2、515nmに対し12.4mWcm-2に設定した。
図5図5は、MTXとazoMTXの構造のモデルを示す図である。(A)eDHFR-MTX-NADPH三元複合体の結晶構造。(B)MTXとazoMTX(Z異性体)の構造。(C)azoMTXの光異性化(左)及び光切替え可能なazoMTXとeDHFRの模式図(右)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書中で使用する略号及びその意味を説明する。
MTX: (S)-2-(4-(((2,4-diaminopteridin-6-yl)methyl)methylamino)benzamido)pentanedioic acid, メトトレキセート(Methotrexate)
azoMTX: [(S)-2-(4-(((2,4-diaminoquinazoline-6-yl)methyl)diazo)benzamido)pentanedioic acid]
DHFR:ジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase)
【0031】
以下、本発明について説明する。
本発明の光応答性化合物であるazoMTXは、熱平衡状態の化合物への紫外線照射により、伸長したtrans構造(E異性体)が折れ曲がったcis構造(Z異性体)に変化し、可視光線照射により熱平衡状態のtrans構造に化合物の構造が戻る(図5)。本発明の光応答性化合
物は、cis構造ではジヒドロ葉酸還元酵素と結合し、trans構造では結合しないことが確認された。
【0032】
このような特性により、本発明の光応答性化合物は、光照射により標的タンパク質への結合能を変化させることが可能である。すなわち、本発明の光応答性化合物は、本発明の光応答性化合物に結合した低分子化合物とジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質との結合等を可逆的に光制御可能であり、生体内分子間相互作用解析や生体内分子の体内動態解析に利用可能である。
【0033】
また、本発明の光応答性化合物は単独又は薬物を結合して、光により薬物活性の程度、反応させる部位、時間等を制御可能な試薬又は医薬として利用可能である。
【0034】
(光応答性化合物)
本発明の一形態は、下記式(I-1)若しくは(I-2)で示される化合物又はその塩(以下、「本発明の光応答性化合物」ということがある)に関する。式(I-1)若しくは(I-2)で示される化合物又はその塩は、紫外線照射によりtrans構造がcis構造に変化し、可視光線照射によりtrans構造に戻る、可逆的光応答性機能を有する。
【0035】
【化6】
【0036】
[式中、
式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルの任意の炭素は、窒素で置換されていてもよく、式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルは部分的に水素化されていてもよく、
環Aは、5員又は6員アリールであり、アリールの炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置
換されていてもよく、
置換基R1は、アミノ又はヒドロキシであり、
置換基R2は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよく、
置換基R3は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよく、
置換基R4は、反応性官能基又は該反応性官能基を有する基であり、
mは、0~4の整数を示し、
nは、0~4の整数を示す。]
【0037】
上記式(I-1)において、キナゾリルは部分的に水素化されていてもよい。式(I-1)のキナゾリルの任意の炭素は、窒素で置換されていてもよい。式(I-1)のキナゾリルは、限定さ
れないが、例えば、下記式に示される基である。
【0038】
【化7】
【0039】
上記式(I-2)において、インドリルは部分的に水素化されていてもよい。インドリルの
任意の炭素は、窒素で置換されていてもよい。式(I-2)のインドリルは、限定されないが
、例えば、下記式に示される基である。
【0040】
【化8】
【0041】
式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルにおける置換基R1は、アミノ又はヒドロキシであり、好ましくは、アミノである。
【0042】
式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルにおける置換基R2は、それぞれ独立して、C1-3の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル及びシクロプロピル等)、C1-3の直鎖状又は分岐鎖状アルキルを有するアルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びイソプロポキシ等)又はハロゲン(フッ素、塩素、臭
素及びヨウ素等)であり、2以上の場合は同一又は異なっていてよい。
【0043】
置換基R2の置換数mは、0、1、2、3又は4であり、好ましくは0又は1である。
【0044】
式(I-1)のキナゾリル及び式(I-2)のインドリルにおける置換基R2の置換位置は、特に限定されないが、好ましくは、式(I-1)のキナゾリルにおける5、7又は8位、式(I-2)のイン
ドリルの2又は7位である。
【0045】
上記式(I-1)若しくは(I-2)において、環Aは、5員又は6員アリールであり、アリールの
炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置換されていてもよい。環Aは、限定されないが、例
えば、フェニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジル、シクロペンタジエニル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、フラザニル又はチアジアゾリルである。環Aは、好ましくは、フェニル、ピリジル、イミダゾリ
ル又はピラゾリルである。
【0046】
環Aにおける置換基R3は、それぞれ独立して、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又は
ハロゲンであり、2以上の場合は同一又は異なっていてよい。
置換基R3の具体例については、上記置換基R2の具体例の記載を参照できる。
置換基R3の置換数nは、0、1、2、3又は4であり、好ましくは0、1又は2である。
環Aにおける置換基R3の置換位置は、特に限定されない。
【0047】
環Aにおける置換基R4は、後述する低分子化合物に結合し得る反応性官能基又は該反応
性官能基を有する基であれば、限定されないが、例えば、カルボニル、アルキルカルボニル、エステル、アルキルエステル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、アミド、アルキルアミド、アジ、チオール、イソチオシアネート、スルホニル、アセトアミド、イミド、ハロゲン、オキソ、アルキニル又はアルケニルである。好ましくは、アルキルエステル、カルボキシ、アミノ又はイミドである。
【0048】
置換基R4の置換数mは、0、1、2、3又は4であり、好ましくは0、1、2又は3である。
環Aにおける置換基R4の置換位置は、特に限定されないが、環Aが6員環、例えば、フェ
ニルであれば、好ましくは4位、環Aが5員環、例えば、シクロペンタジエニルであれば、
好ましくは3位である。
【0049】
置換基R4は、上記反応性官能基を有する基であってよい。反応性官能基を有する基は、例えば、反応性官能基を有する直鎖状、分岐鎖状又は環状のC1-20のアルキル(メチル、
エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル
、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デカニル、n-イコサニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等)である。
【0050】
アルキルは反応性官能基以外の置換基を有してもよい。反応性官能基以外の置換基は、C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシ又はC5-10のアリール(フェニル等)である。
【0051】
C1-3のアルキル、C1-3のアルコキシの具体例については、上記置換基R2の具体例の記載を参照できる。
【0052】
上記反応性官能基を有する基のアルキルの炭素は窒素、酸素又は硫黄で任意に置換されていてもよい。反応性官能基を有するC1-20のアルキルは、具体的には、例えば、下記式
に示される基である。
【0053】
【化9】
【0054】
[式中、
pは、0~2の整数を示し、
qは、0~18の整数を示す。]
【0055】
上記式中、pは、0~2の整数であり、好ましくは0である。上記式中、qは、0~18の整数であり、好ましくは3~5である。
【0056】
本発明の光応答性化合物は、限定されないが、例えば、下記式に示される化合物である。
【化10】
【0057】
式(I-1)若しくは(I-2)で示される化合物の塩としては、生理学上許容される塩であれば、特に制限なく用いられる。例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩;クエン酸塩、蓚酸塩、乳酸塩、酢酸塩等の有機酸塩;メシル酸塩、トシル酸塩等の含硫酸塩が挙げられる。
【0058】
本発明の光応答性化合物は、本明細書においてその構造が明らかにされたため、本明細書の記載及び通常の有機化学的方法を用いて、合成することができる。具体的には、本発明の光応答性化合物は、例えば、本明細書の実施例に記載の方法で合成することができる。
【0059】
(誘導体)
本発明の一形態は、本発明の光応答性化合物に、光応答性化合物の反応性官能基を介して低分子化合物が結合した誘導体(以下、「本発明の誘導体」ということがある)に関する。
本発明の誘導体は、本発明の光応答性化合物とジヒドロ葉酸還元酵素との結合、同結合を介した、本発明の光応答性化合物に結合した低分子化合物とジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質との結合等を可逆的に光制御可能であり、生体内分子間相互作用解析や生体内分子の体内動態解析に利用可能である。
【0060】
ここで、低分子化合物は、生体内分子間相互作用解析、生体内分子の体内動態解析等の対象となる物質、生体内分子間相互作用解析、生体内分子の体内動態解析等に使用し得る物質又は疾患の治療等に用いる物質であれば、特に限定されず、使用可能である。例えば、上記低分子化合物は、限定されないが、例えば、分子量150~1,000程度の化合物である。
【0061】
限定されないが、低分子化合物は、具体的には、薬物、リガンド物質、シグナル伝達物質、アゴニスト、インヒビター又は標識物質等である。低分子化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。低分子化合物は、市販のもの、通常の方法に基づいて製造されたもの等を用いることができる。
【0062】
本発明の光応答性化合物と低分子化合物との結合は、本発明の光応答性化合物と低分子化合物との結合に適した様式で、通常の有機化学的方法に基づいて行うことが可能である。
【0063】
薬物としては、用途・種類等、特に限定されないが、神経系及び感覚器官用薬剤(中枢神経系用薬剤、末梢神経系用薬剤、感覚器官用薬剤等)、個々の器官系用薬剤(循環器官用薬剤、呼吸器官用薬剤、消化器官用薬剤、ホルモン剤、泌尿生殖器官用薬剤等)、代謝性薬剤(ビタミン剤、滋養強壮剤、血液・体液用薬剤等)、組織細胞機能用薬剤(抗腫瘍薬剤、放射性薬剤、抗アレルギー薬剤等)、生薬、漢方製剤、病原生物に対する薬剤(抗生物質、化学療法剤等)、診断用薬剤、体外診断用薬剤等が挙げられる。
【0064】
医薬として用いる場合、製剤化方法、使用方法等について、後述の医薬の項目を参照できる。
【0065】
リガンド物質としては、生細胞膜上又は生細胞内の特定タンパク質と特異的に結合し得る物質が挙げられる。リガンド物質としては、例えば、特定タンパク質と特異的に結合し、その機能を変化させ得る物質が挙げられる。
【0066】
特定タンパク質と特異的に結合し、その機能を変化させ得る物質としては、特に限定されず、細胞外から細胞内に取り込まれる細胞外リガンド、細胞外からの刺激により細胞内で産生される細胞内リガンド等が挙げられる。例えば、受容体タンパク質(例えば、細胞膜受容体、核内受容体等)に対するアゴニスト又はインヒビター(アンタゴニストともいう)等であってよい。また、細胞内のシグナル伝達タンパク質、セカンドメッセンジャー等のシグナル伝達物質であり得る。
【0067】
標識物質としては、特に限定されないが、蛍光標識物質、酵素標識物質、放射性物質等が挙げられる。
【0068】
また、本発明の誘導体を担体と結合させることで、標的タンパク質と特異的に結合する物質の単離、ジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質の精製等に用いることが可能である。担体は特に限定されず、通常の生化学的方法に使用されるものを使用できる。
【0069】
また、別の一形態として、本発明の誘導体のジヒドロ葉酸還元酵素あるいは融合タンパク質に、例えば、核移行シグナル配列(Nucleus Localization Signal: NLS)等のシグナルペプチドを導入することで、本発明の誘導体を、目的の細胞内小器官へ送達させることも可能である。シグナルペプチドは特に限定されず、目的に応じて、通常の生化学的方法に使用されるものを使用できる。
【0070】
(複合体)
本発明の一形態は、本発明の誘導体、及び前記低分子化合物に結合し得るタンパク質をさらに含む、複合体(以下、「本発明の複合体」ということがある)に関する。
低分子化合物と結合するタンパク質としては、リガンド物質やシグナル伝達物質の受容体等が挙げられる。低分子化合物と結合するタンパク質として、例えばHaloTag(登録商
標)タンパク質等を用いることもできる。
低分子化合物と結合するタンパク質は、ジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質(第一の標的タンパク質)とは別の、標的タンパク質(第二の標的タンパク質)との融合タンパク質であってもよく、この様な形態で、第一の標的タンパク質と第二の標的タンパク質との相互作用を解析することも可能である。
【0071】
(試薬及び試薬キット)
本発明の一形態は、本発明の誘導体又は複合体、及び、ジヒドロ葉酸還元酵素若しくはジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質又はそれをコードするDNAを
含む試薬(以下、「本発明の試薬」ということがある)に関する。
【0072】
本発明の誘導体又は複合体は、上記のとおりジヒドロ葉酸還元酵素との反応性を有するため、本発明の誘導体又は複合体とジヒドロ葉酸還元酵素との結合を利用して、低分子化合物又は低分子化合物と結合するタンパク質と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質との生体内分子間相互作用を解析するための試薬として用いることができる。または、本発明の誘導体又は複合体は、本発明の誘導体又は複合体とジヒドロ葉酸還元酵素との結合を利用して、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質を標識するための試薬として用いることができる。本発明の試薬において、誘導体又は複合体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0073】
ここで、本発明の誘導体又は複合体は、本発明の光応答性化合物と、低分子化合物及び/又は低分子化合物と結合するタンパク質とを結合した形態で試薬に含まれていてもよく、又は本発明の光応答性化合物の形態で試薬に含まれ、使用時に低分子化合物及び/又は低分子化合物と結合するタンパク質と結合する形態であってもよい。また、低分子化合物と結合するタンパク質は、低分子化合物と結合するタンパク質を発現可能に含むベクター等のDNAの形態で試薬に含まれていてもよい。
【0074】
また、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質は、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を発現可能に含むベクター、又はジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子と標的タンパク質遺伝子を融合タンパク質として発現可能に含むベクター等のDNAの形態で試薬に含まれていてもよい。なお、通常の分子生物学的方法に基づいて、
使用時に、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を含むベクターに標的タンパク質遺伝子を導入し、融合タンパク質として発現させる形態であってもよい。
【0075】
本発明の一形態は、本発明の試薬を含む、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質を、低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質で標識するため、又は、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質と、低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質を相互作用させるための試薬キット(以下、「本発明の試薬キット」ということがある)に関する。
【0076】
本発明の試薬キットは、本発明の光応答性化合物、誘導体又は複合体以外に、標識化又は生体内分子間相互作用を解析するための試薬として使用し得る1種又は2種以上の試薬を含んでよい。このような試薬としては、例えば、本発明の誘導体を安定的に維持するための緩衝液、保存剤又は安定化剤、本発明の光応答性化合物と低分子化合物を結合し、本発明の誘導体を形成するための試薬、分離試薬、標識物質、発現ベクター(通常、プロモーター遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、標的タンパク質遺伝子を挿入するための制限酵素サイト、標的タンパク質遺伝子、選択マーカー遺伝子、低分子化合物と結合するタンパク質の遺伝子等の少なくとも1種を含む)等が挙げられるが、特に限定されない。
【0077】
(結合又は相互作用方法)
本発明の一形態は、本発明の誘導体又は複合体と、ジヒドロ葉酸還元酵素又は該ジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質とを反応させる工程を含む、低分子化合物又は低分子化合物に結合し得るタンパク質と、ジヒドロ葉酸還元酵素又は該ジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質とを結合又は相互作用させるための方法(以下、「本発明の方法」ということがある)に関する。上記のとおり、本発明の光応答性化合物は、紫外線照射によりtrans構造がcis構造に変化し、可視光線照射により熱平衡状態のtrans構造に化合物の構造が戻る。このような特性により、本発明の光応答性
化合物は、光照射により標的タンパク質等への結合能を変化させることが可能である。本発明の方法において、誘導体又は複合体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0078】
すなわち、本発明の誘導体又は複合体を利用して、生体外又は生体内で、本発明の光応答性化合物に紫外線を照射することで、低分子化合物又は低分子化合物と結合するタンパク質と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質との結合を可能とし、本発明の光応答性化合物に可視光線を照射することで、ジヒドロ葉酸還元酵素又は標的タンパク質との結合を解除できる。
【0079】
このことにより、本発明の光応答性化合物は、本発明の光応答性化合物に結合した低分子化合物とジヒドロ葉酸還元酵素に融合された標的タンパク質との結合等を可逆的に光制御可能であり、生体内分子間相互作用解析や生体内分子の体内動態解析に利用可能である。
【0080】
また、本発明の光応答性化合物は単独又は薬物を結合して、光により薬物活性の程度、反応させる部位、時間等を制御可能な試薬又は医薬として利用可能である。
【0081】
本発明の誘導体又は複合体と、ジヒドロ葉酸還元酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素と標的タンパク質との融合タンパク質との反応を可逆的に制御するために、本発明の光応答性化合物をtrans構造からcis構造に変化させるには、化合物の種類等により変化し限定されないが、例えば、本発明の光応答性化合物の分散液1~100nMの溶液に対し、波長300~400nm未満(好ましくは波長315~380nm)の紫外線を照射すればよい。紫外線の照射量はエネルギー束密度0.1~50.0mW/cm2の光を0.1~10分間照射する程度が好ましい。
【0082】
本発明の光応答性化合物をcis構造からtrans構造に変化させるには、化合物の種類等により変化し限定されないが、例えば、本発明の光応答性化合物の分散液1~100nMの溶液に対し、波長400~800nm未満(好ましくは波長495~570nm)の可視光線を照射すればよい。紫外線の照射量はエネルギー束密度0.1~50.0mW/cm2の光を0.1~20分間照射する程度が
好ましい。
【0083】
(医薬)
本発明の一形態は、本発明の光応答性化合物を含む、医薬(以下、「本発明の医薬」ということがある)に関する。
本発明の光応答性化合物は、メトトレキセートの誘導体であり、ジヒドロ葉酸還元酵素の阻害剤として機能し得る。したがって、抗がん剤、抗リウマチ剤等のジヒドロ葉酸還元酵素阻害を作用機序とする医薬に使用可能である。また、本発明の光応答性化合物は、光照射により可逆的に構造を変化させ、ジヒドロ葉酸還元酵素への結合を制御できるため、光により薬物活性の程度、反応させる部位、時間等を制御可能である。本発明の光応答性化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0084】
本発明の医薬は、本発明の効果を妨げない限り、薬学的に許容される任意成分を含んで
もよい。
【0085】
任意成分としては、特に限定されないが、例えば、pH調節剤、賦形剤、流動化剤、界面活性剤、浸透圧調整剤、防腐剤、抗酸化剤、甘味剤、矯味剤、着色剤及び香料等が挙げられる。任意成分は、単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
本発明の医薬の剤形としては、例えば、固体状(錠剤状、粉末状、顆粒状等)、液状(乳液状、溶液状、分散液状等)の形態とすることができる。具体的には、溶液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤、エアゾル剤、腸溶剤、徐放製剤、埋め込み型製剤等として調製することができる。製剤は、常法により製造される。
【0087】
有効成分の製剤中の含有量としては、製剤全量に対して、通常0.05~10質量%、好ましくは0.1~5質量%である。
【0088】
本発明の医薬の投与対象としては、哺乳動物等のがん、リウマチ等の疾患を発症し得るあらゆる動物の生体が対象となる。この中でも哺乳動物が好ましく、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ、ウサギ、ラット、マウス等が挙げられる。
【0089】
投与方法としては、経口、筋肉内投与、皮内投与、静脈内投与等の非経口等のいずれも選択できる。
【0090】
本発明の医薬の投与量は、メトトレキセートの従来の投与量を参照し、適宜決定され得る。具体的には、投与される患者の状態、薬物等により適宜決定され得るが、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約1,000mg/kgを投与するのが好ましい。投与回数は、単
回でも複数回であってもよく、好ましくは一日に1~4回、より好ましくは一日に1回又は2回投与される。
【実施例
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[装置及び測定方法]
(NMR分析)
NMRスペクトルは1H NMRは400MHz、13C NMRは100MHzでBruker AVANCE III 400計器で記
録した。化学シフト(δ)はテトラメチルシランから低磁場側のppm(100万分の1)で表し、
残留溶媒シグナルを基準とした:1H δ=7.27(CHCl3)、2.50(DMSO-d5)、3.31(メタノール-d3)、13C δ=77.0(CDCl3)、39.5(DMSO-d6)、49.1(メタノール-d4)。
【0093】
(質量分析)
高解像度質量分光分析はBruker micrOTOF focus II質量分析計で行った。
【0094】
(分光分析)
紫外-可視吸収スペクトル及び時間依存吸収変化は、SHIMADZU UV-2450分光光度計を用いて測定し、スリット幅は1nmに設定した。azoMTXの光異性化分析に対して、光照射はバ
ンドパスフィルタ(330±5、365±5、450±5、488±5、515±5、又は560±5nm)を備えたXe光源(MAX-303;朝日分光株式会社)を用いて行った。
【0095】
蛍光偏光はJASCO FP-8500分光計を用いて測定した。スリット幅は励起、発光の両方に
対して10nmに設定した。励起及び発光波長はそれぞれ497nm、520nmに設定した。
【0096】
(光異性化測定)
光異性化実験を25℃で10×10mmの石英キュベットを用いて行い、100mMのNaCl及び1%DMSO(UV/visに対して)を含有する100mMのHEPES-NaOHバッファ(pH7.4)において、azoMTX濃度を30μMに設定した。時間依存吸収変化を除く実験の前に、様々な波長で9.0mWcm-2でサンプルを照射した。時間依存吸収変化を測定するため、UV/vis分光計サンプルチャ
ンバにおいてサンプルを上から照射した。光化学反応の経時変化の測定時に、光照射の間350nmでの時間依存吸収変化の取得を続けた。
【0097】
(結合アッセイ)
25℃、100mMのNaClを含有する100mMのHEPES-NaOHバッファ(pH7.4)中、MTX-FI(2nM)と結合したE. coli dihydrofolate reductase(eDHFR)(2nM)を用いてeDHFRに対するMTX、暗状態でのazoMTX、及びPSS365でのazoMTXの競合的蛍光偏光アッセイを実施した。IC50値は以下の式を用いて計算した。
【0098】
【数1】
【0099】
式中、Pは蛍光偏光度、Pmaxは阻害剤なしのP、Pminは阻害剤飽和の状況でのPであり、MTX-FIは全て解離していた。
【0100】
(初速度の判定)
azoMTXとのeDHFR活性の光制御を反応速度から評価した。過量のジヒドロ葉酸及びNADPH下での基質のターンオーバーの速度を340nmでのNADPHの吸光度(ε340=13.2mM-1cm-1
の減少を観察することにより判定した。eDHFR(10nM)を100mMのNaClを含有する100mMのHEPES-NaOHバッファ(pH7.4)中、25℃で60μMのNADPH(及び100nMの阻害剤)でプレインキュベートした。そして、25℃で50μMのジヒドロ葉酸を加え反応を開始した。測定前に365±5nm(6.0mWcm-2、5分)をPSS365のazoMTXに照射した。酵素反応の初速度(v0)は以
下の式を用いて判定した。
【0101】
【数2】
【0102】
式中、Abs340, 30sは反応開始から30秒後の340nmでの吸光度、Abs340, 0sは開始直後の340nmでの吸光度である。
【0103】
(酵素反応の可逆的光制御)
azoMTX(100nM)を100mMのNaClを含有する100mMのHEPES-NaOHバッファ(pH7.4)中の60μMのNADPH及び50μMのジヒドロ葉酸と混合し、25℃でプレインキュベートした。そして、5nMのeDHFRを加え酵素反応を開始し、365±5又は515±5nmの波長光を反応サンプルに繰り返し照射した。
【0104】
<実施例1>azoMTXの合成
azoMTXを7工程(下記式に示すスキーム)で合成し、構造を1H及び13C NMR及びESI-MSで
同定した。
【0105】
【化11】
【0106】
(化合物2の合成)
乾燥DMF(70mL)中の化合物1(5.00g、30.6mmol)、塩酸グアニジン(3.50g、36.6mmol)及び炭酸カリウム(10.1g、73.1mmol)の溶液を120℃、窒素雰囲気下で13時間加熱撹
拌した。冷却後、揮発性物質を真空で除去した。残存した固体を水及びアセトンで洗浄し、オレンジ色の固体として化合物2(5.74g、28.0mmol、92%)を得た。
【0107】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 9.07 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 8.20 (dd, J = 9.3 Hz, 2.5 Hz, 1H), 7.81 (s, 2H, br), 7.21 (d, J = 9.3 Hz, 1H), 6.72 (s, 2H, br)
【0108】
(化合物3の合成)
DMF(50mL)中の化合物2(1.00g、4.87mmol)及びパラジウム炭素(Pd/C、101mg、10
%wt)の懸濁液を周囲温度、水素雰囲気下で11時間撹拌した。セライト535を通してパラ
ジウム炭素を除去した後、濾液を真空で濃縮し、薄茶色の固体として化合物3(822mg、4.69mmol、96%)を得た。
【0109】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.01 (dd, J = 7.6 Hz, 1.9 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 2.4
Hz, 1H), 6.95 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 6.84 (s, 2H, br), 5.46 (s, 2H, br), 4.76 (s,
2H, br)
【0110】
(化合物5の合成)
ジクロロメタン(25mL)中の化合物4(1.00g、6.62mmol)の溶液に水(100mL)中のオキソン(8.11g、13.2mmol)を加え、混合物を周囲温度で1時間撹拌した。有機層と水層
を分離した後、有機物質をジクロロメタンで抽出した(2×50mL)。混合した有機層を1M
の塩酸水溶液(100mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(75mL)、水(75mL)及び塩水
(75mL)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空で濃縮した。粗物質を酢酸エチルからの再結晶で精製し、黄色の固体として化合物5(931mg、5.64mmol、85%)を得た。
【0111】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 8.30 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.94 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 3.98 (s, 3H)
【0112】
(化合物6の合成)
THF(8.0mL)及び酢酸(8.0mL)中の粗物質3(359mg、1.53mmol)、化合物5(470mg、2.85mmol)の溶液を40℃で18時間撹拌した。揮発性物質を真空で除去した後、残存した固
体を水、メタノール及びジクロロメタンで洗浄し、オレンジ色の固体として化合物6(210mg、652μmol、43%)を得た。
【0113】
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 8.76 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 8.16 (d, J = 8.6 Hz, 2H),
8.04 (dd, J = 9.1, 2.2 Hz, 1H), 7.93 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.63 (s, 2H, br), 7.26 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 6.49 (s, 2H, br), 3.90 (s, 3H)
13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz) δ 172.1, 165.7, 163.2, 162.1, 155.8, 154.9, 145.4, 130.5, 126.4, 125.4, 122.4, 122.2, 109.9, 52.3
【0114】
(化合物9の合成)
THF(6.0mL)及び10%の水酸化ナトリウム水溶液(6.0mL)中の化合物6(76.6mg、238
μmol)の懸濁液を60℃で14時間加熱撹拌した。冷却後、0℃で反応混合物を1Mの塩酸水溶液で中和した。真空で濃縮した後、残渣を水及びTHFで洗浄し茶色の固体として粗物質7(54.1mg)を得た。粗物質7はさらなる精製なしで次の反応に用いた。乾燥DMF(17mL)中の粗物質7(54.1mg)、化合物8(50.2mg、170μmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド一塩酸塩(EDC・HCl、35.6mg、186μmol)、1-ヒドロキシ-1H-ベンゾトリアゾール水和物(HOBt・H2O、26.0mg、170μmol)及びトリエチル
アミン(52μL、38mg、370μmol)の懸濁液を40℃、窒素雰囲気下で26時間撹拌した。0℃で飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20mL)を加えた後、有機物質をジクロロメタンで抽出した(4×30mL)。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液(60mL)及び塩水(100mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空で濃縮した。粗物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:5-10%メタノール/ジクロロメタン)で精製し、オレンジ色の固
体として化合物9(59.7mg、109μmol、47%(2段階))を得た。
【0115】
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 8.27-8.20 (m, 2H), 7.98 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.92 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.52 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 7.19 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 5.71 (s,
2H, br), 5.08 (s, 2H, br), 4.72-4.65 (m, 1H), 2.52-2.04 (m, 4H), 1.51 (s, 9H), 1.43 (s, 9H)
13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz) δ 171.6, 171.1, 166.1, 163.2, 162.2, 156.0, 153.9, 145.3, 135.1, 128.8, 126.1, 125.6, 122.4, 121.9, 109.9, 80.7, 79.9, 52.7, 31.4, 27.8, 27.7, 25.9
【0116】
(azoMTXの合成)
乾燥ジクロロメタン(8.0mL)及びトリフルオロ酢酸(TFA、2.0mL)中の化合物9(59.7
mg、109μmol)の溶液を周囲温度、窒素雰囲気下で15時間撹拌した。揮発性物質を真空で除去した後、残渣をジクロロメタン及びアセトニトリルで洗浄し、オレンジ色の固体としてazoMTX(45.3mg、104μmol、95%)を得た。
【0117】
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 8.76 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 8.72 (d, J = 7.3 Hz, 1H),
8.08 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 8.05 (dd, J = 9.1, 8.9 Hz, 1H), 7.91 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.69 (s, 2H, br), 7.28 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 6.56 (s, 2H, br), 4.47-4.39 (m,
1H), 2.38 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 2.13-1.93 (m, 2H)
13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz) δ 174.0, 173.5, 165.9, 163.3, 157.0, 153.5, 147.3, 136.0, 128.9, 125.6, 124.1, 122.2, 120.3, 109.9, 52.2, 30.5, 26.0
【0118】
<実施例2>azoMTXの光異性化
azoMTXの光異性化をUV/visスペクトル(図2のA)における変化により調べた。水溶
液中の熱平衡(暗)状態でのazoMTXは全てE異性体であることが1H NMR分析により示され
た(図1)。365nmでのUV光照射はEからZへ、560nmの光はZからEへの異性化を誘発した。365nmでのazoMTXへの光照射は60%のZ異性体を含有する光平衡状態(PSS365)を、560nm
での光照射は94%のE異性体を含有するPSS560を引き起こした。暗状態(E-azoMTX)及びPSS365でのazoMTXのスペクトルからZ-azoMTXのスペクトルを推定した(図2A)。そし
て、azoMTXは365nm及び560nmの波長光で繰り返し異性化されうることが確認された(図2のB)。9.0mWcm-2の光を1cm×1cmのキュベット中のサンプル液に照射すると、PSS365に
達するまで約1分、PSS560に達するまで約15分かかった。
【0119】
<実施例3>eDHFRとazoMTXとの親和性
eDHFR及びazoMTX間の親和性を蛍光色素の修飾されたMTX(MTX-Fl)を用いて競合的蛍
光偏光解消アッセイにより調査した。コンペティターの濃度が上昇するにつれ、MTX-Fl
の蛍光偏光が減少した(図3)。判定したIC50値は、MTXが2.6nM、azoMTXが100%E-azoMTXを含有する暗状態では27nM、UV照射下(PSS365)では3.6nMであった。MTXのメチルアミノメチレン基のアゾ基との置換によりE異性体としてのeDHFR配位子の効力がMTXより低い
という結果となった。一方、UV照射はazoMTXとeDHFRの親和性をより高くした。PSS365のazoMTXは60%のZと40%のE異性体を含むため、1.4nM(=3.6nM×0.4)のE-azoMTXがeDHFRとの結合をほとんど示さないことから(図3)、Z-azoMTXのIC50値は約2.2nM(=3.6nM
×0.6)と簡単に推定された。これはZ-azoMTXがMTXとほぼ同じ阻害活性を有することを
意味する。
【0120】
<実施例4>azoMTXによるeDHFR活性の光学制御
azoMTXとeDHFRの親和性が光照射に応じて調整可能であることが証明されたため、azoMTXとのeDHFR活性の光学制御を検討した。eDHFRは、補酵素としてNADPHを用いてジヒドロ葉酸をテトラヒドロ葉酸へ変換する。この酵素反応は、NADPHの消費を示す340nmでの吸収の減少により調べることができる。100nMのazoMTX存在下において、暗状況下では酵素反応
のわずかな阻害のみが観測され、その一方で、PSS365では反応はほぼ完全に阻害された(図4のA、B)。そして、阻害活性を様々な波長での光照射下で検討した。非常に興味深いことに、照射された光波長を変えることにより阻害効率が調節された(データ示さず)。E-及びZ-azoMTXの割合は照射波長での各異性体のモル吸光係数により判定されるため、阻害効率は光波長に応じて調整可能である。この特異的性質は薬理活性の量的規制を引き起こしうる。
【0121】
最後に、光との酵素反応の可逆的制御を試みた。100nMのazoMTX存在下において、酵素
反応をUV(365nm)と可視(515nm)光の交互照射下で観察した(図4のC)。最初に反応が暗状況で進み、そして、365nmの光照射により反応が遅くなり数分以内でほぼ阻害され
た。この阻害状況において、515nmの光照射により酵素反応がすぐに再開され、阻害と再
開のこのサイクルは繰り返し可能であった。この結果は、照射波長を変えることによりazoMTXがeDHFRと繰り返し結合及び解離でき、azoMTXがeDHFR活性を動的に制御もできることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、研究用試薬、医薬品等に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5