(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】判定方法及び処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20220817BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C23C16/44 E
H01L21/31 B
(21)【出願番号】P 2019011524
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】内田 健哉
(72)【発明者】
【氏名】福井 博之
(72)【発明者】
【氏名】植松 育生
(72)【発明者】
【氏名】岩本 武明
(72)【発明者】
【氏名】權 垠相
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】三菱マテリアル株式会社四日市工場爆発火災事故調査委員会,三菱マテリアル株式会社四日市工場高純度多結晶シリコン製造施設爆発火災事故調査報告書,[検索日 2018.11.22],日本,[オンライン],2014年06月12日,第24頁,http://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2014/pdf/14-0612a.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/44
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質とを反応させる工程において生じる副生成物の処理の進行を判定する判定方法であって、
前記副生成物の処理は、前記副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることを含み、
前記判定方法は、前記第1固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記副生成物の処理の進行を判定することを含
み、
前記化学分析は赤外分光分析であり、
前記第1固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、前記極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、前記副生成物の処理の一部が完了していないと判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む判定方法。
【請求項2】
ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質とを反応させる工程において生じる副生成物を処理する方法であって、
前記副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることと、
前記第1固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記副生成物の処理の進行を判定することと
を含
み、
前記化学分析は赤外分光分析であり、
前記副生成物の処理の進行を判定することは、
前記第1固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、前記極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、前記副生成物の処理の一部が完了していないと判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む処理方法。
【請求項3】
前記処理液は、塩基性水溶液である請求項
2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記値(I1-I2)が0.001以下である場合には、前記副生成物の処理を停止し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、前記第1固形物と前記処理液との混合物に、前記処理液を更に加え
、前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、前記混合物に、前記処理液を更に加えることを含む請求項
2又は3に記載の処理方法。
【請求項5】
ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質とを反応させる工程において生じる副生成物を処理する方法であって、
前記副生成物に水を接触させて第2固形物を得ることと、
前記第2固形物に塩基性水溶液を接触させて第3固形物を得ることと、
前記第3固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記副生成物の処理の進行を判定することと
を含
み、
前記化学分析は赤外分光分析であり、
前記副生成物の処理の進行を判定することは、
前記第3固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、前記極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、前記副生成物の処理の一部が完了していないと判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む処理方法。
【請求項6】
前記第2固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記塩基性水溶液を前記第2固形物に接触させることを更に含む請求項
5に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、判定方法及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体シリコン基板は、種々の電子回路を形成するための材料として広く用いられている。この半導体シリコン基板上には、電子回路を作成し易くするために、ケイ素含有物を含む膜を形成することがある。このような膜を形成するための装置の例として、エピタキシャル成長装置が挙げられる。
【0003】
エピタキシャル成長装置は、反応室と、反応室に接続され原料ガスが供給される供給管と、反応室に接続され排気ガスが排出される排出管とを備えている。エピタキシャル成長装置は、不活性雰囲気下で減圧された反応室内に基板を設置し、反応室内に導入された原料ガスと加熱された基板とを反応させることにより、基板上にケイ素含有物を含む膜を形成する。原料ガスとしては、例えば、ケイ素及び塩素を含む化合物を含有する水素ガスを用いる。反応室内に導入された原料ガスは、排気ガスとして、排出管を介して装置の外部へと排出される。排気ガスは、ケイ素及び塩素を含む化合物などを含み得る。
【0004】
ここで、反応室内の温度は、排出管と比較して非常に高温である。したがって、排出管内に排出された排気ガスに含まれるケイ素及び塩素を含む化合物は、排出管内で冷却され、副生成物として析出することがある。副生成物は、オイリーシランとも呼ばれ、粘性の高い液状物質あるいは固体であり得る。このような副生成物を、安全性が高い方法で無害化することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-49342号公報
【文献】特開2017-54862号公報
【文献】特開2013-197474号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Frank Meyer-Wegner, Andor Nadj, Michael Bolte, Norbert Auner, Matthias Wagner, Max C. Holthausen, and Hans-Wolfram W. Lerner, 「The Perchlorinated Silanes Si2Cl6 and Si3Cl8 as Sources of SiCl2」Chemistry A European Journal, April 18, 2011, Volume 17, Issue 17, p. 4715-4719.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施形態の目的は、ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質を反応させる工程において生じる副生成物の処理の進行を判定する方法、並びに、この判定方法を利用した副生成物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によると、判定方法が提供される。判定方法は、ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質を反応させる工程において生じる副生成物の処理の進行を判定する。副生成物の処理は、副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることを含む。判定方法は、第1固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することを含む。化学分析は赤外分光分析である。判定方法にて、第1固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、副生成物の処理が完了していると判定する。値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、副生成物の処理の一部が完了していないと判定する。値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、副生成物の処理が完了していないと判定する。
【0009】
他の実施形態によると、処理方法が提供される。処理方法は、ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質を反応させる工程において生じる副生成物を処理する方法である。処理方法は、副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることと、第1固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することとを含む。化学分析は赤外分光分析である。副生成物の処理の進行を判定するとき、第1固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、副生成物の処理が完了していると判定する。値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、副生成物の処理の一部が完了していないと判定する。値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、副生成物の処理が完了していないと判定する。
【0010】
あるいは、処理方法は、副生成物に水を接触させて第2固形物を得ることと、第2固形物に塩基性水溶液を接触させて第3固形物を得ることと、第3固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することとを含む。化学分析は赤外分光分析である。副生成物の処理の進行を判定するとき、第3固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、副生成物の処理が完了していると判定する。値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、副生成物の処理の一部が完了していないと判定する。値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、副生成物の処理が完了していないと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】副生成物に係る
29Si NMRスペクトルの一例を示すグラフ。
【
図2】副生成物に係るH-Siシフト相関二次元NMRスペクトルの一例を示すグラフ。
【
図3】エピタキシャル成長装置の一例を概略的に示す斜視図。
【
図4】副生成物の加水分解生成物に係る
29Si NMRスペクトルの一例を示すグラフ。
【
図5】試料A~Dに係る赤外分光スペクトルの一例を示すグラフ。
【
図7】試料A~Dに係るラマンスペクトルの一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[判定方法]
ケイ素及びハロゲンを含むガスを用いて、基材上にケイ素含有物を堆積させる方法により生じる副生成物を処理する方法としては、副生成物と水とを接触させて副生成物を加水分解する方法が提案されている。また、本発明者らによって、副生成物と塩基性水溶液とを接触させて副生成物を中和分解する方法が提案されている。
【0013】
しかしながら、このような副生成物を処理する方法において、副生成物の処理の進み具合、すなわち、副生成物の中和分解が完了しているのか否か、あるいは、副生成物の加水分解が完了しているのか否かを判定する方法は確立されていなかった。これらの処理の進行具合を判定する方法を確立すれば、副生成物の処理を、より安全に、より効率的に行うことができる。
【0014】
本発明者らは鋭意研究した結果、副生成物は、Si-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方を含んでいることを見出した。ここで、αは、F、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。そして、これらの結合が、副生成物の中和分解又は加水分解の進行とともに減少するという知見を得た。
【0015】
このような知見に基づく実施形態に係る判定方法は、第1固形物についてのSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することを含む。
【0016】
すなわち、副生成物について化学分析を行うことにより得られた、Si-α結合又はSi-H結合に由来するシグナルの強度は、副生成物に含まれるSi-α結合又はSi-H結合の量と相関すると考えられる。したがって、これらのシグナルの強度を確認することにより、副生成物の中和分解又は加水分解処理の進行度を判定できる。以下、実施形態に係る判定方法の詳細を説明する。
【0017】
1)副生成物
副生成物は、例えば、固形状、液体状、ペースト状又はクリーム状の形態にある。副生成物は、水や酸素と反応して、爆発性及び発火性を有する物質を生じ得る。副生成物は、Si-α結合又はSi-H結合の少なくとも一方を含む化合物であると考えられる。副生成物がSi-H結合又Si-α結合を含むことは、例えば、ラマン分光分析、赤外分光分析、核磁気共鳴(NMR)分光分析、又は、X線分析などの化学分析により確認できる。なお、副生成物について分析を行う際には、不活性雰囲気下で採取した副生成物を、酸素や水と接触しないように、不活性雰囲気下で調製した測定試料を用いる。
【0018】
副生成物がSi-α結合の一種であるSi-Cl結合及びSi-H結合を含むことを示す具体例として、核磁気共鳴分光分析を例に挙げて説明する。
【0019】
図1は、副生成物に係る
29Si NMRスペクトルの一例を示すグラフである。
図1において、横軸は化学シフト(ppm)を示し、縦軸は相対強度を示す。
図1に示す
29Si NMRスペクトルには、-0.4ppmの位置に、相対強度が最も大きいシグナルが検出されている。非特許文献1に記載のデータから、-0.4ppmの位置に現れるシグナルは、SiCl
3ユニット若しくはSiCl
2ユニットに帰属すると推定される。したがって、
図1から、副生成物がSi-Cl結合を有していると判定できる。
【0020】
図2は、副生成物に係るH-Siシフト相関二次元NMRスペクトルの一例を示すグラフである。
図2において、横軸は
1Hの化学シフト(ppm)を示し、縦軸は
29Siの化学シフト(ppm)を示す。
図2に示すスペクトルには、複数の交差ピークが示されている。交差ピークは、直接結合した
1Hと
29Siとの相関を示している。したがって、
図2から、副生成物がSi-H結合を有していると判定できる。
【0021】
核磁気共鳴分光分析に際しては、測定試料としては、例えば、0.2gの副生成物と、2mLの脱水重トルエン(関東化学製:製品番号21744-1A)とを混合し、この混合物を4時間にわたって静置したものを用いる。この測定試料を株式会社ハルナ製J.YOUNGバルブ付き試料管(S-5-600-JY-8)に分取して、このNMR試料管をNMR分光分析装置内にセットし、29Si NMRスペクトル及びH-Siシフト相関二次元NMRスペクトルを測定する。NMR分光分析装置としては、例えば、JEOL社製JNM-ECA800を用いることができる。29Si NMRスペクトルの測定に際しては、例えば、積算回数を3500回とし、測定範囲を-500ppm以上500ppm以下とする。また、H-Siシフト相関二次元NMRスペクトルの測定の際には、積算回数8192回とし、1H核の測定範囲を0.75ppm以上8.25ppm以下とし,29Si核の測定範囲を-100ppm以上32.5ppm以下とする。
【0022】
副生成物は、ケイ素とハロゲン元素とを含むハロシラン類であり得る。ハロシラン類は、Si-Cl結合、Si-F結合、Si-Br結合、及びSi-I結合からなる群より選ばれる少なくとも一種と、Si-Si結合とを含み得る。特に、副生成物は、ケイ素と塩素とを含むクロロシラン類であり得る。副生成物は、環状構造を有するハロシラン類を含み得る。副生成物が環状構造を有するハロシラン類を含むことは、核磁気共鳴分光分析、及び質量(MS)分析などを用いて副生成物を分析することにより推定できる。例えば、副生成物について得られた29Si NMRスペクトル及び質量スペクトルが、下記の要件(1)及び(2)を満たす場合、副生成物は、環状構造を有するクロロシラン類であると推定できる。
【0023】
要件(1):副生成物について得られた29Si NMRスペクトルにおいて、相対強度が最も大きいシグナルが、-0.4ppmの位置に現れる。
【0024】
要件(2):副生成物について得られた質量スペクトルにおいて、(SiCl2)nに帰属するシグナルが、質量電荷比が0m/zから1500m/z程度の範囲まで検出される。
【0025】
環状構造を有するハロシラン類は、以下に示す構造式(e)乃至(h)の何れかで表されると考えられる。構造式(e)乃至(h)において、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
環状構造を有するハロシラン類は、下記構造式(1)乃至(21)で示すように、4員環構造、5員環構造、構造式(e)乃至(h)以外の6員環構造、7員環構造、8員環構造、多員環構造などを有し得る。下記構造式(1)乃至(21)において、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。なお、下記構造式(1-1)乃至(21-1)は、それぞれ、構造式(1)乃至(21)における元素Xが塩素であるクロロシラン類を示す。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
副生成物に含まれる環状構造を有するハロシラン類は、上記構造式(1)乃至(21)に示すように、ケイ素のみからなるケイ素環を有する単素環式化合物であり得る。また、上記構造式(1)乃至(21)に示すように、炭素を含まない無機環式化合物であり得る。副生成物は、ケイ素及び酸素からなる複素環式化合物を含んでいてもよい。
【0038】
また、副生成物に含まれ得る鎖状構造を有するハロシラン類は、例えば、下記構造式(22)及び(23)で表される。下記構造式(22)において、Nは、例えば、0以上15以下の正の整数である。下記構造式(22)及び(23)において、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。なお、下記構造式(22-1)及び(23-1)は、それぞれ、構造式(22)及び(23)における元素Xが塩素であるクロロシラン類を示す。
【0039】
【0040】
鎖状構造を有するハロシラン類は、上記構造式(22)に示すように、分枝がない直鎖化合物であり得る。また、鎖状構造を有するハロシラン類は、構造式(23)に示すように、分枝を有する鎖式化合物であり得る。副生成物が鎖状構造を有するハロシラン類を含んでいることは、質量分析により推定することができる。
【0041】
ケイ素及びハロゲンを含むガスを用いて、基材上にケイ素含有物を堆積させる方法により生じる副生成物は、ハロシラン類として、環状構造を有するもののみを含んでいてもよく、鎖状構造を有するもののみを含んでいてもよく、環状構造を有するものと鎖状構造を有するものとの双方を含んでいてもよい。
【0042】
副生成物は、ケイ素及びハロゲンを含むガスを用いて、基材上にケイ素含有物を堆積させる方法により生じ得る。このような方法としては、エピタキシャル成長法などの化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)法が挙げられる。
【0043】
副生成物の生成について、以下にエピタキシャル成長法を例に挙げて詳細を説明する。
図3は、エピタキシャル成長装置の一例を概略的に示す斜視図である。
図3に示すエピタキシャル成長装置1は、装置本体10と、除害装置20と、接続部30とを備えている。
【0044】
装置本体10は、筐体11と、反応室12と、排出管13と、供給管(図示せず)とを備えている。反応室12と、排出管13と、供給管とは、筐体11内に収容されている。供給管の一端は、反応室12に接続されている。供給管の他端は、原料ガスの供給装置(図示せず)に接続されている。
【0045】
排出管13の一端は、反応室12に接続されている。排出管13の他端は、接続部30に接続されている。排出管13は、配管131乃至135を含んでいる。配管131の一端は、反応室12に接続されている。配管131の他端は、配管132の一端に接続されている。配管132は、反応室独立バルブ(Chamber Isolation Valve:CIV)を含んでいる。配管132の他端は、配管133の一端に接続されている。配管133は、圧力調整バルブ(Pressure Control Valve:PCV)を含んでいる。配管133の他端は、配管134の一端に接続されている。配管134の他端は、配管135の一端に接続されている。配管135の他端は、接続部30の後述する配管31の一端に接続されている。
【0046】
接続部30は、配管31と配管32とを含んでいる。配管31の一端は、配管135の他端に接続されている。配管31の他端は、配管32の一端に接続されている。配管32の他端は、除害装置20に接続されている。
【0047】
エピタキシャル成長装置1において、原料ガスは、原料ガスの供給装置から排出され、供給管を介して、反応室12に導入される。原料ガスは、ケイ素及びハロゲン元素を含むガスである。したがって、原料ガスは、ハロゲン元素のいずれか1種類以上と、ケイ素と、を含む。ケイ素及びハロゲン元素を含むガスは、例えば、ケイ素及びハロゲン元素を含む化合物と、水素と、の混合ガスである。この混合ガスにおける水素の濃度は、例えば、95体積%以上である。ケイ素及びハロゲン元素を含む化合物には、ケイ素及び塩素を含む化合物、ケイ素及び臭素を含む化合物、ケイ素及びフッ素を含む化合物、及び、ケイ素及びヨウ素を含む化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物が含まれる。そして、ケイ素及びハロゲン元素を含む化合物には、ハロシラン類が含まれる。
【0048】
ケイ素及び塩素を含む化合物は、例えば、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、及び、テトラクロロシラン(SiCl4)等のクロロシラン類のいずれか1種類、又は、これらの混合物である。ケイ素及び塩素を含む化合物が混合ガスに含まれる場合、混合ガスは、モノシラン(SiH4)及び塩化水素(HCl)の少なくとも一方を含んでもよい。また、ケイ素及び臭素を含む化合物は、例えば、ジブロモシラン(SiH2Br2)、トリブロモシラン(SiHBr3)、及び、テトラブロモシラン(SiBr4)等のブロモシラン類のいずれか1種類、又は、これらの混合物である。ケイ素及び臭素を含む化合物が混合ガスに含まれる場合、混合ガスは、モノシラン(SiH4)及び臭化水素(HBr)の少なくとも一方を含んでもよい。
【0049】
原料ガスは、ハロゲン元素の2種類以上を含んでもよく、原料ガスは、塩素に加えて塩素以外のハロゲン元素のいずれか1種類以上を含んでもよい。ある一例では、原料ガスは、ケイ素及び塩素を含む化合物と、水素ガスと、塩素以外のハロゲン元素を含む化合物及び塩素ガス以外のハロゲンガスの少なくとも一方と、の混合ガスである。塩素以外のハロゲン元素を含む化合物には、ケイ素が含まれてもよく、ケイ素が含まれていなくてもよい。また、別のある一例では、原料ガスは、塩素以外のハロゲン元素及びケイ素を含む化合物と、水素ガスと、塩素を含む化合物及び塩素ガスの少なくとも一方と、の混合ガスである。塩素を含む化合物には、ケイ素が含まれてもよく、ケイ素が含まれていなくてもよい。
【0050】
反応室12には、減圧下、基材が設置され、基材は、原料ガスとの反応温度以上に加熱される。反応温度は、一例によると、600℃以上であり、他の例によると、1000℃以上である。基材と原料ガスとが反応すると、基材上に、熱化学反応により単結晶又は多結晶のケイ素含有膜が形成される。基材は、例えば、単結晶シリコン基板である。
【0051】
反応室12から排出された排出ガスは、排出管13及び接続部30からなる排出経路を経て、除害装置20に導入される。排出ガスには、原料ガスに含まれるケイ素及びハロゲンを含む化合物のうち、基材上に堆積しなかったものや、モノシラン、塩化水素等が含まれ得る。排出ガスは、除害装置20において燃焼されて無害化される。
【0052】
副生成物は、排出管13及び接続部30の一部で析出し得る。副生成物は、上述した排出ガスに含まれる成分が重合して固形物あるいは液状になったものであると考えられる。副生成物は、排出管13のうち、配管134付近で析出し易い。反応室12の近くに位置する配管131乃至133では、排出ガスの温度が十分に高いため、重合物が析出しにくいと考えられる。また、反応室12から遠くに位置する接続部では、排出ガス中における副生成物の原料となる成分の量が少ないため、副生成物が生成しにくいと考えられる。
【0053】
また、前述のハロシラン類等を含む副生成物が排出経路で発生する装置は、前述のエピタキシャル成長装置に限るものではない。ある実施例のケイ素含有物質形成装置では、反応室に、ケイ素を含む原料物質とハロゲン元素を含む原料物質が互いに対して別ルートで供給される。ここで、ケイ素を含む原料物質は、粉末状(固体状)のシリコンを含み得る。また、ハロゲン元素を含む原料物質は、塩化水素等のハロゲン化水素を含む原料ガスであり得る。
【0054】
本実施例のケイ素含有物質形成装置では、反応室に、シリコン基板等の基板は設けられない。そして、反応室では、互いに対して別々に導入されたケイ素を含む原料物質とハロゲン元素を含む原料物質が反応する。ケイ素を含む原料物質とハロゲン元素を含む原料物質の反応によって、ハロシラン類及び水素が生成される。そして、ハロシラン類と水素との反応によって、ケイ素含有物質を得る。ケイ素を含む原料物質とハロゲン元素を含む原料物質の反応によって生成されるハロシラン類は、トリクロロシラン(SiHCl3)等のクロロシラン類を含み得る。また、反応室の反応では、ハロゲン化水素及び四ハロゲン化ケイ素等が発生し得る。
【0055】
本実施例のケイ素含有物質形成装置でも、反応室から排出される排出ガス(排出物質)は、ハロシラン類を含み、排出ガスに含まれるハロシラン類には、前述のトリクロロシラン等のクロロシラン類が含まれ得る。また、反応室からの排出ガスには、水素が含まれ得るとともに、反応室での反応で発生するハロゲン化水素及び四ハロゲン化ケイ素等が含まれ得る。反応室での反応で発生するハロゲン化水素は、塩化水素(HCl)を含み得る。そして、反応室での反応で発生する四ハロゲン化ケイ素は、四塩化ケイ素(SiCl4)を含み得る。
【0056】
また、本実施例のケイ素含有物質形成装置では、反応室からの排出ガス(排出物質)の排出経路に、排出ガスを冷却する冷却機構が、設けられる。排出ガスは、冷却機構によって冷却されることにより、液化する。そして、排出ガスが液状化した液状物質(排出物質)は、回収される。
【0057】
本実施例のケイ素含有物質形成装置でも、排出ガスが冷却機構によって液状化されることにより、排出経路において副生成物が析出し得る。副生成物は、排出ガスの液状物質において回収されることなく排出経路に残留した一部を、含み得る。また、副生成物は、排出ガスに含まれるハロシラン類を含むとともに、ハロシラン類の加水分解生成物を含み得る。なお、ハロシラン類の加水分解生成物は、固体物質であり得る。副生成物は、排出ガスに含まれる四ハロゲン化ケイ素等を含み得る。また、排出経路では、特に、冷却機構及びその近傍において、副生成物が析出し易い。
【0058】
前述のように、本実施例のケイ素含有物質形成装置でも、ハロシラン類等を含む副生成物が、排出経路に析出し得る。本実施例のケイ素含有物質形成装置において発生する副生成物も、大気雰囲気下において、爆発性を有する物質に変質し得る。このため、本実施例のケイ素含有物質形成装置でも、前述の実施形態等のいずれかと同様にして、排出経路において、処理液を用いて副生成物が無害化される。
【0059】
2)副生成物の処理方法
副生成物の処理方法は、副生成物と処理液とを接触させて、第1固形物を得ることを含む。処理液は、水を含む。
【0060】
副生成物と水とを接触させると、副生成物の加水分解が起こり得る。この加水分解により、水素ガス、塩化水素(HCl)などのハロゲン化水素とともに、固形状の加水分解生成物が生成され得る。
【0061】
副生成物と塩基性の処理液とを接触させると、副生成物の中和分解が起こり得る。この中和分解により、水素ガスなどとともに、固形状の中和分解生成物が生成され得る。なお、副生成物の中和分解においては、副生成物の加水分解により生じた塩化水素などのハロゲン化水素は、処理液中の水酸化物イオンと反応して中和され得る。
【0062】
第1固形物としては、副生成物の加水分解生成物又は中和分解生成物を用いることができる。第1固形物は、塊状であってもよく、処理液中に微粒子として分散していてもよい。
【0063】
本発明者らは、水による副生成物の加水分解では、副生成物を十分に無害化できないことを見出している。すなわち、副生成物の加水分解生成物は、爆発性と、燃焼性を有し得る。水による加水分解では、Si―Si結合が残存するためと考えられる。副生成物の加水分解では、副生成物のすべてのSi-α結合およびSi-H結合が反応しているわけではないと推定される。また、中性の水溶液を用いた場合、生成する塩化水素などのハロゲン化水素を中和できないため、反応処理後の処理液のpHが非常に低くなり、腐食性を有し得る。以上のことから、中性又は酸性の水溶液を用いると、塩基性の水溶液を用いる方法と比較して、副生成物の無害化を安全性が高い状態で行いにくい。副生成物の水による加水分解は、副生成物の無害化処理の完了には十分ではなく、一部が完了していないといえる。
【0064】
これに対して、塩基性の水溶液を用いて副生成物を中和分解した場合、副生成物を十分に無害化できる。すなわち、副生成物の中和分解生成物は、爆発性及び燃焼性の何れも有さない。これは、副生成物と塩基性の水溶液とを反応させた場合、副生成物の内部に存在するハロシラン類のSi-Si結合まで中和分解されるためと考えられる。また、副生成物の中和分解では、副生成物のSi-α結合及びSi-H結合が十分に切断され得る。
【0065】
加水分解生成物は、シロキサン結合(Si-O-Si、O-Si-O)及びシラノール基(-Si-OH)の少なくとも一方を有する化合物を含み得る。また、加水分解生成物は、ヒドロシラノール基(-Si(H)OH)を含み得る。加水分解生成物が、シロキサン結合及びシラノール基の少なくとも一方を有することは、以下に説明する核磁気共鳴分光分析により推定することができる。
【0066】
先ず、上述したのと同様の方法で、副生成物を採取する。大気雰囲気下のドラフトチャンバー内で、副生成物を含むシャーレ内に純水を添加して、副生成物と純水との混合物を得る。純水の量は、例えば、50mgの副生成物に対して1mLとする。なお、純水とは、比抵抗が18.2MΩ・cm以上の水である。混合物をフッ素樹脂製のスパチュラなどで撹拌した後、シャーレにふたをして、混合物を1時間以上静置する。その後、シャーレのふたを外し、室温で、24時間以上にわたって混合物を静置して、混合物から水を揮発させる。このようにして得られた固形物を、フッ素樹脂製のスパチュラなどを用いて粉砕して粉末を得る。この粉末を、真空ポンプで5Pa以下の減圧下で2時間以上にわたって乾燥させて、測定試料を得る。
【0067】
次に、この測定試料を日本電子株式会社製3.2mmジルコニア試料管(708239971)に分取する。このNMR試料管をNMR分光分析装置内にセットし、29Si NMRスペクトルを測定する。NMR分光分析装置としては、例えば、日本電子株式会社製JNM-ECA800を用いることができる。29Si NMRスペクトルの測定に際しては、例えば、積算回数を4096回とし、測定範囲を-250ppm以上250ppm以下とする。
【0068】
このようにして得られた加水分解生成物に係る29Si NMRスペクトルにおいて、-120ppm以上10ppm以下の範囲内に現れるピークは、シロキサン結合及びシラノール基の少なくとも一方に由来すると考えられる。したがって、この範囲内にピークを有する場合、加水分解生成物は、シロキサン結合及びシラノール基の少なくとも一方を有すると推定することができる。
【0069】
図4は、副生成物の加水分解生成物に係る
29Si NMRスペクトルの一例を示すグラフである。
図4において、横軸は化学シフト(ppm)を示し、縦軸は相対強度を示す。
図4に示す
29Si NMRスペクトルには、-70ppmの位置に、相対強度が最も大きいピークが検出されている。
【0070】
処理液として用いる水は、純水、イオン交換水、精製水、水道水、又はこれらの混合物であり得る。
【0071】
塩基性の処理液は、水に、無機塩基又は有機塩基の少なくとも一方を溶解させたものを用い得る。塩基性処理液において、無機塩基及び有機塩基の濃度は、例えば、0.01質量%以上30質量%以下とし、好ましくは、0.1質量%以上10質量%以下とする。
【0072】
無機塩基としては、例えば、アルカリ金属元素の水酸化物及びアルカリ土類金属元素の水酸化物などの金属水酸化物、アルカリ金属、アルカリ金属元素の炭酸塩及びアルカリ土類金属元素の炭酸塩などの炭酸塩、アルカリ金属元素の炭酸水素塩などの炭酸水素塩、金属酸化物、及び水酸化アンモニウム(NH4OH)からなる群より選ばれる少なくとも1種類を用いる。
【0073】
金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化銅、水酸化鉄、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム又はこれらの混合物である。
【0074】
アルカリ金属は、例えば、カリウムの単体金属、リチウムの単体金属、ナトリウムの単体金属、又はこれらの混合物である。
【0075】
炭酸塩は、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム又はこれらの混合物である。
【0076】
炭酸水素塩は、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム又はこれらの混合物である。
【0077】
金属酸化物は、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウム又はこれらの混合物である。
【0078】
また、無機塩基は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、及び水酸化アンモニウム(NH4OH)からなる群より選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。このような無機塩基は、毒性が低いため、このような無機塩基を用いると、より安全に副生成物を処理する事ができる。
【0079】
また、無機塩基は、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、及び水酸化アンモニウム(NH4OH)からなる群より選ばれる少なくとも1種類であることがより好ましい。このような無機塩基を用いると、反応が穏やかに進行するため、より安全に処理することが可能である。
【0080】
有機塩基としては、例えば、水酸化アルキルアンモニウム類、有機金属化合物、金属アルコキシド、アミン、及び複素環式アミンからなる群より選ばれる少なくとも1種類を用いる。
【0081】
水酸化アルキルアンモニウム類は、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化コリン、又はこれらの混合物である。
【0082】
有機金属化合物は、例えば、有機リチウム、有機マグネシウム、又はこれらの混合物である。有機リチウムは、例えば、ブチルリチウム、メチルリチウム、又はこれらの混合物である。有機マグネシウムは、例えば、ブチルマグネシウム、メチルマグネシウム、又はこれらの混合物である。
【0083】
金属アルコキシドは、例えば、ナトリウムエトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムエトキシド、カリウムブトキシド、ナトリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド又はこれらの混合物である。
【0084】
アミンは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチルアミン、アニリン又はこれらの混合物である。
【0085】
複素環式アミンは、ピリジン、ピロリジン、イミダゾール、ピペリジン又はこれらの混合物である。
【0086】
有機塩基は、好ましくは、ナトリウムフェノキシド(C6H5ONa)、2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(水酸化コリン)、及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)からなる群より選ばれる少なくとも1種類である。
【0087】
塩基性処理液のpHは、処理前後において8以上14以下であることが好ましい。また、処理前の塩基性処理液のpHは、9以上14以下であることがより好ましく、10以上14以下であることが更に好ましい。
【0088】
処理液は、界面活性剤やpH緩衝剤などの任意成分を含んでいてもよい。
【0089】
界面活性剤は、処理液中での副生成物の分散性を高め、処理速度を向上させる。処理液における界面活性剤の濃度は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下とし、好ましくは、0.1質量%以上1質量%以下とする。
【0090】
界面活性剤は、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含む。
【0091】
アニオン性界面活性剤は、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、ラウリルリン酸又はこれらの混合物である。
【0092】
カチオン性界面活性剤は、例えば、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、モノメチルアミン塩酸塩、塩化ブチルピリジニウム又はこれらの混合物である。
【0093】
両性界面活性剤は、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、コカミドプロミルベタイン、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウリルジメチルアミンN-オキシド又はこれらの混合物である。
【0094】
非イオン性界面活性剤は、例えば、ラウリン酸グリセリン、ペンタエチレングリコールオノドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリン酸ジエタノールアミド、オクチルグルコシド、セタノール又はこれらの混合物である。
【0095】
界面活性剤は、塩化ベンザルコニウム及びラウリン酸ナトリウムの少なくとも一方を含むことが好ましく、塩化ベンザルコニウムを用いることがより好ましい。
【0096】
pH緩衝剤は、副生成物の処理中に、処理液のpHを一定に保つ役割を果たす。pH緩衝剤を用いることにより、副生成物処理後の溶液のpHが、過剰に高くなること若しくは過剰に低くなることを抑制できる。したがって、pH緩衝剤を用いると、より安全に副生成物を無害化できる。
【0097】
処理液におけるpH緩衝剤の濃度は、例えば、0.01質量%以上30質量%以下とし、好ましくは、0.1質量%以上10質量%以下とする。
【0098】
pH緩衝剤としては、弱酸とその共役塩基との混合物や、弱塩基とその共役酸との混合物を用いることができる。pH緩衝剤としては、例えば、酢酸(CH3COOH)と酢酸ナトリウム(CH3COONa)との混合物、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合物、又はトリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との混合物を用いる。
【0099】
3)判定方法
副生成物の処理の判定方法は、第1固形物についてのSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することを含む。
【0100】
副生成物に含まれるSi-α結合は、水及び塩基性水溶液と反応して切断され得る。また、副生成物に含まれるSi-H結合は、塩基性水溶液と反応して切断され得る。したがって、副生成物のSi-α結合及びSi-H結合の量は、副生成物の処理の進行とともに減少し得る。そこで、副生成物と処理液との反応生成物である第1固形物についてのSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルを指標として、副生成物の処理の進行度を把握できる。これにより、副生成物の処理を管理できる。
【0101】
副生成物の処理の判定方法は、副生成物の処理が完了したか否かの基準となる閾値を、事前に設定しておくことを含み得る。この方法では、第1固形物のSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルの強度が、閾値以下である場合には、副生成物の処理が完了していると判定し、閾値を超える場合には、副生成物の処理が完了していないと判定できる。
【0102】
更に、副生成物の処理の判定方法は、副生成物と処理液とを接触させてから、一定時間経過する毎に第1固形物を採取し、採取したそれぞれの第1固形物におけるSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルの強度を得ることを含み得る。この方法では、処理液との接触時間が長い第1固形物におけるSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルの強度と、処理液との接触時間が短い第1固形物におけるSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルの強度とを比較して、経時変化を確認することにより、副生成物の処理の進行度を把握できる。更に、この方法に、上記の閾値を設定する方法を組み合わせることにより、経過時間毎に、副生成物の処理が完了しているか否か、あるいは、副生成物の中和分解及び加水分解の何れかが完了しているか否かを判定できる。
【0103】
第1固形物に含まれるSi-α結合又はSi-H結合に由来するシグナルは、種々の化学分析により得ることができる。このシグナルとしては、例えば、第1固形物について化学分析を行うことにより得られたSi-α結合又はSi-H結合に由来するピークの高さ、面積、又は半値全幅などを用いる。これらのシグナルは、Si-α結合又はSi-H結合の含有量と相関し得る。したがって、これらの結合に由来するピークを指標として、第1固形物中に残存するSi-α結合及びSi-H結合の含有量を推定できる。
【0104】
化学分析としては、例えば、ラマン分光分析、赤外分光分析、又は、核磁気共鳴分光分析が挙げられる。以下に、Si-Cl結合に由来するシグナルを得る方法の例として、赤外分光分析及び核磁気共鳴分光分析を挙げて説明する。また、Si-H結合に由来するシグナルを得る方法の例として、ラマン分光分析を挙げて説明する。
【0105】
3-1)赤外分光分析を用いた判定方法
先ず、第1固形物と処理液との混合物から第1固形物を採取する。採取した第1固形物を、フッ素樹脂製のスパチュラを用いて粉砕する。粉砕後の第1固形物を、真空ポンプを用いて5Pa以下の減圧下、2時間以上にわたって乾燥させて測定試料を得る。測定試料としては、第1固形物の少なくとも一部を用いればよく、乾燥処理は省略してもよい。すなわち、測定試料は、水又は塩基性水溶液を含んでいてもよい。
【0106】
次に、測定試料について1回反射型ATR法により赤外分光分析を行い、赤外分光スペクトルを得る。赤外分光分析装置としては、例えば、日本分光株式会社製のFT/IR-6300を用いる。プリズムとしては、例えば、ダイヤモンドプリズムを用いる。分析に際しては、例えば、入射角を45°とし、測定範囲を400cm-1以上4000cm-1以下とし、分解能を4cm-1とし、積算回数を100回とする。得られた赤外分光スペクトルについて、ベースライン補正及びスムージング処理を行うことが好ましい。
【0107】
得られた赤外分光スペクトルにおいて、Si-Cl結合に由来するピークは、波数が800cm-1以上900cm-1以下の範囲に現れると考えられる。この範囲内に現れるピークの吸光度I1は、第1固形物に含まれるSi-Cl結合の量と相関していると考えられる。すなわち、このピークの吸光度I1が高ければ、第1固形物に含まれるSi-Cl結合の量が多く、吸光度I1が低ければ、第1固形物に含まれるSi-Cl結合の量が少ないと判定できる。Si-Cl結合に由来するピーク強度は、波数が800cm-1以上900cm-1以下の範囲における極大値と言い換えることもできる。
【0108】
また、例えば、副生成物と処理液とを混合した後、経過時間が異なる測定試料において、波数が800cm-1以上900cm-1以下の範囲における極大値の吸光度I1の高さを比較することにより、加水分解処理又は中和分解処理の進行を管理できる。すなわち、先ず、上述したのと同様の方法で、第1固形物の赤外分光スペクトルを入手し、極大値の吸光度I1-1を記録する。次に、より長時間にわたって処理液と接触していた第1固形物について、赤外分光スペクトルを入手し、極大値の吸光度I1-2を記録する。吸光度I1-2が、吸光度I1-1よりも低ければ、加水分解処理又は中和分解処理の進行が進んでいると判定できる。また、例えば、一定時間毎にこの操作を繰り返し行い、第1固形物における吸光度I1が閾値以下になる、又は、赤外分光スペクトルから消失した時点で、副生成物の中和分解が完了し、副生成物の無害化処理が完了していると判定できる。
【0109】
あるいは、不活性雰囲気下で採取した副生成物に係る極大値の吸光度I1と、第1固形物に係る極大値の吸光度I1とを比較することにより、加水分解処理又は中和分解処理の進行度を把握できる。不活性雰囲気下で採取した副生成物の赤外分光スペクトルは、例えば、顕微反射法により得ることができる。
【0110】
3-1-1)赤外分光分析による判定方法例1
本発明者らは、鋭意研究の結果、波数が800cm-1以上900cm-1以下の範囲における極大値の吸光度I1に関する閾値を、次のように設定することにより、副生成物の処理の進行度を判定できることを見出している。
【0111】
(1)吸光度I1が0.050以下である場合:第1固形物中にSi-Cl結合はほぼ存在しないと推定できる。したがって、副生成物の中和分解が完了し、副生成物の無害化処理が完了していると判定できる。
【0112】
(2)吸光度I1が0.050より大きく0.10以下である場合:第1固形物において、その内部にSi-Cl結合の一部が残存していると考えられる。したがって、副生成物の加水分解のみ完了し、副生成物の処理の一部が完了していないと判定できる。
【0113】
(3)吸光度I1が0.10より大きい場合:第1固形物において、Si-Cl結合が多く残存していると考えられる。したがって、副生成物の加水分解及び中和分解の何れも完了しておらず、副生成物の処理が完了していないと判定できる。
【0114】
3-1-2)赤外分光分析による判定方法例2
更に、本発明者らは、鋭意研究の結果、極大値の吸光度I1と、極大値の吸光度I1よりも高波数側に位置し、波数が900cm-1以上1000cm-1以下の範囲における極小値の吸光度I2とを比較することにより、副生成物の処理の進行度を判定できることを見出している。具体的には、極大値の吸光度I1から、極小値の吸光度I2を差し引いて得られる値(I1-I2)について、下記に示すように閾値を設定することにより、副生成物の処理の進行度を判定できる。
【0115】
(1)値(I1-I2)が、0.001以下である場合:副生成物の中和分解が完了し、副生成物の無害化処理が完了していると判定できる。
【0116】
(2)値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下である場合:副生成物の加水分解のみが完了し、副生成物の処理の一部が完了していないと判定できる。
【0117】
(3)値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合:副生成物の中和分解及び加水分解の何れも完了しておらず、無害化処理が完了していないと判定できる。
【0118】
なお、極大値の吸光度I1及び極小値の吸光度I2は、ベースラインからの高さである。ベースラインは、赤外分光スペクトルにおいて、最も低い吸光度である。
【0119】
3-2)ラマン分光分析を用いた判定方法
先ず、赤外分光分析に係る判定方法で説明したのと同様の方法で、測定試料を得る。次に、測定試料について顕微レーザーラマン分光分析を行い、ラマンスペクトルを得る。顕微レーザーラマン分光分析装置としては、例えば、日本分光株式会社製のNRS-5100MSを用いる。分析に際しては、例えば、レーザー波長を532nmとし、測定範囲を8.2cm-1以上4000cm-1以下とし、分解能を3.4cm-1とし、積算回数を10回とし、露光時間を5秒とする。得られたラマンスペクトルについて、ベースライン補正及びスムージング処理を行うことが好ましい。
【0120】
得られたラマンスペクトルにおいて、Si-H結合に由来するピークは、ラマンシフトが2000cm-1以上2500cm-1以下の範囲に現れると考えられる。この範囲内に現れるピークの強度R1は、第1固形物に含まれるSi-H結合の量と相関していると考えられる。すなわち、このピークの強度R1が高ければ、第1固形物に含まれるSi-H結合の量が多く、強度R1が低ければ、第1固形物に含まれるSi-H結合の量が少ないと判定できる。Si-H結合に帰属するピーク強度は、ラマンシフトが2000cm-1以上2500cm-1以下の範囲における極大値と言い換えることもできる。
【0121】
Si-H結合は、副生成物の酸性度を示す指標となり得る。第1固形物中にSi-H結合が多く残存している場合、副生成物の中和分解が十分ではないことを示し得る。したがって、Si-H結合に係るシグナルを指標とすることにより、副生成物の中和分解の進行度を判定できる。
【0122】
また、例えば、副生成物と処理液とを混合した後、経過時間が異なる測定試料において、ラマンシフトが2000cm-1以上2500cm-1以下の範囲における極大値の強度R1の高さを比較することにより、加水分解処理又は中和分解処理の進行を管理できる。すなわち、先ず、上述したのと同様の方法で、第1固形物のラマンスペクトルを入手し、極大値の強度R1-1を記録する。次に、より長時間にわたって処理液と接触していた第1固形物について、ラマンスペクトルを入手し、極大値の強度R1-2を記録する。強度R1-2が、強度R1-1よりも低ければ、加水分解処理又は中和分解処理の進行が進んでいると判定できる。また、例えば、一定時間毎にこの操作を繰り返し行い、第1固形物における強度R1がラマンスペクトルから消失した時点で、副生成物の中和分解が完了し、副生成物の無害化処理が完了していると判定できる。
【0123】
あるいは、不活性雰囲気下で採取した副生成物に係る極大値の強度R1と、第1固形物に係る極大値の強度R1とを比較することにより、加水分解処理又は中和分解処理の進行度を把握できる。
【0124】
3-2-1)ラマン分光分析による判定方法例
また、本発明者らは、鋭意研究の結果、ラマンシフトが2000cm-1以上2500cm-1以下の範囲の第1極大値の強度R1と、ラマンシフトが2700cm-1以上3500cm-1以下の範囲の第2極大値の強度R2とを比較することにより、副生成物の処理の進行度を判定できることを見出している。ラマンシフトが2700cm-1以上3500cm-1以下の範囲の第2極大値は、ヒドロキシル基(-OH)、又は、有機塩基に含まれるメチル基(-CH3)に由来するピークに対応すると考えられる。具体的には、強度R1と強度R2との比R1/R2について、下記に示すように閾値を設定することにより、副生成物の処理の進行度を判定できる。
【0125】
(1)比R1/R2が1/5以下の場合(比R1/R2が0.20以下の場合):副生成物中のSi-H結合が、十分に切断されていると考えられる。したがって、副生成物の中和分解が完了し、無害化処理が完了していると判定できる。
【0126】
(2)比R1/R2が1/5より大きい場合(比R1/R2が0.20より大きい場合):副生成物中のSi-H結合が、十分に切断されていないと考えられる。したがって、副生成物の中和分解が完了しておらず、無害化処理が完了していないと判定できる。
【0127】
なお、第1極大値の強度R1及び第2極大値の強度R2は、ベースラインからの高さである。ベースラインは、ピークがないと推定される部分のスペクトルを結んだ線のことである。
【0128】
3-3)核磁気共鳴分光分析を用いた分析方法
測定試料としては、例えば、0.2gの乾燥させた第1固形物と、2mLの脱水重トルエン(関東化学製:製品番号21744-1A)とを混合し、この混合物を4時間にわたって静置したものを用いる。この測定試料を株式会社ハルナ製J.YOUNGバルブ付き試料管(S-5-600-JY-8)に分取して、このNMR試料管をNMR分光分析装置内にセットし、29Si NMRスペクトルを測定する。NMR分光分析装置としては、例えば、JEOL社製JNM-ECA800を用いることができる。29Si NMRスペクトルの測定に際しては、例えば、積算回数を3500回とし、測定範囲を-500ppm以上500ppm以下とする。
【0129】
得られた29Si NMRスペクトルにおいて、Si-Cl結合に帰属するピークは、一例によると、-40ppm以上10ppm以下の範囲内に現れ、他の例によると、-10ppm以上5ppm以下の範囲内に現れる。このピークの強度は、第1固形物に含まれるSi-Cl結合の量と相関していると考えられる。すなわち、このピークの強度が高ければ、第1固形物に含まれるSi-Cl結合の量が多く、強度が低ければ、第1固形物に含まれるSi-Cl結合の量が少ないと判定できる。
【0130】
3-4)その他
以上説明した判定方法は、複数の化学分析を組み合わせて行ってもよい。例えば、上述した赤外分光分析とラマン分光分析とを組み合わせることにより、副生成物の処理の進行をより正確に判定できる。
【0131】
また、上述したSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルを指標として用いる判定方法と、処理液のpHを指標とする方法とを組み合わせてもよい。すなわち、上述したように、副生成物と処理液とを接触させると、塩化水素(HCl)などのハロゲン化水素が生成され得る。このため、第1固形物と処理液との混合物における処理液のpHは、低下し得る。この塩化水素などのハロゲン化水素が、十分に中和された場合、第1固形物と処理液との混合物における処理液は、7より大きいpHを示すと考えられる。したがって、第1固形物と処理液との混合物における処理液のpHが7より大きい場合、処理液中の塩化水素などのハロゲン化水素が中和されていると判定できる。更に、第1固形物と処理液との混合物における処理液のpHが12以上である場合、処理液中の塩化水素などのハロゲン化水素が十分に中和されていると判定できる。
【0132】
また、上述したSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルを指標として用いる判定方法と、処理液の上昇温度を指標とする方法とを組み合わせてもよい。すなわち、副生成物と処理液とを接触させると、副生成物の中和分解反応又は加水分解反応により、副生成物と処理液との混合物において、処理液の温度が上昇し得る。したがって、副生成物と接触させる前の処理液と、副生成物と接触させた後の処理液との温度差は、副生成物の処理の進行度を判定するための指標となり得る。例えば、副生成物と処理液との混合物における処理液の温度を連続的に測定し、温度が上昇している間は、副生成物の中和分解又は加水分解が進行中であると判定できる。
【0133】
また、この方法と上述したpH濃度の測定とを更に組み合わせることにより、副生成物の処理の安全性を判定できる。例えば、副生成物と処理液との混合物において、処理液の温度上昇及びpHの低下の両方が生じなかった場合、副生成物に対する塩基の量が十分に存在し、副生成物の中和分解が十分に行われていると判定できる。
【0134】
以上説明した実施形態に係る判定方法は、第1固形物のSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルを指標として用いる。それゆえ、副生成物の処理の進行を判定できる。
【0135】
[処理方法]
実施形態に係る処理方法は、副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることと、第1固形物についてのSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することとを含む。処理液としては、上述した水及び塩基性水溶液を用いることができる。
【0136】
すなわち、処理液による副生成物の処理方法に、上述した実施形態に係る判定方法とを組み合わせることにより、副生成物の終点を管理できる。このような方法によれば、副生成物の無害化処理の完了前に誤って副生成物を取り出すことを防ぐことが可能であり、作業者がより安全に副生成物の処理作業を行うことができる。また、副生成物の処理のために、過剰な塩基を投入したり、過剰な作業時間を要することを防げるため、副生成物の処理の効率性を高めることができる。
【0137】
実施形態に係る処理方法は、上述したシグナルの閾値を設定する方法と組み合わせることにより、安全性及び効率性をより高めることができる。すなわち、実施形態に係る処理方法は、シグナルの強度が、閾値以下である場合には、副生成物の処理を停止することを含み得る。また、閾値を超える場合には、第1固形物と処理液との混合物に、処理液を更に加えることを含み得る。あるいは、副生成物と処理液とを十分に反応させるために、第1固形物と処理液との混合物を一定時間にわたって放置し得る。あるいは、処理液として、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加することを含み得る。
【0138】
更なる具体例として、実施形態に係る処理方法に、上述した3-1-1)赤外分光分析による判定方法例1、3-1-2)赤外分光分析による判定方法例2、及び、3-2-1)ラマン分光分析による判定方法例を組み合わせた際の処理方法を以下に説明する。
【0139】
1-1)赤外分光分析による判定方法例1と組み合わせた処理方法
(1)吸光度I1が0.050以下であり、副生成物の無害化処理が完了したと判定された場合:副生成物の処理を停止する。その後、処理液と第1固形物との混合物内から、第1固形物を取り出して、第1固形物を焼却する又は廃棄する処理を更に行ってもよい。
【0140】
(2)吸光度I1が0.050より大きく0.10以下であり、副生成物の処理の一部が完了していないと判定された場合:第1固形物と処理液との混合物に、処理液を更に追加する。あるいは、副生成物と処理液とを十分に反応させるために、第1固形物と処理液との混合物を一定時間放置する。あるいは、処理液として、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第1固形物について赤外分光分析を更に行い、吸光度I1を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、吸光度I1が0.050以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0141】
(3)吸光度I1が0.10より大きく、副生成物の処理が完了していないと判定された場合:第1固形物と処理液との混合物に、処理液を更に追加する。あるいは、副生成物と処理液とを十分に反応させるために、第1固形物と処理液との混合物を一定時間放置する。あるいは、処理液として、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第1固形物について赤外分光分析を更に行い、吸光度I1を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、吸光度I1が0.050以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0142】
1-2)赤外分光分析による判定方法例2と組み合わせた処理方法
(1)値(I1-I2)が、0.001以下であり、副生成物の無害化処理が完了していると判定された場合:副生成物の処理を停止する。その後、処理液と第1固形物との混合物内から、第1固形物を取り出して、第1固形物を焼却する又は廃棄する処理を更に行ってもよい。
【0143】
(2)値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下であり、副生成物の処理の一部が完了していないと判定された場合:第1固形物と処理液との混合物に、処理液を更に追加する。あるいは、副生成物と処理液とを十分に反応させるために、第1固形物と処理液との混合物を一定時間放置する。あるいは、処理液として、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第1固形物又はについて赤外分光分析を更に行い、吸光度I1及び値(I1-I2)を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、値(I1-I2)が0.001以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0144】
(3)値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第1固形物と処理液との混合物に、処理液を更に追加する。あるいは、副生成物と処理液とを十分に反応させるために、第1固形物と処理液との混合物を一定時間放置する。あるいは、処理液としてよりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第1固形物について赤外分光分析を更に行い、吸光度I1及び値(I1-I2)を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、値(I1-I2)が、0.001以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0145】
1-3)ラマン分光分析による判定方法例と組み合わせた処理方法
(1)比R1/R2が、1/5以下であり、副生成物の無害化処理が完了していると判定された場合:副生成物の処理を停止する。その後、処理液と第1固形物との混合物内から、第1固形物を取り出して、第1固形物を焼却する又は廃棄する処理を更に行ってもよい。
【0146】
(2)比R1/R2が、1/5より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第1固形物と塩基性水溶液との混合物に、処理液を更に追加する。あるいは、副生成物と処理液とを十分に反応させるために、第1固形物と処理液との混合物を一定時間放置する。あるいは、処理液としてよりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第1固形物についてラマン分光分析を更に行い、比R1/R2を確認することが好ましい。この更なるラマン分光分析による判定は、比R1/R2が、1/5以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0147】
2)2段階処理方法
実施形態に係る処理方法は、副生成物の水による前処理と、塩基性水溶液による本処理との2段階に分けて行われてもよい。この処理方法は、副生成物に水を接触させて第2固形物を得ることと、第2固形物に塩基性水溶液を接触させて第3固形物を得ることと、第3固形物についてのSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、副生成物の処理の進行を判定することとを含み得る。第2固形物は、副生成物の加水分解生成物であり得る。また、第3固形物は、副生成物の中和分解生成物であり得る。
【0148】
この処理方法は、第2固形物についてのSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、塩基性水溶液を第2固形物に接触させることを更に含んでもよい。
【0149】
この処理方法によると、より穏やかに副生成物を処理し得る。
【0150】
更なる具体例として、実施形態に係る処理方法に、上述した3-1-1)赤外分光分析による判定方法例1、3-1-2)赤外分光分析による判定方法例2、及び、3-2-1)ラマン分光分析による判定方法例を組み合わせた際の処理方法を以下に説明する。
【0151】
2-1)赤外分光分析による判定方法例1と組み合わせた処理方法
(1)第2固形物の吸光度I1が0.050より大きく0.10以下であり、副生成物の無害化処理の一部が完了していないと判定された場合:第2固形物と水との混合物に、塩基性水溶液を更に追加して、第3固形物を得る。
【0152】
(2)第2固形物の吸光度I1が0.10より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第2固形物と水との混合物に、水を更に追加する。あるいは、副生成物と水とを十分に反応させるために、第2混合物と水との混合物を放置する。あるいは、第2固形物と水との混合物に、塩基性水溶液を更に追加して、第3固形物を得る。
【0153】
(3)第2固形物又は第3固形物の吸光度I1が0.050以下であり、副生成物の無害化処理が完了したと判定された場合:副生成物の処理を停止する。その後、第2固形物と水との混合物、又は、第3固形物と塩基性水溶液との混合物内から、第2固形物又は第3固形物を取り出して、第2固形物又は第3固形物を焼却する又は廃棄する処理を更に行ってもよい。
【0154】
(4)第3固形物の吸光度I1が0.10より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合、又は、0.050より大きく0.10以下であり、副生成物の無害化処理が一部完了していないと判定された場合:第3固形物と塩基性水溶液との混合物に、塩基性水溶液を更に追加する。あるいは、副生成物と塩基性水溶液とを十分に反応させるために、第3混合物と塩基性水溶液との混合物を一定時間放置する。あるいは、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第3固形物について赤外分光分析を更に行い、吸光度I1を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、吸光度I1が0.050以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0155】
2-2)赤外分光分析による判定方法例2と組み合わせた処理方法
(1)第2固形物の値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下であり、副生成物の処理の一部が完了していないと判定された場合:第2固形物と水との混合物に、塩基性水溶液を更に追加して、第3固形物を得る。
【0156】
(2)第2固形物の値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きくあり、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第2固形物と水との混合物に、水を更に追加する。あるいは、副生成物と水とを十分に反応させるために、第2混合物と水との混合物を放置する。あるいは、第2固形物と水との混合物に、塩基性水溶液を更に追加して、第3固形物を得る。その後、第2固形物又は第3固形物について赤外分光分析を更に行い、吸光度I1及び値(I1-I2)を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、値(I1-I2)が0.001以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0157】
(3)第2固形物又は第3固形物の値(I1-I2)が、0.001以下であり、副生成物の無害化処理が完了していると判定された場合:副生成物の処理を停止する。その後、第2固形物と水との混合物、又は、第3固形物と塩基性水溶液との混合物内から、第2固形物又は第3固形物を取り出して、第2固形物又は第3固形物を焼却する又は廃棄する処理を更に行ってもよい。
【0158】
(4)第3固形物の値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下であり、副生成物の処理が一部完了していないと判定された場合、及び、値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第3固形物と塩基性水溶液との混合物に、塩基性水溶液を更に追加する。あるいは、副生成物と塩基性水溶液とを十分に反応させるために、第3混合物と塩基性水溶液との混合物を放置する。あるいは、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第3固形物について赤外分光分析を更に行い、吸光度I1及び値(I1-I2)を確認することが好ましい。この更なる赤外分光分析による判定は、値(I1-I2)が、0.001以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0159】
2-3)ラマン分光分析による判定方法例と組み合わせた処理方法
(1)第2固形物の比R1/R2が、1/5より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第2固形物と水との混合物に、塩基性水溶液を更に追加して、第3固形物を得る。
【0160】
(2)第2固形物又は第3固形物の比R1/R2が、1/5以下であり、副生成物の無害化処理が完了していると判定された場合:副生成物の処理を停止する。その後、第2固形物と水との混合物、又は、第3固形物と塩基性水溶液との混合物内から、第2固形物又は第3固形物を取り出して、第2固形物又は第3固形物を焼却する又は廃棄する処理を更に行ってもよい。
【0161】
(3)第3固形物の比R1/R2が、1/5より大きく、副生成物の無害化処理が完了していないと判定された場合:第3固形物と塩基性水溶液との混合物に、塩基性水溶液を更に追加する。あるいは、副生成物と塩基性水溶液とを十分に反応させるために、第3混合物と塩基性水溶液との混合物を放置する。あるいは、よりpHの高い塩基性水溶液を更に追加する。その後、第3固形物についてラマン分光分析を更に行い、比R1/R2を確認することが好ましい。この更なるラマン分光分析による判定は、比R1/R2が、1/5以下となるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0162】
3)その他
実施形態に係る処理方法は、上述したSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルを指標として用いる判定方法に加えて、処理液のpHを指標とする方法を組み合わせて利用してもよい。すなわち、上述した方法において、シグナルの強度が閾値以下であることに加えて、第1固形物又は第3固形物と処理液との混合物中の処理液のpHが、7より大きい場合、あるいは、12以上である場合に、副生成物の処理を停止してもよい。また、第1固形物又は第3固形物と処理液との混合物中の処理液のpHが、12より低い、あるいは、7以下である場合に、混合物に塩基性水溶液を更に加える処理を行ってもよい。
【0163】
また、上述したSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルを指標として用いる判定方法に加えて、処理液の温度変化を指標とする方法を組み合わせて利用してもよい。すなわち、上述した方法において、シグナルの強度が閾値以下であることに加えて、第1固形物又は第3固形物と処理液との混合物における処理液の温度変化を測定し、温度変化が停止した時点、あるいは、温度の上昇が止まり、温度が低下し始めた時点で、副生成物の処理を停止してもよい。あるいは、第1固形物又は第3固形物と処理液との混合物における処理液の温度が、副生成物と混合する前の温度から規定温度上昇した場合、更に処理液の追加を実施してもよく、よりpHの高い処理液の追加を実施してもよい。
【0164】
また、実施形態に係る処理方法は、第1固形物と処理液との混合物、第2固形物と水との混合物、又は第3固形物と塩基性水溶液との混合物について、超音波処理などの粉砕処理を行うこと含んでいてもよい。
【0165】
以上説明した実施形態に係る処理方法は、実施形態に係る判定方法を利用する。したがって、実施形態に係る処理方法を用いると、副生成物の処理を、より安全に、より効率的に行うことができる。
【実施例】
【0166】
以下、実施例について説明する。
【0167】
[試料A~Dの準備]
先ず、原料ガスをエピタキシャル成長装置に導入して、800℃の温度でシリコン基板と反応させて、シリコン基板上に単結晶シリコン膜を形成した。原料ガスとしては、水素ガスに、ジクロロシランと塩化水素とを混合した混合ガスを用いた。混合ガスにおける水素の濃度は、95体積%以上であった。
【0168】
次に、窒素雰囲気下でエピタキシャル成長装置の配管を分解して、副生成物を採取して、試料Aとした。副生成物は、白色のクリーム状液体であった。採取した副生成物を、核磁気共鳴分光分析及び質量分析で分析したところ、上記構造式(e)乃至(h)に該当すると思われる環状構造を有するクロロシラン類を含んでいることが確認された。
【0169】
次に、アルゴン置換されたグローブボックス内で、50mgの副生成物を、3つのシャーレにそれぞれ量り取った。これらのシャーレを気密容器に入れ、大気雰囲気下のドラフトチャンバーへと移動させた。ドラフトチャンバーの温度は26.4℃であり、湿度は55%であった。
【0170】
気密容器から3つのシャーレを取り出し、1つ目のシャーレ内に1.0mLの水を添加し副生成物と接触させて、第1固形物と水との混合物を得た。60分経過後、混合物の中から第1固形物を取り出し、これを乾燥させて、試料Bとした。この処理は、温度計を用いて、処理液中の温度を測定しながら行った。
【0171】
2つ目のシャーレ内に1.0mLの塩基性水溶液を添加し副生成物と接触させて、第1固形物と塩基性水溶液との混合物を得た。60分経過後、混合物の中から第1固形物を取り出し、これを乾燥させて、試料Cとした。この処理は、温度計を用いて、処理液中の温度を測定しながら行った。塩基性水溶液としては、水に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を溶解させたものを用いた。塩基性水溶液において、TMAHの濃度は、0.5質量%であり、そのpHは12であった。
【0172】
3つ目のシャーレ内の副生成物を、大気雰囲気下のドラフトチャンバー内に60分間にわたって放置し、副生成物と空気とを反応させて、第1固形物を得た。この第1固形物を、試料Dとした。
【0173】
[爆発性及び燃焼性確認試験]
試料B~Dについて、以下の方法により、爆発性及び燃焼性を有するか否かを確認した。先ず、試料を、金属容器内に入れた。金属容器内の試料に、SUS製のスパチュラを押し当てながら動かして、第1固形物が発火するか否かを目視で確認した。第1固形物が発火した場合には、第1固形物は爆発性を有すると判定し、第1固形物が発火しなかった場合には、第1固形物は爆発性を有さないと判定した。
【0174】
また、金属容器に分取した試料に、ポータブル点火装置を用いて火炎を接触させ、発火するか否かを目視で確認した。この際、火炎の温度は、およそ500℃とした。第1固形物が発火した場合には、第1固形物は燃焼性を有すると判定し、第1固形物が発火しなかった場合には、第1固形物は燃焼性を有さないと判定した。
【0175】
第1固形物が、爆発性及び燃焼性の何れも有していなかった場合、無害化処理が完了していると判定し、爆発性及び燃焼性の何れかを有していた場合、無害化処理の一部が完了していないと判定し、爆発性及び燃焼性の双方を有していた場合、無害化処理が完了していないと判定した。なお、試料Aについては、爆発性及び燃焼性の何れも有しているとした。この判定結果を、表1に示す。
【0176】
(pH測定)
副生成物の処理前の水及び塩基性水溶液のpH、及び、第1固形物と水若しくは塩基性水溶液との混合物中の水若しくは塩基性水溶液のpHを、pH試験紙を用いて測定した。この結果を、表1に示す。
【0177】
[赤外分光分析]
試料B~Dについて、上述した条件で赤外分光分析を行い、各試料の赤外分光スペクトルを得た。また、試料Aについて、顕微IR法により赤外分光スペクトルを得た。なお、アクセサリとしては日本分光株式会社製IRT-7000を用い、測定範囲は650cm
-1以上4000cm
-1以下とし、分解能を4cm
-1とし、積算回数を100回とした。その結果を
図5及び
図6に示す。
図5は、試料A~Dに係る赤外分光スペクトルの一例を示すグラフである。
図6は、
図5に示すグラフの一部を拡大したグラフである。
図5及び
図6において、横軸は波数を示し、縦軸は吸光度を示している。
図5及び
図6において、A-I、B-I、C-I及びD-Iは、それぞれ、試料A、試料B、試料C及び試料Dの赤外分光スペクトルを示している。
図5及び
図6に示す赤外分光スペクトルにおいて、ベースラインの吸光度は0である。
【0178】
図5に示すグラフにおいて、2900cm
-1以上3700cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、ヒドロキシル基(-OH)に由来し、2700cm
-1以上3000cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、メチル基(-CH
3)に由来し、2000cm
-1以上2400cm
-1以下の範囲は、ダイヤモンドプリズム自体の吸収を含む領域であり、1500cm
-1以上1700cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、TMAHに由来し、900cm
-1以上1300cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、Si-O-Si結合に由来し、800cm
-1以上900cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、Si-Cl結合に由来すると考えられる。なお、800cm
-1以上900cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、Si-Si結合に由来する可能性もある。
図7において、Si-Cl結合に係るピークを丸で囲んでいる。
【0179】
図6に示すグラフにおいて、点P1及びP2は、それぞれ、試料Aに係る極大値I1及び極小値I2を示している。また、点P3及びP4は、それぞれ、試料Bに係る極大値I1及び極小値I2を示している。また、点P5及びP6は、それぞれ、試料Dに係る極大値I1及び極小値I2を示している。試料Cにおいては、極大値I1の吸光度と、極小値I2の吸光度が等しい値であった。
【0180】
図6から明らかなように、試料Cに係る赤外分光スペクトルには、Si-Cl結合に由来するピークがほぼ見られなかった。一方、試料A、B及びDに係る赤外分光スペクトルには、Si-Cl結合に由来するピークが見られた。このピークの大きさは、試料A、試料D、試料Bの順に大きかった。
【0181】
各赤外分光スペクトルから極大値I1、極小値I2、及び値(I1-I2)を算出して、上述した赤外分光分析による判定方法例1及び2に基づいて、試料A~Dについて無害化処理が完了しているか否かを判定した。その結果を表2に示す。
【0182】
[ラマン分光分析]
試料A~Dについて、上述した条件でラマン分光分析を行い、各試料のラマンスペクトルを得た。その結果を
図7及び
図8に示す。
図7は、試料A~Dに係るラマンスペクトルの一例を示すグラフである。
図8は、
図7に示すグラフの一部を拡大したグラフである。
図7及び
図8において、横軸はラマンシフトを示し、縦軸は強度を示している。
図7及び
図8において、A-R、B-R、C-R及びD-Rは、それぞれ、試料A、試料B、試料C及び試料Dのラマンスペクトルを示している。
【0183】
図7に示すグラフにおいて、3200cm
-1以上3800cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、ヒドロキシル基(-OH)に由来し、1400cm
-1以上1600cm
-1以下の範囲内及び2700cm
-1以上3200cm
-1以下の範囲内に現れるピークは、メチル基(-CH
3)に由来し、2000cm
-1以上2500cm
-1以下の範囲に現れるピークは、Si-H結合に由来すると考えられる。
図7において、Si-H結合に係るピークを丸で囲んでいる。
【0184】
図8に示すように、試料Cに係るラマンスペクトルには、Si-H結合に由来するピークがほぼ見られなかった。一方、試料A、B及びDに係るラマンスペクトルには、Si-H結合に由来するピークが見られた。また、試料Bに係るラマンスペクトルには、蛍光による影響が見られた。
【0185】
上述したラマン分光分析による判定方法例に基づいて、強度R1、強度R2、及び比R1/R2を算出して、試料A~Dについて無害化処理が完了しているか否かを判定した。その結果を表3に示す。
【0186】
以下の表1~表3に、判定方法の結果を示す。
【0187】
【0188】
上記表1において、「処理方法」と表記した列には、各試料を調製した際の特徴を記載している。また、「爆発性」及び「燃焼性」と表記した列には、各試料の爆発性及び燃焼性確認試験の結果を記載している。また、「処理前pH」と表記した列には、副生成物の処理に用いた水及び塩基性処理液のpHを記載している。また、「処理後pH」と表記した列には、第1固形物と水若しくは塩基性水溶液との混合物における水若しくは塩基性水溶液のpHを記載している。また、「最高温度(℃)」と表記した列には、副生成物を処理中の処理液が到達した最も高い温度を記載している。また、「判定」と表記した列には、各試料が爆発性及び燃焼性を有していた場合は未完了と、爆発性及び燃焼性の何れかを有していた場合には一部未完了と、爆発性及び燃焼性の何れも有していなかった場合には完了と記載している。
【0189】
【0190】
上記表2において、「処理方法」と表記した列には、各試料を調製した際の特徴を記載している。また、「IR判定法1」という見出しの下方の列のうち、「I1」と表記した列には、各試料の赤外分光スペクトルにおける、波数が800cm-1以上900cm-1以下の範囲の極大値の吸光度I1を記載している。また、「判定」と表記した列には、極大値の吸光度I1が、0.050以下である場合には完了と、極大値の吸光度I1が、0.050より大きく0.10以下である場合には、一部未完了と、極大値の吸光度I1が、0.10より大きい場合には、未完了と記載している。
【0191】
上記表2において、「IR判定法2」という見出しの下方の列のうち、「I2」と表記した列には、各試料の赤外分光スペクトルにおける、波数が900cm-1以上1000cm-1以下の範囲の極小値の吸光度I2を記載している。また、「I1-I2」と表記した列には、極大値の吸光度I1から、極小値の吸光度I2を差し引いた値を記載している。また、「判定」と表記した列には、値(I1-I2)が0.001以下である場合には完了と、値(I1-I2)が、0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、一部未完了と、値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、未完了と記載している。
【0192】
【0193】
上記表3において、「処理方法」と表記した列には、各試料を調製した際の特徴を記載している。また、「ラマン判定法」という見出しの下方の列のうち、「R1」と表記した列には、各試料のラマンスペクトルにおける、ラマンシフトが2000cm-1以上2500cm-1以下の範囲の極大値の強度を記載している。また、「R2」と表記した列には、各試料のラマンスペクトルにおける、ラマンシフトが2700cm-1以上3500cm-1以下の範囲に現れるOH基に由来するピークの強度を記載している。また、「R1/R2」と表記した列には、極大値の強度R1とOH基由来のピークの強度R2との比を記載している。また、「判定」と表記した列には、比R1/R2が1/5以下の場合には完了と、比R1/R2が1/5より大きい場合には未完了と記載している。
【0194】
上記表1及び表2に示されているように、赤外分光分析による判定方法1及び2を用いると、各試料の爆発性及び燃焼性を確認した場合と同様の結果を得ることができた。また、表1及び表3に示すように、ラマン分光分析による判定方法を用いると、副生成物の処理が完了しているか否かという点からは、各試料の爆発性及び燃焼性を確認した場合と同様の結果を得ることができた。
【0195】
以上説明した実施形態に係る判定方法は、第1固形物のSi-α結合及びSi-H結合の少なくとも一方のシグナルを指標として用いる。それゆえ、副生成物の処理の進行を判定できる。
【0196】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質とを反応させる工程において生じる副生成物の処理の進行を判定する判定方法であって、
前記副生成物の処理は、前記副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることを含み、
前記判定方法は、前記第1固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記副生成物の処理の進行を判定することを含む判定方法。
[2] 前記シグナルの強度が、閾値以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、前記閾値を超える場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む[1]に記載の判定方法。
[3] 前記化学分析は、赤外分光分析である[1]又は[2]に記載の判定方法。
[4] 前記化学分析は、ラマン分光分析である[1]又は[2]に記載の判定方法。
[5] 前記化学分析は、核磁気共鳴分光分析である[1]又は[2]に記載の判定方法。
[6] 前記第1固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1が、0.050以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、
前記極大値の吸光度I1が、0.050より大きく0.10以下である場合には、前記副生成物の処理の一部が完了していないと判定し、
前記極大値の吸光度I1が、0.10より大きい場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む[3]に記載の判定方法。
[7] 前記第1固形物の赤外分光スペクトルにおいて、波数が800cm
-1
以上900cm
-1
以下の範囲の極大値の吸光度I1から、波数が900cm
-1
以上1000cm
-1
以下の範囲の極小値であって、前記極大値よりも高波数側に位置する極小値の吸光度I2を差し引いた値(I1-I2)が0.001以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130以下である場合には、前記副生成物の処理の一部が完了していないと判定し、
前記値(I1-I2)が0.001より大きく、かつ、前記極小値の吸光度I2が0.130より大きい場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む[3]に記載の判定方法。
[8] 前記第1固形物のラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが2000cm
-1
以上2500cm
-1
以下の範囲の第1極大値の強度R1と、ラマンシフトが2700cm
-1
以上3500cm
-1
以下の範囲の第2極大値の強度R2との比R1/R2が、1/5以下である場合には、前記副生成物の処理が完了していると判定し、
前記比R1/R2が、1/5より大きい場合には、前記副生成物の処理が完了していないと判定することを含む[4]に記載の判定方法。
[9] ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質とを反応させる工程において生じる副生成物を処理する方法であって、
前記副生成物に水を含む処理液を接触させて第1固形物を得ることと、
前記第1固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記副生成物の処理の進行を判定することと
を含む処理方法。
[10] 前記処理液は、塩基性水溶液である[9]に記載の処理方法。
[11] 前記シグナルの強度が、閾値以下である場合には、前記副生成物の処理を停止し、前記閾値を超える場合には、前記第1固形物と前記処理液との混合物に、前記処理液を更に加えることを含む[9]又は[10]に記載の処理方法。
[12] ケイ素及びハロゲンを含む物質を反応させる、或いは、ケイ素を含む物質とハロゲンを含む物質とを反応させる工程において生じる副生成物を処理する方法であって、
前記副生成物に水を接触させて第2固形物を得ることと、
前記第2固形物に塩基性水溶液を接触させて第3固形物を得ることと、
前記第3固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記副生成物の処理の進行を判定することと
を含む処理方法。
[13] 前記第2固形物についてのSi-α結合(αはF、Cl、Br、及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である)及びSi-H結合の少なくとも一方の化学分析によるシグナルに基づいて、前記塩基性水溶液を前記第2固形物に接触させることを更に含む[12]に記載の処理方法。
【符号の説明】
【0197】
1…エピタキシャル成長装置、10…装置本体、11…筐体、12…反応室、13…排出管、20…除害装置、30…接続部、31…配管、32…配管、131…配管、132…配管、133…配管、134…配管、135…配管、CIV…反応室独立バルブ、PCV…圧力調整バルブ。