(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】紫外線治療器
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
A61N5/06 B
(21)【出願番号】P 2020218331
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 明理
(72)【発明者】
【氏名】柴田 弘
(72)【発明者】
【氏名】木尾 智彦
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 尚司
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104307105(CN,A)
【文献】特開2020-022718(JP,A)
【文献】特表2018-514243(JP,A)
【文献】特表2018-514292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0183811(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06- 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を含む光を出射するLED光源と、当該LED光源の点灯を制御する制御部と、を備える紫外線治療器であって、
前記LED光源の基準温度からの温度変化を検出する検出部を備え、
前記制御部は、
前記検出部により検出された前記温度変化に伴う前記光の分光スペクトルの変動による人体への影響度の変動に基づいて、前記光の照射量を補正する補正値を算出する算出部と、
前記算出部により算出された補正値に基づいて前記LED光源を点灯させる点灯制御部と、
前記光の照射面での放射照度に波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの放射照度に関する第1の情報を記録する記録部と、を備え、
前記算出部は、前記記録部に記録された前記第1の情報を用いて前記補正値を算出することを特徴とする紫外線治療器。
【請求項2】
前記第1の情報は、前記LED光源の温度と相関のあるパラメータと、前記見かけの放射照度との関係を示す情報であり、
前記算出部は、
前記検出部により検出された前記温度変化に基づいて、前記記録部に記録された前記第1の情報をもとに、前記基準温度での前記見かけの放射照度を前記LED光源の温度に対応する前記見かけの放射照度で除した値である第1の補正係数を導出し、
前記基準温度における前記光の照射量を決定するパラメータに、前記第1の補正係数を乗じることで、前記補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項3】
前記第1の情報は、前記見かけの放射照度の算出に必要な情報であり、前記光の分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとを含み、
前記算出部は、
前記検出部により検出された前記温度変化に基づいて、前記記録部に記録された前記第1の情報をもとに、前記LED光源の温度での前記見かけの放射照度を算出し、
算出された前記見かけの放射照度に基づいて、前記補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項4】
前記LED光源の点灯中における、前記光の照射面での放射照度に波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの放射照度の変化から導出される見かけの照射量に関する第2の情報を記録する記録部を備え、
前記算出部は、前記記録部に記録された前記第2の情報を用いて前記補正値を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の紫外線治療器。
【請求項5】
前記第2の情報は、患者に照射すべき設定照射量と、当該設定照射量に対する前記見かけの照射量の割合との関係を示す情報であり、
前記設定照射量を入力する入力部をさらに備え、
前記算出部は、
前記入力部により入力された設定照射量に基づいて、前記記録部に記録された前記第2の情報をもとに、前記設定照射量に対する前記見かけの照射量の割合の逆数である第2の補正係数を導出し、
前記光の照射量を決定するパラメータに、前記第2の補正係数を乗じることで、前記補正値を算出することを特徴とする請求項4に記載の紫外線治療器。
【請求項6】
前記検出部は、前記LED光源が実装されたLED基板の温度、前記LED光源の順方向電圧、および前記LED光源からの光の特性のいずれかを検出する
ことで、前記温度変化を検出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の紫外線治療器。
【請求項7】
前記算出部は、前記補正値として、前記光の照射時
間を算出することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の紫外線治療器。
【請求項8】
前記算出部は、前記補正値として、前記LED光源への入力電流を算出することを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項9】
前記検出部により検出された前記温度変化に伴う前記光の分光スペクトルの変動による人体への影響度の変動に基づいて、前記LED光源の温度調整量を算出する第2の算出部と、
前記第2の算出部により算出された前記LED光源の温度調整量に基づいて、前記LED光源が実装されたLED基板の温度を制御する温度制御部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項10】
前記検出部は、前記点灯制御部により前記LED光源を点灯する前に、前記LED光源の温度変化を検出し、
前記算出部は、前記点灯制御部により前記LED光源を点灯する前に、前記補正値として、前記光の照射時間を算出し、
前記制御部は、前記点灯制御部により前記LED光源を点灯する前に、前記算出部により算出された前記光の照射時間を表示部に表示させる表示制御部を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の紫外線治療器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDを光源とした紫外線治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光線治療として、UVA(波長320nm~400nm)、UVB(波長280~320nm)といった波長域の紫外線を用いる紫外線治療が存在する。紫外線治療とは、紫外線照射により免疫抑制を図り、治療効果を得るものである。
例えば特許文献1には、紫外線によって皮膚疾患を治療する紫外線治療器が開示されている。この紫外線治療器は、紫外線源としてランプ光源やLEDを備える。
【0003】
LEDを光源として用いた場合、概して、ランプの電源装置よりも簡単な回路構成を実現でき、装置の小型化、軽量化が可能である。そのため、近年、紫外線の光源として紫外線発光素子(UVLED)を用いた紫外線治療器が提案されている。
なお、以下の説明においては、紫外線および紫外線を含む光を、単に「光」と呼ぶこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ランプとは異なり、LEDは、素子温度によって出射光の波長と放射照度とが変動する。また、紫外線を皮膚に照射する場合、波長によって副作用である紅斑の生じやすさが異なる。つまり、LEDを光源とした紫外線治療器では、同一治療器において同一照射時間で光照射した場合でも、LED素子の温度が異なると副作用の出やすさに差異が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、LEDを光源とした紫外線治療器において、LED素子の温度に依らずに安定した治療効果を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る紫外線治療器の一態様は、紫外線を含む光を出射するLED光源と、当該LED光源の点灯を制御する制御部と、を備える紫外線治療器であって、前記LED光源の基準温度からの温度変化を検出する検出部を備え、前記制御部は、前記検出部により検出された前記温度変化に伴う前記光の分光スペクトルの変動による人体への影響度の変動に基づいて、前記光の照射量を補正する補正値を算出する算出部と、前記算出部により算出された補正値に基づいて前記LED光源を点灯させる点灯制御部と、前記光の照射面での放射照度に波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの放射照度に関する第1の情報を記録する記録部と、を備え、前記算出部は、前記記録部に記録された前記第1の情報を用いて前記補正値を算出する。
このように、LED光源の温度変化をモニタリングし、LED光源の温度変化に伴う分光スペクトルの変動による人体への影響度(例えば紅斑の生じやすさ)の変動を考慮して光の照射量を補正する。したがって、同一治療器において、LED光源の温度に依らずに安定した治療効果を得ることができる。
【0008】
また、前記光の照射面での放射照度に波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの放射照度に関する第1の情報を記録する記録部を備え、前記算出部は、前記記録部に記録された前記第1の情報を用いて前記補正値を算出するので、波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの上での放射照度を用いた適切な補正が可能となる。
【0009】
さらに、上記の紫外線治療器において、前記第1の情報は、前記LED光源の温度と相関のあるパラメータと、前記見かけの放射照度との関係を示す情報であり、前記算出部は、前記検出部により検出された前記温度変化に基づいて、前記記録部に記録された前記第1の情報をもとに、前記基準温度での前記見かけの放射照度を前記LED光源の温度に対応する前記見かけの放射照度で除した値である第1の補正係数を導出し、前記基準温度における前記光の照射量を決定するパラメータに、前記第1の補正係数を乗じることで、前記補正値を算出してもよい。
この場合、LED光源の基準温度からの温度変化によって、見かけの放射照度が基準温度での見かけの放射照度からどのくらい変化したかを適切に見積もり、基準温度での見かけの放射照度に対する検出温度での見かけの放射照度の割合の逆数を第1の補正係数として導出することができる。この第1の補正係数を基準温度における光の照射量を決定するパラメータに乗じることで、容易かつ適切に上記補正値を算出することができる。
【0010】
また、上記の紫外線治療器において、前記第1の情報は、前記見かけの放射照度の算出に必要な情報であり、前記光の分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとを含み、前記算出部は、前記検出部により検出された前記温度変化に基づいて、前記記録部に記録された前記第1の情報をもとに、前記LED光源の温度での前記見かけの放射照度を算出し、算出された前記見かけの放射照度に基づいて、前記補正値を算出してもよい。
この場合、LED光源の検出温度での見かけの放射照度を直接見積もり、適切に上記補正値を算出することができる。
【0011】
また、上記の紫外線治療器は、前記LED光源の点灯中における、前記光の照射面での放射照度に波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの放射照度の変化から導出される見かけの照射量に関する第2の情報を記録する記録部を備え、前記算出部は、前記記録部に記録された前記第2の情報を用いて前記補正値を算出してもよい。
この場合、LED光源の点灯中のLED光源の温度上昇に伴って見かけの放射照度が低下することを考慮した適切な補正が可能となる。
【0012】
さらに、上記の紫外線治療器において、前記第2の情報は、患者に照射すべき設定照射量と、当該設定照射量に対する前記見かけの照射量の割合との関係を示す情報であり、前記設定照射量を入力する入力部をさらに備え、前記算出部は、前記入力部により入力された設定照射量に基づいて、前記記録部に記録された前記第2の情報をもとに、前記割合の逆数である第2の補正係数を導出し、前記光の照射量を決定するパラメータに、前記第2の補正係数を乗じることで、前記補正値を算出してもよい。
この場合、設定照射量に対して見かけの照射量がどのくらいとなるかを適切に見積もり、設定照射量に対する見かけの照射量の割合の逆数を第2の補正係数として導出することができる。この第2の補正係数を光の照射量を決定するパラメータに乗じることで、容易かつ適切に上記補正値を算出することができる。
【0013】
また、上記の紫外線治療器において、前記検出部は、前記LED光源が実装されたLED基板の温度、前記LED光源の順方向電圧、および前記LED光源からの光の特性のいずれかを検出することで、前記温度変化を検出してもよい。上記LED光源からの光の特性として、分光スペクトル、放射照度、放射束などを用いることができる。この場合、LED光源の光学特性変動を適切に検出することができる。
さらに、上記の紫外線治療器において、前記算出部は、前記補正値として、前記光の照射時間を算出してもよい。この場合、光の照射量を補正するためのパラメータを適切に算出することができる。
また、上記の紫外線治療器において、前記算出部は、前記補正値として、前記LED光源への入力電流を算出してもよい。
さらに、上記の紫外線治療器は、前記検出部により検出された前記温度変化に伴う前記光の分光スペクトルの変動による人体への影響度の変動に基づいて、前記LED光源の温度調整量を算出する第2の算出部と、前記第2の算出部により算出された前記LED光源の温度調整量に基づいて、前記LED光源が実装されたLED基板の温度を制御する温度制御部と、をさらに備えてもよい。
【0014】
また、上記の紫外線治療器において、前記検出部は、前記点灯制御部により前記LED光源を点灯する前に、前記LED光源の温度変化を検出し、前記算出部は、前記点灯制御部により前記LED光源を点灯する前に、前記補正値として、前記光の照射時間を算出し、前記制御部は、前記点灯制御部により前記LED光源を点灯する前に、前記算出部により算出された前記光の照射時間を表示部に表示させる表示制御部を備えていてもよい。
この場合、LED点灯前に、ユーザ(医師や患者など)に対して光の照射時間(治療時間)を提示することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光源として紫外線を出射するLED(UVLED)を用いた紫外線治療器において、LED素子の温度に依らずに安定した治療効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】CIEの紅斑作用スペクトルを示すグラフである。
【
図2】LED基板温度とピーク波長との経時変化を示すグラフである。
【
図3】LED基板温度と相対照度との経時変化を示すグラフである。
【
図4】照射時間に対する見かけの照度の推移を示す図である。
【
図5】補正方法1の概念を説明するための図である。
【
図7】補正方法2の概念を説明するための図である。
【
図10】紫外線治療器の処理フローを示す図である。
【
図11】紫外線治療器の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、紫外線を含む光として、例えばUVB(波長280nm~320nm)の領域の紫外線を含む光を放射する治療具を備える紫外線治療器について説明する。ここでは、例えば、波長308nmにピークを有する光を放射するLED光源を備える紫外線治療器について説明する。
【0019】
UVB領域の紫外線をヒトの皮膚に当てると、副作用として紅斑が発生する。紅斑とは、毛細血管の拡張などが原因で皮膚表面に発赤を伴った状態をいう。皮膚に紅斑が発生する最低の紫外線照射量を最少紅斑量(MinimalErythemaDose:MED)という。なお、MEDの単位は、mJ/cm2である。日焼けのしやすさに個人差があるように、紅斑の出やすさ、即ちMEDにも個人差がある。
また、紫外線による紅斑の出やすさ、つまり紫外線による人体への影響度は、当該紫外線の波長により異なる。波長毎の人体への相対影響度については、国際照明委員会(CIE:Commission Internationale de l'Eclairage)により紅斑作用スペクトルとして定義されている。
【0020】
図1は、紅斑作用スペクトルを示すグラフである。
この
図1において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は相対影響度である。紅斑作用スペクトルS
erは、波長λが250nm~400nmの区間において定義されており、下記(1)式に定義式を示すように、波長250nm~298nmの光が皮膚に与える影響を1とした場合の、各波長の相対影響度として示される。
【0021】
【0022】
図1に示すグラフの概形から、波長が短い方が人体の影響が大きく、紅斑が出やすいということがわかる。具体的には、UVBの領域よりも長い波長の光、厳密に上記(1)式を適用するのであれば波長328nmよりも長波長の光は、皮膚にほとんど影響を及ぼさない。一方、波長が328nm以下になると、皮膚へ影響が生じ始め、その影響は短波長になるほど増加する。
【0023】
そして、紫外線による人体への総合的な影響度は、下記(2)式に定義式を示すように、照射される紫外線の分光放射照度Eλと紅斑作用スペクトルSerとの積を、250nm~400nmの区間で波長積分することにより得られる。このようにして求められる影響度を、紅斑紫外線量ICIEという。紅斑紫外線量ICIEの値が大きいほど、紅斑の出やすい光である。
【0024】
【0025】
図1からもわかるように、特に波長298nm以上310nm以下の波長範囲では、わずか1nmの波長の差でも、人体への影響度は大きく変化する。
一般に、LED光源では、素子温度によって光学特性が変動することが知られている。
図2は、LED点灯後の基板温度と照射面でのピーク波長との経時変化を示す図、
図3は、LED点灯後の基板温度と照射面での相対放射照度の経時変化を示す図である。なお、LED素子自身の温度を測定することはできないため、ここではLED素子温度と相関のあるLED基板温度を用いている。
【0026】
この
図2、
図3に示すように、LED点灯後、通電により素子温度(基板温度)が上昇すると、出射光の波長は長波長化し、照射面での放射照度は低下する。この結果は、同一LED光源から出射される光が経時的に紅斑の生じにくいものになることを意味する。
つまり、同一の紫外線治療器を用いて同一照射時間で治療を行った場合であっても、LED素子温度の違いによって治療効果や副作用の出方に差異が生じる。
本実施形態では、このようなLED光源の光学特性の変動をモニタリングして、紫外線治療器の治療効果が変動しないように(所望の紫外線照射量を照射するように)紫外線照射量を補正する。ここでは、LED光学特性をモニタリングする手段としてLED基板温度を測定し、紫外線照射量を決定するパラメータである照射時間を補正することで、紫外線照射量を補正する場合について説明する。
【0027】
以下、LED光源の分光スペクトルの変動が治療に与える影響について具体的に説明する。
LED光源からの出射光は、上述したようにLED素子の温度上昇に伴い長波長化する。そのため、LED型紫外線治療器では、出射光が経時的に紅斑の生じにくい光となり、見かけの上ではあたかも照射面での放射照度が下がったように見える。そこで、照射面での放射照度に波長ごとの紅斑のできやすさを加味した指標として、「見かけの放射照度」を次式にて定義する。以降、「見かけの放射照度」を単に「見かけの照度」といい、この見かけの照度を用いて説明する。
【0028】
【0029】
上記(3)式において、E´(T)は、LED基板温度Tにおける見かけの照度である。また、E(T)はLED基板温度Tにおける実際の照射面での放射照度である。TはLED基板温度、T0はLED基板の基準温度(例えば25℃)である。さらに、ICIE(T)はLED基板温度Tの出射光に対する紅斑紫外線量、ICIE(T0)はLED基板温度T0の出射光に対する紅斑紫外線量である。また、Eλ(T,λ)はLED基板温度Tにおける分光放射照度、Ser(λ)は紅斑作用スペクトル、P(T,λ)は面積規格化した分光スペクトルである。
このように、基準温度T0での放射照度(初期放射照度)E(T0)に、LED基板温度の変動に伴う分光スペクトルの変動による紅斑作用の変動と、LED基板温度の変動による実際の放射照度の変動とを加味することで、任意の温度Tでの見かけの照度E´(T)が得られる。なお、LED基板温度の変動による実際の放射照度の変動(E(T)/E(T0)に相当)は、放射照度と相関のあるパラメータ(例えば分光スペクトルの波長積分値)からも求めることができる。
【0030】
LED光源からの出射光に波長298nm~400nmの光が含まれている場合、見かけの照度は、LED基板温度の上昇に伴い、単調減少する。そのため、このLED基板温度と見かけの照度との関係を考慮せずに、紫外線治療器において初期放射照度のみを用いて照射時間を設定すると、適正な照射量を得ることができない.
実際の治療時について考える。紫外線治療器においては、ユーザが治療器に入力した設定照射量をもとに照射時間が自動計算される。従来の紫外線治療器においては、ユーザによって入力された設定照射量を、治療器に予め設定されている放射照度(初期放射照度)の値で除算することで照射時間を算出している。
【0031】
例として、2000mJ/cm2の光照射を行う場合を考える。初期放射照度が100mW/cm2であり、放射照度が経時的に変化しない理想光源の場合、照射時間は20secとなる。しかしながら、先述の通りLED点灯後に見かけの照度は低下するため、LED点灯開始時の見かけの照度が初期放射照度である100mW/cm2であったとしても、初期放射照度から見積もった照射時間で光照射を行うと、照射量が足りず適正量の照射ができない。
【0032】
次に、設定照射量を2000mJ/cm
2として、5回連続照射する場合を考える。照射時間は先の計算から1照射あたり20secとし、照射間のインターバルは1secとする。この条件での見かけの照度の測定結果を
図4に示す。
図4において、点線の枠Aは理想光源を用いた場合の照射量(設定照射量)、実線の枠B1~B5は1回目から5回目の見かけの照射量を示している。この
図4から、LEDでは1回の光照射中で見かけの照度が経時的に低下していること、照射回数を重ねる毎にLED点灯開始時の見かけの照度が低下していることがわかる。また、設定照射量と見かけの照射量との差異(照射量誤差)は、照射回数を重ねる毎に大きくなり、複数回照射のうち照射終期で特に適正な照射ができなくなっていることがわかる。これは、LED型紫外線治療器では、照射時間が同じであっても照射毎に見かけの照射量が異なり、均一な治療効果を提供できないことを意味する。
【0033】
(補正方法1)
LED基板温度に依存して見かけの照度が変動することから、照射開始時(照射スイッチ押下時)に毎回LED基板温度を取得し、取得されたLED基板温度から見かけの照度を見積り、照射時間を補正する方法を考えた。この補正方法を「補正方法1」と呼ぶ。
図5(a)に示すように、同じ照射時間で複数回(ここでは2回)連続的に照射を行うと、2回目の照射の方がLED基板温度が高くなるため、照射開始時の見かけの照度は低くなる。そのため、2回目の見かけの照射量B2は1回目の見かけの照射量B1よりも小さくなる。
【0034】
そこで、この見かけの照度低下を加味して照射時間を補正する。具体的には、照射開始時に毎回LED基板温度を取得して、照射開始時の見かけの照度を推定し、その値を以って、
図5(b)に示すように照射時間を追加する。これにより、2回目の見かけの照射量は、照射時間の補正による加算分Cだけ増えることになり、1回目の照射量と2回目の照射量との誤差は小さくなる、即ち、照射毎の見かけの照射量のばらつきが小さくなる効果が見込まれる。
【0035】
図6(a)は、LED基板温度と見かけの照度との関係を示す図である。
図6(a)において、縦軸は見かけの照度の変化率であり、基板温度25℃で規格化している。この見かけの照度の変化率は、LED基板温度が基準温度25℃であるときの見かけの照度に対するLED基板温度Tでの見かけの照度の割合である。
本実施形態では、
図6(a)に示す見かけの照度の変化率の逆数(LED基板温度が基準温度25℃であるときの見かけの照度をLED基板温度Tでの見かけの照度で除した値)を補正係数αとし、その補正係数αを照射時間に乗じることで照射時間を補正する。
図6(b)はLED基板温度と補正係数αとの関係を示す図である。
図6(b)に示す補正係数αは、関数または行列(テーブル)として紫外線治療器に記録しておく。
【0036】
例えば、LED基板温度25℃での補正係数αは1.00、LED基板温度50℃での補正係数αは1.20である。
そのため、例えば放射照度100mW/cm2(基板温度25℃)の治療器で、設定照射量が200mJ/cm2である場合、LED基板温度が25℃であるときの照射時間は200/100×1.00=2.00sec、LED基板温度が50℃であるときの照射時間は200/100×1.20=2.40secとなる。
このように、照射開始時におけるLED基板温度に基づいて光学特性変動(見かけの照度の変動)を推定し、照射毎に照射時間が補正される。
【0037】
(補正方法2)
LED光源では、点灯後のLED基板温度上昇に伴い、見かけの照度が単調に減少する。このことから、設定照射量が大きくなると(照射時間が長くなると)、照射量誤差が大きくなると考えられる。そこで、設定照射量に応じて、照射時間を補正する方法を考えた。この補正方法を「補正方法2」と呼ぶ。
例として、初期照度100mW/cm
2の治療器において、設定照射量が200mJ/cm
2の場合と1500mJ/cm
2の場合とについて考える。概念図を
図7に示す。
図7において、点線の枠A1は設定照射量200mJ/cm
2、点線の枠A2は設定照射量1500mJ/cm
2を示している。この
図7に示すように、見かけの照度は経時的に低下する。また、設定照射量が大きくなると照射時間が長くなる。そのため、設定照射量が大きいほど照射量誤差は大きくなる。
【0038】
図8(a)は、設定照射量と見かけの照射量/設定照射量との関係を示す図である。ここで、見かけの照射量は、
図7に示す「照射時間-見かけの照度」曲線下の積分値で求められる。この
図8(a)に示すように、設定照射量が大きくなるほど、設定照射量に対する見かけの照射量の割合は小さくなる。
そこで、本実施形態では、
図8(a)に示す見かけの照射量/設定照射量の逆数を補正係数βとし、その補正係数βを照射時間に乗じることで照射時間を補正する。
図8(b)は設定照射量と補正係数βとの関係を示す図である。
図8(b)に示す補正係数βは、関数または行列(テーブル)として紫外線治療器に記録しておく。
【0039】
例えば、設定照射量200mJ/cm2での補正係数βは1.09、設定照射量1500mJ/cm2での補正係数βは1.13である。
そのため、例えば放射照度100mW/cm2(基板温度25℃)の治療器で、設定照射量200mJ/cm2としたときの照射時間は200/100×1.09=2.18sec、設定照射量1500mJ/cm2としたときの照射時間は1500/100×1.13=17.0secとなる。
このように、設定照射量毎に照射時間が補正される。
【0040】
補正方法1のみを実施した場合と、補正方法2のみを実施した場合と、補正方法1に加えて補正方法2を実施した場合とで、それぞれ補正効果を確認した。その結果を
図9(a)および
図9(b)に示す。
図9(a)は設定照射量が200mJ/cm
2の場合、
図9(b)は設定照射量が1500mJ/cm
2の場合を示している。各設定照射量において、LED基板温度が25℃の場合と50℃の場合とでそれぞれ照射時間の補正を実施し、その結果を比較した。なお、
図9(a)および
図9(b)における括弧内の数値は見かけの照射量/設定照射量である。
【0041】
補正方法1のみの実施の場合、LED基板温度が基準温度である25℃のときは、照射時間の補正は行われない。一方、LED基板温度が50℃のときは、見かけの照度の低下を補うために、照射時間が補正(追加)されている。その結果、同じ設定照射量において、温度による見かけの照射量のばらつきは低減されている。つまり、設定照射量が同じである場合、温度に依らず一定の治療効果が得られている。
しかしながら、設定照射量が200mJ/cm2の場合と1500mJ/cm2の場合とでは、照射量誤差が異なる。具体的には、設定照射量が1500mJ/cm2の場合、設定照射量が200mJ/cm2の場合よりも照射量誤差は大きくなる。このように、設定照射量毎に照射量誤差が異なるという課題は、補正方法1のみの実施では解決されない。
【0042】
一方、補正方法2のみを実施した場合、設定照射量に応じて照射時間が補正される。その結果、同じ温度条件下では、設定照射量の大きさに依らず照射量誤差はほぼ一定となる。ただし、補正方法2のみの実施では、照射開始時のLED基板温度の違いによって生じる照射量誤差の差異は補正できない。
これに対して、補正方法1と補正方法2とを組み合わせて実施した場合には、照射開始時のLED基板温度や設定照射量に依らず、いずれの場合においても、より設定照射量に近い照射量を照射できている。このように、補正方法1と補正方法2とを併せて実施することで、患者に照射すべき照射量を適切に照射することができる。
【0043】
本実施形態におけるLED型紫外線治療器を用いた場合の処理フローについて、
図10を参照しながら説明する。
なお、紫外線治療器には、例えば出荷前に予め測定された基準温度(25℃)での照射面における放射照度E[mW/cm
2]と、補正係数α、βを導出するための情報(
図6(b)、
図8(b))とが記録されているものとする。LEDを光源とした紫外線治療器は、一般に複数のLED光源(例えば5×5のLEDアレイ)を備える。上記放射照度は、複数のLED光源から放射される光の合成光の放射照度である。
【0044】
ステップS1では、紫外線治療器は、医師が患者の疾患に応じて決定し入力した設定照射量H[mJ/cm2]を取得し、ステップS2に移行する。
【0045】
ステップS2では、紫外線治療器は、ステップS1において取得された設定照射量Hをもとに
図8(b)に対応するテーブルを参照し、補正係数βを導出する。
ステップS3では、紫外線治療器は、LED基板温度Tを取得する。
ステップS4では、紫外線治療器は、ステップS3において取得されたLED基板温度Tをもとに
図6(b)に対応するテーブルを参照し、補正係数αを導出する。
【0046】
ステップS5では、紫外線治療器は、光の照射量を補正する補正値として照射時間tを算出する。具体的には、紫外線治療器は、設定照射量Hを紫外線治療器に記録されている放射照度Eで除算し、補正係数α、βをそれぞれ乗じて照射時間t[sec]を算出する。
t=H/E×α×β ………(4)
ステップS6では、紫外線治療器は、ステップS5において算出された照射時間tを紫外線治療器に設けられた表示部に表示させる表示制御を行う。
【0047】
ステップS7では、医師、場合によっては看護師などの医療従事者により紫外線治療器に設けられたスイッチが押されたことを以ってLEDの点灯を開始する。
ステップS8では、紫外線治療器は、照射時間のカウントを開始する。
ステップS9では、紫外線治療器は、残りの照射時間が0になったか否かを判定する。そして、紫外線治療器は、残りの照射時間が0ではないと判定した場合にはそのままLEDの点灯を継続し、残りの照射時間が0になったと判定すると、ステップS10に移行してLEDを消灯する。このようにして、照射時間t秒の治療処置を実施する。
【0048】
このように、医師が入力した設定照射量H[mJ/cm2]と、照射開始時におけるLED基板温度T[℃]とに基づいて、LED光源の光学特性の変動を考慮した適切な照射時間tを算出することができる。
本治療器によって算出された照射時間tで処置することで、照射毎に治療効果や副作用の出方が異なったり、設定照射量が照射されずに十分な治療効果が得られなかったりすることを抑制することができる。
【0049】
図11は、本実施形態における紫外線治療器1の構成例を示すブロック図である。
紫外線治療器1は、紫外線を含む光を放射するLED光源を有する治療具(光源部)2と、治療具2が有するLED光源を制御する本体部4と、を備える。
治療具2は、LED基板温度を検出する検出部21を備える。検出部21は、例えばサーミスタや熱電対などの測温プローブをLED基板に実装した構成を有する。
本体部4は、入力部41と、表示部42と、記録部43と、電源ユニット44と、制御ユニット(制御部)45と、LED駆動ユニット46と、を備える。治療具2と本体部4とは接続線6により接続されており、当該接続線6は、太線で示す電源線6aと、細線で示す信号線6bとを備える。
【0050】
入力部41は、操作者(例えば医師)により入力された設定照射量Hを取得し、その情報を制御ユニット45に出力する。
表示部42は、紫外線の放射照度や照射時間、紫外線照射中の経過時間などを表示することができる。また、表示部42は、紫外線治療器1において何らかの異常が発生した場合には、異常が発生していることを示す情報(エラーメッセージなど)を表示することもできる。
記録部43は、紫外線治療器1の照射面における放射照度Eと、補正係数α、βを導出するための情報とを記録する。
【0051】
電源ユニット44は、外部電源8から供給された電力を、後段の各ユニットに適切な電圧に変換し、供給する。
制御ユニット45は、検出部21により検出されたLED基板温度Tや、入力部41に入力された設定照射量Hを取得し、これらをもとに補正係数α、βを導出する。また、制御ユニット45は、設定照射量Hを記録部43に記録された放射照度Eで除算することで得られる照射時間を、補正係数α、βを用いて補正して、補正後の照射時間tを算出する。そして、制御ユニット45は、LED駆動ユニット46を制御し、治療具2が有するLED光源の照射量(照射時間t)を制御する。つまり、制御ユニット45は、照射量を補正する補正値(ここでは照射時間)を算出する算出部と、算出された補正値に基づいてLED光源を点灯させる点灯制御部と、を有する。
LED駆動ユニット46は、制御ユニット45からの制御信号に従い、LED光源に給電を行う。
【0052】
以下、操作者が本実施形態の紫外線治療器1を用いて患部に紫外線を照射する手順について説明する。
まず、操作者は、入力部41を操作して、患部に照射する紫外線の照射量(設定照射量H)を入力する。
次に操作者は、治療具2を持ち、LED光源からの光を放射する光放射面を患部に当接もしくは近接させる。そして、操作者は、治療具2に設けられたスイッチ(不図示)を押す。すると、紫外線治療器1において、LED基板温度Tが検出され、LED基板温度Tと設定照射量Hとに応じた紫外線の照射時間tが算出される。算出された照射時間tは表示部42に表示され、続いてLED光源が点灯し、患部への紫外線照射が開始される。
その後、照射時間が算出された照射時間tに達すると、自動的にLED光源が消灯する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態における紫外線治療器1は、紫外線を含む光を出射するLED光源を有する治療具2と、当該LED光源の点灯を制御する制御ユニット(制御部)44と、LED基板温度を検出することでLED光源の基準温度からの温度変化を検出する検出部21と、を備える。そして、制御ユニット45は、LED光源の温度変化(LED基板温度変化)に伴う光の分光スペクトルの変動による人体への影響度の変動に基づいて、光の照射量を補正する補正値を算出し、算出された補正値に基づいてLED光源を点灯させる。ここで、上記補正値は、光の照射量を決定するパラメータである光の照射時間とすることができる。
【0054】
具体的には、紫外線治療器1は、光の照射面での放射照度に波長ごとの紅斑作用を加味した見かけの照度に関する第1の情報を記録する記録部43を備える。この第1の情報は、LED光源の温度と相関のあるパラメータと見かけの照度との関係を示す情報であり、例えば
図6(b)に示すように、LED基板温度と補正係数α(第1の補正係数)とを対応付けた情報とすることができる。ここで、補正係数αは、
図6(a)に示す見かけの照度の変化率の逆数であり、基準温度(25℃)での見かけの照度を検出温度での見かけの照度で除した値である。
制御ユニット45は、LED基板温度から第1の情報をもとに補正係数αを導出し、基準温度における光の照射量を決定するパラメータ(基準温度での照射時間H/E)に、補正係数αを乗じることで、照射時間を補正する(補正方法1)。
【0055】
また、記録部43は、LED光源点灯中の見かけの放射照度の変化から導出される見かけの照射量に関する第2の情報を記録することもできる。この第2の情報は、患者に照射すべき設定照射量と、当該設定照射量に対する見かけの照射量の割合との関係を示す情報であり、例えば
図8(b)に示すように、設定照射量と補正係数β(第2の補正係数)とを対応付けた情報とすることができる。ここで、補正係数βは、
図8(a)に示す設定照射量に対する見かけの照射量の割合の逆数である。
制御ユニット45は、入力された設定照射量から第2の情報をもとに補正係数βを導出し、光の照射量を決定するパラメータ(本実施形態では、LED基板温度による補正後の照射時間H/E×α)に、補正係数βを乗じることで、照射時間を補正する(補正方法2)。
そして、制御ユニット45は、補正後の照射時間tでLED光源を点灯させる。
【0056】
つまり、本実施形態における紫外線治療器1の紫外線照射方法は、LED光源の基準温度からの温度変化を検出する第一の工程と、LED光源の温度変化に伴う光の分光スペクトルの変動による人体への影響度の変動に基づいて、光の照射量を補正する補正値を算出する第二の工程と、算出された補正値に基づいてLED光源を点灯させる第三の工程と、を含む。
【0057】
このように、LED光源の温度変化をモニタリングし、LED光源の温度変化に伴う分光スペクトルの変動による紅斑の生じやすさの変動を考慮して光の照射量を補正する。つまり、LED光源の温度変化に伴う実際の放射照度変動だけでなく、波長シフトによる影響も考慮して補正を行う。上述したように、紫外線治療器においては、放射光における波長1nmのずれが治療効果に大きな影響を与える。本実施形態における紫外線治療器1によれば、同一治療器において、LED光源の温度に依らずに安定した治療効果を得ることができる。
【0058】
本実施形態における紫外線治療器1は、光源としてLEDを用いた小型の治療器である。そのため、広範囲の患部に対して治療を行いたい場合には、1回の光照射では治療光を当てきれず、照射位置を変えて複数回の光照射を行うことになる。この場合、照射毎に治療効果を同じにしないと、治療むらができてしまう。
上述したように、補正方法1を適用し、LED素子温度を加味した補正を行うことで、複数回の連続照射によりLED素子温度が変化した場合であっても、設定照射量が同じであれば同じ照射量で照射することができる。そのため、照射毎に同じ治療効果が得られる。また、複数回の光照射を行う場合、毎回同じ治療効果を得るために、都度、LED素子温度が基準温度まで下がるのを待ってから光照射を開始するといった使い方をする必要がなく、時間的効率が良い。
【0059】
一方で、皮膚疾患の程度には個人差があり、1回の光照射における照射量(設定照射量)はそれぞれ異なる。LED素子温度は1回の照射中に徐々に上昇し、見かけの照度が低下するため、照射時間が長くなるほど照射量誤差は大きくなる。そのため、照射開始時のLED素子温度に応じて上記の補正方法1による補正を行っただけでは、適切な治療効果が得られない。
上述したように、補正方法2を適用し、設定照射量毎に照射時間を補正することで、設定照射量の大きさに依らず、照射量誤差を一定にすることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態では、照射開始時のLED素子温度による照射時間補正と、設定照射量による照射時間補正とを併せて行うことで、温度条件や照射量の設定条件が異なる場合であっても、同一治療器において常に安定した治療効果を提供することができる。
【0061】
(変形例)
上記実施形態においては、検出部21においてLED基板温度を検出することで、LED光源の基準温度からの温度変化を検出する場合について説明した。
しかしながら、LED光源の光学特性変動をモニタリングするためには、LED素子温度と相関のあるパラメータを検出できればよく、例えばLED基板温度に替えて、LEDの順方向電圧Vfを検出してもよい。LED素子温度とLEDの順方向電圧Vfとには相関があり、LED素子温度が上昇するとLEDの順方向電圧Vfは低下する。したがって、LEDの順方向電圧Vfを検出することでも、光学特性変動をモニタリングすることができる。
また、LED基板温度に替えて、LED光源から放射される光の特性を測定してもよい。光の特性には、分光スペクトル、放射照度、LEDの放射束などがある。この場合、LED光源から放射される光の放射照度やピーク波長の変動を直接モニタリングすることができる。
【0062】
さらに、上記実施形態においては、LED光源の光学特性変動に起因する治療効果の変動を抑制するために、光の照射時間を補正する場合について説明した。
しかしながら、光の照射量を補正するためのパラメータは照射時間に限定されるものではなく、例えばLED光源の入力電流(順方向電流If)を補正するようにしてもよい。
また、LED光源の光学特性変動に起因する治療効果の変動を抑制するために、LED基板温度を制御するための温度制御部を設けてもよい。例えば、温度制御部は、回転数が可変のファンやペルチェ素子などを含んで構成することができる。この場合、補正値として温度調整量を算出し、算出された温度調整量をもとに、温度制御部によりLED基板温度を制御する。
【0063】
また、上記実施形態においては、紫外線治療器1の記録部43に
図6(b)や
図8(b)に示す情報を記録し、制御ユニット45は、LED基板温度Tや設定照射量Hをもとに直接補正係数α、βを導出する場合について説明した。しかしながら、記録部43には、補正方法1で用いる見かけの照度に関する情報(第1の情報)と、補正方法2で用いる見かけの照射量に関する情報(第2の情報)とが記録されていればよく、第1の情報および第2の情報は
図6(b)や
図8(b)に示す情報に限定されない。
例えば、記録部43には、
図6(a)や
図8(a)に示す情報が記録されていてもよい。この場合、制御ユニット45は、LED基板温度Tをもとに、
図6(a)に示す情報から見かけの照度の変化率を導出し、その逆数を補正係数αとして算出する。また、制御ユニット45は、設定照射量Hをもとに、
図8(a)に示す情報から見かけの照射量/設定照射量を導出し、その逆数を補正係数βとして算出する。
【0064】
また、記録部43には、見かけの照度に関する情報(第1の情報)として、見かけの照度の算出に必要なパラメータ(基準温度での分光スペクトル、紅斑作用スペクトル)が記録されていてもよい。この場合、制御ユニット45は、上記(3)式をもとに、記録部43に記録されたパラメータと、LED基板温度Tでの分光スペクトルとに基づいて、LED基板温度Tにおける見かけの照度E´(T)を算出する。そして、制御ユニット45は、設定照射量Hを見かけの照度E´(T)で除算して、照射時間tを算出する。これにより、補正係数αを用いた場合と同じ照射時間(H/E×α)を得ることができる。
【0065】
さらに、記録部43には、見かけの照射量に関する情報(第2の情報)として、例えば
図7に示すような照射時間と見かけの照度との関係を示す情報が記録されていてもよい。この場合、制御ユニット45は、入力された設定照射量と記録部43に記録された情報をもとに見かけの照射量を算出し、補正係数β(設定照射量/見かけの照射量)を算出する。
【0066】
さらにまた、上記実施形態においては、照射開始時にのみLED基板温度を検出し、補正方法1と補正方法2とを併用して照射量を補正する場合について説明したが、照射中のLED基板温度を検出し、補正方法1によりリアルタイムで照射量を補正することもできる。この場合、補正方法2は不要となる。
また、照射量誤差が許容できる程度に設定照射量が小さい場合に、補正方法2を省略してもよい。
【0067】
さらに、上記実施形態においては、波長308nmの光を治療光とする場合について説明したが、治療光の波長は疾患に応じて任意に設定することができる。
本発明の紫外線治療器においては、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
【0068】
1…紫外線治療器、2…治療具、21…検出部、4…本体部、41…入力部、42…表示部、43…記録部、44…電源ユニット、45…制御ユニット、46…LED駆動ユニット