IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京医科大学の特許一覧

特許7125106MuRF-1発現抑制剤、およびミオパチー治療薬
<>
  • 特許-MuRF-1発現抑制剤、およびミオパチー治療薬 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】MuRF-1発現抑制剤、およびミオパチー治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/546 20060101AFI20220817BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
A61K31/546
A61P21/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018151622
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020026402
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】林 由起子
(72)【発明者】
【氏名】川原 玄理
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216671(JP,A)
【文献】特表2012-514655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0023488(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0310340(US,A1)
【文献】国際公開第2016/061509(WO,A1)
【文献】The Journal of Medical Investigation, 2009, Vol.56, pp.26-32
【文献】有機合成化学, 1979, Vol.37, No.7, pp.606-611
【文献】川原玄理, ,ゼブラフィッシュを用いたMuRFの発現機構解析と筋萎縮治療薬の探索,科学研究費助成事業 研究成果報告書, 2016, [retrieved on 2022.01.26], retrieved from the internet: <URL; https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K14341/15K14341seika.pdf>,https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K14341/15K14341seika.pdf
【文献】J. Pharmacol. Exp. Ther., 2015, Vol.352, pp.23-32,http://dx.doi.org/10.1124/jpet.114.216879
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の式で表される化合物、その立体異性体もしくは互変異性体、またはそれらの塩もしくは水和物を含むことを特徴とする、MuRF-1発現抑制剤。
【化1】
前記式(1)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、
が、水素原子、またはアルカリ金属である
【請求項2】
前記式(1)が、下記式(1-1)である、請求項1記載のMuRF-1発現抑制剤。
【化5】
【請求項3】
添加対象に、請求項1または2に記載のMuRF-1発現抑制剤を添加し、前記添加対象が、ヒトを除く非ヒト動物であることを特徴とする、MuRF-1発現抑制方法。
【請求項4】
添加対象に、請求項1または2に記載のMuRF-1発現抑制剤を添加し、前記MuRF-1発現抑制剤を、in vitroで添加することを特徴とする、MuRF-1発現抑制方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のMuRF-1発現抑制剤を含むことを特徴とする、ミオパチー治療薬。
【請求項6】
対象となるミオパチーが、ステロイドミオパチーである、請求項記載のミオパチー治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MuRF-1発現抑制剤、およびミオパチー治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
グルココルチコイド等のステロイドは、免疫や炎症を抑制する目的で、自己免疫疾患をはじめとする幅広い疾患に使用されている。その一方、ステロイド投与によって、様々な副作用も生じている。副作用の1つであるステロイドミオパチーは、グルココルチコイド療法によって引き起こされる、進行性の筋力低下・筋萎縮である。ステロイドミオパチーは、筋特異的ユビキチンリガーゼであるMuRF-1(Muscle Specific RING-Finger Protein-1)等の発現上昇により、筋タンパク質の分解が亢進されることが一因として知られている(非特許文献1および2)。
【0003】
現在、ステロイドミオパチーに対する処置は、グルココルチコイドの減量または投与の中止のみである。しかしながら、グルココルチロイド療法の対象となっている自己免疫疾患の疾患活動性によっては、グルココルチロイドの減量または投与の中止が困難な場合も多い。このため、グルココルチロイドの使用を継続する場合には、リハビリテーションによって筋萎縮を予防するしか対応策がないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sue C. Bodine et.al.,”Identification of Ubiquitin Ligases Required for Skeletal Muscle Atrophy”, SCIENCE, 2001, VOL294, pages 1704-1708
【文献】O Schakman et.al.,” Mechanisms of glucocorticoid-induced myopathy”, Journal of Endocrinology, 2008, 197, pages 1-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、ステロイドミオパチーをはじめとするミオパチーの治療に使用可能な新たな薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のMuRF-1発現抑制剤は、
下記式(1)、(2)、(3)、および(4)からなる群から選択された少なくとも一つの式で表される化合物、その立体異性体もしくは互変異性体、またはそれらの塩もしくは水和物を含むことを特徴とする。
【化1】
前記式(1)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、
が、水素原子、ハロゲン原子、またはアルカリ金属である。
【化2】
前記式(2)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、
は、水素原子またはハロゲン原子である。
【化3】
前記式(3)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基である。
【化4】
前記式(4)中、
~Rは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基である。
【0007】
本発明のMuRF-1発現抑制方法は、添加対象に、前記本発明のMuRF-1発現抑制剤を添加することを特徴とする。
【0008】
本発明のミオパチー治療薬は、前記本発明のMuRF-1発現抑制剤を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のミオパチー治療方法は、添加投象に、前記本発明のミオパチー治療薬を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、MuRF-1の発現を抑制できる。このため、本発明は、MuRF-1の発現が関与する様々な疾患の治療に有用であり、特に、ステロイドミオパチーをはじめとするミオパチーの治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1におけるMuRF-1の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のMurf-1発現抑制剤は、例えば、前記式(1)が、下記式(1-1)である。
【化5】
【0013】
本発明のMurf-1発現抑制剤は、例えば、前記式(2)が、下記式(2-1)である。
【化6】
【0014】
本発明のMurf-1発現抑制剤は、例えば、前記式(3)が、下記式(3-1)である。
【化7】
【0015】
本発明のMurf-1発現抑制剤は、例えば、前記式(4)が、下記式(4-1)である。
【化8】
【0016】
本発明のMuRF-1発現抑制方法は、例えば、前記添加対象が、ヒトを除く非ヒト動物である。
【0017】
本発明のMuRF-1発現抑制方法は、例えば、前記添加対象に、in vitroで添加する。
【0018】
(MuRF-1発現抑制剤)
本発明の発現抑制剤は、前述のように、下記式(1)、(2)、(3)、および(4)からなる群から選択された少なくとも一つの式で表される化合物、その立体異性体もしくは互変異性体、またはそれらの塩もしくは水和物(以下、「本発明の化合物」ともいう)を含むことを特徴とする。
【化1】
前記式(1)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、
が、水素原子、ハロゲン原子、またはアルカリ金属である。
【化2】
前記式(2)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、
は、水素原子またはハロゲン原子である。
【化3】
前記式(3)中、
およびRは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基である。
【化4】
前記式(4)中、
~Rは、それぞれ同一でも異なってもよく、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基である。
【0019】
本発明において、前記アルキル基は、例えば、その一つ以上の水素原子が任意の置換基に置換されていてもよい。前記アルキル基における置換基としては、特に制限されず、例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、カルバモイル基等があげられる。
【0020】
前記式(1)において、RおよびRの組み合わせは、特に制限されず、例えば、Rがメチル基であり、Rが水素原子である。前記式(1)において、Xは、水素原子(H)、ハロゲン原子、またはアルカリ金属である。前記ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)等があげられる。前記アルカリ金属は、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等があげられ、好ましくはナトリウムである。前記式(1)で表される化合物(以下、「化合物#1」という)は、例えば、下記式(1-1)で表される化合物(以下、「化合物#1-1」という)でもよい。化合物#1-1は、例えば、セファロチンナトリウム塩である。
【化5】
【0021】
前記式(2)において、RおよびRの組み合わせは、特に制限されず、例えば、Rがメチル基であり、Rが水素原子である。前記式(2)において、Xは、水素原子(H)またはハロゲン原子である。前記ハロゲン原子は、例えば、前述と同様であり、Xは、例えば、塩素原子である。前記式(2)で表される化合物(以下、「化合物#2」という)は、例えば、下記式(2-1)で表される化合物(以下、「化合物#2-1」という)でもよい。化合物#2-1は、例えば、クアジノンである。
【化6】
【0022】
前記式(3)において、RおよびRの組み合わせは、特に制限されず、例えば、RおよびRの両方が水素原子である。前記式(3)で表される化合物(以下、「化合物#3」という)は、例えば、下記式(3-1)で表される化合物(以下、「化合物#3-1」という)でもよい。化合物#3-1は、例えば、水和物であり、具体的には、7,8-ジヒドロキシフラボン水和物である。
【化7】
【0023】
前記式(4)において、R~Rの組み合わせは、特に制限されず、例えば、Rがメチル基であり、RおよびRの両方が水素原子である。前記式(4)で表される化合物(以下、「化合物#4」という)は、例えば、下記式(4-1)で表される化合物(以下、「化合物#4-1」という)でもよい。化合物#4-1は、例えば、水和物であり、具体的には、二塩酸塩水和物である。化合物#4-1は、例えば、(2R,3R)-N-[(2-メトキシフェニル)メチル]-2-フェニル-3-ピペリジンアミン二塩酸塩水和物であり、CP-100263二塩酸塩水和物ともいう。
【化8】
【0024】
本発明のMuRF-1発現抑制剤によれば、前記本発明の化合物によりMuRF-1の発現を抑制できるため、例えば、MuRF-1の発現に関連する疾患、特にMuRF-1の発現上昇に関連する疾患の治療に使用できる。MuRF-1の発現上昇は、筋萎縮への関与が知られているため、前記疾患としては、例えば、筋萎縮があげられ、具体的には、ステロイドミオパチー等をはじめとするミオパチーがあげられる。
【0025】
本発明の発現抑制剤は、前記本発明の化合物を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の発現抑制剤は、例えば、前記本発明の化合物のうちいずれか一種類を含んでもよいし、二種類以上を含んでもよい。
【0026】
本発明の発現抑制剤は、例えば、研究用試薬として使用することもでき、医薬品として使用することもできる。本発明の発現抑制剤は、例えば、添加対象に対して、in vivoで使用してもよいし、in vitroで使用してもよい。
【0027】
本発明の発現抑制剤は、例えば、生体に添加して使用できる。添加対象の生体は、特に制限されず、例えば、動物であり、前記動物は、例えば、ヒト、または、ヒトを除く非ヒト動物があげられる。前記非ヒト動物は、例えば、ゼブラフィッシュ等の魚類、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ネコ、ヤギ、サル、およびモルモット等の非ヒト哺乳動物等があげられる。また、本発明の発現抑制剤の添加対象は、生体以外に、例えば、細胞、組織、器官等があげられ、それらの由来は、特に制限されず、前述のような動物である。前記細胞は、例えば、前記生体から採取した細胞、培養細胞等があげられる。
【0028】
本発明の発現抑制剤の添加条件は、特に制限されず、例えば、添加対象の種類、添加目的等に応じて、適宜設定できる。また、本発明の発現抑制剤において、前記化合物の含有量は、特に制限されず、例えば、前記添加条件に応じて適宜設定できる。
【0029】
本発明の発現抑制剤を生体に添加(投与ともいう)する場合、すなわち、in vivoで使用する場合、その投与形態は、特に制限されない。前記投与形態は、例えば、経口投与でもよいし、非経口投与でもよい。前記非経口投与は、例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、腹腔内投与、および局所投与等があげられる。また、本発明の発現抑制剤の生体への投与量は、特に制限されず、例えば、生体の種類、症状、年齢、投与方法、投与目的等により適宜決定できる。
【0030】
具体例として、本発明の発現抑制剤をヒトに投与する場合、1日あたりの前記本発明の化合物の投与量合計は、例えば、1~6gであり、1日あたりの投与回数は、例えば、1~6回、である。前記投与量合計は、例えば、一種類の前記化合物の量でもよいし、二種類以上の前記化合物の量でもよい。前記化合物#1、化合物#2、化合物#3または化合物#4を単独で使用する場合、および、これらを二種類以上併用する場合も、例えば、前記投与量合計および投与回数の例示が援用できる。
【0031】
また、具体例として、本発明の発現抑制剤を、魚(例えば、ゼブラフィッシュ)の胚に投与する場合、例えば、飼育に使用する飼育水に、前記発現抑制剤を含有させ、その中に胚をいれることで、投与できる。この場合、胚1匹あたりの前記飼育水に含まれる前記化合物の濃度は、例えば、5~15μmol/L、7~13mol/L、10μmol/Lである。前記濃度は、例えば、一種類の前記化合物の濃度でもよいし、二種類以上の前記化合物の濃度でもよい。前記化合物#1、化合物#2、化合物#3または化合物#4を単独で使用する場合、これらを二種類以上併用する場合も、例えば、前記濃度が適用できる。
【0032】
本発明の発現抑制剤の剤型は、特に制限されず、例えば、前記添加形態に応じて適宜決定できる。前記剤型は、例えば、液体状、および固体状があげられる。経口投与の場合、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、および懸濁剤等があげられる。非経口投与の場合、前記剤型は、例えば、注射用製剤、および点滴用製剤等があげられる。経皮投与の場合、前記剤型は、例えば、貼付剤、塗布剤、軟膏、クリーム、およびローション等の外用薬があげられる。
【0033】
本発明の発現抑制剤は、例えば、必要に応じて、添加剤を含んでもよく、本発明の発現抑制剤を医薬として使用する場合、前記添加剤は、薬学上許容される添加剤が好ましい。前記添加剤は、特に制限されず、例えば、基剤原料、賦形剤、着色剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、保存剤、および、香料等の矯味矯臭剤等があげられる。本発明において、前記添加剤の配合量は、前記発現抑制剤の機能を妨げるものでなければ、特に制限されない。
【0034】
前記賦形剤は、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、およびソルビトール等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、αデンプン、およびデキストリン等のデンプン誘導体;結晶セルロース等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン等の有機系賦形剤;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、およびメタ珪酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩誘導体;リン酸水素カルシウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム等の硫酸塩等の無機系賦形剤があげられる。前記滑沢剤は、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;タルク;ポリエチレングリコール;シリカ;硬化植物油等があげられる。前記矯味矯臭剤は、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、および桂皮末等の香料、甘味料、ならびに酸味料等があげられる。前記結合剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびマクロゴール等があげられる。前記崩壊剤は、例えば、カルボキシメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウムおよび架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾デンプン、ならびに化学修飾セルロース類等があげられる。前記安定化剤は、例えば、メチルパラベン、およびプロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、およびフェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、およびクレゾール等のフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;ソルビン酸等があげられる。
【0035】
(MuRF-1発現抑制方法)
本発明のMuRF-1発現抑制方法は、前述のように、添加対象に、本発明のMuRF-1発現抑制剤を添加することを特徴とする。本発明は、前記本発明の発現抑制剤を添加することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の発現抑制剤は、前述の通りである。本発明の発現抑制方法における発現抑制剤の添加条件、添加対象等は、特に制限されず、例えば、本発明の発現抑制剤における記載と同様である。
【0036】
(ミオパチー治療薬)
本発明のミオパチー治療薬は、前述のように、本発明の発現抑制剤を含むことを特徴とする。本発明のミオパチー治療薬は、前記本発明の発現抑制剤を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明のミオパチー治療薬は、前記本発明の発現抑制剤等の記載を援用できる。
【0037】
本発明において、治療とは、ミオパチーの予防、治療、または予後の改善の意味を含む(以下、同様)。本発明のミオパチー治療薬は、例えば、ミオパチーの予防剤、治療剤または改善剤ということもできる。
【0038】
本発明において、治療の対象となるミオパチーは、特に制限されず、例えば、ステロイドミオパチーがあげられる(以下同様)。
【0039】
(ミオパチーの治療方法)
本発明のミオパチーの治療方法は、添加対象に、前記本発明の発現抑制剤を添加することを特徴とする。本発明のミオパチーの治療方法は、前記本発明の発現抑制剤を添加することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の発現抑制剤は、前述の通りである。本発明のミオパチー治療方法における前記本発明の発現抑制剤の添加条件および添加対象等は、特に制限されず、例えば、本発明の発現抑制剤における記載と同様である。
【0040】
(化合物の使用)
本発明は、MuRF-1発現抑制のための前記本発明の化合物の使用である。前記本発明の化合物は、前述のように、前記式(1)、(2)、(3)、および(4)からなる群から選択される少なくとも一つの式で表される化合物、その立体異性体もしくは互変異性体、またはそれらの塩もしくは水和物である。
【実施例
【0041】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0042】
[実施例1]
前記化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1が、MuRF-1の発現抑制効果を奏することを確認した。
【0043】
まず、飼育水を調製した。前記飼育水は、デキサメタゾンを未添加とし、評価薬剤を水に添加した飼育水(Dex)と、デキサメタゾン(Sigma社製)および評価薬剤を水に添加した飼育水(Dex)とを調製した。前記評価薬剤は、前記化合物#1-1(セファロチンナトリウム塩、Sigma-Aldrich社製)、前記化合物#2-1(クアジノン、Focus Biomolecules社製)、前記化合物#3-1(7,8-ジヒドロキシフラボン水和物、Sigma-Aldrich社製)、前記化合物#4-1(CP-100263二塩酸塩水和物、Sigma-Aldrich社製)を使用した。前記飼育水(Dex)および前記飼育水(Dex)において、前記評価薬剤の最終濃度は、10μmol/Lとし、前記飼育水(Dex)において、デキサメタゾンの最終濃度は、200μmol/Lとした。そして、前記飼育水を、それぞれ96穴プレートのウェルに分注し、前記ウェルに、野生型ゼブラフィッシュ(Danio rerio)の受精後4日目の胚を一匹入れ、25℃で24時間飼育した。また、ポジティブコントロールとして、前記飼育水に代えて、デキサメタゾンおよび評価薬剤のいずれも未添加の水(Non)を使用し、また、ネガティブコントロールとして、前記飼育水に代えて、同じ最終濃度となるようにデキサメタゾンを水に添加したデキサメタゾン水(Dex)を使用し、それぞれ、同様にゼブラフィッシュの飼育を行った。
【0044】
前記24時間の飼育後、前記各飼育水で飼育したゼブラフィッシュについて、それぞれRNAを抽出した。そして、前記RNAから逆転写によりcDNAを合成し、前記cDNAを鋳型とする定量PCRにより、MuRF-1遺伝子の発現量を測定した。この際、内部標準として、Elongation Factor-1α(EF1 alpha)遺伝子の発現量も、あわせて測定し、EF1 alpha遺伝子の発現量に対するMurf-1遺伝子の発現量の比を算出し、これをMurf-1遺伝子の補正発現量とした。そして、前記ポジティブコントロール(Non)のMurf-1遺伝子の補正発現量を1として、それぞれのゼブラフィッシュの補正発現量の相対値を求めた。
【0045】
これらの結果を、図1(A)および図1(B)に示す。図1(A)は、前記評価薬剤のみを添加した飼育水(Dex)を使用した場合におけるゼブラフィッシュのMuRF-1発現量を示すグラフであり、図1(B)は、前記評価薬剤とデキサメタゾンとを添加した飼育水(Dex)を使用した場合におけるゼブラフィッシュのMuRF-1発現量を示すグラフである。図1(A)および図1(B)において、「Non」は、水を用いたポジティブコントロールであり、図1(B)において、「Dex」は、デキサメタゾン水を用いたネガティブコントロールである。図1において、縦軸は、MuRF-1遺伝子の発現量の相対値を示す。
【0046】
図1(A)に示すように、化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1の評価薬剤を添加した飼育水(Dex)を使用した結果、ゼブラフィッシュのMuRF-1遺伝子の発現量は、ポジティブコントロール(Non)の発現量よりも抑制された。この結果から、化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1が、それぞれ、MuRF-1発現抑制能を示すことが確認された。このため、化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1によれば、MuRF-1遺伝子の発現増加が原因となる種々の疾患に有効であるといえる。
【0047】
また、図1(B)に示すように、ミオパチー発症の原因であるデキサメタゾンの存在下でゼブラフィッシュを飼育した場合、ネガティブコントロール(Dex)において、ポジティブコントロール(Non)と比較して、著しいMuRF-1遺伝子の発現量の増加が確認された。これは、ステロイドであるデキサメタゾンの影響により、ミオパチーの原因となるMuRF-1遺伝子の発現量が増加したことを意味する。これに対して、デキサメタゾンと化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1との共存下でゼブラフィッシュを飼育した場合、化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1のいずれを含む飼育水(Dex)によっても、ネガティブコントロール(Dex)と比較して、MuRF-1遺伝子の発現量を抑制できた。中でも、化合物#1-1および#3-1は、MuRF-1遺伝子の発現量をより効果的に抑制できた。このように、化合物#1-1、化合物#2-1、化合物#3-1および化合物#4-1によれば、デキサメタゾン等のステロイド投与で生じるMuRF-1遺伝子の発現の増加を抑制できることから、これらの化合物は、ステロイドミオパチー等のミオパチーの防止、抑制、治療に有効であるといえる。
【0048】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明によれば、前記式(1)、(2)、(3)、および(4)からなる群から選択された少なくとも一つの式で表される化合物を含むことにより、MuRF-1の発現を抑制できる。このため、本発明は、MuRF-1の発現が関与する様々な疾患の治療に有用であり、特に、ステロイドミオパチーをはじめとするミオパチーの治療に有用である。したがって、本発明は、医薬の分野等において、極めて有用といえる。
図1