(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ブロック共重合体、リン酸化合物検出剤及びリン酸化合物の検出方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20220817BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20220817BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
C08G61/12
G01N21/78 C
C12M1/34 Z
(21)【出願番号】P 2018156672
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 裕子
(72)【発明者】
【氏名】陸川 政弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翼
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-158425(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015411(WO,A1)
【文献】特表2005-520668(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106947065(CN,A)
【文献】日本化学会第97春季年会予稿集,公益社団法人 日本化学会,2017年03月03日,1 A2-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/12
G01N 21/78
C12M 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
R
1~R
6
は、それぞれ独立して、-Y-R
11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR
12R
13、-OR
12、-SR
12、-COR
12、-SO
2R
12、-NR
13COR
12、-CONR
12R
13、-OCOR
12、-COOR
12、-NR
13CSR
12、-CSNR
12R
13、-SCOR
12、又は-COSR
12を示し、
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立して、-Y-R
11であり、
Yは、主鎖の原子数が1~30個のスペーサー構造を示し、
R
11は、カチオン性窒素含有基、又はカチオン性リン含有基を示し、
R
12は、炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
R
13は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
nは、2~100を示し、
n個のモノマー単位は、それぞれ、同一又は異なっている。)
で表されるブロック単位と、
式(II):
【化2】
(式中、
R
9及びR
10は、それぞれ独立して、-Y-R
11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR
12R
13、-OR
12、-SR
12、-COR
12、-SO
2R
12、-NR
13COR
12、-CONR
12R
13、-OCOR
12、-COOR
12、-NR
13CSR
12、-CSNR
12R
13、-SCOR
12、又は-COSR
12を示し、R
9及びR
10のうち少なくとも一方が、-Y-R
11であり、
Xは、S、O、又はNR
14を示し、
Y、R
11、R
12及びR
13は、式(I)と同様であり、
R
14は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
mは、2~100を示し、
m個のモノマー単位は、それぞれ、同一又は異なっている。)
で表されるブロック単位と、を含むブロック共重合体。
【請求項2】
n/mが3以下であることを特徴とする請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
nが15以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のブロック共重合体。
【請求項4】
mが8以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のブロック共重合体。
【請求項5】
式(I)で表されるブロック単位と、式(II)で表されるブロック単位が直接結合していることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のブロック共重合体。
【請求項6】
R
1~R
6が、水素原子であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のブロック共重合体。
【請求項7】
R
9及びR
10の一方が、-Y-R
11であり、他方が、水素原子であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のブロック共重合体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のブロック共重合体を含むリン酸化合物検出剤。
【請求項9】
リン酸化合物を含む溶液中の請求項1~
7のいずれか1項に記載のブロック共重合体の蛍光スペクトル又は紫外-可視光吸収スペクトルを測定すること、それにより得られる蛍光強度又は紫外-可視光吸収スペクトルの波形若しくは吸光度により上記リン酸化合物を検出することを含むリン酸化合物の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレンブロック単位と5員複素環ブロック単位を含むブロック共重合体、それを含むリン酸化合物検出剤、及びそれらを利用するリン酸化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内にはATPやDNA等の多くのリン酸化合物が存在しており、リン酸化合物の検出は、医療分野ばかりではなく工業分野においても必要とされている。工業分野では、特に、微生物の生産するリン酸化合物、あるいは微生物の栄養源となるリン酸化合物などを計測する検出技術が求められている。
【0003】
これまでに、ATPaseによるATPの脱リン酸化後の電位変化、及びATP存在下における特定化合物の吸収波長変化からATPの検出を行う技術が報告されている(引用文献1及び2)。しかし、前者は、直接的な検出ではないという点、後者は、吸収波長変化が小さいという点が欠点となっていた。
【0004】
一方で、アニオン性のリン酸化合物を静電気的相互作用により吸着する性質を有するカチオン性のホスホニウム基を伴うチオフェン重合体が、DNA等の検出剤として有用であることが報告されている。ここでは、チオフェン重合体が強い自己組織性を示すことから、その凝集性の変化を利用することでDNAの認識を行っている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-131096号公報
【文献】特表2013-533903号公報
【文献】特開2015-158425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、リン酸化合物の検出に有用な新規ブロック共重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため、優れた発光特性を示すフルオレンブロック単位と強い自己組織性を示す5員複素環ブロック単位からなるブロック共重合体において、フルオレンブロック単位と5員複素環ブロック単位の両方にカチオン性の置換基を導入し、得られたブロック共重合体のリン酸化合物の分子認識能を分光特性等の観点から評価した結果、分光特性の変化により溶液中のリン酸化合物の検出が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 式(I):
【0009】
【0010】
(式中、
R1~R8は、それぞれ独立して、-Y-R11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR12R13、-OR12、-SR12、-COR12、-SO2R12、-NR13COR12、-CONR12R13、-OCOR12、-COOR12、-NR13CSR12、-CSNR12R13、-SCOR12、又は-COSR12を示し、R1~R8のうち少なくとも1つが、-Y-R11であり、
Yは、主鎖の原子数が1~30個のスペーサー構造を示し、
R11は、カチオン性窒素含有基、又はカチオン性リン含有基を示し、
R12は、炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
R13は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
nは、2~100を示し、
n個のモノマー単位は、それぞれ、同一又は異なっている。)
で表されるブロック単位と、
式(II):
【0011】
【0012】
(式中、
R9及びR10は、それぞれ独立して、-Y-R11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR12R13、-OR12、-SR12、-COR12、-SO2R12、-NR13COR12、-CONR12R13、-OCOR12、-COOR12、-NR13CSR12、-CSNR12R13、-SCOR12、又は-COSR12を示し、R9及びR10のうち少なくとも一方が、-Y-R11であり、
Xは、S、O、又はNR14を示し、
Y、R11、R12及びR13は、式(I)と同様であり、
R14は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
mは、2~100を示し、
m個のモノマー単位は、それぞれ、同一又は異なっている。)
で表されるブロック単位と、を含むブロック共重合体。
[2] n/mが3以下であることを特徴とする[1]に記載のブロック共重合体。
[3] nが15以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のブロック共重合体。
[4] mが8以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[5] 式(I)で表されるブロック単位と、式(II)で表されるブロック単位が直接結合していることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[6] R1~R6が、水素原子であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[7] R7及びR8が、それぞれ独立して、-Y-R11であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[8] R9及びR10の一方が、-Y-R11であり、他方が、水素原子であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のブロック共重合体を含むリン酸化合物検出剤。
[10] リン酸化合物を含む溶液中の[1]~[8]のいずれかに記載のブロック共重合体の蛍光スペクトル又は紫外-可視光吸収スペクトルを測定すること、それにより得られる蛍光強度又は紫外-可視光吸収スペクトルの波形若しくは吸光度により上記リン酸化合物を検出することを含むリン酸化合物の検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リン酸化合物の検出に有用な新規ブロック共重合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例1のブロック共重合体の紫外-可視光吸収スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例2のブロック共重合体の紫外-可視光吸収スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例3のブロック共重合体の紫外-可視光吸収スペクトルを示す。
【
図4】
図4は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の比較例1のブロック共重合体の紫外-可視光吸収スペクトルを示す。
【
図5】
図5は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の比較例2のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図6】
図6は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例1のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図7】
図7は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例2のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図8】
図8は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例3のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図9】
図9は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の比較例1のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図10】
図10は、各種リン酸化合物を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の比較例2のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図11】
図11は、様々な濃度のATPを含む又は含まないpH=7.4のTRIZMA buffer溶液中の実施例3のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図12】
図12は、様々な濃度のATPを含む又は含まないpH=8.0のTRIZMA buffer溶液中の実施例3のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【
図13】
図13は、様々な濃度のATPを含む又は含まないpH=9.0のTRIZMA buffer溶液中の実施例3のブロック共重合体の蛍光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、式(I):
【0017】
【0018】
で表されるブロック単位(本明細書中「フルオレンブロック単位」という場合がある)と、式(II):
【0019】
【0020】
で表されるブロック単位(本明細書中「5員複素環ブロック単位」という場合があり、中でもXがSのものを「チオフェンブロック単位」という場合がある)と、を含むブロック共重合体を提供する。
【0021】
式(I)中、R1~R8は、それぞれ独立して、-Y-R11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR12R13、-OR12、-SR12、-COR12、-SO2R12、-NR13COR12、-CONR12R13、-OCOR12、-COOR12、-NR13CSR12、-CSNR12R13、-SCOR12、又は-COSR12を示し、R1~R8のうち少なくとも1つが、-Y-R11である。Yは、主鎖の原子数が1~30個のスペーサー構造を示す。R11は、カチオン性窒素含有基、又はカチオン性リン含有基を示す。R12は、炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。R13は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。
【0022】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原
子を示す。
【0023】
本明細書中、「炭素原子数1~10の炭化水素基」としては、例えば、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数2~10のアルキニル基、炭素原子数3~10のシクロアルキル基、炭素原子数3~10のシクロアルケニル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数が7~10のアラルキル基等が挙げられる。炭素原子数1~10の炭化水素基は、好ましくは、炭素原子数1~10のアルキル基である。
【0024】
本明細書中、「炭素原子数1~10のアルキル基」とは、炭素原子数が1~10である直鎖又は分岐鎖の1価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは、1~6であり、より好ましくは、1~5であり、さらに好ましくは、1~4であり、特に好ましくは、1~3である。
【0025】
本明細書中、「炭素原子数2~10のアルケニル基」とは、炭素原子数が2~10である1個以上の二重結合を含む直鎖または分枝鎖の1価の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、5-ヘキセニル等が挙げられる。アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは、2~6であり、より好ましくは、2~5であり、さらに好ましくは、2~4であり、特に好ましくは、2又は3である。
【0026】
本明細書中、「炭素原子数2~10のアルキニル基」とは、炭素原子数が2~10である1個以上の三重結合を含む直鎖または分枝鎖の1価の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1,1-ジメチルプロプ-2-イン-1-イル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、5-ヘキシニル等が挙げられる。アルキニル基の炭素原子数は、好ましくは、2~6であり、より好ましくは、2~5であり、さらに好ましくは、2~4であり、特に好ましくは、2又は3である。
【0027】
本明細書中、「炭素原子数3~10のシクロアルキル基」とは、炭素原子数が3~10である環状の1価の飽和炭化水素基を示し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。
【0028】
本明細書中、「炭素原子数3~10のシクロアルケニル基」とは、炭素原子数が3~10の1個以上の二重結合を含む環状の1価の不飽和炭化水素基を示し、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等のシクロアルカモノエニル;1,3-シクロブタジエン-1-イル、1,3-シクロペンタジエン-1-イル、1,4-シクロペンタジエン-1-イル、2,4-シクロペンタジエン-1-イル、1,3-シクロヘキサジエン-1-イル、1,4-シクロヘキサジエン-1-イル、1,5-シクロヘキサジエン-1-イル、2,4-シクロヘキサジエン-1-イル、2,5-シクロヘキサジエン-1-イル等のシクロアルカジエニル等が挙げられる。
【0029】
本明細書中、「アリール基」とは、炭素原子数が6~10の環状の1価の芳香族炭化水素基を示し、例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル等が挙げられる。
【0030】
本明細書中、「アラルキル基」とは、アリール基で置換されたアルキル基であって、炭素原子数が7~10の1価の基を示し、例えば、ベンジル、フェネチル等が挙げられる。
【0031】
本明細書中、「主鎖の原子数がA~B個のスペーサー構造」(A及びBは整数)とは、炭素原子、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるA~B個の原子で形成された主鎖を有する2価の基を意味する。
【0032】
本明細書中、「カチオン性窒素含有基」とは、+1価の窒素原子を有する基を意味する。当該窒素原子は、ブロック共重合体が固体状の場合に0価であっても、水溶液中で+1価となるものを含む。「カチオン性窒素含有基」としては、例えば、-N+H3、-N+H2R20、-N+HR20R21、又は-N+R20R21R22(式中、R20、R21及びR22は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。)で表される第一級から第四級のアンモニウム基;イミダゾリウム基、オキサゾリウム基、チアゾリウム基、オキサジアゾリウム基、トリアゾリウム基、ピロリジニウム基、ピリジニウム基、ピペリジニウム基、ピラゾリウム基、ピリミジニウム基、ピラジニウム基、トリアジニウム基、インドリウム基(それぞれ、環の任意のC、N、N+上の水素原子うちいずれか1個を除いてなる1価の基を意味し、さらに、その他のC、N、N+上が炭素原子数1~10の炭化水素基で置換されていてもよい。)等のカチオン性含窒素複素環基が挙げられる。
【0033】
本明細書中、「カチオン性リン含有基」とは、+1価のリン原子を有する基を意味する。当該リン原子は、ブロック共重合体が固体状の場合に0価であっても、水溶液中で+1価となるものを含む。「カチオン性リン含有基」としては、例えば、-P+H3、-P+H2R20、-P+HR20R21、又は-P+R20R21R22(式中、R20、R21及びR22は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。)で表される第一級から第四級のホスホニウム基が挙げられる。
【0034】
R1~R8は、それぞれ独立して、-Y-R11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR12R13、-OR12、-SR12、-COR12、-SO2R12、-NR13COR12、-CONR12R13、-OCOR12、-COOR12、-NR13CSR12、-CSNR12R13、-SCOR12、又は-COSR12を示し、且つR1~R8のうち少なくとも1つが、-Y-R11である。
【0035】
R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子又は-Y-R11であり、且つR1~R8のうち少なくとも1つが、-Y-R11であることが好ましい。
【0036】
ある実施形態では、R1~R6は、好ましくは、水素原子である。R7及びR8は、好ましくは、それぞれ独立して、-Y-R11である。
【0037】
ある実施形態では、R1~R8は、好ましくは、それらのうち1、2、3又は4つが、-Y-R11であり、より好ましくは、それらのうち1、2又は3つが、-Y-R11であり、さらに好ましくは、それらのうち1又は2つが、-Y-R11であり、特に好ましくは、それらのうち2つが、-Y-R11である。
【0038】
Yは、主鎖の原子数が1~30個のスペーサー構造を示す。Yは、好ましくは、主鎖の原子数が1~20個のスペーサー構造であり、より好ましくは、主鎖の原子数が2~15個のスペーサー構造であり、さらに好ましくは、主鎖の原子数が4~10個のスペーサー構造である。
【0039】
ある実施形態では、Yは、好ましくは、-Y1-Y2-で表される基である。ここで、Y1は、結合手、-NH-、-O-、-S-、-CO-、-SO2-、-NHCO-、-CONH-、-OCO-、-COO-、-NHCS-、-CSNH-、-SCO-、又は-COS-を示す。Y2は、(1)式:-[(CR15
2)a-Y3-]b-(CR15
2)c-[式中、R15は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、Y3は、-NR16-、-O-、又は-S-(式中、R16は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。)を示し、aは、2又は3を示し、b及びcは、それぞれ独立して0以上の整数を示し、b(a+1)+cは、1以上20以下であり、好ましくは2以上15以下であり、より好ましくは4以上10以下である。]で表される2価の基;又は(2)炭素原子数2~20のアルケニレン基を示す。
【0040】
本明細書中、「炭素原子数2~20のアルケニレン基」とは、炭素原子数が2~20である1個以上の二重結合を含む直鎖または分枝鎖の2価の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、-CH=CH-、-CH2-CH=CH-、-CH=CH-CH2-、-CH=CH-CH=CH-、-CH2-CH=CH-CH=CH-、-CH=CH-CH=CH-CH2-、-CH=CH-CH=CH-CH=CH-、-CH=CH-CH=CH-CH=CH-CH=CH-、-CH=CH-CH=CH-CH=CH-CH=CH-CH=CH-等が挙げられる。アルケニレン基の炭素原子数は、好ましくは2以上15以下であり、より好ましくは4以上10以下である。
【0041】
Y1が、結合手であり、且つY2が、-(CH2)C-[式中、cは、1以上20以下の整数であり、好ましくは2以上15以下であり、より好ましくは4以上10以下である。]で表される2価の基であることが好ましい。
【0042】
R11は、カチオン性窒素含有基、又はカチオン性リン含有基を示す。
【0043】
R11で表される「カチオン性窒素含有基」及び「カチオン性リン含有基」は、通常、対アニオンを有し得る。
【0044】
本明細書中、「対アニオン」とは、有機又は無機の1~5価の陰イオンを意味する。「カチオン性窒素含有基」及び「カチオン性リン含有基」が有し得る「対アニオン」としては、例えば、ハロゲン化物イオン(例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)などが挙げられる。
【0045】
R11は、好ましくは、-N+R20R21R22又は-P+R20R21R22(式中、R20、R21及びR22は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。)であり、より好ましくは、-P+R20R21R22であり、特に好ましくは、-P+(CH3)3である。
【0046】
R12は、炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。R13は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。
【0047】
nは、2~100を示す。nは、好ましくは、3以上であり、より好ましくは、5以上であり、さらに好ましくは、10以上であり、特に好ましくは、15以上である。一方で、nは、好ましくは、80以下であり、より好ましくは、60以下であり、さらに好ましくは、40以下であり、特に好ましくは、30以下である。nは、分子集合における各分子の平均値であればよい。
【0048】
n個のモノマー単位は、それぞれ、同一又は異なっている。
【0049】
式(II)中、R9及びR10は、それぞれ独立して、-Y-R11、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-NR12R13、-OR12、-SR12、-COR12、-SO2R12、-NR13COR12、-CONR12R13、-OCOR12、-COOR12、-NR13CSR12、-CSNR12R13、-SCOR12、又は-COSR12を示し、R9及びR10のうち少なくとも一方が、-Y-R11である。Xは、S、O、又はNR14(式中、R14は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。)である。Y、R11、R12及びR13は、式(I)と同様である。
【0050】
R9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子又は-Y-R11であり、且つR9及びR10のうち少なくとも一方が、-Y-R11であることが好ましく、R9及びR10の一方が、-Y-R11であり、且つ他方が、水素原子であることがより好ましい。
【0051】
Xは、S、O、又はNR14(R14は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。)を示す。Xは、好ましくは、Sである。
【0052】
mは、2~100を示す。mは、好ましくは、3以上であり、より好ましくは、4以上であり、さらに好ましくは、5以上であり、特に好ましくは、8以上である。一方で、mは、好ましくは、80以下であり、より好ましくは、60以下であり、さらに好ましくは、40以下であり、特に好ましくは、30以下である。mは、分子集合における各分子の平均値であればよい。
【0053】
n/mは、好ましくは20以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは5以下であり、特に好ましくは3以下である。一方、n/mは、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1以上であり、特に好ましくは1.5以上である。
【0054】
m個のモノマー単位は、それぞれ、同一又は異なっている。
【0055】
ある実施形態において、R9及びR10の一方が、-Y-R11であり、他方が、水素原子である場合、m個のモノマー単位のm-1個の結合に対する、R9が-Y-R11であるモノマー単位同士の結合、又はR10が-Y-R11であるモノマー単位同士の結合(全結合に対するいわゆるhead to tail結合(HT結合))の割合は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。当該割合が高い場合、式(II)で表されるブロック単位内のπ-π共役系の繋がりが長くなり、環どうしの結合のねじれがあまり存在しないものとなることから、環が同一平面状に長く並んで存在する構造となると考えられる。当該割合は、分子集合における各分子の平均値であればよい。
【0056】
式(I)で表されるブロック単位と、式(II)で表されるブロック単位は、直接結合していてもよく、或いはそれらの間に他の構造単位が結合していてもよい。また、式(I)で表されるブロック単位の末端及び式(II)で表されるブロック単位の末端には、それぞれ、他の構造単位が結合していてもよい。ここで、「他の構造単位」としては、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば、式(I)で表されるブロック単位及び式(II)で表されるブロック単位とは異なる、ピロール環、フラン環、チオフェン環又はベンゼン環を骨格とする重合体単位やモノマー単位の組み合わせ、公知の低分子化合物等を挙げることができる。「他の構造単位」は、ブロック共重合体総質量に対して、好ましくは10質量%未満であり、より好ましくは5質量%未満であり、さらに好ましくは2質量%未満であり、特に好ましくは1質量%未満である。式(I)で表されるブロック単位と、式(II)で表されるブロック単位とは、直接結合していることが好ましい。
【0057】
また、本発明のブロック共重合体は、式(I)で表されるブロック単位の末端又は式(II)で表されるブロック単位の末端に、公知の固相担体を結合させてもよい。固相担体としては、シリカ(SiO2)等の担体が挙げられる。
【0058】
本発明のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,000以上であり、より好ましくは2,000以上である。一方、数平均分子量(Mn)は、好ましくは100,000以下であり、より好ましくは50,000以下である。
【0059】
本発明のブロック共重合体の分子量分散度(Mw/Mn)は、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは2.0以下である。
【0060】
本発明のブロック共重合体は、水、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒に対して高い溶解性を有する。したがって、極性の高いリン酸化合物の検出剤として有用である。
【0061】
本発明のブロック共重合体は、共重合比や重合度を制御することにより、検出したいリン酸化合物を変えることができる。また、細胞培養中におけるリン酸化合物のマッピングへの応用が期待される。
【0062】
本発明のブロック共重合体は、公知の方法を用いて合成することができる。以下、本発明のブロック共重合体のうち下記の重合体(III)の製造法について説明する。重合体(III)は、例えば下記合成スキームに示すように、熊田触媒移動型縮合重合(KCTP)法を用いる方法により製造することができる。下記合成スキームに示す製造方法は、代表的な製造法であり、重合体(III)の製造方法はこれに限定されない。
【0063】
合成スキーム
【0064】
【0065】
[式中、R1’~R10’は、それぞれ、「-Y-R11」が「-Y-Br」である点以外はR1~R10の定義と同様であり、L2は、ニッケル触媒の配位子を示し、その他の記号は、上記の定義と同様であり、X1は、ハロゲン原子を示し、好ましくは、臭素原子又はヨウ素原子であり、X2は、グリニャール試薬由来のハロゲン原子を示す。]
【0066】
(工程1及び5)
化合物(V)及び(IX)は、それぞれ、例えば、化合物(IV)及び(VIII)を、第二級又は第三級のアルキルグリニャール試薬類を用いたハロゲン金属交換法等によりマグネシオ化して得ることができる。
【0067】
化合物(IV)及び(VIII)は、市販のものを用いてもよいし、或いは公知の方法に基づいて調製してもよい。
【0068】
第二級又は第三級のアルキルグリニャール試薬類としては、例えば、イソプロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムブロミド、tert-ブチルマグネシウムクロリド、sec-ブチルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド・リチウムクロリド、sec-ブチルマグネシウムクロリド・リチウムクロリド等が挙げられる。第二級又は第三級のアルキルグリニャール試薬類の使用量は化合物(IV)又は(VIII)に対して、通常1から10モル当量、好ましくは1から5モル当量である。
【0069】
また、必要に応じて、1,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン(DHB)等を加えてもよい。
【0070】
反応溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。反応温度は、通常-80から50℃である。反応時間は、通常0.1から200時間である。
【0071】
(工程2及び6)
重合体(VI)及び(X)は、それぞれ、化合物(V)及び(IX)にニッケル触媒試薬(NiL2Cl2)を加えて連鎖縮合重合させることにより得ることができる。
【0072】
ニッケル触媒試薬としては、例えば、[1,3-ビス(ジフェニルポスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド(Ni(dppp)Cl2)等が挙げられる。共重合体の重合度はニッケル触媒量で制御できる。ニッケル触媒試薬の使用量は化合物(V)又は(IX)に対して、通常0.005から50モル当量、好ましくは0.01から50モル当量である。
【0073】
反応溶媒は、工程1及び5と同様である。反応温度は、通常-80から50℃である。反応時間は、通常0.1から200時間である。
【0074】
(工程3及び7)
重合体(VII)は、重合体(VI)に化合物(IX)、或いは、重合体(X)に化合物(V)を加えることにより得ることができる。化合物(IX)又は(V)の添加量は、重合体(VI)又は(X)に対して、通常0.01から100モル当量、好ましくは0.05から50モル当量である。
【0075】
反応溶媒は、工程1及び5と同様である。反応温度は、通常-80から50℃である。反応時間は、通常0.1から200時間である。
【0076】
(工程4)
重合体(III)は、重合体(VI)から、「-Y-Br」構造部分を「-Y-R11」構造部分に変換するための公知の方法により得ることができる。
【0077】
上記各工程における中間体化合物は、そのまま次の工程に用いることもできるし、反応終了後に単離及び精製することもできる。例えば、工程1~3及び工程5~7は、単離及び精製することなくワンポットで行うことができる。単離及び精製する場合、例えば、粗反応生成物を分離するために濾過、濃縮、抽出等の一般的な単離手順を行い、その後粗反応生成物を、カラムクロマトグラフィー、再結晶化等の一般的な精製手順に供することにより、反応混合物から単離及び精製することができる。
【0078】
また、本発明は、本発明のブロック共重合体を含むリン酸化合物検出剤を提供する。
【0079】
本明細書中、「リン酸化合物」とは、アニオン性を有するリン酸が結合した化合物を意味し、生体物質であることが好ましく、例えば、アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン一リン酸(GMP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン三リン酸(GTP)、ウリジン一リン酸(UMP)、ウリジン二リン酸(UDP)、ウリジン三リン酸(UTP)、シチジン一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)等のリボヌクレオチド;デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシチミジン二リン酸(dTDP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、デオキシウリジン一リン酸(dUMP)、デオキシウリジン二リン酸(dUDP)、デオキシウリジン三リン酸(dUTP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン二リン酸(dCDP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)等のデオキシヌクレオチド等の低分子リン酸化合物;リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)等の核酸等の高分子リン酸化合物が挙げられる。ここで、核酸は、二本鎖核酸に限定されず、一本鎖核酸であってもよい。また、スーパーコイル構造、ヒストン複合体、三本鎖構造等の高次構造体となった核酸であってもよい。
【0080】
本発明のリン酸化合物検出剤は、本発明のブロック共重合体を含むため、リン酸化合物を含む溶液中で、蛍光スペクトル又は紫外-可視光吸収スペクトルを測定して得られる(1)蛍光強度、(2)紫外-可視光吸収スペクトルの波形、又は(3)吸光度に基づいて、リン酸化合物を検出することができる。
【0081】
本発明は、リン酸化合物を含む溶液中の本発明のブロック共重合体の蛍光スペクトル又は紫外-可視光吸収スペクトルを測定すること、それにより得られる(1)蛍光強度、(2)紫外-可視光吸収スペクトルの波形、又は(3)吸光度の相違により上記リン酸化合物を検出することを含むリン酸化合物の検出方法を提供する。
【0082】
リン酸化合物を検出は、通常、リン酸化合物を含む溶液中のブロック共重合体のスペクトルと、リン酸化合物を含まない溶液中のブロック共重合体のスペクトルから得られる(1)蛍光強度、(2)紫外-可視光吸収スペクトルの波形、又は(3)吸光度を対比させることにより行う。
【0083】
本発明のリン酸化合物の検出方法は、例えば、本発明のリン酸化合物検出剤又は本発明のブロック共重合体を、検出対象溶液中に溶解させる操作のみで、リン酸化合物の検出が可能である。
【0084】
検出可能な温度は、0℃~100℃である。検出対象溶液のpH域としては、例えば、pH5.5~9.5である。
【0085】
検出対象溶液中のリン酸化合物の濃度は、0.01μM以上であることが好ましく、0.1μM以上であることがより好ましく、1μM以上であることがさらに好ましく、10μM以上であることが特に好ましい。
【0086】
検出対象溶液中に必要とされる本発明のブロック共重合体の濃度は、好ましくは0.01mg/mL以上であり、より好ましくは0.1mg/mL以上である。
【0087】
検出対象溶液の溶媒は、水、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の本発明のブロック共重合体が溶解可能な極性溶媒であることが好ましい。
【0088】
検出対象溶液は、リン酸等の負に帯電した分子が含まれていると、ブロック共重合体と静電的に相互作用し、リン酸化合物の検出が阻害されることから、検出対象となり得るリン酸化合物以外に負に帯電した分子が含まれていないことが好ましい。検出対象溶液は、不活性な塩が含まれていてもよい。必要とされる検出対象溶液の量は、特に限定がなく、紫外-可視光吸収スペクトル、蛍光スペクトルの測定が可能な量であればよい。
【0089】
ある実施形態では、(A)リン酸化合物存在下にて本発明のブロック共重合体の励起光を照射した場合、ブロック共重合体から放射される蛍光強度と、(B)リン酸化合物非存在下にて同波長の光を照射した場合に、ブロック共重合体から放射される蛍光強度とが相違する特性を有する。したがって、当該相違に基づいて、各種リン酸化合物の検出ができる。
【0090】
例えば、リン酸化合物が、DNA、RNA等の核酸である場合、(A)の蛍光強度が(B)の蛍光強度を大きく下回る。特定のブロック共重合体では、リン酸化合物がADPの場合、(A)の蛍光強度が(B)の蛍光強度を大きく上回る。特定のブロック共重合体では、リン酸化合物がADPの場合に加えてAMPの場合でも、(A)の蛍光強度が(B)の蛍光強度を大きく上回り、リン酸化合物がATPの場合は、(A)の蛍光強度が(B)の蛍光強度を大きく下回る。
【0091】
当該実施形態においては、検出時に蛍光スペクトルを測定する公知の手法で検出可能であるが、それだけでなく、暗黒空間において励起光を照射可能な器具(イルミネーター等)を用いて、検出することも可能である。具体的な操作としては、上記(A)と(B)を、別サンプルとして調製し、それぞれ蛍光強度を比較すれば、リン酸化合物の存在を検出することが可能となる。この際、ある程度以上のリン酸化合物量であれば、肉眼で目視にて比較した場合でも、容易に検出可能である。
【0092】
また、当該実施形態においては、ゲルを用いてリン酸化合物を電気泳動し、電気泳動後のゲルを、ブロック共重合体を含む水溶液で染色することにより、バンド(リン酸化合物存在部分)をその他のゲル部分(リン酸化合物非存在領域)から浮かび上がらせたシグナルとして検出することも可能である。
【0093】
蛍光スペクトル測定時のブロック共重合体の「励起光」としては、蛍光放射がおこる波長の光であれば、如何なる波長の光も採用することができる。例えば、450~750nmの波長の光を採用することができる。
【0094】
ある実施形態では、(A)リン酸化合物存在下における本発明のブロック共重合体の紫外-可視光吸収スペクトルの波形と、(B)リン酸化合物非存在下における本発明のブロック共重合体の紫外-可視光吸収スペクトルの波形とが相違する特性を有する。したがって、当該相違に基づいて、各種リン酸化合物の検出ができる。
【0095】
例えば、リン酸化合物が、DNA、RNA等の核酸である場合、450~550nm(特に500nm付近)に現れるチオフェンブロック単位由来の吸収ピークが、(B)に比べて(A)の場合に、長波長側にシフトする。特定のブロック共重合体では、リン酸化合物がATPの場合でも、長波長側にシフトする。
【0096】
当該実施形態においては、紫外-可視光吸収スペクトルを測定する公知の手法を用いることができる。
【0097】
ある実施形態では、(A)リン酸化合物存在下における本発明のブロック共重合体の吸光度と、(B)リン酸化合物非存在下における本発明のブロック共重合体の吸光度とが相違する特性を有する。したがって、当該相違に基づいて、各種リン酸化合物の検出ができる。
【0098】
例えば、リン酸化合物が、DNA、RNA等の核酸である場合、350~450nm(特に400nm付近)に現れるフルオレンブロック単位由来の吸光度が、(B)に比べて(A)の場合に、大幅に減少する。特定のブロック共重合体では、リン酸化合物がATPの場合でも、大幅に減少する。
【0099】
当該実施形態においては、紫外-可視光吸収スペクトルを測定する公知の手法を用いることができる。
【実施例】
【0100】
本発明は、更に以下の実施例、比較例および試験例によって詳しく説明されるが、これらは本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0101】
以下の実施例及び比較例中の「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。%は、特に断らない限り質量%を示す。FAB-MS(高速原子衝撃イオン化質量分析)は、JMS-SX102A(日本電子)を用いて測定した。マトリックスにはニトロベンジルアルコール(NBA)を使用した。IRは、Nicolet6700(Thermofisher Scientific社)を用いて測定した。1H NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)は、室温にてフーリエ変換型NMR(JNM-ECZR(JEOL))で測定した。元素分析は、Perkin Elmer PE 2400-IIを用いて測定した。
【0102】
実施例1~3
ポリ{9,9-ビス[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]フルオレン}-b-ポリ{3-[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]チオフェン}(PTMPHF-b-PTMPHT)(実施例1=m:n=7:14;実施例2=m:n=4:16;実施例3=m:n=9:18)
【0103】
【0104】
(工程1) 2-ヨード-7-ブロモ-9,9-ビス(6-ブロモヘキシル)フルオレン(BIBHF)の合成
【0105】
【0106】
三口丸底フラスコにジムロート冷却管、窒素導入管をつなぎ、2-ヨード-7-ブロモフルオレン(4.86g,1.30×10-2mol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)(5.02g,1.20×10-4mol)、1,6-ジブロモヘキサン(30g,0.12mol)、50%NaOH水溶液(15mL)を加えた。窒素雰囲気下、75℃で12時間攪拌した。得られた反応溶液をジクロロメタン(100mL)にあけた。この溶液を飽和食塩水(100mL)、精製水(100mL)で抽出し、有機層をエバポレーターで留去した。次に、1,6-ジブロモヘキサンを除去するため、100℃、0.5kPaで減圧留去を行った。ヘキサン/クロロホルム(v/v=9:1)混合溶媒を展開溶媒として、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C-300)により精製を行い、粗製物を回収した。その後、良溶媒をクロロホルム、貧溶媒をメタノールとして、再結晶を行った。メンブランフィルター(親水0.1μm)を用いて吸引濾過し、白色結晶が得られた。40℃で減圧乾燥し、BIBHF(5.34g,収率58%)を回収した。
【0107】
FAB-MS:m/z=695(M+)
IR(KRS cm-1):2960(w,νC-H),2810(w,νC-H),1610(s,νC=C),1430(w,δC-H),1254(m,δC-H),910(s,δC=C),558(m,νC-Br)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.578(4H,m,CH2),1.08(4H,m,CH2),1.20(4H,m,CH2),1.64(4H,quin,CH2),1.92(4H,m,CH2),3.29(4H,t,CH2),7.43(2H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.46(2H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),7.53(2H,d,JHH=8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C25H31Br3I):C,43.07%;H,4.34%;Br,34.39%.Found:C,43.09%;H,4.25%;S,34.18%.
【0108】
(工程2) 3-(6-ブロモヘキシル)チオフェン(BHT)の合成
【0109】
【0110】
500mL三口フラスコへ、3-ブロモチオフェン(5.22g,3.20×10-2mol)、ヘキサン(40mL)を測り入れ、滴下ロートに1,6-ジブロモヘキサン(8.78g,3.56×10-2mol)とヘキサン(10mL)を入れた。300mL三口丸底フラスコに系違い管、滴下ロート、セプタムラバー、窒素導入管を取り付けた。尚、二方の窒素導入管は窒素導入のIN、OUT両側にシリコンチューブを取り付け、ピンチコックで閉じた。グローブから出し、アルゴン雰囲気下、-78℃で10分撹拌後、シリンジを用いてn-BuLi(20mL)を滴下し、滴下後10分撹拌した。その後テトラヒドロフラン(THF)を5mL滴下し、1時間撹拌した。-78℃から-10℃に昇温後、滴下漏斗から1,6-ジブロモヘキサンを滴下し、室温で2時間撹拌した。反応溶液へメタノール、希塩酸を加えてクエンチした。その後、ヘキサンを加え、クエンチした溶液を500mL分液ロートに移し、精製水(100mL×3回)で洗浄を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。エバポレーターで溶媒を留去し、粗生成物を回収した。ヘキサンでシリカゲル(Wakogel C-300)を用いて精製を行った。その後シリカゲル(Wakogel FC-40)を用いて、BHT(5.06g,収率64%)の分離を行った。
【0111】
FAB-MS:m/z=246(M+)
IR(KRS cm-1):3090(w,νC-H),2938(w,νC-H),2857(w,νC-H),2360(s,νC=C),1425(w,δC-H),772(m,νC-Br)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:1.40(2H,q,CH2),1.48(2H,q,CH2),1.74(2H,t,CH2),1.86(2H,t,CH2),2.77(2H,t,CH2),3.31(2H,d,CH2),6,92(2H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.32(H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C10H15SBr):C,59.24%;H,7.46%;Br,17.49%.Found:C,59.20%;H,7.47%,Br,17.46%.
【0112】
(工程3) 2,5-ジブロモ-3-(6-ブロモヘキシル)チオフェン(DBrBHT)の合成
【0113】
【0114】
窒素雰囲気下において、300mL二口丸底フラスコにBHT(8.29g,3.36×10-2mol)とN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(10mL)を加え、滴下漏斗にDMF(40mL)に溶解させたN-ブロモスクシンイミド(NBS)(11.96g,6.72×10-2mol)を入れ、還流管を取り付けた。0℃に設定した低温恒温槽に浸し、2時間かけてNBSを添加した。その後、さらに2時間反応させた。反応終了後、飽和NaHCO3水溶液で中和を行い、ジエチルエーテルを加え、精製水、飽和食塩水で抽出を行った。エバポレーターで濃縮した後、ヘキサン単一溶媒でシリカゲル(Wakogel C-300)を用いて精製を行った。その後シリカゲル(Wakogel FC-40)を用いて、DBrBHT(6.12g,収率45%)の分離を行った。
【0115】
FAB-MS:m/z=404(M+)
IR(KRS cm-1):3085(w,νC-H),2942(w,νC-H),2862(w,νC-H),1550(s,νC=C),1440(w,δC-H),1360(m,δC-H),794(m,νC-Br)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:1.48(2H,q,CH2),1.51(2H,q,CH2),1.66(2H,t,CH2),1.79(2H,t,CH2),2.53(2H,t,CH2),3.31(2H,d,CH2),6,92(H,d,JHH=1.8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C10H13SBr3):C,29.66%;H,3.24%;Br,59.19%.Found:C,29.34%;H,3.12%,Br,59.70%.
【0116】
(工程4) ポリ[9,9-ビス(6-ブロモヘキシル)フルオレン]-b-ポリ[3-(6-ブロモヘキシル)チオフェン](PBHF-b-PBHT)の合成
【0117】
【0118】
グローブボックス内で10mLナスフラスコにDBrBHTをTHF(4mL)に溶解し、iPrMgCl・LiClを加え、氷浴0℃で2時間反応させた。50mLナスフラスコにBIBHF、1,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン(DHB)を入れ、THF(10mL)に溶解し、iPrMgCl・LiClを加えた。グローブボックスから出し、-20℃に設定した低温恒温槽で攪拌しながら1時間反応させ、調製したNi(acac)2/dpppのTHF(5mL)溶液を、シリンジを用いて2mL加え、氷浴0℃で30分間撹拌した。反応後、BIBHFの重合溶液の中にDBrBHTのグリニャール溶液を全て加え、室温で30分間反応させた。反応終了後、塩酸10mL、メタノール300mLの混合溶液へ加えてクエンチし、吸引ろ過で回収後、良溶媒クロロホルム、貧溶媒ヘキサンで再沈殿を行い、精製を行った。吸引ろ過で回収し、黄色粉末状のPBHF-b-PBHTを回収した。
【0119】
実施例1~3の中間体PBHF-b-PBHTの製造における、BIBHF、1,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン(DHB)、iPrMgCl・LiCl、Ni(acac)2/dppp、DBrBHTの使用量、及びPBHF-b-PBHTの収量は以下のとおりである。
【0120】
【0121】
各PBHF-b-PBHTの重合度(m:n)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(Mw/Mn)を、GPC測定と1H NMR測定から決定した。結果は以下のとおりである。
【0122】
【0123】
GPCの測定方法は以下のとおりである。
【0124】
(GPCの測定方法)
PBHF-b-PBHT(1mg)を、3,5-ジ(tert-ブチル)-4-ヒドロキシトルエン(BHT)(0.03重量%)を含む高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用THFに溶解し、溶液を調製した。この溶液をサンプレップ(MILLIPORE MillexFG 0.45μm)を取り付けたシリンジを用いて濾過し、サンプルを調整し、測定した。標準試料としてポリスチレンを用いて作製した検量線を基に、数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(Mw/Mn)を算出した。測定装置はHLC-8320GPC(TOSOH)を用いた。
【0125】
(実施例1=m:n=7:14)
IR(KRS cm-1):3064(w,νC-H),2963(w,νC-H),2888(w,νC-H),1483(s,νC=C),1241(m,δC-H),680(m,νC-Br),604(s,δC=C).
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.832(4H,m,CH2),1.18(4H,m,CH2),1.21(4H,m,CH2),1.68(4H,quin,CH2),1.92(4H,m,CH2),2.16(4H,m,CH2),2.90(4H,m,CH2),3.29(4H,t,CH2),3.34(2H,t,CH2),7.02(2H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.88(2H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),7.94(2H,d,JHH=8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C315H434Br28S14):C,57.00%;H,6.15%;Br,32.50%.Found:C,57.42%;H,6.32.%;Br,31.89%.
【0126】
(工程5) ポリ{9,9-ビス[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]フルオレン}-b-ポリ{3-[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]チオフェン}(PTMPHF-b-PTMPHT)の合成
【0127】
【0128】
50mLナスフラスコ内でPBHF-b-PBHT(4.66×10-1g,1.58×10-4mol)をTHF:DMF=10mL:10mLの混合溶媒に溶解し、これにトリメチルホスフィン(6.32mL,6.32×10-3mol)を加えアルゴン雰囲気下で80℃、24時間撹拌した。その後、DMSO(10mL)を加え、一部ホスホニウム化が進行し、析出した重合体を溶解させ、さらに24時間反応させた。反応終了後、溶液の温度を室温に下げジエチルエーテルに再沈殿した。これを、メンブランフィルター(疎水性0.1μm)を用いてろ過し、赤橙色固体としてPTMPHF-b-PTMPHT(4.99×10-1g,収率83%)を回収した。
【0129】
(実施例1=m:n=7:14)
IR(KRS cm-1):2992(w,νC-H),2862(w,νC-H),2520(s,νP-H),1484(w,δC-H),1032(m,δP-C),764(m,νP-C).
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.835(4H,m,CH2),1.28(8H,m,CH2),1.31(4H,m,CH2),1.66(6H,CH2,CH2),1.72(2H,q,CH2),1.87(18H,m,CH2),1.92(9H,m,CH2),2.06(4H,q,CH2),2.12(6H,CH2,CH2),2.89(2H,t,CH2),7.10(2H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.91(4H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),7.95(2H,d,JHH=8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C409H686P28Br28S14):C,54.72%;H,7.51%;Br,24.82%.Found:C,54.12%;H,7.22%;Br,24.98%.
【0130】
比較例1
ポリ(9,9-ジヘキシルフルオレン)-b-ポリ{3-[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]チオフェン}(PHF-b-PTMPHT)(m:n=6:25)
【0131】
【0132】
(工程1) 2-ヨード-7-ブロモ-9,9-ジヘキシルフルオレン(BIHF)の合成
【0133】
【0134】
三口丸底フラスコにジムロート冷却管、窒素導入管をつなぎ、2-ヨード-7-ブロモフルオレン(12.5g,3.37×10-2mol)、TBAB(3.62g,1.13×10-2mol)、1-ブロモヘキサン(11.7g,7.08×10-2mol)、50%NaOH水溶液(75mL)を加えた。窒素雰囲気下、75℃で12時間攪拌した。反応溶液をジクロロメタン(100mL)にあけた。この溶液を飽和食塩水(100mL)、精製水(100mL)で抽出し、有機層をエバポレーターで留去した。次に、1-ブロモヘキサン(b.p.247℃)を除去するため、100℃、0.5kPaで減圧留去を行った。ヘキサン/クロロホルム(v/v=9:1)混合溶媒を展開溶媒として、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C-300)により精製を行い、Rf値0.81の成分を回収した。その後、良溶媒をクロロホルム、貧溶媒をメタノールとして、再結晶を行った。メンブランフィルター(親水0.1μm)を用いて吸引濾過し、白色結晶を得た。40℃で減圧乾燥し、BIHF(15.1g,収率83%)を回収した。
【0135】
FAB-MS:m/z=540(M+),IR(KRScm-1):2954(w,νC-H),2851(w,νC-H),1598(s,νC=C),1428(w,δC-H),1250(m,δC-H),902(s,δC=C).
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:7.54(d,J=8.9Hz,2H),7.50-7.45(m,4H),1.99-1.91(m,4H),1.21-1.02(m,12H),0.83(t,J=7.0Hz,6H),0.68-0.58(m,4H).
Anal.Calcd.for(C25H33BrI):C,77.65%;H,10.86%.Found:C,77.93%;H,9.71%.
【0136】
(工程2) 3-(6-クロロヘキシル)チオフェン(CHT)の合成
【0137】
【0138】
グローブボックス中でTHF(40mL)、Mg(1.28g,5.25×10-2mol)を300mL丸底フラスコに秤量、3-ブロモチオフェン(7.47g,4.58×10-2mol)、Ni(dppp)Cl2(0.905g,1.67×10-3mol)、THF(20mL)を50mLサンプル瓶へ秤量、1-ブロモ-6-クロロヘキサン(9.98g,5.00×10-2mol)、THF(40mL)を、足長漏斗を用いて滴下漏斗へ秤量した。三口丸底フラスコの左方に滴下漏斗、中央に二方の窒素導入管取り付けたジムロート、右方にセプタムラバーを取り付けた。窒素導入のINとOUT共にシリコンチューブを取り付け、ピンチコックで閉じた。グローブから取り出し、窒素雰囲気下で滴下ロートから1-ブロモ-6-クロロヘキサン溶液を約2時間かけて滴下し、さらに0℃で2時間撹拌した。さらに室温に戻した三口丸底フラスコへ、予め調整した3-ブロモチオフェンとNi触媒のTHF溶液を、シリンジを用いてゆっくり滴下後、12時間加熱還流を行った。反応終了後、メタノール、希塩酸でクエンチを行い、ヘキサンを加え、NaHCO3飽和水溶液(100mL×3回)、NaCl飽和水溶液(100mL×3回)、精製水(100mL×3回)の順に洗浄抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、自然ろ過し、エバポレーターで溶媒を留去し、粗生成物を回収した。その後、ヘキサン単一溶媒でシリカゲル(Wakogel C-300)を用いて精製を行った。その後シリカゲル(Wakogel FC-40)を用いてCHT(6.69g,収率72%)の分離を行った。
【0139】
FAB-MS:m/z=202(M+)
IR(KRS cm-1):3118(w,νC-H),2955(w,νC-H),2870(w,νC-H),1510(s,νC=C),1475(w,δC-H),1340(m,δC-H),782(m,νC-Br)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:1.32(4H,q,CH2),1.74(2H,t,CH2),1.86(2H,t,CH2),2.82(2H,m,CH2),3.64(2H,d,CH2),6,92(2H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.32(H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C10H15SCl):C,59.24%;H,7.46%;Cl,17.49%.Found:C,59.17%;H,7.40%,Cl,17.32%.
【0140】
(工程3) 2,5-ジブロモ-3-(6-クロロヘキシル)チオフェン(DBrCHT)の合成
【0141】
【0142】
窒素雰囲気下で300mL丸底フラスコにCHT(6.31g,2.76×10-2mol)とDMF(90mL)を加え、還流管を取り付けた。0℃に設定した低温恒温槽に浸し、滴下漏斗から2時間かけてNBS(10.8g,6.06×10-2mol)のDMF溶液を滴下した。滴下後、2時間反応させた。反応終了後、飽和NaHCO3水溶液で中和を行い、ジエチルエーテルを加え抽出し、精製水、飽和NaCl水溶液で洗浄した。有機層をエバポレーターで濃縮した後、ヘキサンを展開溶媒に用い、シリカゲル(Wakogel C-300)を用いてカラムクロマトグラフィーを行った。さらにシリカゲル(Wakogel FC-40)を用いて、DBrCHT(6.95g,収率65%)の分離を行った。
【0143】
FAB-MS:m/z=360(M+)
IR(KRS cm-1):3082(w,νC-H),2935(w,νC-H),2882(w,νC-H),1486(s,νC=C),1425(w,δC-H),1375(m,δC-H),852(m,νC-Br)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:1.34(2H,q,CH2),1.48(2H,q,CH2),1.59(2H,q,CH2),1.77(2H,q,CH2),2.54(2H,t,CH2),3.54(2H,t,CH2),6,92(H,d,JHH=1.8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C10H13SBr2Cl):C,43.07%;H,4.34%;Cl,34.39%.Found:C,43.09%;H,4.25%,Cl,34.18%.
【0144】
(工程4) ポリ(9,9-ジヘキシルフルオレン)-b-ポリ[3-(6-クロロヘキシル)チオフェン](PHF-b-PCHT)の合成
【0145】
【0146】
グローブボックス内で50mLナスフラスコ中にBIHF(4.31×10-1g,8.02×10-4mol)、1,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン(DHB)(8.90×10-2g,3.20×10-4mol)を加え、THF(10mL)に溶解した。グローブボックスから出し、-20℃に設定した低温恒温槽で攪拌しながら1時間反応させた。その後、調製したNi(acac)2/dppp(4.0mL,8.00×10-5mol)のTHF溶液を、シリンジを用いて1mL、BIHFのグリニャール溶液へ加え、氷浴0℃で攪拌し30分間反応させた。これとは別に、10mLナスフラスコにDBrCHT(8.65×10-1g,2.40×10-3mol)、1,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン(DHB)(2.51×10-1g,9.02×10-4mol)、THF(4mL)を加え、溶解後、iPrMgCl・LiClを加え氷浴0℃で1時間反応させた。反応後、フルオレングリニャール溶液へシリンジで用いて加え、室温で30分間反応させた。反応終了後、塩酸(10mL)、メタノール(300mL)の混合溶液へ加えてクエンチし、吸引ろ過で回収後、良溶媒クロロホルム、貧溶媒ヘキサンで再沈殿を行い、精製を行った。吸引ろ過で回収し、黄色粉末状のPHF-b-PCHTを回収した。
【0147】
PHF-b-PCHTの重合度(m:n)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(Mw/Mn)を、GPC測定と1H NMR測定から決定した。結果は以下のとおりである。
【0148】
【0149】
GPCの測定方法は上記と同様である。
【0150】
IR(KRS cm-1):3076(w,νC-H),2953(w,νC-H),2868(w,νC-H),1542(s,νC=C),1481(s,νC=C),1241(m,δC-H),832(m,νC-Cl),689(s,δC=C).
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.890(6H,CH2,CH2),1.08(4H,m,CH2),1.34(6H,m,CH2),1.58(2H,quin,CH2),1.84(8H,q,CH2),2.14(4H,t,CH2),2.80(2H,t,CH2),3.34(2H,t,CH2),7.02(H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.80(4H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),7.94(2H,d,JHH=8Hz,CH).Anal.Calcd.for(C400H579Cl25S25):C,78.54%;H,8.85%;Cl,6.62%.Found:C,78.40%;H,8.60.%;Cl,6.33%.
【0151】
(工程5) ポリ(9,9-ジヘキシルフルオレン)-b-ポリ{3-[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]チオフェン}(PHF-b-PTMPHT)の合成
【0152】
【0153】
50mLナスフラスコ内でPHF-b-PCHT(2.00×10-1g,2.20×10-5mol)をTHF:DMF=10mL:10mLの混合溶媒に溶解し、これにトリメチルホスフィン(0.96mL,0.96×10-3mol)を加え窒素雰囲気下で80℃、24時間撹拌した。24時間経過後、DMSO(10mL)を加え、一部ホスホニウム化し、析出したポリマーを溶解させ、さらに24時間反応させた。反応終了後、溶液の温度を室温に下げジエチルエーテルに再沈殿した。これを、メンブランフィルター(疎水性0.1μm)を用いてろ過し、赤橙色固体としてPHF-b-PTMPHT(3.30×10-1g,収率89%)を回収した。
【0154】
IR(KRS cm-1):3003(w,νC-H),2930(w,νC-H),2513(w,νP-H),1492(s,δC-H),1035(m,δP-C),760(m,νP-C)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.812(14H,CH2,CH2),1.26(10H,CH2,CH2),1.71(2H,m,CH2),1.64(4H,quin,CH2),1.92(4H,m,CH2),7.04(H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.98(2H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),8.06(2H,d,JHH=8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C475H804P25I25S25):C,64.94%;H,8.03%;Br,18.06%.Found:C,64.80%;H,7.80%;Br,18.72%.
【0155】
比較例2
ポリ{9,9-ビス[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]フルオレン}-b-ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(PTMPHF-b-PHT)(m:n=16:15)
【0156】
【0157】
(工程1) 2,5-ジブロモ-3-ヘキシルチオフェン(DBrHT)の合成
【0158】
【0159】
窒素雰囲気下において、300mL丸底フラスコに3-ヘキシルチオフェン(6.31g,3.75×10-2mol)とDMF(30mL)を加え、滴下漏斗にDMFに溶解させたNBSを入れ、還流管を取り付けた。氷浴に浸し、2時間かけてNBS(13.3g,7.50×10-2mol)を添加した。常温でさらに16時間反応を行う。反応終了後、飽和重層溶液で中和を行い、ジエチルエーテルを加え、精製水、飽和食塩水で抽出を行った。エバポレーターで濃縮した後、ヘキサンを展開溶媒に用い、シリカゲル(Wakogel C-300)によるカラムクロマトグラフィーで精製を行った。さらにシリカゲル(Wakogel FC-40)を用いて、DBrHT(7.46g,収率61%)の精製を行った。
【0160】
FAB-MS:m/z=326(M+)
IR(KRS cm-1):3088(w,νC-H),2949(w,νC-H),2880(w,νC-H),1557(s,νC=C),1435(w,δC-H),1365(m,δC-H),1196(m,νCOC),1087.
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.920(3H,m,CH3),1.32(6H,m,CH2),1.59(2H,m,CH2),7.28(2H,d,JHH=1.8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C10H14SBr2):C,77.65%;H,10.86%.Found:C,77.93%;H,9.71%.
【0161】
(工程2) ポリ[9,9-ビス(6-ブロモヘキシル)フルオレン]-b-ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(PBHF-b-PHT)の合成
【0162】
【0163】
グローブボックス内で、10mLナスフラスコ中でDBrHT(1.64×10-1g,5.02×10-4mol)をTHF(4mL)に溶解し、iPrMgCl・LiCl(0.770mL,1.00×10-3mol)を加え、室温で一時間反応させた。50mLナスフラスコにBIBHF(6.97×10-1g,1.02×10-3mol)、1,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン(DHB)(1.11×10-1g,4.08×10-4mol)、THF(10mL)を加え、溶解後、iPrMgCl・LiCl(0.770mL,1.00×10-3mol)を加えた。グローブボックスから出し、-20℃に設定した低温恒温槽中で攪拌しながら1時間反応させた。その後、調製したNi(acac)2/dpppのTHF溶液(2.0mL,4.00×10-5mol)を、シリンジを用いて加え、氷浴0℃で攪拌し30分間反応させた。その後、DBrHTのグリニャール溶液を全て加え、室温で30分間反応させた。反応終了後、塩酸(10mL)、メタノール(300mL)の混合溶液へ加えてクエンチし、吸引ろ過で回収後、良溶媒クロロホルム、貧溶媒ヘキサンで再沈殿を行い、精製を行った。吸引ろ過で回収し、黄色粉末状のPBHF-b-PHT(0.23g,収率33%)を回収した。
【0164】
PBHF-b-PHTの重合度(m:n)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(Mw/Mn)を、GPC測定と1H NMR測定から決定した。結果は以下のとおりである。
【0165】
【0166】
GPCの測定方法は上記と同様である。
【0167】
IR(KRS cm-1):3082(w,νC-H),2932(w,νC-H),2845(w,νC-H),1493(s,νC=C),1241(w,δC-H),770(m,νC-Br)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.892(7H,CH2,CH3),1.27(6H,t,CH2),1.55(2H,m,CH2),1.86(8H,CH2),2.24(4H,q,CH2),2.78(2H,t,CH2),3.31(4H,t,CH2),6.98(H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.64(4H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),7.72(2H,d,JHH=8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C550H722Br32S15):C,63.83%;H,7.04%;Br,24.26%.Found:C,63.96%;H,7.18%;Br,24.12%.
【0168】
(工程3) ポリ{9,9-ビス[6-(トリメチルホスホニウム)ヘキシル]フルオレン}-b-ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(PTMPHF-b-PHT)の合成
【0169】
【0170】
50mLナスフラスコ内でPBHF-b-PHT(2.00×10-1g,2.20×10-5mol)をTHF:DMF=10mL:10mLの混合溶媒に溶解し、トリメチルホスフィン(0.96g,0.96×10-3mol)を加えアルゴン雰囲気下で80℃、24時間撹拌した。24時間経過後、DMSO(10mL)を加え、部分ホスホニウム化により析出した重合体を溶解させ、さらに24時間反応させた。反応終了後、溶媒を真空エバポレーターにより留去し、少量のメタノールに溶解させジエチルエーテルに再沈殿した。これを、メンブランフィルター(疎水性0.1μm)を用いてろ過し、赤橙色固体としてPTMPHF-b-PHT(3.30×10-1g,収率89%)を回収した。
【0171】
IR(KRS cm-1):2992(w,νC-H),2870(w,νC-H),2506(w,νP-H),1551(s,νC=C),1497(w,δC-H),1375(m,δC-H),1040(m,δP-C),702(m,νP-C)
1H NMR(500MHz,CDCl3)δppm:0.820(11H,CH2,CH3),1.26(8H,CH2),1.41(4H,m,CH2),1.92(22H,CH2,CH3),2.12(8H,m,CH2),6.97(H,d,JHH=1.8Hz,CH),7.94(4H,dd,JHH=8.0Hz,JHH=1.8Hz,CH),8.06(2H,d,JHH=8Hz,CH).
Anal.Calcd.for(C646H1010P32Br32S15):C,60.74%;H,7.96%;Br,19.71%.Found:C,60.90%;H,8.11%;Br,19.57%.
【0172】
(試験例1:紫外-可視(UV-vis)光吸収スペクトル測定による各種リン酸化合物に対する特性評価)
リン酸化合物(ATP、ADP、AMP、DNA又はRNA)を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例1~3並びに比較例1及び2のブロック共重合体それぞれのUV-vis光吸収スペクトルによる評価を行った。
【0173】
TRIZMA buffer溶液中に、各ブロック共重合体のマスター溶液と、ATP、ADP、AMP、DNA、又はRNAのマスター溶液を下記の所定の濃度となるように混合し、室温で3分間攪拌してサンプル溶液を調製し、その後、石英セルに入れて下記の測定条件でUV-vis光吸収スペクトルの測定を行った。
【0174】
(サンプル溶液)
TRIZMA buffer溶液のpHは、実施例1~3のブロック共重合体ではpH=7.4、比較例1及び2のブロック共重合体ではpH=8.0とした。比較例2のブロック共重合体の溶液中には1体積%のDMSOを含有させた。ブロック共重合体の濃度は、実施例1~3のブロック共重合体ではP+=1μM、比較例1及び2のブロック共重合体では3.86×10-7Mとした。ATP、ADP、AMP、DNA又はRNAの濃度は、実施例1~3のブロック共重合体に対してはP-=1μM、比較例1及び2のブロック共重合体に対しては5.00×10-2mg/mLとした。
【0175】
(測定条件)
光吸収スペクトル測定器:SHIMADZU UV-PC3100
測定モード:吸光度
スキャンスピード:低速
スリット幅:2.0
【0176】
結果を
図1~5に示す。「Blank」は、リン酸化合物を含まない溶液を意味する。
【0177】
得られた光吸収スペクトルでは、実施例2のブロック共重合体(m:n=4:16)で、フルオレンブロック単位由来の極大吸収ピークが398nmに、実施例1のブロック共重合体(m:n=7:14)では410nmに、実施例3のブロック共重合体(m:n=9:18)では412nmにみられ、チオフェンブロック単位由来の吸収ピークが500nm付近にそれぞれみられた(
図1~3)。フルオレンに対するチオフェンの比が増加することで、チオフェンブロック単位由来の吸収ピークが増加し、水溶液中での構造が変化していることが推測できる。
【0178】
比較例1のブロック共重合体では、フルオレンブロック単位由来の吸収ピークが380nm付近に、チオフェンブロック単位由来のピークが470nm付近にみられた(
図4)。比較例2のブロック共重合体では、フルオレンブロック単位由来の吸収ピークが約400nmに観察され、チオフェンブロック単位由来の吸収ピークが500nm付近に観察された(
図5)。
【0179】
また、実施例1~3のブロック共重合体では、DNA、RNAの添加後、フルオレンブロック単位由来の吸収の大幅な減少と、チオフェンブロック単位由来の極大吸収の長波長化が見られた(
図1~3)。生体分子との静電的相互作用によりブロック共重合体の凝集が緩和し、有効共役長が伸長したためと考えられる。
【0180】
実施例3のブロック共重合体(m:n=9:18)では、ATP添加時にも、同様に、フルオレンブロック単位由来の吸収の大幅な減少と、チオフェンブロック単位由来の極大吸収の長波長化が見られた(
図3)。この結果から、ブロック共重合体の共重合比によりATPに対する吸収スペクトルの吸収波長等が変化することが分かった。
【0181】
比較例1のブロック共重合体では、DNAの添加後、同様に、フルオレンブロック単位由来の吸収の大幅な減少と、チオフェンブロック単位由来の極大吸収の長波長化が見られた。RNAの添加後では、チオフェンブロック単位由来の極大吸収がわずかに長波長化した(
図4)。
【0182】
一方で、比較例2のブロック共重合体では、DNA、RNAの添加後、実施例1~3のブロック共重合体とは反対にフルオレンブロック単位由来の吸光度が増加し、ATP、ADP、AMPの添加後、吸光度の減少がみられた。また、比較例2のブロック共重合体では、DNA、RNAの添加後、実施例1~3のブロック共重合体で見られたような吸収位置の変化はみられなかった(
図5)。
【0183】
以上の結果から、実施例1~3のブロック共重合体は、DNA、RNAの添加時に、フルオレンブロック単位由来の吸収の大幅な減少と、チオフェンブロック単位由来の極大吸収の長波長化が観察されることから、この現象を利用すればDNA、RNAの検出が可能である。また、実施例3のブロック共重合体では、ATP添加時にも、同様の現象が観察されるため、この現象を利用すればATPの検出も可能である。
【0184】
(試験例2:蛍光スペクトル測定による各種リン酸化合物に対する特性評価)
リン酸化合物(ATP、ADP、AMP、DNA又はRNA)を含む又は含まないTRIZMA buffer溶液中の実施例1~3並びに比較例1及び2のブロック共重合体それぞれの蛍光スペクトルによる評価を行った。
【0185】
試験例1で調製したサンプル溶液を用いて下記の測定条件で蛍光スペクトルの測定を行った。
【0186】
(測定条件)
蛍光スペクトル測定器:HITACHI F-4500
励起波長:411nm
蛍光開始波長:励起波長+5nm
蛍光終了波長:800nm
走査速度:100nm/min
レスポンス:0.5sec
データ取り込み間隔:5.0nm
スキャン速度:240nm/min
ホトマル電圧:950V
【0187】
結果を
図6~10に示す。「Blank」は、リン酸化合物を含まない溶液を意味する。
【0188】
実施例1~3のすべてのブロック共重合体で、DNA、RNAに対してTurn-off挙動が見られた(
図6~8)。実施例2のブロック共重合体(m:n=4:16)ではわずかに、ATP、ADP、AMPに対してTurn-on挙動が見られ、実施例1のブロック共重合体(m:n=7:14)では、ATP及びADPに対し、Turn-on挙動が見られ、実施例3のブロック共重合体(m:n=9:18)では、ATPに対してTurn-off挙動を示し、AMPとADPに対してTurn on挙動を示した(
図6~8)。
【0189】
比較例1のブロック共重合体では、AMPに対しては挙動変化がなく、DNA、RNA、ATP、ADPに対してTurn-on挙動が見られた(
図9)。比較例2のブロック共重合体では、DNAに対してのみTurn-on挙動が見られ、その他に対しては、Turn-off挙動を示した(
図10)。
【0190】
これらの結果から、実施例1~3のすべてのブロック共重合体は、比較例1及び2のブロック共重合体とは異なる挙動を示すことがわかった。また、ブロック共重合体の重合度を制御することで認識能の変化させることができることがわかった。とりわけ実施例3のブロック共重合体(m:n=9:18)は、ATPと、AMP又はADPとで異なった挙動を示すことから、ATP、ADP、AMP等の低分子リン酸化合物のリン酸基数に応じた選択的検出剤としての利用に期待ができる。
【0191】
(試験例3:蛍光スペクトル測定によるpH依存性評価)
様々な濃度(25、50、100、150、200μM)のATPを含む又は含まないpH=7.4、8.0、9.0のTRIZMA buffer溶液中の実施例3のブロック共重合体(m:n=9:18)の蛍光スペクトルを評価した。ブロック共重合体の濃度を5μMとして、試験例1と同様にサンプル溶液を調製し、試験例2と同様の測定条件で蛍光スペクトルの測定を行った。結果を
図11~13に示す。「Blank」は、ATPを含まない溶液を意味する。
【0192】
全てのpH条件下で、ATPを添加した際に蛍光強度の減少が確認され、pHの値が高いほど蛍光減少率は大きくなった。蛍光強度の減少率はpH=9.0で最も大きく、I0/I=2.4であった。既報において4位にメチル基を持ち3位の末端にトリフェニルホスフィン基が結合した側鎖を持つチオフェンブロック単位が生体至適pHである7.4の条件下で、ATPに対してI0/I=4以下まで消光することが報告されている(Huang, B.; Geng, Z.; Yan, S.; Li, Z.; Cai, J.; Wang, Z. Anal. Chem. 2017, 89, 8816.)。しかし、実施例3のブロック共重合体を用いたATPセンシングではI0/I=2程度の消光しか確認されなかった。これは、実施例3のブロック共重合体のフルオレンブロック単位で蛍光エネルギー遷移移動が起きているため、濃度消光によって減少する蛍光強度の減少に限界があることが要因として考えられる。
【0193】
(試験例4:溶解性評価)
実施例1~3並びに比較例1及び2のブロック共重合体それぞれを1mg/mLの濃度にて、40℃のメタノール、DMSO、水、アセトン、クロロホルム、DMF、及びTHF中に対して溶解を試みることにより、各種溶媒に対する溶解度を評価した。
【0194】
結果を下記の表に示す。完全に溶解した場合は、「溶解」と表し、完全に溶解しなかった場合は、「不溶」と表す。
【0195】
【0196】
上記の結果より、本発明のブロック共重合体は、極性溶媒である水、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等に対して高い溶解性を示すことが分かった。したがって、本発明のブロック共重合体は、一般に極性の高い生体物質の検出剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明のブロック共重合体は、ATP、ADP、AMP、DNA又はRNA等のリン酸化合物の検出に有用である。