(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】初期損傷形成治具及び初期損傷形成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220817BHJP
G01N 3/62 20060101ALN20220817BHJP
B64F 5/60 20170101ALN20220817BHJP
【FI】
G01N1/28 G
G01N3/62
B64F5/60
(21)【出願番号】P 2018158133
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】518306458
【氏名又は名称】大起産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177921
【氏名又は名称】坂岡 範穗
(72)【発明者】
【氏名】武藤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高井 吉広
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-199733(JP,A)
【文献】登録実用新案第3031118(JP,U)
【文献】特表2015-530570(JP,A)
【文献】中国実用新案第202485957(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0067499(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 3/00- 3/62
G01M 99/00
B64F 5/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体に設けられた試験孔に人工的な初期損傷を形成するための治具であって、
前記試験孔に対応したガイド孔、及び形成される初期損傷に対応したスリットを備え、前記試験体の両面に当接される2つの本体プレートと、
一方の前記本体プレートのガイド孔、前記試験孔、及び他方の前記本体プレートのガイド孔に貫通させて位置決めをして、2つの前記本体プレートのガイド孔及び前記試験孔による通し孔を形成する芯出しピンと、
2つの前記本体プレートを前記試験体の両面に固定する締結具と、
前記通し孔に挿入されるガイドピン、及び前記ガイドピンに装着され前記ガイドピンの半径方向に切削刃が突出するとともに前記スリットに差し込まれ前記試験孔に初期損傷を形成する刃物を備える引っ掻きピンと、
を備えることを特徴とする初期損傷形成治具。
【請求項2】
前記試験体を貫通するとともに、2つの前記本体プレートの一部に接触することで前記本体プレートの角度を決める角度決め部を備えることを特徴とする請求項1に記載の初期損傷形成治具。
【請求項3】
前記角度決め部が、前記本体プレートのうち前記ガイド孔の周囲に設けられたガイド溝、前記芯出しピンの端部に設けられた端溝、及び前記ガイド溝と前記端溝とに嵌められて前記本体プレートと前記芯出しピンとの回動を規制する溝用プレートとを備えることを特徴とする請求項2に記載の初期損傷形成治具。
【請求項4】
前記角度決め部が、前記試験体に貫通され固定されるとともに2つの前記本体プレートのうち少なくとも一方の側面に当接されるセットピンを備えることを特徴とする請求項2に記載の初期損傷形成治具。
【請求項5】
2つの前記本体プレートの前記試験体に当接される面に前記ガイド孔を挟んで設けられる脚部を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の初期損傷形成治具。
【請求項6】
前記切削刃が、前記刃物の先端側から根元側にかけて突出する寸法が漸次大きくなるよう構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の初期損傷形成治具。
【請求項7】
前記刃物が少なくとも第1刃物及び第2刃物を備え、
前記第1刃物が前記ガイドピンの軸に対して対称の切削刃を備え、
前記第2刃物のうち一方の切削刃が前記第1刃物の切削刃より突出されるとともに、他方は切削用の刃先が設けられていないことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の初期損傷形成治具。
【請求項8】
試験体に設けられた試験孔に人工的な初期損傷を形成する方法であって、
前記試験孔に対応したガイド孔、及び形成される初期損傷に対応したスリットを備える2つの本体プレートを前記試験体の両面に当接させるとともに、一方の前記本体プレートのガイド孔、前記試験孔、及び他方の前記本体プレートのガイド孔に芯出しピンを貫通させて2つの前記本体プレートのガイド孔及び前記試験孔による通し孔を形成する本体プレートセット工程と、
2つの前記本体プレートを所定の角度に調整する角度決め工程と、
2つの前記本体プレートを前記試験体の両面に固定する締結工程と、
ガイドピン及び前記ガイドピンに装着され前記ガイドピンの半径方向に切削刃が突出する刃物を備える引っ掻きピンを前記本体プレートのガイド孔及び前記スリットに挿入することで、前記刃物で前記試験孔の周囲を切削して前記試験孔に初期損傷を形成する引っ掻き工程と、
を含むことを特徴とする初期損傷形成方法。
【請求項9】
前記角度決め工程が、前記本体プレートのうち前記ガイド孔の周囲に設けられたガイド溝と前記芯出しピンの端部に設けられた端溝とに、前記本体プレートと前記芯出しピンとの回動を規制する溝用プレートを嵌める作業を含むことを特徴とする請求項8に記載の初期損傷形成方法。
【請求項10】
前記角度決め工程が、セットピンを前記試験体に貫通させて固定するとともに、前記セットピンを2つの前記本体プレートのうち少なくとも一方の側面に当接する作業を含むことを特徴とする請求項8に記載の初期損傷形成方法。
【請求項11】
2つの前記本体プレートの前記試験体に当接される面に前記ガイド孔を挟んで設けられる脚部を備え、前記本体プレートセット工程で前記試験孔と前記ガイド孔との間に隙間を設けることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の初期損傷形成方法。
【請求項12】
前記切削刃が、前記刃物の先端側から根元側にかけて突出する寸法が漸次大きくなるよう構成され、前記引っ掻きピンを一方向のみに移動させて前記試験孔に初期損傷を形成することを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1項に記載の初期損傷形成方法。
【請求項13】
前記刃物が少なくとも前記ガイドピンの軸に対して対称の切削刃を備える第1刃物、及び一方の切削刃が前記第1刃物の切削刃より突出されるとともに他方は切削用の刃先が設けられていない第2刃物を備え、
前記引っ掻き工程が前記第1刃物で前記試験孔の軸に対して対称な初期損傷を形成した後、前記第2刃物で前記試験孔の軸に対して非対称な初期損傷を形成することを特徴とする請求項8ないし12のいずれか1項に記載の初期損傷形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、車両又はその他の構造物の強度試験において、リベット、ボルト等の結合用の孔に予め人工的な亀裂である初期損傷を形成するための治具及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機の機体の強度試験を行なう際、リベット用の孔に人工的な亀裂(初期損傷)を糸ノコで形成し、その後に内部を加圧する等して初期損傷が成長するか否かを確認していた。
【0003】
また、測定すべき試験片に対し、測定に必要な一定深さの切れこみを精度よく、かつ再現性よく形成することを目的として、登録実用新案公報第3031118号公報に、試験片を嵌着可能なキャビティを備える試験片ホルダーと、刃先が一定長さに突出するカッターホルダーと、前記試験片ホルダーと前記カッターホルダーとを相対的に移動させる往復動機構とを備える試験片切込み形成用具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、人工的な初期損傷を形成する際には、その初期損傷の幅及び長さに精度が要求されるところ、上記の糸ノコで初期損傷を形成する方法では、高精度の初期損傷を形成するのが困難であるとともに、初期損傷の形成に時間がかかり一つの孔あたり約1日を要していた。また、試験に用いられる試験体は、航空機の機体の一部を切り取った実物の模型であり、その模型の製作だけで数千万円の費用がかかっていた。このような高価な試験体であるから、初期損傷の形成に際し失敗は許されず、作業者の大きな負担となっていた。
【0006】
また、特許文献1に開示されている技術では、比較的小さな試験片に対しては有効であるものの、大きな試験体に対しては用いることができないという課題があった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、試験体の大きさに左右されずに人工的な初期損傷を高精度かつ効率よく形成することができる初期損傷形成治具及び初期損傷形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の初期損傷形成治具は、
試験体に設けられた試験孔に人工的な初期損傷を形成するための治具であって、
前記試験孔に対応したガイド孔、及び形成される初期損傷に対応したスリットを備え、前記試験体の両面に当接される2つの本体プレートと、
一方の前記本体プレートのガイド孔、前記試験孔、及び他方の前記本体プレートのガイド孔に貫通させて位置決めをして、2つの前記本体プレートのガイド孔及び前記試験孔による通し孔を形成する芯出しピンと、
2つの前記本体プレートを前記試験体の両面に固定する締結具と、
前記通し孔に挿入されるガイドピン、及び前記ガイドピンに装着され前記ガイドピンの半径方向に切削刃が突出するとともに前記スリットに差し込まれ前記試験孔に初期損傷を形成する刃物を備える引っ掻きピンと、
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の初期損傷形成治具によれば、芯出しピンによって、試験孔と本体プレートのガイド孔とで連通した通し孔が形成される。このため、当該通し孔に引っ掻きピンを挿入して抜くときに、通し孔の軸方向のみに引っ掻きピンが移動する。また、引っ掻きピンに装着された刃物は、ガイド孔の周囲に設けられたスリットに差し込まれてその向きが定められる。これらによって、高精度な初期損傷を効率よくかつ容易に形成することができる。
【0010】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例は、
前記試験体を貫通するとともに、2つの前記本体プレートの一部に接触することで前記本体プレートの角度を決める角度決め部を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例は、
前記角度決め部が、前記本体プレートのうち前記ガイド孔の周囲に設けられたガイド溝、前記芯出しピンの端部に設けられた端溝、及び前記ガイド溝と前記端溝とに嵌められて前記本体プレートと前記芯出しピンとの回動を規制する溝用プレートとを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例は、
前記角度決め部が、前記試験体に貫通され固定されるとともに2つの前記本体プレートの少なくとも一方の側面に当接されるセットピンを備えることを特徴とする。
【0013】
これらの本発明の初期損傷形成治具の好ましい例によれば、角度決め部を備えるため2つの本体プレート同士の角度、及び試験孔に形成される初期損傷の角度を決める作業が容易となる。
【0014】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例は、
2つの前記本体プレートの前記試験体に当接される面に前記ガイド孔を挟んで設けられる脚部を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例によれば、本体プレートのうち試験体に当接される面に前記ガイド孔を挟んで設けられる脚部を備えるため、本体プレートのうちガイド孔周辺が脚部に対して凹状となる。これにより、試験体に本体プレートを当接させたとき、試験孔とガイド穴との間に隙間が形成され、試験体が円筒形等の湾曲した形状であっても対応することができる。
【0016】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例は、
前記切削刃が、前記刃物の先端側から根元側にかけて突出する寸法が漸次大きくなるよう構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例によれば、削刃が、刃物の先端側から根元側にかけて突出する寸法が漸次大きくなるよう構成されているため、刃物を一方向に動かして試験孔に初期損傷を形成するようになる。これにより、初期損傷の切削面をより滑らかにすることができる。
【0018】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例は、
前記刃物が少なくとも第1刃物及び第2刃物を備え、
前記第1刃物が前記ガイドピンの軸に対して対称の切削刃を備え、
前記第2刃物のうち一方の切削刃が前記第1刃物の切削刃より突出されるとともに、他方は切削用の刃先が設けられていないことを特徴とする。
【0019】
本発明の初期損傷形成治具の好ましい例によれば、刃物が少なくとも第1刃物及び第2刃物を備え、さらに第2刃物のうち一方の切削刃が前記第1刃物の切削刃より突出されるとともに、他方は切削用の刃先が設けられていない。このため、先に第1刃物で試験孔の軸に対して対称の初期損傷を形成し、次に第2刃物で試験孔の軸に対して非対称の初期損傷を形成することができる。
【0020】
本発明の初期損傷形成方法は、
試験体に設けられた試験孔に人工的な初期損傷を形成する方法であって、
前記試験孔に対応したガイド孔、及び形成される初期損傷に対応したスリットを備える2つの本体プレートを前記試験体の両面に当接させるとともに、一方の前記本体プレートのガイド孔、前記試験孔、及び他方の前記本体プレートのガイド孔に芯出しピンを貫通させて2つの前記本体プレートのガイド孔及び前記試験孔による通し孔を形成する本体プレートセット工程と、
2つの前記本体プレートを所定の角度に調整する角度決め工程と、
2つの前記本体プレートを前記試験体の両面に固定する締結工程と、
ガイドピン及び前記ガイドピンに装着され前記ガイドピンの半径方向に切削刃が突出する刃物を備える引っ掻きピンを前記本体プレートのガイド孔及び前記スリットに挿入することで、前記刃物で前記試験孔の周囲を切削して前記試験孔に初期損傷を形成する引っ掻き工程と、
を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の初期損傷形成方法の好ましい例は、
前記角度決め工程が、前記本体プレートのうち前記ガイド孔の周囲に設けられたガイド溝と前記芯出しピンの端部に設けられた端溝とに、前記本体プレートと前記芯出しピンとの回動を規制する溝用プレートを嵌める作業を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の初期損傷形成方法の好ましい例は、
前記角度決め工程が、セットピンを前記試験体に貫通させて固定するとともに、前記セットピンを2つの前記本体プレートのうち少なくとも一方の側面に当接する作業を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の初期損傷形成方法の好ましい例は、
2つの前記本体プレートの前記試験体に当接される面に前記ガイド孔を挟んで設けられる脚部を備え、前記本体プレートセット工程で前記試験孔と前記ガイド孔との間に隙間を設けることを特徴とする。
【0024】
本発明の初期損傷形成方法の好ましい例は、
前記切削刃が、前記刃物の先端側から根元側にかけて突出する寸法が漸次大きくなるよう構成され、前記引っ掻きピンを一方向のみに移動させて前記試験孔に初期損傷を形成することを特徴とする。
【0025】
本発明の初期損傷形成方法の好ましい例は、
前記刃物が少なくとも前記ガイドピンの軸に対して対称の切削刃を備える第1刃物、及び一方の切削刃が前記第1刃物の切削刃より突出されるとともに他方は切削用の刃先が設けられていない第2刃物を備え、
前記引っ掻き工程が前記第1刃物で前記試験孔の軸に対して対称な初期損傷を形成した後、前記第2刃物で前記試験孔の軸に対して非対称な初期損傷を形成することを特徴とする。
【0026】
これらの本発明の初期損傷形成方法によれば、上述の初期損傷形成治具と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0027】
上述の初期損傷形成治具及び初期損傷形成方法によれば、試験体の大きさに左右されずに人工的な初期損傷を高精度かつ効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る初期損傷形成治具の一部と試験体とを説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る初期損傷形成治具を説明する図である。
【
図3】本体プレート及び本体プレートとセットピンとの位置関係を説明する図である。
【
図4】角度決め部(セットピン)の例を説明する図である。
【
図5】角度決め部(ガイド溝等)の例を説明する図である。
【
図7】角度決め部のさらに他の例及び角度決め工程の例を説明する図である。
【
図11】引っ掻き工程におけるブッシュ、試験体、ガイドブロックの断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る初期損傷形成方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の初期損傷形成治具10及び初期損傷形成方法の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の初期損傷形成方法は、本発明の初期損傷形成治具10を用いて実施される。
【0030】
先ず、試験孔92に初期損傷94,95(
図12参照)を形成する試験体90について説明する。
図1に示すように、本実施形態では航空機の機体の一部を用いた試験体90を使用する。この試験体90は、航空機の胴体の一部のうち、扉等の開口部91の周辺に設けられたリベット等の結合用の孔に亀裂が生じたときの強度を試験するものである。詳しくは、リベット用の孔である試験孔92に初期損傷形成治具10を配置して、人工的な亀裂である初期損傷94,95を試験孔92の周囲に形成し、その後に試験体90内を加圧する等して、初期損傷94,95から新たな亀裂が生じるか否か、また亀裂が生じた場合の進展挙動を確認する。なお、予備孔93は、初期損傷形成治具10の角度等を決めるため、試験孔92に隣接して設けられる孔であり、リベット用の他の孔を利用している。
【0031】
次に、
図2から
図11を参照して、本実施形態の初期損傷形成治具10を説明する。
図2に示すように、本実施形態の初期損傷形成治具10は、2つの本体プレート20a,20bと、芯出しピン33と、角度決め部80,81と、締結具70と、引っ掻きピン50と、ガイドブロック60と、ハンドル71とを備える。
【0032】
本体プレート20a,20bは
図3(A)~(D)に示すように、本体部21a,21b、脚部22a,22b,23a,23b、ブッシュ40a,40bを備える。この本体プレート20a,20bは、試験体90の表側と裏側とに当接される2つで構成される。ここで、
図3(A)は試験体90の表側に当接される本体プレート20aの正面図、
図3(B)はその側面図、
図3(C)は試験体90の裏側に当接される本体プレート20bの正面図、
図3(D)はその側面図である。なお、
図3(A)(C)では、後述するセットピン30の雄ねじ側31と雌ねじ側32とを破線で示している。
【0033】
本体部21a,21bは、正面視略横L字状をなす板状の部材であり、その表面の略中央にはブッシュ40a,40bが嵌められ、ブッシュ40a,40bの回動防止のため半円形の切り欠き24a,24bが設けられる。この本体部21a,21bは、試験体90の開口部91の角に合わせた形状であり、試験体90が変わればその形状も変更されることがある。脚部22a,22b,23a,23bは、本体部21a,21bの裏面の端部にブッシュ40a,40bを挟んで対向して設けられるもので、本実施形態では1対の平行した脚部22a,22b,23a,23bとして、本体部21a,21bとあわせて側面視で略コ字状をなしている。この脚部22a,22b,23a,23bによって、本体部21a,21bと試験体90との間に隙間s1,s2(
図11参照)が形成される。これにより、試験体90が円筒形等の曲面をなしていても、問題なく本体プレート20a,20bを試験体90に当接させることができる。
【0034】
ブッシュ40a,40bは、
図3(A)(C)及び
図5に示すように、ガイド孔41a,41b、スリット42a,42b,43a,43b、ガイド溝44a,44b、半円形の切り欠き45a,45b、位置決め孔46a,46b、及びねじ孔47a,47bを備える。このブッシュ40a,40bは、略円筒形の部材であり本体部21a,21bの略中央に配置される。ガイド孔41a,41bは、ブッシュ40a,40bの中央に設けられており、試験体90の試験孔92に対応する径となっている。スリット42a,42b,43a,43bは、ガイド孔41a,41bの周囲に設けられるもので、試験孔92に形成される初期損傷94,95に対応した形状及び角度となっている。なお、本実施形態では、初期損傷94,95が試験孔92に対して非対称となってその深さが異なるため、スリット42a,42bとスリット43a,43bもその長さが相違している。
【0035】
ガイド溝44a,44bは、後述する角度決め部81の構成要素の一部である。切り欠き45a,45bは、本体部21a,21bに設けられた切り欠き24a,24bに対応しており、ここに図示しないピンが差し込まれることでブッシュ40a,40bの本体部21a,21bに対する角度を決めている。位置決め孔46a,46bとねじ孔47a,47bは、後述するガイドブロック60を装着するためのものである。
【0036】
芯出しピン33は、
図5に示すように、一方の本体プレート20a(ブッシュ40a)のガイド孔41a、試験体90の試験孔92、及び他方の本体プレート20b(ブッシュ40b)のガイド孔41bに貫通させて、本体プレート20a,20bの位置決めをする棒状の部材である。このように、2つの本体プレート20a,20b(ブッシュ40a,40b)のガイド孔41a,41b及び試験孔92に芯出しピン33が貫通されることで、ガイド孔41a,41bと試験孔92による通し孔96が形成される。また、芯出しピン33の両端には、後述する角度決め部81の構成要素の一部である端溝34a,34bが設けられる。
【0037】
角度決め部80,81は本体プレート20a,20bを所定の角度に決めるもので、本実施形態では2つの意味で用いられる。1つめは、
図12に示すように、試験孔92の基準となる中心線cに対する初期損傷94,95の角度θを決めることを主な目的とするためである(以下、これを「1つめの目的」というときがある。)。これは、初期損傷94,95を形成する際、試験孔92の中心線cに対する角度θが仕様で定められていることが多いためである。2つめは、一方の本体プレート20aと他方の本体プレート20bとの角度を合わせることを目的とするためである(以下、これを「2つめの目的」というときがある。)。これは、試験体90を挟み込む2つのブッシュ40a,40bのスリット42a,42b,43a,43bの角度を合わせて、後述する引っ掻きピン50の刃物53が滑らかに抜けるようにするためである。
【0038】
先ず、上記の1つめの目的である、試験孔92の中心線cに対する初期損傷の角度を決めるための角度決め部80を説明する。本実施形態の初期損傷形成治具10は、角度決め部80として
図4に示すセットピン30を備える。セットピン30は、試験体90のうち試験孔92に隣接する予備孔93に固定されるもので、雄ねじ側31と雌ねじ側32とを備える。この雄ねじ側31が予備孔93に挿入され、雌ねじ側32と螺着されることによって試験体90に固定される。その状態で、
図3(A)(C)に示すように、雄ねじ側31の頭部及び雌ねじ側32の胴部が、試験体90の両面に当接された本体プレート20a,20bの一部に接触する。このようにして、本体プレート20a,20bの角度を決定する。
【0039】
また、他の例の角度決め部82として、
図6(A)(B)に示すように、試験体90に複数の予備孔が設けられているとき、ボルト36を一方の本体プレート20aの上から予備孔と他方の本体プレート20bに貫通させ、次に他方の本体プレート20bの上からナット37で締結させて本体プレート20a,20bの角度を決めてもよい。なお、これらの
図3(A)(C)、
図4、及び
図6(A)(B)に示す角度決め部80,82でも、上記の2つめの目的である、一方の本体プレート20aと他方の本体プレート20bとの角度を合わせることは可能である。
【0040】
次に、2つめの目的において用いられる角度決め部81を説明する。これは、2つめの目的において上述の角度決め部80,82よりさらに精度を高めるために用いられるものである。
図5に示すように、この角度決め部81は、ガイド溝44a,44b、端溝34a,34b、溝用プレート35a,35bを備える。なお、これらのガイド溝44a,44b、端溝34a,34b、溝用プレート35a,35bは、試験体90の表側と裏側にそれぞれ配置されるため、本実施形態では2つずつ備えられる。ガイド溝44a,44bは、本体プレート20a,20bのブッシュ40a,40bに設けられたガイド孔41a,41bの周囲に構成された溝である。端溝34a,34bは、芯出しピン33の両端部に設けられた溝であり、上記ガイド溝44a,44bと同じ幅に構成される。溝用プレート35a,35bは、上記のガイド溝44a,44bと端溝34a,34bとの位置及び角度を合わせたところに嵌められて、本体プレート20a,20bと芯出しピン33との回動を規制するものである。これらのガイド溝44a,44b、端溝34a,34b、溝用プレート35a,35bが、試験体90の両面に当接された本体プレート20a,20bで機能することによって、2つの本体プレート20a,20b同士の角度が同じとなる。
【0041】
また、特に高い精度が要求されない場合における、2つめの目的のための角度決め部83の例として、
図7(A)に示すように、本体プレート20a,20bの側面に定規83等の直線状の当て物をして、2つの本体プレート20a,20bの角度を合わせることができる。また、
図7(B)に示すように、角度決め部を用いずに、目視で2つの本体プレート20a,20bの角度を合わせることもできる。
【0042】
締結具70は、試験体90の両面に当接された2つの本体プレート20a,20bを固定するためのもので、本実施形態では
図2に示すように、公知のクランプ70を用いている。なお、締結具は、これに限られず、例えば、上述の
図6(A)(B)に示す角度決め部82に用いられているボルト36とナット37とをもって締結具としてもよい。
【0043】
引っ掻きピン50は、
図8(A)~(F)に示すガイドピン51a,51bと、
図9(A)(B)に示す刃物53とを備える。ガイドピン51a,51bは、ガイド孔41a,41bと試験孔92に挿入された芯出しピン33が抜かれることによって形成された通し孔96に差し込まれるものであり、断面半円状の棒材2本で構成されている。この2本の棒材の間に刃物53を挟んで、図示しないボルト等で留めることで、刃物53の切削刃55a,55bがガイドピン51a,51bの半径方向に突出する引っ掻きピン50となる。
【0044】
刃物53は、通し孔96を通過するときに試験孔92の周囲を切削して初期損傷94,95を形成するものであり、刃体59と切削刃55a,55bとを備える。この刃物53は先端側57の幅w1がガイドピン51a,51bの半径と略同じであり、根元側58にいくに従い漸次幅広に構成されている。このため、先端側57から根元側58にいくに従い、ガイドピン51a,51bから切削刃55a,55bが突出する寸法が次第に大きくなるようになっている。また、刃物53には一般的な鋸のようなあさりが設けられておらず、刃体59の厚さt1と切削刃55a,55bの厚さt2が同じに構成されている。
【0045】
また、本実施形態の初期損傷形成治具10では、少なくとも第1刃物53と第2刃物54とを備える。第1刃物53は
図9(A)(B)で説明したとおりであり、ガイドピン51a,51bの軸に対して対称の切削刃55a,55bを備える。第2刃物54は、
図9(C)に示すように、一方の切削刃56aが第1刃物53の切削刃55aよりガイドピン51a,51bから大きく突出される。また、他方の切削刃56bは、突出する寸法が第1刃物53の切削刃55bと略同じ寸法とされるとともに、切削用の刃先が設けられていない。これにより、第1刃物53、第2刃物54の順で引っ掻きピン50を通し孔に入れて抜くことで、試験孔92の軸に対して非対称の初期損傷94,95を形成することができる。なお、ガイドピン51a,51bの半径方向に突出する寸法が異なる刃物の種類をさらに増やして、徐々に試験孔92の周囲を切削することでさらに深い初期損傷を形成することもできる。
【0046】
ガイドブロック60は、
図10(A)~(D)に示すように、ガイドピン51a,51bを通すための予備ガイド孔61、刃物53を通過させるための予備スリット62、位置決めをするための位置決めピン63、固定用のボルトを通すためのボルト孔64を備える。そして、ブッシュ40a,40bの位置決め孔46a,46bに位置決めピン63が挿入されるとともに、ブッシュ40a,40bのねじ孔47a,47bとボルト孔64とがボルト(図示せず)で固定される(
図11参照)。これにより、2つの本体プレート20a,20bのブッシュ40a,40bのガイド孔41a,41b、及び試験孔92による通し孔96が、ガイドブロック60の予備ガイド孔61で延長される。そして、ガイドピン51a,51bがガイドブロック60側から差し込まれることで、引っ掻きピン50をより精密に試験孔92に案内することができる。なお、このガイドブロック60は必須の構成ではなく、ガイドブロック60を設けずに、ブッシュ40a,40bのガイド孔41a,41bのみで引っ掻きピン50を試験孔92に案内してもよい。
【0047】
図2に戻りハンドル71は、ガイドブロック60側から挿入された引っ掻きピン50の先端に装着されるもので、引っ掻きピン50を抜くときに力を入れやすいようにするために設けられる。なお、試験体90の材質、厚さ等の条件によっては、人手でハンドル71を引っ張るだけでは引っ掻きピン50が抜けないときがある。そのようなときは、ハンドル71の代わりにベアリングプーラのような増力機構を用いて引っ掻きピン50を引き抜くこともできる。
【0048】
次に、上述の初期損傷形成治具10の構成要素を踏まえ、初期損傷形成治具10を用いた初期損傷形成方法を説明する。
[本体プレートセット工程]
本体プレートセット工程は、2枚の本体プレート20a,20bを試験体90の両面の所定の位置に当接させるものである。これより詳細な手順を説明する。先ず、試験体90の予備孔93に、セットピン30の雄ねじ側31を挿入し、裏側から雌ねじ側32を螺着してセットピン30を固定する(
図2、
図4参照。S1010)。
【0049】
次に、一方の本体プレート20aのブッシュ40aのガイド孔41aに芯出しピン33を挿入するとともに、溝用プレート35aをガイド溝44aと端溝34aとに嵌めて、一方の本体プレート20aと芯出しピン33との回動を規制する(
図2、
図5参照。S1020)。次に、芯出しピン33を試験孔92に挿入しながら、一方の本体プレート20aを試験体90の一方の面に当接させる(S1030)。このとき、本体プレート20aの脚部22a,23aの長辺側を、円筒形をなす試験体90の軸と平行な方向にして、試験体90の表面の円弧状の膨らみを一対の脚部22a,23aの間で吸収させる。次に、他方の本体プレート20bのブッシュ40bのガイド孔41bを、試験体90の他方の面に突出した芯出しピン33に挿入させながら、他方の本体プレート20bを試験体90の他方の面に当接させる(S1040)。これらの作業によって、2つの本体プレート20a,20bが試験体90の両面の所定の位置に当接されるとともに、2つの本体プレート20a,20bのガイド孔41a,41b及び試験孔92による通し孔96(この時点では芯出しピン33によって塞がれている。)が形成される。
【0050】
[角度決め工程]
角度決め工程は、上述の1つめの目的のための工程と、2つめの目的のための工程が含まれる。先ず、2つめの目的である、一方の本体プレート20aと他方の本体プレート20bとの角度を合わせるための作業を行なう。本体プレートセット工程を終えた2枚の本体プレート20a,20bをそのまま保持しながら、他方の本体プレート20bのブッシュ40bのガイド溝44bと、芯出しピン33の端溝34bとの角度を合わせ、他方の本体プレート20bのガイド溝44bと端溝34bとに他方の溝用プレート35bを嵌める(S1050)。これにより、ブッシュ40a,40bのガイド溝44a,44b、芯出しピン33の端溝34a,34b、及び溝用プレート35a,35bで2つの本体プレート20a,20b同士の回動が規制され、一方の本体プレート20aと他方の本体プレート20bとの相対する角度が決められる(
図2、
図5参照)。
【0051】
次に、1つめの目的である、試験孔92の中心線cに対する初期損傷94,95の角度θを決めるための作業を行なう。これは、2つの本体プレート20a,20bの両方又は片方の側面の一部を、セットピン30に当接させることでなされる(
図2、
図3参照。S1060)。これにより、試験孔92の中心線cに対する初期損傷94,95の角度θが決められる(
図12参照。)。なお、2つめの目的による、2つの本体プレート20a,20b同士の角度に特段の精度が要求されない場合、上記のステップS1020及びS1050は省略して、ステップS1060のみで本体プレート20a,20bの角度を決めてもよい。
【0052】
また、既に述べたように、角度決め工程を、例えば
図6(A)(B)に示すように、2つの本体プレート20a,20bをボルト36、ナット37等で締結することでも代用してもよい。さらに、
図7(A)に示すように、2つの本体プレート20a,20bに定規83等の直線状のものを当てる、又は図(B)に示すように目視で角度を決めて角度決め工程とすることもできる。
【0053】
[締結工程]
締結工程は、本体プレートセット工程及び角度決め工程で位置及び角度が決められた2つの本体プレート20a,20bを、動かないように固定するものである。ここでは、試験体90の開口部91に公知のクランプ70を渡して、2つの本体プレート20a,20bを締結して固定する(S1070)。なお、ここでも、締結工程の他の例として、例えば
図6(A)(B)に示すように、2つの本体プレート20a,20bをボルト36、ナット37等で締結してもよい。また、締結工程は、2つの本体プレート20a,20bを試験体90に固定することが目的であるため、試験体90の厚さ、材質、開口部91や予備孔93の有無等の条件によっては、本体プレート20a,20bと試験体90とを溶接又は接着することもできる。
【0054】
[引っ掻き工程]
引っ掻き工程では、試験孔92の周囲に初期損傷94,95を形成する。先ず、本体プレートセット工程及び角度決め工程で装着された溝用プレート35a,35b及び芯出しピン33を取外して、2つの本体プレート20a,20bのガイド孔41a,41b及び試験孔92による通し孔96を開通させる(S1080)。次に、
図10(A)~(D)に示すガイドブロック60を他方の本体プレート20bのブッシュ40bに装着する(
図2、
図11参照。S1090)。なお、このステップS1090は必須ではなく、ガイドブロック60を装着せずに次の作業を行なってもよい。
【0055】
次に、
図8(A)~(F)に示す分割されたガイドピン51a,51bの間に、第1刃物53を装着して引っ掻きピン50を組立てる(
図2参照。S1100)。次に、
図11に示すように、ガイドピン51a,51bをガイドブロック60の予備ガイド孔61から通し孔96に挿入して、他方の本体プレート20bのブッシュ40bのガイド孔41b、試験孔92、一方の本体プレート20aのブッシュ40aのガイド孔41aに通す(S1110)。このとき、ガイドピン51a,51bの半径方向に突出した刃物53がガイドブロック60の予備スリット62及びブッシュ40a,40bのスリット42a,42b,43a,43bを通るように引っ掻きピン50を調整する。
【0056】
次に、一方の本体プレート20aから突出した引っ掻きピン50に、ハンドル71を装着する(S1120)。そして、ハンドル71を引いて、引っ掻きピン50を一方向(
図11の上方向)に抜くと、第1刃物53の切削刃55a,55bによって試験孔92の周囲に初期損傷が形成される(S1130)。これにより、試験孔92の軸に対して対称の初期損傷が形成される。この初期損傷でよければ作業はここで終了する(S1140,S1160)。一方、
図12に示すように、試験孔92の軸に対して非対称の初期損傷94,95を形成したいときは、次の作業に進む。なお、ハンドル71の代わりにベアリングプーラ等の増力機構を用いて引っ掻きピン50を抜いてもよい。
【0057】
次に、抜いた引っ掻きピン50とハンドル71とを外し、ガイドピン51a,51bを分割して第1刃物53を外して、ガイドピン51a,51bに
図9(C)に示す第2刃物54を装着する(S1150)。そして、上記のステップS1110からの作業を繰り返す。これにより、第2刃物54のうち一方の切削刃56aで初期損傷をさらに深く切削するとともに、他方の切削用の刃先が設けられていない側56bはそれ以上切削されず、試験孔92の軸に対して非対称の初期損傷94,95が形成される(
図12参照)。なお、さらに深い初期損傷を形成したいときには、ガイドピン51a,51bから切削刃が突出する寸法が異なる別の刃物(図示せず)を用意して、上記のステップS1110~S1150を繰り返せばよい。
【0058】
また、上述の各ステップは、結果的に初期損傷94,95が形成されればその順序を適宜入れ替えてもよい。例えば、本体プレートセット工程では、先に2つの本体プレート20a,20bを試験体90の両面に当接させた後に、芯出しピン33を挿入してもよい。
【0059】
以上、説明したように、本実施形態の初期損傷形成治具10及び初期損傷形成方法によれば、引っ掻きピン50を通し孔96から抜くときに刃物53で試験孔92の周りを切削する。また、試験体90の両面に本体プレート20a,20bを当接させ、本体プレート20a,20bに設けられたガイド孔41a,41bに案内させて引っ掻きピン50を抜く。このため、刃物を試験孔92の軸に対して真っ直ぐに引き抜くことができるとともに、刃物が一方方向に動く。これにより、試験体90の大きさに左右されずに、高精度な初期損傷94,95を形成することができる。
【0060】
例えば、本実施形態の初期損傷形成治具10及び初期損傷形成方法によると、幅wが0.2mm程度の細い初期損傷を形成することが可能である。このような細い初期損傷を糸ノコで形成することは困難であり、また糸ノコで初期損傷を形成すると、糸ノコを往復させることから初期損傷の幅が一定でなくなるとともに切削面が荒れてしまう。このように切削面が荒れてしまうと、その荒れた部分から亀裂が成長してしまい、強度試験において正しい測定結果が得られないことがある。
【0061】
一方、本実施形態では、刃物53を一方方向に動かして切削していること、及び刃体59の厚さt1と切削刃55a,55bの厚さt2が同じであることから、非常に幅wが細くかつ綺麗な切削面とすることができ、強度試験においても正確な測定結果が期待できる。さらに、糸ノコを用いて初期損傷を形成する方法では、1つの孔に対して約1日の工数がかかっていたが、本実施形態では約1時間で作業を終えることができる。
【0062】
また、本体プレート20a,20bに脚部22a,22b,23a,23bを備えるため、ブッシュ40a,40bと試験体90との間に隙間s1,s2が形成され、表面が湾曲した試験体90にも対応することができる。また、第1刃物53及び第2刃物54を備えるため、初期損傷の深さdを試験孔92の軸に対して非対称とすることも可能であり、さらに他の刃物を備えることで、より深い初期損傷も形成可能である。なお、本実施形態の初期損傷形成治具10では、刃物を複数種類用意することで、深さdが0.1~2.0mm程度の初期損傷を形成することができる。
【0063】
なお、上述の初期損傷形成治具10及び初期損傷形成方法は本発明の例示であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲においてその構成を適宜変更することができる。
例えば、本実施形態の初期損傷形成治具10及び初期損傷形成方法は、例示する航空機に限られず、自動車、鉄道車両、ビル等の建築物、橋梁等の構造物等の様々なものに用いることができる。また、初期損傷の幅w及び深さdも、試験体の態様によって様々な寸法を採用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10・・初期損傷形成治具、
20a,20b・・本体プレート、21a,21b・・本体部、22a,22b,23a,23b・・脚部、24a,24b・・切り欠き(本体プレート)、
30・・セットピン、31・・雄ネジ側、32・・雌ねじ側、33・・芯出しピン、34a,34b・・端溝、35a,35b・・溝用プレート、36・・ボルト、37・・ナット、
40a,40b・・ブッシュ、41a,41b・・ガイド孔、42a,42b,43a,43b・・スリット、44a,44b・・ガイド溝、45a,45b・・切り欠き(ブッシュ)、46a,46b・・位置決め孔、47a,47b・・ねじ孔
50・・引っ掻きピン、51a,51b・・ガイドピン、53・・第1刃物(刃物)、54・・第2刃物、55a,55b,56a,56b・・切削刃、57・・先端側、58・・根元側、59・・刃体、
60・・ガイドブロック、61・・予備ガイド孔、62・・予備スリット、63・・位置決めピン、64・・ボルト孔、
70・・締結具(クランプ)、71・・ハンドル、
80,81,82・・角度決め部、83・・角度決め部(定規)、
90・・試験体、91・・開口部、92・・試験孔、93・・予備孔、94,95・・初期損傷、96・・通し孔、