(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】水中探査装置、船舶、および水中探査方法
(51)【国際特許分類】
B63B 21/66 20060101AFI20220817BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20220817BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20220817BHJP
G01S 7/521 20060101ALN20220817BHJP
B63B 45/08 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
B63B21/66
B63C11/00 C
B63C11/00 A
B63B35/00 N
G01S7/521 B
B63B45/08
(21)【出願番号】P 2019198425
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 直之
(72)【発明者】
【氏名】島津 定生
【審査官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04285485(US,A)
【文献】特表2019-519780(JP,A)
【文献】特開2010-030340(JP,A)
【文献】米国特許第05574700(US,A)
【文献】米国特許第05142497(US,A)
【文献】米国特許第04850559(US,A)
【文献】米国特許第04980872(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106218813(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101811562(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0067662(US,A1)
【文献】特開2017-165136(JP,A)
【文献】特開平07-017481(JP,A)
【文献】特開2011-168125(JP,A)
【文献】特開平11-326500(JP,A)
【文献】実開昭48-064990(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第02322420(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/66
B63C 11/00
B63B 35/00
G01S 7/521
B63B 45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上を航行可能な母船から所定の間隔をおいた位置であって、前記母船の喫水より
下方側の位置に配置可能に設けられた探査機と、
前記母船に設けられて前記探査機を前記喫水より上方位置に移動させる昇降装置と、
を有し、
前記昇降装置は、前記母船の幅方向に向く略水平な軸を中心として回動可能に設けられたアームであって、
前記アームは、前記母船の船底の
下方側の位置と、前記母船の船尾より後方の位置との間で回動可能であって、
このアームの前記軸から離れた位置に前記探査機が設けられ、
前記探査機は、前記母船の喫水より
下方側の位置に配置された場合、前記母船の主機音、スクリュープロペラの回転による推進器音を含む、前記母船が放射する騒音を前記探査機の垂直探査範囲外になるよう、前記母船の前記主機、スクリュープロペラの
下方側の位置に配置され、
前記母船の喫水より上方の位置に配置された場合、前記アームの回動により前記船尾より後方の水面上に引き上げられ、
前記母船は複数軸の構成であって、前記アームは、前記軸により駆動される複数軸のスクリュープロペラの間の位置で回転することにより昇降する、
水中探査装置。
【請求項2】
前記探査機は、自身の周囲の一部の領域が他の領域より探査感度が低く、前記一部の領域を前記母船に向けた状態で前記喫水より下方に配置される、
請求項1に記載の水中探査装置。
【請求項3】
前記昇降装置は、前記アームを回動範囲の所定位置で固定する固定装置を有する、
請求項1または2のいずれか1項に記載の水中探査装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水中探査装置と、
この水中探査装置を搭載する母船と、
を有する、
船舶。
【請求項5】
母船に搭載された探査機を前記母船の喫水より上方に配置した状態で母船を航行させる工程と、
前記探査機を前記母船の喫水より
下方側の位置に配置した状態で前記母船を所定以下の速度で航行させる工程と、
前記母船の喫水より
下方側の位置に配置された探査機により水中を探査する工程と、
を有する水中探査方法であって、
前記母船のスクリュープロペラの幅方向に向く略水平な軸を中心として回動可能なアームに設けられた前記探査機を
前記母船の複数のスクリュープロペラの間の位置で前記アームを回転させることによって、前記母船の喫水より上方の位置と
下方側の位置との間で回転
とともに昇降させる工程を有し、
前記探査機が前記母船の喫水より
下方側の位置に配置された場合、前記母船の主機音、スクリュープロペラの回転による推進器音を含む、前記母船が放射する騒音を前記探査機の垂直探査範囲外になるよう、前記母船の前記主機、スクリュープロペラの
下方側の位置に配置され、
前記探査機が前記母船の喫水より上方の位置に配置された場合、前記アームの回動により
前記母船の船尾より後方の水面上に引き上げられる、
水中探査方法。
【請求項6】
前記探査機は、自身の周囲の一部の領域が他の領域より探査感度が低く、前記一部の領域を前記母船に向けた状態で前記水中の探査を行う、
請求項5に記載の水中探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中探査装置、船舶、および水中探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に音響探査装置(以下ソナーと称す)等の探査装置を搭載して水中の生物、物体、地形等を探査する技術がある
従来は、船舶の船首にソナードームを固定し、船舶に大型のソナーアレイを搭載する方式が主流であった。しかし、従来のソナーアレイの装備位置では、次のような課題がある。
第1の課題は、深度約200mよりも深い水温躍層に潜航した水中航走体を検出すことができない。
この課題については、特許文献1により解決方法が示されている。
第2の課題は、船体の後方に水平探査不可能範囲(ブラインドゾーン)が生じる。
特許文献1に記載された水中吊り下げ構造、その構造を備えた船舶および水中吊り下げ方法は、船体の後方に水平探査不可能範囲(ブラインドゾーン)が生じることを防止するものである。
【0003】
また特許文献2には、船底に設けられたバルジ(膨らみ部)にソナーを格納し、船底に支持されたアームの回動によって前記ソナーを前記バルジの下方の水中に配置して探査を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-168125号公報
【文献】特開平11-326500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載の探査装置にあっては、探査機による探査を行わない通常の航行状態において、アームあるいはバルジが流体抵抗を生じることにより、母船となる船舶等の高速航行を妨げるという課題がある。
【0006】
この発明は、探査装置を設けることによる、母船の航行の際の航行に伴う抵抗を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1の態様にかかる水中探査装置は、水上を航行可能な母船から所定の間隔をおいた位置であって、前記母船の喫水より下方の位置に配置可能に設けられた探査機と、前記母船に設けられて前記探査機を前記喫水より上方位置に移動させる昇降装置とを有する。
【0008】
本願の第2の態様にかかる水中探査方法は、母船に搭載された探査機を前記母船の喫水より上方に配置した状態で母船を航行させる工程と、前記探査機を前記母船の喫水より下方に配置した状態で前記母船を所定以下の速度で航行させる工程と、前記母船の喫水より下方に配置された探査機により水中を探査する工程とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、探査機により母艦の航行に与える抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の一実施形態の探査機を下げた状態の側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の探査機を上げた状態の側面図である。
【
図4】一実施形態の探査機の探査範囲を示す平面図である。
【
図5】一実施形態に適用される昇降装置の構成例を示す側面図である。
【
図6】一実施形態の昇降装置の部分を拡大した動作説明図である。
【
図7】一実施形態の昇降装置の部分を拡大した動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る水中探査装置の最小構成例を
図1により説明する。
この水中探査装置は、水上を航行可能な母船1から所定の間隔をおいた位置であって、前記母船1の喫水2より下方の位置に配置可能に設けられた探査機3と、前記母船1に設けられて前記探査機3を前記喫水より上方位置に移動させる昇降装置4とを有する。前記探査機には、例えば、水中の音波を検出するパッシブあるいはアクティブ動作するソナー、あるいは、磁気を検出する磁気センサが採用される。
【0012】
上記構成の水中探査装置にあっては、
図1(a)に示すように、昇降装置4によって探査機3を母船1の喫水2より下の水中に配置して探査を行うことができる。また
図1(b)に示すように、昇降装置4を母船1の船尾に引き上げることにより、母船1の航行に伴って探査機3により生じる流体抵抗を低減することができる。
【0013】
次いで、
図2~
図8を参照して一実施形態を説明する。なお、
図2~
図8において、
図1と共通の構成には同一符号を付し、説明を簡略化する。
母船となる船舶1は、後部下面に、推進力を発生するスクリュープロペラ11を有する。この一実施形態では、いわゆる2軸構成が採用され、前記スクリュープロペラは、船舶1の船体の幅方向(
図2、3の紙面と直交する方向)に相互に間隔をおいて2基設けられ、船体に搭載された主機12によって駆動される。また符号13は舵であって、前記船舶1の船尾に鉛直軸を中心として回動自在に設けられている。この一実施形態の舵13は、2軸構成とされた前記スクリュープロペラ11に対応して、船体の幅方向に相互に間隔をおいて2基設けられている。
【0014】
前記船舶1の下部の前記スクリュープロペラ11の近くには、船体の幅方向に向けられた水平な回転軸14を中心として回動可能にアーム15が設けられ、このアーム15の先端には、探査機としてのソナーアレイ16が収容されたソナードーム17が設けられている。第1実施例において、前記アーム15は、2軸構成とされた二基のスクリュープロペラ11の間に1基配置されている。なお一実施形態におけるソナーアレイとは、所定の感度(指向性)を有する音響探知機を各々所定の探知方向へ向けて複数配置した構成を言うものとする。
すなわち前記ソナーアレイ16は、
図2に破線で示すような垂直探査範囲VRを有し、また、
図4に破線で示すような水平探査範囲HRを有する。
【0015】
前記ソナードーム17は、船舶1の航行により発生する水中で水流の抵抗を軽減するため、涙滴型に成型した覆いである。前記ソナードーム17は、水中音波の透過率が高く、水中音波が反射しにくい天然ゴム、FRP(Fiber Reinforced Plastics~グラスファイバー)等の素材で作られる。このソナードーム17の内部には、探査機としてのソナーアレイ16が格納されている。なお前記ソナードーム17は、ソナーアレイ16の周囲を囲んでその破損を防止するものである。
【0016】
前記アーム15は、母船1の船底に配置された前記ソナーアレイ16を覆うソナードーム17を船底に吊化する際の支柱であり、回転軸14を基準に回転する機構を有する。
前記アーム15は、ソナードーム17を水面上に揚収する際に、船舶1に干渉しない最小の回転角で揚収するため、ソナードーム17を回転軸14の後方に吊下することができる長さ(回転半径)を有する。
前記アーム15は、ソナーアレイ16と船体内部の電子装置を接続する電線を内蔵するとともに、その断面は、水流の抵抗を軽減するため涙滴型の形状とし、軽量化のため金属の骨組みをグラスファイバーまたはFRP等で覆う構造とされている。
【0017】
回転軸14は、前記アーム15の基端部を支持する。この回転軸14は、前記アーム15を回転させる場合の回転中心となる基準軸であり、ソナーアレイ16と船舶1内部の電子装置を電気的に接続するための水密構造のスリップリング(図示略)を有する。すなわち、ソナーアレイ16と船舶1の内部の電子装置および電源とは、回転軸14の取り付け箇所に設けられたスリップリングを介して電気的に接続されている。
【0018】
図5~
図7を参照して前記アーム15を昇降させる昇降装置の構成例を説明する。
符号20は揚収ケーブルを示す。
揚収ケーブル20は、ソナーアレイ16を収容したソナードーム17を水面上に揚収する際に巻き上げる鋼線等の線材である。前記揚収ケーブル20を繰り出すことにより、ソナーアレイ16を収容したソナードーム17を母船1の船底に吊下することができる。
図5において符号21は、揚収ケーブル巻上機を示す。
揚収ケーブル巻上機21は、油圧または電動等の動力により駆動される回転機械であって、その回転とともにドラムを回転させることにより、前記ソナードーム17を船底に吊下する際に揚収ケーブル20を繰り出し、ソナードーム17を揚収する際に揚収ケーブル20を巻き上げる機能を有する、いわゆるウィンチである。
【0019】
図5において22は、船尾滑車を示す。
船尾滑車22は、ソナードーム17を船底に吊下するため揚収ケーブル20を繰り出した際に、船尾の船底部に揚収ケーブル20が接触して摩擦が起きるのを緩和するための滑車であり、軸を中心に自由回転可能に構成されている。(動力源を必要としない)。
図5において23は、収納ケーブルを示す。
収納ケーブル23は、ソナードーム17を船底に吊下した際に揚収ケーブル20が水中に展張され、船舶1の航行時に水流の抵抗を受けるのを回避するため、揚収ケーブル20をアーム15の後端に密接するよう引き付ける鋼線等の線材である。
【0020】
図5において24は、ケーブル接続リングを示す。
ケーブル接続リング24は、収納ケーブル23の先端にリング状の金具を取り付け、リングの内側に揚収ケーブル20を通すことによって、収納ケーブル23が揚収ケーブル20を引き付けることを可能にする。
図5において25は、収納ケーブル巻上機を示す。
収納ケーブル巻上機25は、油圧または電動等の動力により駆動される回転機械であって、ソナードーム17を船底に吊下した際に、収納ケーブル23をアーム15の後端に密接した経路とするために、収納ケーブル23を巻き上げるドラムを有する、いわゆるウィンチである。
【0021】
図6及び
図7において30は、船舶1の船底の鋼板を示す。
図6及び
図7において31は、スリップリングを示す。
スリップリング31は、回転軸14に内蔵され、ソナーアレイ16と船舶1の内部の電子装置を接続する電気回路の一部をなす。すなわち、アーム15の回転に伴って、固定側、回転側のいずれか一方の側の電極にいずれか他方側の接点を摺動させることにより、アーム15の回転に伴う回転側と固定側との電気的な接続を維持する。
【0022】
また
図6及び
図7は、アーム15を所定位置で固定するラッチ機構を示し、符号32は、アーム固定ラッチを示す。
このアーム固定ラッチ32は、前記アーム15において、ソナードーム17を船底に吊下時または水面上に揚収時に固定するため、アーム15の上端に回転軸14の半径方向外方へ突出して設けられた台形状の突起である。前記アーム固定ラッチ32は、アーム15の回転に伴い、回転軸14と一体に回転する。
また符号33は、ソナーの吊下時アームを固定する吊下時アーム固定ノッチであって前記アーム固定ラッチ32を受け入れるべく、突起に対応した台形状をなす切り欠きである。前記ソナードーム17の吊下時、前記吊下時アーム固定ノッチ33は、前記ソナードーム17を船底に吊下して、アーム15を下向きに回転させた状態で固定するため、アーム固定ラッチ32の突起部を受け入れて回転軸14の回転を拘束する機能を有する。アーム15の吊下時、前記吊下時アーム固定ノッチ33は、油圧または電動のモーターで上下方向に可動する構造とすることによって、前記アーム15の回転を拘束しあるいは拘束から開放する。
【0023】
図6及び
図7において34は、揚収時アーム固定ノッチを示す。
この揚収時アーム固定ノッチ34は、ソナードーム17を水面上に揚収し、アーム15を船尾へ後ろ向きに回転させた状態で固定するため、アーム固定ラッチ32の突起部を覆うノッチである。揚収時アーム固定ノッチ34は、油圧または電動のモーターで前後に可動する構造とすることによって、前記アーム15の回転を拘束しあるいは拘束から解放する。
前記スリップリング31は、例えば、アンテナ回転式のレーダーの回転軸と基台との間、風力発電機のタワーと地上との間などに広く使用されており、大電力の電線、あるいは通信線をスリップリングにより接続する技術は、当業者にとってよく知られているので、その詳細な構成についての説明は省略する。
【0024】
次に、
図2~
図8を参照して、水中全方位探査ソナー装置の作用をその動作とともに説明する。
最初に、ソナーアレイ16を船舶1の船底に吊下して、全方位探査を行う場合の動作について説明する。
船舶1がソナーアレイ16を使用する場合、最初に、
図7に示す揚収時アーム固定ノッチ34を前進させて、揚収時アーム固定ノッチ34によるアーム固定ラッチ32の固定を解除し、アーム15を回転可能にする。
図6に示す揚収ケーブル巻上機21から揚収ケーブル20を繰り出すと同時に、収納ケーブル巻上機25から収納ケーブル23を繰り出し、揚収ケーブル20が船尾滑車22の回転とともに、摩擦力を軽減しながら繰り出されることにより、ソナーアレイ16を覆うソナードーム17を下端に固定したアーム15をそれらに作用する重力により下向きに(
図5、6等における時計回り)回転させる。
【0025】
このとき、アーム15を完全に下向きに回転させるため、船舶1は移動を停止あるいは微速で後進する。すなわち、ソナードーム17及びアーム15が水流の抵抗(
図5の右向きの力)を受けて船底に対して所定の角度(通常は鉛直方向)で吊下されない状態になることを防止する。
前記揚収ケーブル20及び収納ケーブル23が所定の長さまで繰り出され、前記アーム15が所定の角度まで下向きに回転し、ソナーアレイ16が水平な向きに設置されると、
図6に示す吊下時アーム固定ノッチ33を降下させてアーム固定ラッチ32をアーム15が下向きとなる状態で固定する。
前記ソナーアレイ16、ソナードーム17及びアーム15が船底に吊下された状態で固定されたら、前記収納ケーブル巻上機25により収納ケーブル23を巻き上げ、揚収ケーブル20をアーム15の後端に密接させて、船舶1の航行に伴って揚収ケーブル20により発生する水流の抵抗を軽減させる。
【0026】
例えば、
図2に示すように、ソナーアレイ16を船底から深度50m程度まで吊下することにより、
図2に示すようなソナー垂直探査範囲VRに対し、船首の喫水2の砕波音、主機(エンジン)12の作動音、及びスクリュープロペラ11の回転による推進器音等の騒音源からの音波がソナーアレイ16の垂直指向性の探査範囲外となり、
図4の船底ソナー水平探査範囲HRに示すように、水平方向への全方位を探査範囲とすることができる。従って、関連する船首に設けられたソナーの水平探査範囲に探査不可能範囲(ブラインドゾーン)や、外乱騒音による誤検出が生じる欠点が低減される。
【0027】
船底にソナーアレイ16Aを内蔵したソナードーム17Aを船底に吊下状態で固定した場合は、
図8(b)の比較例に示すように、船体の横断面積(進行方向に対する断面の面積)が増えるので、水流の抵抗が増え、船舶1の高速航行時の速力が低下する。また、
図8(a)の比較例に示すように、ソナードーム17Bが船首の船底に固定された場合は、船舶1の速力が時速35km/hを超えると、ソナードーム17Bと水流との摩擦により生じた騒音により、船首ソナー16Bによる水中音波の検出性能が著しく低下するので、船舶1が高速航行する場合は実質的にソナーが使用できない。
【0028】
前記比較例の対比において、本発明の一実施形態にあっては、ソナードーム17を水面上に揚収し、船舶1の断面積を減らして高速航行することが可能となり、探査を行うべき海域へ迅速に到着することができる。
【0029】
なお、本発明によるソナーアレイ16を内蔵したソナードーム17を船底に吊下した場合であっても、スクリュープロペラ11の回転により海水を攪拌して生じた気泡を含むウェーキ(航跡)の範囲では、前記気泡が音波を反射するため、ウェーキの内部にある水中航走体を水中ソナーにより検出することはできない。しかしながら、ウェーキは幅が20~50m、水深は約10m程度であることから、ウェーキの中に全長50m以上の大型の水中航走体が潜航して隠れることは困難であり、したがって、ウェーキ中の探査ができないことによって、実質的に大型の水中航走体の探査範囲が損なわれることがない。
【0030】
次に、ソナーアレイ16を水面上に揚収する動作について説明する。
船舶1がソナーアレイ16を使用しない場合、または入港時等であって水深が50mよりも浅い海域を航行する場合は、
図6に示す吊下時アーム固定ノッチ33を上昇させてアーム固定ラッチ32の固定を解除し、アーム15を回転可能にする。
図7の揚収ケーブル巻上機21によって揚収ケーブル20を巻き上げると同時に、収納ケーブル巻上機25によって収納ケーブル23を緩め、揚収ケーブル20が船尾滑車22によって円滑に案内されながら巻き上げられることにより、ソナーアレイ16を覆うソナードーム17を下端に固定したアーム15を上向きに(
図5、6の反時計回りに)回転させる。
前記揚収ケーブル20及び収納ケーブル23が所定の長さまで巻き上げられると、アーム15が所定の角度まで上向きに(
図5、6の反時計回りに)回転し、ソナーアレイ16及びソナードーム17が船尾の水面より上の位置に揚収されると、
図7に示すように、揚収時アーム固定ノッチ34を後退させてアーム固定ラッチ32に噛み合わせ、アーム15を後ろ向きの状態(揚収状態)で固定する。
【0031】
前記ソナーアレイ16及びソナードーム17を水面上に揚収する際に、前記ソナードーム17内に海水が充満した状態では、ソナードーム17は、例えば100t以上の重量を有するため、ソナードーム17が自重で変形する恐れがある。また、ソナードーム17が自重で変形しないように丈夫な構造にすると、ソナードーム17の主要素材である天然ゴム、FRP等の構造材料の厚さが増加し、水中音波を減衰させる効果が増加するので、前記ソナードーム17を薄く軽量化する必要がある。そこで、一実施形態にあっては、前記ソナードーム17を揚収した状態での上端に相当する箇所に空気抜きの穴を設け、また、揚収した状態での下端に相当する箇所に水抜きの穴を設け、ソナードーム17を揚収した際にソナードーム17内部の海水を排水することができる構造が採用されている。
このように、ソナードーム17を揚収した状態で内部の海水を排水することができる構造とするにより、ソナーアレイ16を含むソナードーム17を数10t程度に軽量化することができる。このように、アーム15により昇降させる機材を軽量化することにより、前記揚収ケーブル巻上機21の小型化及び揚収ケーブル20を軽量化することができるという二次的な効果も期待することができる。
【0032】
以上のように、前記ソナーアレイ16、ソナードーム17及びアーム15を水面上に揚収することにより、船体の断面積がソナードーム17及びアーム15の分だけ減少するため、船舶1の航行に伴う流体抵抗が減少して、最高速力を向上することができる。
【0033】
なお、前記ソナーアレイ16、ソナードーム17及びアーム15を船尾の水面上に揚収すると、これらを船底から吊り下げた場合より、船舶1の重心が後方に移動するので、船舶1が港で停泊する場合及び高速航行する場合の重心の移動について、船舶1の船体設計時に動揺や復元性に対する考慮を要する。例えば、アーム15の回転~揚収に伴って船体のバラストを移動させる等の配慮をすることが、航行安定性の面で有効である。
【0034】
一実施形態におけるソナーアレイの探査範囲(探査感度の指向性)は、水平面内で全周にわたり、鉛直面内で水平方向から上方、下方へ所定の角度にわたっているが、探査範囲が一実施形態に限定されるものでないのはもちろんである。
なお、一実施形態のソナーアレイに代えて、音波センサを機械的に回転させて探査する方式のソナーを採用しても良い。また、一実施形態では音波の探査を行うが、磁気センサ等の他のセンサを探査機として採用しても良い。
一実施形態では2軸のスクリュープロペラの間にアームを配置したが、アームの船体幅方向への位置は、スクリュープロペラの間に限定されるものではなく、例えば、1軸のスクリュープロペラの場合は、船舶の両舷側にアームを設けてもよい。
【0035】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、線状体監視装置、線状体巻き取り装置、および線状体巻き出し巻き取り方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 母船(船舶)
2 喫水(水面)
3 探査機
4 昇降装置
11 スクリュープロペラ
12 主機
13 舵
14 回転軸
15 アーム
16 (船底)ソナーアレイ(探査機)
17 ソナードーム
20 揚収ケーブル
21 揚収ケーブル巻上機
22 船尾滑車
23 収納ケーブル
24 ケーブル接続リング
25 収納ケーブル巻上機
30 鋼板
31 スリップリング
32 アーム固定ラッチ
33 吊下時アーム固定ノッチ
34 揚収時アーム固定ノッチ