(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】シリンダー錠
(51)【国際特許分類】
E05B 11/00 20060101AFI20220817BHJP
E05B 17/00 20060101ALI20220817BHJP
E05B 17/18 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
E05B11/00
E05B17/00 D
E05B17/18 H
(21)【出願番号】P 2019230334
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000152169
【氏名又は名称】株式会社栃木屋
(74)【代理人】
【識別番号】110002882
【氏名又は名称】白浜国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高倉 浩
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-49398(JP,U)
【文献】特開2001-32601(JP,A)
【文献】特開2010-242389(JP,A)
【文献】特開2009-215825(JP,A)
【文献】特開2009-281095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00-85/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向を有し前記前後方向の前方に位置する前面部分に鍵挿入口が形成され、後方部分に止め金具を取り付け可能に形成され、前記鍵挿入口に挿入した鍵を挿入位置と前記挿入位置から所定方向へ所定角度まで回転させたときの位置との2点の位置で挿抜可能である2点抜き仕様のシリンダー錠において、
前記鍵挿入口に挿入した前記鍵の回転を前記所定角度および前記所定角度よりも小さい角度のいずれかにおいて停止させることが可能であって前記前面部分に取り付け可能に形成されている回転角度規制部材を有するものであることを特徴とする前記シリンダー錠。
【請求項2】
前記回転角度規制部材には、前記鍵挿入口に向かっての前記鍵の通過を可能にする透孔と、前記透孔を画成している周縁部の一部分であって前記所定角度および前記所定角度よりも小さな角度のいずれかの角度だけ回転させた前記鍵を前記鍵の回転方向から衝接させて前記鍵の回転を阻止することが可能な縁部とが形成されている請求項1記載のシリンダー錠。
【請求項3】
前記回転角度規制部材には、前記鍵を時計方向から衝接させる前記縁部と、反時計方向から衝接させる前記縁部とが形成されている請求項2記載のシリンダー錠。
【請求項4】
前記回転角度規制部材は、前記シリンダー錠の前記前面部分に取り付けられて、前記鍵挿入口に挿入されて時計方向および反時計方向のいずれかの方向へ回転する前記鍵に押されて前記時計方向および前記反時計方向のいずれかの方向へ回転し、前記所定角度に達すると前記シリンダー錠における所定の部位に衝接することで停止して前記鍵のさらなる回転を阻止するものである請求項1記載のシリンダー錠。
【請求項5】
前記回転角度規制部材は、前記シリンダー錠の前記前面部分に固定されるものであって、前記透孔を画成している前記周縁部には、時計方向へ回転する前記鍵を衝接させて前記鍵の前記時計方向への回転を阻止する前記縁部と反時計方向へ回転する前記鍵を衝接させて前記鍵の前記反時計方向への回転を阻止する前記縁部とのそれぞれが形成され、前記鍵は前記縁部のそれぞれに当接しているときに前記鍵挿入口における挿抜が可能である請求項2記載のシリンダー錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダー錠に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダー錠には、施錠時および開錠時のいずれであっても、鍵を挿入口から抜き取ることができる仕様(以下、2点抜き仕様という)のものと、施錠時にのみ鍵を挿入口から抜き取ることができる仕様(以下1点抜き仕様という)のものがある。扉等に取り付けるシリンダー錠を1点抜き仕様のもの又は2点抜き仕様のもののいずれにするかについては、扉等を設計する際に決定することが通常であるが、扉等の完成後に扉等の使用者から、使い易さや防犯上の観点から、シリンダー錠の仕様を変更したいという場合がある。
【0003】
そのような要求に応えられるものとして、特許文献1に開示の発明に係る錠前装置が存在する。この発明では、取付部材に設けられた制御部材が、往復旋回運動するラッチの運動の終端の手前で、そのラッチに作用するか否かにより、開錠時に鍵を抜くことができるか否か、換言すると1点抜き仕様のものになるか2点抜き仕様のものになるかが決まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、ラッチの旋回運動を、運動の終端の手前で止めるためには、制御部材およびその制御部材を取り付けるための取付部材の両方が必要である。また、これらの部材を取り付けるための錠前装置は、これらの部材を取り付ける必要のない錠前装置と比べると、ラッチを取り付ける部位の周辺が大きくなりがちである。
【0006】
そこで、本発明では、鍵の回転角度を規制することのできる部材を用意して、例えば2点抜き仕様から1点抜き仕様に変更したり、1点抜き仕様から2点抜き仕様に変更したりするための構造が簡単なシリンダー錠の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題解決のために、この発明が対象とするのは、前後方向を有し前記前後方向の前方に位置する前面部分に鍵挿入口が形成され、後方部分に止め金具を取り付け可能に形成され、前記鍵挿入口に挿入した鍵を挿入位置と前記挿入位置から所定方向へ所定角度まで回転させたときの位置との2点の位置で挿抜可能である2点抜き仕様のシリンダー錠である。
【0008】
このようなシリンダー錠において、本発明が特徴とするところは、前記鍵挿入口に挿入した前記鍵の回転を前記所定角度および前記所定角度よりも小さい角度のいずれかにおいて停止させることが可能であって前記前面部分に取り付け可能に形成されている回転角度規制部材を有するものである。
【0009】
本発明の実施形態の一つにおいて、前記回転角度規制部材には、前記鍵挿入口に向かっての前記鍵の通過を可能にする透孔と、前記透孔を画成している周縁部の一部分であって前記所定角度および前記所定角度よりも小さな角度のいずれかの角度だけ回転させた前記鍵を前記鍵の回転方向から衝接させて前記鍵の回転を阻止することが可能な縁部とが形成されている。
【0010】
本発明の実施形態の他の一つにおいて、前記回転角度規制部材には、前記鍵を時計方向から衝接させる前記縁部と、反時計方向から衝接させる前記縁部とが形成されている。
【0011】
本発明の実施形態の他の一つにおいて、前記回転角度規制部材は、前記シリンダー錠の前記前面部分に取り付けられて、前記鍵挿入口に挿入されて時計方向および反時計方向のいずれかの方向へ回転する前記鍵に押されて前記時計方向および前記反時計方向のいずれかの方向へ回転し、前記所定角度に達すると前記シリンダー錠における所定の部位に衝接することで停止して前記鍵のさらなる回転を阻止するものである。
【0012】
本発明の実施形態の他の一つにおいて、前記回転角度規制部材は、前記シリンダー錠の前記前面部分に固定されるものであって、前記透孔を画成している前記周縁部には、時計方向へ回転する前記鍵を衝接させて前記鍵の前記時計方向への回転を阻止する前記縁部と反時計方向へ回転する前記鍵を衝接させて前記鍵の前記反時計方向への回転を阻止する前記縁部とのそれぞれが形成され、前記鍵は前記縁部のそれぞれに当接しているときに前記鍵挿入口における挿抜が可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転角度規制部材をシリンダー錠の前面部分に取り付けることで、2点抜き仕様のシリンダー錠を、1点抜き仕様のシリンダー錠に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面は、本開示に係る本発明の特定の実施の形態を示し、本発明の不可欠な構成ばかりでなく、選択的に実施可能な形態および好ましい実施形態を含む。
【
図1】扉に取り付けられて施錠状態にあるシリンダー錠の斜視図。
【
図2】開錠状態にある
図1のシリンダー錠の斜視図。
【
図5】(a)~(c)によってタンブラーの状態が変化する様子を示す
図4のV-V線断面図。
【
図6】回転角度規制部材の使用態様を示す
図1と同様な図。
【
図7】(a),(b)によって回転角度規制部材と鍵との位置関係を示す錠の正面図。
【
図8】回転角度規制部材の取り付け状態の一例を示す
図7と同様な図。
【
図10】
図6の回転角度規制部材とは異なる回転角度規制部材の使用態様を示す図。
【
図11】(a)は
図10のXI(a)-XI(a)線断面図、(b)は
図10における回転角度規制部材の裏面図。
【
図12】回転角度規制部材の一態様を示す
図7(a)と同様な図。
【
図13】
図12の回転角度規制部材の使用態様の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明すると以下のとおりである。
【0016】
図1および
図2は、本発明に係るシリンダー錠1が、扉5の前面部分5aに取り付けられている状態を示す斜視図である。
図1では、シリンダー錠1の鍵挿入口11に、鍵3が挿入されていて、シリンダー錠1のケース部材4の後端部分に取り付けられている止め金具6が水平に延びていて固定枠7の後方に位置し、扉5が開かないようにシリンダー錠1は施錠状態にある。
【0017】
図2は、鍵挿入口11に挿入した鍵3を、矢印Aで示す反時計方向に回転させ、シリンダー錠1を開錠したときの状態と、その状態のシリンダー錠1から抜き取った仮想線の鍵3とを示している。このシリンダー錠1は、2点抜き仕様のものであって、シリンダー錠1が
図1の状態から
図2の状態へ移行する間は、鍵3を鍵挿入口11から抜き取ることができない。そのように作用するシリンダー錠1の詳細については、以下のとおりである。
【0018】
図3,4は、シリンダー錠1の正面図と、
図3のIV-IV線断面図である。
図3において、シリンダー錠1の前面部分51には、鍵挿入口11と、後記する回転角度規制部材30に対する嵌合凹部52とが形成されている。
図4において、シリンダー錠1の外筒であるケース部材4の内側には、内筒であるタンブラーセット53(
図4参照)が内蔵され、ケース部材4の内周面に向かって、複数のタンブラー54が突出している。なお、そのタンブラーセット53は、断面図ではなくて側面図の形で示されている。
【0019】
図5(a)~(c)は、
図4のV―V線切断面を示す図であるが、(a)~(c)によって、タンブラー54の状態が変化する様子を示している。
図5(a)において、ケース部材4の内周面には90°ずつの間隔で4条のケース溝55a~55dが形成されている。タンブラーセット53の中心部には、断面が矩形の鍵挿入口11がある。詳細な図示は省略するが、タンブラーセット53に内蔵されたタンブラー54は、同じくタンブラーセット53に内蔵されているバネ部材(図示せず)の付勢下にケース溝55aに進入している。その結果、タンブラーセット53は、ケース部材4の内側において回転することがなく、鍵3は、
図1の施錠状態を維持している。
図5(b)では、鍵3が鍵挿入口11に挿入されることに伴って、タンブラー54がタンブラーセット53の内側に退却し、鍵3を操作することによって、タンブラーセット53がケース部材4の内側において回転可能になる。ただし、その回転は、後記するカム板35(
図9参照)の作用によって、反時計方向Aへの回転に限られる。
【0020】
図5(c)は、鍵3を反時計方向Aへ90°回転させたときの状態を示している。タンブラー54の位置とケース溝55dの位置が一致して、タンブラー54がケース溝55dに進入可能となり、鍵3を抜き取ることができる。鍵3を抜き取ると、タンブラー54がケース溝55dに進入して、タンブラーセット53の時計方向Bおよび反時計方向Aへの回転を阻止する。
【0021】
図6は、本発明に係る回転角度規制部材30の使用態様を示す
図1、2と同様な図である。
図6において、シリンダー錠1の前面部分51の前方に示されている円形の回転角度規制部材30は、前面部分51に対して取り付け可能、または取り付け取り外し可能に形成されているプラスチック製または金属製の部材であって、後記するように、シリンダー錠1の前面部分51に形成された位置決め用の嵌合凹部52の相手方となる後記嵌合突起部31を有する。
【0022】
回転角度規制部材30にはまた、その中央部分に、鍵3を挿抜可能な透孔32が形成されている。図の回転角度規制部材30は、それを図の左方から錠1の前面部分51に対して押し当てるようにすると、径方向に広がるように弾性変形して嵌合し、嵌合した後には、透孔32の内側に鍵3の鍵挿入口11が見えるようになる。
【0023】
図7(a),(b)は、鍵3と回転角度規制部材30との位置関係を示す、回転角度規制部材30の正面図である。図にはまた、錠1の中心を通る水平線Hと垂直線Pとが示されている。
図7(a)において、錠1は施錠状態にあって、扉5の後方に見える止め金具6は水平方向に延びて固定枠7の後方に位置している。鍵3の把手部33(
図1参照)は、垂直線Pに平行して上下方向に延びている。回転角度規制部材30における透孔32を画成している周縁部40は、互いに平行して径方向へ直線的に延びる第1,3縁部41,43と、互いに平行して径方向へ直線的に延びる第2,4縁部42,44と、第1,4縁部41,44をつないで円弧状に延びる第5縁部45と、第2,3縁部をつないで円弧状に延びる第6縁部46とを含んでいる。第1縁部41は、図において垂直に延びている把手部33を有する鍵3を80°回転させることができるように、垂直線Pに対する開角は80°である。第2縁部42は、垂直線Pに対する開角が10°となるように延びている。施錠状態にある
図7(a)の錠1において、鍵挿入口11に挿入されている鍵3は、第1~6縁部41~46のいずれにも実質的な意味において接触しておらず、鍵挿入口11と透孔32とに対して自由に挿抜できる。
【0024】
図7(b)では、
図7(a)における鍵3を反時計方向Aに回転させ、鍵3が透孔32における第1縁部41に当接して停止した状態を示している。扉5の内側では止め金具6が反時計方向Aに旋回して扉5が開錠状態にあるが、鍵3は
図7(a)の状態、換言すると
図5(b)の状態から80°しか回転しておらず、
図5(c)の状態に到達していないので、鍵挿入口11から抜き取ることができない。即ち、錠1は、
図1,2に例示の2点抜き仕様のものから、施錠状態においてのみ鍵3を抜き取ることができる1点抜き仕様のものに変化している。
【0025】
図8は、
図6において回転角度規制部材30を時計方向Bへ120°回転させて錠1の前面部分51に取付けたときの
図7(a)と同様な図であるが、
図8では、止め金具6が水平に左方向へ延びていて施錠状態にある。図示の如く鍵3を挿入して鍵3を垂直な状態から時計方向Bへ回転させると、止め金具6が仮想線の状態となって扉5が開錠状態となる。しかし、その時の鍵3は、図示の垂直な状態から透孔32を画成している周縁部のうちの第2縁部42までの角度である80°までしか回転しておらず、鍵挿入口11から抜き取ることができない。即ち、
図8に例示のシリンダー錠1においても回転角度規制部材30の存圧によって、錠1は1点抜き仕様のものになっている。
【0026】
図7,8から明らかなように、錠1を施錠状態から開錠状態へと変化させるときに、錠1に回転角度規制部材30を取付けるか否かによって、錠1を1点抜き仕様のものにしたり、2点抜き仕様のものにしたりすることができる。図示例の回転角度規制部材30は、
図7(a)の態様にも
図8の態様にも使用できるものであったが、回転角度規制部材30は、いずれか一方の態様のみに使用できるものであってもよい。また、この部材30による角度の規制は、図示例の如き80°に限らない。扉5が開錠状態になるのであれば何度であってもよい。
【0027】
図9は、
図6に示した錠1の分解組立図であって、鍵3と回転角度規制部材30も併せて示してある。ただし、錠1の内部構造の図示は省略してある。
図9において、錠1は、前方から後方に向かって並ぶ回転角度規制部材30、ケース部材4、取り付け用ナット39、回転角度規制用カム板35、止め金具6、止め金具6をケース部材4の内側に位置するタンブラーセット53の長円形軸部53aに固定するためのワッシャ7b付きの雄ねじ7aを含んでいる。図示された回転角度規制部材30の後面30bは、錠1の前面部分51と組み合わせることができるようにくぼんでいるが、前面部分51に形成されている3つの嵌合溝52aと3つの段差部52b(
図1,3,4参照)とのそれぞれに嵌合する3つの嵌合凸部33aと3つの嵌合爪部33bとが形成されている。3つの嵌合凸部33aと3つの嵌合爪部33bとは、回転角度規制部材30の周方向に等間隔で形成されているものであるが、
図9には1つの嵌合凸部33aと1つの嵌合爪部33bが見えている。
【0028】
ケース部材4は、前面部分51から後方へ延びる円筒状部56を有する。円筒状部56の外周面には螺条57が形成され、円筒状部56の後端には突起部58が形成されている。円筒状部56の周方向において、突起部58は第1側面部58aと第2側面部58bとを有する。円筒状部56の内側には円柱状のタンブラーセット53がその周方向へ回転可能に挿入されている。タンブラーセット53の後端面には径方向断面が長円形の軸部53aが形成され、軸部53aの先端にはねじ穴53bが形成されている。
【0029】
図9におけるナット39は、ケース部材4の螺条57に螺合するねじ部39aを有し、ケース部材4の前面部分51と協働して、錠1を扉5に取り付けることができる(
図1参照)。
【0030】
図9におけるカム板35には、タンブラーセット53における軸部53aが挿入されて、カム板35がタンブラーセット53に対して回転不能に取り付けられるための長円形の透孔35aが形成されている。カム板35の周面は、大径部35bと小径部35cとを有し、これら大径部35bと小径部35cとは、第1段差部35dと第2段差部35eとを介してつながっている。
【0031】
図9における止め金具6は、様々な形状をとり得るものであるが、図示例のものは長円形であって、一端部に長円形の透孔61が形成されている。透孔61には、タンブラーセット53における軸部53aが挿入される。
【0032】
図9のケース部材4は、扉5の取り付け穴(図示せず)に挿入した後にナット39を螺合させることによって扉5に取り付けることができる。そのケース部材4では、タンブラーセット53の軸部53aをカム板35と止め金具6とにおける透孔35aと透孔61とに挿入し、しかる後に雄ねじ7aをタンブラーセット53におけるねじ穴53bに取り付ける。このようにすることによって、
図1における錠1を得ることができる。その錠1においては、カム板35における第1段差部35dがケース部材4の後端部分に形成されている突起部58における第1側面部58aに当接していて、タンブラーセット53およびタンブラーセット53に取り付けられている止め金具6が
図1における時計方向Bへ旋回することを阻止している。ただし、止め金具6は、鍵3の操作によって反時計方向Aへ旋回可能であって、カム板35における第2段差部35eがケース部材4の突起部58における第2側面部58bに当接することによって、その旋回が止まる。その時の扉5は開錠状態にある。
【0033】
止め金具6の旋回角度は、このように突起部58とカム板35とによって規制することができ、図示例では、その旋回角度が90°に規制されている。
【0034】
図9においてはまた、回転角度規制部材30における所定の位置をケース部材4の前面部分51における所定の位置に押し当てると、回転角度規制部材30が径方向において弾性変形して、これら両部材30,4を互いに嵌合させることができて、
図1の状態を得ることができる。
【0035】
図10,11において、
図10は回転角度規制部材30の使用態様を例示する
図6と同様な図であり、
図11の(a),(b)は
図10におけるXI(a)-XI(a)線断面図と、回転角度規制部材30裏面図とである。
図10には、錠1の前面部分51が仮想線で示されている。
【0036】
図10,11における回転角度規制部材30(以下では、部材30ということがある)は、止め金具6の旋回角度を90°に規制するためにのみ使用されている。そのような部材30を使用する
図10の錠1では、錠1におけるタンブラーセット53の回転角度と止め金具6の旋回角度を規制するカム板35(
図9参照)を使用する必要がない。
図10,11に示されているように、部材30には、前面30aと後面30bとの間に延びていて、錠1の鍵挿入口11と同じであるかそれよりもやや大きい透孔32が形成されている。後面30bは、錠1の前面部分51を受容できるようにくぼんでいるが、前面部分51に向かって突出している係合凸部33aと係合爪33bとを有する。係合凸部33aは、部材30の径方向へ延びていて、周方向において互いに並行している第1側面部36aと第2側面部36bとを有する。係合爪部33bは部材30の径方向内側に向かって突出している。
【0037】
図10,11における錠1の前面部分51は、外形が
図1の前面部分51と同じであるが、
図10,11の前面部分51は、
図10の回転角度規制部材30における係合凸部33aを受容する溝部59aと、係合爪部33bを受容する段差部59bとを有する。溝部59aは、前面部分51の周方向において対向する第1側壁部71と第2側壁部72とを有する。段差部59bは、例えば前面部分51の全周に延びるように形成されていて、
図9における段差部52bと同様に作用する他に、前面部分51に対して、部材30が脱落することなく例えば360°回転することを可能にしている。
【0038】
そこで、
図10において部材30の透孔32と鍵挿入口11との位置が一致するようにして部材30を前面部分51に押し当てると、部材30が径方向へ弾性変形して部材30の係合爪部33bが溝部59aに納まり、
図11(a)の状態になる。また、部材30の係合凸部33aにおける第1側面部36aが前面部分51における第1側壁部71に接する状態となる。
【0039】
そこで、鍵3を透孔32を介して鍵挿入口11に挿入すると、鍵3は反時計方向Aへの回転が可能になって、その回転は係合凸部33aの第2側面部36bが溝部59aにおける第2側壁部72に衝接したところで停止する。それゆえ、
図10において鍵3の回転角度が90°となるように部材30における係合凸部33aと錠1における第1,第2側壁部71,72との位置関係を定めれば、錠1の施錠と開錠とが可能になるとともに、錠1が2点抜き仕様のものになる。また、その位置関係を鍵3の回転角度が90°未満となるように定めれば、錠1が1点抜き仕様のものになる。
【0040】
図10の錠1は、前面部分51における溝部59aの位置を図示例のものとは左右対象となるように変更することによって、鍵3を時計方向B(
図8参照)へ回転させると、開錠状態となるものに変えることが可能である。
【0041】
図12もまた、本発明の実施態様の一例を示す
図7(a)と同様な図である。ただし、
図12における錠1は、
図9に示すカム板35が使用されていないことにおいて、
図10の錠1と同じである。
図12において錠1に取り付けられている回転角度規制部材230は、図示の透孔232が形成されている点においてのみ
図7(a)の回転角度規制部材30と異なっている。
図12には、鍵3の回転軸Cを通過する垂直線Pと水平線Hとが示されている。透孔232は、周縁部240によって画成されていて、その周縁部240は水平線Hに平行して延びる第1,第3縁部241,243と、垂直線Pに平行して延びる第2,第4縁部242,244と、円弧状の第5,第6縁部245,246とを有する。
【0042】
図12において、鍵3は、第4縁部244に邪魔されることなく、好ましくは第4縁部244に対して摺動しながら鍵挿入口11に挿入することができ、反時計方向Aへ90°回転させると、第1縁部241に当接して停止する。そのときの止め金具6は、水平に延びた状態から仮想線で示す垂直方向へ延びた状態へと変化し、扉5(
図1参照)が開錠状態となるとともに、鍵3を抜き取ることができる状態になる。また、鍵3を抜き取ることなく時計方向へ回転させると、鍵3は第4縁部244に当接して停止し、止め金具6が図示の状態となって扉5が施錠状態となる。
【0043】
図13は、
図12と同様な図であるが、回転角度規制部材230は、周縁部240のうちで第3縁部243が垂直となり、第2縁部242が水平となる態様で錠1に取り付けられている。鍵3は垂直方向に延びていて、第3縁部243に接していることで反時計方向Aへ回転することがない。このように
図12,13に示す回転角度規制部材230が取り付けられている錠1では、カム板35(
図9参照)を使用しなくても、鍵3の回転角度を規制することができる。
図13の場合であれば、鍵3は時計方向Bへ90°回転すると、透孔232の第2縁部242に当接して停止し、錠1から抜き取ることができる。そのときに、止め金具6は90°旋回して仮想線で示す位置になる。
【0044】
本発明を実施するうえにおいて、図示例の如き第1~第4縁部241~244が形成されている態様の回転角度規制部材230は、第2,第3縁部242,243が形成されていない態様や第1,第4縁部241,244が形成されていない態様のものに替えることもできる。
【0045】
本発明に係る回転角度規制部材30,230は、錠1を需要者に提供する場合、錠1に取り付けた態様および別体のものとして錠1に付属させた態様のいずれであってもよいものである。また、その回転角度規制部材30,230において規制すべき角度の選択は、図示例に限ることなく、適宜の角度を選択することができる。
【0046】
また、本発明に係るシリンダー錠は、その種類を特定するものではない。シリンダー錠は、ピンシリンダータイプの他に、ロータリーディスクタンブラーやマグネットタンブラー等のタイプのものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 錠
3 鍵
6 止め金具
11 鍵挿入口
30 回転角度規制部材(部材)
32 透孔
40 周縁部
41,42 縁部(第1、第2縁部)
51 前面部分
71,72 部位(第1、第2側壁部)
230 回転角度規制部材(部材)
232 透孔
241,243 縁部(第1、第3縁部)
242,244 縁部(第2、第4縁部)
A 反時計方向
B 時計方向