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特許7125148エラストマー製品のためのエラストマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】エラストマー製品のためのエラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20220817BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20220817BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220817BHJP
   C08K 5/02 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L27/18
C08L83/04
C08K5/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019555553
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 MY2017050081
(87)【国際公開番号】W WO2018117812
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】PI2016704795
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(73)【特許権者】
【識別番号】519228681
【氏名又は名称】イノーバ マテリアル サイエンス スンディリアン ブルハド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】クー、シオン フイ
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-329172(JP,A)
【文献】特開平06-070942(JP,A)
【文献】特開平02-049060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーおよび添加剤を含むエラストマー組成物であって、
前記エラストマーが、ポリウレタンを含み、
前記添加剤が、エラストマー鎖と結合してエラストマー製品を製造する、水性フルオロカーボンと、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドと反応させたポリシロキサンと、の組み合わせであることを特徴とする、エラストマー組成物。
【請求項2】
前記フルオロカーボンがテトラフルオロエチレンである、請求項に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記フルオロカーボンが分散物である、請求項に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
前記フルオロカーボンがエマルジョンである、請求項に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
前記エラストマー組成物中の前記フルオロカーボンの濃度が、0.1重量%~30重量%である、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
前記ポリシロキサンがエマルジョンである、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
前記エラストマー組成物中の前記ポリシロキサンの濃度が、0.1重量%~5重量%である、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
前記エラストマー組成物の表面張力を低下させるための界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、またはカチオン性界面活性剤のいずれか1つから選択される、請求項8に記載のエラストマー組成物。
【請求項10】
前記エラストマー組成物中の界面活性剤の濃度が、0.1重量%~3.5重量%である請求項9に記載のエラストマー組成物。
【請求項11】
前記エラストマー組成物中において酸化を阻害するための酸化防止剤をさらに含む、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項12】
前記酸化防止剤の濃度が0.1重量%~3重量%である、請求項11に記載のエラストマー組成物。
【請求項13】
前記エラストマー組成物が活性剤、硫黄、または促進剤を含まない、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項14】
前記促進剤が、チウラム、メルカプトベンゾチアゾール、カルバメート、またはこれらの誘導体、のいずれか1つまたはこれらの組み合わせを含む、請求項13に記載のエラストマー組成物。
【請求項15】
前記エラストマー製品が、コンドーム、バルーン、歯科用ダム、または手袋を含む、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項16】
医療器具用コーティングとしての、請求項1に記載のエラストマー組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低アレルギー性エラストマー製品を製造するためのエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Hevea brasilisensisの木の樹液から天然ラテックスを発見したことにより、ブルーミングゴム産業の道が開かれた。市販の天然ラテックス製品のいくつかの例には、手袋、コンドーム、バルーン、またはおしゃぶりが含まれる。
【0003】
しかし、天然ラテックス中に存在するラテックスタンパク質は、アレルギー反応を引き起こし得ることが発見された。痕跡量のラテックスタンパク質は天然ラテックスから製造されたあらゆる製品中に存在したままであり、その結果、製品と接触したとき該ラテックスタンパク質に対して感受性が発現して、じんましん、発疹、またはかゆみを生じる。さらに、手袋またはバルーンなどの天然ラテックスから作製される特定の製品は、ラテックスタンパク質を担持する粉末を含み得る。吸入された場合、これらの個体は、呼吸をも困難になり得る。重症例では、アナフィラキシーショックが起こることがある。
【0004】
残念ながら、ラテックスタンパク質の有害作用は、ラテックスアレルギーを有する個体のみには限定されない。むしろ、ラテックス製品に継続的に曝露されている人は接触する領域に皮膚炎を発症し、接触する領域の皮膚を荒らし乾燥させることがある。実際、ラテックスタンパク質はまた、破損または損傷した皮膚を通して吸収され得、ラテックス製品に連続的に曝露されるものは、アレルギーを発症する危険性がより高い(Australasian Society of Clinical Immunology and Allergy 2010; American College of Allergy、Asthma & Immunology 2014)。
【0005】
長期間の曝露では、個体がアレルギーであるか否かにかかわらず、ラテックスタンパク質の有害作用がほとんど誰にでも影響を及ぼす可能性がある。汚染、過酷な化学物質、または危険な病原体からの保護のためにラテックス手袋を着用することが常に必要とされているため、前記問題によって影響を受ける可能性がより高い人々のグループの一例は、医学または研究分野の人々である。
【0006】
その結果、ラテックス製品の限界、特にラテックス手袋における限界を克服するために、代替の解決策が提案されてきた。低アレルギー性ラテックス手袋の一つの方法は、ラテックス手袋の製造における塩素化プロセスを含み、WO 1992013497およびUS 6391409に実証されるように、手袋は、塩素に浸漬されてラテックス手袋中に存在するラテックスタンパク質が除去または分解される。しかし、この方法は、ラテックス手袋の塩素化が製品の貯蔵寿命、強度、または弾性を低下させ、天然ラテックス手袋の品質を完全に損なう可能性があることが発見されたので、リスクがないわけではない。
【0007】
この限界を克服するための第2のアプローチは、天然ラテックスから天然ラテックスと同様の特性を有するが実際のラテックスタンパク質自体を欠く合成ラテックスへの切り替えを行うことであった。この方法では、硫黄は典型的にはポリマー鎖中の架橋成分として作用し、ポリマー鎖は加硫中に架橋する。さらに、化学促進剤および活性剤を添加して、硫黄とポリマー鎖との間の結合速度を補助する。
【0008】
従来の合成ラテックス手袋は、使用者が十分に薄い快適な手袋の選択肢を提供し、その結果、器用さまたは能力に影響を及ぼさずに器械の正確な制御を長時間にわたって維持し、他のより厚く、よりかさばる手袋によってのみ通常は提供されるものである必要な保護バリアを使用者に提供するので、合成ラテックスは医療分野において特に好まれる。
【0009】
合成ラテックスから製造される製品は当該分野で周知であり、CA 2346912およびEP 1352616は、合成ラテックス手袋を製造するための組成物および方法における硫黄、促進剤、および活性剤の使用を開示する広範な文献の2つの例である。しかし、硫黄、促進剤、および活性剤の前記添加剤をラテックス組成物に添加すると、多くの欠点が生じる。特に、促進剤からの化学残留物はそれによって製造されたすべての合成ラテックス製品中に存在するかもしれず、化学残留物は、個体と接触した場合に抗原応答、例えば慢性皮膚炎を誘発するかもしれない潜在的な刺激物であることが発見されている。同時に、添加剤の痕跡は、それから製造された合成ラテックス手袋中に存在したままであるかもしれず、潜在的な汚染物質になり得る。結果として、ラテックスタンパク質が欠如しているにもかかわらず、それに応じて製造されたこれらの合成ラテックス手袋は、個体において抗原応答を依然として引き起こし得る。
【0010】
したがって、上述のような制限に対処するエラストマー製品用エラストマー組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、使用者に抗原応答を引き起こす可能性を低減するエラストマー製品用エラストマー組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は硫黄、活性剤、または促進剤を含まないエラストマー組成物を提供し、エラストマー組成物から製造されるエラストマー製品が硫黄、活性剤、または促進剤を含まないようにすることである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、保護バリアとして機能するための改善された抵抗特性を有するエラストマー製品を製造するためのエラストマー組成物を提供することである。
【0014】
本発明のこれらおよび他の目的は、本明細書に開示されるようなエラストマー製品を製造するためのエラストマー組成物によって達成される。より詳細には、エラストマー組成物がエラストマーと、エラストマーの鎖に結合するフッ素またはシリコーン化合物のいずれか1つまたは組み合わせから選択される添加剤とを含む。エラストマー組成物はまた、界面活性剤および酸化防止剤を含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
有利なことには、前記エラストマー組成物から製造されるエラストマー製品は低アレルギー性であり、その結果、その使用者が抗原応答を引き起こす可能性を低減する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態をより詳細に説明し、本発明の範囲を当業者に十分に伝える。しかし、本開示は、開示された形態そのものに本発明を限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示が一貫しかつ完全であるように提供されることを理解されたい。
【0017】
本発明は、エラストマー製品を製造用エラストマー組成物に関する。より具体的には、本発明はエラストマーと添加剤とを含む、エラストマー製品を製造するためのエラストマー組成物に関し、添加剤はエラストマー組成物中のエラストマー鎖と結合するフッ素化合物またはシリコーン化合物のいずれか1つまたは組み合わせから選択される。
【0018】
有利なことには、エラストマー組成物によって製造されるエラストマー製品は低アレルゲン性である。
【0019】
本明細書に記載されるエラストマー製品はラテックス手袋と関連するが、それに限定されるものではない。
【0020】
本発明のこの実施形態では、エラストマー組成物に利用されるエラストマーは、約18重量%のラテックスの全固形分(TSC)を含む。しかし、エラストマー組成物中に存在するラテックスのTSCは、製造されるエラストマー製品の種類および機能に基づいて、それに応じて改変され得ることが理解されるのであろう。
【0021】
第1の実施形態では、エラストマー組成物はエラストマーおよび添加剤を含み、添加剤はフッ素化合物である。フッ素化合物はフルオロカーボンであり、フルオロカーボンは、好ましくは6以下の炭素原子を含む。さらに、フッ素化合物は、分解されてパーフルオロオクタン酸(PFOA)またはパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を形成することができないことが好ましい。
【0022】
フルオロカーボンは、化学式Cであるテトラフルオロエチレンであることが好ましい
【0023】
あるいは、フルオロカーボンは、水性分散物または水性エマルジョンのいずれかの形態であり得る。また、フルオロカーボンは、アニオン性または非イオン性のいずれかであり得る。
【0024】
エラストマー組成物中のフッ素化合物は、0.1重量%~30重量%の濃度範囲である。
【0025】
エラストマー組成物中のフッ素化合物の濃度範囲を考慮すると、エラストマー組成物中のフッ素化合物の濃度は、製造が意図されるエラストマー製品の厚さおよび機能性に依存することに留意されたい。例えば、エラストマー組成物中のフッ素化合物の濃度が高いほど、製造されるエラストマー製品の耐性、すなわち、熱、化学薬品、または水に対する耐性が高くなる。さらなる例を詳述すると、手術用手袋を製造するためのエラストマー組成物中のフッ素化合物の濃度と比較して、作業用手袋を製造するためのエラストマー組成物中には、より高い濃度のフッ素化合物が必要である。
【0026】
本実施形態に関して、エラストマー組成物中のラテックスのTSCが外科手袋の製造において18重量%である場合、エラストマー組成物は、9重量%の濃度のフッ素化合物を含む。
【0027】
したがって、エラストマー組成物中のフッ素化合物の濃度は、0.1重量%~30重量%の範囲内に適宜変更してもよい。
【0028】
フッ素化合物は本実施形態において、フッ素の電子配置の高い電気陰性度によって、エラストマーのポリマー鎖と容易に結合することができ、安定なエラストマー組成物を生じる。
【0029】
有利なことには、第1の実施形態によるエラストマー組成物は、熱、化学薬品、および水に対して向上した耐性を有するエラストマー製品を製造することができ、その結果は本明細書で以下に論じられる。
【0030】
本発明の重要な特徴は、エラストマー組成物が硫黄、活性剤、または促進剤の添加を必要としないことであることが強調されるべきである。硫黄および活性剤の両方は、それらから製造されるすべてのラテックス手袋中の潜在的な汚染物質であり得る。例えば、ラテックス手袋中に存在する硫黄粒子は、特に微量の金属と接触した場合に、変色を引き起こす可能性がある。これは、活性剤の存在下では特に避けられず、最も知られている活性剤は酸化亜鉛である。また、ラテックス手袋の痕跡量の酸化亜鉛は、ラテックス手袋が食品の取り扱い中に着用される場合に特に望ましくないことにも留意されたい。他方、チウラム、メルカプトベンゾチアゾール、カルバメート、またはそれらの誘導体のいずれかのような促進剤は、使用者に慢性皮膚炎を引き起こし得る潜在的な刺激物であり得る。本実施形態においてこれらの添加剤が存在しない場合、本実施形態によって製造されたエラストマー製品は、前記添加剤に関連する悪影響を回避し得る。したがって、エラストマー製品は、この点で従来のエラストマー製品よりも有利である。
【0031】
さらに詳しく述べると、開示されるエラストマー組成物の別の好ましい特徴は、本実施形態のエラストマー組成物が環境に優しく、安全であることである。本発明において利用されるフッ素化合物は、炭素フットプリントを減少させるために本発明者らによって選択され、6個を超える炭素を含まない。さらに、フッ素化合物はまた、PFOAおよびPFOSに分解されることはなく、PFOAおよびPFOSが環境分解プロセスに耐性であるので、環境に極めて有益である。PFOSおよびPFOAの毒性および生物蓄積は、環境に対して極めて有害である可能性がある。
【0032】
また、本出願において活性剤として酸化亜鉛が存在しないことは、地球汚染に寄与しないので、付加的な利点であることが強調される。
【0033】
本発明の第2の実施形態によれば、エラストマー組成物は、エラストマーと、フッ素化合物およびシリコーン化合物の組合せとを含んでいてもよい。
【0034】
シリコーン化合物はポリシロキサンである。ポリシロキサンの低い表面エネルギーによって、エラストマー組成物へのシリコーン化合物の添加は、水、化学薬品、または熱に対する保護バリアが向上した層を有する、それから製造されるすべてのエラストマー製品を提供する。本実施形態では、ポリシロキサンを、エチレンオキシド基とプロピレンオキシド基との両方を含む有機ポリエーテルと反応させて、変性シリコーンエマルジョンを生成する。変性シリコーンエマルジョン中のエチレンオキシド基およびプロピレンオキシド基の量は、多数の水分子が水素結合を介してエチレンオキシドに半結合されることを可能にする、変性シリコーンエマルジョン中に十分な量のエチレンオキシドが存在するような量である。その結果、変性シリコーンエマルジョン中に存在するエチレンオキシドは、シリコーン化合物に水溶性、発泡防止性、および湿潤性を与える。一方、プロピレンオキシドは、変性シリコーンエマルジョンにおいて、油溶性、消泡性、および脱気性をもたらす。全体として、本明細書中の変性シリコーンとしてのシリコーン化合物は、良好なフィルム形成、低い界面張力、消泡、および迅速な乾燥特性をもたらし、これらの特性は、本発明のこの実施形態の手袋でもよい、それから製造されるすべてのエラストマー製品の製造における全体的なプロセスを有益に加速する。
【0035】
エラストマー組成物中のシリコーン化合物の濃度は、エラストマー組成物中に存在するラテックスのTSCの濃度に依存する。したがって、エラストマー組成物中のシリコーン化合物の濃度は、0.1重量%~5重量%の間で変化してもよい。
【0036】
第1の実施形態と同様に、エラストマー組成物中に存在するラテックスのTSCの濃度は、製造が意図されるエラストマー製品の種類および機能に応じて変化し得る。それにかかわらず、ラテックスのTSCが18重量%の濃度のままであると仮定すると、この実施形態におけるフッ素化合物の濃度は9重量%であり、一方、シリコーン化合物の濃度は、ラテックス手術用手袋の製品において0.49重量%である。
【0037】
上記の通り、フッ素化合物はテトラフルオロエチレンである。
【0038】
エラストマー組成物は、界面活性剤も含んでいてもよい。界面活性剤はエラストマー組成物中のエラストマーとシリコーン化合物との間の表面エネルギーを低下させるように機能するので、界面活性剤の濃度はシリコーン化合物の濃度によって変更すればよい。エラストマー組成物中に存在するより高い濃度のシリコーン化合物は、エラストマー組成物の安定性を低下させる。したがって、界面活性剤の添加はエラストマー組成物を安定化し、0.1重量%~3.5重量%の範囲の濃度で添加されるべきである。
【0039】
本実施形態では、シリコーン化合物の濃度が0.49重量%である場合、界面活性剤の濃度で0.19重量%の量がエラストマー組成物に添加される。
【0040】
界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、または陽イオン界面活性剤のいずれか1つから選択することができる。
【0041】
エラストマー製品は低アレルギー性でもあり、したがって、使用者が抗原反応を引き起こす可能性を低減する。
【0042】
本発明の第3の実施形態がさらに開示される。
【0043】
この実施形態によるエラストマー組成物は、エラストマー、シリコーン化合物、および界面活性剤を含む。
【0044】
この実施形態では、シリコーン化合物および界面活性剤が本明細書において上述した通りである。すなわち、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方を含む有機ポリエーテルと、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、またはカチオン性界面活性剤のいずれか1つから選択される界面活性剤と、を反応させたポリシロキサンである。
【0045】
さらに、この実施形態では、エラストマー組成物中のシリコーン化合物および界面活性剤の濃度範囲は同様である。すなわち、それぞれ0.1重量%~5重量%および0.1重量%~3.5重量%の濃度範囲である。
【0046】
ここでもまた、上記で開示したように、エラストマー組成物中のラテックスのTSCの濃度は、製造されるエラストマー製品の機能および種類に応じて変化し得る。しかし、意図するラテックス製品が手術用手袋であると仮定すると、ラテックスのTSC濃度は18重量%のままである。18重量%のラテックスのTSC濃度では、シリコーン化合物の濃度は0.49重量%であり、一方、界面活性剤は0.19重量%の濃度を有する。
【0047】
第3の実施形態の本発明は、エラストマー組成物中の酸化を阻害することによってエラストマー組成物の安定化を助ける酸化防止剤の添加も含んでもよい。
【0048】
エラストマー組成物中の酸化防止剤の濃度はエラストマー組成物中のラテックスのTSCの濃度に依存するので、酸化防止剤の濃度範囲は0.1重量%から5重量%まで変化してもよい。
【0049】
本実施形態において、エラストマー組成物中の酸化防止剤の濃度は、ラテックスのTSCの濃度が18重量%である場合、0.49重量%である。
【0050】
本実施形態における酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、亜リン酸系酸化防止剤、またはアミン系酸化防止剤、またはラテックス製品の分解を防止するのを助ける本明細書に列挙されていない酸化防止剤のいずれか1つから選択することができる。
【0051】
しかし、本実施形態における酸化防止剤の添加は任意であることは理解されるのであろう。
本発明の第1、第2、および第3の実施形態は、硫黄、活性剤、または何らかの促進剤を含まないことを再度強調することが重要である。したがって、製造されたエラストマー製品は、添加剤の痕跡、ならびに添加剤に関連する作用を全く有していない。
【0052】
さらに、実施形態における活性化剤として酸化亜鉛を含まないことは地球汚染に寄与しないので、さらなる利点である。
【0053】
本発明の実施形態において利用されるエラストマーは、ポリウレタン、アクリロニトリルゴム、ポリクロロプレン、合成ポリイソプレン、スチレンイソプレンスチレン、スチレンエチレンブタジエンスチレン、または天然ゴムのいずれか1つから選択することができる。しかしながら、エラストマー組成物に利用されるエラストマーはポリウレタンであることが好ましい。
【0054】
本発明者は、第1、第2、および第3の実施形態のエラストマー組成物による手袋の製造を、浸漬法を用いて示す。これらの実施例では、ポリウレタン、アクリロニトリルゴム、ポリクロロプレンゴム、合成ポリイソプレン、または天然ゴムを含むエラストマーを使用して手袋が製造された。
【0055】
この実施例における手袋の製造において、エラストマー組成物に添加される界面活性剤は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムであり、一方、酸化防止剤は、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとのブチル化反応生成物である。手袋の製造のプロセスフローは、以下の表1に詳述されている。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1と表2との間の重要な相違点は、エラストマー組成物中のエラストマーがポリウレタンまたはポリクロロプレンである場合、塩素化工程(上記表中の工程12)が有益に必要とされないことであることが注目される。
【0059】
次いで、製造した手袋を種々の試験に供して、新品ではない手袋と新品の手袋の物理的性質、および手袋の耐薬品性を測定した。第1、第2、および第3の実施形態に従って製造されたポリウレタン手袋(以下、INOV8-V3、INOV8-V4、およびINOV8-V5と表示)の結果を以下に示す。添加剤を全く含まないポリウレタンを含む対照(INOV8-V1と表示)も、上記のプロセスパラメータに従って製造した。
【0060】
結果
【0061】
【表3】
【0062】
注:
INOV8-V1は、いかなる添加剤も含まないポリウレタンを含むエラストマー組成物から作られた手袋である。
INOV8-V3は、ポリウレタン(PU)および添加剤としてのシリコーン化合物および酸化防止剤を含むエラストマー組成物から作製された手袋である。シリコーン化合物は変性エチレンオキシドとプロピレンオキシドの混合物と反応させたポリシロキサンエマルジョンであり、酸化防止剤は、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応から得られるフェノール化合物である。
INOV8-V4は、ポリウレタン(PU)および添加剤としてフッ素化合物の水性エマルジョンを含むエラストマー組成物から作製された手袋である。フッ素化合物の水性エマルジョンは、異なる固形分およびイオン特性の組み合わせを含む。
INOV8-V5は、ポリウレタン(PU)および添加剤としてフッ素化合物およびシリコーン化合物の水性エマルジョンを含むエラストマー組成物から作製される手袋である。フッ素化合物の水性エマルジョンは異なる固形分およびイオン特性の組合せを含み、シリコーン化合物は、変性エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの混合物と反応したポリシロキサンエマルジョンである。
【0063】
上記の結果に示されるように、本発明の実施形態に従って製造された手袋は、米国材料試験協会(ASTM)-D3577試験を用いて試験された。
【0064】
添加剤を含む新品の手袋、すなわちINOV8-V3、INOV8-V4、INOV8-V5の引張強さは21~35MPaの範囲内にあり、破断伸び率は880~1000%の範囲内にあり、弾性率500の最高値は3.8 MPAである。
【0065】
同様に、添加剤を含む新品ではない手袋、すなわち70℃で7日間保存した手袋も、有望な結果を示す。保存した手袋の引張強度は20.5~37MPaの範囲内にあり、手袋の破断伸び率は890~1000%の範囲内にあり、弾性率500の最高値は3.4MPaである。
【0066】
また、この結果から、手袋の耐引裂性は、新品の手袋では23~29kN/m、70℃で7日保存した手袋では22~27kN/mであり、手袋を引裂くのに大きな力が必要であるため、手袋が裂けにくいことがわかる。
【0067】
対照的に、同じ試験に供した場合、対照、すなわち、添加剤を含まないINOV8-V1は、70℃で7日間保存した場合には溶融した。手袋を試験するための最小限の要件は、手袋が滅菌されていない間に、未経時および経時試験に合格しなければならないことである。対照は経時試験に合格せず、手袋が使用者に十分な保護を提供できなかったことが明らかであるので、さらなる試験は必要ではなかった。
【0068】
第1、第2、および第3の実施形態による手袋による結果は、ラテックス手袋のためのATSM試験によって規定される最小限の要件をはるかに超え、手袋が経時か、熱処理されているか、または滅菌されているかどうかにかかわらず、結果に大きな差異はない。したがって、この結果は、本発明の実施形態に開示される添加剤が手袋に添加される場合には、滅菌されているかいないかにかかわらず、手袋は耐熱性の改善、保存寿命の改善、および品質および保護の全体的な改善があることを示す。
【0069】
PU手袋の耐薬品性
【表4】

【0070】
注:
V1 添加剤を全く含まないポリウレタンを含むエラストマー組成物から作られた手袋である。
V3は、ポリウレタン(PU)および添加剤としてシリコーン化合物および酸化防止剤を含むエラストマー組成物から作製された手袋である。シリコーン化合物は変性エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの混合物と反応させたポリシロキサンエマルジョンであり、酸化防止剤は、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとのブチル化反応から得られるフェノール化合物である。
V4は、ポリウレタン(PU)および添加剤としてフッ素化合物の水性エマルジョンを含むエラストマー組成物から作製された手袋である。フッ素化合物の水性エマルジョンは、異なる固形分およびイオン特性の組み合わせを含む。
V5は、ポリウレタン(PU)と、添加剤としてフッ素化合物およびシリコーン化合物の水性エマルジョンとを含むエラストマー組成物から作製された手袋である。フッ素化合物の水性エマルジョンは、異なる固形分およびイオン特性の組合せを含み、シリコーン化合物は、変性エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの混合物と反応したポリシロキサンエマルジョンである。
【0071】
V1、V3、V4、およびV5の手袋の耐薬品性を、手袋をイソプロピルアルコール、トルエン、アセトニトリル、水酸化ナトリウム(NaOH 50%)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、エタノール、およびジクロロメタン(DCM)などの薬品に室温で30分間浸漬して、その膨潤指数(%)を測定することによって試験した。下記の式を用いて手袋の膨潤指数(%)を測定した。
【0072】
【数1】
【0073】
ここでQは膨潤指数(%)であり、Wは最初の重量であり、Wは室温で30分間化学薬品に浸漬した後の膨潤後重量である。膨潤指数(%)の値が低ければ低いほど、手袋は経時的に化学薬品に対してより耐性がある。
【0074】
表4からわかるように、30分間化学薬品に浸漬されたV3、V4、およびV5の手袋の最終膨潤指数(%)読み取り値は、V3の手袋がV1の手袋と同じ膨潤指数(%)であったトルエンを除いて、V1手袋と比較して低い。V3、V4、およびV5の手袋の全てのより低い膨潤指数(%)は、本発明に開示される添加剤が、手袋の製造においてエラストマー組成物に添加される場合、前記化学薬品に対する抵抗性の増加があることを示す。
【0075】
したがって、得られた結果に基づいて、上記の実施形態のいずれかによって製造された手袋は、標準ATSMの要件を満たすだけでなく、本明細書に開示される通り、添加剤を全く含まない手袋と比較して有意な改善も示すことが明らかである。
【0076】
さらに、製造されたV3、V4、およびV5手袋の壁はそれぞれ0.13mm、0.075mm、および0.11mm程度の薄さであり、手袋が指の動きを損なうことなく、または医療器具に対するコントロールを損なうことなく、使用者が手袋を着用することができるので、例えば、外科用手袋に特に好ましい。さらに、手袋が薄いので、使用者は、手袋を着用したときに医療器具をコントロールするために追加の力を加える必要がない。
【0077】
しかし、手袋の壁が薄いにもかかわらず、手袋は依然として有効なバリアとして機能し、その使用者に対して最適な保護を提供することができる。
【0078】
好ましくは、本発明の第1および第2の実施形態によって製造された手袋、それぞれV4およびV5の手袋が試験された際に特に耐薬品性に対して全体的に最も有望な結果を示すことが見出されたので、本発明の第1および第2の実施形態が最も好ましい。
【0079】
有利なことには、本発明の実施形態のエラストマー組成物は、使用者において抗原応答を誘発する危険性が低減された低アレルギー性手袋を製造することができる。エラストマー組成物中に微量の活性剤、硫黄、または促進剤粒子が存在しないことは、この利点にさらに寄与し、手袋を着用したときに化学粒子による汚染の可能性を減少させる。
【0080】
上記の実施形態のエラストマー組成物は、コンドーム、歯科用ダム、またはバルーンの製造にも使用することができる。
【0081】
さらに、エラストマー組成物はまた、医療器具のためのコーティングとして使用され得る。
【0082】
よって、本発明は、上記の説明において特定の実施形態で説明されてきた。しかし、上記の説明は、本発明を上記の詳細に限定するものではないことが理解されるべきである。当業者には、本発明の原理または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができることが明らかであろう。
【0083】
参照
オーストララジアン臨床免疫アレルギー学会2010、ラテックスアレルギー、2016年9月30日アクセス、<https://goo.gl/QLdtVn>
【0084】
米国アレルギー・喘息・免疫学会2014、ラテックスアレルギー、2016年9月30日アクセス<https://goo.gl/LDqgHG>
(付記)
本開示に係る実施形態は以下のものも含む。
<1>
エラストマーおよび添加剤を含むエラストマー組成物であって、前記添加剤が、エラストマー鎖と結合して低アレルギー性エラストマー製品を製造する、フッ素化合物もしくはシリコーン化合物のいずれか1つ、または前記フッ素化合物と前記シリコーン化合物との組み合わせから選択されることを特徴とする、エラストマー組成物。
<2>
前記フッ素化合物がフルオロカーボンである、<1>に記載のエラストマー組成物。
<3>
前記フルオロカーボンがテトラフルオロエチレンである、<2>に記載のエラストマー組成物。
<4>
前記フルオロカーボンが水性分散物である、<2>に記載のエラストマー組成物。
<5>
前記フルオロカーボンが水性エマルジョンである、<2>に記載のエラストマー組成物。
<6>
前記エラストマー組成物中の前記フッ素化合物の濃度が、0.1重量%~30重量%である、<1>に記載のエラストマー組成物。
<7>
前記シリコーン化合物がポリシロキサンである、<1>に記載のエラストマー組成物。
<8>
前記ポリシロキサンをエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドと反応させた、<7>に記載のエラストマー組成物。
<9>
前記ポリシロキサンがエマルジョンである、<7>に記載のエラストマー組成物。
<10>
前記エラストマー組成物中の前記シリコーン化合物の濃度が、0.1重量%~5重量%である、<1>に記載のエラストマー組成物。
<11>
前記シリコーン化合物、または前記フッ素化合物と前記シリコーン化合物との組合せを有する前記エラストマー組成物が、エラストマー組成物の表面張力を低下させるための界面活性剤をさらに含む、<1>または<7>に記載のエラストマー組成物。
<12>
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、またはカチオン性界面活性剤のいずれか1つから選択される、<11>に記載のエラストマー組成物。
<13>
前記エラストマー組成物中の界面活性剤の濃度が、0.1重量%~3.5重量%である<12>に記載のエラストマー組成物。
<14>
前記シリコーン化合物を有する前記エラストマー組成物が、エラストマー組成物中において酸化を阻害するための酸化防止剤をさらに含む、<1>または<7>に記載のエラストマー組成物。
<15>
前記酸化防止剤の濃度が0.1重量%~3重量%である、<14>に記載のエラストマー組成物。
<16>
前記エラストマー組成物が活性剤、硫黄、または促進剤を含まない、<1>に記載のエラストマー組成物。
<17>
前記促進剤が、チウラム、メルカプトベンゾチアゾール、カルバメート、またはこれらの誘導体、のいずれか1つまたはこれらの組み合わせを含む、<16>に記載のエラストマー組成物。
<18>
前記エラストマー組成物が、ポリウレタン、アクリロニトリルゴム、ポリクロロプレン、合成ポリイソプレン、スチレンイソプレンスチレン、スチレンエチレンブタジエンスチレン、または天然ゴムから選択されるエラストマーを含む、<1>に記載のエラストマー組成物。
<19>
前記エラストマー製品が、コンドーム、バルーン、歯科用ダム、または手袋を含む、<1>に記載のエラストマー組成物。
<20>
医療器具のためのコーティングとしての、<1>に記載のエラストマー組成物の使用。