(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、モータ駆動方法、及びモータ駆動プログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 5/46 20060101AFI20220817BHJP
H02P 5/50 20160101ALI20220817BHJP
H02P 5/747 20060101ALI20220817BHJP
B60L 15/20 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
H02P5/46 H
H02P5/50 D
H02P5/747
B60L15/20 S
(21)【出願番号】P 2018151623
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】日比野 良一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】西澤 博幸
(72)【発明者】
【氏名】仲原 彰治
(72)【発明者】
【氏名】長田 育充
(72)【発明者】
【氏名】日下部 誠
(72)【発明者】
【氏名】菅井 賢
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 靖広
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-070036(JP,A)
【文献】特開2008-199744(JP,A)
【文献】特開2010-057218(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186471(WO,A1)
【文献】特開2011-036078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/46
H02P 5/50
H02P 5/747
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に備えた第1モータ及び第2モータを駆動する駆動部と、
前記第1モータ及び第2モータの回転速度差を検出する回転速度差検出部と、
前記第1モータ及び第2モータの回転位相差を検出する回転位相差検出部と、
前記回転速度差検出部で検出された回転速度差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの少なくとも一方のモータの回転速度を変化させて前記回転速度差が予め定めた目標値以下になるように前記駆動部を制御する
回転速度差を抑制する制御を行うと共に、
前記回転速度差が目標値に到達した際に、前記回転速度差を抑制する制御を継続しながら、前記回転位相差検出部で検出された回転位相差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの少なくとも一方
のモータの回転位相を変化させて前記回転位相差が
前記回転位相差の目標値になるように前記駆動部を制御する制御部と、
を備えたモータ駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1モータ及び第2モータの回転速度が等速になるように前記駆動部を制御する
請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1モータ及び第2モータの
回転速度によるトルク変動を抑制するように、前記第1モータ又は第2モータの回転速度における回転周波数に対するトルク変動の次数に対応して設定される前記回転位相差の目標値になるように前記駆動部を制御する
請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
コンピュータが、
移動体に備えた第1モータ及び第2モータの回転速度差を検出し、
前記第1モータ及び第2モータの回転位相差を検出し、
検出された回転速度差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの回転速度差が予め定めた目標値以下になるように前記第1モータ及び第2モータを駆動する駆動部を制御する
回転速度差を抑制する制御を行うと共に、
前記回転速度差が目標値に到達した際に、前記回転速度差を抑制する制御を継続しながら、前記回転速度差が目標値に到達した際に、検出された回転位相差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの回転位相差が
前記回転位相差の目標値になるように前記駆動部を制御する
モータ駆動方法。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から請求項3の何れか1項に記載されたモータ駆動装置として機能させるためのモータ駆動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置、モータ駆動方法、及びモータ駆動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一対のモータで発生された各々のトルクを用いて自動車等の移動体を移動させる場合、モータを構成するロータに固定された永久磁石及びステータに形成されたステータギャップによってトルクリップルと呼ばれるトルク変動が発生する。一対のモータで発生された各々のトルクは、モータの回転周波数に対する各次数の正弦波を合成した波形で表すことができ、各次数の正弦波毎にトルク変動が発生する。このトルク変動を低減するため、予め選択した次数のトルク変動が打ち消されるように、一対のモータの取り付け角度を調整する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、例えば、移動体の固有周波数と一致する周波数を有する次数のトルク変動を予め選択し、選択された次数のトルク変動を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、選択された次数のトルク変動を低減させることができるものの、非選択の次数のトルク変動を低減させることは困難である。例えば、移動体は、移動状況に伴ってトルクに影響する次数が変化する。移動体の停止状況から移動開始当初(所謂発振直後)では、一次成分の正弦波がトルク変動に影響し、モータの回転速度の上昇に伴って、より高次成分の正弦波がトルク変動に影響する。このため、選択された次数のトルク変動を低減させた場合、移動体の移動状況に応じてトルク変動の低減が困難な状況が発生する。従って、移動体で発生するトルク変動を低減することには改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮してなされたもので、モータの回転によってトルク変動の次数が変化する場合であっても、トルク変動を抑制することができるモータ駆動装置、モータ駆動方法、及びモータ駆動プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示のモータ駆動装置は、移動体に備えた第1モータ及び第2モータを駆動する駆動部と、前記第1モータ及び第2モータの回転速度差を検出する回転速度差検出部と、前記第1モータ及び第2モータの回転位相差を検出する回転位相差検出部と、前記回転速度差検出部で検出された回転速度差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの少なくとも一方のモータの回転速度を変化させて前記回転速度差が予め定めた目標値以下になるように前記駆動部を制御する回転速度差を抑制する制御を行うと共に、前記回転速度差が目標値に到達した際に、前記回転速度差を抑制する制御を継続しながら、前記回転位相差検出部で検出された回転位相差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの少なくとも一方のモータの回転位相を変化させて前記回転位相差が前記回転位相差の目標値になるように前記駆動部を制御する制御部と、を備えている。
【0007】
移動体に備えた第1モータ及び第2モータは、回転速度差検出部によって回転速度差が検出され、回転位相差検出部によって回転位相差が検出される。制御部は、検出された回転速度差に基づいて、第1モータ及び第2モータの少なくとも一方のモータの回転速度を変化させて回転速度差が予め定めた目標値以下になるように駆動部を制御すると共に、回転位相差検出部で検出された回転位相差に基づいて、第1モータ及び第2モータの少なくとも一方もモータの回転位相を変化させて回転位相差が予め定めた目標値になるように駆動部を制御する。これによって、モータの回転に応じて生じるトルク変動を抑制することができる。
【0008】
前記制御部は、前記第1モータ及び第2モータの回転速度が等速になるように前記駆動部を制御することができる。これによって、モータの回転速度差に応じて生じるトルク変動を抑制することができる。
【0009】
前記第1モータ及び第2モータのトルクを、各々の回転周波数に対する各次数の正弦波を合成した波形で表した場合、前記目標値は、前記第1モータ及び第2モータの回転速度に対して予め定めた次数に対応して予め設定される。これによって、モータの回転位相に応じて生じるトルク変動を抑制することができる。
前記制御部は、前記第1モータ及び第2モータの回転速度によるトルク変動を抑制するように、前記第1モータ又は第2モータの回転速度における回転周波数に対するトルク変動の次数に対応して設定される前記回転位相差の目標値になるように前記駆動部を制御することができる。
【0010】
本開示のモータ駆動方法は、コンピュータが、移動体に備えた第1モータ及び第2モータの回転速度差を検出し、前記第1モータ及び第2モータの回転位相差を検出し、検出された回転速度差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの回転速度差が予め定めた目標値以下になるように前記第1モータ及び第2モータを駆動する駆動部を制御する回転速度差を抑制する制御を行うと共に、前記回転速度差が目標値に到達した際に、前記回転速度差を抑制する制御を継続しながら、前記回転速度差が目標値に到達した際に、検出された回転位相差に基づいて、前記第1モータ及び第2モータの回転位相差が前記回転位相差の目標値になるように前記駆動部を制御する。
【0011】
本開示のモータ駆動プログラムは、コンピュータを、前記モータ駆動装置として機能させる。
【0012】
これらのモータ駆動方法及びモータ駆動プログラムによってもモータの回転に応じて生じるトルク変動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本開示によれば、モータの回転によってトルク変動する場合であっても、トルク変動を抑制することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係るモータ駆動装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るモータ駆動装置を適用可能なモータ動力合流機構における動力合流の共線図である。
【
図3】モータ動力合流機構の概要図であり、(A)は概略構成を示し、(B)はスケルトン線図である。
【
図4】実施形態に係るモータ駆動装置によって駆動した2つのモータの実験結果を示すイメージ図である。
【
図5】実施形態に係るモータ駆動装置によって駆動した2つのモータの実験結果を示すイメージ図である。
【
図6】実施形態に係るモータ駆動装置によって駆動した2つのモータの実験結果を示すイメージ図である。
【
図7】実施形態に係るモータ駆動装置によって駆動した2つのモータの実験結果を示すイメージ図である。
【
図8】実施形態に係るモータ駆動装置を、コンピュータにより実現する構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】実施形態に係るモータ駆動装置におけるモータ駆動処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。
本実施形態は、移動体に備えたモータを駆動するモータ駆動装置の一例として、遊星歯車またはラビニョ等のギヤを用いて、2つのモータの回転による動力を合流させる電動車両の駆動装置に適用する場合を一例として説明する。
【0016】
図1に、本実施形態に係るモータ駆動装置10の概略構成を示す。
図1に示すように、制御対象である2つのモータである第1のモータM1及び第2のモータM2の各々の動力が、モータ動力合流機構14において合流される。モータ動力合流機構14には、第1のモータM1の回転速度を検出する回転速度検出部14A、及び第2のモータM2の回転速度を検出する回転速度検出部14Bが含まれている。回転速度検出部14A、14Bは、減算器36を介して出力端38に接続される。回転速度検出部14Aで検出された第1のモータM1の回転速度V1と、回転速度検出部14Bで検出された第2のモータM2の回転速度V2とは減算器36で演算されて、回転速度差Vrとして出力端38へ出力される。
【0017】
また、モータ動力合流機構14には、第1のモータM1の回転位相角を検出する回転位相角検出部14C、及び第2のモータM2の回転位相角を検出する回転位相角検出部14Dが含まれている。回転位相角検出部14C、14Dは、減算器46を介して出力端48に接続される。回転位相角検出部14Cで検出された第1のモータM1の回転速度θ1と、回転位相角検出部14Dで検出された第2のモータM2の回転位相角θ2とは減算器46で演算されて、回転位相角差θrとして出力端48へ出力される。
【0018】
図2に、本実施形態に係るモータ駆動装置10を適用可能なモータ動力合流機構14における動力合流の共線図を示す。
図3に、モータ動力合流機構14の概要を示し、(A)にモータ動力合流機構14の概略構成を示し、(B)にスケルトン線図を示す。
図2及び
図3に示す例では、ダブルピニオンギヤを用いて、第1のモータM1及び第2のモータM2の各々の動力が合流されること示している。すなわち、第1のモータM1の軸がサンギヤの軸に、第2のモータM2の軸がキャリアギヤの軸に、出力軸がリングギヤの軸に連結されることを示している。
【0019】
図1に示すように、モータ駆動装置10は、制御対象である2つのモータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相差に制御する。このため、モータ駆動装置10は、速度差フィードバックコントローラ16、位相角差フィードバックコントローラ18、及び判定部20を備えている。
【0020】
速度差フィードバックコントローラ16は、モータM1,M2で、回転速度差を抑制する制御量を求める機能部であり、モータ動力合流機構14で生じるモータM1,M2の回転速度差を調整する速度補償器として機能する。速度差フィードバックコントローラ16の入力側は、減算器32を介して入力端30に接続される。減算器32には、減算器36の出力側も接続される。入力端30には、回転速度差を抑制するために予め定めた目標回転速度差Vstが入力される。目標回転速度差Vstの一例には、(Vst=)「0」が挙げられる。入力された目標回転速度差Vstと、検出された回転速度差Vrとは減算器32で演算されて、目標回転速度差Vstに対する現在の回転速度差Vrの差が制御対象の回転速度差として速度差フィードバックコントローラ16に入力される。一方、速度差フィードバックコントローラ16の出力側は、加算器34を介してモータ動力合流機構14に接続される。速度差フィードバックコントローラ16は、入力された制御対象の回転速度差を、モータM1,M2で抑制する制御量を求め、モータ動力合流機構14へ出力する。
【0021】
なお、制御対象の回転速度差を抑制するためのモータM1,M2における制御量は、モータM1,M2の少なくとも一方の制御量である。例えば、モータM1,M2を所定の回転速度まで上昇させる場合、モータM1を基準のモータとして、所定の回転速度まで上昇させ、モータM2を追従するモータとして、入力された制御対象の回転速度差を抑止する制御量を求めて、各々モータ動力合流機構14へ出力する。基準のモータM1と追従するモータM2の関係は、逆の基準のモータM2と追従するモータM1の関係でもよい。また、目標の回転速度を定めて、入力された制御対象の回転速度差を抑止しつつ、その目標の回転速度に到達させるモータM1,M2それぞれの制御量を求めて、各々モータ動力合流機構14へ出力してもよい。ここでは、一例として回転速度の値を用いた場合を説明したが、モータM1、M2の各々の回転速度の上昇率を用いてもよい。
【0022】
位相角差フィードバックコントローラ18は、モータM1,M2で、回転位相角差を抑制する制御量を求める機能部であり、モータ動力合流機構14で生じるモータM1,M2の回転位相角差を調整する速度補償器として機能する。位相角差フィードバックコントローラ18の入力側は、減算器42を介して入力端40に接続される。減算器42には、減算器46の出力側も接続される。入力端40には、回転位相角差を抑制するために予め定めた目標回転位相角差θstが入力される。入力された目標回転位相角差θstと、検出された回転位相角差θrとは減算器42で演算されて、目標回転位相角差θstに対する現在の回転位相角差θrの差が制御対象の回転位相角差として位相角差フィードバックコントローラ18に入力される。一方、位相角差フィードバックコントローラ18の出力側は、スイッチ22(詳細は後述)及び加算器34を介してモータ動力合流機構14に接続される。位相角差フィードバックコントローラ18は、入力された制御対象の回転位相角差を、モータM1,M2で抑制する制御量を求め、モータ動力合流機構14へ出力する。
【0023】
なお、制御対象の回転位相角差を抑制するためのモータM1,M2における制御量は、モータM1,M2の少なくとも一方の制御量である。例えば、モータM1を基準のモータとし、モータM2を位相角を調整するモータとして、入力された制御対象の回転速度差を抑止するモータM2の制御量を求めて、モータ動力合流機構14へ出力する。基準のモータM1と調整するモータM2の関係は、逆の関係でもよい。また、目標の回転位相角を定めて、入力された制御対象の回転速度差を抑止しつつ、その目標の回転位相角に到達させるモータM1,M2それぞれの制御量を求めて、各々モータ動力合流機構14へ出力してもよい。
【0024】
判定部20は、モータM1,M2に対して、位相角差の抑制制御を反映させる制御へ切り替える機能部である。本実施形態では、判定部20は、回転速度差の抑制制御に加えて位相角差の抑制制御を行うように切り替える場合を説明する。判定部20の入力側は、目標回転速度差Vstが入力されるように入力端30が接続される。目標回転速度差Vstは、モータM1,M2の回転速度指示に対応して定まる。例えば、駆動力を与えるモータM1,M2を備えた移動体では、移動体に与える動力指示を示すアクセル開度及び移動体の移動速度等の移動状況に応じて目標回転速度差Vstが予め定められる。判定部20は、入力された目標回転速度差Vstが予め定めた目標値に到達したか否かを判定する。
【0025】
なお、本実施形態では、判定部20で目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達したか否かを判定する場合を説明するが、目標値は基準値に対して閾値を有してもよい。すなわち、判定部20は、目標値と見なす閾値を、目標値に基づいて設定し、その閾値を判定の基準とする。目標値と見なす閾値の一例は、目標値の基準値を「0」とした場合、±10rpm、又は+10rpm若しくは-10rpmが挙げられる。
【0026】
一方、判定部20の出力側は、スイッチ22の制御端22Gに接続される。判定部20は、判定結果(肯定又は否定)を示す信号をスイッチ22の制御端22Gに出力するようになっている。スイッチ22は、制御端22G、肯定端22A、否定端22B、及び出力端22Cを備えており、制御端22Gに入力された信号に応じて、出力端22Cへの接続を肯定端22A又は否定端22Bの何れかに接続を切り替える。すなわち、判定部20より肯定判定を示す信号が入力された場合、肯定端22Aと出力端22Cとが接続され、否定判定を示す信号が入力された場合、否定端22Bと出力端22Cとが接続される。なお、スイッチ22の否定端22Bには、回転速度差の値(「0」)を格納するメモリに接続される。メモリは、回転速度差の値(例えば「0」)を一時的に記憶する図示しないバッファを用いることができ、判定部20が、入力された回転速度差の値(例えば「0」)を格納することができる。
【0027】
次に、本実施形態に係るモータ駆動装置10の作動について説明する。なお、本実施形態では、モータM1,M2の各々を、徐々に回転速度を上昇させる場合を説明する。
【0028】
まず、入力端30に目標回転速度差Vstが入力され、及び入力端40に目標回転位相角差θstが入力されると、モータ駆動装置10は作動を開始し、モータM1,M2の各々は、回転を開始する。判定部20では、目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達したか否かを判定する。モータM1,M2の各々の回転開始直後に、目標回転速度差Vstが目標値「0」に未到達の場合には、判定部20は否定判定する。スイッチ22は、判定部20の否定判定によって否定端22Bと出力端22Cを接続することで、モータM1,M2の回転速度差を抑制するモータ駆動のみを行う。すなわち、速度差フィードバックコントローラ16ではモータM1,M2により回転速度差を抑制する制御量を求め、制御量を示す信号でモータM1,M2の各々の回転速度を制御する。従って、目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達しない場合は、モータM1,M2の回転速度差を抑制するモータ駆動が行われる。
【0029】
一方、目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達すると、判定部20は肯定判定し、スイッチ22で肯定端22Aと出力端22Cとが接続され、モータM1,M2の回転位相角差を抑制するモータ駆動を行う。すなわち、位相角差フィードバックコントローラ18でモータM1,M2により回転位相角差を抑制する制御量を求め、制御量を示す信号でモータM1,M2の各々の回転位相角を制御する。従って、モータM1,M2の回転位相角差が目標回転位相角差θstに到達するまで、モータM1,M2の回転位相角差を抑制するモータ駆動が行われる。この場合、モータM1,M2の回転速度差を抑制する制御も継続される。
【0030】
従って、本実施形態のモータ駆動装置10は、目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達する迄、モータM1,M2で、回転速度差を抑制する制御を行い、到達後は、モータM1,M2で、回転位相角差の制御をさらに行う。
【0031】
このように、本実施形態に係るモータ駆動装置10では、まずモータM1,M2で、回転速度差を抑制した後、回転位相角差を回転速度に応じた位相角差になるように、モータM1,M2の各々を駆動する。これによって、モータM1,M2の各々の回転速度が変化する場合であっても、モータM1,M2の各々の回転速度差及び回転位相角差を調整することで、モータの回転速度の上昇に伴って変化する次数のトルク変動を抑制することができる。
【0032】
図4に、本実施形態に係るモータ駆動装置10によって駆動したモータM1,M2の各々の実験結果1を示す。
なお、
図4の例では、モータM1,M2の各々の極対数p、電気角θe、及び機械角θmは、θm=θe/p の式で示される関係にある。また、
図4の例では、極対数p=1、目標角度差(目標位相差θst)=180度とした場合の実験結果を示している。
【0033】
また、
図4(A)はモータM1,M2の各々の回転速度を示し、モータM1の回転速度を実線で示し,モータM2の回転速度を点線で示した。
図4(B)は、モータ回転速度差を実線で示し、点線で目標回転速度差を示した。
図4(C)はモータM1,M2の各々の回転位相角を示し、
図4(D)はモータM1,M2の回転位相角差を実線で示し、点線で目標回転位相角差を示した。
図4(E)はモータM1,M2の1次のトルク変動(トルクリップル)による各々の振動成分を示し、モータM1の振動成分を実線で示し、モータM2の振動成分を点線で示した。
図4(F)にはモータM1,M2の各々の振動成分の和を示した。
【0034】
図4に示すように、実験開始(Time=0)から時間Txまでの間、すなわち、モータM1,M2の回転による目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達していないため、モータM1,M2で、回転速度差を抑制する制御が行われ、時間Txを経過した時刻に目標回転速度差Vstが「0」に到達後は、モータM1,M2で、回転位相角差の制御がさらに行われることが理解される。
【0035】
図5に、本実施形態に係るモータ駆動装置10によって駆動したモータM1,M2の各々の実験結果2を示す。
なお、
図5の例は、モータM1,M2を実験結果1と異なる条件下で行った実験結果であり、極対数p=2、目標角度差(目標位相差θst)=180度とした場合の実験結果を示している。
図5に示す実験結果2は、
図4に示す実験結果1と同様に、モータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相差への制御が行われることが理解される。
【0036】
図6に、本実施形態に係るモータ駆動装置10によって駆動したモータM1,M2の各々の実験結果3を示す。
なお、
図6の例は、モータM1,M2を実験結果1、2と異なる条件下で行った実験結果であり、極対数p=1、目標角度差(目標位相差θst)=90度とした場合の実験結果を示している。
図6に示す実験結果3も、上記実験結果1及び実験結果2と同様に、モータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相差への制御が行われることが理解される。なお、
図6(E)及び
図6(F)は、2次のトルク変動(トルクリプル)によるモータM1,M2の各々の振動成分を示す。
【0037】
図7に、本実施形態に係るモータ駆動装置10によって駆動したモータM1,M2の各々の実験結果4を示す。
なお、
図7の例は、モータM1,M2を実験結果1から実験結果3と異なる条件下で行った実験結果であり、極対数p=2、目標角度差(目標位相差θst)=90度とした場合の実験結果を示している。
図7に示す実験結果4も、上記実験結果1から実験結果3と同様に、モータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相差への制御が行われることが理解される。なお、
図7(E)及び
図7(F)は、2次のトルク変動(トルクリプル)によるモータM1,M2の各々の振動成分を示す。
【0038】
このように、本実施形態によれば、2つのモータM1,M2で、回転速度差を抑制した後、回転位相角差を回転速度に応じた位相角差になるように、モータM1,M2の各々を駆動することによって、モータM1,M2の各々の回転速度が変化する場合であっても、モータの回転速度の上昇に伴って変化する次数のトルク変動を抑制することができる。
【0039】
上記で説明したモータ駆動装置10は、モータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を制御するモータ駆動方法を用いたコンピュータにより実現することが可能である。
【0040】
図8に、本実施形態に係るモータ駆動装置10を、コンピュータにより実現する構成の一例を示す。
図8に示すように、モータ駆動装置10として動作するコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)12A、RAM(Random Access Memory)12B、およびROM(Read Only Memory)12Cを備えた装置本体12を含んで構成されている。ROM12Cは、2つのモータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相差に制御するモータ駆動プログラム12Pを含んでいる。装置本体12は、入出力インタフェース(I/O)12Dを備えており、CPU12A、RAM12B、ROM12C、及びI/O12Dは各々コマンド及びデータを授受可能なようにバス12Eを介して接続されている。また、I/O12Dは、第1のモータM1を駆動する第1モータ駆動部12Fを介して第1のモータM1に接続され、第2のモータM2を駆動する第2モータ駆動部12Gを介して第2のモータM2に接続される。また、I/O12Dには、モータM1、M2の各々の回転速度及び回転位相角を検出する検出部12H、キーボード及びマウス等の入力部とディスプレイ等の表示部を含む操作表示部12J、及び外部装置と通信する通信部12Kが接続されている。検出部の一例は、回転速度検出部14A、14B及び回転位相角検出部14Dである。
【0041】
装置本体12は、モータ駆動プログラム12PがROM12Cから読み出されてRAM12Bに展開され、RAM12Bに展開されたモータ駆動プログラム12PがCPU12Aによって実行されることで、モータ駆動装置10として動作する。なお、モータ駆動プログラム12Pは、モータM1,M2で、回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相差に制御する各種機能を実現するためのプロセスを含む(詳細は後述)。
【0042】
図9には、本実施形態に係るモータ駆動方法を実行するための処理の流れの一例として、モータ駆動プログラム12Pの処理の流れが示されている。装置本体12では、モータ駆動プログラム12PがROM12Cから読み出されてRAM12Bに展開され、RAM12Bに展開されたモータ駆動プログラム12PをCPU12Aが実行する。
【0043】
まず、ステップS100では、モータM1,M2の各々を目標回転速度まで上昇させる駆動指示を第1モータ駆動部12F及び第2モータ駆動部12Gへ出力する。
【0044】
次に、ステップS102では、検出部12Hとして機能する回転速度検出部14A、14BからモータM1,M2の各々の回転速度を取得し、モータM1,M2の回転速度差を演算する。次のステップS103では、モータM1,M2の回転速度指示に対応する目標回転速度差Vstを導出する。例えば、駆動力を与えるモータM1,M2を備えた移動体では、移動体に与える動力指示を示すアクセル開度及び移動体の移動速度等の移動状況に応じて目標回転速度差Vstが定められる。
【0045】
次のステップS104では、モータM1,M2の回転速度差を目標回転速度差Vstに到達させるためのモータ駆動量、すなわち、モータM1,M2の各々の駆動量を演算する。そして、次のステップS106で、駆動指示、すなわち、モータM1,M2の各々の第1モータ駆動部12F及び第2モータ駆動部12Gへ出力する。これらのステップS104及びステップS106の処理は、速度差フォードバックコントローラ16の動作の一例である。
【0046】
次にステップS108では、モータM1,M2の回転速度指示に対応する目標回転速度差Vstが目標値「0」に到達したか否かを判断し、否定判断の場合は処理をステップS102へ戻し、上記処理を繰り返し実行する。以上のようにしてモータM1,M2の回転速度差を目標回転速度差Vstにする制御が行われる。一方、ステップS108で、肯定判断の場合は処理をステップS110へ移行する。ステップS108の処理は、判定部20の動作に対応する。
【0047】
ステップS110では、検出部12Hとして機能する回転位相角検出部14C、14DからモータM1,M2の各々の回転位相角を取得し、モータM1,M2の回転位相角差を演算する。次のステップS112では、現在のモータ回転速度に対応する次数における位相角差の目標値、例えば180度を導出し、ステップS112では、現在のモータM1,M2の回転速度に対応する次数における位相角差の目標値(目標回転位相差θst)を導出する。次のステップS114では、モータM1,M2の回転位相角差を目標回転位相角差に到達させるためのモータ駆動量、すなわち、モータM1,M2の各々の駆動量を演算する。そして、次のステップS116で、駆動指示、すなわち、モータM1,M2の各々の第1モータ駆動部12F及び第2モータ駆動部12Gへ出力する。これらのステップS114及びステップS116の処理は、位相角差フォードバックコントローラ18の動作の一例である。
【0048】
次に、ステップS118では、モータM1,M2の回転位相角差が目標値(目標回転位相差θst)に到達したか否かを判断し、否定判断の場合は処理をステップS110へ戻し、肯定判断の場合は本処理ルーチンを終了する。以上のようにしてモータM1,M2の回転位相角差を回転速度に対応する次数の目標位相角差θstにする制御が行われる。
【0049】
このように、
図9に示すモータ駆動プログラムの処理の流れを手順とするモータ駆動方法によって、モータM1,M2で回転速度差を抑制しつつ位相角差を目標の位相角差に制御することが可能である。
【0050】
なお、本実施形態では、目標回転速度差Vstが目標値に到達した場合に、位相角差の抑制制御へ移行する場合を説明したが、回転速度差の抑制制御はモータM1,M2の回転速度差が目標に到達するように制御してもよい。この場合は、判定部20の入力側を、速度差フィードバックコントローラ16に入力される回転速度差が入力されるように接続すればよい。詳細には、判定部20は、予め定めた所定回転速度差Vo(例えば「0」)に、モータM1,M2の回転速度差が到達したか否かを判定する。判定部20は、モータM1,M2の回転速度差が所定回転速度差Voに到達したと見なす閾値を、所定回転速度差Voに基づいて設定し、その閾値を判定の基準とすることができる。例えば、所定回転速度差Voから、実験等により予め定めた回転速度差を閾値に設定する。閾値の一例は、所定回転速度差Voを「0」とした場合、±10rpm、又は+10rpm若しくは-10rpmが挙げられる。
【0051】
本実施形態に係るモータ駆動装置10は、開示の技術のモータ駆動装置の一例である。また、
図9に示す処理の流れは、開示の技術のモータ駆動プログラムの処理の流れの一例であり、開示の技術のモータ駆動方法の手順の一例である。
【0052】
なお、本実施形態に係るモータ駆動装置10に含まれる装置本体12は、構成する各構成要素を、上記で説明した各機能を有する電子回路等のハードウェアにより構築してもよく、構成する各構成要素の少なくとも一部を、コンピュータにより当該機能を実現するように構築してもよい。
【0053】
また、本実施形態に係るモータ駆動装置10では、2つのモータM1、M2を制御対象とした場合を説明したが、2つのモータに限定されるものではなく、3つ以上のモータの動力を合流させる機構へ適用してもよいことは勿論である。
【0054】
また、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0055】
10 モータ駆動装置
12 装置本体
12A CPU
12B RAM
12C ROM
12P モータ駆動プログラム
14 モータ動力合流機構
16 速度差フィードバックコントローラ
18 位相角差フィードバックコントローラ
20 判定部