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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】異物除去方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220817BHJP
   H01G 11/20 20130101ALI20220817BHJP
   B26F 1/26 20060101ALI20220817BHJP
   B08B 11/00 20060101ALI20220817BHJP
   B08B 5/02 20060101ALI20220817BHJP
   H01M 4/139 20100101ALN20220817BHJP
   H01G 11/86 20130101ALN20220817BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01G11/20
B26F1/26 E
B08B11/00 A
B08B5/02 Z
H01M4/139
H01G11/86
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018168732
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020042960
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅夫
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-015777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01G 11/20
B26F 1/26
B08B 11/00
B08B 5/02
H01M 4/139
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極合材をシート状にした電極合材シートから異物を除去する異物除去方法であって、
前記電極合材シートのうち、前記電極合材シートの厚み方向の全体にわたる部位であって前記異物を含有する異物含有合材部が、前記電極合材シートの厚み方向に貫通する穿孔部となるように、前記電極合材シートから前記異物含有合材部を除去し、
前記異物含有合材部の除去によって形成された前記穿孔部を有する前記電極合材シートを圧延することで、前記穿孔部を閉塞する
異物除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の異物除去方法であって、
前記電極合材シートの前記異物含有合材部に向けて、加圧により圧縮した気体を前記電極合材シートの前記厚み方向に噴射し、この噴射した前記気体によって前記電極合材シートから前記異物含有合材部を前記電極合材シートの前記厚み方向に打ち抜いて除去する
異物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物除去方法に関する。詳細には、電極合材をシート状にした電極合材シートから異物を除去する異物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、集電箔と、この集電箔の表面に積層された電極合材層と、を有する電極シートから異物を除去する方法が開示されている。具体的には、まず、電極活物質とバインダと溶媒とを混合して電極合材を作製し、この電極合材を帯状の集電箔の表面(上面または下面)に塗布し、乾燥等させることで、集電箔と、この集電箔の表面に積層された電極合材層と、を有する帯状の電極シートを作製する。その後、帯状の電極シートを所定形状に切断して、枚葉型の電極シートを形成した後、この枚葉型の電極シートの上面の上方または下面の下方に配置した磁石を用いて磁場を印加することにより、枚葉型の電極シートの上面または下面に付着している(載っている)金属粉等の異物を、磁石に吸着させて除去する方法が開示されている。特許文献1では、上述のようにして、電極シートの切断時に発生する金属粉等の異物を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-170706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極活物質とバインダと溶媒とを混合(混練)した電極合材の内部に、金属粉等の異物が混入することがある。このように、異物が混入した電極合材を用いて、特許文献1に開示されているようにして、電極シートを作製した場合、当該電極シートの電極合材層に異物が含まれることになる。電極合材層に含まれる異物は、電極合材と一体になっている(さらには、異物の少なくとも一部が電極合材層の内部に埋まっていることがある)ので、特許文献1に開示されている異物除去方法では、電極合材層に含まれる異物を除去することが困難となる。
【0005】
このため、電極合材を集電箔の表面に付着させる前(電極合材層を集電箔の表面に形成する前)に、電極合材の内部に混入している異物を除去することが求められていた。また、近年、電極活物質とバインダと溶媒とを混練した電極合材を作製し、この電極合材を集電箔の表面に付着させる前に、この電極合材をシート状に成形することによって電極合材シートを作製し、この電極合材シートを集電箔の表面に付着させることで、電極シートを製造する技術の研究開発が行われている。このようなことから、電極合材を集電箔の表面に付着させる前に、電極合材をシート状にした電極合材シートを作製し、この電極合材シートから異物を除去することが求められていた。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電極合材シートに含まれている異物を除去することが可能な異物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
極合材をシート状にした電極合材シートから異物を除去する異物除去方法であって、前記電極合材シートのうち、前記電極合材シートの厚み方向の全体にわたる部位であって前記異物を含有する異物含有合材部が、前記電極合材シートの厚み方向に貫通する穿孔部となるように、前記電極合材シートから前記異物含有合材部を除去する異物除去方法が好ましい。
【0008】
上述の異物除去方法は、電極合材をシート状にした電極合材シートから異物を除去する方法である。なお、電極合材としては、例えば、電極活物質とバインダと溶媒とが混合(混練)された物質を挙げることができる。
【0009】
上述の異物除去方法では、電極合材シートのうち、電極合材シートの厚み方向の全体にわたる部位であって異物を含む異物含有合材部が、電極合材シートの厚み方向に貫通する穿孔部(貫通孔)となるように、電極合材シートから異物含有合材部を除去する。換言すれば、電極合材シートから、電極合材シートの厚み方向の全体にわたる異物含有合材部を除去することで、電極合材シートのうち異物含有合材部を除去した箇所に、電極合材シートの厚み方向に貫通する穿孔部(貫通孔)を形成する。なお、異物含有合材部とは、電極合材シートの一部であって、電極合材シートの厚み方向の全体にわたる部位(例えば、電極合材シートの厚み方向の全体にわたって延びる柱状の部位)であり、異物とその周囲に位置する電極合材とからなる部位である。
【0010】
このように、異物含有合材部が、電極合材シートの厚み方向に貫通する穿孔部(貫通孔)となるように、電極合材シートから異物含有合材部を除去することで、電極合材シートに含まれている異物を除去することができる。
【0011】
本発明の一態様は、前記の異物除去方法であって、前記異物含有合材部の除去によって形成された前記穿孔部を有する前記電極合材シートを圧延することで、前記穿孔部を閉塞する異物除去方法である
【0012】
上述の異物除去方法では、異物含有合材部の除去によって形成された穿孔部を有する電極合材シートを圧延する(電極合材シートの厚み方向に圧縮しつつ、厚み方向に直交する平面方向に延伸する)。これにより、穿孔部(貫通孔)の周囲に位置する電極合材の一部を穿孔部内に移動させて、穿孔部を閉塞する。すなわち、電極合材シートから異物含有合材部を除去した後、当該電極合材シートを圧延することによって、当該電極合材シートの穿孔部を閉塞する。これにより、上述の異物除去方法によって異物を除去した後、穿孔部を有しない電極合材シートを得ることができる。このため、例えば、当該電極合材シートを集電箔の表面に付着させることで、集電箔とその表面に積層された電極合材層(貫通孔のない電極合材層)とからなる電極シートを得ることができる。
【0013】
さらに、前記いずれかの異物除去方法であって、前記電極合材シートの前記異物含有合材部に向けて、加圧により圧縮した気体を前記電極合材シートの前記厚み方向に噴射し、この噴射した前記気体によって前記電極合材シートから前記異物含有合材部を前記電極合材シートの前記厚み方向に打ち抜いて除去する異物除去方法とすると良い。
【0014】
上述の異物除去方法では、電極合材シートの異物含有合材部に向けて、加圧により圧縮した気体を電極合材シートの厚み方向に噴射する。そして、この噴射した気体によって、電極合材シートから異物含有合材部を電極合材シートの厚み方向に打ち抜いて(撃ち抜いて)除去する。このような方法によれば、簡易且つ安全に、電極合材シートから異物含有合材部を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態にかかる異物除去装置の側面視概略図である。
図2図1のB部の拡大断面図である。
図3図1のB部における電極合材シートの平面図(正面図)である。
図4】異物除去後の電極合材シートの平面図である。
図5】実施形態にかかるロール成膜装置の側面視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態では、電極合材11をシート状にした電極合材シート10から、磁性体である異物14(例えば、金属粉)を除去する。なお、本実施形態では、電極合材11として、電極活物質とバインダと溶媒とが混練された電極合材11を使用する。電極合材11を構成する電極活物質とバインダと溶媒とは、いずれも磁性体ではない。
【0017】
まず、本実施形態で使用する異物除去装置50について説明する。図1は、異物除去装置50の側面視概略図である。異物除去装置50は、図1に示すように、磁気センサ51と、磁気発生装置(図示省略)と、気体噴射ノズル53と、気体圧縮機(図示省略)と、制御装置55と、搬送装置57と、異物収容箱59とを備える。このうち、搬送装置57(コンベア)は、電極合材シート10を、その長さ方向DLに一致する搬送方向DCに搬送する装置である。なお、本実施形態では、搬送装置57による電極合材シート10の搬送速度を、60m/分としている。また、磁気センサ51及び磁気発生装置(図示省略)は、特開2015-59818に開示されている磁気センサ及び磁気発生装置と同等品である。
【0018】
磁気発生装置(図示省略)は、搬送装置57(コンベア)によって搬送方向DCに搬送される電極合材シート10に対し、所定の位置(搬送方向DCについて磁気センサ51が配置されている位置)において、一様な直流磁場空間を作り出す。詳細には、磁気発生装置(図示省略)は、電極合材シート10に含まれている異物14(磁性体)を飽和磁化させることが可能な程度の強度の磁場を発生させる。
【0019】
磁気センサ51は、磁気発生装置(図示省略)によって、電極合材シート10に作り出された磁場分布(電極合材シート10における磁場分布)を検出する。具体的には、磁気センサ51は、搬送装置57によって搬送方向DCに搬送される電極合材シート10の表面10bから一定距離だけ離れた位置(図1において、電極合材シート10の表面10bの上方)に設けられており、電極合材シート10の一定長さ毎に、電極合材シート10の全体にわたって、磁場分布を検出する。
【0020】
制御装置55は、磁気センサ51によって検出された磁場分布に基づいて、電極合材シート10の一定長さ毎に、電極合材シート10の全体にわたって、異物14の有無の判断、及び、異物14の存在位置(電極合材シート10の幅方向DW及び長さ方向DLにかかる位置)の検出を行う。なお、異物14の有無の判断方法、及び、異物14の存在位置の検出方法は、特開2015-59818に開示されている方法と同様にして行うことができる。例えば、磁気センサ51によって検出された磁場分布と、予め測定しておいた異物のない電極合材シートの基準磁場分布との対比により、異物14の有無の判断、及び、異物14の存在位置の検出を行うことができる。
【0021】
気体圧縮機(図示省略)は、気体噴射ノズル53から気体G(本実施形態では、空気)を噴射させるために、気体Gを圧縮する装置である。気体噴射ノズル53は、気体圧縮機(図示省略)の加圧により圧縮された気体G(本実施形態では、空気)を、電極合材シート10に向けて、その厚み方向DTに噴射する装置である。本実施形態では、複数の気体噴射ノズル53が、電極合材シート10の搬送方向DCについて磁気センサ51よりも下流側において、搬送方向DCに搬送される電極合材シート10の表面10bから一定距離だけ離れた位置で、電極合材シート10の幅方向DWの全体にわたって、幅方向DW(図1において紙面に直交する方向)に一列に並んで設けられている。
【0022】
より具体的には、気体噴射ノズル53は、制御装置55によって電極合材シート10に異物14が確認された場合に、電極合材シートのうち制御装置55によって検出された異物14を含む異物含有合材部12に向けて、加圧により圧縮した気体Gを電極合材シート10の厚み方向DTに噴射する。図1に示す例では、気体噴射ノズル53は、下方に搬送されている電極合材シート10の異物含有合材部12に対し、異物含有合材部12の右側から左方向に気体Gを噴射する。
【0023】
ここで、異物含有合材部12とは、図2及び図3に示すように、電極合材シート10の一部であって、電極合材シート10の厚み方向DTの全体にわたる部位(具体的には、電極合材シート10の厚み方向DTの全体にわたって延びる柱状の部位)であり、異物14とその周囲に位置する電極合材11とからなる部位である。なお、図2は、図1のB部の拡大断面図であり、2本の二点鎖線によって挟まれている部位が、異物含有合材部12である。また、図3は、図1のB部における電極合材シートの平面図(正面図)であり、二点鎖線の円によって囲まれている部位が、異物含有合材部12である。
【0024】
本実施形態では、気体噴射ノズル53から噴射した気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を、電極合材シート10の厚み方向DTに(図1に示す例では左方向に)打ち抜いて(撃ち抜いて)除去する。
【0025】
具体的には、制御装置55は、電極合材シート10に異物14が含まれていると判定し、異物14の存在位置を検出した場合は、異物14が存在する電極合材シート10の幅方向DWの位置と同等の幅方向DWにかかる位置に配置されている気体噴射ノズル53を選択し、この選択した気体噴射ノズル53から気体Gを噴射するように制御する。
【0026】
より具体的には、制御装置55は、搬送方向DCにかかる磁気センサ51の位置(異物14が検出された時の異物14の搬送方向DCにかかる位置)から搬送方向DCにかかる気体噴射ノズル53の位置に至るまでの距離(搬送方向DCの距離)と、電極合材シート10の搬送速度とから、検出された異物14(異物含有合材部12)が、選択した気体噴射ノズル53に対向する位置に到達するまでに要する所要時間を算出し、異物14が検出された時から起算した時間が当該所要時間に達した時に、選択した気体噴射ノズル53から気体Gを噴射させる。
【0027】
これにより、選択した気体噴射ノズル53から噴射した気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜いて(撃ち抜いて)除去することができる。打ち抜かれた異物含有合材部12は、異物収容箱59の開口59bを通じて異物収容箱59の内部に進入する。これにより、異物14を含む異物含有合材部12が、電極合材シート10から除去されて、異物収容箱59の内部に収容される。
【0028】
次に、本実施形態の異物除去方法、及び、本実施形態の異物除去方法を利用した電極シート9の製造方法について説明する。
まず、公知の混練機を用いて、電極活物質とバインダと溶媒とを混練して、電極合材11を作製する。混練機としては、例えば、公知のプラネタリミキサを用いることができる。なお、電極合材11の固形分率は、70wt%以上とするのが好ましい。電極合材11をシート状に成形し易いからである。
【0029】
次いで、混練した電極合材11を、シート状に成形して、電極合材シート10を作製する。シート状に成形する方法としては、例えば、対向して回転する2本の圧延ロールの間に、混練した電極合材11を通すことによって、電極合材11をシート状に成形する方法を挙げることができる。
【0030】
次に、図1に示すように、異物除去装置50を用いて、上述のようにして作製した電極合材シート10から異物14を除去する。具体的には、搬送装置57(コンベア)によって電極合材シート10をその長さ方向DLに一致する搬送方向DCに搬送させると、磁気発生装置(図示省略)によって、電極合材シート10に対して磁場を発生させると共に、磁気センサ51によって、電極合材シート10の一定長さ毎に磁場分布を検出する。
【0031】
そして、制御装置55が、磁気センサ51によって検出された磁場分布に基づいて、電極合材シート10の一定長さ毎に、電極合材シート10の全体にわたって、異物14の有無の判断、及び、異物14の存在位置の検出を行う。さらに、制御装置55は、電極合材シート10に異物14が含まれていると判定し、異物14の存在位置を検出した場合は、複数の気体噴射ノズル53の中から、異物14が存在する電極合材シート10の幅方向DWの位置と同等の幅方向DWにかかる位置に配置されている気体噴射ノズル53を選択し、この選択した気体噴射ノズル53から気体Gを噴射するように制御する。
【0032】
より具体的には、制御装置55は、前述したように、電極合材シート10の搬送速度等に基づいて、検出された異物14(異物含有合材部12)が、選択された気体噴射ノズル53と対向する位置に到達するまでに要する所要時間を算出し、異物14が検出された時から起算した時間が当該所要時間に達した時に、選択した気体噴射ノズル53から気体Gを噴射させる。
【0033】
これにより、選択した気体噴射ノズル53から噴射した気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜いて(撃ち抜いて)除去する。打ち抜かれた異物含有合材部12は、異物収容箱59の開口59bを通じて異物収容箱59の内部に進入する。これにより、異物14を含む異物含有合材部12が、電極合材シート10から除去されて、異物収容箱59の内部に収容される。
【0034】
以上説明したように、本実施形態では、電極合材シート10のうち異物14を含む異物含有合材部12が、図4に示すように、電極合材シート10の厚み方向DTに貫通する穿孔部16(貫通孔)となるように、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜いて(撃ち抜いて)除去する。換言すれば、電極合材シート10から、電極合材シート10の厚み方向DTの全体にわたる異物含有合材部12を除去することで、図4に示すように、電極合材シート10のうち異物含有合材部12を除去した箇所に、電極合材シート10の厚み方向DTに貫通する穿孔部16(貫通孔)を形成する。
【0035】
このように、異物含有合材部12が、電極合材シート10の厚み方向DTに貫通する穿孔部16(貫通孔)となるように、電極合材シート10から異物含有合材部12を除去することで、電極合材シート10に含まれている異物14を除去することができる。なお、図4は、図3に示す電極合材シート10から異物含有合材部12を除去した後の電極合材シート10を示す平面図であり、電極合材シート10のうち異物含有合材部12を除去した箇所に、電極合材シート10の厚み方向DTに貫通する穿孔部16(貫通孔)が形成された状態を示している。
【0036】
上述のようにして電極合材シート10から異物含有合材部12を除去した後、本実施形態では、当該電極合材シート10(すなわち、異物含有合材部12の除去によって形成された穿孔部16を有する電極合材シート10)を圧延する(電極合材シート10の厚み方向DTに圧縮しつつ、厚み方向DTに直交する平面方向に延伸する)。これにより、穿孔部16(貫通孔)の周囲に位置する電極合材11の一部を穿孔部16内に移動させて、当該電極合材シート10の穿孔部16を閉塞する。これにより、異物14(異物含有合材部12)を除去した後、穿孔部16を有しない電極合材シート10を得ることができる。
【0037】
具体的には、図5に示すロール成膜装置20によって、異物含有合材部12を除去した後の電極合材シート10を用いて、電極シート9を作製する(すなわち、集電箔7の第1面7bに電極合材シート10を厚み方向DTに圧縮して付着させる)際に、ロール成膜装置20の第1ロール1と第2ロール2とによって、異物含有合材部12の除去によって形成された穿孔部16を有する電極合材シート10を圧延することで、当該電極合材シート10の穿孔部16を閉塞する。
【0038】
ここで、ロール成膜装置20について説明する。ロール成膜装置20は、図5に示すように、第1ロール1と第2ロール2と第3ロール3の、3つのロールを有している。第1ロール1と第2ロール2とは水平方向(図5において左右方向)に並んで配置されている。一方、第2ロール2と第3ロール3とは、垂直方向(図5において上下方向)に並んで配置されている。また、第1ロール1と第2ロール2とは、わずかな間隔を挟んで対面(対向)している。同様に、第2ロール2と第3ロール3とも、わずかな間隔を挟んで対面(対向)している。さらに、第1ロール1と第2ロール2との対面箇所には、その上側から、異物含有合材部12を除去した後の電極合材シート10が供給される。
【0039】
また、これら3つのロール1~3の回転方向は、図5において矢印で示すように、隣り合う(対面する)2つのロールの回転方向が互いに逆方向となるように、すなわち、対面する2つのロールが互いに順方向回転となるように設定されている。そして、第1ロール1と第2ロール2との対面箇所では、これらのロールの表面が回転により下向きに移動するように設定されている。また、第2ロール2と第3ロール3との対面箇所では、これらのロールの表面が回転により右向きに移動するように設定されている。また、回転速度に関して、回転によるロールの表面の移動速度が、第1ロール1において最も遅く、第3ロール3において最も速く、第2ロール2ではそれらの中間となるように設定されている。
【0040】
このようなロール成膜装置20では、第1ロール1と第2ロール2との間に、上方から、異物含有合材部12を除去した後の電極合材シート10が供給される。また、第3ロール3には、集電箔7が掛け渡されている。なお、本実施形態では、集電箔7の第2面7cが第3ロール3の表面に接触するようにして(換言すれば、第1面7bが第3ロール3の径方向外側を向くようにして)、第3ロール3に集電箔7が掛け渡されている。
【0041】
集電箔7は、第1面7b(表面)と第2面7c(裏面)とを有する金属箔である。この集電箔7は、第3ロール3の回転と共に、第2ロール2と第3ロール3との対面箇所(間隙)を通って、第3ロール3の右下から右上へと搬送されるようになっている。また、第2ロール2と第3ロール3との対面箇所(間隙)には、集電箔7が通されている状態で、さらに第2ロール2と集電箔7との間に若干の隙間があるようにされている。すなわち、第2ロール2と第3ロール3との間の隙間(集電箔7が存在していない状態での隙間)は、集電箔7の厚さより少し広い。
【0042】
本実施形態では、対向して回転する第1ロール1と第2ロール2との間隙に、異物14の除去を終えた電極合材シート10を通すことによって、当該電極合材シート10を圧延し、これによって、当該電極合材シート10に形成されている穿孔部16を閉塞しつつ、穿孔部16が閉塞された電極合材シート10を第2ロール2の表面に付着させる。これと共に、第2ロール2と対向して回転する第3ロール3によって搬送される集電箔7の第2面7cを第3ロール3の表面に接触させつつ、集電箔7を第2ロール2と第3ロール3との間隙に通すことによって、第2ロール2の表面に付着している電極合材シート10を、集電箔7の第1面7bに対し加圧しつつ接触させて第1面7b上に転写する(付着させる)。
【0043】
これにより、本実施形態では、集電箔7とその第1面7bに積層された電極合材層8(貫通孔のない電極合材層8)とからなる電極シート9を得ることができる。なお、本実施形態では、集電箔7の第1面7bに転写された電極合材シート10を、電極合材層8としている。また、集電箔7の第1面7bに電極合材層8を形成した後、これと同様にして、集電箔7の第2面7cにも、異物含有合材部12を除去した後の電極合材シート10を用いて、電極合材層8を形成するようにしても良い。このようにして作製した電極シート9は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極シートとして用いることができる。
【0044】
(異物除去試験)
次に、異物除去装置50を用いて、異物除去試験を行った。本試験では、異物除去装置50の気体噴射ノズル53から噴射する気体G(空気)を圧縮する圧力(以下、気体圧力Pともいう)、及び、電極合材シート10の表面10bのうち気体噴射ノズル53から噴射する気体Gが衝突する範囲(領域)の直径(以下、気体衝突範囲の直径Dともいう)を、様々に異ならせて、気体圧力P(MPa)及び気体衝突範囲の直径D(mm)の好ましい範囲を調査している。
【0045】
なお、気体噴射ノズル53の気体吐出口の開口は円形状であるため、電極合材シート10の表面10bのうち気体噴射ノズル53から噴射する気体Gが衝突する範囲(領域)の形状も円形状となる。また、気体衝突範囲の直径D(mm)は、気体Gによって打ち抜かれる異物含有合材部12の直径、及び、電極合材シート10を貫通する穿孔部16(貫通孔)の直径(内径)と同等になる。
【0046】
また、本試験では、公知のプラネタリミキサを用いて、電極活物質とバインダと溶媒とを混練して電極合材11を作製した後、対向して回転する2本の圧延ロールの間に混練した電極合材11を通すことによって、電極合材11をシート状に成形することで、電極合材シート10を作製している。なお、電極合材シート10の厚みを、500~1000μmの範囲内の所定値としている。また、電極合材シート10(電極合材11)の固形分率を、80wt%としている。
【0047】
また、本試験では、上述のようにして作製した電極合材シート10に対し、試験用の異物として直径200μmのSUS304からなる異物14を、1個、電極合材シート10の表面10bに露出する態様(外部から異物14を視認できる態様)で配置し、当該異物14が適切に除去されるか否かを調査した。さらには、異物除去装置50を用いて電極合材シート10から異物14(具体的には、異物含有合材部12)の除去する操作を行った後、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製し、電極合材シート10(電極合材層8)の穿孔部16が適切に閉塞されているか否かを調査した。
【0048】
<第1の試験>
第1の試験では、気体圧力P=0.4MPaとし、気体衝突範囲の直径D=2mmとして、上述の異物除去試験を行った。
<第2の試験>
第2の試験では、気体圧力P=0.6MPaとし、気体衝突範囲の直径D=2mmとして、上述の異物除去試験を行った。
【0049】
<第3の試験>
第3の試験では、気体圧力P=0.8MPaとし、気体衝突範囲の直径D=2mmとして、上述の異物除去試験を行った。
<第4の試験>
第4の試験では、気体圧力P=1.0MPaとし、気体衝突範囲の直径D=2mmとして、上述の異物除去試験を行った。
【0050】
<第5の試験>
第5の試験では、気体圧力P=0.6MPaとし、気体衝突範囲の直径D=1mmとして、上述の異物除去試験を行った。
<第6の試験>
第6の試験では、気体圧力P=0.6MPaとし、気体衝突範囲の直径D=3mmとして、上述の異物除去試験を行った。
【0051】
上述の第1~第6の試験の結果を、表1に示す。なお、表1では、異物14が除去できたか否かを、「異物除去」の項目で示しており、異物14が除去できたものを「○」、異物14が除去できなかったものを「×」としている。また、表1では、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製したときに電極合材シート10(電極合材層8)の穿孔部16を閉塞できたか否かを、「成膜性」の項目で示しており、穿孔部16(貫通孔)を閉塞できたものを「○」、穿孔部16(貫通孔)を閉塞できなかったものを「×」としている。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、第1の試験では、異物除去装置50によって、電極合材シート10から異物14を除去することができなかった。具体的には、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、異物含有合材部12を打ち抜くことができず、電極合材シート10に異物14が残存していた。このような結果となった理由は、気体圧力Pが0.4MPaと小さいために、気体噴射ノズル53から噴射する気体Gについて、気体Gによって異物含有合材部12を打ち抜くために必要な噴射力を得ることができなかったためと考えられる。なお、第1の試験では、異物含有合材部12を打ち抜くことができなかったため、成膜性の評価は行っていない。
【0054】
これに対し、第2の試験では、異物除去装置50によって、電極合材シート10から異物14を除去することができた。具体的には、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことができ、これによって異物14を除去することができた。
【0055】
さらに、第2の試験では、成膜性の評価も「○」となった。すなわち、第2の試験では、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことによって、電極合材シート10に穿孔部16が形成されたが、その後、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製したときに、電極合材シート10が圧延されたことによって、電極合材シート10(電極合材層8)の穿孔部16を閉塞することができた。
【0056】
また、第3の試験でも、異物除去装置50によって、電極合材シート10から異物14を除去することができた。具体的には、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことができ、これによって異物14を除去することができた。
【0057】
さらに、第3の試験では、成膜性の評価も「○」となった。すなわち、第3の試験では、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことによって、電極合材シート10に穿孔部16が形成されたが、その後、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製したときに、電極合材シート10が圧延されたことによって、電極合材シート10(電極合材層8)の穿孔部16を閉塞することができた。
【0058】
また、第4の試験でも、異物除去装置50によって、電極合材シート10から異物14を除去することができた。具体的には、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことができ、これによって異物14を除去することができた。
【0059】
しかしながら、第4の試験では、気体圧力Pを1.0MPaと大きくしたために、気体噴射ノズル53から噴射する気体Gの噴射力が必要以上に強くなりすぎて、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜いた際に、異物含有合材部12を起点として電極合材シート10に亀裂が生じ、電極合材シート10が破断してしまった。このため、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製することができなかった。従って、第4の試験では、成膜性の評価を行っていない。
【0060】
以上の結果より、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことによって異物14を除去するためには、気体圧力Pを0.6MPa以上0.8MPa以下にするのが好ましいといえる。
【0061】
また、第5の試験では、気体圧力Pを、第2の試験と同様に0.6MPaとする一方、気体衝突範囲の直径Dを1mmと小さくしているが、異物除去装置50によって、電極合材シート10から異物14を除去することができた。具体的には、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことができ、これによって異物14を除去することができた。
【0062】
さらに、第5の試験では、成膜性の評価も「○」となった。すなわち、第5の試験では、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことによって、電極合材シート10に穿孔部16が形成されたが、その後、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製したときに、電極合材シート10(電極合材層8)の穿孔部16を閉塞することができた。
【0063】
また、第6の試験では、気体圧力Pを、第2の試験と同様に0.6MPaとする一方、気体衝突範囲の直径Dを3mmと大きくしている。この第6の試験でも、異物除去装置50によって、電極合材シート10から異物14を除去することができた。具体的には、気体噴射ノズル53から噴射させた気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことができ、これによって異物14を除去することができた。
【0064】
しかしながら、第6の試験では、成膜性の評価が「×」となった。すなわち、第6の試験では、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことによって、電極合材シート10に穿孔部16が形成されたが、穿孔部16の直径が3mmと大きいために、その後、ロール成膜装置20を用いて電極シート9を作製したときに、電極合材シート10(電極合材層8)の穿孔部16を閉塞することができなかった。
【0065】
以上の結果より、気体噴射ノズル53から噴射する気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くことによって異物14を除去した後、一対のロール(本試験では、ロール成膜装置20の第1ロール1と第2ロール2)によって、異物含有合材部12の除去によって形成された穿孔部16を有する電極合材シート10を圧延することで、当該電極合材シート10の穿孔部16を閉塞するためには、気体衝突範囲の直径Dを2mm以下にする(従って、穿孔部16の孔の直径を2mm以下にする)のが好ましいといえる。
【0066】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0069】
例えば、実施形態では、電極合材シート10の異物含有合材部12に向けて、加圧により圧縮した気体Gを電極合材シート10の厚み方向DTに噴射し、この噴射した気体Gによって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜いて(撃ち抜いて)除去するようにした。
【0070】
しかしながら、電極合材シート10から異物含有合材部12を除去する方法は、上述のような方法に限定されるものではない。例えば、空気銃等を用いて、弾丸(玉)を電極合材シート10の厚み方向DTに発射し、この発射した弾丸(玉)によって、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜いて(撃ち抜いて)除去するようにしても良い。あるいは、人の手で、電極合材シート10から異物含有合材部12を取り除くようにしても良い。
【0071】
また、実施形態では、磁気センサ51を用いて、電極合材シート10に含まれる異物14(磁性体)を検出するようにしたが、異物を検出する方法は、このような方法に限定されるものではない。例えば、カメラによって電極合材シート10を撮影した画像に基づいて、電極合材シート10に含まれる異物を検出するようにしても良い。この方法では、磁性体でない異物も検出することが可能である。
【0072】
また、実施形態では、電極合材シート10から異物含有合材部12を打ち抜くために噴射する気体Gとして、空気を用いたが、気体Gは空気に限定されるものではない。電極合材シート10(電極合材11)を構成する材料と化学反応しない気体であれば、いずれの気体を用いても良く、例えば、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 第1ロール
2 第2ロール
3 第3ロール
11 電極合材
7 集電箔
7b 第1面
7c 第2面
8 電極合材層
9 電極シート
10 電極合材シート
12 異物含有合材部
14 異物
16 穿孔部(貫通孔)
20 ロール成膜装置
50 異物除去装置
51 磁気センサ
53 気体噴射ノズル
55 制御装置
57 搬送装置
59 異物収容箱
DC 搬送方向
DL 長さ方向
DT 厚み方向
DW 幅方向
G 気体
図1
図2
図3
図4
図5