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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】クラスター担持触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/224 20060101AFI20220817BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220817BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220817BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220817BHJP
   C23C 14/00 20060101ALI20220817BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20220817BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220817BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220817BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20220817BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B01J27/224 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01J35/02 H
B01J37/02 301M
C23C14/00 A
C23C14/02 Z
C23C14/06 F
C23C14/14 D
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018176575
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020044516
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598014814
【氏名又は名称】株式会社コンポン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】安松 久登
(72)【発明者】
【氏名】福井 信志
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊明
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正篤
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 順
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101570(JP,A)
【文献】特開2003-245563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0087538(US,A1)
【文献】特開2010-172848(JP,A)
【文献】特開平05-058734(JP,A)
【文献】特開2010-099557(JP,A)
【文献】特開2015-199066(JP,A)
【文献】特開2008-171771(JP,A)
【文献】VERSHININ, N. N. et al.,High Energy Chemistry,2017年,Vol.51,pp.46-50,<DOI:10.1134/S0018143916060199>
【文献】WANG, Z.et al.,Langmuir,2010年,Vol.26,pp.7227-7232,<DOI:10.1021/la904343w>
【文献】GUO, X. et al.,Journal of Physical Chemistry C,2011年,Vol.115,p.11240-11246,<URL:https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-00613848>,<DOI:10.1021/jp203351p>, HAL Id:hal-00613848
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C23C 14/00 - 14/58
B01D 53/73
B01D 53/86 - 53/96
F01N 3/00 - 3/38
F01N 9/00 - 11/00
H01M 4/86 - 4/98
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンカーバイド担体、及び前記シリコンカーバイド担体に担持されている貴金属クラスターを有しており、
前記貴金属クラスターの原子層数は、前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さとして、透過型電子顕微鏡(TEM)、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)、又はラザフォード後方散乱を用いて測定され、その原子層数が2層又はそれよりも多く、
走査型トンネル顕微鏡により測定したときの前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さのピークが1.0nm未満であり、
前記シリコンカーバイド担体と、前記貴金属クラスターの貴金属が、金属シリサイド結合によって結合しており、かつ
排ガス浄化用触媒である、
クラスター担持触媒。
【請求項2】
前記シリコンカーバイド担体と、前記貴金属クラスターとの間において、
前記シリコンカーバイド担体の他の位置及び/又は前記貴金属クラスターの他の位置と比較して、電子濃度が高められていることに由来して、X線光電子分光(XPS)装置を用いて測定した前記貴金属クラスターの貴金属の7/2スピン軌道副準位から放出された電子に対応するピークが、金属状態にある前記貴金属クラスターの貴金属同士の電子結合エネルギーのピークよりも高いエネルギーに位置する、
請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
シリコンカーバイド担体、及び前記シリコンカーバイド担体に担持されている貴金属クラスターを有しており、
前記貴金属クラスターの原子層数は、前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さとして、透過型電子顕微鏡(TEM)、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)、又はラザフォード後方散乱を用いて測定され、その原子層数が2層又はそれよりも多く、
走査型トンネル顕微鏡により測定したときの前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さのピークが1.0nm未満であり、
前記シリコンカーバイド担体と、前記貴金属クラスターとの間において、
前記シリコンカーバイド担体の他の位置及び/又は前記貴金属クラスターの他の位置と比較して、電子濃度が高められていることに由来して、X線光電子分光(XPS)装置を用いて測定した前記貴金属クラスターの貴金属の7/2スピン軌道副準位から放出された電子に対応するピークが、金属状態にある前記貴金属クラスターの貴金属同士の電子結合エネルギーのピークよりも高いエネルギーに位置しており、かつ
排ガス浄化用触媒である、
クラスター担持触媒。
【請求項4】
前記シリコンカーバイド担体と、前記貴金属クラスターの貴金属が、金属シリサイド結合によって結合している、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記貴金属クラスターが、Ptクラスター、Pdクラスター又はRhクラスターである、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
前記貴金属クラスターが含有する貴金属原子の個数が2個~500個である、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
前記貴金属クラスターの原子層数が、前記シリコンカーバイド担体の表面から4層以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
前記貴金属クラスターが、前記シリコンカーバイド担体上の前記Siが露出している部分に担持されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項9】
前記貴金属クラスターが、Ptクラスターであり、次の特徴を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の触媒:
Ptを480ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、560℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をPt原子一個あたりに換算した値が100以上となること。
【請求項10】
前記貴金属クラスターが、Rhクラスターであり、次のいずれか1つの特徴を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の触媒:
(A)Rhを660ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、440℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をRh原子一個あたりに換算した値が100以上となること、
(B)Rhを660ng含んでいる前記触媒に、NOを0.15%、COを0.65%、Oを0.25%、及びHeを98.95%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、500℃以下において、1秒間に酸化されるNO分子の数をRh原子一個あたりに換算した値が10以上となること。
【請求項11】
前記貴金属クラスターが、Pdクラスターであり、次の特徴を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の触媒:
Pdを430ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、420℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をPd原子一個あたりに換算した値が100以上となること。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の触媒を含有する、触媒層。
【請求項13】
CeO及びZrOを含有する金属複合体又はCeOを更に含有する、請求項12に記載の触媒層。
【請求項14】
シリコンカーバイド担体、及び前記シリコンカーバイド担体に担持されている貴金属クラスターを有しており、
前記貴金属クラスターの原子層数は、前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さとして、透過型電子顕微鏡(TEM)、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)、又はラザフォード後方散乱を用いて測定され、その原子層数が2層又はそれよりも多く、
走査型トンネル顕微鏡により測定したときの前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さのピークが1.0nm未満である、
排ガス浄化用のクラスター担持触媒を製造する方法であって、
貴金属ターゲットに対してスパッタリングを行うことにより、貴金属クラスターを発生させ、そして発生させた前記貴金属クラスターを、シリコンカーバイド担体の表面に衝突させて担持させることを含む、
クラスター担持触媒の製造方法。
【請求項15】
前記貴金属クラスターを担持させる前に、前記シリコンカーバイド担体の前記表面の一部から、炭素を除去してSiを露出させることを含む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記シリコンカーバイド担体の前記表面の一部に炭素膜を堆積させることを含む、請求項14又は15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クラスター担持触媒及びその製造方法、特に排ガス浄化、液相化学合成反応、気相化学合成反応、燃料電池反応、空気電池反応等のためのクラスター担持触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
担体に貴金属を担持した担持触媒は多くの分野で使用されており、排ガス浄化、液相化学合成反応、気相化学合成反応、燃料電池反応、空気電池反応等のための触媒として使用されている。これらのうちでも、排ガス浄化のために用いられる担持触媒に関して、担持触媒は広く用いられている。
【0003】
具体的には、自動車等のための内燃機関、例えば、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NOx)等の成分が含まれている。このため、一般的には、これらの成分を浄化するための排ガス浄化用触媒装置が内燃機関に設けられており、この排ガス浄化用触媒装置内に取り付けられた排ガス浄化触媒によって、これらの成分が実質的に分解されている。
【0004】
この排ガス浄化触媒がこれらの成分を浄化するときの温度は、一般的に、高温、例えば250℃~300℃以上の温度を必要とし、この温度以下の低温領域では、排ガス浄化触媒の性能が低下することがある。さらに、このような低温領域では、浄化されなかったCOやHC等が排ガス浄化触媒に配位又は結合することによって、触媒被毒が発生することがある。そのため、これらの課題の解決が望まれている。
【0005】
排ガス浄化触媒に関しては、様々な提案がなされている。例えば特許文献1は、Si及びSiの表面に担持されたPtクラスターを有するクラスター担持排ガス浄化触媒であって、Siの表面のうちのPtクラスターが担持されていない部分に一原子層の酸化被膜が形成され、Ptクラスターに含有されているPt原子の個数が、20個~1000個であるクラスター担持排ガス浄化触媒を開示している。
【0006】
非特許文献1は、シリコンカーバイドにCeOがドープされた担体にPtナノ粒子及びRhナノ粒子が担持された排ガス浄化触媒を開示している。
【0007】
非特許文献2及び3は、シリコンカーバイドナノ結晶にPtナノ結晶が担持されている触媒が高い電気化学的活性を有すること、及び当該触媒が燃料電池に適用し得ることを開示している。
【0008】
非特許文献4は、SiO担体にPt粒子が担持されている触媒について、Oリッチ条件において、触媒粒子の粒径が5nm以上では粒径の減少と共にTOF(触媒回転数)が増加するが、触媒粒子の粒径が5nm以下では粒径の減少に伴いTOFが減少することを開示している。
【0009】
非特許文献5は、Al担体にPt粒子が担持されている触媒について、触媒粒子の粒径が1~4nmの範囲では、触媒粒子の粒径の減少に伴いTOF(触媒回転数)が減少することを開示している。
【0010】
非特許文献6は、Al担体にPd粒子が担持されている触媒について、触媒粒子の粒径が2nm以上では粒径の減少と共にTOFが増加するが、触媒粒子の粒径が2nm以下では粒径の減少に伴いTOFが減少することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-101570号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Ledoux et al, CATTECH Volume 5,no.4 2001,p226-246
【文献】Dihiman et al, Journal of Materials Chemistry A,2013,1,6030-6036
【文献】Lv et al, Applied Catalysis B: Environmental 100 (2010),190-196
【文献】Gracia et al, Journal of Catalysis 220 (2002), 382-391
【文献】Atalik et al, Journal of Catalysis 241 (2006), 268-275
【文献】Yao, Journal of Catalysis 87 (1984),152-162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1は低温活性、高選択性、高被毒耐性、及び高耐久性を有する触媒を得ることができるクラスター担持触媒を開示している。
【0014】
しかしながら、さらに低温活性、高選択性、高被毒耐性、及び高耐久性を有する触媒が求められている。
【0015】
したがって、本開示の課題は、低温活性、高選択性、高被毒耐性、及び高耐久性を有する触媒及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
〈態様1〉
シリコンカーバイド担体、及び前記シリコンカーバイド担体に担持されている貴金属クラスターを有するクラスター担持触媒。
〈態様2〉
前記シリコンカーバイド担体と、前記貴金属クラスターの貴金属が、金属シリサイド結合によって結合している、態様1に記載の触媒。
〈態様3〉
走査型トンネル顕微鏡により測定したときの前記シリコンカーバイド担体の表面から前記貴金属クラスターの頂点までの高さのピークが1.0nm未満である、態様1又は2に記載の触媒。
〈態様4〉
前記シリコンカーバイド担体と、前記貴金属クラスターとの間において、前記シリコンカーバイド担体の他の位置及び/又は前記貴金属クラスターの他の位置と比較して、電子濃度が高められている、態様1~3のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様5〉
前記貴金属クラスターが、Ptクラスター、Pdクラスター又はRhクラスターである、態様1~4のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様6〉
前記貴金属クラスターが含有する貴金属原子の個数が2個~500個である、態様1~5のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様7〉
前記貴金属クラスターの原子層数が、前記シリコンカーバイド担体の表面から4層以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様8〉
前記貴金属クラスターが、前記シリコンカーバイド担体上の前記Siが露出している部分に担持されている、態様1~7のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様9〉
前記貴金属クラスターが、Ptクラスターであり、次の特徴を有する、態様1~8のいずれか一項に記載の触媒:
Ptを480ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、560℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をPt原子一個あたりに換算した値が100以上となること。
〈態様10〉
前記貴金属クラスターが、Rhクラスターであり、次のいずれか1つの特徴を有する、態様1~8のいずれか一項に記載の触媒:
(A)Rhを660ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、440℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をRh原子一個あたりに換算した値が100以上となること、
(B)Rhを660ng含んでいる前記触媒に、NOを0.15%、COを0.65%、Oを0.25%、及びHeを98.95%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、500℃以下において、1秒間に酸化されるNO分子の数をRh原子一個あたりに換算した値が10以上となること。
〈態様11〉
前記貴金属クラスターが、Pdクラスターであり、次の特徴を有する、態様1~8のいずれか一項に記載の触媒:
Pdを430ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、420℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をPd原子一個あたりに換算した値が100以上となること。
〈態様12〉
排ガス浄化触媒である、態様1~11のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様13〉
燃料電池用電極触媒である、態様1~8のいずれか一項に記載の触媒。
〈態様14〉
態様1~13のいずれか一項に記載の触媒を含有する、触媒層。
〈態様15〉
CeO及びZrOを含有する金属複合体又はCeOを更に含有する、態様14に記載の触媒層。
〈態様16〉
貴金属ターゲットに対してスパッタリングを行うことにより、貴金属クラスターを発生させ、そして発生させた前記貴金属クラスターを、シリコンカーバイド担体の表面に衝突させて担持させることを含む、
クラスター担持触媒の製造方法。
〈態様17〉
前記貴金属クラスターを担持させる前に、前記シリコンカーバイド担体の前記表面の一部から、炭素を除去してSiを露出させることを含む、態様16に記載の製造方法。
〈態様18〉
前記シリコンカーバイド担体の前記表面の一部に炭素膜を堆積させることを含む、態様16又は18に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、低温活性、高選択性、高被毒耐性、及び高耐久性を有する触媒及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示の触媒の一つの態様においてCOを浄化する原理を説明した概略図である。
図2A図2Aは、PtクラスターがSi担体に担持された触媒を500℃で加熱する前のSTM画像である。
図2B図2Bは、PtクラスターがSi担体に担持された触媒を500℃で加熱した後のSTM画像である。
図3図3は、実施例1-5の触媒の表面の走査型トンネル顕微鏡(STM)画像である。
図4図4は、実施例1-5の触媒のシリコンカーバイド担体のSiが露出している部分に担持されていたPtクラスター30量体の高さ分布を示すグラフである。
図5A図5Aは、実施例1-5の触媒の表面をX線光電子分光(XPS)により測定したときのスペクトルを示すグラフである。
図5B図5Bは、参考例1-2の触媒の表面をX線光電子分光(XPS)により測定したときのスペクトルを示すグラフである。
図6A図6Aは、実施例1-4の触媒に対して排ガスを所定の条件で流通させたときの、見かけのCO酸化反応速度定数と触媒の温度との関係を示すグラフである。
図6B図6Bは、図6Aの低温部(0~250℃)を拡大したグラフである。
図7A図7Aは、実施例1-4の触媒に対して排ガスを所定の条件で流通させたときの、見かけのCO酸化反応速度定数と触媒の温度との関係を示すグラフである。
図7B図7Bは、実施例1-4の触媒に対して排ガスを所定の条件で流通させたときの、CO酸化触媒特性を示すグラフである。
図8A図8Aは、実施例1-4の触媒及び参考例1-1の触媒に対してディーゼル排ガスを所定の条件で流通させたときの、ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図8B図8Bは、実施例1-4の触媒及び参考例1-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施例1-4の触媒及び参考例1-2の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図10図10は、実施例1-4の触媒及び参考例1-2の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、各触媒のターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図11図11は、実施例1-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、排ガス中のCO、O、及びCOの濃度と触媒の温度との関係を示すグラフである。
図12A図12Aは、実施例1-1の触媒のCO浄化触媒性能を測定したときの、触媒の温度とターンオーバーレートとの関係を示したグラフである。
図12B図12Bは、参考例1-4の触媒のCO浄化触媒性能を測定したときの、触媒の温度とターンオーバーレートとの関係を示したグラフである。
図13図13は、実施例1-1の触媒、実施例1-2の触媒、及び実施例1-3の触媒のCO浄化触媒性能を測定したときの、触媒の温度とターンオーバーレートの関係を示すグラフである。
図14図14は、参考例3-1の試料に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、触媒の温度とCO浄化率を示すグラフである。
図15A図15Aは、実施例2-1の触媒及び参考例2-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、CO浄化ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図15B図15Bは、実施例2-1の触媒及び参考例2-1の触媒に対してストイキ排ガスを所定の条件で流通させたときの、NO浄化ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図16図16は、実施例1-2の触媒、実施例2-1の触媒、及び実施例3-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの、CO浄化ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
図17A図17Aは、Pdナノ粒子の粒子径と触媒活性との関係を示すグラフである。
図17B図17Bは、図17Aのグラフの横軸について0~10nmの範囲を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0020】
本願明細書において、「ターンオーバーレート」とは、触媒の性能を示す指標であり、触媒試料に含まれる貴金属原子数で平均した1秒あたりに浄化できる分子(COやNO等)の数として定義される。言い換えると、「ターンオーバーレート」とは、触媒試料中の貴金属原子1個が平均して1秒間に何個の分子を浄化できるかを示す数値である。なお、触媒試料に含まれる貴金属原子数は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等により実測することができる。
【0021】
《触媒》
本開示の触媒は、シリコンカーバイド担体、及びシリコンカーバイド担体に担持されている貴金属クラスターを有するクラスター担持触媒である。
【0022】
原理によって限定されるものではないが、本開示の触媒が、低温活性、高選択性、高被毒耐性、及び高耐久性を備えていると考えられる理由は、下記のとおりである。
【0023】
本開示者らは、Si担体にPtクラスターのような貴金属クラスターが担持されている触媒を加熱すると、貴金属クラスターがSi担体に溶解して埋没する場合があることを見出した。
【0024】
図2A及び2Bはそれぞれ、Si担体にPtクラスターが担持されているクラスター担持触媒を、500℃で1分間加熱する前及び加熱した後のSTM画像である。
【0025】
図2Aのように、加熱前は、PtクラスターはSi担体の表面に担持されていた。しかしながら、図2Bのように、加熱後においては、PtクラスターがSi担体に溶解して埋没している。
【0026】
この原因は、PtとSiとの化学結合力(結合エネルギー)が大きいことに起因すると考えられる。すなわち、PtクラスターがSi担体の上に担持されている状態から加熱すると、Si担体のSi-Si振動(格子振動)が活発になる結果、最表面のSi原子間距離が長くなったタイミングでPtが担体表層の第2層以下のSiと強い結合を作ると考えられる。これが繰り返されることにより、より多くのPt-Si結合が形成されるため、担体深部へとPtが移動した(PtのSiへの溶解)と考えられる。
【0027】
本開示者らが鋭意研究した結果、貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体に担持させることにより、触媒の耐久性をより向上させることができることを見出した。
【0028】
貴金属クラスターは、Siとの結合エネルギーが大きい、すなわち親和性が高いので、排ガス浄化触媒を繰り返し使用していると、貴金属クラスターがSiに溶け込んでしまうと考えられる。他方、貴金属クラスターは、Cとは親和性が高くないので、Cには溶け込みにくいと考えられる。シリコンカーバイドは、Si層とC層が交互に積層した構造を有する。したがって、貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体に担持させた触媒を繰り返し使用しても、貴金属クラスターの埋没をCが妨げることによって、貴金属クラスターがシリコンカーバイド担体に沈み込みにくいと考えられる。
【0029】
また、シリコンカーバイド担体のSiと貴金属クラスターとの親和性が高いため、高温の反応性ガスや酸塩基等の過酷な環境で使用しても、Siと貴金属との親和性によりクラスターの移動やクラスター同士の融合が抑制されると考えられる。
【0030】
そのため、本開示のクラスター担持触媒によれば、金属クラスターの耐久性を向上させ、かつ触媒反応に関与する金属クラスターや反応分子の実効濃度を高めることができると考えられる。
【0031】
また、本開示のクラスター担持触媒は、シリコンカーバイド担体のSiが露出している表面と貴金属クラスターとの間において、シリコンカーバイド担体の他の位置及び/又は貴金属クラスターの他の位置と比較して、電子濃度が高められている。これにより、低温での触媒活性が得られることによる触媒被毒を抑制すること等の効果を有すると考えられる。これによれば、触媒金属の量を減少させることができると考えられる。
【0032】
図1は、本開示のクラスター担持触媒の一つの態様において、COを浄化する原理を説明した概略図である。
【0033】
図1に示すように、本開示のクラスター担持触媒は、触媒金属としてのPtクラスター10のような貴金属クラスターが、シリコンカーバイド担体100に担持された構造を有する。Ptクラスター10とシリコンカーバイド担体100との間には、シリコンカーバイド担体100の他の位置と比較して、電子濃度が高められた部分20が存在すると考えられる。図には示していないが、電子濃度が高められた部分20は、Ptクラスターの端部周辺のみでなく、Ptクラスター10とシリコンカーバイド担体100との間全体にわたって存在していると考えられる。なお、図1に記載されているPtクラスター10は、数個のPt原子15から構成されているが、図1は、Ptクラスター10を構成しているPt原子15の個数を限定する趣旨ではない。
【0034】
本開示の触媒が、COを浄化する原理は、次のように考えられる。図1に記載のように、Ptクラスター10とシリコンカーバイド担体100との間の電子濃度が高められた部分20は、雰囲気中の酸素分子30に電子を与え、酸素分子30の酸素原子間の結合を切断し、活性化した酸素原子40がPtクラスター10上に移動する。そして、一酸化炭素分子50は、Ptクラスター10上に存在する活性化した酸素原子40と反応して二酸化炭素分子60を生成する。
【0035】
本開示の触媒において、シリコンカーバイド担体と、貴金属クラスターの貴金属は、金属シリサイド結合によって結合されていてよい。より具体的には、貴金属クラスター中の貴金属原子とシリコンカーバイド中のSiは、金属シリサイド結合によって結合されていてよい。貴金属クラスター中の貴金属原子とシリコンカーバイド中のSiが、金属シリサイド結合によって結合されていることにより、貴金属原子の電子がSi側に引き寄せられ、これによってPtクラスターとシリコンカーバイド担体との間に、電子濃度が高められた部分が形成されると考えられる。
【0036】
本開示の触媒の用途は限定されないが、例えば、排ガス浄化用触媒又は燃料電池用電極触媒として用いることができる。
【0037】
〈貴金属クラスター〉
貴金属クラスターは、貴金属のクラスターであれば特に限定されないが、例えばPtクラスター、Pdクラスター又はRhクラスターであってよい。
【0038】
貴金属クラスターは、貴金属原子が数個~数千個結合していることができる。貴金属クラスターが有する貴金属原子の個数は、2~1000個であってよい。
【0039】
貴金属クラスターを構成する貴金属原子の個数が多すぎる場合、例えば、1000個超である場合には、担体の影響が及ぶことのできる貴金属原子の割合が減るため、クラスターがバルクとしての性質を帯びること等の理由から、触媒としての高性能化が起こらないと考えられる。さらに、貴金属原子の個数が多くなるほど、貴金属クラスターの比表面積が小さくなるため、クラスターの表面に露出して触媒に寄与する貴金属原子の割合が減り、逆に、クラスター内部の触媒に寄与しない貴金属原子の割合が増えるために、触媒に使用する貴金属量の低減効果が得られにくくなると考えられる。
【0040】
貴金属クラスターが含有する貴金属原子の個数は、2個以上、10個以上、20個以上、30個以上、又は40個以上であってよく、1000個以下、500個以下、300個以下、100個以下、50個以下、40個以下、又は30個以下であってよい。特に、貴金属クラスターが含有する貴金属原子の個数は、2個~500個であってよい。
【0041】
貴金属クラスターの形状は、任意の形状でよいが、好ましくは、白金原子が二次元的に広がった一層の形状でよい。
【0042】
貴金属クラスターにおける原子の層数は、シリコンカーバイド担体の表面から1層以上、2層以上、又は3層以上であってよく、4層以下、3層以下、又は2層以下であってよい。貴金属クラスターにおける原子の層数は、平均で4層以下であってよい。原子の層数が少ない場合、シリコンカーバイドのSi面に結合している貴金属原子の総数の、貴金属クラスターを構成する貴金属原子の総数に対する比率が高くなるためである。
【0043】
なお、クラスターの原子層数は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)、又はラザフォード後方散乱を用いて測定することができる。また、クラスターの原子層数は、シリコンカーバイド担体の表面から貴金属クラスターの頂点までの高さより測定してもよい。
【0044】
本開示の触媒は、貴金属クラスターそれぞれについて、走査型トンネル顕微鏡により測定したときの、シリコンカーバイド担体の表面から貴金属クラスターの頂点までの高さのピークが、1.0nm未満であってよい。
【0045】
貴金属がPtである場合には、このピークは、0.3nm~0.45nmの間であってよい。なお、このピークがこの数値の範囲にあることは、Ptクラスターの原子層数が1~2層を中心に分布していることを意味する。
【0046】
〈シリコンカーバイド担体〉
本開示の触媒は、担体としてシリコンカーバイド担体を有する。シリコンカーバイド担体の構造は限定されないが、結晶質であってよく、特にはSi層及びC層が交互に積層された構造を有する結晶質であってよい。
【0047】
また、シリコンカーバイド担体は、シリコンカーバイドの薄膜が他の基材の上に積層された担体であってよく、例えばシリコンカーバイド薄膜がSi基板に積層された担体であってよい。シリコンカーバイド担体が、シリコンカーバイドの薄膜が他の基材の上に積層された担体である場合には、貴金属クラスターはシリコンカーバイド薄膜の表面に担持されていてよい。
【0048】
シリコンカーバイド担体の表面、特に貴金属クラスターが担持される面において、炭素膜が堆積されている部分とSiが露出している部分とを有していてよい。この場合、貴金属クラスターは、Siが露出している部分に担持されていてよい。
【0049】
〈触媒の性能〉
本開示の触媒の貴金属クラスターが、Ptクラスターである場合、触媒は、次の特徴を有していることができる:
【0050】
Ptを480ng含んでいる触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、560℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をPt原子一個あたりに換算した値、すなわち触媒のCO浄化ターンオーバーレートが100以上となること。
【0051】
本開示の触媒の貴金属クラスターが、Ptクラスターである場合、触媒のCO浄化ターンオーバーレートが100以上となる温度は、560℃以下、550℃以下、又は540℃以下であってよく、520℃以上、530℃以上、又は540℃以上であってよい。
【0052】
また、本開示の触媒の貴金属クラスターが、Rhクラスターである場合、触媒は、次の(A)及び(B)のうちいずれか1つの特徴を有していることができる:
【0053】
(A)Rhを660ng含んでいる触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、440℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をRh原子一個あたりに換算した値、すなわち触媒のCO浄化ターンオーバーレートが100以上となること。
【0054】
上記(A)において、本開示の触媒の貴金属クラスターが、Rhクラスターである場合、触媒のCO浄化ターンオーバーレートが100以上となる温度は、440℃以下、430℃以下、又は420℃以下であってよく、400℃以上、410℃以上、又は420℃以上であってよい。
【0055】
(B)Rhを660ng含んでいる触媒に、NOを0.15%、COを0.65%、Oを0.25%、及びHeを98.95%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、500℃以下において、1秒間に酸化されるNO分子の数をRh原子一個あたりに換算した値、すなわち触媒のNO浄化ターンオーバーレートが10以上となること。
【0056】
上記(B)において、本開示の触媒の貴金属クラスターが、Rhクラスターである場合、触媒のNO浄化ターンオーバーレートが10以上となる温度は、500℃以下、490℃以下、又は480℃以下であってよく、440℃以上、450℃以上、又は460℃以上であってよい。
【0057】
さらに、本開示の触媒の貴金属クラスターが、Pdクラスターである場合、触媒は、次の特徴を有していることができる:
【0058】
Pdを430ng含んでいる前記触媒に、COを1.0%、Oを1.0%、及びHeを98.0%含有し、かつ大気圧である気体を、毎分100ccで流通させつつ、前記触媒を室温から毎分1℃で昇温させたときに、420℃以下において、1秒間に酸化されるCO分子の数をPd原子一個あたりに換算した値、すなわち触媒のCO浄化ターンオーバーレートが100以上となること。
【0059】
本開示の触媒の貴金属クラスターが、Pdクラスターである場合、触媒のCO浄化ターンオーバーレートが100以上となる温度は、420℃以下、410℃以下、又は400℃以下であってよく、380℃以上、390℃以上、又は400℃以上であってよい。
【0060】
《触媒層》
本開示のクラスター担持触媒は、例えば触媒層の材料として用いることができる。触媒層は、他の複数の金属クラスター触媒や助触媒等を含有していてよい。
【0061】
触媒層は、例えば本開示のクラスター担持触媒に加えて、CeO及びZrOを含有する金属複合体又はCeOを更に含有していてよい。触媒層がCeO及びZrOを含有する金属複合体又はCeOを更に含有していることにより、さらに高いNO浄化能力を得ることができると考えられる。
【0062】
《触媒の製造方法》
本開示のクラスター担持触媒は、例えば貴金属クラスターを作製し、作製した貴金属クラスターを担体に担持させることを含む方法により、製造することができる。
【0063】
〈貴金属クラスターの担体への担持〉
本開示の製造方法において、貴金属クラスターの担体への担持は、例えば貴金属ターゲットに対してスパッタリングを行うことにより貴金属クラスターを発生させ、そして発生させた貴金属クラスターを、シリコンカーバイド担体の表面に衝突させて担持させることを含んでいてよい。
【0064】
スパッタリングを行う貴金属ターゲットとしては、例えば、貴金属粉末を成型及び焼結等した板状又は円板状等のスパッタリングターゲットを使用することができる。
【0065】
スパッタリングは、任意の適切な条件、例えば適切な、ガス成分、ガス圧、並びにスパッタリング電流、電圧、時間、及び回数を用いて行うことができる。
【0066】
スパッタリングで用いられるガス成分としては、不活性ガス、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、又は窒素(N)等を挙げることができる。この中でも、取り扱いの容易さから、Ar又はNが好ましい。
【0067】
スパッタリングで用いられるガス圧としては、プラズマを生じさせることが可能なガス圧であれば随意に選択することができるが、一般に、20Pa以下とすることが好ましい。
【0068】
スパッタリングで用いられる電流及び電圧としては、所望の貴金属原子数から構成される貴金属クラスターが生成し易い条件や、スパッタリング装置等に応じて適宜設定することができる。
【0069】
スパッタリングの時間としては、貴金属クラスターの所望の堆積量や、他のパラメータ等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、数十分から数時間あるいは数十時間の間で適切に設定することができる。
【0070】
スパッタリングの回数としては、例えば、長時間に及ぶスパッタリングによって、担体上での貴金属クラスターの温度が、シンタリング等を生じるような高温となることを防止するために、数時間ごとに複数回に分けて行うことができる。
【0071】
なお、シンタリングとは、金属微粒子が、その融点以下の温度で粒成長する現象を意味する。
【0072】
本開示の製造方法において、貴金属クラスターのシリコンカーバイド担体への担持は、電圧を印加して加速させた貴金属クラスターを、シリコンカーバイド担体の表面に衝突させることにより行ってもよい。
【0073】
貴金属クラスターに印加する電圧は、貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体の表面に衝突させるときのエネルギーを考慮して、随意に調整される。
【0074】
貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体の表面に衝突させるときのエネルギーが過度に大きい場合、貴金属クラスターは、シリコンカーバイド担体の表面に沈み込み又は埋没する。貴金属クラスターがシリコンカーバイド担体の表面に沈み込む又は埋没している場合、貴金属クラスターにCO及びNOx等の反応物質が接近しにくくなるため、これら反応物質の酸化及び還元の効果が減少する可能性がある。
【0075】
したがって、貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体の表面に衝突させるときのエネルギーとしては、貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体の表面に過度に沈み込ませないようにする観点から、貴金属原子あたり、0eV超~9.0eVであってよい。このエネルギーは、0eV超、1.0eV以上、2.0eV以上、3.0eV以上、又は4.0eV以上であってよく、9.0eV以下、8.0eV以下、7.0eV以下、又は6.0eV以下であってよい。
【0076】
本開示の製造方法において、貴金属クラスターの作製と、作製した貴金属クラスターのシリコンカーバイド担体への担持との間に、マスフィルタによって貴金属クラスターを選別することを任意選択的に含んでよい。このマスフィルタを用いることによって、所定の貴金属原子数から構成される貴金属クラスターのみを取り出すことができる。
【0077】
例えば、特に高い触媒効果を発揮するような、特定の貴金属原子数から構成される貴金属クラスターを選別し、選別された貴金属クラスターを選択的にシリコンカーバイド担体の表面に担持させることができる。
【0078】
マスフィルタとしては、任意選択的なマスフィルタでよく、例えば、四重極型質量分析計を用いることができる。
【0079】
〈シリコンカーバイド担体に対する処理〉
【0080】
貴金属クラスターを担持させる前に、シリコンカーバイド担体の表面の一部から、炭素を除去してSiを露出させてもよい。これにより、貴金属クラスター中の貴金属原子と結合することができるSiを増加させることができる。
【0081】
シリコンカーバイド担体の表面の一部から炭素を除去する方法としては、例えばシリコンカーバイド担体を、酸素を含まない雰囲気(例えば水素やアルゴン等)中で加熱して、炭素を炭化水素にする等して昇華させることが挙げられる。この場合、Siが反応しないように、雰囲気の圧力・組成や温度を制御してもよい。また、加熱後の冷却過程等で、シリコンカーバイド内部に存在している炭素が表面に偏析しないようにするために、表面の炭素を水素や酸素と反応させて除去しながら温度を下げてもよい。これらの処理時にSiも反応する場合には、酸素や水素雰囲気での加熱等のSi清浄化作業を行ってもよい。
【0082】
また、シリコンカーバイド担体の表面の一部に炭素膜を堆積させてもよい。炭素膜の堆積は、シリコンカーバイド担体に貴金属クラスターを担持させる前又は担持させた後のいずれに行うこともできる。これにより、例えば、本開示の触媒を燃料電池触媒等の電気化学機能物質として用いる場合には、炭素を積極的に加えることにより、電導性を確保することで、性能を高めることができる。
【0083】
シリコンカーバイド担体の表面の一部に炭素膜を堆積させるための方法としては、例えば炭素蒸着等の方法を挙げることができる。
【0084】
なお、貴金属クラスターをシリコンカーバイド担体の表面のうちSiが露出している部分に担持させる観点から、シリコンカーバイド担体の表面への炭素膜の堆積は、シリコンカーバイド担体に貴金属クラスターを担持させた後に行ってもよい。
【実施例
【0085】
《実施例及び参考例》
〈実施例1-1〉
Ptターゲットにスパッタリングを行って、Ptクラスター30量体がシリコンカーバイド粉末に担持されている、実施例1-1の触媒を得た。これを石英管に充填して、試料とした。なお、試料におけるPt含有量は、500ngであった。
【0086】
〈実施例1-2及び1-3〉
実施例1-2の触媒は、Ptクラスター20量体がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒であり、実施例1-3の触媒は、Ptクラスター10量体がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒である。
【0087】
これらの触媒は、シリコンカーバイド粉末に担持されている貴金属クラスターの種類及び原子数を変えたことを除いて、実施例1-1と同様の方法によって作製した。なお、試料におけるPt含有量は、実施例1-2の触媒については480ng、実施例1-3の触媒については500ngであった。
【0088】
〈実施例1-4〉
実施例1-4の触媒は、Ptクラスター(1~40量体全てを含む)がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒である。
【0089】
この触媒は、シリコンカーバイド粉末に担持されている貴金属クラスターの種類及び原子数を変えたことを除いて、実施例1-1と同様の方法によって作製した。なお、試料におけるPt含有量は、1760ngであった。
【0090】
〈実施例1-5〉
実施例1-5の触媒は、Ptクラスター30量体がシリコンカーバイド担体としての単結晶6H-SiC(0001)に担持されている触媒である。触媒の形態および電子状態を観察するため、単結晶6H-SiC(0001)表面基板のシリコン面側の表面を鏡面状態に研磨したものを用いている。
【0091】
この触媒は、担体をシリコンカーバイド粉末から単結晶6H-SiC(0001)表面基板に替えたことを除いて、実施例1-1と同様にして作製した。なお、試料におけるPt含有量は、30ngであった。
【0092】
単結晶6H-SiC(0001)表面基板のシリコン面側の表面を鏡面状態に研磨したものを用いた。この担体にPtクラスターイオンを衝突させる前に、この基板表面を10-3Paの水素中で873K、1273Kの順に15分ずつ加熱処理することにより、基板表面の清浄化を行った。
【0093】
〈実施例2-1〉
実施例2-1の触媒は、Rhクラスター30量体がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒である。
【0094】
この触媒は、PtをRhに変えたことを除いて、実施例1-1と同様にして作製した。なお、試料におけるRh含有量は、660ngであった。
【0095】
〈実施例3-1〉
実施例3-1の触媒は、Pdクラスター30量体がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒である。
【0096】
この触媒は、PtをPdに変えたことを除いて、実施例1-1と同様にして作製した。なお、試料におけるPd含有量は、430ngであった。
【0097】
〈参考例1-1〉
参考例1-1の触媒は、Ptの実用触媒(元素組成:Pt0.61wt%、アルミナ32wt%、セリア15wt%、ジルコニア31wt%、及びその他21wt%)と石英砂が混合されている触媒である。
【0098】
この触媒は、以下の方法により作製した。
【0099】
Ptの実用触媒(元素組成:Pt0.61wt%、アルミナ32wt%、セリア15wt%、ジルコニア31wt%、及びその他21wt%)に石英砂を添加し、回転式撹拌機で一昼夜混合して、実用触媒と石英砂が均一化した混合物を得た。その後、この混合物を分取して、石英ガラス管に充填した。なお、試料におけるPt含有量は、1000ngであった。
【0100】
〈参考例1-2〉
参考例1-2の触媒は、Ptナノ粒子(直径2~5nm程度)がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒である。
【0101】
この触媒は、スパッタリングの条件を変えたことを除いて、実施例1-1と同様にして作製した。なお、試料におけるPt含有量は、1000ngであった。
【0102】
〈参考例1-3〉
参考例1-3の触媒は、Ptクラスター30量体が酸化セリウム基板に担持されている触媒である。
【0103】
この触媒は、シリコンカーバイド粉末に替えて、酸化セリウム基板を用いたことを除いて、実施例1-1と同様にして作製した。なお、試料におけるPt含有量は、30ngであった。
【0104】
〈参考例2-1〉
参考例2-1の触媒は、Rhナノ粒子(直径2~6nm程度)がシリコンカーバイド粉末に担持されている触媒である。
【0105】
この触媒は、シリコンカーバイド粉末にRhナノ粒子を担持させることにより作成した。なお、試料におけるRh含有量は、500ngであった。
【0106】
〈参考例3-1〉
参考例3-1は、シリコンカーバイド粉末が石英ガラス管に充填されている試料である。
【0107】
〈参考例3-2〉
参考例3-2は、シリコンカーバイド粉末の充填量を参考例3-1から半分に減らし、替わりに石英砂を同体積分追加した試料である。
【0108】
各実施例及び各参考例の構成を、以下の表1にまとめた。
【0109】
【表1】
【0110】
《触媒の形態及び電子状態の観察》
〈形態の観察〉
実施例1-5(触媒金属:Ptクラスター30量体、担体:単結晶6H-SiC(0001)表面基板)の触媒の表面を、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察した。
【0111】
図3は、実施例1-5の触媒の表面の走査型トンネル顕微鏡(STM)画像である。図3のように、単結晶6H-SiCのSiが露出している部分にPtクラスター30量体が担持されていた。この表面では、Ptクラスター30量体が拡散せず安定に担持されていたといえる。
【0112】
また、図示していないが、実施例1-5の触媒を800℃で5分間加熱し、その後、室温まで放冷した後にSTM観察を行ったところ、単結晶6H-SiCのSiが露出している部分に担持されていたPtクラスター30量体は残存していた。
【0113】
また、図4は、実施例1-5の触媒の、単結晶6H-SiCのSiが露出している部分に担持されていたPtクラスター30量体の高さ分布を示すグラフである。これらのクラスターの高さのピークは、図3のAの部分では0.4nmであり、図3のBの部分では0.5nmであった。すなわち、実施例1-5において、単結晶6H-SiCに担持されていたPtクラスター30量体の高さは、金属シリサイド結合の長さの2倍以下であり、ほぼすべてのPt原子が単結晶6H-SiCのSiと結合して表面に露出していることを意味している。
【0114】
なお、本開示の実施例において、Ptクラスター30量体の高さとは、シリコンカーバイド担体の表面からPtクラスター30量体の頂点までの高さとして定義している。
【0115】
〈電子状態の測定〉
実施例1-5(触媒金属:Ptクラスター30量体、担体:単結晶6H-SiC(0001)表面基板)及び参考例1-2(触媒金属:Ptナノ粒子、担体:シリコンカーバイド粉末)の触媒の表面の電子状態を、X線光電子分光(XPS)によって測定した。
【0116】
図5Aは、実施例1-5の触媒の表面をX線光電子分光(XPS)により測定したときのスペクトルを示すグラフである。また、図5Bは、参考例1-2の触媒の表面をX線光電子分光(XPS)により測定したときのスペクトルを示すグラフである。いずれの図に示されるスペクトルにも、2つのピークが存在する。これらの2つのピークのうち、電子結合エネルギーの低いもの(各図の右側のピーク)が、Pt4f原子軌道の7/2スピン軌道副準位から放出された電子のピークであり、電子結合エネルギーの高いもの(各図の左側のピーク)が、Pt4f原子軌道の5/2スピン軌道副準位から放出された電子のピークである。
【0117】
ここで、7/2スピン軌道副準位のピーク(各図の右側のピーク)に着目すると、参考例1-2の触媒のスペクトルのピークは70.8eVに位置していたのに対して、実施例1-5の触媒のスペクトルのピークは71.8eVに位置していた。
【0118】
70.8eVに位置するピークは、Ptと化学結合しているPtがX線を吸収して放出した電子に由来するのに対し、71.8eVに位置するピークは、Siと化学結合しているPtがX線を吸収して放出放出した電子に由来する(アメリカ国立標準技術研究所NISTのデータベース参照)。
【0119】
したがって、参考例1-2の触媒ではPt原子の大部分が、互いに金属的に結合しているのに対して、実施例1-5の触媒では、Pt原子の大部分もしくは全てが単結晶6H-SiC(0001)表面基板のSiと結合しているといえる。
【0120】
また、この結果は、実施例1-5の触媒では、貴金属原子の電子がSi側に引き寄せられ、これによってPtクラスターとシリコンカーバイド担体との間に、電子濃度が高められた部分が形成されていることも示している。
【0121】
図5A及び図5Bに示される結合エネルギーは、Ptの比較的原子核から遠い距離にある電子(4f軌道にいる電子)が原子核に結合されている結合エネルギーを示している。
【0122】
この結合エネルギーの大きさは、4f電子が原子核に引き付けられる力の大きさを意味する。原子核の正電荷は、その周りに存在する電子の負電荷で薄められるので、原子核の周りに電子が多ければ、原子核の正電荷はより小さくなり、原子核の周りに電子が少なければ、原子核の正電荷はより大きくなる。そのため、この結合エネルギーが大きいことは、原子核の周りに存在する電子の数が少ないことを意味し、逆に、この結合エネルギーが小さいことは、原子核の周りに存在する電子の数が多いことを意味する。
【0123】
したがって、実施例1-5の触媒のスペクトルのピークが、Pt間の化学結合を示しているスペクトルのピークである70.8eVではなく、SiとPtとの間の化学結合を示しているスペクトルのピークである71.8eVであったことは、実施例1-5の触媒において、Ptの電子がSiに引き寄せられ、Ptと結合しているPtの原子核よりも、Siと結合しているPtの原子核の方が、周囲の電子密度が小さいことを示している。
【0124】
《Ptクラスターがシリコンカーバイド担体に担持された触媒の排ガス浄化能力の評価》
以下のようにして、Ptクラスターがシリコンカーバイド担体に担持された触媒による排ガス浄化能力の評価を行った。なお、排ガス浄化能力の評価に用いた排ガスは、以下の表2に記載のとおりである。
【0125】
【表2】
【0126】
〈反応条件と反応機構との関係〉
(測定方法)
反応条件により反応機構が変わらないことを確かめるために、以下の表3の条件の排ガスを実施例1-4の触媒(触媒金属:Ptクラスター(原子数1~40)、担体:シリコンカーバイド粉末)に下記の流量で流通したときの反応速度を比較した。
【0127】
【表3】
【0128】
反応条件の違いを反映させて定量的に比較するため、CO酸化の反応機構として一般に提唱されているラングミュアー‐ヒンシェルウッド機構に従って計測結果を解析した。すなわち、反応速度がO分圧に比例、CO分圧に反比例すると仮定して、見かけの反応速度定数(触媒全体での平均値)を求めた。
【0129】
ついで、実施例1-4の触媒に対して、以下の表4の条件の排ガスを流通したときのCO酸化触媒特性を測定した。
【0130】
【表4】
【0131】
(結果及び考察)
図6Aは、実施例1-4の触媒に対して排ガスを条件1~3で流通したときの、見かけのCO酸化反応速度定数と触媒の温度との関係を示すグラフである。また、図6Bは、図6Aの低温部(0~250℃)を拡大したグラフである。図6A及び図6Bに示すように、反応条件が異なっても、反応速度定数の温度依存性はほぼ同じである。低温部の若干の差異は、計測方法に由来するが、無視できる程度に小さい。したがって、いずれの条件でもラングミュアー‐ヒンシェルウッド機構で触媒反応が進行しており、したがって、異なる条件での計測結果を同一の手法を用いて解析しても正しい結論に至ることが保障される。さらに、一連の計測が高い再現性と精度を持つことも保証している。
【0132】
また、図6Bの低温領域での若干の差異は、測温場所とガス組成分析場所が異なっていることに起因する。すなわち、測温場所から組成分析場所まで反応後のガスが流れるのに数分を要するため、同一時刻に測定した温度と組成は異なるガスのものである。さらに、反応後のガスが測温場所から組成分析場所に移動する間に、対流や拡散による混合が起こるため、組成分析の時点では種々の温度の反応ガスが混合されている。この時間差がガス流量に応じて変化するため、温度と触媒活性値の相関が影響を受ける。この影響は昇降温レートを下げることによる小さくなる。
【0133】
図7Aは、実施例1-4の触媒に対してリーンバーン排ガスを条件4及び5で流通したときの、見かけのCO酸化反応速度定数と触媒の温度との関係を示すグラフである。また、図7Bは、実施例1-4の触媒に対してリーンバーン排ガスを条件4及び5で流通させたときのCO酸化触媒特性を示すグラフである。
【0134】
毎分1℃の昇降温(条件5)では、ヒステリシス(360℃と410℃での急激な触媒活性の変化)以外は昇降温で触媒活性の温度依存性が一致している。したがって、この昇降温条件では定常状態の触媒活性の温度依存性を正しく計測できていることが実証された。
【0135】
これに対して、自然降温時(上記の条件4)では、330℃を過ぎても昇降温時に差が観測されている。すなわち、自然降温では降温速度が速過ぎるために定常状態になっていないことがわかる。したがって、自然降温条件で計測したデータは触媒活性の評価に使用できない。
【0136】
毎分1℃の昇降温(上記の条件5)で観測された急峻な反応速度定数の変化(ヒステリシス)は、Pt触媒がCOリッチ状態(低温側)と酸素リッチ状態(高温側)の間を転移することに由来している。すなわち、この双安定性(バイスタビリティ)と転移温度が温度変化の方向に依存することが原因である。
【0137】
この現象はバルクPtやナノ粒子では報告されているが、本系のような数十個の原子からなるサブナノ空間での双安定性は新しい発見である。
【0138】
〈ディーゼル排ガス条件における評価〉
(測定方法)
実施例1-4の触媒(触媒金属:Ptクラスター(原子数1~40)、担体:シリコンカーバイド粉末)及び参考例1-1の触媒(実用触媒)に対して、ディーゼル排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を、毎分20ccで流量かつ、毎分1℃の昇降温レートで流通させて、これらの触媒のCO酸化触媒活性の温度依存性を測定した。
【0139】
なお、試料の前処理として、ヘリウムを流通させながら800℃まで毎分10℃で昇温後、室温まで空冷した後、当該排ガスを流通させながら、毎分10℃の昇温、自然降温を行った。
【0140】
(結果及び考察)
図8Aは、実施例1-4の触媒及び参考例1-1の触媒に対してディーゼル排ガスを所定の条件で流通させたときのターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0141】
図8Aに示されるように、実施例1-4の触媒の方が、参考例1-1よりも50℃程度、低温からCO酸化が始まっている。また、参考例1-1の触媒には大きな酸素吸放出能をもつセリアやジルコニアが大量に含まれているにもかかわらず、実施例1-4の触媒のターンオーバーレートが、参考例1-1の触媒を上回っている。
【0142】
ヒステリシスを考慮して、シリコンカーバイド粉末に担持されたPtクラスターが100%CO変換を示す温度の昇温時と降温時の平均値である235℃で比較すると、実施例1-4の触媒と参考例1-1の触媒とでは、ターンオーバーレートに40倍以上の差があるといえる。すなわち、この結果は、実施例1-4の触媒は、従来の触媒よりもPt量を二桁低減できることを示唆している。さらに、シリコンカーバイドはアルミナ等の一般的な担体物質よりも比表面積が一桁程度小さいが、触媒体積を変えずに触媒性能を維持できることもわかる。
【0143】
なお、ターンオーバーレートの飽和値が、実施例1-4の触媒と参考例1-1の触媒とで異なるのは、含まれるPt量の違い由来しており、触媒活性の違いを表してはいない。
【0144】
〈リーンバーン排ガス条件における評価〉
(測定方法)
実施例1-4の触媒(触媒金属:Ptクラスター(原子数1~40)、担体:シリコンカーバイド粉末)及び参考例1-1の触媒(実用触媒)に対して、リーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を、毎分20ccで流量かつ、毎分1℃の昇降温レートで流通させて、これらの触媒のCO酸化触媒活性の温度依存性を測定した。
【0145】
(結果及び考察)
図8Bは、実施例1-4の触媒及び参考例1-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときのターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0146】
図8Bに示されるように、実施例1-4の触媒の方が、参考例1-1よりも低温からCO酸化が始まっている。
【0147】
ヒステリシスを考慮して、シリコンカーバイド粉末に担持されたPtクラスターが100%CO変換を示す温度の昇温時と降温時の平均値である390℃で比較すると、実施例1-4の触媒と参考例1-1の触媒とでは、ターンオーバーレートに5倍以上の差があるといえる。
【0148】
このことは、セリアやジルコニアの酸素吸放出能を考慮すると、ディーゼル条件よりも酸素過剰度が圧倒的に小さいガス条件であるリーンバーン条件でも、やはりPt量を一桁以上低減できることを示唆している。また、実際にセリアやジルコニアの酸素吸収放出能の効果を差し引いたときの性能を比較すると、一桁以上の低減ができることが分かった。
【0149】
なお、ターンオーバーレートの飽和値が、実施例1-4の触媒と参考例1-1の触媒とで異なるのは、含まれるPt量の違い由来しており、触媒活性の違いを表してはいない。
【0150】
〈Pt粒子径及びPt原子総数による効果の評価〉
(測定方法)
シリコンカーバイド粉末と結合しているPtクラスターとPtナノ粒子の粒径と原子層数の効果を調べるために、実施例1-4の触媒(触媒金属:Ptクラスター(原子数1~40)、担体:シリコンカーバイド粉末)と参考例1-2の触媒(触媒金属:Ptナノ粒子、担体:シリコンカーバイド粉末)に対して、リーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を、毎分20ccで流量しつつ、毎分1℃の昇降温レートで昇降温したときの、各触媒のCO酸化触媒活性を測定した。
【0151】
(結果及び考察)
図9は、実施例1-4の触媒及び参考例1-2の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときのターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0152】
図9に示されるように、実施例1-4の触媒の方が、参考例1-2の触媒よりも低温からCO酸化が始まっている。したがって、粒径の大きなPtナノ粒子に比べて、粒径は小さいがSiと結合しているPtの寄与が大きなクラスターの方が、触媒性能が高いことがわかる。
【0153】
Ptの削減率を示すために、図9の結果を温度ごとに読み取って、各温度でのCO浄化ターンオーバーレートをPtクラスターとPtナノ粒子で比較した結果を図10に示す(Pt量の定量分析結果に基づき再解析)。
【0154】
図10は、実施例1-4の触媒及び参考例1-2の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの各触媒のターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。図10に示されるように、300~400℃において、実施例1-4の触媒と参考例1-2の触媒とでは、両者のターンオーバーレートに20倍以上の差がある。このことは、実施例1-4の触媒を用いることにより、使用Pt量を1/10以下に削減できることを示唆している。
【0155】
〈高温耐久性の評価〉
(測定方法)
実施例1-1の触媒(触媒金属:Ptクラスター30量体、担体:シリコンカーバイド粉末)に対して、リーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を、毎分100ccの流量、かつ毎分10℃の昇温レートで950℃まで昇温し、その後、空冷で降温することを2回繰り返し、その間のCO酸化触媒活性を測定した。
【0156】
(結果及び考察)
図11は、実施例1-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの排ガス中のCO、O、及びCOの濃度と触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0157】
図11に示されるように、実施例1-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを流通させつつ950℃まで昇温する操作を2回繰り返しても、CO、O、及びCOの濃度の変化と温度との関係はほとんど変化しなかった。このことは、実施例1-1の触媒が、950℃の高温耐久性を有していることを示している。
【0158】
〈担体の違いによる効果の評価〉
(測定方法)
実施例1-5(触媒金属:Ptクラスター30量体、担体:単結晶6H-SiC(0001)表面基板)及び参考例1-3(触媒金属:Ptクラスター30量体、担体:酸化セリウム基板)に対して、同条件でCO浄化触媒性能を比較した。具体的には、それぞれの触媒について、酸素分圧を1×10-4Pa、CO分圧を1×10-5Paに保ちつつ、毎秒0.3℃の昇温レートで加熱しながら、生成したCOの濃度を測定した。
【0159】
(結果及び考察)
図12Aは、実施例1-5の触媒のCO浄化触媒性能を測定したときの触媒の温度とターンオーバーレートとの関係を示したグラフである。また、図12Bは、参考例1-3の触媒のCO浄化触媒性能を測定したときの触媒の温度とターンオーバーレートとの関係を示したグラフである。
【0160】
図12Aに示されるように、実施例1-5の触媒では、100℃付近からターンオーバーレートが増加し始め、220℃付近において最大となっている。これに対して、図12Bに示されるように、参考例1-3の触媒では、200℃付近からターンオーバーレートが増加し始め、増加の程度も緩慢である。
【0161】
これらの図から明らかなように、参考例1-3の触媒のように、Ptクラスターと担体との間において電子局在が起こらない酸化セリウムにPtクラスター30量体が担持されている触媒と比較して、実施例1-5の触媒のように、Ptクラスターと担体との間において電子局在が起こるシリコンカーバイド担体にPtクラスター30量体を担持した触媒は、より低い温度においてCO浄化がより高い効率で進行するといえる。
【0162】
〈最適なクラスターサイズの評価〉
(測定方法)
実施例1-1の触媒(触媒金属:Ptクラスター30量体、担体:シリコンカーバイド粉末)、実施例1-2の触媒(触媒金属:Ptクラスター20量体、担体:シリコンカーバイド粉末)、及び実施例1-3の触媒(触媒金属:Ptクラスター10量体、担体:シリコンカーバイド粉末)触媒に対して、リーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を毎分20ccの流量で流しながら昇降温し、各触媒のCO浄化触媒性能を測定した。
【0163】
(結果及び評価)
図13は、実施例1-1の触媒、実施例1-2の触媒、及び実施例1-3の触媒のCO浄化触媒性能を測定したときの触媒の温度とターンオーバーレートの関係を示すグラフである。
【0164】
各触媒について、Ptクラスター30量体が、20量体や10量体よりも低温でCO浄化能力が高いことがわかる。したがって、これらの触媒の中では、Ptクラスターが30量体のときに最も低温で触媒活性が発揮されたといえる。
【0165】
〈担体のCO浄化への寄与の評価〉
(測定方法)
参考例3-1の試料(触媒金属:なし、担体:シリコンカーバイド粉末)及び参考例3-2の試料(触媒金属:なし、担体:シリコンカーバイド粉末及び石英砂(1:1比率))について、それぞれリーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を毎分20ccの流量で流通させながら、毎分1℃で800℃まで昇温しつつ、CO酸化触媒活性を測定した。
【0166】
(結果及び考察)
図14は、参考例3-1の試料に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときの触媒の温度とCO浄化率を示すグラフである。
【0167】
図14のとおり、参考例3-1では、500℃よりCOが生成され始めたが、800℃になっても、コンバージョン換算で12%程度の寄与しかなかった。なお、図には示してないが、参考例3-2でも同様の結果であった。
【0168】
このように、参考例3-1の試料及び参考例3-2の試料は、CO酸化触媒活性を有していたものの、Ptクラスターを担持したシリコンカーバイド担体と比べると、この活性は無視できるくらい小さかった。
【0169】
同様に、参考例3-1の試料及び参考例3-2の試料に対してもストイキ排ガスを流量させながら加熱したが、800℃まで昇温しても、NO還元は検出できなかった。
【0170】
以上より、シリコンカーバイド担体(100nm)/Si(0.5mm)のCO酸化への寄与は、現実験条件下では石英砂と同等程度であり、500℃以下では無視できることがわかった。
【0171】
《Rhクラスターがシリコンカーバイド粉末に担持された触媒の排ガス浄化能力の評価》
(測定方法)
実施例2-1の触媒(触媒金属:Rhクラスター30量体、担体:シリコンカーバイド粉末)及び参考例2-1の触媒(触媒金属:Rhナノ粒子、担体:シリコンカーバイド粉末)に対して、リーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を毎分100.3ccの流量で流通させながら、毎分10℃で800℃まで昇温し、引き続いて空冷を行う操作を15回繰り返した。加熱を繰り返すとCOの浄化率が徐々に減少し、15回目の昇降温でほぼ落ち着いた(浄化率の減少は、Rhクラスターの凝集ではなく、表面状態の変化に起因すると考えられる)。
【0172】
その後、これらの触媒に対してリーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を毎分100.3ccの流量で流通させながら、毎分1℃で昇降温し、その間のCO浄化ターンオーバーレートを測定した。
【0173】
また、ストイキ排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を毎分100.3ccの流量で流通させながら、毎分1℃で昇降温し、その間のCO及びNO浄化のターンオーバーレートを測定した。
【0174】
(結果及び評価)
図15Aは、実施例2-1の触媒及び参考例2-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときのCO浄化ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0175】
図15Aのとおり、シリコンカーバイド粉末にRhクラスターが担持されている触媒である実施例2-1の触媒のほうが、シリコンカーバイド粉末にRhナノ粒子が担持されている触媒である参考例2-1の触媒よりも、400℃付近の低温で高いCO浄化性能を有するといえる。
【0176】
また、図15Bは、実施例2-1の触媒及び参考例2-1の触媒に対してストイキ排ガスを所定の条件で流通させたときのNO浄化ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0177】
図15Bのとおり、シリコンカーバイド粉末にRhクラスターが担持されている触媒である実施例2-1の触媒のほうが、シリコンカーバイド粉末にRhナノ粒子が担持されている触媒である参考例2-1の触媒よりも低温で高いNO浄化性能を有するといえる。具体的には、実施例2-1の触媒では、約430℃付近において、NO浄化ターンオーバーレートが10以上となったのに対して、参考例2-1の触媒では、約600℃付近においてNO浄化ターンオーバーレートが最大となったものの、NOに対するターンオーバーレートは7未満であった。また、実施例2-1の触媒にストイキ排ガスを流通させても、N以外の窒素含有物(NOやNO等)は生成物として検出されなかった。
【0178】
《Ptクラスター、Rhクラスター及びPdクラスターがそれぞれシリコンカーバイド担体に担持された触媒の排ガス浄化能力の比較》
(測定方法)
実施例1-2の触媒(触媒金属:Ptクラスター20量体、担体:シリコンカーバイド粉末)、実施例2-1の触媒(触媒金属:Rhクラスター30量体、担体:シリコンカーバイド粉末)、及び実施例3-1の触媒(触媒金属:Pdクラスター30量体、担体:シリコンカーバイド粉末)に対して、リーンバーン排ガス(組成及び全圧については表2を参照)を毎分100ccの流量、毎分1℃の昇降温レートで流通させ、その間の各触媒のCO酸化触媒活性を測定した。
【0179】
(結果及び評価)
図16は、実施例1-2の触媒、実施例2-1の触媒、及び実施例3-1の触媒に対してリーンバーン排ガスを所定の条件で流通させたときのCO浄化ターンオーバーレートと触媒の温度との関係を示すグラフである。
【0180】
図16から、CO浄化が開始する温度は、シリコンカーバイド粉末にPdクラスターが担持されている触媒である実施例3-1の触媒が低温で最も低く、次いで、シリコンカーバイド粉末にPtクラスターが担持されている触媒である実施例1-2の触媒、シリコンカーバイド粉末にRhクラスターが担持されている触媒である実施例2-1の触媒の順に、低い温度から触媒反応が進行したといえる。
【0181】
さらに、シリコンカーバイド粉末にPdクラスターが担持されている触媒である実施例3-1の触媒では、約350℃付近において、CO浄化ターンオーバーレートが100以上となった。また、シリコンカーバイド粉末にPtクラスターが担持されている触媒である実施例1-2の触媒では、約510℃付近において、CO浄化ターンオーバーレートが100以上となった。また、シリコンカーバイド粉末にRhクラスターが担持されている触媒である実施例2-1の触媒では、約400℃付近において、CO浄化ターンオーバーレートが100以上となった。
【0182】
図17Aは、Pdナノ粒子の粒子径と触媒活性との関係を示すグラフである。具体的には、図17Aは、非特許文献6に記載されているPdナノ粒子の粒子径と触媒活性に関するデータをもとに、Pdナノ粒子の粒子径と触媒活性との関係をグラフにしたものである。また、図17Bは、図17Aのグラフの横軸について、0~10nmの範囲を拡大したグラフである。
【0183】
図17A及び図17Bのとおり、Pdのナノ粒子は、100nm付近から粒径が小さくなるにつれて触媒活性が増加するものの、3~4nm付近において最大となり、その後は粒径が小さくなるにつれて触媒活性が低下している。
【0184】
したがって、Pdクラスター30量体を用いる実施例3-1の触媒が良好な触媒活性を有することは、公知技術からは非常に予想外であった。
【符号の説明】
【0185】
10 Ptクラスター
15 Pt原子
20 電子濃度が高められた部分
30 酸素分子
40 活性化した酸素原子
50 一酸化炭素分子
60 二酸化炭素分子
100 シリコンカーバイド担体
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17A
図17B