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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】操舵判定装置及び自動運転システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220817BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220817BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20220817BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B60W60/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018225340
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020083261
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【弁理士】
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 隆比古
(72)【発明者】
【氏名】西村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】国弘 洋司
(72)【発明者】
【氏名】小城 隆博
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 久哉
(72)【発明者】
【氏名】モレヨン マキシム
(72)【発明者】
【氏名】田村 勉
(72)【発明者】
【氏名】フックス ロバート
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-096568(JP,A)
【文献】特開平11-078936(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011085403(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバが前記車両のステアリングホイールを操舵操作している操舵状態をステアリングシャフトのステアトルクに基づいて判定する操舵判定装置であって、
前記ステアリングシャフトに設けられたトルクセンサの検出結果に基づいて、前記ステアトルクを認識するトルク認識部と、
前記車両の加速度センサの検出結果に基づいて、前記車両の前後方向の前後加速度又は前記車両の左右方向の左右加速度を認識する加速度認識部と、
前記前後加速度又は前記左右加速度に基づいて、前記操舵状態の判定に用いる閾値を設定する閾値設定部と、
前記ステアトルクが前記閾値以上となった場合、前記ドライバが前記操舵状態であると判定する操舵判定部と、を備え、
前記閾値設定部は、前記前後加速度又は前記左右加速度の絶対値が小さくなるほど前記閾値が小さくなるように前記閾値を設定する、操舵判定装置。
【請求項2】
前記閾値設定部は、前記前後加速度又は前記左右加速度の絶対値が小さくなるほど前記閾値が連続的に小さくなるように前記閾値を設定する、請求項1に記載の操舵判定装置。
【請求項3】
前記閾値設定部は、前記前後加速度又は前記左右加速度の絶対値が小さくなるほど前記閾値が段階的に小さくなるように前記閾値を設定する、請求項1に記載の操舵判定装置。
【請求項4】
前記加速度認識部は、前記車両の上下方向の上下加速度を更に認識し、
前記閾値設定部は、前記上下加速度が変化しない場合において前記前後加速度又は前記左右加速度の絶対値が小さくなるほど前記閾値が小さくなるように前記閾値を設定する、請求項1~3の何れか一項に記載の操舵判定装置。
【請求項5】
前記加速度認識部は、前記前後加速度、前記左右加速度、及び前記車両の上下方向の上下加速度を認識し、
前記閾値設定部は、前記前後加速度及び前記左右加速度が変化しない場合において前記上下加速度の絶対値が小さくなるほど前記閾値が小さくなるように前記閾値を設定する、請求項1~4の何れか一項に記載の操舵判定装置。
【請求項6】
自動運転と手動運転とを切り換え可能な前記車両において前記ステアトルクに基づき前記自動運転から前記手動運転に切り換える手動運転切換制御を実行する自動運転システムであって、
請求項1~5の何れか一項に記載の操舵判定装置と、
自動運転中に前記操舵判定部により前記ドライバが前記操舵状態であると判定された場合、前記手動運転切換制御を実行する手動運転切換部と、を備える、自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵判定装置及び自動運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバの操舵トルクの大きさが所定の閾値以上であるときに、運転支援制御による操舵よりもドライバによる操舵を優先する運転支援装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-343184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転支援等の制御に関連して、ドライバが車両のステアリングホイールを操舵操作している操舵状態であるか否かを判定することが求められることがある。この操舵状態の判定として、ステアリングシャフトのステアトルクが閾値以上になったか否かに基づく場合、車両の走行の影響等により、ドライバによる操舵の意思がないにも関わらず操舵状態を誤って判定してしまう場合がある。
【0005】
この技術分野では、ステアトルクに基づいてドライバの操舵状態を適切に判定することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る操舵判定装置は、車両のドライバが車両のステアリングホイールを操舵操作している操舵状態をステアリングシャフトのステアトルクに基づいて判定する操舵判定装置であって、ステアリングシャフトに設けられたトルクセンサの検出結果に基づいて、ステアトルクを認識するトルク認識部と、車両の加速度センサの検出結果に基づいて、車両の前後方向の前後加速度又は車両の左右方向の左右加速度を認識する加速度認識部と、前後加速度又は左右加速度に基づいて、操舵状態の判定に用いる閾値を設定する閾値設定部と、ステアトルクが閾値以上となった場合、ドライバが操舵状態であると判定する操舵判定部と、を備え、閾値設定部は、前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほど閾値が小さくなるように閾値を設定する。
【0007】
本発明の一態様に係る操舵判定装置によれば、閾値設定部により、前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほど閾値が小さくなるように閾値が設定される。操舵判定部により、ステアトルクが閾値以上となった場合、ドライバが操舵状態であると判定される。これにより、例えば、ドライバによる操舵の意思がないにも関わらず、トルクセンサの検出結果に基づいて認識されたステアトルクとしてステアリングホイールの自転トルクが前後加速度又は左右加速度に応じて発生した場合であっても、閾値を適切に設定することができる。その結果、ステアトルクに基づいてドライバの操舵状態を適切に判定することが可能となる。
【0008】
上記作用効果を好適に奏する構成として、具体的には、閾値設定部は、前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほど閾値が連続的に小さくなるように閾値を設定してもよい。
【0009】
上記作用効果を好適に奏する構成として、具体的には、閾値設定部は、前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほど閾値が段階的に小さくなるように閾値を設定してもよい。
【0010】
一実施形態において、加速度認識部は、車両の上下方向の上下加速度を更に認識し、閾値設定部は、上下加速度が変化しない場合において前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほど閾値が小さくなるように閾値を設定してもよい。この場合、上下加速度を更に考慮しつつ、前後加速度又は左右加速度が小さいほど自転トルクが小さくなることに対応させて、閾値を適切に設定することができる。
【0011】
一実施形態において、加速度認識部は、前後加速度、左右加速度、及び車両の上下方向の上下加速度を認識し、閾値設定部は、前後加速度及び左右加速度が変化しない場合において上下加速度の絶対値が小さくなるほど閾値が小さくなるように閾値を設定してもよい。この場合、前後加速度及び左右加速度が変化しない場合において上下加速度が小さいほど自転トルクが小さくなることに対応させて、閾値を適切に設定することができる。
【0012】
一実施形態において、自動運転と手動運転とを切り換え可能な車両においてステアトルクに基づき自動運転から手動運転に切り換える手動運転切換制御を実行する自動運転システムであって、上記の操舵判定装置と、自動運転中に操舵判定部によりドライバが操舵状態であると判定された場合、手動運転切換制御を実行する手動運転切換部と、を備えてもよい。この場合、ステアトルクに基づいて適切に判定されたドライバの操舵状態の判定結果に基づいて、手動運転への切換えを適切に実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の種々の態様及び実施形態によれば、ステアトルクに基づいてドライバの操舵状態を適切に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る操舵判定装置を有する自動運転システムを示すブロック図である。
図2】ステアリング装置の一例を示す概略構成図である。
図3】自転トルクを説明するための図である。
図4】(a)は、自転トルクを説明するための図である。(b)は、図4(a)の自転トルクを側面視で説明する図である。
図5】(a)は、自転トルクを説明するための図である。(b)は、図5(a)の自転トルクを側面視で説明する図である。
図6】(a)は、前後閾値設定パラメータの一例を示す図である。(b)は、左右閾値設定パラメータの一例を示す図である。(c)は、上下閾値設定パラメータの一例を示す図である。
図7】閾値設定処理を示すフローチャートである。
図8】操舵状態判定処理を示すフローチャートである。
図9】手動運転切換判定処理を示すフローチャートである。
図10】(a)は、前後閾値設定パラメータの他の例を示す図である。(b)は、左右閾値設定パラメータの他の例を示す図である。(c)は、上下閾値設定パラメータの他の例を示す図である。
図11】ステアリング装置の他の例を示す概略構成図である。
図12】ステアリング装置の更に他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、一実施形態に係る操舵判定装置50を有する自動運転システム100を示すブロック図である。図1に示す自動運転システム100は、乗用車等の車両に搭載され、車両を自動で走行させる自動運転を実行する。自動運転とは、ドライバが操作することなく車両を目的地まで走行させる車両制御である。車両は、自動運転システム100により自動運転と手動運転とを切り換え可能に構成されている。手動運転とは、ドライバの運転操作によって車両が走行する運転状態である。
【0017】
自動運転システム100は、自動運転から手動運転に切り換える手動運転切換制御を実行する。手動運転切換制御は、トルクセンサ5の検出結果に基づいて認識されたステアトルクに基づき自動運転から手動運転に切り換える制御である。本実施形態では、一例として、自動運転システム100は、自動運転を終了させる地点である切換地点に自動運転中の車両が近づいている場合に、車両の切換地点への接近をドライバに報知すると共に、接近の報知に応じたドライバの操舵操作(例えばテイクオーバーの操舵操作)による操舵操作トルクに基づき手動運転切換制御を実行する。なお、手動運転切換制御は、必ずしも車両の切換地点への接近をドライバに報知する際に実行されなくてもよい。
【0018】
操舵判定装置50は、自動運転システム100の一部を構成している。操舵判定装置50は、車両のドライバの操舵状態を、車両のステアリングシャフトのステアトルクに基づいて判定する。本開示における操舵状態とは、単にドライバがステアリングホイールに触れている状態を意味するのではなく、ドライバがステアリングホイールを操舵操作している状態を意味する。操舵操作している状態は、ドライバによるステアリングホイールの操舵操作により操舵角が変化する状態を意味するが、これに限られず、ドライバによるステアリングホイールの操舵操作により例えば路面反力等と一時的に釣り合った結果として操舵角が変化しない状態を含んでもよい。自動運転システム100は、操舵判定装置50の判定結果に基づいて、手動運転切換制御を実行する。
【0019】
[操舵判定装置50及び自動運転システム100の構成]
図1に示されるように、本実施形態に係る自動運転システム100は、自動運転の車両制御を統括するECU[Electronic Control Unit]10を備えている。ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECU10では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU10は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。
【0020】
ECU10は、GNSS[Global Navigation Satellite System]受信部1、外部センサ2、内部センサ3、地図データベース4、トルクセンサ5、HMI[Human Machine Interface]6、及びアクチュエータ7と接続されている。
【0021】
GNSS受信部1は、3個以上のGNSS衛星から信号を受信することにより、車両の位置(例えば車両の緯度及び経度)を測定する。GNSS受信部1は、測定した車両の位置情報をECU10へ送信する。
【0022】
外部センサ2は、車両の周辺の状況を検出する検出器である。外部センサ2は、カメラ、レーダセンサのうち少なくとも一つを含む。
【0023】
カメラは、車両の外部状況を撮像する撮像機器である。カメラは、車両のフロントガラスの裏側に設けられている。カメラは、車両の外部状況に関する撮像情報をECU10へ送信する。カメラは、単眼カメラであってもよく、ステレオカメラであってもよい。ステレオカメラは、両眼視差を再現するように配置された二つの撮像部を有している。ステレオカメラの撮像情報には、奥行き方向の情報も含まれている。
【0024】
レーダセンサは、電波(例えばミリ波)又は光を利用して車両の周辺の障害物を検出する検出器である。レーダセンサには、例えば、ミリ波レーダ又はライダー[LIDAR:Light Detection And Ranging]が含まれる。レーダセンサは、電波又は光を車両の周辺に送信し、障害物で反射された電波又は光を受信することで障害物を検出する。レーダセンサは、検出した障害物情報をECU10へ送信する。
【0025】
内部センサ3は、車両の走行状態を検出する検出器である。内部センサ3は、車速センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサを含む。車速センサは、車両の速度を検出する検出器である。車速センサとしては、例えば、車両の車輪又は車輪と一体に回転するドライブシャフト等に対して設けられ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサが用いられる。車速センサは、検出した車速情報(車輪速情報)をECU10に送信する。
【0026】
加速度センサは、車両の加速度を検出する検出器である。加速度センサは、例えば、車両の前後方向(縦方向)の加速度である前後加速度を検出する縦加速度センサと、車両の左右方向(横方向)の加速度である左右加速度を検出する横加速度センサと、を含んでいる。加速度センサは、車両の上下方向の加速度である上下加速度を検出する上下加速度センサを含んでいてもよい。加速度センサは、車両の加速度情報をECU10に送信する。
【0027】
ヨーレートセンサは、車両の重心の鉛直軸周りのヨーレート(回転角速度)を検出する検出器である。ヨーレートセンサとしては、例えばジャイロセンサを用いることができる。ヨーレートセンサは、検出した車両のヨーレート情報をECU10へ送信する。
【0028】
地図データベース4は、地図情報を記憶するデータベースである。地図データベース4は、例えば、車両に搭載されたHDD[Hard Disk Drive]内に形成されている。地図情報には、道路の位置情報、道路形状の情報(例えばカーブ、直線部の種別、カーブの曲率等)、交差点及び分岐点の位置情報、及び建物の位置情報等が含まれる。なお、地図データベース4は、車両と通信可能な管理センター等の施設のコンピュータに記憶されていてもよい。
【0029】
地図データベース4には、例えば、自動運転を終了させる地点である切換地点に関するデータが予め記憶されている。切換地点とは、車両の自動運転を終了させ、車両の運転状態を自動運転から手動運転に切換える目標ルート上の地点である。切換地点としては、例えば、高速道路の出口地点、悪天候による交通規制の開始地点、事故による交通規制の開始地点が挙げられる。切換地点に関するデータは、地図データベース4とは異なるデータベースに記憶されていてもよい。切換地点に関するデータは車内のデータベースには含まれず、通信機能によってリモートデータサーバから与えられてもよい。
【0030】
トルクセンサ5は、車両のステアリング装置20のステアリングシャフト22に設けられ、ステアトルクを検出する(詳しくは後述)。トルクセンサ5は、検出したステアトルク情報をECU10へ送信する。トルクセンサ5は、操舵判定装置50を構成する。
【0031】
HMI6は、自動運転システム100と乗員(ドライバを含む)との間で情報の入出力を行うためのインターフェイスである。HMI6は、例えば、ディスプレイやスピーカ等を備えている。HMI6は、ECU10からの制御信号に応じて、ディスプレイの画像出力及びスピーカからの音声出力を行う。ディスプレイは、ヘッドアップディスプレイであってもよい。
【0032】
アクチュエータ7は、車両の走行制御を実行する装置である。アクチュエータ7は、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及び操舵アクチュエータを少なくとも含む。スロットルアクチュエータは、ECU10からの制御信号に応じてエンジンに対する空気の供給量(スロットル開度)を制御し、車両の駆動力を制御する。なお、車両がハイブリッド車である場合には、エンジンに対する空気の供給量の他に、動力源としてのモータにECU10からの制御信号が入力されて当該駆動力が制御される。車両が電気自動車である場合には、動力源としてのモータにECU10からの制御信号が入力されて当該駆動力が制御される。これらの場合における動力源としてのモータは、アクチュエータ7を構成する。
【0033】
ブレーキアクチュエータは、ECU10からの制御信号に応じてブレーキシステムを制御し、車両の車輪へ付与する制動力を制御する。ブレーキシステムとしては、例えば、液圧ブレーキシステムを用いることができる。操舵アクチュエータは、電動パワーステアリング[EPS:Electric Power-Steering]装置のうちEPSモータの駆動を、ECU10からの制御信号に応じて制御する。
【0034】
次に、車両のステアリング装置20及びトルクセンサ5により検出されるステアトルクについて説明する。
【0035】
図2は、車両のステアリング装置20の構成を示す概略図である。図2に示されるように、ステアリング装置20は、ステアリングホイール21の操作又はECU10からの自動運転の制御信号に応じて前輪FTを転舵する電動パワーステアリング装置である。ステアリング装置20は、ステアリングホイール21と、ステアリングシャフト22と、EPSモータ23と、ラックアンドピニオン機構25と、タイロッド26と、ナックルアーム27と、を備えている。
【0036】
ステアリングホイール21は、ステアリングシャフト22を介して、ラックアンドピニオン機構25に接続されている。ステアリングシャフト22には、操舵角センサ3a及びトルクセンサ5が設けられている。EPSモータ23は、例えば電動モータ及び減速機等を有しており、ステアリングシャフト22にアシストトルクを付与するようにECU10により制御される。ラックアンドピニオン機構25は、ラックが形成された転舵軸と、ピニオンが形成されたピニオン軸とで構成される。本実施形態では、ステアリングシャフト22とラックアンドピニオン機構25のピニオン軸とが物理的に接続されている。
【0037】
ラックアンドピニオン機構25は、ステアリングシャフト22を介してステアリングホイール21から伝達された回転運動を直線運動に変換する。ラックアンドピニオン機構25の転舵軸の両端のそれぞれには、タイロッド26を介してナックルアーム27が連結されている。ナックルアーム27は、ラックアンドピニオン機構25の動作によってタイロッド26を介して動作される。これにより、前輪FTが転舵される。
【0038】
ここで、トルクセンサ5は、ステアリングシャフト22の中間部に設けられている。トルクセンサ5は、ステアリングシャフト22に含まれるトーションバーのねじれ量に基づき、ステアリングシャフト22のねじりトルクを検出する。ステアリングシャフト22のねじりトルクとは、ステアリングホイール21からのトルク、ラックアンドピニオン機構25からのトルク及びEPSモータ23の出力トルクの少なくとも何れかによって、ステアリングシャフト22がねじられるように働くトルクである。
【0039】
ステアリングホイール21からのトルクとは、ステアリングホイール21からステアリングシャフト22に入力されるトルクを意味する。ステアリングホイール21からのトルクには、ドライバの操舵操作による操舵操作トルクと、車両に作用する加速度による自転トルクと、が含まれ得る。操舵操作トルクとは、ドライバがステアリングホイール21を把持して回転させる操作によってステアリングホイール21からステアリングシャフト22に入力されるトルクを意味する。自転トルクとは、車両に作用する加速度に応じてステアリングホイール21が回転(自転)されるのに伴って、ステアリングホイール21からステアリングシャフト22に入力されるトルクを意味する。自転トルクは、例えば、車両に作用する加速度に応じた慣性力がステアリングホイール21全体としての重心に働くことと、ステアリングホイール21の重心のステアリングシャフト22の軸線に対する偏心とに起因して、ステアリングシャフト22周りに発生する当該慣性力によるモーメント(ステアリングホイール21からステアリングシャフト22に入力されるトルク)である。
【0040】
ラックアンドピニオン機構25からのトルクとは、ラックアンドピニオン機構25からステアリングシャフト22に伝達されるトルクを意味する。ラックアンドピニオン機構25からのトルクには、例えば車両の前輪FTに加えられた路面の反力による反力トルクが含まれ得る。
【0041】
自転トルクの一例について、図3を参照しつつ説明する。図3は、自転トルクを説明するための図である。図3では、紙面上方向(矢印Fr方向)が車両前方に向かっており、紙面左右方向が車両左右方向に沿っている。
【0042】
図3に示されるように、ステアリングホイール21は、環状のリム21aと、リム21aの内側に設けられた複数(ここでは3本)のスポーク21bと、各スポーク21bを介して環状のリム21aとステアリングシャフト22とを接続するボス部21cと、を有している。ボス部21c上には、例えばエアバック装置(図示省略)等が設けられている。ステアリングシャフト22は、例えば、ボス部21cにおいて、複数のスポーク21bの延長線が交差する位置に取り付けられている。
【0043】
本実施形態では、ステアリングホイール21の重心GSWは、ステアリングシャフト22の軸線に対して所定距離で離間するように偏心している。重心GSWは、ボス部21c上に存在しておらず、例えば、直進状態の向きのステアリングホイール21においてボス部21cの下方に所定距離で離間して位置している。ステアリングホイール21における重心GSWの位置は、例えばエアバック装置等の重量物の配置に応じて、予め設計的に定まっている。
【0044】
図3の例では、直進状態のステアリングホイール21に車両右方向に左右加速度Gが作用している。この場合、ステアリングホイール21の重心GSWには、左右加速度Gに応じた車両左方向の慣性力Fが働く。このとき、当該慣性力Fが作用する重心GSWとステアリングシャフト22の軸線との上記偏心により、左右加速度Gに応じてステアリングシャフト22周りにモーメントが発生し、自転トルクとしてトルクTが発生する。
【0045】
図4(a)は、自転トルクを説明するための図である。図4(b)は、図4(a)の自転トルクを側面視で説明する図である。図4(b)には、車両の左側から見たステアリングホイール21及びステアリングシャフト22が模式的に示されている。図4(b)では、紙面左方向(矢印Fr方向)が車両前方に向かっており、紙面上下方向が車両上下方向に沿っている。
【0046】
図4(a)及び(b)の例では、図4(a)のように、直進状態から時計回りに約90°回転された状態のステアリングホイール21に車両後方向に前後加速度Gが作用している。この場合、ステアリングホイール21の重心GSWには、前後加速度Gに応じた車両前方向の慣性力Fが働く。より詳しくは、図4(b)のように、一般的にステアリングシャフト22が前下がりとなるように傾斜して設けられていることから、ステアリングホイール21の重心GSWには、前後加速度Gに応じた慣性力Fの分力として、ステアリングシャフト22に沿う分力FB1と、ステアリングシャフト22に直交する車両上方向に沿う分力FB2とが発生する。当該分力FB2が作用する上記重心GSWとステアリングシャフト22の軸線との偏心により、ステアリングシャフト22周りに当該分力FB2によりモーメントが発生し、自転トルクとしてトルクTが発生する。
【0047】
図5(a)は、自転トルクを説明するための図である。図5(b)は、図5(a)の自転トルクを側面視で説明する図である。図5(a)では、紙面奥方向(Fr方向)が車両前方に向かっており、紙面左右方向が車両左右方向に沿っている。図5(b)には、車両の左側から見たステアリングホイール21及びステアリングシャフト22が模式的に示されている。図5(b)では、紙面左方向(矢印Fr方向)が車両前方に向かっており、紙面上下方向が車両上下方向に沿っている。
【0048】
図5(a)及び(b)の例では、図5(a)のように、直進状態から時計回りに約90°回転された状態のステアリングホイール21に車両上方向に上下加速度Gが作用している。この場合、ステアリングホイール21の重心GSWには、上下加速度Gに応じた車両下方向の慣性力Fが働く。より詳しくは、図5(b)のように、ステアリングホイール21の重心GSWには、上下加速度Gに応じた慣性力Fの分力として、ステアリングシャフト22に沿う分力FC1と、ステアリングシャフト22に直交する車両下方向に沿う分力FC2とが発生する。当該分力FC2が作用する上記重心GSWとステアリングシャフト22の軸線との偏心により、ステアリングシャフト22周りに当該分力FC2によりモーメントが発生し、自転トルクとしてトルクTが発生する。
【0049】
図1に戻り、ECU10の機能的構成について説明する。ECU10は、車両位置認識部11、走行状態認識部(加速度認識部)12、周辺環境認識部13、進路生成部14、トルク認識部15、閾値設定部16、操舵判定部17、手動運転切換部18、及び車両制御部19を有している。なお、以下に説明するECU10の機能の一部は、車両と通信可能な管理センターなどの施設のコンピュータにおいて実行される態様であってもよい。
【0050】
車両位置認識部11は、GNSS受信部1の位置情報及び地図データベース4の地図情報に基づいて、車両の地図上の位置を認識する。車両位置認識部11は、地図データベース4の地図情報に含まれた物標の位置情報及び外部センサ2の検出結果を利用して、SLAM[Simultaneous Localization and Mapping]技術等により車両の位置認識を精度良く行う。車両位置認識部11は、その他、周知の手法により車両の地図上の位置を認識してもよい。
【0051】
走行状態認識部12は、内部センサ3の検出結果に基づいて、車両の走行状態を認識する。走行状態には、車両の車速、車両の加速度、車両のヨーレートが含まれる。具体的には、走行状態認識部12は、車速センサの車速情報に基づいて、車両の車速を認識する。走行状態認識部12は、ヨーレートセンサのヨーレート情報に基づいて、車両の向きを認識する。走行状態認識部12は、加速度センサの加速度情報に基づいて、車両に作用する加速度を認識する。走行状態認識部12は、前後加速度及び左右加速度を認識する。走行状態認識部12は、上下加速度を認識してもよい。
【0052】
周辺環境認識部13は、外部センサ2の検出結果に基づいて、車両の周辺環境を認識する。周辺環境には、車両の周囲の物体の状況が含まれる。周辺環境認識部13は、カメラの撮像画像及びレーダセンサの障害物情報に基づいて、周知の手法により、車両の周辺環境を認識する。
【0053】
進路生成部14は、車両の自動運転に利用される進路[trajectory]を生成する。進路生成部14は、予め設定された目的地、地図データベース4の地図情報、車両位置認識部11の認識した車両の地図上の位置、走行状態認識部12の認識した車両の走行状態(車速、ヨーレートなど)、及び周辺環境認識部13の認識した周辺環境に基づいて、種々の手法により、自動運転の進路を生成する。目的地は、車両の乗員によって設定されてもよく、自動運転システム100又は周知のナビゲーションシステムが自動的に提案した目的地であってもよい。
【0054】
トルク認識部15は、トルクセンサ5のステアトルク情報に基づいて、ステアトルクを認識する。トルク認識部15は、例えば、トルクセンサ5で検出されたステアリングシャフト22のねじりトルクの絶対値をステアトルクとして認識する。トルク認識部15は、ステアトルクのうちステアリングホイール21からのトルクとして、ドライバの操舵操作による操舵操作トルクと車両に作用する加速度による自転トルクとの合成トルクを認識する。トルク認識部15は、操舵操作トルクと自転トルクとを互いに区別せずに、合成トルクを認識する。
【0055】
具体的には、トルク認識部15は、例えばステアリングシャフト22周りにモーメントが発生するような加速度が車両に作用していないときには、操舵操作トルクをステアトルクとして認識する。トルク認識部15は、例えばステアリングシャフト22周りにモーメントが発生するような加速度が車両に作用している場合において、ドライバが操舵操作をしているときには、操舵操作トルクに加えて自転トルクをステアトルクとして認識し、ドライバが操舵操作をしていないときには、自転トルクのみをステアトルクとして認識する。
【0056】
閾値設定部16は、走行状態認識部12で認識した加速度に基づいて、ステアトルク閾値(閾値)を設定する。ステアトルク閾値は、操舵状態の判定に用いるためのステアトルクに対する閾値である。
【0057】
一例として、閾値設定部16は、前後、左右及び上下の各方向の加速度に応じて閾値設定パラメータを算出し、算出した閾値設定パラメータを用いてステアトルク閾値を設定してもよい。例えば、閾値設定部16は、予め記憶された下記の式(1)を用いて、ステアトルク閾値を設定することができる。
式(1):ステアトルク閾値= 前後閾値設定パラメータ×前後加速度の絶対値
+左右閾値設定パラメータ×左右加速度の絶対値
+上下閾値設定パラメータ×上下加速度の絶対値
+トルク定数
【0058】
式(1)において、前後閾値設定パラメータとは、前後加速度に基づいて閾値設定部16がステアトルク閾値を設定するために用いられるパラメータである。左右閾値設定パラメータとは、左右加速度に基づいて閾値設定部16がステアトルク閾値を設定するために用いられるパラメータである。上下閾値設定パラメータとは、上下加速度に基づいて閾値設定部16がステアトルク閾値を設定するために用いられるパラメータである。ここでの各閾値設定パラメータは、乗算される各方向の加速度に応じて閾値設定部16によってそれぞれ設定される比例係数である。各閾値設定パラメータは、各方向の加速度の絶対値に応じて、例えば正の値に設定されてもよい。各方向の加速度の絶対値は、走行状態認識部12で認識された各方向の加速度の絶対値である。また、式(1)において、トルク定数は、例えば、ステアトルク閾値に含まれるステアトルクの誤差要因(例えばトルクセンサ5自体の誤差、温度特性の誤差等)を表すように予め設定された定数である。
【0059】
閾値設定部16は、前後加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値を設定する。閾値設定部16は、前後加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が連続的に小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、上下加速度が変化しない場合において前後加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。ここでの閾値設定部16は、例えば、上下加速度及び左右加速度が変化しない場合において前後加速度の絶対値が小さくなるほど前後閾値設定パラメータが連続的に小さくなるように前後閾値設定パラメータを算出する。
【0060】
図6(a)は、前後閾値設定パラメータの一例を示す図である。図6(a)では、横軸に前後加速度が示され、縦軸に上下加速度及び左右加速度が変化しない場合における前後閾値設定パラメータが示されている。図6(a)の例では、前後閾値設定パラメータは、前後加速度が加速度Gである場合の前後閾値設定パラメータK01を示す点と、前後加速度が加速度Gである場合の前後閾値設定パラメータK02を示す点とを通る直線として表される関係に基づいて、閾値設定部16により算出されている。当該関係は、例えばマップデータ又は数式等としてECU10に予め記憶されていてもよい。
【0061】
閾値設定部16は、左右加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値を設定する。閾値設定部16は、左右加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が連続的に小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、上下加速度が変化しない場合において左右加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。ここでの閾値設定部16は、例えば、上下加速度及び前後加速度が変化しない場合において左右加速度の絶対値が小さくなるほど左右閾値設定パラメータが連続的に小さくなるように左右閾値設定パラメータを算出する。
【0062】
図6(b)は、左右閾値設定パラメータの一例を示す図である。図6(b)では、横軸に左右加速度が示され、縦軸に上下加速度及び前後加速度が変化しない場合における左右閾値設定パラメータが示されている。図6(b)の例では、左右閾値設定パラメータは、左右加速度が加速度Gである場合の左右閾値設定パラメータK03を示す点と、左右加速度が加速度Gである場合の左右閾値設定パラメータK04を示す点とを通る曲線として表される関係に基づいて、閾値設定部16により算出されている。曲線は、図6(b)の例では下に凸の放物線である。曲線は、これに限定されず、上に凸の放物線であってもよいし、放物線以外の曲線であってもよい。当該関係は、例えばマップデータ又は数式等としてECU10に予め記憶されていてもよい。
【0063】
閾値設定部16は、上下加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値を設定する。閾値設定部16は、上下加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が連続的に小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。ここでの閾値設定部16は、例えば、前後加速度及び左右加速度が変化しない場合において上下加速度の絶対値が小さくなるほど上下閾値設定パラメータが連続的に小さくなるように上下閾値設定パラメータを算出する。
【0064】
図6(c)は、上下閾値設定パラメータの一例を示す図である。図6(c)では、横軸に上下加速度が示され、縦軸に前後加速度及び左右加速度が変化しない場合における上下閾値設定パラメータが示されている。図6(c)の例では、上下閾値設定パラメータは、上下加速度が加速度Gである場合の上下閾値設定パラメータK05を示す点と、上下加速度が加速度Gである場合の上下閾値設定パラメータK06を示す点とを通る直線として表される関係に基づいて、閾値設定部16により算出されている。図6(c)の直線の傾きは、一例として、図6(a)の直線の傾きよりも小さい。直線の傾きの大小関係は、これに限定されず、図6(c)の直線の傾きは、図6(a)の直線の傾きよりも大きくてもよいし、同じ傾きであってもよい。当該関係は、例えばマップデータ又は数式等としてECU10に予め記憶されていてもよい。
【0065】
なお、図6(a)の前後閾値設定パラメータは、前後加速度の絶対値が小さくなるほど単調減少しているが、前後閾値設定パラメータが一定値となるような前後加速度の区間が一部分に存在してもよい。図6(b)の左右閾値設定パラメータは、左右加速度の絶対値が小さくなるほど単調減少しているが、左右閾値設定パラメータが一定値となるような左右加速度の区間が一部分に存在してもよい。図6(c)の上下閾値設定パラメータは、上下加速度の絶対値が小さくなるほど単調減少しているが、上下閾値設定パラメータが一定値となるような上下加速度の区間が一部分に存在してもよい。
【0066】
操舵判定部17は、トルク認識部15で認識されたステアトルクが閾値設定部16で設定されたステアトルク閾値以上となった場合、ドライバが操舵状態であると判定する。操舵判定部17は、ステアトルクがステアトルク閾値未満である場合、ドライバが操舵状態ではないと判定する。操舵判定部17は、ステアリングホイール21に設けられたタッチセンサ(図示省略)の検出結果を併用して、ドライバが操舵状態であるか否かを判定してもよい。
【0067】
手動運転切換部18は、自動運転中に操舵判定部17によりドライバが操舵状態であると判定された場合、手動運転切換制御を実行する。
【0068】
手動運転切換部18は、一例として、自動運転を終了させる地点である切換地点に自動運転中の車両が近づいている場合に、車両の切換地点への接近をドライバに報知するようにHMI6を制御する。手動運転切換部18は、ドライバへ上記報知をするようにHMI6を制御した場合において、接近の報知に応じたドライバの操舵操作によって、操舵判定部17によりドライバが操舵状態であると判定された場合には、手動運転切換制御を実行し、自動運転から手動運転に切り換える。手動運転切換部18は、操舵判定部17によりドライバが操舵状態ではないと判定された場合に、手動運転切換制御を実行しない。なお、手動運転切換部18は、例えば操舵判定部17によりドライバが操舵状態であると判定されることが無いまま自動運転中の車両が切換地点に到達した場合等には、手動運転切換制御とは別の所定の制御により、自動運転から手動運転への切換えを行ってもよい。
【0069】
車両制御部19は、車両位置認識部11の認識した車両の地図上の位置、走行状態認識部12の認識した車両の走行状態、周辺環境認識部13の認識した周辺環境、及び進路生成部14の生成した進路に基づいて、車両の自動運転を実行する。車両制御部19は、進路に沿って車両を走行させることで自動運転を実行する。車両制御部19は、周知の手法により自動運転を実行する。
【0070】
[ECU10の演算処理の一例]
次に、操舵判定装置50及び自動運転システム100による演算処理の一例について説明する。図7は、閾値設定処理を示すフローチャートである。図7に示されるフローチャートの処理は、例えば、車両の自動運転中に所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0071】
S11において、操舵判定装置50のECU10は、走行状態認識部12により、車両の前後加速度の認識を行う。走行状態認識部12は、内部センサ3による車両の加速度情報に基づいて、前後加速度を認識する。S12において、ECU10は、閾値設定部16により、前後閾値設定パラメータの算出を行う。閾値設定部16は、走行状態認識部12により認識された前後加速度に基づいて、例えば図6(a)の関係を用いて前後閾値設定パラメータを算出する。
【0072】
S13において、ECU10は、走行状態認識部12により、車両の左右加速度の認識を行う。走行状態認識部12は、内部センサ3による車両の加速度情報に基づいて、左右加速度を認識する。S14において、ECU10は、閾値設定部16により、左右閾値設定パラメータの算出を行う。閾値設定部16は、走行状態認識部12により認識された左右加速度に基づいて、例えば図6(b)の関係を用いて左右閾値設定パラメータを算出する。
【0073】
S15において、ECU10は、走行状態認識部12により、車両の上下加速度の認識を行う。走行状態認識部12は、内部センサ3による車両の加速度情報に基づいて、上下加速度を認識する。S16において、ECU10は、閾値設定部16により、上下閾値設定パラメータの算出を行う。閾値設定部16は、走行状態認識部12により認識された上下加速度に基づいて、例えば図6(c)の関係を用いて上下閾値設定パラメータを算出する。
【0074】
S17において、ECU10は、閾値設定部16により、ステアトルク閾値の設定を行う。閾値設定部16は、走行状態認識部12により認識された前後加速度、左右加速度及び上下加速度と、閾値設定部16により算出された前後閾値設定パラメータ、左右閾値設定パラメータ及び上下閾値設定パラメータとに基づいて、ステアトルク閾値を設定する。その後、ECU10は、図7の演算処理を終了する。
【0075】
図8は、操舵状態判定処理を示すフローチャートである。図8に示されるフローチャートの処理は、例えば、車両の自動運転中に所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0076】
S21において、ECU10は、トルク認識部15により、ステアトルクの認識を行う。トルク認識部15は、トルクセンサ5の検出結果に基づいて、ステアトルクを認識する。
【0077】
S22において、ECU10は、操舵判定部17により、ステアトルクがステアトルク閾値以上か否かの判定を行う。操舵判定部17によりステアトルクがステアトルク閾値以上であると判定された場合(S22:YES)、ECU10は、S23において、操舵判定部17により、ドライバが操舵状態であるとの判定を行う。操舵判定部17は、トルク認識部15で認識されたステアトルクが閾値設定部16で設定されたステアトルク閾値以上となった場合、ドライバが操舵状態であると判定する。一方、操舵判定部17によりステアトルクがステアトルク閾値未満であると判定された場合(S22:NO)、ECU10は、S24において、操舵判定部17により、ドライバが操舵状態ではないとの判定を行う。操舵判定部17は、ステアトルクがステアトルク閾値未満である場合、ドライバが操舵状態ではないと判定する。その後、図8の演算処理を終了する。
【0078】
図9は、手動運転切換判定処理を示すフローチャートである。図5に示されるフローチャートの処理は、例えば、自動運転中の車両が切換地点に近づいている場合に、車両の切換地点への接近をドライバに報知する報知処理と共に、所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0079】
S31において、ECU10は、手動運転切換部18により、ドライバが操舵状態であると操舵判定部17で判定されたか否かの判定を行う。ドライバが操舵状態であると操舵判定部17で判定された場合(S31:YES)、S32において、手動運転切換部18は、手動運転切換制御を実行する。一方、ドライバが操舵状態ではないと操舵判定部17で判定された場合(S31:NO)、ECU10は、手動運転切換部18による手動運転切換制御の実行を行わずに、図9の演算処理を終了する。
【0080】
[作用効果]
以上説明したように、車両のステアリング装置20においては、ステアリングホイール21の重心GSWがステアリングシャフト22の軸線に対して偏心していることなどに起因して、車両に加速度が作用すると、当該加速度に応じた慣性力がステアリングホイール21全体としての重心GSWに働く。これにより、当該慣性力によるモーメント(ステアリングホイール21からステアリングシャフト22に入力される自転トルク)がステアリングシャフト22周りに発生する。すなわち、トルクセンサ5により検出されたステアトルクには、ドライバの操舵操作による操舵操作トルクだけでなく、ステアリングホイール21の自転トルクが含まれ得る。
【0081】
この点、操舵判定装置50によれば、閾値設定部16により、前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値が設定される。操舵判定部17により、ステアトルクがステアトルク閾値以上となった場合、ドライバが操舵状態であると判定される。これにより、例えば、ドライバによる操舵の意思がないにも関わらず、トルクセンサ5の検出結果に基づいて認識されたステアトルクとしてステアリングホイール21の自転トルクが前後加速度又は左右加速度に応じて発生した場合であっても、ステアトルク閾値を適切に設定することができる。その結果、ステアトルクに基づいてドライバの操舵状態を適切に判定することが可能となる。
【0082】
操舵判定装置50では、走行状態認識部12は、車両の上下方向の上下加速度を更に認識し、閾値設定部16は、上下加速度が変化しない場合において前後加速度又は左右加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるようにステアトルク閾値を設定する。これにより、上下加速度を更に考慮しつつ、前後加速度又は左右加速度が小さいほど自転トルクが小さくなることに対応させて、ステアトルク閾値を適切に設定することができる。
【0083】
操舵判定装置50では、走行状態認識部12は、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度を認識し、閾値設定部16は、前後加速度及び左右加速度が変化しない場合において上下加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が小さくなるように閾値を設定する。これにより、前後加速度及び左右加速度が変化しない場合において上下加速度が小さいほど自転トルクが小さくなることに対応させて、ステアトルク閾値を適切に設定することができる。
【0084】
自動運転システム100は、上記の操舵判定装置50と、操舵判定装置50の操舵判定部17によりドライバが操舵状態であると判定された場合、手動運転切換制御を実行する手動運転切換部18と、を備える。これにより、ステアトルクに基づいて適切に判定されたドライバの操舵状態の判定結果に基づいて、手動運転への切換えを適切に実現することが可能となる。
【0085】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0086】
例えば、閾値設定部16は、図6(a)の前後閾値設定パラメータに代えて図10(a)の前後閾値設定パラメータを用いてもよい。具体的には、閾値設定部16は、前後加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が段階的に小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、例えば、上下加速度及び左右加速度が変化しない場合において前後加速度の絶対値が小さくなるほど前後閾値設定パラメータが段階的に小さくなるように前後閾値設定パラメータを算出してもよい。図10(a)の例では、前後閾値設定パラメータは、前後加速度の絶対値が加速度Gよりも小さい加速度Gである場合に、前後閾値設定パラメータK01と比べて段階的に小さくなって前後閾値設定パラメータK02となっている。前後閾値設定パラメータが段階的に小さくなる変化量は、略一定となっているが、必ずしも略一定でなくてもよい。
【0087】
また、閾値設定部16は、図6(b)の左右閾値設定パラメータに代えて図10(b)の左右閾値設定パラメータを用いてもよい。具体的には、閾値設定部16は、左右加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が段階的に小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、例えば、上下加速度及び前後加速度が変化しない場合において左右加速度の絶対値が小さくなるほど左右閾値設定パラメータが段階的に小さくなるように左右閾値設定パラメータを算出してもよい。図10(b)の例では、左右閾値設定パラメータは、左右加速度の絶対値が加速度Gよりも小さい加速度Gである場合に、左右閾値設定パラメータK03と比べて段階的に小さくなって左右閾値設定パラメータK04となっている。左右閾値設定パラメータが段階的に小さくなる変化量は、略一定にはなっていないが、略一定であってもよい。
【0088】
また、閾値設定部16は、図6(c)の上下閾値設定パラメータに代えて図10(c)の上下閾値設定パラメータを用いてもよい。具体的には、閾値設定部16は、上下加速度の絶対値が小さくなるほどステアトルク閾値が段階的に小さくなるようにステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、例えば、前後加速度及び左右加速度が変化しない場合において上下加速度の絶対値が小さくなるほど上下閾値設定パラメータが段階的に小さくなるように上下閾値設定パラメータを算出してもよい。図10(c)の例では、上下閾値設定パラメータは、上下加速度の絶対値が加速度Gよりも小さい加速度Gである場合に、上下閾値設定パラメータK05と比べて段階的に小さくなって左右閾値設定パラメータK06となっている。閾値設定パラメータが段階的に小さくなる態様は、図10(c)の例のように1段階だけ小さくなる態様であってもよい。
【0089】
上記実施形態において、走行状態認識部12は、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度の全てを認識したが、これに限定されない。走行状態認識部12は、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度の何れか1つを認識してもよい。この場合、閾値設定部16は、上記式(1)において、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度のうち走行状態認識部12が認識しない2つの加速度についての項を省略して、ステアトルク閾値を設定してもよい。あるいは、走行状態認識部12は、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度の何れか2つを認識してもよい。この場合、閾値設定部16は、上記式(1)において、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度のうち走行状態認識部12が認識しない1つの加速度についての項を省略して、ステアトルク閾値を設定してもよい。また、図7のフローチャートにおいて、走行状態認識部12が認識しない加速度についての認識処理(S11,S13,S15のうち1つ又は2つ)と、走行状態認識部12が認識しない加速度についての閾値設定パラメータの算出処理(S12,S14,S16のうち1つ又は2つ)とは、省略されてもよい。
【0090】
上記実施形態において、閾値設定部16は、上下加速度及び左右加速度が変化しない場合において前後加速度に応じてステアトルク閾値を設定したが、これに限定されず、上下加速度が変化しない場合において前後加速度と左右加速度とを合成した加速度に応じてステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、前後加速度及び上下加速度が変化しない場合において左右加速度に応じてステアトルク閾値を設定したが、これに限定されず、前後加速度が変化しない場合において上下加速度と左右加速度とを合成した加速度に応じてステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、左右加速度及び前後加速度が変化しない場合において上下加速度に応じてステアトルク閾値を設定したが、これに限定されず、左右加速度が変化しない場合において前後加速度と上下加速度とを合成した加速度に応じてステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、前後加速度と左右加速度と上下加速度とを合成した加速度に応じてステアトルク閾値を設定してもよい。
【0091】
上記実施形態において、閾値設定部16は、上記式(1)を用いずにステアトルク閾値を設定してもよい。閾値設定部16は、例えば、上記式(1)に代えて、前後加速度、左右加速度、及び上下加速度のうち少なくとも1つを引数としてステアトルク閾値を直接算出するするマップを用いて、マップ値の線形補間等の既存の手法により、ステアトルク閾値を設定してもよい。
【0092】
閾値設定パラメータ(ステアトルク閾値)の変化の態様としては、図6のように連続的に小さくなる態様と図10のように段階的に小さくなる態様とが互いに組み合わされてもよい。
【0093】
上記実施形態では、操舵判定装置50の判定結果の用途として、自動運転と手動運転とを切り換え可能な車両においてステアトルクに基づき自動運転から手動運転に切り換える手動運転切換制御を実行する自動運転システム100を例示したが、これに限定されない。操舵判定装置50の判定結果の用途としては、例えば、ドライバの操舵状態の判定結果に基づいて、ドライバへの報知を実行してもよいし、自動運転における手動運転切換制御以外の制御に適用してもよいし、自動運転以外の運転支援等の制御に適用してもよい。
【0094】
上記実施形態において、操舵判定装置50の機能と自動運転システム100の機能とは、共通のECU10において一体的に構成されていたが、別々のECUにおいてそれぞれ構成されていてもよい。
【0095】
上記実施形態では、トルク認識部15は、トルクセンサ5で検出されたステアリングシャフト22のねじりトルクの絶対値をステアトルクとして認識したが、トルクセンサ5で検出されたステアリングシャフト22のねじりトルクを符号付きのステアトルクとして認識してもよい。
【0096】
上記実施形態において、トルク認識部15は、トルクセンサ5の検出値(ステアリングシャフト22のねじりトルク)を用いてステアトルクを認識したが、トルクセンサ5の検出値から慣性、粘性、摩擦、及びラックアンドピニオン機構25からのトルク等の外乱を補償したトルク推定値をステアトルクのうちステアリングホイール21からのトルクとして用いてもよい。
【0097】
手動運転切換制御は、必ずしも「車両の切換地点への接近」をドライバに報知する際に実行されなくてもよい。例えば、手動運転切換部18は、ドライバによる自動運転をキャンセルするための操作(例えば自動運転のキャンセルボタンの押下操作)、あるいは、ドライバによる一定以上のブレーキペダルの踏み込み操作があった場合には、ドライバの手動運転を希望する旨の意思表示があったものと見做してもよい。この場合、手動運転切換部18は、ドライバに操舵操作に基づき手動運転への切換が可能である旨を報知すると共に、当該報知に応じたドライバの操舵操作によって操舵判定部17によりドライバが操舵状態であると判定された場合に、手動運転切換制御を実行してもよい。
【0098】
上記実施形態では、図4(b)のようにステアリングシャフト22が前下がりとなるように傾斜して設けられていたが、例えば、ステアリングシャフト22の当該傾斜角は、公知のチルト機構により変化され得る。この場合、傾斜角に応じて分力FB2,FC2が変化することから、閾値設定部16は、ステアリングシャフト22の軸線が車両前後方向に対して成す角度に応じてステアトルク閾値を補正してもよい。例えば、閾値設定部16は、ステアリングシャフト22の軸線が車両前後方向に対して成す角度が大きくなるほど上下閾値設定パラメータが小さくなるように上下閾値設定パラメータを算出してもよい。閾値設定部16は、ステアリングシャフト22の軸線が車両前後方向に対して成す角度が小さくなるほど前後閾値設定パラメータが小さくなるように前後閾値設定パラメータを算出してもよい。
【0099】
上記実施形態では、図2に示されるステアリング装置20を例に説明したが、ステアリング装置の構成は、図2の構成に限定されない。例えば、図11に示されるように、ステアリングシャフト22にアシストトルクを付与するEPSモータ23に代えて、ラックアンドピニオン機構25Aの転舵軸又はピニオン軸にアシストトルクを付与するEPSモータ23Aを有するステアリング装置20Aのような構成であってもよい。この構成においても、ステアリングホイール21からのトルクには、ドライバの操舵操作による操舵操作トルクと、車両に作用する加速度による自転トルクと、が含まれ得る。
【0100】
また、図12に示されるように、ステアリングシャフト22にアシストトルクを付与するEPSモータ23に代えて、ボールネジ機構25Bの転舵軸にアシストトルクを付与するEPSモータ23Bを有すると共に、路面からの反力を模擬する反力アクチュエータ28がステアリングシャフト22に接続されているステアリング装置20Bのような構成(いわゆるステアバイワイヤ)であってもよい。この構成では、ステアリングシャフト22とボールネジ機構25Bの転舵軸とが物理的に接続されていない点で、ステアリング装置20とは異なっているが、その他の構成はステアリング装置20と同様である。よって、この構成においても、ステアリングホイール21からのトルクには、ドライバの操舵操作による操舵操作トルクと、車両に作用する加速度による自転トルクと、が含まれ得る。
【符号の説明】
【0101】
1…GNSS受信部、2…外部センサ、3…内部センサ、4…地図データベース、5…トルクセンサ、6…HMI、7…アクチュエータ、10…ECU、12…走行状態認識部(加速度認識部)、15…トルク認識部、16…閾値設定部、17…操舵判定部、18…手動運転切換部、50…操舵判定装置、100…自動運転システム。
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