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特許7125242マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法及び燃料電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法及び燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20220817BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220817BHJP
【FI】
H01M4/88 Z
H01M4/88 H
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019223687
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021093315
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】川合 博之
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218207(JP,A)
【文献】特開2007-194004(JP,A)
【文献】特開2006-66396(JP,A)
【文献】特開2004-134134(JP,A)
【文献】特開2018-18665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含むガス拡散層に対して、導電材と撥水性樹脂とポリエチレンオキサイドとを含む前駆体を塗工すること、及び、
前記前駆体を塗工した前記ガス拡散層を加熱して、前記ガス拡散層の表面に前記導電材と前記撥水性樹脂とを含むマイクロポーラス層を形成すること、
を含み、
前記加熱の雰囲気を酸素濃度0.3体積%以下の非酸化雰囲気とする、
マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法。
【請求項2】
前記加熱の温度を350℃以上400℃以下とする、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記非酸化雰囲気が酸素濃度0.3体積%以下の不活性ガス雰囲気である、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ガス拡散層に対して前記前駆体を塗工する前に、前記ガス拡散層に対して撥水処理を施すことを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたマイクロポーラス層付きガス拡散層のマイクロポーラス層側に触媒層を配置すること、及び、
前記マイクロポーラス層付きガス拡散層のガス拡散層側にセパレータを配置すること、
を含む、燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ガス拡散層の表面にマイクロポーラス層を積層して、マイクロポーラス層付きガス拡散層を製造する方法、及び、当該マイクロポーラス層付きガス拡散層を用いて燃料電池を製造する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(PEFC)等の燃料電池において、導電性多孔質材料からなるガス拡散層に導電材や撥水性樹脂を含むマイクロポーラス層を積層した、マイクロポーラス層付きガス拡散層が用いられている。このような燃料電池においては、アノードガス又はカソードガスが、当該マイクロポーラス層付きガス拡散層を介して触媒層へと拡散される。
【0003】
マイクロポーラス層付きガス拡散層は、例えば、特許文献1、2に開示されているように、導電材と撥水性樹脂と分散剤とを含む前駆体をガス拡散層の表面に塗工した後で、加熱によって前駆体から分散剤を除去(脱脂)することにより製造することができる。ガス拡散層としては炭素からなる多孔質材料を用いることが一般的である。また、加熱によって前駆体から分散剤を除去する際は、加熱の雰囲気を酸素含有雰囲気として、分散剤を二酸化炭素と水とに分解することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-194004号公報
【文献】特開2015-218207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭素からなるガス拡散層は剛性とガス拡散性との両立が難しいという課題がある。当該課題を解決するための一案として、チタンを含むガス拡散層を採用することがあり得る。しかしながら、本発明者の新たな知見によると、チタンを含むガス拡散層に対して、従来の方法と同様にしてマイクロポーラス層を設けると、電気抵抗(体積抵抗率)が大幅に増加してしまう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、チタンを含むガス拡散層に対して、導電材と撥水性樹脂とポリエチレンオキサイドとを含む前駆体を塗工すること、及び、前記前駆体を塗工した前記ガス拡散層を加熱して、前記ガス拡散層の表面に前記導電材と前記撥水性樹脂とを含むマイクロポーラス層を形成すること、を含み、前記加熱の雰囲気を酸素濃度0.3体積%以下の非酸化雰囲気とする、マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法を開示する。
【0007】
本開示の製造方法において、前記加熱の温度を350℃以上400℃以下としてもよい。
【0008】
本開示の製造方法において、前記非酸化雰囲気が酸素濃度0.3体積%以下の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0009】
本開示の製造方法は、前記ガス拡散層に対して前記前駆体を塗工する前に、前記ガス拡散層に対して撥水処理を施すことを含んでいてもよい。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、本開示の製造方法により製造されたマイクロポーラス層付きガス拡散層のマイクロポーラス層側に触媒層を配置すること、及び、前記マイクロポーラス層付きガス拡散層のガス拡散層側にセパレータを配置すること、を含む、燃料電池の製造方法を開示する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の製造方法によれば、チタンを含むガス拡散層の表面にマイクロポーラス層を設ける場合に、従来よりも電気抵抗(体積抵抗率)の増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法の一例を説明するための図である。
図2】マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法の一例を説明するための図である。
図3】燃料電池の構成の一例を説明するための図である。
図4】実施例の体積抵抗率と比較例の体積抵抗率とを比較した図である。
図5】体積抵抗率と酸化被膜の厚みとの関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.マイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法
図1及び2にマイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法の一例を示す。図1及び2に示す製造方法は、チタンを含むガス拡散層1に対して、導電材と撥水性樹脂とポリエチレンオキサイドとを含む前駆体2を塗工すること、及び、前駆体2を塗工したガス拡散層1を加熱して、ガス拡散層1の表面に導電材と撥水性樹脂とを含むマイクロポーラス層3を形成すること、を含む。ここで、本開示の製造方法においては、加熱の雰囲気を酸素濃度0.3体積%以下の非酸化雰囲気とすることに一つの特徴がある。
【0014】
1.1 ガス拡散層
ガス拡散層1はチタンを含む。チタンを含むガス拡散層1は、炭素材料からなるガス拡散層と比較して、剛性とガス拡散性との両立が容易である。例えば、ガス拡散層1としてチタン製の多孔体を用いてもよいし、チタン合金製の多孔体を用いてもよい。ガス拡散層1は、燃料電池においてアノードガス又はカソードガスを触媒層へと拡散可能で、電池反応で生成した水を排出可能な程度の多孔性を有するものであればよい。
【0015】
チタンを含むガス拡散層1の空隙率は、例えば、40~75%であってもよい。また、チタンを含むガス拡散層1の厚さは、例えば、0.1mm以上であってもよい。当該厚みの上限は特に限定されないが、例えば、0.4mm以下であってもよい。チタンを含むガス拡散層1は、例えば、チタン粉末を焼結させることで作製することができる。チタン粉末の粒子径は特に限定されるものではない。例えば、粒子径10μm~75μmのチタン粉末を用いてもよい。焼結条件は特に限定されるものではない。
【0016】
ガス拡散層1は事前に撥水処理が施されたものであってもよい。すなわち、本開示の製造方法は、ガス拡散層1に対して前駆体2を塗工する前に、ガス拡散層1に対して撥水処理を施すことを含んでいてもよい。撥水処理の具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば、ガス拡散層1に撥水性樹脂を付着させることで、ガス拡散層1に撥水性を付与してもよい。ガス拡散層1に撥水性樹脂を付着させる方法としては、例えば、ガス拡散層1に対して撥水性樹脂を含む分散液を塗布した後で加熱する方法が挙げられる。撥水性樹脂の種類は特に限定されず、後述のものから選択して用いてもよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を用い得る。
【0017】
1.2 前駆体
前駆体2は導電材と撥水性樹脂とポリエチレンオキサイドとを含む。導電材と撥水性樹脂とポリエチレンオキサイドとの含有比は特に限定されるものではない。高い塗工性を発揮させるとともに後述の加熱において容易に除去可能とする観点からは、導電材と撥水性樹脂との合計量100質量部に対して、ポリエチレンオキサイドを1質量部以上2質量部以下含ませてもよい。
【0018】
1.2.1 導電材
導電材はマイクロポーラス層3に導電性を付与可能なものであればよく、その種類は特に限定されるものではない。例えば、炭素粒子、炭素繊維、金属粒子、金属繊維又はこれらのうちの2種類以上の組み合わせが挙げられる。取り扱い性や導電性に優れる観点からは、導電材として炭素粒子を用いてもよい。炭素粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素粒子等が挙げられる。カーボンブラックの中でもアセチレンブラックは、電子伝導性に優れ、比表面積が大きく、純度が高い。
【0019】
1.2.2 撥水性樹脂
撥水性樹脂はマイクロポーラス層3に撥水性を付与可能なものであればよく、その種類は特に限定されるものではない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂又はこれらのうちの2種類以上の組み合わせが挙げられる。撥水性や耐食性等に優れる観点からは、撥水性樹脂としてフッ素樹脂を用いてもよく、ポリテトラフルオロエチレンを用いてもよい。ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよく、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化オレフィン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の他のフッ素系単量体に由来する単位を含む変性ポリテトラフルオロエチレンであってもよい。
【0020】
1.2.3 ポリエチレンオキサイド
前駆体2にポリエチレンオキサイドが含まれることで、前駆体2の塗工性が向上する。ポリエチレンオキサイドの分子量は特に限定されるものではない。高い塗工性を発揮させるとともに後述の加熱時に容易に除去可能とする観点からは、ポリエチレンオキサイドの分子量は25万以上220万以下の範囲内であってもよい。このようなポリエチレンオキサイドは、例えば、住友精化社製ペオ(PEO)や明成化学社製アルコックス等として市販されている。
【0021】
1.2.4 その他の成分
前駆体2は、導電材、撥水性樹脂及びポリエチレンオキサイドを含む乾式混合物であってもよいし、導電材、撥水性樹脂及びポリエチレンオキサイドとともに溶媒を含むスラリー又はペーストであってもよい。導電材、撥水性樹脂、ポリエチレンオキサイド及び溶媒を含むスラリー又はペーストのほうが、塗工が容易である。溶媒の種類は特に限定されるものではなく、例えば、水や有機溶媒を用いることができる。溶媒は乾燥によって、又は、後述する加熱によって前駆体2から容易に除去され得る。
【0022】
前駆体2は、導電材、撥水性樹脂及びポリエチレンオキサイドに加えて何らかの添加剤を含んでいてもよい。例えば、ポリエチレンオキサイドとともに分散剤を含んでいてもよい。このような分散剤としては、例えば、公知の非イオン系界面活性剤、ノニオン系分散剤、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤が挙げられる。
【0023】
1.3 塗工
本開示の製造方法は、チタンを含むガス拡散層1に対して、導電材と撥水性樹脂とポリエチレンオキサイドとを含む前駆体2を塗工することを含む。図2に示す形態においては、ガス拡散層1の片面に前駆体2を塗工している。塗工の方法は特に限定されるものではない。例えば、溶媒を含む前駆体2を、刷毛、筆、ロールコータ、バーコータ、ダイコータ、スクリーン印刷、スプレー、ドクターブレード、ワイヤバー、アプリケータ等によってガス拡散層1に塗工することができる。或いは、溶媒を含まない前駆体2をガス拡散層1の表面に堆積させてもよい。ガス拡散層1に対する前駆体2の塗工量(塗工厚み)は特に限定されるものではなく、目的とするマイクロポーラス層3の厚みに応じて適宜調整すればよい。
【0024】
1.4 加熱
本開示の製造方法は、前駆体2を塗工したガス拡散層1を加熱して、ガス拡散層1の表面に導電材と撥水性樹脂とを含むマイクロポーラス層3を形成することを含む。前駆体2を塗工したガス拡散層1を加熱することで、前駆体2からポリエチレンオキサイドが除去される。尚、「除去」とは「完全な除去」に限定されるものではなく、マイクロポーラス層3に不純物としてポリエチレンオキサイドやポリエチレンオキサイドに由来する成分が微量に残存していてもよい。マイクロポーラス層3においてポリエチレンオキサイドが多量に残存していた場合、マイクロポーラス層3に十分な撥水性を確保できない場合があることから、前駆体2を加熱して前駆体2からポリエチレンオキサイドを可能な限り除去する。ここで、本開示の製造方法においては、加熱の雰囲気を酸素濃度0.3体積%以下の非酸化雰囲気とする。
【0025】
本発明者の推定では、加熱時の酸素濃度が高い場合、ガス拡散層1と前駆体2との界面においてポリエチレンオキサイドが何らかの電子伝導阻害物質へと変化し、ガス拡散層1とマイクロポーラス層3との界面における電気抵抗(体積抵抗率)が顕著に増大する場合がある。これに対し、本開示の製造方法のように、加熱の雰囲気を酸素濃度0.3体積%以下の非酸化雰囲気とすることで、上記の電子伝導阻害物質の生成が抑制されるものと考えられる。非酸化雰囲気の具体例としては、酸素濃度0.3体積%以下の不活性ガス雰囲気が挙げられる。不活性ガスとしては窒素やアルゴンが挙げられる。或いは、不活性ガス雰囲気のほか、還元ガス雰囲気においても所望の効果が奏されるものと考えられる。加熱雰囲気における酸素濃度は0.2体積%以下であってもよいし、0.1体積%以下であってもよいし、0.05体積%以下であってもよい。また、加熱雰囲気における酸素濃度の下限は特に限定されるものではなく、0体積%であってもよい。
【0026】
加熱温度については特に限定されるものではなく、前駆体2に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、ガス拡散層1の表面に導電材と撥水性樹脂とを含むマイクロポーラス層3を形成することが可能な温度であればよい。加熱温度を高めた場合、ポリエチレンオキサイドを容易に熱分解させることができ、前駆体2からポリエチレンオキサイドを容易に除去することができるという利点がある。本開示の製造方法においては、上述の通り加熱時の酸素濃度を0.3体積%以下としており、空気雰囲気下で加熱する場合よりもポリエチレンオキサイドが熱分解し難いことから、加熱温度をできるだけ高くするとよい。一方で、加熱温度を低くした場合、撥水性樹脂の劣化を抑制することができるという利点がある。本発明者の知見によれば、例えば、加熱の温度を350℃以上400℃以下とした場合、ポリエチレンオキサイドをより効率的に除去することができるとともに、撥水性樹脂の劣化をより抑制することができる。
【0027】
本開示の製造方法において、雰囲気及び温度以外の加熱条件(加熱時の昇温速度、加熱温度における保持時間、加熱後の降温速度、加熱時の圧力等)は特に限定されるものではない。また、加熱手段についても特に限定されるものではなく、公知の加熱炉等を用いればよい。
【0028】
1.5 マイクロポーラス層
マイクロポーラス層3は導電材と撥水性樹脂とを含む。マイクロポーラス層3における導電材と撥水性樹脂との含有比は特に限定されるものではない。目的とする導電性と撥水性とを考慮して含有比を適宜決定すればよい。マイクロポーラス層2は、燃料電池においてアノードガス又はカソードガスを触媒層へと拡散可能で、電池反応で生成した水を排出可能な程度の多孔性を有するものであればよい。
【0029】
上述の通り、マイクロポーラス層3は前駆体2を加熱して得られるものである。本開示の製造方法においては、加熱によって前駆体2から不要な有機物を完全に除去することが理想的であるが、現実的には前駆体2に由来する不要成分が微量に残存する場合がある。例えば、マクロポーラス層3中にポリエチレンオキサイドの熱分解物等が不可避的に存在していてもよい。
【0030】
1.6 補足
本発明者の知見によれば、炭素からなるガス拡散層に対して上述の前駆体を塗工し、空気雰囲気にて加熱して脱脂を行った場合、得られるマイクロポーラス層付きガス拡散層の電子抵抗が大きく増加することはない。一方、本発明者の知見によれば、チタンを含むガス拡散層に対して上述の前駆体を塗工し、空気雰囲気にて加熱して脱脂を行った場合、得られるマイクロポーラス層付きガス拡散層の電気抵抗(体積抵抗率)が大きく増加してしまう。本発明者はこの新たな課題を解決すべく鋭意研究を行った。
【0031】
本発明者は、まず、チタンを含むガス拡散層を空気雰囲気で加熱した場合にチタンが酸化されてガス拡散層の表面に体積抵抗率の高い酸化物層が形成されるのではないかと考えた。しかしながら、検証の結果、チタンを含むガス拡散層を空気雰囲気下にて脱脂温度で加熱したとしても、ガス拡散層の表面の酸化物層の厚みはほとんど変化しないことが分かった。また、チタンを含むガス拡散層そのもののみを空気雰囲気で加熱した場合と窒素雰囲気で加熱した場合とで、ガス拡散層の電子抵抗に大きな変化はなかった。チタンを含むガス拡散層の表面には、加熱前において既に強固な酸化被膜が形成されており、空気雰囲気にて脱脂温度程度で加熱したとしても、さらなる酸化被膜が形成されて体積抵抗率が大きくなることはないといえる。
【0032】
本発明者は、前駆体を塗布したガス拡散層を加熱した場合に、ガス拡散層に含まれるチタン(又はチタン酸化物)が触媒的な作用を発揮して、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドと酸素とが反応し、何らかの電子伝導阻害物質が生成したのではと考えた。この場合、前駆体を塗布したガス拡散層を加熱する場合に、酸化反応の原因となる酸素を除去することで、電子伝導性物質の生成を抑制できる。検証の結果、加熱時の酸素濃度を0.3体積%以下に抑えることで、マイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率を顕著に低下できることが分かった。
【0033】
或いは、加熱時の酸素濃度を0.3体積%以下に抑えることで、ポリエチレンオキサイドが熱分解によって導電性の煤に変化し、これによりマイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率の増加が抑制されたとも考えられる。
【0034】
以上の通り、本開示の製造方法によれば、チタンを含むガス拡散層1の表面にマイクロポーラス層3を設ける場合に、従来よりも体積抵抗率の増加を抑えることができる。
【0035】
2.燃料電池の製造方法
本開示の技術は燃料電池の製造方法としての側面も有する。図3に燃料電池の構成の一例を示す。図3に示すように、本開示の燃料電池の製造方法は、上記本開示の製造方法により製造されたマイクロポーラス層付きガス拡散層のマイクロポーラス層3側に触媒層4(4a、4b)を配置すること、及び、当該マイクロポーラス層付きガス拡散層のガス拡散層1側にセパレータ5(5a、5b)を配置すること、を含む。例えば、図3に示すように、電解質膜6の一面側において、当該電解質膜6、アノード触媒層4a、マクロポーラス層3、ガス拡散層1及びセパレータ5aをこの順に配置し、電解質膜6の他面側において、当該電解質膜6、カソード触媒層4b、マイクロポーラス層3、ガス拡散層1及びセパレータ5bをこの順に配置する。尚、図3に示す形態では、アノード側及びカソード側の双方において本開示のマイクロポーラス層付きガス拡散層を配置するものとしたが、アノード側及びカソード側のいずれか一方にのみ本開示のマイクロポーラス層付きガス拡散層を配置してもよい。本開示の燃料電池の製造方法は、マイクロポーラス層付きガス拡散層として本開示のものを用いること以外は、従来と同様とすればよい。触媒層4、セパレータ5及び電解質膜6の構成は自明であることから、ここではこれ以上の説明を省略する。
【実施例
【0036】
以下、実施例を示しつつ本開示のマイクロポーラス層付きガス拡散層の製造方法についてより詳細に説明する。ただし、本開示の製造方法は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
1.マイクロポーラス層付きガス拡散層の作製条件及び評価条件
1.1 比較例1
東邦チタニウム社製WEBTi-Tをロール圧延することにより、板厚約150μmのチタン多孔体を得た。当該チタン多孔体をガス拡散層として使用した。
【0038】
市販のPTFE分散液を希釈し、当該希釈した分散液をチタン多孔体に塗布し、その後加熱して、チタン多孔体の表面にPTFEを付着させることで、チタン多孔体の撥水処理を行った。
【0039】
前駆体としてアイシン化工社製のMPL溶液(導電材としてアセチレンブラック、撥水性樹脂としてPTFE、分散剤としてポリエチレンオキサイド、溶媒として水を含有)を用いた。撥水処理後のチタン多孔体に対して、バーコータにて、厚みが80μmとなるように前駆体を塗工した。
【0040】
前駆体を塗工したチタン多孔体を空気雰囲気にて350℃で加熱し、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、チタン多孔体の表面にマイクロポーラス層を形成した。
【0041】
作製したマイクロポーラス層付きチタン多孔体を金メッキした銅で挟み込み、面圧0.8MPaを印加した状態で1Aの電流を流し、その時の電圧を測定した。電流と電圧との関係からマイクロポーラス層付きチタン多孔体の体積抵抗率を測定した。
【0042】
1.2 実施例1
前駆体を塗工したチタン多孔体を酸素濃度0.3体積%の窒素雰囲気にて350℃で加熱し、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、チタン多孔体の表面にマイクロポーラス層を形成したこと以外は、比較例1と同様にしてマイクロポーラス層付きチタン多孔体を作製し、体積抵抗率の測定を行った。
【0043】
1.3 実施例2
前駆体を塗工したチタン多孔体を酸素濃度0.05体積%の窒素雰囲気にて350℃で加熱し、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、チタン多孔体の表面にマイクロポーラス層を形成したこと以外は、比較例1と同様にしてマイクロポーラス層付きチタン多孔体を作製し、体積抵抗率の測定を行った。
【0044】
1.4 実施例3
前駆体を塗工したチタン多孔体を酸素濃度0.05体積%の窒素雰囲気にて400℃で加熱し、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、チタン多孔体の表面にマイクロポーラス層を形成したこと以外は、比較例1と同様にしてマイクロポーラス層付きチタン多孔体を作製し、体積抵抗率の測定を行った。
【0045】
1.5 実施例4
前駆体を塗布する際の厚みを50μmとするとともに、前駆体を塗工したチタン多孔体を酸素濃度0.05体積%の窒素雰囲気にて350℃で加熱し、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、チタン多孔体の表面にマイクロポーラス層を形成したこと以外は、比較例1と同様にしてマイクロポーラス層付きチタン多孔体を作製し、体積抵抗率の測定を行った。
【0046】
1.6 参考例1
チタン多孔体に対して撥水処理を行う際、空気雰囲気にて350℃で加熱した。その後、チタン多孔体に対してマイクロポーラス層を設けることなく、体積抵抗率の測定を行った。
【0047】
1.7 参考例2
チタン多孔体に対して撥水処理を行う際、酸素濃度0.3体積%の窒素雰囲気にて350℃で加熱した。その後、チタン多孔体に対してマイクロポーラス層を設けることなく、体積抵抗率の測定を行った。
【0048】
1.8 参考例3
撥水処理を施す前のチタン多孔体について体積抵抗率の測定を行った。
【0049】
2.評価結果
下記表1及び図4に体積抵抗率の測定値を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1及び図4に示すように、比較例1と比べて、実施例1~3は、マイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率が顕著に減少した。また、実施例2と実施例3との比較から、マイクロポーラス層を設ける場合の加熱温度が350℃の場合よりも、400℃の場合のほうが、マイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率がさらに顕著に減少した。また、実施例2と実施例4との比較から、前駆体の塗布厚み(すなわち、マイクロポーラス層の厚み)はマイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率にほとんど影響を与えないことが分かった。
【0052】
また、参考例1と参考例2との比較から、撥水処理後のチタン多孔体を空気雰囲気で加熱した場合と窒素雰囲気で加熱した場合とで体積抵抗率にほとんど変化がないことが分かった。すなわち、チタン多孔体を空気雰囲気にて脱脂温度程度で加熱したとしても、チタンの酸化はほとんどおこらず、体積抵抗率もほとんど上昇しない。
【0053】
実施例2及び実施例3について、STEMによって、チタン多孔体とマイクロポーラス層との界面における微小領域の元素分析を行い、チタン多孔体の表面に存在する酸化層の厚みを測定した。ここで、酸素濃度がピークから半分の値になる幅を酸化層とした。結果を図5に示す。上記表1に示す通り実施例2と実施例3とで体積抵抗率に差が生じている一方で、図5に示す通り実施例2と実施例3とでチタン表面の酸化層の厚みは同等である。すなわち、チタンの酸化は体積抵抗率の増加に影響を与える主要因ではない。
【0054】
実施例2と実施例4とでは、前駆体の塗布厚みが異なる一方で、体積抵抗率は同等である。すなわち、マイクロポーラス層のバルク抵抗は体積抵抗率の増加に影響を与える主要因ではないものと考えられる。そうすると、チタン多孔体とマイクロポーラス層との界面抵抗に起因して体積抵抗率が大きく変化するものと考えられる。
【0055】
上記結果から以下の推定メカニズムが成り立つ。すなわち、前駆体を塗布したチタン多孔体を空気中で加熱した場合、チタン(又はチタン酸化物)が触媒的な作用を発揮して、前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドと酸素とが反応し、チタン多孔体と前駆体との界面において何らかの電子伝導阻害物質が生成したものと考えられる。一方、加熱時の酸素濃度を0.3%以下に抑えることで、当該電子伝導阻害物質の生成が抑制され、マイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率が顕著に低下したものと考えられる。
【0056】
或いは、加熱時の酸素濃度を0.3%以下に抑えることで、ポリエチレンオキサイドが熱分解によって導電性の煤に変化し、これによりマイクロポーラス層付きガス拡散層の体積抵抗率の増加が抑制されたとも考えられる。
【0057】
尚、上記実施例では、チタン多孔体に対してPTFE分散液を用いて事前に撥水処理を施す形態を例示した。しかしながら、本開示の製造方法はこの形態に限定されるものではない。PTFE以外の撥水性樹脂を用いた場合においても体積抵抗率増加に係る上記課題が生じるものと考えられるところ、本開示の製造方法を採用することで所望の効果を発揮して当該課題を解決できるものと考えられる。また、撥水処理をしない場合においても体積抵抗率増加に係る上記課題が生じるものと考えられるところ、本開示の製造方法を採用することで所望の効果を発揮して当該課題を解決できるものと考えられる。
【0058】
また、上記実施例では、マイクロポーラス層において導電材としてアセチレンブラック、撥水性樹脂としてPTFEを用いた形態を例示した。しかしながら、本開示の製造方法はこの形態に限定されるものではない。上記推定メカニズムからすると、導電材や撥水性樹脂の種類によらず課題を解決できるものと考えられる。
【0059】
さらに、上記実施例では、加熱温度を350℃又は400℃としたが、本開示の製造方法における加熱温度はこれらに限定されるものではない。これら以外の温度であっても前駆体に含まれるポリエチレンオキサイドを除去して、ガス拡散層の表面に導電材と撥水性樹脂とを含むマイクロポーラス層を形成することが可能である。ただし、加熱の温度を350℃以上400℃以下とした場合、ポリエチレンオキサイドをより効率的に除去することができるとともに、撥水性樹脂の劣化をより抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ガス拡散層
2 前駆体
3 マイクロポーラス層
4(4a、4b) 触媒層
5(5a、5b) セパレータ
6 電解質膜
図1
図2
図3
図4
図5