IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7125245大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関
<>
  • -大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関 図1
  • -大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関 図2
  • -大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関 図3
  • -大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関 図4
  • -大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】大型ディーゼル機関を運転する方法、この方法の使用、及び大型ディーゼル機関
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/06 20060101AFI20220817BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20220817BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20220817BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20220817BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20220817BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
F02D19/06 B
F02D13/02 A
F02D13/02 B
F02D19/02 E
F02D19/08 Z
F02D23/00 A
F02D23/00 P
F02D29/02 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2016086693
(22)【出願日】2016-04-25
(65)【公開番号】P2016217346
(43)【公開日】2016-12-22
【審査請求日】2019-03-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】15168103.8
(32)【優先日】2015-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルセル オット
【合議体】
【審判長】水野 治彦
【審判官】佐々木 正章
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/057310(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/089989(WO,A1)
【文献】特開2013-253529(JP,A)
【文献】特開2014-74342(JP,A)
【文献】特開2014-5817(JP,A)
【文献】特開2009-203972(JP,A)
【文献】特開平11-93710(JP,A)
【文献】特開2006-307658(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077002(WO,A1)
【文献】特開昭61-237844(JP,A)
【文献】特開2013-52704(JP,A)
【文献】特開2014-29131(JP,A)
【文献】特開2003-120386(JP,A)
【文献】特開2005-315126(JP,A)
【文献】特開2004-108154(JP,A)
【文献】特開2014-51968(JP,A)
【文献】特開2012-154189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/06 13/02 19/02 19/08 23/00 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが燃料としてシリンダ(21)内に導入され、引き続いて出口弁(24)を介して前記シリンダから燃焼ガスが追い出されるガス・モードで少なくとも運転することができる、ターボチャージャを備えた大型ディーゼル機関を運転する方法であって、
前記ガス・モード(10)での運転中に、運転作業者(11)の観察によって、及び/又は制御装置で検出される運転パラメータを評価することによって、前記大型ディーゼル機関の負荷の変動が所定量を超えたことが検出され(13)ると、一時モードでの運転に切り替えられる、大型ディーゼル機関の運転方法において、
前記一時モードが、
前記機関の負荷及び回転速度に基づいて前記ガス・モードにおける前記出口弁の閉鎖のためのドエル角を決定するステップと、
掃気空気の現在のチャージ圧を測定し、前記機関の負荷及び回転速度に基づいてルックアップ・テーブル又はルックアップ行列から掃気空気に必要なチャージ圧を決定し、そして前記現在のチャージ圧と前記必要なチャージ圧との差に基づいて前記ドエル角の修正値を決定するステップ(14)と、
前記ドエル角に前記修正値を加えることによって一時ドエル角を決定するステップ(14)と、
前記一時ドエル角で前記出口弁を閉じるステップ(15)と
を含む、大型ディーゼル機関を運転する方法。
【請求項2】
前記大型ディーゼル機関(20)が、ガスの燃焼のため、及び液体燃料の燃焼のための二元燃料機関として構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体燃料がディーゼル油又は重燃料油である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記修正値が負であり、その大きさが最大で60度である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記修正値が正であり、最大で60度である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一時モードが、
前記機関の所望の値の回転速度、又は前記機関の所望の値のトルクを決定するステップと、
前記大型ディーゼル機関のワーク・サイクル毎に、掃気空気の現在のチャージ圧に基づいて、燃料として利用できるガスの量の上側の閾値を決定するステップ(14’)と、
前記ガスに加えて燃焼空間内に導入される液体燃料の追加量を決定するステップ(14’)であって、前記追加量は、所望の値の前記回転速度が実現されるような大きさとされるステップと
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記一時モードが手動で開始される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記運転パラメータが、前記掃気空気の現在の圧力、シリンダ圧力、計算された空気-ガス比、ノッキング検出器の信号、前記機関の前記負荷に対する前記回転速度の比、前記機関の前記負荷に対する前記回転速度の前記比の変化、前記機関のトルク、前記トルクの変化、前記機関の回転速度を維持するために必要な前記ガスの量、及び前記必要なガスの量の変化のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記シリンダ(21)内への前記ガスの導入がシリンダ・ライナを介して生じる、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記掃気空気が前記シリンダ(21)に導入される前に、又は前記掃気空気が前記シリンダ(21)に導入されるときに、前記ガスが前記掃気空気に導入される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
求項1から10までのいずれか一項に記載の方法に従って運転される大型ディーゼル機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ディーゼル機関を運転する方法、大型ディーゼル機関、及びそれぞれのカテゴリの独立請求項の前提部分による方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2ストローク機械又は4ストローク機械として、例えば縦方向に掃気される2ストローク大型ディーゼル機関として構成することができる大型ディーゼル機関が、船舶のための駆動集合体としてしばしば使用され、或いは、例えば大型発電機を駆動して電気エネルギーを生成するために固定運転モードで同じく使用される。これに関して、機関は、一般にかなりの期間にわたって連続運転モードで運転され、これは運転上の安全性及び可用性に関する高い要求事項を提示する。そのため、保守と保守の間の特に長いインターバル、摩耗が少ないこと、及び運転燃料を経済的に運用することができることは、運転者にとって重要な基準である。
【0003】
ここ数年、他の本質的な点及びますます重要になりつつある本質的な点は、排気ガスの品質、特に排気ガス中の窒素酸化物濃度である。これに関し、対応する排気ガス値に対する法的準備及び閾値がますます厳しくなっている。排気ガス閾値の維持がますます困難になり、技術的により過酷になり、したがってより高価になり、又は最終的にはそれらの維持が常識的な方法ではもはや不可能でさえあるため、特に2ストローク大型ディーゼル機関について考慮すると、汚染物質を高度に含んだ古典的な重燃料油の燃焼、及びディーゼル油又は任意の他の燃料の燃焼がますます問題になるという必然的な結果に繋がる。
【0004】
そのため、実際上、いわゆる「二元燃料(dual-fuel)機関」に対する要求事項が長い期間にわたって存在しており、これは、2つの異なる種類の燃料を使用して機関を運転することができることを意味する。ガス・モードでは、ガス、例えばLNG(液化天然ガス)などの天然ガス、又は液化石油ガスの形態若しくは燃焼機関の駆動に適した異なるガスの形態のガスが燃焼され、一方、液体モードでは、ガソリン、ディーゼル、重燃料油などの適切な液体燃料、又は異なる適切な液体燃料が同じ機関内で燃焼される。機関は、これに関して、2ストローク機関及び4ストローク機関の両方であってよく、またこれらの機関は、小型機関、中型機関及び大型機関であってもよく、特に縦方向に掃気される2ストローク大型ディーゼル機関であってもよい。
【0005】
また、「大型ディーゼル機関」という用語の使用により、燃料の自己点火を特徴とするディーゼル運転モードとは異なる形態で、また燃料の外部点火を特徴とするガソリン機関運転モードで、又はこれらの2つの運転モードを混合した運転形態で、運転することができる大型機関が意図されている。大型ディーゼル機関という用語は特に、いわゆる二元燃料機関、及び異なる燃料の外部点火のために燃料の自己点火が使用されるこのような大型機関をさらに含む。
【0006】
液体モードでは、燃料は通常、シリンダの燃焼空間に直接導入され、そこで自己点火の原理に従って燃焼される。ガス・モードではしたがってシリンダの燃焼空間に点火可能混合物を生成するために、オットー原理運転モードに従って気体状態のガスと掃気空気(scavenging air)とを混合することが知られている。この低圧方式を考慮すると、適切な時期に少量の液体燃料がシリンダの燃焼空間又は予燃室に注入され、これは次に空気ガス混合物の点火をもたらすという点で、混合物の点火はシリンダ内で生じる。二元燃料機関は、ガス・モードの運転中に液体モードに切り換えることができ、またその逆に液体モードの運転中にガス・モードに切り換えることができる。
【0007】
しかし、特に、ガスのみを使用して運転することができ、ディーゼル、重燃料油又は異なる燃料では運転することができない機関を意味する純ガス機関(pure gas engine)も、排気ガスに関する高い要求事項であって、許容可能な技術的要求を使用して、また経済的に実行可能な方法でガスの燃焼によってのみ維持することができる高い要求事項が要求される場合に需要がある。このような純ガス機関は、例えば国際公開第2010147071(A1)号パンフレットに提供されている。他の最新技術は、例えば独国特許出願公開第102010005814(A1)号明細書に提供されている。
【0008】
機関が二元燃料機関であるか、純ガス機関であるかどうかとは無関係に、このような機関を高い信頼性で、少ない汚染物質で、且つ安全に運転するためには、対応する往復ピストン燃焼機関のシリンダの燃焼空間に燃料ガスを導入するプロセスは極めて重要である。
【0009】
ガス・モードでは、特にガスに対する掃気空気の適切な比率、いわゆる空気対燃料比の設定が非常に重要である。掃気空気又は給気空気(charging air)は通常、大型ディーゼル機関内のターボチャージャによって利用することができ、ターボチャージャは、機関の負荷によって決まり、したがって機関の出力及び/又はトルク及び/又は回転速度によって決まる掃気空気圧即ち充填空気圧(loading air pressure)を生成する。所与の掃気空気圧に対して、シリンダ内の空気の量を計算することができ、次に、機関によって生成されるそれぞれに必要な駆動トルクを決定することができ、及び/又はこの運転状態に対する理想的な燃焼プロセスをもたらす所望の回転速度、トルク及び/又は回転速度の量のための適切な気体状燃料の量を決定することができる。
【0010】
特にオットー原理に従ってガス・モードで運転される場合、汚染の観点、及び有効且つ経済的に実行することができることからすると、可能な限り小さい空気ガス比の適切な設定が機関の運転のためには非常に重要である。ガスの比率が大きすぎると、空気ガス混合物はリッチになり過ぎることになる。混合物の燃焼が過剰に速く、又は極めて早期に生じ、そのために機関のノッキングが生じることになる。燃焼プロセスは、もはやシリンダ内のピストンの運動に適切に一致しないため、特にこれもピストンの運動に対して部分的に作用する燃焼をもたらすことになる。
【0011】
また、空気対ガス比の適切な設定がもはや正規の運転状態下の近代の大型ディーゼル機関における大きな問題を何ら示さない場合、問題は、極めて突然に、頻繁に、且つ強力に機関の負荷が変化する運転状態の下で起こることが多い。
【0012】
これに関して言及しておくべき実例は、荒波中を航海する大型ディーゼル機関によって駆動される船舶である。これは、機関によって直接駆動される船舶プロペラが、高い波のために多少なりとも周期的に部分的に、又はさらには完全に海面上に出現し、引き続いて再度海中に完全に水没する必然的な結果を有し得る。これは当然、機関の負荷及び/又は機関によって必然的な結果として海中に伝達される駆動トルクの極めて大きく且つ突然の変化を有している。ターボチャージャ・システムは、掃気空気を利用することができるよう、機関の負荷の変化に対して位相シフト方式で反応するため、このような運転モードでは、掃気空気圧が低すぎるためにシリンダ内の空気ガス混合物はリッチになり過ぎ、そのため当然欠点である速い燃焼又はノッキング燃焼が生じる可能性がある。ガス・モードにおけるこのような速く且つ突然の負荷の変化は、その調整が極めて困難であるか、さらには全く実際的ではなく、したがって例えば機関性能の下方調整又は連続変化、及び/又は機関速度の適合が必要であり、さもなければガス・モードから液体モードへの変更が必要である。例えば重燃料油を使用して液体モードで運転される大型ディーゼル機関を考慮すると、液体モードでは排気ガス値をもはや維持することができないため、既存の排気ガス要求のために将来的には海岸の近傍での液体モードでの運転はもはや許容されなくなり得る。
【0013】
機関の負荷が極めて突然に、頻繁に、又は強力に変化し得る異なる実例は、船舶の機動演習の実施である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2010147071(A1)号パンフレット
【文献】独国特許出願公開第102010005814(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって最新技術から始まる本発明の目的は、大型ディーゼル機関を運転する方法であって、例えば激しいうねりの中の船舶、又は演習を実施している船舶で生じるような負荷の突然の、頻繁な、又は強力な変化に対して、同じく高い信頼性で、効果的に、且つ環境に優しい方法で大型ディーゼル機関を依然として運転することができる方法を提案することである。さらに、本発明の目的は、対応する大型ディーゼル機関を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を満足する本発明の主題は、それぞれのカテゴリの独立請求項に記載の構成を特徴とする。
【0017】
したがって本発明によれば、ガスが燃料としてシリンダ内に導入され、引き続いて出口弁を介して燃焼が追い出される少なくとも1つのガス・モードで運転することができる大型ディーゼル機関を運転する方法であって、ガス・モードで運転している間、負荷の強い変動状態が検出され、次いで大型ディーゼル機関が一時モード(transient mode)運転され、この一時モードが、
ガス・モードにおける出口弁の閉鎖のためのドエル角を決定するステップと、
そのドエル角のための修正値を決定するステップと、
ドエル角を修正値に関連付けることによって一時ドエル角を決定するステップと、
一時ドエル角で出口弁を閉じるステップと
を含む、大型ディーゼル機関を運転する方法が提案される。
【0018】
出口弁のための一時ドエル角は、ドエル角を修正することによって決定されるため、シリンダ内のワーク・サイクルの間に圧縮され且つ燃焼のために利用することができる空気の量は、目標設定及び制御方式で設定することができる。これにより、シリンダ内の空気ガス混合物の燃焼が過度に速い燃焼又はノッキング燃焼の範囲で生じないことを保証することができ、またシリンダ内の空気ガス混合物の燃焼を、同混合物がガス分に乏し過ぎる範囲で生じないよう保証することができる。同混合物がガス分に乏し過ぎることは、シリンダ内に存在している空気の量が多すぎること、及び点火障害が生じることを意味している。掃気空気の現在存在しているチャージ圧が空気-ガス混合物の理想的な組成に対して低すぎる場合、出口弁のための一時ドエル角が正規のガス運転モードにおける一時ドエル角より小さくなる方法で修正値が決定され、これは、この場合、圧縮のためにより多くの量の空気をシリンダ内で利用することができるよう、出口弁がワーク・サイクルに対してより早く閉じることを意味している。それにより掃気空気の低すぎるチャージ圧を補償することができる。掃気空気の現在存在しているチャージ圧が空気-ガス混合物の理想的な組成に対して高すぎる場合、出口弁のための一時ドエル角が正規のガス運転モードにおける一時ドエル角より大きくなる方法で修正値が決定され、これは、この場合、圧縮のためにより少ない量の空気をシリンダ内で利用することができるよう、ワーク・サイクルに対して出口弁がより遅く閉じることを意味している。それにより給気空気の高すぎるチャージ圧を補償することができる。
【0019】
この方法によれば、非能率的で、汚染物質が多く、また非経済的な運転結果の危険な結果を伴うことなく、同じく負荷の突然の、頻繁な、若しくは周期的な変化又は負荷のシフトに対してもガス・モードを使用することが可能である。
【0020】
好ましいことには、大型ディーゼル機関は、ガスの燃焼のため、及び液体燃料、特にディーゼル又は重燃料油の燃焼のための二元燃料機関として構成される。したがって本発明による方法によれば、突然で、且つ頻繁な負荷の変化に対しても、ガス・モードで有効に二元燃料機関自体を運転することが可能である。船舶の駆動集合体としての大型ディーゼル機関の用途の重要な事例の場合、これは、同じく激しいうねり又は演習の実施に対しても依然としてガス・モードを有効に使用することができることを意味している。
【0021】
好ましい方法は、一時ドエル角を決定するために修正値がドエル角に加えられる場合であり、これはドエル角の特に単純な種類の修正を提示する。
【0022】
出口弁をより早く閉じなければならない場合、修正値は負である。これに関して、実際には大きさが最大60度になる場合が有利であることが分かっている。
【0023】
出口弁を時間的により遅く閉じなければならない場合、修正値は正である。これに関して、実際には修正値が最大60度になる場合が有利であることが分かっている。
【0024】
特に好ましい実施例では、本発明による方法で、ワーク・サイクル毎にシリンダ内に導入される一時モードでのガスの量が同じく制限される。次に、ガスに加えて、ガス供給の制限又は低減のために不足する出力を補償するために、所定の量の液体燃料がシリンダ内に導入される。この好ましい実施例を考慮すると、一時モードは、
機関の回転速度のための望ましい値、又は機関のトルクの望ましい値を特定するステップと、
大型ディーゼル機関のワーク・サイクル毎に、燃料として利用することができるガスの量の上側の閾値を決定するステップと、
ガスに加えて導入される液体燃料の追加量を決定するステップであって、この追加量は、所望の値の回転速度が実現されるような大きさとされるステップと
を含む。一時モードにおけるガスの量の制限は、特に出口弁のためのドエル角の変更と相俟って、シリンダ内の空気-ガス混合物の組成を、理想的な燃焼プロセスが有効な方法で保証されるその境界内に維持することができるという、さらに好ましい手段を提示する。
【0025】
供給されるガスを上側の閾値に制限することは、特にシリンダ内の空気ガス混合物の燃焼が、速すぎる燃焼の範囲又はノッキング燃焼の範囲で生じないことに寄与する。次に、ガス供給の制限又は低減により、必要な所望の回転速度を達成するために不足する出力が、一時モードの場合、ガスに加えて所定の量の液体燃料をシリンダ内に導入することによって生成され、その燃焼によってそれぞれの不足出力に不足エネルギーが提供される。
【0026】
このように、特にこの好ましい実施例により、液体モードでのみ運転される大型ディーゼル機関で可能であるのと同様、少なくとも1つのガス・モードで運転することができる大型ディーゼル機関における負荷に対する同様の応答を実現することが可能である。これは、空気ガス混合物がシリンダ内でリッチになり過ぎることも、ガス分に乏しくなり過ぎることもあり得ないようにし、且つ、概してディーゼル原理に従って生じる液体燃料の追加燃焼が掃気空気の変化に対して著しく鈍感にしか反応しないようにすることによって可能になる。また、機関の滑らかな運転が強化され、速度の変動が著しく低減される。
【0027】
利用可能な掃気空気のそれぞれの実際の圧力は、ガスの量の上側の閾値を決定するために引き出されることが有利である。この方法によれば、ガスの燃焼に基づく部分を最適化することができる。
【0028】
一実施例によれば、一時モードは手動で開始される。したがって、例えば船舶上の運転作業者は、激しいうねりが出現し、又は演習を実施する際に、機関の一時モードを起動することができる。
【0029】
別法又は追加として、一時モードは、掃気空気の実際の圧力、シリンダ圧力、計算された空気-ガス比、ノッキング検出器の信号、機関の負荷に対する回転速度の比率、機関の負荷に対する回転速度の比率に対する変化、機関のトルク、トルクの変化、注入のために必要な燃料の量、及び注入のために必要な燃料の量の変化のうちの少なくとも1つのパラメータに応じて開始することができることが好ましい。また、これらのパラメータのうちの少なくとも1つを連続的に、又は定期的に決定することにより、一時モードを自動的に起動することも可能である。
【0030】
液体燃料の追加燃焼を有するこの実施例を考慮すると、一時モードで燃焼空間に液体燃料の追加量を導入するための複数の好ましい変形態様が存在している。
【0031】
液体燃料の追加量は、大型ディーゼル機関の液体モードで使用される注入装置(injection apparatus)によって燃焼空間に導入することができる。
【0032】
液体燃料の追加量は、ガスに点火するためにガス・モードで使用されるパイロット注入装置によって燃焼空間に導入することができる。
【0033】
液体燃料の追加量は、一時運転モードのために提供される個別の注入装置によって燃焼空間に導入することができる。
【0034】
また、燃焼空間へのガスの供給を考慮すると、複数の好ましい変形態様が存在している。
【0035】
シリンダ内へのガスの供給は、シリンダ・ライナを介して生じさせることができる。そのために、一般に知られているガス供給システムは、シリンダの壁に提供されること、またシリンダ・ライナを介してシリンダの内部空間にガスを導入することが知られている。このようなガス供給システムは、それらがシリンダ内のピストンの上死中心位置又は下死中心位置からある間隔を隔てた位置でシリンダ内にガスを導入する方法で配置されることが好ましく、特にこのような間隔は、上死中心位置と下死中心位置の間の間隔の40%~60%、好ましくは50%に及ぶ。
【0036】
また、シリンダ内へのガスの供給は、シリンダ・ヘッドで生じさせることも可能である。ガス供給システムは、この目的のためにも同じく知られている。
【0037】
掃気空気がシリンダ内に導入される前に掃気空気にガスを供給することも、又は掃気空気がシリンダ内に導入される際にガスを供給することも同じく可能である。最後に言及した変形態様は、特に、1つ又は複数のガス入口ノズルが、隣接する掃気空気開口又は掃気空気スリットを互いに分離する1つ又は複数のウェブに提供される方法で実現することも同じく可能である。
【0038】
本発明によれば、少なくとも1つのガス・モードで運転することができ、且つ本発明による方法に従って運転される大型ディーゼル機関がさらに提案される。これによって得られる利点は、上で提供され、且つ本発明による方法を参照してなされた説明と同じ説明に対応する。
【0039】
好ましいことには、大型ディーゼル機関は、ガスの燃焼のため、及び液体燃料、特にディーゼル又は重燃料油の燃焼のための二元燃料機関として構成される。
【0040】
好ましい実施例では、一時運転モードを開始し、且つ実施するための制御装置を有する機関制御が提供される。
【0041】
さらに、本発明によれば、大型ディーゼル機関、特に二元燃料機関を改修(レトロフィット)するための本発明による方法の使用が提案される。本発明による方法は、装置の観点から、より大きい追加要求を伴うことなく、多くの用途の事例で実現することができるため、特に既存の大型ディーゼル機関の修正及び/改修に同じく適しており、この方法において、特に頻繁に、且つ突然に生じる負荷の変化を考慮し、例えば激しいうねりを考慮すると、より効果的で、安全で、且つ経済的に実行可能な方法でこれらを運転することができる。
【0042】
本発明の他の有利な手段及び設計は、従属請求項によって得られる。
【0043】
以下、本発明について、装置の観点並びにプロセス工学の観点の両方から、実施例によって、また図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明による大型ディーゼル機関の一実施例を示す略図である。
図2】大型ディーゼル機関の実施例における、空気-ガス比に対するトルクの依存性を強調して示す略図である。
図3】本発明による方法の第1の実施例を示す略図である。
図4】本発明による方法の第2の実施例を示す略図である。
図5】トルクの時間経過を示す例示的略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
一実施例を参照して本発明についての以下の説明を考慮すると、2つの異なるタイプの燃料を使用して運転することができる機関を意味する二元燃料機関として構成される大型ディーゼル機関の実践用途の特に重要な事例に対する例示的特徴が参照されている。大型ディーゼル機関の特にこの実施例は、液体燃料のみがシリンダの燃焼空間に注入される液体モードで運転することができる。通常、液体燃料、例えば重燃料油又はディーゼル油は、適切な時期に燃焼空間に直接注入され、そこで自己点火のディーゼル原理に従って点火する。しかし、大型ディーゼル機関は、ガスが燃料の役割を果たすガス運転モードで運転することも同じく可能であり、例えば天然ガスが空気ガス混合物の形態で燃焼空間に導入され、そこで点火される。特に大型ディーゼル機関は、低圧方式に従ってガス運転モードで動作し、これは、ガスが気体状態でシリンダ内に導入されることを意味している。これに関して、空気との混合は、シリンダ自体の中で生じさせることができ、又はシリンダの前段で生じさせることも同じく可能である。空気ガス混合物は、オットー原理に従って外部で点火される。この外部点火は、通常、適切な時期に少量の液体燃料を燃焼空間に導入し、次に自己点火させ、それにより空気ガス混合物を外部点火させることによって生じる。
【0046】
大型ディーゼル機関は、4ストローク機関及び2ストローク機関の両方として構成することができる。このように、上で説明した実施例を考慮すると、大型ディーゼル機関は、コモンレール・システムを使用して液体モードで動作する、縦方向に掃気される2ストローク大型ディーゼル機関として構成される。
【0047】
極めて単純に概略的に強調して示されている図1は、参照表示20を使用してその全体が参照されている大型ディーゼル機関のこの実施例のシリンダ21を示したものである。シリンダ21の内部では、ピストン23がそれ自体知られている方法で移動する。
【0048】
例えば液体モードのための注入システム、ガス・モードのためのガス供給システム、ガス交換システム、掃気空気(掃気)及び/又は給気空気(給気)を準備するための排気ガス・システム又はターボチャージャ・システム、並びに大型ディーゼル機関のための制御及び調整システムなどの大型ディーゼル機関20のアセンブリ及び個々の構成要素は当業者によく知られており、したがって2ストローク機関としての設計及び4ストローク機関としての設計の両方を考慮すると、これらの構成要素についてのさらなる説明はここでは不要であり、図1には出口弁24のみが示されており、本発明を理解するためにはそれで十分である。
【0049】
縦方向に掃気される2ストローク大型ディーゼル機関20のこの実例で説明されている実施例を考慮すると、通常、掃気空気スリット22が各シリンダ21及び/又はシリンダ・ライナの下部領域に提供され、掃気空気スリットが開くとターボチャージャによって提供される掃気空気がこれらの掃気空気スリットを通ってチャージ圧でシリンダ内に流入することができるよう、掃気空気スリットは、シリンダ21内のピストン23の運動によって周期的に開閉される。これは、参照表示Lが施された2つの矢印によって図1に示されている。中央に配置される出口弁24は、通常、シリンダ・ヘッド及び/又はシリンダ・カバーの中に提供され、この出口弁24を通して、燃焼プロセスを経た後の燃焼ガスをもう一度シリンダから排気ガス・システム25へ分配することができる。液体燃料を導入するために、例えば出口弁24の近傍のシリンダ・ヘッドの中に配置される1つ又は複数の燃料注入ノズルが提供される(図示せず)。ガス供給システムが、ガス・モードでガスを供給するために提供され(図示せず)、ガス入口ノズルを有する少なくとも1つのガス入口弁を有している。ガス入口ノズルは通常、例えばピストンの上死中心位置と下死中心位置の間のほぼ中間に位置する高さでシリンダの壁に提供される。
【0050】
図1の左側に異なるクランク角が追加で示されており、これは、それ自体知られている方法で、大型ディーゼル機関20のワーク・サイクルを特徴付けている。これに関して、示されているクランク角は、ピストン23の圧縮ストロークに関連している。180°のクランク角を考慮すると、ピストン23は下死中心位置即ち反転点に存在し、360°のクランク角では、ピストン23は上死中心位置即ち反転点に存在する。2ストローク機関としての設計を考慮すると、完全なワーク・サイクルは360°である。ピストン23は、ピストン23が360°における位置、即ち上死中心位置と同じ位置に存在する0°で始まって、180°における下死中心位置に到達するまで下に向かって移動し、次いで360°における上死中心位置に到達するまで圧縮ストロークで上に向かって再び移動する。図1の図解では、ピストン23は、正確に270°のクランク角に対応する位置に存在している。
【0051】
4ストローク機関としての設計を考慮すると、完全なワーク・サイクルは、よく知られているように720°である。
【0052】
さらに、以下では、一例として大型ディーゼル機関が船舶の駆動集合体である用途の事例を参照する。
【0053】
排気ガス値を考慮すると、大型ディーゼル機関は、今日、法的準備のために、さもなければ排気ガス・エミッション、特に窒素酸化物NO及び二酸化硫黄の放出(エミッション)に対する規定された閾値をもはや維持することができないため、海岸の近傍ではしばしばガス運転モードで運転される。
【0054】
ガス運転モードでは、効率及び可能な限り汚染物質が少ない空気ガス混合物の燃焼は、空気の量とガスの量の比率に極めて敏感である。この比率は通常、燃焼のために利用することができる空気の質量と、燃料として使用されるガスの質量の比率のために使用されるL値によって表される。
【0055】
理想的な空気-ガス比は、特に機関によって生成される駆動トルクで決まり、この方法においては船舶の所望の速度で決まる。大型ディーゼル機関は通常、船舶のプロペラに直接接続されるため、各ケースにおける速度は、例えば固定ピッチ・プロペラを考慮すると、機関の回転速度に対応する。
【0056】
極めて概略的に示されている図2は、空気-ガス比(air to gas ratio)1と、船舶を駆動する機関によって生成されるトルク2との間の一例示的関係を示したものである。この図解は、船舶が本質的に穏やかな水中を移動している場合の船舶の規定速度、即ち機関の特定の回転速度に対応する特定のトルクに対して真である。特に図2に示されているトルク2は、本質的に1ワーク・サイクル(2ストローク機械の場合はピストン運動の1周期であり、4ストローク機械の場合はピストン運動の2周期である)にわたって平均されたトルクであるBMEPトルク(正味平均有効圧トルク)である。
【0057】
図2の図解には、2つの境界曲線、即ち第1のノッキング曲線3及び不着火曲線4が示されている。ノッキング曲線3より上の図に出現する運転状態を考慮すると、空気-ガス比がリッチなものとなり、これは、混合物に存在する空気が少なすぎることを意味している。ガス分がリッチ過ぎると、混合物は異なる問題、即ち燃焼が生じるのが速すぎる問題(速い燃焼)、又は機関がノッキングを開始する問題、又は典型的にはシリンダ内のガスの含有量が多すぎることによる自己点火によって混合物が早すぎる燃焼(過早点火としても知られているワーク・サイクルに対して)を開始する問題をもたらすことがある。図に従って不着火曲線4より上で生じる運転状態を考慮すると、空気-ガス比がガス分に乏し過ぎ、これは、燃焼空間における理想的な燃焼のためには存在するガスが不十分であることを意味している。
【0058】
そのため、常にその空気-ガス比に対する理想点5で大型ディーゼル機関を運転するための努力がなされる。実際には、トルク及び/又は空気-ガス比1の自然な逸脱を回避し、又は調整して、同じく一定の回転速度及び/又は船舶の一定の速度を維持することは不可能であり、そのために、図2には2本の直線7及び8によって限定されている許容範囲6が存在しており、この許容範囲内では、理想点5からの空気-ガス比1の逸脱が許容される。ガス・モードにおける理想的な運転は、Aで参照されている運転点によって図2に示されている。
【0059】
船舶が穏やかな水中(図2参照)から離れ、激しいうねりに遭遇すると、負荷の極めて突然で、且つ強力な変化が機関に生じることがあり、これは、機関によって船舶プロペラを介して水中に加えられるトルクが急速に、且つ大きく変化し得ることを意味している(負荷のシフト)。したがって、例えば荒海では、船舶プロペラが短い期間、部分的に、又は完全に海面上に出現し、そのために機関の実際の負荷が著しく小さくなることが起こり得る。船舶プロペラが引き続いて再度海中に完全に水没すると、そのために負荷が著しく大きくなり、したがってトルクが大きくなる。図2では、これは実際には、例えば点Aから、ノッキング曲線3より上に存在し、したがって速い燃焼の範囲及び/又はノッキングの範囲に存在するBで参照されている点まで移動することを意味している。
【0060】
一方、機関は、不着火曲線4より上に存在する著しく小さい負荷を有する運転状態に到達することがあり、その状態では、ガスの量に関して、過剰な空気がシリンダ21内に存在し、したがって空気-ガス混合物の空気はガス分の乏し過ぎるものとなる。このような運転状態は、例えば図2では点Cで達成される。ターボチャージャ・システムの位相シフト応答により、掃気空気は、空気-ガス混合物がガス分に乏し過ぎるようになるよう、高すぎるチャージ圧で利用することができる。
【0061】
荒海では、機関負荷のこれらの強力な変動が、次々にほぼ周期的に頻繁に生じるため、ガス・モードにおける大型ディーゼル機関20の有効で、経済的で、且つ低エミッションの運転モードはもはや不可能である。
【0062】
改善アクションは、本発明による方法によって提供される。極めて概略的に示されている図3は、本発明による方法の第1の実施例を示したものである。ステップ10の開始点で大型ディーゼル機関がガス・モードで運転される。船舶が荒海に遭遇している場合、この状態は、運転作業者の観察11によって、及び/又はステップ12における機関制御装置又は異なる制御装置で検出される運転パラメータを評価することによって検出することができる。生じた負荷の強力な変化が大きすぎることが決定されると、ステップ13で一時モードへの大型ディーゼル機関の切換えが決定される。
【0063】
この一時モードでは、出口弁24を閉じるためのドエル角が最初にガス・モードで決定される。これに関して、クランク角は、ピストン23の上向きの運動のために出口弁24が閉じるドエル角によって理解される。ガス・モードの場合、通常、出口弁のドエル角は行列で記憶され(他の運転パラメータのための値も同様)、その一方の次元(dimension)は機関の負荷であり(これは生成されるトルクによって決定される)、またそのもう一方の次元は機関の回転速度である。この方法によれば、負荷及び回転速度から構成される各値の対毎に、ガス・モードのための適切なドエル角をこの行列から読み出すことができる。これは例えば270°であり、図1ではピストン23の位置に対応する。制御装置は、次いでステップ14で、閉じる角度に対する修正値を決定する。この修正値は様々な方法で決定することができる。特に、実験値は、制御装置に記憶される制御値に流れ込むことも可能である。
【0064】
修正値を決定する特に好ましい方法は、修正値を決定するために、掃気空気の現在利用可能なチャージ圧を引き出すことにある。このチャージ圧は通常、大型ディーゼル機関における測定によって検出され、この方法においては制御装置の中で利用することができ、又は制御装置に送信することができる。これに関して、修正値の決定は、特に現在利用可能な掃気空気のチャージ圧の現在の値と掃気空気の必要なチャージ圧との差を使用して決定することができる。実際の運転パラメータのために必要なチャージ圧は、例えばルックアップ・テーブル又はルックアップ行列に記憶される。現在利用可能なチャージ圧と必要なチャージ圧との差から、出口弁24が閉じた直後における現在利用可能なチャージ圧に対して、ガス・モードのためのドエル角及び必要なチャージ圧で必要になるであろう同じ量の空気がシリンダ内に存在するように、シリンダ及び/又はシリンダ・ヘッドとピストンの上側との間の空間の既知の体積に対して出口弁24をどの程度早く、又はどの程度遅く閉じなければならないかを決定することができる。
【0065】
制御装置は、次いでドエル角を修正値に連係させることによって出口弁のための一時ドエル角を決定する。好ましいことに、修正値は、一時ドエル角を決定するためにドエル角に加えられる。制御装置は、次いでステップ15で一時ドエル角での出口弁24の閉鎖を開始する。
【0066】
したがってターボチャージャ・システムの位相シフト応答のために現在のチャージ圧が負荷の変化に対して低すぎる場合、修正値は負であり、これは、ガス・モードのためのドエル角より小さい一時ドエル角では出口弁24が既に閉じていることを意味している。
【0067】
これとは対照的に、負荷の変化に対するターボチャージャ・システムの位相シフト応答のために現在のチャージ圧が高すぎる場合、修正値は正であり、これは、ガス・モードのためのドエル角より大きい一時ドエル角でのみ出口弁24が閉じていることを意味している。
【0068】
ステップ17では、運転作業者の観察によって、及び/又は運転パラメータの決定によって、一時モードを起動するための条件が依然として満たされているかどうかが継続的に、又は定期的インターバルでチェックされる。イエスの場合、図3に矢印18で示されているように一時モードが維持され、好ましくは、修正値のための値及び/又は一時ドエル角の値がチェックされ、及び/又は更新される。
【0069】
ステップ17で一時モードのための条件がもはや満たされていない場合、ステップ19で再び正規のガス・モードに変更することができる。
【0070】
一時モードを導入し且つ実施するための制御装置は、機関制御に統合されることが好ましい。
【0071】
出口弁24の閉鎖に対するこれらの変更により、一時モードにおいて、図2に2つの直線7及び8によって制限されている許容範囲6内である運転状態で大型ディーゼル機関が動作することを同じく保証することができる。
【0072】
実際、負の修正値である場合、そのサイズは最大60°であり、正の修正値である場合、この量は最大60°である時が試行及び試験された。これは、図1によれば、ガス・モードにおける出口弁24の270°のドエル角に対して、最小一時ドエル角が210°であり、また最大一時ドエル角が330°であることを意味している。
【0073】
一時運転モードにおける一時ドエル角へのドエル角の変更により、シリンダ内の空気-ガス混合物の圧縮終了温度を高くし、又は低くすることができる。しかし、これは一般的にはそれほど重要ではないが、圧縮終了温度は、空気-ガス混合物の自己点火がシリンダ内で生じるような高い値になることを回避しなければならない。これは、例えば特定の用途では修正値及び/又はその量に対する最大値を準備することによって保証することができる。
【0074】
以下では、第1の実施例の拡張である第2の好ましい実施例について説明する。したがって以上の説明、特に第1の実施例についての説明は、この第2の実施例に関しても同様に同じく真である。この第2の実施例を考慮すると、一時ドエル角に対する出口弁のためのドエル角の修正に加えて、大型ディーゼル機関のワーク・サイクル毎に利用することができるガスの量は、燃料であり、上側の閾値によって制限され、また一時モードにおいてガスに加えて燃焼空間に導入される液体燃料の追加量が決定され、この追加量は、所望の値の回転速度が実現される方法で測られる。
【0075】
図3と同様、極めて概略的に示されている図4は、本発明による方法の第2の実施例を示したものである。ステップ10の開始点で大型ディーゼル機関がガス・モードで運転される。第1の実施例の場合と同様、この実例においても、運転作業者の観察11によって、及び/又はステップ12における機関制御装置又は異なる制御装置による運転パラメータの評価を参照することによって、荒海で起こり得る又は演習運転モードでも起こり得る強力な又は突然の負荷の変化の状態を同じく検出することができる。負荷の強力な変化が大きすぎることが決定されると、ステップ13で一時モードへの大型ディーゼル機関の変更が決定される。
【0076】
この一時モードでは、機関によって生成される機関の回転速度又はトルクの所望の値が最初に決定される。これは、例えば穏やかな水中における船舶の運動に対応する値であってもよい。制御装置は、次いでステップ14で、大型ディーゼル機関のワーク・サイクル毎に燃料として利用することができるガスの量に対する上側の閾値を決定する。これに関して、この上側の閾値は、この上側の閾値によって決定されるガスの最大量を燃焼させるためにシリンダ21内で利用することができる掃気空気が十分になるように決定され、それにより速い燃焼の範囲及び/又はノッキング燃焼の範囲及び/又は過早点火の範囲が回避され、したがってこれは、空気-ガス比がリッチになり過ぎないことを意味している。ノッキング曲線3(図1)を超えることを回避するための最大許容ガス量の上側の閾値は、シリンダ内に存在する空気の量で決まる。既知のシリンダ体積を考慮すると、空気のこの量は、利用可能な掃気空気のチャージ圧を使用して決定することができる。これに関して、当然チャージ圧の逸脱が考慮され、これは、あらゆる場合に利用することができる最小チャージ圧を有利に仮定することを意味している。また、当然に、ガスの量の適切な上側の閾値を決定している間、実験値又は大型ディーゼル機関の異なる既知の運転パラメータを引き出すことも可能である。さらに、ステップ14で、第1の実施例に関連して説明したように、ドエル角のための修正値が決定され、また好ましくは出口弁24のための一時ドエル角を決定するために加算によってこの修正値がドエル角に連係される。
【0077】
特に好ましいことには、ガスの量の上側の閾値を決定するために、掃気空気の現在利用可能なチャージ圧が引き出される。特に、これに関して、ガスの量に対する上側の閾値の決定は、現在利用可能な掃気空気のチャージ圧の現在の値と掃気空気の必要なチャージ圧との差を使用して決定することができる。実際の運転パラメータのために必要なチャージ圧は、例えばルックアップ・テーブル又はルックアップ行列に記憶される。
【0078】
この場合、制御装置は、チャージ圧によって決まり、また場合によっては燃料ガスとしてシリンダに供給することができるガスの量のための一時ドエル角によっても決まる上側の閾値を有しており、ガスの量はこの上側の閾値に制限される。したがって機関によって生成される回転速度又はトルクを所望の値に維持することができ、ステップ14で制御装置によって、回転速度又はトルクの所望の値と、最大量のガスを使用して達成される値との差を補償する方法で測られる液体燃料の追加量がさらに規定される。
【0079】
これは、制御装置が、上側の閾値によって決定される最大量のガスを使用して達成することができるトルク又は回転速度に対する値を決定することを意味している。次に、所望の値とこの値の差が決定される。引き続いて、この差を補償するために必要な液体燃料の量が決定される。
【0080】
ガスの量、液体燃料の追加量及び一時ドエル角に対する上側の閾値を決定する手段は、当然互いに独立したものではないが、一時モードにおける大型ディーゼル機関の可能な限り理想的な運転が保障されるようにこれらの手段を互いに調整することは、それほど大きな問題ではない。
【0081】
また、液体燃料の追加量を固定定格値に固定することも当然可能である。
【0082】
次に、ステップ15で出口弁24が一時ドエル角で閉じられ、またステップ15で、決定された量のガスがシリンダ内に導入され、そこでガス・モードと同様に燃焼される。それと同時に、これは、同じワーク・サイクルにおいて、既に決定済みの量の液体燃料がステップ16でシリンダ内に導入され、そこで自ら点火することを意味している。この方法によれば、ガス及び追加導入される液体燃料の共通燃焼により、所望の値の回転速度又はトルクを生成することができる。これに関して、液体燃料の自己点火を空気-ガス混合物の外部点火のために使用することができる。
【0083】
ステップ17で、運転作業者の観察によって、及び/又は運転パラメータの決定によって、一時モードを起動するための条件が依然として満たされているかどうかが継続的に、又は定期的インターバルでチェックされる。イエスの場合、図4に矢印18で示されているように一時モードが維持され、好ましくは、ガスの量の上側の閾値のための値及び液体燃料の追加量のための値がチェックされ、及び/又は更新される。
【0084】
ステップ17のチェックで一時モードのための条件がもはや満たされていない場合、ステップ19で再び正規のガス・モードに変更することができる。
【0085】
一時モードを開始し且つ実施するための制御装置は、機関制御に統合されることが好ましい。
【0086】
この方法によれば、ガスの燃焼と液体燃料の燃焼を組み合わせ、且つ出口弁24のドエル角を適合させることにより、速い燃焼の範囲及び/又はノッキングの範囲でガスの燃焼が生じることなく、回転速度を意味する機関速度に対する所望の値、又はトルクに対する所望の値を一時モードで維持することができることが保証される。ガスの量に対する上側の閾値により、燃焼空間における空気-ガス混合物がリッチになり過ぎないことが保証される。さらに、特に閉じる角度を一時ドエル角に変更することにより、不着火曲線4(図2)を超えることが回避される。このようにして、大型ディーゼル機関20は、許容範囲6(図2)内で一時モードでも運転される。
【0087】
したがって、例えばこの方法により、ガス運転モードでオットー原理に従って動作する二元燃料大型ディーゼル機関は、液体燃料を使用して排他的に運転される、ディーゼル原理に従ってのみ動作する大型ディーゼル機関が有する負荷の変化に対する応答と少なくともほぼ同様の負荷の変化に対する応答を達成することができる。一方では、本発明による方法に関して、及び/又は本発明による大型ディーゼル機関に関して、空気-ガス混合物がリッチになり過ぎないこと、並びにガス分に乏しく(lean)なり過ぎないことが保証されるため、他方では液体燃料に関連する燃焼部分は、掃気空気の低すぎるチャージ圧に対して著しく鈍感に反応する。この方法によれば、特に荒海で、ガス運転モードの間でも、大型ディーゼル機関の運転安定性を改善することができ、また速度の変動を小さくすることができる。
【0088】
図5の略図は、同じく一実例による、一時モードにおけるガスの燃焼と液体燃料の燃焼の協働を強調したものである。大型ディーゼル機関のトルクTは、荒海を考慮すると起こり得るように時間tに依存して印加される。トルクTは、船舶が遭遇する高い波の運動により、時間によって(ほぼ)周期的に変化する。曲線Gは、ガスの燃焼によって生じるトルクの部分を示したもので、ガスの最大量は、一時ドエル角を考慮した場合に、利用することができる掃気空気が十分であるように制限され、それにより、空気-ガス混合物がリッチになり過ぎない。参照表示Fを有する、ハッチングによって示されている領域を制限している2つの曲線は、液体燃料の燃焼を追加することによって生成されるトルクTに対する追加量を示している。
【0089】
シリンダ内の混合物がガス分に乏しくなり過ぎるのを回避するためには、一時ドエル角を決定することが特に適している。ガス・モードの場合と比較して出口弁24を閉じるのが遅い場合、これは、この実例では正の修正値に対応し、またこの方法においてはガス運転モードにおけるドエル角より大きい一時ドエル角に対応するが、シリンダ21内に存在する過剰な空気が、出口弁24が閉じる前にその出口弁24を介して押し出されることがある。
【0090】
一時モードの間、液体燃料の追加量をシリンダの燃焼空間に導入するための異なる可能性が存在している。大型ディーゼル機関が二元燃料機関として構成される場合、液体モードで燃料を注入するために同じく使用される注入装置と同じ注入装置を使用して液体燃料を注入することができる。
【0091】
一時モードで液体燃料を導入するための他の可能性は、空気-ガス混合物に点火するためにガス・モードで使用されるパイロット注入装置によって液体燃料を燃焼空間に導入することができることにある。
【0092】
当然、一時モードの間、液体燃料を導入するための個別の注入装置を提供することも同じく可能である。これは、大型ディーゼル機関が液体モードのために構成されず、対応する注入装置を有していない場合に特に好ましい。
【0093】
シリンダの燃焼空間へのガスの導入を考慮すると、一時モード及び同じくガス・モードの両方の間、いくつかの好ましい変形態様が存在している。上で既に言及したようにガス供給システムを提供することができ、これは、ガスをシリンダ内に導入することができ且つそこで掃気空気と混合して点火可能な空気-ガス混合物にすることができるようにシリンダ・ライナの中に配置された少なくとも1つのガス入口ノズルを有している。
【0094】
しかし、シリンダ内へのガスの供給がシリンダ・ヘッドから生じ、次にガスが掃気空気と混ざる方法でシリンダ・ヘッド及び/又はシリンダ・カバーに1つ又は複数のガス入口ノズルを提供することも同じく可能である。
【0095】
掃気空気がシリンダ内に導入される前に掃気空気にガスを供給する他の可能性が存在している。この場合、ガスは、シリンダ内部空間の外側で既に空気-ガス混合物に混ざっており、次にこの空気-ガス混合物が例えば掃気空気スリット又は掃気空気開口を介してシリンダ内に導入される。それにより、ターボチャージャ・システムの出口と、シリンダの内部空間への入口開口、例えば掃気空気スリットとの間の一点で掃気空気へのガスの供給を生じさせることができる。
【0096】
特に、掃気空気がシリンダ内に導入される際に、掃気空気にガスを供給することも同じく可能である。そのために、この場合、例えば掃気空気が掃気空気スリットを通過している間にガスと混じるように、隣接する掃気空気スリットを分離する1つ又は複数のウェブに1つ又は複数のガス入口ノズルをそれぞれに提供することができる。
【0097】
ステップ12(図3及び図4)で決定され、又は一時モードに変更すべきかどうかを判定するためにステップ13で解析される運転パラメータは、機関制御に既に存在しているパラメータであることが好ましく、これは、大型ディーゼル機関の運転のために、若しくは大型ディーゼル機関を運転している間に何らかの方法で検出されるか、又はこのようなパラメータから引き出すことができる値であることを意味している。しかし、一時モードへの変更の決定が単純に運転作業者による観察によって生じ、次に一時モードを手動で開始することも可能である代替として、一時モードへの変更を決定するために1つの運転パラメータのみを引き出すことも同じく可能である。
【0098】
例えば以下のパラメータのうちの1つ又は複数は、ステップ12のため及び/又はステップ13における決定のための運転パラメータとして適切である。それは、ターボチャージャ・システムによって利用することができる掃気空気の実際の圧力、及び/又はこの圧力の変化、シリンダ圧力、計算された空気-ガス比、シリンダ内で燃焼が生じたことをノッキング方式で認識することができるノッキング検出器の信号であって、空気-ガス混合物がリッチ過ぎることを意味する信号、機関の負荷に対するトルクの比率若しくはこの比率の変化、又は測定されたトルク若しくは時間によるその変化、又は機関の回転速度を維持するために必要な注入のための燃料の量(注入量)若しくはこの注入量の変化である。
【0099】
本発明による方法は、特に既存の大型ディーゼル機関、特に二元燃料機関のレトロフィッティングのために使用することも可能である。このような大型ディーゼル機関では、本発明による方法を実施するための装置の観点からの前提条件は、既に満たされていることがしばしばであるか、又は少ない努力及びコストで、及び/若しくは変換によって実現することができるため、対応する適合又は機関制御の補充によって大型ディーゼル機関に一時モードの準備をさせることはしばしば可能である。特にエミッションの値の維持を同じく考慮すると、レトロフィッティングのこの可能性は、極めて有利である。
【0100】
またこれに関して、ワーク・サイクル毎に燃料として利用することができるガスの量に対する上側の閾値を決定する手段、及びガスに加えて燃焼空間に導入される液体燃料の追加量を決定する手段が、一時モードのための一時ドエル角の決定と相俟ってのみ説明される場合、これらの手段は、それら自体で実施することも同じく可能であり、これは、出口弁のためのドエル角の変更がないことを意味している。これは、ガス運転モードと比較してドエル角が変更されない方法で第2の実施例を修正することも同じく可能であることを意味している。
図1
図2
図3
図4
図5