IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図1
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図2
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図3
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図4
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図5
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
C30B29/38 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016145665
(22)【出願日】2016-07-25
(65)【公開番号】P2018016497
(43)【公開日】2018-02-01
【審査請求日】2019-07-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】守山 実希
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史郎
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】井上 猛
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-37426(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147326(WO,A1)
【文献】特開2005-12171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル成長の起点となる種結晶領域がドット状に点在された種基板の上に、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液を用いたフラックス法によってIII 族窒化物半導体を成長させるIII 族窒化物半導体の製造方法において、
前記種基板は、下地基板と、前記下地基板上に位置するIII 族窒化物半導体層と、前記III 族窒化物半導体層上に位置し、複数の窓を有したマスクと、を有し、
前記混合融液は、アルカリ金属に対して0mol%より大きく0.3mol%以下の炭素を含み、
前記窓に露出する前記III 族窒化物半導体層から成長速度を抑制してIII 族窒化物半導体を成長させ、その成長させる起点となる面は、前記下地基板上の前記III 族窒化物半導体層の主面に平行な面である、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記炭素は、アルカリ金属に対して0.001mol%以上0.1mol%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
転位を横方向に成長させながらIII 族窒化物半導体を成長させる、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記窓は、三角格子状に配列されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記窓は、直径200μm以下であり、各前記窓の面積の総計は、前記種基板の主面の面積に対して25%以下である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記種基板は、直径が3インチ以上である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス法を用いたIII 族窒化物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体を結晶成長させる方法として、アルカリ金属とGaなどのIII 族元素の混合融液に窒素を溶解させ、液相でIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させるフラックス法が知られている。アルカリ金属としてはナトリウム(Na)が一般に用いられており、Naフラックス法と呼ばれている。
【0003】
Naフラックス法では、サファイアなどの下地基板上にMOCVD法などによってGaN層を成長させた種基板(テンプレート基板)が用いられ、種基板上にNaフラックス法によりGaNを育成する。このような種基板を用いる場合、GaN層の一部を除去して周期的な配列のドット状としたり、あるいはGaN層上をマスクで覆い、マスクに周期的なドット状の配列の窓を空けることでGaN層表面を露出させることが行われている。このように種結晶領域(GaNの結晶成長の起点とする領域)を点在させることにより、次のような利点がある。第1に、下地基板とGaNとの線膨張係数差などで発生する応力または歪を利用して種基板と育成したGaNとを分離することが容易となる。第2に、育成初期において、点在する種結晶領域からGaNを横方向成長させ、その後点在したGaNを合体させて1つとなるように成長させることにより、横方向成長時に転位が曲げられるため、転位密度を低減してGaNの結晶性の向上を図ることができる。
【0004】
特許文献1には、下地基板上に、三角格子状に種結晶領域であるGaNを点在させた種基板を用いることが記載されている。種結晶領域をこのような配置とすることで、結晶の歪みを低減し、結晶の反りを低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-197194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、種結晶領域がドット状に点在された種基板を用いると、未成長領域や異常粒成長領域の発生率が高くなり、種基板が大口径になるほど歩留りが著しく悪化する問題があった。ここで、未成長領域は、種基板上に全くGaNが育成せず存在していない領域であり、育成したGaN中に空孔を形成したり、場合によっては種基板の下地基板が露出した状態となる。また、異常粒成長領域は、他の領域に比べて結晶粒が極端に大きい領域である。また、異常粒成長や未成長ではないとしても、各種結晶領域からの成長が均一でなく、大きさや形状にばらつきがあることも品質上の大きな問題であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、種結晶領域がドット状に点在された種基板を用いて、フラックス法によりIII 族窒化物半導体を結晶成長させる場合に、未成長領域や異常粒成長領域を低減してIII 族窒化物半導体の結晶性や歩留りを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エピタキシャル成長の起点となる種結晶領域がドット状に点在された種基板の上に、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液を用いたフラックス法によってIII 族窒化物半導体を成長させるIII 族窒化物半導体の製造方法において、種基板は、下地基板と、下地基板上に位置するIII 族窒化物半導体層と、III 族窒化物半導体層上に位置し、複数の窓を有したマスクと、を有し、混合融液は、アルカリ金属に対して0mol%より大きく0.3mol%以下の炭素を含み、窓に露出するIII 族窒化物半導体層から成長速度を抑制してIII 族窒化物半導体を成長させ、その成長させる起点となる面は、III 族窒化物半導体層の主面に平行な面である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
【0009】
種結晶領域をドット状に点在させる構成として、たとえば以下の構成の種基板を用いることができる。種基板は、下地基板と、下地基板上に位置するIII 族窒化物半導体層と、III 族窒化物半導体層上に位置するマスクと、を有し、マスクは、三角格子状に配列された複数の窓を有する構成とすることができる。窓の直径は200μm以下とすることが好ましく、各窓の面積の総計は、種基板の主面の面積に対して25%以下とするのがよい。これよりも窓の直径が大きいと、あるいは各窓の面積の総計がこれよりも大きいと、種基板と育成したIII 族窒化物半導体との分離がしにくくなる。また、分離した際に育成したIII 族窒化物半導体にクラックや割れが発生してしまう。
【0010】
マスクの形成方法は、CVD法、スパッタ法などを用いることができるが、ALD法が好ましい。マスクを緻密で均一な厚さに形成することができるので、フラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の育成初期において、マスクがメルトバックにより消失したり、マスク中のピンホールを介して種基板のIII 族窒化物半導体層がメルトバックしてしまうのをより防止することができる。また、マスクの材料には、Al2 3 、TiO2 、またはZrO2 を用いることができる。
【0011】
また、種基板は、直径が2インチ以上であることが好ましい。種基板が大きいほど未成長領域や異常粒成長領域の発生する率が高くなり、直径が2インチ以上ではそれが顕著となるが、本発明によれば、直径が2インチ以上の種基板を用いた場合であっても、未成長領域や異常粒成長領域を低減することができる。特に望ましいのは、直径が3インチ以上の種基板を用いる場合である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、未成長領域や異常粒成長領域を低減することができ、III 族窒化物半導体の結晶性を向上させることができ、歩留りも向上させることができる。特に本発明は、大口径の結晶育成において、未成長領域や異常粒成長領域の低減に効果的である。また、各種結晶領域からのIII 族窒化物半導体の成長が均一となり、育成後のIII 族窒化物半導体結晶の表面の平坦性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】種基板の構成を示した断面図。
図2】種基板を上方から見た平面図。
図3】結晶製造装置の構成を示した図。
図4】III 族窒化物半導体の製造工程を示した図。
図5】種結晶の製造工程を示した図。
図6】GaN結晶の製造工程を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、フラックス法によってIII 族窒化物半導体を育成する。まず、フラックス法の概要について説明する。
【0015】
(フラックス法の概要)
本発明に用いるフラックス法は、フラックスとなるアルカリ金属と、原料であるIII 族金属とを含む混合融液に、窒素を含むガスを供給して溶解させ、液相でIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる方法である。本発明では、混合融液中に種基板1を配置し、その種基板1上にIII 族窒化物半導体を結晶成長させる。
【0016】
原料であるIII 族金属は、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)の少なくともいずれか1つであり、その割合によって成長させるIII 族窒化物半導体の組成を制御することができる。特にGaのみを用いることが好ましい。
【0017】
フラックスであるアルカリ金属は、通常ナトリウム(Na)を用いるが、カリウム(K)を用いてもよく、NaとKの混合物であってもよい。さらには、リチウム(Li)やアルカリ土類金属を混合してもよい。
【0018】
混合融液には、アルカリ金属に対して0mol%より大きく0.3mol%以下の炭素(C)を添加する。Cの添加により、結晶成長速度を速めることができる。
【0019】
さらに、Cの添加量をアルカリ金属に対して0.3mol%以下とすることで、種基板1上に育成するIII 族窒化物半導体の未成長領域(III 族窒化物半導体が成長しない領域)や異常粒成長(他の結晶粒に比べて著しく結晶粒の大きな領域)が低減され、結晶品質や歩留りを向上させることができる。C添加量のより望ましい上限は、アルカリ金属に対して0.1mol%以下、より望ましくは0.05mol%以下である。
【0020】
ただし、混合融液に全くCを添加しない場合、III 族窒化物半導体育成の再現性が低下するため望ましくない。そこで、アルカリ金属に対して0.001mol%以上とすることが望ましい。より望ましくは0.01mol%以上である。
【0021】
また、混合融液には、結晶成長させるIII 族窒化物半導体の伝導型、磁性などの物性の制御や、結晶成長の促進、雑晶の抑制、成長方向の制御、などの目的でC以外のドーパントを添加してもよい。たとえばn型ドーパントしてゲルマニウム(Ge)などを用いることができ、p型ドーパントとしてマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)などを用いることができる。
【0022】
また、窒素を含むガスとは、窒素分子や、アンモニア等の窒素を構成元素として含む化合物の気体であり、それらの混合ガスでもよく、さらには、窒素を含むガスが希ガス等の不活性ガスに混合されていてもよい。
【0023】
(種基板の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、混合融液中に種基板(種結晶)1を配置し、その種基板1上にIII 族窒化物半導体を育成する。この種基板1には、以下の構成のものを用いる。
【0024】
種基板1は、図1に示すように、下地となる下地基板2上に、バッファ層(図示しない)を介してIII 族窒化物半導体層3が形成され、III 族窒化物半導体層3上にマスク4が形成された構成である。マスク4には、ドット状に複数の窓5が空けられており、この窓5からIII 族窒化物半導体層3表面を露出させることで、種結晶領域(すなわちIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる起点となるIII 族窒化物半導体層3の表面)をドット状に点在させている。
【0025】
このように種結晶領域をドット状に点在させることで、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体を横方向成長させ、転位を曲げることで転位密度を低減して結晶品質を向上させることができる。また、結晶育成終了後に種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶との分離を容易とすることができる。
【0026】
なお、III 族窒化物半導体層3をエッチング等して溝を形成することにより、種結晶領域をドット状に点在させてもよい。
【0027】
マスク4は、ALD法(原子層堆積法)、CVD法(化学気相成長法)、スパッタなど任意の方法によって形成することができるが、特にALD法により形成することが望ましい。緻密で均一な厚さに形成することができ、フラックス法による育成中においてマスクが溶解してしまうのを抑制することができる。マスク4の材料は、フラックスに対して耐性を有し、そのマスク4からはIII 族窒化物半導体が成長しないような材料であればよい。たとえば、Al2 3 、TiO2 、ZrO2 などを用いることができる。マスク4の厚さは、10nm以上500nm以下とすることが望ましい。
【0028】
マスク4の窓5の配置パターンは、周期的なパターンが望ましい。特に、図2のように正三角形の三角格子状のパターンが望ましく、正三角形の各辺の方位は、III 族窒化物半導体層3のm軸<10-10>とすることが望ましい。窓5をこのような配置パターンとすることで、各種結晶領域からIII 族窒化物半導体が均質に育成し、III 族窒化物半導体の結晶品質の向上を図ることができる。
【0029】
各窓5の形状は、円、三角形、四角形、六角形など任意の形状でよいが、円または正六角形とすることが好ましい。また、正六角形とする場合、その各辺の方位はIII 族窒化物半導体層3のm面とすることが望ましい。
【0030】
窓5の直径W1(窓5の形状が円以外の場合は、窓5の外接円の直径)は、10μm以上2000μm以下とすることが望ましい。また、窓5の間隔(輪郭と輪郭の最近接距離)W2は、10μm以上2000μm以下とすることが望ましい。W1、W2をこのような範囲とすることで、III 族窒化物半導体結晶の育成終了後の種基板との分離が容易となる。窓5の直径W1を200μm以下とし、各窓5の面積の総計は、種基板1の主面の面積(III 族窒化物半導体層3表面全体の面積)に対して25%以下とするのがよい。これよりも窓5の直径W1が大きいと、あるいは各窓5の面積の総計がこれよりも大きいと、種基板1と育成したIII 族窒化物半導体との分離がしにくくなる。また、分離した際に育成したIII 族窒化物半導体にクラックや割れが発生してしまう。
【0031】
下地基板2の材料は、その表面にIII 族窒化物半導体を育成可能な任意の材料でよい。ただし、Siを含まない材料が好ましい。混合融液中にSiが溶けだすと、III 族窒化物半導体の結晶成長を阻害してしまうためである。たとえば、サファイア、ZnO、スピネルなどを用いることができる。
【0032】
下地基板2の大きさは、直径2インチ以上が好ましい。下地基板2が大きくなるほど未成長領域や異常粒成長領域が発生しやすくなるため、本発明によってそれらの領域を抑制する効果が高まる。直径3インチ以上とする場合に本発明は特に効果的である。
【0033】
下地基板2上のIII 族窒化物半導体層3は、結晶成長させるIII 族窒化物半導体と同一組成の材料とすることが望ましい。特に、GaNとすることが望ましい。また、III 族窒化物半導体層3はMOCVD法、HVPE法、MBE法など、任意の方法によって成長させたものでよいが、結晶性や成長時間などの点でMOCVD法やHVPE法が好ましい。
【0034】
III 族窒化物半導体層3の厚さは任意であるが、2μm以上とすることが望ましい。フラックス法では、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体層3がメルトバックしてしまうため、III 族窒化物半導体層3が完全に除去されて下地基板2が露出しない厚さとする必要があるためである。ここでメルトバックは、III 族窒化物半導体が混合融液中に融解して除去されることをいう。ただし、III 族窒化物半導体層3が厚すぎると、種基板1に反りが発生してしまうため10μm以下の厚さとすることが望ましい。
【0035】
(結晶製造装置の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、たとえば以下の構成の結晶製造装置を用いる。
【0036】
図3は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体の製造に用いる結晶製造装置10の構成を示した図である。図3のように、結晶製造装置10は、圧力容器20と、反応容器11と、坩堝12と、加熱装置13と、供給管14、16と、排気管15、17と、を有している。
【0037】
圧力容器20は、円筒形のステンレス製であり、耐圧性を有している。また、圧力容器20には、供給管16、排気管17が接続されている。圧力容器20の内部には、反応容器11と加熱装置13とが配置されている。このように反応容器11を圧力容器20の内部に配置しているため、反応容器11にさほど耐圧性が要求されない。そのため、反応容器11として低コストのものを使用することができ、再利用性も向上する。
【0038】
反応容器11はSUS製であり耐熱性を有している。反応容器11内には、坩堝12が配置される。坩堝12の材質は、たとえばW(タングステン)、Mo(モリブデン)、BN(窒化ホウ素)、アルミナ、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)などである。坩堝12には、アルカリ金属とIII 族金属の混合融液21が保持され、混合融液21中には種基板1が収容される。
【0039】
反応容器11には、供給管14、排気管15が接続されており、供給管14、排気管15に設けられた弁(図示しない)により反応容器11内の換気、窒素を含むガスの供給、反応容器11内の圧力の制御、を行う。また、圧力容器20にも供給管16より窒素を含むガスが供給され、供給管16、排気管17の弁(図示しない)でガスの供給量、排気量を調整することで、圧力容器20内の圧力と反応容器11内の圧力とがほぼ同じになるよう制御する。また、加熱装置13により、反応容器11内の温度を制御する。
【0040】
また、結晶製造装置10には、坩堝12を回転させて坩堝12中に保持される混合融液21を攪拌することができる装置が設けられている。そのため、III 族窒化物半導体結晶の育成中に混合融液21を撹拌して混合融液21中のアルカリ金属、III 族金属、窒素の濃度分布が均一となるようにすることができる。これにより、III 族窒化物半導体結晶を均質に育成することができる。坩堝12を回転させる装置は、反応容器11内部から圧力容器20外部まで貫通する回転軸22と、反応容器11の内部に回転軸22と連結されて配置され、坩堝12を保持するターンテーブル23と、回転軸22の回転を制御する駆動装置24と、によって構成されている。この駆動装置24による回転軸22の回転によってターンテーブル23を回転させ、ターンテーブル23上に保持されている坩堝12を回転させる。
【0041】
なお、反応容器11として耐圧性を有したものを使用すれば、必ずしも圧力容器20は必要ではない。また、結晶育成中のアルカリ金属の蒸発を防止するために、坩堝12には蓋を設けてもよい。また、坩堝12の回転に替えて、あるいは加えて、坩堝12を揺動させる装置を設けてもよい。また、圧力容器20と反応容器11の二重容器としているが、三重容器として育成条件(温度、圧力など)のさらなる安定化を図ってもよい。
【0042】
(III 族窒化物半導体の製造方法)
次に、本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法について、図4を参照に説明する。
【0043】
まず、酸素や露点など雰囲気が制御されたグローブボックス内で所定量のアルカリ金属、III 族金属、炭素を計量する。坩堝12内に種基板1を配置した後、計量した所定量のアルカリ金属、III 族金属、炭素を坩堝12に投入する。その坩堝12を、搬送容器に格納して、大気に晒すことなく反応容器11内のターンテーブル23上に配置し、反応容器11を密閉し、さらに反応容器11を圧力容器20内に密閉する。そして、圧力容器20内を真空引きした後、昇圧、昇温する。このとき、窒素を含むガスを反応容器11内部に供給する。
【0044】
次に、反応容器11内を結晶成長温度、結晶成長圧力まで上昇する。結晶成長温度は700℃以上1000℃以下、結晶成長圧力は2MPa以上10MPa以下である。このとき、坩堝12内のアルカリ金属、III 族金属は融解し、混合融液21を形成する。また、坩堝12を回転させることで混合融液21を攪拌し、混合融液21中のアルカリ金属とIII 族金属の分布が均一になるようにする。
【0045】
窒素が混合融液21に溶解していき、過飽和状態となると、種基板1の窓5に露出するIII 族窒化物半導体層3表面から、III 族窒化物半導体結晶6が六角錐状もしくは六角錐台状にエピタキシャル成長する(図4(a)参照)。その後、III 族窒化物半導体結晶6は横方向成長を主体として六角柱状に成長し、隣接する六角柱状の結晶同士が合体し、平坦な表面を有する1つのIII 族窒化物半導体結晶6となる(図4(b)参照)。このとき、成長は横方向が支配的であるため、III 族窒化物半導体中の転位は横方向に曲げられる。そのため、転位密度が低減され、結晶性が向上する。
【0046】
以上のIII 族窒化物半導体結晶6の育成では、Cの添加量をアルカリ金属に対して0.3mol%以下としている。そのため、種基板1上のIII 族窒化物半導体結晶6は、未成長領域や異常粒成長領域が低減されている。その理由は、以下のように推察される。
【0047】
種結晶領域がドット状に点在された種基板1では、種基板1の全面を種結晶領域とする場合に比べて種結晶領域が小さく、種結晶領域とそうでない領域が混在している。そのため、混合融液21中に局所的な原料の濃度分布が発生していることが考えられる。その結果、全面を種結晶領域とする場合とはIII 族窒化物半導体の結晶育成に適した条件が異なっていると考えられる。
【0048】
そこで本発明では、Cの添加量をアルカリ金属に対して0.3mol%以下とし、全面を種結晶領域とする場合に比べてCの添加量を低減している。これにより、III 族窒化物半導体の結晶成長初期の過飽和度、あるいは成長の駆動力となる過剰な自由エネルギーが抑制され、種基板1の面積当たりの結晶成長の駆動力を適正に保つことができる。成長速度が抑制される結果、各種結晶領域からの各III 族窒化物半導体結晶6の成長速度は均一化して異常粒成長する結晶がなくなり、混合融液中の原料(III 族金属、窒素)の濃度分布が均一となる。以上のように、混合融液21中の原料の濃度分布が減少し、かつIII 族窒化物半導体の成長レートが抑えられて均一化するため、種基板1上にIII 族窒化物半導体が結晶成長しない領域がなくなり、異常粒成長領域も減少したと考えられる。
【0049】
その後、反応容器11の加熱を停止して温度を室温まで低下させ、圧力も常圧まで低下させ、III 族窒化物半導体の育成を終了する。ここで、種基板1のIII 族窒化物半導体層3上は窓5を空けたマスク4に覆われているため、育成したIII 族窒化物半導体結晶6は、窓5を介して部分的にIII 族窒化物半導体層3と接触しており、他の部分はマスク4と接触している。また、種基板1のマスク4と育成したIII 族窒化物半導体結晶6には線膨張係数差がある。そのため、育成終了時の降温において種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶6とが自然に剥離する場合がある。また、剥離しなかったとしても、軽い衝撃を加えることで、種基板1と育成したIII 族窒化物半導体結晶6とを剥離させることができる(図4(c)参照)。また、III 族窒化物半導体結晶6を厚く成長させる場合は、成長中の応力で剥離させることもできる。
【0050】
なお、各種結晶領域からのIII 族窒化物半導体が合体して1つになるまで育成する必要はなく、各種結晶領域から六角錐状、六角錐台状または六角柱状に成長してまだ合体していない段階で育成を終了してもよい。そして、六角錐状、六角錐台状または六角柱状のIII 族窒化物半導体を種結晶として、再度フラックス法によってIII 族窒化物半導体を育成してもよい。
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
実施例1のGaNの製造方法について、図5、6を参照に説明する。まず、育成に用いる種基板100を、次のようにして作製した。直径2インチ、厚さ1mmのサファイアからなる下地基板102を用意し、その下地基板102上に、MOCVD法によって、AlNからなるバッファ層(図示しない)、GaN層103を順に形成した(図5(a)参照)。GaN層103の厚さは5μmとした。MOCVD法においては、窒素源には、アンモニア、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 :TMG)、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 3 :TMA)、キャリアガスには水素を用いた。
【0053】
次に、ALD法を用いて、GaN層103上にAl2 3 からなるマスク104を形成した(図5(b)参照)。マスク104の厚さは0.1μmとした。
【0054】
次に、フォトリソグラフィ、ウェットエッチングによってマスク104をパターニングし、三角格子状の配列パターンの窓105を形成した。これにより、窓105にGaN層103表面を露出させた(図5(c)参照)。これにより、種結晶領域であるGaN層103表面をドット状に点在させた。窓105は直径W1が0.1mmの円とし、窓105と窓105の間隔W2は0.12mmとした。以上のようにして種基板1を作製した。
【0055】
次に、フラックス法を用いて、種基板100上にIII 族窒化物半導体を育成した。結晶成長温度は860℃、結晶成長圧力は3MPaとし、アルカリ金属としてNaを16.6g、III 族金属としてGaを11.0g用い、供給するガスは窒素とした。また、Naに対して0.3mol%のCを添加した。また、育成時間は40時間とした。また、坩堝12はアルミナ製のものを用いた。これにより、種基板100の各窓105に露出する各GaN層103からGaN結晶106を育成し、各GaN結晶106を合体させて一体とし、種基板100上に平坦な表面を有した1つのGaN結晶106を育成した(図6(a)参照)。
【0056】
育成終了後、エタノール等でNa、Gaを取り除き、種基板100を取り出し、軽い衝撃を加えることによって種基板100からGaN結晶106を剥離させて分離した(図6(b)参照)。育成したGaN結晶106の厚さは0.3mmであった。
【0057】
(比較例)
比較例として、実施例1と同一構成の種基板100を用い、炭素の添加量を変えた以外は同一の育成条件のフラックス法によって、種基板100上にGaN結晶を育成した。炭素の添加量は、Naに対して0.6mol%とし、実施例1に比べてCの添加量を増やした。育成したGaN結晶の厚さは0.55mmであった。
【0058】
実施例1の製造方法により育成したGaN結晶106と、比較例の製造方法により育成したGaN結晶を、目視により比較した。比較例のGaN結晶は、表面の凹凸が大きく、一部に結晶が育成していない未成長領域が見られた。一方、実施例1のGaN結晶106は、全体的に均一な凹凸となっており、未成長領域や異常粒成長領域は見られなかった。
【0059】
次に、実施例1の製造方法により育成したGaN結晶106と、比較例の製造方法により育成したGaN結晶を、表面側、裏面側双方から光学顕微鏡により観察した。
【0060】
比較例では、種基板100上にGaN結晶が育成していない未成長領域が多数存在した。また、育成したGaN結晶の一部は異常粒成長しており、他の領域に比べて結晶粒が極めて大きくなっていた。また、育成したGaN表面は凹凸が大きかった。
【0061】
これに対して実施例1では、種基板100上にGaN結晶106が育成していない未成長領域はほとんど見られず、比較例に比べて極端に未成長領域は少なかった。また、GaN結晶106の結晶粒はほぼ均一な大きさであり、異常粒成長した領域は見られなかった。
【0062】
実施例1と比較例から、混合融液21へのCの添加量を低減したことにより、未成長領域や異常粒成長領域が低減されたGaN結晶106を育成できることがわかり、歩留りが劇的に向上することがわかった。また、窓105に露出する各種結晶領域からのGaN結晶106の成長が均一となり、育成したGaN結晶106の表面平坦性や結晶品質が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により育成したIII 族窒化物半導体は、III 族窒化物半導体からなる半導体素子の成長基板として利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:種基板
2:下地基板
3:III 族窒化物半導体層
4:マスク
5:窓
6:III 族窒化物半導体結晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6