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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】透明黒体フィルム及び透明黒体塗料
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/53 20220101AFI20220817BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20220817BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20220817BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G01J5/53 101
G01J5/48 A
C09D129/04
C09D5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018054291
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019066455
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017194719
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100849
【氏名又は名称】株式会社アイセロ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 永久
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕行
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-060406(JP,A)
【文献】特開2003-277419(JP,A)
【文献】国際公開第2009/011334(WO,A1)
【文献】特開平04-114014(JP,A)
【文献】特開昭63-023669(JP,A)
【文献】特開2008-284755(JP,A)
【文献】特開昭62-100623(JP,A)
【文献】特開平10-160682(JP,A)
【文献】特開昭51-042774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00-G01J 5/90
G01N 21/84-G01N 21/958
C09D 5/00
C09D 129/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂を含有する、被検査物表面の赤外線サーモグラフィ検査に用いる水溶性透明黒体フィルム(但しピパリン酸ビニル単位を0.5~25モル%含有し、かつブロックキャラクターが0.6をこえるポリビニルアルコール系重合体からなる水溶性フィルムを除く)
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂を含有する層上に粘着剤層が積層されている請求項1に記載の水溶性透明黒体フィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂を含有する層側に基材層を設けた請求項1又は2に記載の水溶性透明黒体フィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系樹脂を含有する、被検査物表面の赤外線サーモグラフィ検査に用いる水溶性透明黒体塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線サーモグラフィ検査等に使用する、透明黒体フィルム及び透明黒体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線サーモグラフィは、映像により温度測定を行うことができる装置であり、非接触による撮影が、リアルタイムで測定できることが特長であり、温度測定手法の一つとして研究から簡易的な検査にまで広く用いられている。また、その温度分布から赤外線サーモグラフィにより構造体の内部欠陥や自動車鋼板の腐食等の被検査物の欠陥を検査する方法は公知である。この方法は被検査物の内部等に傷等の欠陥があるとき、被検査物を加熱すると、内部に欠陥がある場所の表面の温度と欠陥がない場所の表面の温度とが異なることを利用し、赤外線サーモグラフィを使用して非破壊検査を行う。しかし、被検査物が金属等の低放射率物質である場合には正確な測定を行うことが難しい。
そこで例えば、特許文献1に記載されているように、被検査物の表面に炭素系黒色顔料とアルコール及び脂肪族炭化水素を含む溶媒と分散剤とを含有する塗料を塗布し、この塗膜を介して、熱画像を取得する赤外線サーモグラフィによる欠陥検査、及び欠陥検査後において該塗膜を水洗により除去する方法が知られている。
この方法は欠陥の有無による温度差によって被検査物表面に設けた塗料層自体から放射される赤外線の強度が異なることを利用し、被検査物全体の赤外線の強度を測定することによって、被検査物を非破壊検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-108634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の検査方法は、炭素系黒色顔料を含有する塗料により塗膜を形成していたので、例えば被検査物の表面が曲面等の平滑ではない面であっても、平面である場合と同様に検査を行うことが可能である。
しかしながら、このような塗料は一旦塗膜を形成すると、それを適当な有機溶媒等で除去するまでの間は、塗膜が含有する炭素系黒色顔料により塗膜が黒色を呈するため、被検査物表面の状態を例えば目視にて確認することが困難であった。
加えて、検査後に塗膜を溶媒洗浄によって除去する際には、その廃液が炭素系黒色顔料によって黒色を呈するため、廃液の外見が悪く、地上に落ちた廃液が乾燥して地面が黒く変色するため、廃液の処理や管理に特に配慮する必要があった。さらに、被検査物表面に液滴等が残ったときには、それが乾燥することによって被検査物表面に黒色のしみや斑点、あるいは流れた跡が残って美観が悪化する。
また近年、従来の黒体塗料の発ガン性が指摘され、より安全性の高い代替黒体塗料の要望が高まっている。
本発明は、被検査体の赤外線サーモグラフィによる検査と同時に目視での表面状態の確認が困難なこと、さらに溶媒洗浄後の廃液処理の困難さや、検査後の被検査物表面の美観が劣化することを解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
1.ポリビニルアルコール系樹脂を含有する透明黒体フィルム。
2.ポリビニルアルコール系樹脂を含有する層上に粘着剤層が積層されている1に記載の透明黒体フィルム。
3.ポリビニルアルコール系樹脂を含有する層側に基材層を設けた1又は2に記載の透明黒体フィルム。
4.被検査物表面の赤外線サーモグラフィ検査に用いる1~3のいずれかに記載の透明黒体フィルム。
5.ポリビニルアルコール系樹脂を含有する透明黒体塗料。
6.被検査物表面の赤外線サーモグラフィ検査に用いる5に記載の透明黒体塗料。
【発明の効果】
【0006】
本発明の透明黒体フィルムによれば、目視での被検査物表面の検査・確認が可能な状態を維持したまま、同時に赤外線サーモグラフィによる検査を正確に行うことができ、水溶性である場合には、さらに水洗後の廃液処理が容易であり、検査終了後の被検査物表面の美観が維持できる効果を得る。
また、本発明の透明黒体塗料によれば、上記の透明黒体フィルムによる効果に加えて、より複雑な表面形状の被検査物に対して正確な検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】可視光での検査結果を示す図
図2】赤外線での検査結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の透明黒体フィルム及び透明黒体塗料は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを基本とする。
【0009】
(ポリビニルアルコール系樹脂)
本発明にて用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、水溶性でも、非水溶性でもよいが、高い赤外線放射率を有していれば特に限定されず、公知のポリビニルアルコール系樹脂、すなわち、ビニルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化して得られる樹脂を幅広く用いることができる。また、このようなポリビニルアルコール系樹脂を1種のみではなく、2種以上併用して用いることもできる。
ここで、ビニルエステル系化合物としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の一種又は2種以上が用いられる。
【0010】
ポリビニルアルコール系樹脂として、アニオン性基変性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性基変性ポリビニルアルコール樹脂を用いてもよい。もちろん、無変性ポリビニルアルコール樹脂を用いてもよい。
水溶性のポリビニルアルコール系樹脂とする場合には、アニオン性基変性ポリビニルアルコール樹脂が好ましい。アニオン性基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。
アニオン性基変性ポリビニルアルコール樹脂としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂、イタコン酸変性ポリビニルアルコール樹脂、アクリル酸変性ポリビニルアルコール樹脂、メタククリル酸変性ポリビニルアルコール樹脂、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
アニオン性基変性ポリビニルアルコール樹脂の変性量は、変性ユニットの含有量が0.1~10モル%が好ましく、0.5~8モル%が更に好ましく、1~6モル%が特に好ましい。水への溶解性の点で0.1モル%以上が好ましく、樹脂の生産性やコストの観点から10モル%以下が好ましい。
【0011】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂として、例えば、下記のモノマーと共重合させることもできる。
エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類の完全アルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド等が挙げられる。
【0012】
更に、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3-ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体等も挙げられる。
これらの単量体を本発明の目的を阻害しない範囲で、例えば0.01~10モル%含有することができる。
【0013】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、特に限定されない。例えば、塗膜除去の点から被膜に水溶性が求められる場合には、60~100モル%が好ましく、65~96モル%が更に好ましく、70~94モル%が特に好ましい。
なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定される。
【0014】
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、特に限定されないが、黒体フィルムとして用いられる場合には、その膜強度から、300~8000が好ましく、500~4000が更に好ましく、1000~3000が特に好ましい。一方、黒体塗料として用いる場合には、その溶液粘度から、100~3000以下が好ましく、200~2000が更に好ましく、200~1000が特に好ましい。
【0015】
(ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚み及び透明黒体塗料による塗膜厚等)
本発明におけるポリビニルアルコール系樹脂は、フィルムの形態で黒体フィルムとして使用するときのフィルムの厚みは特に限定されないが、10~100μmが好ましく、13~100μmが更に好ましく、15~90μmが特に好ましい。この範囲内の厚みであれば、赤外線サーモグラフィ検査用黒体フィルムとしての強度を適度に保てる。
本発明の透明黒体フィルムは透明であり、その両面の表面が平面であることが好ましい。透明であることによって、粘着剤層も透明である場合において、赤外線サーモグラフィ検査時に、本発明の透明黒体フィルムを介して、被検査物表面の状態を目視にて確認できるので、検査結果を確認しつつ、被検査物表面を目視にて検査することができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両面が平面であると、赤外線サーモグラフィ検査用の透明黒体フィルムとして使用する際に、その検査精度をより高めることができる。
また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが水溶性であると、赤外線サーモグラフィ検査後にフィルムを水洗して除去することが可能である。
ポリビニルアルコールが非水溶性であると、赤外線サーモグラフィ検査後であってもフィルム被検査物表面に付着した状態とし、その後再度検査を行うことが可能である。また、溶媒可溶の場合には、不要になった際には溶媒による除去も可能である。
透明黒体塗料による塗膜厚も上記の黒体フィルムの厚みと同程度が好ましい。そして検査方法及びポリビニルアルコール系樹脂が水溶性であると、赤外線サーモグラフィ検査後に塗膜を水洗して除去することが可能であることもフィルムの場合と同様である。
【0016】
(粘着剤層)
本発明において透明黒体フィルムに積層させる粘着剤層に用いられる粘着剤としては、公知の粘着剤で良く、アクリル系樹脂、ポリエチレン酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等を使用することができる。赤外線サーモグラフィ検査後にフィルムを水洗して除去する場合には粘着剤は水溶性であることが好ましい。粘着剤が水溶性であると透明黒体フィルムの水洗除去と同時に粘着剤層を除去できる。
但し、粘着剤層は、専ら赤外線サーモグラフィ検査用に、透明黒体フィルムを被検査物表面に固定させるために使用されるので、その被検査物表面の多様な材料に対して、広く接着できることが必要である。また、被検査物表面の材質や形状等により、より適切な粘着剤層を設けることもできる。
【0017】
(粘着剤層の厚み等)
粘着剤層はその両面の表面が平面であることが好ましい。さらに粘着剤層が目視では透明であることによって、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが目視において透明である場合において、赤外線サーモグラフィ検査時に被検査物表面が、本発明の赤外線サーモグラフィ検査用透明黒体フィルムを介して目視にて確認できるので、検査結果を確認しつつ、被検査物表面を目視にて検査することができる。
粘着剤層の厚みは、特に限定されない。1~50μmが好ましく、5~40μmが更に好ましく、15~30μmが特に好ましい。この範囲内の厚みであれば、粘着剤層として十分な接着力を有することができる。
粘着剤層のポリビニルアルコール系樹脂層側ではない層は、平面であることが好ましい。
このような粘着剤層をポリビニルアルコール系樹脂層に積層させる手段としては、例えば下記に示す離型フィルムの離型面に対して、流延や押出等の公知の手段によって粘着剤層を形成させて、必要に応じて乾燥して溶媒を除去しておく。次いで、形成された粘着剤層とポリビニルアルコール系樹脂層とを圧着等の手段によって重ね合わせ、ポリビニルアルコール系樹脂層の片面に粘着剤層を積層させる手段を採用できる。
そして、上記離型フィルム上に粘着剤層を設けた場合には、該離型フィルムを剥離することなく製品とすることができる。
【0018】
(可塑剤)
透明黒体フィルムと粘着剤層、さらに透明黒体塗料共に、それらの層又は形成される塗膜の機能を毀損しない範囲において可塑剤を含有させることができる。可塑剤としては、特に限定されず、公知の可塑剤を適用できる。例えば、グリセリン、ジグリセリン等のポリグリセリン、グルコース、フルクトース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール等の糖や、糖アルコール、低分子量ポリエチレングリコール(分子量:600以下)、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、2-メチル-1,3-プロパンジオール等の多価アルコール系可塑剤が挙げられる。可塑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
可塑剤の含有量(総量)は、特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、0~50質量部が好ましく、5~40質量部が更に好ましく、8~30質量部が特に好ましい。この範囲内の含有量であれば、可塑効果が得られるとともに、可塑剤が表面にブリードすることも抑制されるとともに、十分なフィルム強度又は塗膜強度が得られる。可塑剤を添加することにより透明黒体フィルム及び塗膜は柔らかくなり、被検査物への貼付時に被検査物の表面に追従しやすくなる。
さらにこれらの可塑剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と異なる放射特性を持つために透明黒体フィルム及び透明黒体塗料に可塑剤を配合すると放射率の向上に寄与する。
【0019】
(界面活性剤)
透明黒体フィルムと粘着剤層及び透明黒体塗料共に、それらの層及び塗膜の機能を毀損しない範囲において界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、特に限定されず、公知の界面活性剤を適用できる。界面活性剤としては、イオン性界面活性剤(陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤)、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤を適用できる。界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
界面活性剤の含有量については、特に限定されない。ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して0.01~3.0質量部が好ましく、0.03~2.5質量部が更に好ましく、0.05~1.5質量部が特に好ましい。この範囲内の含有量であれば、ポリビニルアルコール系樹脂層製膜時のフィルムの取り扱い、及び透明黒体塗料による塗布性が容易となり、生産性が向上するからである。
【0020】
(その他の添加剤)
透明黒体フィルムと粘着剤層及び透明黒体塗料共に、それらの層及び塗膜の機能を毀損しない範囲において種々のその他の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、必要に応じて着色剤、香料、増量剤、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤、無機粉体等が用いられる。
なお、ポリビニルアルコール系樹脂層と粘着剤層及び透明黒体塗料共に、不透明となるほどに添加剤を添加してもよいが、透明である範囲内の添加量とすることがより好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂層と粘着剤層及び透明黒体塗料共に、それらの層の機能を毀損しない範囲において無機フィラーや有機フィラーを含有させることができる。無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、ハイドロタルサイト、ケイ藻土、カオリン、雲母、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウィスカー状炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、クロム酸カリウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。
有機フィラーとしては、特に限定されないが、澱粉、メラミン系樹脂等の各種樹脂等が挙げられる。
フィラーの含有量については、特に限定されない。ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して0~100質量部が好ましく、0.1~50質量部が更に好ましく、1~10質量部が特に好ましい。フィラーを添加することにより、透明黒体フィルム及び塗膜のアンチブロッキング性が向上したり、水洗する場合にフィラーが溶解補助剤としても働く場合がある。
【0021】
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、それ以外の水溶性高分子と混合してもよい。例えば、水溶性高分子としては、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、プルラン、メチルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース等を挙げることができる。水溶性高分子の添加量は、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以下である。
【0022】
(透明黒体フィルムの製造方法)
本発明の透明黒体フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を、例えば平滑な表面上に流延し乾燥させることにより得ることができる。また溶融したポリビニルアルコール系樹脂を、押出成形等の公知の手段により成膜して得ることができる。
また、原料には水を添加してもよい。水の添加量については、特に限定されない。通常、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して25~10000質量部であり、40~1000質量部が更に好ましい。この範囲内であれば、フィルムの製膜効率が向上するからである。
【0023】
(基材シート)
本発明の透明黒体フィルムは基材シートからなる層を設けると赤外線サーモグラフィ検査時に被検査物に貼り付ける際に作業性が向上する。基材シート上の透明黒体フィルムの上の粘着剤層の表面を被検査物表面に付着させることにより基材シートごと透明黒体フィルムで被検査物表面を被覆する。その後に透明黒体フィルムから基材シートを剥離することにより、表面に透明黒体フィルムが露出した状態で被覆することができる。
そのような基材シートとしては、例えばグラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙、ポリエチレン等のフィルムをラミネートした紙、ポリビニルアルコールやアクリル酸エステル共重合体等の樹脂を塗布した紙、ポリエステルやポリプロピレン等の合成樹脂フィルム等に、必要に応じて剥離剤であるフッ素樹脂やシリコーン樹脂等を塗布したもの等が挙げられる。
【0024】
(離型シート)
本発明の透明黒体フィルムは、安定して保管することを目的として、粘着剤層側の面を離型シートにて覆い、保存性を向上させることが好ましい。
そのような離型シートとしては、粘着テープ用の剥離シートを使用することができる。例えばグラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙、ポリエチレン等のフィルムをラミネートした紙、ポリビニルアルコールやアクリル酸エステル共重合体等の樹脂を塗布した紙、ポリエステルやポリプロピレン等の合成樹脂フィルム等に、必要に応じて剥離剤であるフッ素樹脂やシリコーン樹脂等を塗布したもの等が挙げられる。
【0025】
(透明黒体塗料の製造方法)
本発明の透明黒体塗料は、上記のポリビニルアルコール系樹脂に、上記の可塑剤、界面活性剤、その他の添加剤を含有してもよい。水溶性塗料とする場合には水と必要に応じて極性有機溶剤を含有し、非水溶性の場合には極性有機溶媒を用いることができる。ここで極性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、1-メチル-2-ピロリドン等の公知のものを使用することができるが、該ポリビニルアルコール系樹脂を溶解、あるいは分散することが可能であればこれらに限定されるものではない。
また本発明による効果を阻害しない範囲で、可塑剤、粘着付与剤等の塗料用の添加剤を任意の含有量となるように添加することができる。
【0026】
(赤外線サーモグラフィ被検査物)
本発明の透明黒体フィルム及び透明黒体塗料を用いて赤外線サーモグラフィ検査を行う被検査物としては、従来より赤外線サーモグラフィを用いて検査されているものであれば良く、建物内壁や外壁、柱、壁、床、天井、扉、配管等の部位、橋、トンネル、防波堤、防潮堤等の構造物、タンク、パイプ、クレーン等の産業用設備、航空機や鉄道、自動車等の車両、機械や装置、工芸品、日用品、骨董品等、また、近年採用の増えているハニカムパネルやFRP等の複合構造素材等の公知のものを対象とすることができる。
そして、検査の結果として該被検査物の表面又は内部に、剥離、肉薄部、クラック、等の欠陥を有するか否かが明確になる。
【0027】
<赤外線サーモグラフィ検査方法>
透明黒体フィルムを被検査物に貼り付ける前、又は透明黒体塗料を被検査物に塗布する前に、必要に応じて予め被検査物の表面の汚れを取り除き、さらに必要に応じて水洗い等の洗浄を行う。
次いで、被検査物の表面に対して、本発明の透明黒体フィルムを、予め設けられている粘着剤層によって接着または粘着剤等で接着させる。粘着剤層がない場合には、ポリビニルアルコールを水や熱水、極性溶媒等でフィルム表面あるいは全体を溶解させたり、融点以上まで加熱することにより、被検査物に貼り付けることができる。又は透明黒体塗料を被検査物の表面に対して任意の手段により塗布する。
いずれの場合も被検査物表面と粘着剤層との間に空気が入ると、赤外線サーモグラフィ検査時において、この空気部分を欠陥として検知する可能性があるので、空気を入れないことが重要である。
本発明の透明フィルムは透明であるために目視で気泡を確認することができ、検査前に検査の妥当性が容易に確認可能である。さらに、この気泡は針等で微細な穴を開けることで空気を抜くことができ検査自体にも影響を与えない。あるいは、検査で必要とされる精度を阻害しない範囲でフィルム全面に予め穴を開けておくことで、気泡の混入を防ぐこともできる。穴形状やサイズは特に限定されないが、例えば円形の場合には1cm以下が好ましく、5mm以下がさらに好ましく、1mm以下であれば、微小部分の温度変化や欠陥のサイズや形状を正確に測定することが可能となる。また、透明フィルム部分に穴を開けなくても粘着剤層をドット状にしたり、溝状の凹凸をつけることで被検査物表面と透明フィルムとの間に空気層を形成して、空気を抜け易くすることもできる。
接着させる際には、上記離型シートを接着の直前まで粘着剤層表面に積層させておき、接着時にその離型シートを剥離してもよい。
【0028】
透明黒体フィルムを表面に接着した後又は透明黒体塗料を塗布した後の被検査物の表面に対して、又は、透明黒体フィルムを表面に接着する前又は透明黒体塗料を塗布する前の被検査物の表面に対して、必要に応じて赤外線ランプ等によって加熱しておく。また被検査物が板状や管状であれば、赤外線サーモグラフィによる温度を検知する表面の反対面を加熱してもよい。
このように被検査物表面をなるべく均一に熱量を供給して加熱することにより、被検査物内部又は外部に仮に欠陥がなければ均一な温度にして、被検査物の検査精度を向上させることができる。
なお、透明黒体塗料を塗布して検査を行う場合には、加熱による被検査物の温度分布を確認することもできるが、塗布後に溶媒が蒸発することにより生じる気化熱によって被検査物表面の温度低下の分布を確認して検査することもできる。
このような気化熱による検査は、被検査物表面を加熱するための装置が不要であるために、必要な装置を削減することができる。また、気化熱を利用して検査を行う場合には、樹脂を溶解または分散可能な溶媒であれば、より蒸気圧の高い溶媒を用いることにより正確な測定を行うことが可能であり、アセトン、アルコール類等が好適である。
【0029】
引き続き、公知の赤外線カメラ等を用いて、赤外線サーモグラフィ検査を行ない、画像処理等を行って、検出した赤外線の強度分布を求める。このとき、なるべく赤外線カメラが被検査物表面の検査区域の面に対して垂直に向けられるのが好ましい。
【実施例
【0030】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、重合度1500)100重量部に対し、グリセリンを10重量部添加した固形分濃度15重量%の水溶液を調製した。この水溶液を75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥後、剥離して透明黒体フィルムのサンプルを得た。キャスト時の膜厚調整により乾燥後のサンプル厚みが15μmとなるようにした。
【0031】
(実施例2)
ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、重合度1500)の固形分濃度15重量%の水溶液を調製した。この水溶液を75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥後、剥離して透明黒体フィルムのサンプルを得た。キャスト時の膜厚調整により乾燥後のサンプル厚みが40μmとなるようにした。
【0032】
(実施例3)
キャスト時の膜厚を調整した以外は実施例1と同様にしてサンプル厚みが75μmの透明黒体フィルムのサンプルを得た。
【0033】
(実施例4)
ポリビニルアルコール(ケン化度99.6モル%、重合度1700)100重量部に対し、グリセリンを10重量部添加した固形分濃度15重量%の水溶液を調製した。この水溶液を測定用試験片にスプレーした後、80℃で乾燥後、剥離して透明黒体フィルムのサンプルを得た。キャスト時の膜厚調整により乾燥後のサンプル厚みが25μmとなるようにした。
【0034】
(実施例5)
キャスト時の膜厚を調整した以外は実施例4と同様にしてサンプル厚みが90μmの透明黒体フィルムのサンプルを得た。
【0035】
(実施例6)
カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、重合度1700)100重量部に対し、グリセリンを10重量部添加した固形分濃度15重量%の水溶液を調製した。この水溶液を75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥後、剥離して透明黒体フィルムのサンプルを得た。キャスト時の膜厚調整により乾燥後のサンプル厚みが30μmとなるようにした。
【0036】
(実施例7)
ポリビニルアルコール(ケン化度70モル%、重合度500)100重量部に対し、グリセリンを10重量部添加した固形分濃度25重量%の水溶液を調製した。この水溶液を75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥後、剥離して透明黒体フィルムのサンプルを得た。キャスト時の膜厚調整により乾燥後のサンプル厚みが50μmとなるようにした。
【0037】
(実施例8)
ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、重合度1500)100重量部に対し、グリセリンを10重量部添加した固形分濃度15重量%の水溶液を調製した。この水溶液を75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥し75μmPETシート基材付の透明黒体フィルムのサンプルを得た。この際にキャスト時の膜厚を調整し乾燥後にポリビニルアルコール系樹脂フィルム層が30μmとなるようにした。
【0038】
(実施例9)
ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、重合度1500)の固形分濃度15重量%の水溶液を調製した。この水溶液を75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥し75μmPETシート基材付サンプルを得た。この際にキャスト時の膜厚を調整し乾燥後にポリビニルアルコールフィルム層が20μmとなるようにした。さらにポリビニルアルコール系樹脂層上に、更にアクリル系水溶性粘着剤層を15μm積層させ、粘着剤付きの透明黒体フィルムのサンプルとした。
【0039】
(実施例10)
ポリビニルアルコール(ケン化度35モル%、重合度250)固形分濃度15重量%のメタノール溶液である透明黒体塗料を調製した。このメタノール溶液を噴霧器を使用して被検査体に塗布し室温で乾燥した。塗布量調整により乾燥後のサンプル厚みが30μmとなるようにした。
【0040】
(実施例11)
ポリビニルアルコール(ケン化度9モル%、重合度250)固形分濃度15重量%のアセトン溶液である透明黒体塗料を調製した。このアセトン溶液を噴霧器を使用して被検査体に塗布して室温で乾燥した。塗布量調整により乾燥後のサンプル厚みが50μmとなるようにした。
【0041】
(実施例12)
ポリビニルアルコール(ケン化度98モル%、重合度200)100重量部に対し、グリセリンを10重量部添加した固形分濃度15重量%の水溶液である透明黒体塗料を調製した。この水溶液を噴霧器を使用して被検査体に塗布して室温で乾燥した。塗布量調整により乾燥後のサンプル厚みが40μmとなるようにした。
【0042】
(比較例1)
黒体テープ(株式会社チノー製、ポリイミド樹脂フィルム)
【0043】
(比較例2)
ポリエチレンオキシド(分子量15万)の固形分濃度20重量%の水溶液を調製し、75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥・冷却固化して75μmPETシート基材付サンプルを得た。キャスト時の膜厚を調整し乾燥後にポリエチレンオキシド層が15μmとなるようにした。
【0044】
(比較例3)
ポリビニルピロリドン(K値94.0)の固形分濃度15重量%の水溶液を調製し、75μmPETシート上にキャストした後、80℃で乾燥後、剥離してサンプルを得た。キャスト時の膜厚を調整し乾燥後にサンプル厚みが15μmとなるようにした。
【0045】
(比較例4)
低密度ポリエチレン(密度0.92、MFR2.0)を180℃にて熱プレスし、厚さ50μmのサンプルを作成した。
【0046】
(比較例5)
耐熱塗料スプレー黒(株式会社アサヒペン製、シリコン樹脂塗料)
【0047】
(比較例6)
ポリ酢酸ビニル(重合度500)の固形分濃度15重量%のアセトン溶液を調製した。このアセトン溶液を噴霧器を使用して被検査体に塗布して室温で乾燥した。塗布量調整により乾燥後のサンプル厚みが40μmとなるようにした。
【0048】
(放射率測定)
サンプルの放射率の測定には、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Thermo Fisher Scientific製、Nicolet6700)、黒体炉(株式会社チノー製、IR-R24)、試験片加熱装置を用いた。
厚さ2mmの銅片表面にサンプルを貼付又はスプレーして測定用試験片とし、その試験片のサンプル側を測定面として試験片加熱装置に設置した後、黒体炉と試験片の表面温度を100℃に保持して、黒体炉と測定サンプルの表面の放射強度を測定した。
なお、実施例9、比較例1、比較例5以外はスプレーのりを使用して銅片にサンプルを貼付した。基材付きのサンプルは銅片にサンプルを貼付後に基材を剥離した。
また、測定時には、FT-IR装置内部の熱源による放射強度が加算されることから、金蒸着ミラー(シグマ光機株式会社製、反射率0.99、30mm×30mm×5.0mm)を用いて放射強度の測定を行い、FT-IRで測定した試験片及び黒体炉の放射強度から金蒸着ミラーの放射強度を減算して外乱を除去した。除去後の、試験片の放射強度を黒体炉の放射強度で除した値を放射率とした。
このFT-IRを用いた放射率の測定結果から、長波長型赤外線カメラで利用される領域である8~14μmの領域での平均放射率を算出し、平均放射率が0.8以上を○、0.8未満を×とした。
【0049】
(内部視認性)
サンプルを貼付、塗布又はスプレー後、サンプル貼付面側から銅片表面を目視できるか確認し、表面状態を確認できる場合を○、被着体の色は確認できるが表面状態を確認できない場合は△、全く確認できない場合を×とした。
【0050】
(耐熱性)
サンプルを貼付又はスプレー後、100℃にて放射率測定を行った際に、変形や溶融がなくサンプルが測定に耐えられる状態かであるどうかを確認した。問題なく測定できる場合は○、測定できない場合は×とした。
【0051】
(膜強度)
100mm×100mmのサンプルをPETシート基材から剥がす際に全くフィルムが破れないものを○、一部でも破れるものを×とした。
【0052】
(曲面追従性)
時計皿(直径150mm)に、サンプルを貼付、または塗布し外観を確認した。気泡が入らず全面に密着できた場合を○、シワ等や気泡等により全面に密着できない場合を×とした。
【0053】
(評価結果)
透明黒体フィルムの評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の透明黒体フィルムを使用した実施例1~9によれば、一般的に使用されている長波長型赤外線カメラの波長領域(8~14μm)において、0.8以上の高い放射率を得ることができ、同時に目視にて銅片の表面を確認することができた。さらに耐熱性にも優れるのでより高温条件下にて高精度の測定をすることができた。また十分に強い膜強度を備えているので、取り扱い性にも優れていた。
これに対して比較例1では、従来の黒体テープを使用したため視認性に劣り、銅片表面を目視で確認をしながら検査をすることができなかった。比較例2では、ポリビニルアルコールではなくポリエチレンオキシドを使用したため放射率が劣り、さらに結晶性が高いために視認性が若干悪く銅片表面の詳細な観察ができなかった。比較例3ではポリビニルピロリドンを使用したために、耐熱性が劣っており、放射率の測定ができなかった。比較例4では低密度ポリエチレンを使用したために放射率が劣っていた。
【0056】
本発明の塗料の評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
本発明の透明黒体塗料を使用した実施例10~12によれば、一般的に使用されている長波長型赤外線カメラの波長領域(8~14μm)において、0.8以上の高い放射率を得ることができ、同時に目視にて銅片表面を確認することができた。さらに被検査体が曲面の場合であっても、追従性に優れていた。
これに対して比較例1では、従来の黒体テープを使用したため、視認性に劣り、シート状であるため、被検査体に空気をかみこむことなく貼り付けることはできなかった。比較例5では、黒体塗料を使用したため銅片表面を目視で確認しながら検査をすることができなかった。比較例6では、ポリ酢酸ビニルを使用したため、放射率が劣っていた。
【0059】
実施例9における透明黒体フィルムを用いた非破壊検査例を示す。被検査物として、裏側の中央部に貫通していない平底穴欠陥、直径(40mm)、深さ(7mm)のあるステンレス板(SUS304、厚さ9mm)を選択し、該穴欠陥が表面にない計測面の右側半分に実施例9の透明黒体フィルムのサンプルを貼付した。この被検査物をハロゲンランプ(500W)で10秒間加熱し、赤外線サーモグラフィ画像を撮影し欠陥検知を行った。図1に可視での試験片外観、図2に長波長帯領域(8~14μm)の赤外線サーモグラフィでの測定結果を示す。図1は、試験片外観であり、左はフィルム無し、右は実施例9の結果を示す。図2は、赤外線サーモグラフィ測定結果であり、左はフィルム無し、右は実施例9の結果を示す。
サンプルを貼り付けた部分は目視で被検査物の表面状態は確認できるが、欠陥までは確認できなかった。これに対して、長波長帯領域(8~14μm)の赤外線サーモグラフィでの測定では、非破壊で欠陥の検出が可能であった。
図1
図2