(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像装置、画像処理装置、及び、画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20220817BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20220817BHJP
A61B 6/03 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G06T1/00 290C
A61B6/03 375
A61B6/03 360D
(21)【出願番号】P 2018168195
(22)【出願日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
(72)【発明者】
【氏名】永尾 尚子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 安秀
(72)【発明者】
【氏名】河田 康雄
(72)【発明者】
【氏名】原田 邦明
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-047224(JP,A)
【文献】特開2005-261440(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037063(WO,A1)
【文献】特表2003-514600(JP,A)
【文献】特開2013-146585(JP,A)
【文献】特開2005-323628(JP,A)
【文献】特開2013-206244(JP,A)
【文献】特開2013-223674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
A61B 6/00 - 6/14
G06T 1/00 , 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管撮像法に基づく撮像を行い、検査対象から核磁気共鳴信号を収集し、前記検査対象の三次元画像を取得する撮像部と、
前記撮像部が取得した画像を処理する画像処理部と、を備え、
前記画像処理部は、前記三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成する画像切り出し部を備え、
前記画像切り出し部は、
前記撮像部が取得した前記三次元画像において、ランドマークとなる部位の位置を算出するランドマーク算出部と、
前記ランドマーク算出部が算出したランドマーク位置を用いて、前記三次元画像の角度及び/又は位置を補正する画像位置補正部と、
補正後の前記三次元画像から、特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成する第一のマスク画像作成部と、
前記ランドマーク算出部が算出したランドマーク位置と前記特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、
補正後の前記三次元画像の前記血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成する第二のマスク画像作成部と、
前記特定組織抽出マスク画像と前記血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成する統合マスク画像作成部と、を有し、
前記統合抽出マスク画像を用いて、
補正後の前記三次元画像から前記所定領域の血管を切り出すことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記画像処理部は、
前記画像切り出し部が切り出した三次元血管画像に対し、投影処理を行い、表示装置に表示させる投影処理部を、さらに備えることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
血管撮影により取得した三次元画像を受け付ける画像受付部と、
前記三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成する画像切り出し部と、を備え、前記画像切り出し部は、
前記画像受付部が受け付けた前記三次元画像において、ランドマークとなる部位の位置を算出するランドマーク算出部と、
前記ランドマーク算出部が算出したランドマーク位置を用いて、前記三次元画像の角度及び/又は位置を補正する画像位置補正部と、
補正後の前記三次元画像から、特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成する第一マスク画像作成部と、
前記ランドマーク算出部が算出したランドマーク位置と前記特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、
補正後の前記三次元画像の前記血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスクを作成する第二マスク画像作成部と、
前記特定組織抽出マスク画像と前記血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成する統合マスク画像作成部と、を有し、
前記統合抽出マスク画像を用いて、
補正後の前記三次元画像から前記所定領域の血管を切り出すことを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
血管撮影により取得した三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成す
る画像処理方法であって、
前記三次元画像においてランドマークとなる部位の位置を算出し、
算出したランドマーク位置を用いて、前記三次元画像の角度及び/又は位置を補正し、
補正後の前記三次元画像から、前記所定領域に含まれる特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成し、
前記ランドマークの位置と前記特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、
補正後の前記三次元画像の前記血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成し、
前記特定組織抽出マスク画像と前記血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成し、
前記統合抽出マスク画像を用いて、
補正後の前記三次元画像から所定領域の血管を切り出すことを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の画像処理方法であって、
前記ランドマークの位置の算出において、機械学習法により前記三次元画像におけるランドマーク部位を検出するステップを含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項6】
請求項4に記載の画像処理方法であって、
前記特定組織の
画素値の均質性を利用して、前記特定組織抽出マスク画像を作成することを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の画像処理方法であって、
前記特定組織抽出マスク画像の作成において、
前記三次元画像の所定サイズの範囲毎に局所SNR画像を算出し、
前記局所SNR画像を二値化しバイナリー画像を算出し、
前記バイナリー画像において画素が連結している最大の領域を抽出し、
前記最大領域を所定サイズだけ拡張し、最大領域に囲まれる領域の画素を最大領域の画素に置き換えて穴埋め処理を行うステップを含む画像処理方法。
【請求項8】
請求項6に記載の画像処理方法であって、
前記特定組織抽出マスク画像の作成において、
前記三次元画像において、シード点を設定し、当該シード点を開始点として領域拡張法により前記特定組織を抽出し、
抽出された特定組織の内側及び/又は特定組織辺縁において、前記特定組織に囲まれる領域の画素を前記特定組織の画素に置き換えて穴埋め処理を行うステップを含む画像処理方法。
【請求項9】
請求項4に記載の画像処理方法であって、
前記特定組織抽出マスク画像の作成において、
機械学習法により前記三次元画像における特定組織を抽出するステップを含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
請求項4に記載の画像処理方法において、前記特定組織は脳実質であり、
前記特定組織抽出マスクを作成する処理は、
前記三次元画像を二値化し、ノイズを除去したノイズ除去バイナリー画像を作成するステップと、
前記ノイズ除去バイナリー画像について、外側から頭蓋までの組織を除去するステップと、
頭蓋から脳表面までの組織を除去するステップと、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】
請求項
4に記載の画像処理方法であって、
前記血管抽出マスク画像の作成において、
前記ランドマーク位置と、前記特定組織抽出マスク画像の重心位置とを用いて、血管探索範囲を決定し、
前記血管探索範囲において、シード点を設定し、当該シード点を開始点として領域拡張法により血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成するステップを含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載の画像処理方法であって、
前記血管抽出マスク画像の作成において、さらに、
前記領域拡張法により抽出した血管抽出マスク画像を、所定サイズ膨張し、膨張血管マスクを作成するとともに、前記膨張血管マスクを反転して、反転膨張血管マスクを作成し、
前記膨張血管マスクと前記反転膨張血管マスクとを統合し、統合血管マスクを作成し、
前記統合抽出マスク画像の作成において、
前記統合血管マスクと前記特定組織抽出マスク画像とを統合し、前記統合抽出マスク画像とすることを特徴とする画像処理方法。
【請求項13】
血管撮影により取得した三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成する画像処理方法であって、
前記三次元画像においてランドマークとなる部位の位置を算出し、
前記三次元画像から、前記所定領域に含まれる特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成し、
前記ランドマークの位置と前記特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、前記三次元画像の前記血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成し、
血管抽出マスク画像の作成において、前記ランドマーク位置と、前記特定組織抽出マスク画像の重心位置とを用いて、血管探索範囲を決定し、
前記血管探索範囲において、シード点を設定し、当該シード点を開始点として領域拡張法により血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成し、
前記特定組織抽出マスク画像と前記血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成し、
前記統合抽出マスク画像を用いて、前記三次元画像から所定領域の血管を切り出すことを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮像装置(以下、MRI装置という)などの医用撮像装置で取得した血管撮像画像の処理技術に関し、特に三次元画像から血管のみを切り出す技術(クリッピング)に関する。
【背景技術】
【0002】
脳などの血管の狭窄などを診断するために血管画像が用いられる。血管画像は、例えば、MRI装置で血管撮像法(MRA:Magnetic Resonance Angiography)により取得した、血管を含む三次元画像を、最大値投影法(MIP:Maximum Intensity Projection)を用いて2次元投影することにより得ることができる。投影する方向を変えることで、あらゆる角度から血管像を見ることができ、太い血管等で隠れていた血管の異常なども見つけることがでる。ただし投影によって得られた血管画像は、皮下脂肪や頭蓋骨の骨髄など血管以外の不要な組織も含まれるため、MIP画像を表示する前に、不要組織を除去し、血管のみを切り出す作業(クリッピング作業)が必要となる。
【0003】
従来、クリッピングは手作業で行われ、手間のかかる煩雑な作業であったが、自動化する技術も提案されている。例えば、特許文献1に記載された自動化方法では、次の手順によりクリッピングを行う。まずT1強調画像等の形態画像を用いて観察対象となる血管の領域(例えば脳)を抽出するためのマスクを作成する。次に形態画像とは別に取得した血管画像から、マスクを用いて対象領域を抽出し、高信号となる血管を閾値処理により抽出する。さらにモルフォロジー処理を行って太い血管のみを抽出し、この太い血管もとに領域成長法により、太い血管とそれにつながる細い血管を抽出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1のクリッピング技術は、血管の太さとそれとのつながりとを用いて血管を抽出するものであるが、被検者によって血管の太さは異なるため、太い血管を適切に特定できず不要な血管を抽出してしまう可能性がある。また血管の途中で狭窄があると血管を適切に抽出することができない。
【0006】
さらに特許文献1の技術では、対象領域を抽出するマスクを作成するために、血管撮像とは別に形態画像を取得するための撮像を要する。また例えば脳の血管を観察する場合、脳領域の血管のみならず頭蓋底側の血管も描出されている必要があるが、脳領域を抽出するマスクでは、脳領域に近接しない領域にある頭蓋底側の血管を抽出することができない。
【0007】
そこで本発明は、抽出すべき血管を確実に抽出することが可能な自動クリッピング技術を提供すること、血管画像以外の撮像を不要とし、血管画像のみを用いて血管のクリッピングを行うことが可能な自動クリッピング技術を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、血管撮像によって取得した三次元画像から特定組織領域を抽出する特定組織抽出マスク画像と、特定領域と予め設定したランドマークとで決定される領域(血管探索範囲)から血管を抽出して血管抽出マスク画像とを統合し、統合マスクを作成する。三次元画像に対し統合マスクを作用することで、三次元画像から血管を切り出す。
【0009】
即ち、本発明のMRI装置は、血管撮像法に基づく撮像を行い、検査対象から核磁気共鳴信号を収集し、前記検査対象の三次元画像を取得する撮像部と、前記撮像部が取得した画像を処理する画像処理部と、を備え、前記画像処理部は、前記三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成する画像切り出し部を備える。画像切り出し部は、前記撮像部が取得した前記三次元画像において、ランドマークとなる部位の位置を算出するランドマーク算出部と、前記三次元画像から、特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成する第一のマスク画像作成部と、前記ランドマーク算出部が算出したランドマーク位置と前記特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、前記三次元画像の前記血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成する第二のマスク画像作成部と、前記特定組織抽出マスク画像と前記血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成する統合マスク画像作成部と、を有し、前記統合抽出マスク画像を用いて、前記三次元画像から前記所定領域の血管を切り出す。
【0010】
本発明は、上述したMRI装置の画像処理部の機能を持ち、MRI装置から独立した画像処理装置も含む。
【0011】
また本発明の画像処理方法は、血管撮影により取得した三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成する画像処理方法であって、前記三次元画像においてランドマークとなる部位の位置を算出し、前記三次元画像から、前記所定領域に含まれる特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成し、前記ランドマークの位置と前記特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、前記三次元画像の前記血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成し、前記特定組織抽出マスク画像と前記血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成する。前記統合抽出マスク画像を用いて、前記三次元画像から前記所定領域の血管を切り出す。
【0012】
本発明は、上述した画像処理方法を実行するプログラムも含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、対象部位を構成する特定の組織を抽出した特定組織抽出マスク画像と、対象部位に含まれるランドマークをもとに、特定組織抽出マスク画像とは別に作成した血管抽出マスク画像とを統合して、MRA用のマスク(統合抽出マスク画像)を作成し、このマスク画像を三次元画像からの血管切り出しに用いることにより、血管の太さの個人依存性の影響を受けることなく、対象部位の血管を抽出できる。また狭窄等で血管のつながりだけからでは抽出できない血管や、特定組織に近接する領域の重要な血管も漏れなく抽出することができる。さらに本発明によれば、血管画像のみを用いるので、それ以外の撮像を不要とし、撮像時間が長時間化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第一実施形態の画像処理部の詳細を示す機能ブロック図
【
図3】第一実施形態における血管撮像から血管画像表示までの流れを示す図
【
図4】血管撮像に用いるパルスシーケンスの一例を示す図
【
図5】第一実施形態における血管切り出し処理の流れを示す図
【
図6】第一実施形態におけるランドマーク算出部の処理の流れを示す図
【
図7】(A)~(C)は、ランドマーク位置に基づく、画像の回転・移動を説明する図
【
図8】第一実施形態及びその変形例における、脳抽出マスク画像作成部の処理の流れを示す図
【
図9】(A)~(E)は、それぞれ、
図8の処理で得られるマスク画像を示す図
【
図10】第一実施形態における血管抽出
マスク画像作成部の処理の
流れを示す図
【
図13】
図10の処理で得られる、処理途中のマスク画像を3断面のMIP像として示す図で、(A)は領域拡張処理により得られるマスク画像、(B)は膨張処理により得られる画像を示す。
【
図15】第一実施形態における統合抽出マスク像作成部の処理を説明する図
【
図16】第一実施形態のランドマーク算出処理の変形例を示す図
【
図17】第一実施形態の脳抽出マスク画像作成処理の変形例を示す図
【
図18】第二実施形態の画像処理装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
<第一実施形態>
まず
図1及び
図2を参照して、本実施形態のMRI装置の概要について説明する。
【0017】
MRI装置100は、
図1に示すように、静磁場中に置かれた被検体の組織を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を生じさせて、それによって生じる核磁気共鳴信号を収集し、被検体画像(MR画像)を取得する撮像部10、撮像部10が取得したMR画像に対し種々の演算を行う画像処理部20、撮像部10及び画像処理部20の処理結果などを記憶する記憶装置30を備えている。
【0018】
撮像部10は、一般的なMRI装置と同様であり、
図2に示すように、被検体40が置かれる空間(撮像空間)に静磁場を発生する超電導や常電導などの静磁場コイル101或いは永久磁石と、静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル102及びシムコイル103と、核磁気共鳴周波数の高周波パルスを被検体40に照射する送信用のRFコイル(単に送信コイルという)104と、被検体40から発生する核磁気共鳴信号を検出する受信用のRFコイル(単に受信コイルという)105と、撮像を所定のパルスシーケンスに従って制御するシーケンス制御装置111と、を備える。
【0019】
送信コイル104は高周波信号を発生する送信機106に、受信コイルコイル105は、受信コイル105が検出したRF信号である核磁気共鳴信号(NMR信号)を検波し、AD変換等を行う受信機107に、それぞれ接続されている。
【0020】
傾斜磁場コイル102は、互いに直交する3軸方向の傾斜磁場発生コイルからなり、それぞれ傾斜磁場電源108により駆動されて、静磁場に磁場勾配を与えることにより核磁気共鳴信号に位置情報を付与する。シムコイル103は、シム用電源109により駆動され、静磁場コイル101のみでは達成できない静磁場の均一性を達成する。
【0021】
シーケンス制御装置111は、予め設定されたパルスシーケンスに従って、送信機106、受信機107、傾斜磁場電源108及びシム用電源109を制御し、撮像を制御する。
【0022】
MRI装置100は、上述した撮像部のほかに、計算機110、表示装置(ディスプレイ)112、入力装置113、及び、計算機110の処理結果である画像やデータ及び各種パルスシーケンスなどを格納した外部記憶装置130などを備えている。計算機110は、入力装置113を介してユーザが設定した撮像条件や撮像パラメータ及びパルスシーケンスをシーケンス制御装置111に送り、装置全体の制御を行うとともに、受信機107からNMR信号を受け取り、信号処理、画像再構成、補正等の演算を行う。また
図2に示す例では、計算機110は、
図1に示した画像処理部20の機能を実現する。但し、画像処理部20の機能は、MRI装置に備わる計算機110とは別の計算機で実現してもよいし、独立した画像処理装置であってもよい。
【0023】
画像処理部20は、
図1に示すように、撮像部10で取得したMR画像から特定の組織の画像を切り出す画像切り出し部21と、MR画像や画像切り出し部21で抽出された特定組織の画像に対し投影処理を行い、表示装置に表示させる投影処理部23とを備えている。投影画像を表示させる表示装置は、
図2に示す、MRI装置に付随するディスプレイ112であってもよいし、それ以外の表示装置であってもよい。
【0024】
画像切り出し部21は、画像切り出しに必要な各種計算を行うための機能部として、ランドマーク算出部211、特定組織抽出マスク画像作成部(第一のマスク画像作成部)213、血管抽出マスク画像作成部(第二のマスク画像作成部)215、及び、統合マスク画像作成部217を備える。また必要に応じて、画像切り出しに用いる三次元画像の角度や位置を変更する画像位置補正部219を備えていてもよい。各機能の詳細は後述する。
【0025】
計算機110や画像処理部20が行う制御及び演算の各処理は、計算機110に組み込まれたソフトウェアとして実現可能であり、記憶装置に格納された、各処理の手順を決めたプログラム(ソフトウェア)を、計算機110のCPUがメモリにロードして実行することにより実現される。但し、一部の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programable Gate Array)などのハードウェアで実現することも可能である。
【0026】
次に上記構成のMRI装置における撮像の手順について、頭部の血管撮像を例にして説明する。
図3に処理の一例を示す。この例においては、まず撮像部10が、血管撮像用のパルスシーケンスを実行し、血管画像を取得する(S1)。血管撮像用のパルスシーケンスは、特に限定されないが、例えば
図4に示すような三次元TOF(Time of Flight)法のパルスシーケンスが実行される。図中、RFは、高周波パルス401の印加及びNMR信号402の取得のタイミングを示し、Gs、Gp及びGrは、スライス方向、位相エンコード方向及び読み出し方向の傾斜磁場パルス403~408の印加タイミングと大きさを示している。3桁の数字のあとのハイフン後の数字は、繰り返しを示す数字であり、例えば「-1」が付いたパルスと信号は、1番目の繰り返しで印加されるパルス及び取得される信号である。
【0027】
このような血管撮像用パルスシーケンスの実行によって収集されたNMR信号402に対し、計算機110が三次元フーリエ変換等の再構成演算を施すことにより、血管を高輝度に描出した三次元画像が得られる(S2)。ただしこの三次元画像には、血管以外の組織も含まれている。このような血管以外の不要組織を除去するために、画像処理部20の画像切り出し部21(
図1)は、観察したい血管が含まれる部位の組織(特定組織)を抽出した特定組織マスク画像と血管を抽出した血管抽出マスク画像との2種類のマスクを作成し、三次元画像から血管部分を切り取った画像(三次元血管画像)を作成する(S3)。最後に、投影処理部23が三次元血管画像に対し、MIP(最大値投影処理)等の投影処理を行う(S4)。MIPは、所定の軸を中心として180度の範囲で所定角度毎に行い、各角度のMIP画像を順次表示させることにより、血管を任意の方向から見ることが可能になる。
【0028】
血管画像の作成(S3)は、具体的には
図5に示すように、ランドマーク算出部211により撮像部位(ここでは頭部)のうちMRI画像におけるランドマークとなる部位の位置を算出するステップS31と、特定組織抽出マスク画像作成部213により、三次元画像から脳の部分(特定組織)を抽出した画像(特定組織抽出マスク画像、本実施形態では脳抽出マスク画像という)を算出するステップS32と、血管抽出マスク画像作成部215により、ステップS31で算出したランドマーク位置と脳抽出マスク画像とを用いて血管を抽出する範囲(血管探索範囲)を決定し、当該範囲内の血管を抽出した画像(血管抽出マスク画像)を算出するステップS33と、統合マスク画像作成部217により、ステップS32で算出した脳抽出マスク画像とステップS33で算出した血管抽出マスクとの論理和をとり、統合マスクを算出するステップS34と、処理対象である三次元画像とステップS34で算出した統合マスクと用いて三次元血管画像を作成するステップS35と含む。
【0029】
以下、上述した画像切り出し部21の各処理の詳細を説明する。
【0030】
[ランドマーク算出:S31]
ランドマーク算出ステップでは、まず、後述する血管抽出マスク画像を算出する際に、血管探索範囲を決定するためのランドマークとなる生体組織を設定し、次に当該生体組織の解剖学的特徴をもとに三次元画像上の位置を算出する。ランドマーク算出処理S31の手順の一例を
図6に示す。
【0031】
図6の例では、ランドマーク算出部211は、最初にユーザ設定条件或いはデフォルト設定条件を読み込み、所定の生体組織を設定する(S311)。ランドマークとなる生体組織は、診断対象となる血管が含まれる部位によって適宜選択することができ、頭部血管撮像であれば、例えば眼球を設定する。生体組織の設定は、デフォルトで眼球等を設定しておいてもよいし、本実施形態による血管抽出を行う場合にユーザが所望の生体組織を指定し、それを画像処理部20が受け付けてもよい。
【0032】
次に、撮像部10が撮像した三次元画像の分解能を低分解能に変換する(S312)。低分解能画像にしておくことにより、解剖学的特徴を用いて眼球を検出する計算量を軽減することができる。またMRI装置が設置される施設や使用条件によって、三次元画像の分解能やFOVが異なる場合にも、本処理におけるこれらパラメータを標準化することができ、後続処理の精度の均一性を高めることができる。ただしステップS312は計算機の処理能力に応じて適宜省略してもよいし、分解能の程度を変更してもよい。
【0033】
ランドマークが設定されると、ランドマーク算出部211は設定された生体組織の解剖学的特徴から三次元画像におけるランドマーク位置を算出する(S313)。眼球であれば、球体であることや統計的なサイズ範囲が既知であるので、所定のサイズ範囲にある球体を検出することで、左右の眼球を検出することができ、検出した球体の中心位置やz方向上端などを算出することができる。
【0034】
ランドマーク算出部211はランドマーク位置を算出した後、必要に応じて、ランドマーク位置が画像の所定の位置となるように、画像位置補正部219が、三次元画像を回転/移動する(S314)。この様子を
図7に示す。撮像時には被検体の撮像部位(頭部)が静磁場の中心に一致するように被検体を撮像空間に配置することが理想であるが、実際の撮像時には撮像部位が中心から若干ずれる場合がある。
図7(A)に示す例では、左右の眼球を結ぶ線L1が画像の横軸に対し傾き、且つ顔の中心線L2と交差する点Pが画像中心から左側にずれている。このような場合、画像位置補正部219は、左右の眼球を結ぶ線L1が横軸と平行となるように画像を回転させるとともに(
図7(B)の状態)、交差する点Pが画像中心となるように画像を平行移動させる(
図7(C)の状態)。ランドマーク算出部211は、このように画像を回転/移動後の位置をランドマーク位置とする(S315)。なお後述する血管抽出マスク算出処理の仕方によっては、画像の回転/移動処理は省略することも可能である。
【0035】
[脳抽出マスク画像算出:S32]
特定組織抽出マスク画像作成部213が、撮像した三次元画像から特定の組織、ここでは脳、を抽出し、脳抽出マスク画像を作成する。脳領域の抽出の手法には、いくつかの方法が考えられるが、本実施形態では、NMR信号のうち脳組織からの信号が局所的な均一性を有することを利用して、脳領域を抽出する。
【0036】
脳抽出マスク画像算出の処理手順を、
図8のフローを用いて説明する。
【0037】
まず局所均一性を表す画像として、所定の範囲毎に局所SNR画像を算出する(S321~S323)。このため、三次元画像の各画素について、所定の半径r(例えば3mm)の球内に含まれる画素の平均値及び標準偏差を算出する(S321、S323)。各画素の平均値及び標準偏差を用いて、画素毎にSNR(信号ノイズ比)を算出し、SNRを画素とする局所SNR画像を算出する(S323)。SNRは、信号強度/標準偏差に比例し、均一な組織では高いSNRとなるが、脳と頭蓋骨との境界など脳の外側の領域では、信号値がばらつき、低SNRとなる。従ってSNR画像では、
図9(A)に示すように、脳の領域が高い画素値となる。なお
図9では、AX面の画像を示しているが、脳抽出マスク画像算出の処理は三次元的な処理である。
【0038】
次に局所SNR画像を閾値により二値化処理してバイナリー画像を算出する(S324)。
図9(A)のSNR画像を二値化したバイナリー画像を
図9(B)に示す。この画像では、高信号の脳の部分と、頭部表面の部分が残っているが、領域の大きさは脳が圧倒的である。そこで対象外の頭部表面を除去するために、バイナリー画像において画素が連結した最大の領域を抽出する(S325)。最大領域の抽出は、例えば領域拡張法により隣接する画素の画素値が「1」である画素を連結して画素が連結した領域を抽出し、抽出される複数の領域のうち、画素数が最大となる領域を連結画素最大領域とする。この処理により、
図9(C)に示すように、脳のみが抽出された画像となる。
【0039】
ついで連結画素最大領域を所定サイズだけ拡張する(S326)。所定サイズは、局所SNR画像を算出する際の局所のサイズに相当する。この処理によって、SNR画像を二値化することでバイナリー画像に含まれないこととなる脳の辺縁部分を含めることができる。その後、拡張された最大領域の内側において、最大領域に囲まれる領域の画素を最大領域の画素に置き換える穴埋め処理を行う(S327)。これにより、脳の輪郭内を抽出した脳抽出マスク画像が得られる。
図9(D)に穴埋め前の画像(拡張後の画像)、
図9(E)に穴埋め後の画像を示す。穴埋め処理では、脳の辺縁部においても、最大領域に囲まれた凹部を穴埋め処理してもよい。これにより辺縁部の毛細血管等を網羅した脳抽出マスク画像が得られる。
【0040】
[血管抽出マスク画像算出:S33]
血管抽出マスク画像は、まず、上述したステップS31で算出したランドマーク位置と、ステップS32で算出した脳抽出マスクとを用いて、血管を探索する範囲を決定し、その範囲で領域拡張法により血管を抽出することにより作成する。
【0041】
血管抽出マスク画像算出の処理手順を、
図10のフローを用いて説明する。
まず三次元画像において、血管探索範囲を設定するための基準位置を算出する(S331)。基準位置は、z方向(AX面スライス方向)については、x、y方向(AX面における横縦方向)を設定する。z方向の基準位置は、ステップS31で算出したランドマーク位置から決定する。具体的には、ランドマークが左右眼球である場合、例えば
図11に示すように、左右眼球の上端をz方向の位置(血管探索範囲の上端位置)とする。或いは左右眼球の上端からz方向に所定の距離の位置としてもよい。xy方向の基準位置は、ステップS32で算出した脳抽出マスク画像の重心位置とする。重心は三次元の脳抽出マスク画像の重心でもよいが、z方向の基準位置におけるAX面の重心でもよい。いずれにしてもそのxy座標を、x方向及びy方向の基準位置とする。
【0042】
算出した基準位置に基づいて血管探索範囲を設定する(S332)。血管探索範囲は、例えば、z方向の基準位置を上端とし、基準位置(x、y)を中心とする半径r1の円柱或いは一辺の長さがr1×2の四角柱とする。「r1」の値は、経験的に求められる眼球上端から頸椎までの長さ(経験値)などであり、予め記憶装置に格納された年齢別/性別の平均値データベースから被検体の年齢や性に合致するものを選択して設定してもよい。
【0043】
血管探索範囲が設定されたならば、この範囲について領域拡張法により血管を抽出する。このため、まず血管探索範囲に含まれる信号に対して閾値以上の画素をシード点に設定する(S333)。シード点は、例えば基準位置(x,y,z)を通るAX面、COR面及びSAG面のそれぞれについて、閾値以上の点をシード点として設定する。シード点探索用閾値は、脳の画素値と血管の画素値を明確に分離できる値であればよく、限定されるものではないが、例えば画像内の最大値の半分の画素値をシード点探索用閾値として設定することができる。こうすることで最も確からしい血管のシード点を抽出することができる。その後、領域拡張法によって連続した血管信号を抽出する。このとき用いる閾値(領域拡張用閾値)は、例えば、
図12に示すような、各面の画素値のヒストグラムにおいて、脳領域のピークの標準偏差σの3倍(3σ)の位置の画素値とすることができる。領域拡張法では、シード点の近傍の画素で領域拡張用閾値以上の条件を満たす画素を抽出するという処理を、抽出された画素をシード点として再設定し、広げながら繰り返す(S334)。
【0044】
以上のステップS331~S334により、血管探索範囲から血管を切り出した血管抽出マスク画像M1(3次元マスク画像)が得られる。領域拡張法実行後の血管抽出マスク画像M1を
図13(A)に示す。
図13では画像を見やすくするために、3次元の血管抽出マスク画像をZ方向、Y方向及びX方向にそれぞれMIP処理して得たAX像(M1
AX)、COR像(M1
COR)及びSAG像(M1
SAG)を示す。
【0045】
領域拡張法では閾値以上の血管を抽出しているので、例えば閾値以下となってしまう細い血管や閉塞のある血管などが抽出されない可能性がある。このように領域拡張法では抽出できなかった血管を、最終的な血管抽出マスクに含めるために、続いて、領域拡張実行後の血管抽出マスク画像M1を膨張して膨張血管抽出マスクM2を算出する(S335)。膨張は、抽出した血管に沿った画素毎に所定の半径r2の範囲を血管の画素値とする処理を行う。半径「r2」は後述の反転膨張血管抽出マスク算出処理(S336)において、左右の血管の非対称性を補填できる範囲で経験的に設定する値(経験値)であり、およそ5~6mm程度とする。膨張後の血管抽出マスク画像M2を
図13(B)に示す。ここでもM2を3断面の画像M2
AX、M2
COR、M2
SAGとして示す。
【0046】
ついで膨張血管抽出マスクM2を左右反転し、反転膨張血管抽出マスクM2revを作成する(S336)。この反転する処理は、脳を走行する血管が基本的に左右対称であることを利用し、血管拡張法に基づく血管抽出では抽出されない血管を抽出するために行う。例えば、左右の血管のうち一方に、閉塞等のために抽出されなかった血管があった場合にも、他方の血管を反転した画像には対応する血管が含まれている。最後に膨張血管抽出マスクM2と反転膨張血管抽出マスクM2revとの和集合を算出し、統合された血管抽出マスク画像Mを作成する(S337)。
【0047】
本実施形態では、ランドマーク算出ステップS31で説明したように、ランドマーク位置を算出した後、脳抽出マスク画像及び血管抽出マスク画像を作成するための元の画像である三次元画像を、そのSAG面が画像中心となるように、即ち正中面となるように回転/移動(
図6:ステップS314)しているので、ステップS336では単純にマスク画像を左右反転すればよい。回転/移動ステップS314を省略した場合には、反転に先立って、ランドマーク位置をもとに正中面を決定し、正中面に対し膨張血管マスク画像を反転させてもよい。例えばランドマークが左右眼球である場合、それらの中心を結ぶ線の中央を含み、その線に直交する断面を正中面と決定することができる。
【0048】
以上のステップS331~S337により、血管検索範囲における血管を過不足なく網羅した血管抽出マスク画像を得ることができる。ステップS336及びステップS337により作成される血管抽出マスク画像のAX面のMIP像を
図14に示す。
【0049】
[統合マスク画像算出:S34]
本ステップでは、
図15に示すように、ステップS32で作成した脳抽出マスク画像(A)と、ステップS33で作成した血管抽出マスク画像(B)との論理和(和集合)をとり、統合マスク画像(C)を作成する。
図15は、SAG面のMIP画像を示し、統合マスク画像を見やすくするために、血管抽出マスク画像を黒で表示しているが、実際は、両マスク画像は、抽出領域の画素値を1、その他の領域の画素値を0とする画像である。統合マスク画像には、脳抽出マスク画像だけでは抽出できない血管の部分(図中、点線の丸で囲った部分)が含まれ、観察対象部位の血管が過不足なく含まれた領域抽出マスクとなっている。
【0050】
[血管像作成:S35]
最後にもとの三次元画像(撮像部10が取得したMRA画像)にステップS34で作成した統合マスク画像を掛け合わせることで、三次元画像から血管を切り出した三次元血管画像が得られる。投影処理部23(
図1)は、この三次元血管画像を所定の軸を中心として所定の角度の投影処理を行い、MIP画像を得る。さらに、軸や角度を異ならせてMIP画像を得たり、それを連続的に動画表示したりすることは、従来の血管画像の処理と同様である。
【0051】
なおステップS31のランドマーク算出において、三次元画像を移動/回転した場合には、ステップS34の後、ステップS35で投影処理をする前に、三次元画像をもとの角度・位置に戻す処理を行ってもよい。但し、この処理はステップS314と同様に、省略することも可能である。
【0052】
以上説明した本実施形態のMRI装置における画像処理によれば、一つのMRA画像を用いて、異なる2つの組織抽出マスク画像を作成し、且つ1つのマスク画像については、予め算出したランドマーク位置に基づいて血管を抽出する領域(血管探索範囲)を決定しその範囲の血管抽出マスク画像を作成することにより、観察対象部位の血管をその太さや閉塞部の有無に拘わらず過不足なく抽出することができる。また脳抽出マスク画像の作成は、セグメンテーション技術を用いずに、脳組織の均質性を利用して脳組織を抽出するので、脳実質のコントラストが十分ではないMRA画像からでも脳抽出することができる。従って、2つの組織抽出マスク画像を一つのMRA画像から作成することができ、MRA以外の形態画像撮像を不要とし、且つ2つのマスク画像の位置ずれの問題も生じない。
【0053】
なお第一実施形態では、対象部位が脳とその近傍の血管である場合を説明したが、心臓や肝臓などの所定臓器やその周辺の血管を切り出す場合、四肢部の血管を切り出す場合にも、本実施形態の手法を適用することが可能である。
【0054】
また、上述した第一実施形態において、画像処理の一部を省略したり、他の手段で置き換えたりことも可能である。以下、第一実施形態の変形例として、ランドマーク算出或いは特定組織抽出マスク作成を他の手法で実現する変形例を説明する。
【0055】
<ランドマーク算出の変形例1>
第一実施形態では、ランドマーク算出において、解剖学的特徴に基づき生体組織を検出する場合を説明したが、生体組織の抽出は生体組織の解剖学的特徴を学習した機械学習アルゴリズムを用いてもよい。本変形例では、
図6のランドマーク算出フローにおいて、ステップS311~S313は、
図16に示すように、機械学習アルゴリズムによる処理S310に置き換わる。
【0056】
機械学習アルゴリズムは、手動で抽出した眼球の画像を正解とした正解データと、眼球以外の画像を不正解とした不正解データとをセットとして学習させた学習済みのアルゴリズムで、未知の画像データを入力すると、画像データに含まれる眼球を検出し、その中心位置を算出するようにプログラムされたものを用いることができる。
【0057】
機械学習の対象画像データとして三次元データを用い、三次元画像から直接三次元的な中心位置を算出、出力するようにしてもよいが、
図16の点線の処理(S310-1、S310-2)として示すように、三次元データの代わりに、AX面、COR面及びSAG面の3断面の二次元画像を用いて、各断面について眼球の中心位置を求めるようにしてもよい(S310-1)。3断面から算出された中心位置は、必ずしも一致しないので、これらの重心を中心位置とすることができる。さらに、繰り返し計算によって、各断面で算出した眼球中心位置の距離が最小となる位置を算出するプロセスを組み込んでもよい(S310-2)。三次元データの代わりに二次元データを処理することで、比較的少ない学習データで学習させた場合にも位置算出の精度を高めることができる。これに加えて、複数の位置候補間距離を最小化するプロセスを追加することで、さらに精度を高めることができる。
【0058】
また十分な量の学習データがある場合には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等を用いた深層学習(DL)を採用してもよい。DLでは、種々の画像と眼球の画像(その部分データ)との組み合わせからなる学習データで学習済みのCNNに、処理対象である三次元画像の分割した画像データを入力し、出力データとして眼球を含む画像を抽出する。
【0059】
本変形例は、ランドマークとする生体組織が予め決められている場合には、それを判定する学習済み機械学習アルゴリズムやCNNを実装しておくことにより、容易に実現することができる。或いは複数の生体組織毎に学習済み機械学習アルゴリズム等を用意し、ユーザが生体組織を選択したときに対応する学習済み機械学習アルゴリズムを用いてもよい。
【0060】
<ランドマーク算出の変形例2>
本変形例では、ランドマーク位置の算出を、ハフ変換を用いて行う。ハフ変換は、抽出すべき生体組織の形状をパラメータで特定し、そのパラメータを満たす形状を画像から抽出する手法であり、生体組織が眼球であれば、その形状(球)と半径が経験値で知られているので、球を特定するパラメータと、半径の条件とを用いて、三次元画像から眼球を抽出することができる。また眼球が存在する位置は限定されているので、眼球位置について例えば頭頂からの距離や脳底部からの距離などの条件などを加えておいてもよく、これにより眼球抽出の精度を高めることができる。
【0061】
ハフ変換を用いることにより、機械学習の場合と同様に、一つのステップで眼球中心位置を算出することができる。
【0062】
<脳抽出マスク画像算出の変形例1>
第一実施形態では、脳実質の信号強度の均質性に着目し、均質性を表す画像であるSNR画像を作成し、それをもとに二値化、拡張等の処理を行って脳抽出マスク画像を算出した(
図5:S32)。本変形例でも、脳実質の信号強度の均質性を利用することは第一実施形態と同じであるが、本変形例では、領域拡張法により脳組織を抽出する。
【0063】
本変形例における処理を、第一実施形態において参照した
図8のフローを再度参照して説明する。
図8において変形例の処理の流れは点線矢印で示す。
【0064】
まず三次元画像において、シード点を設定する(S320-1)。シード点は、例えば、S32の前段のステップS31で算出したランドマーク位置を基準に所定の距離(経験的に脳実質である可能性が高い部分までの距離)にある点としてもよいし、
図13に示すようなヒストグラムにおいて脳実質である画素値の範囲にある画素から選択してもよい。また精度を高めるために複数のシード点を設定してもよい。
【0065】
次にシード点を開始点として領域拡張法により、画素値が所定の範囲にある画素を均質組織として抽出する(S320-2)。こうして抽出された脳抽出画像は、ほぼ
図9(C)に示す画像(連結画素最大領域画像)と同様のものとなる。
【0066】
その後、第一実施形態の処理と同様に、連結画素最大領域画像を所定サイズだけ拡張する(S326)。拡張するサイズは、例えば3mm程度とする。ついで、拡張後の脳抽出画像の内側及び/均質組織辺縁において、均質組織に囲まれる領域の画素を均質組織の画素に置き換えて穴埋め処理を行う(S327)。さらに辺縁の凹部の穴埋め処理を行ってもよい。
【0067】
本変形例によれば、シード点を適切に設定することにより、第一実施形態と同様に、脳辺縁部の毛細血管等を網羅した脳抽出マスク画像が得られる。
【0068】
<脳抽出マスク画像算出の変形例2>
第一実施形態及び上述の変形例(脳抽出マスク画像算出の変形例1)では、脳実質の信号強度の均質性を利用して、三次元画像から脳組織を抽出したが、本変形例では、三次元画像のうち脳組織以外の組織、例えば、皮下脂肪、頭蓋の骨髄液等の信号を除去することで、脳を抽出する。
【0069】
本変形例における処理を、
図17のフローを参照して説明する。
まず三次元画像を、閾値を用いて二値化し、閾値以上を1、未満を0とするバイナリー画像を算出する(S32-1)。MRA画像では血管(血流)、皮下脂肪、脳実質、頭蓋やノイズの順に信号値が低くなる。従って閾値を脳実質の信号値かそれよりやや低く設定することで、ノイズを除去したバイナリー画像が得られる。またバイナリー画像では頭蓋は黒く抜けた領域となる。
【0070】
ついでバイナリー画像の頭蓋から外側を除去する(S32-2)。この処理は、三次元画像の外側から各画素を検索し、画素値が「1」の領域であって中心に向かう方向に隣接して画素値が「0」の領域がある領域を除去する処理である。これにより、頭蓋外側の皮下脂肪信号や骨髄信号を除去する。
【0071】
さらに頭蓋と脳表面との間に存在する皮下脂肪信号や骨髄信号を除去する(S32-3)。この処理でも画像の外側から中心に向かって検索し、画素値が「1」の領域であって中心に向かう方向に隣接して画素値が「0」の領域がある領域を除去する。これにより、例えば、萎縮が進み脳表面に深い凹部が形成された脳であっても、精度よく脳を抽出することができる。
【0072】
このように本変形例によれば、脳の信号値の均質性を利用するのではなく、画像の外側から不要信号を除去する手法を取ることにより、標準的ではない形状の脳であっても、精度よく脳を抽出した脳抽出マスクを作成することができる。
【0073】
<脳抽出マスク画像算出の変形例3>
第一実施形態と変形例1は、脳組織の信号値をもとに、また変形例2は、脳以外の信号値をもとに、それぞれ特定組織として脳を抽出したが、信号値の連続性や不連続性を基にするのではなく、ランドマーク位置の算出(変形例1)と同様に脳の解剖学的特徴を学習させた機械学習アルゴリズムを用いて、機械学習法により脳を抽出することも可能である。
この場合、機械学習アルゴリズムの学習には時間を要するが、脳抽出の処理にその他の演算を必要としないので、容易に脳抽出マスク画像を作成することができる。
【0074】
以上、第一実施形態の変形例を説明したが、これら変形例の処理は適宜組み合わせて、採用することも可能である。例えば、ランドマーク算出の変形例1と脳抽出マスク画像算出の変形例1ないし変形例3のいずれかと組み合わせたり、ランドマーク算出の変形例2と脳抽出マスク画像算出の変形例1ないし変形例3のいずれかと組み合わせたりして、第一実施形態のステップS31、S32に採用することが可能である。
【0075】
<第二実施形態>
第一実施形態では、画像処理部20の機能は、MRI装置に備えられた計算機110等で実行するものとして説明したが、MRI装置とは独立したワークステーション(計算機等)で画像処理部20の機能を実現することも可能である。
【0076】
MRI装置とは別のワークステーションで画像処理を行う構成図を
図18に示す。
図18で示した例では、ワークステーションに構築された画像処理装置200が、MRI装置或いはMRI装置で撮像した画像を格納する記憶装置から、直接或いはインターネット等を介してMRA画像を取り込み、画像処理部20の機能を実現する。画像処理装置200は、第一実施形態で説明したランドマーク算出部、特定組織抽出マスク画像作成部(脳抽出マスク画像作成部)、血管抽出マスク画像作成部、統合マスク画像作成の各機能を実現する画像処理プログラムに従って、画像切り出し処理(
図5のフロー)を実行する。
【0077】
即ち、この画像処理プロブラムは、コンピュータに、血管撮影により取得した三次元画像から所定領域の血管を切り出し、三次元血管画像を作成する処理を実行させる画像処理プログラムであって、三次元血管画像を作成する処理は、三次元画像においてランドマークとなる部位の位置を算出するステップ(S31)と、三次元画像から、所定領域に含まれる特定の組織を抽出し、特定組織抽出マスク画像を作成するステップ(S32)と、ランドマークの位置と特定組織抽出マスク画像とを用いて血管探索範囲を決定し、三次元画像の血管探索範囲に含まれる血管を抽出し、血管抽出マスク画像を作成するステップ(S33)と、特定組織抽出マスク画像と血管抽出マスク画像とを統合し、統合抽出マスク画像を作成するステップ(S34)と、統合抽出マスク画像を用いて、前記三次元画像から所定領域の血管を切り出すステップ(S35)と、を含む。
【0078】
ランドマークの位置を算出するステップ(S31)及び特定組織を抽出するステップ(S32)の少なくとも一方を実行する機械学習アルゴリズムを含んでいてもよい。また特定組織抽出マスク画像を作成するステップにおける特定組織領域の抽出及び血管抽出マスクを作成するステップにおける血管の抽出の少なくとも一方を実行する領域拡張法によるアルゴリズムを含んでいてもよい。
これらステップにおける処理の内容は第一実施形態で説明した処理と同様であり、説明を省略する。
【0079】
但し、画像処理装置200の機能の一部、例えば図中、点線で示した投影処理部23の機能を省略し、画像処理装置は統合マスクを作成する画像切り出し部の機能のみを行うなど適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
10:撮像部、20:画像処理部、21:画像切り出し部、23:投影処理部、30:記憶装置、40:被検体、100:MRI装置、110:計算機、200:画像処理装置、211:ランドマーク算出部、213:脳抽出マスク画像作成部(特定組織抽出マスク画像作成部)、215:血管抽出マスク画像作成部、217:統合マスク画像作成部、219:画像位置補正部。