(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/496 20060101AFI20220817BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220817BHJP
A61K 31/4412 20060101ALI20220817BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220817BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220817BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
A61K31/496
A61K31/5377
A61K31/4412
A61P25/02
A61P31/14
C12N15/09 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2018562415
(86)(22)【出願日】2018-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2018001301
(87)【国際公開番号】W WO2018135556
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2017007887
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】山野 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】植田 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】荒木 一司
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141616(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/140324(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/142504(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/129424(WO,A1)
【文献】臨床検査, 2005, Vol.49, No.4, pp.409-414
【文献】医学のあゆみ, 2015, Vol.255, No.5, pp.485-490
【文献】Journal of Medicinal Chemistry, 2016, Vol.59, No.16, pp.7617-7633
【文献】Expert Opinion on Therapeutic Patents, 2017, Vol.27, No.7, pp.797-813
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/CAPlus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物、またはその医薬上許容可能な塩を含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物。
【請求項2】
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩を含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩を含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩を含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物、またはその医薬上許容可能な塩の使用。
【請求項6】
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩の、
請求項5に記載の使用。
【請求項7】
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩の、
請求項5に記載の使用。
【請求項8】
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩の、
請求項5に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトTリンパ球好性ウイルス1型(HTLV-1)の感染者の約0.25%に発症するHTLV-1関連脊髄症(HAM)は、いまだ治療法が確立されていない難治性神経疾患である。その病態は、HTLV-1感染細胞に起因した過剰な免疫応答による神経組織障害と考えられている。これまでの治療で用いられてきたステロイドやIFNαでは治療効果は限定的であり、病気の根本的な原因である感染細胞の減少効果に乏しいという重大な問題点を抱えていた。さらに、HTLV-1はエイズウイルスとは異なりウイルス遺伝子発現が少ない為、逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤による治療効果も乏しかった。
【0003】
HTLV-1に関連する炎症性疾患は、発症者の数が大変少ないため、病因解明および治療薬開発のための研究が進みにくい。なお、腫瘍の一種である成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)の治療に特許文献1記載の特定の化合物が有用であることが明らかにされている(特許文献2)。しかし、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)とHTLV-1関連脊髄症(HAM)は、ATLが免疫抑制状態の疾患であるのに対して、HAMは免疫が亢進して炎症を生じる疾患であるように発症メカニズムが全く逆である。従って、その治療方法も治療薬も両疾患では全く異なり、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)の治療は抗がん剤による一方で、HTLV-1関連脊髄症(HAM)の治療は、抗炎症剤による。その上、ATLとHAMとでは、病態に関与する細胞が全く異なっていることが明らかにされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/141616号公報
【文献】日本国特許第6009135号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Araya N., et al., Viruses, 3: 1532-1548, 2010
【発明の概要】
【0006】
本発明は、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物を提供する。
【0007】
本発明者らは、HTLV-1関連脊髄症(HAM)患者のCD4+CD25+CCR4+細胞およびそれ以外のCD4+細胞が、EZH2を過剰発現していることを明らかにした。本発明者らは、HAM患者の脊髄由来PBMCが、EZH2阻害剤によってその自発増殖活性が阻害され、IL-10産生能が増強され、HTLV-1感染細胞数が低減し、アポトーシスを誘発することを見出した。本発明者らはまた、上記のEZH2阻害剤による効果が、EZH1/2二重阻害剤ではより増幅されることを見出した。このことから、本発明者らは、HAMにおいては、EZH1とEZH2のそれぞれの酵素活性の抑制が治療上の重要性を有していることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を有効成分として含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物。
(2)前記阻害剤が、EZH1/2二重阻害剤である、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)前記阻害剤が、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(1)に記載の医薬組成物。
(4)前記阻害剤が、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、若しくは(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(5)前記阻害剤が、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(6)前記阻害剤が、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(7)前記阻害剤が、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩である、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(8) N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物、またはその医薬上許容可能な塩を含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物。
(9) (2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩を含む、上記(8)に記載の医薬組成物。
(10) (2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩を含む、上記(8)に記載の医薬組成物。
(11) (2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩を含む、上記(8)に記載の医薬組成物。
(12)HTLV-1関連脊髄症をその必要のある対象において治療する方法であって、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の治療上有効量を当該患者に投与することを含む、方法。
(13)前記阻害剤が、EZH1/2二重阻害剤である、上記(12)に記載の方法。
(14)前記阻害剤が、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物であるか、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(12)に記載の方法。
(15)前記阻害剤が、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、若しくは(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(12)または(13)に記載の方法。
(16)前記阻害剤が、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(12)または(13)に記載の方法。
(17)前記阻害剤が、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(12)または(13)に記載の方法。
(18)前記阻害剤が、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩である、上記(12)または(13)に記載の方法。
(19) HTLV-1関連脊髄症をその必要のある対象において治療する方法であって、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物、またはその医薬上許容可能な塩の治療上有効量を当該対象に投与する、方法。
(20) (2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩の治療上有効量を当該対象に投与する、上記(19)に記載の方法。
(21) (2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩の治療上有効量を当該対象に投与する、上記(19)に記載の方法。
(22) (2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩の治療上有効量を当該対象に投与する、上記(19)に記載の方法。
(23) HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の使用。
(24)前記阻害剤が、EZH1/2二重阻害剤である、上記(23)に記載の使用。
(25)前記阻害剤が、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物であるか、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(23)に記載の使用。
(26)前記阻害剤が、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、若しくは(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(23)または(24)に記載の使用。
(27)前記阻害剤が、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(23)または(24)に記載の使用。
(28)前記阻害剤が、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩である、上記(23)または(24)に記載の使用。
(29)前記阻害剤が、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩である、上記(23)または(24)に記載の使用。
(30)HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド
から選択される化合物、またはその医薬上許容可能な塩の使用。
(31) (2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩の、上記(30)に記載の使用。
(32) (2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその医薬上許容可能な塩の、上記(30)に記載の使用。
(33) (2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩の、上記(30)に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、HAM患者の末梢血液から採取した末梢血単核細胞(PBMC)において、健常者のPBMCよりもEZH2の遺伝子発現が高いことを示す。
【
図2】
図2は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物B(定義は後記する)がそれぞれ、HAM特有に見られる無刺激条件下でのPBMCの自発的増殖活性を阻害することを示す。
【
図3】
図3は、EZH2阻害剤であるE7438とGSK126がそれぞれ、HAM特有に見られる無刺激条件下でのPBMCの自発的増殖活性を阻害することを示す。
【
図4】
図4は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物Bがそれぞれ、免疫抑制性サイトカインであるIL-10の放出を増強することを示す。
【
図5】
図5は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物Bがそれぞれ、HTLV-1プロウイルス量を低減することを示す。
【
図6】
図6は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物Bがそれぞれ、HAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞の生存率を低減することを示す。
【
図7】
図7は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物Bがそれぞれ、濃度依存的にHAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞の生存率を低減することを示す。
【
図8】
図8は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物Bがそれぞれ、HAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞のアポトーシスを誘導することを示す。
【
図9】
図9は、EZH1/2二重阻害剤である化合物Aおよび化合物Bがそれぞれ、HAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞のアポトーシスを誘導することを示す。
図8とは細胞が由来する患者が異なる。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本明細書では、「対象」は、哺乳動物、特にヒトを意味する。
【0011】
本明細書では、「HTLV-1関連脊髄症」(以下、「HAM」ともいうことがある)は、WHOガイドライン(Osame M. Review of WHO Kagoshima meeting and diagnostic guidelines for HAM/TSP. In: Blattner W, ed. Human Retrovirology: HTLV. New York, New York, USA: Raven Press; 1990:191-197.)に従って医師により診断される、慢性進行性の痙性脊髄麻痺を伴う疾患である。
HAMは、ヒトTリンパ好性ウイルス1型(HTLV-1)の感染者の一部において発症する。HAMでは、慢性炎症過程が脊髄、特に胸髄中下部を中心に起こる。HAMの脊髄病変では、細胞性免疫反応が持続的に生じていることを示す所見が得られている。
HAMの脊髄病変におけるHTLV-1感染細胞のin situPCR法を用いた解析から、HTLV-1感染細胞は浸潤したT細胞にのみ確認され、周辺の神経細胞やグリア細胞には確認されない。また、HAMの脊髄病巣の病理学的解析から、浸潤炎症細胞の主な構成細胞は、病初期はHTLV-1感染細胞を含むCD4陽性細胞であるが、経過が進むにつれCD8陽性細胞になることが示されている。このことから、HAMは単なる神経感染症ではなく、浸潤したHTLV-1感染T細胞を中心とした免疫応答が制御不能となり、慢性炎症病巣を形成し、および/または維持することが病態の中心であると考えられている。
【0012】
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は、HTLV-1の感染者の一部で発症する疾患である。ATLはHTLV-1感染細胞由来の悪性腫瘍(がん)であり、HAMとは全く異なる疾患であることが知られている。HTLV-1感染細胞は、HAMにおいてもATLにおいてもCD4+CD25+CCR4+ T細胞であると考えられている。HAMでは、CD4+CD25+CCR4+ T細胞において、Foxp3発現が低下し、INF-γ産生が向上している(HTLV-1 tax発現も高い)一方で制御性T細胞(Treg)が抑制されている。これとは対照的に、ATLでは、CD4+CD25+CCR4+ T細胞において、Foxp3発現が向上し(HTLV-1 tax発現がない)、免疫抑制状態になっている上に、Treg機能が向上し、このことがATLにおいて臨床的に観察される細胞性免疫不全を説明するものとされる。
このように、HAMでは、免疫応答が過剰になり、慢性炎症性病巣を形成することがその原因になっているが、ATLではむしろ、免疫が抑制状態となっている。
すなわちHAMとATLは、上記のように発症メカニズムが逆であり、関与する細胞成分が異なる(Araya N., et al., Viruses, 3: 1532-1548, 2010)。
【0013】
本発明者らは、HAM患者由来PBMCをEZH1/2二重阻害剤で処理することで、免疫抑制性サイトカインであるIL-10の産生を向上させることを見出した。本発明者らはまた、HAM患者由来PMBCをEZH2阻害剤またはEZH1/2二重阻害剤で処理することで、その自発増殖活性を抑制できることを見出した。本発明者らはさらに、HAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞をEZH1/2二重阻害剤で処理することで、細胞の生存率を低減させること、細胞にアポトーシスを誘発させることを見出した。また、HAM患者由来PBMCの自発増殖活性の抑制は、EZH2阻害剤よりも、EZH1/2二重阻害剤において効果が高かった。EZH2の酵素活性の阻害効果が同等であっても、EZH1/2二重阻害剤において効果が高いことから、HAM患者由来PMBCの自発増殖活性の抑制においては、EZH1の活性阻害も重要であることを見出した。
【0014】
従って、本発明によれば、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を有効成分として含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物が提供される。
【0015】
本発明によれば、EZH1阻害剤を有効成分として含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物が提供される。
本発明によれば、EZH2阻害剤を有効成分として含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物が提供される。
本発明によればまた、EZH1/2二重阻害剤を有効成分として含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物が提供される。
【0016】
本発明の医薬組成物は、賦形剤をさらに含んでいてもよい。
【0017】
EZH1阻害剤としては、特に限定されないが例えば、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、並びにこれらの医薬上許容可能な塩
が挙げられ、本発明で用いることができる。
【0018】
EZH2阻害剤としては、特に限定されないが例えば、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、並びにこれらの医薬上許容可能な塩が挙げられ、本発明で用いることができる。EZH2阻害剤としてはまた、(1S,2R,5R)-5-(4-アミノイミダゾ[4,5-c]ピリジン-1-イル)-3-(ヒドロキシメチル)シクロペント-3-エン-1,2-ジオールおよび医薬上許容可能なその塩が挙げられ、本発明で用いることができる。EZH2阻害剤としてはさらに、N-[(6-メチル-2-オキソ-4-プロピル-1H-ピリジン-3-イル)メチル]-1-プロパン-2-イル-6-[6-(4-プロパン-2-イルピペラジン-1-イル)ピリジン-3-イル]インダゾール-4-カルボキサミドおよび医薬上許容可能なその塩が挙げられ、本発明で用いることができる。EZH2阻害剤としてはさらにまた、タゼメトスタット(EPZ-6438)が挙げられる。EZH2阻害剤としてはさらにまた、N-[(1,2-ジヒドロ-6-メチル-2-オキソ-4-プロピル-3-ピリジニル)メチル]-1-)1-メチルエチル)-6-[2-(4-メチル-1-ピペラジニル)-4-ピリジニル]-1H-インダゾール-4-カルボキサミドおよび医薬上許容可能なその塩が挙げられ、本発明で用いることができる。EZH2阻害剤としてはさらにまた、Stazi, G. et al, Expert Opinion on Therapeutic Patents, 27:7, 797-813, 2017に記載された様々な化合物が挙げられ、本発明で用いることができる。また、EZH2阻害剤については世界中で開発がなされており、例えば以下に記載のEZH2阻害剤を本発明で用いることができる:WO2014/100646、WO2015/057859、WO2016/081523、WO2014/144747、WO2015/010078、WO2015/010049、WO2015/200650、WO2015/132765、WO2015/004618、WO2016/066697、WO2014/124418、WO2015/023915、WO2016/130396、WO2015/077193、WO2015/077194、WO2015/193768、WO2016/073956、WO2016/073903、WO2016/102493、WO2016/089804、WO2014/151369。本発明では、EZH2阻害剤は、EZH1阻害作用をさらに有していてもよく、例えば、EZH1/2二重阻害剤であってもよい。例えば、上記のN-[(6-メチル-2-オキソ-4-プロピル-1H-ピリジン-3-イル)メチル]-1-プロパン-2-イル-6-[6-(4-プロパン-2-イルピペラジン-1-イル)ピリジン-3-イル]インダゾール-4-カルボキサミドおよび医薬上許容可能なその塩は、EZH1/2二重阻害剤であり得る。本発明のある態様では、EZH1阻害剤およびEZH2阻害剤の両方がHTLV-1関連脊髄症患者に治療のために投与されてもよい。
【0019】
EZH1/2二重阻害剤としては、特に限定されないが例えば、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、並びにこれらの医薬上許容可能な塩が挙げられ、本発明で用いることができる。
【0020】
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドは、WO2015/141616号公報の実施例15に開示されており、下記の構造を有する化合物である。
【化1】
【0021】
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドは、WO2015/141616号公報の実施例35に開示されており、下記の構造を有する化合物である。
【化2】
【0022】
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩は、WO2015/141616号公報の実施例80に開示されている。
【0023】
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミドは、GSK126ともいい、WO2011/140324の実施例270に開示されている。
【0024】
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミドは、E7438、またはEPZ-6438ともいい、WO2012/142504の実施例44に開示されている。
【0025】
本発明のある態様では、EZH1阻害剤は、例えば、ヒトEZH1によるヒストンメチルトランスフェラーゼ活性の阻害効果においてIC50が、1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得る。IC50は、例えば、WO2015/141616の試験例1に記載の方法に基づいて測定することができる。例えば、EZH1の標的配列(例えば、ヒトのヒストンH3タンパク質の12番目から40番目のアミノ酸配列;ヒトのヒストンH3タンパク質のアミノ酸配列としては、例えば、GenBank登録番号:CAB02546.1に登録された配列が挙げられる)を有するペプチドに対してトリチウムラベルされたS-アデノシルメチオニンを転移させるEZH1の活性の阻害効果を検出することにより測定することができる。EZH1のメチルトランスフェラーゼ活性は、PRC2-EZH1複合体を用いて測定することができる。
【0026】
本発明のある態様では、EZH2阻害剤は、例えば、ヒトEZH2によるヒストンメチルトランスフェラーゼ活性の阻害効果においてIC50が、1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得る。IC50は、例えば、WO2015/141616の試験例2に記載の方法に基づいて測定することができる。例えば、EZH2の標的配列(例えば、ヒトのヒストンH3タンパク質の12番目から40番目のアミノ酸配列;ヒトのヒストンH3タンパク質のアミノ酸配列としては、例えば、GenBank登録番号:CAB02546.1に登録された配列が挙げられる)を有するペプチドに対してトリチウムラベルされたS-アデノシルメチオニンを転移させるEZH2の活性の阻害効果を検出することにより測定することができる。EZH2のメチルトランスフェラーゼ活性は、PRC2-EZH2複合体を用いて測定することができる。
【0027】
本発明のある態様では、EZH1/2二重阻害剤は、例えば、ヒトEZH1によるヒストンメチルトランスフェラーゼ活性の阻害効果においてIC50が、1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得、かつ、ヒトEZH2によるヒストンメチルトランスフェラーゼ活性の阻害効果においてIC50が、1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得る。EZH1およびEZH2に対するIC50はそれぞれ、例えば、上述の通りに測定することができる。
【0028】
本発明のある態様では、EZH1阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症患者から樹立されたHCT-4細胞株に対するGI50が1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得る。本明細書では、「GI50」は、ある薬剤の最大の増殖抑制活性の半分を達成するのに必要な当該薬剤の濃度を意味する。
【0029】
本発明のある態様では、EZH2阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症患者から樹立されたHCT-4細胞株に対するGI50が1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得る。
【0030】
本発明のある態様では、EZH1/2二重阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症患者から樹立されたHCT-4細胞株に対するGI50が1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、100nM以下、90nM以下、80nM以下、70nM以下、60nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、または10nM以下であり得る。
【0031】
本発明の化合物は、所望により医薬上許容可能な塩とすることができる。医薬上許容可能な塩とは、著しい毒性を有さず、医薬として使用され得る塩をいう。本発明の化合物は、塩基性の基を有するため、酸と反応させることにより塩にすることができる。
【0032】
塩基性の基に基づく塩としては、例えば、フッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のようなC1-C6アルキルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩、酢酸塩、りんご酸塩、フマ-ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩、アジピン酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩が挙げられる。
【0033】
本発明の化合物の医薬上許容可能な塩は、大気中に放置したり、再析出させることにより、水分子を取り込んで、水和物となる場合があり、そのような水和物も本発明の塩に包含される。
【0034】
本発明の化合物の医薬上許容可能な塩は、溶媒中に放置されたり、再析出させることにより、ある種の溶媒を吸収し、溶媒和物となる場合があり、そのような溶媒和物も本発明の塩に包含される。
【0035】
また、本発明は、生体内における生理条件下で酵素や胃酸等による反応により本発明の医薬組成物の有効成分である化合物A又は化合物Bに変換される化合物、すなわち、酵素的に酸化、還元、又は加水分解等を起こして化合物A又は化合物Bに変換される化合物又は胃酸等により加水分解等を起こして化合物A又は化合物Bに変換される「医薬的に許容されるプロドラッグ化合物」も本発明に包含する。
【0036】
本発明の化合物又はその医薬上許容可能な塩は、公知の方法、例えば、抽出、沈殿、蒸留、クロマトグラフィー、析出による分別、再析出等により単離、精製することができる。
【0037】
本発明の化合物は、このような化合物を構成する原子の1以上に、非天然割合の原子同位体も含有し得る。原子同位体としては、例えば、重水素(2H)、トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)又は炭素-14(14C)などが挙げられる。また、前記化合物は、例えば、トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)又は炭素-14(14C)などの放射性同位体で放射性標識され得る。放射性標識された化合物は、治療又は予防剤、研究試薬、例えば、アッセイ試薬、及び診断剤、例えば、インビボ画像診断剤として有用である。本発明の化合物の全ての同位体変異種は、放射性であると否とを問わず、本発明の範囲に包含されるものとする。
【0038】
本発明の化合物又はその医薬上許容可能な塩は、種々の形態で投与することができる。その投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、乳剤、丸剤、散剤、シロップ剤(液剤)等による経口投与、又は注射剤(静脈内、筋肉内、皮下又は腹腔内投与)、点滴剤、坐剤(直腸投与)等による非経口投与が挙げられる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用し得る補助剤を用いて製剤化することができる。
【0039】
錠剤として使用する場合、担体として、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、硼酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等を使用することができる。また、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0040】
丸剤として使用する場合、担体として、例えば、グルコース、乳糖、カカオバター、デンプン、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、寒天等の崩壊剤等を使用することができる。
坐剤として使用する場合、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばポリエチレングリコール、カカオバター、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセリド等が挙げられる。
【0041】
注射剤として使用する場合、液剤、乳剤又は懸濁剤として使用することができる。これらの液剤、乳剤又は懸濁剤は、滅菌され、血液と等張であることが好ましい。これら液剤、乳剤又は懸濁剤の製造に用いる溶媒は、医療用の希釈剤として使用できるものであれば特に限定はなく、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するのに充分な量の食塩、グルコース又はグリセリンを製剤中に含んでいてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を含んでいてもよい。
【0042】
また、上記の製剤には、必要に応じて、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等を含めることもでき、更に、他の医薬品を含めることもできる。
【0043】
上記製剤に含まれる有効成分としての化合物の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、全組成物中0.5乃至70重量%、好ましくは1乃至30重量%含む。
【0044】
その使用量は患者(温血動物、特に人間)の症状、年齢等により異なるが、経口投与の場合には、1日あたり、上限として2000mg(好ましくは100mg)であり、下限として0.1mg(好ましくは1mg、さらに好ましくは10mg)を成人に対して、1日当り1乃至6回症状に応じて投与することが望ましい。
【0045】
本発明の医薬組成物は、他のHAM治療剤と併用することができる。併用可能な他のHAM治療剤としては、特に限定されないが例えば、副腎皮質ホルモン、プレドニゾロン、インターフェロン-α、アザチオプリン、サラゾスルファピリジン、アスコルビン酸、ペントキシフィリン、カゼイシロタ菌(ヤクルト400)、エリスロマイシン、ミゾリビン、フォスホマイシン、グリセオール、ヒト免疫グロブリン、ダナゾール、エペリゾン塩酸塩などから選択される他のHAM治療剤が挙げられる。
【0046】
従って、本発明では、上記他のHAM治療剤と併用するための、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を有効成分として含む、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬組成物が提供される。また、本発明では、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤と上記他のHAM治療剤のいずれか1以上との組合せ医薬であって、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための組合せ医薬が提供される。
【0047】
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の使用が提供される。
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、EZH1阻害剤の使用が提供される。
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、EZH2阻害剤の使用が提供される。
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、EZH1/2二重阻害剤の使用が提供される。
【0048】
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、並びにこれらの医薬上許容可能な塩から選択される化合物の使用が提供される。
【0049】
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を治療することに用いるための医薬の製造のための、
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、並びにこれらの医薬上許容可能な塩から選択される化合物の使用が提供される。
【0050】
本発明のある好ましい態様では、HTLV-1関連脊髄症の治療、またはそのための医薬の製造のために、EHZ1/2二重阻害剤である、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドの医薬上許容可能な塩としては、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩が用いられ得る。
【0051】
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象において、HTLV-1関連脊髄症を治療する方法であって、当該対象に治療上有効量のEZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を投与することを含む、方法が提供される。
【0052】
本発明によれば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象において、HTLV-1関連脊髄症を治療する方法であって、当該対象に治療上有効量の
N-[(1,2-ジヒドロ-4,6-ジメチル-2-オキソ-3-ピリジニル)メチル]-3-メチル-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-6-[6-(1-ピペラジニル)-3-ピリジニル]-1H-インドール-4-カルボキサミド、
N-((4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル)-5-(エチル(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ)-4-メチル-4’-(モルホリノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボキサミド、
(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、および
(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、並びにこれらの医薬上許容可能な塩から選択される化合物を投与することを含む、方法が提供される。
【0053】
本発明によれば、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を含む、免疫抑制剤が提供される。本発明によれば、免疫を抑制することに用いるための、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤が提供される。本発明によれば、免疫を抑制することに用いるための医薬の製造における、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の使用が提供される。本発明によれば、その必要のある対象において免疫を抑制する方法であって、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の治療上有効量を当該対象に投与することを含む、方法が提供される。
免疫の抑制に関するこれらの態様のそれぞれでは、上記阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象に投与され得る。また、これらの態様のそれぞれでは、免疫の抑制は、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象において亢進した炎症の抑制であり得る。また、この態様のそれぞれでは、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤としては、上述される阻害剤が挙げられ、本発明で用いることができる。
【0054】
本発明によればまた、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を含む、対象においてIL-10の産生量を増強することに用いるための医薬組成物が提供される。本発明によれば、IL-10の産生量を増強することに用いるためのEZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤が提供される。本発明によれば、IL-10の産生量を増強することに用いるための医薬の製造における、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の使用が提供される。本発明によれば、その必要のある対象においてIL-10の産生量を増強する方法であって、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の治療上有効量を当該対象に投与することを含む、方法が提供される。
IL-10の産生増強に関するこれらの態様のそれぞれでは、上記阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象に投与され得る。また、この態様のそれぞれでは、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤としては、上述される阻害剤が挙げられ、本発明で用いることができる。
【0055】
本発明によればまた、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を含む、対象(例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象)におけるPBMCの増殖活性を抑制することに用いるための医薬組成物が提供される。本発明によれば、対象(例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象)におけるPBMCの増殖活性を抑制することに用いるための、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤が提供される。本発明によれば、対象(例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象)におけるPBMCの増殖活性を抑制することに用いるための医薬の製造における、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の使用が提供される。本発明によれば、その必要のある対象(例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象)においてPBMCの増殖活性を抑制する方法であって、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の治療上有効量を当該対象に投与することを含む、方法が提供される。この態様では、PBMCの増殖活性は、HTLV-1感染細胞誘発性の自己増殖活性であり得る。この態様では、PBMCの増殖活性は、増殖刺激非存在下における自己増殖活性であり得る。この態様では,PBMCは、CD4+シングルポジティブT細胞および/またはCD8+シングルポジティブT細胞を含み得る。この態様では、PBMCは、CD4+CD25+CCR4+ T細胞を含み得る。
PBMC増殖活性の抑制に関するこれらの態様のそれぞれでは、上記阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象に投与され得る。また、この態様のそれぞれでは、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤としては、上述される阻害剤が挙げられ、本発明で用いることができる。
【0056】
本発明によれば、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤を含む、HTLV-1感染細胞にアポトーシスを誘発させることに用いるための医薬組成物が提供される。本発明によれば、HTLV-1感染細胞にアポトーシスを誘発させることに用いるための、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤が提供される。本発明によれば、HTLV-1感染細胞にアポトーシスを誘発させることに用いるための医薬の製造における、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の使用が提供される。本発明では、その必要のある対象(例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象)において、HTLV-1感染細胞にアポトーシスを誘発させる方法であって、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤からなる群から選択される阻害剤の治療上有効量を当該対象に投与することを含む、方法が提供される。
HTLV-1感染細胞にアポトーシスを誘発させることに関するこれらの態様のそれぞれでは、HTLV-1感染細胞は、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象の体内に存在する。これらの態様のそれぞれでは、上記阻害剤は、例えば、HTLV-1関連脊髄症を罹患した対象に投与され得る。また、この態様のそれぞれでは、EZH1阻害剤、EZH2阻害剤、およびEZH1/2二重阻害剤としては、上述される阻害剤が挙げられ、本発明で用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、(2R)-7-ブロモ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドを化合物Aと呼ぶ。また、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドを化合物Bと呼ぶ。
化合物Aは、WO2015/141616号公報の実施例15に記載の通りに合成した。化合物Bは、WO2015/141616号公報の実施例35に記載の通りに合成した。以下実施例では、このように合成した化合物AおよびBを用いた。
なお、化合物AおよびBは、EZH1とEZH2の両方の酵素活性を阻害する(WO2015/141616号公報)。
【0058】
以下実施例では、HAM/TSP患者はWHO診断基準に従って医師により診断された(Osame M. Review of WHO Kagoshima meeting and diagnostic guidelines for HAM/TSP In: Blattner W, ed. Human Retrovirology: HTLV. New York, New York, USA: Raven Press; 1990:191-197.)。
【0059】
実施例1:HAM細胞におけるEZH2発現レベルの上昇
本実施例では、HAM患者から得られた末梢血単核細胞(PBMC)と健常者のPBMCとの遺伝子発現解析を行い、EZH2の発現レベルがHAM患者由来PMBCで上昇していることを明らかにする。
【0060】
HAM患者5名末梢血から分離した末梢血単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cell:PBMC)よりhuman CD4+ isolation kit(Miltenyi Biotec)を用いてCD4+細胞を分離した後、抗CCR4抗体(BD 551121)を結合させたAnti-mouse IgG1 MicroBeads (Miltenyi Biotec)を用いてCD4+CCR4+細胞を分離した。CD4+CCR4+細胞画分には、HTLV-1感染細胞が含まれる。同様に健常者5名のPBMCからCD4+CCR4+細胞を分離しコントロール群とした。分離したCD4+CCR4+細胞から全RNAを回収し、ReverTra Ace(東洋紡)を用いてcDNAを作製した。作製されたcDNAを用いてHAM患者CD4+CCR4+細胞と健常者CD4+CCR4+細胞間における遺伝子発現の差をマイクロアレイ解析により網羅的に解析した。その結果、EZH2の発現量に差が認められたため、EZH2の発現量の差をReal time PCRにより詳細に解析した。発現しているEZH2の検出に用いたプライマーセットはEZH2#35-F:TGTGGATACTCCTCCAAGGAAとEZH2#35-R:GAGGAGCCGTCCTTTTTCAであり、プローブはUniversal ProbeLibrary #35(Roche)を用いた。有意差検定は、GraphPad Prism6(MDF)のpaired t-testを用いて行った。結果は、
図1に示される通りであった。
【0061】
図1に示されるように、HAM患者CD4+CCR4+細胞(HAM-CD4+CCR4+)では健常者由来CD4+CCR4+細胞(HD-CD4+CCR4+)に比べEZH2 mRNA発現が2.6倍有意に上昇していた。この結果から、HAM患者由来感染細胞群では健常者由来細胞群に比べEZH2発現が上昇していることが明らかとなった。
興味深いことに、HTLV-1感染細胞以外のCD4+ T細胞においてもEZH2の発現レベルが向上していた。
【0062】
実施例2:EZH1/2二重阻害剤のHAMに対する効果
HAM患者由来PBMCは、無刺激条件下で培養を行うと自発的に増殖するという、他のPBMCにはない特徴を有する。
【0063】
そこで、HAM患者由来PBMCを用いてEZH1/2二重阻害剤の効果を検討した。EZH1/2二重阻害剤としては、化合物A、化合物Bを用いた。
化合物A、化合物Bの効果は、HAM患者PBMCにおける(1)自発増殖活性、(2)炎症抑制サイトカインIL-10産生量の変化(後述する実施例3)、(3)HTLV-1感染細胞数の変化(後述する実施例4)により評価した。その際、DMSO処理群と、1μg/ml プレドニゾロン(PSL)処理群をコントロールとした。炎症抑制作用を有するPSLは、HAM患者PBMCの自発増殖活性を抑制し得るが、感染細胞の除去作用を本実験系においても臨床的にも示さない。
【0064】
化合物A、化合物BによるHAM患者由来PBMCの過剰免疫応答を抑制する効果
8例のHAM患者PBMCを培地(10% FBS(GIBCO)を含むRPMI1640培地(wako))に懸濁し1×10
5細胞ずつ96穴丸底プレートに播種し(各濃度につき3ウェル用いた)、終濃度1、10、100、若しくは1000nMとなるよう化合物Aまたは化合物Bを添加し37℃、5% CO
2条件下で6日間培養した。DMSO処理群、1μg/mL PSL処理群をコントロールとした。培養開始から6日後、各ウェルに1μCi
3H-チミジンを添加し、37℃、5% CO
2条件下で16時間培養を行った。その後、培養細胞をセルハーべスター(Tomtec MH3 PerkinElmer)を用いてガラスフィルター(Printed Filtermat A PerkinElmer)に吸着させ、乾燥させた後に固体シンチレータMeltilex-A(PerkinElmer)を染み込ませた。MicroBeta(WALLAC MicroBeta TriLux 1450-021)を用いて細胞に取り込まれた
3H-チミジン量の測定を行った(Yamano et al. PLoS One. 2009, 4(8):e6517)。各HAM患者PBMCのDMSO処理群における
3H-チミジンのカウントの平均を100%として、化合物A、化合物B、および1μg/mL PSL処理群のカウントの相対値をそれぞれ算出し、HAM患者8例の平均値を求めた。有意差検定は、GraphPad Prism6(MDF)のFriedman検定を用いて行った。結果は、
図2上パネルに示される通りであった。
【0065】
図2上パネルに示されるように、化合物Aも化合物Bも、HAM患者8例全例のPBMCの自発増殖活性を濃度依存的に抑制した。試験に用いた全例の平均では、100nM以上の化合物Aまたは化合物Bの処理においていずれも統計学的に有意な抑制効果が認められた。その際のGI
50は、化合物Aでは73.0nM、化合物Bでは33.9nMであった。従って、EZH1/2二重阻害剤はHAM患者由来PBMCの過剰免疫応答を抑制する効果が示唆された。
患者数を16例に増やして同様の実験を行った結果を
図2下パネルに示す。HAM患者16例の自発増殖活性に対する結果を用いる場合は、GI
50は、化合物Aでは45.6nM、化合物Bでは25.9nMであった。
【0066】
いずれの実験でも、
図2上パネルおよび下パネルに示されるように100nM以下の低濃度領域においても、化合物AおよびBのHAM患者由来PMBCの自発増殖活性に対する抑制作用が観察された。
【0067】
EZH2阻害剤によるHAM患者由来PBMCの過剰免疫応答を抑制する効果
上記実施例において、化合物AおよびBに代えて、EZH2阻害剤を用いる以外は同じように、HAM患者由来PBMCに対する効果を確認した。
【0068】
EZH2阻害剤としては、GSK126(CAS No.: 1346574-57-9)とE7438(CASNo.: 1403254-99-8)を用いた。処理濃度は、最終濃度で1、10、100、1000、または10000nMとした。実験は、上記において症例を増やす前の8名のPBMCに対して実施した。結果は、
図3に示される通りであった。
【0069】
図3に示されるように、E7438(
図3上パネル)およびGSK126(
図3下パネル)はそれぞれ、HAM患者由来PBMCの自発増殖活性を抑制することが確認できた。GI
50は、E7438では214.2nM、GSK126では724.3nMであった。
このように、1μM以下の低濃度領域においてE7438およびGSK126のHAM患者由来PBMCの自発増殖活性に対する抑制作用が観察された。
【0070】
本実施例で用いたEZH1/2二重阻害剤とEZH2阻害剤とは、EZH2の酵素活性に対する阻害効果の強さはそれほど大きく変わらない。従って、HAM患者由来PBMCの自発増殖活性の阻害効果は、EZH2の阻害のみならず、EZH1の阻害の影響も強いことが理解できる。
【0071】
実施例3:EZH1/2二重阻害剤による炎症抑制性サイトカインIL-10の産生誘導
HAMは、PBMCによる炎症誘発がその病態の特徴である。従って、本実施例では、PBMCからのサイトカイン放出に対するEZH1/2二重阻害剤の効果を調べた。
【0072】
上記8例のHAM患者PBMCを培地(10% FBSを含むRPMI1640培地)に懸濁し5×10
5細胞ずつ48穴プレートに播種し、終濃度1、10、100、1000nMとなるよう化合物Aまたは化合物Bを加え、合計0.5mLの培養液において37℃、5% CO
2条件下で12日間培養した。DMSO処理群、1μg/mL PSL処理群をコントロールとした。培養開始から12日後、培養液を遠心分離して培養上清のみを回収した。培養上清中のIL-10濃度はCytokine Beads Array kit(BD Biosciences)を用いて、フローサイトメーターFACSCantoII(BD Biosciences)により測定した(Yamauchi et al. J Infect Dis. 2015, 211(2):238-48.)。DMSO処理群の培養液中におけるIL-10濃度を100%として、各濃度の化合物A、化合物Bまたは1μg/mL PSL処理群の培養液中のIL-10濃度変化を比較解析した。有意差検定は、GraphPad Prism6(MDF)のFriedman検定を用いて行った。結果は、
図4に示される通りであった。
【0073】
図4に示されるように、化合物Aおよび化合物Bはいずれも、PBMCからのIL-10の産生量を劇的に向上させた。抗炎症剤として知られるPSLと比較すると、これよりも10分の1程度の濃度でも同等以上のIL-10産生促進が観察された。
このことから、化合物Aおよび化合物Bは、HAM患者由来PBMCに対して作用し、HAMの主要な病態の一つである炎症を抑えることが示唆された。
一方で、INF-α、TNF-α、およびIL-6の産生量に関しては大きな変動はなかった。
【0074】
HAM患者由来PBMCは、無刺激条件下で自発増殖活性を有する。この自発増殖活性は、HAM感染細胞が免疫系を過剰応答させることによると考えられている。実施例3により、EZH1/2二重阻害剤がHAM患者由来PBMCに免疫抑制作用を持つIL-10を産生させることが明らかとなった。EZH1/2二重阻害剤は、免疫抑制作用を有するIL-10により免疫系の過剰応答を抑圧することによって、PBMCの自発増殖活性を阻害した可能性が示唆される。
【0075】
実施例4:EZH1/2二重阻害剤によるHAM患者由来PMBCからのHTLV-1感染細胞の除去効果
本実施例では、EZH1/2二重阻害剤がHAMの原因となるHTLV-1感染細胞の除去効果を有するかを検討した。
【0076】
上記8例のHAM患者PBMCを培地(10% FBSを含むRPMI1640培地)に懸濁し、5×10
5細胞ずつ48穴プレートに播種し、終濃度1、10、100、1000nMとなるよう化合物Aまたは化合物Bを加え合計0.5mlの培養液において37℃、5% CO
2条件下で12日間培養した。DMSO処理群、1μg/mL PSL処理群をコントロールとした。培養開始から12日後、培養液を遠心分離後、各培養条件の細胞懸濁液を回収し、遠心し上清を除いた細胞塊からゲノムDNA抽出を行った。抽出されたゲノムDNAを用いて、リアルタイムPCRによりHTLV-1プロウイルス量(感染細胞率)の測定を行った(Yamano et al. Blood. 2002, 99(1):88-94)。各HAM患者PBMCにDMSOを添加し培養した細胞におけるHTLV-1プロウイルス量を100%として、化合物A、化合物BまたはPSL処理群におけるHTLV-1プロウイルス量の相対値を算出し、HAM患者8例の平均値を求めた。有意差検定は、GraphPad Prism6(MDF)のFriedman検定を用いて行った。結果は、
図5に示される通りであった。
【0077】
図5に示されるように、HAM患者PBMC中のHTLV-1プロウイルス量は、化合物Aまたは化合物B処理により8例中5例において減少作用が見られた。試験に用いたHAM患者全例の平均では1000nMの化合物Aまたは化合物Bの処理において有意なプロウイルス量の減少効果が認められた。
【0078】
実施例5:EZH1/2二重阻害剤のHTLV-1感染細胞に対する効果
本実施例では、HAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞株を用いてEZH1/2二重阻害剤のその増殖に対する効果を調べた。
【0079】
上記HAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞株であるHCT-4とHCT-5は長崎国際大学 中村龍文教授よりご供与いただいた。HCT-4の培養は10% FBS (GIBCO),1% ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Wako)、100U/mL IL-2(細胞科学研究所)を含むRPMI1640培地を用い、HCT-5の培養は10% FBS,1% ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、1% L-グルタミン(SIGMA)、200U/mL IL-2を用いておこなった。75cm
2培養フラスコ中に3×10
6細胞のHCT-4または2.5×10
6細胞のHCT-5を培地20mLに播種し、DMSOおよび終濃度1μMとなるように化合物AまたはBを添加し、継代を繰り返しながら37℃、5% CO
2条件下で21日間培養した。継代はDMSO処理群の細胞数がHCT-4では3×10
6細胞、HCT-5では2.5×10
6細胞となる培養液量を新しい培地に加えて20mLとし、さらに化合物AまたはBを同濃度となるよう再添加した。培養期間開始後7、14、21日の段階で培養液から細胞を回収し、細胞濃度を計測することにより化合物AまたはBが細胞増殖に与える影響を検討した。細胞濃度の測定は、培養後の細胞を96穴プレートに100μLずつ播種し、Cell counting kit-8(CCK-8)(同仁化学研究所)を10μLずつ各ウェルに加え,37℃で3時間インキュベートした後に450nmの吸光度をプレートリーダー(iMark Microplate Reader, Biorad)で測定した。化合物A処理群または化合物B処理群における増殖率はそれぞれ、DMSO処理群をコントロールとして算出した。結果は、
図6に示される通りであった。
【0080】
図6に示されるように、化合物AおよびBのいずれも、HAMを引き起こす脳脊髄液由来HTLV-1感染細胞の生存率をDMSO処理群と比べて大きく低減することができた。このことから、化合物AおよびBは、HAMの治療に有効であることが示された。
【0081】
次に、6穴プレートに4.5×10
5細胞個のHCT-4または3.75×10
5細胞個のHCT-5を播種し、DMSOで調製した化合物AまたはBの希釈系列(10000nMから4倍希釈を8段階)を加え合計3mLの培養液で3~4日毎に継代を繰り返しながら37℃、5% CO
2条件下で14日間培養した。継代はDMSO処理群の細胞数がHCT-4では4.5×10
5細胞、HCT-5では3.75×10
5細胞となる培養液量を新しい培地に加えて、さらに化合物AまたはBを同濃度となるよう再添加し合計3mLの培養液とした。各々の条件で14日間培養した細胞を回収し、細胞濃度を計測することにより化合物AまたはBが細胞増殖に与える影響を検討した。細胞濃度の測定は、培養後の細胞を96穴プレートに100μLずつ播種し、CCK-8を10μLずつ各wellに加え,37℃で3時間インキュベートした後に450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。化合物A処理群または化合物B処理群における増殖率はDMSO処理群をコントロールとして算出した。結果は、
図7に示される通りであった。
【0082】
図7に示されるように、化合物AおよびBは、濃度依存的にHAM患者脳脊髄液から樹立したHTLV-1感染細胞の生存率を低下させた。HCT-4細胞に対するGI
50は、化合物Aにおいて7.63nM、化合物Bにおいて5.92nMであり、HCT-5細胞に対するGI
50は、化合物Aにおいて185.4nMであり、化合物Bにおいて90.6nMであった。
【0083】
実施例6:EZH1/2二重阻害剤によるHAM感染細胞に対するアポトーシス誘導活性
本実施例では、実施例5において21日間培養した細胞を用いて実験を行った。1μMの化合物Aまたは化合物Bを添加し21日間培養した細胞中におけるアポトーシス細胞を検出するため、PE Annexin V apoptosis Detection Kit I(BD)を用いて染色し、FACSにより解析を行った。本解析においてFSC(forward scatter)-SSC(side scatter)プロットより生細胞を検出した。また、生細胞中のAnnexin V-PE(アネキシンV)と7-AAD(7-アミノアクチノマイシンD)の解析において初期アポトーシス細胞はAnnexin V(+)7-AAD(-)細胞として検出された。結果は、
図8(HCT-4細胞)および
図9(HCT-5細胞)に示される通りであった。
【0084】
図8に示されるように、化合物AまたはBで処理されたHCT-4細胞は、生細胞が減少していることが明らかとなった。また、
図8において、化合物AまたはBで処理されたHCT-4細胞は、初期アポトーシス細胞が増加したことが明らかとなった。
図9に示されるように、化合物AまたはBで処理されたHCT-5細胞は、生細胞が減少していることが明らかとなった。また、
図9において、化合物AまたはBで処理されたHCT-5細胞は、初期アポトーシス細胞が増加したことが明らかとなった。
【配列表】