(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】測位装置
(51)【国際特許分類】
G01S 5/14 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
G01S5/14
(21)【出願番号】P 2019015644
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000204424
【氏名又は名称】大井電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティ デバシシュ
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英治
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-194445(JP,A)
【文献】特開2000-180526(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100892(WO,A1)
【文献】特開2008-249670(JP,A)
【文献】特開2002-159041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0311440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの固定局のそれぞれと無線端末との間の距離測定値を、3つの前記固定局のうちの少なくとも1つ、または、前記無線端末から取得する情報取得処理
を実行し、
3つの距離測定値のうちの2つの距離測定値に対する補正を、前記3つの距離測定値から2つを選択する3つの組み合わせについて順に実行する距離補正処理
を繰り返し実行し、
前記距離補正処理が
繰り返し実行された後の前記3つの距離測定値に基づいて、前記無線端末の位置を求める位置決定処
理を実行し、
前記距離補正処理は、
前記2つの距離測定値が求められた2つの前記固定局の位置をそれぞれの中心とし、前記2つの距離測定値をそれぞれの半径とする2つの円の幾何学的関係を判定し、前記幾何学的関係についての判定結果に基づいて、前記2つの距離測定値を補正する幾何学的補正処理を含み、
前記幾何学的補正処理は、
前記2つの円の幾何学的関係が、一方が他方を内包する内包関係、または隔離関係である場合に、前記2つの距離測定値を補正し、前記2つの円の幾何学的関係が、2点交差関係または1点接触関係である場合に、前記2つの距離測定値を補正しないで維持する処理を含む、ことを特徴とする測位装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測位装置において、
前記幾何学的補正処理は、
前記2つの円の幾何学的関係が、一方が他方を内包する内包関係、または隔離関係である場合に、前記2つの距離測定値と、前記2つの距離測定値が求められた2つの前記固定局間の距離とに基づいて、前記2つの距離測定値を補正する処理を含むことを特徴とする測位装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の測位装置において、
前記2つの円の幾何学的関係が、一方が他方を内包する内包関係、または隔離関係である場合に、前記幾何学的補正処理は、
2つの前記固定局の一方の位置を中心とし、前記2つの距離測定値のうち、一方の前記固定局に対応する距離測定値を半径とする円と、
2つの前記固定局の他方の位置を中心とし、前記2つの距離測定値のうち、他方の前記固定局に対応する距離測定値を半径とする円とが1点で接するように、
前記2つの距離測定値を補正する処理を含むことを特徴とする測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位装置に関し、特に、無線端末と複数の固定局のそれぞれとの間の距離に基づいて、無線端末の位置を測定する測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線端末の位置を測定する測位システムにつき研究開発が行われている。無線端末は、位置が既知である複数の固定局との間で無線信号を送受信することで、各固定局までの距離を測定する。情報処理装置は、無線端末から距離測定結果を取得し、無線端末から各固定局までの距離に基づいて無線端末の位置を求める。このような測位システムは、建造物内における人の居場所の確認や、工場における在庫管理等への応用が期待されている。
【0003】
測位システムとして、以下の特許文献1には、ビーコン装置を保持する移動体の位置を探索するシステムが記載されている。このシステムでは、複数の携帯端末のそれぞれがビーコン装置から送信されたビーコン信号を受信して、ビーコン装置までの距離を求める。移動体探索サーバは、各携帯端末の位置と、ビーコン装置までの距離を表す情報を各携帯端末から取得し、ビーコン装置の位置を求める。
【0004】
また、特許文献2には、無線タグ距離測定装置が記載されている。無線タグ距離測定装置は、無線タグに距離測定信号を送信し、それに応じて無線タグから送信された到来信号を受信する。無線タグ距離測定装置は、距離測定信号を送信してから到来信号を受信するまでの時間に基づいて、無線タグ距離測定装置から無線タグまでの距離を測定する。この文献には、複数の無線タグ距離測定装置による距離測定結果に基づいて、無線タグの位置を求めることが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、位置が未知である測定対象のノードと、位置が既知である3つの参照ノードのそれぞれとの間の距離を求め、3点測位法によって測定対象の位置を求める技術が記載されている。3点測位法は、参照ノードの位置を中心とし、参照ノードまでの距離を半径とする円を、3つの参照ノードのそれぞれについて求め、3つの円の交点を測定対象のノードの位置として求める測位方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-218931号公報
【文献】特開2009-174971号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】A Novel Enhance Positioning Trilateration Algorithm Implementation for Medical Implant In-Body Localization, International Journal of Antennas and Propagation, Vol 2013, Article ID 819695
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無線端末の測位を行うシステムでは、無線信号を用いて無線端末の測位が行われる。したがって、無線信号の伝搬状況によっては、測位精度が充分でないことがある。
【0009】
本発明は、無線端末の位置を高精度で求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、3つの固定局のそれぞれと無線端末との間の距離測定値を、3つの前記固定局のうちの少なくとも1つ、または、前記無線端末から取得する情報取得処理を実行し、 3つの距離測定値のうちの2つの距離測定値に対する補正を、前記3つの距離測定値から2つを選択する3つの組み合わせについて順に実行する距離補正処理を繰り返し実行し、 前記距離補正処理が繰り返し実行された後の前記3つの距離測定値に基づいて、前記無線端末の位置を求める位置決定処理を実行し、前記距離補正処理は、前記2つの距離測定値が求められた2つの前記固定局の位置をそれぞれの中心とし、前記2つの距離測定値をそれぞれの半径とする2つの円の幾何学的関係を判定し、前記幾何学的関係についての判定結果に基づいて、前記2つの距離測定値を補正する幾何学的補正処理を含み、前記幾何学的補正処理は、前記2つの円の幾何学的関係が、一方が他方を内包する内包関係、または隔離関係である場合に、前記2つの距離測定値を補正し、前記2つの円の幾何学的関係が、2点交差関係または1点接触関係である場合に、前記2つの距離測定値を補正しないで維持する処理を含む、ことを特徴とする。
【0011】
望ましくは、前記幾何学的補正処理は、前記2つの円の幾何学的関係が、一方が他方を内包する内包関係、または隔離関係である場合に、前記2つの距離測定値と、前記2つの距離測定値が求められた2つの前記固定局間の距離とに基づいて、前記2つの距離測定値を補正する処理を含む。
【0012】
望ましくは、前記2つの円の幾何学的関係が、一方が他方を内包する内包関係、または隔離関係である場合に、前記幾何学的補正処理は、2つの前記固定局の一方の位置を中心とし、前記2つの距離測定値のうち、一方の前記固定局に対応する距離測定値を半径とする円と、2つの前記固定局の他方の位置を中心とし、前記2つの距離測定値のうち、他方の前記固定局に対応する距離測定値を半径とする円とが1点で接するように、前記2つの距離測定値を補正する処理を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無線端末の位置を高精度で求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る測位システムを示す図である。
【
図2】2点交差関係にある円C
iおよび円C
jを示す図である。
【
図3】C
iC
j内包関係にある円C
iおよび円C
jを示す図である。
【
図4】C
jC
i内包関係にある円C
iおよび円C
jを示す図である。
【
図5】隔離関係にある円C
iおよび円C
jを示す図である。
【
図6】1点接触関係にある円C
iおよび円C
jを示す図である。
【
図7】距離補正処理によって1点で交わった状態となった円C
1~C
3を示す図である。
【
図8】無線端末のハードウエアの例を示す図である。
【
図9】情報処理装置のハードウエアの例を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る測位システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)測位システムの概要
図1には、本発明の実施形態に係る測位システム10が示されている。測位システム10は、無線端末12、固定局14-1~14-3、ネットワーク無線装置16、通信回線18および情報処理装置20を備えている。
【0016】
無線端末12は、固定局14-1~14-3のそれぞれとの間で無線信号の送受信を行い、各固定局までの距離を測定する。ネットワーク無線装置16は、無線端末12との間で無線通信を行い、無線端末12による測定結果を示す測定情報を取得する。ネットワーク無線装置16は、無線端末12から取得した測定情報を、インターネット等の通信回線18を介して情報処理装置20に送信する。測位装置としての情報処理装置20は、測定情報に含まれる各距離測定値を、後述する距離補正処理によって補正し、補正後の各距離測定値に基づいて無線端末12の位置を測定する。
【0017】
(2)測位システムで実行される測位処理
(2-1)測位処理の概要
本実施形態に係る測位システム10で実行される処理について具体的に説明する。無線端末12は、固定局14-1~14-3のそれぞれとの間で無線信号の送受信を行い、各固定局までの距離を測定し、各距離測定値を取得する。無線端末12は、距離測定値r1~r3を含む測定情報を生成する。ただし、距離測定値r1~r3は、それぞれ、無線端末12から固定局14-1~14-3までの距離の測定値である。無線端末12は、ネットワーク無線装置16との間で無線通信を行い、測定情報をネットワーク無線装置16に送信する。ネットワーク無線装置16は測定情報を受信し、通信回線18を介して情報処理装置20に送信する。情報処理装置20は、ネットワーク無線装置16から通信回線18を介して測定情報を受信する。
【0018】
情報処理装置20は、測定情報から距離測定値r1~r3を取得し、距離測定値r1~r3に対して距離補正処理を施す。距離補正処理は、3つの距離測定値r1~r3のうちの2つの距離測定値に対する補正を、3つの距離測定値から2つを選択する3種類の組み合わせについて順に実行する処理である。先に補正された2つの距離測定値は、次以降の距離測定値の補正に用いられる。
【0019】
情報処理装置20は、固定局14-1~14-3のそれぞれの位置を予め記憶している。情報処理装置20は、距離補正処理が施された距離測定値r1、r2およびr3を用いて無線端末12の位置を求める。すなわち、固定局14-1の位置を中心P1とし、距離測定値r1を半径とする円C1と、固定局14-2の位置を中心P2とし、距離測定値r2を半径とする円C2と、固定局14-3の位置を中心P3とし、距離測定値r3を半径とする円C3との交点を無線端末12の位置として求める。
【0020】
(2-2)距離補正処理
距離補正処理について説明する。情報処理装置20は、固定局14-1~14-3のそれぞれの位置に加えて、固定局14-1と固定局14-2との間の距離d12、固定局14-2と固定局14-3との間の距離d23、および固定局14-3と固定局14-1との間の距離d31をそれぞれ記憶している。これらの距離は、固定局14-1~14-3のそれぞれの位置に基づいて、情報処理装置20が求めてもよい。
【0021】
情報処理装置20は、距離測定値r1およびr2に対し、以下に説明する幾何学的補正処理を施し、距離測定値r1およびr2を補正する。次に、情報処理装置20は、距離測定値r2およびr3に対して幾何学的補正処理を施し、距離測定値r2およびr3を補正する。さらに、情報処理装置20は、距離測定値r3およびr1に対して幾何学的補正処理を施し、距離測定値r3およびr1を補正する。
【0022】
距離測定値riおよびrjに対する幾何学的補正処理について説明する。ここで、iおよびjは、整数1~3から選択された2つの異なる整数である。情報処理装置20は、固定局14-iの位置Piを中心とし、距離測定値riを半径とする円Ciと、固定局14-jの位置Pjを中心とし、距離測定値rjを半径とする円Cjとの幾何学的関係を解析する。iおよびjの組み合わせには、i=1とj=2、i=2とj=3、および、i=3とj=1の3通りがある。幾何学的関係には、次の5つの関係がある。
【0023】
(i)円C
iと円C
jとが2点で交わる関係、(ii)円C
iが円C
jを内包する関係
(iii)円C
jが円C
iを内包する関係、(iv)円C
iおよび円C
jが交わらず、かつ、一方が他方に内包されていない関係、および(v)円C
iと円C
jとが1点で接する関係
以下の説明では、上記(i)~(v)の幾何学的関係を、それぞれ、(i)2点交差関係、(ii)C
iC
j内包関係、(iii)C
jC
i内包関係、(iv)隔離関係、(v)1点接触関係という。
図2には、2点交差関係にある円C
iおよび円C
jが示されている。
図3には、C
iC
j内包関係にある円C
iおよび円C
jが示されている。
図4には、C
jC
i内包関係にある円C
iおよび円C
jが示されている。
図5には、隔離関係にある円C
iおよび円C
jが示されている。
図6には、1点接触関係にある円C
iおよび円C
jが示されている。
【0024】
情報処理装置20は、固定局14-iと固定局14-jとの間の距離dij、距離測定値riおよび距離測定値rjに基づいて、円CiおよびCjの幾何学的関係が上記5つの幾何学的関係のうちいずれであるかを判定する。
【0025】
(a)情報処理装置20は、ri<dij、かつ、rj<dijが成立するときは、次のように幾何学的関係を判定する。
(a1)ri+rj>dijが成立するときは、円Ciおよび円Cjは2点交差関係にある。
(a2)ri+rj<dijが成立するときは、円Ciおよび円Cjは隔離関係にある。
【0026】
(b)情報処理装置20は、ri>dij、かつ、rj<dijが成立するときは、次のように幾何学的関係を判定する。
(b1)ri<rj+dijが成立するときは、円Ciおよび円Cjは2点交差関係にある。
(b2)ri>rj+dijが成立するときは、円Ciおよび円CjはCiCj内包関係にある。
【0027】
(c)情報処理装置20は、ri<dij、かつ、rj>dijが成立するときは、次のように幾何学的関係を判定する。
(c1)rj<ri+dijが成立するときは、円Ciおよび円Cjは2点交差関係にある。
(c2)rj>ri+dijが成立するときは、円Cjおよび円CiはCjCi内包関係にある。
【0028】
(d)情報処理装置20は、ri>dij、かつ、rj>dijが成立し、さらに、ri>rjが成立するときは、次のように幾何学的関係を判定する。
(d1)ri<rj+dijが成立するときは、円Ciおよび円Cjは2点交差関係にある。
(d2)ri>rj+dijが成立するときは、円Ciおよび円CjはCiCj内包関係にある。
【0029】
(e)情報処理装置20は、ri>dij、かつ、rj>dijが成立し、さらに、ri<rjが成立するときは、次のように幾何学的関係を判定する。
(e1)rj<ri+dijが成立するときは、円Ciおよび円Cjは2点交差関係にある。
(e2)rj>ri+dijが成立するときは、円Cjおよび円CiはCjCi内包関係にある。
【0030】
(f)上記(a)~(e)のいずれの条件にも当てはまらないときは、情報処理装置20は、円Ciおよび円Cjが1点接触関係にあると判定する。
【0031】
情報処理装置20は、円Ciおよび円Cjが2点交差関係または1点接触関係にあるときは、距離測定値riおよびrjの値をそのまま維持する。
【0032】
情報処理装置20は、円Ciおよび円CjがCiCj内包関係またはCjCi内包関係にあるときは、距離測定値riおよび距離測定値rjを、(数1)に従って補正する。
【0033】
[数1]
ri←ri・dij/(|ri-rj|)
rj←rj・dij/(|ri-rj|)
【0034】
ただし、記号「←」は、左側の値を右側の数式によって更新することを意味する。このように、円Ciおよび円CjがCiCj内包関係またはCjCi内包関係にあるときに、距離想定値riおよびrjが(数1)に従って補正されることで、円Ciおよび円Cjの幾何学的関係は1点接触関係となる。
【0035】
情報処理装置20は、円Ciおよび円Cjが隔離関係にあるときは、距離測定値riおよび距離測定値rjを、(数2)に従って更新する。
【0036】
[数2]
ri←ri・dij/(ri+rj)
rj←rj・dij/(ri+rj)
【0037】
円Ciおよび円Cjが隔離関係にあるときに、距離測定値riおよび距離測定値rjが(数2)に従って補正されることで、円Ciおよび円Cjの幾何学的関係は1点接触関係となる。
【0038】
情報処理装置20は、距離測定値r1およびr2に対する幾何学的補正処理、距離測定値r2およびr3に対する幾何学的補正処理、さらには、距離測定値r3およびr1に対する幾何学的補正処理を順に実行する。すなわち、情報処理装置20は、3つの距離測定値のうちの2つの距離測定値に対する幾何学的補正を、3つの距離測定値から2つを選択する3種類の組み合わせについて順に実行する。
【0039】
情報処理装置20は、このような一連の幾何学的補正処理を含む距離補正処理を繰り返し実行してもよい。距離補正処理の繰り返しは、距離測定値r1、r2およびr3が収束するまで行われる。繰り返し実行される距離補正処理によって、距離測定値r1、r2およびr3が収束したか否かの判定は、距離測定値r1、r2およびr3の大きさの傾向を示す収束判定値に基づいて行われてよい。例えば、距離測定値r1、r2およびr3の自乗和や距離測定値r1、r2およびr3のうちいずれか1つを収束判定値としてよい。この場合、距離補正処理の繰り返しは、先に行われた距離補正処理によって得られた収束判定値と、次に行われた距離補正処理によって得られた収束判定値との差の絶対値が所定の閾値未満となるまで行われる。
【0040】
図7には、距離補正処理によって1点で交わった円C
1~C
3が示されている。図に示されている点Qの位置が無線端末12の位置として求められる。
【0041】
情報処理装置20は、距離補正処理が施された距離測定値r1、r2およびr3を用いて、無線端末12の位置を求める。すなわち、固定局14-1の位置を中心P1とし、距離測定値r1を半径とする円C1と、固定局14-2の位置を中心P2とし、距離測定値r2を半径とする円C2と、固定局14-3の位置を中心P3とし、距離測定値r3を半径とする円C3との交点を無線端末12の位置として求める。無線端末12の位置は、2次元座標値で表される。
【0042】
(2-3)効果
無線端末12と各固定局との間で送受信される無線信号は、偶発的に現れる障害物やマルチパスの影響によって、無線端末12および各固定局において良好に送受信されないことがある。したがって、最初に求められた距離測定値r1~r3には誤差が含まれることがあり、無線端末12の測位精度が低下することがある。本実施形態に係る測位システム10によれば、距離測定値r1~r3が補正され、無線端末12の位置が高精度で求められる。
【0043】
(3)実験結果
実際の位置が(x,y)=(0.5,1.5)で表される無線端末12について実験を行った。補正前の距離測定値r1~r3によって求められた位置は、(x,y)=(-0.74,-0.7)であった。エラーは、(x,y)=(0.5,1.5)で表される位置と、(x,y)=(-0.74,-0.7)で表される位置との間の距離であり、2.52である。
【0044】
一方、補正後の距離測定値r1~r3によって求められた位置は、(x,y)=(-0.2,-0.31)であった。エラーは、(x,y)=(0.5,1.5)で表される位置と、(x,y)=(-0.2,-0.31)で表される位置との間の距離であり、1.38である。1回の距離補正処理によって、エラーが2.52から1.38に低減した。距離補正処理を複数回繰り返し実行することで、エラーは低減されるものと考えられる。
【0045】
(4)ハードウエアの例
図8には、無線端末12のハードウエアの例が示されている。無線端末12は、無線部32および情報処理部34を備えている。無線部32は、情報処理部34から取得した情報を固定局14-1~14-3またはネットワーク無線装置16に無線送信する。また、固定局14-1~14-3またはネットワーク無線装置16から送信された無線信号を受信し、無線信号に含まれる情報を情報処理部34に出力する。
【0046】
情報処理部34は、距離測定部36および測定情報生成部38を備えている。情報処理部34は、プログラムを実行するプロセッサを含んでもよい。この場合、情報処理部34は、プログラムを実行することによって、内部に距離測定部36および測定情報生成部38を構成する。
【0047】
距離測定部36は、無線部32を介して、固定局14-1~14-3のそれぞれと無線信号の送受信を行い、各固定局までの距離測定値r1~r3を求める。測定情報生成部38は、距離測定値r1~r3を含む測定情報を生成し、無線部32を介してネットワーク無線装置16に測定情報を無線送信する。
【0048】
図9には、情報処理装置20のハードウエアの例が示されている。情報処理装置20は、インターフェイス50および情報処理部52を備えている。情報処理装置20は、サーバとして機能するコンピュータであってよい。インターフェイス50は、情報処理部52を通信回線18に接続する。情報処理部52は、情報取得部54、距離補正部56および位置決定部58を備えている。情報処理部52は、プログラムを実行するプロセッサを含んでもよい。この場合、情報処理部52は、プログラムを実行することによって、内部に各構成要素(情報取得部54、距離補正部56および位置決定部58)を構成する。
【0049】
情報取得部54は、インターフェイス50を介して通信回線18から測定情報を受信し、各固定局について求められた距離測定値r1~r3を測定情報から取得する。距離補正部56は、3つの距離測定値r1~r3のうちの2つの距離測定値に対する補正を、3つの距離測定値r1~r3から2つを選択する3つの組み合わせについて順に実行する距離補正処理を実行する。位置決定部58は、距離補正処理が実行された後の3つの距離測定値r1~r3に基づいて、無線端末12の位置を求める。
【0050】
幾何学的補正処理は、円Ciおよび円Cjの幾何学的関係についての判定結果と、2つの距離測定値と、2つの距離測定値が求められた2つの固定局間の距離とに基づいて、2つの距離測定値を補正する処理を含む。すなわち、幾何学的補正処理は、2つの固定局14-iおよび14-jのうちの一方の位置を中心とし、2つの距離測定値riおよびrjのうち、一方の固定局に対応する距離測定値を半径とする円と、2つの固定局のうちの他方の位置を中心とし、2つの距離測定値のうち、他方の固定局に対応する距離測定値を半径とする円とが1点で接するように、2つの距離測定値を補正する処理を含む。
【0051】
(5)その他の実施形態
図10には、第2実施形態に係る測位システム100が示されている。測位システム100では、固定局14-1~14-3が通信回線18に接続されている。固定局14-1~14-3のそれぞれは、無線端末12との間の無線通信によって、それぞれ、距離測定値r
1~r
3を取得する。固定局14-1~14-3は、通信回線18を介して情報処理装置20に、それぞれ、距離測定値r
1~r
3を送信する。また、固定局14-1~14-3のうち少なくとも1つが、無線端末12との間の無線通信および他の固定局との間の通信によって、距離測定値r
1~r
3をまとめて取得してもよい。固定局14-1~14-3のうち、距離測定値r
1~r
3をまとめて取得した固定局は、通信回線18を介して情報処理装置20に距離測定値r
1~r
3を送信する。
図9に示された情報取得部54は、インターフェイス50を介して、3つの固定局14-1~14-3のうちの少なくとも1つから距離測定値r
1~r
3を取得する。
【0052】
測位システムには、4つ以上の固定局が設けられていてもよい。この場合、4つ以上の固定局の中から選択された3つの固定局を用いて、無線端末12の位置が測定される。
【符号の説明】
【0053】
10,100 測位システム、12 無線端末、14-1~14-3 固定局、16 ネットワーク無線装置、18 通信回線、20 情報処理装置、32 無線部、34,52 情報処理部、36 距離測定部、38 測定情報生成部、50 インターフェイス、54 情報取得部、56 距離補正部、58 位置決定部。