(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】エチレン、1,3-ブタジエンまたはイソプレン、および芳香族α-モノオレフィンのターポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 210/02 20060101AFI20220817BHJP
C08F 236/04 20060101ALI20220817BHJP
C08F 212/06 20060101ALI20220817BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220817BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220817BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F236/04
C08F212/06
C08L23/08
C08K3/013
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019530400
(86)(22)【出願日】2017-12-07
(86)【国際出願番号】 FR2017053431
(87)【国際公開番号】W WO2018104669
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-07
(32)【優先日】2016-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ラファキエール ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】テュイリエ ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】モレソ エマ
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075286(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190073(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/190072(WO,A1)
【文献】特開平11-080269(JP,A)
【文献】特開平11-035744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 210/00 - 210/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン、1,3-ジエンおよび芳香族α-モノオレフィンの
統計ターポリマーであって、エチレン単位と1,3-ジエン単位との含有量の合計に対するエチレン単位の含有量のモル比が0.7超であり、
統計ターポリマーが、50モル%超~80モル%のエチレン単位および10モル%以上40モル%未満の芳香族α-モノオレフィン単位を含有し、1,3-ジエンが1,3-ブタジエンまたはイソプレンである、
統計ターポリマー。
【請求項2】
エチレン単位の含有量が、
統計ターポリマーのモノマー単位の60モル%~80モル%の範囲内である、請求項1に記載の
統計ターポリマー。
【請求項3】
1,3-ジエン単位の含有量が、
統計ターポリマーのモノマー単位の3モル%超であって、30モル%未満である、請求項1または2に記載の
統計ターポリマー。
【請求項4】
1,3-ジエン単位の60モル%超がトランス-1,4-単位である、請求項1から3のいずれか1項に記載の
統計ターポリマー。
【請求項5】
芳香族α-モノオレフィン単位の含有量が、
統計ターポリマーのモノマー単位の少なくとも15モル%である、請求項1から4のいずれか1項に記載の
統計ターポリマー。
【請求項6】
エチレン単位および1,3-ジエン単位の合計に対するエチレン単位のモル比が0.8以上であって、0.95以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の
統計ターポリマー。
【請求項7】
芳香族α-モノオレフィンが、スチレンであるか、パラ、メタまたはオルト位で1個または複数のアルキル基で置換されているスチレンであるか、またはそれらの混合物である、請求項1から6のいずれか1項に記載の
統計ターポリマー。
【請求項8】
1,3-ジエンが1,3-ブタジエンである、請求項1から7のいずれか1項に記載の
統計ターポリマー。
【請求項9】
補強充填剤、架橋系およびエラストマーである請求項1~8のいずれか1項に記載の
統計ターポリマーをベースとする、ゴム組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物を含むタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、エチレン、1,3-ブタジエンまたはイソプレン、および芳香族α-モノオレフィンのターポリマーであるポリマーの分野である。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用ゴム組成物に従来使用されているポリマーは、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)のような1,3-ブタジエンまたはイソプレンのホモポリマーまたはコポリマー、または1,3-ブタジエンおよびスチレン(SBR)のコポリマーであるエラストマーである。これらのポリマーに共通する点は、一般に50%をはるかに超えるポリマー中の1,3-ジエン単位の高いモル比であり、これは、特にオゾンの作用下での酸化に対してポリマーを感受性にする可能性がある。それらは、1,3-ジエン単位に富むポリマーとして以下に示される。
タイヤゴム組成物において、酸化に対して低減された感受性を示すコポリマーを使用することが知られている。例えば、いずれも50モル%超のα-モノオレフィンまたはエチレンを含有するブチルゴム、EPDMターポリマー、エチレンと1,3-ブタジエンとのコポリマーを挙げることができる。1,3-ジエン単位に富むポリマーの代わりに、エチレンと1,3-ブタジエンのコポリマーがタイヤゴム組成物に使用される場合、それらは、タイヤの耐摩耗性と転がり抵抗との間の性能の妥協点を改変することも知られている。これらのコポリマーの合成およびタイヤゴム組成物におけるそれらの使用は、例えば、文献、欧州特許第1092731号、国際公開第200754224号、国際公開第2007054223号および国際公開第2014114607号に記載されている。
例えば、コポリマーの耐酸化性をさらに高めるために、またはコポリマーの製造コストを低減するために、エチレンにはるかに富む、エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーを利用することが有利となり得る。エチレン単位と1,3-ジエン単位との含有量の合計に対するエチレン単位の含有量のモル比が0.7超である、エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーは、エチレン単位に富むジエンポリマーと見なすことができる。この点において実際、コポリマー中のエチレンの割合が非常に高くなる、例えば70モル%を超えると、エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーは結晶性となり得ることが判明している。コポリマーの結晶部分の融解は剛性の低下をもたらすため、結晶性部分の融点以上の温度になると、そのようなコポリマーを含有し、タイヤに使用されるゴム組成物も、タイヤの制動と加速の繰り返し段階の間に起こり得る剛性の低下を受けるであろう。温度の関数としての剛性のこの依存性は、それ故、タイヤの性能品質に制御できない変動を生じさせる可能性がある。結晶性が低下している、実際に消失すらしている、エチレン単位に富むジエンポリマーを利用することが有利である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本出願人の会社は、その結晶性が低下し、実際には排除さえされている、エチレン単位に富む新規なジエンポリマーを発見した。
すなわち、本発明の第1の主題は、エチレン、1,3-ジエンおよび芳香族α-モノオレフィンのターポリマーであって、エチレン単位と1,3-ジエン単位との含有量の合計に対するエチレン単位の含有量のモル比が0.7超であり、ターポリマーが、50モル%超~80モル%のエチレン単位および10モル%以上40モル%未満の芳香族α-モノオレフィン単位を含有し、1,3-ジエンが1,3-ブタジエンまたはイソプレンである、ターポリマーである。特に、前記ターポリマーはエラストマーである。
【0004】
本発明はまた、本発明によるターポリマーの製造方法に関する。
本発明の他の主題は、本発明によるエラストマー、補強充填剤および架橋系をベースとするゴム組成物である。
本発明の他の主題は、本発明によるゴム組成物を含む半製品である。
本発明の他の主題は、本発明によるゴム組成物または本発明による半製品を含むタイヤである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本明細書では、「aとbとの間」という表現で示される値の間隔は、「a」より大きくかつ「b」より小さい値の範囲を表す(すなわち、限界値aおよびbは除外される)一方で、「a~b」という表現で示される値の間隔は、「a」から「b」までの範囲の値を意味する(つまり、厳密な限界値aおよびbを含む)。
触媒系または組成物の構成成分を定義するために使用される表現「をベースとする」は、これらの構成成分の混合物か、または、これらの構成成分の一部または全部の相互反応の生成物を意味すると理解される。
表現「エチレン単位」は、ターポリマー中へのエチレンの挿入から生じる-(CH2-CH2)-単位を指す。表現「1,3-ジエン単位」は、イソプレンの場合、1,4-付加、1,2-付加または3,4-付加による1,3-ジエンの挿入から生じる単位を指す。表現「芳香族α-モノオレフィン単位」は、ターポリマー中への芳香族α-モノオレフィンの挿入から生じる-(CH2-CHAr)-単位を指す。
【0006】
別途明示しない限り、ターポリマー中へのモノマーの挿入から生じる単位の含有量は、ターポリマーのすべてのモノマー単位に対するモル百分率として表される。
本明細書に記載されている化合物は、化石起源またはバイオ起源でもよい。後者の場合、それらは部分的にまたは完全にバイオマスから得られるか、またはバイオマスから生じる再生可能な出発材料から得られる。モノマーが特に関係している。
本発明によるターポリマーは、エチレン、1,3-ジエンおよび芳香族α-モノオレフィンのターポリマーであるという本質的な特徴を有し、1,3-ジエンは1,3-ブタジエンまたはイソプレンである。
該ターポリマーは、50モル%超~80モル%のエチレン単位を含有するという他の特徴も有する。ターポリマー中のエチレン単位および1,3-ジエン単位のそれぞれの含有量は、ターポリマー中のエチレン単位と1,3-ジエン単位との含有量の合計に対するターポリマー中のエチレン単位の含有量のモル比が、0.7超になるような量である。これらのそれぞれの含有量のために、本発明によるターポリマーは、エチレン単位に富むジエンポリマーと見なされる。好ましくは、このモル比は0.8以上である。より好ましくは、このモル比はまた、0.95以下である。さらにより好ましくは0.95未満である。
【0007】
本発明によるターポリマーは、10モル%以上40モル%未満の芳香族α-モノオレフィン単位を含有するという他の特徴も有する。それ故、10%未満、好ましくは5%未満、さらにはゼロという結晶化度さえ得ることができる。さらに、10モル%から40モル%未満までの芳香族α-モノオレフィン単位をポリマー中に導入できることにより、約50度程度という広い温度範囲にわたってガラス転移温度が互いに異なり得るターポリマーが取得される。最後に、ターポリマー中の芳香族α-モノオレフィン単位の含有量におけるこの高い変化が可能なことにより、100%も変化し得るゴム状プラトーモジュラスも異なり得るターポリマーが取得される。本発明によるターポリマーの結晶性、ガラス転移温度および剛性の特性は、ターポリマーの微細構造、特に、ターポリマー中のモノマーの相対含有量およびターポリマー中の芳香族α-モノオレフィン単位の
統計的分布に起因し得る。本発明の実施形態のいずれか1つによれば、ターポリマーは好ましくは
統計ターポリマー
である。好ましくは、芳香族α-モノオレフィン単位の含有量は、ターポリマーのモノマー単位の少なくとも15モル%である。より好ましくは、芳香族モノオレフィン単位の含有量は、ターポリマーのモノマー単位の最大35モル%である。本発明のこのより好ましい実施形態によるターポリマーは、タイヤ半製品に使用するのに特に適した0℃未満のガラス転移温度を典型的には示す。
「α-オレフィン」という語は、末端のオレフィンを意味する、すなわち、式-CH=CH
2のビニル基を含有するものと理解される。「モノオレフィン」という語は、芳香族基のベンゼン環のものとは別として、単一の炭素-炭素二重結合を含有するモノマーを意味すると理解される。典型的には、芳香族α-モノオレフィンは式CH
2=CH-Arのものであり、ここで記号Arは芳香族基を表す。芳香族基は、置換または非置換フェニルでもよい。芳香族α-モノオレフィンとして適しているのは、スチレン、パラ、メタもしくはオルト位で1個または複数のアルキル基で置換されたスチレン、またはそれらの混合物である。好ましくは、芳香族α-モノオレフィンはスチレンである。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、ターポリマー中のエチレン単位の含有量は、ターポリマーのモノマー単位の60モル%~80モル%の範囲内である。
本発明の他の実施形態によれば、ターポリマー中の1,3-ジエン単位の含有量は、ターポリマーのモノマー単位の3モル%超である。ゴム組成物中において、ターポリマーを架橋剤、特に、加硫剤と一緒にすることで、3%超の1,3-ジエン単位の含有量により、ゴム組成物内でタイヤ半製品に使用するのに特に適した架橋ポリマーを得ることが可能となる。
ターポリマー中の1,3-ジエン単位の含有量は、好ましくは該ターポリマーのモノマー単位の30モル%未満、より好ましくは該ターポリマーのモノマー単位の25モル%未満であり、これにより該ターポリマーの耐酸化性を高めることが可能となる。
一実施形態によれば、1,3-ジエンは好ましくは1,3-ブタジエンである。
【0009】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、本発明によるターポリマーは、エチレン単位の含有量がターポリマーのモノマー単位の60モル%~75モル%で変化し、1,3-ジエン単位の含有量がターポリマーのモノマー単位の5モル%~15モル%で変化し、芳香族α-モノオレフィン単位の含有量がターポリマーのモノマー単位の15モル%~35モル%で変化し、エチレン単位と1,3-ジエン単位との含有量の合計に対するエチレン単位の含有量のモル比が0.8以上0.95未満まで変化するターポリマーである。本発明のこの特に好ましい実施形態によるターポリマーは、タイヤのゴム組成物における使用に最も適した特性を示す。そのようなポリマーは、非常に低い結晶度、特に、5%未満、実際にはゼロさえも示す。
本発明の実施形態のいずれか1つによれば、トランス-1,4-単位は、好ましくは1,3-ジエン単位の60モル%超、より好ましくは80モル%超を示す。よく知られているように、該トランス-1,4-単位は、トランス配置を有する1,3-ジエンの1,4-付加から生じる。
【0010】
本発明の実施形態のいずれか1つによれば、ターポリマーは、好ましくはエチレン、1,3-ブタジエンおよび芳香族α-モノオレフィンのターポリマー、より好ましくはエチレン、1,3-ブタジエンおよびスチレンのターポリマーである。
本発明によるターポリマーは、希土類金属メタロセンおよび共触媒としての有機金属化合物をベースとする触媒系の存在下において、エチレン、1,3-ジエンおよび芳香族α-モノオレフィンを重合させることを含む、本発明の他の主題である方法によって合成することができる。
前記メタロセンは式(I)に相当する。
{P(Cp)(Flu)NdG} (I)
式中、
-Ndは、ネオジム原子を表し、
-Gは、水素化ホウ素BH4単位を含む基を表すか、または塩素、フッ素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子Xを表し、
-Cpは、式C5H4のシクロペンタジエニル基を表し、
-Fluは、式C13H8のフルオレニル基を表し、
-Pは、2つのCp基とFlu基とを架橋し、かつケイ素または炭素原子を含む基である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によれば、記号Gは塩素原子または式(II)の基を表す。
(BH4)(1+y)-Ly-Nx (II)
式中、
-Lは、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるアルカリ金属を表し、
-Nは、エーテル分子を表し、
-xは、整数または整数でなく、0以上であり、
-yは、整数であり、0以上である。
アルカリ金属を錯化する能力を有する任意のエーテル、特にジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランがエーテルとして適している。
Cp基とFlu基とを連結する架橋Pは、好ましくは式ZR1R2に対応する(式中、Zがケイ素または炭素原子を表し、R1およびR2が、同一または異なっており、それぞれ1~20個の炭素原子を含むアルキル基、好ましくはメチルを表す)。上記の式ZR1R2において、Zは有利にはケイ素原子、Siを表す。
【0012】
特に好ましい実施形態によれば、メタロセンは、式(IIIa)または(IIIb)の(ジメチルシリル)(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ネオジムボロヒドリドである。
[Me2Si(Cp)(Flu)Nd(μ-BH4)2Li(THF)] (IIIa)
[Me2Si(Cp)(Flu)Nd(μ-BH4)(THF)] (IIIb)
式中、CpはC5H4基を表し、FluはC13H8基を表す。
触媒系の調製に使用されるメタロセンは、結晶性または非結晶性粉末の形態、あるいは単結晶の形態でもよい。メタロセンは、モノマー型またはダイマー型で供給することができるが、これらの型は、例えば、出願、国際公開第2007054224号に記載されているように、メタロセンの調製方法に依存する。メタロセンは、文献欧州特許第1092731号および国際公開第2007054223号に記載されているものと類似の方法によって、特に、不活性かつ無水条件下で、配位子のアルカリ金属塩と希土類金属塩、例えば希土類金属のハロゲン化物または水素化ホウ素塩と、例えばジエチルエーテルもしくはテトラヒドロフランなどのエーテルのような適切な溶媒、または当業者に公知の任意の他の溶媒中で反応させることによって、従来より製造することができる。反応後、メタロセンは、ろ過または第2の溶媒からの沈殿などの当業者に公知の技術によって反応副生成物から分離される。最後に、メタロセンを乾燥しそして固体形態で単離する。
【0013】
本発明による触媒系の他の基本成分は、重合に関して、特に重合開始反応においてメタロセンを活性化することができる共触媒である。共触媒は、よく知られているように、有機金属化合物である。有機マグネシウム、有機アルミニウムおよび有機リチウム化合物のような、メタロセンを活性化できる有機金属化合物が適切となり得る。
共触媒は、好ましくは有機マグネシウム化合物、すなわち少なくとも1つのC-Mg結合を示す化合物である。有機マグネシウム化合物としては、ジオルガノマグネシウム化合物、特にジアルキルマグネシウム化合物、および有機マグネシウムハライド、特にアルキルマグネシウムハライドを挙げることができる。ジオルガノマグネシウム化合物は2つのC-Mg結合を示し、この場合、C-Mg-Cという点において、オルガノマグネシウムハライドは1つのC-Mg結合を示す。より好ましくは、共触媒はジオルガノマグネシウム化合物である。
アルキルマグネシウム化合物、とりわけ、ジアルキルマグネシウム化合物、または、ブチルオクチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウムおよびブチルマグネシウムクロリドのようなアルキルマグネシウムハライドは、共触媒として特に適しており、アルキル化剤としても知られている。共触媒は有利にはブチルオクチルマグネシウムである。
【0014】
使用される共触媒の含有量は、メタロセンによって導入される金属の含有量に関して有利に指数化され、好ましくは1~100の範囲のモル比のメタロセン共触媒/金属を使用することができ、最も低い値は、高いモル質量のポリマーの製造にとってより好ましい。
該触媒系は、文献欧州特許第1092731号および国際公開第2007054223号に記載されているものと類似の方法により従来より製造することができる。例えば、共触媒およびメタロセンは、炭化水素溶媒中で、典型的には、20~80℃の範囲の温度で5~60分の間の期間反応させることができる。該触媒系は、一般に、メチルシクロヘキサンのような脂肪族炭化水素溶媒、またはトルエンのような芳香族炭化水素溶媒中で製造される。概して、その合成後、該触媒系は本発明によるターポリマーの合成方法においてこの形態で使用される。
有機金属化合物の存在下で行われるいずれの合成と同様に、メタロセンおよび触媒系の合成は、不活性雰囲気下の無水条件下で行われる。典型的には、その反応は無水溶媒または化合物から出発して無水窒素またはアルゴン下で行われる。
【0015】
重合は、溶液中で、連続的にまたはバッチ式に実施するのが好ましい。重合溶媒は芳香族または脂肪族炭化水素溶媒でもよい。重合溶媒の例として、トルエンおよびメチルシクロヘキサンを挙げることができる。モノマーを、重合溶媒および触媒系を含有する反応器中に導入することができるか、あるいは逆に、触媒系を、重合溶媒およびモノマーを含有する反応器中に導入することができる。重合は、典型的には、無水条件下かつ酸素の非存在下で行われ、不活性ガスが存在してもよい。重合温度は一般に、30℃~150℃、好ましくは30℃~120℃の範囲内で変化する。
重合媒体を冷却することによって重合を停止させることができる。ポリマーは、当業者に公知の従来技術に従って、例えば沈殿によって、減圧下での溶媒の蒸発によって、または水蒸気蒸留によって回収することができる。
好ましくは、ターポリマーはエラストマーである。
本発明によるエラストマーはゴム組成物に使用することができる。
【0016】
それ故、該ゴム組成物は、本発明によるエラストマー、補強充填剤および架橋系に基づく本質的な特徴を有する。
補強充填剤は、ゴム組成物の補強能として知られており、タイヤの製造に使用できる任意の種類の「補強」充填剤でもよく、例えば、カーボンブラックのような有機充填剤、知られているようにカップリング剤と併用されるシリカのような補強無機充填剤、またはこれら2種類の充填剤の混合物でもよい。そのような補強充填剤は、典型的には、その(重量)平均サイズが1マイクロメートル未満、一般に500nm未満、最も頻繁には20と200nmとの間、特に好ましくは20と150nmとの間であるナノ粒子からなる。補強充填剤は、エラストマーマトリックス100部当たり30質量部(phr)と200質量部(phr)との間の含有量で使用できる。「エラストマーマトリックス」という語は、本発明において、それらが本発明によるものであるか否かにかかわらず、ゴム組成物中に存在するすべてのエラストマーを意味すると理解される。
該ゴム組成物は、実際には、本発明によるもの以外のエラストマー、特にゴム組成物に通常使用されるエラストマー、例えば1,3-ジエン単位に富むポリマー、特に1,3-ブタジエンまたはイソプレンのホモポリマーまたはコポリマーを含有することができる。
架橋系は、硫黄、硫黄供与体、過酸化物、ビスマレイミドまたはそれらの混合物をベースとすることができる。該架橋系は、好ましくは加硫系、すなわち硫黄(または硫黄供与剤)および一次加硫促進剤をベースとする系である。このベースの加硫系に加えて、酸化亜鉛、ステアリン酸もしくは同等の化合物のような既知の二次加硫促進剤または加硫活性剤、またはグアニジン誘導体(特にジフェニルグアニジン)、またはその他の既知の加硫遅延剤があり、これらは、後述するように、第1の非生成段階中および/または生成段階中に導入される。硫黄は、0.5phrと12phrとの間、特に1phrと10phrと間の好ましい含有量で使用される。一次加硫促進剤は、0.5phrと10phrとの間、より好ましくは0.5phrと5.0phrとの間の好ましい含有量で使用される。
【0017】
ゴム組成物は、タイヤ用ゴム組成物に使用されることが知られている他の添加剤、例えば可塑剤、オゾン劣化防止剤または酸化防止剤をさらに含有することができる。
本発明によるゴム組成物は、典型的には、当業者に周知の2つの連続した製造段階を用いて適切な混合機で製造される。130℃と200℃との間の最高温度までの高温における熱機械加工または混練の第1の段階(「非生成」段階)、続いて、より低い温度、典型的には110℃未満、例えば40℃と100℃との間の温度までにおける機械加工の第2の段階(「生成」段階)であって、その間の仕上げ段階で架橋系が組み込まれる。
本発明によるゴム組成物は、未加工状態(架橋または加硫前)または硬化した状態(架橋または加硫後)のいずれでもよいが、タイヤ半製品に使用することができる。
本発明の上述の特徴、およびその他の特徴は、例としてかつ限定することなく示される本発明のいくつかの実施例の以下の説明を読むことでよりよく理解されるであろう。
【実施例】
【0018】
国際公開第2007054223号に記載されている手順に従って製造されるメタロセン[{Me2SiCpFluNd(μ-BH4)2Li(THF)}]を除いて、全ての反応物を市場から得る。
ブチルオクチルマグネシウムBOMAG(ヘプタン中20%、C=0.88モル/l)はChemtura社由来であり、そして不活性雰囲気下でシュレンク管中に貯蔵されている。N35グレードのエチレンはAir Liquide社由来であり、予備精製なしで使用される。1,3-ブタジエンおよびスチレンは、アルミナガードを通過させることによって精製される。
【0019】
1) ポリマーの微細構造の決定
ポリマーの微細構造はNMR分析によって決定される。スペクトルは、5mm BBI Z-grad「広帯域」CryoProbeを備えたAvance III HD Bruker 500 MHz分光計で取得される。定量的
1H NMR実験は、各取得間の単純な30°のパルスシーケンスおよび5秒の反復時間を使用する。64~256回の累積が実行される。二次元
1H/
13C実験は、ポリマーの単位の構造を決定する目的で使用される。試料を約20mg/mlで重水素化クロロホルムに溶解する。
1H NMRスペクトルは、スチレン、1,3-ブタジエンおよびエチレン単位を定量することを可能にする。
編集された2D
1H-
13C
1J HSQC NMR相関スペクトルは、炭素原子およびプロトン原子のシグナルの化学シフトによって単位の性質を確認することを可能にする。ロングレンジ
3J HMBC
1H/
13C相関スペクトルは、スチレン、1,3-ブタジエンおよびエチレン単位間の共有結合の存在を確認することを可能にする。定量化に使用されるプロトンの帰属を表1に示す。
【表1】
1,4-PB単位のシスおよびトランス微細構造に関する情報は、定量的1D
13C NMRスペクトルから得ることができる。
【0020】
2) ポリマーの結晶化度の測定
示差走査熱量測定(DSC)によって使用されるポリマーの溶融および結晶化の温度およびエンタルピーを測定するために基準ISO 11357-3:2011を使用する。ポリエチレンの基準エンタルピーは277.1J/gである(Polymer Handbook, 4th Edition, J. Brandrup, E. H. Immergut and E. A. Grulke, 1999に従う)。
3) ポリマーの剛性の測定
測定は、制御された幾何学形状(厚さ1.5mmと3mmとの間、直径22mmと28mmとの間)の円筒形の試験片を用いて、Anton Paar社のモデルMCR301レオメーターで剪断モードで実施する。試料は、一定の温度(10Hzにおける温度スイープにわたるエラストマーのガラス転移の通過の終わりに相当する)で、0.01Hz~100Hzに及ぶ周波数範囲にわたって正弦波剪断応力を受ける。C. Liu, J. He, E. van Ruymbeke, R. Keunings and C. Bailly, Evaluation of different methods for the determination of the plateau modulus and the entanglement molecular weight, Polymer, 47 (2006) 4461-4479に記載された方法に従い、試料のゴム状プラトーの剛性として選択された剛性値は、損失弾性率G’’がその最小値に達する周波数に対する剪断弾性率G’の値である。
【0021】
4) ポリマーのガラス転移温度の測定
ガラス転移温度は、基準ASTM D3418(1999)に従って示差走査熱量計によって測定される。
5) ポリマーの合成
ポリマーは以下の手順に従って合成される:
共触媒、ブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)、次いでメタロセン[Me2SiCpFluNd(μ-BH4)2Li(THF)]を300mlのトルエンを含有する500mlガラス反応器に添加する。アルキル化時間は10分でありそして反応温度は20℃である。触媒系の構成成分のそれぞれの量を表2に示す。
続いて、表2に示すそれぞれの量に従ってモノマーを添加し、エチレン(Eth)および1,3-ブタジエン(Bde)は気体混合物の形態である。重合は80℃および4バールの初期圧力で行われる。重合反応は、冷却、反応器の脱気および10mlのエタノールの添加により停止される。酸化防止剤をそのポリマー溶液に添加する。コポリマーを、オーブン中真空下で恒量になるまで乾燥することにより回収する。重量の秤量により、1モルのネオジム金属当たりおよび1時間当たりに合成されたポリマーのキログラム(kg/mol.h)で表される、触媒系の平均触媒活性を決定することが可能になる。
【0022】
例1~5では、エチレンおよび1,3-ブタジエンの気体混合物の前に、スチレンを最初に反応器に添加する。
ポリマーの外観の特徴を表3に示す。
例1~4は、本発明による実施例である。例5および6は、スチレン含有量がそれぞれ8.6%および0%であるため、本発明には該当しない。
【0023】
例5および6のポリマーと比較して、例1~4のポリマーでは結晶化度が大幅に低下し、実際には例1、2および4では排除されてさえいることに留意すべきである。
例6のジエンポリマー(本発明によらない例)は、E/E+Bで表される、エチレン単位と1,3-ブタジエン単位との含有量の合計に対するエチレン単位の含有量のモル比が0.74であることから、エチレン単位に富むジエンポリマーである。それは高度に結晶性であることが観察され、その結晶化度は31.1%である。例1~4のポリマー(本発明による)のモル比E/E+Bは、例6のポリマーのモル比よりはるかに大きいが、例1~4のポリマー(本発明による)は例6のポリマーの結晶化度よりはるかに低い結晶化度を示す。
例5のジエンポリマー(本発明によらない例)もまた、エチレンに富むジエンポリマーであるが、依然として高すぎる結晶化度(10%を超える結晶化度)を示すものである。
【0024】
さらに、本発明によれば、非常に異なるガラス転移温度を有するポリマーの取得が可能であることが認められる。例1~4のポリマーのガラス転移温度は、-33℃から8℃まで広がっていることが認められる。ガラス転移温度のこの激しい相違は、ポリマーが実質的に同じモル比E/E+Bを示す場合でも認められる。例えば、例1、2および3のポリマーは、0.9付近のモル比を示すが、例1のポリマーのTgは8℃であり、例2のポリマーのTgは-4℃であり、例3のポリマーのTgは-22℃である。
例2および4によって示されるように、100%も変化する剛性を有するポリマーを得ることもできることが注目される。
例1~4のターポリマーの結晶性、ガラス転移温度および剛性の特徴は、おそらくはターポリマーの微細構造から、特にエチレン単位の相対含有量から、スチレン含有量から、そしてスチレンの統計的分布から得られる。
例1~4のポリマー、特に例2~4のポリマーは、0℃未満のそれらのガラス転移温度の値のために、ゴム組成物における使用に完全に適している。
【0025】
最後に、例2~4のポリマーは、非常に低く、実際ゼロでさえもある結晶化度と0℃未満のガラス転移温度との両方を兼ね備えていることから、タイヤ用ゴム組成物に使用できるための最も適切な特性を示す。
【表2】
【表3】