(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】安定なトルエンジアミン残留物/水ブレンドの製造方法、関連組成物、およびそのようなブレンドの燃料としての使用法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/90 20060101AFI20220817BHJP
C07C 211/50 20060101ALI20220817BHJP
C10L 1/32 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
C07C209/90
C07C211/50
C10L1/32 D
(21)【出願番号】P 2019540597
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(86)【国際出願番号】 US2018014996
(87)【国際公開番号】W WO2018140461
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-05
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516284183
【氏名又は名称】コベストロ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ、ウィリアム、コルバート
(72)【発明者】
【氏名】ママドゥ、ヤヤ、バリー
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー、ガレット
(72)【発明者】
【氏名】ラビンドラ、エス.カマト
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-052873(JP,A)
【文献】特表2015-519324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/
C07C 211/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低粘度、低沸点液をトルエンジアミン残留組成物に添加してブレンドを形成することを含んでなる、トルエンジアミン残留物の安定化法であって、
該ブレンドが、ブレンドの総重量に基づいて、5~30重量%の低粘度、低沸点液を含んでなり、かつ
該ブレンドが、40℃~95℃の温度範囲にわたって10,000cP以下の粘度を有
し、
前記低粘度、低沸点液が、100cP以下の粘度および210℃以下の沸点を有し、
前記トルエンジアミン残留物が、2,6-トルエンジアミン異性体よりも高い沸点を有する、トルエンジアミン(TDA)合成中に形成された化合物を含み、
前記トルエンジアミン残留組成物が、
(a)組成物中のトルエンジアミン残留物およびメタ-トルエンジアミン異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のメタ-トルエンジアミン異性体;
(b)組成物中のトルエンジアミン残留物およびオルト-トルエンジアミン異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のオルト-トルエンジアミン異性体;または
(c)組成物中のトルエンジアミン残留物およびメタ-トルエンジアミン異性体とオルト-トルエンジアミン異性体との混合物の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のメタ-トルエンジアミン異性体とオルト-トルエンジアミン異性体との混合物
を含む、方法。
【請求項2】
低粘度、低沸点液の添加中にブレンドの粘度を連続的にモニタリングすること;および
ブレンドの粘度に基づいてトルエンジアミン残留組成物の量および/または添加される低粘度、低沸点液の量を制御することをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体燃料として使用するために、前記ブレンドの温度を目標温度範囲にするためにブレンドを熱交換器に通過させることをさらに含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブレンドが40℃~95℃の温度範囲にわたって4,000cP以下の粘度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ブレンドが40℃~95℃の温度範囲にわたって2,000cP以下の粘度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記低粘度、低沸点液が水を含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水が、メタ-トルエンジアミンを単離するための粗製トルエンジアミンの精製の間に回収された水を含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ブレンド中の水の量が、ブレンドの総重量に基づいて10~20重量%である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
70~95重量%のトルエンジアミン残留組成物;および
5~30重量%の低粘度、低沸点液を含んでなるブレンド組成物であって、
前記低粘度、低沸点液が、100cP以下の粘度および210℃以下の沸点を有し、
前記トルエンジアミン残留組成物が、
(a)組成物中のトルエンジアミン残留物およびメタ-トルエンジアミン異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のメタ-トルエンジアミン異性体;
(b)組成物中のトルエンジアミン残留物およびオルト-トルエンジアミン異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のオルト-トルエンジアミン異性体;または
(c)組成物中のトルエンジアミン残留物およびメタ-トルエンジアミン異性体とオルト-トルエンジアミン異性体との混合物の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のメタ-トルエンジアミン異性体とオルト-トルエンジアミン異性体との混合物
を含み、
前記トルエンジアミン残留物が、2,6-トルエンジアミン異性体よりも高い沸点を有する、トルエンジアミン(TDA)合成中に形成された化合物を含み、
該重量パーセントは組成物の総重量に基づくものであり、かつ
該ブレンド組成物が40℃~95℃の温度範囲にわたって、10,000cP以下の粘度を有する、ブレンド組成物。
【請求項10】
前記ブレンド組成物が40℃~95℃の温度範囲にわたって4,000cP以下の粘度を有する、請求項
9に記載のブレンド組成物。
【請求項11】
前記ブレンド組成物が40℃~95℃の温度範囲にわたって2,000cPの粘度を有する、請求項
9または1
0に記載のブレンド組成物。
【請求項12】
前記低粘度、低沸点液が水を含んでなる、請求項
9~1
1のいずれか一項に記載のブレンド組成物。
【請求項13】
80~90重量%のトルエンジアミン残留組成物および10~20重量%の水を含んでなる、請求項1
2に記載のブレンド組成物。
【請求項14】
(a)トルエンジアミン残留組成物を含んでなるブレンドを燃料燃焼装置に供給することであって、ここで該ブレンドは70~95重量%のトルエンジアミン残留組成物および5~30重量%の低粘度、低沸点液を含んでなり、かつ該重量パーセントはブレンドの総重量に基づくものであり;および
(b)ブレンドを燃料燃焼装置内で燃焼させることであって、ここで該ブレンドは、40℃~95℃の温度範囲にわたって、10,000cP以下の粘度を有することを含んでな
り、
前記低粘度、低沸点液が、100cP以下の粘度および210℃以下の沸点を有し、
前記トルエンジアミン残留組成物が、
(a)組成物中のトルエンジアミン残留物およびメタ-トルエンジアミン異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のメタ-トルエンジアミン異性体;
(b)組成物中のトルエンジアミン残留物およびオルト-トルエンジアミン異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のオルト-トルエンジアミン異性体;または
(c)組成物中のトルエンジアミン残留物およびメタ-トルエンジアミン異性体とオルト-トルエンジアミン異性体との混合物の総重量に基づいて、25~60重量%のトルエンジアミン残留物および40~75重量%のメタ-トルエンジアミン異性体とオルト-トルエンジアミン異性体との混合物
を含み、
前記トルエンジアミン残留物が、2,6-トルエンジアミン異性体よりも高い沸点を有する、トルエンジアミン(TDA)合成中に形成された化合物を含む、トルエンジアミン残留組成物の使用法。
【請求項15】
前記ブレンドが、80~90重量%のトルエンジアミン残留組成物および10~20重量%の低粘度、低沸点液を含んでなり、該低粘度、低沸点液が水を含んでなり、かつ該重量パーセントがブレンドの総重量に基づくものである、請求項1
4に記載の方法。
【請求項16】
前記ブレンドが40℃~95℃の温度範囲にわたって4,000cP以下の粘度を有する、請求項1
4または15に記載の方法。
【請求項17】
前記燃料燃焼装置が、ボイラー、ロータリーキルン焼却炉、液体注入キルン、流動層キルン、セメントキルンまたは金属鍛造炉を含んでなる、請求項1
4~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記燃料燃焼装置がセメントキルンである、請求項
17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、トルエンジアミン(TDA)残留物がTDA残留物の凍結点未満の温度で液体に維持されるようにそれらを安定化させる方法に関する。より具体的には、本発明は、水などの低粘度、低沸点液とのブレンド(blends)を形成することによってTDA残留物を安定化させる方法、そのブレンドを含む組成物、およびそのブレンドの燃料としての使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネートは大量に製造され、広く使用されているポリマーであるポリウレタンの製造のための出発物質としての役割を果たす。最も一般的に使用されているイソシアネートの1つはトルエンジイソシアネート(TDI)であり、これは一般にメタ-トルエンジアミン(m-TDA)のホスゲン化によって製造される。しかしながら、ホスゲン化の間に、m-TDAのその合成中に発生した汚染物質が、それらの高い凍結点または凝固点のために装置を詰まらせることがあり、および/またはTDIの製造に影響することがある。
【0003】
したがって、TDA残留物とも呼ばれるこれらの汚染物質は、通常蒸留によってm-TDAから分離され、焼却によって処分される。それらの高い凍結点または凝固点のために、TDA残留物は、それらが処分の前に液体のままであることを確保するために高温(例えば、>100℃)で保存する必要がある。したがって、TDA残留物をより低温で保存できるようにTDA残留物を安定化させることが望ましいであろう。さらに、TDA残留物を処分するためのより環境に優しく、かつより費用効果的な方法を見出すことが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0004】
これらおよび他の利点は、本発明のプロセス(processes)、方法(methods)および組成物によって達成される。したがって、本発明は、低粘度、低沸点液をトルエンジアミン残留組成物に添加してブレンドを形成することを含んでなる、トルエンジアミン残留物の安定化法であって、ブレンドが、ブレンドの総重量に基づいて、5~30重量%の低粘度、低沸点液を含んでなり、40℃~95℃の温度範囲にわたって10,000cP(10,000mPa.s)以下の粘度を有する、方法を提供する。
【0005】
また本発明はブレンド組成物(blended composition)の総重量に基づいて、70~95重量%のトルエンジアミン残留組成物および5~30重量%の低粘度、低沸点液を含んでなるブレンド組成物であって、40℃~95℃の温度範囲にわたって、10,000cP(10,000mPa・s)以下の粘度を有するブレンド組成物を提供する。
【0006】
本発明はさらに、燃料としてのトルエンジアミン残留組成物の使用法であって、5~30重量%の低粘度、低沸点液をトルエンジアミン残留組成物に添加して燃料ブレンド(a fuel blend)を形成することを含み、ここでの重量パーセントは燃料ブレンドの総重量に基づくものであり、ここでの燃料ブレンドは40℃~95℃の温度範囲にわたって10,000cP(10,000mPa.s)以下の粘度を有し、かつ少なくとも10,000BTU/lb(23,260kJ/kg)の熱含量(即ち燃焼熱)を有するものである、方法を提供する。
【0007】
本発明はさらに、燃料としてのトルエンジアミン残留組成物の使用法を提供する。これらの方法は:(a)トルエンジアミン残留組成物を含んでなるブレンドを燃料燃焼装置に供給することであって、ここでのブレンドは70~95重量%のトルエンジアミン残留組成物および5~30重量%の低粘度、低沸点液を含んでなり、ここでの重量パーセントはブレンドの総重量に基づくこと;および(b)ブレンドを燃料燃焼装置内で燃焼させることであって、ここでのブレンドは、40℃~95℃の温度範囲にわたって10,000cP以下の粘度を有することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明によるトルエンジアミン残留組成物を安定化させる方法の一実施態様のためのプロセス制御を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明によるトルエンジアミン残留組成物を安定化させる方法の一実施態様のための別のプロセス制御を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明によるトルエンジアミン残留組成物を安定化させる方法のためのプロセス制御のさらに別の実施態様を示す概略図である。
【
図4】
図4は、温度の関数としてプロットされた、水との種々のトルエンジアミン残留組成物ブレンドの粘度図である。
【
図5】
図5は、添加された水の関数としてプロットされた、87重量%のトルエンジアミン残留組成物と13重量%の低沸点物質との混合物(a mixture)についての2つの異なる温度での粘度図であって、ここでの添加された水のパーセントはブレンド(トルエンジアミン残留組成物、低沸点物質、および水)の総重量パーセントに基づくものである。
【発明の詳細な説明】
【0009】
本発明の様々な実施態様は、TDA残留物を含む組成物の凝固点または凍結点を低減させることによってトルエンジアミン(「TDA」)残留物を安定化させる方法を含む。したがって、本明細書で提供されるのは、ブレンドが50℃という低温、または40℃という低温、さらには20℃という低温で液体(例えば、10,000cP(10,000mPa・s)以下の粘度を有する)のままであるように、水などの低粘度、低沸点液とのブレンドを形成することによってTDA残留物を安定化させる方法である。ブレンドは、50℃~95℃の範囲、例えば40℃~95℃、さらには20℃~95℃などにわたる全ての温度で液体のままであり得る(例えば、10,000cP以下の粘度を有する)。次いで、これらのブレンドは、いくつかの実施態様では液体燃料としての使用を含めたさらなる処理のために、これらの比較的低い温度で保存および/または輸送することができる。本発明の他の実施態様は、燃料としてのTDA残留物の使用法、TDA残留物と低粘度、低沸点液とのブレンドを含む組成物、ならびに本明細書に開示されるプロセスおよび方法によって形成された組成物および燃料に関する。
【0010】
開示された実施態様の特定の説明は、開示された実施態様の明確な理解に関連する工程、要素、特徴、および態様のみを示すために簡略化され、一方で明確にする目的で、他の工程、要素、特徴、および態様が排除されていることを理解されたい。当業者であれば開示された実施態様の本説明を考慮すると、他の工程、要素、および/または特徴が開示された実施態様の特定の実施または適用において望ましい可能性があることを認識するであろう。しかしながら、そのような他の工程、要素、および/または特徴は、開示された実施態様の本説明を考慮することで当業者によって容易に確かめられ、かつ開示された実施態様の完全な理解に必要ではないので、そのような工程、要素、および/または特徴は本明細書では提供されていない。したがって、本明細書に記載された説明は、開示された実施態様の単なる例示および説明であり、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0011】
本明細書および添付の特許請求の範囲を通して、反対の指示がない限り、単数形の使用は複数形を含み、複数形は単数形を包含する。例えば、本明細書では「1つの(an)」異性体、「1つの(a)」組成物、「1つの(a)」燃料、および「1つの(a)」混合物について言及したが、1つ以上のこれらの成分および/または本明細書に記載の他の成分を使用することができる。
【0012】
反対の指示がない限り、すべての数値パラメータは、すべての場合において「約(about)」という用語が前に付され、かつその用語により修飾されると理解されるべきであり、ここで数値パラメータは、パラメータの数値を決定するために使用される基礎的測定技術の固有の変動性を持つものである。少なくとも、そして特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、本明細書に記載された各数値パラメータは、少なくとも報告された有効数字の数を考慮して、かつ通常の四捨五入の手法を考慮して解釈されるべきである。
【0013】
本明細書で使用される「粘度」という用語は、流体が動いている際の流動または剪断に対する流体の抵抗の定量的表現である動的粘度を指す。即ち、動的(絶対)粘度は、ある水平面を、流体内での単位距離の離間を維持する際に、他の面に対して-単位速度で-移動させるのに必要な単位面積当たりの接線力である。このように動的粘度は、一般に共鳴管または振り子などの測定対象物の運動に対する流体の減衰効果を用いて測定され、mPa・s(SI単位)またはcP(センチポアズ)の単位で表される。一般に、流体の動的粘度は測定が行われる圧力によってほとんど影響されないが、本明細書で報告されているように、粘度測定は大気圧で行われ報告されている。本明細書中に報告される粘度値は、Brookfield粘度計(Brookfield Engineering製のDV-1TM粘度計、100rpmでスピンドル#18または#31にて)または質量が回転の中心に向かって(または遠ざかって)移動することによって生じる加速度から生じる力を測定するコリオリ質量流量計(Endress+Hauser製Proline Promassなど)を用いて決定できる。Proline Promass流量計の直線の単管設計は、質量流量、密度および温度の通常のコリオリ流量計出力を提供し、さらに任意の出力値としてインライン粘度測定を提供する。
【0014】
また、本明細書に列挙された任意の数値範囲は、その中に包含されるすべての部分範囲を含むことを意図している。例えば、「1~10」の範囲は、記載された最小値の1と記載された最大値の10との間(およびそれらを含む)すべての部分範囲を含むことを意図し、即ち最小値として1以上および最大値として10以下を有する。本明細書に列挙される任意の最大数値の限定は、その中に包含されるすべてのより低い数値の限定を含むことを意図し、本明細書に列挙される任意の最小数値の限定は、その中に包含されるすべてのより高い数値の限定を包含することを意図している。したがって、出願人は本明細書に明示的に列挙された範囲内に包含される任意の部分範囲を明示的に列挙するために、特許請求の範囲を含む本開示を補正する権利を有する。そのような範囲はすべて本明細書に本質的に開示されていることが意図されているのでそのような部分範囲を明示的に列挙するための補正は35USC第112条および35USC第132条(a)の要件を満たす。
【0015】
TDA残留物は、トルエンジアミンの合成中に形成される副生成物である。TDAなどの芳香族ジアミンは、芳香族化合物をニトロ化して芳香族ジニトロ化合物を形成し、続いて芳香族ジニトロ化合物を触媒作用で水素化して芳香族アミンを形成することによって調製できることが知られている。水素化は、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールなどの溶媒を用いてか、またはそのような溶媒を用いずに実施することができる。水素化は反応混合物中に分散された触媒を用いて実施することができる。触媒としては、例えばイリジウム、コバルト、銅、パラジウム、または白金を含有する、ドープまたは非ドープのラネーニッケル触媒および/または金属触媒を使用することができる。
【0016】
芳香族ジアミンおよび水副生成物に加えて、水素化工程中に有機副生成物も形成される。これらの有機副生成物は、通常、芳香族ジアミンに対するそれらの沸点に基づいて、低沸点物質と高沸点物質とに分類されるか、またはそれらの化学的特性にしたがって種々の群に分類される。
【0017】
したがって、トルエンを工業的にニトロ化してジニトロトルエン(DNT)を得て、かつそれを水素化してTDAを得る場合に、水およびTDAの異性体に加えて、いくつかのそのような有機副生成物を含有している粗製TDA混合物が形成される。粗製TDA混合物の非水性含有量は、メタ-TDA異性体(m-TDA;2,4-および2,6-TDA)、オルト-TDA異性体(o-TDA;2,3-および3,4-TDA)、およびパラ-TDA異性体(p-TDA;2,5-TDA)、ならびに一般に粗製TDA混合物の非水性含有物の総重量に対して、3~5重量%の低沸点物質および0.2~2重量%の高沸点物質を含み得る。
【0018】
本発明の文脈において言及されるような低沸点物質は、2,4-TDA異性体よりも低い沸点を有する化合物であり、高沸点物質は、2,6-TDA異性体より高い沸点を有する化合物である(大気圧で測定した沸点は、2,4-および2,6-TDAについてそれぞれ283℃および289℃である)。低沸点物質の例には、トルイジンおよびアンモニアが含まれる。高沸点物質の例としては、ジフェニルメタン、ジフェニルアミン、アクリジンおよびフェナジンなどの2つのTDA異性体の酸化的カップリングによって形成されるオリゴマー種が挙げられる。
【0019】
高沸点物質は一般にTDA残留物と称される。したがって、本発明の文脈において、用語「TDA残留物」は、2,6-TDA異性体より高い沸点を有する、TDA合成中に形成される有機化合物をまとめて含み得る。TDA残留物という用語は、少なくとも2つの芳香環を含有しているある種の有機化合物も含む。さらにTDA残留物は、言及した有機化合物と、触媒の残留物、即ちイリジウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、パラジウムおよび/または白金のような重金属、との混合物を含み得る。
【0020】
水素化反応によってこのようにして得られた粗製TDA混合物は、慣用的に精製されて、m-TDA異性体とo-TDA異性体とに分離され、低沸点物質および高沸点物質が除去される。この精製は、蒸留、結晶化および/または熱による後処理ならびに化学酸化または還元法によって実施することができる。
【0021】
大規模な工業プロセスでは、精製プロセスはしばしば蒸留によって行われ、このようにして、反応水ならびにトルイジンおよびアンモニアなどの低沸点物質、ならびに場合により溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)が部分的または完全に除去される。次いで、水、低沸点物質、および場合により溶媒の分離は、1つ以上のさらなる段階で実施することができる。1つ以上のo-TDA異性体の除去は追加の蒸留塔内で行ってもよい。m-TDA異性体、および高沸点物質(即ち、TDA残留物)は、この追加の蒸留工程の後にも残る。
【0022】
この最終工程で残るTDA残留物の量は比較的少ない(即ち、供給原料の総重量に基づいて約2重量%)が、イソシアネートの製造にはm-TDAからのその分離が重要である。TDA残留物は、m-TDAのホスゲンとの反応の間により高分子量の化合物を形成し、ジイソシアネートが得られる。これらの高分子量化合物は、比較的高い凝固温度または凍結温度、および/または非常に高い粘度を有することが多く、イソシアネートを製造するのに使用される装置を詰まらせる可能性がある。したがって、TDA残留物の除去は、より高純度のイソシアネートをもたらすだけでなく、m-TDAからのより効率的なイソシアネートの製造ももたらす。
【0023】
TDA残留物は蒸留塔内でm-TDA異性体から分離することができ、ここで本質的に純粋なm-TDAは頂部相で分離され、TDA残留物は高沸点物質含有量が組成物中のTDA残留物およびm-TDA異性体の総重量に基づいて約25~60重量%になるまで底部相で濃縮される。即ち、蒸留は非常に粘性のある高沸点物質が使用可能な粘度範囲内に維持され得るように、一定量のm-TDA異性体が残る時点で停止することができる。
【0024】
したがって本明細書に記載の「トルエンジアミン残留組成物」という用語は、組成物中のTDA残留物およびm-TDA異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のTDA残留物および40~75重量%のm-TDA異性体を含む組成物を指す。本発明の特定の面によれば、本明細書に記載のトルエンジアミン残留組成物は、組成物中のTDA残留物およびm-TDA異性体の総重量に基づいて、40~60重量%のTDA残留物および40~60重量%のm-TDA異性体、さらには50重量%のTDA残留物および50重量%のm-TDA異性体を含む組成物を指す。
【0025】
トルエンジアミン残留組成物のm-TDA異性体成分は、組成物に外来の補助物質、または精製プロセスの前工程からの補助物質を用いて交換することができる。一つの例示的な補助物質には、第一蒸留工程の一部として単離されたTDA異性体混合物(塔底からのo-TDA/m-TDA/高沸点物質混合物)または次の蒸留工程の一部として単離されたo-TDA異性体(塔頂からのo-TDA)が含まれる。例えば、主にm-TDAおよびTDA残留物を含むトルエンジアミン残留組成物は、o-TDA異性体と、5:1~1:5、例えば1:1~1:5の重量/重量(w/w)比(即ち、m-TDAおよびTDA残留物の重量の、o-TDAの重量に対する比)で混合することができる。次いで、得られたm-TDA/o-TDA混合物をさらなる蒸留によって組成物(TDA残留物を含む)から回収することができる。このようにして、底部相中のm-TDA(トルエンジアミン残留組成物)の量を減少させることおよび/またはo-TDA異性体と交換することができる。
【0026】
したがって本明細書に記載のトルエンジアミン残留組成物は、組成物中のTDA残留物およびo-TDA異性体の総重量に基づいて、25~60重量%のTDA残留物および40~75重量%のo-TDA異性体を含む組成物を指す。本発明の特定の面によれば、本明細書に記載のトルエンジアミン残留組成物は、組成物中のTDA残留物およびo-TDA異性体の総重量に基づいて、40~60重量%のTDA残留物および40~60重量%のo-TDA異性体、さらには50重量%のTDA残留物および50重量%のo-TDA異性体を含む組成物を指す。
【0027】
この底部相中のトルエンジアミン残留組成物は、o-TDA異性体とm-TDA異性体との混合物も含み得る。したがってトルエンジアミン残留組成物は、組成物中のTDA残留物およびm-TDA/o-TDA異性体混合物の総重量に基づいて、25~60重量%のTDA残留物および40~75重量%のm-TDA/o-TDA異性体混合物、例えば40~60重量%のTDA残留物および40~60重量%のm-TDA/o-TDA異性体混合物、さらには50重量%のTDA残留物および50重量%のm-TDA/o-TDA異性体混合物を含み得、ここで、トルエンジアミン残留組成物中のm-TDA異性体のo-TDA異性体に対する比は、5:1~1:5、例えば4:1~1:4、さらには2:1~1:2のw/w比であり得る。本発明の特定の面によれば、トルエンジアミン残留組成物中のm-TDA異性体のo-TDA異性体に対するw/w比は1:4であってもよい。
【0028】
本明細書に記載のトルエンジアミン残留組成物は、確実に適切に取扱われるように液体に維持するために、歴史的には当該材料の凝固点または凍結点を上回る高い温度、典型的には100℃超、例えば100℃~145℃の間に維持されたタンク内で保存されてきた。より低い温度は、それらが粘度の増加、プロセス装置内の閉塞、凍結およびそれに続く材料の再加熱の必要性につながるので回避されてきた。トルエンジアミン残留組成物を処分するための現在の一般的方法は、これらの高温で組成物を取り扱うことができる施設での焼却である。
【0029】
本発明はトルエンジアミン残留組成物を低粘度、低沸点液と混合することによって、トルエンジアミン残留組成物の凝固点または凍結点を低下させる方法を提供する。本明細書で使用する場合、「低粘度、低沸点液」は、100cP以下(23℃で測定して100mPa・s以下)の粘度および210℃以下(大気圧で測定)の沸点を有する液体を意味する。例示的な低粘度、低沸点液は、水、粗製TDA精製プロセスの初期段階中に回収される低沸点物質、アミンおよびアニリンなどの小有機化合物、ならびにアルコールおよび低分子量炭化水素を含む有機溶媒を含む。本明細書で使用される場合、「低分子量」は、600ダルトン以下、例えば300ダルトン以下、または150ダルトン以下の重量平均分子量を有する化合物を意味する。本明細書で使用される場合、用語「分子量」は、オリゴマーまたはポリマーに関して使用される場合、重量平均分子量Mwを指し、既知の分子量の小分子またはポリスチレン試料を使用する、キャリブレーションのためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定され得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「凝固点」および/または「凍結点」は互換的に使用され、液体状態から固体状態への転移が起こる温度(大気圧で)を意味する。特定のトルエンジアミン残留組成物の凝固点または凍結点は変動し得、そしてトルエンジアミン残留組成物中のTDA残留物の少なくとも重量%に依存する。
【0031】
したがって、トルエンジアミン残留組成物の凝固点または凍結点を低下させる方法は、「熱い」トルエンジアミン残留組成物を混合することを含み得、ここで組成物は、低粘度、低沸点液と合わさり、100℃の直下(just below)の温度、または100℃を超える温度、例えば145℃、さらには145℃~200℃である。低粘度、低沸点液と混合される際のトルエンジアミン残留組成物の温度は、低粘度、低沸点液の種類に依存し得る。例えば、低粘度、低沸点液が水である場合、トルエンジアミン残留組成物は、引火を防止するために100℃直下の温度で冷却することができる。また各成分を周囲よりも高い圧力で供給することも可能であり、そうすることでトルエンジアミン残留組成物および低粘度、低沸点液が供給される温度は、圧力にさらに依存し得る。
【0032】
低粘度、低沸点液は、トルエンジアミン残留組成物および低粘度、低沸点液を含んだ、結果得られるブレンドの総重量に基づいて、5~30重量%の量、例えば、10~25重量%、または10~20重量%、さらには15~20重量%の量で添加し得る。低粘度、低沸点液は、20℃以上、さらには40℃以上などの任意の温度で添加し得る。ブレンドは、低粘度、低沸点液添加の作用によって、外部冷却システムによって、またはそれらの組み合わせによって冷却することができる。ブレンドは、95℃以下、例えば50℃以下、45℃以下、さらには41℃以下の温度に冷却し得る。
【0033】
本方法の特定の実施態様によれば、低粘度、低沸点液は水であってもよい。したがってこの方法は、トルエンジアミン残留組成物を水と混合してブレンドを形成することを含み得る。水は、トルエンジアミン残留組成物および水を含んだ、結果得られるブレンドの総重量に基づいて、5~30重量%の量、例えば10~25重量%、または10~20重量%、さらには15~20重量%の量で添加し得る。
【0034】
本方法の特定の実施態様によれば、低粘度、低沸点液は、TDA精製方法の初期段階で精製された低沸点物質であり得る。したがって本方法は、トルエンジアミン残留組成物をこれらの低沸点物質と混合してブレンドを形成することを含み得る。低沸点物質はトルエンジアミン残留組成物および低沸点物質を含んだ、結果得られるブレンドの総重量に基づいて、5~30重量%、例えば10~25重量%、または10~20重量%、さらには15~20重量%で添加し得る。
【0035】
さらに、トルエンジアミン残留組成物およびTDA精製プロセスの初期段階で精製された低沸点物質を含むブレンドに水を添加することもできる。特定の実施態様において、水は、水をさらに含むそのように得られたブレンドの総重量に基づいて、1~30重量%、例えば5~15重量%、または5~10重量%で添加される。上記のように、水は、20℃以上、さらには40℃以上などの任意の温度で添加し得る。ブレンドは、低沸点物質の添加、水の添加、外部冷却システム、またはそれらの組み合わせの作用によって冷却し得る。ブレンドは、95℃以下、例えば50℃以下、45℃以下、さらには41℃以下の温度に冷却することができる。混合物は、20℃~95℃の温度、例えば20℃~50℃、20℃~45℃、または20℃~41℃の温度に冷却されてもよい。
【0036】
上記の混合物のいずれかに添加される水は、上記のようにm-TDAを単離するための粗製TDA混合物精製の初期段階中に回収される水などの処理水であってもよい。例えば、処理水は、粗製TDA混合物の精製プロセスにおいて第1の蒸留塔で回収された水であってもよい。代替的には、または加えて水は、外部源から、または施設内の別のプロセスから供給される水などの施設用水であってもよい。
【0037】
本発明によって提供されるプロセスの設計および制御(control)は、ブレンドを形成するために添加される低粘度、低沸点液の量、およびブレンドの最終温度に柔軟性をもたせ、その両方とも必要に応じて調整することができる。例えば、ブレンドの粘度および温度は、ブレンドの保存、輸送、または輸送粘度および/またはブレンドの温度、および/またはブレンドの最終用途のため(例えば液体燃料として)の要件の知識に基づいて選択することができる。
【0038】
本発明の特定の面によれば、方法はブレンドの粘度を連続的にモニタリングすることを含み得る。したがって、ブレンドを形成するためにトルエンジアミン残留組成物に添加される低粘度、低沸点液(例えば、水、低沸点物質、溶媒など)の量は、特定の所望の粘度または粘度範囲に調整され得る。
【0039】
さらに、粘度を連続的にモニタリングすることは、プロセス装置にとっての安全装置として働き、誤った混合比によるプロセスの中断を防ぐことができる。即ち、装置の特定の部分が仕様どおりに機能しない場合でも、粘度を継続的にモニタリングすることで期待される粘度が得られる可能性がある。例えば、トルエンジアミン残留組成物流の不適切な測定は、特定の粘度を有するブレンドを形成するために添加される低粘度、低沸点液の量の不正確な計算、および/または不正確なブレンド比をもたらし得る。あるいは、低粘度、低沸点液の不適切にキャリブレーションされた供給ラインは、正しくない添加量をもたらし得る。低粘度、低沸点液の添加中の粘度の連続モニタリングは、実際の添加量のリアルタイムのフィードバックを提供し得、プロセス装置が自動的に添加量を修正することを可能にし、またはプロセスエンジニアが手動で添加量を修正することを可能にする。
【0040】
したがって本発明は、トルエンジアミン残留物の安定化方法を提供する。上記方法は、低粘度、低沸点液をトルエンジアミン残留組成物に添加してブレンドを形成することを含み、ここで、ブレンドは、ブレンドの総重量に基づいて5~30重量%の低粘度、低沸点液を含み、ブレンドは、50℃~95℃、または40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって、10,000cP(10,000mPa・s)以下の粘度を有する。本発明の特定の面によれば、ブレンドは、ブレンドの総重量に基づいて10~20重量%の低粘度、低沸点液を含む。 本発明の特定の面によれば、ブレンドは、ブレンドの総重量に基づいて15~20重量%の低粘度、低沸点液を含む。本発明の特定の面によれば、ブレンドは、50℃~95℃、例えば40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって4,000cP(4,000mPa・s)以下、例えば、2,000cP(2,000mPa・s)以下、さらには1,000cP(1,000mPa・s)以下の粘度を有し得る。
【0041】
本発明の特定の面によれば、本方法は、低粘度、低沸点液の添加中にブレンドの粘度を連続的にモニタリングすること;および制御すること、即ち、モニタリングされた粘度に基づいて、トルエンジアミン残留組成物の添加量および/または低粘度、低沸点液の添加量を調節することまたは変更することを含み得る。例えば、連続法では、トルエンジアミン残留組成物および/または低粘度、低沸点液の量は、粘度測定値に基づいて調整し得、一方静的系では、トルエンジアミン残留組成物および/または低粘度、低沸点液の添加は、ブレンドの粘度が所望の粘度に等しくなった時に停止することができる。さらに、本発明の特定の面によれば、ブレンドは、その最終用途(例えば液体燃料としての用途など)のために、ブレンドの温度を目標温度範囲(例えば、20℃~95℃、30℃~50℃、35℃~45℃、または38℃~42℃の目標温度範囲)にするために熱交換器を通過させる。
【0042】
また本発明は、明細書に記載のいずれかの方法にしたがって調製されたトルエンジアミン残留組成物と、本低粘度、低沸点液とのブレンドを提供する。
【0043】
本発明はさらに、ブレンドの総重量に基づいて、70~95重量%の本明細書に詳述されるトルエンジアミン残留組成物、および5~30重量%の低粘度、低沸点液を含むブレンドを提供する。本発明の特定の面によれば、ブレンドは、ブレンドの総重量に基づいて、80~90重量%のトルエンジアミン残留組成物および10~20重量%の低粘度、低沸点液を含み得る。本発明の特定の面によれば、ブレンドは、ブレンドの総重量に基づいて、85~90重量%のトルエンジアミン残留組成物および10~15重量%の低粘度、低沸点液を含み得る。
【0044】
本発明の特定の面によれば、本明細書に記載されている様々なブレンドは、液体燃料を利用するように構成された燃料燃焼装置における燃料として使用し得る。これらには家庭用、市販用および工業用の装置が含まれ得る。燃料燃焼装置は、発電所または用役プラント用のボイラーなどの市販用途用のボイラー;ロータリーキルン焼却炉、液体注入キルン、流動層キルン、セメントキルン等の焼却炉;ならびに鋼鉄およびアルミニウムの鍛造炉であってもよい。
【0045】
また本発明は、これらのエネルギー集約型プロセス(例えば、セメントキルン)のいずれかにおける液体燃料としてのトルエンジアミン残留組成物の使用法も提供する。この燃料としてのトルエンジアミン残留組成物の本発明の使用法は、石炭または天然ガスのなどの他の燃料への依存を減少させ、かつ廃棄物流から材料を除去するであろう。さらに、焼却から燃料としての使用へのこの移行は、TDA製造設備における一次エネルギー消費量の減少を可能にする。
【0046】
しかしながら、TDA残留物はその通常の形態では凍結温度または凝固温度が非常に高い(典型的には96℃~105℃)ために、液体燃料源としての使用の要件を満たさない。例えばセメントキルンでは、トルエンジアミン残留組成物は、キルンに入れる前に様々な有機廃棄物および原料と混合されるであろう。しかしながら、供給混合物の変化する性質を理由にセメントキルンの安全性および操作上の側面が危険にさらされないことを確保するためにトルエンジアミン残留組成物が満たさなければならない厳しい要件がある。
【0047】
セメントはコンクリートにおける有効成分であり、ミネラルの混合物を1400℃超で加熱することによって巨大なロータリーキルンで製造されている。これは非常にエネルギー集約的なプロセスであり、セメント製造業者は、再生不能な化石燃料を代替するために他の工業プロセスによって創出されたエネルギー豊富な二次材料を使用することを可能にする技術を開発した。そのような技術は、例えば、二次材料の粘度および二次材料が供給される温度などの特定の要件を有する。一般に、セメントキルンに使用するための二次材料は、10,000cP(10,000mPa・s)以下の粘度、例えば4,000cP(4,000mPa・s)以下、2000cP(2000mPa・s)以下、さらには1000cP(1000mPa・s)以下などの粘度でキルンへの投入のために供給される必要がある。さらに、二次材料は、95℃以下、例えば50℃以下、または45℃以下、さらには41℃以下の温度でキルンへの投入のために供給される必要がある。
【0048】
したがって、本発明は、燃料としてのトルエンジアミン残留組成物の使用法であって、一般に5~30重量%の低粘度、低沸点液をトルエンジアミン残留組成物に添加して燃料ブレンドを形成することを含み、ここで重量パーセントは燃料ブレンドの総重量に基づくものであり、かつ燃料ブレンドは95℃以下の温度、例えば50℃~95℃、または40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって、10,000cP(10,000mPa・s)以下の粘度を含む、方法を提供する。燃料は、少なくとも10,000BTU/lb(23,260kJ/kg)の熱含量を有し得る。
【0049】
さらに、本発明のいくつかの実施態様は、燃料としてのトルエンジアミン残留組成物の使用法であって、方法は一般に(i)トルエンジアミン残留組成物を含むブレンドを燃料燃焼装置に供給することであって、ここでブレンドは70~95重量%のトルエンジアミン残留組成物および5~30重量%の低粘度、低沸点液を含むものであり、ここで重量パーセントはブレンドの総重量に基づくものであり;および(ii)ブレンドを燃料燃焼装置内で燃焼させることであって、ここでブレンドは、95℃以下の温度、例えば50℃~95℃、または40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって、10,000cP(10,000mPa・s)以下の粘度を有することを含む。燃料は、少なくとも10,000BTU/lb(23,260kJ/kg)の熱含量を有し得る。
【0050】
そのような方法の特定の面によれば、粘度は95℃以下、50℃以下、45℃以下、さらには41℃以下の温度;例えば50℃~95℃、または40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって、4,000cP(4,000mPa・s)以下、2000cP(2000mPa・s)以下、さらには1000cP(1000mPa・s)であり得る。本方法の特定の面によれば、燃料ブレンドの総重量に基づいて、5~20重量%の低粘度、低沸点液、さらには10~20重量%の低粘度、低沸点液をトルエンジアミン残留組成物に添加して燃料ブレンドを形成してもよい。そのような方法の特定の面によれば、トルエンジアミン残留組成物は一般にTDA残留物を含み、これには2,6-TDA異性体よりも高い沸点を有する、TDA合成中に形成された化合物も含まれる。TDA異性体は、メタ-トルエンジアミン(2,4-ジアミントルエン、2,6-トルエンジアミン)、オルト-トルエンジアミン(2,3-ジアミントルエン、3,4-ジアミントルエン)またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0051】
本方法の特定の面によれば、トルエンジアミン残留組成物はセメントキルン内の燃料としての用途を見出し得る。
【0052】
したがってまた本発明は、70~95重量%のトルエンジアミン残留組成物および5~30重量%の低粘度、低沸点液を含む燃料組成物であって、該燃料が50℃~95℃、または40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって10,000cP(10,000mPa)以下の粘度を有する。
【0053】
本発明の特定の面によれば、燃料は、80~90重量%の本明細書に詳述されるトルエンジアミン残留組成物および10~20重量%の水を含み得る。本発明の特定の面によれば、燃料は、85~90重量%の本明細書に詳述されているトルエンジアミン残留組成物および10~15重量%の水を含み得る。さらに、燃料の粘度は、50℃~95℃、または40℃~95℃、さらには20℃~95℃の温度範囲にわたって、4,000cP(4,000mPa・s)以下であり得る。燃料の粘度は、50℃~95℃、または40℃~95℃、または20℃~95℃の温度範囲にわたって、2,000cP(2,000mPa・s)以下であり得る。燃料の粘度は、50℃~95℃、または40℃~95℃、または20℃~95℃の温度範囲にわたって、1,000cP(1,000mPa・s)以下であり得る。さらに燃料の粘度は、50℃以下の温度で4,000cP(4,000mPa・s)以下、50℃以下の温度で2,000cP(2,000mPa・s)以下、さらには50℃以下で1000cP(1,000mPa・s)以下であり得る。
【0054】
本発明の特定の面によれば、燃料は少なくとも10,000BTU/lb(23,260kJ/kg)の熱含量を有し得、セメントキルンにおいて用途を見出し得る。
【0055】
このように本発明を説明してきたが、以下の実施例はその例示として提供する。これらの実施例に示される全ての部およびパーセントは、反対の指示がない限り、重量部および重量パーセントである。
【実施例】
【0056】
本発明の方法の様々な実施態様を詳述するいくつかの概略図を提供する。さらに、いくつかの実験を行い、種々のブレンドの粘度および相安定性を測定し、かつそれらの定性的評価を得た。
【0057】
例1
図1に示されているのは、本発明の方法を実施するために使用し得るプロセス制御の実施態様の概略図である。より具体的には、
図1に示す制御スキームはトルエンジアミン残留組成物(A)の投入および水または他の低粘度、低沸点液(B)の投入からなる。AおよびBの流量制御は、流量計(それぞれC1およびC2)と連通する供給ライン(それぞれ空気圧バルブD1およびD2として示される)上のバルブによって提供することができる。この例示的な配合工程は、トルエンジアミン残留組成物(A)を水または他の低粘度、低沸点液(B)と所定の割合で連続的に混合し、熱交換器G(Eから供給されFを介して戻る冷却媒体を用いて)によって保存または輸送のための荷積み(loading)(J)前に所望の温度にブレンドを冷却する。
【0058】
計装および制御(例えばメーターC1およびC2、バルブD1およびD2)は、目標の配合組成に達するためにすべての流量が計量され、適切な量で添加されることを確保することができる。例えば、制御システムはAの流量に基づいてBの流量を調節し、かつ混合物中のBの所望の濃度を調節することができる。設定は、異なる組成物のブレンドを作製するためにブレンド比の変更を可能にする。
【0059】
流れを混合した後にブレンドを特定の所望の温度に冷却することができる。冷却媒体の流れは、温度計(TIC;H)からの反応に基づいて所望の温度に達するように調整する(バルブD3を使用して上下に)ことができる。粘度計(AIC;I)は、所望のブレンド比(即ち、添加されたAおよびBの量)の偏差を捉える方法としてブレンドの粘度をモニタリングすることができる。あるいは、粘度計からの反応を使用して、ブレンドが特定の粘度範囲内に留まるように、ブレンドを形成するために提供される成分(即ち、AおよびB)の比率を変更することができる。特定の実施態様では、粘度計(I)は、質量流量、粘度、および他のパラメータを測定するコリオリ質量流量計であってもよい。
【0060】
例2
図2に示されているのは、本発明の方法を実施するために使用することができるプロセス制御の他の実施態様の概略図である。より具体的には、
図2に示す制御スキームは、トルエンジアミン残留組成物(A)の投入と水または他の低粘度、低沸点液(B)の投入とからなり、両者ともタンク(K)に送られる。AおよびBの流量制御は、流量計(それぞれC1およびC2)と連通する供給ライン上のバルブ(それぞれ空気圧バルブD1およびD2として示す)によって提供することができる。
【0061】
この例示的なプロセス制御では、トルエンジアミン残留組成物(A)は、熱交換器Gによって冷却(Eから供給されFを介して戻される冷却媒体を使用して)し、その後水または他の低粘度、低沸点液(B)と接触が行われるタンク(K)に添加することができる。冷却媒体の流れは、温度計からの反応(TIC;H)に基づいて所望の温度に達するように(バルブD3を使用して上下に)調節することができる。
【0062】
さらに、タンク(K)内の材料はポンプ(M)によってタンク(K)に再循環して戻し得る。タンク(K)への戻り流は、ブレンダー(L)および粘度計(I)を通過し得、所望の粘度に達するまで再循環され続けてもよく、その時点でタンク(K)内の材料は保管または輸送のために荷積み(J)に送ってもよい。
【0063】
図1に示す実施態様と同様に、計装および制御は、全ての流量が目標ブレンド組成に達するために計量され、適切な量で加えられることを確保することができる。例えば、制御システムは、Aの流量に基づいてBの流量を調節し、かつブレンド中のBの所望の濃度を調整し、かつ粘度の示度(I)に基づいてタンク(K)に再循環させることができる。設定により、比率を変更して異なる組成物のブレンドを製造することができる。追加のバルブ(n)が含まれていてもよく、それは混合ステーション全体にわたって種々の供給流量を自動的にまたは手動で制御することができる。
【0064】
例3
図3に示されているのは、本発明の方法を実施するために使用し得るプロセス制御の他の実施態様の概略図である。
図3中の参照符号は、
図2と同一である。この実施態様における追加の流量制御は、自動または手動のいずれかで混合ステーション全体にわたる様々な供給流量を制御し得る追加のバルブ(o)を使用して可能にし得る。
【0065】
例4
図4に示されているのは、一連のトルエンジアミン残留組成物-水ブレンドについての温度の関数としての粘度のグラフである(粘度をlog
10スケールでプロット;
図4のプロットに使用したデータを表1に示す)。
【0066】
様々なブレンドを形成するために、ある量の処理水(40℃)(それぞれ、ブレンド中のトルエンジアミン残留組成物および水の総重量に基づいて10重量%の水(「10%水」)、15重量%の水(「15%水」)、および20重量%水(「20%水」)をトルエンジアミン残留組成物に(100℃直前の温度で)添加した。水を添加していないトルエンジアミン残留組成物(「0%水」)、および87重量%のトルエンジアミン残留組成物と13重量%の低沸点物質とのブレンド(「87/13混合物」)も試験した。
【0067】
様々な温度での粘度を、小型のセルアダプターを備えたBrookfield DV-1TMPrimeを使用して測定した。粘度計はBrookfieldによって毎年キャリブレーションされ、Canon粘度標準(25℃および/または80℃の同一温度で試験された一連の標準油粘度)を用いて日常的に確認された。Fluke Model 5622高速応答白金抵抗温度計を備えたFluke 1524基準温度計(毎年キャリブレーションされる)(購入され、キャリブレーションされ、毎年のキャリブレーションのために返送される)をすべての温度測定に使用した。試料セルの温度は直接測定した。
【0068】
以下のプロトコルを用いて測定を行った:(1.)スピンドル#18または#31を用いて使用するために、サンプルセルに10~13mLのサンプルを入れる;(2.)温度計をサンプルに浸し、温度の測定を開始する;(3.)温度が所望の温度に安定するまで待機し、その後温度計を取り出す;(4.)粘度計を所望の回転速度(即ちrpm、目標は%トルク値>50%にすること)にする;(5.)>50%のトルクが達成されない場合は、#18のような大きなスピンドルに変更する;および(6.)粘度を記録する。結果を表1に記載する。
【0069】
【0070】
図4のグラフの10,000cP(10,000mPa・s)における線は、トルエンジアミン残留組成物への10重量%、15重量%または20重量%の水の添加が、20℃以上の温度で10,000cP以下の粘度を有するブレンドをもたらしたことを実証している。4,000cP(4,000mPa・s)の線は、トルエンジアミン残留組成物への10重量%の水の添加が、24℃以上の温度で4,000cP以下の粘度を有するブレンドをもたらし、一方でトルエンジアミン残留組成物への15%または20重量%の水の添加は測定されたすべての温度、特に20℃以上のすべての温度で、4,000cP以下の粘度を有するブレンドをもたらしたことを実証している。
図4のグラフ中の1000cP(1000mPa・s)の線は、トルエンジアミン残留組成物への10重量%の水の添加が、33℃以上の温度で1,000cP以下の粘度を有するブレンドをもたらしたことを実証し;トルエンジアミン残留組成物への15重量%の水の添加が、24℃以上の温度で1,000cP以下の粘度を有するブレンドをもたらしたことを実証し;トルエンジアミン残留組成物への20重量%の水の添加が、測定された全ての温度、具体的には20℃以上の全ての温度で1,000cP以下の粘度を有するブレンドをもたらしたことを実証している。
【0071】
例5
トルエンジアミン残留組成物/水ブレンドの経時安定性を測定するためにさらなる実験を行った。80重量%のトルエンジアミン残留組成物と20重量%の水とのブレンドを作製し、ブレンドの一部を25℃で保存し、ブレンドの他の部分を40℃で保存した。ブレンドを3リットルの容器(半分充填済み)に注ぎ入れ、最大混合速度で1分間混合した後、ミキサーを停止した。所望の温度に設定された電気油浴を使用して容器を一定の温度に維持し、冷却水が入った凝縮器を使用して実験の間中水が容器から蒸発しないようにした。試料(12ml)を容器の頂部および底部から採取し、上の例4で示した方法にて粘度測定を定期的に(25℃で)行った。結果は表2に示される。
【0072】
【0073】
表2に示されるように、40℃で保存された混合物は16日間の試験の全過程にわたって安定に維持され、またより長い期間安定であったであろう。容器の頂部または底部における粘度に有意な変化は見られず、結晶形成は観察されなかった。25℃で保存したブレンドは、時間の経過と共に容器の頂部と比較して容器の底部で粘度の増加を示し、容器の頂部での結晶形成が66時間後に観察された。したがって、20重量%の水のブレンドは25℃で66時間および40℃で2週間にわたり相分離の兆候を示さなかった。
【0074】
例6
低沸点物質の添加がトルエンジアミン残留組成物を安定化させるか否か(即ち、50℃以下の温度で粘度が低下するか否か)を試験するために、87重量%のトルエンジアミン残留組成物および13重量%の低沸点物質の混合物(「87/13混合物」)を作製した。またこの混合物を様々な量の水と混合し(表3に示すように、水の重量%はブレンド中の87/13混合物および水の総重量に基づいたものである)、水による混合物をさらに安定化させる能力を試験した。結果は表3に示される。
【0075】
【0076】
図5に示されているのは、23℃および48℃での添加水の関数としての87/13混合物の粘度のグラフである(粘度をlog
10スケールでプロット;
図5のプロットに使用したデータを表3に示す)。より具体的には、13重量%の低沸点物質を87重量%の上記のトルエンジアミン残留組成物に添加して87/13混合物を形成した。次いで、この87/13混合物に水を添加し(87/13混合物およびブレンド中の水の総重量に基づいて6~11重量%の水の範囲での種々の量で)、実施例4において上で示された方法で粘度を23℃または48℃で測定した。
【0077】
図5のグラフのデータは、13重量%の低沸点物質の添加が48℃以上の温度でトルエンジアミン残留組成物を安定化させたことを実証している(全ての粘度測定値は4,000cP(4,000mPa・s)未満であった)。水の添加は混合物の粘度をさらに低下させたので、23℃にてわずか6重量%の水でブレンドは10,000cP(1,000mPa・s)未満の粘度を有していた。
【0078】
上述において本発明を例示の目的で詳細に説明したが、そのような詳細は単にその目的のためであること、当業者であれば本発明の精神および範囲から逸脱することなくその中で変動させてもよいが特許請求の範囲により制限され得ることを理解するべきである。