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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】蛍光画像における標的分子密度決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20220817BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220817BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20220817BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220817BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220817BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALI20220817BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
G01N33/483 C
G01N21/64 F
G01N21/64 E
C12Q1/02
C12Q1/6841 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019553845
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2018059528
(87)【国際公開番号】W WO2018189370
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】17166661.3
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クライマン, エルダド
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0338014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0060987(US,A1)
【文献】国際公開第2001/035074(WO,A1)
【文献】特表2002-538440(JP,A)
【文献】特表2003-522973(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0262564(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光画像内で描写されている組織試料中の標的分子の密度を決定するための画像分析方法であって、
- 画像分析システム(100)によってスライド(150)のデジタル画像(130)を受信すること(202)であって、スライドは組織試料(152)、標的ドット(TD)及び蛍光ドット(FD)を含み、蛍光ドットは既知の密度(114)の蛍光誘導分子(408)を含み、標的ドットは既知の密度(116)の標的分子(402)を含み、組織試料及び標的ドットは、蛍光ドット中に含有されているものと同じタイプの蛍光誘導分子を用いる同じ染色手順で染色されており、デジタル画像は組織試料の強度値、標的ドットの強度値(122)及び蛍光ドットの強度値(120)を含み、蛍光誘導分子は染色手順の際に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている、スライドのデジタル画像を受信すること(202)、
- 画像分析システムによって、
- 画像内で描写されている蛍光ドットのピクセル強度(120)、
- 画像内で描写されている標的ドットのピクセル強度(122)、
- 画像内で描写されている組織試料の一領域(154)のピクセル強度(118)、
- 蛍光ドット中の蛍光誘導分子の既知の密度を示す蛍光誘導分子密度情報(114)、
- 標的ドット中の標的分子の既知の密度を示す標的分子密度情報(116)
を受信すること(204)、
- 組織試料の領域(154)内の標的分子の密度を、蛍光ドット、標的ドット、組織試料の領域のピクセル強度、蛍光誘導分子密度情報及び標的分子密度情報の関数として計算すること(206)
を含む、画像分析方法。
【請求項2】
組織領域(154)内の標的分子の密度の計算は、

に従って、蛍光ドットのピクセル強度(120)の平均強度IFlD_AVGを計算すること、

に従って、標的ドットのピクセル強度(122)の平均強度ITaD_AVGを計算すること、

に従って、標的ドット中の標的分子あたりの蛍光誘導分子の比Rを計算すること、

(式中、δTarget_In_Target_dotは、標的ドット中の標的分子の密度である)
に従って、組織試料の領域(154)内の標的分子の密度δTarget_In_Tissueを計算すること
を含む、請求項1に記載の画像分析方法。
【請求項3】
- 標的分子を用いてスライドの一領域をコーティングし、それによって、標的ドットを作成すること
をさらに含む、請求項1又は2に記載の画像分析方法。
【請求項4】
スライドの領域のコーティングがタンパク質マイクロアレイ技術を使用して実施される、請求項3に記載の画像分析方法。
【請求項5】
標的ドットを生成することをさらに含み、生成することが
- スライドの一領域に基準細胞を均一に付着させることであって、それによって、標的ドットを生成し、基準細胞が既知の数の標的分子を発現させるか又は含む、付着させること
を含む、請求項1又は2に記載の画像分析方法。
【請求項6】
基準細胞のセット中で発現されるか又は基準細胞のセット中に含有される標的分子の平均数を実験的に決定すること、
- 標的ドットに付着されている細胞の数をカウントすること
をさらに含む、請求項5に記載の画像分析方法。
【請求項7】
実験的に決定することが
- 基準組織試料を基準細胞の均一な懸濁液に転換するために、基準組織試料を処理すること、
- 懸濁液中の基準細胞中又は懸濁液中の基準細胞のサブセット中に含まれる標的分子の平均数を実験的に決定すること
を含む、請求項6に記載の画像分析方法。
【請求項8】
実験的に決定することが、基準細胞中の標的分子を定量的に決定するための、質量分析を実施すること又はフローサイトメトリー分析を実施することを含む、請求項6又は7に記載の画像分析方法。
【請求項9】
染色手順の際に単一の標的分子に結合する蛍光誘導分子の比が未知であり、染色プロトコールの1つ又は複数のパラメーターに依存する、請求項1から8のいずれか一項に記載の画像分析方法。
【請求項10】
染色プロトコールがチラミドシグナル増幅染色プロトコールである、請求項1から9のいずれか一項に記載の画像分析方法。
【請求項11】
単一の標的分子への蛍光誘導分子の結合が、
- 標的分子に対する、又は標的分子と連結している1つ若しくは複数の中間分子に対する共有結合又はイオン結合、
- 標的分子に対する、又は標的分子と連結している1つ若しくは複数の中間分子に対する双極子間相互作用、ファンデルワールス相互作用、又は水素結合、
- 抗原抗体結合、
- 核酸配列のハイブリダイゼーション
を含む群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の画像分析方法。
【請求項12】
蛍光誘導分子が、蛍光誘導分子に空間的に近接する他の分子による蛍光シグナルの放出を誘発するフルオロフォア又は酵素である、請求項1から11のいずれか一項に記載の画像分析方法。
【請求項13】
蛍光ドットが少なくとも1つのさらなる蛍光誘導分子タイプの既知の密度のさらなる蛍光誘導分子を含み、組織試料と標的ドットが両方とも、さらなる蛍光誘導分子によってさらに染色されている画像分析方法であって、
- スライドのさらなるデジタル画像を受信することであって、さらなるデジタル画像が組織試料の強度値、標的ドットの強度値(122)、及び蛍光ドットの強度値(120)を含み、蛍光ドット、標的ドット及び組織試料の強度値が、蛍光ドット、標的ドット及び組織ドット中のさらなる蛍光誘導分子の数と相関し、さらなる蛍光誘導分子は、染色手順の際に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている、スライドのさらなるデジタル画像を受信すること、
- - さらなる画像内で描写されている蛍光ドットのさらなるピクセル強度、
- さらなる画像内で描写されている標的ドットのさらなるピクセル強度、
- さらなる画像内で描写されている組織試料の領域(154)のさらなるピクセル強度、
- 蛍光ドット中のさらなる蛍光誘導分子の既知の密度を示すさらなる蛍光誘導分子密度情報
を受信すること、
- 組織試料の領域(154)内の標的分子のさらなる密度を、蛍光ドット、標的ドット、組織試料の領域のさらなるピクセル強度、さらなる蛍光誘導分子のさらなる密度情報及び標的分子密度情報の関数として計算すること
を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の画像分析方法。
【請求項14】
- - 請求項1から12のいずれか一項に従って計算される、組織試料の領域(154)内の標的分子の密度、及び
- 請求項13に従って計算される、組織試料の領域(154)内の標的分子のさらなる密度
の平均を計算すること
をさらに含む、請求項13に記載の画像分析方法。
【請求項15】
標的分子が、
- バイオマーカー分子、
- 所定の分子比でバイオマーカー分子に選択的に結合することが可能な一次抗体、
- 所定の分子比で一次抗体に選択的に結合することが可能な二次抗体
を含む群から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の画像分析方法。
【請求項16】
蛍光画像(130)内で描写されている組織試料中の標的分子の密度を決定するように構成されている画像分析システム(100)であって、記憶媒体(108)と、1つ又は複数のプロセッサ(104)とを備え、1つ又は複数のプロセッサ(104)が
- スライド(150)のデジタル画像(130)を受信すること(202)であって、スライドが組織試料(152)、標的ドット(TD)及び蛍光ドット(FD)を含み、蛍光ドットが既知の密度(114)の蛍光誘導分子(408)を含み、標的ドットが既知の密度(116)の標的分子(402)を含み、組織試料及び標的ドットが蛍光ドット中に含有されているものと同じタイプの蛍光誘導分子を用いる同じ染色手順で染色されており、デジタル画像が組織試料の強度値、標的ドットの強度値(122)及び蛍光ドットの強度値(120)を含み、蛍光誘導分子が染色手順の際に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている、スライドのデジタル画像を受信すること(202)、
- - 画像内で描写されている蛍光ドットのピクセル強度(120)、
- 画像内で描写されている標的ドットのピクセル強度(122)、
- 画像内で描写されている組織試料の一領域(154)のピクセル強度(118)、
- 蛍光ドット中の蛍光誘導分子の既知の密度を示す蛍光誘導分子密度情報(114)、
- 標的ドット中の標的分子の既知の密度を示す標的分子密度情報(116)
を受信すること(204)、
- 組織試料の領域(154)内の標的分子の密度を、蛍光ドット、標的ドット、組織試料の領域の受信されピクセル強度、蛍光誘導分子密度情報及び標的分子密度情報の関数として計算すること(206)
を行うように構成されている、画像分析システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像分析の分野に関し、より詳細には、標的分子の蛍光画像に基づく定量化に関する。
【背景技術】
【0002】
対象の特定の分子の存在、及び少なくとも大まかには当該分子の量を検出するために、蛍光標識化抗体又は他の蛍光標識タンパク質で標識されている特定の細胞を研究するために、蛍光顕微鏡が一般的に使用されている。例えば、蛍光顕微鏡画像は、特定のバイオマーカー(生理的状態、例えば、疾患、特にがん又はがんサブタイプの指標である)が細胞内に存在するか否か、及びどの程度の量まで存在するかを決定するために、生成及び分析されることが多い。
【0003】
典型的には、蛍光強度及びバイオマーカー発現は正に相関し、蛍光シグナルの強度は、バイオマーカーの量の指標として使用される。
【0004】
しかしながら、様々な機器的な要因に起因して、2つの顕微鏡、又はさらには同じ顕微鏡において異なる時点で画像化される同じ試料が、大きく相違する読み値を示す場合がある。第2に、バイマーカーに結合する抗体分子の比、及び/又は抗体分子に結合する蛍光染料分子の比は、染色プロセスのプロセスパラメーター(温度、インキュベーション時間、緩衝液、フルオロフォア分子のタイプなど)に強く依存し得る。それゆえ、蛍光画像内の蛍光強度シグナルによって、典型的には、細胞内で発現されるバイオマーカー分子の数を正確に決定することができず、したがって、蛍光顕微鏡法によって異なる染色手順で染色された2つの組織試料の発現レベルを正確に比較することはできない。
【0005】
米国特許第9,395,283号明細書は、細胞ブロックの切片を、組織に基づくバイオマーカー研究のためのポジティブコントロールとして使用するために、均一な細胞ブロック(すなわち、FFPE及び非FFPE)を生成することを記載している。FFPE細胞切片は、規定の比で規定数の細胞を有する。前記細胞ブロックは、組織学的アッセイにおける感度及び特異度評価のための標準として使用されるが、それらの細胞ブロックは、組織試料中の標的分子を定量化するための蛍光シグナルを較正するためには使用されない。
【0006】
欧州特許EP1774292B1は、蛍光検出機器のための較正用スライド及びこれを調製する方法を記載している。
【0007】
米国特許出願公開第2004/0060987号明細書は、結合部分のアレイを使用して被分析物を検出する方法を記載している。アレイはガラススライドに付着される。スライドから得られる蛍光シグナルが、デジタル画像減算方法によって分析される。ガラススライドは、既知の量のFluoSphereを有する較正スポットを備えることができる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、独立請求項において指定されるものとして、蛍光画像内で描写されている組織試料中の標的分子の密度を決定するための改善された画像分析方法及び画像分析システムを提供することである。本発明の実施形態は、従属請求項において与えられる。本発明の実施形態は、相互に排他的でない場合、互いに自由に組み合わせることができる。
【0009】
1つの態様において、本発明は、蛍光画像内で描写されている組織試料中の標的分子の密度を決定するための画像分析方法に関する。方法は、
- 画像分析システムによって、スライドのデジタル画像を受信することであって、スライドは組織試料、標的ドット、及び蛍光ドットを含み、蛍光ドットは、既知の密度の蛍光誘導分子を含み、標的ドットは、既知の密度の標的分子を含み、組織試料及び標的ドットは、蛍光ドット中に含有されているものと同じタイプの蛍光誘導分子を用いる同じ染色手順で染色されており、デジタル画像は、組織試料の強度値、標的ドットの強度値及び蛍光ドットの強度値を含み、蛍光誘導分子は、染色手順の際に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている、スライドのデジタル画像を受信すること、
- 画像分析システムによって、
〇画像内で描写されている蛍光ドットのピクセル強度、
〇画像内で描写されている標的ドットのピクセル強度、
〇画像内で描写されている組織試料の一領域のピクセル強度、
〇蛍光ドット中の蛍光誘導分子の既知の密度を示す蛍光誘導分子密度情報、
〇標的ドット中の標的分子の既知の密度を示す標的分子密度情報を受信すること、
- 画像分析システムによって、組織試料の領域内の標的分子の密度を、蛍光ドット、標的ドット、組織試料の領域のピクセル強度、蛍光誘導分子密度情報及び標的分子密度情報の関数として計算すること
を含む。
【0010】
本発明の実施形態は、上述したような蛍光ドット及び標的ドットを含む新規の形態のスライドを使用することによって、並びに、それぞれのドット中の蛍光誘導分子又は標的分子の密度情報を使用することによって、現時点において、画像分析方法によって完全に自動的に、蛍光画像内で描写されている組織試料中の標的分子の絶対数を正確且つ厳密に決定することができるように、蛍光画像の強度情報を較正することが可能であるという利点を有し得る。
【0011】
1つの態様において、方法は、例えば、蛍光が顕微鏡のレンズ及び他の構成要素を行き来するときに生じ、標的分子の数の過小評価をもたらす場合がある強度の損失など、画像取得システムの光学構成要素の影響を取り去ることによって、取得されている強度情報を正規化することを可能にする。
【0012】
さらなる有益な態様において、本方法は、蛍光を放出するためにフルオロフォアを刺激する不良な品質の光源の影響を取り去ることによって、取得されている強度情報を正規化することを可能にする。例えば、第1の顕微鏡の光源が、第2の顕微鏡の光源よりも強い場合、特定のスライド及び特定の組織試料について第1の顕微鏡によって得られる蛍光シグナルは、同じスライドについて第2の顕微鏡によって得られる蛍光シグナルよりも強くなる。しかしながら、これらの要因は、組織試料中の蛍光誘導分子と同じように、蛍光ドット中の蛍光誘導分子に影響を与えるため、この効果は、計算的に排除することができる。
【0013】
さらなる有益な態様において、本方法は、蛍光強度に対する染色プロトコールのパラメーターの影響を、計算的に排除することを可能にする。例えば、蛍光顕微鏡法は、特定のがん患者が特定の治療方式から受益するか否かを判定するために使用することができる。抗がん剤の効率を試験するために、第1の蛍光画像を生成するための治療の前に、患者の第1の生検試料の1つ又は複数の腫瘍マーカーが、蛍光染色によって標識され得る。次いで、数週間の治療後に、患者の第2の生検試料の同じ1つ又は複数の腫瘍マーカーが、同じ蛍光染色によって標識され得、第2の蛍光画像を生成するために使用される。特定の腫瘍マーカー(すなわち、ある形態の標的タンパク質)に結合するフルオロフォア分子の数は、染色工程の温度及び継続時間、染色緩衝液の化学的組成並びに他の要因に依存し得るため、現時点において、他の要因(試料取り扱い及び調製手順、染色プロトコール、顕微鏡のハードウェア等に関連する)も、蛍光シグナルの強度に大きく影響を与えるため、腫瘍マーカーの発現レベルに対する特定の抗がん剤の効果を正確に定量化することは可能でない。
【0014】
しかしながら、2つの「較正ドット」、すなわち、標的ドット及び蛍光ドット、並びに、それぞれ既知の分子密度を使用することによって、蛍光強度に対する前記誤差原因の効果を計算的に排除し、標的ドット及び蛍光ドットをも含むスライド上の特定の組織試料中に含有される標的分子の「実際の」数を計算的に決定することが可能であり得る。2つの較正ドット及び実際に分析される組織試料が同じスライド上に含有されることには、2つのドット及び試料中の分子が同じ染色手順を受けたこと、並びに、スライドの組織試料領域について受信されるピクセル強度が、較正ドットのピクセル強度と同じ画像取得ハードウェアによって受信されたこと、という利益があり得る。
【0015】
本発明の実施形態は、画像処理、顕微鏡法、特に蛍光画像化、及び、試料中に含有される標的分子の量をより正確に評価することを可能にするためのウェットラボ手順などの、種々のドメインに由来する知識を組み合わせる。
【0016】
実施形態によれば、組織領域内の標的分子の密度の計算は、

に従って、蛍光ドットのピクセル強度の平均強度IFlD_AVGを計算すること、

に従って、標的ドットのピクセル強度の平均強度ITaD_AVGを計算すること、

に従って、標的ドット中の標的分子あたりの蛍光誘導分子の比Rを計算すること、

(式中、δTarget_In_Target_dotは、標的ドット中の標的分子の密度である)
に従って、組織試料の領域内の標的分子の密度δTarget_In_Tissueを計算すること
を含む。
【0017】
例えば、平均密度IFlD_AVG及び/又はITaD_AVGは、それぞれのドットについて受信されるピクセル強度値の算術平均又はメジアンとして計算することができる。
【0018】
実施形態によれば、本方法は、標的分子によって、スライドの一領域をコーティングし、それによって、標的ドットを作成することをさらに含む。
【0019】
例えば、コーティングは、所定数の標的分子によって、スライドの一領域をコーティングし、それによって、標的ドットを作成することによって実施することができる。次いで、所定数は記憶される。例えば、コーティング手順は、mmあたり規定数の分子がスライドに付着されることを保証するように実施することができる。既知の分子密度は、スライドに印刷若しくは記入することができ、及び/或いは、スライドの識別子と関連付けて、又は、同じコーティング手順において若しくは同じコーティングプロトコールに従ってコーティングされているスライドのセットの識別子と関連付けてデータベース内にデジタル形式で記憶することができる。スライドに記入又は印刷される分子がまた、ユーザー、例えば研究員によって、データベースに入力されてもよい。結果もたらされる分子密度が分かっているコーティング技法を使用することによって、標的ドット中の標的分子の密度も「分かる」、すなわち、例えば、デジタル記憶媒体内に記憶されているデータ値の形態で、画像分析システムにとって利用可能である。
【0020】
代替的に、コーティングは、未知の数の標的分子によって、スライドの一領域をコーティングし、それによって、標的ドットを作成し、次いで、標的ドット中の標的分子の密度を測定することによって実施することができる。例えば、特定の単一のコーティング手順が、多数のスライド、例えば、数百又は数千又はさらには数万個のスライドについて実施され得る。次いで、前記スライドのうちの1つ又は前記スライドの小規模なサブセットの標的ドット中の標的分子密度が、前記いくつかの被分析スライド中の実際の標的分子密度を決定するために、例えば、質量分析によって、実験的に分析される。標的分子が特定のDNA又はRNA配列である場合、標的ドット中の標的分子密度は定量PCRによって決定することができる。得られる標的分子密度は、次いで、代替的なコーティング手法についてすでに説明したように、スライドに印刷若しくは記入され、及び/又は、スライドの識別子と関連付けて、若しくは、前記単一のコーティング手順においてコーティングされているすべてのスライドの識別子と関連付けてデータベース内にデジタル形式で記憶される。
【0021】
実施形態によれば、標的ドットを構成するスライドの領域のコーティングは、タンパク質マイクロアレイ技術を使用して実施される。
【0022】
実施形態によれば、本方法は、標的ドットを生成することをさらに含む。標的ドットを生成することは、スライドの一領域に基準細胞を均一に付着させることであって、それによって、標的ドットを生成する、基準細胞を付着させることを含む。基準細胞は、既知の数の標的分子を発現させるか又は含む。
【0023】
例えば、基準細胞中の標的分子の数は、例えば、質量分析、細胞サイトメトリー、定量PCR(標的分子が対象のDNA又はRNA配列である場合)などによって実験的に決定することができる。例えば、既知の数の基準細胞がスライドに付着され得、未知の数の基準細胞が、標的ドットを形成することになるスライド領域に付着され得、標的ドットが作成された後に、スライドへの付着に成功した基準細胞の密度が、後に決定される。
【0024】
実施形態によれば、本方法は、基準細胞がスライドに付着される前に、基準細胞のセット(標的分子を含むことが分かっている)中で発現される又は当該セット中に含有される標的分子の平均数を実験的に決定することと、標的ドットに付着されている細胞の数をカウントすることとをさらに含む。
【0025】
前記方法は、特定の標的分子、典型的にはバイオマーカー、例えば特定のタンパク質又は特定のRNA若しくはDNA配列を、標的分子によって標的ドットをコーティングするために使用される前に、抽出及び精製する必要がない場合があるため、有益であり得る。むしろ、標的分子を含む(例えば、発現する)ことが分かっている基準細胞によって標的ドットを直接的にコーティングすることが可能である。
【0026】
基準細胞は、コーティング技法によって、又は、例えば、米国特許第9,395,283号明細書に記載されているように均一な基準細胞ブロックを生成し、基準細胞ブロックを標的ドットとしてスライドに付着させることによって、スライドに付着させることができる。
【0027】
実施形態によれば、実験的に決定することは、基準組織試料を基準細胞の均一な懸濁液に転換するために基準組織試料を処理することと、懸濁液中の基準細胞中に又は懸濁液中の基準細胞のサブセット中に含まれる標的分子の平均数を実験的に決定することとを含む。加えて、標的ドットのmmあたりの細胞の数が、実験的に決定される。次いで、標的ドット中の標的分子密度が、標的ドット中の実験的に決定されている基準細胞密度、及び、各基準細胞中に含有される標的分子の実験的に決定されている平均数の関数として計算される。
【0028】
前記手法は、一部の標的タンパク質は細胞から抽出し精製することができず、又は、抽出が高度に複雑であるため、有益であり得る。標的分子を含むことが分かっている基準細胞によってスライドの一領域をコーティングすることによって、少なくとも1つの既知のタイプの細胞中に含まれる基本的に任意のタイプの分子を、標的ドットを生成するために使用することができる。さらに、標的ドットを含む基準細胞によってスライドの一領域をコーティングすることによって、標的ドットを生成することは、蛍光誘導分子の、標的分子との相互作用のためにスライドの組織試料によって提供される環境をより緊密に表すことができる。
【0029】
実施形態によれば、実験的に決定することは、基準細胞中の標的分子の数を定量的に決定するために、質量分析又はフローサイトメトリー分析を実施することを含む。これは、細胞又は任意の他の物質の文脈において、前記手順が、特定の分子タイプを定量化するための十分に確立された技法であるため、有益であり得る。両方の方法は複雑になる傾向にあるが、例えば、特定の細胞又は細胞のセット中の特定のタンパク質の正確な定量化を可能にする、ますます多数の半自動又は自動システムが存在する。この手法は、基準細胞の代表的なサブセットについて1度だけ実施される必要があり、同じ細胞懸濁液が、それぞれの標的ドットを有する多数の組織スライドを作成するために使用され得ると考えるべきである。したがって、標的ドットの細胞として使用される基準細胞の定量的分析を1度実施することによって、前記組織試料の各々について質量分析又はフローサイトメトリー分析をそれぞれ個別に実施することなく、多数の組織試料中の標的分子の「実際の」数を決定することが可能である。したがって、各個々の組織試料について質量分析又はフローサイトメトリーなどの複雑な分析手順を必ずしも必要としない、組織試料中の標的分子を定量化する正確な方法を、提供することができる。
【0030】
実施形態によれば、染色手順の際に単一の標的分子に結合する蛍光誘導分子の比は未知であり、染色プロトコールの1つ又は複数のパラメーターに依存する。例えば、染色プロセス中に又は染色プロセスのための組織試料を調製している間に使用される継続時間、温度又は溶媒が、この比に影響を与える場合があり、蛍光シグナル強度に基づく標的分子密度の決定の障害となり得る。
【0031】
実施形態によれば、染色プロトコールは、チラミドシグナル増幅染色プロトコール(「TSAアッセイ」)である。
【0032】
免疫組織化学的(IHC)蛍光標識の感度は、検出に使用されるフルオロフォアの特性、及び、抗体結合の部位に存在するフルオロフォアの量に依存する。チラミドシグナル増幅(TSA、TSAアッセイ)は、抗体結合の部位に追加のフルオロフォア分子を沈着させ、それによって、IHC抗原検出限界を低下させる、比較的新規の酵素増幅手順である。TSAは、単一又は多標識IHC応用形態に利用することができ、量子ドットと結合することができる。
【0033】
従来の酵素IHC検出方法は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)又はアルカリホスファターゼ(AP)が、色素原基質を、酵素活性の部位に沈殿する着色反応生成物に変換することができることを利用している(Roth及びBaskin、2005、Roth及びPerry、2005)。HRP又はAP検出の感度は、一次抗体と関連付けられる酵素分子の数を増大させる、ペルオキシダーゼ-抗ペルオキシダーゼ(PAP)又はアビジン-ビオチン複合体(ABC)などの「層化」技法を使用して改善することができる。しかしながら、いくつかの要因が、これらの従来の酵素増幅手順の感度及び有用性を制限する。特に、多標識の選択肢及び感度が制限され得る。
【0034】
逆に、TSAアッセイ(代表的なキットは、例えば、Perkin-Elmer、マサチューセッツ州ウォルサムから入手可能である)は、はるかに感度が高く、また多標識化もサポートする。TSAは、HRPが、低濃度のHの存在下で、標識されたチラミド含有基質を、HRPにおいて又はその付近でチロシン残基に共有結合することができる、酸化した反応性の高いフリーラジカルに変換することができることに基づく(Bobrow他、1992、Adams、1992、Shindler及びRoth、1996)。チラミドは、その沈着時に直接的に視覚化可能であるフルオロフォア、又は、その後、色素原を沈着させるために使用することができるフルオロフォア若しくは酵素分子に結合されるハプテンに特異的な試薬による後続の工程において検出される、ハプテンによって前標識される。従来の蛍光IHC検出方法(フルオロフォアによって標識された二次抗体を利用する)とは対照的に、TSAは、二次抗体に結合され得るよりもはるかに多くの蛍光分子の沈着をもたらす。しかしながら、この増幅の不都合な点は、増幅の度合いが、温度、染色継続時間などのような、多くのパラメーター、例えば、TSAアッセイのパラメーターに依存し、したがって、所与の数の標的分子の蛍光シグナルの強度が、異なるTSAアッセイにおいては大きく変化し得ることである。
【0035】
TSAアッセイパラメーターの蛍光シグナル強度に対する効果は、2つの較正ドットの蛍光強度及び2つのドット中の既知の分子密度も考慮に入れることによって、計算的に排除することができるために、TSAアッセイの単一増幅及び多標識能は、標的分子密度決定の正確度を低減することなく使用することができるため、本発明の実施形態は、TSAアッセイの文脈において特に有用であり得る。
【0036】
実施形態によれば、蛍光誘導分子の単一の標的分子への結合は、以下の選択肢のうちの1つであり得る。
- 標的分子に対する、又は標的分子と連結している1つ若しくは複数の中間分子に対する共有結合又はイオン結合、例えば、様々な共有結合した分子及び非共有結合した分子(一次及び/又は二次抗体、アビジン、ビオチンなど)を使用して、蛍光シグナルを、標的分子の近傍において選択的に誘導することができる。
- 標的分子に対する、又は標的分子と連結している1つ若しくは複数の中間分子に対する、双極子間相互作用、ファンデルワールス相互作用、又は水素結合。
- 抗原抗体結合、例えば、蛍光誘導分子は、一次抗体に共有結合することができ、一次抗体は標的タンパク質に選択的に結合することができる。別の例によれば、蛍光誘導分子は、二次抗体に共有結合することができ、二次抗体は、一次抗体に共有結合することができ、一次抗体は、標的タンパク質に選択的に結合することができる。事実、標的ドットがすでに、バイオマーカー分子及び前記バイオマーカー分子に結合されている1つ又は複数の一次抗体の分子複合体を含む場合、並びに、mm2標的ドットあたりの前記分子複合体の数及びバイオマーカータンパク質と一次抗体(又は任意の他の中間分子)との比が分かっている場合、分子複合体全体が、本発明の実施形態の意味付けの範疇での標的分子を構成する。
- 核酸配列のハイブリダイゼーション。
【0037】
実施形態によれば、蛍光誘導分子はフルオロフォア(例えば、フルオロフォアによって標識された抗体)である。
【0038】
代替的な実施形態によれば、蛍光誘導分子は、蛍光誘導分子に空間的に近接する他の分子による蛍光シグナルの放出を誘発する酵素である(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ-HRP-酵素、HRP酵素単独又はそのコンジュゲートは不可視であり、その存在は、過酸化水素を酸化剤として使用してHRPによって酸化されると、蛍光シグナルをもたらす基質を使用して視覚可能にしなければならない)。
【0039】
前記特徴は、異なる蛍光染料によって異なるバイオマーカーを標識するための複数の市販のキットが存在するため、有利であり得る。例えば、一次-二次抗体標識系を使用することによって、単純に、フルオロフォアに結合されている二次抗体の特定の結合パートナーとしてすべて作用する異なる一次抗体を使用することによって、多種多様な異なるバイオマーカーの特定の蛍光染料の十分に確立された染色プロトコールを使用することが可能である。
【0040】
実施形態によれば、蛍光ドットは、少なくとも1つのさらなる蛍光誘導分子タイプの、既知の密度のさらなる蛍光誘導分子を含む。組織試料と標的ドットは両方とも、さらなる蛍光誘導分子によってさらに染色されている。方法は、
- スライドのさらなるデジタル画像を受信することであって、さらなるデジタル画像は、組織試料の強度値、標的ドットの強度値、及び、蛍光ドットの強度値を含み、蛍光ドット、標的ドット及び組織試料の強度値は、蛍光ドット、標的ドット及び組織ドット中のさらなる蛍光誘導分子の数と相関し、さらなる蛍光誘導分子は、染色手順の間に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている、スライドのさらなるデジタル画像を受信すること、
〇さらなる画像内で描写されている蛍光ドットのさらなるピクセル強度、
〇さらなる画像内で描写されている標的ドットのさらなるピクセル強度、
〇さらなる画像内で描写されている組織試料の領域のさらなるピクセル強度、
〇蛍光ドット中のさらなる蛍光誘導分子の既知の密度を示すさらなる蛍光誘導分子密度情報を受信すること、
- 組織試料の領域内の標的分子のさらなる密度を、蛍光ドット、標的ドット、組織試料の領域のさらなるピクセル強度、さらなる蛍光誘導分子のさらなる密度情報及び標的分子密度情報の関数として計算すること
を含む。
【0041】
例えば、強度情報を受信することは、以下のように実施することができる。すなわち、光源が、第1の蛍光誘導分子ではなく、さらなる蛍光誘導分子の蛍光シグナルを選択的に誘導する異なる励起波長の光を放出することができる。それによって、第1の蛍光誘導分子又はさらなる蛍光誘導分子のそれぞれ1つによって放出される蛍光シグナルによってピクセル強度が生成されるデジタル画像のうちの1つから、それぞれの標的分子密度を決定するために、前述のように分析される2つの異なるデジタル画像が得られる。
【0042】
代替的に、マルチスペクトル光源が使用されてもよいが、異なる蛍光フィルターが使用されてもよく、例えば、第1の蛍光フィルターが、画像取得システムによって、(第1の蛍光誘導分子を使用した染色手順を受けているスライド全体の)第1の蛍光誘導分子の蛍光シグナルを選択的に含む第1のデジタル画像を受信するために使用され得(第1の画像は、第1の蛍光誘導分子によって放出される蛍光ドット、標的ドット及び組織試料の蛍光シグナルを含む)、第2の蛍光フィルターが、画像取得システムによって、((同じく)第2の蛍光誘導分子を使用した同じ又は異なる染色手順を受けているスライド全体の)さらなる(第2の)蛍光誘導分子の蛍光シグナルを選択的に含む第2のデジタル画像を受信するために使用され得る(第2のデジタル画像は、さらなる蛍光誘導分子によって放出される蛍光ドット、標的ドット及び組織試料の蛍光シグナルを含む)。
【0043】
使用される染色プロトコール及び一次抗体に応じて、同じタイプの標的分子を2度定量化するために(例えば、2つの異なる蛍光標識を用いる2つの独立した染色手法の使用に基づく、標的分子密度のより正確な推定値を得るため、又は、同じ組織中の複数の異なる標的分子を同時に定量化するために、2つの画像が使用され得る。
【0044】
第1の蛍光誘導分子の密度情報と同様に、蛍光ドット中のさらなる蛍光誘導分子の既知の密度を示すさらなる蛍光誘導分子密度情報は、画像分析システムによって、例えば、記憶媒体、例えば不揮発性記憶媒体からそれぞれのデータ値を読み出すことによって、受信することができる。
【0045】
したがって、多くの場合、同じ染色プロトコール内で異なるフルオロフォアによって、複数のバイオマーカーを染色することができる。
【0046】
蛍光ドットが2つ以上のタイプの蛍光誘導分子を含むスライドは、複数の異なる標的分子タイプが蛍光ドット中に含まれる蛍光誘導分子によって標識されることを条件として、前記異なる標的分子タイプの密度を正確に決定することを可能にし得るため、前記特徴は有利であり得る。
【0047】
代替的に、スライドの標的ドット中及び組織試料中の同じタイプの標的分子が、異なる蛍光誘導分子によって染色されてもよい。
【0048】
実施形態によれば、本方法は、
- 本明細書に記載されている実施形態のうちのいずれか1つに従って計算される、組織試料の領域中の標的分子の密度、及び
- 本明細書に記載されている実施形態のうちのいずれか1つに従って計算される、組織試料の領域中の標的分子のさらなる密度
の平均を計算することをさらに含む。
【0049】
したがって、2つ以上の蛍光誘導分子タイプの各々について、2つの較正ドットによる強度較正を別個に実施し、次いで、例えば、平均標的分子密度値を計算することによって、特定の組織試料中の標的分子の数のさらにより正確な決定を達成することができる。
【0050】
実施形態によれば、標的分子は、
- バイオマーカー分子、
- 所定の分子比でバイオマーカー分子に選択的に結合することが可能な一次抗体、
- 所定の分子比で一次抗体に選択的に結合することが可能な二次抗体
を含む群から選択される。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、蛍光画像内で描写されている組織試料中の標的分子の密度を決定するように構成されている画像分析システムに関する。システムは、記憶媒体と、1つ又は複数のプロセッサとを備え、プロセッサは、
- スライドのデジタル画像を受信することであって、スライドは組織試料、標的ドット、及び蛍光ドットを含み、蛍光ドットは、既知の密度の蛍光誘導分子を含み、標的ドットは、既知の密度の標的分子を含み、組織試料及び標的ドットは、蛍光ドット中に含有されているものと同じタイプの蛍光誘導分子を用いる同じ染色手順で染色されており、デジタル画像は、組織試料の強度値、標的ドットの強度値及び蛍光ドットの強度値(120)を含み、蛍光誘導分子は、染色手順の際に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている、スライドのデジタル画像を受信すること、
〇画像内で描写されている蛍光ドットのピクセル強度、
〇画像内で描写されている標的ドットのピクセル強度、
〇画像内で描写されている組織試料の一領域のピクセル強度、
〇蛍光ドット中の蛍光誘導分子の既知の密度を示す蛍光誘導分子密度情報、
〇標的ドット中の標的分子の既知の密度を示す標的分子密度情報を受信すること、
- 組織試料の領域(154)内の標的分子の密度を、蛍光ドット、標的ドット、組織試料の領域のピクセル強度、蛍光誘導分子密度情報及び標的分子密度情報の関数として計算すること
を行うように構成されている。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、組織試料と、標的ドットと、蛍光ドットとを含むスライドに関し、蛍光ドットは既知の密度の蛍光誘導分子を含み、標的ドットは、既知の密度の標的分子を含む。
【0053】
実施形態によれば、組織試料及び標的ドットを有するスライドは、蛍光ドット中に含有されるものと同じタイプの蛍光誘導分子を用いる同じ染色手順において染色されている。蛍光誘導分子は、染色手順の間に、標的分子(標的ドット中に含有されることが分かっており、組織試料の細胞中に含有されると思われる)に直接的又は間接的に結合するように適合されている。
【0054】
実施形態によれば、スライドの蛍光ドットは、少なくとも1つのさらなる蛍光誘導分子タイプの、既知の密度のさらなる蛍光誘導分子を含む。さらなる蛍光誘導分子は、染色手順の間に標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている。
【0055】
このタイプのスライドは、組織試料中の標的分子密度を、異なる蛍光誘導分子について個々に得られる標的分子密度の平均として計算するために使用することができる。本明細書において使用される「異なる」蛍光誘導分子は、区別可能な蛍光放出スペクトルを有する蛍光誘導分子である。
【0056】
他の実施形態によれば、スライドの蛍光ドットは、少なくとも1つのさらなる蛍光誘導分子タイプの、既知の密度のさらなる蛍光誘導分子を含む。さらなる蛍光誘導分子は、染色手順の間にさらなる標的分子タイプのさらなる標的分子に直接的又は間接的に結合するように適合されている。加えて、標的ドットは、既知の密度のさらなる標的分子を含む。例えば、第1の標的分子及びさらなる(「第2の」)標的分子は、2つの異なるバイオマーカーとすることができる。
【0057】
実施形態によれば、標的ドットは、既知の数の標的分子によってコーティングされているか、又は既知の数の細胞によってコーティングされているスライドの一領域であり、細胞は、既知の数の標的分子を発現するか又は含む。
【0058】
本明細書において使用される「画像分析システム」は、デジタル画像処理技法によってデジタル画像から有意義な情報を抽出するように構成されている電子システム、例えば、コンピュータである。画像分析タスクは、ドット、組織試料、個々の細胞、細胞の型(腫瘍又は間質細胞、種々の型の免疫細胞)などを識別するための、カラーデコンボリューション、連結成分分析、画像セグメント化及び/又はエッジ検出を含むことができる。いくつかの実施形態において、画像分析システムは、画像取得システム、例えば顕微鏡をさらに含むか、又は、画像取得システムに動作可能に結合することができる。
【0059】
本明細書において使用される「標的分子」は、組織試料中の量が決定されるべきである分子、分子部(例えば、ゲノムDNA中に含有される遺伝子配列)、又は分子複合体(例えば、1つ又は複数の中間分子に結合されているエピトープ、中間分子は、蛍光誘導分子の実際の結合パートナーである)である。例えば、標的分子は、バイオマーカー、又は生物学的マーカー、すなわち、何らかの生物学的状態又は条件の指標とすることができる。バイオマーカーは多くの場合、正常な生物学的過程、発病過程、又は、治療的介入に対する薬理的応答を調べるために測定及び評価される。既知の密度の標的分子が、本明細書において「標的ドット」と呼ばれるスライドの領域に付着される。本明細書において使用される標的分子はまた、特に対象となる核酸分子の特定の部分配列、例えば、DNA分子中の遺伝子配列でもあり得る。
【0060】
本明細書において使用される「蛍光誘導分子」は、それ自体が、吸収光若しくは他の電磁照射に応答して蛍光を放出することが可能である分子(「フルオロフォア」、例えば、フルオレセインに結合される抗体)であるか、又は、その空間的近隣で特定の他の分子における蛍光を誘導することが可能である分子(例えば、HRP複合体)である。ほとんどの事例において、放出される光は、吸収される照射よりも長い波長を有し、それゆえ、エネルギーがより低い。多くの蛍光染色は、様々な生体分子向けに設計されている。これらの一部は、固有に蛍光性であり、対象の生体分子に結合する小分子である。これらの主要な例は、すべてDNAの副溝に結合し、したがって、細胞の核を標識するDAPI及びヘキスト(UV波長光によって励起される)並びにDRAQ5及びDRAQ7(赤色光によって最適に励起される)のような核酸染色である。他は、特定の細胞構造に結合し、蛍光レポーターによって誘導されている薬物又は毒素である。このクラスの蛍光染色の主要な例は、哺乳動物細胞中のアクチン線維を染色するために使用されるファロイジンである。試料内及び標的ドット内の対象の標的分子に直接的又は間接的に結合する異なる分子に化学的に結合することができる、フルオレセイン、Alexa Fluor又はDyLight 488などの、フルオロフォア又は蛍光色素と呼ばれる多くの蛍光分子が存在する。
【0061】
本明細書において使用される「蛍光顕微鏡」は、有機又は無機物質の特性を研究するために、反射及び吸収の代わりに又はこれらに加えて、蛍光及びリン光を使用する光学顕微鏡である。「蛍光顕微鏡」は、落射蛍光顕微鏡のようなより単純な設定であるか、又は、より良好な分解能の蛍光画像を得るために光学区分化を使用する、共焦点顕微鏡などのより複雑な設計であるかにかかわらず、「デジタル蛍光画像」とも呼ばれる画像を生成するために蛍光を使用する任意の顕微鏡を指す。
【0062】
本明細書において使用される「組織試料」は、生物体、例えば哺乳動物、例えばヒトの身体から収集されている物質である。組織試料は、例えば、腫瘍組織試料、血液塗抹試料、皮膚組織試料などとすることができる。組織試料は、蛍光又は他の染料によって染色することができ、画像取得システムが、分析することができる試料のデジタル画像を生成することを可能にするために顕微鏡スライドに付着することができる。画像分析は、例えば、医療診断及び/若しくは治療のための指示の評価、さらなる医療試験又は他の手順の過程を助けるために実施することができる。
【0063】
本明細書において使用される「蛍光画像」は、ピクセルが、蛍光顕微鏡によって又は別の蛍光に基づく画像取得システムによってキャプチャされる蛍光シグナルを示すピクセル強度を有するデジタル画像である。
【0064】
本明細書において使用される「ドット」は、スライドの一領域である。ドットは、任意の形状、例えば、矩形、正方形又は円形を有してもよい。
【0065】
本明細書において使用される、ドット中の分子の「密度」は、所与の領域単位、例えばmmにおける分子の数である。「既知の」分子密度とは、組織試料中の標的分子を定量化するための画像分析方法が実行されるときにそれぞれの分子タイプの密度がすでに分かっていることを意味する。例えば、分子密度は、特定の較正ドットがスライド上で作成される前又はその間に、事前に実験的に決定されていることができる。
【0066】
本明細書において使用される「スライド」は、組織試料のデジタル画像、特に蛍光画像を生成するために使用される組織試料の担体構造である。優先的には、スライドは顕微鏡スライドである。スライスは、例えば、標的分子、蛍光誘導分子及び/又は基準細胞がスライドに接着することを容易に又は可能にする1つ又は複数の層によってコーティングすることができるガラススライドとすることができる。
【0067】
「TSAアッセイ」又は触媒レポーター沈着を意味する「CARD」とも呼ばれる、「チラミドシグナル増幅染色プロトコール」は、標的タンパク質又は核酸配列の高密度標識をin situで生成するために酵素(典型的にはホースラディッシュペルオキシダーゼ-HRP)の触媒作用を利用する酵素媒介検出方法である。TSAは、従来のアビジン-ビオチン化酵素複合体(ABC)手順と比較して最大100倍まで、検出感度を増大させると報告されている。その上、生細胞若しくは組織又は固定細胞若しくは組織のいずれかの中の標的のマルチパラメーター検出のために、TSAは、当方の核酸標識キット、一次及び二次抗体、アビジン及びレクチンコンジュゲート、細胞骨格染色などを含む、いくつかの他の重要な技術と組み合わせることができる。好ましい実施形態によれば、TSA標識は、典型的には、以下を含む少なくとも3つの素反応の組み合わせである。a)免疫親和性(タンパク質)又はハイブリダイゼーション(核酸)を介して標的へのプローブの結合、及び、その後のHRP標識抗体又はストレプトアビジンコンジュゲートによるプローブの二次検出。レクチン及び受容体リガンドなどの他の標的化タンパク質のペルオキシダーゼコンジュゲートは、内因性ペルオキシダーゼ活性のように、標的を標識するのに適している可能性が高い。b)HRPによって誘導される標識チラミドの複数のコピーの活性化、多くの場合、蛍光又はビオチン化チラミドが使用される。c)結果もたらされる高反応性の短寿命チラミドラジカルの、HRP標的相互作用部位の近傍の残基(主にタンパク質チロシン残基のフェノール部分)への共有結合、結果として、シグナル位置特定の拡散関連損失が最小になる。TSAアッセイのシグナル強度が増大するのに伴って、典型的には、シグナル増幅強度の変動性が高くなり、したがって、組織試料中に含有される標的の実際の量の不確定性が大きくなるため、TSAアッセイの文脈において蛍光ドット及び標的ドットを有するスライドを使用することは、特に有利であり得る。TSAアッセイの文脈において蛍光ドット及び標的ドットを有するスライドを使用することによって、TSAプロトコールの高い感度から受益することが可能になり得、同時に、試料中の標的分子の量を推定することが可能である。
【0068】
以下において本発明の実施形態を、図面を参照しながら、例としてのみ、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】組織スライドのブロック図である。
図2】スライドの蛍光画像を分析するように構成されている画像分析システムのブロック図である。
図3】組織試料中の標的分子を定量化するための蛍光画像分析方法の流れ図である。
図4】3つの異なるチラミドシグナル増幅アッセイを示す図である。
図5】本発明の実施形態によるスライドの蛍光画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図1は、蛍光ドットFD、標的ドットTD及び組織試料を含むスライド150を示す。スライドは、例えば、ガラス組織スライドとすることができる。本明細書において「蛍光ドット」と呼ばれる第1の領域FDにおいて、スライドは、既知の分子密度の蛍光誘導分子によって被覆される。本明細書において「標的ドット」と呼ばれる第2の領域TDにおいて、スライドは、既知の分子密度の標的分子によって被覆される。スライドの第3の領域において、スライドは、例えば哺乳動物の組織試料152、例えば患者の腫瘍組織の組織試料を含む。
【0071】
典型的には、スライドは、本明細書において「標的分子」と呼ばれる、対象の特定のタイプの分子の位置を調べ、組織試料中の標的分子の密度(例えば、標的分子がタンパク質である場合は「発現レベル」)を決定するために使用される。例えば、標的分子は、特定の腫瘍サブタイプのバイオマーカー、例えばHer2、BRCA1、BRCA2などとすることができる。
【0072】
標的ドットTDは、既知の密度の標的分子を含む。既知の標的分子密度を有する標的ドットを生成するために、いくつかの異なる方法を使用することができる。例えば、スライドは、規定数の分離された標的分子によって、又は、標的分子濃度が分かっている規定数の基準細胞によってコーティングすることができる。例えば、標的分子濃度及び基準細胞は、標的分子を含むことが分かっている基準組織を均一化し、基準細胞の懸濁液を生成し、例えば、質量分析によって又は蛍光サイトメトリー又は他の適切な技術的手段によって基準細胞中の標的タンパク質の量を実験的に決定することによって、決定することができる。次いで、規定数の基準細胞がスライド150の表面に付着されるか、又は、基準細胞の懸濁液が、未知の数の基準細胞をスライドの表面上に付着させ、後に、スライドの表面に付着するのに成功した、mm2あたりの基準細胞の数をカウントするために使用される。このカウントは、手動で、又は、細胞を自動的に識別し、カウントすることが可能である画像分析技法によって自動的に実施することができる。基準細胞の同じ均一な懸濁液を、複数のスライド、例えば、数百、数千又はさらにより多くのスライドをコーティングするために使用することができる。基準細胞の均一な懸濁液が、組織スライドをコーティングするために使用されているため、同じ均一な基準細胞懸濁液に基づいてコーティングされているすべての他のスライドの標的ドットの基準細胞密度も決定し、「知る」ためには、数スライドのみの標的ドット中の基準細胞密度を決定すれば十分であり得る。各基準細胞中の平均標的分子濃度もまた、基準細胞中で実験的に決定されているため、標的ドットTD中の標的分子密度を決定及び計算することが可能である。この「既知の」標的分子密度は、任意選択的に、スライド150に印刷することができ、及び/又は、記憶媒体内に記憶することができる。
【0073】
蛍光ドットFDは、既知の密度の蛍光誘導分子を含む。既知の蛍光誘導分子密度を有する蛍光ドットを生成するために、いくつかの異なる方法を使用することができる。例えば、スライドは、規定数の分離された蛍光誘導分子によってコーティングすることができる。代替的に、多数のスライドを、蛍光誘導分子の同じ均一な懸濁液(又は溶液)によってコーティングすることができる。蛍光ドットを形成するために実際にスライドに堅固に付着されるようになる蛍光誘導分子の密度は、例えば、質量分析又は他の適切な分析方法によって、後に実験的に決定することができる。蛍光誘導分子の同じ懸濁液/溶液がスライドをコーティングするために使用されていることを条件とすれば、数スライド及びそれぞれの蛍光ドットのみの発光している(reciting)蛍光誘導分子の密度を実験的に決定すれば十分である。この「既知の」蛍光誘導分子密度は、任意選択的に、スライド150に印刷することができ、及び/又は、記憶媒体内に記憶することができる。
【0074】
好ましくは、蛍光ドットは実際には、2つ以上の異なるタイプの蛍光誘導分子の混合物を含み、それによって、その異なるタイプの蛍光誘導分子の各々の密度が分かる(前記異なるタイプの分子の密度は同一であってもよく、又は、そうでなくてもよい)。これによって、ユーザーが、市販されている複数の異なる蛍光染料の間で、対象の標的分子を染色するための特定の蛍光染料を柔軟に選択することが可能になり得る。したがって、ユーザーは、蛍光ドットを生成するのに使用された単一の特定の蛍光染料又は蛍光誘導分子に限定されない。その上、2つ以上の異なる蛍光誘導分子タイプを有する蛍光ドットを含むスライドのユーザーは、多色蛍光画像分析を実施することができ、単一の実験手順において複数の異なるタイプの標的分子を染色及び定量化することができる。例えば、蛍光ドット(並びに、スライドの標的ドット及び組織試料)中の蛍光誘導分子のうちの特定の1つによる、蛍光シグナルの放出を選択的に誘導するために、ユーザーは、異なる蛍光フィルターを使用することができ、又は、規定の励起スペクトルを有する光源を使用することができ、それによって、この特定の蛍光誘導分子(及び、蛍光誘導分子が選択的に付着される任意の標的タンパク質)の存在を選択的に示す蛍光画像が作成される。
【0075】
標的ドット、蛍光ドット、及び組織試料を有するスライド全体が、蛍光ドット中に含有される同じ蛍光誘導分子が、標的開始剤中の標的分子に、及び、存在する場合は組織試料152中の標的分子に選択的に付着されるようになる染色手順を受ける。単一の標的分子に付着されるようになる蛍光誘導分子の実際の数は、例えば、その付着比が染色手順の特殊性に強く依存するために分からない場合があるが、付着比は、標的ドット中の標的分子については、組織試料152中の標的分子のものと同じであると、安全に仮定することができる。標的ドット中の標的分子密度及び蛍光ドット中の蛍光誘導分子は分かっているため、また、標的開始剤、蛍光ドット及び組織試料152の蛍光シグナル強度は同じ画像取得システム(例えば、同じ蛍光顕微鏡)によって捕捉されているため、標的ドット及び蛍光ドットは、組織試料について得られる強度情報を較正するために使用することができ、組織試料152中の標的分子密度を正確に決定するために使用することができる。
【0076】
図1に示すような1つ又は複数のスライドの標的ドットを生成するために、特定の標的分子を含むことが分かっている又はそう思われる組織から基準組織が採取される。例えば、組織生検を、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料として調製することができる。FFPE調製物は、室温において無期限に保存することができ、数十年後であっても核酸(DNAとRNAの両方)が復元及び分析されることが可能になる。
【0077】
標的ドットを生成するために、FFPE基準試料からのスライス又はパンチが脱パラフィンされ、1つ又は複数のタイプの標的分子(例えば、ケラチン、ビメンチン又は特定のDNA/RNA配列)について染色された基準細胞の懸濁液が、基準試料から生成される。次いで、基準細胞中の標的分子の数を決定するために、懸濁液中の基準細胞のすべて又はサブセットにフローサイトメトリーが適用される。任意選択的に、懸濁液中の基準細胞は、標的タンパク質を含まないか、又は、所望の量範囲内の標的タンパク質を含まない細胞を除去するために分類することができる。例えば、所望の量範囲内の標的タンパク質を発現する基準細胞を選択的に得るために、DEPArrayシステムの画像に基づく分類などの市販のシステム及び方法を使用することができる。したがって、標的分子密度が分かっている基準細胞の高純度の集合を、FFPE組織試料から復元することができ、組織スライドの特定の領域を基準細胞によってコーティングするために使用することができる。標的ドットに実際に堅固に付着されるようになる基準細胞の密度は、同じコーティング条件下での以前のコーティング手順から実験的に知ることができ、又は、後に細胞を手動で若しくは自動的にカウントすることによって、生成されている標的ドットのうちの1つ若しくは複数について決定することができる。したがって、標的ドット中の標的分子密度は、基準細胞中の実験的に決定されている標的分子濃度から、及び、スライドに堅固に付着されるようになる基準細胞の密度から計算され(したがって、「分かり」)、それによって標的ドットが形成される。例えば、免疫組織化学実験におけるバイオマーカーのポジティブコントロールを提供する目的で、均一な細胞ブロックを作成し、前記細胞ブロックをスライド上に付着させることは、例えば、その全内容が本明細書に参照により援用される米国特許第9,395,283号明細書に記載されている。
【0078】
例えば、対象の特定の標的分子を含むことが分かっている基準細胞が前処理され、蛍光染料又は他の蛍光誘導分子によって染色される。次いで、細胞ブロック中の標的分子密度が実験的に決定される。最終的なブロック中の基準細胞の密度が、特定の数/密度/カウントの標的分子の細胞を含む標的ドットを生成するために、細胞ブロックを形成するために使用される型のサイズを調整することによって制御され、標的ドットは特定の数の基準細胞を含む。基準細胞ブロックは、各ブロック中の基準細胞の数を制御するために規定のサイズ及び長さを有し、それによって、それぞれの標的分子の密度(又は濃度)が分かっている特定の数(すなわち、予め指定されている「既知の」数)の基準細胞を含む標的ドットが生成される。
【0079】
標的ドット(すなわち、細胞ブロック)を作製する方法の工程は、a)基準細胞に細胞収集デバイスを通過させることであって、前記基準細胞は、懸濁液、固定ペレット、又は非固定ペレットの形態にある、通過させることと、b)基準細胞カウントを実施することと、c)「細胞ペレット」又は「細胞ブロック」を作成するために、細胞をPBS中のパラホルムアルデヒドを含む組成物中に固定することと、d)型を調製し、PBS中に細胞を再懸濁し、制御された温度において懸濁液を固定化することと、e)制御された温度において、所定のサイズ及び形状の調製されている型に細胞懸濁液を注入することと、f)パラフィンプロセッサによって細胞を冷却及び処理することと、g)分子定量化、例えばDNA抽出及び定量化又は質量分析を実施することであって、この工程の間に得られる情報は、加えて、基準細胞が細胞ブロック中に均一に分散されていることをチェック及び検証するために使用することができる、分子定量化を実施することとを含む。
【0080】
上述した細胞ブロックを作製する方法の細胞ブロック調製工程は、a)固定化されている細胞の均一な混合物を作成するために、基準細胞に装置を通過させることと、b)型A(「第1の型」、例えば、半径が4mm、長さが145mmである型)に均一な基準細胞混合物を注入し、生成されている基準細胞ブロックを型から取り外すことと、c)パラフィンを用いて細胞ブロックを処理し、パラフィンから個々のブロックを取り外し、処理済み細胞ブロックを型B(「第2の型」例えば、2cm*2cm*2cmの立方体のパラフィン型)に包埋することとを含む。細胞ブロックはパラフィンに包まれ、スライドに付着されてそれぞれ標的ドットとして使用される複数の組織ブロック切片に分割されるまで、4℃において気密ボックス内に保持される。
【0081】
実施形態によれば、特定の既知の基準細胞密度の基準細胞ブロックが、基準細胞の懸濁液を、アガロース、例えば、3%アガロースと混合することによって作成され、それによって、アガロースの量は、第2の型に充填されることになる、結果もたらされる基準細胞/アガロース混合物が所望の基準細胞密度を有するように、選択される。
【0082】
優先的に、スライドに付着されている基準細胞は、標的ドット中に均一に分散される。均一性の検出は、例えば、デジタル免疫組織化学デバイス(例えば、Aperio ScanoScope)によって、細胞カウントを使用して実施することができる。均一性の検出はまた、各ブロック中の核酸の量及びブロック内のセルの混合物の比を決定するために、各細胞ブロック切片からの核酸の抽出及び定量化によって確認することもできる。DNA抽出及び定量化の方法は、例えば、PCR、デジタルPCR及び/又はシーケンシング方法である。
【0083】
標的ドットを作成する代替的な方法を使用することもでき、例えば、標的分子が、精製された形態で入手可能であるか又は調製することができるタンパク質である場合、タンパク質マイクロアレイの製造に使用されるようなタンパク質コーティング技法を、所望の量のタンパク質をスライドの表面上に堅固に付着させるために使用することができる。タンパク質をスライド表面に付着させるいくつかの技法は、例えば、その全内容が本明細書に参照により援用される論文「Systematic comparison of surface coatings for protein microarrays」Birgit Guilleaume他、Proteomics 2005、5、4705-4712 4705、WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.KGaAに開示されている。標的を生成するために適用することができる特定のタンパク質によって修飾されたガラススライドをコーティングする方法を記載しているさらなる文献は、例えば、
・Peluso,P.、Wilson,D.S.、Do,D.、Tran,H.他、Anal.Biochem. 2003、312、113-124、
・Zhu,H.、Klemic,J.F.、Chang,S.、Bertone,P.他、Nature、Genet. 2000、26、283-289、
・Mac Beath,G.、Schreiber,S.L.、Science 2000、289、1760-1763、
・Stillman,B.A.、Tonkinson,J.L.、Biotechniques 2000、29. 630-635)である。
【0084】
上記引用文献は主に、表面に結合される異なる官能基を介したタンパク質の共有結合を含む。最も一般的に使用されている官能基は、エポキシ、アルデヒド、及びN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)-エステルである。対照的に、アミノシランコーティングは、静電力を介してタンパク質を固定化する。
【0085】
本方法のいくつかの実施形態によれば、本方法は、スライドの一領域を蛍光誘導分子によってコーティングすることによって、蛍光ドットを生成することを含む。
【0086】
例えば、その全内容が本特許明細書に参照により援用される米国特許出願公開第2003/0015668号明細書は、非蛍光支持体に対するエバポレーション又はゾルゲル法によってCy3、Cy5又は他の蛍光染料ドープガラスの極めて薄い層を堆積する方法を開示している。
【0087】
別の例によれば、蛍光ドットは、その全内容が本特許明細書に参照により援用されるEP1774292B1に記載されている較正ドット作成方法のうちのいずれか1つによって作成することができる。前記文献は、蛍光マイクロアレイスキャナーを較正するための希土類イオンドープ無機アレイ及びそれらを作成する方法を記載している。コーティングされた無機リン光体が水性懸濁液中に均等に分散するのを助けるために、界面活性剤又は分散剤が利用される。界面活性剤、例えば、Tween-20、Triton-100、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ポリエチレングリコール(PEG)2000、PEG 4000、PEG 6000、PEG 8000、PEG 10000、PEG 20000、ポリビニルアルコール(PVA)ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAA)の任意の適切な1つ又は混合物を、無機リン光体の懸濁液中で使用することができる。前記界面活性剤の量は、0.1%~10%、より好ましくは0.1~5%であってもよい。好ましくは、スポッティング剤、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はグリセロールが、前記無機リン光体の懸濁液中に添加される。スライドは、以下の方法によって調製することができる。すなわち、蛍光ドットが、コンタクトプリンタによって、又は、スピンコーティング及びスクリーン印刷技法によってスライド上にスポッティングされる。フルオロスポットの直径は、例えば、100~500μm、より好ましくは120~300μmの範囲内であり得るが、任意の他のサイズを有してもよい。
【0088】
蛍光ドット及び標的ドットは、例えば、75.6mm×25mm×1mmの寸法を有する標準的な顕微鏡ガラススライド上に施与することができる。ガラススライドの表面は、非修飾又は修飾されていてもよい。例えば、蛍光ドットを担持するためのガラススライドは、化学的方法によって大域的又は局所的に修飾することができる、すなわち、アミノ修飾スライド、アルデヒド修飾スライド、エポキシ修飾スライド、チオール修飾スライド又はポリマーフィルム修飾スライド、すなわち、PVAフィルム、アガロースフィルム、又はPVAとアガロースフィルムとの混合である。前記無機リン光体を含む蛍光ドットを保護するために、スライド表面上に非常に薄い層を堆積することができる。したがって、蛍光バックグラウンドの低いポリジメチルシロキサン(PDMS)又はPVAの透明薄膜を作成することができ、それによって、膜の厚さは好ましくは50μm未満になる。この方法のさらなる詳細は、EP1774292B1に記載されている。使用される蛍光誘導分子に応じて、プロトコールは、それぞれの蛍光誘導分子の特定の特性に適合することができる。
【0089】
図2は、本発明の一実施形態による画像分析システム100のブロック図である。システムは、1つ又は複数のプロセッサ104と、主記憶装置106と、不揮発性記憶媒体108とを備える。記憶媒体は、本発明の実施形態について本明細書において記載されているような、及び、図3の流れ図に示されているような、組織試料152中の標的分子の密度を決定するための画像分析方法を実施するように構成されているコンピュータ解釈可能命令110、126を含む。システムは、任意選択的に、例えば、図1に示すようなスライド150の蛍光画像130を受信するための、画像取得システム124、例えばカメラを備えるか、又は、画像取得システム124に結合されてもよい。加えて、又は代替的に、蛍光画像130は、記憶媒体108上に記憶される。記憶媒体108は、蛍光ドット、標的ドット及び組織試料152に対応するデジタル画像130内の領域を自動的に検出するために、蛍光スライドのスライド画像130全体の画像分析を実施するように構成されているドット検出ログ126に対する命令を含むことができる。加えて、又は代替的に、2つの較正ドットの座標を、事前に設定し、記憶媒体内に記憶することができ、それぞれの較正ドットに対応するデジタル画像内のピクセルを迅速且つ正確に識別するために使用することができる。
【0090】
したがって、工程202において、画像分析システム100は、カメラ124を介して直接的に、又は、記憶媒体108から既存の蛍光画像130を読み出すことによって、スライド150のデジタル蛍光画像130を取り出すことができる。
【0091】
次いで、工程204において、標的ドット、蛍光ドット又は組織試料に対応する画像の種々の領域のピクセル強度が受信される。例えば、ドット検出論理126は、蛍光ドット、標的開始剤及び組織試料に対応するピクセル領域を自動的に識別する。次いで、画像分析論理110は、標的ドットに対応するピクセルの平均強度122、蛍光ドットに対応するピクセルの平均強度120、及び、組織試料中の関心領域154の平均強度118を計算することができる。関心領域154は、単一のピクセル(強度値が「平均」強度値の代わりに使用される)であってもよく、又は、混合分析が依然として対象の生物医学的情報を抽出するのに十分に詳細であると考えられるピクセルのセットであってもよい。関心領域154を構成するピクセルの数は、特定の実験設定及び問診に依存し得るが、典型的には細胞のサイズに対応するピクセル領域内に含有されるよりも少ないピクセルを典型的に含む。好ましくは、それぞれの組織試料領域内の標的分子の実際の数を決定することができるように、組織試料に対応するすべてのピクセルの蛍光強度値が分析及び較正される。したがって、本発明の実施形態に従って組織試料ピクセルの全体をどのように分析することができるかを明示するためのほんの一例として、標的分子密度領域154の決定が説明される。得られた強度情報122、120及び118は、任意選択的に、記憶媒体108内に記憶されてもよい。
【0092】
次いで、画像分析論理110は、標的ドットTD中の標的分子密度を示す既知の密度情報116、及び、蛍光ドットFD中の蛍光誘導分子密度を示す既知の密度情報114を読み出す。
【0093】
次いで、工程206において、画像分析方法110は、測定強度値1~2、120及び118並びにそれぞれの較正ドットTD、FDの「既知の」分子密度114、116の関数として、関心領域154中の標的分子密度を計算する。
【0094】
図4は、3つの異なるチラミドシグナル増幅アッセイを示しており、そのそれぞれのキットは市販されている。チラミドシグナル増幅(例えば米国特許第5731158号明細書、米国特許第5583001号明細書及び米国特許第5196306号明細書)は、多くの適用形態において蛍光シグナルを増幅する。TSAは、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、ELISA並びにマイクロアレイに基づく差次的遺伝子及びタンパク質発現研究などの、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)をそのプロトコールに追加することを可能にする任意の適用形態における感度を増大させるために使用することができる。HRPは、典型的にはバイオマーカー、例えば、CD20、CD4、CD45RO、CD68、FOXP3、panCK、及び他のカスタム標的などのタンパク質である標的分子を含む組織切片又は細胞調製物への、標識(例えば、ビオチン、DNP又は他の標識部分)チラミドの沈着及び結合に触媒作用を及ぼすために使用される。反応は、表面結合内因性タンパク質上のチロシン残基によって中間的に二量化するため、結合は共有結合である。これらの標識は、次いで、標準的な蛍光技法によって検出することができる。追加される標識は、酵素部位の近位にのみ沈着されるため、蛍光シグナルは、標的分子の存在及び量を選択的に示す。蛍光ドットが、2つ以上の異なるタイプの蛍光誘導分子を含み、且つ、スライド150が2つ以上のそれぞれの蛍光誘導分子によって標識される場合、同じ試料における多標識検出が対象となり、サポートされる。TSAを使用することのさらなる有益な態様は、最大でも1,000分の1の一次抗体を利用しながら、非増幅検出レベルを維持することができることである。
【0095】
TSA増幅試薬は、HRPによって活性化されると、短寿命で反応性が極めて高いフリーラジカル中間体に変換されるフェノール化合物である。このフリーラジカル中間体は、隣接するタンパク質の電子が豊富な領域(主にチロシン残基)と急速に反応し、これに共有結合する。この結合は、HRP酵素が結合される部位に隣接して起こる。HRPは、標的分子を含む組織切片へのフルオロフォア又はハプテン標識TSA基質の沈着及び共有結合に触媒作用を及ぼす。図4において、抗原(Ag 402)は、対象の標的分子のエピトープを表し得る。標的分子は、例えば、接着層410を介して、スライド150に、例えば、標的ドットTD内に、直接的に付着され得るか、又は、細胞(例えば、標的ドット中の基準細胞又は組織試料中の組織細胞)の要素としてスライドに付着することができる。黒色の抗体404は、抗原に選択的に結合する一次抗体を表す。灰色の抗体406は、HRP酵素とともに二次抗体/HRPコンジュゲートを形成する二次抗体である。「T」は視覚化のための蛍光標識を有するチラミドである。フルオロフォア標識TSA基質は、例えば、ビオチン-チラミドコンジュゲート、シアニン-3-チラミドコンジュゲート又はDNP(ジニトロフェノール)-チラミドコンジュゲートであってもよい。
【0096】
感度を標準的なICC/IHC/ISH方法の10~200倍に増大させることによって、標的ドット及び蛍光ドットを含むTSAアッセイをスライドに適用し、本発明の実施形態について本明細書において記載されているような画像分析方法を適用することは、少量の標的でさえも正確に定量化することを可能にする。
【0097】
図5は、本発明の実施形態によるスライドの蛍光画像502を示す。ピクセル領域504は、標的ドットTDに対応し、ピクセル領域506は、蛍光ドットFDに対応し、組織試料ピクセル領域508は、組織試料152に対応する。例えば、ピクセル領域504、506及び508は、ブロブ検出、画像セグメント化、及び/又はエッジ検出方法などの様々な画像分析技法によって自動的に識別することができる。蛍光フィルター又は励起光源及びそれぞれの励起波長を変更することによって、その強度が異なる蛍光誘導分子によって標識されている異なる標的タンパク質を示すか、又は、その強度が、異なる蛍光誘導分子によって標識されている同じ標的タンパク質を示す、さらなる蛍光画像を生成することができる。
図1
図2
図3
図4
図5