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特許7125468液晶ポリマーフィルム、及び液晶ポリマーフィルムから成る積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】液晶ポリマーフィルム、及び液晶ポリマーフィルムから成る積層体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220817BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220817BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B15/08 J
H05K1/03 610H
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020210276
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2021098852
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/952,553
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANG CHUN PLASTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F., No.301, Songkiang Rd., Zhongshan Dist Taipei City,Taiwan 104
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】杜安邦
(72)【発明者】
【氏名】呉佳鴻
(72)【発明者】
【氏名】陳建鈞
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194964(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104420(WO,A1)
【文献】特開2011-216598(JP,A)
【文献】特開2018-172785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B29C 59/00-59/18
B29C 55/00-55/30
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対する第1表面及び第2表面から成る液晶ポリマーフィルムであって、
前記第1表面の表面相加平均高さ(Sa)は0.028μm以上0.289μm以下であり、
前記第1表面の表面最大高さ(Sz)は0.921μm以上7.239μm以下であり、
前記第1表面のSa及びSzはISO25178:2012で定義することを特徴とする、
液晶ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記第2表面のSaは0.32μm未満であり、前記第2表面のSaはISO25178:2012で定義する、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項3】
前記第2表面のSzは0.8μm以上であり、前記第2表面のSzはISO25178:2012で定義する、請求項1又は2に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項4】
第1金属箔、及び請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルムから成る積層体であって、
前記第1金属箔は前記液晶ポリマーフィルムの前記第1表面上に配置することを特徴とする、
積層体。
【請求項5】
前記積層体は更に第2金属箔から成り、前記第2金属箔は前記液晶ポリマーフィルムの前記第2表面上に配置する、請求項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願はポリマーフィルム、より具体的には液晶ポリマー(LCP)フィルム、及び液晶ポリマーフィルムから成る積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信技術の急速な発展により、電気通信産業では、第4世代移動体通信網(4G)のデータ転送速度、応答時間、システム容量等の性能を最適化するため、5Gという略称の第5世代移動体通信網の開発が活発に行われている。
【0003】
5G通信技術は信号伝送用に高周波帯域を使用しており、信号周波数が高くなるほど、信号伝送中の信号減衰、信号ひずみ、及び挿入損失が大きくなる。高周波帯域を使用する信号伝送を達成するために、吸湿性があり、誘電性が比較的高いポリイミドフィルム(PIフィルム)に代えて、吸湿性が低く、誘電性が比較的低いLCPフィルムを選択し、当該LCPフィルムを金属箔と積層して積層体を作製する。
【0004】
しかし、現在の製品では先端技術のニーズに応えることは叶わない。研究者らは、伝送質に優れた様々な電子製品を活発に探究している。積層体の挿入損失をいかに低減又は抑制するかが主な研究課題となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許第109180979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような観点から、本出願の目的は、高周波での信号伝送時に、LCPフィルムから成る積層体の挿入損失を低減又は抑制し、積層体の高周波電子製品への適用性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するために、本出願の1態様はLCPフィルムを提供する。このLCPフィルムは互いに相対する第1表面及び第2表面を有し、第1表面の表面相加平均高さ(Sa)は0.32マイクロメートル(μm)未満である。
【0008】
LCPフィルムの第1表面のSa特性を制御することにより、高周波の信号伝送時、LCPフィルムから成る積層体の挿入損失を低減又は抑制でき、高周波電子製品(例えば、5G製品)に積層体を適用できるようになる。
【0009】
1実施形態では、LCPフィルムの第1表面のSaに加えて、LCPフィルムの第2表面のSaも0.32μm未満に制御してよい。従って、本出願のLCPフィルムが少なくとも1枚の金属箔に積層されることが第1表面及び第2表面のいずれか一方か又は両方を介しているかに関係なく、LCPフィルムを使用すると、積層体は挿入損失が低いという利点を有することになる。
【0010】
場合により、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは、以下の値(単位:μm)、0.31、0.30、0.29、0.28、0.27、0.26、0.25、0.24、0.23、0.22、0.21、0.20、0.19、0.18、0.17、0.16、0.15、0.14、0.13、0.12、0.11、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.039、0.038、0.037、0.036、0.035、0.034、0.033、0.032、0.031、0.030、0.029、0.028のうちの任意の1つの値であってもよいが、これに限定されるものではない。あるいは、LCPフィルムの第1表面のSaは、上記値のうちの任意の2つの数値間の範囲内に該当してもよい。
1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.31μm以下であってもよい。別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.30μm以下であってもよい。更に別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.29μm以下であってもよい。また更に別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.028μm以上であってもよい。その上更に別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.028μm以上0.290μm以下であってもよい。更に追加する実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.028μm以上0.289μm以下であってもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSa及び第2表面のSaは両方とも前述の範囲のいずれかに該当してもよい。本出願のLCPフィルムの第1表面のSa及び第2表面のSaは、必要に応じて同じであっても異なっていてもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaと第2表面のSaとは異なる。
【0011】
1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面の表面最大高さ(Sz)は0.8μm以上であってもよい。場合により、本出願のLCPフィルムの第1表面のSzは以下の値(単位:μm)、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、1.00、1.10、1.20、1.30、1.40、1.50、1.60、1.70、1.80、1.90、2.00、2.10、2.20、2.30、2.40、2.50、2.60、2.70、2.80、2.90、3.00、3.10、3.20、3.30、3.40、3.50、3.60、3.70、3.80、3.90、4.00、4.10、4.20、4.30、4.40、4.50、4.60、4.70、4.80、4.90、5.00、5.10、5.20、5.30、5.40、5.50、5.60、5.70、5.80、5.90、6.00、6.10、6.20、6.30、6.40、6.50、6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.21、7.22、7.23、7.24、7.25、7.26、7.27、7.28、7.29、7.30のうちの任意の1つの値であってもよいが、これに限定されるものではない。
あるいは、LCPフィルムの第1表面のSzは、上記の値のうちの任意の2つの数値間の範囲内に該当してもよい。好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のSzは0.9μm以上であってもよく、より好ましくは、0.92μm以上であってもよい。従って、LCPフィルムを積層体に塗布することには、挿入損失が少なく、LCPフィルムと金属箔との剥離強度が向上するという利点がある。これらの利点により、その後の積層体の処理中のワイヤ剥離などの問題を回避できる。
別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSzは7.30μm以下であってもよい。更に別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSzは0.92μm以上7.30μm以下であってもよい。また更に別の実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSzは0.921μm以上7.239μm以下であってもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSz及び第2表面のSzは両方とも、上述の範囲のいずれかに該当してもよい。本出願のLCPフィルムの第1表面のSz及び第2表面のSzは必要に応じて同じであっても異なっていてもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSzと第2表面のSzとは異なる。
【0012】
本出願によれば、LCPフィルムはLCP樹脂から作製してもよく、LCP樹脂は市販のものでも、通常の原料から製造してもよい。本出願では、LCP樹脂は特に制限しない。例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6‐ナフタレンジオール、エタンジオール、1,4‐ブタンジオール、及び1,6‐ヘキサンジオールなどの芳香族又は脂肪族ヒドロキシ化合物;テレフタル酸、イソフタル酸、2,6‐ナフタレンジカルボン酸、2‐クロロテレフタル酸、及びアジピン酸などの芳香族又は脂肪族ジカルボン酸;3‐ヒドロキシ安息香酸、4‐ヒドロキシ安息香酸、6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸、及び4’‐ヒドロキシ‐4‐ビフェニルカルボン酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸、p‐フェニレンジアミン、4,4’‐ジアミノビフェニル、ナフタレン‐2,6‐ジアミン、4‐アミノフェノール、4‐アミノ‐3‐メチルフェノール、及び4‐アミノ安息香酸などの芳香族アミン化合物を原料として使用し、LCP樹脂を調製してもよい。その後、このLCP樹脂を用いて本出願のLCPフィルムを調製する。本出願の1実施形態では、LCP樹脂を得るために、6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸、4‐ヒドロキシ安息香酸、及び無水アセチル(無水酢酸とも称する)を選択してもよく、LCP樹脂は本出願のLCPフィルムを調製するために使用できる。1実施形態では、LCP樹脂の融点は約250℃~360℃であってもよい。
【0013】
1実施形態では、様々なニーズに基づいて、当業者により、本出願のLCPフィルムの調製中に、潤滑剤、酸化防止剤、電気絶縁剤、又は充填剤などの添加剤を添加してもよいが、これらに限定されるものではない。例えば、適用可能な添加剤はポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、又はポリエーテルエーテルケトンであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本出願によれば、LCPフィルムの厚さは特に制限しない。例えば、LCPフィルムの厚さは10μm以上500μm以下、好ましくは、本出願のLCPフィルムの厚さは10μm以上300μm以下、より好ましくは、15μm以上250μm以下、更に好ましくは、15μm以上200μm以下、いっそう好ましくは、20μm以上200μm以下であってもよい。
【0015】
上述の目的を達成するために、本出願の別の態様は、第1金属箔及び前記LCPフィルムから成る積層体も提供する。前記第1金属箔はLCPフィルムの第1表面上に配置する。即ち、本出願の積層体中の第1金属箔はLCPフィルムの第1表面上に積層する。
【0016】
上記によれば、LCPフィルムの第1表面のSaは0.32μm未満であるため、LCPフィルムから成る積層体は挿入損失が小さいという利点があり、それにより高周波電子製品に応用できる積層体が製造できる。
【0017】
1実施形態では、本出願の積層体は50μmの厚さのLCPフィルムを有し、前記積層体の挿入損失は10ギガヘルツ(GHz)の周波数で-3.0デシベル/10センチメートル(dB/10cm)以下とすることが可能である。具体的には、1実施形態では、本出願の積層体は50μmの厚さのLCPフィルムを有し、前記積層体の挿入損失は-2.8デシベル/10cm及び-3.0デシベル/10cmの範囲内となるように制御できる。
【0018】
1実施形態では、本出願の積層体は更に、LCPフィルムの第2表面上に配置した第2金属箔から成っていてもよい。即ち、本出願の積層体中の第1金属箔をLCPフィルムの第1表面上に積層し、前記積層体中の第2金属箔をLCPフィルムの第2表面上に積層する。本実施形態では、LCPフィルムの第1表面及び第2表面の両方のSa特性を同時に制御すると、積層体は挿入損失が少ないという利点を有することになる。あるいは、第1表面及び第2表面のSa及びSz両方の特性を同時に制御すると、積層体は、挿入損失が低く、また、第1金属箔に積層したLCPフィルムの密着性及び第2金属箔に積層したLCPフィルムの密着性の両方が向上するという利点を有することになる。即ち、LCPフィルムと第1金属箔との剥離強度、及びLCPフィルムと第2金属箔との剥離強度の両方が向上する。
【0019】
本出願によれば、「積層」は直接接触に限定せず、更に間接接触も含む。例えば、本出願の1実施形態では、積層体中の第1金属箔は直接接触法式でLCPフィルムの第1表面上に積層する。本出願の別の実施形態では、積層体中の第1金属箔は間接接触法式でLCPフィルムの第1表面上に積層する。具体的には、様々なニーズに基づいて、第1金属箔とLCPフィルムの第1表面との間に接続層を配置してもよく、そうすることで第1金属箔は接続層を介してLCPフィルムの第1表面に接触する。
接続層の材料は異なるニーズに応じて調整してもよい。例えば、接続層の材料は、耐熱性、耐薬品性、又は電気抵抗性などの機能を提供するために、ニッケル、コバルト、クロム、又はこれらの合金を含んでもよい。同様に、積層体中の第2金属箔は、直接又は間接接触法式でLCPフィルムの第2表面上に積層してもよい。本出願の1実施形態では、LCPフィルム及び第1金属箔の積層方法と、LCPフィルム及び第2金属箔の積層方法とは同じであってもよい。別の実施形態では、LCPフィルムと第1金属箔との積層法はLCPフィルムと第2金属箔との積層方法とは異なっていてもよい。
【0020】
本出願によれば、第1金属箔及び/又は第2金属箔は銅箔、金箔、銀箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔等であってもよいが、これらに限定されるものではない。1実施形態では、第1金属箔及び第2金属箔は異なる材料から製造する。好ましくは、第1金属箔及び/又は第2金属箔は銅箔であってもよく、そうすることで銅箔とLCPフィルムとを積層して銅張積層板(CCL)が形成される。また、第1金属箔及び/又は第2金属箔の調製方法は、当該方法が本出願の目的に反しない限り、特に制限しない。例えば、金属箔はロールツーロール法又は電着法により作製してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本出願によれば、第1金属箔及び/又は第2金属箔の厚さは特に制限せず、様々なニーズに基づいて当業者により調整可能である。例えば、1実施形態では、第1金属箔及び/又は第2金属箔の厚さは独立して、1μm以上200μm以下の範囲、好ましくは1μm以上40μm以下、より好ましくは3μm以上40μm以下であってもよい。
【0022】
本出願によれば、本出願の第1金属箔及び/又は第2金属箔は、様々なニーズに基づいて当業者により表面処理に供することが可能である。例えば表面処理は、粗面化処理、酸‐塩基処理、熱処理、脱脂処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り処理等から選択してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本出願によれば、第1金属箔及び/又は第2金属箔の粗度は特に制限せず、当業者により様々なニーズに応じて調整可能である。1実施形態では、第1金属箔の線粗度である十点平均粗度(Rz)及び/又は第2金属箔のRzは独立して0.1μm以上2.0μm以下、好ましくは、0.1μm以上1.5μm以下であってもよい。1実施形態では、第1金属箔のRz及び第2金属箔のRzは共に、上述の範囲のいずれかに該当してもよい。1実施形態では、第1金属箔のRz及び/又は第2金属箔のRzは1.0μmであってもよい。第1金属箔のRz及び第2金属箔のRzは必要に応じて同じであってもよいし、異なっていてもよい。1実施形態では、第1金属箔のRz及び第2金属箔のRzは異なる。
【0024】
1実施形態では、様々なニーズに基づいて当業者により第3金属箔を追加してもよい。第3金属箔は、必要に応じて第1金属箔及び/又は第2金属箔と同じであってもよいし、異なっていてもよい。1実施形態では、第3金属箔のRzは第1金属箔のRz及び/又は第2金属箔のRzの上述した範囲のいずれかに該当してもよい。1実施形態では、第1金属箔のRz、第2金属箔のRz、及び第3金属箔のRzは異なる。
【0025】
好ましくは、第1金属箔、第2金属箔、及び/又は第3金属箔は、低プロファイル銅箔などの低プロファイル金属箔であってもよい。1実施形態では、第1金属箔、第2金属箔、及び/又は第3金属箔のRzは1.5μm未満であってもよい。別の実施形態では、第1金属箔、第2金属箔、及び/又は第3金属箔のRzは1.0μmであってもよい。
【0026】
1実施形態では、積層体は複数のLCPフィルムから構成してもよい。本出願の精神に反しないという前提に基づいて、複数のLCPフィルム及び複数の金属箔を有する積層体の製造を行う様々なニーズに応じて、当業者により、本出願の複数のLCPフィルムと、前記第1金属箔、第2金属箔、及び/又は第3金属箔などの複数の金属箔とを積層してもよい。
【0027】
本明細書では、「表面相加平均高さ(Sa)」及び「表面最大高さ」(Sz)はISO25178:2012で定義する面粗度である。当業者であれば、特定の表面の面粗度の記述が前記特定の表面の線粗度の記述とは異なることは理解すべきである。面粗度及び線粗度は互いに推量することは不可能である。例えば、粗度プロファイルから評価された相加平均粗度(Ra)からSaを推量できないし、その逆もまた同様である。また、Szは、粗度プロファイルから評価された十点平均粗度(Rz)からSzは推量できないし、その逆もまた同様である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本出願のLCPフィルムの製造に使用する原料を説明するために、複数の調製例を示す。更に、本出願のLCPフィルム及び積層体の実装を説明するために複数の実施例を示しつつ、比較として複数の比較例を示す。当業者であれば、以下の実施例及び比較例から、本出願の利点及び効果を容易に実現できる。
本明細書で提案した記述は、単に説明目的のための好ましい実施形態にすぎず、本出願の範囲を限定することを意図したものではない。本出願の精神及び範囲から逸脱することなく、本出願を実践又は応用するために様々な改変及び変更が可能である。
【0029】
<LCP樹脂>
調製例:LCP樹脂
6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸(440g)、4‐ヒドロキシ安息香酸(1145g)、無水アセチル(1085g)及び亜リン酸ナトリウム(1.3g)の混合物を3リットルのオートクレーブに入れ、アセチル化するために、常圧窒素雰囲気下、160℃で約2時間撹拌した。次いで、混合物を毎時30℃の加熱速度で320℃まで加熱した後、この温度条件下で、760トルから3トル以下へと徐々に減圧し、320℃から340℃へと昇温した。その後、撹拌力及び圧力を増加し、ポリマーを吐出する工程、ストランドを引き抜く工程、及びストランドをペレットへと切断する工程を行い、融点が約305℃、粘度が320℃で約40Pa・sのLCP樹脂を得た。
【0030】
<LCPフィルム>
実施例1~12及び比較例1~5:LCPフィルム
調製例から得たLCP樹脂を原料として使用し、後述する方法により、実施例1~12のLCPフィルム(E1~E12)及び比較例1~5のLCPフィルム(C1~C5)を調製した。
【0031】
初めに、LCP樹脂を、スクリュー径27ミリメートル(mm)の押出機(メーカー:Leistritz社、型式:ZSE27)に投入し、300℃~330℃の範囲の温度まで加熱した後、毎時5.5キログラム(kg/hr)~9.5kg/hrの送り速度で、温度が300℃~330℃で幅500mmのTダイから押し出した。次いで、Tダイから約5mm~40mmの間隔をとって、各々が約290℃~330℃の温度であり、約35センチメートル(cm)~45cmの直径を有する2つの鋳造ホイールの間の空間にLCP樹脂を送り、約20キロニュートン(kN)~60kNの力で押し出し、その後、室温の冷却用の冷却ホイールに移し、厚さ50μmで融点約250℃~360℃のLCPフィルムを得た。
【0032】
実施例1~12及び比較例1~5のパラメータを以下の表1に収載する。実施例1~12の工程は、Tダイから鋳造ホイール表面までの距離、送り速度、押出機の温度が比較例1~5の工程と異なる。
【0033】
表1:実施例1~12及び比較例1~5のLCPフィルムを調製するためのパラメータ
【0034】
【表1】
【0035】
上述したLCPフィルムの調製方法は本出願の実施を例示するために使用しているにすぎない。当業者であれば、ラミネート延伸法、膨張法、及び溶媒鋳造法などの従来の方法を採用してLCPフィルムを調製してもよい。
【0036】
1実施形態では、TダイからLCP樹脂を押し出した後、LCP樹脂を2枚の耐高温性フィルムと共に2つの鋳造ホイール間の空間に送り、当業者の必要に応じて3層の積層体を形成してもよい。2枚の耐高温性フィルムを室温でLCP樹脂から分離し、本出願のLCPフィルムを得た。鋳造ホイールの直径は特に制限していないことは理解すべきである。耐高温性フィルムはポリ(テトラフルオロエテン)(PTFE)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、及びポリ(エーテルスルホン)(PES)フィルムから選択してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0037】
また、得られたLCPフィルムに対する後処理は、様々なニーズに基づいて当業者により行うことが可能である。後処理としては、研磨、紫外線照射、加熱、プラズマ処理等が挙げられるが、これに限定されるものではない。プラズマ処理としては、様々なニーズに基づいて、当業者により減圧又は常圧(1atm)で、窒素雰囲気下、酸素雰囲気下、又は空気雰囲気下、1キロワット(kW)の電力で作動するプラズマを印加してもよいが、これに限定されるものではない。
【0038】
試験例1:LCPフィルムの面粗度
本試験例では、実施例1~12及び比較例1~5のLCPフィルムを試験試料として用いた。各試験試料のいずれか一方の表面の面粗度、即ちSa及びSzをISO25178:2012に準拠して測定した。
【0039】
各試験試料のSa及びSzを測定するために、拡大倍率50倍の対物レンズを備え、光学ズーム1.0倍、光源波長405ナノメートル(nm)のレーザ共焦点走査型顕微鏡(メーカー:オリンパス社、型式:LEXT OLS5000‐SAF、対物レンズ:MPLANPON‐50xLEXT)を用い、温度24±3℃、相対湿度63±3%で試験試料の表面形状画像を撮影した。その後、1024ピクセル×1024ピクセルの解像度、自動傾き補正モードで試験試料のSa及びSzを測定した。
前記方法に従って、E1~E12及びC1~C5の各LCPフィルムのいずれか一方の表面のSa及びSzの結果を以下の表2に収載する。
【0040】
表2:実施例1~12及び比較例1~5の各LCPフィルムのSa及びSz
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、E1~E12の各LCPフィルムのいずれか一方の表面のSaは0.32μm未満であったが、C1~C5の各LCPフィルムのいずれか一方の表面のSaは0.32μm以上であった。E1~E12のLCPフィルムについては、Saが0.32μm未満であることに加えて、E1~E12の各LCPフィルムのいずれか一方の表面のSzは0.8μm以上であった。即ち、E1~E12の各LCPフィルムのいずれか一方の表面は、(1)0.32μm未満のSa、及び(2)0.8μm以上のSzの両方の特性を有していた。
【0043】
試験例2:LCPフィルムのRa特性とSa特性との比較
線粗度(例えば、Ra)と面粗度(例えば、Sa)との違いを調べるために、上記実施例及び比較例からE5、E6、及びC5のLCPフィルムを試験試料として無作為に選択した。JIS B0601:1994に準拠して、前記LCPフィルムのいずれか一方の表面の線粗度を求めた。また、ISO25178:2012に準拠して、前記LCPフィルムのいずれか一方の表面の面粗度を求めた。
【0044】
E5、E6、及びC5のLCPフィルムのいずれか一方の表面のRaを測定するために、拡大倍率50倍の対物レンズを備え、光学ズーム1.0倍、光源波長405nmのレーザ共焦点走査型顕微鏡(メーカー:オリンパス社、型式:LEXT OLS5000‐SAF、対物レンズ:MPLAPON‐50xLEXT)を用い、温度24±3℃、相対湿度63±3%で試験試料の表面形状画像を撮影した。その後、評価長さ4mm、カットオフ値0.8mmを選択して試験試料のRaを測定した。結果を以下の表3に収載する。
【0045】
本試験例では、面粗度の測定方法を試験例1と同様にした。結果は上記表2と同様である。また、RaとSaとの違いを調べるために、Raに加えて、E5、E6、及びC5のLCPフィルムのSaを以下の表3にまとめて収載する。
【0046】
表3:実施例5及び6並びに比較例5のLCPフィルムのRa及びSa
【0047】
【表3】

【0048】
上記表3に示すように、3枚のLCPフィルムのRa及びSaを以下のように階級付けした。
Ra:E5<E6<C5・・・・・(式1)
Sa:E6<E5<C5・・・・・(式2)
複数のLCPフィルムのRaの昇順関係は、複数のLCPフィルムのSaの昇順関係とは明らかに異なっており、RaとSaとは互いから直接推量できないことが分かった。更に、これら3つのLCPフィルムの最大値及び最小値から推量した相対倍率によりRa又はSaの違いを調べた。C5のLCPフィルムのRa(3試料中最大Ra)はE5のLCPフィルムのRa(3試料中最小Ra)に近かったが、C5のLCPフィルムのSa(3試料中最大Sa)はE6のLCPフィルムのSa(3試料中最小Sa)の約1.7倍大きかった。この結果から分かるように、E5とC5のLCPフィルムのRaは近似していたが、E5とC5のSaの差は依然として大きかった。この結果から、RaとSaとは互いから直接推量できないことが証明された。
【0049】
試験例3:LCPフィルムのRzとSzとの比較
線粗度(例えば、Rz)と面粗度(例えば、Sz)の違いを調べるために、上記実施例からE1及びE12のLCPフィルムを試験試料として無作為に選択した。JIS B 0601:1994に準拠して、前記LCPフィルムのいずれか一方の表面の線粗度を求めた。また、ISO25178:2012に準拠して、前記LCPフィルムのいずれか一方の表面の面粗度を求めた。
【0050】
E1及びE12のLCPフィルムのいずれか一方の表面のRzを測定するために、拡大倍率50倍の対物レンズを備え、光学ズーム1.0倍、光源波長405nmのレーザ共焦点走査型顕微鏡(メーカー:オリンパス社、型式:LEXT OLS5000‐SAF、対物レンズ:MPLAPON‐50xLEXT)を用い、温度24±3℃、相対湿度63±3%で試験試料の表面形状画像を撮影した。その後、評価長さ4mm、カットオフ値0.8mmを選択して試験試料のRzを測定した。結果を以下の表4に収載する。
【0051】
本試験例では、面粗度の測定方法を前記試験例1と同様にした。結果は上記表2と同様である。また、RzとSzとの違いを調べるために、Rzに加えて、E1及びE12のLCPフィルムのSzを以下の表4にまとめて収載する。
【0052】
表4:実施例1及び12のLCPフィルムのRz及びSz
【0053】
【表4】
【0054】
上記表4に示すように、E1のLCPフィルムのRzはE12のLCPフィルムのRzよりも小さいが、E1のLCPフィルムのSzはE12のLCPフィルムのSzより大きく、RzとSzとは互いから直接推量できないことが分かった。更に、E1とE12のRaの差又はSaの差のいずれかを相対倍率により調べた。E12のLCPフィルムのRzはE1のLCPフィルムのRzの約1.3倍しか大きくなかったが、E1のLCPフィルムのSzはE12のLCPフィルムのSzの約5.6倍大きかった。この結果から分かるように、E1とE12のLCPフィルムのRzは近似していたが、E1とE12とのSzの差は依然として大きかった。この結果から、RzとSzとは互いから直接推量できないことが証明された。
【0055】
試験例2及び3によれば、線粗度と面粗度は明らかに異なっていた。当業者は、LCPフィルムの線粗度に基づいてLCPフィルムの面粗度を予測又は推量できない。具体的には、当業者は、LCPフィルムのRaに基づいてLCPフィルムのSaを予測又は推量できないし、LCPフィルムのRzに基づいてLCPフィルムのSzを予測又は推量できず、その逆もまた同様である。
【0056】
<ラミネート>
実施例1A~12A及び比較例1A~5A:積層体
同種の市販銅箔に積層した実施例1~12及び比較例1~5のLCPフィルムから、実施例1A~12A(E1A~E12A)及び比較例1A~5A(C1A~C5A)の積層板をそれぞれ作製した。
具体的には、初めに、厚さ約50μmのLCPフィルム、及びそれぞれ厚さ約12μmの2枚の同一の市販銅箔を、それぞれ20cm×20cmのサイズへと切断した。次いで、LCPフィルムを2枚の市販銅箔で挟み、積層構造体を形成した。この積層構造体を、1平方センチメートル当たり5キログラム(kg/cm)の圧力に180℃で60秒間供し、その後、20kg/cmの圧力に300℃で25分間(min)供した後、室温まで冷却し、積層体を得た。各積層体に含まれるLCPフィルムを下記表5に収載する。
【0057】
本明細書では、積層体の積層方法は特に制限しない。当業者であれば、ワイヤ積層や表面積層などの従来技術を用いて積層工程を実施し得る。本出願に適用可能なラミネータは間欠ホットプレス機、ロールツーロールホイール機、ダブルベルトプレス機等であってもよいが、これらに限定されるものではない。様々なニーズに応じて、当業者であればLCPフィルムを銅箔と並べて積層構造体を形成することが可能であり、次いでこの積層構造体を加熱工程及びプレス工程を含む表面積層により処理してもよい。
【0058】
別の実施形態では、様々なニーズに基づいて当業者により、LCPフィルム上の銅箔などの金属箔は、スパッタリング、電気めっき処理、化学めっき処理、蒸着等を経て形成してもよい。あるいは、様々なニーズに基づいて当業者により、接着剤層、ニッケル層、コバルト層、クロム層、又はこれらの合金層などの接続層をLCPフィルムと金属箔との間に形成してもよい。
【0059】
試験例4:積層体の挿入損失
実施例1A~12A及び比較例1A~5Aの積層体をそれぞれ、長さ約10cm、幅約140μmのサイズ、抵抗値約50オーム(Ω)を有するストリップライン試験片へと切断した。ストリップライン試験片の挿入損失を、プローブ(メーカー:Cascade Microtech社、型式:ACP40‐250)を備えるマイクロ波ネットワーク解析機(メーカー:Agilent Technologies社、型式:8722ES)により、10GHzで測定した。積層体の結果を以下の表5に収載する。
【0060】
表5:実施例1~12及び比較例1~5のLCPフィルムのSaと、実施例1A~12A及び比較例1A~5Aの積層体の挿入損失(10GHz)
【0061】
【表5】
【0062】
上記表5に示すように、E1~E12のLCPフィルムのいずれか一方の表面のSaが0.32μm未満であったため、前記LCPフィルムから成る積層体(E1A~E12A)及び市販銅箔の挿入損失を-3.0dB/10cm以下に制御できた。即ち、前記挿入損失は-2.8dB/10cm以上、-3.0dB/10cm以下とすることが可能であった。対照的に、C1~C5のLCPフィルムのいずれか一方の表面のSaが0.32μm以上であったため、C1A~C5Aの積層体の挿入損失は-3.1dB/10cm以上であった。特に、C1のLCPフィルムのいずれか一方の表面のSaは0.441μmであり、これによりC1Aの積層体の挿入損失は-3.2dB/10cmとなった。前記積層体は、電気通信産業における電子製品の高伝送質のニーズを満たすことが不可能であった。
【0063】
この結果から明らかなように、LCPフィルムのいずれか一方の表面のSaを0.32μm未満に制御すると、積層体の挿入損失を低減でき、電子製品に応用した場合に積層体の性能を向上できた。
【0064】
試験例5:積層体の剥離強度
積層体の剥離強度はIPC‐TM‐650の2.4.9に準拠して測定した。実施例1A~12A及び比較例1A~5Aの積層体をそれぞれ、長さ約228.6mm及び幅約3.2mmのサイズのエッチングした試験片へと切断した。各エッチング試験片を温度23±2℃及び相対湿度50±5%で24時間静置し、安定化させた。次いで、両面接着テープを用いて、各エッチング試験片を、試験機(メーカー:Hung Ta Instrument社、型式:HT‐9102)のクランプに接着した。その後、各エッチング試験片を剥離速度50.8mm/minの力でクランプから剥離し、剥離工程時の力の値を連続的に記録した。ここで、当該力は試験機が耐えられる力の15%~85%の範囲内に制御し、クランプからの剥離距離は少なくとも57.2mmを超すべきであり、初期距離6.4mmでの力は無視し、記録しなかった。結果を表6に示す。
【0065】
表6:実施例1~12及び比較例1~5のLCPフィルムのSa及びSz、並びに実施例1A~12A及び比較例1A~5Aの積層体の挿入損失及び剥離強度
【0066】
【表6】
【0067】
上記表6に示すように、E1A~E11Aの積層体の性能と、E12A及びC1A~C5Aの積層体の性能との差は明瞭であった。E1~E11のLCPフィルムのいずれか一方の表面は(1)0.32μm未満のSa、及び(2)0.9μm以上のSzの両方の特性を有していたため、銅箔及びE1~E11のLCPフィルムから成る積層体は、挿入損失が低く(-3.0dB/10cm以下)、LCPフィルムと銅箔との剥離強度が1.0kN/m以上に向上するという利点を有していた。従って、LCPフィルムのSaに加えて、LCPフィルムのSzを適切にすると、LCPフィルムと銅箔との積層を更に最適化でき、よって高剥離強度及び低挿入損失を両立した積層体が得られた。
【0068】
まとめると、LCPフィルムの第1表面のSaを0.32μm未満に制御することにより、前記LCPフィルムから成る積層体の挿入損失を低減又は抑制できる。従って、本出願の積層体は先進的な高周波製品に適用可能である。