(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】洗浄システム
(51)【国際特許分類】
C23G 5/04 20060101AFI20220818BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C23G5/04
B08B3/04 Z
(21)【出願番号】P 2018136319
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】武部 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 豊勝
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119259(JP,A)
【文献】特開2004-105947(JP,A)
【文献】特開平06-023332(JP,A)
【文献】特表2016-504065(JP,A)
【文献】特開2006-231272(JP,A)
【文献】特表2010-537787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
B08B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの浸漬加熱洗浄および乾燥を行う洗浄装置と、データ解析装置とを含む洗浄システムであって、
前記洗浄装置は、
洗浄液の投入量を計測する液量計測部と、
洗浄液の温度低下量と最低温度到達時間を計測する液温計測部と、
真空乾燥時間を計測する真空乾燥計測部とを備え、
前記データ解析装置は、
洗浄液の投入量、温度低下量、最低温度到達時間に対する真空乾燥時間
を学習してワークの体積、重量、および表面積の推定値の最適解を求める解析部を備えて
おり、
前記洗浄装置およびデータ解析装置は広域ネットワークに接続されていて、
前記データ解析装置は、前記広域ネットワークを介して、異なる地点にある複数の前記洗浄装置からデータを集積して解析することを特徴とする洗浄システム。
【請求項2】
前記真空乾燥計測部は、真空乾燥時間に代えて到達真空度を計測し、
前記解析部は、真空乾燥時間に代えて到達真空度を用いて解析を行うことを特徴とする請求項1に記載の洗浄システム。
【請求項3】
前記洗浄装置は、熱処理装置の前段でワークの洗浄を行う洗浄装置であって、
前記データ解析装置は、解析結果であるワークの体積、重量、および表面積の推定値を前記熱処理装置に送信することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液に浸漬して機械部品等の洗浄を行う洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料からなる部品等のワークに熱処理(焼き入れ、浸炭、窒化など)を行う場合、その前段で脱脂洗浄が行われる。脱脂洗浄においては、炭化水素系洗浄剤(有機溶媒)に浸漬して洗浄を行った後に、乾燥処理が行われる。
【0003】
特許文献1には、真空脱脂洗浄装置が開示されている。特許文献1に示す真空脱脂洗浄装置においては、洗浄室を取り囲むように洗浄液タンクを配置し、シャワー洗浄、浸漬洗浄、高温噴射洗浄、及び真空乾燥を1つの洗浄室内で行うことが可能となっている。これにより、洗浄液がタンクと洗浄室間を移動する時間が少なくサイクルタイムを短かくし、装置を小型化できる真空脱脂洗浄装置を提供できると述べている。
【0004】
特許文献1に示されるような真空脱脂洗浄装置においては、油脂類を洗浄液によって除去するために、洗浄液を加熱する。一方、洗浄すべきワークはさまざまな形や大きさのものが対象となり、重量や表面積がまちまちである。特許文献1には明確な記載はないが、従来は、ワークの重量や表面積を作業者が観察し、数種類の洗浄パターン(加熱時間、温度、乾燥時間などの組み合わせ)から選択していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来の真空脱脂洗浄装置では、設定できる洗浄パターンの種類に限りがあるため、余裕のある洗浄パターンを選択せざるを得なかった。このため、製品重量の増減に細かく対応できず、必要以上に加熱したり、乾燥させたりする場合がほとんどであった。また、そもそも各洗浄パターンの設定値は、安全側を見た温度や処理時間になっているため、あわせて大幅に余裕のある加熱や乾燥が行われていた。
【0007】
ワークの重量や表面積がわかれば、これに応じた値を洗浄パターンの設定値とすることも考えられる。しかしながら重量について、洗浄装置を使用するのは顧客であり、洗浄パターンの設定値を作成するのは洗浄装置メーカーである。そして、顧客が洗浄装置メーカーに対してワーク重量のデータの開示を拒否する場合がある。また表面積についても、顧客からワークの表面積のデータを得ることは難しい。3D画像解析によって表面積を求めることも考えられるが、データが大きくなりすぎて処理負荷が高いうえ、顧客がワークの撮影を拒否する可能性がある。これらのことから、ワークの重量や表面積を数値として取得することは難しい。
【0008】
さらに、ワークの重量や表面積がわかれば、後工程である熱処理装置(焼き入れ、浸炭、窒化など)においても有益である。熱処理装置においては、一般にPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)と呼ばれるフィードバック制御が行われる。ワークの重量(熱容量)がわかっていれば正確な投入熱量の設定が可能である。しかし、炉の温度だけでPID制御を行うと過熱(オーバーシュート)や振動(ハンチング)を生じながら目標温度に到達・維持させる。このため、洗浄装置と同様に、無駄な加熱が生じてしまう。浸炭や窒化においても同様に、表面積がわからないために必要以上の材料ガスを消費してしまっている。
【0009】
そこで本発明は、浸漬加熱洗浄および乾燥を行う洗浄装置において、ワークの重量や表面積の値が与えられない場合であっても、加熱と乾燥の効率を向上することが可能な洗浄システムを提供することを目的とする。またあわせて、後工程である熱処理装置の効率をも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な構成は、ワークの浸漬加熱洗浄および乾燥を行う洗浄装置と、データ解析装置とを含む洗浄システムであって、洗浄装置は、洗浄液の投入量を計測する液量計測部と、洗浄液の温度低下量と最低温度到達時間を計測する液温計測部と、真空乾燥時間を計測する真空乾燥計測部とを備え、データ解析装置は、洗浄液の投入量、温度低下量、最低温度到達時間に対する真空乾燥時間の適応度を用いてワークの体積、重量、および表面積の推定値の最適解を求める解析部を備えていることを特徴とする。
【0011】
真空乾燥時間とは、設定値として与える所定の時間ではなく、所定の真空度に到達するまでの時間(真空到達時間)である。なお、鉄鋼材料の比重は既知であるから、体積から重量に換算することができる。また、鉄鋼材料の比熱は既知であるから、熱容量から重量に換算することができる。
【0012】
上記構成によれば、重量や表面積という物理量に関係する間接的なデータを用いて、体積および表面積の推定値を得ることができる。これにより、浸漬加熱洗浄および乾燥を行う洗浄装置において、ワークの重量や表面積の値が与えられない場合であっても、加熱と乾燥の効率を向上することができる。
【0013】
真空乾燥計測部は、真空乾燥時間に代えて到達真空度を計測し、解析部は、真空乾燥時間に代えて到達真空度を用いて解析を行ってもよい。
【0014】
洗浄装置が、熱処理装置の前段でワークの洗浄を行う洗浄装置である場合には、データ解析装置は、解析結果であるワークの体積、重量、および表面積の推定値を熱処理装置に送信してもよい。これにより、後工程である熱処理装置の効率をも向上させることができる。
【0015】
洗浄装置およびデータ解析装置は広域ネットワークに接続されている場合には、データ解析装置は、広域ネットワークを介して、異なる地点にある複数の洗浄装置からデータを集積して解析してもよい。多数の地点(工場)の多数の洗浄装置からさまざまなワークについてのデータを集積し、そのビッグデータを解析することによって、推定値の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、浸漬加熱洗浄および乾燥を行う洗浄装置において、ワークの重量や表面積の値が与えられない場合であっても、加熱と乾燥の効率を向上することが可能な洗浄システムを提供することができる。またあわせて、後工程である熱処理装置の効率をも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る洗浄システムの全体構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0019】
図1は本実施形態に係る洗浄システムの全体構成を説明する図である。洗浄システム100は、洗浄装置120と、データ解析装置150から構成されている。洗浄装置120は、工場110において、熱処理装置160の前段でワークWの浸漬加熱洗浄および乾燥を行う装置である。
【0020】
工場110はインターネットなどの広域ネットワーク10を介してデータ解析装置150と接続されている。1つの工場110には複数台の洗浄装置120および熱処理装置160が設置されていて、また広域ネットワーク10には複数の工場110が接続されている。したがってデータ解析装置150には、多数の工場110の多数の洗浄装置からさまざまなワークについてのデータが集積される。
【0021】
図2は洗浄装置120について説明する図である。洗浄装置120は、洗浄室130と洗浄液タンク132を備えている。まず
図2(a)に示すように、洗浄装置120の内部の架台134にワークWを載置する。そしてシャワーノズル136から洗浄液を散布し、粉じん(コンタミ)を除去する。次に
図2(b)に示すように、洗浄室130の下部に接続されてた供給配管138から洗浄液を供給し、ワークWを浸漬する。洗浄液は加温して供給されるが、ワークWによって温度が低下するため、洗浄室130内でもさらに加熱する。そしてバブリングや超音波洗浄などを行い、脱脂する。
【0022】
次に
図2(c)に示すように、シャワーノズル136から高純度の洗い油でリンスする。最後に洗浄室130の上部に接続された排気管140から吸引して、真空乾燥を行う。このようにして一連の浸漬加熱洗浄および乾燥が行われる。
【0023】
ここで洗浄装置には、洗浄液の投入量を計測する液量計測部122と、洗浄液の温度低下量と最低温度到達時間を計測する液温計測部124と、真空乾燥時間を計測する真空乾燥計測部126が備えられている。
【0024】
液量計測部122は、
図2(b)で供給配管138から供給される洗浄液の投入量(流量)を計測する。洗浄液は、ワークWが浸漬した洗浄液の液面が一定になるように制御されるため、投入量を測定すればワークの体積を測定することができる。体積×比重で重量であり、鉄鋼材料の比重は既知であるから、体積から重量に換算することができる。したがって、洗浄液の投入量は重量にも関係する値である。
【0025】
液温計測部124は、洗浄室130内の洗浄液の温度を測定する温度センサである。また、継続的に温度を測定し、温度の推移を測定することもできる。
【0026】
洗浄液の温度低下量は、ワークWの熱容量に関係する。熱容量は比熱×重量であり、鉄鋼材料の比熱は既知であるから、熱容量から重量に換算することができる。したがって、温度低下量はワークWの重量に関係する値である。最低温度到達時間は熱抵抗に関係し、熱抵抗は表面積に関係するため、最低温度到達時間はワークWの表面積に関係する値である。
【0027】
具体例として、ワークWが軽くて表面積大である場合は、すぐに温度が少しだけ下がる。ワークWが重くて表面積小である場合はゆっくりと温度が下がり続ける。ワークWが重くて表面積大である場合は、すぐに大幅に温度が下がる。このように、温度低下量と最低温度到達時間は、ワークWの重量と表面積に関係する。
【0028】
真空乾燥計測部126は、排気管140から真空ポンプでガスを引く際の真空度を測定する圧力計である。真空乾燥時間とは、設定値として与える所定の時間ではなく、所定の真空度に到達するまでの時間(真空到達時間)である。真空乾燥時間は、ワークWの体積、比熱(既知)、表面積に関係する値である。なお、所定の真空度までの真空乾燥時間に代えて、所定時間までに到達する到達真空度を用いてもよい。到達真空度も真空乾燥時間と同様に、ワークWの体積、比熱(既知)、表面積に関係する値である。
【0029】
すなわち、重量、重量、および表面積の値が欲しいところ、これらの値を直接的に測定するのではなく、これらの値に関係する間接的なデータを取得する。取得する「間接的なデータ」は、洗浄装置としては取得しやすい値であり、特段の特別な測定装置の追加を要しない。これらの間接的なデータは、広域ネットワーク10を介してデータ解析装置150へと送信される。
【0030】
データ解析装置150は、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を備えた解析部152を備えている。解析部152は所定のアルゴリズムを用いて、洗浄装置120から送信された洗浄液の投入量、温度低下量、最低温度到達時間に対する真空乾燥時間の適応度の評価を行い、ワークの体積、重量、および表面積の推定値の最適解を求める。解析部152は、ニューラルネットワーク、タグチメソッド、k平均法クラスタリング、自己組織化マップ、期待値最大化(EM)アルゴリズム、遺伝的(GM)アルゴリズム、ディープラーニング法などから選択される1つまたは複数の組み合わせで構成することができる。
【0031】
上記構成によれば、間接的なデータを用いて、体積、重量、および表面積の推定値を得ることができる。算出した体積、重量、および表面積の推定値は、広域ネットワーク10を介して、洗浄装置120に送信(フィードバック)することができる。これにより、浸漬加熱洗浄および乾燥を行う洗浄装置120において、ワークWの重量や表面積の値が与えられない場合であっても、加熱と乾燥の効率を向上することができる。また、真空乾燥の時間を短縮できるため、洗浄のサイクルタイムを短縮することが可能となる。
【0032】
また、算出した体積、重量、および表面積の推定値を熱処理装置160に送信(フィードフォワード)することができる。これにより、後工程である熱処理装置の効率をも向上させることができる。また熱処理装置が浸炭装置や窒化装置である場合には、材料ガスの量の最適化や、処理時間の最適化も図ることができる。
【0033】
特に本発明においては、広域ネットワーク10を介して、異なる地点(工場110)にある複数の洗浄装置120からデータを集積するため、さまざまなワークWについて大量のデータを集積することができる。そのビッグデータを解析することによって、各工場110のデータを相互に学習に活用し、推定値の精度を向上させることができ、任意のワークに対して高精度な推定を行うことが可能である。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、洗浄液に浸漬して機械部品等の洗浄を行う洗浄システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
10…広域ネットワーク、100…洗浄システム、110…工場、120…洗浄装置、122…液量計測部、124…液温計測部、126…真空乾燥計測部、130…洗浄室、132…洗浄液タンク、134…架台、136…シャワーノズル、138…供給配管、140…排気管、150…データ解析装置、152…解析部、160…熱処理装置、W…ワーク