(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】強化樹脂成形体の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/62 20060101AFI20220818BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20220818BHJP
B29C 45/60 20060101ALI20220818BHJP
B29C 48/38 20190101ALI20220818BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20220818BHJP
B29C 70/04 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
B29C45/62
B29C45/76
B29C45/60
B29C48/38
B29C48/92
B29C70/04
(21)【出願番号】P 2018161556
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 亮平
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 健志
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】西野 裕哉
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-213119(JP,A)
【文献】実開平07-017528(JP,U)
【文献】特開2014-046631(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094740(WO,A1)
【文献】特開2002-120271(JP,A)
【文献】特開昭50-141656(JP,A)
【文献】特開2010-069771(JP,A)
【文献】特開昭50-161553(JP,A)
【文献】特開2018-167409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部及び後端部を有する筒状に形成され、その側周面に強化材供給開口及び前記強化材供給開口よりも前記前端部側に位置する溶融樹脂供給開口が形成されたシリンダと、
前記強化材供給開口に接続され、前記強化材供給開口を通じて前記シリンダの内部に強化材を供給することができるように構成された強化材供給装置と、
前記溶融樹脂供給開口に接続され、前記溶融樹脂供給開口を通じて前記シリンダの内部に溶融樹脂を供給することができるように構成された溶融樹脂供給装置と、
前記シリンダの内部に前記シリンダの軸方向に沿って配設され、回転駆動することによって前記シリンダの内部に供給された材料を前記シリンダの前記後端部側から前記前端部側に送ることができるように構成されたスクリューと、
を備え
、
前記スクリューのフライトのうち、前記シリンダに形成された前記強化材供給開口に対面するフライトに、外周に開口した第一スリットが形成されている、強
化樹脂成形体の製造装置。
【請求項2】
前端部及び後端部を有する筒状に形成され、その側周面に強化材供給開口及び前記強化材供給開口よりも前記前端部側に位置する溶融樹脂供給開口が形成されたシリンダと、
前記強化材供給開口に接続され、前記強化材供給開口を通じて前記シリンダの内部に強化材を供給することができるように構成された強化材供給装置と、
前記溶融樹脂供給開口に接続され、前記溶融樹脂供給開口を通じて前記シリンダの内部に溶融樹脂を供給することができるように構成された溶融樹脂供給装置と、
前記シリンダの内部に前記シリンダの軸方向に沿って配設され、回転駆動することによって前記シリンダの内部に供給された材料を前記シリンダの前記後端部側から前記前端部側に送ることができるように構成されたスクリューと、
を備え、
前記スクリューのフライトのうち、前記シリンダに形成された前記溶融樹脂供給開口に対面するフライトに、外周に開口した第二スリットが形成されている、強化樹脂成形体の製造装置。
【請求項3】
前端部及び後端部を有する筒状に形成され、その側周面に強化材供給開口及び前記強化材供給開口よりも前記前端部側に位置する溶融樹脂供給開口が形成されたシリンダと、
前記強化材供給開口に接続され、前記強化材供給開口を通じて前記シリンダの内部に強化材を供給することができるように構成された強化材供給装置と、
前記溶融樹脂供給開口に接続され、前記溶融樹脂供給開口を通じて前記シリンダの内部に溶融樹脂を供給することができるように構成された溶融樹脂供給装置と、
前記シリンダの内部に前記シリンダの軸方向に沿って配設され、回転駆動することによって前記シリンダの内部に供給された材料を前記シリンダの前記後端部側から前記前端部側に送ることができるように構成されたスクリューと、
前記溶融樹脂供給開口を通じて前記シリンダ内に供給される溶融樹脂の樹脂圧が低圧力として予め設定された設定樹脂圧に一致するように、前記溶融樹脂供給装置から前記シリンダ内に供給される溶融樹脂量を制御する制御装置と、
を備える、強化樹脂成形体の製造装置。
【請求項4】
請求項2に記載の強化樹脂成形体の製造装置において、
前記スクリューのフライトのうち、前記シリンダに形成された前記強化材供給開口に対面するフライトに、外周に開口した第一スリットが形成されている、強化樹脂成形体の製造装置。
【請求項5】
請求項1、2、4のいずれか1項に記載の強化樹脂成形体の製造装置において、
前記溶融樹脂供給開口を通じて前記シリンダ内に供給される溶融樹脂の樹脂圧が低圧力として予め設定された設定樹脂圧に一致するように、前記溶融樹脂供給装置から前記シリンダ内に供給される溶融樹脂量を制御する制御装置を備える、強化樹脂成形体の製造装置。
【請求項6】
前端部及び後端部を有する筒状に形成されたシリンダ内に強化材を供給する強化材供給工程と、
前記シリンダ内に設けられたスクリューを回転駆動させて、前記シリンダ内に供給された強化材を前記前端部側に輸送する強化材輸送工程と、
前記シリンダ内に溶融樹脂を供給することにより、前記シリンダ内を流れる強化材に溶融樹脂を合流させる合流工程と、
前記合流工程にて合流した溶融樹脂の樹脂圧が低圧力としてあらかじめ設定された設定樹脂圧に一致するように、前記シリンダ内に供給される溶融樹脂量を制御する制御工程と、
前記スクリューの回転駆動により、前記合流工程にて合流した溶融樹脂及び強化材をさらに前記前端部側に輸送するとともに、溶融樹脂中に強化材を分散させる分散工程と、
を含む、強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化樹脂成形体の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維等の強化材によって材料特性が向上された強化樹脂成形体は、強化材を内部に含む熱可塑性樹脂ペレット(強化樹脂ペレット)を射出成形或は押出成形することにより製造されるのが一般的である。しかしながら、強化樹脂ペレットの材料コストは高いので、近年では、材料コストの低減を図るため、樹脂ペレットと強化材をそれぞれ別に成形機に供給して、強化樹脂成形体を成形する技術が開発されている。この技術は、直接ブレンド成形とも呼ばれる。
【0003】
特許文献1は、直接ブレンド成形により繊維強化樹脂を射出成形する射出成形装置を開示する。特許文献1に開示された射出成形装置は、シリンダと、シリンダの内部に回転可能に設けられたスクリューと、樹脂材供給ホッパーと、強化材供給ホッパーとを備える。樹脂材供給ホッパーは、シリンダの側面に設けられた樹脂材供給開口に接続される。強化材供給ホッパーは、シリンダの側面のうち樹脂材供給開口よりも前方位置に設けられた強化材供給開口に接続される。特許文献1に開示された射出成形装置によれば、樹脂材供給ホッパーから樹脂材供給開口を通じてシリンダ内に樹脂が供給され、強化材供給ホッパーから強化材供給開口を通じてシリンダ内に強化繊維が供給される。シリンダ内に供給された樹脂は、シリンダ内で加熱及び溶融される。また、強化材供給開口を通じてシリンダ内に供給された強化繊維はその供給位置に流れている溶融樹脂に合流し、その後、スクリューの回転により溶融樹脂中に分散される。強化繊維が分散された溶融樹脂が射出されることにより、繊維強化樹脂成形体が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の製造方法によれば、シリンダ内を流れている溶融樹脂中に強化材が合流することになるので、合流位置にて強化材をシリンダ内に供給するためのスペースをシリンダ内に確保しなければならない。よって、特に強化材の含有率が高い強化樹脂成形体を製造しようとする場合、強化材をシリンダ内に供給するためのスペースの増大に伴って、樹脂量が制限される。このため樹脂の可塑化能力(輸送能力)の低下を招く。また、シリンダ内で溶融樹脂中に強化材を強制的にシリンダ内に押し込むことになるので、溶融樹脂に混ぜ合わされた強化材が高い樹脂圧を受ける。そして、高い樹脂圧を受けたままスクリューの回転に伴うせん断力を受けることにより、強化材が折損される。さらに、シリンダ内への強化材の供給領域には溶融樹脂が存在するので、強化材の供給領域におけるスクリューのフライトとシリンダの内壁との間のクリアランスが溶融樹脂により狭められる。このため、狭められたクリアランスに強化材が挟持される可能性が高く、こうしてクリアランスに挟持された強化材がスクリューの回転によるせん断力を受けることにより、強化材が折損される。このように、特許文献1によれば、シリンダ内で強化材が折損される可能性が高く、その結果、強化樹脂成形体中の強化材の大きさ、例えば強化繊維の繊維長が短くされる。
【0006】
図15は、ガラス繊維強化樹脂成形体中に含まれる強化材としてのガラス繊維の繊維長とガラス繊維強化樹脂成形体の材料特性(剛性、強度、耐衝撃性)との関係を表すグラフである(出典:Automotive technology, [3](2010))。
図15おいて、横軸がガラス繊維の繊維長、縦軸がガラス繊維強化樹脂成形体の材料特性の大きさを表す。
図15示すように、ガラス繊維の繊維長が長くなればなるほど、ガラス繊維強化樹脂成形体の剛性(modulus)、強度(strength)、耐衝撃性(impact resistance)といった材料特性が向上することがわかる。
【0007】
従って、強化樹脂成形体の材料特性を向上させるためにも、強化材は大きい(又は長い)方が好ましいが、従来技術によれば、上記したように成形中に強化材が折損されるため、成形体の材料特性を十分に向上させることができない。
【0008】
本発明は、成形中における強化材の折損を抑えることができ、且つ、強化材の含有率が高い強化樹脂成形体を製造することができる強化樹脂成形体の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
(課題を解決するための手段)
本発明は、前端部(31)及び後端部(32)を有する筒状に形成され、その側周面に強化材供給開口(34)及び強化材供給開口よりも前端部側に位置する溶融樹脂供給開口(35)が形成されたシリンダ(3)と、強化材供給開口に接続され、強化材供給開口を通じてシリンダの内部に強化材を供給することができるように構成された強化材供給装置(7)と、溶融樹脂供給開口に接続され、溶融樹脂供給開口を通じてシリンダの内部に溶融樹脂を供給することができるように構成された溶融樹脂供給装置(6)と、シリンダの内部にシリンダの軸方向に沿って配設され、回転駆動することによってシリンダの内部に供給された材料をシリンダの後端部側から前端部側に送ることができるように構成されたスクリュー(4)と、を備える、強化樹脂成形体の製造装置(1)を提供する。
【0010】
本発明によれば、強化材供給開口を通じてシリンダの内部に強化材が供給され、溶融樹脂供給開口を通じてシリンダ内部に溶融樹脂が供給される。また、溶融樹脂供給口は、強化材供給開口よりも、シリンダの前端部側に位置している。従って、溶融樹脂供給開口を通じてシリンダ内に供給される溶融樹脂は、既にシリンダ内に供給されてスクリューの回転により前端部側に送られる強化材中に合流することになる。つまり、従来では、シリンダ内を流れる溶融樹脂中に強化材が合流するのに対し、本発明では、シリンダ内を流れる強化材中に溶融樹脂が合流する。シリンダ内を流れる強化材の嵩密度は溶融樹脂の嵩密度と比較して小さいので、強化材の量が多い場合であっても、その中に十分の量の溶融樹脂を合流させることができる。このため、強化材の含有率の高い強化樹脂成形体を製造することができる。また、シリンダ内への強化材の供給領域、すなわち強化材供給開口付近の領域に溶融樹脂が存在しないので、強化材の供給領域におけるスクリューのフライトとシリンダの内壁との間のクリアランスが溶融樹脂により狭められることはない。このため、強化材の供給領域にてクリアランスに強化材が挟持されることに起因した強化材の折損の可能性を低減することができ、その結果、強化材が小さく(或いは短く)されることを効果的に防止することができる。このように、本発明に係る強化樹脂成形体の製造装置を用いることにより、強化材の折損を抑えることができ、且つ、強化材の含有率が高い強化樹脂成形体を製造することができる。
【0011】
シリンダ内に設けられるスクリューの圧縮比は、2.0以下であるのがよい。圧縮比が2.0以下のスクリューを用いることにより、シリンダ内に供給された溶融樹脂の樹脂圧を小さくすることができる。このため、シリンダ内に供給される溶融樹脂の樹脂圧によって溶融樹脂中の強化材が折損される可能性を低減することができる。この場合、シリンダ内に設けられるスクリューが無圧縮スクリューであるのがよい。無圧縮スクリューを用いることにより溶融樹脂の樹脂圧をさらに小さくすることができるので、樹脂圧により溶融樹脂中の強化材が折損される可能性をより一層低減することができる。
【0012】
また、シリンダ内に設けられるスクリューのフライト(44)のうち、シリンダに形成された強化材供給開口に対面するフライト(44A)に、外周に開口した第一スリット(441)が形成されているとよい。これによれば、強化材供給開口を通じてシリンダ内に供給された後に強化材供給開口に対面するフライトとシリンダの内壁との間のクリアランスに挟まれた強化材が、第一スリットに落ち込むことによって、クリアランスでの強化材の挟み込みが解消される。このためクリアランスに挟持されることによる強化材の折損の頻度をより低減し、その結果、強化樹脂成形体の機械的強度をより一層向上することができる。
【0013】
第一スリットの幅は、強化材が通り抜けることができる程度の大きさであるのがよい。例えば強化材が強化繊維である場合、第一スリットの幅が、強化繊維の幅以上であるのがよい。例えば強化繊維の幅が0.5mmである場合、第一スリットの幅が0.5mm以上であると良い。
【0014】
また、シリンダ内に設けられるスクリューのフライトのうち、シリンダに形成された溶融樹脂供給開口に対面するフライト(44C)に、外周に開口した第二スリット(442)が形成されているとよい。これによれば、溶融樹脂供給開口からシリンダ内に供給される溶融樹脂が第二スリットを通過することにより、シリンダの前端側への溶融樹脂の輸送を促進することができるとともに、スムーズな溶融樹脂の輸送によって樹脂圧を低下させることができる。その結果、樹脂圧によって溶融樹脂中の強化材が折損されることをさらに防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る強化樹脂成形体の製造装置は、溶融樹脂供給開口を通じてシリンダ内に供給される溶融樹脂の樹脂圧が低圧力として予め設定された設定樹脂圧に一致するように、溶融樹脂供給装置からシリンダ内に供給される溶融樹脂量を制御する制御装置(8)を備えるとよい。この場合、制御装置は、上記樹脂圧が0になるように、溶融樹脂量を制御するとよい。これによれば、シリンダ内の溶融樹脂の樹脂圧を小さくすることにより、好ましくは樹脂圧を0にすることにより、シリンダ内の強化材が樹脂圧により逆流することを効果的に防止することができるとともに、樹脂圧により溶融樹脂中の強化材が折損されることをより一層防止することができる。
【0016】
また、本発明は、前端部及び後端部を有する筒状に形成されたシリンダ内に強化材を供給する強化材供給工程と、シリンダ内に設けられたスクリューを回転駆動させて、シリンダ内に供給された強化材を前端部側に輸送する強化材輸送工程と、シリンダ内に溶融樹脂を供給することにより、シリンダ内を流れる強化材に溶融樹脂を合流させる合流工程と、合流工程にて合流した溶融樹脂の樹脂圧が低圧力としてあらかじめ設定された設定樹脂圧に一致するように、シリンダ内に供給される溶融樹脂量を制御する制御工程と、スクリューの回転駆動により、合流工程にて合流した溶融樹脂及び強化材をさらに前端部側に輸送するとともに、溶融樹脂中に強化材を分散させる分散工程と、を含む、強化樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0017】
本発明に係る製造方法によれば、シリンダ内を流れる強化材中に溶融樹脂が合流するため、上記したように、強化材の折損を抑えることができ、且つ、強化材の含有率が高い強化樹脂成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る強化樹脂成形体の製造装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、メイン輸送装置及び溶融樹脂供給装置を水平面で切断して上部から見た部分断面概略図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿ってメイン輸送装置を切断した部分断面概略図である。
【
図4】
図4は、
図2のIV-IV線に沿って溶融樹脂供給装置を切断した部分断面概略図である。
【
図8】
図8は、第一スリット又は第二スリットの様々な構成例を示す図である。
【
図9】
図9は、
図2に示すメイン輸送装置のメインシリンダ内及び溶融樹脂供給装置のサブシリンダ内をそれぞれ材料が流れる状態を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例1に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例2に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例3に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
【
図13】
図13は、比較例に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明に係るスクリューとして適用可能な可変ピッチスクリューの側面図である。
【
図15】
図15は、ガラス繊維強化樹脂成形体中に含まれる強化材としてのガラス繊維の繊維長とガラス繊維強化樹脂成形体の材料特性(剛性、強度、耐衝撃性)との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る強化樹脂成形体の製造装置(以下、単に製造装置と呼ぶ)の構成を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る製造装置1は、メイン輸送装置2と、溶融樹脂供給装置6と、強化材供給装置7と、制御装置8とを備える。メイン輸送装置2は、強化材及び強化材を含む溶融樹脂を輸送する機能を有する。溶融樹脂供給装置6は、メイン輸送装置2に溶融樹脂を供給する機能を有する。強化材供給装置7は、メイン輸送装置2に強化材を供給する機能を有する。制御装置8は、メイン輸送装置2、溶融樹脂供給装置6、及び強化材供給装置7を制御する。
【0020】
図2は、メイン輸送装置2及び溶融樹脂供給装置6を水平面で切断して上部から見た部分断面概略図である。
図1及び
図2に示すように、メイン輸送装置2は、メインシリンダ3と、メインスクリュー4と、駆動装置5とを備える。メインシリンダ3が本発明のシリンダに相当し、メインスクリュー4が本発明のスクリューに相当する。
【0021】
メインシリンダ3は、それぞれ開口した前端部31(
図2において左端部)及び後端部32(
図2において右端部)を有する筒状部材であり、その内部には円柱状の内部空間が形成される。
【0022】
メインシリンダ3の外周に複数のメインバンドヒータ91が取付けられる。メインバンドヒータ91を作動させることによりメインシリンダ3が加熱される。メインシリンダ3が加熱されることにより、メインシリンダ3内の材料が加熱される。なお、メインシリンダ3の適所に温度センサが設置されており、この温度センサにより検出された温度情報が図示しないヒータ制御装置に入力される。ヒータ制御装置は、検出温度が設定温度に一致するようにメインバンドヒータ91の動作を制御する。なお、複数のメインバンドヒータ91を個別に制御することにより、メインシリンダ3の軸方向に沿って異なる複数の設定温度を設定することができる。
【0023】
メインシリンダ3の内部にメインスクリュー4がメインシリンダ3の軸方向に沿って配設される。メインスクリュー4は、先端41及び後端42を有し、長尺棒状に形成される。メインスクリュー4は、先端41側がメインシリンダ3の前端部31側に位置し後端42がメインシリンダ3の後端部32側に位置するように、メインシリンダ3内の円柱状の内部空間内にメインシリンダ3と同軸的に配設される。
【0024】
メインスクリュー4は、スクリュー軸43と複数のフライト44を備える。スクリュー軸43の軸方向に沿って、複数のフライト44がスクリュー軸43の外周に設けられる。また、この例では、メインスクリュー4は無圧縮スクリューである。すなわち、複数のフライト44はスクリュー軸43の軸方向に沿って等ピッチ間隔で設けられ、且つ、全てのフライト44の外径が同一である。即ち、メインスクリュー4の溝深さは一定である。
【0025】
メインシリンダ3の後端部32に駆動装置5が連設される。この駆動装置5は、メインシリンダ3内に配設されているメインスクリュー4の後端42に接続されており、駆動することによりメインスクリュー4がメインシリンダ3内で軸回り回転することができるように構成される。従って、メインスクリュー4は、メインシリンダ3内に回転可能に配設されていることになる。メインスクリュー4は、回転駆動することにより、メインシリンダ3の内部に供給された材料(樹脂、強化材等)をメインシリンダ3の後端部32側から前端部31側に送ることができるように構成される。
【0026】
図3は、
図2のIII-III線に沿ってメイン輸送装置2を切断した部分断面概略図である。
図3に示すように、メイン輸送装置2が備えるメインシリンダ3の側周面のうち、後端部32に近い位置に、強化材供給開口34が形成される。強化材供給開口34の開口形状は本実施形態では円形である。この強化材供給開口34の上部に、強化材供給装置7が配設される。
【0027】
強化材供給装置7は、強化材定量供給装置71及び強化材供給ホッパー72を有する。強化材定量供給装置71は、一定量の強化材Sを強化材供給ホッパー72に供給することができるように構成される。強化材供給ホッパー72は、強化材Sを受け入れることができるような容器形状をなし、内部に強化材Sが貯留される強化材貯留空間72aが形成される。この強化材貯留空間72aに強化材定量供給装置71からの強化材Sが供給される。また、強化材供給ホッパー72の下端部には強化材貯留空間72aに連通した強化材出口通路73が形成され、この強化材出口通路73は、メインシリンダ3の側周面に形成された強化材供給開口34に連通する。従って、強化材供給ホッパー72の強化材貯留空間72aに貯留される強化材Sは、強化材出口通路73及び強化材供給開口34を経由してメインシリンダ3の内部空間に供給される。このように、強化材供給装置7は、強化材供給開口34に接続され、強化材供給開口34を通じてメインシリンダ3の内部に強化材Sを供給することができるように構成される。また、強化材供給開口34は、上述したようにメインシリンダ3の後端部32に近い部分に設けられる。従って、強化材供給ホッパー72の強化材貯留空間72aに貯留された強化材Sは、メインシリンダ3の後端部32付近の内部空間に供給されることになる。
【0028】
強化材Sは、それを樹脂に混ぜることにより、成形体の材料特性が向上するものであれば、どのようなものでもよい。強化材Sとして、ガラス繊維或いは炭素繊維等の繊維強化材、炭酸カルシウムやタルク等のフィラー、を例示することができる。典型的には、強化材Sは、繊維強化材である。強化材が繊維強化材である場合、強化材供給ホッパー72に供給される繊維強化材の形態は、束状(チョップドストランド状)にされたものでもよく、また、ロービング状の繊維を強化材供給ホッパー72に供給する前に所望の長さに切断したものでもよい。なお、一般的に強化材Sは、結束材により束ねられて所定の大きさに形成されている。
【0029】
図4は、
図2のIV-IV線に沿って溶融樹脂供給装置6を切断した部分断面概略図である。
図4に示すように、溶融樹脂供給装置6は、サブシリンダ61と、サブスクリュー62と、駆動装置63と、樹脂材供給ホッパー64と、樹脂材定量供給装置65とを備える。なお、
図2において、樹脂材供給ホッパー64及び樹脂材定量供給装置65は省略されている。
【0030】
サブシリンダ61は、それぞれ開口した前端部611(
図4において左端部)及び後端部612(
図4において右端部)を有する筒状部材であり、その内部には円柱状の内部空間が形成される。また、サブシリンダ61の外周に複数のサブバンドヒータ92が取付けられる。サブバンドヒータ92を作動させることによりサブシリンダ61が加熱される。サブシリンダ61が加熱されることにより、サブシリンダ61内の材料(樹脂)が加熱される。なお、サブシリンダ61の適所に温度センサが設置されており、この温度センサにより検出された温度情報が図示しないヒータ制御装置に入力される。ヒータ制御装置は、検出温度が設定温度に一致するようにサブバンドヒータ92の動作を制御する。なお、複数のサブバンドヒータ92を個別に制御することにより、サブシリンダ61の軸方向に沿って異なる複数の設定温度を設定することができる。
【0031】
サブシリンダ61内にサブスクリュー62がサブシリンダ61の軸方向に沿って配設される。
図5は、サブスクリュー62の側面図である。
図5に示すように、サブスクリュー62は、先端621及び後端622を有し、長尺棒状に形成される。
図4に示すように、サブスクリュー62は、その先端621側がサブシリンダ61の前端部611側に位置しその後端622がサブシリンダ61の後端部612側に位置するように、サブシリンダ61内の円筒状の内部空間内にサブシリンダ61と同軸的に配設される。
【0032】
図5に示すように、サブスクリュー62は、スクリュー軸623と複数のフライト624を備える。スクリュー軸623の軸方向に沿って、複数のフライト624がスクリュー軸623の外周に設けられる。サブスクリュー62は、一般的に押出成形或いは射出成形にて用いられるフルフライトスクリューである。このサブスクリュー62には、その後端622から先端621に向かって、第一領域62A、第二領域62B、第三領域62C、が形成される。第一領域62Aの溝深さ(フライト624の外周からスクリュー軸623の外周までの距離)、及び、第三領域62Cの溝深さは、それぞれ一定である。また、第一領域62Aの溝深さは深く、第三領域62Cの溝深さは浅い。第二領域62Bの溝深さは、後端622側から先端621側に向かうほど浅くなる。さらに、第二領域62Bの最も後端622に近い側の溝深さは第一領域62Aの溝深さに等しく、第二領域62Bの最も先端621に近い側の溝深さは第三領域62Cの溝深さに等しい。
【0033】
図4に示すように、サブシリンダ61の後端部612に、駆動装置63が連設される。この駆動装置63は、サブシリンダ61内に配設されているサブスクリュー62の後端622に接続されており、駆動することによりサブスクリュー62がサブシリンダ61内で軸回り回転することができるように構成される。従って、サブスクリュー62は、サブシリンダ61内に回転可能に配設されていることになる。
【0034】
また、サブシリンダ61の側周面のうち、後端部612に近い位置に、樹脂材供給開口613が形成される。樹脂材供給開口613の開口形状は本実施形態では円形である。この樹脂材供給開口613に、樹脂材供給ホッパー64が接続される。そして、樹脂材供給ホッパー64の上方に樹脂材定量供給装置65が配設される。樹脂材定量供給装置65から樹脂材(樹脂ペレット)が樹脂材供給ホッパー64に供給される。
【0035】
樹脂材定量供給装置65は、一定量の樹脂材Rを樹脂材供給ホッパー64に供給することができるように構成される。樹脂材供給ホッパー64は、樹脂材Rを受け入れることができるような容器形状をなし、内部に樹脂材Rが貯留される樹脂材貯留空間64aが形成される。この樹脂材貯留空間64aに樹脂材定量供給装置65からの樹脂材Rが供給される。また、樹脂材供給ホッパー64の下端部には樹脂材貯留空間64aに連通した樹脂材出口通路66が形成され、この樹脂材出口通路66は、サブシリンダ61に設けられた樹脂材供給開口613に連通する。従って、樹脂材供給ホッパー64の樹脂材貯留空間64aに貯留される樹脂材Rは、樹脂材出口通路66及び樹脂材供給開口613を経由してサブシリンダ61の内部空間に供給される。ここで、樹脂材供給開口613は、上述したようにサブシリンダ61の後端部612に近い部分に設けられる。従って、樹脂材供給ホッパー64の樹脂材貯留空間64aに貯留された樹脂材Rは、サブシリンダ61の内部空間のうちその後端部612寄りの領域、すなわちサブスクリュー62の第一領域62Aが配置する領域に供給されることになる。
【0036】
樹脂材Rは球状でも良いし、円柱状でも良いし、パウダー状でも良い。また、樹脂材Rを構成する主要な樹脂成分は、一般的に樹脂成形に利用される熱可塑性樹脂(汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックを含む)であればどのようなものでもよい。
【0037】
また、樹脂材供給ホッパー64には、樹脂材R以外に、必要に応じて(例えば製造する製品の要求特性に応じて)、その他の添加材、例えば改質剤、着色剤、熱安定剤等を供給することができる。
【0038】
図2に示すように、メインシリンダ3の側周面には、上述の強化材供給開口34に加えて、溶融樹脂供給開口35が形成される。この溶融樹脂供給開口35に、溶融樹脂供給装置6のサブシリンダ61の前端部611が接続される。そして、サブシリンダ61の内部空間は、溶融樹脂供給開口35を介してメインシリンダ3の内部空間に連通する。なお、
図2には、強化材供給開口34が破線により示されている。
図2からわかるように、溶融樹脂供給開口35は、強化材供給開口34の形成位置よりも、メインシリンダ3の前端部31側に形成される。
【0039】
図6は、
図3のC部拡大図である。
図6により、メインシリンダ3に形成されている強化材供給開口34付近の構造が示される。
図6に示すように、メインシリンダ3内のメインスクリュー4のフライト44のうち、強化材供給開口34に対面するフライト44A、及び、フライト44Aの前面側に隣接するフライト44Bには、第一スリット441が形成される。この第一スリット441は、フライト44(44A,44B)の外周面に開口するとともに開口部からからスクリュー軸43の中心に向かって径内方に向けて切欠き形成される。この第一スリット441を介して、それが形成されたフライト44A,44Bの前面空間と背面空間が連通される。1つのフライト44に形成される第一スリット441の個数は特に限定されないが、2個以上であるのが好ましい。また、第一スリット441の幅は、強化材供給開口34からメインシリンダ3内に供給される強化材Sの大きさ以上であるのがよい。例えば、強化材が強化繊維である場合、第一スリット441の幅は、強化繊維の幅以上であるのがよい。より具体的に言えば、強化繊維の幅が0.5mmである場合、第一スリット441の幅は0.5mm以上であるのがよい。
【0040】
図7は、
図2のD部拡大図である。
図7により、メインシリンダ3に形成されている溶融樹脂供給開口35付近の構造が示される。
図7に示すように、メインシリンダ3内のメインスクリュー4のフライト44のうち、溶融樹脂供給開口35に対面するフライト44C、及び、フライト44Cの前面側に隣接するフライト44Dには、第二スリット442が形成される。この第二スリット442は、第一スリット441と同様に、フライト44(44C,44D)の外周面に開口するとともに、開口部からスクリュー軸43の中心に向かって径内方に向けて切欠き形成される。この第二スリット442を介して、それが形成されたフライト44C,44Dの前面空間と背面空間が連通される。1つのフライト44に形成される第二スリット442の個数は特に限定されないが、2個以上であるのが好ましい。
【0041】
図8は、第一スリット441又は第二スリット442の様々な構成例を示す図である。
図8(a)は、フライト44の外周面の2位置から内周面(スクリュー軸43の外周面)にかけて全域に亘り第一スリット441又は第二スリット442が形成されている例を示す。
図8(b)は、フライト44の外周面の2位置から内周面に向かって所定領域に亘り第一スリット441又は第二スリット442が形成されている例を示す。
図8(c)は、フライト44の外周面の6位置から内周面にかけて全域に亘り第一スリット441又は第二スリット442が形成されている例を示す。第一スリット441又は第二スリット442は、
図8に示す例に限られず、様々に変形して構成することができる。例えば、
図8に示す例は、第一スリット441又は第二スリット442がフライト44の外周面からスクリュー軸43の中心に向かって形成されているが、スクリュー軸43の中心からずれた位置に向かって形成されていてもよい。また、隣接するフライト44に形成される第一スリット441又は第二スリット442は、スクリュー軸43の軸方向から見て同じ位置に形成されていても良いが、異なる位置に形成されていてもよい。さらに、一つのフライト44に複数の第一スリット441又は第二スリット442が等間隔に形成されているのがよいが、不等間隔に形成されていてもよい。
【0042】
なお、メインスクリュー4が射出スクリューである場合、射出する樹脂の計量時にスクリューが後退するので、複数のフライトが強化材供給開口34及び溶融樹脂供給開口に対面する。この場合、強化材供給開口34に対面する複数のフライトのそれぞれに第一スリット441を設け、溶融樹脂供給開口に対面する複数のフライトのそれぞれの第二スリット442を設けるのがよい。また、メインスクリュー4が押出スクリューである場合、強化材供給開口34に対面するフライト及びそのフライトからスクリュー先端に向かって設けられている複数のフライトに第一スリット441を設け、溶融樹脂供給開口35に対面するフライト及びそのフライトからスクリュー先端に向かって設けられている複数のフライト442に第二スリット442を設けるのがよい。
【0043】
制御装置8は、メイン輸送装置2の駆動装置5の駆動状態、溶融樹脂供給装置6の駆動装置63の駆動状態、強化材定量供給装置71の動作状態、樹脂材定量供給装置65の動作状態、等を制御する。
【0044】
また、
図2に示すように、メインシリンダ3の内部空間に樹脂圧センサ45が取り付けられる。この樹脂圧センサ45は、溶融樹脂供給装置6から溶融樹脂供給開口35を通じてメインシリンダ3に供給される溶融樹脂の樹脂圧を検出することができるように構成される。検出した樹脂圧は、制御装置8に入力される。
【0045】
上記構成を有する製造装置1において、以下にその動作について説明する。
【0046】
まず、メインバンドヒータ91及びサブバンドヒータ92を作動させる。これにより、メインシリンダ3の温度及びサブシリンダ61の温度が設定温度に調整される。サブシリンダ61の設定温度は、用いる樹脂材の融点よりも高い温度に設定される。例えば用いる樹脂材がポリプロピレンである場合、サブシリンダ61の設定温度は例えば220℃程度に設定される。一方、メインシリンダ3の設定温度は、本実施例においては、溶融樹脂供給開口35を境に異なる温度に設定される。メインシリンダ3のうち、溶融樹脂供給開口35と前端部31との間の領域、すなわち溶融樹脂供給開口35から前方側の領域(
図2の領域3A)の温度は、サブシリンダ61の設定温度よりも若干高い温度に設定される。例えば、サブシリンダ61の設定温度が220℃程度である場合、領域3Aの温度は例えば270℃程度に設定される。これに対し、メインシリンダ3のうち、強化材供給開口34と溶融樹脂供給開口35との間の領域、すなわち溶融樹脂供給開口35よりも後方側の領域(
図2の領域3B)の温度は、強化材Sの結束状態に基づいて設定される。領域3Bの温度が上記のように設定される理由は以下のようである。すなわち、領域3Bには、強化材Sのみが流れる。また、上記したように強化材Sは結束材により束ねられて所定の大きさに形成されている。結束材に束ねられた強化材Sが溶融樹脂と混ざる前に加熱されて結束材が溶融すると、強化材Sが綿状となって輸送することが不可能になる。このため強化材Sのみが輸送される領域3Bでは、強化材Sが解束(例えば解繊)されずに輸送されるように、強化材Sを束ねている結束材が溶融しない程度の温度に設定される。例えば、オレフィン系(ポリプロピレン)の結束材が用いられる場合、領域3Bの温度は、その結束材の融点(例えば160℃)よりも20℃程度低い140℃程度の温度に設定される。
【0047】
メインシリンダ3の温度及びサブシリンダ61の温度が設定温度に調整された後に、強化材定量供給装置71、及び溶融樹脂供給装置6の樹脂材定量供給装置65を、それぞれ動作させる。強化材定量供給装置71が動作することにより、一定量の強化材Sが強化材供給ホッパー72に供給され、さらに強化材供給ホッパー72から強化材供給開口34を通じてメインシリンダ3内に一定量の強化材Sが供給される(強化材供給工程)。強化材供給ホッパー72からメインシリンダ3に供給される強化材Sは、例えば結束剤によってチョップドストランド状に成形されている。また、樹脂材定量供給装置65が動作することにより、一定量の樹脂材Rが樹脂材供給ホッパー64に供給され、さらに樹脂材供給ホッパー64から樹脂材供給開口613を通じてサブシリンダ61内に一定量の樹脂材Rが供給される。
【0048】
また、メイン輸送装置2の駆動装置5、及び溶融樹脂供給装置6の駆動装置63を、それぞれ駆動させる。メイン輸送装置2の駆動装置5が駆動すると、メインスクリュー4がメインシリンダ3内で回転する。これにより、メインシリンダ3内に供給された強化材Sがメインシリンダ3の後端部32側から前端部31側に向かって輸送される(強化材輸送工程)。なお、強化材Sが溶融樹脂供給開口35の形成位置に至るまでは、領域3Bの設定温度が低いことにより、結束剤により結束された状態で(つまり結束が解かれていない状態で)、強化材Sが輸送される。
【0049】
また、溶融樹脂供給装置6の駆動装置63が駆動すると、サブスクリュー62がサブシリンダ61内で回転する。これにより、サブシリンダ61内に供給された樹脂材Rがサブシリンダ61の後端部612側から前端部611側に向かって輸送される。また、樹脂材Rがサブスクリュー62の第二領域62Bを通過する際に圧縮及び混錬される。さらに、サブシリンダ61内で樹脂材Rが加熱されることにより、樹脂材Rが溶融状態にされる。
【0050】
溶融樹脂供給装置6にて溶融状態にされた樹脂(溶融樹脂)は、サブシリンダ61の前端部611から、溶融樹脂供給開口35を通じて、メインシリンダ3内に供給される。このように、溶融樹脂供給装置6は、溶融樹脂供給開口35に接続され、溶融樹脂供給開口35を通じてメインシリンダ3の内部に溶融樹脂を供給することができるように構成される。
【0051】
ここで、上述したように、溶融樹脂供給開口35は、メインシリンダ3の側周面のうち強化材供給開口34が形成されている位置よりも前端部31側に位置する。従って、溶融樹脂供給開口35を通じてメインシリンダ3内に溶融樹脂が供給される位置には、強化材Sが流れている。つまり、メインシリンダ3に供給された溶融樹脂は、メインシリンダ3内を流れる強化材Sに合流する(合流工程)。強化材に合流した溶融樹脂は、強化材Sに含浸する。強化材Sに含浸した溶融樹脂は、メインスクリュー4の回転により強化材Sとともにさらに混錬されながら、メインシリンダ3の前端部31側に輸送されるとともに、溶融樹脂中に強化材Sが分散される(分散工程)。また、強化材Sは、溶融樹脂供給開口35から供給される溶融樹脂の熱及びメインシリンダ3の領域3Aからの熱により十分に加熱され、この加熱により強化材Sを束ねている結束剤が溶融する。このため、領域3Aにて強化材Sが解束(例えば解繊)される。これにより強化材がより分散される。そして、強化材Sが分散した溶融樹脂が、強化材含有溶融樹脂としてメインシリンダ3の前端部31から排出される。
図9は、
図2に示すメイン輸送装置2のメインシリンダ3内及び溶融樹脂供給装置6のサブシリンダ61内をそれぞれ材料が流れる状態を示す図である。
【0052】
また、制御装置8は、駆動装置5及び駆動装置63の駆動中、樹脂圧センサ45からメインシリンダ3内の樹脂圧を入力し、入力した樹脂圧が低圧力として予め設定された設定樹脂圧に一致するように、樹脂材定量供給装置65の動作をフィードバック制御する。ここで、メインシリンダ3内の樹脂圧は低い方が良いので、設定樹脂圧も低い圧力に設定される。設定樹脂圧は、0Paに設定されてもよい。このようにして、制御装置8は、溶融樹脂供給開口35を通じてメインシリンダ3内に供給される溶融樹脂の樹脂圧が低い圧力(例えば樹脂圧が0)となるように、溶融樹脂供給装置6からメインシリンダ3内に供給される溶融樹脂量を制御する
【0053】
メインシリンダ3の前端部31から排出された強化材含有溶融樹脂は、例えば押出成形型に通されることにより押出成形される。その後、冷却され、適当なサイズに切断されることにより、強化樹脂成形体が製造される。また、メインシリンダ3の前端部31から強化材含有溶融樹脂を射出成形型に射出することにより、強化樹脂成形体を射出成形することもできる。この場合、メインスクリュー4が回転しながらメインシリンダ3内で後退することによって、メインシリンダ3の前端部31に強化材含有溶融樹脂が溜められる。その後、メインスクリュー4の回転が停止され、次いで、メインスクリュー4が前進することによって、メインシリンダ3の前端部31に溜められた強化材含有溶融樹脂が射出成形型に射出される。また、メインシリンダ3の前端部31から排出された強化材含有溶融樹脂を一旦射出シリンダ内に充填しておき、こうして充填された強化材含有溶融樹脂を射出プランジャーを用いて射出成形型に射出することにより、強化材含有溶融樹脂を射出成形することもできる。この場合、メインスクリュー4をメインシリンダ3内で後退及び前進させる必要はない。このようにして、本実施形態に係る製造装置1を用いて、強化樹脂成形体が製造される。
【0054】
ところで、例えば特許文献1に示すような従来の方法では、シリンダを流れる溶融樹脂に強化材が合流する。つまり、従来では、シリンダ内の溶融樹脂に強化材がサイドフィードされる。これに対し、本実施形態では、メインシリンダ3内の強化材Sに溶融樹脂がサイドフィードされる。つまり、本実施形態における強化樹脂成形体の製造方法は、サイドフィードされる材料とサイドフィードする材料が、従来の製造方法とは逆である点において特徴的である。
【0055】
強化材Sの嵩密度(例えば強化繊維の嵩密度)は溶融樹脂の嵩密度に比べて十分に小さく、多くの空隙がメインシリンダ3内を流れる強化材S中に存在する。このため、本実施形態のようにメインシリンダ3を流れる強化材Sに溶融樹脂をサイドフィードした場合、メインシリンダ3に供給される溶融樹脂はメインシリンダ3内の強化材Sに容易に含浸する。よって、溶融樹脂の供給量を制限することなく溶融樹脂をメインシリンダ3に供給することができる。すなわち、輸送能力(可塑化能力)を低下させることなく、強化樹脂成形体を製造することができる。
【0056】
また、上述のように強化材Sの嵩密度は小さいので、強化材Sの量を多くしても、溶融樹脂を強化材Sに容易に含浸させることができる。このため、強化材の含有率が高い強化樹脂成形体を製造することができる。
【0057】
また、メインシリンダ3に強化材Sが供給される位置、すなわち強化材供給開口34の位置は、溶融樹脂がメインシリンダ3に供給される位置、すなわち溶融樹脂供給開口35の位置よりも後端部32側に位置する。このため、強化材Sがメインシリンダ3に供給される位置には溶融樹脂は存在しない。よって、強化材Sがメインシリンダ3に供給される際に強化材Sが樹脂圧を受けることがない。よって、強化材Sの供給位置にて樹脂圧により強化材Sが折損されることを防止することができる。
【0058】
また、強化材供給開口34からメインシリンダ3に進入した強化材Sは、メインスクリュー4のフライト44のうち強化材供給開口34に対面するフライト44とメインシリンダ3の内壁面との間のクリアランスを通りぬけることもある。このとき、従来(例えば特許文献1)においては、強化材Sの供給領域に溶融樹脂が存在するため、溶融樹脂によってクリアランスが狭められる。このため狭められたクリアランスに強化材Sが挟持される可能性が高く、こうしてクリアランスに挟持された強化材Sがスクリューの回転によるせん断力を受けることにより、強化材Sが折損されてしまう。この点に関し、本実施形態では、強化材Sの供給領域に溶融樹脂が存在しないので、溶融樹脂によってクリアランスが狭められることもない。このため、強化材Sの供給領域にてクリアランスに強化材が挟持されることに起因した強化材Sの折損の可能性を低減することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、メインスクリュー4のフライト44のうち、少なくとも強化材供給開口34に対面するフライト44Aに第一スリット441が形成されている。このため、強化材供給開口34からメインシリンダ3内に供給された強化材Sがフライト44Aの外周面とメインシリンダ3の内壁面との間のクリアランスに挟まれたとしても、その強化材Sが第一スリット441に落ち込むことにより、上記した挟み込みが解消される。このため、クリアランスに強化材Sが挟持されることに起因した強化材Sの折損をより効果的に防止することができる。
【0060】
また、溶融樹脂供給開口35を通じて溶融樹脂がメインシリンダ3に供給された後に、強化材Sは溶融樹脂とともに混錬されながらメインシリンダ3の前端部31に向かって輸送されるが、メインスクリュー4が無圧縮スクリューであるので、輸送時に溶融樹脂及び強化材Sが圧縮されない。このため、強化材S及び溶融樹脂の輸送時に圧縮力により強化材Sが折損されることを防止することができる。
【0061】
また、メインスクリュー4のフライトのうち、少なくとも溶融樹脂供給開口35に対面するフライト44Cに第二スリット442が形成されている。このため、溶融樹脂供給開口35からメインシリンダ3内に供給された溶融樹脂の一部が第二スリット442を通ってメインシリンダ3の前端部31側に輸送される。このようにして、供給された溶融樹脂がメインシリンダ3の前端部31側に向かう流れが形成されることにより、溶融樹脂がメインシリンダ3の後端部32側に流れること、すなわち溶融樹脂のバックフローを防止することができる。これにより、溶融樹脂がバックフローして強化材Sの流れをせき止めることが防止されるとともに、円滑に溶融樹脂を正規の方向に流動させることにより、溶融樹脂と強化材Sとの合流位置における樹脂圧を低下させることができる。このようにして合流位置における樹脂圧が低下されるので、樹脂圧による強化材Sの折損がより防止される。
【0062】
このように、本実施形態によれば、成形中における強化材の折損を抑えることができ、且つ、強化材の含有率が高い強化樹脂成形体を製造することができる。
【0063】
(実施例1)
図10は、実施例1に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
図10に示すように、実施例1においては、上記実施形態で説明した製造装置1を用いて、ガラス繊維(強化材)を含む溶融樹脂(ガラス繊維含有溶融樹脂)を製造し、製造したガラス繊維含有溶融樹脂を押出成形型101に通して平板形状に成形した。その後、プレス成形型102を用いて成形品をプレス成形して、所望の形状のサンプルを作製した。
【0064】
(実施例2)
図11は、実施例2に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
図11に示すように、実施例2においては、上記実施形態で説明した製造装置1を用いてガラス繊維含有溶融樹脂を製造し、製造したガラス繊維含有溶融樹脂を射出成形型103に射出した。その後、保圧、冷却過程を経て、射出成形型103から成形体を取り出した。これにより、実施例1に係るサンプルと同一形状のサンプルを作製した。
【0065】
(実施例3)
図12は、実施例3に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
図12に示すように、実施例3においては、まず、
図12(a)に示すように、上記実施形態で説明した製造装置1を用いてガラス繊維含有溶融樹脂を製造し、製造したガラス繊維含有溶融樹脂を射出シリンダ104内に充填した。充填完了後に、
図12(b)に示すように、プランジャー105を用いて射出シリンダ104内のガラス繊維含有溶融樹脂を射出成形型103に射出した。その後、保圧、冷却過程を経て、射出成形型103から成形体を取り出した。これにより、実施例1に係るサンプルと同一形状のサンプルを作製した。
【0066】
(比較例)
図13は、比較例に係る強化樹脂成形体のサンプルの製造工程を示す図である。
図13に示すように、比較例においては、インライン方式の射出成型機110を用いてサンプルを製造した。具体的には、樹脂材供給ホッパー111から樹脂材を射出シリンダ112に供給し、サイドフィードによりガラス繊維(強化材)を強化材供給ホッパー113から射出シリンダ112に供給した。そして、射出シリンダ112内のスクリュー114を回転させて、これらを混錬、溶融した後に、射出成形型115に射出した。その後、保圧、冷却過程を経て、射出成形型115から成形体を取り出した。これにより、実施例2に係るサンプルと同一形状のサンプルを作製した。
【0067】
(評価)
1.サンプル中の繊維長の測定
各実施例及び比較例にて作製したサンプルからガラス強化繊維を抽出した。その後、抽出したガラス強化繊維の長さを測定し、測定した長さの平均値を残存繊維長として算出した。
2.繊維分散性の評価
各実施例及び比較例にて作製したサンプルの外観を観察し、表面に現れるガラス強化繊維のうち塊状のガラス強化繊維、すなわち解束されていない繊維塊の個数を測定した。測定した繊維塊の個数が0である場合、分散性は良好(○)と評価し、繊維塊の個数が微小(1個~9個)である場合、分散性は不十分(△)と評価し、繊維塊の個数が多数(10個以上)である場合、分散性は悪い(×)と評価した。
【0068】
表1に、各実施例及び比較例にて用いた樹脂材の種類及び配合比、強化繊維の種類、形態、配合比及び初期繊維長、添加剤(改質剤)の種類及び配合比を示す。
【表1】
ここで、表1において、PPは、ポリプロピレンであり、GFはガラス繊維であり、MA-g-ppは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンである。
【0069】
表2に、各実施例にて用いたスクリュー(メインスクリュー4、サブスクリュー62)の圧縮比、一つのフライトに形成された第一スリット(441)の個数及び幅、一つのフライトに形成された第二スリット(442)の個数及び幅を示す。
【表2】
【0070】
また、各実施例において、メインシリンダ(3)の設定温度(この設定温度は、メインシリンダのうち
図2に示す溶融樹脂供給開口35よりも前端側(領域3A)の温度である)は270℃に、サブシリンダ(61)の設定温度は220℃に、それぞれ設定した。なお、比較例においては、射出シリンダの設定温度は270℃に設定した。また、各実施例において、樹脂圧センサにより検出される樹脂圧が0になるように、樹脂材定量供給装置65の動作をフィードバック制御した。
【0071】
表3に、各実施例及び比較例にて作製したサンプルについての評価結果を示す。なお、実施例2及び比較例については、可塑化能力(輸送能力)も測定した。その測定結果も合わせて表3に示す。
【表3】
【0072】
表3からわかるように、各実施例及び比較例において、分散性はいずれも良好であった。また、各実施例及び比較例において、ガラス繊維の配合率は、40wt%と高い。しかし、各実施例にて測定した残存繊維長は比較例にて測定した残存繊維長よりも長い。このことから、本実施形態に示す製造装置及び製造方法により、強化材の含有率が高く、且つ、強化繊維の折損の頻度が小さい(残存繊維長が長い)、強化樹脂成形体を製造できることが検証された。さらに、実施例2は比較例よりも可塑化能力の点でも優れていることが検証された。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、メインスクリュー4として無圧縮スクリューを用いた例を示したが、無圧縮スクリューでなくても、圧縮比の小さいスクリューを用いることができる。圧縮比が小さければ、メインシリンダ3内でメインスクリュー4が回転することによる強化材の折損の度合いを小さくすることができるからである。この場合、メインスクリュー4として、圧縮比が2.0以下のスクリューを用いることができる。また、
図14に示すような可変ピッチスクリュー4’をメインスクリューに採用することができる。この可変ピッチスクリュー4’は、先端41’に近い領域内のフライト間のピッチが、その領域よりも後端42’側の領域内のフライト間のピッチよりも狭くされている。このような可変ピッチスクリュー4’をメインスクリュー4として用いることにより、メインシリンダ3内における樹脂圧をさほど増加させることなく、溶融樹脂中の強化材の分散性を向上させることができる。また、溶融樹脂中の強化材の分散性を向上させるために、メインスクリュー4の先端に、マドック型、ダルメージ型、ピン型、等のミキシングエレメントを必要に応じて取り付けることもでき、また、ダブルフライト型スクリューを用いることもできる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…製造装置、2…メイン輸送装置、3…メインシリンダ(シリンダ)、31…前端部、32…後端部、34…強化材供給開口、35…溶融樹脂供給開口、4…メインスクリュー(スクリュー)、41…先端、42…後端、43…スクリュー軸、44,44A,44B,44C,44D…フライト、441…第一スリット、442…第二スリット、45…樹脂圧センサ、5…駆動装置、6…溶融樹脂供給装置、61…サブシリンダ、611…前端部、612…後端部、62…サブスクリュー、63…駆動装置、64…樹脂材供給ホッパー、65…樹脂材定量供給装置、66…樹脂材出口通路、7…強化材供給装置、71…強化材定量供給装置、72…強化材供給ホッパー、73…強化材出口通路、8…制御装置、91…メインバンドヒータ、92…サブバンドヒータ、613…樹脂材供給開口、R…樹脂材、S…強化材