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特許7125651硬化性樹脂組成物、それを用いた燃料電池およびシール方法
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  • 特許-硬化性樹脂組成物、それを用いた燃料電池およびシール方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、それを用いた燃料電池およびシール方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20220818BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20220818BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20220818BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20220818BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20220818BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20220818BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220818BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L23/20
C08K5/54
C08K5/06
C08L33/00
H01M8/0271
H01M8/10 101
C09K3/10 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019512576
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2018015517
(87)【国際公開番号】W WO2018190417
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017080229
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】曽我 哲徳
(72)【発明者】
【氏名】福本 将之
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/065154(WO,A1)
【文献】特表2009-509012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00-101/16
C08L 23/00- 23/36
C08K 5/00- 5/59
C08L 33/00- 33/26
H01M 8/0271
H01M 8/10
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(D)成分を含有することを特徴とし、無溶剤型の硬化性樹脂組成物ではない、硬化性樹脂組成物。
(A)成分:1分子中にアルケニル基を以上有するビニル重合体
(B)成分:1分子中にヒドロシリル基を以上有する化合物
(C)成分:ヒドロシリル化触媒
(D)成分:多官能ビニルエーテル化合物
【請求項2】
前記(D)成分が、シクロアルカン構造を含む多官能ビニルエーテル化合物、エーテル構造を含む多官能ビニルエーテル化合物、及びアルキレン構造を含む多官能ビニルエーテル化合物からなる群から選択される少なくとも1以上である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、アルケニル基を以上有するポリイソブチレンある、請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を含む、燃料電池用硬化性シール剤。
【請求項5】
前記燃料電池用硬化性シール剤が、燃料電池における部材であるセパレーター、フレーム、電解質、燃料極、空気極、及び電解質膜電極接合体からなる群のいずれかの部材周辺用燃料電池用硬化性シール剤である、請求項4に記載の燃料電池用硬化性シール剤。
【請求項6】
前記燃料電池用硬化性シール剤が、燃料電池における隣り合うセパレーター同士との間のシール剤、若しくは燃料電池のフレームと電解質膜または電解質膜電極接合体との間のシール剤である、請求項4に記載の燃料電池用硬化性シール剤。
【請求項7】
前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池である、請求項4~6のいずれか1項に記載の燃料電池用硬化性シール剤。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物または請求項4~6のいずれか1項に記載の燃料電池用硬化性シール剤を硬化してなる硬化物。
【請求項9】
燃料電池における隣り合うセパレーター同士との間のシール、及び燃料電池のフレームと電解質膜または電解質膜電極接合体との間のシールからなる群のいずれかを含む燃料電池であって、前記いずれかのシールが、請求項8に記載の硬化物を含む、燃料電池。
【請求項10】
前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池である、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項11】
少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方が熱または活性エネルギー線を透過可能であり、前記フランジの少なくとも一方の表面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を塗布する工程、前記硬化性樹脂組成物を塗布した一方のフランジと他方のフランジとを前記硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせる工程、及び、加熱してまたは活性エネルギー線を前記光透過可能なフランジを通して照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とする前記シール方法。
【請求項12】
少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方のフランジに、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を塗布する工程、前記塗布した硬化性樹脂組成物に加熱してまたは活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなるガスケットを形成する工程、他方のフランジを前記ガスケット上に配置して、硬化性樹脂組成物を塗布した一方のフランジと前記他方のフランジとを前記ガスケットを介して圧着し、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とする前記シール方法。
【請求項13】
少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方のフランジ上にガスケット形成用金型を配置する工程、前記ガスケット形成用金型と該金型を配置したフランジとの間の空隙の少なくとも一部に請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を注入する工程、前記硬化性樹脂組成物に加熱してまたは活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなるガスケットを形成する工程、前記金型を前記一方のフランジから取り外す工程、他方のフランジを前記ガスケット上に配置して、前記一方のフランジと前記他方のフランジとを前記ガスケットを介して圧着し、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とするシール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度でありながら、高伸張性、高引張強度、水素ガスバリア性等の特性を有する硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家庭用の新しいエネルギーシステムとして燃料電池が注目されている。燃料電池とは、水素と酸素を化学的に反応させることにより電気を取り出す発電装置である。また、燃料電池は、発電時のエネルギー効率が高く、水素と酸素の反応により水が生成されることからクリーンな次世代の発電装置である。燃料電池は、固体高分子形燃料電池、りん酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池の4つの方式があるが、中でも固体高分子形燃料電池は、運転温度が比較的低温(80℃前後)でありながら高発電効率であるので、自動車用動力源、家庭用発電装置、携帯電話などの電子機器用小型電源、非常電源等の用途で期待されている。
【0003】
図1に示すように、固体高分子形燃料電池のセル1とは、高分子電解質膜4が空気極3a、燃料極3bとの間に挟持された構造である電解質膜電極接合体5(MEA)と、前記MEAを支持するフレーム6と、ガスの流路が形成されているセパレーター2とを備えた構造である。
【0004】
固体高分子形燃料電池を起動するには、アノード電極に水素を含む燃料ガスを、カソード電極には酸素を含む酸化ガスを別々に隔離して供給する必要がある。隔離が不十分で一方のガスが他方のガスへと混合してしまうと、発電効率の低下を起こしてしまう恐れがあるためである。このような背景から、燃料ガスや酸素ガスなどの漏れを防止する目的で、シール剤が多用されている。具体的には、隣り合うセパレーター同士との間、セパレーターとフレームとの間、フレームと電解質膜またはMEAとの間等にシール剤が使用されている。
【0005】
固体高分子形燃料電池に用いられるシール剤としては、水素ガスバリア性、低透湿性、耐熱性、耐酸性、可とう性に優れるゴム弾性体であることから、ポリイソブチレン系重合体を用いたヒドロシリル化反応する加熱硬化性樹脂組成物(特許文献1参照)、フルオロポリエーテル化合物を用いたヒドロシリル化反応する加熱硬化性樹脂組成物(特許文献2参照)、フッ素ポリマーを用いたヒドロシリル化反応する加熱硬化性樹脂組成物(特許文献3参照)、エチレン-プロピレン-ジエンゴムを用いた加熱硬化性樹脂組成物(特許文献4参照)が検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-111146号公報
【文献】特開2004-075824号公報
【文献】特開2007-100099号公報
【文献】特開2011-124258号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4の加熱硬化性樹脂組成物は、シール性を向上させるために分子量が大きいポリマーを使用しているので、粘度が高くなり、塗布作業性が低下するという問題があった。また、一般的に硬化性樹脂組成物において粘度を下げるために可塑剤を添加する手法が用いられるが、今度は、伸張性、引張強さ、水素ガスバリア性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
以上から、本発明の目的は低粘度でありながら、高伸張性、高引張強さ、水素ガスバリア性等の特性を有する硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は本発明の硬化性樹脂組成物によって解決される。
[1]下記の(A)~(D)成分を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
(A)成分:1分子中にアルケニル基を1以上有するビニル重合体
(B)成分:1分子中にヒドロシリル基を1以上有する化合物
(C)成分:ヒドロシリル化触媒
(D)成分:多官能ビニルエーテル化合物
[2] 前記(D)成分が、シクロアルカン構造を含むビニルエーテル化合物、エーテル構造を含むビニルエーテル化合物、及びアルキレン構造を含むビニルエーテル化合物からなる群から選択される少なくとも1以上であることを特徴とする[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3]前記(A)成分が、アルケニル基を1以上有するポリイソブチレンまたはアルケニル基を1以上有するアクリル系重合体であることを特徴とする[1]または[2]のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
[4][1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を含む、燃料電池用硬化性シール剤。
[5]前記燃料電池用硬化性シール剤が、燃料電池における部材であるセパレーター、フレーム、電解質、燃料極、空気極、及び電解質膜電極接合体からなる群のいずれかの部材周辺用燃料電池用硬化性シール剤である、[4]に記載のシール剤。
[6]前記燃料電池用硬化性シール剤が、燃料電池における隣り合うセパレーター同士との間のシール剤、若しくは燃料電池のフレームと電解質膜または電解質膜電極接合体との間のシール剤である、[4]に記載のシール剤。
[7]前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池である、[4]~[6]のいずれか1項に記載のシール剤。
[8][1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物または[4]~[6]のいずれか1項に記載のシール剤を光硬化してなる硬化物。
[9]燃料電池における隣り合うセパレーター同士との間のシール、及び燃料電池のフレームと電解質膜または電解質膜電極接合体との間のシールからなる群のいずれかを含む燃料電池であって、前記いずれかのシールが、[8]に記載の硬化物を含む、燃料電池。
[10]前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池である、[9]に記載の燃料電池。
[11]少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方が熱または活性エネルギー線を透過可能であり、前記フランジの少なくとも一方の表面に、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を塗布する工程、前記硬化性樹脂組成物を塗布した一方のフランジと他方のフランジとを前記硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせる工程、及び、加熱してまたは活性エネルギー線を前記光透過可能なフランジを通して照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とする前記シール方法。
[12]少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方のフランジに、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を塗布する工程、前記塗布した硬化性樹脂組成物に加熱してまたは活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなるガスケットを形成する工程、他方のフランジを前記ガスケット上に配置して、硬化性樹脂組成物を塗布した一方のフランジと前記他方のフランジとを前記ガスケットを介して圧着し、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とする前記シール方法。
[13]少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方のフランジ上にガスケット形成用金型を配置する工程、前記ガスケット形成用金型と該金型を配置したフランジとの間の空隙の少なくとも一部に[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を注入する工程、前記硬化性樹脂組成物に加熱してまたは活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなるガスケットを形成する工程、前記金型を前記一方のフランジから取り外す工程、他方のフランジを前記ガスケット上に配置して、前記一方のフランジと前記他方のフランジとを前記ガスケットを介して圧着し、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とするシール方法。
【0010】
本発明は、低粘度でありながら、高伸張性、高引張強度、水素ガスバリア性等の特性を有する硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】燃料電池の単セルの概略断面図である。
図2】燃料電池全体を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に発明の詳細を説明する。
<硬化性樹脂組成物>
本発明は、下記の(A)~(D)成分を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物に関する。
(A)成分:1分子中にアルケニル基を1以上有するビニル重合体
(B)成分:1分子中にヒドロシリル基を1以上有する化合物
(C)成分:ヒドロシリル化触媒
(D)成分:多官能ビニルエーテル化合物。
本発明の硬化性樹脂組成物の各(A)~(D)成分、並びに任意成分は、下記のいずれかの条件を満たすものを任意に組み合わせて使用することができる。なお、各(A)~(D)成分は相互に異なる成分である。
【0013】
<(A)成分>
本発明に用いられる(A)成分とは、1分子中にアルケニル基を1以上有する25℃(常温)で液状であるビニル系重合体であれば特に限定されるものではない。本発明における(A)成分の25℃での粘度は、特に制限は無いが、作業性などの面から5~5000Pa・sが好ましく、より好ましくは、50~3000Pa・sであり、特に好ましくは、100~2000Pa・sである。なお、特に断りがない限り、粘度の測定はコーンプレート型粘度計を用いて25℃での粘度を測定した。また、アルケニル基がビニル系重合体の主鎖末端にあるとき、低硬度ながら高強度、低圧縮永久ひずみのゴム弾性体が得られやすくなるなどの点から好ましい。ここでアルケニル基は、例えば、炭素数1~10、好ましくは炭素数2~8、より好ましくは炭素数3~5のアルケニル基であることが適当である。好ましいアルケニル基としては、例えば、アリル基、プロペニル基、ブテニル基が適当である。また、(A)成分は、アルケニル基を、好ましくは1~6個、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2~3個、特に好ましくは2個(特にポリマーの両末端に)有することが適当である。また、アルケニル基は分子の側鎖、または、末端のいずれに存在していてもかまわないが、ゴム弾性の点から、分子の末端に存在することが好ましい。
【0014】
本発明における(A)成分の分子量は特に制限は無いが、流動性、硬化後の物性などの面から数平均分子量が500~500,000であることが好ましく、さらに好ましくは1,000~100,000であり、特に好ましくは3,000~50,000である。なお、特に断りがない限り、前記数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。
【0015】
また、(A)成分のビニル重合体とは、例えば、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、(メタ)アクリル系重合体などが挙げられ、中でも、シール性の観点から、ポリイソブチレン、アクリル系重合体が好ましく、特にガスバリア性に優れるという観点からポリイソブチレンが好ましい。
【0016】
前記(A)成分のポリイソブチレンとは、-[CH2C(CH32]-単位を有すればよく、「-[CH2C(CH32]-単位以外の他の構成単位」を含むポリイソブチレンであってもよい。また、-[CH2C(CH32]-単位を、構成単位全量に対して、例えば少なくとも50質量%以上含み、好ましくは70質量%以上含み、より好ましくは75質量%以上含み、更に好ましくは80質量%以上含むものである。また、(A)成分は、-[CH2C(CH32]-単位を、例えば100質量%以下含み、別の態様では95質量%以下含み、また別の態様では90質量%以下含むことが適当である。なお、本発明において、ポリ又はポリマーとは、理論にとらわれないが、例えば、ポリマーの主鎖にモノマーの繰り返し単位を伴う構造で、例えば100以上、好ましくは300以上、より好ましくは500以上の繰り返し単位からなる化合物を指すと定義できる。前記(A)成分のポリイソブチレンの市販品としては、特に限定されないが、例えば、EPION(エピオン)(登録商標)200A、400A、600A(株式会社カネカ製)などが挙げられる。
【0017】
前記(A)成分の(メタ)アクリル系重合体としては、例えば、ポリアクリル酸プロピル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸ペンチル、ポリアクリル酸ヘキシル等が挙げられる。前記(A)成分の、(メタ)アクリル系重合体の市販品としては、特に限定されないが、例えば、SA100A、OR100A、OR200A(株式会社カネカ製)などが挙げられる。
【0018】
<(B)成分>
本発明の(B)成分のヒドロシリル基含有化合物としては、(A)成分とヒドロシリル化反応により硬化できるものであれば特に制限はない。ヒドロシリル基とは、SiH結合を有する基を表す。(B)成分としては、特に限定されないが、好ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられ、より具体的には、直鎖状、分岐状、環状または網状の分子からなる分子中にヒドロシリル基を含有するシリコーンなどが挙げられる。また、ヒドロシリル基を、例えば2以上、好ましくは3以上有する化合物が好ましい。
【0019】
前記(B)成分の市販品としては特に限定されないが、CR-300、CR-500(株式会社カネカ製)、HMS-013、HMS-151、HMS-301(アズマックス株式会社製)、SH1107フルイド(東レ・ダウコーニング株式会社製)などが挙げられる。前記(B)成分の配合量は、特に限定されないが、前記(A)成分100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは1~40質量部であり、更に好ましくは5~30質量部であり、特に好ましくは、8~20質量部である。0.1質量部~50質量部の範囲内にあることで、硬化性樹脂組成物の良好な水素ガスバリア性を得ることができる。
【0020】
(B)成分の添加量(当量)は、(A)成分に含まれるアルケニル基と(D)成分に含まれるビニルエーテル基の合計1molに対して、通常0.5~2.5当量となる量、好ましくは1.0~2.0当量となる量である。0.5当量以上であれば、架橋密度が低くなることもなく硬化物の耐気体透過性、低透湿性を十分担保でき、2.5当量以下であればヒドロシリル化反応による水素ガスが発生して硬化物発泡の問題が生じたり、耐熱性に影響を与えたりすることもないので好ましい。
【0021】
<(C)成分>
本発明の(C)成分であるヒドロシリル化触媒については、ヒドロシリル化反応を触媒できるものであれば特に制限はなく、任意のものが使用できる。
【0022】
本硬化性樹脂組成物を加熱により硬化させる場合、好ましい(C)成分の加熱により硬化させることができる触媒としては、塩化白金酸、白金の単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの;塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体;Pt(CH2=CH22Cl2などの白金-オレフィン錯体;ジビニルテトラメチルジシロキサン、Ptn(ViMe2SiOSiMe2Vi)x、Pt[(MeViSiO)4yなどの白金-ビニルシロキサン錯体;Pt(PPh34、Pt(PBu34などの白金-ホスファイト錯体が挙げられる(Viはビニル基、Meはメチル基を意味する)。これらの中でも活性が優れるという観点から、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体等が好ましい。また、(C)成分は後述する本硬化性樹脂組成物を紫外線等の活性エネルギー線を照射により硬化させることができる触媒よりも、加熱により硬化させることができる触媒を用いて硬化させた方が、耐久性、信頼性に優れるという観点から好ましい。
【0023】
また、本硬化性樹脂組成物を紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより硬化させる場合、好ましい(C)成分の紫外線等の活性エネルギー線を照射により硬化させることができる触媒としては、例えば、β-ジケトネート化合物を配位子に持つ白金錯体または環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体などを使用することができる。ここで活性エネルギー線とは、α線やβ線等の放射線、γ線やX線等の電磁波、電子線(EB)、100~400nm程度の紫外線、400~800nm程度の可視光線等の広義の光全てを含むものであり、好ましくは紫外線である。
【0024】
前記のβ-ジケトネート化合物を配位子に持つ白金錯体としては、例えば、トリメチル(アセチルアセトナト)白金、トリメチル(3,5-ヘプタンジオネート)白金、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金、ビス(2,4-へキサンジオナト)白金、ビス(2,4-へプタンジオナト)白金、ビス(3,5-ヘプタンジオナト)白金、ビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオナト)白金、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)白金等が挙げられ、中でも、特に紫外線による活性が高いという観点から、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金が好ましい。
【0025】
前記の環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体としては、例えば、(1,5-シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ-1,5-ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(ジメチルフエニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体等が挙げられる。好ましい白金錯体の市販品としては、白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のイソプロピルアルコール溶液(Pt-VTS-3.0IPA、ユミコアプレシャスメタルズジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0026】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh33、RhCl3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl3・2H2O、NiCl2、TiCl4等が挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種類以上併用しても構わない。
【0027】
触媒量としては特に制限されないが、(A)成分中のアルケニル基1molに対して化合物として1×10-1~1×10-8molの範囲で用いるのがよい。好ましくは1×10-2~1×10-6molの範囲で用いるのがよい。また、ヒドロシリル基化触媒は、1×10-1molより少ない量であれば、高価になりすぎることもなく、また、水素ガスを発生して硬化物に発泡が生じることもないので好ましい。また、(C)成分の硬化性樹脂組成物中における絶対量は、例えば10~1000μlであり、好ましくは、50~700μl、より好ましくは100~500μl、更に好ましくは200~400μlである。(C)成分の形態は、固体または液体のいずれであっても良いが、例えば、アルコール溶液の形態、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール等の溶液の形態、より好ましくはイソプロパノール溶液の形態で使用することが適当である。
【0028】
<(D)成分>
本発明の(D)成分である多官能ビニルエーテル化合物は、本発明のその他成分と組み合わせることによって、低粘度でありながら、高伸張性、高引張強度、水素ガスバリア性等の特性を満足できる硬化物が得られるという顕著な効果を得ることができる。前記多官能ビニルエーテル化合物は、ビニルエーテル基を2以上有する化合物を意味する。前記(D)成分としては、特に限定されないが、シクロアルカン構造を含む多官能ビニルエーテル化合物、エーテル構造を含む多官能ビニルエーテル化合物、アルキレン構造を含む多官能ビニルエーテル化合物などがあげられる。(D)成分の代わりに単官能ビニルエーテル化合物を用いた場合は、このような効果は発揮されない。
【0029】
前記シクロアルカン構造を含む多官能ビニルエーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルなどがあげられる。また、前記エーテル構造を含む多官能ビニルエーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテルなどがあげられる。また、前記アルキレン構造を含む多官能ビニルエーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテルなどがあげられる。
【0030】
前記(D)成分の市販品としては、特に限定されないが、1,4-ブチレンジビニルエーテル(BDVE)、シクロヘキサンジビニルエーテル(CHDVE)、ジエチレングリコールジビニルエーテル(DEGDVE)、トリエチレングリコールシビニルエーテル(TEGDVE、日本カーバイド工業株式会社製)などが挙げられる。
【0031】
前記(D)成分の配合量は、特に限定されないが、前記(A)成分100質量部に対して、0.05~30質量部であることが好ましく、更に好ましくは0.1~20質量部であり、特に好ましくは、0.5~10質量部である。0.1質量部以上であることで、低粘度でありながら、高伸張性、高引張強度に優れた硬化物が得られるので好ましく、30質量部以下であることで、水素ガスバリア性に優れた硬化物が得られるので好ましい。
【0032】
<任意成分>
本発明の組成物に対し、本発明の目的を損なわない範囲で、架橋剤、シランカップリング剤、反応速度調節剤、スチレン系共重合体等の各種エラストマー、充填材、保存安定剤、酸化防止剤、光安定剤、ポリアルファオレフィン等の可塑剤、顔料、難燃剤、及び界面活性剤等の添加剤を使用することができる。
【0033】
本発明に対し架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、例えば、2,4,6-トリス(アリルオキシ)-1,3,5-トリアジン、1,2-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン誘導体、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリアリルリン酸エステル、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、1,1,2,2-テトラアリロキシエタン、ジアリリデンペンタエリスリット、トリアリルシアヌレート、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、1,4-ブタンジオールジアリルエーテル、ノナンジオールジアリルエーテル、1,4-シクロへキサンジメタノールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、ビスフェノールSのジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、ジシクロペンタジエン、ビニルシクロへキセン、1,5-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、2,5-ジアリルフェノールアリルエーテル、およびそれらのオリゴマー、ノボラックフェノールのアリルエーテル等が挙げられる。中でも、本発明の(A)成分と相溶性に優れることから、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、トリアリルイソシアヌレート、2,4,6-トリス(アリルオキシ)-1,3,5-トリアジン、1,2-ポリブタジエンなどが好ましい。
【0034】
前記シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシランなどが挙げられる。また、前記シランカップリング剤の市販品としては、特に限定されないが、KBM-1003、KBE-1003、KBM-502、KBE-502、KBM-503、KBE-503、KBM-5103、KBM-1403(信越化学工業株式会社製)、Z-6825(東レ・ダウコーニング株式会社製)などが挙げられる。
【0035】
本発明に対し反応速度調節剤を添加してもよい。反応速度調節剤としては、例えば、アルキン化合物、マレイン酸エステル類、有機燐化合物、有機硫黄化合物、窒素含有化合物等が挙げられる。これらを単独使用、または2種以上併用してもよい。
【0036】
前記のアルキン化合物としては、具体的には3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン、3-ヒドロキシ-3-フェニル-1-ブチン、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等が挙げられる。また、マレイン酸エステル類等としては無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等があげられる。また、有機燐化合物としては、具体的にはトリオルガノフォスフィン類、ジオルガノフォスフィン類、オルガノフォスフォン類、トリオルガノフォスファイト類等が例示できる。また、有機硫黄化合物としては、具体的にはオルガノメルカプタン類、ジオルガノスルフィド類、硫化水素、ベンゾチアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールジサルファイド等が例示できる。また、窒素含有化合物としては、具体的にはN,N,N′,N′-テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジブチルエチレンジアミン、N,N-ジブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N′,N′-テトラエチルエチレンジアミン、N,N-ジブチル-1,4-ブタンジアミン、2,2’-ビピリジン等が例示できる。アルキン化合物の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.01~10質量部、好ましくは0.1~1質量部程度が適当である。
【0037】
本発明に対し、スチレン系共重合体等の各種エラストマーを添加してもよい。スチレン系共重合体等の各種エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体やスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、またそれらを水添したスチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体やスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。これらを単独使用、または2種以上併用してもよい。
【0038】
本発明に対し、硬化物の弾性率、流動性などの改良を目的として、保存安定性を阻害しない程度の充填材を添加してもよい。充填材の形状は特に限定されないが、硬化性樹脂組成物の硬化物の機械的な強度を向上させるとともに、粘度の上昇を抑制できることから球形状が好ましい。充填材の平均粒径は、特に限定されないが0.001~100μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.01~50μmの範囲である。充填材として具体的には、例えば、有機質粉体、無機質粉体、金属質粉体等が挙げられる。無機質粉体の充填材としては、ガラス、シリカ、アルミナ、マイカ、セラミックス、シリコーンゴム粉体、炭酸カルシウム、窒化アルミ、カーボン粉、カオリンクレー、乾燥粘土鉱物、乾燥珪藻土等が挙げられる。無機質粉体の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.1~300質量部、好ましくは1~100質量部、より好ましくは10~50質量部程度が適当である。0.1質量部より大きければ効果が小さくなることもなく、300質量部以下であれば硬化性樹脂組成物の十分な流動性が得られ、良好な作業性が得られる。
【0039】
シリカは、硬化性樹脂組成物の粘度調整又は硬化物の機械的強度を向上させる目的で配合できる。好ましくは、オルガノクロロシラン類、ポリオルガノシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどで疎水化処理したものなどを用いることができる。具体的なシリカとしては、例えば、粒状シリカ、球状シリカ、フュームドシリカ等を挙げることができる。フュームドシリカの具体例としては、例えば、日本アエロジル製の商品名アエロジルR974、R972、R972V、R972CF、R805、R812、R812S、R816、R8200、RY200、RX200、RY200S、R202等の市販品が挙げられる。
【0040】
有機質粉体の充填材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネートが挙げられる。有機質粉体の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.1~100質量部程度が好ましい。0.1質量部以上であれば十分な効果が得られ、100質量部以下であれば硬化性樹脂組成物の流動性を十分得ることができ、作業性が低下することもないので好ましい。
【0041】
本発明に対し、保存安定剤を添加してもよい。保存安定剤としては、例えば、2-ベンゾチアゾリルサルファイド、ベンゾチアゾール、チアゾール、ジメチルアセチレンダイカルボキシレート、ジエチルアセチレンダイカルボキシレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2-(4-モルフォジニルジチオ)ベンゾチアゾール、3-メチル-1-ブテン-3-オール、アセチレン性不飽和基含有オルガノシロキサン、アセチレンアルコール、3-メチル-1-ブチル-3-オール、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート、ジエチルフマレート、ジエチルマレエート、ジメチルマレエート、2-ペンテンニトリル、2,3-ジクロロプロペンマレイ等が挙げられる。これらを単独使用、または2種以上併用してもよい。
【0042】
本発明に対し酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、例えば、β-ナフトキノン、2-メトキシ-1,4-ナフトキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノ-tert-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、2,5-ジ-tert-ブチル-p-ベンゾキノン等のキノン系化合物;フェノチアジン、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、カテコール、tert-ブチルカテコール、2-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート、4,4′-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4′-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、3,9-ビス〔2-〔3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニロキシ〕-1,1-ジメチルエチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、チオジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′-ヘキサン-1,6-ジイルビス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド〕、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ,C7-C9側鎖アルキルエステル、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル〕メチル〕フォスフォネート、3,3′,3″,5,5′,5″-ヘキサ-tert-ブチル-a,a′,a″-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、カルシウムジエチルビス〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル〕メチル〕フォスフォネート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート〕、ヘキサメチレンビス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス〔(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル〕-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、N-フェニルベンゼンアミンと2,4,6-トリメチルペンテンとの反応生成物、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、ピクリン酸、クエン酸等のフェノール類;トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト、トリス〔2-〔〔2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサフォスフェフィン-6-イル〕オキシ〕エチル〕アミン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリートールジフォスファイト、ビス〔2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル〕エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)〔1,1-ビスフェニル〕-4,4‘-ジイルビスホスフォナイト、6-〔3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンズ〔d、f〕〔1,3,2〕ジオキサフォスフェフィン等のリン系化合物;フェノチアジン等のアミン系化合物;ラクトン系化合物;ビタミンE系化合物等が挙げられる。中でもフェノール系化合物が好適である。
【0043】
本発明に対し光安定剤を添加してもよい。光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-〔2-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕-4-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル-メタアクリレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル〕メチル〕ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル,1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、N,N′,N″,N″′-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン-1,3,5-トリアジン-N,N′-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕〕、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重合物、2,2,4,4-テトラメチル-20-(β-ラウリルオキシカルボニル)エチル-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ〔5,1,11,2〕ヘネイコサン-21-オン、β-アラニン,N,-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-ドデシルエステル/テトラデシルエステル、N-アセチル-3-ドデシル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)ピロリジン-2,5-ジオン、2,2,4,4-テトラメチル-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ〔5,1,11,2〕ヘネイコサン-21-オン、2,2,4,4-テトラメチル-21-オキサ-3,20-ジアザジシクロ-〔5,1,11,2〕-ヘネイコサン-20-プロパン酸ドデシルエステル/テトラデシルエステル、プロパンジオイックアシッド,〔(4-メトキシフェニル)-メチレン〕-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)エステル、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールの高級脂肪酸エステル、1,3-ベンゼンジカルボキシアミド,N,N′-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)等のヒンダートアミン系;オクタベンゾン等のベンゾフェノン系化合物;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミド-メチル)-5-メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコールの反応生成物、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール等のベンゾトリアゾール系化合物;2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系化合物;2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-〔(ヘキシル)オキシ〕フェノール等のトリアジン系化合物等が挙げられる。特に好ましくは、ヒンダートアミン系化合物である。
【0044】
本発明に対し、可塑剤、顔料、難燃剤及び界面活性剤を添加してもよい。可塑剤としては、例えば、ラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの石油系プロセスオイル、アクリル系可塑剤、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジブチルなどの二塩基酸ジアルキル、液状ポリブテン、液状ポリイソプレンなどの低分子量液状ポリマー等が挙げられる。好ましい可塑剤としては、ポリアルファオレフィン系可塑剤及びアクリル系可塑剤を挙げることができる。可塑剤の配合量は、(A)成分100質量部に対し、例えば、0.1~100質量部、好ましくは1~50質量部、より好ましくは10~40質量部である。顔料としては、例えば、カーボン等が挙げられる。難燃剤としては、例えば、水和金属化合物系、リン系、シリコーン系、窒素化合物系等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらを単独使用、または2種以上併用してもよい。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、(A)成分~(D)成分並びにその他の任意成分の所定量を配合して、プラネタリミキサー等のミキサー等の混合手段を使用して、好ましくは10~70℃の温度、より好ましくは20~50℃、特に好ましくは常温(25℃)で、好ましくは0.1~5時間、より好ましくは30分~3時間、特に好ましくは60分前後混合することにより製造することができる。
【0046】
<塗布方法>
本発明の硬化性樹脂組成物を被着体への塗布する方法としては、公知のシール剤や接着剤の方法が用いられる。例えば、自動塗布機を用いたディスペンシング、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、ディッピング、スピンコートなどの方法を用いることができる。なお、本発明の硬化性樹脂組成物は、塗布性の観点から25℃で液状であることが好ましい。
【0047】
<硬化物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、加熱することにより、もしくは、活性エネルギー線、例えば紫外線、可視光等の光を照射することにより硬化して硬化物を得ることができる。特に、耐久性、信頼性に優れることから加熱することによる硬化物が好ましい。
<硬化方法>
加熱に際しての温度及び時間は、十分に硬化できる条件であればよいが、例えば、40~300℃、好ましくは60~200℃、より好ましくは80~150℃、特に好ましくは130℃の温度で、例えば、10秒~10時間、好ましくは1分~5時間、より好ましくは30分~3時間、更に好ましくは1時間程度の条件で加熱することが適当である。低温硬化性の観点から、好ましくは、80~150℃で30分~2時間の条件が適切である。活性エネルギー線、例えば紫外線、可視光等の光を照射することにより硬化させるに際しての光源は特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、LED、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等が挙げられる。光照射の照射量は硬化物の特性の観点から積算光量10kJ/m2以上であることが好ましく、より好ましくは積算光量15kJ/m2以上である。
【0048】
例えば、本発明の硬化性樹脂組成物を二液型組成物(キット)とすることで、混合後、室温で硬化させることが可能である。二液型組成物(キット)として使用する場合は、一方の液に(A)成分を含め、他方の液に(B)成分を含めることが好ましい。このように(A)成分と(B)成分とを、別々の液に分けることにより貯蔵中に余計な反応を抑えることができ、貯蔵安定性を高めることができる。そして、使用の際に二つの液を混合するか、又は別々に塗布した後接触させて硬化させることができる。
【0049】
<用途及びシール剤>
本発明の硬化性樹脂組成物またはその硬化物が好適に用いられる用途としては、熱硬化性又は光硬化性シール剤である。本発明においてシール剤とは、接着剤、コーティング剤、注型剤、ポッティング剤等の用途も含まれるものである。なお、このような用途で使用するにあたり、本発明の硬化性樹脂組成物は25℃で液状であることが好ましい。
【0050】
シール剤の具体的な用途としては、本発明の硬化性樹脂組成物またはその硬化物は、低気体透過性、低透湿性、耐熱性、耐酸性、可とう性に優れるゴム弾性体であることから、燃料電池、太陽電池、色素増感型太陽電池、リチウムイオン電池、電解コンデンサ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、LED、ハードディスク装置、フォトダイオード、光通信・回路、電線・ケーブル・光ファイバー、光アイソレータ、ICカード等の積層体、センサー、基板、医薬・医療用器具・機器等が挙げられる。これらの用途の中でも、本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線等の活性エネルギー線の照射により速やかに硬化し、難接着な材質である電解質膜に対する密着力に優れていることから、燃料電池用途が特に好ましい。
【0051】
<燃料電池>
燃料電池とは、水素と酸素を化学的に反応させることにより電気を取り出す発電装置である。また、燃料電池には、固体高分子形燃料電池、りん酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池の4つの方式があるが、中でも固体高分子形燃料電池は、運転温度が比較的低温(80℃前後)でありながら高発電効率であるので、自動車用動力源、家庭用発電装置、携帯電話などの電子機器用小型電源、非常電源等の用途に用いられる。
【0052】
図1に示すように、代表的な固体高分子形燃料電池のセル1とは、高分子電解質膜4が空気極3a、燃料極3bとの間に挟持された構造である電解質膜電極接合体5(MEA)と、前記MEAを支持するフレーム6と、ガスの流路が形成されているセパレーター2とを備えた構造である。また、固体高分子形燃料電池の起動時には、燃料ガス(水素ガス)および酸化ガス(酸素ガス)が、酸化ガス流路8aおよび燃料ガス流路8bを通じて供給される。また、発電の際の発熱を緩和する目的で冷却水の流路9を流れる。なお、このセルを数百枚重ねてパッケージにしたものを、図2に示すようにセルスタック10と呼んでいる。
【0053】
燃料極に燃料ガス(水素ガス)、酸素極(空気極)に酸化ガス(酸素ガス)を供給すると、各電極では次のような反応が起こり、全体としては水が生成される反応(H2+1/2O→H2O)が起こる。詳細に説明すると、下記のように燃料極で生成されるプロトン(H+)は固体高分子膜中を拡散して酸素極側に移動し、酸素と反応して生成された水(H2O)は酸素極側から排出される。
燃料極(アノード電極):H2→2H++2e-
酸素極(カソード電極):1/2O2+2H++2e-→H2
【0054】
固体高分子形燃料電池を起動するには、アノード電極に水素を含む燃料ガスを、カソード電極には酸素を含む酸化ガスを別々に隔離して供給する必要がある。隔離が不十分で一方のガスが他方のガスへと混合してしまうと、発電効率の低下を起こしてしまう恐れがあるためである。このような背景から、燃料ガスや酸素ガスなどの漏れを防止する目的で、シール剤が多用される。具体的には、隣り合うセパレーター同士との間、セパレーターとフレームとの間、フレームと電解質膜またはMEAとの間等にシール剤が使用されている。
【0055】
前記高分子電解質膜とは、イオン伝導性を有する陽イオン交換膜があげられ、好ましくは化学的に安定であり、高温での動作に強いことから、スルホン酸基を持つフッ素系ポリマーなどが挙げられる。市販品としては、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭化成株式会社製のフレミオン(登録商標)、旭硝子株式会社製のアシプレックス(登録商標)などが挙げられる。通常、高分子電解質膜は難接着な材質であるが、本発明の硬化性樹脂組成物を用いることで、接着することができる。
ナフィオン(登録商標)
【0056】
前記燃料極は、水素極、アノードと呼ばれるものであり、公知のものが使用される。例えば、カーボンに白金、ニッケル、ルテニウムなどの触媒を担体させたものが用いられている。また、前記空気極は、酸素極、カソードと呼ばれるものであり、公知のものが使用される。例えば、カーボンに白金、合金などの触媒を担体させたものが用いられている。各電極の表面には、ガスの拡散や電解質膜の保湿させる働きをするガス拡散層が備えられていてもよい。ガス拡散層は、公知のものが使用されるが、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、炭素繊維などが挙げられる。
【0057】
上記セパレーター2は、図1に示すように凸凹の細かい流路があり、そこを燃料ガスや酸化ガスが通り、電極に供給される。また、セパレーターは、アルミニウム、ステンレス、チタン、グラファイト、カーボン等により構成されている。
【0058】
前記フレームとは、薄膜な電解質膜またはMEAが破けないように支持、補強するものである。前記フレームの材質は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。また、本発明の硬化性樹脂組成物またはその硬化物を用いて部材を貼り合わせるためには、部材が活性エネルギー線等の光を透過することが好ましい。
【0059】
本発明の燃料電池とは、本発明の硬化性樹脂組成物またはその硬化物によりシールされたことを特徴とする燃料電池である。燃料電池におけるシールが必要な部材としては、セパレーター、フレーム、電解質膜、燃料極、空気極、MEA等が挙げられる。より具体的なシール箇所としては、隣り合うセパレーター同士との間、セパレーターとフレームとの間、フレームと電解質膜またはMEAとの間等が挙げられる。なお、「セパレーターとフレームとの間」または「高分子電解質膜またはMEAとフレームとの間」の主なシールの目的は、ガスの混合や漏れを防ぐことであり、隣り合うセパレーター同士との間のシールの目的はガスの漏れを防ぐことと冷却水流路から外部に冷却水が漏洩することを防ぐことである。
【0060】
<シール方法>
本発明の硬化性樹脂組成物を用いたシール手法としては、特に限定されないが、代表的には、FIPG(フォームインプレイスガスケット)、CIPG(キュアーインプレイスガスケット)、MIPG(モールドインプレイスガスケット)、液体射出成形などが挙げられる。
【0061】
FIPGとは、被シール部品のフランジに本発明の硬化性樹脂組成物を自動塗布装置などにより塗布し、もう一方のフランジと貼り合わせた状態で、加熱または活性エネルギー線を照射して、硬化性樹脂組成物を硬化させて、接着シールする手法である。より具体的には、少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方が熱が伝導可能または活性エネルギー線を透過可能であり、前記フランジの少なくとも一方の表面に、上述した硬化性樹脂組成物を塗布する工程、前記硬化性樹脂組成物を塗布した一方のフランジと他方のフランジとを前記硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせる工程、及び、加熱してまたは活性エネルギー線を前記活性エネルギー線透過可能なフランジを通して照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とするシール方法である。
【0062】
CIPGとは、被シール部品のフランジに本発明の硬化性樹脂組成物を自動塗布装置などによりビード塗布し、加熱または活性エネルギー線を照射して、硬化性樹脂組成物を硬化させてガスケットを形成する。そして、もう一方のフランジと貼り合わせて、圧縮シールする手法である。より具体的には、少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方のフランジに、上述した硬化性樹脂組成物を塗布する工程、前記塗布した硬化性樹脂組成物を加熱して、又は、活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなるガスケットを形成する工程、他方のフランジを前記ガスケット上に配置して、硬化性樹脂組成物を塗布した一方のフランジと前記他方のフランジとを前記ガスケットを介して圧着し、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とするシール方法である。
【0063】
MIPGとは、予め被シール部品のフランジに金型を圧接し、光透過可能な材質の金型とフランジ間に生じたキャビティーに硬化性樹脂組成物を注入し、加熱または活性エネルギー線を照射して、ガスケットを形成する。そして、もう一方のフランジと貼り合わせて、圧縮シールする手法である。また、ガスケット形成後、金型から取り出しやすくするために金型には、予めフッ素系、シリコーン系などの離型剤を塗布しておくことが好ましい。より具体的には、少なくとも2つのフランジを有する被シール部品の当該少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする方法であって、前記フランジの少なくとも一方のフランジ上にガスケット形成用金型を配置する工程、前記ガスケット形成用金型と該金型を配置したフランジとの間の空隙の少なくとも一部に上述した硬化性樹脂組成物を注入する工程、前記硬化性樹脂組成物を加熱して、又は、前記活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂組成物を硬化させ、前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなるガスケットを形成する工程、前記金型を前記一方のフランジから取り外す工程、他方のフランジを前記ガスケット上に配置して、前記一方のフランジと前記他方のフランジとを前記ガスケットを介して圧着し、前記少なくとも2つのフランジの間の少なくとも一部をシールする工程、を含むことを特徴とするシール方法である。
【0064】
液体射出成形とは、本発明の硬化性樹脂組成物を特定圧力により金型に流し込み、加熱または活性エネルギー線を照射して、ガスケットを形成する。そして、もう一方のフランジと貼り合わせて、圧縮シールする手法である。また、ガスケット形成後、金型から取り出しやすくするために金型には、予めフッ素系、シリコーン系などの離型剤を塗布しておくことが好ましい。
【実施例
【0065】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細の説明をするが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
<硬化性樹脂組成物の調製>
各成分を表1及び2に示す質量部で採取し、常温(25℃)にてプラネタリーミキサーで60分混合し、硬化性樹脂組成物を調製し、各種物性に関して次のようにして測定した。尚詳細な調製量は表1及び2に従い、数値は質量部で表記する。但し、(C)成分のみμl表記である。なお、(B)成分の添加量は、1.6当量比(ヒドロシリル基/炭素-炭素二重結合)に相当するものである。前記炭素-炭素二重結合とは、(A)成分に含まれるアルケニル基と(D)成分に含まれるビニルエーテル基の合計量を意味する。
【0067】
<(A)成分>
a1:25℃で1700Pa・sである両末端にアルケニル基を有するポリイソブチレン(EPION 400A、株式会社カネカ製)
a2:25℃で、660Pa・sである両末端にアルケニル基を有するアクリル系重合体(OR-100A、株式会社カネカ製)
<(B)成分>
b1:ヒドロシリル基含有化合物(CR-300、株式会社カネカ製)
<(C)成分>
c1:白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のイソプロピルアルコール溶液(Pt-VTS-3.0IPA、ユミコアプレシャスメタルズジャパン株式会社製)
<(D)成分>
d1:シクロヘキサンジビニルエーテル(CHDVE、日本カーバイド工業株式会社製)
d2:トリエチレングリコールシビニルエーテル(TEGDVE、日本カーバイド工業株式会社製)
d3:ジエチレングリコールジビニルエーテル(DEGDVE、日本カーバイド工業株式会社製)
d4:1,4-ブチレンジビニルエーテル (BDVE、日本カーバイド工業株式会社製)
<(D)成分の比較成分>
d’1:シクロヘキサンモノビニルエーテル (CHVE、日本カーバイド工業株式会社製)
d’2:トリビニルシクロヘキサン(試薬)
<可塑剤>
可塑剤1:ポリアルファオレフィン系可塑剤(SpectraSyn10 ExxonMobil製)
可塑剤2:アクリル系可塑剤(UP-1000 東亜合成株式会社製)
<その他>
・マレイン酸ジメチル(試薬)
・球状シリカ(平均粒径3μm)
【0068】
表1の実施例、比較例において実施した試験方法は下記の通りである。
【0069】
<粘度測定方法>
コーンプレート型粘度計(ブルックフィールド社製)により下記の測定条件に基づき硬化性樹脂組成物の粘度(Pa・s)を測定した。下記の基準に基づき評価し、結果を表1に示す。粘度は、800Pa・s以下が好ましく、特に好ましくは700Pa・s以下である。
[測定条件]
コーン型CPE-52、回転数 0.5rpm、せん断速度 1.0 1/s、温度 25℃
【0070】
<硬さの測定>
硬化性樹脂組成物の厚さを2mmに設定し、130℃にて1時間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作製する。A型デュロメータ(硬度計)の加圧面を試験片(シート状の硬化物を3枚重ねて、厚さ6mmに設定した状態のもの)に対して平行に保ちながら、10Nの力で押しつけ、加圧面と試料とを密着させる。測定時に最大値を読み取り、最大値を「硬さ」(ショアA硬さ)とする。詳細はJIS K 6253(2012)に従う。なお、硬さ(ショアA硬さ)は30以上が好ましく、35以上がより好ましい。
【0071】
<引張強さ測定>
硬化性樹脂組成物の厚さを2mmに設定し、130℃にて1時間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作成する。3号形ダンベルで打ち抜いてテストピースを作製する。テストピースの長軸とチャックの中心が一直線になる様に、テストピースの両端をチャックに固定する。引張速度50mm/minでテストピースを引張り、最大荷重を測定する。当該最大荷重時の強度を「引張強さ(MPa)」とする。詳細はJIS K 6251(2010)に従う。なお、引張強さは2.0MPa以上が好ましく、2.5MPa以上がより好ましい。
【0072】
<硬化物の伸び率の測定方法>
硬化性樹脂組成物の厚さを2mmに設定し、130℃にて1時間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作成する。3号形ダンベルで打ち抜いてテストピースを作製し、20mm間隔の標線をテストピースに記入する。
引張強さの測定と同じ要領でチャックに固定して、引張速度500mm/minで試験片の切断に至るまで引っ張る。測定時にテストピースが伸びて標線の間隔の広がるため、テストピースが切断されるまでノギスにより標線の間隔を計測する。初期の標線間隔を基準として、伸びた割合を「伸び率(%)」とする。下記の基準に基づき評価し、結果を表1に示す。なお、伸び率は200%以上が好ましく、230%以上がより好ましい。
【0073】
【0074】
表1の実施例1~4によれば、本発明は、低粘度でありながら、高伸張性、高引張強度等の特性を有していることがわかった。
【0075】
一方で比較例1は、本発明の(D)成分を除いたものであるが、粘度が高く、引張強度も劣る結果であった。比較例2,3は、本発明の(D)成分ではないd’1、d’2を用いた組成物であるが、硬さが柔らかく、引張強度も劣る結果であった。
【0076】
<水素ガスバリア性試験>
実施例1の硬化性樹脂組成物の厚さを2mmに設定し、130℃にて1時間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作成する。その硬化物を用いてJIS K7126-1:2006(プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法)に準拠し測定した。尚、試験の種類は圧力センサ法であり、条件は23℃、高圧側の試験ガス(水素ガス)は100kPa、厚さ1mmシートにて測定し、下記評価基準に基づき評価した。結果は、1×10-14mol・m/m2・s・Pa未満であり、燃料電池用シール剤として使用可能なことが確認できた。
【0077】
次に、(A)成分のa1(両末端にアルケニル基を有するポリイソブチレン)からa2(両末端にアルケニル基を有するアクリル系重合体)に変更した硬化性組成物について検証した。(表2参照)
【0078】
・実施例5の調製
さらに、実施例1において(A)成分のa1をa2に変更し、かつ、可塑剤1を可塑剤2に変更した以外は、実施例1と同様にして調製して実施例5を得た。(表2参照)
【0079】
・比較例4の調製
比較例1において(A)成分のa1をa2に変更し、かつ、可塑剤1を可塑剤2に変更した以外は、比較例1と同様にして調製して比較例4を得た。(表2参照)
【0080】
表2の実施例5、比較例4において実施した試験方法は上記実施例1~4等で行った試験方法と同じである。但し、硬さ(ショアA硬さ)は10以上が好ましく、12以上がより好ましく、引張強さは1.0MPa以上が好ましく、1.2MPa以上がより好ましい。
【0081】
表2
【0082】
表2の実施例5によれば、(A)成分のa1をa2に変更した場合も実施例1~4と同様に低粘度でありながら、高伸張性、高引張強度等の特性を有していることがわかった。
一方で比較例4は、本発明の(D)成分を除いたものであるが、粘度が高く、引張強度も劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の硬化性樹脂組成物は、低粘度でありながら、高伸張性、高引張強さ、水素ガスバリア性等の特性を有することから、シール剤、接着剤、コーティング剤、注型剤、ポッティング剤等各種用途で用いることができ産業上有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 固体高分子形燃料電池のセル
2 セパレーター
3a 空気極(カソード)
3b 燃料極(アノード)
4 高分子電解質膜
5 電解質膜電極接合体(MEA)
6 フレーム
7 接着剤またはシール剤
8a 酸化ガス流路
8b 燃料ガス流路
9 冷却水の流路
10 セルスタック
11 固体高分子形燃料電池
図1
図2