(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】車両の後部車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 37/02 20060101AFI20220818BHJP
B60J 5/10 20060101ALN20220818BHJP
【FI】
B62D37/02 C
B60J5/10 Z
(21)【出願番号】P 2018085535
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】西田 周平
(72)【発明者】
【氏名】久我 秀功
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6256587(JP,B1)
【文献】特開2015-085709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 37/02
B60J 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤウインドガラスとこのリヤウインドガラスの上端側部分を覆うスポイラとを有し且つ後部荷室開口を開閉可能なリフトゲートを備えた車両の後部車体構造において、
前記スポイラが、車幅方向に延びるルーフスポイラと、前記ルーフスポイラの左右両端部から夫々下方に延びる左右1対のサイドスポイラとを有し、
前記サイドスポイラの後側縁部は、前記リヤウインドガラスの車幅方向端部の中段部から上方に延び且つ車体前後方向に対して略直交するように形成され
、
車体前後方向に延びる左右1対のルーフサイドレールを有し、
前記1対のルーフサイドレールは、車幅方向外側に配置されたルーフサイドレールアウタと、このルーフサイドレールアウタと協働して車体前後方向に延びる閉断面を構成するルーフサイドレールインナとを夫々備え、
前記ルーフサイドレールアウタの車幅方向外側部分に前後方向に延びる車幅方向内側に凹入した溝部が形成され、
前記溝部の後側縁部と前記サイドスポイラの前側縁部とが車体前後方向に連続するように前記サイドスポイラが配設されたことを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項2】
前記後側縁部の上端部が、前記ルーフスポイラの後端部よりも前側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項3】
前記後側縁部は、車両後方に設定された所定の基準点から上端部までの距離と前記基準点から下端部までの距離が略等しくなるように形成され、
前記
基準点は、車両を通過した気流が集合する付着点であって、車両のウエストライン上において、車幅方向における車両中心線と車幅方向の最も外側位置を通る線との交差角度が約16度になる点に設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の後部車体構造。
【請求項4】
前記後側縁部は、
走行に伴って車体ルーフ上面を流れるルーフ気流と車体側壁上面を流れる側壁気流を分離するように形成されたことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の後部車体構造。
【請求項5】
前記溝部は、車体前後方向後側程、上下方向幅が広く形成され、
前記溝部の後側縁部の下端部は、車体上下方向において前記サイドスポイラの前側縁部の略中央位置よりも下方に位置することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の車両の後部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後部車体構造に関し、特にリヤウインドガラスの上端側部分を覆うスポイラを有する車両の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の運動性能及び燃費改善に係る主要項目である空気抵抗の低減のため、リヤスポイラが多く実用に供されている。
通常、このリヤスポイラは、リヤウインドガラスの上端側部分を覆うと共に車幅方向に延びるルーフスポイラと、このルーフスポイラの左右両端部から夫々下方に延びる左右1対のサイドスポイラとによって構成されている。
【0003】
図10に示すように、走行中の車両後方領域には、ルーフ上面を流れる空気流(以下、ルーフ気流という)に車体側壁上面を流れる空気流(以下、側壁気流という)が巻き込まれて後方に螺旋状に延びる左右1対の後流渦(トレーリングボルテックスともいう)が形成されている。これら1対の後流渦によって挟まれた領域は殆ど空気が運動しない負圧領域(死水領域)を形成しているため、車両に対して後方に動かそうとする抗力を作用させ、運動エネルギーロスの大きな要因になっている。
リヤスポイラは、ルーフ気流と側壁気流をルーフスポイラとサイドスポイラを用いて車体から一気に引き剥がすことにより、車両後方に生成される後流渦を抑制(小さく)する機能を有している。
【0004】
特許文献1の自動車の後部車体構造は、車幅方向に延びるルーフスポイラと、このルーフスポイラの左右両端部から夫々下方に延びる左右1対のサイドスポイラとを備え、サイドスポイラの車幅方向外側面に、側壁気流剥離用の外側稜線部が上下方向に延設され、稜線部の突起よりも車幅方向内側に、内側稜線部を備え且つ後方に延びる延長部を形成している。これにより、外側稜線部が側壁気流を直ちに剥離させると共に内方に向かう横風を内側稜線部にて剥離し、空力特性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の自動車の後部車体構造は、外側稜線部が側壁気流を直ちに剥離させることにより空力特性を改善することができる。
しかし、特許文献1のように、サイドスポイラの後側縁部が後側程下方に移行するように形成された場合、運動エネルギーロスを十分に低減することができない虞がある。
【0007】
本発明者が検討した結果、高速のルーフ気流と低速の側壁気流の速度差に基づき後流渦が生成され、これら気流の速度差が大きい程後流渦が大きく(強く)なることが判明した。
つまり、ルーフサイドレール近傍を後方に流れる側壁気流が、サイドスポイラの後側縁部の上端部から下端部に沿って次第に剥離することに伴い側壁気流の流速が徐々に低下するため、流速の低下に応じてルーフ気流に巻き込まれる側壁気流が増加し、結果的に後流渦の生成抑制効果が目減りすることになる。
従って、走行抵抗となる後流渦の生成抑制効果を確保するため、車両の後部車体構造には更なる改善が必要である。
【0008】
本発明の目的は、車両後方に生じる後流渦に起因した走行抵抗を低減可能な車両の後部車体構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両の後部車体構造は、リヤウインドガラスとこのリヤウインドガラスの上端側部分を覆うスポイラとを有し且つ後部荷室開口を開閉可能なリフトゲートを備えた車両の後部車体構造において、前記スポイラが、車幅方向に延びるルーフスポイラと、前記ルーフスポイラの左右両端部から夫々下方に延びる左右1対のサイドスポイラとを有し、前記サイドスポイラの後側縁部は、前記リヤウインドガラスの車幅方向端部の中段部から上方に延び且つ車体前後方向に対して略直交するように形成され、車体前後方向に延びる左右1対のルーフサイドレールを有し、前記1対のルーフサイドレールは、車幅方向外側に配置されたルーフサイドレールアウタと、このルーフサイドレールアウタと協働して車体前後方向に延びる閉断面を構成するルーフサイドレールインナとを夫々備え、前記ルーフサイドレールアウタの車幅方向外側部分に前後方向に延びる車幅方向内側に凹入した溝部が形成され、前記溝部の後側縁部と前記サイドスポイラの前側縁部とが車体前後方向に連続するように前記サイドスポイラが配設されたことを特徴としている。
【0010】
この車両の後部車体構造では、前記スポイラが、車幅方向に延びるルーフスポイラと、前記ルーフスポイラの左右両端部から夫々下方に延びる左右1対のサイドスポイラとを有するため、リヤウインドガラスに作用する揚力及び抗力を低減しつつ、ルーフ上面を流れるルーフ気流をルーフスポイラの後側縁部から剥離させ、車体側壁上面を流れる側壁気流をサイドスポイラの後側縁部から剥離させることができる。
サイドスポイラの後側縁部は、前記リヤウインドガラスの車幅方向端部の中段部から上方に延び且つ車体前後方向に対して略直交するように形成されているため、ルーフサイドレール近傍を流れる側壁気流を略同時に車体から剥離させることにより、流速低下を抑制することができ、ルーフ気流に巻き込まれる側壁気流を低減することができる。
また、ルーフサイドレール近傍を流れる側壁気流を溝部を介して集合しているため、側壁気流がサイドスポイラの後側縁部に到達する前において側壁気流の流速を高めてルーフ気流と側壁気流の速度差を縮小することができ、集合された側壁気流をサイドスポイラの後側縁部に強制的に誘導することができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記後側縁部の上端部が、前記ルーフスポイラの後端部よりも前側に配置されたことを特徴としている。
この構成によれば、側壁気流の剥離タイミングをルーフ気流の剥離タイミングよりも早くすることができ、一層ルーフ気流に巻き込まれる側壁気流を低減することができる。
【0012】
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記後側縁部は、車両後方に設定された所定の基準点から上端部までの距離と前記基準点から下端部までの距離が略等しくなるように形成され、前記基準点は、車両を通過した気流が集合する付着点であって、車両のウエストライン上において、車幅方向における車両中心線と車幅方向の最も外側位置を通る線との交差角度が約16度になる点に設定されたことを特徴としている。
この構成によれば、サイドスポイラの後側縁部の角度設定を容易に行うことができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1~3の何れか1項の発明において、前記後側縁部は、走行に伴って車体ルーフ上面を流れるルーフ気流と車体側壁上面を流れる側壁気流を分離するように形成されたことを特徴としている。
この構成によれば、側壁気流とルーフ気流とを確実に分断することができ、後流渦の影響を抑制することができる。
請求項5の発明は、請求項1~4の何れか1項の発明において、前記溝部は、車体前後方向後側程、上下方向幅が広く形成され、前記溝部の後側縁部の下端部は、車体上下方向において前記サイドスポイラの前側縁部の略中央位置よりも下方に位置することを特徴としている。
この構成によれば、走行抵抗を一層低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両の後部車体構造によれば、車両後方に生じる後流渦に起因した走行抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1に係る車両の後部車体構造の斜視図である。
【
図7】サイドスポイラの後側縁部に係る設定方法の説明図である。
【
図8】比較例モデルに係る後方気流の解析結果である。
【
図9】実施例モデルに係る後方気流の解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
以下、本発明の実施例1について
図1~
図9に基づいて説明する。
図1~
図3に示すように、本実施例の車両Vは、車体後部に跳ね上げ式のリフトゲート1を有する4ドアハッチバックタイプの乗用車である。
以下の説明において、矢印F方向を前側とし、矢印L方向を左側とし、矢印U方向を上側として説明を行う。
【0019】
まず、車両Vの基本構成について説明する。
図1~
図3に示すように、この車両Vは、フロントウインドガラスを支持する左右1対のフロントピラー2と、左右1対のセンタピラー(図示略)と、左右1対のリヤピラー3とを備え、これらのピラーによってルーフ部4を支持している。
フロントピラー2とセンタピラーとの間にフロントドア5が回動可能に枢支され、センタピラーとリヤピラー3との間にリヤドア6が回動可能に枢支されている。
【0020】
フロントピラー2の前方下側部分には、フロントピラー2に連なるフロントフェンダー7が配設され、リヤピラー3の後方下側領域には、リヤピラー3に連なるリヤフェンダー8が配設されている。フロントピラー2、リヤピラー3、フロントドア5、リヤドア6のアウタパネル及びフロントフェンダー7、リヤフェンダー8によって車両Vの側壁に相当する左右1対のサイドパネルSが構成されている。
【0021】
ルーフ部4は、前後に延びる左右1対のルーフサイドレール9と、これら1対のルーフサイドレール9の前端部同士を連結するフロントヘッダ(図示略)と、1対のルーフサイドレール9の後端部同士を連結するリヤヘッダ(図示略)と、1対のルーフサイドレール9間を全域に亙って上方から覆う略矩形状のルーフパネル10等を備えている。
【0022】
図3に示すように、1対のルーフサイドレール9は、後側程車幅方向の離隔距離が狭くなるように形成されている。
図4に示すように、ルーフサイドレール9は、車幅方向外側に配置されたルーフサイドアウタ9aと、このルーフサイドアウタ9aと協働して前後に延びる閉断面を構成するルーフサイドインナ9bとを有している。この閉断面の図心を連ねた延長線Lは、フロントピラー2の上端部から後側程下方に移行するように緩湾曲状に形成されている。
図1~5に示すように、ルーフサイドアウタ9aの上半部は、延長線Lに沿って前後に延びる溝部9gを有している。この溝部9gは、後側程、上下寸法(上下幅)が大きく且つ深さ寸法が大きくなる(図心までの間隔が短くなる)ように形成されている。
【0023】
次に、リフトゲート1について説明する。
図1~
図3に示すように、リフトゲート1は、後部荷室開口を開閉可能に構成されている。このリフトゲート1は、金属製インナパネル(図示略)と、金属製アウタパネル11と、左右1対のリヤピラーレインフォースメント(図示略)と、リヤウインドガラス12と、合成樹脂製(例えば、ポリカーボネート樹脂、ABS等)のリヤスポイラ20等を備え、側面視にて略湾曲状に形成されている。
アウタパネル11は、リフトゲート1の上端側部分を除く領域の外表面を構成し、リヤコンビランプの内側ランプ部やリヤワイパ機構等が装着されている。
【0024】
次に、スポイラ20について説明する。
スポイラ20は、リヤウインドガラス12の上端側部分を覆うように、アウタパネル11と協働してリフトゲート1の外表面の一部を構成している。
図1~
図3,
図5,
図6に示すように、スポイラ20は、略水平状のルーフスポイラ21と、このルーフスポイラ21の左右両端から夫々下方に延びる左右1対の略鉛直状のサイドスポイラ22を有している。
【0025】
図2に示すように、ルーフスポイラ21は、側面視にて、ルーフパネル10の後端部から後方に張り出している。このルーフスポイラ21は、その上面がルーフパネル10の上面に交差角度を形成することなく連なると共に、リヤウインドガラス12からの上下方向距離が後側程大きくなるように構成されている。
ルーフスポイラ21の後部には、リヤコンビランプのストップランプと同期して点灯するハイマウントストップランプが装備されている。
【0026】
図3に示すように、ルーフスポイラ21の左右両端部は、平面視にて、ルーフパネル10の左右両端部の延長線上に沿うように略湾曲状に形成されている。ルーフスポイラ21の車幅方向に延びる後側縁部21eは、リヤウインドガラス12の下端部に沿うように形成され、左右両端側部分に比べて中央部分が最も後方に配設されている。
これにより、ルーフパネル10の上面を流れるルーフ気流をルーフスポイラ21の後側縁部21eから剥離させ、リヤウインドガラス12の上面を流れるルーフ気流に起因した揚力と抗力を低減している。
【0027】
図1~
図3,
図5,
図6に示すように、1対のサイドスポイラ22は、側面視にて、略三角形状に夫々構成されている。
サイドスポイラ22の前側縁部22f及び後側縁部22eは、ルーフサイドレール9の溝部9gの後方延長線上に対応(重畳)するように夫々形成されている。
後側縁部22eの上端部22aは、側面視にて下端部22bよりも前側位置且つ後側縁部21eの後端部よりも前側位置に配設されている。
尚、本実施例では、下端部22bと後側縁部21eの後端部は、略同じ前後方向位置に配置している。
【0028】
略直線状の後側縁部22eは、リヤウインドガラス12の左右端部の中段部から上方に延び且つ前後方向に対して略直交するように形成されている。
本実施例において、略直交とは、デザイン条件や公差等を考慮して、75°~90°の角度範囲を含むものとしている。
【0029】
ここで、後側縁部22eの設定方法について説明する。
後側縁部22eは、車両Vを通過した気流が集合する付着点を基準点Bとしたとき、基準点Bから上端部22aまでの距離Laと、基準点Bから下端部22bまでの距離Lbとが略等しくなるように上端部22aと下端部22bの位置を設定している。
具体的には、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、ウエストライン(車高の略6割の高さ位置)上において、車幅方向中心線と車幅方向の最も外側位置を通る線との交差角度が約16°になる点を基準点Bに設定する。この基準点Bから等距離となる位置に上端部22a及び下端部22bを設定している。
【0030】
次に、上記車両の後部車体構造の作用、効果について説明する。
作用、効果の説明にあたり、CAD(Computer Aided Design)データに基づき計算された三次元CFD(Computational Fluid Dynamics)モデルを作成し、検証実験を行った。この検証実験では、実施例1と同仕様の実施例モデルと、サイドスポイラの後側縁部の傾斜角度が30°である以外実施例1と同仕様の比較例モデルを準備し、走行時における各々の気流について解析した。尚、実施例1と同様の構成については、実施例1と同じ符号を用いて説明する。
【0031】
図8及び
図9に解析結果を示す。
図8に示すように、比較例モデルでは、左右のサイドパネルSの中段上を流れる側壁気流の主流(主側壁気流)が、ルーフパネル10上を流れるルーフ気流に夫々巻き込まれる。
これにより、左右各々の主側壁気流がルーフ気流と合成され、車体後方に気流の乱れ、所謂左右1対の主後流渦が生成される。
【0032】
左右のルーフサイドレール9近傍のサイドパネルS上を夫々流れる左右の側壁気流(上部側壁気流)は、サイドスポイラの後側縁部によって時間差を持って徐々に車体から剥離されるため、速度が低下すると共に旋回方向の移動ベクトルが与えられる。
これにより、スパイラル運動を開始した上部側壁気流は、ルーフパネル10上を流れるルーフ気流に夫々巻き込まれ、主後流渦よりも上方に左右1対の上部後流渦が生成される。
各々の後流渦同士の間には、空気が運動しない負圧領域(死水領域)が形成され、負圧の大きさは、後流渦が大きい程大きくなる傾向を有している。
【0033】
図9に示すように、実施例モデルでは、比較例モデルと同様に、左右各々の主側壁気流がルーフ気流と合成されて左右1対の主後流渦が生成されている。
ルーフサイドレール9の近傍を流れる左右の上部側壁気流は、サイドスポイラ22の後側縁部22eによって同時に車体から剥離されるため、速度低下が少なく、剥離後のスパイラル運動も抑制されている。それ故、ルーフ気流に巻き込まれる上部側壁気流が抑制されることから、主後流渦よりも上方に生成された左右1対の上部後流渦は、比較例モデルに比べて小さい。
【0034】
更に、サイドレール9近傍を流れる側壁気流は、溝部9gによって収束されるため、流速の低下を抑制された状態でサイドスポイラ22の後側縁部22eまで誘導されている。
これにより、後側縁部22eの上流側から下流側に亙ってサイドレール9近傍を流れる上部側壁気流の流速低下を回避し、気流の乱れを抑制している。
以上により、実施例モデルは、比較例モデルよりも後流渦の生成抑制効果が高いことが判明した。
【0035】
この後部車体構造によれば、スポイラ20が、左右に延びるルーフスポイラ21と、ルーフスポイラ21の左右両端部から夫々下方に延びる左右1対のサイドスポイラ22とを有するため、リヤウインドガラス12に作用する揚力及び抗力を低減しつつ、ルーフパネル10の上面を流れるルーフ気流をルーフスポイラ21の後側縁部21eから剥離させ、サイドパネルSの上面を流れる側壁気流をサイドスポイラ22の後側縁部22eから剥離させることができる。サイドスポイラ22の後側縁部22eは、リヤウインドガラス12の左右端部の中段部から上方に延び且つ車体前後方向に対して略直交するように形成されているため、ルーフサイドレール9近傍を流れる側壁気流を略同時に車体から剥離させることにより、流速低下を抑制することができ、ルーフ気流に巻き込まれる側壁気流を低減することができる。
【0036】
後側縁部22eの上端部22aが、ルーフスポイラ21の後端部よりも前側に配置されているため、側壁気流の剥離タイミングをルーフ気流の剥離タイミングよりも早くすることができ、一層ルーフ気流に巻き込まれる側壁気流を低減することができる。
【0037】
前後に延びる左右1対のルーフサイドレール9を有し、ルーフサイドレール9の車幅方向外側部分に前後方向に延びる車幅方向内側に凹入した溝部9gが形成され、溝部9gの後方延長線上にサイドスポイラ22が配設されている。
これにより、ルーフサイドレール9の近傍を流れる側壁気流を溝部9gを介して集合しているため、側壁気流がサイドスポイラ22の後側縁部22eに到達する前において側壁気流の流速を高めてルーフ気流と側壁気流の速度差を縮小することができ、集合された側壁気流をサイドスポイラ22の後側縁部22eに強制的に誘導することができる。
【0038】
後側縁部22eは、車両Vの後方に設定された所定の基準点Bから上端部22aまでの距離と基準点Bから下端部22bまでの距離が略等しくなるように形成されているため、サイドスポイラ22の後側縁部22eの角度設定を容易に行うことができる。
【0039】
後側縁部22eは、走行に伴ってルーフパネル10の上面を流れるルーフ気流とサイドパネルSの上面を流れる側壁気流を分離するように形成されているため、側壁気流とルーフ気流とを確実に分断することができ、後流渦の影響を抑制することができる。
【0040】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、ハッチバックタイプの乗用車の例を説明したが、セダンタイプの乗用車でも良く、車両タイプに拘らず適用することが可能である。
【0041】
2〕前記実施例においては、リヤスポイラをリフトゲートのアウタパネルと兼用した例を説明したが、リヤスポイラとリフトゲートのアウタパネルを分離し、リヤスポイラをオプション設定しても良い。
【0042】
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0043】
1 リフトゲート
9 ルーフサイドレール
9g 溝部
10 ルーフパネル
12 リヤウインドガラス
20 リヤスポイラ
21 ルーフスポイラ
22 サイドスポイラ
22e 後側縁部
V 車両
B 基準点