(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】褪色防止性組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20220818BHJP
D06M 13/00 20060101ALI20220818BHJP
D06M 13/352 20060101ALI20220818BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C09K3/00 104C
D06M13/00
D06M13/352
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2018013694
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】714008950
【氏名又は名称】白元アース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002778
【氏名又は名称】弁理士法人IPシーガル
(74)【代理人】
【識別番号】100069903
【氏名又は名称】幸田 全弘
(74)【代理人】
【識別番号】100101166
【氏名又は名称】斎藤 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100157509
【氏名又は名称】小塩 恒
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
(72)【発明者】
【氏名】石川 久登
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156804(JP,A)
【文献】特開2005-232607(JP,A)
【文献】特開2012-167382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線吸収剤及び溶媒を含む白色不透明又は白濁したエマルジョンと、
香料と、
界面活性剤と
を含有し、
前記紫外線吸収剤は、常温で液状の紫外線吸収剤又は紫外線吸収剤に対して油性成分を 加えて得られる混合物から選択され、
前記溶媒は、水、或いは水及びこれと相溶可能な溶媒との混合溶媒であ
り、
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選択されること
を特徴とする褪色防止性組成物。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤は、
常温で液状の紫外線吸収剤から選択されること
を特徴とする請求項
1に記載の褪色防止性組成物。
【請求項3】
前記溶媒は、
水であること
を特徴とする請求項1
又は2に記載の褪色防止性組成物。
【請求項4】
繊維製品及びこれを構成する繊維用であること
を特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の褪色防止性組成物。
【請求項5】
前記褪色防止性組成物は、
カチオン性の成分を含有しないこと
を特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の褪色防止性組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の褪色防止性組成物をスプレー容器に充填したこと
を特徴とするスプレー式褪色防止剤。
【請求項7】
イ.溶媒に紫外線吸収剤を溶解又は分散させ、それらを混合・乳化することによって、全体的に白色不透明を呈しているか、又は白濁しているエマルジョンを形成する工程
および
ロ.前記工程イ.で得られたエマルジョンに対して、香料と界面活性剤を添加し、それらを混合する工程
を含み、
前記紫外線吸収剤は、常温で液状の紫外線吸収剤又は紫外線吸収剤に対して油性成分を加えて得られる混合物から選択され、
前記溶媒は、水、或いは水及びこれと相溶可能な溶媒との混合溶媒であ
り、
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選択されること
を特徴とする褪色防止性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、褪色防止性組成物に関するものである。
より詳しくは、保存安定性に優れ、紫外線による褪色(退色)を防止または効果的に抑制することができる、各種繊維および繊維製品用として好適な褪色防止性組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類などの繊維製品においては、光(特に紫外線)の照射による褪色の問題があった。
【0003】
紫外線を遮蔽する目的で、二酸化チタンなどの無機系紫外線吸収・反射剤を合成繊維に含ませることが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1および2に開示されている繊維構造体または繊維は、紫外線から肌を守るためのもので、前記繊維からなる生地自体を透過する紫外線の遮蔽率が向上したものではあるが、生地自体の紫外線からの保護という点では不十分で、繊維の褪色を防止する観点からも不十分なものであった。
【0005】
繊維または繊維製品の褪色を防止する具体的な方法として、繊維や繊維製品を紫外線吸収剤で処理する方法が知られている。
【0006】
例えば、特開2007-177348号公報(特許文献3)においては、洗濯後に天日干し乾燥しても色柄物衣料等の退色を効果的に防止することができる繊維処理剤組成物が提案されている。
【0007】
この繊維処理剤組成物は、(A)ゼオライト、(B)キレート剤、及び(C)紫外線吸収剤及び/又は有機酸化防止剤を含有し、(A)/(B)=3/2~1/9(質量比)であるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平05-148734号公報
【文献】特開平06- 2219号公報
【文献】特開2007-177348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、繊維を、単に紫外線吸収剤で処理する場合、繊維全面を処理することになり不経済となる傾向にあるという問題や、紫外線吸収剤が光などにより経時劣化するため、長期に亘って褪色防止効果が得られないおそれがあるという問題があった。
【0010】
前記特許文献3に開示されている繊維処理剤組成物では、これに含まれるゼオライトの配合量が、特に実施例においては8%以上と高いため、特に衣類などの繊維製品に対して処理した場合には、その表面に繊維処理剤組成物が残留して外観不良を引き起こすおそれがあるという問題があった。
さらに、前記特許文献3に開示されている繊維処理剤組成物は、噴霧器との相性から判断すると、噴霧による処理は実質的に困難であるため、その取り扱い性において、さらなる改善が求められる。
【0011】
さらに、紫外線吸収剤は、一般的には水系に難溶であり、これを有効量で水系製剤に含有させるためには、紫外線吸収剤の良溶媒となる有機溶剤を配合する必要があることから、この有機溶剤による臭気(溶剤臭)によって使用感が損なわれるという問題があった。
【0012】
さらにまた、溶剤臭のマスキングのための香料や、長期安定性を付与するための防腐剤など、各種添加剤を使用する場合、選択される添加剤によっては、紫外線吸収剤の沈殿が生じ、紫外線吸収剤の分散性および保存安定性に劣るという問題もあった。
【0013】
この発明はかかる現状に鑑み、繊維製品などの対象物の褪色を防止または効果的に抑制する作用効果を有し、分散性および保存安定性に優れ、簡便に使用することができる褪色防止性組成物およびその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
紫外線吸収剤及び溶媒を含む白色不透明又は白濁したエマルジョンと、
香料と、
界面活性剤と
を含有し、
前記紫外線吸収剤は、常温で液状の紫外線吸収剤又は紫外線吸収剤に対して油性成分を加えて得られる混合物から選択され、
前記溶媒は、水、或いは水及びこれと相溶可能な溶媒との混合溶媒であり、
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選択されること
を特徴とする褪色防止性組成物である。
【0015】
この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の褪色防止性組成物において、
前記紫外線吸収剤は、
常温で液状の紫外線吸収剤から選択されること
を特徴とするものである。
【0016】
この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の褪色防止性組成物において、
前記溶媒は、
水であること
を特徴とするものである。
【0017】
この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1~3のいずれかに記載の褪色防止性組成物において、
前記褪色防止性組成物は、
繊維製品及びこれを構成する繊維用であること
を特徴とするものである。
【0018】
この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項1~4のいずれかに記載の褪色防止性組成物において、
前記褪色防止性組成物は、
カチオン性の成分を含有しないこと
を特徴とするものである。
【0019】
この発明の請求項6に記載の発明は、
請求項1~5のいずれかに記載の褪色防止性組成物をスプレー容器に充填したこと
を特徴とするスプレー式褪色防止剤である。
【0020】
この発明の請求項7に記載の発明は、
イ.溶媒に紫外線吸収剤を溶解又は分散させ、それらを混合・乳化することによって、全体的に白色不透明を呈しているか、又は白濁しているエマルジョンを形成する工程
および
ロ.前記工程イ.で得られたエマルジョンに対して、香料と界面活性剤を添加し、それらを混合する工程
を含み、
前記紫外線吸収剤は、常温で液状の紫外線吸収剤又は紫外線吸収剤に対して油性成分を加えて得られる混合物から選択され、
前記溶媒は、水、或いは水及びこれと相溶可能な溶媒との混合溶媒であり、
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選択されること
を特徴とする褪色防止性組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
この発明の褪色防止性組成物は、紫外線吸収剤及び溶媒を含むエマルジョンと、香料と、界面活性剤を含有するものである。
この褪色防止性組成物は、前記紫外線吸収剤および溶媒がエマルジョンの形態にあり、かつ、このエマルジョンは、全体的に白色不透明を呈しているか、または白濁している、すなわち、その液滴径が1μmよりも大きく100μm以下のものである。
したがって、優れた分散性および保存安定性を有し、かつ対象物としての繊維製品やこれを構成する繊維などに対して塗布や噴霧等した場合であっても、繊維間隙への浸透・沈着が抑制され、繊維表面に前記紫外線吸収剤の皮膜を形成する作用効果を有する。
【0022】
なお、この発明において、前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選択される。
【0023】
さらに、前記褪色防止性組成物においては、前記紫外線吸収剤、特に前記常温で液状の紫外線吸収剤または前記油性成分からの臭気が良好にマスキングされるので、処理対象に適用する場合であっても、処理後において、処理対象の使用感が損なわれることがない。
したがって、繊維製品などの処理対象(対象物)において、極めて優れた褪色防止効果が発揮される。
【0024】
前記褪色防止性組成物は、好ましくは繊維製品およびこれを構成する繊維に対して適用される。
この場合には、繊維表面にのみ前記紫外線吸収剤を含むエマルジョンの皮膜が形成されやすく、効率的に繊維または繊維製品に褪色防止効果を付与することができる。
【0025】
なお、前記褪色防止性組成物は、液状の組成物であり、これをスプレー容器に充填して、スプレー式の褪色防止剤として使用することができるものである。
【0026】
この発明の褪色防止性組成物の製造方法は、溶媒に紫外線吸収剤を溶解又は分散させ、それらを混合・乳化することによって、全体的に白色不透明を呈しているか、又は白濁しているエマルジョンを形成する工程(イ)ならびに前記工程(イ)で得られたエマルジョンに対して、香料と界面活性剤を添加し、それらを混合する工程(ロ)を含むもので、この製造方法によれば、分散安定性および褪色防止性に優れた褪色防止性組成物を簡単な操作で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明にかかる褪色防止性組成物を実施するための形態を、詳細に説明するが、この発明は、これらに限定されるものではない。
【0028】
この発明の褪色防止性組成物は、液状で、好ましくは繊維製品およびこれを構成する繊維用のものであって、紫外線吸収剤と溶媒をエマルジョンの形態で含み、さらに、香料と界面活性剤を含むものである。
【0029】
前記紫外線吸収剤は、紫外線吸収作用を有するものであれば、特に限定されることなく使用することができる。
【0030】
なお、前記紫外線吸収剤のうち、紫外線散乱剤に包含されるものは選択しないことが好ましい。
前記紫外線散乱剤は、褪色防止効果を付与する点において不十分であり、繊維製品などの処理対象に処理した後、その表面に前記紫外線散乱剤の粒子が露出し、不良が発生する等の傾向にある。
【0031】
前記紫外線吸収剤としては、
例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2,2-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン-5,5’-ジスルホン酸等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス[4-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコ-ルとの反応生成物等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;フェニルサリシレート、p-t-ブチルフェニルサリシレ-ト、p-オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤;2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤;トリアジン系紫外線吸収剤、蓚酸アニリド系紫外線吸収剤、アミノ安息香酸系紫外線吸収剤、ケイ皮酸系紫外線吸収剤など
が挙げられる。
【0032】
これらの中では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を選択することが好ましく、常温で液状の紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤を適当な油性成分に溶解または分散させたものを選択することもできる。
【0033】
前記油性成分は、液状の油性成分であれば、特に限定されることなく使用することができる。
【0034】
前記油性成分としては、
例えば、流動パラフィン、ミネラルオイル、スクワレン等の炭化水素油;マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、オリーブ油、ホホバ油、ナタネ油、ヒマシ油、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、スクワレン等の天然動植物油;ジャスミン油等の香油;イソパルミチン酸イソオクチル、イソノナン酸イソノニル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル等の液状エステル油;ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油など
が挙げられる。
【0035】
これらの紫外線吸収剤は、単独で配合してもよいし、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0036】
なお、前記紫外線吸収剤の含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%である。
含有量が0.01質量%未満の場合には、褪色防止効果を十分に発揮することができない傾向にある。
含有量が10質量%を超える場合には、処理後において、使用感の悪化や、外観の不良の発生の要因となる傾向にある。
【0037】
前記溶媒としては、水が最も好ましいが、水と相溶可能な溶媒が混合されていてもよい。
前記水と相溶可能な溶媒としては、
エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなど
が挙げられるが、アルコール類以外の有機溶剤を選択しないことが、より好ましい。
【0038】
水に対して前記水と相溶可能な溶媒を配合する場合において、前記水と相溶可能な溶媒の含有量は、溶剤臭の発生を防止する観点から、好ましくは10質量%未満であるが、より好ましくは水が前記水と相溶可能な溶媒を実質的に含まない(前記水と相溶可能な溶媒の含有量が1質量%未満となる)ようにする。
【0039】
前記褪色防止性組成物において、前記溶媒の含有量は、用途や選択される紫外線吸収剤により異なるが、組成物全体に対して、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
前記溶媒を55質量%以上含有させることにより、組成物の粘度が高くなりすぎるのを抑え、取り扱い易い粘度に保つことができ、処理後の使用感を良好にすることができる。
なお、前記溶媒の含有量は、97.0質量%以下であることが好ましい。
前記褪色防止性組成物は、前記溶媒を前記範囲で含有する場合には、適度な粘性を有し、付着性や処理後の使用感において優れたものとなる。
【0040】
この発明の褪色防止性組成物において、前記エマルジョンの形成は、前記紫外線吸収剤を含む油相と、前記溶媒を含む水相と、必要に応じて乳化剤とを混合し、通常用いられる公知の方法(乳化方法)を使用して行うことができるが、水中油(o/w)型エマルジョン又は油中水(w/o)型エマルジョンのどちらでもよい。
使用感の観点から、好ましくは水中油型エマルジョンとする。
【0041】
ここで、エマルジョンは、水相と油相のような互いに溶解しない液相の一方が、他の一方に微細な液滴として分散したもので、その液滴の径によって異なる外観を示す。
一般的には、エマルジョンの外観(液相)は、液滴径0.05μm未満の場合には透明であり、液滴径1~0.05μmの場合には青白色の半透明であり、液滴径が1μmよりも大きく100μm以下の場合には白色の不透明または白濁状である。
【0042】
前記褪色防止性組成物において、前記紫外線吸収剤と前記溶媒は、エマルジョンの形態で存在しているが、このエマルジョンは、その外観が白色不透明または白濁状の溶液となる、すなわち、その液滴径が1μmよりも大きく100μm以下となるよう調製されている。
このような構成によって、前記褪色防止性組成物は、対象物(繊維製品やこれを構成する繊維など)に塗布や噴霧等したときに、前記紫外線吸収剤と前記溶媒を含むエマルジョンが、繊維のμmオーダーの間隙に沈着または浸透することが抑制され、繊維表面に前記紫外線吸収剤を含むエマルジョンの皮膜が形成されるので、効率的に繊維または繊維製品に褪色防止効果を付与することができる。
したがって、前記エマルジョンは、対象物に対して、優れた褪色防止効果を付与することができるものである。
【0043】
なお、前記エマルジョンの液滴径は、レーザー散乱法(Mieの理論)を用いて測定することが可能であり、本書において、液滴径は、前記レーザー散乱法により測定した値である。
【0044】
この発明において、前記褪色防止性組成物には、さらに、マスキングなどを目的として
、この発明の目的および効果(褪色防止性や、保存安定性、外観、処理後の使用感等)を
阻害しない範囲で、香料が配合される。
【0045】
前記香料としては、前記常温で液状の紫外線吸収剤または前記油性成分からの臭気を良好にマスキングすることができるものであれば、特に限定されることなく、動物系、植物系、鉱物系の天然香料および合成香料のいずれのものも選択可能である。
【0046】
前記香料としては、
例えば、ローズ抽出エキス、カモミール抽出エキス、グリーンティー香料、ラベンダー油、ゼラニウム油、ジャスミン油、ベルガモット油、ムスク油、イランイラン油、リモネン、リナロール、β-フェニルエチルアルコール、2,6-ノナジエナール、シトラール、シクロペンタデカノン、オイゲノール、ローズオキサイド、インドール、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール、オーランチオールなど
が挙げられる。
【0047】
この発明において、前記香料を使用する場合、前記香料は、褪色防止性組成物中に界面活性剤と共に配合されていればよいが、分散安定性の観点から、好ましくは界面活性剤に配合した後、前記エマルジョンと混合することが好ましい。
【0048】
なお、前記香料の含有量は、この発明の目的および効果を阻害せず、かつ前記常温で液状の紫外線吸収剤または前記油性成分からの香りを良好にマスキングする等の作用効果が発揮される範囲であれば特に限定されず、使用する成分の種類に応じて適宜調整すればよい。
前記香料の含有量は、組成物全体に対して、例えば、0.01~5質量%であり、香りの強さの観点から、より好ましくは0.01~3質量%である。
【0049】
前記界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤であれば、何れも使用することができる。
好ましくはノニオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤から選択される。
これらの界面活性剤は、単独で配合してもよいし、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
カチオン系界面活性剤を使用する場合、良好な分散安定性が得られず、前記褪色防止性組成物に含まれる紫外線吸収剤の沈殿が生じて、外観不良の要因となる傾向にある。
【0050】
前記ノニオン系界面活性剤としては、
例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ヒマシ油及び硬化ヒマシ油誘導体;ポリオキシエチレンフィトステロール;ポリオキシエチレンコレステロール;ポリオキシエチレンコレスタノール;ポリオキシエチレンラノリン;ポリオキシエチレン還元ラノリン;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール;(ポリ)グリセリンポリオキシプロピレングリコール;グリセリン脂肪酸部分エステル類;エチレングリコールモノ脂肪酸エステル;プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル;ペンタエリスリトール部分脂肪酸エステル;ソルビトール部分脂肪酸エステル;マルチトール部分脂肪酸エステル;マルチトールエーテル;ソルビタン脂肪酸エステル;糖誘導体部分エステル;アルキルグルコシド;アルキルポリグリコシド;ラノリンアルコール;還元ラノリン;ポリオキシエチレン脂肪酸モノ及びジエステル;ポリオキシエチレン・プロピレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンメチルグルコシド脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン動植物油脂類;アルキルグリセリルエーテル類;多価アルコールアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアミン;テトラポリオキシエチレン・テトラポリオキシプロピレン-エチレンジアミン縮合物類;ポリオキシエチレン脂肪酸アミド;脂肪酸アルカノールアミド類;アルキルジメチルアミンオキシド;アルキルエトキシジメチルアミンオキシド;ポリオキシエチレンアルキルメルカプタン;シリコーン系ノニオン性界面活性剤
が挙げられる。
これらのノニオン系界面活性剤のうち、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油トリイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油マレイン酸等のヒマシ油及び硬化ヒマシ油誘導体を選択することが好ましい。
【0051】
前記アニオン系界面活性剤としては、
例えば、脂肪酸塩;アルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩;アシルN-メチルアミノ酸塩;アシルアミノ酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩;コハク酸エステル塩;脂肪酸アルカノールアミドエーテルカルボン酸塩;アシル乳酸塩;ポリオキシエチレン脂肪アミン硫酸塩;脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩;硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の脂肪酸グリセリド硫酸塩;アルキルベンゼンポリオキシエチレン硫酸塩;α-オレフィンスルホン酸ナトリウム等のオレフィンスルホン酸塩;アルキルスルホコハク酸塩;アルキルエーテルスルホコハク酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩;アシルイセチオン酸塩;アルキルグリシジルエーテルスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステル塩;アルキルリン酸エステル塩;カゼインナトリウム;アルキルアリールエーテルリン酸塩;脂肪酸アミドエーテルリン酸塩;リン脂質類;シリコーン系アニオン性界面活性剤など
が挙げられる。
これらのアニオン系界面活性剤のうち、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸トリエタノールアミンなどのポリオキシエチレンアルキル硫酸塩を選択することが好ましい。
【0052】
この発明の褪色防止性組成物には、さらに、この発明の目的および効果を阻害しない範囲で、防腐剤を配合することができる。
前記褪色防止性組成物が防腐剤を含む場合には、長期安定性が向上する。
【0053】
この発明の褪色防止性組成物には、必要に応じて、さらに、この発明の目的および効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を任意に添加することができる。
例えば、増粘剤、消臭剤、油剤、ゲル化剤、pH調整剤、酸化防止剤、色素などを適宜添加することができる。
【0054】
なお、前記褪色防止性組成物は、カチオン性ポリマーなどのカチオン性の成分を含まないことが好ましい。
前記褪色防止性組成物がカチオン性の成分を含む場合、良好な分散安定性が得られず、前記褪色防止性組成物に含まれる紫外線吸収剤の沈殿が生じて、外観不良の要因となる傾向にある。
【0055】
この発明の褪色防止性組成物の調製方法については、特に限定されず、種々の方法で調製可能である。
また、前記エマルジョンと各種成分の混合順序についても、特に限定されない。
好ましくは、溶媒に紫外線吸収剤を分散させた後、得られた分散体に対して公知の方法による均質化を施すことによって乳化を行い、エマルジョンを形成せしめた後、得られたエマルジョンに、予め界面活性剤に香料、必要に応じて各種添加剤を添加・混合したものを添加・混合して、この発明の褪色防止性組成物を調製することができる。このような調製方法によれば、前記褪色防止性組成物を、分散安定性に極めて優れたものとして得ることができる。
【0056】
さらに、かかる褪色防止性組成物は、液状であるが、必要に応じて配合される各種添加剤に応じて、任意の形態で使用することができ、その使用形態は特に限定されない。
例えば、液状の他、ゲル状、ジェル状、ミスト状、エアゾール状、エマルジョン状、サスペンション状の形態で使用することができる。
【0057】
前記褪色防止性組成物については、糸、織編物、織布、不織布、紙などの有機または無機繊維や、樹脂、衣料素材または衣類などの各種基材(対象)に適用することができるが、各種繊維および各種繊維製品に適用することが好ましい。
すなわち、前記褪色防止性組成物は、繊維もしくは繊維製品用の褪色防止剤として使用可能なものである。
【0058】
かかる繊維製品としては、特に限定はされないが、例えば、
スポーツウエア、Tシャツ、ポロシャツ、ブラウス、チノパン、スーツ、スラックス、スカート、肌着等の衣類や、タオルなど
を挙げることができる。
【0059】
さらに、繊維(前記繊維製品の素材)についても、特に限定はされないが、例えば、
綿、ウール、麻などの天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、テンセル、ポリノジックなどの再生繊維およびこれら各種繊維の混紡品、混織品、混編品など
を挙げることができる。
【0060】
前記各種基材に、前記褪色防止性組成物を、噴霧、塗布、吸着、混合、分散、乳化、混練、担持、浸透あるいは含浸等によって、対象となる基材の表面上に前記褪色防止性組成物の皮膜を形成させることで、褪色防止性を付与し、その結果、この基材における紫外線による褪色を防止または効果的に抑制することができる。
【0061】
なお、前記褪色防止性組成物を適用する方法としては、塗布や噴霧、含浸が好ましいが、噴霧がより好ましく、各種トリガースプレイヤー等の空気圧を利用した噴霧方法が考えられる。
すなわち、噴霧手段を備えた容器(スプレー容器)に充填してなるスプレー式の褪色防止剤として使用することが好適である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて、この発明を詳細に説明するが、この発明は、これらの実施例により制限されることはない。
【0063】
[実施例1~3および比較例1~6]
下記表1および2に示した組成に従い、下記製造方法により各種褪色防止性組成物を製造した。
なお、得られたエマルジョンの外観を、目視により評価した。
その結果を表3に示す。
【0064】
<製造方法>
(A)成分を(B)成分に分散させたものを、ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化し、均一なエマルジョンを得た。
得られたエマルジョンと(C)成分と(D)成分を混合し、撹拌して、褪色防止性組成物を得た。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
[試験例1]保存安定性の測定
上記実施例1~3および比較例1~6において得られた褪色防止性組成物について、下記評価方法に基づき、その液相の状態(外観)を目視により観察することによって、保存安定性の評価を行った。
その結果を表4に示す。
【0069】
<評価方法>
褪色防止性組成物を、25℃で1週間静置・保管した後、目視にて、この褪色防止性組成物中に沈殿や浮遊物などが発生しているかどうかを観察し、下記の評価基準に従って、外観の評価を行った。
【0070】
<評価基準>
○:沈殿や浮遊物などの発生が認められず、安定な分散状態を維持していたもの
×:沈殿や浮遊物などの発生が認められたもの
【0071】
【0072】
<結 果>
実施例1~3において得られた褪色防止性組成物では、沈殿や浮遊物などの発生が認められず、その外観は良好であった。
以上のことから、この発明の褪色防止性組成物は、優れた分散性と保存安定性を有することは明らかであり、香料を使用しているにもかかわらず、優れた分散性と保存安定性が得られるのは、この発明の褪色防止性組成物が、ノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤を含有するためであることも、明らかである。
【0073】
[実施例4]
上記実施例1において得られた褪色防止性組成物をスプレー容器に充填して、スプレー式の褪色防止剤を得た。
【0074】
[実施例5~6および比較例7~12]
実施例1において得られた褪色防止性組成物に代えて、実施例2~3または比較例1~6において得られた褪色防止性組成物を用いること以外は、実施例4と同様の方法により、スプレー式の褪色防止剤を製造した。
【0075】
[試験例2]臭気の評価
上記実施例4~6および比較例7~12において得られたスプレー式の褪色防止剤について、下記評価方法に基づき、褪色防止性組成物の臭気の有無の評価を行った。
その結果を表5に示す。
【0076】
<評価方法>
スプレー式の褪色防止剤から褪色防止性組成物200μL/100cm2を、ポリエステル生地に噴霧・乾燥し、試験片を作製した。
得られた試験片について、官能評価パネル5名に、その臭気の判定をしてもらい、下記の評価基準に従って官能評価を行った。
【0077】
<評価基準>
〇:臭気を全く感じない
△:1~2名のパネルが臭気を感じた
×:3名以上のパネルが臭気を感じた
【0078】
【0079】
<結 果>
実施例4~6において得られたスプレー式の褪色防止剤に充填されていた褪色防止性組成物、すなわち実施例1~3において得られた褪色防止性組成物には、いずれも臭気が感じられなかった。
これに対して、比較例7~12において得られたスプレー式の褪色防止剤に充填されていた褪色防止性組成物、すなわち比較例1~6において得られた組成物では、これに含まれるエタノールの臭気が比較的強いため、組成物に臭気が感じられた。
以上のことから、この発明の褪色防止性組成物は、適用される繊維製品の使用感に影響を及ぼさないものであることは、明らかである。
【0080】
[試験例3]褪色防止性の評価
上記実施例4~6および比較例7~12において得られたスプレー式の褪色防止剤について、下記測定方法に基づき、褪色防止剤の色差を測定することにより、褪色防止性の評価を行った。
なお、褪色防止剤を適用しないものを、対照例とした。
その結果を表6に示す。
【0081】
<測定方法>
変褪色確認用ブルースケール3級生地に対して、スプレー式の褪色防止剤から褪色防止性組成物1mL/100cm2を、噴霧し、自然乾燥させた。
得られた生地について、超促進耐候性試験機にて40mWの光(紫外線)照射を2時間行い、照射前後の生地色変化について、色差(ΔE*ab)を測定した。
【0082】
【0083】
<結 果>
実施例4~6において得られたスプレー式の褪色防止剤から褪色防止性組成物を噴霧した生地では、いずれも色差の値が小さく、光照射による色の変化(褪色)の度合いが小さかった。
以上のことから、この発明の褪色防止性組成物は、有効成分である紫外線吸収剤をエマルジョンの形態で含有しているため、優れた褪色防止効果を有することは、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
この発明にかかる褪色防止性組成物は、分散性および保存安定性に優れ、処理対象としての繊維製品に対して適用されると、極めて優れた褪色防止性を付与し、このような処理対象に適用する場合であっても、処理後において、処理対象の使用感が損なわれることがないものである。
したがって、繊維業界において幅広く利用されるものである。