(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】植物由来の固形パラフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 7/148 20060101AFI20220818BHJP
C07C 9/22 20060101ALI20220818BHJP
C07C 67/03 20060101ALI20220818BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20220818BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20220818BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220818BHJP
【FI】
C07C7/148
C07C9/22
C07C67/03
C07C69/24
C07C67/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021576364
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030104
【審査請求日】2021-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518446581
【氏名又は名称】ファイトケミカルプロダクツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】廣森 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 牧子
(72)【発明者】
【氏名】大柳 友克
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503855(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098227(WO,A1)
【文献】特開昭60-040197(JP,A)
【文献】特開昭56-015218(JP,A)
【文献】Fuel Processing Technology,2014年,120,P.8-15
【文献】Energy & Fuels,2007年,21(4),P.1859-1862
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/00
C07C 9/00
C07C 67/00
C07C 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィンを含む
植物油にアルコールを加えて
、酸触媒または塩基触媒の存在下で液体の脂肪酸エステルを得た後、その脂肪酸エステル
を冷却し、析出した固体を分離して固形のパラフィンを得ることを特徴とする植物由来の固形パラフィンの製造方法。
【請求項2】
固体の酸触媒または固体の塩基触媒の存在下で前記脂肪酸エステルを得ることを特徴とする請求項1記載の植物由来の固形パラフィンの製造方法。
【請求項3】
前記植物油は、粗油、脱臭留出物、および脂肪酸油の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1
または2記載の植物由来の固形パラフィンの製造方法。
【請求項4】
前記植物油に含まれる脂肪酸に対する前記アルコールのモル等量が0.5~10となるよう、前記植物油に前記アルコールを加えることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の植物由来の固形パラフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の固形パラフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固形パラフィンは、主としてCnH2n+2で表される飽和炭化水素から成り、ロウソク、クレヨン原料、電気絶縁材料、化粧品・医薬品配合原料、防湿・防水剤、包装紙等の表面コーティングなど、生活に身近な製品に幅広く用いられている。これらの製品に含まれる固形パラフィンは、石油を減圧蒸留して得られた留出油を、分離精製することにより製造されている。
【0003】
また、固形パラフィンは、大豆油を製造する過程で副生する脱臭留出物や、米ぬかにも含まれている。この固形パラフィンは、元々植物組織に存在し、組織を乾燥や虫害から保護する役目を果たしていると考えられる。
【0004】
従来、このような植物に存在するパラフィンを得る方法として、鹸化、蒸留による濃縮工程や溶媒抽出工程、および、カラムクロマトグラフィーによる分離工程を行うものがある。例えば、大豆油の脱臭留出物から、蒸留、鹸化、カラムクロマトグラフィーにより、炭化水素、トコフェロール、ステロールを分離、同定することで、直鎖の飽和炭化水素(n-パラフィン)を検出したものがある(例えば、非特許文献1参照)。この方法で検出されたn-パラフィンは、全炭化水素の4.0~4.2%であり、融点は67.5℃であることが確認されている。また、主成分は、n-C31H64 (65%)、n-C29H60 (27%)、n-C30H62 (8%)であり、他に少量のn-C27H56、n-C28H58、n-C32H66が確認されている。
【0005】
また、大豆油の脱臭留出物から、鹸化、蒸留、カラムクロマトグラフィーにより、融点68.0~68.5℃、分子量435のパラフィンを分離、同定したものもある(例えば、非特許文献2参照)。この方法で同定されたパラフィンの主成分は、n-C32H66 (約60%)、n-C30H62(約30%)であり、他に少量のn-C28H58、n-C29H60、n-C31H64が確認されている。
【0006】
また、米ぬかから、溶媒抽出とカラムクロマトグラフィーにより、ワックス系脂質であるステリルエステル、長鎖アルキルエステル、短鎖アルキルエステル、および炭化水素を分離、同定し、炭化水素として、直鎖アルカン(パラフィン)、直鎖アルケン、および枝鎖アルケン(スクアレン)を検出したものもある(例えば、非特許文献3参照)。この方法で検出された主要なアルカンの炭素数は、C29とC31、アルケンの炭素数は、C29、C31、C33であることが確認されている。
【0007】
非特許文献1~3で検出された大豆油の脱臭留出物や米ぬかに含まれる固形パラフィンは、石油由来の固形パラフィンと同等の融点を有している。ただし、石油由来の固形パラフィンは、炭素数が偶数および奇数のものから成る幅広い分布を有しているのに対し、これらの植物由来の固形パラフィンは、炭素数が主に奇数のものから成り、偶数のものはほとんど含まれていない。
【0008】
鹸化や蒸留、カラムクロマトグラフィー以外の方法で、植物油から固形または液体パラフィンを得る方法として、触媒存在下で水素化脱酸素処理を行うものがある。例えば、植物油および動物油脂由来の混合脂肪酸に、硫化触媒であるSulfided NiMo/Al2O3-P触媒の存在下で水素化脱酸素処理を行うことにより、n-C17H36、n-C18H38、n-C15H32、n-C16H34のn-パラフィン混合物を製造したものがある(例えば、非特許文献4参照)。また、パーム核油、オウリクリ(Ouricuri)油、ババス(Babassu)油のようなC12~C14の植物油に、硫化触媒であるSulfided NiMo、Sulfided CoMo触媒を用いて水素化処理を行うことにより、C10~C13のn-パラフィンを製造する方法も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
なお、植物由来のワックス(蝋)として、米ぬか蝋、カルナバワックス、キャンデリラワックス、大豆ワックスなどが知られているが、これらはエステル化合物(R-COO-R’;RおよびR’は炭化水素基)を主成分とする物質であり、本明細書中の固形パラフィンとは物理的、化学的に異なる物質である。
【0010】
キャンデリラワックスは、キャンデリラの茎から抽出されるものであり、植物油から抽出されるものではない。また、キャンデリラワックスは、24~30%のエステル化合物と、40~50%の炭化水素とを含んでいる。この炭化水素は、C31を76~80%含み(例えば、非特許文献5参照)、キャンデリラロウ炭化水素として利用されている。キャンデリラは、ワシントン条約で保護対象となっている植物である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】C.D. Evans et al., “Soybean unsaponifiables: Hydrocarbons from deodorizer condensates”, Journal of the American Oil Chemists’ Society, 1964, 41, p.406
【文献】山田、「大豆油脱臭留出物中の飽和炭化水素」、油化学、1964年、13、p.321
【文献】伊藤ら、「米糠のワックス系脂質について」、Nippon Nogeikagaku Kaishi、1981年、55、p.247
【文献】J. Hansok et al., “Bio-Paraffin Mixture Production from Waste Fatty Acid”, Chemical Engineering Transactions, 2018, 65, p.373
【文献】G. A. Scora et al., “Epicuticular hydrocarbons of candelilla (Euphorbia antisiphylitica) from three different geographical areas”, Industrial Crops and Products, 1995, 4, p.179
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1~3に記載の植物由来の固形パラフィンの製造方法は、鹸化、蒸留による濃縮工程や溶媒抽出工程、およびカラムクロマトグラフィーによる分離工程を利用しており、工程が複雑であるため、製造コストが嵩むという課題があった。また、非特許文献4および特許文献1に記載の植物由来の固形パラフィンの製造方法は、触媒を用いた水素化脱酸素反応を利用しており、高温高圧で反応を進める必要があるため、やはり製造コストが嵩むという課題があった。このように、従来の方法では、製造コストが嵩むため、植物由来の固形パラフィンは工業的には生産されていなかった。
【0014】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、製造コストを低減することができる植物由来の固形パラフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、パラフィンを含む植物油にアルコールを加えて、酸触媒または塩基触媒の存在下で液体の脂肪酸エステルを得た後、その脂肪酸エステルを冷却し、析出した固体を分離して固形のパラフィンを得ることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法では、植物油を脂肪酸エステルに変換することにより、融点が降下するため、植物油に含まれる脂肪酸が室温で固化するのを防ぐことができる。これにより、得られた脂肪酸エステルは液体となるため、その脂肪酸エステル中の炭化水素のみを容易に析出させることができ、固体と液体とを分離することにより、固形パラフィンを得ることができる。このように、本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、従来の鹸化、蒸留、カラムクロマトグラフィーを利用する方法と比べ、簡単な製造工程で製造することができ、また、高温高圧も不要であるため、製造時のエネルギー消費および製造コストを大幅に低減することができる。
【0017】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法によれば、製造コストを低減して、植物由来の固形パラフィンを安価に製造することができるため、植物由来の固形パラフィンを工業的に生産できるようになり、植物由来の固形パラフィンを基礎研究から産業利用までの幅広い用途に用いることが可能になる。このように、本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法によれば、石油由来の固形パラフィンの代替として、植物由来の固形パラフィンを工業的に得ることができる。なお、本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、純度(品質)を高めるために、得られた固形パラフィンを適宜溶媒で洗浄してもよい。
【0018】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、特に固体の酸触媒または固体の塩基触媒の存在下で、前記脂肪酸エステルを得ることが好ましい。本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、酸触媒によるエステル化反応、または塩基触媒によるエステル交換反応により、脂肪酸エステルを得ることができる。また、固体の触媒を用いることにより、脂肪酸エステルから固形のパラフィンを得る工程で、固形パラフィンと共に触媒も回収することができる。
【0019】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、前記脂肪酸エステルを得た後、冷却し、析出した固体を分離して前記固形のパラフィンを得るものであり、液体の脂肪酸エステルを冷却するだけで、炭化水素のみを析出させることができ、容易に固形パラフィンを得ることができる。
【0020】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法で、前記脂肪酸エステルを冷却する温度は、-10℃~25℃であることが好ましい。-10℃より低い温度では、脂肪酸エステルも固化してしまい、25℃より高い温度では、パラフィンが固化しないため、-10℃~25℃で冷却することにより、析出する固体中に含まれる固形パラフィンの濃度を高めることができる。冷却温度は、-5℃~15℃であることがより好ましく、0℃~10℃であることがさらに好ましい。これらの場合、冷却時に固化する脂肪酸エステルの量を減らすと共に、析出するパラフィンの量を増やすことができ、固形パラフィンの濃度をさらに高めることができる。
【0021】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法で、前記植物油は、粗油、脱臭留出物、および脂肪酸油の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。この場合、粗油、脱臭留出物、および脂肪酸油には、比較的多くのパラフィンが含まれているため、植物由来の固形パラフィンを効率よく製造することができる。植物油は、ヤシや大豆、菜種などの種子や果肉、米ぬかなど、植物に関するいかなるものから得られるものであってもよい。
【0022】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法は、前記植物油に含まれる脂肪酸に対する前記アルコールのモル等量が0.5~10となるよう、前記植物油に前記アルコールを加えることが好ましい。アルコールのモル等量が0.5より小さいときには、得られる脂肪酸エステルの量が減り、パラフィンの析出量が減ってしまう。また、アルコールのモル等量が10より大きいときには、溶液の量が増えるため、取り扱いが難しくなり、製造コストが嵩んでしまう。アルコールのモル等量は、1~5であることがより好ましく、3~5であることがさらに好ましい。これらの場合、製造コストを抑えつつ、パラフィンの析出量を増やすことができる。
【0023】
また、本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法で、アルコールは、いかなるものであってもよいが、炭素鎖長がC1~C8のものが好ましく、直鎖のC1~C8のものがより好ましい。アルコールの炭素鎖長がC8より長いときには、疎水性が高くなるため、得られる脂肪酸エステルの量が減り、パラフィンの析出量が減ってしまう。また、アルコールは、直鎖のC2~C4のものがさらに好ましい。この場合、脂肪酸エステルの融点が低下するため、冷却時に脂肪酸エステルが固化する量を減らすことができ、固形パラフィンの濃度を高めることができる。
【0024】
本発明に関する植物由来の固形パラフィンは、60%以上がC21以上C29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素から成ることを特徴とする。特に、本発明に関する植物由来の固形パラフィンは、80%以上がC21以上C29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素から成ることが好ましい。
【0025】
本発明に関する植物由来の固形パラフィンは、奇数炭素数の飽和炭化水素を主成分とし、偶数炭素数のものはほとんど含まれていない。これは、石油由来の固形パラフィンが、偶数炭素数および奇数炭素数の飽和炭化水素を広く含み、炭素数が幅広い分布を有しているのとは大きく異なっている。
【0026】
本発明に関する植物由来の固形パラフィンは、本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法により製造されることが好ましい。この場合、安価に製造され、また従来の石油由来の固形パラフィンと同様の物理的特性(融点など)を有するため、石油由来の固形パラフィンの代替として使用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、製造コストを低減することができる植物由来の固形パラフィンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法を示している。
図1に示すように、本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法は、まず、原料の植物油にアルコールを加え(ステップ11)、酸触媒によるエステル化反応、または塩基触媒によるエステル交換反応により、脂肪酸エステルを得る(ステップ12)。
【0030】
原料の植物油は、ヤシや大豆、菜種などの種子や果肉、米ぬかなど、植物に関するいかなるものから得られるものであってもよいが、比較的多くのパラフィンが含まれる粗油、脱臭留出物、および脂肪酸油の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。また、アルコールは、いかなるものであってもよいが、原料の植物油に含まれる脂肪酸に対するモル等量が0.5~10で、炭素鎖長がC1~C8のものが好ましい。また、回収効率を考慮して、酸触媒または塩基触媒は固体であることが好ましい。また、原料の植物油とアルコールとの接触方法は、バッチ法(回分系)や連続法(流通系)など、いかなる方法であってもよい。
【0031】
脂肪酸エステルを得た後、冷却することにより固体を析出させ(ステップ13)、析出した固体と液体とを分離する(ステップ14)。冷却温度は、-10℃~25℃であることが好ましい。また、固液分離は、いかなる方法で行ってもよく、例えば、加圧ろ過機、フィルタープレス、真空ろ過機、ロータリードラム、遠心分離機(バッチ式、連続式)、沈殿槽などの装置を使用して、ろ過、遠心分離、沈降分離などにより行ってもよい。
【0032】
固液分離により得られた分離液(ステップ15)および固体のうち、固体を回収して、固形パラフィンを得る(ステップ16)。こうして、本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンを得ることができる。得られた固形パラフィンは、60%以上がC21以上C29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素から成り、偶数炭素数のものはほとんど含まれていない。これは、石油由来の固形パラフィンが、偶数炭素数および奇数炭素数の飽和炭化水素を広く含み、炭素数が幅広い分布を有しているのとは大きく異なっている。なお、純度(品質)を高めるために、得られた固形パラフィンを適宜溶媒で洗浄してもよい。
【0033】
本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法は、植物油を脂肪酸エステルに変換することにより、融点が降下するため、植物油に含まれる脂肪酸が室温で固化するのを防ぐことができる。これにより、得られた脂肪酸エステルは液体となるため、冷却するだけで、その脂肪酸エステル中の炭化水素のみを容易に析出させることができ、固体と液体とを分離することにより、固形パラフィンを得ることができる。このように、本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法は、従来の鹸化、蒸留、カラムクロマトグラフィーを利用する方法と比べ、簡単な製造工程で製造することができ、また、高温高圧も不要であるため、製造時のエネルギー消費および製造コストを大幅に低減することができる。
【0034】
本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法によれば、製造コストを低減して、植物由来の固形パラフィンを安価に製造することができるため、植物由来の固形パラフィンを工業的に生産できるようになり、植物由来の固形パラフィンを基礎研究から産業利用までの幅広い用途に用いることが可能になる。このように、本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法によれば、石油由来の固形パラフィンの代替として、植物由来の固形パラフィンを工業的に得ることができる。
【実施例1】
【0035】
図1に示す本発明の実施の形態の植物由来の固形パラフィンの製造方法により、固形パラフィンを製造した。原料の植物油として、米ぬか脱臭留出物を用いた場合(試料1)、および、菜種脱臭留出物を用いた場合(試料2)について、それぞれ固形パラフィンを製造した。また、アルコールとして、エタノールを用いた。
【0036】
触媒は、酸触媒とし、表1に示す市販の多孔性樹脂のPK208LHを用いた。PK208LHは、強酸性で、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体の骨格を有し、官能基としてスルホン酸基を有している。また、PK208LHは、粒子内部が均一なゲル型であり、物理的な穴(細孔)が開いたポーラス型の構造を有している。なお、酸触媒のPK208LHは、使用するアルコール(エタノール)で膨潤させてから使用した。
【0037】
【0038】
固形パラフィンの製造では、まず、原料の植物油(各脱臭留出物)0.5 kgに、アルコール(エタノール)0.3 kg(混合モル比で脂肪酸基の3倍等量)を混合した。その混合液に膨潤させた触媒0.4 kgを添加し、脂肪酸エステル化反応を起こすために、60℃に保持した状態で、24時間の回分反応を行った。その後、触媒と反応液とを分離するために、粒子保持能が5μmのNo. 3のろ紙でろ過し、さらに触媒表面に付着した油を取り除くために、洗浄液としてエタノール0.5 kgを用いて、触媒を洗浄した。
【0039】
ろ過および洗浄後、ろ過で分離した反応液と洗浄液とを、6℃で一晩冷却した。冷却により析出した固体を、粒子保持能が5μmのNo. 3のろ紙でろ過し、洗浄液としてエタノール0.35 kgを用いて、ろ過後の固体を2回洗浄した後、その固体を自然乾燥させた。こうして、各植物油から固形パラフィンが得られた。
【0040】
得られた固形パラフィンの各試料について、融点、純度、組成の評価を行った。まず、各試料を、ポリプロピレン製の1.5 mLマイクロチューブに約1 mL入れ、恒温槽(株式会社日伸理化製「ND-M01」)で十分に加熱して、目視により融点を決定した。また、各試料をヘキサンに溶解し、それぞれガスクロマトグラフィーにより、水素炎イオン化検出器(FID;ジーエルサイエンス株式会社製「GC-4000 Plus」)およびガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS;アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent 5975C シリーズ GC/MSD」)を用いて分析し、パラフィンの純度および組成を決定した。ガスクロマトグラフィーのカラムには、アジレント・テクノロジー株式会社製「DB-5ht」(膜厚:0.1μm、内径:0.32 mm、長さ:15 m)を用いた。ガスクロマトグラフィーの分析条件を、表2に示す。
【0041】
【0042】
なお、比較のため、石油由来の固形のパラフィン(mp. 60~62℃;富士フイルム和光純薬株式会社「160-13325」)およびキャンデリラロウ炭化水素(横関油脂工業株式会社「MD-21」)についても、同様の手順で、融点、純度、組成を決定した。各試料の固形パラフィンの色、回収量、融点、純度、C21以上C37以下の全飽和炭化水素の中の全奇数炭素数の飽和炭化水素の割合、C21以上C37以下の全飽和炭化水素の中のC29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素の割合をまとめ、表3に示す。
【0043】
【0044】
表3に示すように、植物油から得られた固形パラフィン(試料1および試料2)は、石油由来の固形パラフィン(比較試料1)と融点がほぼ同じであるが、C21以上C37以下の奇数炭素数の飽和炭化水素の割合が90%以上、C21以上C29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素の割合が85%以上であり、偶数炭素数のものをほとんど含んでいないことが確認された。また、キャンデリラロウ炭化水素(比較試料2)も、奇数炭素数の飽和炭化水素の割合が98%と高いが、主成分はC31であり、C29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素の割合は3.5%と非常に低い。また、植物油の種類によって、得られる固形パラフィンの純度が異なっており、原料として米ぬか脱臭留出物を使用すると、89%の純度で固形パラフィンが得られることが確認された。
【0045】
[比較例]
比較例として、エステル化なしで固体パラフィンの製造を試みた。原料の植物油として、米ぬか脱臭留出物を用い、アルコールとして、エタノールを用いた。原料の米ぬか脱臭留出物0.5 kgに、エタノール0.3 kgを混合し、その混合液を6℃で一晩冷却した。これにより、およそ0.4 kgの固体が得られた。
【0046】
得られた固体は、元の米ぬか脱臭留出物がエタノールで希釈されたものであり、炭化水素分が固化したものではなかった。得られた固体中のパラフィンの含有量は、0.1%の検出限界未満であった。このような結果から、この比較例では、脂肪酸分が固化したために、固体の炭化水素を回収できなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る植物由来の固形パラフィンの製造方法により製造される植物由来の固形パラフィン、および、本発明に係る植物由来の固形パラフィンは、特に、皮膚や頭髪に触れたり体内に入ったりする可能性のある化粧品や食品への利用に、高い需要が期待される。具体的には、化粧品(クリーム、口紅、整髪料、アイシャドウ、チーク、パック)、食品(天然被膜材)、文房具(クレヨン、クレパス、鉛筆、パラフィン紙)、ロウソク材料、コーティング材料、防水材料などへの利用が考えられる。
【要約】
【課題】製造コストを低減することができる植物由来の固形パラフィンの製造方法および植物由来の固形パラフィンを提供する。
【解決手段】植物油にアルコールを加えて脂肪酸エステルを得た後、その脂肪酸エステルから固形のパラフィンを得る。酸触媒または塩基触媒の存在下で、脂肪酸エステルを得ることが好ましい。脂肪酸エステルを得た後、冷却し、析出した固体を分離して固形のパラフィンを得ることが好ましい。得られた固形パラフィンは、60%以上がC
21以上C
29以下の奇数炭素数の飽和炭化水素から成る。
【選択図】
図1