(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】卵胞発育誘導装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/42 20060101AFI20220818BHJP
A61B 18/22 20060101ALI20220818BHJP
A61N 5/067 20060101ALI20220818BHJP
A61B 17/34 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A61B17/42 510
A61B18/22
A61N5/067
A61B17/34 510
(21)【出願番号】P 2018109008
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592042543
【氏名又は名称】株式会社ユニタック
(73)【特許権者】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一哲
(72)【発明者】
【氏名】廣井 和正
(72)【発明者】
【氏名】河村 和弘
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-510012(JP,A)
【文献】特表2000-510378(JP,A)
【文献】実開昭62-009455(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0051594(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0055428(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/42
A61B 18/22
A61N 5/067
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵胞の発育を誘導するために、経膣超音波装置のプローブから卵巣に向かって発射され
る超音波の進行方向に沿って前記卵巣を穿刺し穿刺孔を形成する卵巣穿刺針と、
レーザ発生装置から出射されるレーザ光を導く光ファイバを備え、
前記卵巣穿刺針は、基端部と、この基端部に支持される体部と、この体部に連なり前記
卵巣を穿刺する針先部からなる針管からなり、
前記針管は、前記針先部が閉止され、かつ前記基端部及び前記体部に中空の内腔部が形
成され、
前記光ファイバは、先端が
閉止された前記針先部に当接するように、前記内腔部に留置
されて前記卵巣穿刺針に沿って配置され
、
前記卵巣穿刺針により形成された前記穿刺孔の周囲組織を含む範囲に熱を伝達するよう
に前記針先部を加熱する前記レーザ光を照射することを特徴とする卵胞発育誘導装置。
【請求項2】
前記針管を収容する筒状のガイド体と、
このガイド体を前記プローブに固定する固定手段を備え、
前記ガイド体は、長軸方向が前記卵巣に向かって発射される前記超音波の前記進行方向
に沿うように、前記プローブに固定されることを特徴とする請求項
1に記載の卵胞発育誘
導装置。
【請求項3】
前記光ファイバは、前記先端に前記光ファイバが導いた前記レーザ光を熱に変換する光
熱変換部を備えることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の卵胞発育誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵胞の発育を誘導するための卵胞発育誘導装置に係り、特に、卵巣皮質を穿刺して卵巣に物理的刺激を与える卵巣穿刺針と、この卵巣穿刺針の内部に留置される光ファイバを備える卵胞発育誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、女性不妊症の原因の一つに、例えば、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:Polycystic ovarian syndrome)がある。このPCOSは、卵巣内に多数の卵胞を認めるもののこれらは発育を停止しており、また卵巣自体が肥大し厚い白膜で覆われることで排卵が困難となる疾患である。その治療法の一つとして、腹腔鏡下又は開腹下に卵巣に物理的刺激を与えて卵胞の発育を誘導する外科的療法が行われてきた。具体的には、卵巣を楔状に切開して卵巣皮質を部分切除する楔状切除術(Wedge resection)や、卵巣皮質にレーザ光を照射して複数の孔を形成するLOD(Laser ovarian drilling)といった療法が挙げられる。これらの療法によれば、自然に排卵したり、投与された排卵誘発剤に対する反応性が向上して排卵したりするようになる。
しかし、このような外科的療法は全身麻酔が必要となるため、患者への侵襲性が高く、治療費も嵩むことになる。また、LODでは、卵巣皮質へのレーザ光照射により多数の卵胞が死滅してしまい、卵巣機能が却って低下するというリスクがある。
そこで、近年、少なくとも全身麻酔を不要とする治療方法が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「卵巣組織の操作のための方法およびシステム」という名称で、PCOSの治療で使用される方法およびシステムに関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について説明する。特許文献1に開示された発明は、a)卵巣組織装置と、b)ハンドルと、超音波トランスデューサとを備える、経膣プローブと、c)エネルギーを治療要素に供給するように構成される発生器と、を備え、a)の卵巣組織装置は、卵巣上にドッキングするドッキングデバイスと、卵巣嚢胞に近接する係留部材と、ドッキングデバイスの遠位端上に配置される治療要素からなり、c)の治療要素は、電極、冷凍アブレーション要素、冷却要素、レーザ、またはそれらの組み合わせを備えることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、例えば、ドッキングデバイスを針ガイドによってガイドされる針とし、治療要素を電極とし、超音波トランスデューサを経膣プローブとした場合に、針は経膣プローブに取り付けられた針ガイドを介して卵巣皮質と卵巣支質との間の接合部付近に刺入され、電極も針に沿ってこの接合部に挿入される。そして、電極を介してエネルギーを送ることにより、電極の周囲の組織が加熱されて切除される。このような穿刺は、全身麻酔を使用しないという点で患者への侵襲性を大きく低減できる。ただし、疼痛や不快感の低減、手技時間の短縮又は出血の低減を図るため、最小の穿刺回数に留めることが望ましいとの提案がされている。
【0004】
次に、特許文献2には「婦人科治療用の光選択性気化療法およびそのシステム」という名称で、女性生殖器官の組織の光選択性気化療法を目的とした装置に関する発明が開示されている。
以下、特許文献2に開示された発明について説明する。特許文献2に開示された発明は、レーザ放射線を生成するレーザと、レーザに連結されるファイバからのレーザ放射線と、組織の表面上の治療領域に向かう灌注液の流れとを方向付けるようにした子宮鏡とを備えており、光ファイバは、レーザ放射線によって生じる残留凝固組織の体積よりも実質的に大きい体積の組織を気化させるのに十分な波長と治療領域における放射照度とでレーザ放射線を搬送するようになっていることを特徴とする。
このような特徴を有する発明において、対象組織は子宮組織を含んでおり、対象疾患は、子宮平滑筋種、横紋筋腫、子宮内膜症、子宮内膜増殖症、子宮内膜嚢胞、子宮内膜ポリープ、過月経症、子宮中隔異常、子宮内癒着症、または、子宮頚管上皮内異常増殖症から選択される疾患である。
上記特徴を有する発明においては、レーザ照射後に残された熱凝固を特徴とする熱損傷の区域の広がりは体積出力密度が増大するのに伴って小さくなるが、組織の気化率は増大する。その結果、高レベルのレーザ照射を実施しながら、同時に、熱損傷という副作用の程度の低減と迅速な手術を達成するという効果を発揮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-510012号公報
【文献】特表2005-518255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、卵巣の穿刺に伴う出血等に対処する方法として、最小の穿刺回数に留めることが提案されている。これに対し、卵巣皮質に複数の孔を形成するLODの場合は、腫大した卵巣の大きさによっては10個以上の孔を形成することが必要とされている。そのため、穿刺により卵巣皮質に複数の孔を形成する場合においても、同数以上の孔を形成する必要があると考えられる。この場合に、特許文献1に開示された発明を利用すると、出血等の副作用を増大させる可能性があるため、このような利用は適切でないものと考えられる。
また、電極が卵巣皮質と卵巣支質との間の接合部に挿入されて組織が加熱されるため、電極周囲の卵胞が死滅して卵巣機能が低下するリスクを排除できない可能性がある。
【0007】
次に、特許文献2に開示された発明においても、レーザ照射によって子宮組織を気化させるものであるため、この発明をLODの実施に適用すれば、卵巣皮質に含まれる卵胞が死滅して卵巣機能が低下するリスクを回避できないものと考えられる。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、全身麻酔の侵襲性を低減可能であるとともに、レーザ照射以外の手段で卵巣に複数の孔を形成することにより卵巣機能低下のリスクを低減できる卵胞発育誘導を目的とした外科的療法の実施に好適な卵胞発育誘導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明は、卵胞の発育を誘導するために、経膣超音波装置のプローブから卵巣に向かって発射される超音波の進行方向に沿って卵巣を穿刺し穿刺孔を形成する卵巣穿刺針と、レーザ発生装置から出射されるレーザ光を導く光ファイバを備え、卵巣穿刺針は、基端部と、この基端部に支持される体部と、この体部に連なり卵巣を穿刺する針先部からなる針管からなり、光ファイバは、先端が針先部の付近に位置するように、卵巣穿刺針に沿って配置されることを特徴とする。
このような構成の発明において、光ファイバは、例えば、先端が卵巣穿刺針の針先部に到達するように卵巣穿刺針に沿って配置される。なお、卵巣穿刺針は、内部が中実又は中空のいずれでも良く、中実の場合では光ファイバは卵巣穿刺針の周囲に固定され、中空の場合では光ファイバは卵巣穿刺針の中空の内部に挿入されることが考えられる。
【0010】
上記構成の発明においては、経膣超音波装置のプローブから発射される超音波で卵巣の位置を確認しながら、卵巣穿刺針の針先部を卵巣に刺入して微小な穿刺孔を形成する。このとき、穿刺孔の周囲組織は穿刺によって出血する場合が多い。
しかしながら、光ファイバが、その先端が針先部の付近に位置するように卵巣穿刺針に沿って配置されるため、針先部が穿刺孔を形成すると、光ファイバの先端が穿刺孔の周囲組織に直接接触するか、又は僅かな間隔を空けて接近することになる。そのため、出血部分に一致してレーザ光を照射可能となる。この照射によって熱が発生し、出血部分の温度を上昇させる。この場合、凝固が起こる程度に出血部分の温度を上昇させることで足り、その結果、出血部位の止血がなされる。
【0011】
次に、第2の発明は、第1の発明において、針管は、少なくとも基端部及び体部に中空の内腔部が形成され、光ファイバは、内腔部に留置されることを特徴とする。
このような構成の発明において、内腔部は基端部及び体部のみに形成されるか、又は、針先部、基端部及び体部に形成されても良い。前者では光ファイバの先端が閉止された針先部に当接し、後者では光ファイバの先端は針先部の中空部を貫通した状態となるが、いずれにしても先端は針先部の付近に位置することになる。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、光ファイバが内腔部に留置されることにより、針管を卵巣に向かって刺入する際に、周囲組織からの抵抗を直接受けることがないので、光ファイバが針管から脱落することが防止される。
【0012】
続いて、第3の発明は、第2の発明において、基端部に一端が接続されるとともに、内腔部と連通する貫通孔が穿設されるコネクタを備え、光ファイバは、先端から離隔した位置に位置決め用マークが設けられ、この位置決め用マークは、光ファイバが貫通孔を介して内腔部に留置された場合に、コネクタの他端に一致して表示されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第2の発明の作用に加えて、光ファイバが内腔部に留置された場合、すなわち光ファイバの先端が針先部の付近に位置する場合に、位置決め用マークはコネクタの他端に一致して表示される。よって、光ファイバをコネクタの貫通孔に挿入する際に、位置決め用マークをコネクタの他端に一致させることで、光ファイバの先端が針先部の付近に位置することになる。
【0013】
さらに、第4の発明は、第2の発明において、基端部に一端が接続されるとともに、内腔部と連通する貫通孔が穿設されるコネクタを備え、光ファイバは、先端から離隔した位置に位置決め用固定部材が設けられ、この位置決め用固定部材は、光ファイバが貫通孔を介して内腔部に留置された場合に、コネクタの他端に係止されることを特徴とする。
このような構成の発明において、位置決め用固定部材として、例えば光ファイバを貫通させる中心孔が穿通されたコネクタの他端に係止されるチャックが考えられる。しかし、これ以外にもコネクタの他端に係止可能である限り、位置決め用固定部材の形状や材質は限定されない。
上記構成の発明においては、第2の発明の作用に加えて、光ファイバが内腔部に留置され、先端が針先部の付近に位置する場合のみ、位置決め用固定部材がコネクタの他端に係止される。そのため、光ファイバをコネクタの貫通孔に挿入しながら、位置決め用固定部材をコネクタの他端に係止させることで、先端が針先部の付近に位置することになる。
【0014】
そして、第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、針管を収容する筒状のガイド体と、このガイド体をプローブに固定する固定手段を備え、ガイド体は、長軸方向が卵巣に向かって発射される超音波の進行方向に沿うように、プローブに固定されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1乃至第4のいずれかに記載の発明の作用に加えて、ガイド体は、長軸方向が卵巣に向かって発射される超音波の進行方向に沿うように、プローブに固定されることから、ガイド体に収容された針管をガイド体の奥側に進めると、針管が卵巣に向かって進入する。よって、確実に針先部が卵巣へ到達する。
【0015】
続いて、第6の発明は、第2乃至第4のいずれかの発明において、針管は、針先部が閉止され、かつ基端部及び体部に内腔部が形成され、光ファイバは、先端が、閉止された針先部に当接するように内腔部に留置されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第2乃至第4のいずれかに記載の発明の作用に加えて、レーザ発生装置からレーザ光が出射されると、光ファイバの先端が閉止された針先部に当接していることから、針先部が加熱される。そのため、卵巣に穿刺孔が形成されると同時に出血部分が熱で凝固する。
【0016】
加えて、第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、光ファイバは、先端に光ファイバが導いたレーザ光を熱に変換する光熱変換部を備えることを特徴とする。
このような構成の発明において、光熱変換部は、レーザ光を吸収し、吸収したエネルギーを熱に変換可能な性質を有する物質が、例えば光熱変換層として光ファイバの表面に形成されたものであって、上記の物質として二酸化チタンなどのチタン化合物やカーボンといったものが考えられる。
上記構成の発明においては、第1乃至第6のいずれかに記載の発明の作用に加えて、光熱変換部において効率的に熱が発生するため、出血部分がより速やかに凝固する。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、卵巣穿刺針は、経膣超音波装置とともに使用され、体外受精治療における採卵時と同様に、局所麻酔または静脈麻酔下に実施することができ、また、卵巣に穿刺孔を形成するに際し全身麻酔の必要性がないことから、患者への侵襲性を低減可能である。
一方で、副作用として卵巣の穿刺に伴い穿刺孔の出血が起こったとしても、レーザ照射によって速やかに止血することができるため、副作用の影響を回避することができる。
また、穿刺孔は卵巣穿刺針の針先部によって形成されるため、LODでのレーザ照射に起因する卵巣機能低下のリスクを考慮しなくても良い。
したがって、第1の発明によれば、全身麻酔の侵襲性を低減可能であるとともに、卵巣機能低下のリスクを低減できる卵胞発育誘導を目的とした外科的療法の実施に好適な卵胞発育誘導装置を提供することができる。
【0018】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、光ファイバが内腔部に留置されることにより針管から脱落することが防止されるので、複数の穿刺孔の形成と止血の繰り返し作業を連続して実施することができる。したがって、施術時間を短縮でき、患者及び術者の負担を軽減することができる。
【0019】
第3の発明によれば、第2の発明の効果に加えて、位置決め用マークをコネクタの他端に一致させることで、光ファイバの先端を針先部の付近に位置させることができるので、レーザ光照射で発生した熱を精度良く出血部分に伝達することができる。
【0020】
第4の発明によれば、第2の発明の効果に加えて、位置決め用固定部材をコネクタの他端に係止させることで、光ファイバの先端を針先部の付近に位置させることができるとともに、光ファイバの過剰な進入や針管からの脱落を防止することが可能である。したがって、止血の精度を向上させることができる。
【0021】
第5の発明によれば、第1乃至第4のいずれかの発明の効果に加えて、ガイド体に収容された針管をガイド体の奥側に進めることにより、確実に針先部が卵巣へ到達するため、複数の穿刺孔を卵巣表面に均等に形成することが容易となる。
【0022】
第6の発明によれば、第2乃至第4のいずれかの発明の効果に加えて、レーザ光の出射によって針先部が加熱されることで、卵巣に穿刺孔が形成されると同時に出血部分が熱で凝固するため、出血が止まらないことによる、止血のための緊急開腹術の実施を回避できる。
【0023】
第7の発明によれば、第1乃至第6のいずれかの発明の効果に加えて、光熱変換部において効率的に熱が発生し、出血部分が速やかに凝固することから、卵胞発育誘導を目的とした外科的療法を一層安全に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例に係る卵胞発育誘導装置の使用状態を示す平面図である。
【
図2】実施例に係る卵胞発育誘導装置の構成図である。
【
図3】(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置を構成する針管の針先部と、針先部に形成された内腔部に留置された光ファイバの拡大図であり、(b)は(a)におけるA-A線矢視断面図である。
【
図4】(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置を構成する光ファイバの拡大図であり、(b)は同装置を構成するコネクタの構成図である。
【
図5】(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置の第1の変形例を構成するコネクタと、位置決め用固定部材の拡大図であり、(b)は(a)におけるB-B線矢視断面図である。
【
図6】(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置の第2の変形例を構成する針管の針先部の拡大図であり、(b)は(a)におけるC-C線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
本発明の第1の実施の形態に係る卵胞発育誘導装置について、
図1乃至
図6を用いて詳細に説明する。
図1は、実施例に係る卵胞発育誘導装置の使用状態を示す平面図である。
図2は、実施例に係る卵胞発育誘導装置の構成図である。
図1に示すように、実施例に係る卵胞発育誘導装置1は、卵胞50の発育を誘導するために、経膣超音波装置(図示せず)のプローブ52から卵巣51に向かって発射される超音波の進行方向(図中矢印α)に沿って卵巣51を穿刺し穿刺孔53を形成する卵巣穿刺針2と、レーザ発生装置(図示せず)から出射されるレーザ光を導く光ファイバ8を備える。なお、レーザ光として、例えば、GaA|As半導体レーザから出射され、波長808(nm)を有する近赤外線領域のレーザ光が使用される。また、光ファイバ8の直径は、例えば400(μm)であるが、これ以外のものが使用されても良い。
【0026】
また、卵胞発育誘導装置1は、後述する卵巣穿刺針2の針管6を収容する筒状のガイド体12と、このガイド体12をプローブ52に固定する固定手段13を備える。固定手段13は、具体的には、樹脂製の結束バンドである。
そして、ガイド体12は、長軸方向が卵巣51に向かって発射される超音波の進行方向αに沿うように、プローブ52の長軸方向と平行に固定される。したがって、針管6は、プローブ52によって安定的に保持されるガイド体12の内部空間を、プローブ52の長軸方向に沿ってスライド移動可能である。
【0027】
図2に示すように、卵巣穿刺針2は、貫通孔3aを有する基端部3と、この基端部3に支持される体部4と、この体部4に連なり卵巣51を穿刺する鋭角に形成された針先部5からなる針管6からなる。
詳細には、針管6は、基端部3と、体部4と、針先部5の各内部を連通する中空の内腔部7が形成されており、光ファイバ8は内腔部7に留置される。なお、針管6の直径は、例えば18(G)であるが、これ以外であっても良い。
このとき、光ファイバ8は、先端8aが針先部5の付近に位置するように、卵巣穿刺針2に沿って配置される。なお、光ファイバ8は、先端8aに光ファイバ8が導いたレーザ光を熱に変換する光熱変換部9を備える。この光熱変換部9は、レーザ光を吸収し、吸収したエネルギーを熱に変換可能な性質を有する物質が、例えば光熱変換層として光ファイバ8の表面に形成されたものであって、二酸化チタンを含有している。
【0028】
なお、波長が808(nm)のレーザ光は水やヘモグロビンに吸収され難いために、入射する光エネルギーに対する生体組織が吸収する光エネルギーの比率が小さく、生体組織を十分に凝固し得るほどの熱を発生させることが困難である。そこで、光熱変換部9を設けて先端8aの光エネルギーの吸収効率を増大させ、生体組織を十分に凝固し得るほどの熱を発生可能としたものである。そのため、波長が808(nm)でないレーザ光を使用して生体組織を十分熱凝固し得る場合には、光熱変換部9が省略されても良い。
【0029】
さらに、卵胞発育誘導装置1は、一端10aが基端部3に接続されるとともに、基端部3における内腔部7と連通する貫通孔10cが穿設されるコネクタ10を備える。
このコネクタ10は、貫通孔10cを挟んで一端10aの反対側に他端10bを有する本体10Aと、他端10bの側から一端10aに向かって本体10Aに射入する側管10Bを備え、側管10Bには側孔10dが穿設されている。なお、側孔10dは、卵巣51に形成された穿刺孔53を洗浄する洗浄液を注入するための洗浄液ライン(図示せず)が連結される。また、本体10Aの他端10bは、光ファイバ8が挿入される他、穿刺孔53を洗浄後の排液を吸引するための吸引ライン(図示せず)が連結される。
さらに、コネクタ10は、一端10aに針管6の内腔部7へ挿入される先細部10eが突出しており、この先細部10eが基端部3の内腔部7と連通するテーパ状部に嵌合されることで、基端部3とコネクタ10が接続される。
【0030】
次に、実施例に係る卵胞発育誘導装置を構成する針管の針先部について、
図3を用いながら、より詳細に説明する。
図3(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置を構成する針管の針先部と、針先部に形成された内腔部に留置された光ファイバの拡大図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるA-A線矢視断面図である。なお、
図1及び
図2で示した構成要素については、
図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、針管6の内腔部7は、洗浄液後の排液が吸引されて通過する細筒状の排液吸引管7aが内腔部7の中心に設けられる。一方、排液吸引管7aと針管6の外壁の間は、洗浄液が注入される洗浄液注入管7bが形成される。排液吸引管7aは貫通孔10c(
図2参照)に連通し、洗浄液注入管7bは側孔10d(
図2参照)に連通している。このような構成の針管6においては、光ファイバ8はコネクタ10の貫通孔10cを介して挿入されるから、排液吸引管7aの内部に留置されることになる。
【0031】
続いて、実施例に係る卵胞発育誘導装置を構成する光ファイバと、コネクタについて、
図4を用いながら、より詳細に説明する。
図4(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置を構成する光ファイバの拡大図であり、
図4(b)は同装置を構成するコネクタの構成図である。なお、
図1乃至
図3で示した構成要素については、
図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図4(a)に示すように、光ファイバ8は、先端8aから離隔した位置に位置決め用マーク11が設けられる。具体的には、位置決め用マーク11は、光ファイバ8の外周面に貼着されるテープ、又はこの外周面に塗布される色素である。
図4(b)に示すように、光ファイバ8がコネクタ10の本体10Aの貫通孔10cを介して内腔部7の排液吸引管7a(
図3参照)に留置された場合に、位置決め用マーク11の遠位端が本体10Aの他端10bに一致して表示される。
【0032】
上記構成の卵胞発育誘導装置1においては、卵巣51に穿刺孔53を形成する際の準備として、まず、予めガイド体12をプローブ52へ固定部材13を用いて固定しておく。
次に、光ファイバ8をコネクタ10の他端10bの側から貫通孔10cに挿入し、そのまま針管6の方へ進入させると、光ファイバ8が内腔部7の排液吸引管7a(
図3参照)へ入り込む。さらに、位置決め用マーク11の遠位端がコネクタ10の他端10bに一致するまで光ファイバ8を前進させると、光ファイバ8の先端8aが針管6の針先部5の尖頭部よりやや手前に到達することとなる。
その後、このような光ファイバ8が挿入された卵巣穿刺針2を、患者の膣内に挿入されたプローブ52に固定されたガイド体12の内部へ挿入し、超音波画像を確認しながら針管6の針先部5で卵巣51の表面を穿刺すると、穿刺孔53が形成される。
【0033】
これと同時にレーザ発生装置をフットスイッチ等で稼働させてレーザ光を出射すると、レーザ光は光ファイバ8の先端8aに導かれ光熱変換部9によって熱に変換される。先端8aは、針先部5の尖頭部よりやや手前に到達し、穿刺孔53の周囲組織に接触するか、又はこの周辺組織から僅かに間隔を空けて配置されていることから、発生した熱が穿刺孔53の周囲組織に伝達され、出血部分が凝固して止血される。
続いて、2個目の穿刺孔53を形成するが、卵巣51表面のうちすでに形成された穿刺孔53とは異なる位置を針管6の針先部5で穿刺し、同様にレーザ光を出射して新たに形成された穿刺孔53の周囲組織を止血する。以降、必要な数の穿刺孔53が形成されるまで、上記の穿刺と止血を繰り返す。
【0034】
以上説明したように、卵胞発育誘導装置1によれば、卵巣穿刺針2は、経膣超音波装置とともに使用され腹腔鏡の使用や開腹手術が不要であることから、全身麻酔の必要性がなく、患者への侵襲性を低減可能であるとともに費用負担を大幅に軽減することができる。
一方で、副作用として卵巣51の穿刺に伴い穿刺孔53の周囲組織に出血が起こったとしても、光熱変換部9において効率的に熱が発生し、出血部分が速やかに凝固することから、卵胞発育誘導を目的とした外科的療法を一層安全に実施することができる。
また、穿刺孔53は卵巣穿刺針2の針先部5によって形成されるため、LODでのレーザ照射に起因する卵巣機能低下のリスクを考慮しなくても良い。
したがって、卵胞発育誘導装置1によれば、全身麻酔の侵襲性を低減可能であるとともに、卵巣機能低下のリスクを低減できる卵胞発育誘導を目的とした外科的療法の実施に好適な卵胞発育誘導装置を提供することができる。
【0035】
加えて、卵胞発育誘導装置1によれば、光ファイバ8が内腔部7に留置されることにより針管6から脱落することを防止できるので、複数の穿刺孔53の形成と止血の繰り返しを連続して実施可能である。したがって、施術時間を短縮でき、患者及び術者の負担を軽減することができる。
さらに、位置決め用マーク11をコネクタ10の他端10bに一致させることにより、光ファイバ8の先端8aを針先部5の付近に位置させることができるので、レーザ光照射で発生した熱を精度良く出血部分に伝達可能である。
また、ガイド体12が設けられることで、針管6は、プローブ52によって安定的に保持されるガイド体12の内部空間を、プローブ52の長軸方向に沿ってスライド移動可能である。よって、針管6をガイド体12の奥側に進めることにより、確実に針先部5を卵巣51へ到達させることができる。したがって、プローブ52の方向を微妙に変更することで、複数の穿刺孔53を卵巣51表面に均等に形成することが容易となる。さらに、卵巣穿刺針2を手で常時保持する必要がないので、術者の疲労を軽減することも可能である。このほか、誤って卵巣51以外の臓器を損傷することも防止することができる。
【0036】
次に、実施例の卵胞発育誘導装置の第1の変形例について、
図5を用いて説明する。
図5(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置の第1の変形例を構成するコネクタと、位置決め用固定部材の拡大図であり、
図5(b)は
図5(a)におけるB-B線矢視断面図である。なお、
図1乃至
図4で示した構成要素については、
図5においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5(a)及び
図5(b)に示すように、実施例に係る卵胞発育誘導装置の第1の変形例は、卵胞発育誘導装置1のコネクタ10の代わりに、コネクタ14を備えるとともに、光ファイバ8において光熱変換部9から離隔した位置に略円柱形状の位置決め用固定部材15が光ファイバ8に対して移動可能に設けられる。
コネクタ14は、針管6の基端部3に一端14aが接続されるとともに、針管6の内腔部7(
図2乃至4参照)と連通する貫通孔14cが穿設される。貫通孔14cは、コネクタ14の他端14b寄りにコネクタ14の半径方向に拡張されており、位置決め用固定部材15を嵌合可能となっている。より詳細には、貫通孔14cの最大直径は、位置決め用固定部材15の鍔状をなす他端15cを除いた部分の最大直径と同等である。
【0037】
位置決め用固定部材15は、光ファイバ8を貫通させる中心孔15aが穿通され、コネクタ14の他端14bに開口する貫通孔14cに係止されるチャックであって、柔軟性を有するゴム製材からなる。
図5(b)に示すように、位置決め用固定部材15には、中心孔15aの中心を中心として120度毎に切れ込み15dが設けられ、3個の小片15eが形成されている。これら3箇所の切れ込み15dは、位置決め用固定部材15の一端15bから切れ込まれているが他端15cには至っていない。なお、光ファイバ8には、この光ファイバ8がコネクタ14の貫通孔14cを介して内腔部7に留置された場合、先端8aが針先部5の付近に位置するように先端8aから離隔した位置に予め位置決め用マーク11が表示されている。卵胞発育誘導装置の第1の変形例におけるこれ以外の構成は、卵胞発育誘導装置1の構成と同様である。
【0038】
上記構成のコネクタ14と、位置決め用固定部材15においては、位置決め用固定部材15の他端15cを光ファイバ8の位置決め用マーク11の遠位端と一致させるように、位置決め用固定部材15の中心孔15aに光ファイバ8を挿入し、さらに光ファイバ8をコネクタ14の貫通孔14cに挿入する。この後、他端15cがコネクタ14の他端14bに当接するまで、位置決め用固定部材15を、一端15bを先頭としてコネクタ14の貫通孔14cに押し込む。すると、位置決め用固定部材15の3箇所の切れ込み15dが貫通孔14cからの圧力を受け、その溝幅が狭められるので、位置決め用固定部材15の中心孔15aに挿入された光ファイバ8は3個の小片15eによって圧力を受ける。
これにより、光ファイバ8は、先端8aが針先部5の付近に位置した状態のまま、位置決め用固定部材15により移動不能に保持される。卵胞発育誘導装置の第1の変形例におけるこれ以外の作用は、卵胞発育誘導装置1の作用と同様である。
【0039】
上記作用を有するコネクタ14と、位置決め用固定部材15によれば、位置決め用固定部材15をコネクタ14の他端14bに係止させるという簡単な操作によって、光ファイバ8の先端8aを針先部5の付近に位置させることができるとともに、光ファイバ8の過剰な進入や針管6からの脱落を防止することが可能である。
したがって、光熱変換部9で発生する熱を確実に出血部分に伝達可能であり、止血の精度を向上させることができる。また、光ファイバ8の位置ズレを気にしなくても良いことから、術者が針管6の操作に集中することができる。卵胞発育誘導装置の第1の変形例におけるこれ以外の効果は、卵胞発育誘導装置1の効果と同様である。
【0040】
さらに、実施例の卵胞発育誘導装置の第2の変形例について、
図6を用いて説明する。
図6(a)は実施例に係る卵胞発育誘導装置の第2の変形例を構成する針管の針先部の拡大図であり、
図6(b)は
図6(a)におけるC-C線矢視断面図である。なお、
図1乃至
図5で示した構成要素については、
図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6(a)及び
図6(b)に示すように、実施例に係る卵胞発育誘導装置の第2の変形例は、卵胞発育誘導装置1の卵巣穿刺針2を構成する針管6の代わりに、針管16を備える。
針管16は、鋭角に形成された針先部19が閉止(斜線部)され、かつ基端部17の内部及び体部18の内部に、これらの内部を連通する内腔部20が形成される。また、針先部19が閉止されているために、針管16では内腔部20に針管6における排液吸引管7a(
図3参照)が形成されない。したがって、光ファイバ8は光熱変換部9が形成された先端8aが閉止された針先部19に当接するように内腔部20に留置されるとともに、本実施例を構成するコネクタ(図示せず)は側管10Bが省略されたコネクタ10が使用されても良い。卵胞発育誘導装置の第2の変形例におけるこれ以外の構成は、卵胞発育誘導装置1の構成と同様である。
【0041】
上記構成の針管16においては、レーザ発生装置からレーザ光が出射されると、光ファイバ8の先端8aが閉止された針先部19に当接していることから、針先部19が加熱される。そのため、卵巣51に穿刺孔53が形成されると同時に出血部分が熱で凝固する。卵胞発育誘導装置の第2の変形例におけるこれ以外の作用は、卵胞発育誘導装置2の作用と同様である。
【0042】
上記作用を有する針管16によれば、卵巣51に穿刺孔53が形成されると同時に出血部分が熱で凝固するため、出血が止まらないことによる、止血のための緊急開腹術の実施を回避できる。卵胞発育誘導装置の第2の変形例におけるこれ以外の効果は、卵胞発育誘導装置1の効果と同様である。
【0043】
なお、本発明に係る卵胞発育誘導装置は、実施例に示すものに限定されない。例えば、針管6は、内腔部7を備えない中実の針が使用されても良い。このとき、光ファイバ8は、固定手段を用いて上記の針に固定される。また、使用するレーザ光の波長やエネルギーによっては、光熱変換部9が形成されなくても良い。さらに、疾患の種類や症状の進行度により穿刺孔53の数を最小限に留める場合には、筒状のガイド体12は省略されても良い。この他、コネクタ10,14の形状は、実施例で示したものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、卵胞の発育を誘導するための卵胞発育誘導装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…卵胞発育誘導装置 2…卵巣穿刺針 3…基端部 3a…貫通孔 4…体部 5…針先部 6…針管 7…内腔部 7a…排液吸引管 7b…洗浄液注入管 8…光ファイバ 8a…先端 9…光熱変換部 10…コネクタ 10A…本体 10B…側管 10a…一端 10b…他端 10c…貫通孔 10d…側孔 10e…先細部 11…位置決め用マーク 12…ガイド体 13…固定手段 14…コネクタ 14a…一端 14b…他端 14c…貫通孔 15…位置決め用固定部材 15a…中心孔 15b…一端 15c…他端 15d…切れ込み 15e…小片 16…針管 17…基端部 18…体部 19…針先部 20…内腔部 50…卵胞 51…卵巣 52…プローブ 53…穿刺孔