(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】電極の製造方法、電極及び水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/04 20210101AFI20220818BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20220818BHJP
【FI】
C25B11/04
H01M8/0656
(21)【出願番号】P 2018136044
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】シリソムブンチャイ スチャダ
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172160(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154134(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043472(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属M1の化合物(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理した後、前記電極基材を取り出して焼成する工程1と、
前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物(金属M1は、前記第1の金属M1の化合物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2の化合物(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液B中でパルス電着処理を行う工程2と、
を具備する、電極の製造方法。
【請求項2】
第1の金属M1の化合物(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理した後、前記電極基材を取り出して焼成する工程1と、
前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物(金属M1は、前記第1の金属M1の化合物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2の化合物(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Cに浸漬した状態で加熱処理を行う
ことで層状複水酸化物を形成する工程3と、
を具備する、電極の製造方法。
【請求項3】
前記工程3で得られた電極を有機溶媒に浸漬して超音波を照射する工程4をさらに備える、請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記電極は、電極基材上に金属M1の酸化物と、層状複水酸化物とが形成されており、前記層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
電極基材上に金属M1の酸化物
(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)と、金属M1
(前記金属M1の酸化物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2
(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含有する層状複水酸化物が形成されている、電極。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法で得られた電極又は請求項5に記載の電極を使用して、水溶液中で電解処理を行う工程を含む、水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法、電極及び水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は燃焼時にCO2排出がゼロであることから、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として期待されている。特に、太陽光、風力、水力等の再生可能なエネルギーを電力とする水の電気分解法による水素の製造方法は一切CO2を排出しないことから、クリーンな水素製造方法として大きな期待が寄せられている。
【0003】
一般に、水の電気分解用の電極としては、炭素基材上に白金粒子触媒を固定したものが用いられている。しかしながら、白金は価格が高く、資源量にも限りがあるため、白金の使用量を低減する技術や白金代替触媒及び/又は電極の開発が求められている。
【0004】
白金の使用量を低減する方法としては、例えば、特許文献1において、白金をアノード、炭素基材をカソードとして、希硫酸中で電解処理を行うことにより、希硫酸中に微量溶解した白金イオンを炭素基材上に析出させる技術が開示されている。また、水の電気分解用の白金代替電極としては、例えば、特許文献2において、導電性基材の表面に卑金属酸化物層を形成し、当該卑金属酸化物層上に金、銀等の貴金属を担持させた電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/029162号
【文献】国際公開第2013/005252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年において、水の電気分解等に用いられる電極には、従来の電極よりもさらなる性能の向上が望まれており、また、そのような電極を簡便な方法で製造することが望まれていた。特に、過電圧の上昇が起こりにくい電極が強く要望されており、また、そのような電極を簡便な方法で製造できる製造技術の構築が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、過電圧の上昇が起こりにくい電極を簡便な方法で製造できる電極の製造方法及び電極、並びに水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、例えば、特定の化合物を水熱合成法するなどして、電極材料を特定組成とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
第1の金属M1の化合物(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理した後、前記電極基材を取り出して焼成する工程1と、
前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物(金属M1は、前記第1の金属M1の化合物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2の化合物(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液B中でパルス電着処理を行う工程2と、
を具備する、電極の製造方法。
項2
第1の金属M1の化合物(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理した後、前記電極基材を取り出して焼成する工程1と、
前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物(金属M1は、前記第1の金属M1の化合物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2の化合物(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Cに浸漬した状態で加熱処理を行う工程3と、
を具備する、電極の製造方法。
項3
前記工程3で得られた電極を有機溶媒に浸漬して超音波を照射する工程4をさらに備える、項2に記載の電極の製造方法。
項4
前記電極は、電極基材上に金属M1の酸化物と、層状複水酸化物とが形成されており、
前記層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2を含有する、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
項5
電極基材上に金属M1の酸化物と、金属M1及び金属M2を含有する層状複水酸化物が形成されている、電極。
項6
項1~4のいずれか1項に記載の製造方法で得られた電極又は項5に記載の電極を使用して、水溶液中で電解処理を行う工程を含む、水素の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極の製造方法によれば、過電圧の上昇が起こりにくい電極を簡便な方法で製造できる。
【0011】
本発明の電極は、例えば、水の電気分解において、過電圧の上昇が起こりにくく、水素を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】各実施例及び比較例で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示す。
【
図2】各実施例及び比較例で得られた電極のXRDスペクトルを示す。
【
図3】実施例1で得られた電極のSEM画像を示す。
【
図4】実施例1で得られた電極の元素マッピングの結果であり、(a)は電極表面のSEM画像の元素マッピング、(b)は元素マッピングスペクトル、(c)はNiの分布の様子、(d)はFeの分布の様子を示す。
【
図5】実施例1及び5~8で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示す。
【
図6】(a)~(e)はそれぞれ、実施例5、実施例6、実施例1、実施例7及び実施例8で得られた電極のSEM画像を示す。
【
図7】各実施例及び比較例で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示す。
【
図8】実施例1で得られた電極を用いて水の電気分解を行った場合のクロノポテンシオメトリーの結果を示す。
【
図9】クロノポテンシオメトリー試験を30時間続けた後の電極を用いて、リニアスイープボルタンメトリー試験を行った結果を示す。
【
図10】(a)及び(b)は、クロノポテンシオメトリー試験前の電極表面のSEM画像、(c)及び(d)は、クロノポテンシオメトリー試験(ただし、電流密度が50mA/cm
2)を30時間続けた後の電極表面のSEM画像を示す。
【
図11】実施例13~17及び比較例8で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示す。
【
図12】リニアスイープボルタンメトリー曲線から算出したターフェル勾配を示す。
【
図13】実施例1、実施例14、比較例8で得た電極のXRDスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
1.電極の製造方法及び電極
本発明の電極の製造方法は、例えば、第1の製造方法及び第2の製造方法を包含することができる。なお、本明細書において、「本願発明の製造方法」との表記は、第1の製造方法及び第2の製造方法の両方を含む製造方法であることを意味する。
【0015】
第1の製造方法は、少なくとも下記の工程1及び工程2を具備する。
工程1:第1の金属M1の化合物(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理した後、前記電極基材を取り出して焼成する工程。
工程2:前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物(金属M1は、前記第1の金属M1の化合物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2の化合物(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液B中でパルス電着処理を行う工程。
【0016】
第2の製造方法は、少なくとも下記の工程1及び工程3を具備する。
工程1:第1の金属M1の化合物(ここで、金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理した後、前記電極基材を取り出して焼成する工程。
工程3:前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物(金属M1は、前記第1の金属M1の化合物における金属M1と同一の金属である)及び金属M2の化合物(ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である)を含む溶液Cに浸漬した状態で加熱処理を行う工程。
【0017】
第1の製造方法における工程1と、第2の製造方法における工程1とは同一である。
【0018】
本発明の製造方法は、工程が簡便であり、容易に電極を製造することができる。また、得られた電極は、例えば、水の電気分解等に使用した場合に、過電圧の上昇が起こりにくく、優れた耐久性を有することができる。
【0019】
(工程1)
第1の製造方法及び第2の製造方法において、工程1で使用する溶液Aは、第1の金属M1の化合物と、溶媒とを含む。
【0020】
金属M1はNi、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である。つまり、金属M1は特定種の2価又は3価の遷移金属元素である。金属M1は、過電圧を抑制しやすい電極を形成しやすい観点から、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)であることが好ましく、ニッケルであることが特に好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、第1の金属M1の化合物の種類は特に限定されない。例えば、第1の金属M1の化合物としては、公知の無機酸塩、公知の有機酸塩、金属M1の水酸化物及び金属M1のハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0022】
金属M1の無機酸塩としては、金属M1の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる郡より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0023】
金属M1の有機酸塩としては、金属M1の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる郡より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0024】
本発明の製造方法において、第1の金属M1の化合物としては、水に溶解して水溶液を形成しやすく、また、工程1においてニッケルの酸化物が得られやすいという観点から、金属M1の硝酸塩、塩酸塩であることが好ましい。第1の金属M1の化合物は水和物であってもよい。
【0025】
工程1で使用する第1の金属M1の化合物は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。第1の金属M1の化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販のニッケル化合物を使用することもできる。
【0026】
溶液Aにおいて、溶媒としては、水、あるいは、水と低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール)との混合物を使用することができ、特に好ましくは、水である。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。溶媒には、本発明の効果が阻害されない限り、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等を含有していてもよい。
【0027】
第1の製造方法及び第2の製造方法において、工程1では、第1の金属M1の化合物を含む溶液Aに電極基材を浸漬した状態で加熱処理をし、次いで、電極基材を取り出して焼成を行う。この工程1では、電極基材上に金属M1の酸化物が形成される。
【0028】
溶液Aにおいて、第1の金属M1の化合物の濃度は特に限定されない。例えば、溶液Aにおいて、溶媒100mLあたり、第1の金属M1の化合物が8~15mmol溶解していることが好ましい。この場合、構造が安定な金属M1の酸化物を電極基材上に均一に形成しやすい。
【0029】
溶液Aは、第1の金属M1の化合物以外に他の添加剤を含むこともできる。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤を挙げることができる。pH調整剤としては、尿素(CO(NH2)2)、NH4F、水酸化アンモニウム等を挙げることができる。pH調整剤は1種のみ又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
溶液Aにおいて、溶媒100mLあたり、尿素が20~30mmol溶解していることが好ましい。この場合、溶液Aがアルカリ領域のpHを有しやすいので、得られる酸化物が花びら形状を有しやすく、後記する水熱合成によって水酸化物が形成されやすい。
【0031】
溶液Aにおいて、溶媒100mLあたり、NH4Fが15~25mmol溶解していることが好ましい。この場合、溶液Aがアルカリ領域のpHを有しやすいので、得られる酸化物が花びら形状を有しやすく、後記する水熱合成によって水酸化物が形成されやすい。
【0032】
溶液Aは、第1の金属M1の化合物、pH調整剤及び溶媒のみからなるものであってもよい。
【0033】
溶液Aに浸漬する電極基材としては、特に限定されず、例えば、公知の導電性の基材を広く採用することができる。電極基材としては、例えば、ニッケル、炭素、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金、ステンレス、チタン、鉄、銅、導電ガラスなどが挙げられる。
【0034】
溶液Aに浸漬する電極基材は、炭素基材又はニッケル基材であることが好ましい。この場合、所望の電極を製造することが容易となり、また、得られる電極は、水の電気分解等において、過電圧の上昇が起こりにくく、優れた耐久性を有しやすい。より具体的に電極基材として、炭素基材である場合は、カーボンファイバー紙を、ニッケル基材である場合は、ニッケルフォームを例示することができる。特に、第1の製造方法では、電極基材は、カーボンファイバー紙であることが好ましく、第2の製造方法では、電極基材は、ニッケルフォームであることが好ましい。
【0035】
電極基材は、公知の方法で得ることができ、あるいは、市販の電極基材を採用することもできる。
【0036】
電極基材の形状は特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。例えば、シート状、板状、棒状、メッシュ状等の電極基材が挙げられる。
【0037】
電極基材は、溶液Aに浸漬する前にあらかじめ洗浄処理を行うことができる。洗浄処理の方法は特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。例えば、電極基材を塩酸等の酸で洗浄する方法が挙げられる。酸洗浄するにあたっては、超音波処理を組み合わせることもできる。
【0038】
電極基材を溶液Aに浸漬する方法は特に限定されず、通常は、電極基材の全体が溶液Aに浸されるように行うことができる。電極基材の浸漬は、例えば、後記する水熱合成が可能な容器内で行うことができる。このような容器として、耐圧式のオートクレーブを挙げることができる。
【0039】
工程1では、電極基材を溶液Aに浸漬した状態で加熱処理を行う。工程1の加熱処理としては、水熱合成法を挙げることができる。ここでいう水熱合成法は、電極基材を溶液Aに浸漬した状態で容器を密閉し、該容器内を加熱する方法である。この水熱合成により、電極基材上に金属M1の水酸化物(例えばNi(OH)2)が形成され得る。
【0040】
水熱合成における容器内の温度は、金属M1の水酸化物が形成される条件である限りは特に制限されず、例えば、90~200℃とすることができる。この温度にて容器を保持する時間も特に限定されず、例えば、30分~5時間とすることができる。水熱合成における反応容器内の圧力も特に限定されず、適宜の範囲に設定することができる。
【0041】
水熱合成において、溶液Aはアルカリ領域であることが好ましく、例えば、pHが8~9であることが好ましい。この場合、水熱合成において、金属M1の水酸化物がより形成しやすくなり、また、形状も花びら状等に形成されやすい。
【0042】
工程1において、加熱処理(水熱合成)の後は、容器から電極基材を取り出して焼成を行う。必要に応じて、焼成を行う前に容器から取り出した電極基材を水等で洗浄し、その後、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は公知の方法を広く採用でき、例えば、真空乾燥等を挙げることができる。
【0043】
工程1において、焼成の方法は特に限定されず、例えば、公知の焼成方法を広く採用することができる。
【0044】
焼成温度は、例えば、300~500℃とすることができ、400~500℃とすることが好ましく、450℃前後とすることが特に好ましい。焼成時間は、焼成温度によって適宜選択することができる。
【0045】
工程1において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、所望の酸化物が形成される程度に適宜設定することができる。
【0046】
焼成は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれの雰囲気下で行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成を行うことである。焼成は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0047】
上記焼成によって、電極基材上の金属M1の水酸化物が金属M1の酸化物(例えば、NiO)へと変化する。
【0048】
上記工程1の後、第1の製造方法では工程2を、第2の製造方法では工程3を行う。
【0049】
(工程2)
第1の製造方法において、工程2は、前記工程1で焼成された電極基材、つまり、金属M1の酸化物で修飾された電極基材を、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物を含む溶液B中でパルス電着処理を行う工程である。この工程2は、金属M1の及び金属M2の層状複水酸化物を形成するための工程である。
【0050】
工程2で使用する溶液Bは、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物と、溶媒とを含む。
【0051】
工程2において、第2の金属M1の化合物の種類は特に限定されない。ただし、工程1で使用する第1の金属M1の化合物における金属M1と、工程2で使用する第2の金属M1の化合物における金属M1とは同一の金属である。第2の金属M1の化合物の種類としては、第1の金属M1の化合物と同様の種類を挙げることができる。
【0052】
工程2において、第2の金属M1の化合物としては、水に溶解して水溶液を形成しやすく、また、工程2及において、層状複水酸化物を形成しやすいという観点から、金属M1の硝酸塩、塩酸塩であることが好ましい。第2の金属M1の化合物は水和物であってもよい。
【0053】
工程2で使用する第2の金属M1の化合物は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。第2の金属M1の化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販の金属M1の化合物を使用することもできる。
【0054】
工程2で使用する金属M2の化合物の種類は特に限定されない。例えば、金属M2の化合物としては、公知の無機酸塩、公知の有機酸塩、金属M2の水酸化物及び金属M2のハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0055】
ここで、金属M2はFe、Co、Cu、Cr、Zn、Mn及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1種である。つまり、金属M2は特定種の2価又は3価の遷移金属元素である。金属M2は、過電圧を抑制しやすい電極を形成しやすい観点から、Fe(鉄)、Co(コバルト)であることが好ましく、鉄であることが特に好ましい。
【0056】
金属M2の無機酸塩としては、金属M2の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる郡より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0057】
金属M2の有機酸塩としては、金属M2の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる郡より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0058】
工程2において、金属M2の化合物としては、水に溶解して水溶液を形成しやすく、また、酸化物が得られやすいという観点から、金属M2の硝酸塩、塩酸塩であることが好ましい。金属M2の化合物は水和物であってもよい。
【0059】
工程2で使用する金属M2の化合物は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。金属M2の化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販の金属M2の化合物を使用することもできる。
【0060】
工程1で使用する第1の金属M1の化合物と、工程2で使用する第2の金属M1の化合物とは、両者の金属M1が同一である限りは、同一の化合物であってもよく、異なる化合物とすることもできる。
【0061】
また、工程2で使用する第2の金属M1の化合物と金属M2の化合物は、塩の種類が同じであることが好ましい(例えば、硝酸塩どうしの組み合わせ、あるいは、塩酸塩どうしの組み合わせが好ましい)。
【0062】
溶液Bにおいて、溶媒としては、溶液Aで使用する溶媒と同様の種類を挙げることができ、特に好ましくは、水である。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。溶媒には、本発明の効果が阻害されない限り、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等を含有していてもよい。
【0063】
溶液Bにおいて、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物の濃度は特に限定されない。例えば、溶液Bにおいて、溶媒100mLあたり、第2の金属M1の化合物が1~100mmol溶解していることが好ましい。この場合、パルス電着により、電析を容易に行える。
【0064】
また、溶液Bにおいて、溶媒100mLあたり、金属M2の化合物が1~100mmol溶解していることが好ましい。この場合、パルス電着により、電析を容易に行える。
【0065】
溶液Bにおいて、金属M1と金属M2の元素比は任意の範囲に調整することができる。例えば、溶液Bにおける金属M1と金属M2との元素比M1:M2は、4:1~1:4の範囲とすることができる。この範囲である場合、M2-O-M2(例えば、Fe-O-Fe)の結合が顕著に発生しにくくなり、金属M1と金属M2の層状複水酸化物が安定に形成されやすく、また、層状複水酸化物が花びら状等の形状に形成されて、金属M1と金属M2との協働的作用が高まって電極の性能が向上しやすい。溶液Bにおける金属M1と金属M2との元素比M1:M2は4:1であることが特に好ましい。
【0066】
溶液Bは、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物以外に他の添加剤を含むこともできる。例えば、電着処理を行う際に併用される公知の添加剤が溶液Bに含まれていてもよい。溶液Bは、溶媒、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物のみからなるものであってもよい。
【0067】
工程2では、工程1によって得られた電極基材を溶液Bに浸漬した状態でパルス電着処理を行う。このパルス電着処理により、電極基材に、層状複水酸化物が形成される。
【0068】
パルス電着処理では、アノードとして工程1によって得られた電極基材を使用する。一方、パルス電着処理を行う際のカソードとしては、例えば、公知の不溶性電極を使用することができる。不溶性電極としては、例えば、炭素、白金族金属、金などを素材とする電極を用いることができる。白金族金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、及びイリジウム(Ir)が挙げられ、中でも白金(Pt)が好ましい。白金族金属は、合金、金属酸化物等の状態で含まれていてもよい。
【0069】
カソードの形状は特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。形状としては、例えば、金属線、シート状、板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。具体的には、螺旋状白金線、白金板などを例示することができる。
【0070】
パルス電着処理において、溶液BのpHは、金属M1及び金属M2の層状複水酸化物を析出させることができる範囲であれば特に制限されず、例えば6未満、好ましくは0~4程度、より好ましくは0~2程度である。
【0071】
パルス電着処理を行う際、アノード、カソード及び溶液B(電解液)の他、参照電極、電解装置、電源、制御ソフトウェア等を使用することができる。これらは、例えば目的に応じて公知のものを使用することができる。例えば、参照電極としては、銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、水銀/塩化水銀電極(Hg/HgCl2電極)、標準水素電極などを使用することができる。
【0072】
第1の製造方法において、パルス電着処理は、金属イオンの電着速度を制御できる電着処理法であり、例えば、高端電圧と低端電圧とを一定周期で印加するパルス電圧法(PPM)、高端電流と低端電流とを一定周期で印加するパルス電流法(PGM)、高端電圧の印加と開回路状態とを一定周期で繰り返し行う単極性パルス電圧法(UPED)などが挙げられる。
【0073】
パルス電着処理法として、単極性パルス電圧法(UPED)を採用することが好ましく、この場合、安定な構造を有する金属M1及び金属M2との層状複水酸化物が形成されやすく、電極の性能が向上しやすい。通常のパルス印加法でパルスオフ時に電極が自然電位となるのに対し、単極性パルス電圧法(UPED)では、パルスオフ時に電極を0Vとして電着を行うことができる。
【0074】
単極性パルス電圧法の条件としては導電性基材上に層状複水酸化物を形成させることができる条件であれば特に制限されず、例えば、パルスの印加電圧:-2~-1V、パルス時間:0.5~3秒、パルス印加回数:100~1000回の条件とすることができる。特に、印加電圧は-1V、パルス時間は1秒、パルス印加回数は600回の条件で行うことが好ましく、この場合、層状複水酸化物の析出量、厚み及び密度が特に適切となって、電極の性能が向上しやすい。
【0075】
パルス電着処理を行う際の溶液Bの温度は特に制限されず、例えば0~50℃程度、好ましくは20~30℃とすることができる。
【0076】
以上の工程2を経て得られる電極は、電極基材上に金属M1の酸化物と層状複水酸化物とが形成されてなる。層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2を含有する。層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2の複水酸化物のみで構成されてもよい。
【0077】
(工程3)
第2の製造方法において、工程3は、前記工程1で焼成された電極基材を、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物を含む溶液Cに浸漬した状態で加熱処理を行う工程である。この工程3は、金属M1及び金属M2の層状複水酸化物を形成するための工程である。
【0078】
工程3で使用する溶液Cは、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物と、溶媒とを含む。
【0079】
工程3において、第2の金属M1の化合物の種類は特に限定されない。ただし、工程1で使用する第1の金属M1の化合物における金属M1と、工程3で使用する第2の金属M1の化合物における金属M1とは同一の金属である。第2の金属M1の化合物の種類としては、第1の金属M1の化合物と同様の種類を挙げることができる。
【0080】
工程3において、第2の金属M1の化合物としては、水に溶解して水溶液を形成しやすく、また、工程3及において、層状複水酸化物を形成しやすいという観点から、金属M1の硝酸塩、塩酸塩であることが好ましい。第2の金属M1の化合物は水和物であってもよい。
【0081】
工程3で使用する第2の金属M1の化合物は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。第2の金属M1の化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販の金属M1の化合物を使用することもできる。
【0082】
工程3で使用する金属M2の化合物の種類は特に限定されない。例えば、金属M2の化合物としては、公知の無機酸塩、公知の有機酸塩、金属M2の水酸化物及び金属M2のハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0083】
金属M2の無機酸塩としては、金属M2の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる郡より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0084】
金属M2の有機酸塩としては、金属M2の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる郡より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0085】
工程3において、金属M2の化合物としては、水に溶解して水溶液を形成しやすく、また、複水酸化物が得られやすいという観点から、金属M2の硝酸塩、塩酸塩であることが好ましい。金属M2の化合物は水和物であってもよい。
【0086】
工程2で使用する金属M2の化合物は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。金属M2の化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販の金属M2の化合物を使用することもできる。
【0087】
工程1で使用する第1の金属M1の化合物と、工程3で使用する第2の金属M1の化合物とは、両者の金属M1が同一である限りは、同一の化合物であってもよく、異なる化合物とすることもできる。
【0088】
また、工程3で使用する第2の金属M1の化合物と金属M2の化合物は、塩の種類が同じであることが好ましい(例えば、硝酸塩どうしの組み合わせ、あるいは、塩酸塩どうしの組み合わせが好ましい)。
【0089】
溶液Cにおいて、溶媒としては、溶液Aで使用する溶媒と同様の種類を挙げることができ、特に好ましくは、水である。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。溶媒には、本発明の効果が阻害されない限り、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等を含有していてもよい。
【0090】
溶液Cにおいて、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物の濃度は特に限定されない。例えば、溶液Cにおいて、溶媒100mLあたり、第2の金属M1の化合物が1~100mmol溶解していることが好ましい。
【0091】
また、溶液Cにおいて、溶媒100mLあたり、金属M2の化合物が1~100mmol溶解していることが好ましい。
【0092】
溶液Cにおいて、金属M1と金属M2の元素比は任意の範囲に調整することができる。例えば、溶液Cにおける金属M1と金属M2との元素比M1:M2は、4:1~1:4の範囲とすることができる。この範囲である場合、M2-O-M2(例えば、Fe-O-Fe)の結合が顕著に発生しにくくなり、金属M1と金属M2の層状複水酸化物が安定に形成されやすく、また、層状複水酸化物が花びら状等の形状に形成されて、金属M1と金属M2との協働的作用が高まって電極の性能が向上しやすい。溶液Cにおける金属M1と金属M2との元素比M1:M2は4:1であることが特に好ましい。
【0093】
溶液Cは、第2の金属M1の化合物及び金属M2の化合物以外に他の添加剤を含むこともできる。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤を挙げることができる。pH調整剤としては、尿素(CO(NH2)2)、NH4F、水酸化アンモニウム等を挙げることができる。pH調整剤は1種のみ又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0094】
溶液Cにおいて、溶媒100mLあたり、尿素が20~30mmol溶解していることが好ましい。この場合、溶液Aがアルカリ領域のpHを有しやすいので、後記する水熱合成によって水酸化物が形成されやすい。
【0095】
溶液Cにおいて、溶媒100mLあたり、NH4Fが20~30mmol溶解していることが好ましい。この場合、溶液Aがアルカリ領域のpHを有しやすいので、後記する水熱合成によって水酸化物が形成されやすい。
【0096】
溶液Cは、第2の金属M1の化合物、金属M2の化合物、pH調整剤及び溶媒のみからなるものであってもよい。
【0097】
工程3において、工程1で得られた電極基材を溶液Cに浸漬する方法は特に限定されず、通常は、電極基材の全体が溶液Cに浸されるように行うことができる。電極基材の浸漬は、例えば、後記する水熱合成が可能な容器内で行うことができる。このような容器として、耐圧式のオートクレーブを挙げることができる。
【0098】
工程3では、電極基材を溶液Cに浸漬した状態で加熱処理を行う。工程3の加熱処理としては、水熱合成法を挙げることができる。ここでいう水熱合成法は工程1の水熱合成法と同様である。この水熱合成により、電極基材上に金属M1及び金属M2層状複水酸化物が形成され得る。
【0099】
水熱合成における容器内の温度は、金属M1及び金属M2を含む層状複水酸化物が形成される条件である限りは特に制限されず、例えば、120~200℃とすることができる。この温度にて容器を保持する時間も特に限定されず、例えば、10分~2時間とすることができる。水熱合成における容器内の圧力も特に限定されず、適宜の範囲に設定することができる。
【0100】
工程3の水熱合成において、溶液Cはアルカリ領域であることが好ましく、例えば、pHが8~9であることが好ましい。この場合、水熱合成において、金属M1及び金属M2の複水酸化物がより形成しやすくなる。
【0101】
工程3において、加熱処理(水熱合成)の後は、容器から電極基材を取り出して、必要に応じて取り出した電極基材を水等で洗浄し、その後、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は公知の方法を広く採用でき、例えば、真空乾燥等を挙げることができる。
【0102】
以上の工程3を経て得られる電極は、電極基材上に金属M1の酸化物と層状複水酸化物とが形成される。層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2を含有する。層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2の複水酸化物のみからなるものであってもよい。
【0103】
以上の工程2を経て得られる電極は、電極基材上に酸化物と層状複水酸化物とが形成される。酸化物は、金属M1(例えば、Ni)の酸化物であり、層状複水酸化物は、金属M1(例えば、Ni)及び金属M2(例えば、Fe)を含有する。酸化物に含まれる金属は、金属M1のみであってもよいし、その他、例えば、不可避的に含まれる金属を含んでもよい。層状複水酸化物に含まれる金属は、金属M1及び金属M2のみであってもよいし、その他、例えば、不可避的に含まれる金属を含んでもよい。
【0104】
(工程4)
第2の製造方法は、工程3で得られた電極を有機溶媒に浸漬して超音波を照射する工程4をさらに備えることができる。
【0105】
工程4で用いる有機溶媒は、層状複水酸化物の層の間に挿入される化合物であることが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、ホルムアミド、フタロシアニン、テレフタル酸エステル、ポリビニルアルコール、アスパラギン酸塩、ポリアスパラギン酸塩、カルボン酸、アルキル硫酸塩、脂肪族カルボン酸塩、安息香酸エステル、ポルフィリン、ヌクレオシドリン酸、ビタミン、アミノ酸、及び脂肪酸などが挙げられる。これらの中でも、ホルムアミドが好ましい。
【0106】
工程4において、超音波処理の方法は特に限定されない。例えば、公知の超音波照射装置を使用して、超音波処理を行うことができる。例えば、20~40℃の条件で1~10分間にわたって超音波処理を行うことができる。
【0107】
工程4において、超音波処理をすることで、層状複水酸化物の層間に有機溶媒が挿入され、層間の拡張が起こり得る。これにより、得られる電極は、水の電気分解等において過電圧の上昇がより抑制される。
【0108】
(電極)
本発明の製造方法(第1の製造方法及び第2の製造方法を含む)で得られる電極は、電極基材上に金属M1の酸化物と層状複水酸化物とが形成されてなる。層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2を含有する。層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2の複水酸化物のみからなるものであってもよい。金属M1の酸化物は、金属M1以外に不可避的に含まれるその他の金属を含んでもよく、また、層状複水酸化物は、金属M1及び金属M2以外に不可避的に含まれるその他の金属を含むことができる。
【0109】
本発明の製造方法で得られる電極は、電極基材上に金属M1の酸化物と、金属M1及び金属M2の層状複水酸化物とを有することから、例えば、水の電気分解等に使用した場合に、過電圧の上昇が起こりにくく、優れた耐久性を有することができる。特に、金属M1がニッケルであり、金属M2が鉄である組み合わせである場合、過電圧の上昇が特に起こりにくく、さらに優れた耐久性を有することができる。従って、本発明の製造方法で得られる電極は、各種の用途に広く適用することができ、特に、水の電気分解用の電極、水素製造用の電極として好適に使用することができる。
【0110】
本発明の製造方法で得られる電極は、微細構造が形成されることにより金属M1の酸化物(例えばNiO)と金属M1と金属M2の層状複水酸化物(例えば、NiFeの層状複水酸化物)の密接な接触が得られ、両者の協働的な触媒作用が発現するものと推測される。
【0111】
電極において、金属M1の酸化物と、金属M1及び金属M2を含有する層状複水酸化物との比率は特に限定されず、任意の比率に調整することができる。
【0112】
本発明の製造方法で得られる電極は、例えば、電極基材上に粒子が多数積層された構造を有する。電極基材上に設けられている粒子は、例えば、ニッケル酸化物等の金属M1の酸化物粒子の表面が、層状複水酸化物で被覆されてなる。層状複水酸化物は、例えば、ニッケル等の金属M1と鉄等の金属M2とを含有する電極は、特定形状の粒子が多数電極基材上に形成されることで、電極基材が粒子で被覆され、電極が形成される。電極基材上の粒子は、例えば、花びら状の形状を有する。粒子の大きさは、例えば、2.5~5.0μmである。ここでいう粒子の大きさは、電極の走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0113】
本発明の電極は、例えば、水熱合成法及び電気化学法の組み合わせ、あるいは、水熱合成法及び水熱合成法の組み合わせで製造されるので、電極の三つの層(電極基材、酸化物及び層状複水酸化物)の間に良好な界面接続を保証することができ、各層間の電荷遷移にとって有益である。また、金属M1を含むことで、主成分である金属M1の酸化物の結晶の微細構造が制御されやすく、電極の触媒活性が向上しやすい。
【0114】
酸化物表面の層状複水酸化物は、電極の電気伝導度および活性サイトを大きく増加させることができる。
【0115】
本発明の電極は、バインダーフリーとすることができ、電極全体の抵抗の増大、活性部位のブロック及び拡散の阻害が回避されやすい。
【0116】
2.水素の製造方法
本発明の水素の製造方法は、上記製造方法で得られた電極を使用して、水溶液中で電解処理を行う工程を含む。
【0117】
本発明の水素の製造方法は、前述の電極の製造方法で得られる電極を例えば、アノードとして使用して、水溶液中で電解処理を行う工程を含むことができる。あるいは、本発明の水素の製造方法は、前述の電極の製造方法で得られる電極を例えば、カソードとして使用して、水溶液中で電解処理を行う工程を含むことができる。さらには、本発明の水素の製造方法は、前述の電極の製造方法で得られる電極を例えば、アノード及びカソードの両方に使用して、水溶液中で電解処理を行う工程を含むことができる。つまり、前述の電極の製造方法で得られる電極は、アノード及びカソードの両方に使用することができ、特にアノードとして使用した場合に、効率よく水素を製造することができる。
【0118】
前述の電極の製造方法で得られる電極を例えば、アノードのみに使用する場合、カソードとしては、一般に水の電気分解においてカソードとして用いられる電極を使用することができる。例えば、炭素、白金、金などの貴金属などを素材とする電極をカソードとして用いることができる。前述の電極の製造方法で得られる電極を例えば、カソードのみに使用する場合、アノードとしては、一般に水の電気分解においてアノードとして用いられる電極を使用することができる。
【0119】
水素の製造方法において、水溶液としては、一般に水の電気分解において用いられる成分を含む水溶液を使用することができる。水溶液は、ヨウ素臭素などのハロゲン、硫酸イオンなどを含むこともできる。なお、ヨウ素を含む水溶液を用いる場合、アノードにおいてヨウ素酸イオンが生成される。
【0120】
水素の製造方法の具体的な例を挙げると、本発明の製造方法で得られた電極をアノード、白金板をカソードとし、KOH水溶液を電解液として、アノードに電圧を印加する。これにより、カソードにおいて水素を生成させることができる。また、アノードへの印加電圧を増加させることにより、水素の生成速度を上昇させることができる。さらに、アノードにおいては、酸素が生成する。
【0121】
水素の製造方法の具体的な他例として、本発明の製造方法で得られた電極をカソード、白金板をアノードとし、KOH水溶液を電解液として、アノードに電圧を印加する。これにより、カソードにおいて水素を生成させることができる。また、アノードへの印加電圧を増加させることにより、水素の生成速度を上昇させることができる。さらに、アノードにおいては、酸素が生成する。
【0122】
水素の製造方法の具体的なさらなる他例として、本発明の製造方法で得られた電極をカソード及びアノードとし、KOH水溶液を電解液として、アノードに電圧を印加する。これにより、カソードにおいて水素を生成させることができる。また、アノードへの印加電圧を増加させることにより、水素の生成速度を上昇させることができる。さらに、アノードにおいては、酸素が生成する。
【0123】
水素の製造方法により製造された水素は、燃料電池や水素エンジンなどの燃料として好ましく使用することができる。
【0124】
本発明の水素の製造方法では、前記電極の製造方法で得られた電極を使用することから、過電圧の上昇が起こりにくく、優れた耐久性を有するので、水素を効率よく製造することができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0126】
(実施例1)
まず、2mmolのNi(NO3)2・6H2Oと、5mmolのCO(NH2)2と、4mmolのNH4Fとを蒸留水20mLに溶解して調製した「溶液A」を、テフロン(登録商標)内筒式オートクレーブに収容し、該溶液Aに、市販のカーボンファイバー紙(以下、「CFP」と略記する)を浸漬した。その後、オートクレーブを密閉し、該オートクレーブを120℃に昇温して12時間保持した。これにより、Ni(OH)2で修飾されたCFP(以下、「Ni(OH)2修飾CFP」と略記する)を得た。該Ni(OH)2修飾CFPをオートクレーブから取り出して蒸留水で洗浄した後、60℃の真空乾燥機中で2時間乾燥した。
【0127】
上記乾燥後、Ni(OH)2修飾CFPを空気中、450℃の雰囲気下に2時間保持することで焼成処理を行った(工程1)。これにより、NiOで修飾されたCFP(以下、「NiO修飾CFP」と略記する)を得た。
【0128】
次いで、0.8mmolのNi(NO3)2・6H2Oと、0.2mmolのFe(NO3)3・9H2Oと、水20mLとを含む「溶液B」を、Ni/Fe(モル比)が4:1となるように調整した。このように調整した溶液Bに、前記焼成処理されたNiO修飾CFPを浸漬して、パルス電着処理を行った(工程2)。このパルス電着処理は、白金板を対極、Ag/AgClを参照極として使用して、パルスオン及びオフ時のパルス電位を共に0V、オン及びオフ時間を共に1秒、パルス印加回数を600回とした。このパルス電着処理により、Ni及びFeの層状複水酸化物が電析され、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0129】
(実施例2)
工程1の焼成温度を350℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0130】
(実施例3)
工程1の焼成温度を400℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0131】
(実施例4)
工程1の焼成温度を550℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0132】
(実施例5)
工程2のパルス印加回数を200回に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0133】
(実施例6)
工程2のパルス印加回数を400回に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0134】
(実施例7)
工程2のパルス印加回数を800回に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0135】
(実施例8)
工程2のパルス印加回数を1000回に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0136】
(実施例9)
Ni/Fe(モル比)が2:1となるように溶液Bを調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0137】
(実施例10)
Ni/Fe(モル比)が1:1となるように溶液Bを調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0138】
(実施例11)
Ni/Fe(モル比)が6:1となるように溶液Bを調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0139】
(実施例12)
Ni/Fe(モル比)が1:2となるように溶液Bを調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0140】
(実施例13)
電極基材をCFPの代わりに、大きさが1cm×1cmであり、厚みが2mmである市販のニッケルフォーム(以下、「NF」と略記する)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0141】
(実施例14)
まず、2mmolのNi(NO3)2・6H2Oと、5mmolのCO(NH2)2と、4mmolのNH4Fとを蒸留水20mLに溶解して調製した「溶液A」を、テフロン(登録商標)内筒式オートクレーブに収容し、該溶液AにNFを浸漬した。その後、オートクレーブを密閉し、該オートクレーブを100℃に昇温して12時間保持した。これにより、Ni(OH)2で修飾されたNF(以下、「Ni(OH)2修飾NF」と略記する)を得た。該Ni(OH)2修飾NFをオートクレーブから取り出して蒸留水で洗浄した後、60℃の真空乾燥機中で2時間乾燥した。
【0142】
上記乾燥後、Ni(OH)2修飾NFを空気中、450℃の雰囲気下に2時間保持することで焼成処理を行った(工程1)。これにより、NiOで修飾されたNF(以下、「NiO修飾NF」と略記する)を得た。
【0143】
次いで、0.8mmolのNi(NO3)2・6H2Oと、0.2mmolのFe(NO3)3・9H2Oと、5mmolのCO(NH2)2と、4mmolのNH4Fと、水20mLとを含む「溶液C」を、Ni/Fe(モル比)が4:1となるように調整した。このように調整した溶液Cを、テフロン(登録商標)内筒式オートクレーブに収容し、該溶液Cに前記NiO修飾NFを浸漬した。その後、オートクレーブを密閉し、該オートクレーブを140℃に昇温して6時間保持した(工程3)。この水熱合成により、Ni及びFeの層状複水酸化物を析出させ、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0144】
(実施例15)
Ni/Fe(モル比)が1:4となるように溶液Cを調整したこと以外は、実施例14と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0145】
(実施例16)
Ni/Fe(モル比)が1:1となるように溶液Cを調整したこと以外は、実施例14と同様の方法で、電極基材上にNiOと、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0146】
(実施例17)
実施例14で得られた電極を、30℃のホルムアミド20mLに浸漬し、5分間、超音波を照射した。これにより、超音波処理後、電極を純水で洗浄し、室温で24時間乾燥することで電極を得た。
【0147】
(比較例1)
実施例1において工程1の焼成処理前に得たNi(OH)2で修飾されたCFPを電極とした。
【0148】
(比較例2)
実施例1において工程1の焼成処理前に得たNi(OH)2修飾CFPを、Ni(NO3)2・6H2O、Fe(NO3)3・9H2O及び水2を含む溶液B(Ni:Fe(モル比)が1:1)に浸漬し、実施例1と同様の条件でパルス電着処理を行った。このパルス電着処理により、Ni及びFeの層状複水酸化物が電析され、電極基材上にNi(OH)2と、Ni及びFeの層状複水酸化物とが形成された水の電気分解用の電極を得た。
【0149】
(比較例3)
実施例1において、工程2のパルス電着処理を行わず、工程1で焼成されたNiO修飾CFPを水の電気分解用の電極として得た。
【0150】
(比較例4)
焼成温度を350℃に変更したこと以外は、比較例3と同様の方法で、NiO修飾CFPを得た。
【0151】
(比較例5)
焼成温度を400℃に変更したこと以外は、比較例3と同様の方法で、NiO修飾CFPを得た
【0152】
(比較例6)
焼成温度を550℃に変更したこと以外は、比較例3と同様の方法で、NiO修飾CFPを得た
【0153】
(比較例7)
Ni/Fe(モル比)が0:1となるように溶液Bを調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で電極を得た。
【0154】
(比較例8)
実施例1において、電極基材をNFに変更すると共に、工程2のパルス電着処理を行わず、工程1で焼成されたNiO修飾NFを水の電気分解用の電極として得た。
【0155】
(評価結果)
図1は、各実施例及び比較例で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示している。
図1のリニアスイープボルタンメトリー曲線は、陽極として実施例又は比較例で得られた電極、陰極として白金板、参照電極としてAg/AgCl電極、電解液として1MのKOH水溶液を使用し、電極サイズを1cm×1cmとした酸素発生(OER)試験(電位掃引速度5mVs
-1)により得た。リニアスイープボルタンメトリー曲線を得るための測定装置は、標準3電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いて測定を行った。
【0156】
図1から、実施例で得られた電極はいずれも高い電流密度を有することがわかり、優れた性能を有する電極であった。特に、
図1の結果から、工程1の焼成温度が450℃(実施例1)である場合に最も性能が優れることがわかった。実施例1の電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線において、10mA/cm
2の電流印加時の過電圧は、175.2mVであり、特に低い値を示した。
【0157】
以上の結果から、特定の製造方法で得られた電極は微細構造が形成されることによりNiOとNiFeの層状複水酸化物の密接な接触が得られ、両者の協働的な触媒作用が発現するものと推測される。
【0158】
また、
図1の実施例と比較例との対比から、本発明の電極は、複合的な構造を持たないNi(OH)
2/CFP(比較例1)やNiO/CFP(比較例3等)の電極に比べて顕著に高い性能を示すことがわかった。
【0159】
図2は、各実施例及び比較例で得られた電極のXRDスペクトルを示している。該XRDのピーク線幅から求めたNiO結晶の平均粒径は、実施例3で7.72nm、実施例1で14.13nm、実施例4で20.70nmとなり、焼成温度が高くなるほど、平均粒径が増大した。よって、焼成温度が高くなることで、NiO粒子の結晶成長が促進されていることがわかる。
【0160】
図3(a)、(b)及び(c)は、実施例1で得られた電極のSEM画像を示している(a,b,cの順に撮影倍率が高い)。これらのSEM像から、得られた電極は、CFP上に析出したNiOが花びら状の構造を有し、さらにそのNiOの表面をNiおよび鉄の層状複水酸化物が被覆していることがわかった。
【0161】
図4は、実施例1で得られた電極の元素マッピングの結果を示している。具体的に
図4(a)は電極表面のSEM画像の元素マッピングをし、(b)は元素マッピングスペクトル、(c)はNiの分布の様子、(d)はFeの分布の様子を示している。SEM画像の元素マッピングは、Horiba Scientific社の「エネルギー分散分光計(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM、Hitachi SU8010)システムを用いて測定した。その測定において、測定電圧10kVとした。
【0162】
図4の結果から、ニッケル及び鉄共に、材料表面上に均一に分布していることがわかった。
【0163】
図5は、実施例1及び5~8で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示している。
図5のリニアスイープボルタンメトリー曲線は、陽極として実施例で得られた電極、陰極として白金板、参照電極としてAg/AgCl電極、電解液として1MのKOH水溶液を使用し、電極サイズを1cm×1cmとした酸素発生(OER)試験により得た。
【0164】
図5から、パルス印加回数にかかわらずいずれの実施例で得られた電極も高い電流密度を有することがわかり、優れた性能を有する電極であった。特に、
図5の結果から、パルス印加回数600回(実施例1)である場合に最も性能が優れることがわかった。従って、パルス印加回数の増加とともに、活性な層状複水酸化物の析出量が増加するためと考えられる。パルス印加回数が800回及び1000回(実施例7,8)よりも、パルス印加回数600回(実施例1)の方が良い性能であった。このことから、パルス印加回数が増加すると層状複水酸化物がより厚く、密度も高くなるが(
図6参照)、層状複水酸化物が厚くなり過ぎても、密度が高くなり過ぎても良い訳ではなく、適した厚み及び密度が存在するといえる。
【0165】
図6(a)~(e)はそれぞれ、実施例5、実施例6、実施例1、実施例7及び実施例8で得られた電極のSEM画像を示している。これらのSEM像から、得られた電極はいずれも、CFP上に析出したNiOが花びら状の構造を有し、さらにそのNiOの表面をNiおよび鉄の層状複水酸化物が被覆していることがわかった。特に、パルス印加回数が増加すると層状複水酸化物がより厚く、密度も高くなる傾向にあった。
【0166】
図7は、各実施例及び比較例で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示している。
図7のリニアスイープボルタンメトリー曲線は、陽極として実施例で得られた電極、陰極として白金板、参照電極としてAg/AgCl電極、電解液として1MのKOH水溶液を使用し、電極サイズを1cm×1cmとした酸素発生(OER)試験(電位掃引速度5mVs
-1)により得た。
【0167】
図7から、実施例で得られた電極はいずれも高い電流密度を有することがわかり、優れた性能を有する電極であった。特に、
図7の結果から、工程2の溶液Cにおいて、最適なNi/Feモル比は4/1(実施例1)であることが明らかとなった。この結果、Feは少量の添加であっても電極特性を大幅に向上させることができることが示された。Feの添加量が特定範囲であれば、材料中でFe-O-Fe結合の生成が起こりにくく、これによりNiとFeの協働的な作用が損なわれにくいと推察される。
【0168】
図8は、実施例1で得られた電極を用いて水の電気分解を行った場合のクロノポテンシオメトリーの結果(電流密度を10mA/cm
2及び50mA/cm
2の2種類とした)を示している。該クロノポテンシオメトリーは、実施例1で得られた電極をカソードとして使用した場合の結果である。測定条件はそれぞれリニアスイープボルタンメトリー曲線を得るための試験と同様の条件とし、測定装置は、2電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いて測定を行った。
【0169】
図8から、30時間経過しても、電極の性能の低下は見られなかった。この結果は、実施例1で得られた電極が優れた耐久性を有することを示す。
【0170】
図9(a)及び(b)は、
図8のクロノポテンシオメトリー試験を30時間続けた後の電極を用いて、リニアスイープボルタンメトリー試験を行った結果を示している(
図9中、「試験後」と表記)。また、比較として、
図9(a)及び(b)には、クロノポテンシオメトリー試験前の電極のリニアスイープボルタンメトリー試験の結果も示している((
図9中、「試験前」と表記)。このリニアスイープボルタンメトリー試験は、
図7の試験条件と同様とした((a)は電流密度が10mA/cm
2、(b)は電流密度が50mA/cm
2である)。
【0171】
図9(a)及び(b)から、実施例1の電極は30時間使用された後であっても、過電圧は抑制されており、むしろ使用前よりも使用後の方が過電圧の低下が確認された。これは、活性の高いNiOOH種が層状複水酸化物表面に形成されたためと推測される
【0172】
図10(a)及び(b)は、
図8のクロノポテンシオメトリー試験前の電極表面のSEM画像、
図10(c)及び(d)は、
図8のクロノポテンシオメトリー試験(ただし、電流密度が50mA/cm
2)を30時間続けた後の電極表面のSEM画像である。
【0173】
クロノポテンシオメトリー試験後(耐久試験後)であっても、層状複水酸化物で被覆されたNiO粒子は、花弁状の構造が部分的に崩壊しているのみに留まるものであり、実施例で得られた電極は優れた耐久性を有していることが示された。
【0174】
図11は、実施例13~17及び比較例8で得られた電極のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示している。
図11のリニアスイープボルタンメトリー曲線は、陽極として実施例又は比較例で得られた電極、陰極として白金板、参照電極としてAg/AgCl電極、電解液として1MのKOH水溶液を使用し、電極サイズを1cm×1cmとした酸素発生(OER)試験により得た。
【0175】
図11から、実施例で得られた電極はいずれも高い電流密度を有することがわかり、優れた性能を有する電極であった。実施例13のようにUPED法でNiFe層状複水酸化物を析出させることで調製した電極(NF使用)の過電圧は、10mA/cm
2で276.5mV、50mA/cm
2で464mVであった。一方、同じUPED法でCFPを基材とした場合は、10mA/cm
2で153.7mVであり、NFを電極基材とする場合よりも大幅に小さい値を示した。なお、CFPを基材とする電極系では、1.35~1.5Vの領域に電極表面上のNi
2+種のNi
3+種への酸化電流が観測されるが、この影響がない50mA/cm
2の条件で比較した場合の過電圧は330mVであった。
【0176】
一方、実施例14のように、溶液Cの水熱合成によってNF上にNiFe層状複水酸化物を析出させた電極は、50mA/cm2で384mVの過電圧を示した。さらに、実施例17のように溶液Cの水熱合成後に超音波処理を行った場合は、50mA/cm2で340mVの過電圧を示し、超音波処理を行わない場合に比べて低い過電圧を示した。
【0177】
図12は、
図11に示すリニアスイープボルタンメトリー曲線から算出したターフェル勾配を示している。
図12(b)は、実施例17で得られた電極のクロノポテンシオメトリーの結果を示している。このクロノポテンシオメトリーは、
図1のクロノポテンシオメトリーと同様の条件で行った。
【0178】
図12(a)から、実施例17で得られた電極(水熱合成法と超音波処理の組み合わせ)は、最も低いターフェル勾配を示し、最も低い過電圧を示すことがわかった。この電極のクロノポテンシオメトリー(
図12(b))では、当初192mVの過電圧が観測され、1000秒の通電後の過電圧は210mVとわずかに上昇するのみであった。
【0179】
表1は、
図11及び12から求めた各電極の過電圧(電流密度が10mA/cm
2及び50mA/cm
2の2種類)の結果を示している。
【0180】
【0181】
図13は、実施例1、実施例14、比較例8で得た電極のXRDスペクトルを示している。このXRDスペクトルから、水熱合成法で調製した実施例14の電極では、α-Ni(OH)
2、β-Ni(OH)
2、β-NiOOH、NiFe
2O
4の生成が観測された。