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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】水素担持粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20220818BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20220818BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20220818BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20220818BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220818BHJP
   A23L 33/16 20160101ALN20220818BHJP
【FI】
C01F11/18 G
C01B3/00 B
B01J3/00 A
B01J20/04 A
B01J20/30
A23L33/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018158102
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020033197
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】508098958
【氏名又は名称】株式会社アッチェ
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592211194
【氏名又は名称】キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】南部 景樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】小松 啓志
(72)【発明者】
【氏名】李 恒
(72)【発明者】
【氏名】工藤 悠人
(72)【発明者】
【氏名】高徳 祐之輔
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 治
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠彦
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特許第6244051(JP,B1)
【文献】特開2009-142257(JP,A)
【文献】特開2012-121782(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101971982(CN,A)
【文献】特開2010-041990(JP,A)
【文献】特開2001-002414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
C01B 3/00
B01J 3/00
B01J 20/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠層を含む粉末を水素雰囲気下、5℃以上40℃以下の温度で高圧水素処理する工程を含むことを特徴とする水素担持粉末の製造方法。
【請求項2】
前記高圧水素処理工程の前に、前記真珠層を含む粉末を焼成処理する工程を含む請求項1に記載の水素担持粉末の製造方法。
【請求項3】
前記焼成処理の温度が200℃以上700℃以下である請求項2に記載の水素担持粉末の製造方法。
【請求項4】
前記高圧水素処理工程における前記水素雰囲気の圧力が0.5MPa以上50MPa以下である請求項1~3のいずれかに記載の水素担持粉末の製造方法。
【請求項5】
前記高圧水素処理工程の前記水素雰囲気における水素濃度が80vol%以上である請求項1~4のいずれかに記載の水素担持粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素担持能力および水素放出能力に優れた水素担持粉末を低コストで製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素の除去、癌の抑制、及びダイエット等に効果的に作用する可能性を有する食品として水素水が各社から提供されており、水素水に対する期待は高まっている。水素水とは、水素分子(水素ガス)の濃度を高めた水であり、水素水の製造に利用可能な材料が種々検討されている。
【0003】
高濃度の水素水を製造する方法としては、例えば、気体状態の水素を1気圧以上かつ10気圧未満に加圧して、容器内の水と混合して水と前記水素を接触させる方法(特許文献1)や、水素などの気体を、水などの液体溶媒中において極微細気泡の状態で分散させる方法(特許文献2)などが提供されている。
【0004】
また近年では、水素分子の摂取形態の一つとして、固体の担体に水素を担持させ、水と接触すると同時に水素分子を放出させるものが開発されている。水素を担持させた担体であれば、必要な時に水素水を作製でき、またサンゴカルシウムのような自然由来の炭酸カルシウム系の担体を使用すれば、水素担持担体をそのまま飲用できるとして注目を浴びている(特許文献3)。
【0005】
本発明者らは、水素担持能力および水素放出能力に優れた水素担持粉末を製造する方法として、炭酸カルシウム含有粉末を2段階で熱処理する方法を開発している(特許文献4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-150472号公報
【文献】特許第5746411号公報
【文献】特許第4404657号公報
【文献】特許第6244051号公報
【文献】特許第6337192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、水素分子は分子サイズが非常に小さいため、水素水を製造しても、水素水中の水素分子は容器を簡単に透過してしまい、経時的に溶存水素濃度が低下する傾向にあり、昨今では、水素水用の容器としては、アルミラミネート容器やアルミ缶など水素透過性の低い容器が採用されている。しかし、いくら水素透過性の低い容器を採用しても、容器を開栓すると同時に溶存している水素が急速に抜けていくため、開栓後において水素水を長期保存することは容易ではない。そこで、水素が最初から溶存している水素水よりも、水素水を用事調製できる水素担持粉末が望ましい。かかる水素担持粉末であれば、食品に配合し、生体内で水素を発生させることも可能になる。
その一方で、水素分子を固体の担体に担持させようとしても、例えば特許文献3に記載される製造方法では、700℃で4時間酸化焼成した後に、更にN2・H2ガス雰囲気下、650℃で4時間の還元焼成が必須であり、熱処理に多大なコストを要するため、低コストで水素担持粉末を製造できない。また、上述した通り本発明者らも水素担持粉末の製造方法を開発しているが、水素担持能力および水素放出能力により一層優れた水素担持粉末が望まれている。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水素担持能力および水素放出能力に優れた水素担持粉末を低コストで製造できる新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、真珠層を含む粉末を原料として用い、高圧水素処理に付すことにより水素担持能力と水素放出能力に優れた水素担持粉末を容易に製造できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 真珠層を含む粉末を水素雰囲気下で高圧水素処理する工程を含むことを特徴とする水素担持粉末の製造方法。
[2] 前記高圧水素処理工程の前に、前記真珠層を含む粉末を焼成処理する工程を含む上記[1]に記載の水素担持粉末の製造方法。
[3] 前記焼成処理の温度が200℃以上700℃以下である上記[2]に記載の水素担持粉末の製造方法。
[4] 前記高圧水素処理工程における前記水素雰囲気の圧力が0.5MPa以上50MPa以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載の水素担持粉末の製造方法。
[5] 前記高圧水素処理工程の前記水素雰囲気における水素濃度が80vol%以上である上記[1]~[4]のいずれかに記載の水素担持粉末の製造方法。
[6] 前記高圧水素処理工程の温度が5℃以上40℃以下である上記[1]~[5]のいずれかに記載の水素担持粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、原料として真珠層を含む粉末を選択することで、水素担持能力および水素放出能力に優れた水素担持粉末を容易に製造することができる。かかる水素担持粉末を水に添加することにより、比較的高濃度の水素水を簡便に調製することができ、また、直接摂取により生体内で比較的多くの水素を発生させ得る。よって本発明は、還元力を有し、恒常的な摂取により生体内の酸化的状態を原因とする疾患や不調を改善することが可能な効果的な健康飲食品である高濃度水素水を簡便に調製できる水素担持粉末を、低コストで容易に製造できるものとして、産業上非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<水素担持粉末の製造方法>
本発明に係る水素担持粉末の製造方法は、真珠層を含む粉末を水素雰囲気下で高圧水素処理する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
真珠層は、例えば貝殻の内側に付いている虹色の層をいい、炭酸カルシウムのアラゴナイト構造の板状微結晶を主成分とし、コンキオリンやナクレインなどのタンパク質、およびキチン質などの有機成分との複合体である。但し、アラゴナイト(アラレ石)の結晶が斜方晶であるのに対して、真珠層は擬六方晶系を中心とした多角形または円形断面を持つ幅5~20μm、厚さ0.3~1.5μmの微結晶の集合体である。一般的な炭酸カルシウムの結晶は脆いものであるが、真珠層は様々な大きさの微結晶がキチン質やタンパク質などの接着成分で接着されている構造を有しているため、ヤング率が約70GPaという非常に強靭なものである。
【0013】
本発明者らによる実験的な知見によれば、純水な炭酸カルシウム粉末を原料とした場合には、得られる水素担持粉末の水素担持能力および水素放出能力には改善の余地があり、水素担持時における水素圧力を上げても水素担持量の増加分は期待したほどではなかった。それに対して真珠層含有粉末を用いた場合には、高圧水素処理時の水素圧力に応じて水素担持能力と水素放出能力が向上する傾向が認められた。その理由は必ずしも明らかではないが、真珠層を構成する様々な大きさの微結晶の隙間に水素分子を効率的に担持する何らかの構造的な特徴があると考えられる。
【0014】
真珠層を含む粉末は、真珠層を含む物質からなる粉末であれば特に制限されず、例えばパールパウダーを用いることができる。パールパウダーとしては、生物由来の物質が好ましい。原料として生物由来のパールパウダーを用いることで、水素担持粉末を摂取しても安全性が確保される。このような観点から、生物由来のパールパウダーとしては、真珠;二枚貝類や腹足類に属する貝類の殻;およびオウムガイの殻よりなる群から選択される少なくとも1種以上の粉末が好ましい。真珠についてはその表面、貝殻についてはその内側が真珠層であることから、本発明の原料として適している。
【0015】
原料として用いる真珠層含有粉末の大きさは特に制限されないが、例えば、真珠層含有粉末の平均粒子径としては1μm以上500μm以下が好ましい。粉末の径が小さいほど表面積が大きく、水素分子を効率的に担持できると考えられる。一方、粉末径が過剰に小さいと粉砕に要するエネルギーも過剰に大きくなり得る。上記平均粒子径としては10μm以上がより好ましく、20μm以上がより更に好ましく、また、200μm以下または100μm以下がより好ましく、60μm以下がより更に好ましい。なお、本開示における平均粒子径は、体積基準の累積粒度分布から求められるメジアン径、即ち体積累積が50%に相当する粒子径(D50)を意味する。体積基準の累積粒度分布と平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法により測定することができる。
真珠層含有粉末、および後述する水素担持粉末の粒径は、粉砕や分級などにより適宜調整可能である。
【0016】
前述の通り、真珠層は主にアラゴナイト構造の炭酸カルシウムの板状微結晶が積層し、その微結晶のすき間にキチン質やタンパク質からなる有機成分が接着層として存在する特異的な構造を有している。この有機成分からなる接着層の少なくとも一部を除去することにより、水素担持量は更に増加すると考えられる。接着層の除去方法としては、接着層を除去できれば特に制限されないが、例えば接着層を熱分解させる焼成法や、化学的に接着層を溶解除去する化成処理法が挙げられる。
【0017】
焼成法は接着層を熱分解できればよいが、接着層の熱分解温度が概ね200~250℃であることから、200℃以上で焼成するのが好ましい。また、主成分である炭酸カルシウムの熱分解温度はおよそ800℃であるため、800℃以下であることが好ましい。当該温度としては250℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、また、700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、550℃以下または500℃以下がより更に好ましい。また、焼成雰囲気は特に問わず、例えば空気、酸素、窒素や希ガスのような不活性ガス、二酸化炭素などが挙げられる。焼成時間は適宜調整すればよいが、例えば、1分間以上10時間以下とすることができる。
【0018】
化成処理法は接着層を処理剤により溶解除去できればよいが、接着層がキチン質やタンパク質からなることから、それらを溶解可能であり、且つ炭酸カルシウムを溶解しない処理剤で処理すればよい。例えば、アルカリ性水溶液、酵素、界面活性剤などによる処理が挙げられるが、低コストかつ短時間で処理可能なアルカリ性水溶液を用いるのが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムのようなアルカリ金属水酸化物や、アンモニアやメチルアミン、エタノールアミンのようなアミンが挙げられる。その中でも人体に対する有害性の観点から、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましい。接着層を上記処理剤により除去した後は、例えば適宜洗浄した後、乾燥することにより高圧水素処理工程に用いることができる。
【0019】
本発明では、高圧水素処理工程前に、真珠層含有粉末を密閉容器に封入後、ガスを置換する工程を行ってもよい。かかるガス置換工程は、真珠層含有粉末の表面に吸着した水分やガスを除去する工程であり、ガス置換の方法は特に限定されないが、例えば、加熱による乾燥と真空引きの後にガスを導入する水素置換操作が好ましい。ガスとしては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの他、水素ガスを用いることが好ましい。
【0020】
高圧水素処理工程では、例えば、真珠層含有粉末を耐圧の密閉容器に封入し、所定の条件下で水素ガスを加圧すればよい。
【0021】
高圧水素処理工程における温度は、-200℃以上100℃以下とすることができる。真珠層含有粉末への水素の吸着は主に物理吸着であるため、当該温度が低いほど水素担持量が多くなる傾向があるといえる。一方、水素担持粉末は常温で保存されることが多くなるため、高圧水素処理工程の温度も常温に近い方が製造効率の面で有利であるといえる。当該温度としては、液体窒素の沸点(-196℃)以上が好ましく、-10℃以上がより好ましく、0℃以上がより更に好ましく、また、80℃以下が好ましく、60℃以下がより更に好ましい。また、5℃以上40℃以下の常温であれば、温度調整を行う必要は無く、製造コストをより低減できる。
【0022】
高圧水素処理工程は水素雰囲気下で実施される。水素雰囲気における水素濃度は適宜調整すればよいが、例えば5vol%以上とすることができ、当該水素濃度が高いほど水素担持効率は高いといえるので、上限は100vol%とすることができる。当該水素濃度としては、30vol%以上が好ましく、50vol%以上がより好ましく、80vol%以上または90vol%がより更に好ましく、また、95vol%以下が好ましい。なお、水素雰囲気中、水素ガス以外の残部としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスが好ましい。高圧水素処理工程では、水素濃度の調整が容易なことから、高圧水素処理は水素濃度がコントロールされたガスを流通しながら行ってもよい。
【0023】
高圧水素処理工程における圧力は大気圧超であり、好ましくは0.2MPa以上または0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上、更に好ましくは2MPa以上であり、好ましくは100MPa以下、より好ましくは50MPa以下、更に好ましくは20MPa以下である。圧力が高くなるほど得られる水素担持粉末の性能が良好となり、水素担持量が向上する。特に本発明方法においては、原料として真珠層の接着層の少なくとも一部を除去した真珠層含有粉末を用いることにより、高圧の水素雰囲気を用いることによる水素担持効果がより一層高くなる。
【0024】
高圧水素処理の時間は適宜調整すればよいが、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.75時間以上、更に好ましくは1時間以上、好ましくは2時間以下、より好ましくは1.75時間以下、更に好ましくは1.5時間以下行うことが好ましい。高圧水素処理工程を十分な時間実施することにより、高濃度で水素を担持した水素担持粉末が製造される。
【0025】
<水素担持粉末>
本発明に係る水素担持粉末は、上述した水素担持粉末の製造方法により製造される。本発明者らは種々検討したものの、上述した製造方法により得られる水素担持粉末の全容は解明できておらず、水素担持粉末のいかなる構造が本発明の効果に直接影響しているのかを未だ特定できていない。しかしながら、上述した製造方法により得られる水素担持粉末であれば、水分との接触により所望量の水素ガスを発生することは後記の実施例の結果に示す通りであるので、以下では、解明できている水素担持粉末の構造上の特徴について詳述する。
【0026】
本開示において「水素が物理吸着されている水素担持粉末」とは、具体的には、加圧および高温水素処理により、結晶構造が変化しない真珠層含有粉末をいい、より具体的には、無孔性またはメソ孔を有し、且つ、水素加圧時には各圧力に対して水素の脱吸着が可逆的に生じることを特徴とする粉末として定義される。水素が物理吸着されている水素担持粉末における吸着力は、主にファンデルワールス力によるものであるため、該水素担持粉末は、真空排気により水素の脱着が可能であることを特徴とする。
【0027】
水素が物理吸着されている状態は、例えば、上記高圧水素処理により結晶構造が変化することなく、粉末の表面に水素がファンデルワールス力等によって弱く束縛されている吸着状態をいう。換言すれば、水素担持粉末においては電荷の交換などは行われず、水素は可逆的に脱離し、解離などを伴わない吸着状態である。結晶構造はX線回折装置を用いたハナワルト法などにより確認でき、また吸着状態は吸着等温線のプロファイルの形状によるIUPAC分類やJIS H7201 圧力-組成等温線(PCT線)の測定方法により確認できる。
【0028】
水素担持粉末の平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
【0029】
<水素担持粉末の用途>
本発明に係る水素担持粉末は、様々な用途に展開することが可能である。一つの用途例としては、前記水素担持粉末を含む食品が挙げられる。前記食品としては、前記水素担持粉末をカプセル充填あるいは錠剤化して直接経口できるようにした水素サプリメント;前記水素担持粉末を含む飴、ガム、グミ等の加工食品;等が例示される。また本発明の水素担持粉末は、水と接触したときに水素分子を放出するため、前記水素担持粉末を水道水、ミネラルウォーター、海洋深層水、清涼飲料水等の飲料水に添加するなど、水素水の製造にも好ましく利用できる。
【0030】
他の用途例としては、水素担持粉末を含む化粧品や肥料が挙げられる。本発明に係る水素担持粉末を含む化粧品は、例えば洗顔料、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ローション等のスキンケア製品、シャンプー、トリートメント、ヘアトニック、ヘアカラー、整髪料等のヘアケア製品、歯磨き液、洗口液等のオーラルケア製品などが挙げられる。
【0031】
本発明に係る水素担持粉末を含む肥料は、例えば、米;無花果、桜桃、ぶどう等の果樹;茄子、南瓜、胡瓜、トマト、バジル、ピーマン、トウモロコシ、ズッキーニ等の野菜類;用の肥料として好ましく用いることができ、前記肥料によれば、果実が大きくなる、病気にかかりにくくなる、結実が早くなる、といった効果が発揮される。また、植物の枯死には活性酸素が関与していることが指摘されているが(Takagi Daisukeら,Plant Physiology,171(3),p.1626-1634)、本発明に係る水素担持粉末を含む肥料を用いれば、活性酸素の除去効果により植物の延命効果も期待されるため、従来にはない画期的な肥料が提供される。
【実施例
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実施例1
パールパウダー(土井真珠社製)を乾燥機に入れ、100℃で12時間乾燥させた。得られた乾燥パールパウダー1.0gを40mL容の耐圧容器に入れ、真空ポンプで0.001MPaまで減圧した後、水素ガスを導入して常圧に戻す操作を3回行った。次いで、1MPaの水素ガスを導入し、20~22℃で1時間高圧水素処理した。その後、常圧に戻すことにより、約1.0gの水素担持粉末を得た。
【0034】
実施例2,3
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例1と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0035】
実施例4
乾燥の代わりにパールパウダー(土井真珠社製)をマッフル炉で大気中300℃で10分間焼成した以外は実施例1と同様にして、水素担持粉末を製造した。
【0036】
実施例5,6
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例4と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0037】
実施例7
焼成温度を400℃とした以外は実施例4と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0038】
実施例8,9
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例7と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0039】
実施例10
焼成温度を450℃とした以外は実施例4と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0040】
実施例11,12
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例10と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0041】
実施例13
焼成温度を500℃とした以外は実施例4と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0042】
実施例14,15
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例13と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0043】
比較例1
パールパウダー(土井真珠社製)の代わりに炭酸カルシウム(高純度化学研究所社製,純度:99.99%)を用いた以外は実施例1と同様にして、水素担持粉末を製造した。
【0044】
比較例2,3
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは10MPaに変更した以外は実施例10と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0045】
試験例1: 水素発生量の評価
(1)試料の作製
40mL容量のバイアル瓶に各水素担持粉末(3g)を入れ、そこへ純水(15mL)を加えて蓋をし、バイアル瓶を35℃に加温した。35℃を維持したまま、バイアル瓶を24時間振盪した。
【0046】
(2)ガスクロマトグラフィーによる分析
24時間振盪後のバイアル瓶中の気相を、ガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフィーの条件は以下の通りである。
ガスクロマトグラフィー: 島津製作所社製「Tracera(登録商標)」
検出器: バリア放電イオン化検出器(BID)
カラム: 信和化工社製「MICROPACKED ST」
カラム温度: 35℃で2.5分間維持 - 250℃まで20℃/minで昇温 - 270℃まで15℃/minで昇温 - 270℃で5.42分間維持(Total:20分)
ガス注入方式: ガスタイトシリンジ
圧力プログラム: 250kPaで2.5分間維持 - 400kPaまで15kPa/minで加圧(Heによる)
注入モード: Split(1:10)
気化室温度: 150℃
検出器温度: 280℃
放電ガス流量: 70mL/min
注入量: 100μL
【0047】
(3)水素発生量の計算
(2)により測定された水素濃度をA(ppm)とし、バイアル瓶中の気相の体積をV(mL)とすると、前記気相V(mL)に含まれる水素の容量VH2は、式(E-1)で表される。
H2=A(ppm)×V(mL)
=A×V×10-3(μL) ・・・ (E-1)
本試験では、水素担持粉末を3g使用しているから、水素担持粉末1g当たりの水素ガスの発生量は、式(E-2)により求められる。
水素担持粉末1g当たりの水素ガスの発生量
=A×V×10-3(μL)/3(g)
=A×(40-15)×10-3(μL)/3(g)
=A×25×10-3/3(μL/g) ・・・ (E-2)
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示される結果の通り、炭酸カルシウムを原料に用いた場合と比較して、真珠層含有粉末を高圧水素処理に供することにより、水分と接触することで発生する水素ガスの量を大きくできることが分かった。しかも水素ガス発生量は、高圧水素処理の水素圧力を上げることにより、顕著に増加した。また、真珠層含有粉末の大気焼成により水素担持量が飛躍的に増加し、結果として水素ガス発生量も飛躍的に増加することが示された。その理由としては、真珠層含有粉末の接着層が熱分解除去され、それにより得られる特異的な構造が水素担持量に寄与していることが考えられる。
【0050】
実施例16
真珠パウダー(販売元:株式会社オレンジフラワー,500メッシュ)を乾燥機に入れ、100℃で12時間乾燥させた。得られた乾燥真珠パウダー1.0gを40mL容の耐圧容器に入れ、真空ポンプで0.001MPaまで減圧した後、水素ガスを導入して常圧に戻す操作を3回行った。次いで、1MPaの水素ガスを導入し、20~22℃で1時間高圧水素処理した。その後、常圧に戻すことにより、約1.0gの水素担持粉末を得た。
【0051】
実施例17,18
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例16と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0052】
実施例19
乾燥の代わりに、マッフル炉を用い、大気中300℃で真珠パウダーを10分間焼成した以外は実施例16と同様にして、水素担持粉末を製造した。
【0053】
実施例20,21
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例19と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0054】
実施例22
焼成温度を400℃とした以外は実施例19と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0055】
実施例23,24
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例22と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0056】
実施例25
焼成温度を450℃とした以外は実施例19と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0057】
実施例26,27
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例25と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0058】
実施例28
焼成温度を500℃とした以外は実施例19と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0059】
実施例29,30
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例28と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0060】
実施例31
焼成温度を600℃とした以外は実施例19と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0061】
実施例32,33
高圧水素処理における水素ガスの圧力を5MPaまたは12MPaに変更した以外は実施例31と同様にして水素担持粉末を製造した。
【0062】
試験例2: 水素発生量の評価
試験例1と同様にして、実施例16~33の水素担持粉末の水素発生量を評価した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示される結果の通り、別の真珠層含有粉末を用いた場合でも、高圧水素処理に供することにより水分と接触することで発生する水素ガスの量を大きくできることが分かった。しかも水素ガス発生量は、高圧水素処理の水素圧力を上げることにより、顕著に増加した。真珠層含有粉末の焼成温度を600℃に上げた場合でも水素を良好に発生する水素担持粉末が得られたものの、その水素発生量は、焼成温度が500℃の場合の方が大きかった。