(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】親水性ポリアミド又はポリイミド
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220818BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C08G73/10
C08G69/26
(21)【出願番号】P 2019534470
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2018028270
(87)【国際公開番号】W WO2019026795
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017147291
(32)【優先日】2017-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイベディ スマント
(72)【発明者】
【氏名】坂本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 健司
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 靖芳
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073519(WO,A1)
【文献】特開2016-166315(JP,A)
【文献】TZU-TIEN, Huang et al.,Highly Transparent and flexible bio-based polyimide/TiO2 and ZrO2 hybrid films with tunable refractive index, Abbe number, and memory properties,Nanoscale,2016年,8,p.12793-12802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00 - 73/26
C08G 69/00 - 69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする高分子化合物。
【化1】
(式(1)中、
M
1及びM
2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM
1及びM
2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
Z
1は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z
2は、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、
Z
3は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z
1又はZ
3
がカルボニル基である場合、
Z
2
は置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基であり、前記Z
1
又はZ
3
は各々独立に
前記Z
2と環構造を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記高分子化合物の繰り返し単位が、下記の一般式(2-1)又は(2-2)で表される、請求項1に記載の高分子化合物。
【化2】
(式(2-1)及び式(2-2)中、M
1、M
2
、Z
1
、Z
2及びZ
3は前記と同じ。)
【請求項3】
前記Z
1及びZ
3が、水素原子を示し、前記Z
2が、置換基を有していてもよい炭化水素基である、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
Z
1及びZ
3
が、カルボニル基を示し、Z
2が、置換基を有していてもよい
炭素数4~14の炭化水素基であり、
前記Z
1及びZ
3が、各々独立に
前記Z
2と環構造を形成している、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項5】
前記高分子化合物が、下記の一般式(3)で表される、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【化3】
(式(3)中、M
1及びM
2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM
1及びM
2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
R
1は、置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す。)
【請求項6】
前記高分子化合物が、下記の一般式(4)で表される、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【化4】
(式(4)中、M
1及びM
2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM
1及びM
2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
R
1は、
炭素数4~14の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の高分子化合物と、ゲル化剤とを含有する高分子ゲル組成物。
【請求項8】
前記ゲル化剤が、多価金属塩又はジアミン化合物である請求項7に記載の高分子ゲル組成物。
【請求項9】
前記ジアミン化合物が、下記一般式(5)で表される化合物である請求項8に記載の高分子ゲル組成物。
【化5】
(式(5)中、M
1
及びM
2
は前記と同じ)
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の高分子化合物を含有するフィルム。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の高分子化合物を含有する成形体。
【請求項12】
数平均分子量が1万以上100万以下である、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載の高分子化合物が自己架橋するか、又は前記高分子化合物とゲル化剤とが架橋して、前記高分子化合物の構造中のM
1
及びM
2
を介して架橋構造を形成してなるゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ポリアミド又はポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドやポリアミド等の高分子材料は、電気工学、電子工学または宇宙工学等の各分野で広く使用されている高性能プラスチックであり、そのニーズは極めて大きい。従前、これらの高分子材料は、ほとんど全てが石油原料から合成されているため、これらの需要拡大は、低炭素化とは相反する方向となる。
【0003】
一方、天然由来の原料を用いた高分子材料であるバイオプラスチックは、バイオ燃料等とは異なり、二酸化炭素の長期固定化が期待され、その実用化は低炭素化に大いに寄与するものと考えられるが、製造コストが嵩むことが大きな課題となっている。これとは別の観点によれば、コストの嵩む生体分子を用いる場合であっても、スーパーエンプラのような付加価値の高い材料であれば、コスト対効果の点でも満足し得るものとなり、社会的に広く波及できる潜在性を持つことになる。
かかる観点に基づき、本発明者らは、天然由来である4-アミノ桂皮酸の二量体を原料とするポリアミド又はポリイミドを製造し、当該ポリアミド又はポリイミドが優れた耐熱性を示し、引張強度が高く、透明性も高く、広い分野の高分子材料として有用であることを見出し、先に報告した(特許文献1及び2)。
【0004】
また、ポリイミドは剛直骨格を有することから、水及び有機溶媒に対して難溶性を示し成形性が低いという欠点がある。そこで、成形性を改善したポリイミドの開発も行なわれている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/073519号パンフレット
【文献】特開2016-166315号公報
【文献】特開2015-000939号公報
【文献】特開2011-144374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3記載のポリイミドは有機溶媒を使用するため、成形の際に有機溶媒が揮散し、作業環境が悪化する等の問題がある。また、特許文献4記載のポリイミドは、水溶性を示すが、シロキサン骨格を有することから、ポリイミド特有の性質である耐熱性が必然的に劣るという欠点がある。
従って、本発明の課題は、耐熱性等のポリアミド、ポリイミド特有の特性を保持した親水性ポリアミド及びポリイミドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、耐熱性等の特性を保持した親水性ポリアミド及びポリイミドを開発すべく検討した結果、本発明者らが先に報告したポリアミド及びポリイミドのエステル部分をカルボン酸塩に変換して得られたポリアミド及びポリイミドが、高い親水性を有しているにもかかわらず、優れた耐熱性が保持されており、環境負荷が小さい条件で加工できること、さらにゲル化可能であり、広い分野での応用が可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明〔1〕~〔11〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする高分子化合物。
【0010】
【0011】
(式(1)中、
M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
Z1は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、
Z3は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z1又はZ3が置換基を有していてもよいカルボニル基である場合、各々独立にZ2と環構造を形成していてもよい。)
〔2〕前記高分子化合物の繰り返し単位が、下記の一般式(2-1)又は(2-2)で表される、〔1〕に記載の高分子化合物。
【0012】
【0013】
(式(2-1)及び式(2-2)中、M1、M2、X1、X2、m、n、Z1、Z2及びZ3は前記と同じ。)
〔3〕前記Z1及びZ3が、水素原子を示し、
前記Z2が、置換基を有していてもよい炭化水素基である、〔1〕又は〔2〕に記載の高分子化合物。
〔4〕Z1及びZ3が、置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z2が、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Z1及びZ3が、各々独立にZ2と環構造を形成している、〔1〕又は〔2〕に記載の高分子化合物。
〔5〕前記高分子化合物が、下記の一般式(3)で表される、〔1〕又は〔2〕に記載の高分子化合物。
【0014】
【0015】
(式(3)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
R1は、置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す。)
〔6〕前記高分子化合物が、下記の一般式(4)で表される、〔1〕又は〔2〕に記載の高分子化合物。
【0016】
【0017】
(式(4)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
R1は、置換基を有していてもよい炭素数1~8の炭化水素基を示す。)
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の高分子化合物と、ゲル化剤とを含有する高分子ゲル組成物。
〔8〕前記ゲル化剤が、多価金属塩又はジアミン化合物である〔7〕に記載の高分子ゲル組成物。
〔9〕前記ジアミン化合物が、下記一般式(5)で表される化合物である〔8〕に記載の高分子ゲル組成物。
【0018】
【0019】
(式(5)中、M1、M2、X1、X2、m及びnは前記と同じ)
【0020】
〔10〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の高分子化合物を含有するフィルム。
〔11〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の高分子化合物を含有する成形体。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリアミド又はポリイミドは、水溶性が高く、水溶液からキャスト形成等が可能であり、加工性に優れている。また、ゲル化可能であり、さらに成形性を向上させることができる。また、本発明のポリアミド又はポリイミドは、水溶性であるにもかかわらず、優れた耐熱性を有しており、水溶性フィルム、成形材料、光学レンズ、塗料、繊維、生体用材料、高分子電解質等の分野に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1で得られた親水性ポリイミドの
1H-NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られた親水性ポリイミドの
13C-NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図3】実施例1で得られた親水性ポリイミドおよびイミドポリマーのフーリエ変換赤外分光分析の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの熱重量分析の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの示差走査熱量分析の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの引張強度の測定結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1で得られた親水性ポリイミドおよびイミドポリマーのX線回折を示すグラフである
【
図8】実施例8で得られたポリアミドの(a)
1H-NMRスペクトル及び(b)FT-IRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の高分子化合物は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0024】
【0025】
(式(1)中、
M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
Z1は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、
Z3は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示し、
Z1又はZ3が置換基を有していてもよいカルボニル基である場合、各々独立にZ2と環構造を形成していてもよい。)
【0026】
本発明の高分子化合物は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するが、その分子内に有する前記繰り返し単位の種類は、特に限定されるものではないが、1種類であっても、2種類以上を含んでいてもよい。
具体的には、前記一般式(1)で表される構造を1種類のみ繰り返し単位として有する高分子化合物(単独重合体)であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位を有する高分子化合物(以下、共重合体という)であってもよい。
本発明の高分子化合物における重合度は、本発明の効果が得られる範囲において特に限定されるものではない。前記共重合体の場合、高分子化合物中に含まれる各繰り返し単位の比率(重合度の比率)も本発明の効果が得られる範囲において特に限定されるものではない。
【0027】
M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれかを示す。ただし、M1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く。
ここで、一価の金属原子としては、アルカリ金属原子が好ましく、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。このうちLi、Na、Kがより好ましい。また、アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。このうち、Be、Mg、Caがより好ましい。アンモニウムイオンは、第1級アミノ基、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する化合物由来のイオンであり、アンモニウムイオン(NH4+)、アルキルアンモニウムイオン、アルカノールアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられ、好ましくは得られる高分子化合物の溶解度が高い点でアンモニウムイオン(NH4+)である。
M1及びM2としては、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はアンモニウムイオン(NH4+)が好ましい。
【0028】
X1及びX2は、有機基を示す。ここで有機基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。X1及びX2としては、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基が、得られる高分子化合物の溶解度が高い点で好ましい。
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、0以上4以下であり3以下が好ましく、2以下が得られる高分子化合物の溶解度が高い点でより好ましく、0であるもの、すなわち置換基を有さないものが得られる高分子化合物の溶解度が高く、製造が簡便であるという点でさらに好ましく、m及びnが0であるものが最も好ましい。
【0029】
Z1及びZ3は、水素原子又は置換基を有していてもよいカルボニル基を示す。
Z1及びZ3が水素原子のとき、本発明の高分子化合物はポリアミドである。またZ1及びZ3が置換基を有していてもよいカルボニル基の場合、本発明の高分子化合物はポリイミドである。Z1及びZ3としては、水素原子又はカルボニル基が好ましい。
【0030】
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。ここで炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられ、このうち脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基が好ましい。これらの炭化水素基の炭素数は1~14が好ましく、得られる高分子化合物の溶解度が高い点で環状の場合4~14が好ましく、鎖状の場合1~8が好ましい。アルキル基としては、C1-C8アルキル基が好ましく、アルケニル基としてはC2-C8アルケニル基が好ましい。
脂環式炭化水素基としては、炭素数4~14の脂環式炭化水素基が好ましく、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等がより好ましく、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンが得られる高分子化合物の溶解度が高い点でさらに好ましい。また、芳香族炭化水素基としては、炭素数6~14の芳香族炭化水素基が好ましく、ベンゼン、ナフタレンが得られる高分子化合物の溶解度が高い点でより好ましく、ベンゼンがより製造が容易である点でさらに好ましい。
また、これらの炭化水素基に置換し得る基としては、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、C2-C6アルケニル基等が挙げられる。
またZ2が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を有する限りにおいて特に限定はされないが、前記の炭化水素基に対しての各種官能基や、前記の炭化水素基同士を炭素―ヘテロ原子結合を介して結合するような場合を含む。
【0031】
Z1又はZ3が置換基を有していてもよいカルボニル基である場合に、各々独立してZ2と環構造を形成してもよい。このような環構造としては、後述の一般式(3)のような構造である。
【0032】
一般式(1)中のシクロブタン環へのCOOM2やフェニル基の結合形態としては、次の一般式(2-1)又は(2-2)の形態が挙げられる。
【0033】
【0034】
(式(2-1)及び式(2-2)中、M1、M2、X1、X2、m、n、Z1、Z2及びZ3は前記と同じ。)
式(2-1)と式(2-2)では、得られる高分子化合物は、いずれも本発明の効果を有するものであるが、通常、式(2-1)で表される形態が、力学強度の高さでは好ましい。一方、通常、式(2-2)で表される形態は、得られる高分子化合物の柔軟性の高さ、成形性の点で好ましい。
このうち、式(2-1)で表される形態は、酸と接触させて水不溶性に変換したときの力学強度がより高いため、水溶解性を有する本発明の高分子化合物との状態変化を利用することで、加工性と力学強度を高い次元で両立できる点でより好ましい。
【0035】
また、本発明の高分子化合物において、ポリイミドの場合の好ましい形態は、下記の一般式(3)のポリイミドである。
【0036】
【0037】
(式(3)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
R1は、置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す。)
【0038】
式(3)において、R1としては炭素数4~14の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の芳香族炭化水素基が好ましく、さらに炭素数4~8の脂環式炭化水素基が好ましく、さらに炭素数4~6の脂環式炭化水素基が好ましい。
またR1が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を有する限りにおいて特に限定はされないが、前記の炭化水素基に対しての各種官能基や、前記の炭化水素基同士を炭素―ヘテロ原子結合を介して結合するような場合を含む。
【0039】
また式(3)において好ましい具体的な形態としては、上記一般式(2-1)に記載された形態が、力学強度が高いという点で好ましい。
具体的には、下記式(3-1)に記載の構造を有するものである。
【0040】
【0041】
本発明の高分子化合物において、好ましい形態の一つは、下記の一般式(4)のポリアミド酸である。
【0042】
【0043】
(式(4)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
R1は、置換基を有していてもよい炭素数1~8の炭化水素基を示す。)
【0044】
式(4)において、R1としては、炭素数4~14の脂環式炭化水素基又は炭素数6~14の芳香族炭化水素基が好ましく、さらに炭素数4~8の脂環式炭化水素基が好ましく、さらに炭素数4~6の脂環式炭化水素基が好ましい。後述の通り、式(4)で表されるポリアミド酸から得られる前記式(3)で表されるポリイミドの物性向上に寄与するためである。置換基については前記式(3)と同様である。
【0045】
式(4)で表されるポリアミド酸は、前記式(3)で表されるポリイミドを製造する上での前駆体としての位置づけも有する。具体的には、式(4)で表されるポリアミド酸を加熱することによりポリイミドを製造することができる。
また式(4)において好ましい具体的な形態としては、上記一般式(2-1)に記載された形態が、力学強度が高い点で好ましい。
具体的には、下記式(4-1)の構造を有するものである。
【0046】
【0047】
本発明の高分子化合物において、好ましい形態の一つは、下記の一般式(5)のポリアミドである。
【0048】
【0049】
(式(5)中、M1及びM2は、各々独立に水素原子、一価の金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムイオンから選ばれるいずれか(但しM1及びM2が同時に水素原子になる場合を除く)を示し、
X1及びX2は、有機基を示し、
m及びnは、各々独立に置換基の数を示し、
Z2は、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。)
【0050】
式(5)において、Z
2
は炭素数1~8のアルキレン基、炭素数4~8の脂環式炭化水素基、炭素数6~8の芳香族炭化水素基が好ましい。
また式(5)において好ましい具体的な形態としては、上記一般式(2-1)に記載された形態が、力学強度が高い点で好ましい。
具体的には、下記式(5-1)に記載の構造を有するものである。
【0051】
【0052】
本発明の高分子化合物が式(I)で表わされる繰返し単位を有することは、例えば、1H-核磁気共鳴(NMR)スペクトル、13C-核磁気共鳴(NMR)スペクトル、赤外吸収(IR)スペクトル、質量分析などにより、容易に確認することができる。
【0053】
本発明の高分子化合物の数平均分子量は、本発明の効果が得られる限りにおいて限定されるものではないが、親水性、透明性、耐熱性、柔軟性および伸び性を向上させる観点から、通常1万以上、好ましくは5万以上、通常100万以下、好ましくは50万以下である。本発明の親水性ポリイミドの数平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0054】
本発明の高分子化合物には、シクロブタン環上の置換基の結合形態により、種々の光学異性体が存在する。本発明には、例えば前記式(2-2)の態様の中には、下記式(6)、式(7)で表されるようなそれらの光学異性体及びラセミ体が含まれ、いずれを用いることもできるが、光学純度の高いモノマーを用いて得られる高分子化合物が、耐熱性、力学強度等の物性向上の面で好ましい。
【0055】
【0056】
本発明の高分子化合物は、置換基を有していてもよい4-アミノ桂皮酸又は4-ニトロ桂皮酸を出発原料とし、前記の特許文献1及び2記載の方法に準じて二量化し、その繰り返し単位の中心骨格である、置換基を有していてもよい4,4'-ジアミノトルキシル酸を得る。この化合物を縮重合成分と共に縮重合させることにより、ポリアミド又はポリイミドを得、次いで一価の金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアミン化合物で処理することにより製造することができる。縮重合の方法は、前記特許文献1及び2等の既知の方法によって適宜行うことができる。以下に典型例として式(3-2)で表される親水性ポリイミドの製造について、4,4’-ジアミノトルキシル酸を原料として用いる場合について説明する。
【0057】
【0058】
式(3-2)で表わされる親水性ポリイミドの原料として、式(8):
【0059】
【0060】
で表わされる4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸を用いることができる。4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸は、4-アミノ桂皮酸を基本構造として有している。
【0061】
4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸は、4-アミノ桂皮酸塩酸塩の光二量化反応および中和反応を利用して容易に調製することができる。
【0062】
4-アミノ桂皮酸塩酸塩の光二量化反応は、例えば、4-アミノ桂皮酸の塩酸塩に波長が250~400nm程度の紫外線を照射することにより、行なうことができる。
【0063】
4-アミノ桂皮酸の塩酸塩に紫外線を照射する際、4-アミノ桂皮酸の塩酸塩は、あらかじめ有機溶媒に分散させておくことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサンなどの炭素数6~12の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、有機溶媒の量は、特に限定されず、通常、4-アミノ桂皮酸の塩酸塩を十分に分散させることができる量であればよい。
【0064】
4-アミノ桂皮酸の塩酸塩に紫外線を照射する際の光源としては、例えば、高圧水銀灯などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。4-アミノ桂皮酸の塩酸塩に紫外線を照射する時間は、光源の種類、紫外線強度などによって異なるので一概には決定することができないことから、目的とする4,4'-ジアミノトルキシル酸の塩酸塩が充分に生成するまで4-アミノ桂皮酸の塩酸塩に紫外線を照射することが好ましい。
【0065】
以上のようにして4-アミノ桂皮酸の塩酸塩に紫外線を照射し、4-アミノ桂皮酸の塩酸塩を光二量化反応させることにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩を得ることができる。
【0066】
なお、4-アミノ桂皮酸の塩酸塩を有機溶媒に分散させた場合には、濾過により、生成した4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩を回収することができる。回収された4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩は、必要により、減圧乾燥などによって乾燥させてもよい。
【0067】
次に、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を添加することによって当該水溶液を塩基性に調整し、晶析した結晶を水中に分散させ、得られた分散液にヒドラジン二塩酸塩を添加し、得られた溶液を酢酸などの酸で中和することにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸を得ることができる。
【0068】
式(1)で表わされる繰返し単位を有する親水性ポリイミドは、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸と、式(9):
【0069】
【0070】
(式中、R1は、前記と同じ)
で表わされるテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、得ることができる。
【0071】
より具体的には、例えば、式(8)で表わされる4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸と式(9)で表わされるテトラカルボン酸二無水物とをジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性有機溶媒に溶解させた後、得られた溶液を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で撹拌し、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸とテトラカルボン酸二無水物とを反応させ、得られた反応溶液をエタノールなどの貧有機溶媒中に滴下して沈殿させ、濾過することにより、ポリアミド酸を回収し、得られたポリアミド酸をジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒に溶解させた後、得られた溶液を100~300℃程度の温度に加熱し、次いでアルカリ金属水酸化物の水溶液で処理する際に、当該アルカリ金属水酸化物の水溶液の量を調整することによってアルカリ金属塩の形成の程度を調節することにより、式(1)において、M1がアルカリ金属であり、M2が水素原子またはアルカリ金属である親水性ポリイミドを得ることができる。
【0072】
また、式(1)において、M1がアルカリ土類金属であり、M2が水素原子またはアルカリ土類金属である親水性ポリイミドは、前記で得られた式(1)において、M1がアルカリ金属であり、M2が水素原子またはアルカリ金属である親水性ポリイミドをアルカリ土類金属水酸化物の水溶液で処理することにより、得ることができる。
【0073】
また別の製造方法として、4,4'-ジアミノトルキシル酸の金属塩を経て製造する方法が挙げられる。
具体的には、4,4'-ジアミノトルキシル酸を、アルカリ金属水酸化物の水溶液を用いて溶解し、貧溶媒等を用いて再結晶化することで4,4'-ジアミノトルキシル酸の金属塩を得る。この金属塩を、前記式(9)に記載のテトラカルボン酸二無水物とを反応させて製造することができる。
【0074】
また、前記の4,4’-ジアミノトルキシル酸に代えて、下記の4,4’-ジアミノ-β-トルキシン酸(10)、4,4’-ジアミノ-δ-トルキシル酸(11)も用いることができる。
【0075】
【0076】
本発明の高分子化合物は、式(1)において、M1がアルカリ金属等の一価の金属であり、M2が水素原子または一価の金属である場合、水溶性に非常に優れている。なお、水溶性に優れることは、同時に親水性にも優れることを意味する。
【0077】
式(1)において、M1およびM2がいずれもアルカリ金属である親水性ポリイミドの25℃の水10mLに対する溶解度は、50g以上である。したがって、式(1)において、M1およびM2がいずれもアルカリ金属である親水性ポリイミドは、水に溶解させて使用することができることから、例えば、水溶性フィルム、水性塗料などの用途に使用することが期待される。
【0078】
M1およびM2がいずれも一価の金属である親水性ポリイミド又はポリアミドは、水溶性を有するが、例えば、塩酸などの酸と接触させた場合には、水不溶性を呈する。したがって、前記親水性ポリイミドに水不溶性を付与する場合には、当該親水性ポリイミドを酸水溶液と接触させることができる。このことから、前記親水性ポリイミドを紡糸ノズルから押し出し、酸などを含む凝固液中に前記で押し出されたフィラメントを浸漬させて凝固させることにより、繊維を製造することができる。このようにして得られた繊維は、水溶性、耐熱性、柔軟性および伸び性に優れていることから、衣類をはじめ、産業用素材などとして使用することが期待される。
【0079】
また、酸と接触させることによって水不溶性が付与されたポリイミドは、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリと接触させることにより、再度、水溶性を付与することができる。したがって、前記親水性ポリイミドは、酸によって水不溶性が付与された場合にはアルカリによって再度、水溶性を付与することができることから、水溶性または水不溶性を容易に付与することができるので、例えば、生体用材料、フィルム、塗料などの用途に使用することが期待される。
【0080】
式(1)において、M1が一価の金属であり、M2がアルカリ土類金属等の多価金属又はジアミン化合物である場合、ならびにM1およびM2がいずれも多価金属又はジアミン化合物である場合、本発明の親水性ポリイミドは、水中で当該親水性ポリイミド又はポリアミドが有する多価金属又はジアミン化合物によって自己架橋することから、ゲル化する。このことから、本発明の親水性ポリイミド又はポリアミドは、多価金属又はジアミン化合物を介する架橋構造を有するものを包含する概念のものである。
従って、本発明は、式(1)の高分子化合物とゲル化剤とを含む高分子ゲル組成物も提供するものである。
【0081】
ここで、ゲル化剤としては、多価金属塩、ジアミン化合物が挙げられる。多価金属塩としては、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩等が挙げられる。ジアミン化合物としては、アルキレンジアミン、ポリエチレングリコールジアミン、ポリリシン、スペルミン等の水溶性ジアミンや、次の式(12)で表される化合物が挙げられる。
【0082】
【0083】
(式(12)中、M1、M2、X1、X2、m及びnは前記と同じ)
式(12)に記載の化合物としては、前記式(5-1)記載の化合物に対する式(8)の化合物のような、本発明の高分子化合物を製造する際に用いた出発原料化合物を用いることが製造上簡便なため好ましい。
【0084】
本発明の親水性ポリイミド又はポリアミドがゲル化剤によって架橋構造が形成された親水性ポリイミド又はポリアミドは、水と接触させることによってゲルを形成することから、例えば、薬剤などの分散安定化剤、塗料、増粘剤、流動性防止剤、高分子電解質などの用途に使用することが期待される。
【0085】
以上説明したように、従来のポリイミドは、疎水性を有し、剛直であり、伸び性に劣るところ、本発明の親水性ポリイミド又はポリアミドは、親水性、透明性、耐熱性、柔軟性および伸び性に優れていることから、例えば、フィルム、成形材料、光学レンズなどの光学材料、水性塗料、繊維、生体用材料、分散安定剤、増粘剤、流動性防止剤、高分子電解質などの種々の用途に使用することが期待される。
前記の成形材料の態様としては特に限定はされないが、具体的にはスポンジ状材料が挙げられる。成形方法は特に限定されないが、例えば前記したゲルを凍結乾燥、粉砕をすることにより得られる。
また別の成形材料の態様としては、ナノファイバー状材料が挙げられる。成形方法は特に限定されないが、例えば前記した材料を電界紡糸することで得られる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0087】
なお、以下の各実施例および比較例で得られた化合物の物性は、以下の方法に基づいて調べた。
〔1H-NMRおよび13C-NMR〕
・測定装置:核磁気共鳴分光装置(ブルカー社製、商品名:AVANCE III)
【0088】
〔ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)〕
・測定装置:昭和電工(株)製、商品名:Shodex-101
・測定条件
・注入時の濃度:0.001質量%
・注入量:25μL
・流速:0.5mL/min
・溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド
・カラム:昭和電工(株)製、商品名:Shodex KD-803および商品名:Shodex KD-804
・カラムの温度:40℃
【0089】
〔フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)〕
・測定装置:バーキン・エルマー (Perkin Elmer)社製、商品名:Spectrum 100
・測定法:ATR法
・測定範囲:380-4000cm-1
・スキャン回数:4回
・分解能:4.00cm-1
・トッププレート:ダイヤモンド/KRS-5
【0090】
〔フィルムの光線透過性〕
・測定装置:日本分光(株)製、品番:V-670
・光源:D2ランプ
・測定範囲:200-800nm
・UV/Visバンド幅:2.0nm
・NIRバンド幅:8.0nm
・走査速度:100nm/min
【0091】
〔熱重量分析〕
・測定装置:熱重量-示差熱同時測定装置〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:STA7200〕
窒素ガスの雰囲気中にて昇温速度10℃/minで800℃まで加熱し、重量減少度を測定した。
【0092】
〔示差走査熱量分析〕
・測定装置:示差走査熱量測定(DSC)装置:(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:X-DSC7000T〕
・昇温速度:10℃/min
・冷却速度:10℃/min
【0093】
〔引張強度〕
フィルムを縦25mm、横2.0 mmの大きさに切り取ることにより、サンプルを作製した。引張試験機(インストロン社製、商品名:Series 3365 Load Frames-5kND)を用い、チャック間距離を25mmに設定し、前記サンプルをチャックで固定し、クロスヘッド速度0.50mm/minで当該サンプルを引っ張ることにより、応力―歪曲線を求めた。
【0094】
〔X線回折〕
・X線試料の作製方法
SAXS/WAXSフィルム試料用ホルダーにフィルムをマグネットで固定した。
・試料の形状および大きさ:長方形(縦20mm、横30mm)、厚さ:親水性ポリイミドフィルムでは105μm、イミドポリマーフィルムでは112μm
・測定モード:透過法
・装置:ローター式照射装置〔(株)リガク製、商品名:SmartLab〕
・X線:CuKa線(モノクロメーターで単色化)
・X線出力:45kV、200mA
・X線照射時間:300s
・試料と検出器との距離:27mm
・検出器: (株)リガク製、商品名:HyPix-3000
【0095】
製造例1
あらかじめ調製しておいた4-アミノ桂皮酸の塩酸塩92gを25℃のヘキサン1.8Lに分散させ、得られた分散液に高圧水銀灯で20時間紫外線を照射することにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩を得た。得られた4,4'-ジアミノトルキシル酸の塩酸塩を濾取し、乾燥させることにより、4,4'-ジアミノトルキシル酸の塩酸塩の粉末86.9gを回収した(収率:94%)。
【0096】
前記で得られた4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸の塩酸塩の粉末を水3Lに溶解させ、得られた水溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、当該水溶液のpHを10に調整した。その結果、白色粉末が晶析した。得られた白色粉末を濾取し、水洗した後、乾燥することにより、生成物60gを得た。得られた生成物を水中に分散させ、得られた分散液にヒドラジン二塩酸塩を化学量論で添加し、70℃まで加熱することによって生成物を溶解させた後、得られた溶液に活性炭18gを添加し、70℃で30分間撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後、ガラスフィルターで濾過し、得られた濾液に酢酸を添加し、当該濾液のpHを3.5に調整することにより、白色粉末を析出させ、濾過することにより、4,4'-ジアミノトルキシル酸48gを白色粉末として回収した。
【0097】
実施例1
製造例1で得られた4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸10g(28mmol)およびシクロブタンテトラカルボン酸二無水物5.9g(28mmol)を脱水ジメチルアセトアミド30mLに溶解させた後、得られた溶液を窒素ガス雰囲気中で室温にて36時間撹拌させることにより、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸とシクロブタンテトラカルボン酸二無水物とを反応させた。得られた反応溶液をメタノールに滴下することにより、沈殿させてポリアミド酸の白色固体を得た。得られたポリアミド酸の収量は14.6gであり、収率は92%であった。
【0098】
前記で得られたポリアミド酸300mgをジメチルアセトアミド1.2mLに溶解させ、得られた溶液をシリコンウエハー上にキャストし、真空オーブン中で100℃、150℃、200℃および250℃と段階的に昇温させることにより、イミドポリマーのフィルムを形成させた。
【0099】
次に、前記で得られたイミドポリマー200mgを水4mL中に添加し、さらに水酸化カリウム44mgを添加したところ、当該イミドポリマーが水酸化カリウム水溶液に溶解した。得られた溶液をエタノールに添加したところ、親水性ポリイミド230mgが析出した。前記で得られた親水性ポリイミドを濾別し、乾燥させることにより、回収した。
【0100】
前記で得られた親水性ポリイミド10mgを25℃の蒸留水2mLに添加したところ、速やかに溶解した。前記で得られた親水性ポリイミドの水溶液を用い、当該親水性ポリイミドの
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルを調べた。前記親水性ポリイミドの
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルをそれぞれ
図1および
図2に示す。
図1および
図2に示された結果から、前記で得られた親水性ポリイミドは、式(I)において、M
1およびM
2がそれぞれカリウムであり、R
1が炭素数4の4価の脂環式炭化水素基(シクロブチル基)である繰返し単位を有することが確認された。
【0101】
また、前記で得られた親水性ポリイミドの水溶液を用い、当該親水性ポリイミドの数平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で調べたところ、当該数平均分子量は4.9×105であった。
【0102】
比較例1
実施例1と同様の操作を行なうことにより、イミドポリマーのフィルムを作製した。得られたイミドポリマーの数平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で調べたところ、当該数平均分子量は4.9×105であった。
【0103】
次に、実施例1で得られた親水性ポリイミドおよび比較例1で得られたイミドポリマーのフーリエ変換赤外分光分析の結果を
図3に示す。
図3において、Aは親水性ポリイミドの測定結果、Bはイミドポリマーの測定結果を示す。
【0104】
図3に示された結果から、イミドポリマーが有するカルボキシル基に基づく1720cm
-1付近に存在していたピークは、前記で得られた親水性ポリイミドではカリウム塩となっていることから、1785cm
-1付近および1525cm
-1付近にシフトしていることがわかる。
【0105】
次に、前記で得られた親水性ポリイミドの物性として、親水性、水溶性、透明性、耐熱性、柔軟性、伸び性および結晶性を以下の方法に基づいて調べた。その結果を以下に示す。
【0106】
〔親水性A〕
親水性ポリイミドの水溶液をガラスプレート上にキャストし、乾燥させることにより、親水性ポリイミドのフィルムを形成させ、室温中で乾燥させた。形成されたフィルム上にスポイトで蒸留水1滴を滴下し、当該蒸留水を目視にて観察した。
【0107】
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムでは、蒸留水は、瞬時にフィルム上に広がった。このことから、前記親水性ポリイミドは、親水性に優れていることが確認された。
【0108】
〔親水性B〕
親水性ポリイミドのフィルムの一部を25℃の蒸留水中に添加し、当該フィルムを目視にて観察した。
【0109】
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムでは、当該フィルムが1秒間以内に速やかに水中に溶解した。このことから、前記で得られた親水性ポリイミドは、親水性(水溶性)に優れていることがわかる。
【0110】
〔水溶性〕
試験管内に25℃の蒸留水100mLを入れ、当該蒸留水中に親水性ポリイミドのフィルムの一部を添加しながらマグネチックスターラーで撹拌した。粘度の上昇によって撹拌が困難となった時点で当該フィルムの添加を中止し、それまでに添加した当該フィルムの質量を測定した。
【0111】
実施例1で得られた親水性ポリイミドでは、当該親水性ポリイミドのフィルム159.45mgを蒸留水中に溶解させることができた。このことから、前記で得られた親水性ポリイミドは、水溶性に優れていることがわかる。
【0112】
また、前記で得られた親水性ポリイミドのフィルムを蒸留水中に溶解させた溶液が入った試験管を室温中で上下方向に転倒させたが、当該溶液は、流動性を確認することができないほどの高粘度を有するものであった。このことから、前記親水性ポリイミドは、流動性を低下させ、増粘性を増大させるので、増粘剤として用いることができることがわかる。
【0113】
〔透明性〕
親水性ポリイミドのフィルム(厚さ:36μm)の可視光領域(400~800nm)における光線透過性を測定した。
【0114】
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムは、前記波長領域における光線透過性が85%以上であったことから、前記親水性ポリイミドは、可視光領域において透明性に優れていることがわかる。
【0115】
〔耐熱性A〕
親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの熱重量分析を行ない、両者の分解開始温度を調べることにより、耐熱性を評価した。
【0116】
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの熱重量分析の結果を
図4に示す。
図4において、Aは親水性ポリイミドのフィルムの重量損失、Bはイミドポリマーのフィルムの重量損失である。
【0117】
図4に示された結果から、前記親水性ポリイミドおよびイミドポリマーの分解開始温度がいずれも300℃程度であることから、前記親水性ポリイミドとイミドポリマーとでは、分解開始温度に殆ど差異がないが、前記親水性ポリイミドは、重量損失が小さいことから、耐熱性に優れていることがわかった。
【0118】
〔耐熱性B〕
親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの示差走査熱量分析(DSC)を室温から250℃までの温度範囲で行ない、その結果に基づいて耐熱性を評価した。
【0119】
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの示差走査熱量分析(DSC)の結果を
図5に示す。
図5において、Aは親水性ポリイミドのフィルムの示差走査熱量分析の結果、Bはイミドポリマーのフィルムの示差走査熱量分析の結果である。
【0120】
図5に示された結果から、前記親水性ポリイミドには、イミドポリマーのフィルムと同様に250℃の温度までの温度範囲では変曲点が認められなかった。このことから、前記親水性ポリイミドは、250℃以上の軟化点を有するので、耐熱性に優れていることがわかる。
【0121】
〔柔軟性および伸び性〕
親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの引張強度を調べ、その結果から柔軟性および伸び性を評価した。
【0122】
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムの引張強度の測定結果を
図6に示す。
図6において、Aは親水性ポリイミドのフィルムの引張強度の測定結果、Bはイミドポリマーのフィルムの引張強度の測定結果である。
【0123】
図6に示された結果から、実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムは、イミドポリマーのフィルムの応力が約5分の1であり、破断時の伸びがイミドポリマーのフィルムの約2倍であることから、柔軟性および伸び性に優れていることがわかる。
【0124】
以上の結果から、実施例1で得られた親水性ポリイミドは、親水性、水溶性、透明性および耐熱性に優れ、さらに柔軟性および伸び性に優れていることがわかる。
【0125】
〔結晶性〕
親水性ポリイミドのフィルムおよびイミドポリマーのフィルムを用いて親水性ポリイミドおよびイミドポリマーのX線回折を調べた。その結果を
図7に示す。
図7において、Aは親水性ポリイミドのフィルムのX線回折、BはイミドポリマーのフィルムのX線回折である。
【0126】
図7に示された結果から、イミドポリマーは、側鎖のカルボキシル基による高分子鎖間の水素結合の形成によって結晶が形成され、いくつかのブロードな回折ピークが認められるのに対し、実施例1で得られた親水性ポリイミドには回折ピークが認められないことがわかる。このことから、実施例1で得られた親水性ポリイミドは、非晶質であることがわかる。
【0127】
実施例2
実施例1で得られた親水性ポリイミドのフィルムの一部を25℃の14.6%水酸化カルシウム水溶液1mLに添加したところ、ゲルが形成した。前記フィルムを構成している親水性ポリイミドは、カリウムオキシカルボニル基を有するが、水酸化カルシウムと接触することにより、カリウムオキシカルボニル基のカリウムがカルシウムと置換され、式(I)で表わされる親水性ポリイミドにおいて、M1およびM2がそれぞれ2価のカルシウムであることから、当該親水性ポリイミドは、架橋構造を有することがわかる。
【0128】
実施例3
実施例1で得られた親水性ポリイミドの水溶液0.01mLを25℃の14.6%水酸化カルシウム水溶液1mLに添加したところ、ゲルが形成した。このことから、前記親水性ポリイミドは、カリウムオキシカルボニル基を有するが、水酸化カルシウムと接触することにより、カリウムオキシカルボニル基のカリウムがカルシウムと置換され、式(I)で表わされる親水性ポリイミドにおいて、M1およびM2がそれぞれ2価のカルシウムであることから架橋構造が形成されるので、前記親水性ポリイミドがゲル化したことがわかる。
【0129】
実施例4
4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸 (2.0g, 6.1mmol) に、1.0mol・L-1水酸化カリウム水溶液12.3mL) を加え溶解させた。この溶液から水を減圧留去し、得られた粗生成物をエタノール (200mL) に溶解し、再結晶をすることで、4,4'-ジアミノ-α-トルキシル酸カリウム塩(以下、4ATA-Kという)を定量的に得た。前記4ATA-K (0.2g、0.5mmol)を、窒素気流下で、シクロブタンテトラカルボン酸無水物 0.11 g, 0.55mmol)と共に、N-メチルピロリドン (0.8mL) に溶解し、80℃ で 48 時間撹拌した。前記溶液をメタノール中に再沈殿させ、白色粉末の水溶性ポリアミド酸を得た。得られた水溶性ポリアミド酸を水に溶解させ、揮発させることでフィルム化し、100℃ で 1 時間、引き続き150℃ で 1 時間、更に200 ℃ で 3 時間熱イミド化を行い、水溶性ポリイミドフィルムを作製した。得られた水溶性ポリイミドフィルムは、実施例1で得られたものと同様の物であり、物性も同様であった。
【0130】
実施例5
実施例1に記載の方法で得たフィルム状のポリイミド (100mg) を、0.9mmol・L-1水酸化カリウム水溶液と混合し、溶解させた。溶解後、4,4’-ジアミノ-α-トルキシル酸 (62.5mg, 0.2mmol) と水酸化カリウム (20mg, 0.04mmol) を加え、さらに撹拌して溶解させた。前記の水溶液に、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-メチルモルフォリニウム クロリド(以下、DMT-MM;126mg、0.5mmol)水溶液 (0.3mL) を加え、素早く 5分間撹拌した後に静置し、透明なゲル1.5gを得た。
このゲルを空気中で24時間静置してもゲルの形状が崩壊することはなく安定性の高いハイドロゲルであることがわかった。
【0131】
実施例6
実施例5で得られたゲルを、液体窒素により凍結させ、引き続き凍結乾燥器(EYERA社製 FDU-1200)を使用して乾燥した。凍結温度は-47.3℃、減圧度は 11.5Paであった。得られた粉末はポリイミドスポンジとなっていた。
【0132】
実施例7
特開2016-166315公報の実施例4に記載の方法に準拠し、4-ニトロ桂皮酸を二量化し、引き続き還元を行い、4,4’-ジアミノ-β-トルキシン酸を製造した。
4-ニトロ桂皮酸をヘキサン中に分散させ、得られた分散液に紫外線を高圧水銀灯で24時間照射することにより、4-ニトロ桂皮酸から4,4’-ジニトロ-β-トルキシン酸を生成させた。これを特開2016-166315公報の実施例4に記載の方法と同様の方法で還元し、4,4’-ジアミノ-β-トルキシン酸を得た。
4,4’-ジアミノ-β-トルキシン酸を以下、実施例4と同様の手順により、ポリイミドのフィルムを得た。
【0133】
実施例8
N,N‘-ジアセチル(4,4’-ジアミノトルキシル酸)(以下、DNAc)、4,4’-ジアミノ-α-トルキシル酸、及びスベリン酸を、モル比1:0.75:0.25で用いた以外は、国際公開第2013/073519号パンフレット 段落[0086]以下の合成例に記載の方法に準拠し、ポリアミド共重合体(ランダム共重合体)50mgを合成した。構造を下記構造式(A)に示した。
前記ポリアミド共重合体 50mg を ジメチルスルホキシド1.0mL に溶解させ、水 0.1mLを加えポリアミドが溶解するまで撹拌した。その後 3.0 mol ・L
-1 水酸化カリウム水溶液 0.06mLを加え、12時間撹拌した。前記溶液をガラス製のシャーレに流し込み、約 60 ℃ で加熱し、溶媒を除去させることでフィルム状態の水溶性ポリアミドを得た。得られた化合物のNMRチャート及びIRチャートを
図8に示した。
【0134】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の親水性ポリイミド又はポリアミドは、親水性、透明性および耐熱性に優れ、さらに柔軟性および伸び性に優れていることから、例えば、フィルム、成形材料、光学レンズなどの光学材料、水性塗料、繊維、生体用材料、分散安定剤、増粘剤、流動性防止剤、高分子電解質などの種々の用途に使用することが期待されるものである。