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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】接着層評価システム及び接着層評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20220818BHJP
【FI】
G01N29/11
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020561555
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050211
(87)【国際公開番号】W WO2020130150
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018240058
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月22日に福井大学工学部文京キャンパスにおいて開催された日本機械学会 M&M2018材料力学カンファレンスにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月31日に東京都立産業技術研究センター青梅本部において開催された日本非破壊検査協会 超音波部門 第26回超音波による非破壊評価シンポジウムにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月5日にベルギー王国(Belgium)ブルージュ(Bruges)にて開催された2019 International Congress on Ultrasonicsにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月27日に明治大学アカデミー・コモンにて開催された第40回 超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウムにて「超音波入射時の面外共振に基づくCFRP接着接合部の界面合成評価」とのタイトルで公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月27日に明治大学アカデミー・コモンにて開催された第40回 超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウムにて「被着体汚染に起因する弱接着部の共振特性に基づく界面合成評価」とのタイトルで公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)次世代構造部材創製・加工技術開発/次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)知財合意書に係る共同研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】加茂 宗太
(72)【発明者】
【氏名】松田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森 直樹
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/078272(WO,A1)
【文献】特開昭56-164953(JP,A)
【文献】米国特許第05305239(US,A)
【文献】石井 陽介,超音波スペクトロスコピーを用いた炭素繊維強化複合材料積層板の層間界面特性評価に関する研究,京都大学学術情報リポジトリKURENAI紅,日本,京都大学,2016年03月23日,インターネット <URL:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/215514/2/dkogk04143.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層を有する試料から弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記試料から発生した前記弾性波を反射する弾性波反射体と、
前記弾性波発生装置と前記弾性波反射体との間に設けられた試料設置部と、
前記弾性波反射体による前記弾性波の反射方向に配設され、反射された前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記試料の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波発生装置により前記試料に前記弾性波を発生させる弾性波発生制御部と、
反射された前記弾性波の実測値を前記弾性波検出装置に検出させる弾性波検出制御部と、
前記弾性波検出制御部が前記弾性波検出装置に検出させた前記弾性波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の理論値とを比較して、前記接着層に関するパラメータを評価する検出波評価部と、を有し、
前記弾性波発生装置は、前記試料に超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波反射体は、前記超音波を反射する超音波反射体であり、
前記弾性波検出装置は、反射された前記超音波を検出する超音波検出装置であり、
前記制御装置において、
前記弾性波発生制御部は、前記超音波照射装置に前記超音波を照射させる超音波照射制御部であり、
前記弾性波検出制御部は、前記超音波検出装置に、前記試料設置部に設置された接着層を有する試料を1回透過して、前記超音波反射体によって反射され、前記試料をさらに1回透過した前記超音波である2回透過波の実測値を検出させる超音波検出制御部であり、
前記検出波評価部は、前記超音波検出制御部が前記超音波検出装置に検出させた前記2回透過波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される2回透過波の理論値とを比較して、前記接着層に関するパラメータの評価として、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価し、
前記検出波評価部は、
前記2回透過波と前記試料を1回も透過せずに、前記超音波反射体によって反射された前記超音波である参照波とをそれぞれ周波数解析する周波数解析部と、
前記周波数解析部によって得られた前記2回透過波と前記参照波とのスペクトルの強度比に基づいて、前記試料を2回透過したことに関するパラメータである2回透過係数の実測値の周波数関数を算出する2回透過係数算出部と、
前記2回透過係数算出部が算出した前記2回透過係数の実測値の周波数関数と、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数の理論値の周波数関数とを比較して、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価する2回透過係数比較部と、を有し、
前記検出波評価部は、
前記2回透過係数の実測値の周波数関数において極大となる周波数をピーク周波数として取得し、前記2回透過係数の実測値のピーク周波数に、前記理論モデルにおける前記接着層における接着に関するパラメータを変化させて前記2回透過係数の理論値のピーク周波数を合わせ込むことで、前記接着層における前記接着に関するパラメータを導出し、前記接着層における前記接着に関するパラメータが、健全な接着を形成している時の前記接着に関するパラメータよりも下回っている場合、前記接着層は弱接着を有すると評価する、接着層評価システム。
【請求項2】
前記検出波評価部は、前記接着層における接着に関するパラメータを算出する、
請求項に記載の接着層評価システム。
【請求項3】
前記試料は、前記接着層と、前記接着層により接着される試料片と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に対して前記超音波を垂直方向に照射し、
前記試料に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記試料片に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性が設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記2回透過波の理論値を算出する、
請求項1または2に記載の接着層評価システム。
【請求項4】
前記試料は、前記接着層と、前記接着層により接着される試料片と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に直交する垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に前記超音波を照射し、
前記試料に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記試料片に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性と、前記界面の面内方向における成分の剛性とが設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記2回透過波の理論値を算出する、
請求項1または2に記載の接着層評価システム。
【請求項5】
接着層を有する試料から発生した弾性波を、弾性波反射体で反射させ、反射した前記弾性波の実測値を検出するステップと、
検出した前記弾性波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の理論値とを比較して、前記接着層に関するパラメータを評価するステップと、を備え
前記弾性波の実測値を検出するステップは、前記試料を2回透過させた弾性波としての超音波である2回透過波の実測値を検出する2回透過波検出ステップであり、
前記接着層に関するパラメータを評価するステップは、前記2回透過波検出ステップで検出した前記2回透過波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される前記2回透過波の理論値とを比較して、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価する検出波評価ステップであり、
前記検出波評価ステップは、
前記2回透過波と前記試料を1回も透過させていない超音波である参照波とをそれぞれ周波数解析する周波数解析ステップと、
前記周波数解析ステップで得られた前記2回透過波と前記参照波とのスペクトルの強度比に基づいて、前記試料を2回透過したことに関するパラメータである2回透過係数の実測値を算出する2回透過係数算出ステップと、
前記2回透過係数算出ステップで算出した前記2回透過係数の実測値と、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数の理論値とを比較して、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価する2回透過係数比較ステップと、を有し、
前記検出波評価ステップは、
前記2回透過係数の実測値の周波数関数において極大となる周波数をピーク周波数として取得し、前記2回透過係数の実測値のピーク周波数に、前記理論モデルにおける前記接着層における接着に関するパラメータを変化させて前記2回透過係数の理論値のピーク周波数を合わせ込むことで、前記接着層における前記接着に関するパラメータを導出し、前記接着層における前記接着に関するパラメータが、健全な接着を形成している時の前記接着に関するパラメータよりも下回っている場合、前記接着層は弱接着を有すると評価する、接着層評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着層評価システム及び接着層評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着層を有する試料に超音波を照射して、照射した超音波が接着層で反射した反射波を検出して、検出した反射波の時間波形に基づいて、接着層における接着不良を検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-125008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、試料を破壊することなく、接着層における接着不良、すなわち、試料における接着層を挟む2枚の試料片の間の空隙を検出することができるが、2枚の試験片の間に空隙を有さないもののその接着強度が弱い弱接着を検出することができないという問題があった。また、従来の弱接着を検出する技術は、いずれも試料の破壊を伴うものであったため、試料を破壊することなく弱接着を検出することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、試料を破壊することなく接着層を評価することを可能にする接着層評価システム及び接着層評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、接着層評価システムは、接着層を有する試料から弾性波を発生させる弾性波発生装置と、前記試料から発生した前記弾性波を反射する弾性波反射体と、前記弾性波発生装置と前記弾性波反射体との間に設けられた試料設置部と、前記弾性波反射体による前記弾性波の反射方向に配設され、反射された前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、前記試料の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記弾性波発生装置により前記試料に前記弾性波を発生させる弾性波発生制御部と、反射された前記弾性波の実測値を前記弾性波検出装置に検出させる弾性波検出制御部と、前記弾性波検出制御部が前記弾性波検出装置に検出させた前記弾性波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の理論値とを比較して、前記接着層に関するパラメータを評価する検出波評価部と、を有する。
【0007】
この構成によれば、弾性体反射体で反射された弾性波を使用して、試料を破壊することなく、接着層を評価することができる。
【0008】
この構成において、前記弾性波発生装置は、前記試料に超音波を照射する超音波照射装置であり、前記弾性波反射体は、前記超音波を反射する超音波反射体であり、前記弾性波検出装置は、反射された前記超音波を検出する超音波検出装置であり、前記制御装置において、前記弾性波発生制御部は、前記超音波照射装置に前記超音波を照射させる超音波照射制御部であり、前記弾性波検出制御部は、前記超音波検出装置に、前記試料設置部に設置された接着層を有する試料を1回透過して、前記超音波反射体によって反射され、前記試料をさらに1回透過した前記超音波である2回透過波の実測値を検出させる超音波検出制御部であり、前記検出波評価部は、前記超音波検出制御部が前記超音波検出装置に検出させた前記2回透過波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される2回透過波の理論値とを比較して、前記接着層に関するパラメータの評価として、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、超音波の2回透過波を使用して、接着層が弱接着を有するか否かを評価することができるので、試料を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【0010】
この構成において、前記検出波評価部は、前記2回透過波と前記試料を1回も透過せずに、前記超音波反射体によって反射された前記超音波である参照波とをそれぞれ周波数解析する周波数解析部と、前記周波数解析部によって得られた前記2回透過波と前記参照波とのスペクトルの強度比に基づいて、前記試料を2回透過したことに関するパラメータである2回透過係数の実測値を算出する2回透過係数算出部と、前記2回透過係数算出部が算出した前記2回透過係数の実測値と、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数の理論値とを比較して、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価する2回透過係数比較部と、を有することが好ましい。この構成によれば、超音波の2回透過波について、接着層の接着性を顕著に表す2回透過係数を用いるので、接着層が弱接着を有するか否かを高い精度で評価することができる。
【0011】
また、この構成において、前記検出波評価部は、前記2回透過係数の実測値のピーク周波数に、前記理論モデルにおける前記接着層における接着に関するパラメータを変化させることで前記2回透過係数の理論値のピーク周波数を合わせ込むことで、前記接着層における前記接着に関するパラメータを導出し、前記接着層における前記接着に関するパラメータが、健全な接着を形成している時の前記接着に関するパラメータよりも下回っている場合、前記接着層は弱接着を有すると評価することが好ましい。この構成によれば、接着層が弱接着を有するか否かをより高い精度で効率よく評価することができる。
【0012】
この構成において、前記検出波評価部は、前記接着層における接着に関するパラメータを算出することが好ましい。この構成によれば、検出した弱接合を定量化することができる。
【0013】
これらの構成において、前記試料は、前記接着層と、前記接着層により接着される試料片と、を有し、前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に対して前記超音波を垂直方向に照射し、前記試料に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記試料片に結合した理論モデルであり、前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性が設定されており、前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記2回透過波の理論値を算出することが好ましい。この構成によれば、超音波の2回透過波について、実際に弱接着の要因が発生しやすい界面に垂直方向の界面応力を設定して剛性解析する妥当性の高い理論モデル及び計算手法を用いて、接着層が弱接着を有するか否かを評価することができるので、現実に即した理論モデル及び計算手法に裏付けがなされた弱接着の検出を実行することができる。
【0014】
これらの構成において、前記試料は、前記接着層と、前記接着層により接着される試料片と、を有し、前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に直交する垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に前記超音波を照射し、前記試料に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記試料片に結合した理論モデルであり、前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性と、前記界面の面内方向における成分の剛性とが設定されており、前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記2回透過波の理論値を算出することが好ましい。この構成によれば、超音波の2回透過波について、実際に弱接着の要因が発生しやすい界面に垂直方向及び面内方向の界面応力を設定して剛性解析する妥当性の高い理論モデル及び計算手法を用いて、接着層が弱接着を有するか否かを評価することができるので、現実に即した理論モデル及び計算手法に裏付けがなされた弱接着の検出を実行することができる。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、接着層評価方法は、接着層を有する試料から発生した弾性波を、弾性波反射体で反射させ、反射した前記弾性波の実測値を検出するステップと、検出した前記弾性波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の理論値とを比較して、前記接着層に関するパラメータを評価するステップと、を備える。この構成によれば、対応する接着層評価システムと同様に、弾性体反射体で反射された弾性波を使用して、試料を破壊することなく、接着層を評価することができる。
【0016】
この構成において、前記弾性波の実測値を検出するステップは、前記試料を2回透過させた弾性波としての超音波である2回透過波の実測値を検出する2回透過波検出ステップであり、前記接着層に関するパラメータを評価するステップは、前記2回透過波検出ステップで検出した前記2回透過波の実測値と前記試料に関する理論モデルに基づいて算出される前記2回透過波の理論値とを比較して、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価する検出波評価ステップであることが好ましい。この構成によれば、対応する接着層評価システムと同様に、超音波の2回透過波を使用して、接着層が弱接着を有するか否かを評価することができるので、試料を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【0017】
この構成において、前記検出波評価ステップは、前記2回透過波と前記試料を1回も透過させていない超音波である参照波とをそれぞれ周波数解析する周波数解析ステップと、前記周波数解析ステップで得られた前記2回透過波と前記参照波とのスペクトルの強度比に基づいて、前記試料を2回透過したことに関するパラメータである2回透過係数の実測値を算出する2回透過係数算出ステップと、前記2回透過係数算出ステップで算出した前記2回透過係数の実測値と、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数の理論値とを比較して、前記接着層が弱接着を有するか否かを評価する2回透過係数比較ステップと、を有することが好ましい。この構成によれば、対応する接着層評価システムと同様に、超音波の2回透過波について、接着層の接着性を顕著に表す2回透過係数を用いるので、接着層が弱接着を有するか否かをより高い精度で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態1に係る接着層評価方法のフローチャートである。
図3図3は、図2の検出波評価ステップを説明するグラフの一例である。
図4図4は、図2の検出波評価ステップを説明するグラフの別の一例である。
図5図5は、図1の接着層評価システムで図2の接着層評価方法を実行する際に採用する理論モデルの一例を示す説明図である。
図6図6は、図5の理論モデルを用いて算出された2回透過係数の理論値の一例を示すグラフである。
図7図7は、図1の接着層評価システムで図2の接着層評価方法を実行する際の接着層評価位置の説明図である。
図8図8は、本発明の実施形態2に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
図9図9は、本発明の実施形態2に係る接着層評価システムで採用する理論モデルの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る接着層評価システム10の具体的な構成例を示す図である。接着層評価システム10は、試料片1Bと試料片1Cとを接着する接着層1Aを有する試料1の2回透過波を検出して、試料1の2回透過波を使用して、接着層1Aが弱接着(Weak Bond、WB)を有するか否かを評価する装置である。試料1は、本実施形態では、試料片1B及び試料片1Cが共にアルミニウム片であり、接着層1Aが高温耐性に優れた接着フィルムである形態であるが、本発明はこれに限定されず、いかなる種類の接着層1A及び試料片1B,1Cによって形成された形態であってもよい。
【0021】
また、接着層評価システム10は、試料1へ向けて弾性波としての超音波を照射することで、2回透過波を検出している。なお、実施形態1において、接着層評価システム10では、試料1の2回透過波を使用して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価しているが、試料1の2回透過波を使用して、試料1の接着層1Aに関するパラメータを評価してもよい。接着層1Aに関するパラメータは、接着層1Aの界面に関するパラメータ(以下、界面パラメータともいう)と、接着層1Aの形状に関するパラメータ(以下、形状パラメータともいう)と、接着層1Aの物性に関するパラメータ(以下、物性パラメータともいう)と、を含む。界面パラメータとしては、例えば、接着層1Aの界面剛性であり、実施形態1において接着層評価システム10は、界面パラメータに基づいて、接着層1Aが弱接着(Weak Bond、WB)であるか否かを評価している。また、形状パラメータとしては、例えば、接着層厚であり、接着層評価システム10は、形状パラメータに基づいて、接着層1Aの厚みを評価している。さらに、物性パラメータとしては、例えば、接着層1Aの音速、質量密度及び弾性率等であり、接着層評価システム10は、物性パラメータに基づいて、接着層1Aの物性を評価している。なお、実施形態1では、接着層1Aに関するパラメータとして、界面剛性(弱接着であるか否か)を評価する場合について説明するが、上記のように、接着層1Aに関するパラメータとして、接着層厚を評価してもよいし、界面剛性及び接着層厚の両方を評価してもよいし、界面剛性及び接着層厚以外のパラメータを評価してもよく、特に限定されない。
【0022】
接着層評価システム10は、図1に示すように、超音波照射装置11と、超音波検出装置12と、試料設置部14と、超音波反射体15と、水槽20と、制御装置30と、を備える。
【0023】
超音波照射装置11は、照射波11Bとして、例えば一般的な超音波探傷で使用される10MHzの超音波を照射する照射面11Aを有する。超音波検出装置12は、超音波である反射波12Bを検出する検出面12Aを有する。本実施形態では、超音波照射装置11と超音波検出装置12とは、一体となって超音波探触子13を構成しており、さらに、超音波探触子13を構成する超音波照射装置11の照射面11Aと超音波検出装置12の検出面12Aとが一体となっていてもよい。また、超音波照射装置11と超音波検出装置12とは、一体となって超音波探触子13を構成する形態に限定されず、別々に設けられていてもよい。
【0024】
試料設置部14は、2回透過波を検出する試料1を設置する部位であり、試料1を固定する図示しない固定部材や、試料1を嵌め込む図示しない窪み等が適宜設けられている。試料設置部14は、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波反射体15の反射面15Aとの間に、照射波11Bの経路を横切るように設けられている。また、試料設置部14は、超音波検出装置12の検出面12Aと、超音波反射体15の反射面15Aとの間に、反射波12Bの経路を横切るようにも設けられている。
【0025】
超音波反射体15は、超音波照射装置11から照射された照射波11Bを反射して、超音波検出装置12に向けて反射波12Bを生じさせる反射面15Aを有する。超音波反射体15は、超音波照射装置11の超音波の照射方向、すなわち、超音波照射装置11の照射面11Aが向いている方向に、配設される。また、超音波反射体15は、反射面15Aが、超音波照射装置11の照射面11Aの方向と形成する角度である照射波11Bの入射角度と、超音波検出装置12の検出面12Aの方向と形成する角度である反射波12Bの射出角度とが等しくなるように、配設される。なお、本実施形態では、照射波11Bの入射角度と反射波12Bの射出角度とは、いずれも0度である。超音波反射体15は、例えば、10MHzの超音波を反射するステンレス鋼の直方体状のブロックが好適なものとして用いられる。
【0026】
水槽20は、超音波を伝達する媒体の一例である水21を貯留する。水槽20は、例えば、矩形状のケースが用いられる。本実施形態では、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aと、試料設置部14と、超音波反射体15とが、水槽20の内側の水21の貯留領域内に設けられており、超音波照射装置11の照射面11Aとは反対側の一部分と、超音波検出装置12の検出面12Aとは反対側の一部分と、制御装置30とが、水槽20の外側に設けられている。なお、水槽20は、この形態に限定されず、少なくとも超音波照射装置11の照射面11A及び超音波検出装置12の検出面12Aを含む照射波11Bの経路及び反射波12Bの経路を、内側の水21の貯留領域内に設けていれば、どのような形態であってもよい。
【0027】
接着層評価システム10は、超音波照射装置11、超音波検出装置12、試料設置部14、超音波反射体15及び水槽20が以上のような配置をしているので、超音波照射装置11の照射面11Aから照射波11Bを照射することで、水槽20に貯留された水21中において、照射された照射波11Bが接着層1Aを1回透過し、接着層1Aを1回透過した照射波11Bが反射面15Aによって反射して反射波12Bとなり、反射波12Bが接着層1Aをさらに1回透過して2回透過波となり、超音波検出装置12の検出面12Aが2回透過波となった反射波12Bを検出することができる。
【0028】
接着層評価システム10は、本実施形態では、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aと、試料設置部14に設置される試料1の接着層1Aと、超音波反射体15の反射面15Aとが、互いに平行になるように配設される形態である。このため、接着層評価システム10は、超音波照射装置11の照射面11Aから接着層1A及び反射面15Aに対して直交する方向に照射波11Bを照射し、照射された照射波11Bが接着層1Aに直交する方向に接着層1Aを1回透過し、反射波12Bが接着層1A及び反射面15Aに対して直交する照射波11Bと真逆の方向に伝播し、伝播した反射波12Bが接着層1Aに直交する方向に接着層1Aをさらに1回透過して2回透過波となり、超音波検出装置12の検出面12Aに検出する。
【0029】
なお、接着層評価システム10は、上記形態に限定されず、超音波照射装置11の照射面11Aから照射波11Bを照射し、接着層1Aを1回透過して反射面15Aで反射されて反射波12Bとなり、接着層1Aをさらに1回透過して2回透過波となって超音波検出装置12の検出面12Aに検出することが可能ないかなる超音波照射装置11、超音波検出装置12、試料設置部14、超音波反射体15及び水槽20の配置をしていてもよい。
【0030】
制御装置30は、接着層評価システム10を制御するコンピュータシステムを含む。図1に示すように、制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサを含む処理部31と、ROM(Read Only Memory)又はストレージのような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む記憶部32と、信号及びデータを入出力可能な入出力回路を含む入出力インターフェース33と、を有する。
【0031】
制御装置30の処理部31は、図1に示すように、超音波照射制御部34と、超音波検出制御部35と、検出波評価部36と、を有する。超音波照射制御部34、超音波検出制御部35及び検出波評価部36は、いずれも、処理部31が、本実施形態に係る接着層評価システム10が本実施形態に係る接着層評価方法を実行するための接着層評価プログラムを実行することにより、実現される機能部である。制御装置30の処理部31の詳細な機能、すなわち、超音波照射制御部34、超音波検出制御部35及び検出波評価部36の詳細な機能は、各部の構成の詳細な説明の箇所に加えて、後述する実施形態に係る接着層評価方法の詳細な説明の箇所でも説明する。
【0032】
超音波照射制御部34は、超音波照射装置11を制御して、超音波照射装置11に照射面11Aから照射波11Bを照射させる。
【0033】
超音波検出制御部35は、超音波検出装置12を制御して、超音波検出装置12に検出面12Aで反射波12Bを検出させる。超音波検出制御部35は、本実施形態では、超音波検出装置12に、試料設置部14に設置された接着層1Aを有する試料1を1回透過して、超音波反射体15によって反射され、試料1をさらに1回透過した超音波である2回透過波を検出させる。また、超音波検出制御部35は、本実施形態では、超音波検出装置12に、試料設置部14に試料1を設置せず、試料1を1回も透過せずに、超音波反射体15によって反射された超音波である参照波を検出させてもよい。
【0034】
検出波評価部36は、超音波検出制御部35が超音波検出装置12に検出させた2回透過波の実測値と試料1に関する理論モデルに基づいて算出される2回透過波の理論値とを比較して、試料1の接着層1Aが健全な接着(完璧な接着(Perfect Bond、PB)と考える)を形成しているか否か、すなわち、試料1の接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価する。
【0035】
ここで、試料1に関する理論モデルとは、試料1をモデル化した解析モデルのことである。検出波評価部36は、試料1に関する理論モデルとして、接着層1Aをスプリング界面で結合した理論モデルを採用し、剛性マトリックス法を用いて算出処理をすることが好ましい。
【0036】
また、健全な接着とは、例えば、試料1を複数作製して所定の破壊試験を実施して得られた接着強度が上位5%に含まれる場合に接着層1Aが形成している接着を言うこととする。
【0037】
検出波評価部36は、周波数解析部37と、2回透過係数算出部38と、2回透過係数比較部39と、を有する。周波数解析部37、2回透過係数算出部38及び2回透過係数比較部39は、いずれも、検出波評価部36と同様に、処理部31が、本実施形態に係る接着層評価システム10が本実施形態に係る接着層評価方法を実行するための接着層評価プログラムを実行することにより、実現される機能部である。検出波評価部36の詳細な機能、すなわち、周波数解析部37、2回透過係数算出部38及び2回透過係数比較部39の詳細な機能は、各部の構成の詳細な説明の箇所に加えて、後述する実施形態に係る接着層評価方法の詳細な説明の箇所でも説明する。
【0038】
周波数解析部37は、2回透過波と、試料1を1回も透過せずに、超音波反射体15によって反射された超音波である参照波とをそれぞれ周波数解析する。周波数解析部37は、より詳細には、時間関数である2回透過波と参照波とのそれぞれについて、高速フーリエ変換を施すことで、振幅スペクトルを取得する。
【0039】
2回透過係数算出部38は、周波数解析部37によって得られた2回透過波と参照波との振幅スペクトルから、2回透過波と参照波との振幅スペクトルの強度比を算出し、この強度比に基づいて、試料1を2回透過したことに関するパラメータである2回透過係数Tの実測値を算出する。2回透過係数算出部38は、より詳細には、周波数fごとに、2回透過波の振幅スペクトルの強度から参照波の振幅スペクトルの強度を除すことにより、2回透過係数Tの実測値の周波数関数を取得する。なお、2回透過係数Tは、その性質上、超音波が全く透過しない時に0をとり、超音波が完全に透過する時に1を取り、0以上1以下の値を取る係数である。なお、2回透過係数Tは、理論上においては、1以下となるが、実測上においては、1以上の値を取り得る。
【0040】
2回透過係数比較部39は、2回透過係数算出部38が算出した2回透過係数Tの実測値と、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数Tの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価する。
【0041】
2回透過係数比較部39は、具体的には、2回透過係数算出部38が算出した2回透過係数Tの実測値が極大となる周波数fと、接着層1Aが弱接着を有さずに健全な接着をしていると仮定をした場合の理論モデルに基づいて算出される2回透過係数Tの理論値が極大となる周波数fとを比較して、それらが所定の誤差の範囲内で一致する場合に、接着層1Aは弱接着を有さない旨の評価をし、それらが所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aは弱接着を有する旨の評価をする。
【0042】
また、以下において、2回透過係数Tの実測値の周波数関数及び2回透過係数Tの理論値の周波数関数の双方について、その値が極大となる周波数fのことを、適宜ピーク周波数と称する。2回透過係数Tの実測値の周波数関数及び2回透過係数Tの理論値の周波数関数の双方とも、ピーク周波数は、一般に複数存在する。
【0043】
ここで、2回透過係数Tの実測値の周波数関数と2回透過係数Tの理論値の周波数関数とを比較及び対照する際に、2回透過係数Tのピーク周波数を用いる理由は、試料1において実際に起こり得る超音波の吸収及び散乱を完全に考慮しないことで計算容量を低減した理論モデルを用いているため、2回透過係数Tの絶対値自体には実測値と理論値との間で所定の誤差を超えて差異が生じ得るが、2回透過係数Tのピーク周波数については実測値と理論値との間で所定の誤差を超えて差異が生じないことによる。
【0044】
2回透過係数Tの周波数関数の実測値のピーク周波数は、その一部が、接着層1Aの界面パラメータに依らず一定であり、その他の一部が、接着層1Aの界面パラメータに依って一対一の関係で変化する傾向を有する。また、2回透過係数Tの周波数関数の理論値のピーク周波数は、接着層1Aの界面パラメータに対して、2回透過係数Tの周波数関数の実測値のピーク周波数が接着層1Aの界面パラメータに対して示す傾向と同様の傾向を有する。これに鑑み、2回透過係数Tについて生じ得る所定の誤差は、接着層1Aの界面パラメータに依らず一定となるピーク周波数において生じ得る差異に基づいて、予め適切に設定することができる。適切な設定としては、例えば、界面パラメータによらず一定のピーク周波数が示す値に基づいて誤差を補正する設定である。ここで、接着層1Aの界面パラメータとは、スプリング界面で結合した理論モデルを採用した場合におけるスプリング界面のパラメータであり、接着層1Aの接着強度を定量的に評価するものとなっている。なお、実施形態1では、接着層1Aに関するパラメータとして、界面パラメータを適用したが、接着層1Aの接着層厚を評価する場合、接着層1Aの接着層厚に関する形状パラメータを適用してもよい。この場合、理論モデルにおいて、接着層厚hadに関する形状パラメータを採用する(設定する)。また、接着層1Aに関するパラメータとして、上記した界面パラメータ、形状パラメータ及び物性パラメータの全てを適用してもよい。この場合、物性パラメータとしては、例えば、接着層1Aの音速、接着層1Aの質量密度、接着層1Aの弾性率に関するパラメータを採用し、理論モデルに適用する。
【0045】
また、2回透過係数比較部39は、2回透過係数算出部38が算出した2回透過係数Tの実測値がピークをとる周波数fが、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数Tの理論値がピークをとる周波数fと所定の誤差の範囲内で一致する時の、理論モデルにおける接着層1Aに関するパラメータを、評価に供した試料1の接着層1Aに関するパラメータとして算出する。
【0046】
また、2回透過係数比較部39は、上記を合わせてより効率的に処理をすることができ、2回透過係数Tの実測値のピーク周波数に、理論モデルにおける接着層1Aに関するパラメータを変化させて2回透過係数Tの理論値のピーク周波数を合わせ込むことで、接着層1Aに関するパラメータを導出し、接着層1Aに関するパラメータが、健全な接着を形成している時の接着層1Aに関するパラメータよりも下回っている場合、接着層1Aは弱接着を有すると評価することができる。
【0047】
制御装置30の記憶部32は、制御装置30の処理部31で用いられる種々のデータを記憶している。制御装置30の記憶部32は、具体的には、試料1に関するデータである接着層1A、試料片1B及び試料片1Cの材料及び厚み等の形状に関するデータ、超音波照射制御部34によって用いられる超音波照射装置11による照射波11Bの超音波の周波数及び接着層1Aの垂線に対する照射条件に関するデータ、超音波検出制御部35によって用いられる超音波検出装置12による反射波12Bの検出条件に関するデータ、検出波評価部36の周波数解析部37によって用いられる高速フーリエ変換処理に関するデータ、検出波評価部36の2回透過係数算出部38によって用いられる2回透過係数Tの実測値の周波数関数の導出処理に関するデータ、検出波評価部36の2回透過係数比較部39によって用いられる理論モデルに関するデータ、及び、検出波評価部36の2回透過係数比較部39によって用いられる2回透過係数Tの実測値と2回透過係数Tの理論値との比較処理に関するデータ等を記憶している。なお、接着層1A、試料片1B及び試料片1Cの厚み等の形状に関するデータは、予め別の方法で測定して求めたものが好適に採用される。また、接着層1A、試料片1B及び試料片1Cの厚み等の形状に関するデータは、接着層1Aに関するパラメータとして算出してもよい。
【0048】
また、制御装置30の記憶部32は、制御装置30の処理部31で取得される種々のデータを記憶することができる。制御装置30の記憶部32は、具体的には、超音波検出制御部35によって取得される超音波検出装置12による反射波12Bの検出データである2回透過波の測定データ及び参照波の測定データ、検出波評価部36の周波数解析部37によって取得される2回透過波の周波数関数のデータ及び参照波の周波数関数のデータ、検出波評価部36の2回透過係数算出部38によって取得される2回透過係数Tの実測値の周波数関数のデータ、検出波評価部36の2回透過係数比較部39によって算出される2回透過係数Tの理論値の周波数関数のデータ、及び、検出波評価部36の2回透過係数比較部39によって算出される試料1の接着層1Aが有する弱接着に関するパラメータ等を記憶することができる。
【0049】
制御装置30の入出力インターフェース33には、超音波照射装置11及び超音波検出装置12によって構成される超音波探触子13が接続される。制御装置30は、入出力インターフェース33を介して、超音波探触子13を制御し、超音波照射装置11及び超音波検出装置12を制御するとともに、超音波検出装置12による反射波12Bの検出データを取得する。また、制御装置30の入出力インターフェース33には、不図示の入力装置が接続されていてもよい。制御装置30は、入出力インターフェース33を介して、処理部31の処理に使用する種々の情報の入力を当該入力装置から受け付けることができる。また、制御装置30の入出力インターフェース33には、不図示の表示装置が接続されていてもよい。処理部31の処理によって得られた種々の情報を出力して、文字、画像、動画等により、当該表示装置に表示させることができる。
【0050】
実施形態1に係る接着層評価システム10の作用について以下に説明する。図2は、本発明の実施形態1に係る接着層評価方法のフローチャートである。接着層評価システム10によって実行される実施形態に係る接着層評価方法について、接着層評価システム10の処理部31における超音波照射制御部34と、超音波検出制御部35と、検出波評価部36の詳細な機能、並びに、検出波評価部36における周波数解析部37、2回透過係数算出部38及び2回透過係数比較部39の詳細な機能と併せて、以下に説明する。
【0051】
実施形態1に係る接着層評価方法は、図2に示すように、2回透過波検出ステップS11と、参照波検出ステップS12と、検出波評価ステップS13と、を有する。
【0052】
2回透過波検出ステップS11は、接着層1Aを有する試料1を2回透過させた超音波である2回透過波の実測値を検出するステップである。
【0053】
2回透過波検出ステップS11では、具体的には、まず、図1に示すように、2回透過波を検出する被検体となる接着層1Aを有する試料1を試料設置部14に設置した状態を形成する。2回透過波検出ステップS11では、次に、この状態下で、超音波照射制御部34が超音波照射装置11を制御して、超音波照射装置11に照射面11Aから、試料設置部14に設置した試料1に向けて、照射波11Bを照射させる。2回透過波検出ステップS11では、そして、超音波検出制御部35が超音波検出装置12を制御して、超音波検出装置12に検出面12Aで反射波12Bを検出させる。これにより、2回透過波検出ステップS11では、超音波検出制御部35が、超音波検出装置12に、接着層1Aを有する試料1の2回透過波の実測値を検出させる。
【0054】
参照波検出ステップS12は、接着層1Aを有する試料1を1回も透過させていない超音波である参照波の実測値を検出するステップである。
【0055】
参照波検出ステップS12では、具体的には、まず、2回透過波を検出する被検体となる接着層1Aを有する試料1を試料設置部14に設置していない状態、すなわち、試料設置部14に何も設置していない状態を形成する。参照波検出ステップS12では、次に、この状態下で、超音波照射制御部34が超音波照射装置11を制御して、超音波照射装置11に照射面11Aから、試料設置部14に設置した試料1に向けて、照射波11Bを照射させる。参照波検出ステップS12では、そして、超音波検出制御部35が超音波検出装置12を制御して、超音波検出装置12に検出面12Aで反射波12Bを検出させる。これにより、参照波検出ステップS12では、超音波検出制御部35が、超音波検出装置12に、接着層1Aを有する試料1を1回も透過させていない参照波の実測値を検出させる。
【0056】
なお、参照波検出ステップS12は、以前に、超音波照射装置11、超音波検出装置12及び超音波反射体15の位置関係並びに水槽20に貯留された水21等が等しい条件下で、参照波の実測値を検出している場合、実施を省略して、以前に検出した参照波の実測値を再び使用に供してもよい。
【0057】
検出波評価ステップS13は、2回透過波検出ステップS11で検出した2回透過波の実測値と試料1に関する理論モデルに基づいて算出される2回透過波の理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価するステップである。検出波評価ステップS13は、より詳細には、図2に示すように、周波数解析ステップS21と、2回透過係数算出ステップS22と、2回透過係数比較ステップS23と、弱接着有無判定ステップS24と、弱接着パラメータ算出ステップS25と、を有する。
【0058】
周波数解析ステップS21は、2回透過波検出ステップS11で得られた2回透過波と、今回または以前の参照波検出ステップS12で得られた参照波とをそれぞれ周波数解析するステップである。
【0059】
周波数解析ステップS21では、具体的には、周波数解析部37が、時間関数である2回透過波と参照波とのそれぞれについて、高速フーリエ変換を施すことで、振幅スペクトルの強度の周波数関数を取得するステップである。
【0060】
2回透過係数算出ステップS22は、周波数解析ステップS21で得られた2回透過波と参照波との振幅スペクトルの強度比に基づいて、試料1を2回透過したことに関するパラメータである2回透過係数Tの実測値を算出するステップである。
【0061】
2回透過係数算出ステップS22では、具体的には、2回透過係数算出部38が、周波数fごとに、2回透過波の振幅スペクトルの強度から参照波の振幅スペクトルの強度を除すことにより、2回透過係数Tの実測値の周波数関数を取得する。
【0062】
図3は、図2の検出波評価ステップS13を説明するグラフの一例である。図4は、図2の検出波評価ステップS13を説明するグラフの別の一例である。図3及び図4のグラフは、いずれも、横軸が周波数f[単位;Hz]、縦軸が2回透過係数Tの2次元グラフである。図3のグラフは、第1例について示しており、図4のグラフは、第2例について示している。2回透過係数算出ステップS22では、2回透過係数算出部38が、例えば、図3において実線で示す第1例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線41、及び、図4において実線で示す第2例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線43を取得する。
【0063】
2回透過係数比較ステップS23は、2回透過係数算出ステップS22で算出した2回透過係数Tの実測値と、理論モデルに基づいて算出される2回透過係数Tの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価するステップである。
【0064】
図5は、図1の接着層評価システム10で図2の接着層評価方法を実行する際に採用する理論モデルの一例を示す説明図である。2回透過係数比較ステップS23で使用する2回透過係数Tの理論値を算出する際に用いる理論モデルについて、図5を用いて、以下に説明する。
【0065】
2回透過係数比較ステップS23で2回透過係数比較部39が用いる理論モデルでは、試料1は、図5に示すように、試料片1Bと接着層1Aとの界面にスプリング界面1Dが設けられ、接着層1Aと試料片1Cとの界面にスプリング界面1Eが設けられ、接着層1Aを2箇所のスプリング界面1D,1Eで結合したものとしている。この理論モデルでは、スプリング界面1Dにおける接着界面剛性をバネ定数KN1[単位;MPa/nm]によって設定し、スプリング界面1Eにおける接着界面剛性をバネ定数KN2[単位;MPa/nm]によって設定している。なお、これらのバネ定数KN,KNは、その値が接着界面剛性そのものを表すという性質を持つパラメータである。また、バネ定数KN1,KN2は、スプリング界面1D,1Eにおける接着界面剛性が、垂直方向における成分の剛性となるように設定されている。実施形態1では、このような理論モデルを採用しているので、超音波の2回透過波について、実際に弱接着の要因が発生しやすい接着層1Aの両面に界面応力を設定して剛性解析する本実施形態にとって妥当性の高い計算手法を用いて、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるため、現実に即した理論モデル及び計算手法に裏付けがなされた弱接着の検出を実行することができる。
【0066】
2回透過係数比較ステップS23では、また、本実施形態では、実際の接着層1Aを有する試料1が剥離破壊をする際に、接着層1Aと試料片1Bとの界面または接着層1Aと試料片1Cとの界面で破壊する場合が多いことを考慮して、2回透過係数比較部39が、バネ定数KN1,KN2のうち一方のバネ定数KN1は健全な接着を形成しており、他方のバネ定数KN2は健全な接着または弱接着を形成しているものとして、この理論モデルを用いている。なお、本発明では、理論モデルにおけるバネ定数KN1,KN2の扱い方はこの方法に限定されず、例えば、バネ定数KN1,KN2のうち一方のバネ定数KN2は健全な接着を形成しており、他方のバネ定数KN1は健全な接着または弱接着を形成しているものとして取り扱ってもよいし、バネ定数KN1,KN2とが共に同じ値であり、かつ、共に健全な接着または弱接着を形成しているものとして取り扱ってもよい。
【0067】
また、本発明では、理論モデルにおけるバネ定数KN1,KN2等の設け方は上記した方法に限定されず、試料1の性質に応じて適宜扱い方を変更してもよい。例えば、本発明では、試料片1Bと接着層1Aとの界面、及び、接着層1Aと試料片1Cとの界面のいずれか一方のみにスプリング界面を設け、接着層1Aを1箇所のスプリング界面で結合した理論モデルを用いてもよい。
【0068】
2回透過係数比較ステップS23では、まず、2回透過係数比較部39が、上記した理論モデルに入力するための接着層1A、試料片1B及び試料片1Cの密度及び厚みの情報、超音波照射装置11による照射波11Bの超音波の周波数の情報を、記憶部32より取得する。
【0069】
2回透過係数比較ステップS23では、次に、2回透過係数比較部39が、接着層1A、試料片1B及び試料片1Cの密度及び厚みの情報と、照射波11Bの超音波の周波数の情報を上記した理論モデルに入力して、剛性マトリックス法を用いて、バネ定数KN1,KN2と周波数fと2回透過係数Tとの間で成立する関係式を導出する。
【0070】
2回透過係数比較ステップS23では、そして、2回透過係数比較部39が、理論モデルを用いて導出したバネ定数KN1,KN2と周波数fと2回透過係数Tとの間で成立する関係式を用いて、バネ定数KN1に健全な接着を形成している場合の値を入力して固定し、予め設定した範囲内で周波数fを逐次代入し、0以上バネ定数KN1の設定値以下の範囲内でバネ定数KN2を逐次代入することで、予め設定した範囲内の周波数fごと、かつ、0以上バネ定数KN1の設定値以下の範囲内のバネ定数KN2ごとの2回透過係数Tの理論値を算出する。
【0071】
ここで、健全な接着を形成している場合のバネ定数KN1の値は、バネ定数KN1,KN2が等しいとして、別の強度試験等から健全な接着を形成していると考えられる試料1についての2回透過係数Tの実測値の周波数関数と、2回透過係数Tのピーク周波数が一致する2回透過係数Tの理論値の周波数関数を算出する際のバネ定数KN1,KN2の値を採用することが好ましい。
【0072】
図6は、図5の理論モデルを用いて算出された2回透過係数Tの理論値の一例を示すグラフである。図6のグラフは、横軸が周波数f[単位;Hz]、縦軸がバネ定数KN2、濃淡が2回透過係数Tの3次元グラフである。図6において、任意のバネ定数KN2を選択して横軸に平行に切断して現れる断面が、2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線41,42と比較可能な横軸が周波数f[単位;Hz]であり縦軸が2回透過係数Tである2次元グラフとなる。2回透過係数比較ステップS23では、2回透過係数比較部39が、図6の3次元グラフに示すような各バネ定数KN2における2回透過係数Tの理論値の周波数関数の束を取得する。
【0073】
2回透過係数比較ステップS23では、さらに、2回透過係数比較部39が、2回透過係数算出ステップS22で取得した2回透過係数Tの実測値の周波数関数と、2回透過係数比較ステップS23におけるここまでの処理の中で取得した各バネ定数KN2における2回透過係数Tの理論値の周波数関数の束のうち、健全な接着を形成しておりバネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の2回透過係数Tの理論値の周波数関数とを比較する。2回透過係数比較ステップS23では、そして、2回透過係数比較部39が、これらの2つの周波数関数の2回透過係数Tの複数のピーク周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致する場合に、接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をし、これらの2つの周波数関数の2回透過係数Tのピーク周波数が所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をする。
【0074】
2回透過係数比較ステップS23では、2回透過係数比較部39が、例えば、2回透過係数算出ステップS22で2回透過係数算出部38が第1例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線41を取得した場合、第1例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線41と、健全な接着を形成しておりバネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の図3において破線で示す2回透過係数Tの理論値の周波数関数曲線42との間で複数のピーク周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致するので、第1例で2回透過波を検出する際に使用した試料1の接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をする。
【0075】
一方、2回透過係数比較ステップS23では、2回透過係数比較部39が、例えば、2回透過係数算出ステップS22で2回透過係数算出部38が第2例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線43を取得した場合、第2例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線43と、健全な接着を形成しておりバネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の2回透過係数Tの理論値の周波数関数曲線との間で一部のピーク周波数が所定の誤差を超えた有意差を有するので、第2例で2回透過波を検出する際に使用した試料1の接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をする。
【0076】
弱接着有無判定ステップS24は、2回透過係数比較部39が、2回透過係数比較ステップS23において接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をした場合、弱接着で無いと判定して(弱接着有無判定ステップS24でNo)、弱接着パラメータ算出ステップS25を実行せずに実施形態に係る接着層評価方法を終了させ、2回透過係数比較ステップS23において接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をした場合、弱接着で有ると判定して(弱接着有無判定ステップS24でYes)、弱接着パラメータ算出ステップS25へ処理を進めるステップである。
【0077】
弱接着有無判定ステップS24では、2回透過係数比較部39が、例えば、2回透過係数比較ステップS23において接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をした図3に示す第1例の場合、弱接着で無いと判定して、弱接着パラメータ算出ステップS25を実行せずに実施形態に係る接着層評価方法を終了させる。一方、弱接着有無判定ステップS24では、2回透過係数比較部39が、例えば、2回透過係数比較ステップS23において接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をした図4に示す第2例の場合、弱接着で有ると判定して、弱接着パラメータ算出ステップS25へ処理を進める。
【0078】
弱接着パラメータ算出ステップS25は、接着層1Aが有する弱接着に関するパラメータを算出するステップである。弱接着パラメータ算出ステップS25では、具体的には、2回透過係数比較部39が、2回透過係数算出ステップS22で取得した2回透過係数Tの実測値の周波数関数におけるピーク周波数と、2回透過係数比較ステップS23で取得した2回透過係数Tの理論値の周波数関数における複数のピーク周波数とがいずれも所定の誤算の範囲内で一致する際のバネ定数KN2の値を、評価に供した試料1の接着層1Aが有する弱接着に関するパラメータとして算出する。
【0079】
2回透過係数算出ステップS22で取得した2回透過係数Tの実測値の周波数関数におけるピーク周波数は、図6に示すように、本実施形態で説明している理論モデルを使用する場合、その一部が、バネ定数KN2の値に依存して変化している。また、バネ定数KN2の値に依存してピーク周波数が変化するピークについて、図6に示すように、バネ定数KN2の値とピーク周波数とは一対一の関係にあることがわかる。このため、弱接着パラメータ算出ステップS25では、2回透過係数比較部39が、2回透過係数Tの実測値の周波数関数におけるピーク周波数に基づいて、2回透過係数算出ステップS22で取得した2回透過係数Tの実測値の周波数関数を用いて、バネ定数KN2の値を一意に算出することができる。
【0080】
弱接着パラメータ算出ステップS25では、2回透過係数比較部39が、例えば、2回透過係数算出ステップS22で2回透過係数算出部38が第2例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線43を取得した場合、第2例の2回透過係数Tの実測値の周波数関数曲線43のピーク周波数と、バネ定数KNのバネ定数KN1に対する比を0.21とした場合の図4において破線で示す2回透過係数Tの理論値の周波数関数曲線44との間で複数のピーク周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致するので、第2例で2回透過波を検出する際に使用した試料1の接着層1Aが有する弱接着が、健全な接着を基準として0.21倍の接着強度であると算出する。
【0081】
また、2回透過係数比較ステップS23について、実質的に、上記した弱接着有無判定ステップS24及び弱接着パラメータ算出ステップS25の処理を含む形で、効率的な処理を実行することができる。この場合、2回透過係数比較ステップS23では、2回透過係数比較部39が、具体的には、2回透過係数Tの実測値のピーク周波数に、理論モデルにおける接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2を変化させることで2回透過係数Tの理論値のピーク周波数を合わせ込むことで、接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2を導出し、接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2が、健全な接着を形成している時の接着に関するパラメータであるバネ定数KN1よりも下回っている場合、接着層1Aは弱接着を有すると評価することができる。
【0082】
なお、2回透過波検出ステップS11、参照波検出ステップS12及び検出波評価ステップS13を有する実施形態に係る接着層評価方法を、試料1の接着層1Aの面内方向の複数の位置で実施することで、接着層1Aにおける弱接着の有無の面内方向の分布、並びに、接着層1Aにおける接着強度の面内方向の分布を算出することが好ましい。
【0083】
図7は、図1の接着層評価システム10で図2の接着層評価方法を実行する際の接着層評価位置の説明図である。例えば、試料1の接着層1Aが長方形状であり、面内方向の大きさが、横方向が250mmで縦方向が100mmである場合、図7に示すように、縦方向に真ん中であり、横方向に40mm間隔で配された5点の接着層評価位置で実施形態に係る接着層評価方法を実施して、5点の接着層評価位置における弱接着の有無並びに接着強度を算出することができる。なお、接着層評価位置は、超音波測定を用いた面内方向の分解能に応じて細かく設けることが好ましい。
【0084】
接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、以上のような構成を有するので、超音波の2回透過波を使用して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるので、試料1を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【0085】
また、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、2回透過波と参照波とをそれぞれ周波数解析して得られた2回透過波と参照波とのスペクトルの強度比に基づいて2回透過係数Tの実測値を算出し、この2回透過係数Tの実測値を理論モデルに基づいて算出される2回透過係数Tの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価する。このため、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、超音波の2回透過波について、接着層1Aの接着性を顕著に表す2回透過係数を用いるので、接着層1Aが弱接着を有するか否かを高い精度で評価することができる。
【0086】
また、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、検出波評価部36が、2回透過係数の実測値のピーク周波数に、理論モデルにおける接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2を変化させることで2回透過係数の理論値のピーク周波数を合わせ込むことで、接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2を導出し、接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2が、健全な接着を形成している時の接着に関するパラメータであるバネ定数KN1よりも下回っている場合、接着層1Aは弱接着を有すると評価することができる。このため、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、接着層1Aが弱接着を有するか否かをより高い精度で効率よく評価することができる。
【0087】
また、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、接着層1Aにおける接着に関するパラメータであるバネ定数KN2の値を算出する。このため、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、検出した弱接着を定量化することができる。
【0088】
また、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、試料1に関する理論モデルとして、接着層1Aを2箇所のスプリング界面1D,1Eで結合した理論モデルを採用して、剛性マトリックス法を用いて、2回透過係数Tの理論値等を算出処理する。このため、接着層評価システム10及び接着層評価システム10による接着層評価方法は、超音波の2回透過波について、実際に弱接着の要因が発生しやすい界面に界面応力を設定して剛性解析する妥当性の高い理論モデル及び計算手法を用いて、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるので、現実に即した理論モデル及び計算手法に裏付けがなされた弱接着の検出を実行することができる。
【0089】
なお、実施形態1では、超音波照射装置11及び超音波検出装置12として、超音波を試料1へ向けて照射すると共に、試料1から反射された超音波を検出する超音波探触子13を用いたが、これに限定されない。例えば、試料1を励起させ、試料1から発生した弾性波を検出するものであってもよい。試料1を励起させる装置として、例えば、超音波トランスデューサ、レーザーまたはEMAT等を用いた音場・弾性波動場、電磁波または電場・磁場等による電磁場により、試料1を励起させる装置であってもよい。音場・弾性波動場により試料1から弾性波を励起させる場合であっても、弾性波の一部が試料を透過するものであることから、周波数依存性のある透過係数を比較することでパラメータを推定することができる。
【0090】
また、実施形態1では、接着層1Aに関するパラメータとして、バネ定数KN1,KN2に基づく接着界面剛性を算出したが、理論モデルにおいて接着層の厚さhadも接着層1Aに関するパラメータとして組み込むことで、同様の方法を用いて、接着層厚hadを算出することも可能である。同様に、接着層1Aに関するパラメータとして、上記した界面剛性の界面パラメータ、接着層厚hadの形状パラメータの他、物性パラメータを組み込むことで、同様の方法を用いて、物性パラメータを算出することも可能である。
【0091】
また、実施形態1では、周波数特性として、振幅スペクトルのピーク周波数を適用したが、特に限定されない。超音波検出装置12により検出された2回透過波の周波数特性の実測値と、理論モデルを用いて算出された2回透過波の周波数特性の理論値と合わせ込んで、接着層1Aに関するパラメータの評価が可能であれば、何れの周波数特性を適用してもよい。
【0092】
[実施形態2]
次に、図8及び図9を参照して、実施形態2に係る接着層評価システム50及び接着層評価方法について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図8は、本発明の実施形態2に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。図9は、本発明の実施形態2に係る接着層評価システムで採用する理論モデルの一例を示す説明図である。
【0093】
実施形態2の接着層評価システム50は、実施形態1の超音波照射装置11に対向する試料1の接着層1Aの接着界面に対して、所定の傾斜角度をもって超音波を照射する斜角入射を行っている。つまり、試料設置部14に設置された試料1は、照射波11Bの照射方向に対して、傾斜するように配置されている。このため、超音波照射装置11は、試料1の接着層1Aの接着界面に対して、所定の入射角度で照射波11Bを照射する。超音波検出装置12は、超音波反射体15から反射された反射波12Bを検出する。
【0094】
また、接着層評価システム50では、試料設置部14に設置される試料1の接着層1Aの界面が、超音波照射装置11の照射面11A及び超音波検出装置12の検出面12Aに対して、傾斜するように配置されるとともに、超音波反射体15の反射面15Aに対して、傾斜するように配置される。なお、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aと、超音波反射体15の反射面15Aとは、互いに平行になるように配設されている。つまり、接着層評価システム50では、試料1の接着層1Aの界面に対して、超音波が垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に照射されるように、また、超音波が傾斜方向に透過するように、試料1が配置されている。
【0095】
接着層評価システム50は、超音波照射装置11、超音波検出装置12、試料設置部14、超音波反射体15及び水槽20が以上のような配置をしているので、超音波照射装置11の照射面11Aから照射波11Bを照射することで、水槽20に貯留された水21中において、所定の入射角度で照射された照射波11Bが接着層1Aを1回透過し、接着層1Aを1回透過した照射波11Bが反射面15Aによって反射して反射波12Bとなり、反射波12Bが所定の入射角度で試料1に照射され、接着層1Aをさらに1回透過して2回透過波となり、超音波検出装置12の検出面12Aが2回透過波となった反射波12Bを検出することができる。
【0096】
制御装置30の2回透過係数比較部39は、検出される超音波が傾斜方向となる2回透過波であることから、2回透過係数比較ステップS23で使用する2回透過係数Tの理論値を算出する際に用いる理論モデルは、図9に示すものが用いられる。
【0097】
図9に示す理論モデルでは、試料1は、試料片1Bと接着層1Aとの界面にスプリング界面1Dが設けられ、接着層1Aと試料片1Cとの界面にスプリング界面1Eが設けられ、接着層1Aを2箇所のスプリング界面1D,1Eで結合したものとしている。この理論モデルでは、スプリング界面1Dにおける接着界面剛性をバネ定数KN1[単位;MPa/nm]及びバネ定数KT1[単位;MPa/nm]によって設定し、スプリング界面1Eにおける接着界面剛性をバネ定数KN2[単位;MPa/nm]及びバネ定数KT2[単位;MPa/nm]によって設定している。バネ定数KN1,KN2は、スプリング界面1D,1Eにおける接着界面剛性が、垂直方向における成分の剛性となるように設定されている。バネ定数KT1,KT2は、スプリング界面1D,1Eにおける接着界面剛性が、垂直方向に直交する接着界面の面内方向における成分の剛性となるように設定されている。
【0098】
なお、実施形態2の接着層評価システム50を用いた接着層評価方法では、実施形態1の理論モデルに代えて、実施形態2の理論モデルを用いることで成立する。つまり、実施形態2の理論モデルを用いて算出される2回透過係数Tは、垂直方向における成分の剛性のバネ定数KN2と、面内方向における成分の剛性のバネ定数KT2とを考慮できる。このため、接着層1Aの垂直方向における接着界面剛性だけでなく、面内方向(せん断方向)における接着界面剛性を評価することができる。
【0099】
具体的に、2回透過係数比較ステップS23では、図9に示す理論モデルを用いて、剛性マトリックス法により、バネ定数KN1,KN2,KT1,KT2と周波数fと2回透過係数Tとの間で成立する関係式を導出する。そして、2回透過係数比較ステップS23では、導出した関係式を用いて、バネ定数KN1,KT1に健全な接着を形成している場合の値を入力して固定し、予め設定した範囲内で周波数fを逐次代入し、0以上バネ定数KN1,KT1の設定値以下の範囲内でバネ定数KN2,KT2を逐次代入することで、予め設定した範囲内の周波数fごと、かつ、0以上バネ定数KN1,KT1の設定値以下の範囲内のバネ定数KN2,KT2ごとの2回透過係数Tの理論値を算出する。
【0100】
2回透過係数比較ステップS23では、さらに、2回透過係数比較部39が、2回透過係数算出ステップS22で取得した2回透過係数Tの実測値の周波数関数と、2回透過係数比較ステップS23で取得した健全な接着の2回透過係数Tの理論値の周波数関数とを比較する。2回透過係数比較ステップS23では、2回透過係数比較部39が、これらの2つの周波数関数の2回透過係数Tの複数のピーク周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致する場合に、接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をし、これらの2つの周波数関数の2回透過係数Tのピーク周波数が所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をする。なお、実施形態2の接着層評価システム50を用いた接着層評価方法における、他のステップについては同様であるため、説明を省略する。
【0101】
以上のように、実施形態2によれば、接着層1Aの界面における垂直方向と面内方向とにおいて弱接着を有するか否かを評価することができるので、試料1を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 試料
1A 接着層
1B,1C 試料片
1D,1E スプリング界面
10 接着層評価システム
11 超音波照射装置
11A 照射面
11B 照射波
12 超音波検出装置
12A 検出面
12B 反射波
13 超音波探触子
14 試料設置部
15 超音波反射体
15A 反射面
20 水槽
21 水
30 制御装置
31 処理部
32 記憶部
33 入出力インターフェース
34 超音波照射制御部
35 超音波検出制御部
36 検出波評価部
37 周波数解析部
38 2回透過係数算出部
39 2回透過係数比較部
41,42,43,44 周波数関数曲線
50 接着層評価システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9