(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】神経因性膀胱の改善又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/36 20150101AFI20220818BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220818BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220818BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220818BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A61K35/36
A61K35/12
A61K9/08
A61P25/00
A61P13/10
(21)【出願番号】P 2017172956
(22)【出願日】2017-09-08
【審査請求日】2020-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2016176565
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 中国現代薬物応用、第10巻、第5号、第126-128頁(2016年3月10日発行)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125427
【氏名又は名称】藤井 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】白 ▲偉▼利
(72)【発明者】
【氏名】李 海洋
(72)【発明者】
【氏名】秦 ▲偉▼▲偉▼
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544785(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111770(WO,A1)
【文献】International Journal of Urology, 2014, Vol.21 Suppl1, p.18-25
【文献】ナースビーンズ 2006, Vol.8 No.2, p.192-197
【文献】月刊手技療法, 2007, Vol.15 No.7, p.502-506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
「関元」、「中極」、「腎兪」、「膀胱兪」、「帰来」及び「三陽交」からなる群から選択される少なくとも三つのツボに注射して投与
され、ビタミンB製剤と併用されることを特徴とする、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を有効成分として含有する神経因性膀胱の改善又は治療剤。
【請求項2】
神経因性膀胱が脊髄損傷によるものである請求項1に記載の改善又は治療剤。
【請求項3】
ビタミンB製剤がビタミンB1製剤及び/又はビタミンB12製剤である、請求項
1又は2に記載の改善又は治療剤。
【請求項4】
神経因性膀胱による残尿量増加又は膀胱容量減少に対する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項5】
炎症組織が皮膚組織である請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項6】
皮膚組織がウサギの皮膚組織である請求項
5に記載の改善又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物(以下「本抽出物」と表記することがある。)の新規な医薬用途に関するものである。より具体的には、本抽出物を有効成分として含有する神経因性膀胱の改善又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経因性膀胱は、膀胱・尿道自体には原因がなく、神経系の異常により生じる膀胱及びその排出路の機能障害の総称である。神経因性膀胱により生じる臨床症状は、尿の排出困難等の排出症状と、頻尿や尿漏れ等の蓄尿症状に分類される。排出症状としては排尿開始遅延、排尿時のいきみ、尿線の減弱、排尿時間の延長等の排尿困難と、尿が出ない尿閉がある。蓄尿症状としては昼間あるいは夜間の頻尿、尿意切迫感等がある。排尿症状は尿道の閉塞や排尿筋の収縮力低下などによって引き起こされると考えられている。一方、蓄尿症状は、排尿筋の過反射や機能的膀胱容量の減少、尿道内圧の低下などにより引き起こされると考えられている。排尿障害の結果残尿が多いと、一回に出せる尿量が減り、頻尿が起こることがある。
【0003】
神経因性膀胱の原因となる主な疾患には、痴呆、脳血管障害、脳外傷、脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、パーキンソン病等の脳障害、脊髄損傷、脊髄腫瘍、脊髄炎、脊髄血管障害、頸椎症、椎間板ヘルニア、二分脊椎、多発性硬化症等の脊髄障害、糖尿病、骨盤腔内手術(子宮癌、直腸癌根治療)、脊椎疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離、すべり症等)、ギランバレー症候群、骨盤骨折、馬尾神経腫瘍等の末梢神経障害等が挙げられる。また、子宮がん・直腸がん手術における膀胱の神経の損傷も神経因性膀胱の原因になることがある。
【0004】
神経因性膀胱に伴う排出症状の治療薬としては、膀胱頸部から尿道の平滑筋に豊富に分布するα1受容体を遮断して交感神経系を抑制するα1受容体遮断薬、排尿筋の収縮を促進するコリン作動薬が知られている。また、蓄尿症状である頻尿の治療薬としては、副交感神経の支配を受けている排尿筋のムスカリン受容体を遮断して、膀胱の不随意収縮を抑制することで膀胱容量を増加させる抗コリン薬が知られている。
【0005】
しかしながら、α1受容体遮断薬には血圧低下、起立性低血圧、めまい、下痢、射精障害等の副作用がみられる。また、コリン作動薬は、コリン作動性クリーゼの発現等の重篤な副作用があり、その使用には十分注意する必要がある。さらに、抗コリン薬には口渇、便秘、頻脈等の副作用がみられる。以上のような現状から、神経因性膀胱に対して有効で副作用が少ない新たな薬剤が臨床現場で強く求められている。
【0006】
本発明に係る神経因性膀胱の改善又は治療剤の有効成分であるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物については、鎮痛作用、鎮静作用、抗ストレス作用、抗アレルギー作用(特許文献1参照)、免疫促進作用、抗癌作用、肝硬変抑制作用(特許文献2参照)、特発性血小板減少性紫斑病に対する治療効果(特許文献3参照)、帯状疱疹後神経痛、脳浮腫、痴呆、脊髄小脳変性症等への治療効果(特許文献4参照)、レイノー症候群、糖尿病性神経障害、スモン後遺症等への治療効果(特許文献5参照)、カリクレイン産生阻害作用、末梢循環障害改善作用(特許文献6参照)、骨萎縮改善作用(特許文献7参照)、敗血症やエンドトキシンショックの治療に有効な一酸化窒素産生抑制作用(特許文献8参照)、骨粗鬆症に対する治療効果(特許文献9参照)、Nef作用抑制作用やケモカイン産生抑制作用に基づくエイズ治療効果(特許文献10、11参照)、脳梗塞等の虚血性疾患に対する治療効果(特許文献12参照)、線維筋痛症に対する治療効果(特許文献13参照)、感染症に対する治療効果(特許文献14参照)、抗癌剤による末梢神経障害の予防又は軽減作用(特許文献15参照)、慢性前立腺炎、間質性膀胱炎及び/又は排尿障害の治療効果(特許文献16参照)、BDNF等の神経栄養因子の産生促進作用(特許文献17参照)、軟骨細胞におけるコラーゲン及びプロテオグリカン合成促進作用(特許文献18参照)など非常に多岐に及ぶ作用・効果が知られている。しかし、本抽出物が、神経因性膀胱の改善又は治療に有効であることはこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭53-101515号公報
【文献】特開昭55-87724号公報
【文献】特開平1-265028号公報
【文献】特開平1-319422号公報
【文献】特開平2-28119号公報
【文献】特開平7-97336号公報
【文献】特開平8-291077号公報
【文献】特開平10-194978号公報
【文献】特開平11-80005号公報
【文献】特開平11-139977号公報
【文献】特開2000-336034号公報
【文献】特開2000-16942号公報
【文献】国際公開WO2004/039383号公報
【文献】特開2004-300146号公報
【文献】国際公開WO2009/028605号公報
【文献】国際公開WO2011/111770号公報
【文献】国際公開WO2011/162317号公報
【文献】国際公開WO2012/051173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、神経因性膀胱の改善又は治療に有効で且つ安全性が高い薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有効な治療法が求められている神経因性膀胱の薬剤治療について鋭意研究を行った結果、本抽出物を有効成分として含有する薬剤が神経因性膀胱に対して優れた改善又は治療効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本抽出物は、神経因性膀胱を改善又は治療するという優れた薬理作用を有する。また、本抽出物を有効成分として含有する薬剤は、副作用等の問題点の少ない安全性の高い薬剤であることが永年の使用経験で示されているものであるため、本発明は極めて有用性の高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本抽出物は、ワクシニアウイルスを接種して発痘した動物の炎症組織から抽出分離した非蛋白性の活性物質を含有する抽出物である。本抽出物は、抽出された状態では液体であるが、乾燥することにより固体にすることもできる。本抽出物を有効成分として含有する薬剤(以下「本製剤」という。)は、医薬品として非常に有用なものである。この場合、本抽出物が本製剤の有効成分であるから、本抽出物は本製剤の原薬ということになる。本製剤として出願人が日本において製造し販売している具体的な商品に「ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤」(商品名:ノイロトロピン/NEUROTROPIN〔登録商標〕)がある。本製剤には、注射剤と錠剤があり、いずれも医療用医薬品(ethical drug)である。
【0012】
ノイロトロピンの注射剤の適応症は、「腰痛症、頸肩腕症候群、症候性神経痛、皮膚疾患(湿疹、皮膚炎、蕁麻疹)に伴う掻痒、アレルギー性鼻炎、スモン(SMON)後遺症状の冷感・異常知覚・痛み」である。ノイロトロピンの錠剤の適応症は、「帯状疱疹後神経痛、腰痛症、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、変形性関節症」である。本製剤は、出願人が創製し、医薬品として開発したものであり、その有効性と安全性における優れた特長が評価され、長年にわたり販売されて、日本の医薬品市場で確固たる地位を確立しているものである。
【0013】
本発明におけるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物はワクシニアウイルスを接種して発痘した炎症組織を破砕し、抽出溶媒を加えて組織片を除去した後、除蛋白処理を行い、これを吸着剤に吸着させ、次いで有効成分を溶出することによって得ることができる。例えば、ワクシニアウイルスをウサギの皮膚に接種して発痘した炎症皮膚組織を採取し、破砕して抽出溶媒を加えて処理した後、組織片を除去し、除蛋白処理を行い、これを酸性条件において吸着剤に吸着させ、次いで有効成分を塩基性条件において溶出することによって得ることができる。
【0014】
ワクシニアウイルスを接種し炎症組織を得るための動物としては、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、ラット、マウスなどワクシニアウイルスが感染する種々の動物を用いることができ、炎症組織としてはウサギの炎症皮膚組織が好ましい。ウサギはウサギ目に属するものであればいかなるものでもよい。例としては、アナウサギ、カイウサギ(アナウサギを家畜化したもの)、ノウサギ(ニホンノウサギ)、ナキウサギ、ユキウサギ等がある。これらのうち、カイウサギが使用するには好適である。日本では過去から飼育され家畜又は実験用動物として繁用されている家兎(イエウサギ)と呼ばれるものがあるが、これもカイウサギの別称である。カイウサギには、多数の品種(ブリード)が存在するが、日本白色種やニュージーランド白色種(ニュージーランドホワイト)といった品種が好適に用いられ得る。
【0015】
ワクシニアウイルス(vaccinia virus)は、いかなる株のものであってもよい。例としては、リスター(Lister)株、大連(Dairen)株、池田(Ikeda)株、EM-63株、ニューヨーク市公衆衛生局(New York City Board of Health)株等が挙げられる。
【0016】
本抽出物の基本的な抽出工程としては、例えば、以下のような工程が用いられる。
工程(A)について
ウサギの皮膚にワクシニアウイルスを皮内接種して発痘させた炎症皮膚組織を採取する。採取した皮膚組織はフェノール溶液等で洗浄、消毒を行なう。この炎症皮膚組織を破砕し、その1乃至5倍量の抽出溶媒を加える。ここで、破砕とは、ミンチ機等を使用してミンチ状に細かく砕くことを意味する。また、抽出溶媒としては、蒸留水、生理食塩水、弱酸性乃至弱塩基性の緩衝液などを用いることができ、フェノール等の殺菌・防腐剤、グリセリン等の安定化剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩類などを適宜添加してもよい。この時、凍結融解、超音波、細胞膜溶解酵素又は界面活性剤等の処理により細胞組織を破壊して抽出を容易にすることもできる。得られた懸濁液を、5日乃至12日間放置する。その間、適宜攪拌しながら又は攪拌せずに、30乃至45℃に加温してもよい。得られた液を固液分離(濾過又は遠心分離等)によって組織片を除去して粗抽出液(濾液又は上清)を得る。
【0017】
工程(B)について
工程(A)で得られた粗抽出液について除蛋白処理を行う。除蛋白は、通常行われている公知の方法により実施でき、加熱処理、蛋白質変性剤(例えば、酸、塩基、尿素、グアニジン、アセトン等の有機溶媒など)による処理、等電点沈澱、塩析等の方法を適用することができる。次いで、不溶物を除去する通常の方法、例えば、濾紙(セルロース、ニトロセルロース等)、グラスフィルター、セライト、ザイツ濾過板等を用いた濾過、限外濾過、遠心分離などにより析出してきた不溶蛋白質を除去した濾液又は上清を得る。
【0018】
工程(C)について
工程(B)で得られた濾液又は上清を、酸性、好ましくはpH3.5乃至5.5に調整し、吸着剤への吸着操作を行う。使用可能な吸着剤としては、活性炭、カオリン等を挙げることができ、抽出液中に吸着剤を添加し撹拌するか、抽出液を吸着剤充填カラムに通過させて、該吸着剤に有効成分を吸着させることができる。抽出液中に吸着剤を添加した場合には、濾過や遠心分離等によって溶液を除去して、活性成分を吸着させた吸着剤を得ることができる。
【0019】
工程(D)について
工程(C)で得られた吸着剤から活性成分を溶出(脱離)させるには、当該吸着剤に溶出溶媒を加え、塩基性、好ましくはpH9乃至12に調整し、室温又は適宜加熱して或いは撹拌して溶出し、濾過や遠心分離等の通常の方法で吸着剤を除去する。用いられる溶出溶媒としては、塩基性の溶媒、例えば塩基性のpHに調整した水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等又はこれらの適当な混合溶液を用いることができ、好ましくはpH9乃至12に調整した水を使用することができる。溶出溶媒の量は適宜設定することができる。このようにして得られた溶出液を、原薬として用いるために、適宜pHを中性付近に調整するなどして、最終的にワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物(本抽出物)を得ることができる。
【0020】
本抽出物は、できた時点では液体であるので、適宜濃縮・希釈することによって所望の濃度のものにすることもできる。本抽出物から製剤を製造する場合には、加熱滅菌処理を施すのが好ましい。注射剤にするためには、例えば塩化ナトリウム等を加えて生理食塩液と等張の溶液に調製することができる。また、液体の状態の本抽出物に適切な濃縮乾固等の操作を行うことによって、錠剤等の経口用固形製剤を製造することもできる。本抽出物からこのような経口用固形製剤を製造する具体的な方法は、日本特許第3818657号や同第4883798号の明細書に記載されている。本製剤はこうして得られる注射剤や経口用固形製剤等である。
【0021】
治療の必要な患者へ薬学的に有効な量を投与する方法としては、経口投与の他に皮下、筋肉内、静脈内投与等が挙げられ、投与量はワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の種類によって適宜設定することができる。市販の製剤で認められている投与量は、基本的には内服では1日16NU、注射剤では1日3.6乃至7.2NUを投与するよう医療用医薬品としては示されているが、疾患の種類、重傷度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減可能である(NU:ノイロトロピン単位。ノイロトロピン単位とは、疼痛閾値が正常動物より低下した慢性ストレス動物であるSARTストレスマウスを用い、Randall-Selitto変法に準じて試験を行い、鎮痛効力のED50値をもって規定する。1NUはED50値が100 mg/kgであるときのノイロトロピン製剤の鎮痛活性含有成分1mgを示す活性である。)
【0022】
以下に、本抽出物の製造方法の例、並びに本抽出物の新規な薬理作用、神経因性膀胱に関する薬理試験結果を示すが、本発明はこれらの実施例の記載によって何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1(本抽出物の製造)
健康な成熟家兎の皮膚にワクシニアウイルスを皮内接種し、発痘した皮膚を切り取り採取した。採取した皮膚はフェノール溶液で洗浄・消毒を行なった後、余分のフェノール溶液を除去し、破砕して、フェノール溶液を加え混合し、3~7日間放置した後、さらに3~4日間攪拌しながら35~40℃に加温した。その後、固液分離して得た抽出液を塩酸でpH4.5~5.2に調整し、90~100℃で30分間、加熱処理した後、濾過して除蛋白した。さらに、濾液を水酸化ナトリウムでpH9.0~9.5に調整し、90~100℃で15分間、加熱処理した後、固液分離した。
【0024】
得られた除蛋白液を塩酸でpH4.0~4.3に調整し、除蛋白液質量の2%量の活性炭を加えて2時間撹拌した後、固液分離した。採取した活性炭に水を加え、水酸化ナトリウムでpH9.5~10とし、60℃で90~100分間撹拌した後、遠心分離して上清を得た。遠心分離で沈澱した活性炭に再び水を加えた後、水酸化ナトリウムでpH10.5~11とし、60℃で90~100分間撹拌した後、遠心分離して上清を得た。両上清を合せて、塩酸で中和し、本抽出物を得た。
【0025】
実施例2(本製剤による試験)
次に、上記実施例1で得られた本抽出物を有効成分として含有する製剤(本製剤)の神経因性膀胱に対する作用(改善又は治療効果)についての試験結果の一例を示す。
【0026】
本製剤の神経因性膀胱に対する効果を調べるために、以下の通りヒトにおいて試験を行った。
【0027】
(1)試験方法
2012年1月から2014年12月まで入院していた不完全の脊髄損傷に伴う神経因性膀胱患者68例を本製剤投与群36例と対照群32例の2組に無作為に群分けした。本製剤投与群は、男性20例、女性16例、年齢23~82歳、平均年齢61.2±16.9歳であった。対照群は、男性18例、女性14例、年齢19~83歳、平均年齢58.6±12.6歳であった。両群患者の年齢、性別等を比較したところ、統計上の差異はなかった。いずれの群に対しても、ビタミンB1製剤100 mgの1日1回筋肉内投与、ビタミンB12製剤1 mgの1日1回静脈内投与、間欠的導尿及び膀胱の機能練習による治療を行った。本製剤投与群に対しては、上記ビタミン製剤の投与を行った上で、「ノイロトロピン注射液3.6単位」(本製剤のうち注射剤の商品名)を鍼治療のツボである「関元」、「中極」、「腎兪」、「膀胱兪」、「帰来」及び「三陽交」のうち3つのツボを左右交互に選択し、各ツボに1日1回1アンプルをトリガーポイント注射した。他方、対照群には、上記ビタミン製剤の投与を行った上で、本製剤投与群と同じツボに鍼治療を行った。4週間の治療の終了後に治療効果の判定を行った。
【0028】
(2)治療効果の判定
両群とも、治療前及び治療後の残尿量、膀胱容量を超音波ドップラー検査により測定した。
治療効果判定のため、次の診断基準を用いた。すなわち、「著明改善」は残尿量の完全消失あるいは治療前の1/3まで減少した状態とした。「有効」は残尿量が治療前の1/3~2/3まで減少した状態とした。「無効」は残尿量が治療前の2/3以上にしか減少しなかった、あるいは減少無しの状態とした。
上記の診断基準を用いて改善・治療効果の判定を行い、それぞれの群における全症例数に対する「著明改善」と「有効」の症例数の合計が占める割合を総合有効率として算出し、治療効果を比較した。また、治療前後の残尿量及び膀胱容量を比較した。治療効果の比較を表1に、治療前後の残尿量及び膀胱容量の比較を表2に示す。
【0029】
(3)統計解析
2群間は、治療効果に関してはt検定を用いて比較し、残尿量及び膀胱容量に関してはカイ二乗検定を用いて比較した。
【0030】
【0031】
【0032】
上記表1及び表2に示したとおり、神経因性膀胱患者に本製剤を投与することにより、総合有効率が有意に増加した。また、対照群と比較して残尿量が有意に減少し、膀胱容量が有意に増加した。このことから、本製剤は、神経因性膀胱の症状を全般的に改善・治療する有効な薬剤であることが示された。
【0033】
試験1及び2においては、本製剤と共に、ビタミンB1製剤、ビタミンB12製剤が併用されている。しかし、これらのビタミン製剤が本製剤の神経因性膀胱に対する効果に必須であることを示すものではないと考えられる。なぜなら、対照群にもこれらのビタミン製剤の投与は行われており、本製剤投与群では対照群に比べて有意な効果が認められたからである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のとおり、本製剤は神経因性膀胱の症状に対して優れた改善・治療効果を有することが認められた。また、本製剤は長年に亘って使用され、非常に安全性の高い薬剤として認められている。従って、本製剤は神経因性膀胱の改善又は治療剤として極めて有用性の高いものである。