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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】肢端紅痛症の改善又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/36 20150101AFI20220818BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220818BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20220818BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220818BHJP
   A61K 31/4468 20060101ALI20220818BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A61K35/36
A61K35/12
A61K31/5575
A61K31/445
A61K31/4468
A61K31/573
A61P9/00
A61P25/22
A61P43/00 121
A61P25/04
A61P29/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017176112
(22)【出願日】2017-09-13
(65)【公開番号】P2018048129
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2016179366
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 中国実用神経疾病雑志,第19巻,第5号,第40~41頁(2016年3月15日発行)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】冉 菊▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲艶▼萍
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 民玉
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-101515(JP,A)
【文献】日本ペインクリニック学会誌, 2005, Vol.12 No.1, p.44-45
【文献】日本臨床麻酔学会誌, 2009, Vol.29 No.6, p.S378(P3-06-4)
【文献】日本臨麻会誌, 2009, Vol.29 No.5, p.730-742
【文献】Pain Clinic, 1997, Vol.18 No.4, p.522-524
【文献】J Physiol., 2008, Vol.586 No.3, p.689-690
【文献】小児科臨床, 2013, Vol.66 No.12, p.2433-2437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 31/5575
A61K 31/445
A61K 31/4468
A61K 31/573
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を有効成分として含有し、プロスタグランジンE1製剤、局所麻酔剤、麻酔用鎮痛剤及びステロイド系抗炎症剤を併用すること、並びに、該併用において局所麻酔剤及び麻酔用鎮痛剤は持続硬膜外投与することを特徴とする肢端紅痛症の改善又は治療剤。
【請求項2】
前記ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物が静脈内投与されるものである請求項1に記載の改善又は治療剤。
【請求項3】
前記プロスタグランジンE1製剤が静脈内投与されるものである請求項1又は2に記載の改善又は治療剤。
【請求項4】
前記局所麻酔剤がロピバカインである請求項1乃至のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項5】
前記麻酔用鎮痛剤がフェンタニルである請求項1乃至のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項6】
前記ステロイド系抗炎症剤が持続硬膜外投与されるものである請求項1乃至のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項7】
前記ステロイド系抗炎症剤がデキサメタゾンである請求項1乃至のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項8】
肢端紅痛症による痛みに対する請求項1乃至のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項9】
肢端紅痛症による不安に対する請求項1乃至8のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項10】
炎症組織が皮膚組織である請求項1乃至のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【請求項11】
皮膚組織がウサギの皮膚組織である請求項10に記載の改善又は治療剤。
【請求項12】
注射剤である請求項1乃至11のいずれか一項に記載の改善又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物(以下「本抽出物」と表記することがある。)の新規な医薬用途に関するものである。より具体的には、本抽出物を有効成分として含有する肢端紅痛症の改善又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肢端紅痛症(先端紅痛症、皮膚紅痛症とも呼ばれる。)は、足、手、顔、耳等の小動脈にみられる、苦痛を伴う発作性の血管拡張であり、灼熱痛、皮膚温の上昇、発赤を引き起こす疾患である。この疾患は、原発性(原因不明)であることも、骨髄増殖性の疾患(例、真性赤血球増加症、血小板血症)、高血圧、静脈不全、糖尿病、SLE、RA、硬化性苔癬、痛風、脊髄疾患、多発性硬化症などに伴う二次性のものであることもある。症状としては、足や手の灼熱痛、熱感、発赤が数分から数時間続く。ほとんどの患者では、症状は温熱により誘発され、典型的には冷水に浸すことで軽減する。栄養障害性の変化は起こらない。症状は軽度のまま何年も続く場合もあれば、完全に機能不全になるほど重症になる場合もある。全身性の血管運動機能不全はよくみられ、レイノー現象が起こることもある。
【0003】
診断は臨床的であり、原因を発見するために検査を行う。肢端紅痛症は骨髄増殖性の疾患に数年先行する場合があるので、血液検査を反復して行う必要がある。鑑別診断には、外傷後の反射性ジストロフィー、肩手症候群、末梢神経障害、カウザルギー、ファブリー病、細菌性蜂窩織炎が含まれる。治療は、温熱の回避、安静、四肢の挙上、冷却の適用である。原発性の肢端紅痛症には、ガバペンチンが有効であることがある。二次性肢端紅痛症では原疾患の治療を行い、骨髄増殖性疾患を伴う場合はアスピリンが有用なこともある。しかしながら、さらに効果的で副作用が少ない治療剤が臨床現場で求められている。
【0004】
本発明に係る肢端紅痛症の改善又は治療剤の有効成分であるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物については、鎮痛作用、鎮静作用、抗ストレス作用、抗アレルギー作用(特許文献1参照)、免疫促進作用、抗癌作用、肝硬変抑制作用(特許文献2参照)、特発性血小板減少性紫斑病に対する治療効果(特許文献3参照)、帯状疱疹後神経痛、脳浮腫、痴呆、脊髄小脳変性症等への治療効果(特許文献4参照)、レイノー症候群、糖尿病性神経障害、スモン後遺症等への治療効果(特許文献5参照)、カリクレイン産生阻害作用、末梢循環障害改善作用(特許文献6参照)、骨萎縮改善作用(特許文献7参照)、敗血症やエンドトキシンショックの治療に有効な一酸化窒素産生抑制作用(特許文献8参照)、骨粗鬆症に対する治療効果(特許文献9参照)、Nef作用抑制作用やケモカイン産生抑制作用に基づくエイズ治療効果(特許文献10、11参照)、脳梗塞等の虚血性疾患に対する治療効果(特許文献12参照)、線維筋痛症に対する治療効果(特許文献13参照)、感染症に対する治療効果(特許文献14参照)、抗癌剤による末梢神経障害の予防又は軽減作用(特許文献15参照)、慢性前立腺炎、間質性膀胱炎及び/又は排尿障害の治療効果(特許文献16参照)、BDNF等の神経栄養因子の産生促進作用(特許文献17参照)、軟骨細胞におけるコラーゲン及びプロテオグリカン合成促進作用(特許文献18参照)など非常に多岐に及ぶ作用・効果が知られている。しかし、本抽出物が、肢端紅痛症の改善又は治療に有効であることはこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭53-101515号公報
【文献】特開昭55-87724号公報
【文献】特開平1-265028号公報
【文献】特開平1-319422号公報
【文献】特開平2-28119号公報
【文献】特開平7-97336号公報
【文献】特開平8-291077号公報
【文献】特開平10-194978号公報
【文献】特開平11-80005号公報
【文献】特開平11-139977号公報
【文献】特開2000-336034号公報
【文献】特開2000-16942号公報
【文献】国際公開WO2004/039383号公報
【文献】特開2004-300146号公報
【文献】国際公開WO2009/028605号公報
【文献】国際公開WO2011/111770号公報
【文献】国際公開WO2011/162317号公報
【文献】国際公開WO2012/051173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、肢端紅痛症の改善又は治療に有効で且つ安全性が高い薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、有効な治療法が求められている肢端紅痛症の薬剤治療について鋭意研究を行った結果、本抽出物を有効成分として含有する薬剤が肢端紅痛症に対して優れた改善又は治療効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本抽出物は、肢端紅痛症を改善又は治療するという優れた薬理作用を有する。また、本抽出物を有効成分として含有する薬剤は、副作用等の問題点の少ない安全性の高い薬剤であることが永年の使用経験で示されているものであるため、本発明は極めて有用性の高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本抽出物は、ワクシニアウイルスを接種して発痘した動物の炎症組織から抽出分離した非蛋白性の活性物質を含有する抽出物である。本抽出物は、抽出された状態では液体であるが、乾燥することにより固体にすることもできる。本抽出物を有効成分として含有する薬剤(以下「本製剤」という。)は、医薬品として非常に有用なものである。この場合、本抽出物が本製剤の有効成分であるから、本抽出物は本製剤の原薬ということになる。本製剤として出願人が日本において製造し販売している具体的な商品に「ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤」(商品名:ノイロトロピン/NEUROTROPIN〔登録商標〕)がある。この製剤には、注射剤と錠剤があり、いずれも医療用医薬品(ethical drug)である。
【0010】
ノイロトロピンの注射剤の適応症は、「腰痛症、頸肩腕症候群、症候性神経痛、皮膚疾患(湿疹、皮膚炎、蕁麻疹)に伴う掻痒、アレルギー性鼻炎、スモン(SMON)後遺症状の冷感・異常知覚・痛み」である。ノイロトロピンの錠剤の適応症は、「帯状疱疹後神経痛、腰痛症、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、変形性関節症」である。本製剤は、出願人が創製し、医薬品として開発したものであり、その有効性と安全性における優れた特長が評価され、長年にわたり販売されて、日本の医薬品市場で確固たる地位を確立しているものである。
【0011】
本発明におけるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物はワクシニアウイルスを接種して発痘した炎症組織を破砕し、抽出溶媒を加えて組織片を除去した後、除蛋白処理を行い、これを吸着剤に吸着させ、次いで有効成分を溶出することによって得ることができる。即ち、例えば、以下のような工程である。
(A)ワクシニアウイルスを接種し発痘させたウサギ、マウス等の皮膚組織等を採取し、発痘組織を破砕し、水、フェノール水、生理食塩液又はフェノール加グリセリン水等の抽出溶媒を加えた後、濾過又は遠心分離することによって抽出液(濾液又は上清)を得る。
(B)前記抽出液を酸性のpHに調整して加熱し、除蛋白処理する。次いで除蛋白した溶液をアルカリ性に調整して加熱した後に濾過又は遠心分離する。
(C)得られた濾液又は上清を酸性とし活性炭、カオリン等の吸着剤に吸着させる。
(D)前記吸着剤に水等の抽出溶媒を加え、アルカリ性のpHに調整し、吸着成分を溶出することによってワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を得ることができる。その後、所望に応じて、適宜溶出液を減圧下に蒸発乾固又は凍結乾燥することによって乾固物とすることもできる。
【0012】
ワクシニアウイルスを接種し炎症組織を得るための動物としては、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、ラット、マウスなどワクシニアウイルスが感染する種々の動物を用いることができ、炎症組織としてはウサギの炎症皮膚組織が好ましい。ウサギはウサギ目に属するものであればいかなるものでもよい。例としては、アナウサギ、カイウサギ(アナウサギを家畜化したもの)、ノウサギ(ニホンノウサギ)、ナキウサギ、ユキウサギ等がある。これらのうち、カイウサギが使用するには好適である。日本では過去から飼育され家畜又は実験用動物として繁用されている家兎(イエウサギ)と呼ばれるものがあるが、これもカイウサギの別称である。カイウサギには、多数の品種(ブリード)が存在するが、日本白色種やニュージーランド白色種(ニュージーランドホワイト)といった品種が好適に用いられ得る。
【0013】
ワクシニアウイルス(vaccinia virus)は、いかなる株のものであってもよい。例としては、リスター(Lister)株、大連(Dairen)株、池田(Ikeda)株、EM-63株、ニューヨーク市公衆衛生局(New York City Board of Health)株等が挙げられる。
【0014】
本抽出物の基本的な抽出工程としては、例えば、以下のような工程が用いられる。
工程(A)について
ウサギの皮膚にワクシニアウイルスを皮内接種して発痘させた炎症皮膚組織を採取する。採取した皮膚組織はフェノール溶液等で洗浄、消毒を行なう。この炎症皮膚組織を破砕し、その1乃至5倍量の抽出溶媒を加える。ここで、破砕とは、ミンチ機等を使用してミンチ状に細かく砕くことを意味する。また、抽出溶媒としては、蒸留水、生理食塩水、弱酸性乃至弱塩基性の緩衝液などを用いることができ、フェノール等の殺菌・防腐剤、グリセリン等の安定化剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩類などを適宜添加してもよい。この時、凍結融解、超音波、細胞膜溶解酵素又は界面活性剤等の処理により細胞組織を破壊して抽出を容易にすることもできる。得られた懸濁液を、5日乃至12日間放置する。その間、適宜攪拌しながら又は攪拌せずに、30乃至45℃に加温してもよい。得られた液を固液分離(濾過又は遠心分離等)によって組織片を除去して粗抽出液(濾液又は上清)を得る。
【0015】
工程(B)について
工程(A)で得られた粗抽出液について除蛋白処理を行う。除蛋白は、通常行われている公知の方法により実施でき、加熱処理、蛋白質変性剤(例えば、酸、塩基、尿素、グアニジン、アセトン等の有機溶媒など)による処理、等電点沈澱、塩析等の方法を適用することができる。次いで、不溶物を除去する通常の方法、例えば、濾紙(セルロース、ニトロセルロース等)、グラスフィルター、セライト、ザイツ濾過板等を用いた濾過、限外濾過、遠心分離などにより析出してきた不溶蛋白質を除去した濾液又は上清を得る。
【0016】
工程(C)について
工程(B)で得られた濾液又は上清を、酸性、好ましくはpH3.5乃至5.5に調整し、吸着剤への吸着操作を行う。使用可能な吸着剤としては、活性炭、カオリン等を挙げることができ、抽出液中に吸着剤を添加し撹拌するか、抽出液を吸着剤充填カラムに通過させて、該吸着剤に有効成分を吸着させることができる。抽出液中に吸着剤を添加した場合には、濾過や遠心分離等によって溶液を除去して、活性成分を吸着させた吸着剤を得ることができる。
【0017】
工程(D)について
工程(C)で得られた吸着剤から活性成分を溶出(脱離)させるには、当該吸着剤に溶出溶媒を加え、塩基性、好ましくはpH9乃至12に調整し、室温又は適宜加熱して或いは撹拌して溶出し、濾過や遠心分離等の通常の方法で吸着剤を除去する。用いられる溶出溶媒としては、塩基性の溶媒、例えば塩基性のpHに調整した水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等又はこれらの適当な混合溶液を用いることができ、好ましくはpH9乃至12に調整した水を使用することができる。溶出溶媒の量は適宜設定することができる。このようにして得られた溶出液を、原薬として用いるために、適宜pHを中性付近に調整するなどして、最終的にワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物(本抽出物)を得ることができる。
【0018】
本抽出物は、できた時点では液体であるので、適宜濃縮・希釈することによって所望の濃度のものにすることもできる。本抽出物から製剤を製造する場合には、加熱滅菌処理を施すのが好ましい。注射剤にするためには、例えば塩化ナトリウム等を加えて生理食塩液と等張の溶液に調製することができる。また、液体の状態の本抽出物に適切な濃縮乾固等の操作を行うことによって、錠剤等の経口用固形製剤を製造することもできる。本抽出物からこのような経口用固形製剤を製造する具体的な方法は、日本特許第3818657号や同第4883798号の明細書に記載されている。本製剤はこうして得られる注射剤や経口用固形製剤等である。
【0019】
治療の必要な患者へ薬学的に有効な量を投与する方法としては、経口投与の他に皮下、筋肉内、静脈内投与等が挙げられ、投与量はワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の種類によって適宜設定することができる。市販の製剤で認められている投与量は、基本的には内服では1日16NU、注射剤では1日3.6乃至7.2NUを投与するよう医療用医薬品としては示されているが、疾患の種類、重傷度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減可能である(NU:ノイロトロピン単位。ノイロトロピン単位とは、疼痛閾値が正常動物より低下した慢性ストレス動物であるSARTストレスマウスを用い、Randall-Selitto変法に準じて試験を行い、鎮痛効力のED50値をもって規定する。1NUはED50値が100 mg/kgであるときのノイロトロピン製剤の鎮痛活性含有成分1mgを示す活性である。)
【0020】
以下に、本抽出物の製造方法の例、並びに本抽出物の新規な薬理作用、肢端紅痛症に関する薬理試験結果を示すが、本発明はこれらの実施例の記載によって何ら制限されるものではない。
【実施例
【0021】
実施例1(本抽出物の製造)
健康な成熟家兎の皮膚にワクシニアウイルスを皮内接種し、発痘した皮膚を切り取り採取した。採取した皮膚はフェノール溶液で洗浄・消毒を行なった後、余分のフェノール溶液を除去し、破砕して、フェノール溶液を加え混合し、3~7日間放置した後、さらに3~4日間攪拌しながら35~40℃に加温した。その後、固液分離して得た抽出液を塩酸でpH4.5~5.2に調整し、90~100℃で30分間、加熱処理した後、濾過して除蛋白した。さらに、濾液を水酸化ナトリウムでpH9.0~9.5に調整し、90~100℃で15分間、加熱処理した後、固液分離した。
【0022】
得られた除蛋白液を塩酸でpH4.0~4.3に調整し、除蛋白液質量の2%量の活性炭を加えて2時間撹拌した後、固液分離した。採取した活性炭に水を加え、水酸化ナトリウムでpH9.5~10とし、60℃で90~100分間撹拌した後、遠心分離して上清を得た。遠心分離で沈澱した活性炭に再び水を加えた後、水酸化ナトリウムでpH10.5~11とし、60℃で90~100分間撹拌した後、遠心分離して上清を得た。両上清を合せて、塩酸で中和し、本抽出物を得た。
【0023】
実施例2(本製剤による試験)
次に、上記実施例1で得られた本抽出物を有効成分として含有する製剤(本製剤)の肢端紅痛症に対する作用(改善又は治療効果)についての試験結果の一例を示す。
【0024】
本製剤の肢端紅痛症に対する効果を調べるために、以下の通りヒトにおいて試験を行った。
【0025】
(1) 試験(試験期間: 2010年1月から2014年4月)
肢端紅痛症と診断された患者に対し、入院後、「ノイロトロピン注射液3.6単位」(本製剤のうち注射剤の商品名)2管を0.9%NaClで100mLまで希釈してから静脈注入した。また、プロスタグランジンE1(5μg/管)2管を0.9%NaClで250 mLまで希釈してから静脈注入した。1日1回、計12日間上記の処置を行った。患者に左側臥位になってもらい、局部麻酔した後、L3-4の間に穿刺し、注射器を引いて脊髄液や血液がなかったことを確認した後、硬膜外留置カテーテルを末端から挿入し、PCA(Patient-Controlled Analgesia)ポンプにつなげた。注入薬剤として、ロピバカイン(100 mg/管)2.5管、フェンタニル(0.1 mg/管)2管を0.9%NaClにて100mLまで希釈した。バックグラウンド流量を2mL/h、PCA投与量を0.5 mL/回、ロックアウト時間を15分とした。2日に1回の頻度で薬を交換し、その都度、上記の薬剤を作り直し、PCAポンプも交換した。最初の4日間では5mgデキサメタゾンも追加して投与した。治療期間は10日間であった。治療の終了後に治療効果の判定を行った。
【0026】
(2) 治療効果の判定
治療12日目に、治療効果は次の診断基準により判定した。すなわち、「治癒」は、症状がなくなり、完全に回復した状態とした。「著効」は、50%以上の症状寛解がみられた状態とした。「有効」は、50%未満の症状寛解がみられた状態とした。「無効」は、治療後、症状の改善がみられない状態とした。
上記の診断基準を用いて改善・治療効果の判定を行い、全症例数に対する治癒率、著効率、有効率及び無効率を算出した。結果を表1に示す。
また、治療前、治療2日目、5日目、8日目および12日目に、患者の痛みをVASにより観察・記録し、心理面尺度ES スコアおよびハミルトン不安評価尺度HAMAスコアも評価した。結果を表2に示す。
【0027】
(3) 統計解析
統計解析ソフトSPSS13.0を用いて分析した。各スコアは、平均値±標準偏差(χ±s)表し、t検定を用いて検定した。計数資料は率(%)で表し、χ2検定を用いて検定した。P<0.05であった場合を「有意」とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
上記表1及び表2に示したとおり、肢端紅痛症患者に本製剤を投与すると、90%以上の患者で、有効以上の治療効果が得られた。また、投与前と比べて、すべての患者において、VASスコア、心理面尺度ESスコアおよびハミルトン不安評価尺度HAMAスコアはいずれも有意に低下した。このことから、本製剤は、肢端紅痛症の痛みや不安などの症状を全般的に改善又は治療する効果を有する薬剤であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のとおり、本製剤は肢端紅痛症の痛みや不安をはじめとする症状に対して優れた改善又は治療効果を有することが認められた。また、本製剤は長年に亘って使用され、非常に安全性の高い薬剤として認められている。従って、本製剤は肢端紅痛症の改善又は治療剤として極めて有用性の高いものである。