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特許7125751化合物およびその合成方法ならびに重合体およびその合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】化合物およびその合成方法ならびに重合体およびその合成方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 30/02 20060101AFI20220818BHJP
   C07F 9/09 20060101ALI20220818BHJP
   C07F 9/6574 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C08F30/02
C07F9/09 V CSP
C07F9/6574 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018206640
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020070385
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業、戦略的イノベーション創出推進プログラム、「マテリアル光科学の創成を基盤とする超バイオ機能表面構築技術の開拓」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 博貴
(72)【発明者】
【氏名】川井 秀悟
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-9410(JP,A)
【文献】特表2014-520191(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(C1)に示される構造を有する化合物。
【化1】

(上記一般式(C1)中、Rは水素またはメチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、nは1から3のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。)
【請求項2】
以下の一般式(R1)に示される構造を有する化合物と、以下の一般式(R2)に示される構造を有する化合物とを反応させて、以下の一般式(R3)に示される構造を有する化合物を合成する中間体合成工程と、
前記一般式(R3)に示される構造を有する化合物と、以下の一般式(R4)に示される構造を有する化合物とを反応させて、請求項1に記載の一般式(C1)に示される化合物を合成する化合物合成工程と
を備える、化合物の合成方法。
【化2】

(上記一般式(R1)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基である。)
【化3】

(上記一般式(R2)中、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。)
【化4】

(上記一般式(R3)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。)
【化5】

(上記一般式(R4)中、Rは水素またはメチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、nは1から3のいずれかである。)
【請求項3】
以下の一般式(C2)に示される構造を有する化合物。
【化6】

(上記一般式(C2)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。)
【請求項4】
以下の一般式(R1)に示される構造を有する化合物と、以下の一般式(R2)に示される構造を有する化合物とを反応させて、請求項に記載の化合物を合成する方法。
【化7】

(上記一般式(R1)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基である。)
【化8】

(上記一般式(R2)中、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。)
【請求項5】
請求項1に記載の化合物のビニル重合体。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物のビニル共重合体。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物と、以下の一般式(C3)に示される構造を有する化
合物とのビニル共重合体。
【化9】

(上記一般式(C3)中、R11は水素またはメチル基であり、R12はメチル基またはエチル基であり、R13はメチル基またはエチル基であり、R14はメチル基またはエチル基であり、pは1から6のいずれかであり、qは0から6のいずれかである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物およびその合成方法に関する。また、本発明は、重合体(共重合体を含む)およびその合成方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、人工関節や人工臓器等にタンパク質や細胞が付着することを防止するための高分子コーティング材料が種々検討されている。このような高分子コーティング材料の一例として、ホスホリルコリン基等の双性イオン含有基、および、アジドフェニル基やベンゾフェノン基等の光反応性基それぞれを主鎖に結合したものが挙げられる(例えば、国際公開第2004/088319号、国際公開第2016/140259号等参照)。この高分子コーティング材料は、光反応性基により基板に対して共有結合することができ、耐久性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2004/088319号
【文献】国際公開第2016/140259号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の高分子コーティング材料を合成する方法としては、主に、(i)双性イオン含有基および光反応性基結合部位それぞれを主鎖に結合したものの光反応性基結合部位に光反応性基を共有結合させる方法(以下このような方法を「高分子反応法」という。)(例えば、国際公開第2004/088319号等参照)、(ii)双性イオン含有基を有する単量体と、光反応性基を有する単量体とを共重合させる方法(以下このような方法を「共重合法」という。)(例えば、国際公開第2016/140259号等参照)が挙げられる。
【0005】
高分子反応法では、光反応性基の導入量を制御することが難しく、目的の高分子体を設計通りに合成することが難しい。一方、共重合法では、単量体の配合を決定することにより双性イオン含有基および光反応性基の導入量を制御することができるため設計通りに高分子体を合成することができるが、共重合に供される二種以上の単量体が全て共通の溶媒に溶解する必要があるため、単量体の選択の幅が狭くなってしまう。特に、光反応性基を有する単量体である4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンは、ジメチルスルホキシドや、ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等、数種類の溶媒にしか溶解しないため、この弊害が顕著に出てしまう。
【0006】
本発明の課題は、タンパク質や細胞等の付着を防ぐことができると共に基板に共有結合することができる高分子体を設計通りに合成することができるだけでなく、従前の化合物(単量体)よりも多くの化合物(単量体)と共重合化することができることが期待される化合物(単量体)およびその合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面に係る化合物は、重合性基および側鎖を備える。すなわち、この化合物は、単量体(モノマー)である。重合性基は、例えば、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基等である。側鎖は、重合性基と直接的または間接的に結合されている。そして、この側鎖には、光反応性基および双性イオン含有基の双方が含まれている(すなわち、一つの側鎖に、光反応性基および双性イオン含有基の双方が含まれている。)。なお、この化合物は、少なくとも水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の溶媒に可溶であることが好ましい。
【0008】
上述の通り、この化合物は重合性基および側鎖を備え、側鎖には光反応性基および双性イオン含有基の双方が含まれている。このため、この化合物は、タンパク質や細胞等の付着を防ぐことができると共に基板に共有結合することができる高分子体を合成することができる。また、本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の構造を有する化合物は、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンよりも多くの種類の溶媒に溶けるだけでなく、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンが溶けない水やアルコールにも溶けるようになることが明らかとなった。このため、この化合物は、従前の化合物(単量体)よりも多くの化合物(単量体)と共重合化することができることが期待される。したがって、この化合物は、高分子体を設計通りに合成することができる。すなわち、この化合物は、タンパク質や細胞等の付着を防ぐことができると共に基板に共有結合することができる高分子体を設計通りに合成することができるだけでなく、従前の化合物(単量体)よりも多くの化合物(単量体)と共重合化することができることが期待される。
【0009】
なお、上述の化合物は、以下の一般式(C1)に示される構造を有することが好ましい。
【0010】
【化1】
【0011】
上記一般式(C1)中、Rは水素またはメチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、nは1から3のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。
【0012】
なお、ここでは、Rがメチル基であり、nが2であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがエチレン基であり、mが0であり、X1~9が水素であることが最も好ましい。かかる化合物は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルムに可溶であるからである。
【0013】
本発明の第2局面に係る化合物の合成方法は、上述の一般式(C1)に示される化合物を合成する方法であって、中間体合成工程および化合物合成工程を備える。中間体合成工程では、以下の一般式(R1)に示される構造を有する化合物と、以下の一般式(R2)に示される構造を有する化合物が反応して、以下の一般式(R3)に示される構造を有する化合物が合成される。
【0014】
【化2】
【0015】
なお、上記一般式(R1)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基である。
【0016】
【化3】
【0017】
なお、上記一般式(R2)中、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。
【0018】
【化4】
【0019】
なお、上記一般式(R3)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。
【0020】
化合物合成工程では、上記一般式(R3)に示される構造を有する化合物と、以下の一般式(R4)に示される構造を有する化合物とが反応して、上述の一般式(C1)に示される化合物が合成される。
【0021】
【化5】
【0022】
なお、上記一般式(R4)中、Rは水素またはメチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、nは1から3のいずれかである。
【0023】
本発明の第3局面に係る化合物は、以下の一般式(C2)に示される構造を有する。なお、この一般式(C2)に係る化合物は、上述の一般式(C1)に係る化合物を合成する中間体として有用である。
【0024】
【化6】
【0025】
なお、上記一般式(C2)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。
【0026】
本発明の第4局面に係る化合物の合成方法では、以下の一般式(R1)に示される構造を有する化合物と、以下の一般式(R2)に示される構造を有する化合物とが反応して、上述の一般式(C2)に示される構造を有する化合物が合成される。
【0027】
【化7】
【0028】
なお、上記一般式(R1)中、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基である。
【0029】
【化8】
【0030】
なお、上記一般式(R2)中、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。
【0031】
本発明の第5局面に係るビニル重合体は、第1局面に係る化合物のビニル重合体である。
【0032】
本発明の第6局面に係るビニル共重合体は、第1局面に係る化合物と他のビニル基含有化合物のビニル共重合体である。
【0033】
本発明の第7局面に係るビニル共重合体は、第1局面に係る化合物と、以下の一般式(C3)に示される構造を有する化合物とのビニル共重合体である。
【0034】
【化9】
【0035】
なお、上記一般式(C3)中、R11は水素またはメチル基であり、R12はメチル基またはエチル基であり、R13はメチル基またはエチル基であり、R14はメチル基またはエチル基であり、pは1から6のいずれかであり、qは0から6のいずれかである。ここでは、R11~14がメチル基であり、pが2であり、qが2であることが最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】2-ベンゾフェノキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホランのH-NMRスペクトルである。
図2】ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーのH-NMRスペクトルである。
図3】ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーのマススペクトルである。
図4】ポリエチレンテレフタレート基板にベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーをコーティングして紫外線照射し、そのコーティングをイソプロパノール含浸布で拭いた後のコーティング面のXPSスペクトル(N1S:窒素原子の1S軌道の結合エネルギー付近のXPSスペクトル)である。
図5】ポリエチレンテレフタレート基板にベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーをコーティングして紫外線照射し、そのコーティングをイソプロパノール含浸布で拭いた後のコーティング面のXPSスペクトル(P2p:リン原子の2p軌道の結合エネルギー付近のXPSスペクトル)である。
図6】ポリエチレンテレフタレート基板に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをコーティングして紫外線照射し、そのコーティングをイソプロパノール含浸布で拭いた後のコーティング面のXPSスペクトル(N1S:窒素原子の1S軌道の結合エネルギー付近のXPSスペクトル)である。
図7】ポリエチレンテレフタレート基板に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをコーティングして紫外線照射し、そのコーティングをイソプロパノール含浸布で拭いた後のコーティング面のXPSスペクトル(P2p:リン原子の2p軌道の結合エネルギー付近のXPSスペクトル)である。
図8】ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-co-ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー)のH-NMRスペクトルである。
図9】ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-co-ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー)を基板に塗布するところからコーティングのXPS解析までの流れを示す図である。
図10】ポリエーテルエーテルケトン基板のXPSスペクトル(P/C=N.D.)である。
図11】ポリエーテルエーテルケトン基板上に塗工したポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-co-ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー)(モル比:90/10)のXPSスペクトル(P/C=0.047)である。
図12】ポリエーテルエーテルケトン基板上に塗工したポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-co-ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー)(モル比:70/30)のXPSスペクトル(P/C=0.053)である。
図13】ポリエチレンテレフタレート基板のXPSスペクトル(P/C=N.D.)である。
図14】ポリエチレンテレフタレート基板上に塗工したポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-co-ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー)(モル比:90/10)のXPSスペクトル(P/C=0.063)である。
図15】ポリエチレンテレフタレート基板上に塗工したポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン-co-ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー)(モル比:70/30)のXPSスペクトル(P/C=0.044)である。
図16】蛍光アルブミンおよび繊維芽細胞の付着試験の結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施の形態に係る化合物は、単量体(モノマー)であって、以下の一般式(C1)で表される。
【0038】
【化10】
【0039】
上記一般式(C1)中、Rは水素またはメチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Rはエチレン基、n-プロピレン基またはイソプロピレン基であり、X1~9は、それぞれ、水素、ハロゲン原子およびメチル基のいずれかであり、nは1から3のいずれかであり、mは0から3のいずれかである。この化合物は、少なくとも水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の溶媒に可溶であることが好ましい。
【0040】
なお、本発明の実施の形態に係る化合物では、Rがメチル基であり、nが2であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがエチレン基であり、mが0であり、X1~9が水素であること、すなわち、以下の化学式(C5)に示される化合物であることが最も好ましい。この化合物は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の溶媒に可溶であるからである。
【0041】
【化11】
【0042】
そして、この化合物は、以下の化学反応式(F1)および(F2)に示される通りに合成され得る。
【0043】
【化12】
【0044】
【化13】
【0045】
そして、この化合物は、従前の重合方法によって重合または共重合させることができる。なお、共重合させる単量体としては、以下の一般式(C3)に示される単量体が好ましい。なお、ここで、R11は水素またはメチル基であり、R12はメチル基またはエチル基であり、R13はメチル基またはエチル基であり、R14はメチル基またはエチル基であり、pは1から6のいずれかであり、qは0から6のいずれかである。このような化合物としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが挙げられる。また、ここで、R11~14がメチル基であり、pが2であり、qが2であること、すなわち、同化合物が2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであることが最も好ましい。その他の単量体としては、例えば、N-(2-メタクリルアミド)エチルホスホリルコリン、4-メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6-メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10-メタクリロイル時オキシエチレンホスホリルコリン、4-スチリルオキシブチルホスホリルコリン等が挙げられる。
【0046】
【化14】
【0047】
<実施例・比較例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0048】
1.ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーの合成
(1)2-ベンゾフェノキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホランの合成
29.70g(0.15mol)の4-ヒドロキシベンゾフェノン(東京化成工業株式会社製のものをエタノールで再結晶したもの)(以下「HBP」と略する。)を300mLのメチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社製)(以下「MEK」と略する。)に溶解させた後、そのHBPのMEK溶液に21mL(0.15mol)のトリエチルアミン(和光純薬工業株式会社製のものを常圧蒸留したもの)(以下「TEA」と略する。)を加えた。次に、そのTEAを含むHBPのMEK溶液を氷浴中で撹拌しながら、その溶液に21.32g(0.15mol)の2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(日油株式会社製)を1滴/秒のペースで滴下し、滴下完了後にその溶液を氷浴中で2時間撹拌した。なお、このときの化学反応は、以下の化学反応式(F3)に示される通りである。
【0049】
【化15】
【0050】
2時間の撹拌完了後にその溶液を減圧濾過してその溶液から塩酸塩を取り除き、その溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて37℃、120hPaの環境下で濃縮し、その濃縮液を冷蔵庫に入れて一晩放置した。一晩放置後の濃縮液を観察したところ、濃縮液内に結晶が析出していた。そして、この結晶析出液を減圧濾過して結晶を回収した。この結晶をMEKで再結晶処理した後、結晶析出液を減圧濾過して結晶を回収し、その結晶をデシケータで2時間減圧乾燥した。その後、核磁気共鳴装置(NMR:JMTC-400/JNM-AL-400(400MHz),溶媒:CDCl)を用いてその結晶物の同定を行ったところ、その結晶が2-ベンゾフェノキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(以下「BPP」と略する。)であると同定された。なお、図1にそのH-NMRスペクトルを示した。
【0051】
(2)ベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーの合成
先に得られたBPP10.48g(34.4mmol)を100mLのアセトニトリル(超脱水)(和光純薬工業株式会社製)(以下「AN」と略する。)に溶解させた後、そのBPPのAN溶液に5.42g(34.4mmol)ジメチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製のものを減圧蒸留したもの)(以下「DMAEM」と略する。)を加えた。次にそのDMAEMを含むBPPのAN溶液を60℃に保ちながら18時間撹拌した。なお、このときの化学反応は、以下の化学反応式(F4)に示される通りである。
【0052】
【化16】

18時間の攪拌完了後にその溶液を冷蔵庫に入れて一晩放置した。一晩放置後の溶液を観察したところ、溶液内に結晶が析出していた。そして、この結晶析出液を減圧濾過して結晶を回収し、この結晶をガラスフィルター上でANを用いて3回洗浄した後、その洗浄後の結晶をデシケータで3時間減圧乾燥した。その後、核磁気共鳴装置(NMR:JMTC-400/JNM-AL-400(400MHz),溶媒:CDCl)および質量分析計(Thermo fisher scientific社のExactive,モード:positive ion mode,イオン化器:ESI,試料濃度:1μM,希釈溶媒:メタノール)を用いてその結晶物の同定を行ったところ、その結晶がベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマー(以下「CPBP」と略する。)であると同定された。なお、図2にそのH-NMRスペクトルを示し、図3にそのマススペクトルを示した。
【0053】
2.CPBPの物性評価
(1)CPBPの溶解性評価
上述の通りにして得られたCPBP0.2gを1.0gの水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルムおよびヘキサンそれぞれに入れ、目視でベンゾフェノキシコリンホスフェートモノマーの様子を確認した。その結果、このCPBPは、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびクロロホルムに完全に溶解したが、アセトンおよびヘキサンにはほとんど溶解しなかった(表1参照)。
【0054】
(2)CPBPの光反応性評価
先ず、上述の通りにして得られたCPBPが0.5重量%となるようにCPBPをイソプロパノール(以下「IPA」と略する。)に溶かした。次に、この0.5重量%CPBP・IPA溶液をポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略する。)基板にスピンコートした。なお、スピンコートは、300rpm、30秒で実施された。次いで、平衡光束光源装置(ウシオ電機株式会社製UI-502Q、紫外線透過・可視吸収フィルター(HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製U360)使用)を用いてこのコーティング基板に1時間、波長356nmの紫外線を照射した。続いて、その紫外線照射した後のコーティング基板をIPA含浸布で拭いた後に、そのコーティング基板に窒素ガスを吹き付けて同コーティング基板を乾燥させた。そして、この乾燥後のコーティング基板の表面を、X線光電子分光装置(株式会社島津製作所製XPS ESCA-3400)を用いてXPS解析したところ、図4および図5に示されるように窒素原子の1S軌道の結合エネルギーピークと、リン原子の2p軌道の結合エネルギーピークとが観察された。したがって、CPBPは、紫外線照射によりPET基板に共有結合していると思われる。
【0055】
(比較例1)
4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MCCユニテック株式会社製)(以下「MBP」と略する。)0.2gを1.0gの水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルムおよびヘキサンそれぞれに入れ、目視でMBPの様子を確認した。その結果、このMBPは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフランおよびクロロホルムに完全に溶解したが、水、イソプロパノール、ブタノール、およびヘキサンにはほとんど溶解せず、メタノールおよびエタノールには一部が溶解した様子であった(表1参照)。
【0056】
【表1】
【0057】
なお、表1中、「HO」は水を意味し、「MeOH」はメタノールを意味し、「EtOH」はエタノールを意味し、「IPA」はイソプロパノールを意味し、「BuOH」はブタノールを意味し、「DMSO」はジメチルスルホキシドを意味し、「DMF」はジメチルホルムアミドを意味し、「Acetone」はアセトンを意味し、「THF」はテトラヒドロフランを意味し、「CHCl」はクロロホルムを意味し、「Hexane」はヘキサンを意味している。また、表1中、「DS」は完全溶解を示し、「IS」は未溶解を示し、「PS」は部分溶解を示している。
【0058】
(比較例2)
先ず、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下「MPC」と称する。)(以下の化学式(C4)参照)が0.5重量%となるようにMPCをIPAに溶かした。次に、この0.5重量%MPC・IPA溶液をPET基板にスピンコートした。なお、スピンコートは、300rpm、30秒で実施された。次いで、平衡光束光源装置(ウシオ電機株式会社製UI-502Q、紫外線透過・可視吸収フィルター(HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製U360)使用)を用いてこのコーティング基板に1時間、紫外線を照射した。続いて、その紫外線照射した後のコーティング基板をIPA含浸布で拭いた後に、そのコーティング基板に窒素ガスを吹き付けて同コーティング基板を乾燥させた。そして、この乾燥後のコーティング基板の表面を、X線光電子分光装置(株式会社島津製作所製XPS ESCA-3400)を用いてXPS解析したところ、図6および図7に示されるように窒素原子の1S軌道の結合エネルギーピークと、リン原子の2p軌道の結合エネルギーピークとは観察されなかった。したがって、MPCは、IPA含浸布で拭きとられて基板上に存在していなかったと思われる。
【0059】
【化17】
【実施例2】
【0060】
1.ポリ(MPC-co-CPBP)の合成
(1)MPC/CPBP:70/30(モル比)とするポリ(MPC-co-CPBP)の合成
先ず、1.55g(5.24mmol)のMPCと1.04g(2.25mmol)のCPBPを試験管に加えた後にその試験管にさらに6.16mgのアゾビスイソブチロニトリルを加えた。次に、その試験管に15mLのエタノールを加え、エタノールに上述の化合物を溶解させた。次いで、そのエタノール溶液に対して30分間アルゴンバブリング処理を行った後に、その試験管を60℃のオイルバスに入れて、そのエタノール溶液を17時間撹拌した。17時間の撹拌完了後に得られた高粘性のエタノール溶液をジエチルエーテルで再沈殿処理した後に、その沈殿物をデシケータで2時間減圧乾燥した。その後、核磁気共鳴装置(NMR:JMTC-400/JNM-AL-400(400MHz),溶媒:CDCl)を用いてその沈殿物の同定を行ったところ、その沈殿物がポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:70/30)であると同定された。なお、図8にそのH-NMRスペクトルを示した。
【0061】
(2)MPC/CPBP:90/10(モル比)とするポリ(MPC-co-CPBP)の合成
MPCの添加量を1.99g(6.73mmol)に代え、CPBPの添加量を0.345g(0.747mmol)に代えた以外は、上述と同様にして沈殿物を得た。その後、核磁気共鳴装置(NMR:JMTC-400/JNM-AL-400(400MHz),溶媒:CDCl)を用いてその沈殿物の同定を行ったところ、その沈殿物がポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:90/10)であると同定された。なお、図8にそのH-NMRスペクトルを示した。
【0062】
2.ポリ(MPC-co-CPBP)の物性評価
(1)ポリ(MPC-co-CPBP)の光反応性評価
先ず、上述の通りにして得られた各ポリ(MPC-co-CPBP)が0.5重量%となるように各ポリ(MPC-co-CPBP)をエタノールに溶かした。次に、この0.5重量%ポリ(MPC-co-CPBP)エタノール溶液をポリエーテルエーテルケトン(以下「PEEK」と略する。)基板およびPET基板それぞれにスピンコートした。なお、スピンコートは、4000rpm、25秒で実施された。次いで、平衡光束光源装置(ウシオ電機株式会社製UI-502Q、紫外線透過・可視吸収フィルター(HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製U360)使用)を用いてこのコーティング基板に1時間、波長356nmの紫外線を照射した。続いて、その紫外線照射した後のコーティング基板をIPA含浸布で拭いた後に、そのコーティング基板に窒素ガスを吹き付けて同コーティング基板を乾燥させた(上述の流れは図9参照。)。そして、これらの乾燥後のコーティング基板の表面ならびにPEEK基板およびPET基板を、X線光電子分光装置(株式会社島津製作所X線光電子分光装置(株式会社島津製作所製XPS ESCA-3400)を用いて製XPS ESCA-3400)を用いてXPS解析したところ、図10図15に示される結果が得られた。なお、ここで、図10はPEEK基板のXPSスペクトル(P/C=N.D.)であり、図11はPEEK基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:90/10)のXPSスペクトル(P/C=0.047)であり、図12はPEEK基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:70/30)のXPSスペクトル(P/C=0.053)であり、図13はPET基板のXPSスペクトル(P/C=N.D.)であり、図14はPET基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:90/10)のXPSスペクトル(P/C=0.063)であり、図15はPET基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:70/30)のXPSスペクトル(P/C=0.044)である。これらの図から明らかなように、PEEK基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:90/10)、PEEK基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:70/30)、PET基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:90/10)、PET基板上に塗工したポリ(MPC-co-CPBP)(モル比:70/30)のいずれにも、PEEK基板およびPET基板に存在しないリン原子の2p軌道の結合エネルギーピークが観察された。したがって、いずれのポリ(MPC-co-CPBP)も、紫外線照射によりPEEK基板およびPET基板それぞれに共有結合していると思われる。
【0063】
(2)ポリ(MPC-co-CPBP)に対する蛍光アルブミンの付着試験
PET基板および上述の通りにして得られたコーティング基板それぞれに対して0.45g/dLのフルオレセインイソチオシアネート修飾ウシ血清由来アルブミン(FITC-BSA)(Sigma-Aldrich社製)のリン酸緩衝食塩水(PBS(-))溶液を30分間接触させた後に、それを超純水で洗浄して各基板の表面を蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社製IX71)で観察したところ、図16の上段に示される結果が得られた。図16の上段の左側の画像(PET基板)は全面に亘って明緑色を呈しており、全面に亘って蛍光アルブミンの付着が認められたが、上段の真ん中の画像(ポリ(MPC-co-CPBP) 90/10)および上段の右側の画像(ポリ(MPC-co-CPBP) 70/30)は全面に亘って暗緑色を呈しており、全面に亘って蛍光アルブミンの付着が認めらなかった。
【0064】
(3)ポリ(MPC-co-CPBP)に対する繊維芽細胞の付着試験
先ず、PET基板および上述の通りにして得られたコーティング基板それぞれを、24wellプレートに入れ、それらの基板を一晩デシケータで減圧乾燥した。次に、各基板をシリコンリングで固定して70%エタノールに3時間浸漬した。次いで、各基板をリン酸緩衝食塩水(PBS(-))で2回洗浄した後、基板が入ったwellに、1.0×10-5cells/mLのL929懸濁液500μLを加え、これをインキュベータで24時間静置した。各wellからL929懸濁液を吸い出し、各基板をリン酸緩衝食塩水(PBS(-))で2回洗浄した後、各基板が入ったwellに対して、リン酸緩衝食塩水(PBS(-))で1000倍に希釈した1μLカルセイン-AM溶液を500μL加えた。これをインキュベータで30分静置した後、各基板の表面を蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社製IX71)で観察したところ、図16の下段に示される結果が得られた。図16の下段の左側の画像(PET基板)には全面に亘って多数の繊維芽細胞が認められたが、下段の真ん中の画像(ポリ(MPC-co-CPBP) 90/10)および下段の右側の画像(ポリ(MPC-co-CPBP) 70/30)には、下段の左側の画像の繊維芽細胞の数よりも少ない数の繊維芽細胞が認められた。なお、下段の真ん中の画像(ポリ(MPC-co-CPBP) 90/10)における繊維芽細胞の数は、下段の右側の画像(ポリ(MPC-co-CPBP) 70/30)における繊維芽細胞の数よりも少なくなかった。すなわち、ポリ(MPC-co-CPBP) 90/10は、ポリ(MPC-co-CPBP) 70/30よりも繊維芽細胞の付着を抑制することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る化合物(単量体)は、従前の化合物(単量体)よりも多くの単量体と共重合させることができるため、タンパク質や細胞等の付着を防ぐことができると共に基板に共有結合することができる高分子体のさらなる開発に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16