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特許7125763微小物質封入方法及び微小物質検出方法並びに微小物質検出用デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】微小物質封入方法及び微小物質検出方法並びに微小物質検出用デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20220818BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20220818BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
G01N1/04 H
G01N35/08 B
G01N37/00 101
G01N37/00 102
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019509955
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012678
(87)【国際公開番号】W WO2018181443
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2017064789
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】野地 博行
(72)【発明者】
【氏名】田端 和仁
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006208(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/121310(WO,A1)
【文献】特表2014-503831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0220675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 35/00- 37/00
G01N 33/48- 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に微小物質を封入する方法であって、
(1)前記基板の凹部形成面の上方に挿入体を配置し、該挿入体と前記基板との相対的な位置を前記挿入体に設けられた支持部により位置決めして、前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とを対向配置し、これによって前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間を設ける、第一手順と、
(2)前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する第二手順と、
(3)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、前記溶液導入空間と前記凹部内とに導入された前記第一溶液のうち前記溶液導入空間に導入された前記第一溶液を前記溶液排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一溶液の液滴を形成する第三手順と、を含む方法。
【請求項2】
前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間に設ける、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板内に設ける、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記基板内に設ける、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記挿入体内に設ける、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記挿入体内に設ける、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記第二手順において、前記第一溶液を、前記挿入体及び/又は前記基板に形成され、前記溶液導入空間にアウトレットを有する流路を通じて、前記溶液導入空間に導入する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記挿入体は挿入方向の両端にフリンジを備えたボビン状形状を有し、
該挿入体の前記下面は、前記基板の前記凹部形成面と略同一形状を有する第一フリンジとされ、
該第一フリンジは、前記基板の前記凹部形成面の上方空間を、該第一フリンジと前記凹部形成面との間に位置する前記溶液導入空間と、該第一フリンジよりも上方に位置する前記溶液排出空間とに、両空間を区画する、
請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記第二手順と前記第三手順との間に、前記凹部が形成された基板の温度を制御する手順をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に微小物質を封入する方法であって、
(A)挿入体を、前記基板の凹部形成面の上方に、該挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とが対向するように配置し、これによって形成される前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間の溶液導入空間に、前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を導入する手順と、
(B)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、前記溶液導入空間と前記凹部内とに導入された前記第一溶液のうち前記溶液導入空間に導入された前記第一溶液を、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一溶液の液滴を形成する手順と、を含む方法。
【請求項11】
基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に封入された微小物質を検出する方法であって、
(1)前記基板の凹部形成面の上方に挿入体を配置し、該挿入体と前記基板との相対的な位置を前記挿入体に設けられた支持部により位置決めして、前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とを対向配置し、これによって前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間を設ける、第一手順と、
(2)前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する第二手順と、
(3)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間内に導入し、前記溶液導入空間と前記凹部内とに導入された前記第一溶媒のうち前記溶液導入空間に導入された前記第一溶媒を前記溶液排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一溶液の液滴を形成する第三手順と、
(4)前記液滴内に存在する前記微小物質を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する第四手順と、
を含む方法。
【請求項12】
基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に封入された微小物質を発色基質の吸光度変化及び/又は蛍光に基づいて光学的に検出する方法であって、
(1)前記基板の凹部形成面の上方に挿入体を配置し、該挿入体と前記基板との相対的な位置を前記挿入体に設けられた支持部により位置決めして、前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とを対向配置し、これによって前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間を設ける、第一手順と、
(2)前記微小物質と前記発色基質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する第二手順と、
(3)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、前記溶液導入空間と前記凹部内とに導入された前記第一溶媒のうち前記溶液導入空間に導入された前記第一溶媒を前記溶液排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一溶液の液滴を形成する第三手順と、
(4)前記液滴内に存在する前記発色基質の吸光度変化及び/又は蛍光を検出する第四手順と、
を含む方法。
【請求項13】
微小物質が封入される凹部が互いに隔てられて複数形成された表面を備える基板と、前記基板の凹部形成面の上方に配置される挿入体と、を含んでなる微小物質検出用デバイスであり、
前記挿入体は、前記基板との相対的な位置を位置決めするための支持部を備え、
前記基板の前記凹部形成面と、その上方に対向配置された前記挿入体の下面との間に溶液導入空間が設けられ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置して、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間が設けられ、かつ、
前記挿入体及び/又は前記基板に、前記溶液導入空間にアウトレットを有する流路が形成されている、デバイス。
【請求項14】
前記溶液導入空間内に保持された第一溶媒が、前記流路を通じて前記溶液導入空間内に導入される、前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒に置換されて前記溶液排出空間へ排出され得るように構成された、請求項13記載のデバイス。
【請求項15】
前記溶液導入空間内及び前記凹部内に保持された、前記微小物質と前記第一溶媒を含む第一溶液のうち前記溶液導入空間内に保持された第一溶液が、前記流路を通じて前記溶液導入空間内に導入される、前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体によって前記溶液排出空間へ排出されて、前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一溶液の液滴が形成されるように構成された、請求項14記載のデバイス。
【請求項16】
前記溶液排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間に設けられた、請求項13記載のデバイス。
【請求項17】
前記溶液排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板内に設けられた、請求項13記載のデバイス。
【請求項18】
溶液排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記基板内に設けられた、請求項13記載のデバイス。
【請求項19】
前記溶液排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記挿入体内に設けられた、請求項13記載のデバイス。
【請求項20】
前記溶液排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記挿入体に設けられた、請求項13記載のデバイス。
【請求項21】
前記挿入体は挿入方向の両端にフリンジを備えたボビン状形状を有し、
該挿入体の前記下面は、前記基板の前記凹部形成面と略同一形状を有する第一フリンジとされ、
該第一フリンジは、前記基板の前記凹部形成面の上方空間を、該第一フリンジと前記凹部形成面との間に位置する前記溶液導入空間と、該第一フリンジよりも上方に位置する前記溶液排出空間とに、両空間を区画する、請求項13記載のデバイス。
【請求項22】
前記支持部は、前記挿入体の上端側に周設された第二フリンジであり、
該第二フリンジは、前記基板の凹部形成面の上方への配置時において前記基板に係止し、前記挿入体の前記第一フリンジから該第二フリンジまでの高さが、前記溶液排出空間の高さである、請求項21記載のデバイス。
【請求項23】
前記支持部は、前記挿入体の前記下面に配設された突起であり、
前記突起の高さが、前記溶液導入空間の高さである、請求項21記載のデバイス。
【請求項24】
前記凹部形成面の上方への配置時において、該第一フリンジと前記基板との間に形成される間隙が、前記溶液導入空間と前記溶液排出空間とを液体流通可能に連通する、請求項21~23のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項25】
前記挿入体の前記第一フリンジは、切欠を有し、
前記凹部形成面の上方への配置時において、該切欠が、前記溶液導入空間と前記溶液排出空間とを液体流通可能に連通する、請求項2123のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項26】
前記挿入体が、少なくともその下面において光不透過性である、請求項13~25のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項27】
前記挿入体の前記基板の凹部形成面の上方への配置時において、前記支持部が前記基板に嵌合する、請求項13~26のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項28】
前記基板の温度を制御する温度調節器をさらに備える、請求項13~27のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項29】
前記凹部内に存在する前記微小物質を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する検出器をさらに備える、請求項13~28のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物質封入方法及び微小物質検出方法並びに微小物質検出用デバイスに関する。より詳しくは、基板上に互いに隔てられて形成された複数の凹部内に、微小物質が封入された液滴を形成する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患や感染症等の診断のため、核酸、タンパク質、ウイルス及び細胞等のマーカーを迅速、簡便、かつ高感度に検出するための技術が求められている。例えば、体積1mm3の腫瘍に含まれる100万個の癌細胞からマーカータンパク質(各細胞から100分子ずつ)が5Lの血中に分泌された場合、マーカータンパク質の血中濃度は30aM程度である。このような非常に低濃度の物質をも検出しうる技術が求められている。
【0003】
このような技術として、核酸、タンパク質、ウイルス及び細胞等の検出対象物質を極小容積の液滴中に封入し、標識抗体を用いた免疫学的手法によって検出する「一分子酵素アッセイ」がある。一分子酵素アッセイによれば、検出対象物質を一分子単位の感度で検出することができる。
【0004】
特許文献1には、一分子酵素アッセイに応用可能な技術として、「ビーズを1個のみ収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、当該ビーズを含む親水性溶媒を導入するビーズ導入工程と、上記ビーズ導入工程の後に上記空間に疎水性溶媒を導入する疎水性溶媒導入工程とを含むことを特徴とするビーズ封入方法」が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示される技術は、「複数の収容部が疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、上記下層部における上記収容部が形成されている面に対して空間を隔てて対向している上層部とを備えていることを特徴とするアレイ」を用いるものであり、下層部と上層部が空間を隔てて対向するフローセル構造を有するアレイを用いるものである。この技術によれば、「多数のビーズをアレイに効率よく封入させることができるので、低濃度のターゲット分子を高感度に検出可能」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2012/121310号
【文献】特開2004-309405号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡易な操作で、核酸、タンパク質、ウイルス及び細胞等の検出対象物質を極小容積の液滴中に封入し、高感度な検出を可能とするための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[32]を提供する。
[1] 基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に微小物質を封入する方法であって、
(1)前記基板の凹部形成面の上方に挿入体を配置し、該挿入体と前記基板との相対的な位置を前記挿入体に設けられた支持部により位置決めして、前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とを対向配置し、これによって前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間を設ける、第一手順と、
(2)前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する第二手順と、
(3)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、該溶液導入空間内の前記第一液体を前記溶液排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一液体の液滴を形成する第三手順と、を含む方法。
[2] 前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間に設ける、[1]の方法。
[3] 前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板内に設ける、[1]の方法。
[4] 前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記基板内に設ける、[1]の方法。
[5] 前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記挿入体内に設ける、[1]の方法。
[6] 前記第一手順において、前記溶液排出空間を、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記挿入体内に設ける、[1]の方法。
[7] 前記第二手順において、前記第一溶液を、前記挿入体及び/又は前記基板に形成され、前記溶液導入空間にアウトレットを有する流路を通じて、前記溶液導入空間に導入する、[1]~[6]のいずれかの方法。
[8] 前記挿入体は挿入方向の両端にフリンジを備えたボビン状形状を有し、
該挿入体の前記下面は、前記基板の前記凹部形成面と略同一形状を有する第一フリンジとされ、
該第一フリンジは、前記基板の前記凹部形成面の上方空間を、該下面と前記凹部形成面との間に位置する前記溶液導入空間と、該第一フリンジよりも上方に位置する前記溶液排出空間とに、両空間を区画する、[2]の方法。
[9] 前記第二手順と前記第三手順との間に、前記ウェルが形成された基板の温度を制御する手順をさらに含む、[1]~[8]のいずれかの方法。
[10] 基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に微小物質を封入する方法であって、
(A)挿入体を、前記基板の凹部形成面の上方に、該挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とが対向するように配置し、これによって形成される前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間の溶液導入空間に、前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を導入する手順と、
(B)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、前記溶液導入空間と前記凹部内とに導入された前記第一溶媒のうち前記溶液導入空間に導入された前記第一溶媒を、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一液体の液滴を形成する手順と、を含む方法。
【0009】
[11] 基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に封入された微小物質を検出する方法であって、
(1)前記基板の凹部形成面の上方に挿入体を配置し、該挿入体と前記基板との相対的な位置を前記挿入体に設けられた支持部により位置決めして、前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とを対向配置し、これによって前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶媒排出空間を設ける、第一手順と、
(2)前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する第二手順と、
(3)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、該溶液導入空間内の前記第一液体を前記溶媒排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一液体の液滴を形成する第三手順と、
(4)前記液滴内に存在する前記微小物質を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する第四手順と、
を含む方法。
[12] 基板の表面に互いに隔てられて形成された複数の凹部の少なくとも一部に封入された微小物質を発色基質の吸光度変化及び/又は蛍光に基づいて光学的に検出する方法であって、
(1)前記基板の凹部形成面の上方に挿入体を配置し、該挿入体と前記基板との相対的な位置を前記挿入体に設けられた支持部により位置決めして、前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面とを対向配置し、これによって前記挿入体の下面と前記基板の前記凹部形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶媒排出空間を設ける、第一手順と、
(2)前記微小物質と前記発色基質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する第二手順と、
(3)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、該溶液導入空間内の前記第一液体を前記溶媒排出空間へ排出して、これによって前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一液体の液滴を形成する第三手順と、
(4)前記液滴内に存在する前記発色基質の吸光度変化及び/又は蛍光を検出する第四手順と、
を含む方法。
【0010】
[13] 微小物質が封入される凹部が互いに隔てられて複数形成された表面を備える基板と、前記基板の凹部形成面の上方に配置される挿入体と、を含んでなる微小物質検出用デバイスであり、
前記挿入体は、前記基板との相対的な位置を位置決めするための支持部を備え、
前記基板の前記凹部形成面と、その上方に対向配置された前記挿入体の下面との間に溶液導入空間が設けられ、
前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間、前記基板内及び/又は前記挿入体内に位置して、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間が設けられ、かつ、
前記挿入体及び/又は前記基板に、前記溶液導入空間にアウトレットを有する流路が形成されている、デバイス。
[14] 前記溶液導入空間内に保持された第一溶媒が、前記流路を通じて前記溶液導入空間内に導入される、前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒に置換されて前記溶液排出空間へ排出され得るように構成された、[13]のデバイス。
[15] 前記溶液導入空間内及び前記凹部内に保持された、前記微小物質と前記第一溶媒を含む第一液体のうち前記溶液導入空間内に保持された第一液体が、前記流路を通じて前記溶液導入空間内に導入される、前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体によって前記溶液排出空間へ排出されて、前記凹部内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物質を包含する、前記第一液体の液滴が形成されるように構成された、[14]のデバイス。
[16] 前記溶媒排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間に設けられた、[13]のデバイス。
[17] 前記溶媒排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板内に設けられた、[13]のデバイス。
[18] 記溶媒排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記基板内に設けられた、[13]のデバイス。
[19] 前記溶媒排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記挿入体内に設けられた、[13]のデバイス。
[20] 前記溶媒排出空間が、前記挿入体の前記下面よりも上方であって、かつ前記基板と前記挿入体との間及び前記挿入体に設けられた、[13]のデバイス。
[21] 前記挿入体は挿入方向の両端にフリンジを備えたボビン状形状を有し、
該挿入体の前記下面は、前記基板の前記凹部形成面と略同一形状を有する第一フリンジとされ、
該第一フリンジは、前記基板の前記凹部形成面の上方空間を、該第一フリンジと前記凹部形成面との間に位置する前記溶液導入空間と、該第一フリンジよりも上方に位置する前記溶液排出空間とに、両空間を区画する、[13]のデバイス。
[22] 前記支持部は、前記挿入体の上端側に周設された第二フリンジであり、
該第二フリンジは、前記基板の凹部形成面の上方への配置時において前記基板に係止し、前記挿入体の前記第一フリンジから該第二フリンジまでの高さが、前記溶液排出空間の高さである、[21]のデバイス。
[23] 前記挿入体の前記第一フリンジ及び前記第二フリンジとの間が円筒形状であり、前記第一フリンジ及び前記第二フリンジが円板形状である、[22]のデバイス。
[24] 前記第一フリンジが光不透過性である、[21]~[23]のいずれかのデバイス。
[25] 前記支持部は、前記挿入体の前記下面に配設された突起であり、
前記突起の高さが、前記溶液導入空間の高さである、[21]のデバイス。
[26] 前記凹部形成面の上方への配置時において、該第一フリンジと前記基板との間に形成される間隙が、前記溶液導入空間と前記溶液排出空間とを液体流通可能に連通する、[21]~[25]のいずれかのデバイス。
[27] 前記挿入体の前記第一フリンジは、切欠を有し、
前記凹部形成面の上方への配置時において、該切欠が、前記溶液導入空間と前記溶液排出空間とを液体流通可能に連通する、[21]~[25]のいずれかのデバイス。
[28] 前記挿入体が、少なくともその下面において光不透過性である、[13]~[27]のいずれかのデバイス。
[29] 前記挿入体の前記基板の凹部形成面の上方への配置時において、前記支持部が前記基板に嵌合する、[13]~[26]のいずれかのデバイス。
[30] 前記基板の温度を制御する温度調節器をさらに備える、[13]~[29]のいずれかのデバイス。
[31] 前記凹部内に存在する前記微小物質を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する検出器をさらに備える、[13]~[30]のいずれかのデバイス。
【0011】
[32] 以下の手順を含む、微小物質(microscopic body)を凹部(cavity)に封入する方法。
(1)挿入体を基板に脱着可能に接触させる手順ここで、
挿入体は表面を有し、
基板は、複数の凹部が形成された表面を有し、
挿入体が基板に脱着可能に接触する際、
挿入体の表面は、基板の表面上に、毛細現象を誘導するために十分に小さな距離をおいて位置し、これによって両表面間に液体導入空間を形成し、
挿入体の表面を含む平面が閾値レベル(threshold level)を定義し、
液体導入空間は、少なくとも第一流路と第二流路を通じて、閾値レベル上の空間と連通する、
(2)第一流路を通じて液体導入空間に第一液体を導入する手順、
ここで、第一液体は、第一溶媒と目的微小物質(target microscopic body)を含む、
(3)第一流路又は第二流路を通じて液体導入空間に第二溶媒を導入して液体導入空間内の第一液体を置換する手順、ここで、第二溶媒は第一溶媒と非混和性である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡易な操作で、核酸、タンパク質、ウイルス及び細胞等の検出対象物質を極小容積の液滴中に封入し、高感度な検出を可能とするための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第一実施形態に係る微小物質検出用デバイスのウェルとプラグを示す図である。
図2-1】第一実施形態に係る微小物質検出用デバイスを用いた微小物質検出方法及び微小物質封入方法の手順を説明する図である。
図2-2】第一実施形態に係る微小物質検出用デバイスを用いた微小物質検出方法及び微小物質封入方法の手順を説明する図である。
図2-3】第一実施形態に係る微小物質検出用デバイスを用いた微小物質検出方法及び微小物質封入方法の手順を説明する図である。
図2-4】第一実施形態に係る微小物質検出用デバイスを用いた微小物質検出方法及び微小物質封入方法の手順を説明する図である。
図3】ウイルスの粒子表面に存在する酵素と発色基質との反応による反応生成物を説明するための図である。
図4】第一実施形態に係るプラグの変形例を示す図である。
図5】(A)図4に示すプラグの変形例、(B)第一実施形態に係るプラグの他の変形例を示す図である。
図6】第一実施形態に係るプラグの他の変形例を示す図である。
図7図6に示すプラグの変形例の構成を示す図である。
図8】本発明の第一実施形態に係るアレイ及びプラグの他の変形例を示す図である。
図9】本発明の第一実施形態に係るアレイ及びプラグの他の変形例を示す図である。
図10】本発明の第二実施形態に係るアレイ及びプラグの他の変形例を示す図である。
図11】第二実施形態に係るアレイ及びプラグの変形例を示す図である。
図12】本発明の第三実施形態に係るアレイ及びプラグの他の変形例を示す図である。
図13】第三実施形態に係るアレイ及びプラグの変形例を示す図である。
図14-1】本発明に用いるプラグの参考例の上面図(A)、正面図(B)である。
図14-2】図14-1に示すプラグの断面図である。
図15】本発明に用いるプラグが備える吸着性物質を示す図である。
図16】本発明に用いる96穴アレイの参考例の全体、開口の部分拡大、及び開口の底部に設けられたレセプタクルの部分拡大を示す図面代用写真である。
図17】プラグを1個、又は2列であらかじめ連結された16個で、アレイに挿入した様子を示す図面代用写真である。
図18】プラグを1個、アレイに挿入した様子を示す図面代用写真である。
図19】アレイに挿入された2列の連結プラグの一個の端部からピペットで溶媒を注入する様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
本発明に係る物質封入方法は、基板(以下「アレイ」とも称する)の表面に側壁によって互いに隔てられて形成された複数の凹部(以下「レセプタクル」とも称する)の少なくとも一部に微小物質を封入するための方法である。本発明に係る微小物質封入方法は、以下の手順(A)(B)(C)を含む。
(A)アレイのレセプタクル形成面の上方に挿入体(以下「プラグ」とも称する)を配置し、該プラグと前記アレイとの相対的な位置を前記プラグに設けられた支持部により位置決めして、前記プラグの下面と前記アレイの前記レセプタクル形成面とを対向配置し、これによって前記プラグの下面と前記アレイの前記レセプタクル形成面との間に溶液導入空間を設け、かつ、
前記プラグの前記下面よりも上方であって、かつ前記アレイと前記プラグとの間、前記アレイ内及び/又は前記プラグ内に位置させて、前記溶液導入空間と連通する溶液排出空間を設ける手順(プラグ挿入手順)。
(B)前記微小物質と第一溶媒とを含む第一溶液を前記溶液導入空間内に導入する手順(物質導入手順)。
(C)前記第一溶媒と非混和性の第二溶媒を含む第二液体を前記溶液導入空間に導入し、該溶液導入空間内の前記第一液体を前記溶液排出空間へ排出して、これによって前記レセプタクル内に、前記第二液体で被覆されかつ前記微小物体を包含する、前記第一液体の液滴を形成する手順(物質封入手順)。
【0016】
また、本発明に係る微小物質検出方法は、上記のレセプタクル内に封入された微小物質を検出する方法であって、上記の微小物質封入方法の手順(A)~(C)に加えて、以下の手順(D)を含む。
(D)前記液滴内に存在する前記微小物質を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する手順(検出手順)。
【0017】
以下、本発明に係る微小物質検出方法について説明する。本発明に係る微小物質封入方法及び微小物質検出用デバイスについては、微小物質検出方法に関する説明のなかで併せて説明する。
【0018】
[検出対象物質]
本発明に係る微小物質検出方法等において、検出対象となる微小物質(以下「ターゲット物質」とも称する)は、レセプタクルに収容可能な大きさの物質であれば特に限定されない。ターゲット物質は、核酸、タンパク質、糖、脂質及びこれらの複合体、並びにウイルス、細胞及び細胞内小器官等であってよい。また、ターゲット物質は、上記の物質に対する結合能を有する樹脂製又は金属製の粒子(ビーズ)であってよい。ターゲット物質は、各種の疾患又は感染症のマーカーとなり得る、核酸、タンパク質、糖、脂質及びこれらの複合体、並びに細胞及び細胞内小器官、あるいはこれらに対する結合能を有する担体であることが好ましい。
【0019】
核酸には、DNA及びRNA等の天然核酸及びLNA及びPNA等の人工核酸が含まれ、これらの重合体も含まれる。また、細胞には、動物細胞、植物細胞及びバクテリア細胞などが含まれる。細胞内小器官には、リポソーム、エキソソーム及びミトコンドリアなどが含まれるものとする。
【0020】
ここで、「ビーズ」は、「粒子」と同義に用いられ、当技術分野において慣用の技術用語である。ビーズの形状は、特に限定されないが、通常球形とされる。ビーズの材料も、特に限定されず、ガラス、ケイ素、ゴム、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリスチレンデキストラン、架橋デキストラン(Sephadex(商標))、アガロースゲル(セファロース(商標))、シリカゲル、ラテックスゲル、アクリル樹脂、ビニルとアクリルアミドとのコポリマー、セルロース、ニトロセルロース、セルロース誘導体、ゼラチン及び磁性体などであってよい。ビーズは、多孔性であってもよい。ビーズは、平均粒子径5μm以下であることが好ましく、例えば1μm~4μm程度とされる。なお、「平均粒子径」とは、ここでは電子顕微鏡観察又は動的光散乱法を用いて測定した数値をいう。
【0021】
核酸、タンパク質、糖、脂質及びこれらの複合体、並びウイルス、細胞及び細胞内小器官等に対する結合能をビーズに付与するためには、例えばビーズに核酸に対する相補鎖を固定化したり、タンパク質等に対する抗体を固定化したりすればよい。これら核酸ハイブリダイゼーション反応や抗原抗体反応などの公知の分子間結合反応を利用して、ビーズにターゲット物質に対する結合能を付与できる。
【0022】
核酸鎖や抗体のビーズへの固定化は、従来公知の手法により行えばよい。例えば、ビーズの表面にある修飾基にリンカーを介して相補鎖や抗体を結合させればよい。アミノ基修飾ビーズであれば、その表面にあるアミノ基に、N-ヒドロキシスクシニミド(N―hydroxysuccinimide)等を持つ架橋剤を介して、核酸鎖や抗体を共有結合させることができる。
【0023】
<第一実施形態>
[アレイ]
本発明に係る微小物質検出方法に用いられるデバイスは、アレイとプラグとを含んでなる。図1及び図2(A)に、アレイとプラグの構成を示す。アレイ1(図2(A)参照)には、ウェル11が形成されている。ウェル11は、アレイ1に複数形成されていてもよい。ウェル11の底面111には、ターゲット物質を収容する、複数のレセプタクル112が形成されている(以下、底面111を「レセプタクル形成面111」という)。各レセプタクル112は、側壁113によって互いに隔てられている。
【0024】
アレイ1は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチング、またはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工などの公知の技術を用いて成形できる。アレイ1の材質は、ターゲット物質を光学的に検出する場合には、光透過性を有する材質とされ、例えばガラスや各種プラスチック(PP、PC、PS、COC、COP、PDMS等)とされる。アレイ1には、自家蛍光が少なく、波長分散が小さく、光学誤差の少ない材質を選択するのが好ましい。
アレイ1には、ウェル11が96個設けられた市販の96穴ウェルプレートを用いることができる。
【0025】
ウェル11の大きさ(容積)及び形状は、プラグ2が嵌合可能であれば特に限定されない。ウェル11の大きさは、例えば、レセプタクル形成面111の径で5~10mm程度、典型的には7mm程度であり、深さ(図2(B)符号H参照)が10~12cm程度である。ウェル11の形状は、ウェル11及びプラグ2の成形のしやすさの観点から、円柱形あるいは角柱形であることが好ましい。
【0026】
各ウェル11におけるレセプタクル112の配設数は、特に限定されないが、10万~100万個程度、好ましくは20万~50万個程度である。
レセプタクル112の大きさ(容積)及び形状は、ターゲット物質を収容可能であればよい。レセプタクル12の大きさは、例えば、底面の径が4~8μm程度、典型的には5μm程度であり、深さが6~12μm程度であり、容積ではフェムトリットルオーダーである。
ウェル11の形状も、成形のしやすさの観点から、円柱形あるいは角柱形であることが好ましい。
【0027】
[プラグ挿入手順]
本手順では、アレイ1のレセプタクル形成面111の上方にプラグ2を配置し、プラグ2とアレイ1との相対的な位置をプラグ2に設けられた支持部により位置決めして、プラグ2の下面とアレイ1のレセプタクル形成面111とを対向配置し、これによってプラグ2の下面とアレイ1のレセプタクル形成面111との間に溶液導入空間を設ける。同時に、プラグ2の下面よりも上方であって、かつアレイ1とプラグ2との間に位置させて、溶液導入空間と液体が流通可能に連通する溶液排出空間を設ける。
【0028】
はじめに、ウェル11の開口114からウェル11空間内にプラグ2を挿入する(図1及び図2(B)参照)。ここでは、一対のウェル11とプラグ2を示しているが、アレイ1は複数のウェル11を有していてよく、この場合にはウェル11の数に相応する数のプラグ2が用いられる。プラグ2は、脱着可能にウェル11に挿入されてよい。
【0029】
プラグ2は、挿入方向の両端にフリンジを備えたボビン状形状を有し、ウェル11空間内への挿入方向下端側に周設された第一フリンジ23と、ウェル空間11内への挿入時においてレセプタクル形成面111に対向し、かつレセプタクル形成面111と略同一形状を有する下面22と、を備える。ここでは、第一フリンジ23の下面と、下面22とは、同一平面を構成する。
【0030】
また、プラグ2は、ウェル空間11内への挿入時において下面22を、ウェル底面111と接触しない位置に保持する支持部として、ウェル11空間内への挿入方向上端側に周設された第二フリンジ24を備える。
上記ボビン状形状とは、プラグ2の第一フリンジ23及び第二フリンジ24との間(以下「プラグ2本体部」とも称する)が円柱形状であり、第一フリンジ23及び第二フリンジ24が円柱の両端のそれぞれから突出する円板形状に成形されていることを意味する。プラグ2本体部はテーパを有していてもよく、挿入方向下方に向かって小径となるテーパを有することが好ましい。
プラグ2のウェル空間11内への挿入時において、第二フリンジ24は基板1に嵌合することが好ましい。これにより、一旦挿入したプラグ2が再び外れないようにすることで、誤操作をなくすとともに、プラグ2が不慮に外れてウェル空間11内の溶液がこぼれ出すことによる汚染を防止できる。
【0031】
プラグ2は、上面21にインレット251、下面22にアウトレット252を有する溶媒導入路25を備える。
【0032】
プラグ2の材質は、特に限定されないが、アレイ1と同様の材質であってよい。プラグ2は、プラスチックのナノインプリントや射出成型、切削加工などの公知の技術を用いて成形でき、3Dプリンターを用いて成形することもできる。
【0033】
プラグ2の第一フリンジ23は、レセプタクル形成面111よりも小さい面積を有する。すなわち、プラグ2のウェル11空間内への挿入方向からの第一フリンジ23の投影面積は、レセプタクル形成面111の面積よりも小さい。このため、プラグ21のウェル11空間内への挿入時において、第一フリンジ23とウェル11の内壁との間には、間隙231が形成される。
ウェル11の直径は5~10mm程度、典型的には7mm程度であり、プラグ2の第一フリンジ23の直径(下面22の直径)は、間隙231を形成するために、ウェル11の直径より小さくされ、例えば5~30%程度小さくされる。
【0034】
第一フリンジ23は、プラグ2のウェル11空間内への挿入時において、ウェル空間11内を、レセプタクル形成面111と第一フリンジ23との間に位置する溶液導入空間11aと、第一フリンジ23と第二フリンジ24との間に位置する溶液排出空間11bとに区画する。溶液導入空間11aと溶液排出空間11bは、第一フリンジ23とウェル11の内壁との間に形成された間隙231によって、液体流通可能に連絡する。
ここで、プラグ2の下面22は、その下方に位置する溶液導入空間11aと、上方に位置する溶液排出空間11bとを区画するものであるという意味で「閾値レベル(threshold level)」を定義するものである。
【0035】
第二フリンジ24は、プラグ2のウェル空間11内への挿入時においてウェル11の開口縁に係止し、下面22を、レセプタクル形成面111と接触しない位置に保持する。このために、プラグ2の下面22から第二フリンジ24までの高さh(すなわち、溶液排出空間11bの高さ)は、ウェル11の深さHよりも低くされている。
【0036】
[物質導入手順]
次に、溶液導入空間11aに、ターゲット物質3と第一溶媒とを含む第一溶液S1を導入する(図2(C)参照)。
【0037】
ここでは、ターゲット物質3ととともに、ターゲット物質3を吸光度変化及び/又は蛍光に基づいて光学的に検出するための発色基質4を導入する例を説明する。
【0038】
第一溶媒は、ターゲット物質3及び発色基質4を溶解又は懸濁するために適当な溶媒であればよく、核酸、タンパク質、糖、脂質及びこれらの複合体、並びウイルス、細胞及び細胞内小器官等を検出する際に通常用いられる溶媒が用いられる。第一溶液S1は、例えば、水、アルコール、エーテル、ケトン、ニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群より選択される少なくとも1つ又はこれを含む混合物などであってよく、好ましくは水である。アルコールとしては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、グリセリン等が挙げられる。エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、ポリエチレンオキサイド、1,4-ジオキサン等が挙げられる。ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えばアセトニトリル等が挙げられる。
【0039】
第一溶媒は、緩衝物質を含んでいてもよい。緩衝物質としては、特に限定されないが、蛍光色素のpKaにあわせてMES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)、PIPES(Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)等のいわゆるグッドバッファー(Good's Buffer)や、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)、DEA(Diethanolamine)等が用いられ得る。
【0040】
また、第一溶媒は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含むことで、第一溶液S1は、溶液導入空間11a及びレセプタクル112内へ導入され易くなる。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばTWEEN20(CAS番号:9005-64-5、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)及びTriton X-100(CAS番号:9002-93-1、一般名ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(n≒10))などが挙げられる。第一の溶媒20への界面活性剤の添加濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~1%である。
【0041】
さらに、界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、天然由来の界面活性剤などを広く用いることができる。
【0042】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型に分類される。このうち、具体的には、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、α-スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルエトキシレート硫酸ナトリウムなどが挙げられ、中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0043】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩型、アルキルアミン型、複素環アミン型に分類される。具体的には、例えば、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリピリジニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0044】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-メチルアルキルグルカミドなどが挙げられる。中でも、ドデシルアルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、ラウロイルジエタノールアマイドの他、Triton X(Triton X-100など)、Pluronic(登録商標)(Pluronic F-123、F-68など)、Tween (Tween 20、40、60、65、80、85など)、Brij(登録商標)(Brij 35、58、98など)、Span (Span 20、40、60、80、83、85)の名前で市販されているものが好ましい。
【0045】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、3-(テトラデシルジメチルアミニオ)プロパン-1-スルホナートなどがあるが、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナート(CHAPSO)などを用いることが好ましい。
【0046】
天然由来の界面活性剤としては、例えば、レシチン、サポニンが好ましく、レシチンとして称される化合物のうち、具体的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロールなどが好ましい。また、サポニンとしてはキラヤサポニンが好ましい。
【0047】
ターゲット物質3と発色基質4を含む第一溶液S1は、プラグ2の溶媒導入路25のインレット251から注入され、アウトレット252から溶液導入空間11aに導入される。
第一溶液S1の導入量は、溶液導入空間11aの容積に応じて適宜設定され得るが、例えば1~50μl程度、好ましくは5~20μl程度である。
溶媒導入路25の径や形状は特に限定されない。例えば形状は円筒であってよく、その内径は1~5mm程度、典型的には2.5mm程度である。
【0048】
溶液導入空間11aに導入された第一溶液S1は、レセプタクル底面111とプラグ2の下面22との間を毛管現象により進み、溶液導入空間11aに充填される(図2(D)参照)。これよって、ターゲット物質3と発色基質4がレセプタクル112内にも導入される。
【0049】
第一溶液S1中のターゲット物質3の濃度が低い場合、各レセプタクル112には、ターゲット物質3が1分子導入されるか全く導入されないかのどちらかとなる。発色基質4は、ターゲット物質3の濃度に比して十分に高い濃度で第一溶液S1中に含まれることが好ましい。したがって、発色基質4は、ほとんど全てのレセプタクル112に1分子あるいは2分子以上導入される。
【0050】
[物質封入手順]
本手順では、溶液導入空間11aに、第一溶液S1と非混和性の第二溶媒を含む第二溶液S2を導入する(図2(E)参照)。これによって、溶液導入空間11a内の第一液体S1を溶液排出空間11bへ押し出して排出させ、レセプタクル112内に第一液体S1の液滴を形成する。この第一液体S1の液滴は、第二溶液S2で被覆されかつターゲット物質3と発色基質4を包含する。
【0051】
第二溶媒は、第一溶液S1と非混和性であればよく、例えば飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、シリコーンオイル、ヘキサフルオロプロピレンエポキシド系ポリマー、ハイドロフルオロエーテル構造を持つポリマー、パーフルオロポリエーテル、三フッ化塩化エチレンポリマー及びパーフルオロカーボン構造を持つポリマーからなる群より選択される少なくとも1つ又はこれを含む混合物等を好適に用いることができる。飽和炭化水素としては、例えばアルカン、シクロアルカンなどが挙げられる。アルカンとしては、例えばデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。不飽和炭化水素としては、例えばスクアレン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン等が挙げられる。ヘキサフルオロプロピレンエポキシド系ポリマーとしては、例えば、Krytox143(デュポン社製)、Krytox GPL(デュポン社製)等が挙げられる。ハイドロフルオロエーテル構造を持つポリマーとしては、例えば、アサヒクリンAE3000(旭硝子社製)、Novec 7000(住友3M社製)等が挙げられる。パーフルオロカーボン構造を持つポリマーとしては、例えば、フロリナートFC-40、フロリナートFC-43(住友3M社製)等が挙げられる。
【0052】
好ましくは、第二溶媒は、第一溶媒あるいはこれを含む第一溶液S1よりも比重の高いものが用いられる。
【0053】
第二溶液S2は、プラグ2の溶媒導入路25のインレット251から注入され、アウトレット252から溶液導入空間11aに導入される。
第二溶液S2の導入量は、溶液導入空間11aの容積に応じて適宜設定され得るが、第一溶液S1の導入量の1.1~5倍程度、好ましくは1.5~2倍程度とされる。
【0054】
溶液導入空間11aに導入された第二溶液S2は、レセプタクル形成面111とプラグ2の下面22との間を毛管現象により進む。このとき、溶液導入空間11a内に充填されていた第一溶液S1は、間隙231を通って溶液排出空間11bへ押し出され、第二溶液S2に置換される。これよって、レセプタクル112内に、第二溶液S2で被覆された、発色基質4を含む第一溶液S1の液滴Dが形成される(図2(F)参照)。レセプタクル112に形成された液滴Dのうち一定の割合には、発色基質4とともにターゲット物質3が封入される。
【0055】
溶液排出空間11bの容積は、溶液導入空間11a内及びレセプタクル112内に保持された第一液体S1のうち、溶液導入空間11a内に保持された第一液体S1を受容し得るのに十分な容積とされる。溶液排出空間11bの容積は、溶液導入空間11aの容積及びレセプタクル112の数・容積並びに第一液体S1の導入量に応じて適宜設定され得る。
【0056】
次の検出手順では、液滴D内に存在するターゲット物質3を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する。ここで説明する例は、発色基質4の吸光度変化及び/又は蛍光を検出することによってターゲット物質3を光学的に検出するものであるが、より具体的に、ターゲット物質3が、発色基質4に対する基質切断活性を有する酵素を表面又は内部に有するウイルスであって、発色基質4が、該酵素により切断されて発色団としての反応生成物を遊離させる物質である場合を例として説明する。ただし、発色基質4は、酵素との反応後に反応前とは異なる光学特性を有する反応生成物を生成するものであればよく、反応前後で吸光度や旋光度が変化する物質や、反応後に蛍光を呈するようになる物質であってもよい。
【0057】
このようなウイルスと酵素の組み合わせとしては以下が例示される。
【表1】
【0058】
レセプタクル112に形成された液滴D中では、極小容積中で共存する、ターゲット物質3(ウイルス)の粒子表面又は内部に存在する酵素と発色基質4との反応が進行し、反応生成物が生成する。図3を参照して詳しく説明する。ウイルスの粒子表面又は内部には酵素31が存在している(図には酵素31がウイルス表面に存在する場合を示した)。発色基質4が、酵素31と接触し反応すると、反応生成物6が生成する。発色生成物6は、発色基質4と異なる光学特性を示し、吸光度や旋光度のシフトや、蛍光(又は発光)を示す。
【0059】
酵素31と発色基質4との反応によって液滴Dの極小容積中に反応生成物6が生成、蓄積される。これによって、次の検出手順において検出可能な濃度にまで反応生成物6の生成が迅速に進むため、反応生成物6の高感度検出が可能とされる。
【0060】
ウイルスがインフルエンザウイルスであり(表1参照)、発色基質4に4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid:4MU-NANA)を用いる場合を例にさらに具体的に説明する。
【0061】
インフルエンザウイルスの粒子表面にはノイラミニダーゼ(酵素31)が存在している。4MU-NANA(発色基質4)がノイラミニダーゼと接触し反応すると、4MU-NANAのノイラミニダーゼによる加水分解に由来して蛍光を呈する発色団として4-メチルウンベリフェロン(反応生成物6)が生成する。4-メチルウンベリフェロンは液滴Dの極小容積中に蓄積され、蓄積された4-メチルウンベリフェロンが増強された蛍光を発する。
【0062】
なお、反応生成物6は、本手順前にも、第一溶液S1中において発色基質4と酵素31が接触すれば生成し得るものであるが、本手順においてターゲット物質3と発色基質4を包含する第一溶液S1の液滴Dが形成される前には、生成した反応生成物6が極小容積中に蓄積されることがない。このため、反応生成物6の検出において、本手順前に生成した反応生成物6の影響は無視できる程度に小さい。
【0063】
[検出手順]
本手順では、液滴D内に存在するターゲット物質3を光学的、電気的及び/又は磁気的に検出する(図2(G)参照)。ここで説明する具体例では、液滴D内に生成した反応生成物6(4-メチルウンベリフェロン)が発する蛍光を検出することにより、ターゲット物質3としてのインフルエンザウイルスを検出する。
【0064】
光学検出は、光源と、光源からの光をレセプタクル112内に集光しかつレセプタクル112内からの発生する光をセンサに集光する光学経路と、センサとを備える検出器7によって行うことができる。本発明に係る微小物質検出用デバイスは、アレイ1とプラグ2に加えて、検出器7を含んでいてもよい。光源からの光は、アレイ1の下方側(ウェル11の開口面と逆面側)からレセプタクル112内に照射され、レセプタクル112内からの発生する光も同側から集光される。光源とアレイ1の間、及びアレイ1とCMOSイメージセンサ等のセンサとの間には、通常使用されるレンズやフィルタなどが配設される。
【0065】
また、本発明に係る微小物質検出用デバイスは、アレイ1の温度を制御する温度調節器を含んでいてもよい。温度調節器には、特許文献2に開示される加熱機構又は温度調節機構を採用できる。温度調節器は、例えばペルチェ素子やジュール・トムソン素子等により温度制御可能なヒートブロックであってよい。
【0066】
上述のとおり、反応生成物6は、物質封入手順前にも、第一溶液S1中に生成し得るものであるが、物質封入手順前に生成した反応生成物6の多くは、物質封入手順において、第二溶液S2によって溶液導入空間11aから溶液排出空間11bに排出される。このため、本手順におけるアレイ1の下方側からの反応生成物6の検出において、物質封入手順前に生成した反応生成物6がノイズとなることがなく、液滴Dの極小容積中で生成、蓄積した反応生成物6からのシグナルを選択的に検出できる。溶液排出空間11bに排出された反応生成物6からのノイズの検出を回避するため、プラグ2の第一フリンジ23は光不透過性であることが好ましい。光透過性は、第一フリンジ23あるいはこれを含むプラグ2全体を、不透明な材料により形成することにより付与できる。
【0067】
液滴D中の4-メチルウンベリフェロン(反応生成物6)の蛍光検出を行い、取得された蛍光強度と、予め作成した蛍光強度とノイラミニダーゼ活性との関係を規定した標準曲線とを用いてノイラミニダーゼの酵素活性を算出する。さらに、算出された酵素活性と、予め作成した酵素活性とウイルス粒子数との関係を規定した標準曲線を用いてインフルエンザウイルスの存在の有無の判定あるいは粒子数の定量を行う。これにより、ターゲット物質3としてのインフルエンザウイルスを検出することができ、ウイルス量を定量的に決定することもできる。
【0068】
上述の通り、第一溶液S1中において、ターゲット物質3が十分に低い濃度に希釈されている場合、1つのレセプタクル112に入るターゲット物質3の数は0又は最大で1となり得る。物質封入手順においては、第一溶液S1の液滴D中に反応生成物6を高濃度に蓄積させることができるため、ターゲット物質3としてのウイルスが1粒子のみレセプタクル112に入っている場合であっても、反応生成物6の検出を高感度に行うことができる。従って、本発明に係る物質検出方法によれば、ウイルス等のごく微量のターゲット物質3であっても高感度に検出でき、その存在量を高精度に決定することが可能となる。
【0069】
また、本工程では、ターゲット物質3が検出されたレセプタクル112の数と、ターゲット物質3が検出されないレセプタクル112の数との比率を用いて、予め作成した第一溶液S1中のターゲット物質3の濃度と当該比率との関係を規定した標準曲線に基づいて、ターゲット物質3の濃度を決定することもできる。
【0070】
本実施形態によれば、多数のウェル11及びレセプタクル112を有する大面積のアレイ1を実現することが可能である。例えば、100万個程度のレセプタクル112を有するアレイ1であっても、簡便な操作で効率よくターゲット物質3を各レセプタクル112に封入することが可能である。物質導入手順から物質封入手順までに要する時間は典型的には1分~10分程度と非常に短く、操作は簡便である。
【0071】
実施形態によれば、ターゲット分子3を高感度に検出することができるため、10aM程度の非常に低濃度のターゲット分子3であっても検出することが可能となり、例えばDigitalELISAやELISA-PCRなどのアプリケーションに応用できる。
【0072】
[第一実施形態の変形例]
上述の第一実施形態では、プラグ2のウェル空間11内への挿入時において下面22をレセプタクル形成面111と接触しないように保持する支持部として、第二フリンジ24が機能する例を説明した(図1及び図2(A)参照)。本発明において、プラグ2の支持部は、図4及び図5(A)に示すように、下面22に配設された突起26であってよい。突起26の高さh(すなわち、溶液導入空間11aの高さ)は、ウェル11の深さHよりも低くされる。突起26の数は特に限定されないが、安定的な位置決めを行うため、3~4個程度配設されることが好ましい。
【0073】
また、上述の第一実施形態では、プラグ2の下面22が第一フリンジ23の下面と同一平面を構成する例を説明した(図1及び図2(A)参照)。本発明において、第一フリンジ23は、図5(B)に示すように、プラグ2の挿入方向下端の近くに設けられていればよく、下方末端に位置する必要はないものとする。
【0074】
さらに、上述の第一実施形態では、ウェル11の溶液導入空間11aと溶液排出空間11bは、第一フリンジ23とウェル11の内壁との間に形成される間隙231によって、液体流通可能に連絡する例を説明した。本発明において、溶液導入空間11aと溶液排出空間11bは、図6及び図7に示すように、プラグ2の第一フリンジ23に設けられた切欠232によって、液体流通可能に連絡するように構成されてもよい。この場合、プラグ2の第一フリンジ23は、レセプタクル形成面111よりも小さい面積を有する必要ない。切欠232の大きさと数は特に限定されないが、物質封入手順において、溶液導入空間11aに導入された第二溶液S2によって押し出された第一溶液S1が、切欠232を通って速やかに溶液排出空間11bへ移動できるように十分な大きさと数で配設されることが好ましい。
【0075】
加えて、上述の第一実施形態では、物質導入手順において、プラグ2とアレイ1の間(具体的には、ボビン形状としたプラグ2の第一フリンジ23と、第二フリンジ24と、プラグ2本体部と、ウェル11のプラグ2本体部へ対向する面とによって区画される領域)に位置する溶液排出空間11bへ第一溶液S1が排出される例を説明した。本発明において、プラグ2は、第二フリンジ24を欠く構成であってもよい(図8参照)。この場合にも、アレイ2のレセプタクル形成面111と、それに対向配置されたプラグ2の下面22との間に溶液導入空間11aが形成される。そして、この場合、溶液導入空間11aに導入された第一溶液S1を排出するための溶液排出部11bは、ウェル11のプラグ2本体へ対向する面であって、かつプラグ2の下面22よりも上方に位置する面を陥凹させて設けることができる。プラグ2の下面22は、その下方に位置する溶液導入空間11aと、上方に位置する溶液排出空間11bとを区画するものであるという意味で「閾値レベル(threshold level)」を定義する。
本発明において、「アレイ1内に設けられた溶液排出部11b」とは、このようにウェル11のプラグ2本体への対向面を一部陥凹させて設けられた溶液排出部11bをも含むものとする。
なお、プラグ2を第二フリンジ24を欠く構成とする場合であっても、基板1のプラグ2へ対向する面を陥凹させることなく、溶液排出空間11bをプラグ2とアレイ1の間に設けることも可能である(図9参照)。
【0076】
<第二実施形態>
上述の第一実施形態では、溶液排出空間11bをプラグ2とアレイ1の間(具体的には、プラグ2本体部と、ウェル11のプラグ2本体部への対向面とを含んで区画される領域)に設ける例を説明した。本発明において、「アレイ1内に設けられた溶液排出部11b」には、アレイ1において、プラグ2への対向面とは独立した領域に設けられていてもよい。ただし、この場合にも、溶液排出部11bは、溶液導入空間11aと液体が流通可能に連通されていることが必要である。
【0077】
以下、図10を参照して、第二実施形態に係る微小物質検出用デバイスを用いた微小物質封入方法を説明する。
【0078】
[プラグ挿入手順]
本手順では、アレイ1のレセプタクル形成面111の上方にプラグ2を配置し、プラグ2とアレイ1との相対的な位置をプラグ2に設けられた第二フリンジ24により位置決めして、プラグ2の下面22とアレイ1のレセプタクル形成面111とを対向配置し、これによってプラグ2の下面22とアレイ1のレセプタクル形成面111との間に溶液導入空間11aを設ける。同時に、プラグ2の下面22よりも上方であって、かつアレイ1内に位置させて、溶液導入空間11aと液体が流通可能に連通する溶液排出空間11bを設ける。
【0079】
はじめに、第一実施形態と同様に、アレイ1のウェル11の開口114からウェル11空間内にプラグ2を挿入する。
【0080】
図10に示すプラグ2は、第一フリンジ23を欠く構成を採用している。ウェル空間11内への挿入時において、第二フリンジ24は、ウェル11の開口縁に係止し、下面22をレセプタクル形成面111と接触しない位置に保持する。また、ウェル空間11内への挿入時において、プラグ2の下面22は、レセプタクル形成面111に対向し、レセプタクル形成面111との間に溶液導入空間11aを形成する。
プラグ2のウェル空間11内への挿入時において、第二フリンジ24は基板1に嵌合することが好ましい。これにより、一旦挿入したプラグ2が再び外れないようにすることで、誤操作をなくすとともに、プラグ2が不慮に外れてウェル空間11内の溶液がこぼれ出すことによる汚染を防止できる。
【0081】
[物質導入手順]
次に、溶液導入空間11aに、ターゲット物質3と第一溶媒とを含む第一溶液S1を導入する。
【0082】
ターゲット物質3と発色基質4を含む第一溶液S1は、プラグ2の溶媒導入路25のインレット251から注入され、アウトレット252から溶液導入空間11aに導入される。溶液導入空間11aに導入された第一溶液S1は、レセプタクル底面111とプラグ2の下面22との間を毛管現象により進み、溶液導入空間11aに充填される。これよって、ターゲット物質3と発色基質4がレセプタクル112内に導入される。好ましくは、ターゲット物質3は各レセプタクル112内に1個ずつ導入される。
【0083】
[物質封入手順]
第一実施形態と同様に必要に応じて冷却手順を行った後、溶液導入空間11aに、第一溶液S1と非混和性の第二溶媒を含む第二溶液S2を導入する。
本実施形態に係るアレイ1では、プラグ2の下面22よりも下方において溶液導入空間11aと連通している領域が設けられており、当該領域のうちプラグ2の下面22よりも下方は、溶液導入空間11aと一体をなす。当該領域はアレイ1の上方への拡張されており、該領域のプラグ2の下面22よりも上方が溶液排出空間11bとして機能する。プラグ2の下面22は、その下方に位置する溶液導入空間11aと、上方に位置する溶液排出空間11bとを区画するものであるという意味で「閾値レベル(threshold level)」を定義する。
なお、図10では、溶液排出空間11bをアレイ1内に4つ設ける場合を示したが、溶液排出空間11bの数は特に限定されない。
【0084】
第二溶液S2は、プラグ2の溶媒導入路25のインレット251から注入され、アウトレット252から溶液導入空間11aに導入される。溶液導入空間11aに導入された第二溶液S2は、レセプタクル形成面111とプラグ2の下面22との間を毛管現象により進む。このとき、溶液導入空間11a内に充填されていた第一溶液S1は、溶液排出空間11bへ押し出され、第二溶液S2に置換される。これよって、レセプタクル112内に、第二溶液S2で被覆された、発色基質4を含む第一溶液S1の液滴Dが形成される(図10参照)。
【0085】
[第二実施形態の変形例]
上述の第二実施形態においては、溶液排出空間11bをアレイ1内に加えて、プラグ2とアレイ1の間に設けてもよい(図11参照)。
【0086】
<第三実施形態>
さらに、本発明において、溶媒排出空間11bは、プラグ2内に設けられていてもよい。この場合、溶液排出部11bは、プラグ2のウェル11空間内への挿入時において、溶液導入空間11aと液体が流通可能に連通するように構成される。
【0087】
以下、図12を参照して、第三実施形態に係る微小物質検出用デバイスを用いた微小物質封入方法を説明する。
【0088】
[プラグ挿入手順]
本手順では、アレイ1のレセプタクル形成面111の上方にプラグ2を配置し、プラグ2とアレイ1との相対的な位置をプラグ2に設けられた突起26により位置決めして、プラグ2の下面22とアレイ1のレセプタクル形成面111とを対向配置し、これによってプラグ2の下面22とアレイ1のレセプタクル形成面111との間に溶液導入空間11aを設ける。同時に、プラグ2の下面22よりも上方であって、かつプラグ2内に位置させて、溶液導入空間11aと液体が流通可能に連通する溶液排出空間11bを設ける。
【0089】
はじめに、第一実施形態と同様に、アレイ1のウェル11の開口114からウェル11空間内にプラグ2を挿入する。
【0090】
図12に示すプラグ2は、第一フリンジ23を欠く構成を採用している。また、プラグ2は、ウェル空間11内への挿入時において下面22をレセプタクル形成面111と接触しないように保持する支持部として、下面22に配設された突起26を採用している。ウェル空間11内への挿入時において、プラグ2の下面22は、レセプタクル形成面111に対向し、レセプタクル形成面111との間に溶液導入空間11aを形成する。
プラグ2のウェル空間11内への挿入時において、第二フリンジ24は基板1に嵌合することが好ましい。これにより、一旦挿入したプラグ2が再び外れないようにすることで、誤操作をなくすとともに、プラグ2が不慮に外れてウェル空間11内の溶液がこぼれ出すことによる汚染を防止できる。
【0091】
[物質導入手順]
次に、溶液導入空間11aに、ターゲット物質3と第一溶媒とを含む第一溶液S1を導入する。
【0092】
ターゲット物質3と発色基質4を含む第一溶液S1は、プラグ2の溶媒導入路25のインレット251から注入され、アウトレット252から溶液導入空間11aに導入される。溶液導入空間11aに導入された第一溶液S1は、レセプタクル底面111とプラグ2の下面22との間を毛管現象により進み、溶液導入空間11aに充填される。これよって、ターゲット物質3と発色基質4がレセプタクル112内に導入される。
【0093】
[物質封入手順]
第一実施形態と同様に必要に応じて冷却手順を行った後、溶液導入空間11aに、第一溶液S1と非混和性の第二溶媒を含む第二溶液S2を導入する。
本実施形態に係るプラグ2には、ウェル空間11内への挿入時において溶液導入空間11aに連通する領域が設けられており、当該領域のうちプラグ2の下面22よりもよりも上方が溶液排出空間11bとして機能する。プラグ2の下面22は、その下方に位置する溶液導入空間11aと、上方に位置する溶液排出空間11bとを区画するものであるという意味で「閾値レベル(threshold level)」を定義する。
なお、プラグ2に設けられる溶液排出空間11bの数は特に限定されない。
【0094】
第二溶液S2は、プラグ2の溶媒導入路25のインレット251から注入され、アウトレット252から溶液導入空間11aに導入される。溶液導入空間11aに導入された第二溶液S2は、レセプタクル形成面111とプラグ2の下面22との間を毛管現象により進む。このとき、溶液導入空間11a内に充填されていた第一溶液S1は、溶液排出空間11bへ押し出され、溶液導入空間11a内の第一溶液S1は第二溶液S2に置換される。これよって、レセプタクル112内に、第二溶液S2で被覆された、発色基質4を含む第一溶液S1の液滴Dが形成される(図12参照)。
【0095】
[第三実施形態の変形例]
上述の第三実施形態においては、溶液排出空間11bをプラグ2内に加えて、プラグ2とアレイ1の間に設けてもよい(図13参照)。
【実施例
【0096】
本発明に用いるプラグの参考例の上面図を図14(A)に、正面図を図14(B)、断面図を図14(C)に示す。本参考例のプラグは3Dプリンター法によって製造したものである。挿入方向を軸とした場合、プラグの軸体部は挿入方向(アレイが位置する方向)に向けて徐々に細く形成され、全体としてテーパー状になっている。プラグの両端にフリンジ23,24が備えられており全体としてボビン構造を有している。プラグの上側フリンジ(第2フリンジ24)は、開口への挿入時にアレイに対する支持部となる。上側フリンジの下部側に薄い段差が備えられ、その段差部がアレイの丸形状を持つ開口と嵌合され、その後の一連の操作に支障が生じない程度にアレイの開口に自重で半固定される。プラグはアレイの開口に容易に挿入できる。段差部は排出空間に排出された溶媒が上側フリンジの側部から外部に漏れ出すことを防いでいる。
【0097】
標準的な96穴アレイに適合し得るプラグの一例の機械的寸法は以下の通りである。プラグの上側フリンジは外径直径が約8.3mmの薄い円筒形状で、上側フリンジの厚みは約2mmである。下側フリンジ(第1フリンジ23)は、その上面部より下面部の外径直径が大きく、その側面部が僅かにテーパー状を示すように形成されている。下側フリンジの最下面の外径直径は約5.9mm、最上面の外径直径は約5.4mmである。下側フリンジの厚みは約1mmである。上側フリンジ下部の段差部を除き、上側フリンジの最下面と下側フリンジの最上面との間の距離は約10.9mmである。プラグ全体の軸方向における長さは約13.9mmである。本発明に係わるプラグを標準的な384穴アレイに用いる場合には、上記の機械的寸法を開口のサイズに合わせてそれぞれ縮小し設定すればよい。
【0098】
プラグには、上側フリンジの中央部から軸体部の中心を通るテーパー状の貫通穴が形成されており、第1溶液や第2溶液などの溶媒導入路25として機能する。上側フリンジの上面部における貫通穴の直径は約2.5mmである。プラグの最下面から約3.8mmの距離の位置(内径変更点)までは、上側フリンジの最上面から最下面に向かって貫通孔の内径が徐々に細くなっており、貫通孔は全体としてテーパー状に形成されている。上記の内径変更点から下側フリンジの最下面までは、貫通孔は円柱形状となっている。上側フリンジの最上面における穴部が、溶媒などを導入するためのインレット251、下側フリンジの最下面における穴部が溶媒等を溶液導入空間に導入するためのアウトレット252となる。本参考例のプラグの場合、プラグの軸体部がフリンジ部よりかなり細く形成されており、アレイの開口の内壁との間にやや広めの体積を持つ溶媒排出空間が軸体部の周りに形成されることになる。
【0099】
プラグがアレイの開口に挿入され、上側フリンジ下部の段差部で開口と嵌合して半固定される。プラグの開口への挿入は手操作によって一個単位でもよいし、治具を用いて複数個を同時に挿入することもできる。また、ロボットシステムによってアレイの複数列や96穴の全体に対して、プラグを同時に挿入することもできる。被検査物が感染性の病原体を含む場合は、オペレータや外部環境を汚染することを防止するために、プラグの操作を自動化することが好ましい。また、感染性の病原体を含む溶媒を溶媒導入空間から排出空間に排出した際、当該溶媒がアレイの開口の外部に漏れ出すことは問題となる。この不具合を抑止するために、プラグ2の軸体部の外側に、吸着性物質5をあらかじめ設けることが好ましい。そこに、溶液導入空間から排出空間に排出されてきた当該溶媒を吸着させることができるからである(図15参照)。
【0100】
プラグの材質は3Dプリンター法による成形加工が容易な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。ポリプロピレ(PP)、ABS樹脂、ポリカーボネートなどがある。また、汎用的な樹脂射出成形法でプラグを製造することもできる。このように、プラグの材料は、成形後に所定の剛性を持ち、精密成型に適しており、さらに、耐熱性、低吸着性、低透湿性、対薬品性などの所定の物性を持つことが好ましい。また、医薬・バイオ用途での使用が認められていることが特に好ましい。例えば、医薬・バイオ関係の用途では環状オレフィンポリマー(COP)が良く知られている。さらに、高耐熱性であって滅菌処理に適しているPPSU/PPSF樹脂なども好適である。
【0101】
本発明においては、溶媒に含まれている被検査物の数を光学的に高精度で検出するため、プラグは用いる光波長において遮光性または光吸収性を示すことが望ましい。特に、アレイの下側からレセプタクル内の被検査物を光計測することが主となる。そのため、プラグの下側フリンジは黒色であることが好適である。本参考例では黒色の熱可塑性樹脂材料が用いられている。
【0102】
本発明には、96穴、384穴等の典型的な穴数と配置構成を持つアレイを採用できる。その開口の全体形状は基本的には平底型である。アレイの表面は平坦性があり液体を流動させるのに適している。アレイの平面方向における開口の形状は円形であって被検査物を含む溶媒やビーズを捕捉するのに適している。また、捕捉した被検査物を含む溶媒やビーズを高精度で検出するため、開口の底部に設けられた無数のレセプタクルの全体を短時間で計測することが必要である。その光学的計測をする際、プラグやアレイ自体から発せされる不要光などのバックグラウンドノイズが低いことが重要となる。
【0103】
さらに、一つの開口の体積は1~400μL程度である。アレイの材料としてはポリプロピレン、ポリスチレン、COPなどの樹脂があげられる。中でも、医薬・バイオ用途に適した材料を用いることが好ましい。一つの開口の外径は7mm、深さが10~12mm程度である。例えば、あるアレイの外径は、126×85×20mmで矩形の矩形形状をなすものが良く知られている。
さらに、個々の開口の底部には微小なレセプタクルが設けられている。その穴径は底部の表面で約4~8μm、標準的には5μmである。また、一つのレセプタクルの深さは約6~12μmである。一つのレセプタクルの容積はフェムトリットル・サイズである。
【0104】
本発明に用いることができる8×16の96穴アレイの一例を説明する。アレイ全体と、その開口の部分拡大写真、および開口の底部に設けられたレセプタクルの部分拡大写真を図16に示す。多数のレセプタクルが幾何学的に配列されており、その一つのサイズ(直径)や配列ピッチまたは配列密度に応じて、一つの開口当たりに何十万個のレセプタクルが配置され得る。本参考例ではレセプタクルが一列毎にサイズの半分だけずらして配置された千鳥状となっている。
【0105】
本発明において、アレイに対してプラグを手操作で挿入することができる。実験室内での実験や単発の実験に適している。または、手操作と挿入用の専用装置を用いて、96穴に対して96個のプラグを半自動的に挿入することもできる。図17に、2列分のプラグがあらかじめ連結され、その16個を一体としてアレイに挿入した様子を示す。他の一箇所は手操作で一個のプラグを挿入したものである。図18にはアレイの開口に一個のプラグが挿入された状態をアレイの横方向から撮影した写真を示す。
【0106】
図19は、アレイに挿入された2列の連結プラグの一個の端部からピペットで溶媒を注入する様子を示す写真である。プラグは、アレイの開口に挿入された後は、プラグの上部フリンジによって支持され左右方向に揺動することなく、しっかりアレイに固定されている。さらにプラグの中央に設けられたインレットから第1の液体、その後、第2の液体を順次注入する。アレイには特許文献2のように加熱・冷却手段を付設してもよい。あるいは、アレイとプラグの処置を自動的に行うロボットシステムを構築し、自動的な処理をすることもできる。
【符号の説明】
【0107】
1:アレイ、11:ウェル、11a:下方空間、11b:上方空間、111:レセプタクル形成面、112:レセプタクル、113:側壁、114:開口、2:プラグ、21:上面、22:下面、23:第一フリンジ、231:間隙、232:切欠、24:第二フリンジ、25:溶媒導入路、251:インレット、252:アウトレット、26:突起、3:ターゲット物質、31:酵素、4:発色基質、5:吸着性物質、6:反応生成物、7:検出器、D:液滴、S1:第一溶液、S2:第二溶液
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17
図18
図19