IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 筑波大学の特許一覧

<>
  • 特許-湾曲検出センサ 図1
  • 特許-湾曲検出センサ 図2
  • 特許-湾曲検出センサ 図3
  • 特許-湾曲検出センサ 図4
  • 特許-湾曲検出センサ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】湾曲検出センサ
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/28 20060101AFI20220818BHJP
   G01B 7/16 20060101ALI20220818BHJP
   G01L 1/18 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
G01B7/28 D
G01B7/16 R
G01L1/18 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019560916
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2018043967
(87)【国際公開番号】W WO2019124019
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017244241
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】古谷野 有
(72)【発明者】
【氏名】金 熙榮
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 太希
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-55404(JP,A)
【文献】特開2015-92174(JP,A)
【文献】特開平6-258010(JP,A)
【文献】特開平6-84602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性限が1%以上で、ヤング率が互いに異なる第1金属板と第2金属板とを接合してなることを特徴とする湾曲検出センサ。
【請求項2】
前記第1金属板のヤング率が40GPa以下で、かつ前記第2金属板のヤング率が40GPaよりも大きいことを特徴とする請求項1記載の湾曲検出センサ。
【請求項3】
前記第2金属板は、ヤング率が50GPa以上であることを特徴とする請求項2記載の湾曲検出センサ。
【請求項4】
前記第1金属板および前記第2金属板の弾性限は、1.2%以上であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項記載の湾曲検出センサ。
【請求項5】
前記第1金属板および前記第2金属板は、Ti-Nb基合金からなることを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項記載の湾曲検出センサ。
【請求項6】
前記第1金属板と前記第2金属板とは、複数のスポット溶接部によって接合されていることを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項記載の湾曲検出センサ。
【請求項7】
前記第1金属板および前記第2金属板は、圧延合金板であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか一項記載の湾曲検出センサ。
【請求項8】
弾性限が1%以上で、かつヤング率が互いに同じで、比抵抗が互いに異なる第3金属板と第4金属板とを接合してなることを特徴とする湾曲検出センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定対象の曲率の変化量や変化方向と力を検出可能な湾曲検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に知られている歪ゲージ(湾曲検出センサ)として、金属歪ゲージや半導体歪ゲージが挙げられる。このうち、金属歪ゲージは、例えば、樹脂フィルムなど薄い絶縁層上に、抵抗体となる金属線(金属箔)をジグザグのパターンで形成したものが挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。こうした金属歪ゲージを被測定対象に貼り付けるなどして、被測定対象が変形すると、変形に応じて金属線も伸縮し、金属線の電気抵抗値が変化する。こうした電気抵抗値の変化を検出することで、被測定対象の歪を測定することができる。
【0003】
また、半導体歪ゲージは、半導体の電気抵抗率が加えられた応力に応じて変化するピエゾ抵抗効果を利用したものであり、被測定対象の変形に対応して半導体が変形すると、半導体の結晶構造の変形によって電子の運動ポテンシャルが変化する。これにより、半導体中のキャリヤの移動度が変化し、電気抵抗が変化するので、この電気抵抗の変化を検出することで、被測定対象の歪を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-125977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の歪ゲージは、曲率が大きく変化する被測定対象に対しては、変形を測定することが難しいという課題があった。例えば、人体の関節の動きなど、大きな曲率で角度が直角以上に反復して繰り返し変形する被測定対象を従来の歪ゲージで検出することは困難である。例えば、従来の金属歪ゲージに用いられている抵抗体金属は弾性限が低い(最大でも0.7%程度)ため、人体の関節のような大きな曲げを与えると塑性変形を起こし、抵抗体金属が不可逆な変形をしてしまう。
【0006】
一方、従来の半導体歪ゲージに用いられている半導体材料の多くは脆性材料であるため、人体の関節のような大きな曲げを追従することは困難である。
このため、大きな曲率で大角度の曲げを繰り返す被測定対象の変形を正確に測定することが可能な湾曲検出センサが望まれていた。また、被測定対象に加えられる力(応力)を正確に測定することが可能な湾曲検出センサが望まれていた。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、曲率変化の大きな被測定対象に対して、歪を繰り返し正確に測定可能な湾曲検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、近年新たに見出された弾性限が3%に達する合金による圧延合金板を湾曲検出センサに適用することで、大きな曲率変化が繰り返し生じる被測定対象の歪を正確に測定できることを見出した。
すなわち、本発明の湾曲検出センサは、以下の構成を有する。
弾性限が1%以上で、ヤング率が互いに異なる第1金属板と第2金属板とを接合してなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、前記第1金属板のヤング率が40GPa以下で、かつ前記第2金属板のヤング率が40GPaよりも大きくてもよい。
【0010】
また、本発明では、前記第2金属板は、ヤング率が50GPa以上であってもよい。
【0011】
また、本発明では、前記第1金属板および前記第2金属板の弾性限は、1.2%以上であってもよい。
【0012】
また、本発明では、前記第1金属板および前記第2金属板は、Ti-Nb基合金からなっていてもよい。
【0013】
また、本発明では、前記第1金属板と前記第2金属板とは、複数のスポット溶接部によって接合されていてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記第1金属板および前記第2金属板は、圧延合金板であってもよい。
【0015】
また、本発明の別な湾曲検出センサは、以下の構成を有する。
弾性限が1%以上で、かつヤング率が互いに同じで、比抵抗が互いに異なる第3金属板と第4金属板とを接合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の湾曲検出センサによれば、曲率変化の大きな被測定対象に生じる歪および加えられる力を繰り返し正確に測定可能な湾曲検出センサを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の湾曲検出センサを示す断面図である。
図2】本発明の湾曲検出センサを用いた歪の測定形態の示す説明図である。
図3】本発明の実施例に係るグラフである。
図4】本発明の実施例に係るグラフである。
図5】本発明の実施例に係るグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の湾曲検出センサについて説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態の湾曲検出センサを示す断面図である。
本発明の湾曲検出センサ10は、第1金属板である第1圧延合金板(第1金属板)11と、第2金属板である第2圧延合金板(第2金属板)12とを直接接合した板バネ状の部材である。
第1圧延合金板11は、例えば、弾性限が3%、ヤング率が30GPaのTi-Nb基合金を圧延成形した板材からなる。また、第2圧延合金板12は、例えば、弾性限が1.5%、ヤング率が70GPaのTi-Nb基合金を圧延成形した板材からなる。
なお、本実施形態では、第1金属板および第2金属板として圧延合金板を用いているが、これ以外の製法で形成された板状の単体金属または合金であってもよく、限定されるものでは無い。
【0020】
本実施形態においては、第1圧延合金板11および第2圧延合金板12は、それぞれ幅3mm、長さ30mm、厚さ0.1mmの短冊状に形成されている。
【0021】
第1圧延合金板11と第2圧延合金板12とは、スポット溶接によって、互いに直接接合されている。本実施形態では、第1圧延合金板11および第2圧延合金板12の長手方向に沿って、7.5mm間隔で2箇所のスポット溶接による接合部13(図2を参照)を形成している。
【0022】
例えば、2枚の合金板の全体を溶接したり、ロウ付けによって接合すると、接合時の熱によって合金の金属組織が破壊され、所期の特性が得られない懸念があるが、本実施形態のように、第1圧延合金板11と第2圧延合金板12とを局所的なスポット溶接によって接合することで、第1圧延合金板11および第2圧延合金板12を構成するTi-Nb基合金の金属組織を殆ど破壊せずに接合することができる。
【0023】
なお、第1圧延合金板11と第2圧延合金板12とを接合する接合方法の一例であるスポット溶接は、点状に溶接したり線状や面状に溶接するなど、各種溶接形状にすることができ、スポット溶接の形状や配列は限定されるものでは無い。
【0024】
図2に示すように、このような構成の湾曲検出センサ10の両端にそれぞれ電流端子T1,T2を設けて電流を印加し、また、スポット溶接を行った2箇所の接合部13にそれぞれ電圧端子S1,S2を設けて、この電圧端子S1と電圧端子S2との間の電圧を測定する。
なお、図2においては、直流電流によって測定する例を示しているが、交流電流やパルス電流を用いても測定することができる。
また、本実施形態では、電流端子T1,T2は、電圧端子S1,S2よりも長手方向の外側に設けているが、電流端子T1,T2の位置は限定されるものでは無く、例えば、電圧端子S1と電圧端子S2との間に電流端子T1,T2に設けることもできる。
【0025】
そして、例えば、湾曲検出センサ10の長手方向を屈曲させると、ヤング率が30GPaの第1圧延合金板11が、ヤング率が70GPaの第2圧延合金板12よりも大きく変形する。このように、第1圧延合金板11と第2圧延合金板12とが非対称に変形することにより湾曲検出センサ10の電気抵抗値が変化する。湾曲検出センサ10の屈曲前と屈曲後との電圧端子S1と電圧端子S2との間の電圧値の変化量(ΔV)や変化方向(ΔVの正負)を検出することによって、湾曲検出センサ10の曲率や屈曲方向を検出することができる。
【0026】
本発明の湾曲検出センサ10によれば、互いに力学特性、即ちヤング率が異なり、かつ弾性限が1%以上、例えば3%といった高弾性限の第1圧延合金板11と第2圧延合金板12とをスポット溶接で接合して湾曲検出センサ10を構成することによって、湾曲検出センサ10に加わった歪、例えば曲げ変形による曲率の検出とともに、曲げ方向の検出もできる。
【0027】
また、本発明の湾曲検出センサ10によれば、弾性限が1%以上、例えば3%といった高弾性限の圧延合金板を用いることにより、従来の弾性限が0.7%程度であった金属材料を用いた歪ゲージでは塑性変形によって金属抵抗線が永久変形してしまうような高曲率の被測定物にも対応することできる。また、繰り返し屈曲などによっても第1圧延合金板11や第2圧延合金板12の破断が生じにくいため、反復して屈曲を繰り返す被測定対象にも適用できる。
【0028】
また、本発明の湾曲検出センサ10は材料の弾性範囲で動作するため、変形と応力の間には線型関係が成立する。よって、湾曲検出センサ10に作用している力を計測することができる。これにより、本発明の湾曲検出センサ10は、曲げ応力を測定するセンサとして用いることができる。
【0029】
また、本発明の湾曲検出センサ10によれば、弾性限が1%以上、例えば3%といった高弾性限の圧延合金板を用いているため、湾曲検出センサ10を歪検出のセンサと、板バネの機能を兼ねた部材として用いることができ、機械部品として用いれば、構造の簡略化を実現できる。更に、本発明の湾曲検出センサ10は、非線形性やヒステリシスがないため、振動検出センサとして用いることもできる。
【0030】
また、本発明の湾曲検出センサ10の第1圧延合金板11や第2圧延合金板12は、いずれも構成材料が金属であり、金属以外の材料を含まないので、超高真空などの環境においても用いることが可能である。また、湾曲検出センサ10の構成材料が金属であるために電気的に低インピーダンスであり、1V以下の低電圧でも歪を測定可能である。低インピーダンス素子であるから電気伝導度が低い水や有機溶媒中でも動作させることができる。
そして、本発明の湾曲検出センサ10は、2枚の圧延合金板を接合した構成のため、安価に、かつ容易に製造することができる。
【0031】
なお、本発明の湾曲検出センサは、上述した実施形態に限定されるものでは無い。
例えば、互いに接合する2枚の圧延合金板は、少なくとも弾性限が1%以上で、一方のヤング率が40GPa以下、他方のヤング率が40GPaよりも大きい合金を用いればよく、Ti-Nb基の合金に限定されるものでは無い。
【0032】
また、上述した湾曲検出センサ10の形状は一例であり、こうした短冊状以外にも、被測定対象に合わせて任意の形状に形成することができる。
また、上述した湾曲検出センサ10では、第1圧延合金板11と第2圧延合金板12との接合方法としてスポット溶接を挙げているが、第1圧延合金板11や第2圧延合金板12を構成する合金の金属組織を全体的に破壊する方法でなければ、各種接合方法を採用することができ、接合方法を限定するものでは無い。例えば、接合方法として、接着剤による接合などを用いることができる。
【0033】
また、上述した湾曲検出センサ10は、ヤング率が異なる2枚の圧延合金板を接合したものから構成されているが、ヤング率が異なる3枚以上の圧延合金板を接合させた構成にすることもできる。
【0034】
本発明の湾曲検出センサは、弾性限が1%以上で、かつヤング率が互いに同じで、比抵抗が互いに異なる第3圧延合金板(第3金属板)と第4圧延合金板(第4金属板)とを互いに接合したものから構成することもできる。こうしたヤング率が互いに同じで、比抵抗が互いに異なる湾曲検出センサであっても、上述した湾曲検出センサ10と同様に、湾曲検出センサに加わった歪、例えば曲げ変形による曲率の検出とともに、曲げ方向の検出もできる。また、曲げ応力を測定する湾曲検出センサとして用いることができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0036】
以下、本発明の湾曲検出センサの発明に係る考察と実験例を示す。
金属試料に張力あるいは一軸性圧力を作用させると、試料の長さと断面積が変化するために電気抵抗が変化する。張力が作用すれば抵抗が上昇し、圧縮力が作用すれば抵抗が下がる。試料が通常の金属であれば弾性限が最大で0.7%程度であるため、電気抵抗が1%程度変化するほど応力を加えると塑性変形が起こり、応力を取り除いても試料形状が元に戻らない。
【0037】
ここで弾性限が非常に大きい材料、例えば、最近見出された弾性限が3%程度に達するTi-Nb基合金を用いれば、繰り返し応力による形状の変化を電気抵抗値の測定で連続的に検出する湾曲検出センサを作製することができる。ヒステリシスが生じない弾性限以下の変形で使うため、応力と電気抵抗の間には線形の関係が成り立つので、電気抵抗で形状変化のみならず、応力も測定することが可能になる。
【0038】
この場合、半導体材料と比べて数桁違いに比抵抗が小さい金属を使うので電気抵抗が小さく、測定に高電圧が不要になる。静電容量やインダクタンスを含まない純粋な電気抵抗値の変化を検出するため、交流でも直流でも測定可能となる。試料の変形に対応して電気抵抗が変化するために追従性が良好で、機械的な振動も検出することが可能になる。本発明の湾曲検出センサのように、ヤング率が大幅に異なる2つの金属板、例えば2つの圧延合金板(金属板)を接合した場合、屈曲させた際の内側と外側とで変形量が不釣り合いになるため、接合した圧延合金板全体の電気抵抗値に変化が生じる。
【0039】
次に、抵抗値の変化を試算する。高ヤング率の圧延合金板の抵抗をR、低ヤング率の圧延合金板の抵抗をRとする。ここで、試算を容易にするために、試料を曲げ伸ばした時に高ヤング率の圧延合金板は伸縮せず、低ヤング率の圧延合金板だけがa=(1+δ)倍に長さが変わり、断面積は変わらないと見なす。2枚の圧延合金板の間に絶縁層を挟んで並列接続した時の合成抵抗Rは、式(1)となる。
【数1】
【0040】
また、試料の変形前の抵抗との比は式(2)である。
【数2】
【0041】
ここで、R=R=Rと簡略化すると式(3)となり、長さ変化率δの半分の抵抗変化が得られることがわかる。
【数3】
【0042】
ここで、R=1.2RとしてδとΔの関係をプロットすると図3に示すグラフとなる。このグラフによれば、およそδの半分程度の抵抗変化が得られることがわかる。
【0043】
以上の様な構造で湾曲検出センサーを作成し、2枚の圧延合金板の両端だけを固着させて、大きく曲げ変形をさせると、圧縮力が作用する側の板が座屈するため一方の圧延合金板の長さが縮まず、期待された抵抗変化が得られなかった。次に、座屈を防ぐために絶縁層をn等分し、切れ目で2枚の圧延合金板を固着したときの合成抵抗を求める。この場合、抵抗R/nとR/nが絶縁層の隙間で並列接続されたブロックがn個直列に接続された回路と等価である。したがって、合成抵抗は式(4)となり元の合成抵抗と全く変わらない。
【数4】
【0044】
式(4)に示すように、合成抵抗は絶縁層の分割数nに依存しないので、座屈を防止するに必要な数だけ固定点を作ってもよい。必要であればn->∞として、絶縁層なしで2枚の圧延合金板どうしを密着させても結果は同じである。従って、絶縁層は不要であり、座屈を防ぐために2枚の圧延合金板を直接貼り合わせて湾曲検出センサーを作製できる。
【0045】
2枚の圧延合金板は接着剤やロウ付けで接合しても良いが、曲げたときに剥離せず、熱で材料の組織(力学特性)にダメージを与えない固着方法を用いる必要がある。本実施例では、2枚の圧延合金板どうしの接合にスポット溶接を用いた。スポット溶接によれば、局所的に温度が上がるが、他の大部分に影響を与えないので、材料特性への影響が小さい。また、ボルト締めなどによる接合と異なり、接合のために形状が大きくならず、コンパクトであるからセンサー作製に適している。
【0046】
平面状にした2枚の圧延合金板どうしを重ねてスポット溶接しても良いが、2枚の圧延合金板を屈曲させた状態で溶接すれば、屈曲させた状態を応力ゼロ、変形ゼロの基点にできる。湾曲検出センサーの長さが不足する場合は複数個の湾曲検出センサーを繋げるようにスポット溶接して1つの湾曲検出センサにすれば、任意の長さの湾曲検出センサを実現できる。
【0047】
接合された2枚の圧延合金板の抵抗を測定する際に、圧延合金板の両端に電流端子を設け、また、2枚の圧延合金板がスポット溶接されている個所に電圧端子を設け、電圧端子間の電圧を測定すれば、電圧端子間の電気抵抗、すなわちこの湾曲検出センサの変形(歪)を検出することができる。また、任意の数の電圧端子を設け、それぞれの電圧端子間の電位差を検出すれば、湾曲検出センサのうち、部分的に変形している個所を検出することができる。
【0048】
試料比抵抗は温度にほぼ比例するので、使用環境の温度が大きく変化する場合は温度補正を行うことが好ましい(~5%/100K)。逆に、湾曲検出センサの変形が一定であれば温度センサーとしても機能する。
【0049】
(実験例)
チタン基の高弾性限低ヤング率合金、高弾性限高ヤング率合金を用意した。どちらの合金も組成は同じであり、加工熱処理の違いによって、一方の合金のヤング率を30GPa、他方の合金のヤング率を70GPaにしたものである。
26℃における高弾性限高ヤング率合金の比抵抗は128μΩ・cm、高弾性限低ヤング率合金の比抵抗は155μΩ・cmである。こうした2つの合金の圧延板として、幅3mm、長さ30mm、厚さ0.12mmの短冊状の2枚の合金圧延板の直線部に7.5mm間隔で2箇所ずつスポット溶接を行い本発明の湾曲検出センサとした。なお、15mm間隔でスポット溶接を行った湾曲検出センサは、屈曲により座屈が発生した。
【0050】
電気抵抗値は直流四端子法で測定した。測定電流は100mA、電圧端子間距離は29.3mmである。湾曲検出センサの変形による抵抗変化を測定するため、絶縁体丸棒に電圧端子の間を押しつけ、丸捧の半径に対して抵抗値をプロットした。屈曲前の平面状態での抵抗値は58.84mΩであった。
【0051】
センサーを巻き付けた丸棒の半径に対して、湾曲検出センサーの抵抗をプロットしたグラフを図4に示す。□印は高弾性限低ヤング率圧延合金板に張力が加わる場合、○印は高弾性限低ヤング率圧延合金板に圧縮力が加わる場合を示している。事前の予想通り、張力に対しては抵抗が増加し、圧縮力に対しては抵抗が減少した。全体に曲率半径に対して双曲線的な変化していることがわかった。
【0052】
湾曲検出センサを曲げたときに高弾性限高ヤング率圧延合金板の長さが変わらず、高弾性限低ヤング率圧延合金板の長さだけが変わると仮定すると、高弾性限高ヤング率圧延合金板の長さをl、曲率半径をr、曲げの中心角をθとすると、l=rθ、板の厚みをδrとすれば、高弾性限低ヤング率圧延合金板の寸法変化は(δl/l)=(δr/r)である。
【0053】
湾曲検出センサを曲げた時に高弾性限高ヤング率圧延合金板は長さが変わらないので電気抵抗値は変化せず、高弾性限低ヤング率圧延合金板の電気抵抗値だけが変わる。この場合、前述した通り、合成抵抗の変化率は高弾性限低ヤング率圧延合金板の長さ変化率の約半分になると考えられる。そこで、横軸を曲率半径の逆数に取ってプロットしたグラフを図5に示す。
【0054】
この図5に示すグラフによれば、湾曲検出センサの変形形状が凸、凹のどちらについても同じ傾きで直線関係が得られた。なお、図5に示すグラフにおいて、破線は高弾性限高ヤング率圧延合金板の長さが変らないと仮定した場合の抵抗変化(ΔR/R)=0.5×(δr/r)である。実測値は単純計算の1.55倍程度であることがわかった。これは、単純計算では考慮に入れなかった湾曲検出センサの断面積が変化する影響などによるものと考えられる。また、図5の×印は、厚さ0.1mmの高弾性限低ヤング率圧延合金単板だけを曲げた場合であり、事前の予想通り電気抵抗値は変化していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の湾曲検出センサは、以下のような用途に利用することができる。
(1)肘や膝など生物の屈伸部位の計測。
(2)データグロープ、センサ一手袋など入力デバイス。
(3)ロボットや機械の屈伸検出。
(4)エンジンなどの機械的振動の測定。
(5)カンチレバー。
(6)溶液中の屈曲、応力測定。
(7)建築物など構造物の変形検出。
(8)応力や荷重の測定。
(9)電圧端子を多数点設け、変形する位置の検出。
(10)ドアの開閉検出、リクライニングシートの位置(角度)検出。
(11)真空中の変位や応力の測定。
(12)高弾性限材料の特性を生かした変位・応力検出機能内蔵の板バネ。
(13)医療用のリハビリ器具のセンサ、例えば関節曲げ角度の検出、通知用のセンサ
【符号の説明】
【0056】
10…湾曲検出センサ
11…第1圧延合金板(第1金属板)
12…第2圧延合金板(第2金属板)
図1
図2
図3
図4
図5