(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】特定種イオン源およびプラズマ成膜装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/18 20060101AFI20220818BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20220818BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
H01J27/18
H05H1/46 L
C23C16/50
(21)【出願番号】P 2020525221
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041365
(87)【国際公開番号】W WO2019239613
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2018113593
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】比村 治彦
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-021597(JP,A)
【文献】特開昭62-235485(JP,A)
【文献】山本 昌良 他,室温下で高純度 ZnO 粒子生成に用いる酸素負イオン源の開 発 (Development of negative oxygen plasma source applied to produce pure ZnO at room temperature),第 74 回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2013年09月,#08-063
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/18
H05H 1/46
C23C 16/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内へ第1原料ガスを供給する第1原料ガス供給源と、
前記チャンバ内に供給された前記第1原料ガスに高周波を印加することにより前記チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生器と、
前記チャンバ内に発生したプラズマ中に含まれる前記第1原料ガスの元素のイオンを前記チャンバ外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを予め設定された第1方向へ加速させる加速部と、
前記加速部により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向へ出力する選別部と、を備
え、
前記チャンバは、
筒状のチャンバ本体と、
前記チャンバ本体の開放部分を閉塞し且つ一部に前記チャンバ本体内に発生するプラズマに含まれるイオンを前記チャンバ外へ放出するための放出孔が設けられた蓋体と、を有し、
前記プラズマ発生器は、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の底壁に対向する位置に配置され前記チャンバ本体の内側に存在する前記第1原料ガスに高周波を印加するためのコイルと、
前記コイルに高周波数の交流電流を供給する高周波電源と、
前記コイルにおける前記チャンバ本体の底壁側とは反対側に配置された第1磁石と、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の側壁を囲繞するように配置された第2磁石と、
前記蓋体における前記放出孔を囲繞する部位に設けられた第3磁石と、を有する、
特定種イオン源。
【請求項2】
前記チャンバ内に連通し、前記チャンバ内へ第1原料ガスを供給する原料ガス供給管と、
前記原料ガス供給管に介挿され前記第1原料ガスの供給を許容する開状態と前記第1原料ガスの供給を遮断する閉状態とをとりうる動力弁と、
前記動力弁と前記高周波電源とを制御する制御部と、を更に備え、
前記制御部は、前記動力弁を前記開状態にすると同時あるいは直前に前記高周波電源から前記コイルへ交流電流の供給を開始し、前記開状態にしてから予め設定された第1時間だけ経過した後、前記動力弁を前記閉状態にし、前記高周波電源から前記コイルへ交流電流の供給を開始してから予め設定された前記第1時間よりも長い第2時間だけ経過した後、前記高周波電源から前記コイルへの交流電流の供給を遮断するように、前記動力弁と前記高周波電源とを制御する、
請求項
1に記載の特定種イオン源。
【請求項3】
前記第2時間の長さは、前記第1時間の長さの10倍以上である、
請求項
2に記載の特定種イオン源。
【請求項4】
前記第1磁石は、複数存在する、
請求項
1から
3のいずれか1項に記載の特定種イオン源。
【請求項5】
前記第1磁石は、円柱状であり、前記第1磁石の中心軸が前記コイルの中心軸と平行となるように配置されている、
請求項
4に記載の特定種イオン源。
【請求項6】
前記プラズマ発生器は、
前記チャンバ内へ電子を供給する電子供給源を更に有する、
請求項
1から5のいずれか1項に記載の特定種イオン源。
【請求項7】
前記選別部は、
前記第1方向および前記第2方向と直交する第3方向の磁場を発生させる磁場発生部を有する、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の特定種イオン源。
【請求項8】
前記加速部は、
電磁場を利用して前記チャンバ外へ引き出されたイオンを集束するためのアインツェルレンズを有する、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の特定種イオン源。
【請求項9】
チャンバと、前記チャンバ内へ第1原料ガスを供給する第1原料ガス供給源と、前記チャンバ内に供給された前記第1原料ガスに高周波を印加することにより前記チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生器と、前記チャンバ内に発生したプラズマ中に含まれる前記第1原料ガスの元素のイオンを前記チャンバ外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを予め設定された第1方向へ加速させる加速部と、前記加速部により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向へ出力する選別部と、を有する特定種イオン源と、
第2原料ガスを供給する第2原料ガス供給源と、
前記特定種イオン源により供給される特定種のイオンと前記第2原料ガスとを反応させる反応炉と、を備
え、
前記チャンバは、
筒状のチャンバ本体と、
前記チャンバ本体の開放部分を閉塞し且つ一部に前記チャンバ本体内に発生するプラズマに含まれるイオンを前記チャンバ外へ放出するための放出孔が設けられた蓋体と、を有し、
前記プラズマ発生器は、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の底壁に対向する位置に配置され前記チャンバ本体の内側に存在する前記第1原料ガスに高周波を印加するためのコイルと、
前記コイルに高周波数の交流電流を供給する高周波電源と、
前記コイルにおける前記チャンバ本体の底壁側とは反対側に配置された第1磁石と、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の側壁を囲繞するように配置された第2磁石と、
前記蓋体における前記放出孔を囲繞する部位に設けられた第3磁石と、を有する、
プラズマ成膜装置。
【請求項10】
前記反応炉の外側における一部を囲繞する位置に配置され、電磁場を発生させることにより前記特定種のイオンに対応する元素と前記第2原料ガスの元素とを含む化合物のイオンを前記反応炉の内側の予め設定された領域にトラップする電磁場発生部を更に備える、
請求項
9に記載のプラズマ成膜装置。
【請求項11】
前記特定種のイオンは、酸素負イオン、水素負イオン、窒素負イオンおよび炭素負イオンを含む、
請求項
9または
10に記載のプラズマ成膜装置。
【請求項12】
前記特定種のイオンは、酸素負イオンのみである、
請求項
9または
10に記載のプラズマ成膜装置。
【請求項13】
前記プラズマ発生器は、
前記チャンバ内へ電子を供給する電子供給源を更に有する、
請求項9から12のいずれか1項に記載のプラズマ成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定種イオン源およびプラズマ成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT技術の進展に伴いモバイル機器の小型化および高機能化の要請がある。モバイル機器に搭載されるセンサ、アクチュエータ、その他回路素子等の各種デバイスは、モバイル機器の小型化および高機能化に伴い、微細化および複雑化している。そして、これらの各種デバイスの微細化および複雑化に伴い、量子ドットを初めとするナノ構造の作製方法或いは薄膜作製方法が、これらの各種デバイスを作製するための重要な要素技術として着目されつつある。
【0003】
量子ドットの作製方法としては、主として、バルクの半導体材料から作製する方法と、半導体基板表面で結晶成長させる際に生じる応力を利用して量子ドットを自己形成させる方法と、が採用されている。しかしながら、これらの作製方法は、量子ドットの品質、均一性等の要請を十分に満たすに至っていない。
【0004】
また、現在における最先端の半導体デバイスについて要求される最小加工寸法は、7nm程度になっている。これに伴い、薄膜作製方法に対してもナノスケールの膜厚制御が要求されている。この場合、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の成膜方法では、前述の要求を十分に満足することが困難である。そこで、薄膜作製方法として、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition ALD法)のような原子層レベルで膜厚を制御できる薄膜作製方法が採用されつつある。この原子層堆積法には、堆積させる原子のイオンまたはラジカルを含むプラズマを発生させて行うPEALD(Plasma-Enhanced Atomic Layer Deposition)法がある。しかしながら、PEALD法は、発生させたプラズマ中に含まれるイオン、ラジカル、電子等の挙動、特にイオンのエネルギを制御するのが困難であり、このことに起因して、PEALD法により作製した各種デバイスの表面に、デバイス性能および信頼性を低下させるような損傷を与える虞がある。さらには、プラズマ生成室内には、プラズマを生成するためのエネルギが外部から投入され続けているため、プラズマが熱的に緩和しない。このため、プラズマのエネルギと数密度に時間的かつ空間的揺らぎが存在する。これらのプラズマ揺らぎに起因して、作製する薄膜の膜厚をナノメートルオーダで均一化することが困難である。さらに、それら揺らぎの程度は、プラズマの発生方法や、プラズマとプラズマ生成容器内壁や挿入電極など、プラズマと接触する金属や絶縁物までの距離、そして、生成容器内での輸送係数の違いにより、プラズマ発生装置毎に異なってくる。加えて、プラズマから発生する紫外線等の光も、膜の表面に損傷を与える原因の一つである。プラズマを使いつつも、プラズマ発生装置に依存せず、ナノスケールでの微細加工を行える普遍的な方法はまだない。
【0005】
そこで、これらのナノ構造の作製方法または薄膜作製方法において、ナノ構造または薄膜の品質の向上並びに均一性を実現するために反応性の高い、即ち、化学的活性度が高い特定種のイオンやラジカルを選択的に取り出して、ナノ構造または薄膜の形成に寄与させることが要請されている。これに対して、例えば化学的活性度が高い酸素負イオン(O-)を取り出し、取り出した酸素負イオンを利用する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1では、酸素負イオンのイオン源としてプラズマガンを採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述のナノ構造の作製方法または薄膜作製方法において、ナノ構造または薄膜の品質の向上並びに均一性を実現するためには、取り出した化学的活性度が高い特定種のイオンの純度を高めることが要請されている。そして、ナノ構造または薄膜の形成に、特定種のイオンのみ寄与させて他種のイオンができるだけ寄与しないようにすることが要請されている。同様の要請は、特定種のラジカルのみを寄与させるプロセスにもある。
【0008】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、プラズマ源から特定種のイオン、またはラジカルを高い純度で得ることができる特定種イオン源およびプラズマ成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る特定種イオン源は、
チャンバと、
前記チャンバ内へ第1原料ガスを供給する第1原料ガス供給源と、
前記チャンバ内に供給された前記第1原料ガスに高周波を印加することにより前記チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生器と、
前記チャンバ内に発生したプラズマ中に含まれる前記第1原料ガスの元素のイオンを前記チャンバ外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを予め設定された第1方向へ加速させる加速部と、
前記加速部により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向へ出力する選別部と、を備え、
前記チャンバは、
筒状のチャンバ本体と、
前記チャンバ本体の開放部分を閉塞し且つ一部に前記チャンバ本体内に発生するプラズマに含まれるイオンを前記チャンバ外へ放出するための放出孔が設けられた蓋体と、を有し、
前記プラズマ発生器は、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の底壁に対向する位置に配置され前記チャンバ本体の内側に存在する前記第1原料ガスに高周波を印加するためのコイルと、
前記コイルに高周波数の交流電流を供給する高周波電源と、
前記コイルにおける前記チャンバ本体の底壁側とは反対側に配置された第1磁石と、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の側壁を囲繞するように配置された第2磁石と、
前記蓋体における前記放出孔を囲繞する部位に設けられた第3磁石と、を有する。
【0010】
他の観点から見た、本発明に係るプラズマ成膜装置は、
チャンバと、前記チャンバ内へ第1原料ガスを供給する第1原料ガス供給源と、前記チャンバ内に供給された前記第1原料ガスに高周波を印加することにより前記チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生器と、前記チャンバ内に発生したプラズマ中に含まれる前記第1原料ガスの元素のイオンを前記チャンバ外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを予め設定された第1方向へ加速させる加速部と、前記加速部により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向へ出力する選別部と、を有する特定種イオン源と、
第2原料ガスを供給する第2原料ガス供給源と、
前記特定種イオン源により供給される特定種のイオンと前記第2原料ガスとを反応させる反応炉と、を備え、
前記チャンバは、
筒状のチャンバ本体と、
前記チャンバ本体の開放部分を閉塞し且つ一部に前記チャンバ本体内に発生するプラズマに含まれるイオンを前記チャンバ外へ放出するための放出孔が設けられた蓋体と、を有し、
前記プラズマ発生器は、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の底壁に対向する位置に配置され前記チャンバ本体の内側に存在する前記第1原料ガスに高周波を印加するためのコイルと、
前記コイルに高周波数の交流電流を供給する高周波電源と、
前記コイルにおける前記チャンバ本体の底壁側とは反対側に配置された第1磁石と、
前記チャンバ本体の外側における前記チャンバ本体の側壁を囲繞するように配置された第2磁石と、
前記蓋体における前記放出孔を囲繞する部位に設けられた第3磁石と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加速部が、チャンバ内に発生したプラズマ中に含まれる第1原料ガスの元素のイオンをチャンバ外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを予め設定された第1方向へ加速させる。そして、選別部が、加速部により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向へ出力する。これにより、特定種のイオンを高い純度で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るプラズマ成膜装置の概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る特定種イオン源の一部を示す分解斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る特定種イオン源の一部を示す断面図である。
【
図4A】実施の形態1に係る第1磁石の概略斜視図である。
【
図4B】実施の形態1に係るプラズマ発生器の一部を示す概略平面図である。
【
図5】実施の形態1に係る特定種イオン源の一部を示す概略断面図である。
【
図6A】実施の形態1に係る特定種イオン源の一部を示す概略図である。
【
図6B】実施の形態1に係る特定種イオン源の一部を
図6Aとは異なる方向から見た場合の概略図である。
【
図7】比較例に係る特定種イオン源の一部を示す断面図である。
【
図8A】実施の形態1に係る磁界分布のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図8B】比較例に係る磁界分布のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図9A】実施の形態1および比較例に係るプラズマ点火圧力を示す図である。
【
図9B】実施の形態1および比較例に係るプラズマの電子温度を示す図である。
【
図10】実施の形態1に係るプラズマ成膜装置の動作説明図である。
【
図11】本発明の実施の形態2に係るプラズマ成膜装置の概略図である。
【
図12A】実施の形態2に係る制御部によるRF電源および供給バルブの制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【
図12B】実施の形態2に係るプラズマ発生器の下流側の圧力の経時変化を示す図である。
【
図13】実施の形態2に係るチャンバ内で発生したプラズマの発光スペクトルを示す図である。
【
図14A】変形例に係るプラズマ発生器の一部を示す概略平面図である。
【
図14B】変形例に係るプラズマ発生器の一部を示す概略平面図である。
【
図15】変形例に係るプラズマ発生器のチャンバ内の圧力の第1磁石の中心磁束密度依存性を示す図である。
【
図16A】変形例に係る第1磁石の概略斜視図である。
【
図16B】変形例に係るプラズマ発生器の一部を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態に係るプラズマ成膜装置について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態に係るプラズマ成膜装置は、第1原料ガスの供給を受けて特定種のイオンを出力する特定種イオン源と、第2原料ガスを供給する第2原料ガス供給源と、特定種イオン源により供給される特定種のイオンと第2原料ガスとを反応させる反応炉と、を備える。そして、特定種イオン源は、チャンバと、チャンバ内へ第1原料ガスを供給する第1原料ガス供給源と、プラズマ発生器と、加速部と、選別部と、を有する。プラズマ発生器は、チャンバ内に供給された第1原料ガスに高周波を印加することによりチャンバ内にプラズマを発生させる。加速部は、チャンバ内に発生したプラズマ中に含まれる第1原料ガスの元素のイオンをチャンバ外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを予め設定された第1方向へ加速させる。選別部は、加速部により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向へ出力する。特定種のイオンとしては酸素、窒素、水素、炭素などが、様々な有機金属の前駆体に対して使用することができるが、本実施の形態では、荷電粒子でもある特定種のイオンが、高い化学反応性を有する酸素負イオン(O-)であり、第2原料ガスが、DEZn(ジエチル亜鉛)であるとして説明する。O-は、化学分野において、「酸素アニオンラジカル」と呼ばれ、化学反応性が高いフッ素(F)と同じ電子配置を有し、化学活性度が高い。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態に係るプラズマ成膜装置1は、特定種イオン源10と、第2原料ガス供給源である原料ガス供給源30と、反応炉41と、電磁場発生部42と、Arガス供給源43と、を備える。特定種イオン源10は、チャンバ11と、第1原料ガス供給源である原料ガス供給源12と、チャンバ11内に連通し、チャンバ11内へ第1原料ガスを供給する原料ガス供給管19と、プラズマ発生器13と、加速部14と、選別部15と、を備える。
【0015】
チャンバ11は、例えば
図2に示すように、筒状のチャンバ本体111と、チャンバ本体111の開放部分を閉塞する蓋体112と、を有する。チャンバ本体111の材料は、例えば高周波を透過する誘電体材料である。なお、チャンバ本体111は、例えば周壁における外部から高周波を導入する部分のみが誘電体材料から形成され、他の部分が金属から形成されているものであってもよい。蓋体112は、その中央部に厚さ方向に貫通し且つチャンバ11内に発生するプラズマに含まれるイオンをチャンバ11外へ放出するための平面視円形の放出孔112aが設けられている。また、蓋体112には、
図3に示すように、チャンバ本体111の内側へ原料ガスが放出される開口部112cと開口部112cに連通する導入孔112bとが設けられている。
【0016】
図1に戻って、原料ガス供給源12は、原料ガス供給管19を介して、チャンバ11の導入孔112bに接続されている。そして、原料ガス供給源12は、
図3の矢印AR41に示すように、第1原料ガスである酸素(O
2)ガスを、原料ガス供給管19、チャンバ11の導入孔112bおよび開口部112cを通じてチャンバ11内へ供給する。
【0017】
プラズマ発生器13は、チャンバ11内に供給されたO
2ガスに高周波を印加することによりチャンバ11内にプラズマPLMを発生させる。プラズマ発生器13は、平面視渦巻状の形状を有するコイル133と、第1磁石134と、第2磁石132と、第3磁石135と、コイル133に高周波数の交流電流を供給する高周波電源136と、を有する。コイル133は、例えば
図3に示すように、チャンバ本体111の外側におけるチャンバ本体111の底壁111aに対向する位置に配置されている。また、コイル133は、高周波電流源から高周波電流の供給を受けて、チャンバ本体111の内側に存在するO
2ガスに高周波を印加する。高周波電源136は、コイル133に例えば周波数13.56MHzの交流高周波電流を供給する。
【0018】
第1磁石134は、永久磁石であり、コイル133におけるチャンバ本体111の底壁111a側とは反対側に配置されている。第1磁石134は、例えばチャンバ11側がN極となるように配置されている。第1磁石134は、例えば
図4Aに示すように、直径D1、高さH1の円柱状である。第1磁石134の材料としては、例えばNdFeB系の磁性材料を採用することができる。また、直径D1は、例えば20mm、高さH1は、例えば10mmまたは20mmに設定される。そして、第1磁石134は、
図4Bに示すように、平面視において、第1磁石134の中心軸C2がコイル133の中心軸C1とがほぼ一致するように配置されている。第2磁石132は、チャンバ本体111の外側におけるチャンバ本体111の側壁111bを囲繞するように配置されている。第3磁石135は、永久磁石であり、チャンバ11の蓋体112における放出孔112aを囲繞する部位に埋設されている。
【0019】
第3磁石135は、
図5に示すように、プラズマPLM中に含まれる比較的エネルギの高い高速電子(e
-
h)と比較的エネルギの低い低速電子(e
-
l)とのうち、低速電子(e
-
l)のみをチャンバ11外へ選択的に透過させるいわゆる磁気フィルタとして機能する。これにより、蓋体112の放出孔112aからは、低速電子(e
-
l)とO
2分子(O
2
M)とO
-イオン(O
-)を主要素としてチャンバ11外へ放出され、高速電子は、ほぼチャンバ11内に捕捉された状態となる。
【0020】
図1に戻って、プラズマ発生器13は、チャンバ11内へ電子を供給する電子供給源であるフィラメント137を有する。フィラメント137の材料は耐久性のあるものが好ましく、例えばタングステンやタンタルである。プラズマ発生器13は、フィラメント137へ電流を流して加熱することによりフィラメント137から熱電子をチャンバ11内へ放出させる。これにより、チャンバ11内におけるプラズマの放電開始電力とガス圧力を低下させることができる。
【0021】
加速部14は、電位差の正負に応じて、チャンバ11内に発生されたプラズマPLM中に含まれるO
2ガスの元素のイオン、例えばO
+イオンか、O
-イオンかのいずれか一方の電荷極性をもつ荷電粒子と、電気的に中性なOラジカルをチャンバ11外へ引き出す。そして、加速部14は、アインツェルレンズであり、引き出されたイオンを予め設定された第1方向、例えば矢印AR14で示す方向へ加速させる。
図5に示すように、加速部14は、電磁場を利用してチャンバ11外へ引き出されたイオンを集束する。加速部14は、
図6AはZX平面図および
図6BはXY平面図であり、同図に示すように、中央の電極141aと、矢印AR14に示す方向における前後それぞれに配置された電極141b、141cと、を有する静電レンズである。加速部14は、
図6Aおよび
図6Bの位置Pos1において、電極141a、141b、141cにより形成される電磁場によりイオンを集束させる。また、加速部14は、電極141a、141b、141c間に電位差を発生させることにより、前述の荷電粒子ビームを加速、減速しつつ、集束させる。
【0022】
図1に戻って、選別部15は、加速部14により加速されたイオンの中から特定種のイオンを選別して予め設定された第2方向、即ち、矢印AR12で示す方向へ出力する。選別部15は、主管151と、分岐管152と、磁場発生部153と、減速・加速部154と、四重極磁石155と、を有する。主管151は、一端部がチャンバ11に接続され他端部が反応炉41に接続されている。そして、主管151は、磁場発生部153が配置された部分で屈曲している。加速部14により加速された後のO
-イオンの飛行速度と磁場発生部153により発生される磁場の強度は、主管151の曲率に基づいて設定される。このように主管151を屈曲させることで、プラズマ発生器13から出る紫外線等の光が、反応炉41に直接入らないようにできるという効果もある。
【0023】
四重極磁石155は、
図6Bの位置Pos2において、磁場を発生させて前述の荷電粒子ビームを集束させる。
【0024】
磁場発生部153は、電磁石であり、
図1の紙面に直交する第3方向の磁場を発生させる。分岐管152は、矢印AR14で示す方向に沿って延在している。減速・加速部154は、主管151の延長方向に沿って配置された2つの電極154a、154bを有する。この2つの電極154a、154bと、加速部14の間に電位差を発生させることにより、O
-イオンを減速または加速させる。
【0025】
選別部15において、チャンバ11から主管151へ放出されたO
2分子(O
2)、Oラジカル(O
*)は、磁場発生部153により発生した磁場による影響をほとんど受けないため、
図1の矢印AR11に示すように、分岐管152側へ放出される。また、チャンバ11から主管151へ放出されたO
+イオン、低速電子(e
-
l)のほとんどは、磁場発生部153により発生した磁場により飛行方向を大きく曲げられて主管151の管壁に吸収される。そして、O
-イオンのみが、
図1の矢印AR13に示すように、減速・加速部154により減速または加速された後、反応炉41内へ誘導される。即ち、選別部15は、チャンバ11から放出されたイオンおよび低速電子のうち、O
-イオンのみを選別して反応炉41内へ誘導する。
【0026】
本実施の形態に係る特定種イオン源10では、チャンバ11内に導入されたO2ガスにコイル133から高周波が印加されると、チャンバ11内にO2分子、電子e-
l、e-
h、O+イオン、Oラジカル(O*)、O-イオンが生成される。そして、第1磁石134、第2磁石132、第3磁石135により発生された磁場により、チャンバ11内のO2分子、低速電子e-
l、O+イオン、Oラジカル(O*)およびO-イオンが、チャンバ11外へ放出される。ここで、第1磁石134はO(-)イオンの生成効率を向上する役目を果たしている。このとき、高速電子e-
hの多くは、チャンバ11の内壁に吸着されて消滅する。そして、選別部15が、O2分子、低速電子e-
l、O+イオン、Oラジカル(O*)およびO-イオンの中からO-イオンのみを選別して反応炉41内へ導入する。
【0027】
原料ガス供給源30は、液体状のDEZnを貯留する貯留部31と、第2原料ガスである気化したDEZnを反応炉41へ供給するための供給管34と、反応炉41へ供給されるDEZnの流量を調節するための流量調節バルブ33と、ノズル35と、を有する。また、原料ガス供給源30は、貯留部31を加熱するためのヒータ321と、供給管34を加熱するためのヒータ322、323と、を有する。ヒータ321は、貯留部31に貯留されたDEZnの温度を例えば60℃に加熱する。これにより、貯留部31から流量調節バルブ33へ気化したDEZnが供給される(
図1の矢印AR21参照)。ヒータ322は、供給管34における流量調節バルブ33よりも上流側の部分を例えば70℃に加熱する。流量調節バルブ33から流出したDEZnは、ノズル35へ供給される(
図1中の矢印AR22参照)。ヒータ323は、供給管34における流量調節バルブ33よりも下流側の部分を例えば80℃に加熱する。ノズル35は、供給管34の下流側の端部に設けられており、気化したDEZnを例えばマッハ5の流速で反応炉41内の特定位置に導入する(
図1の矢印AR23、AR24参照)。
【0028】
反応炉41は、特定種イオン源10により供給されるO-イオンと気化したDEZnとを反応させるためのものである。反応炉41は、O-イオンと気化したDEZnとが合流して反応する反応室411と、捕捉成長室412と、成長室413と、を有する。成長室413には、基板WTが配置されている。電磁場発生部42は、反応炉41の外側における捕捉成長室412を囲繞する位置に配置され、捕捉成長室412内に電磁場を発生させる。Arガス供給源43は、反応炉41の成長室413へArガスを供給する。
【0029】
ここで、反応室411内のO-イオンと気化したDEZnとが合流する領域A1では、下記式(1)で表される化学反応が生じ、ZnO-イオンとエタン(C2H5)とが生成される。
DEZn+O-→ZnO-+C2H5 ・・・式(1)
【0030】
領域A1で生じたC
2H
5は、
図1の矢印AR31に示すように、反応室411内に連通する排気管414を通じて反応室411外へ排出される。また、領域A1で生じたZnO
-イオンは、捕捉成長室412へ移動していく(
図1ではZnO
-イオンとZnOとは同じ記号で表わされている)。そして、電磁場発生部42は、捕捉成長室412内に電磁場を発生させることにより、元素Oと元素Znとを含む化合物であるZnOのイオンであるZnO
-イオンを捕捉成長室412内の領域A2にトラップする。これにより、領域A2にZnO
-イオンのクラスタが生じる。その後、電磁場発生部42で作り出される電位障壁をあらかじめ定められた時間経過後に取り除くことで、領域A2に生じたZnO
-イオンのクラスタは、成長室413へ移動していく。
【0031】
ここで、成長室413内の領域A3では、Arガス供給源43からArガスが供給されることにより、下記式(2)で表される化学反応が生じる。
ZnO-+Ar→ZnO+Ar+e- ・・・式(2)
【0032】
これにより、基板WT上にZnOのクラスタを成長させることができる。ここでは、基板WT上にZnOのクラスタを成長させたが、領域A2内のZnO-イオンのクラスタ、または領域A3内のZnOのクラスタを外部に排出する機構(図示せず)を設けて、ZnOの微粒子(量子ドットとすることも可能)を回収することも可能である。
【0033】
次に、本実施の形態に係る特定種イオン源10の特徴について比較例と比較しながら説明する。ここで、比較例として、
図7に示すような特定種イオン源9010を採用する。なお、
図7において、実施の形態と同様の構成については、
図3と同一の符号を付している。この特定種イオン源9010は、第1磁石134を備えない点が実施の形態に係る特定種イオン源10と相違する。ここで、実施の形態に係る特定種イオン源10と比較例に係る特定種イオン源9010とについて、チャンバ11における磁界分布のシミュレーションを行った結果を
図8Aおよび
図8Bに示す。
図8Aおよび
図8Bに示すように、実施の形態に係る特定種イオン源10のチャンバ11内の磁場の強度は、比較例に係る特定種イオン源9010のそれに比べて、全体的に高くなっている。特に、チャンバ11内におけるコイル133側における磁場の強度が高くなり、チャンバ11内の空間が強磁場により囲まれているため、第3磁石135間を特定ガスのプラズマが通り抜ける時にO
-が効率良く生成される。本発明は第1磁石134を設けることにより、つまり、コイル133側の磁場強度を高めチャンバ11内の空間を強磁場により囲むことにより、O
-の生成効率を向上できることを初めて見出した。コイル133側の磁場強度を高めるためには、第1磁石134として永久磁石、電磁石などを用いることができる。
【0034】
本実施の形態に係る特定種イオン源10と比較例に係る特定種イオン源9010とについて、イオンを発生させるために必要なチャンバ11内の圧力と高周波電源からコイル133へ供給された電力との関係を
図9Aに示す。
図9Aから、本実施の形態に係る特定種イオン源10によれば、比較例に係る特定種イオン源9010に比べてチャンバ11内の圧力が低くてもイオンを発生させることができることが判る。このことから、本実施の形態に係る特定種イオン源10は、比較例に係る特定種イオン源9010に比べてチャンバ11内へ導入するO
2ガスの量を低減することができることが判る。本実施の形態に係る特定種イオン源10は、高効率でイオンを発生することができ、比較例に係る特定種イオン源9010に比べて使用するO2()ガスの量が少ない分、ランニングコストを低くすることができ、また安定にイオンを発生できる。
【0035】
また、本実施の形態に係る特定種イオン源10と比較例に係る特定種イオン源9010とについて、発生したO
-イオンの電子温度とチャンバ11内の圧力との関係を
図9Bに示す。
図9Bから、本実施の形態に係る特定種イオン源10によれば、比較例に係る特定種イオン源9010に比べてチャンバ11内の圧力が低くても発生したO
-イオンの電子温度が高い、即ち、O
-イオンのエネルギが高いことが判った。このことから、本実施の形態に係る特定種イオン源10は、比較例に係る特定種イオン源9010に比べてチャンバ11内へ導入するO
2ガスの量を低減しながらも、反応性に富んだエネルギの高いO
-イオンを得ることができることが判る。
【0036】
次に、本実施の形態に係るプラズマ成膜装置1の動作について説明する。
図10に示すように、反応炉41の反応室411の領域A1において、領域A1に供給された気相のDEZnがO
-イオンの強力な酸化力により酸化されてZnまたはZn
+が生成される。そして、ZnまたはZn
+とO
-イオンとが反応してZnO
-またはZnOとなる。ここで、本実施の形態に係るプラズマ成膜装置1では、バイアス印加部51により、基板WTが特定種イオン源の加速部14に対して正電位となるようにバイアスが印加されている。これにより、基板WTへの負電荷の蓄積、即ち、チャージアップが抑制されている。従って、捕捉成長室412においてZnO
-またはZnOを凝集させることにより生成されたクラスタを基板WT上に安定的に膜成長させることができる。なお、基板WT上に成長させるZnO
-イオンのクラスタの大きさと密度とは、電磁場発生部42により捕捉成長室412内に発生させる電場と磁場の大きさを変化させることにより、変化させることができる。また、基板WT上に成長させるZnOのクラスタの大きさは、電磁場発生部42により捕捉成長室412内に発生させる電位障壁を取り除くタイミングを調整することにより変化させることができる。クラスタを微粒子として外部に取り出す場合には、粒子サイズを制御できる。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態に係る特定種イオン源10によれば、加速部14が、チャンバ11内に発生されたプラズマPLM中に含まれるO
2ガスの元素のイオンをチャンバ11外へ引き出すとともに、引き出されたイオンを
図1の矢印AR14で示す方向へ加速させる。そして、選別部15が、加速部14により加速されたイオンの中からO
-イオンを選別して
図1の矢印AR12で示す方向へ出力する。これにより、O
-イオンを高い純度で得ることができる。従って、基板WT上に形成されるZnOクラスタの品質および均一性を高めることができる。
【0038】
また、本実施の形態に係る特定種イオン源10では、加速部14の電場と、選別部15の磁場が、反応炉41内へ導入されるO-イオンの偏向軌道を変え、イオンを減速させる減速・加速部154が偏向軌道の最終調整を行う。これらにより、O-イオンの到達位置を変化させることにより、DEZnとO-イオンとを反応させる領域の位置を変化させることができるので、基板WT上におけるZnOクラスタの堆積位置を選択することが可能となる。
【0039】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るプラズマ成膜装置は、特定種イオン源が、そのチャンバ内への瞬間的な第1原料ガスの供給を受けて特定種のイオンを出力する点が実施の形態1に係るプラズマ成膜装置と相違する。そして、プラズマ成膜装置は、このような特定種イオン源を備えることにより、反応炉を含む特定種イオン源の下流側装置の真空度の設定自由度を高めることができるので、例えば真空度を高めて特定種イオン源から出力される特定種のイオンの挙動を制御し易くするというものである。
【0040】
例えば
図11に示すように、本実施の形態に係る特定種イオン源2010は、チャンバ11と、原料ガス供給源12と、原料ガス供給管19と、プラズマ発生器2013と、加速部14と、選別部15と、電磁弁2016と、制御部2017と、を備える。なお、
図11において、実施の形態1と同様の構成については
図1と同一の符号を付している。プラズマ発生器2013は、実施の形態1と同様に、コイル133と、第1磁石134と、第2磁石132と、第3磁石135と、高周波電源2136と、を有する。高周波電源2136は、制御部2017から入力される制御信号に基づいて、コイル133へ交流高周波電流を供給する。
【0041】
電磁弁2016は、原料ガス供給管19に介挿され、第1原料ガスである酸素(O2)ガスのチャンバ11内への供給を許容する開状態と、酸素ガスのチャンバ11内への供給を遮断する閉状態と、をとりうる動力弁である。電磁弁2016は、例えばコイル、ヨーク、スリーブ、可動鉄心および固定鉄心を有するソレノイド部(図示せず)と、可動鉄心に連結され原料ガス供給管19を開閉する弁体と、を備える。電磁弁2016では、ソレノイド部のコイルに電流が流れると可動鉄心および固定鉄心が磁化され、互いの吸引力により可動鉄心が移動する。そして、可動鉄心の移動に応じて、可動鉄心に連結された弁体が、原料ガス供給管19を開放する位置と原料ガス供給管19を閉塞する位置との間で移動する。
【0042】
制御部2017は、電磁弁2016のソレノイド部へ供給する電流を制御することにより、電磁弁2016を制御する。また、制御部2017は、高周波電源2136へ制御信号を出力することにより、高周波電源2136からコイル133への交流電流の供給を制御する。制御部2017は、例えば
図12Aに示すように、時刻T0において、電磁弁2016を開状態にすると同時に高周波電源2136からコイル133へ交流電流の供給を開始する。そして、制御部2017は、時刻T0から予め設定された第1時間ΔT1だけ経過した後、電磁弁2016を閉状態にするように電磁弁2016を制御する。これにより、原料ガスが、チャンバ11内へ第1時間ΔT1の間だけ瞬間的に供給される。なお、第1時間ΔT1は、例えば2.6msecに設定される。また、制御部2017は、時刻T0から、予め設定された第1時間ΔT1よりも長い第2時間ΔT2だけ経過した後、高周波電源2136からコイル133への交流電流の供給を遮断するように、高周波電源2136を制御する。ここで、第2時間ΔT2の長さは、第1時間ΔT1の長さの10倍以上に設定されるのが好ましい。第2時間ΔT2は、例えば1secに設定される。
【0043】
ここで、本実施の形態に係る特定種イオン源2010について、原料ガスをチャンバ11内へ瞬間的に供給した場合における特定種イオン源2010の下流側の圧力の経時変化を測定した結果について説明する。ここでは、第1時間ΔT1を2.6msec、チャンバ11内への原料ガス供給時における原料ガス供給管19内の圧力を0.5MPa、高周波電源2136からコイル133への供給電力を500W、第2時間ΔT2を1secとした。
図12Bに示すように、特定種イオン源2010の下流側では、電磁弁2016を開状態にした時刻T0から、4sec以内で圧力が0.1Pa以下にまで減少することが確認できた。
【0044】
次に、本実施の形態に係る特定種イオン源2010について、原料ガスをチャンバ11内へ瞬間的に供給した場合においてチャンバ11内に発生するプラズマ中のO
-イオンの存在有無を確認した結果について説明する。ここでは、第1時間ΔT1を2.6msec、チャンバ11内への原料ガス供給時における原料ガス供給管19内の圧力を0.5MPa、第2時間ΔT2を1secとし、高周波電源2136からコイル133への供給電力を100W、400W、800Wに変化させながら、チャンバ11内に発生するプラズマの発光スペクトルを測定した。この発光スペクトルは、
図13に示すように、高周波電源2136からコイル133への供給電力に関わらず、O原子に特有の844nm付近、926nm付近にピークを有するものであった。このことから、チャンバ11内に発生するプラズマ中にO原子の発生に伴い生じるO
2ガスの元素のイオンが存在していることが確認できた。
【0045】
これらの結果から、本実施の形態に係る特定種イオン源2010によれば、特定種イオン源2010の下流側の真空度を高くしつつ、チャンバ11内で発生させたO-イオンを反応炉41へ供給することができることが判った。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態に係る特定種イオン源2010によれば、制御部2017が、電磁弁2016を開状態にするとほぼ同時に高周波電源2136からコイル133へ交流電流の供給を開始してから第1時間ΔT1だけ経過した後、電磁弁2016を閉状態にするように、電磁弁2016を制御する。これにより、特定種イオン源2010の下流側装置の真空度を高い状態で維持することができるので、O-イオンの平均自由行程が長くなり、チャンバ11内で発生させたO-イオンの挙動を制御し易くなるという利点がある。
【0047】
また、本実施の形態に係る制御部2017は、高周波電源2136からコイル133へ交流電流の供給を開始してから第2時間ΔT2だけ経過した後、高周波電源2136からコイル133への交流電流の供給を遮断するように、高周波電源2136を制御する。そして、第2時間ΔT2の長さは、第1時間ΔT1の長さの10倍以上に設定されている。これにより、第2時間ΔT2の間はO2ガス濃度が高くチャンバ11内にプラズマが発生し易くなるので、プラズマ中に含まれるO2ガスの元素のイオンを安定的に反応炉41へ供給することができる。
【0048】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、本実施の形態に係る制御部2017は、電磁弁2016を開状態にするとほぼ同時に高周波電源2136からコイル133へ交流電流の供給を開始しているが、コイル133へ交流電流の供給を開始してから電磁弁2016を開状態にしてもよい。また、特定種イオン源10をALD(Atomic Layer Deposition)法に適用してもよい。この場合、まず、反応炉41内にDEZnを導入し、DEZnを基板WT上に自己配列させる。次に、余分なDEZnを反応炉41内から追い出してから、反応炉41内にO-イオンを導入する。これにより、基板WT上においてDEZnとO-イオンとが反応しZnOが形成される。その後、余分なO-イオンを反応炉41内から追い出してから、再び反応炉41内にDEZnを導入する。以後、これらの一連の処理を繰り返すことにより、必要な膜厚の緻密なZnOの薄膜を形成することができる。
【0049】
本構成によれば、ALD法による薄膜作製時においてDEZnを酸化させる際に、基板WTを酸素プラズマに曝す必要がないので、プラズマによる基板WTへのダメージが防止される。また、O-イオンが基板WTの表面に安定的に供給されるので、基板WT上に高アスペクト比の構造その他複雑な構造が形成されている場合でも、ZnO薄膜を良好に埋め込むことが可能である。更に、ZnO薄膜中にピンホールが発生することも抑制される。また、ZnO微粒子においては、欠陥の少ない活性度の高い微粒子を得ることができる。
【0050】
各実施の形態では、特定種イオンが、O-イオンである例について説明したが、特定種イオンはこれに限定されるものではない。特定種イオンが、例えばN2-イオンなどのNイオン、Hイオン、Cイオンなどであってもよく、イオンも正イオン、負イオンのどちらの極性であっても、電界と磁界の向きを反対にすればよい。また、実施の形態では、第2原料ガスがDEZnであり、ZnOを形成する例について説明したが、これに限らず、例えば第2原料ガスとして採用する有機金属の種類を変更することにより、Al2O3、HfO2、HfSiO、La2O3、SiO2、STO、Ta2O5、TiO2などのクラスタまたは薄膜を形成してもよい。或いは、特定種イオンがN2-である場合、AlN、HfN、SiN、TaN、TiNのクラスタまたは薄膜が形成されてもよい。
【0051】
実施の形態1では、プラズマ発生器13が、1つの円柱状の第1磁石134を有する例について説明したが、第1磁石134の数は1つに限定されるものではない。例えば
図14Aに示すように、プラズマ発生器3013が、コイル133の中心軸C1に対してほぼ点対称に配置された2つの円柱状の第1磁石3134を有するものであってもよい。ここで、第1磁石3134は、第1磁石3134の中心軸C31、C32がコイル133の中心軸C1とほぼ平行となるように配置されている。また、2つの第1磁石3134は、それぞれの中心軸C31、C32の間の距離L1が例えば7cmとなるように配置されてもよい。また、例えば
図14Bに示すように、プラズマ発生器4013が、コイル133の中心軸C1を囲繞するように3つの円柱状の第1磁石4134を有するものであってもよい。ここで、第1磁石4134は、第1磁石4134の中心軸C41、C42、C43がコイル133の中心軸C1とほぼ平行となるように配置されている。また、3つの第1磁石4134のうち2つの第1磁石4134は、それぞれの中心軸C41、C42の間の距離L21が例えば6cmであり、それぞれの中心軸C41、C42を含む仮想平面VPとコイル133の中心軸C1との間の距離L22が例えば2cmとなるように配置されてもよい。また、3つの第1磁石4134のうちの残りの1つの第1磁石4134は、その中心軸C43とコイル133の中心軸C1との間の距離L23が例えば3cmとなるように配置されてもよい。
【0052】
ここで、前述のプラズマ発生器3013、4013について、チャンバ11内にプラズマを発生させるために必要な原料ガスが導入されたチャンバ11内の最低圧力と、第1磁石3134、4134の中心磁束密度と、の関係を確認した結果について説明する。
図15に示すように、前述の比較例に係る特定種イオン源9010の場合、チャンバ11内の最低圧力は、4.8Paであった。これに対して、実施の形態に係るプラズマ発生器13の場合、チャンバ11内の最低圧力は、2.7Pa乃至2.9Paであった。これに対して、前述のプラズマ発生器3013の場合、チャンバ11内の最低圧力は、2.2Pa乃至2.5Paであり、前述のプラズマ発生器4013の場合、チャンバ11内の最低圧力は、2.0Pa乃至2.5Paであった。なお、プラズマ発生器13、3013、4013および特定種イオン源9010それぞれにおける、コイル133とチャンバ本体111の底壁111aとの間の距離は、いずれも8mmとなるようにした。このように、本変形例に係るプラズマ発生器3013、4013によれば、前述の比較例または実施の形態1に係るプラズマ発生器13の場合に比べて、チャンバ11内の最低圧力を低減することができることが判った。
【0053】
本構成によれば、プラズマ発生器3013、4013において、前述の比較例または実施の形態1に係るプラズマ発生器13の場合に比べて、チャンバ11内の最低圧力を低減することができる。これにより、チャンバ11内へ導入する原料ガスの必要量が低減されるので、その分、原料ガスを節約することができ、また、より安定にイオン供給ができる。
【0054】
各実施の形態では、プラズマ発生器13が有する第1磁石134が1個、および2個、3個である例を説明したが、4個以上であってもよい。また、第1磁石134が複数個の場合、コイル133の中心軸C1を囲繞するように同心円状に配置されているが、コイル133の中心軸C1を囲繞するように自由に配置されていてもよい。また、プラズマ発生器13が有する第1磁石134が、円柱状である例について説明したが、第1磁石134の形状は円柱状に限定されるものではない。例えば
図16Aに示す第1磁石5134のように、円筒状であってもよい。ここで、第1磁石5134の外径D21は例えば6cm、内径D22は例えば5cm、高さH1は例えば20mmに設定される。そして、この第1磁石5134は、例えば
図16Bに示すプラズマ発生器5013のように、第1磁石5134の中心軸C5がコイル133の中心軸C1とほぼ一致するように配置されてもよい。また、第1磁石5134の形状は直方体や多角柱形であってもよい。
【0055】
以上、本発明の実施の形態および変形例(なお書きに記載したものを含む。以下、同様。)について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【0056】
本出願は、2018年6月14日に出願された日本国特許出願特願2018-113593号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2018-113593号の明細書、特許請求の範囲および図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、Low-kゲート酸化膜、ストレージキャパシタ誘電体、OLED、結晶シリコン太陽電池その他半導体装置のパッシベーション層、マイクロ流体デバイス、MEMS向けの高被覆性コーティング膜、酸化物触媒層等の製造に好適である。
【符号の説明】
【0058】
1:プラズマ成膜装置、10,2010:特定種イオン源、11:チャンバ、12,30:原料ガス供給源、13,2013,3013,4013,5013:プラズマ発生器、14:加速部、15:選別部、19:原料ガス供給管、31:貯留部、33:流量調節バルブ、34:供給管、35:ノズル、41:反応炉、42:電磁場発生部、43:Arガス供給源、51:バイアス印加部、111:チャンバ本体、111a:底壁、111b:側壁、112:蓋体、112a:放出孔、112b:導入孔、112c:開口部、132:第2磁石、133:コイル、134,3134,4134,5134:第1磁石、135:第3磁石、136,2136:高周波電源、137:フィラメント、141a,141b,141c,154a,154b:電極、151:主管、152:分岐管、153:磁場発生部、154:減速・加速部、155:四重極磁石、321,322,323:ヒータ、411:反応室、412:捕捉成長室、413:成長室、414:排気管、2016:電磁弁、2017:制御部、A1,A2,A3:領域、PLM:プラズマ