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特許7125792神経変性疾患の治療又は予防用Nurr1/RXR活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】神経変性疾患の治療又は予防用Nurr1/RXR活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4192 20060101AFI20220818BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A61K31/4192
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021003087
(22)【出願日】2021-01-12
(62)【分割の表示】P 2017510201の分割
【原出願日】2016-03-31
(65)【公開番号】P2021063127
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2015072506
(32)【優先日】2015-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加来田 博貴
【審査官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076953(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105386(WO,A1)
【文献】特開2013-177329(JP,A)
【文献】国際公開第2013/020966(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/090616(WO,A1)
【文献】KAWATA, K. et al.;,RXR Partial Agonist Produced by Side Chain Repositioning of Alkoxy RXR Full Agonist Retains Antitype,Journal of Medicinal Chemistry,2014年,vol.58, pp.912-926,全文、特に、ABSTRACT、第918頁"conclusion"欄
【文献】KAKUTA, H. et al.;,RXR Partial Agonist CBt-PMN Exerts Therapeutic Effects on Type 2 Diabetes without the Side Effects o,ACS Medicinal Chemistry Letters,2012年,vol.3, pp.427-432,全文、特に、ABSTRACT
【文献】Expert Rev. Neurother.,2011年,Vol.11, No.4,p.467-468
【文献】FEBS Letters,2011年,Vol.585,p.3821-3828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4192
A61P 43/00
A61P 25/00
A61P 25/28
A61P 25/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物であるRXRアゴニストの有効量を含んでなる、認知症、パーキンソン病又は多発性硬化症から選択される神経変性疾患の治療又は予防用Nurr1/RXR活性化剤。
【化1】
[式中、Aは、CMe2を示す。X及びYは、Nを示す。ZはCHを示す。R1は、メチルを示す。R2は、Hを示す。]
【請求項2】
前記神経変性疾患が、認知症である請求項に記載のNurr1/RXR活性化剤。
【請求項3】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病である請求項に記載のNurr1/RXR活性化剤。
【請求項4】
前記神経変性疾患が、多発性硬化症である請求項に記載のNurr1/RXR活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RXRアゴニストを有効成分とする、神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患、中でも認知症(アルツハイマー病を含む)に対する治療戦略として、核内受容体を標的とする研究がなされている。例えば、PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)に対するアゴニストの認知症に対する治療効果が報告されている。また、レチノイドX受容体(retinoid X receptor:RXR)を標的とするフルアゴニスト(完全作動薬)であるベキサロテン(bexarotene)の認知症に対する治療効果も報告されている。
【0003】
ベキサロテンは、アメリカ及び日本を含む多数の国で皮膚浸潤性T細胞リンパ腫の治療薬として利用されており、2型糖尿病に対する治療効果、アルツハイマー病モデルマウスにおける治療効果、及びパーキンソン病に対する治療効果が報告されている。しかしながら、ベキサロテンを含むこれまでのRXRアゴニストは、甲状腺機能低下、肝肥大、体重増加、血中トリグリセリドの上昇などの副作用が問題であった。このような、副作用が問題となるRXRアゴニストはいずれもRXRを完全に活性化しうるフルアゴニストであった。
【0004】
本発明者らは、RXRアゴニストにより示される薬効の閾値と、肝肥大などの副作用発現の閾値に差があると仮説を立てた。そして、RXRフルアゴニストに比べ活性化能(efficacy)を抑えたパーシャルアゴニストであれば、副作用を回避しつつ、単剤でインスリン抵抗性のみならず耐糖能を改善しうる薬効を示すのではないかと考えた。研究の結果、発明者らが創出したRXRパーシャルアゴニストが、これまで問題となっていたRXRフルアゴニストに見られた副作用を軽減して、強力な血糖降下作用、インスリン抵抗性の改善を示すことを見出した。以下に、発明者ら創出した代表的なRXRパーシャルアゴニストの分子構造を示す(特許文献1~4参照)。
【0005】
【化1】
【0006】
上記それぞれの化合物を、マウスに1週間30mg/kg/dayで経口投与し、1週間の体重変化、さらにRXRフルアゴニストで問題となっている肝肥大及び血中トリグリセリド上昇について調べた。その結果、RXRパーシャルアゴニストであるCBt-PMNおよびNEt-4IB投与群では体重増加傾向は見られなかった。また、肝臓重量、トリグリセリドについても、CBt-PMNおよびNEt-4IB投与群はvehicleと変わらなかった。さらに雌雄のラットに対して、28日間にわたり30mg/kg/dayで反復経口投与を行ったものの、体重変化、摂水量、摂餌量においても、vehicleと大きな差は見られなかった(非特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-111588号公報
【文献】特開2013-177329号公報
【文献】WO2008/105386
【文献】特開2014-076953号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】H. Kakuta et al., ACS Med. Chem. Lett. 3, 427-432 (2012)
【文献】F. Ohsawa et al., J. Med. Chem. 56, 1865-1877 (2013)
【文献】K. Kawata et al., J. Med. Chem. 58, 912-926 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
RXRアゴニストは、PPAR/RXR、LXR/RXR、及び神経保護作用について報告されているNurr1/RXRなどのRXRヘテロダイマーを単独で活性化することが知られている(パーミッシブ機構)。また、RXRアゴニストはその構造が異なると、RXRに対する活性化能が同程度であっても、RXRアゴニスト単独によるRXRパーミッシブヘテロダイマーに対する活性化能が異なることが知られている。したがって、RXRフルアゴニストであるベキサロテン(bexarotene)などにアルツハイマー病に対する治療効果や、パーキンソン病に対する治療効果が認められるからといって、RXRパーシャルアゴニストでも認められるとは判断できない。また、RXRに対する活性化能を抑制したパーシャルアゴニストだからといって、RXRフルアゴニストに比べ所望の薬効が弱くなるとも言えない。
【0010】
また、投与薬物がアルツハイマー病やパーキンソン病のような脳や中枢神経の疾患に対する治療効果を発揮するためには、当該薬物の脳移行性が要求される。しかし、脳移行性については、容易に予測できるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、CBt-PMN、NEt-4IB等のRXRパーシャルアゴニストについて、ベキサロテン以上の神経変性疾患治療効果を見出し、本発明を完成した。即ち本発明は、RXRパーシャルアゴニストを成分とする神経変性疾患を治療または予防するための医薬組成物である。
【0012】
本発明は、下記式(1)又は式(2)で表される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物である。
【0013】
【化2】
【0014】
[式中、Aは、CMe2、Nメチル、Nエチル又はNイソプロピルを示す。Xは、N、CH又はC-CF3を示す。Y及びZは、N又はCHを示す。R1は、メチル、ヒドロキシ、メトキシ又はエトキシを示す。R2は、H、メチル又はエチルを示す。]
【0015】
【化3】
【0016】
[式中、Bは、NR3又はCHR3を示し、R3は、アルキルを示す。R4は、H、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アリール、アルキニル、アルコキシ又はアシルを示す。Z及びR2は、前記式(1)に同じ。]
【0017】
このとき、前記RXRアゴニストが一酸化窒素の産生に対する抑制効果を有することが好ましい。前記RXRアゴニストがNurr1/RXR活性効果を有することも好ましい。前記RXRアゴニストが学習記憶障害の改善効果を有することも好ましい。前記RXRアゴニストが脳萎縮の改善効果を有することも好ましい。また、前記神経変性疾患が、認知症、パーキンソン病又は多発性硬化症であることが好適な実施態様である。
【0018】
好適な実施態様は、上記式(1)で表される化合物であるRXRアゴニストの有効量を含んでなる、神経変性疾患の治療又は予防用Nurr1/RXR活性化剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物は、既存のRXRフルアゴニストであるbexaroteneなどに見られるトリグリセリド上昇などを軽減し、bexaroteneを凌ぐ神経変性疾患に対する治療効果ならびに当該疾患の進行を抑制する予防効果が期待できるため、そのような疾患に対する医薬として利用することができる。
【0020】
本発明の神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物では、RXRの適度な活性化を通じて、Nurr1(nuclear receptor related 1 protein)/RXRの活性化による神経保護作用が発現するとともに、一酸化窒素などの炎症性物質を主因とする他の疾患を治療もしくは予防することもできる。したがって、発作;神経系への虚血性ダメージ;打撃性脳損傷、脊髄損傷、および神経系への外傷性ダメージなどの神経外傷;多発性硬化症やその他の免疫が介在する神経障害;ならびに細菌性およびウイルス性髄膜炎等の疾患に対して有効な医薬組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1において、RXRパーシャルアゴニストのNurr1/RXRに及ぼす効果を示す図である。
図2】実施例2において、LPS刺激によるマクロファージ一酸化窒素産生に対するRXRパーシャルアゴニストの阻害活性を示す図である。
図3】実施例4において、RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)に及ぼす効果(0~2週のステップスルー試験)を示す図である。
図4】実施例4において、RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)に及ぼす効果(4~6週のステップスルー試験)を示す図である。
図5】実施例5において、RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)に及ぼす効果(Y路迷路試験)を示す図である。
図6】実施例6において、RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)の脳及び海馬の体積変化を示す図である。
図7】実施例7において、RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)の血液データ及び肝臓重量の変化を示す図である。
図8】実施例9において、RXRパーシャルアゴニスト投与による多発性硬化症モデルマウスの病態スコアに及ぼす効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、核内受容体であるレチノイドX受容体(Retinoid X Receptor; RXR)に対する部分作動薬を含む、神経変性疾患、中でも認知症(アルツハイマー病を含む)、パーキンソン病、多発性硬化症および炎症性成分が原因の神経疾患を治療または予防するための医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、RXRパーシャルアゴニストを有効成分とするものである。
【0023】
本発明の神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物は、下記式(1)又は式(2)で表される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする。
【0024】
【化4】
【0025】
上記式(1)中、Aは、CMe2、Nメチル、Nエチル又はNイソプロピルを示す。Xは、N、CH又はC-CF3を示す。Y及びZは、N又はCHを示す。R1は、メチル、ヒドロキシ、メトキシ又はエトキシを示す。R2は、H、メチル又はエチルを示す。
【0026】
【化5】
【0027】
上記式(2)中、Bは、NR3又はCHR3を示し、R3は、アルキルを示す。R4は、H、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アリール、アルキニル、アルコキシ又はアシルを示す。Z及びR2は、前記式(1)に同じ。
【0028】
上記式(1)又は(2)で表される化合物は、薬学的に許容される塩であってもよい。また、当該化合物に異性体(例えば光学異性体、幾何異性体又は互換異性体)が存在する場合は、当該化合物はそれらの異性体を包含する。また当該化合物は、溶媒和物及び水和物を包含し、種々の形状の結晶も包含する。
【0029】
本発明において、薬学的に許容される塩とは、薬理学的及び製剤学的に許容される一般的な塩が挙げられる。そのような塩として、具体的には以下が例示される。
【0030】
塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;N、N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0031】
酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
【0032】
式(1)中、Aは、CMe2、Nメチル、Nエチル又はNイソプロピルを示す。中でも、CMe2が好適である。Xは、N、CH又はC-CF3を示す。中でもNが好適である。Yは、N又はCHを示す。中でもNが好適である。Zは、N又はCHを示す。中でもCHが好適である。R1は、メチル、ヒドロキシ、メトキシ又はエトキシを示す。中でもメチルが好適である。R2は、H、メチル又はエチルを示す。中でもHが好適である。
【0033】
式(2)中、Bは、NR3又はCHR3を示し、NR3が好適である。R3は、アルキルを示す。ここで、アルキルは、炭素数が1~20個、好ましくは1~10個の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソぺンチル、ネオぺンチル、tert-ぺンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル等が挙げられる。より好ましくは、炭素数1~6個のアルキルであり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソぺンチル、ネオぺンチル、tert-ぺンチル、n-ヘキシル、イソヘキシルが挙げられる。中でもエチルが特に好適である。
【0034】
式(2)中、R4は、H、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アリール、アルキニル、アルコキシ又はアシルを示す。中でも、Hが好適である。アルキルは、上記R3と同じものを用いることができる。
【0035】
R4中のアルケニルは、上記アルキルの構造に1個又はそれ以上の二重結合を有する、炭素数2~20個、好ましくは2~8個の直鎖状又は分枝状のアルケニルを意味し、例えば、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタジエニル、3-メチル-2-ブテニル等が挙げられる。
【0036】
R4中のアリールは、単環芳香族炭化水素基(フェニル)及び多環芳香族炭化水素基(例えば、1-ナフチル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリル、9-フェナントリル等)を意味する。好ましくは、フェニル又はナフチル(1-ナフチル、2-ナフチル)が挙げられる。
【0037】
R4中のアルキニルは、上記アルキルの構造に1個又はそれ以上の三重結合を有する、炭素数2~20個、好ましくは2~10個のアルキニルを意味し、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル等が挙げられる。
【0038】
R4中のアルコキシは、炭素数1~20の直鎖状または分枝状のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクタデカノキシ基、アリルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~6個の直鎖状または分枝状の低級アルコキシが好ましい。
【0039】
R4中のアシルは、アルカノイルおよびアロイルなどを意味する。該アルカノイルとしては、例えば、炭素数1~6個、好ましくは1~4個のアルキルを有するアルカノイル(ホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、プロピオニル、ブチリルなど)が挙げられる。アロイルとしては、例えば、炭素数7~15個のアロイル、具体的には、例えばベンゾイル、ナフトイルなどが挙げられる。
【0040】
式(2)中、Z及びR2は、前記式(1)に同じである。
【0041】
上記の式(1)及び式(2)で表される化合物は、RXRに対しパーシャルアゴニスト活性を有する。ここでRXRはDNAの転写に関わる核内受容体であることから、上記の式(1)及び式(2)で表される化合物は転写調節化合物ということもできる。本明細書において「調節」という用語又はその類似語は、作用の増強又は抑制を含めて最も広義に解釈する必要がある。本発明の化合物が増強作用又は抑制作用のいずれを有するかは、本明細書の実験例に具体的に示した方法に従って容易に検定可能である。
【0042】
本発明の医薬組成物の投与量は特に限定されない。例えば、認知症に対する有効性が報告されているレチノイン酸やタミバロテンなどのレチノイドを有効成分として含む医薬と、本発明の化合物とを併用してレチノイドの作用を調節する場合、あるいは、レチノイドを含む医薬を併用せずに、生体内に既に存在するレチノイン酸の作用調節のために本発明の薬剤を投与する場合など、あらゆる投与方法において適宜の投与量が選択できる。例えば、経口投与の場合には有効成分を成人一日あたり0.01~1000mg程度の範囲で用いることができる。レチノイドを有効成分として含む医薬と本発明の薬剤とを併用する場合には、レチノイドの投与期間中、及び/又はその前若しくは後の期間のいずれにおいても本発明の薬剤を投与することが可能である。
【0043】
本発明の医薬組成物は、上記の式(1)及び式(2)で表される化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物をそのまま投与してもよいが、好ましくは、上記の化合物の1種又は2種以上を含む、経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することが好ましい。経口用あるいは非経口用の医薬組成物は、当業者に利用可能な製剤用添加物、即ち薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体を用いて製造することができる。また、他の神経変性疾患治療効果を示す医薬組成物に上記の式(1)及び式(2)で表される化合物の1種又は2種以上を配合して、いわゆる合剤の形態の医薬組成物として用いることもできる。具体的には、認知症に対しては、塩酸ドネペジル等のコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチン塩酸塩等のNMDA受容体阻害薬と併用して用いることができる。またパーキンソン病に対しては、レボドパ等のドーパミン作動性前駆体、ドーパミン受容体作動薬、選択的モノアミン酸化酵素B阻害剤、COMT阻害剤又はムスカリン作動性拮抗薬と併用して用いることもできる。
【0044】
経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、及び貼付剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物の製造に用いられる薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0045】
本発明の医薬組成物は、神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物として用いられる。本発明の医薬組成物に含まれる式(1)及び式(2)で表される化合物は、RXRアゴニストであるが、フルアゴニスト(完全作動薬)ではなく活性化能(efficacy)を抑えたパーシャルアゴニスト(部分作動薬)である。RXRパーシャルアゴニストを有効成分とすることによって、副作用を軽減しながら治療又は予防効果を向上させることができる。
【0046】
本発明の医薬組成物において、RXRアゴニストが一酸化窒素の産生に対する抑制効果を有することが好ましい。また、RXRアゴニストがNurr1/RXR活性効果を有することも好ましく、RXRアゴニストが学習記憶障害の改善効果を有することも好ましい。さらに、RXRアゴニストが脳萎縮の改善効果を有することも好ましい。
【0047】
本発明の神経変性疾患の治療又は予防用医薬組成物では、RXRの適度な活性化を通じて、Nurr1/RXRの活性化による神経保護作用が発現するとともに、一酸化窒素などの炎症性物質を主因とする他の疾患を治療もしくは予防することもできる。したがって、発作;神経系への虚血性ダメージ;打撃性脳損傷、脊髄損傷、および神経系への外傷性ダメージなどの神経外傷;多発性硬化症やその他の免疫が介在する神経障害;ならびに細菌性およびウイルス性髄膜炎等の疾患に対して有効な医薬組成物を提供できる。前記神経変性疾患が、認知症、パーキンソン病又は多発性硬化症であることが好適な実施態様である。
【実施例
【0048】
以下、上記式(1)及び式(2)で表される化合物の各種薬理作用ならびに製造方法を具体的に説明する。各化合物の製造方法において用いられた出発原料及び試薬、並びに反応条件などを適宜修飾ないし改変することにより、本発明の範囲に包含される化合物はいずれも製造可能である。なお、本発明は下記の実施例の範囲に限定されない。以下の実験については、岡山大学実験動物委員会の承認の上、実施した。
【0049】
実施例1
<RXRアゴニストによるNurr1/RXRヘテロダイマーの活性化>
(1)目的
Nurr1/RXRの活性化によるドーパミン作動性神経の保護作用が知られており、またNurr1/RXRはRXRアゴニスト単独でも活性化されるパーミッシブヘテロダイマーであることから、各種RXRアゴニストによるNurr1/RXRの活性化の有無を調べた。
【0050】
(2)測定原理
核内受容体の多くは転写調節に関わる転写因子であるため、その転写活性を測定する手段としてレポーター遺伝子アッセイ(reporter gene assay)が行われる。COS-1細胞やHeLa細胞などの細胞に、RXR受容体タンパク質発現プラスミド及びレポータープラスミドを導入し、融合タンパク質(fusion protein)を過剰発現させる。そこで、RXR作動性物質(リガンド)が受容体に結合すると、転写がリガンド依存的に起こり、その下流にある融合タンパク質が生成され、下流にあるルシフェラーゼの産生が始まる。このルシフェラーゼ活性を測ることにより、RXR作動活性を測定した。また、Nurr1とのヘテロダイマーアッセイについては、Nurr1の発現プラスミド及びNurr1に対応する遺伝子配列を有するレポータープラスミドを導入した。また、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)発現プラスミドを導入し、SEAPの活性を測定することで、形質転換効率の補正を行った。
【0051】
(3)宿主細胞の培養
細胞の増殖培地として、ダルベッコ変法イーグルMEM培地(DMEM)を用いた。まず、500mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)にDMEM粉末を4.75g溶解し、高圧加熱滅菌(121℃、20分間)を行った。その後、室温に戻し、これに非働化したウシ胎児血清(FBS)を10%(v/v)となるように加え、さらに高圧加熱滅菌した10%NaHCO3を10mL添加した。その後、L-グルタミン0.292gを8mLの超純水に溶解したものをろ過滅菌後添加して、培地を調製した。
【0052】
各細胞の継代は、以下のように行なった。100mm培養シャーレで培養した細胞の培養上清を除き、トリプシン処理により細胞を回収し、4℃、1000rpm、3分間遠心分離した後、増殖培地を加えて細胞を分散させた。次いで、100mm培養シャーレに細胞を分散した増殖培地を15mL加え、37℃、5%CO2存在下で培養することによって行なった。
【0053】
形質転換はEffecteneTM Transection Reagent(QIAGEN社)を用いて行った。RXRの陽性コントロールにはベキサロテン(bexarotene)を用いた。これらをDMSOに溶解したものをストック溶液とし、アッセイするプレートにおいて計測した。
【0054】
(4)転写活性の測定
(1日目)60mm培養シャーレに、増殖培地5mLとともにCOS-1細胞を50×104cells播種し、一晩培養した。
【0055】
(2日目)Effectene(R) Transection Reagent(QIAGEN社)を用いたリポフェクション法によりRXR発現プラスミドpCMX-RXRα(0.5μg)、Nurr1発現プラスミドpCMX-Nurr1(0.5μg)、Nurr1応答ルシフェラーゼレポータープラスミドNX' 3x 3-tk-Luc(4μg)、SEAP(1μg)を導入した。なお、これらのプラスミドは日本大学槇島教授より提供いただいた。
【0056】
(3日目)16~18時間後、培養上清を除き、トリプシン処理により細胞を回収し、4℃、1000rpm、3分間の遠心分離後、増殖培地を加えて細胞を分散し、20×104cells/wellとなるように96ウェルのホワイトプレートに播種した。その後、DMSO濃度が1%以下になるように各化合物を加えた。
【0057】
(4日目)24時間後、上清25μLをSEAP測定に用い、残りの細胞液はルシフェラーゼ活性測定に用いた。
【0058】
SEAP測定は、Methods in molecular biology、63、pp.49-60、1997/ BD Great EscAPe SEAP User manual(BD bioscience)に記載の方法に従い行った。
【0059】
具体的には、以下の方法で測定した。上記4日目の上清25μLに対して希釈用緩衝液を25μL加えた後、65℃で30分インキュベートした。その後室温に戻し、アッセイ用緩衝液 (7μL)、10×MUP(0.3μL)、希釈用緩衝液(2.7μL)を加え、暗所室温で60分インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(インフィニットTM(infinite)200、TECAN社製)を用い、励起波長360nm、蛍光波長465nmにより蛍光強度を測定した。
【0060】
アッセイ用緩衝液は、以下の方法で調製した。50mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)にL-ホモアルギニン(0.45g)と塩化マグネシウム(0.02g)を溶解させ、ジエタノールアミン(21mL)を加えた。その後、塩酸を用いてpHを9.8になるように調整した後、超純水を用いて全量が100mLになるようにメスアップし、それを4℃で保存した。
【0061】
希釈用緩衝液は、以下の方法で調製した。90mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)に塩化ナトリウム(4.38g)とTris Base(2.42g)を溶解させた。その後、塩酸を用いてpHが7.2になるように調整し、5倍濃度希釈用緩衝液を作製し、それを4℃で保存した。使用直前にそれを5倍希釈することで希釈用緩衝液を作製した。
【0062】
4-メチルウンベリフェリルホスフェート(MUP)を25mMになるように超純水(Milli-Q(R)にて生成)に溶解させ、それを-20℃で保存したものを、10×MUPとした。
【0063】
ルシフェラーゼ活性は、NUNC社製の96穴ホワイトプレートを用い、発光基質(Steady-Glo(R) Luciferase Assay System、Promega社製)との反応産物との発光強度をマイクロプレートリーダー(インフィニットTM(infinite)200、TECAN社製)を用いて測定した。
【0064】
(5)測定結果
上記の測定結果を図1に示した。測定結果は、陽性コントロールとしてbexaroteneを1μM反応させたときの転写活性を100%とし、相対活性として得た。その結果、CBt-PMNについて、Nurr1/RXR転写活性を認めた。
【0065】
実施例2
<LPS刺激によるマクロファージ一酸化窒素産生に対するRXRパーシャルアゴニストの阻害活性>
(1)目的
iNOS(inducible nitric oxide synthase)やTNFα(tumor necrosis factor‐α)などの炎症性サイトカインの発現は、転写因子であるNFκBの活性化に起因することが多い。また、NFκBの活性化にはコアクチベーターと言われる転写共役因子を伴う。RXRを作動薬によって活性化した場合も、RXRはコアクチベーターを誘導する。PPARγについて、その活性化によってNFκBの活性化に用いられるコアクチベーターを奪取することで、抗炎症効果が説明されており、RXRにおいても同様な効果が期待された。
【0066】
マウスマクロファージ様細胞であるRaw264.7細胞は、TLR-4のリガンドとして知られるリポポリサッカライド(LPS)によってNFκBの活性化に伴うiNOSを発現し、一酸化窒素(NO)を産生する。ここにprednisoloneなどのステロイド系抗炎症薬を添加すると、グルココルチコイド受容体(GR)の活性化によるコアクチベーターのNFκBからの奪取によって、iNOS発現及びNO産生の抑制が見られる。そこで、各種RXRアゴニストについて、Raw264.7細胞とLPSを用いた系におけるNO産生に対する抑制能を調べた。
【0067】
(2)NO測定法
(1日目)96wellプレートに、Raw264.7細胞を1.0×105cells/wellで播種した。
(2日目)LPS(100ng/mL)と各RXRアゴニストをDMSO(最終濃度0.1%)の溶液として添加し、48hインキュベートした。
(4日目)培養上清50μLを用い、Griess法(PROMEGA G2930を利用)によりNO濃度を測定した。
【0068】
(3)結果
図2に結果を示す。図中Aは3IB(NEt-3IB:RXRフルアゴニスト)、4IB(NEt-4IB:RXRパーシャルアゴニスト)、CBt(CBt-PMN:RXRパーシャルアゴニスト)のRXRに対する活性化能を示す。一方、BはRaw264.7細胞にLPSによる刺激を加えた際の各RXRアゴニストによるNO産生に対する阻害活性を示している。CBt-PMNは10μMであれば、bexaroteneに匹敵するNO産生を示すことが判明した。ここで、NEt-3IBは、NEt-4IBのイソプロピル基とイソブトキシ基の位置が入れ替わった構造を有する化合物である。また、9cRAは9-cis-レチノイン酸である。
【0069】
実施例3
<RXRパーシャルアゴニストの脳移行性>
(1)目的
対象とする疾患の性質を考慮し、投与薬物の脳中濃度が薬効を示す上で十分であることを確かめる。
【0070】
(2)化合物投与方法
マウスの体重当たり30mg/kgの量の化合物を投与した。投与する化合物は、終濃度1%量のエタノールに溶解し、0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液で懸濁することにより調整した。投与動物は、雄性ICRマウス(6週齢)を用い、前日17時より絶食した。
【0071】
(3)血漿中濃度測定用サンプルの作成
エーテル麻酔下にて、下大静脈より採血した後、マウスから脳を摘出した。血液については、ヘパリンチューブに入れて転倒混和した後、5分間遠心分離(600g)し血漿を得た。血漿100μLに、100μLの酢酸アンモニウム緩衝液及び1mLの酢酸エチルを加えた後、30秒間ボルテックスミキサーで撹拌し、室温で10分間放置したのち30秒間遠心分離し、上清液800μLを遠心エバポレーターで濃縮し、ここにHPLC展開溶媒を100μL加えることでHPLCサンプルとした。
【0072】
(4)脳中濃度測定用サンプルの作成
薬物投与後のマウスよりエーテル麻酔下に脳を摘出し、約100mgを2mLエッペンチューブに量り取り、脳100mgあたり1000μLのメタノールを加え、ホモジネートした。ホモジネート後、10-15℃、10,000gで10分間遠心分離し、上清メタノール700μLを別の1.5mLエッペンチューブに分注し、遠心エバポレーターにて濃縮乾固し、ここに70μLのHPLC展開溶媒を加えて溶液とした(10倍濃縮)。
【0073】
(5)HPLCを用いた定量
当該薬物の30μMメタノール溶液を作成し、これをHPLC展開溶媒(5mM AcONH4、pH5、MeOH)にて10、3、1、0.3μMに希釈した。これをもとに検量線を作成し、血漿もしくは脳抽出サンプルを測定し、濃度換算した。
【0074】
(6)結果
結果を下表に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表の通り、CBt-PMNはbexaroteneよりも脳への移行性がすぐれていることが示された。
【0077】
実施例4
<RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)に及ぼす効果(ステップスルー試験)>
(1)目的
SAMP8マウスを供給する日本SLC社に問い合わせたところ、SAMP8マウスの認知能についてはステップスルー試験により評価されている。そこで、RXRパーシャルアゴニスト投与による認知能評価を、本試験法を用いて実施した。
【0078】
(2)マウスの飼育
SAMPマウスは、SAM協議会に入会後、清水実験材料より4週齢のオスを購入した。各ケージに1匹ずつ個飼いし、14ヶ月齢から16ヶ月齢までMF飼料ならびに水を自由摂取出来るようにした。
【0079】
(3)マウスへの投薬について
実験開始日より、オリエンタル酵母株式会社にて製造したMF飼料に、各薬物を0.015%含有させて与えた。一日あたりの給餌量は、平均して5-10g程度であり、体重当たりの1日投与量に換算すると、15-30mg/kg/dayに相当する。
【0080】
(4)ステップスルー実験について
[使用機器]
室町機械のステップスルー試験装置(マウス用:マウス用ケージSTC-001M)を使用した。この装置は天井照明が入る明室と遮光された暗室、両者を連結する扉からなり、さらに暗室の床面には電気刺激を与えるための電線が配備されている。電気刺激にはショックジェネレーターSGS-003DX(室町機械)を用いた。
【0081】
[訓練試行]
扉を閉めた明室にマウスを入れ、20秒後に扉を開けて、マウスが好む暗室への移動を可能とした。マウスが暗室内へ移動すると扉を閉め、電気刺激(0.3mA、3秒)を与えた。その後、マウスを通常の飼育環境に戻し飼育した。
【0082】
[保持試行]
訓練試行の一定時間後(10分、1時間、24時間後)、再びマウスを明室に入れ、暗室への移動時間を反応潜時とした。反応潜時をストップウォッチにて測定した。反応潜時が長いほど、嫌悪刺激を記憶していると判定した。
【0083】
[明所滞在時間]
300秒を最大とした。
【0084】
用いたマウス数は次の通りであった。
SAMR1:normal(n=4)、bexarotene(n=3)、CBt-PMN(n=4)
SAMP8:vehicle(n=6)、bexarotene(n=4)、CBt-PMN(n=6)
【0085】
(5)結果
結果を図3及び図4に示す。図中の各マーカーは個々のマウス(個体)を示している。1群あたり3-6匹使用した。
【0086】
初回時(A)においては、いずれのマウスも瞬時に暗室へ移動したことが分かる。その24時間後(B)においては、健常マウス(SAMR1のnormal)は記憶ならびに認知能を保持しているため、反応潜時は平均して200秒ほどになった。一方で、SAMP8マウスは薬物投与群も含めて、記憶ならびに認知能が劣っているため、その反応潜時は平均して100秒未満であった。
【0087】
薬物投与2週間後(CおよびD)では、SAMR1のみ反応潜時が延長し、SAMP8群では初回時とほぼ同様な結果を与えている。しかし、薬物投与4週以降後(E、F、G、H)では、CBt-PMNを与えたSAMP8マウスにおいて、SAMP8のvehicle群(薬物非投与)に対して反応潜時の延長がみられた。
【0088】
実施例5
<RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)に及ぼす効果(Y路迷路試験)>
(1)目的及び使用マウスについて
本実験には、ステップスルー実験に用いたマウスをそのまま用いた。その理由は、ステップスルー実験におけるマウスの反応潜時の延長が、投薬によるマウスの行動抑制に起因するか否かを判断するためである。
【0089】
(2)Y路迷路実験について
ステップスルー実験後、マウス用Y字迷路(アーム長40cm)を用いて、自由に8分間移動させた。Y字型装置の手前側のアームをA、左奥をB、右奥をCとし、各アームへの進入回数を計測した(その際、マウスの後ろ足が全てアームに入った状態を進入したと定義、前足のみ入った状態は進入していないと定義した)。これをY-mazeと称した。
【0090】
3回連続して異なるアームへ進入した回数を、アームへの総進入回数から1を引いた値で割ったあと、100をかけることでpercent alternationを求めた(例えば、A-B-C-A-B-C-B-A-B-C-A-B-C-A-B-A-B-Aとすると、総進入回数は17であり、3回異なるアームへの進入回数は11回なので、11÷(17-1)×100=68.8(%)となる。)。
【0091】
(3)結果
結果を図5に示す。図5Aは、各マウスの各アームへの侵入回数の総和を示し、図5Bはpercent alternationを示す。SAMP8は、薬物の投与非投与関係なくY路アームへの侵入回数がSAMR1に対し多く、多動性が認められた(図5A)。このことはSAM協議会も認める事実であり、そのため本マウスの記憶、学習、認知能試験としてY路迷路が不適であるとの意見を、SAM協議会の年会にて確認した。一方で、この実験によりSAMP8の多動性に対してはbexaroteneならびにCBt-PMNが影響を及ばさないことが確認され、ステップスルー試験におけるCBt-PMNの効果が、認知能の改善によることが確認された。
【0092】
実施例6
<RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)の脳のMRI撮像>
(1)目的および使用マウスについて
認知能の低下したマウスにおいて、海馬の萎縮が考えられた。そこで、上記実験に用いたマウスについて小型動物用MRI撮影装置(BioSpec, 4.7Tesla(T))を用いて、脳のMRI撮像を行った。
【0093】
(2)撮像方法について
イソフルラン麻酔下にて、各マウスの頭部をMRI撮像した。なお、使用したマウスの匹数は次の通りである。SAMR1:normal(n=4)、CBt-PMN(n=4)、SAMP8:vehicle(n=4)、CBt-PMN(n=4)。
【0094】
(3)結果
図6に示すように、SAMP8マウスの海馬の大きさが、CBt-PMNの投薬により明らかに増大した。SAMR1マウスの海馬では、normalとCBt-PMNの投薬により差が見られないことから、SAMP8マウスにおけるCBt-PMNの効果は、ステップスルー試験に見られた記憶学習能力の改善との関係性が期待される。
【0095】
実施例7
<RXRパーシャルアゴニスト投与による老齢促進マウス(SAMP8)の血液データならびに臓器重量>
(1)目的および使用マウスについて
上記実験に用いたマウスについて、MRI撮像後、採血、解剖を施し、血液データならびに各臓器重量を計測した。なお、薬物含有MF飼料を9週間与えたマウスについて、解剖を施した。前日の絶食は行わなかった。
【0096】
(2)血中トリグリセリドの測定について
生化学データについては、下大静脈より採血した血液をヘパリンチューブを用いて血漿を得た後、富士ドライケムを用いて測定した。
【0097】
(3)使用サンプル数について
各群の使用マウス数は次の通りである。
SAMR1:normal(n=4)、bexarotene(n=3)、CBt-PMN(n=4)
SAMP8:vehicle(n=4)、bexarotene(n=4)、CBt-PMN(n=4)
【0098】
(4)結果
結果を図7に示す。なお、各図中に示されるbex、CBt、n、vは、それぞれ、bexarotene、CBt-PMN、normal、vehicleである。CBt-PMNの投薬により、SAMP8マウスの脳の重量がvehicle群に比較して大きくなっており、SAMR1マウスの脳の重量に匹敵していた(図7A)。Bexarotene投与群においては、SAMR1マウス、SAMP8マウスともに肝肥大と血中トリグリセリドの上昇が確認された。一方、CBt-PMN投与群においては、SAMR1マウスでは肝肥大、血中トリグリセリドともnormal群とほぼ同様であり、SAMP8マウスでは5匹中1匹において値が顕著に上昇したため、平均値の上昇傾向が見られたが、bexaroteneに比べnormalに近い傾向を示した(図7B,C)。
【0099】
実施例8
<パーキンソン病モデルラットにおけるRXRパーシャルアゴニストの治療効果>
(1)使用動物について
8週齢の雄性SDラットを、イソフルラン麻酔下にてラット頭部を皮切し、結合組織を剥離、除去した。その後、定位脳固定装置に固定し、ブレグマとラムダの座標を測定し、投与座標AP(+1.3、+0.4、-0.4、-1.3mm)、DV(-5.0mm)の4カ所にマイクロインジェクションカニューレを脳表面より深さ5.0mmに刺入し、0.02%アスコルビン酸添加生理食塩水を溶媒とした3.5mg/mLの6-OHDA(6-ヒドロキシドーパミン)溶液を1分間に1μLの速度で2μL注入した。シャム群に対しても同様の手術を行い、アスコルビン酸添加生理食塩水のみを注入した。注入完了後5分間はガラスピペットを刺入した状態で保持し溶液を拡散させた。手術後、1週ごとに体重と生理食塩水に溶解したアポモルフィン1mg/mL溶液を1mg/kgの量腹腔内投与した後、直径40cmの円形観察箱の中心に配置し3分間の回転運動を観察した。パーキンソン病の状態であれば、アポモルフィン投与後のラットは左回転する。回転を始めて1分間に7回以上左回転した個体をパーキンソン病モデルとした。
【0100】
(2)評価方法
RXRパーシャルアゴニストを0.015%w/w含有するMF飼料を自由摂餌させた後、6日および12日後に、生理食塩水に溶解したアポモルフィン1mg/mL溶液を1mg/kgの量腹腔内投与し、投与後直後3分間の旋回運動回数を計測した。
【0101】
(3)結果
下表は、投薬開始後12日目の結果である。
【0102】
【表2】
【0103】
本モデル動物において、アポモルフィンはドーパミン類似作用に基づく特徴的な回転行動(非破壊側方向への回転行動)を惹起する。表2の通り、アポモルフィン単独投与によって左回転が見られたが、RXRパーシャルアゴニストを投薬した群では、その回転数はアポモルフィン投与群より上昇し、パーキンソン病に対する治療効果が示された。
【0104】
実施例9
<多発性硬化症モデルマウス(EAEマウス)の作成および薬効評価法>
(1)試験方法
7週齢の雄性C57BL6/Jマウスを購入し、1週間馴化させた。まず、2mg/mLのMOG35-55水溶液と2mg/mLフロイト不完全アジュバント水溶液を等量混和し、これと2mg/mLのM. Tuberculosis H37Ra死菌(Difco)水溶液を等量混和しエマルジョンを作成した。本エマルジョンを用事調整し、マウス1匹あたり200μLを皮下注射した。
【0105】
百日咳毒(Pertussis Toxin:PT)水溶液を100μg/mLで作成し、これをストックソルーションとした(4℃保管)。これを、投与前にPBSにて50倍希釈し、2μg/mLとした後、この溶液を腹腔内投与用2段針を用いて、マウス1匹あたり200μL腹腔内投与した。これを上記エマルジョン投与直後(0 day)およびその翌々日(2 days)に行った。
【0106】
評価薬物を0.015w/w%で含有するMF飼料を自由摂餌させ、日々の摂餌量を測定した。投与当日(0 day)より、毎日、マウスの体重測定、摂食量、摂水量、臨床スコア(0:正常、1:尾のトーヌス低下、2:尾の完全下垂、3:歩行異常、4:後肢の完全脱力、5:前肢麻痺を含む後肢の完全脱力、6:死亡)を臨床スコア(clinical score)として測定した。
【0107】
(2)結果
図8に結果を示す。図8のAに、健常群(normal)、薬物非投与群(vehicle)及びbexarotene投与群の結果を示す。図8のBに、健常群(normal)、薬物非投与群(vehicle)及びCBt-PMN投与群の結果を示す。図8に示すように、RXRフルアゴニストであるbexaroteneは本病態モデルに対する改善を示さない一方で、RXRパーシャルアゴニストであるCBt-PMNはvehicle群に比較し臨床スコアの低下を示し、薬効を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8