(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】カスタムオーダーシューズの製造方法
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20220818BHJP
A43B 1/04 20220101ALI20220818BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
A43B1/04
(21)【出願番号】P 2021005404
(22)【出願日】2021-01-16
【審査請求日】2021-05-25
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591128383
【氏名又は名称】株式会社キタイ
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】喜夛 輝昌
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特許第6744677(JP,B1)
【文献】登録実用新案第3227574(JP,U)
【文献】特開2017-042440(JP,A)
【文献】特開2016-220713(JP,A)
【文献】登録実用新案第3168694(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
A43B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
販売店に顧客の足型計測手段と、木型工場にラスト製作手段と、靴下工場にアッパー部製造手段と、製靴工場にソール部製造手段とを備え、顧客の足型データに基づき顧客の足に合わせたラストを製作する木型作成工程と、アッパー生地を無縫製で一体的且つ立体的に編成した後、前記ラストを挿入した状態でアッパー部を保形するシューズアッパー編成・成形工程と、前記アッパー部にインソール及びアウトソールを選択可能に取り付けるシューズ完成工程とを含み、上記各工程を連携させることにより、顧客の足に合わせたフィット感が得られるシューズを短期間で提供可能にし、
前記木型作成工程は、女性用パンプスの爪先形状及びサイズのパターンオーダーに対応した標準ラストを製作する工程を含み、
前記シューズアッパー編成・成形工程は、前記アッパー生地を、表糸にナイロン糸・ポリエステル糸・アクリル糸又はウール糸を使用し、裏糸に融着糸と伸縮力を調節する高伸縮性糸とを使用して横編機により無縫製で一体的且つ立体的に編成し、前記アッパー部の踵部及び爪先部の両方において、融着糸の使用量を増やして強度を高め、前記アッパー部は、シューズアッパーの外側部分となる外側生地と、シューズアッパーの内側部分となる内側生地とが、
それぞれ船底形状を呈すると共に前記両生地の爪先部が同じ方向を向いて左右に並んだ状態で且つ両生地の履き口部が繋がった状態で編成され、前記内側生地を前記外側生地の内側に入れ込み、次に前記アッパー部に
女性用パンプスの爪先形状及びサイズのパターンオーダーに対応した標準ラストを挿入した状態で前記アッパー生地の外側及び内側の裏面全体に編み込まれた前記融着糸を加熱融解させた後に冷却固着させてアッパー部を保形し、
前記シューズ完成工程は、前記アッパー部に前記ラストを挿入した状態でアウトソールを加工することを特徴とするカスタムオーダーシューズの製造方法。
【請求項2】
前記標準ラストは、足長と足囲の2要素を指標とし80~90種類、爪先形状をラウンド型・スクエア型・ポインテッド型の3種類、合計240~270種類、左右で480~540本からなることを特徴とする請求項1に記載のカスタムオーダーシューズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製作時間の短縮及びコストの削減を図ることができ、顧客の足に合わせたフィット感が得られ且つ女性用パンプスのデザイン性のカスタマイズを実現するカスタムオーダーシューズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の靴製造又は販売システム並びにシューズアッパーの編成又は成形技術について、以下に示すような先行技術が提案されている。
【0003】
特表2018-501865号公報(特許文献1)には、「履物用の靴型の3次元モデルに関連する情報を受信するステップと、付加的な製造プロセスによって、履物用の靴型の3次元モデルに対応する3次元形状を有する履物用の靴型を形成するステップとを含み、履物用の靴型を編組み装置に通して挿入し、履物用の靴型上に編組みされた履物部品を形成するステップと、履物物品が編組みされた履物部品を有するように、編組みされた履物部品を履物用の靴型から除去するステップとも含む、履物物品の製造方法」が提案されている。
【0004】
また、特開2018-194945号公報(特許文献2)には、「各業者の複雑多岐にわたるプロセスにも効率よく対応することができ、ひいては受発注管理まで含めたトータルマネジメントを実現することができる靴製作システム、靴製作方法、及び靴製作用のコンピュータプログラム」が提案されている。
【0005】
また、特開2018-166881号公報(特許文献3)には、「シューズアッパーおよびシューズ」が提案されている。
【0006】
また、特開2017-123974号公報(特許文献4)には、「大多数の人の足の形状に個別に対応でき、しかもオーダーメイドに比べて短期間で安価に製造できる婦人靴及び当該婦人靴の製造方法」が提案されている。
【0007】
また、特表2016-505319号公報(特許文献5)には、「足に適合しつつ、足がウォーキングまたはスポーツの練習に必要とされる自由度をもつことを可能にする履物製品」が提案されている。
【0008】
一方、本願出願人は、製作時間の短縮及びコストの削減を図ることができ、顧客の足に合わせたフィット感が得られるカスタムオーダーシューズの製造方法について、既に特許権(特許第6744677号公報、特許文献6)を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2018-501865号公報
【文献】特開2018-194945号公報
【文献】特開2018-166881号公報
【文献】特開2017-123974号公報
【文献】特表2016-505319号公報
【文献】特許第6744677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記カスタムオーダーシューズの製造方法について更に改良を施し、製作時間の短縮及びコストの削減を図ることができ、顧客の足に合わせたフィット感が得られ且つ女性用パンプスのデザイン性のカスタマイズを実現するカスタムオーダーシューズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、販売店に顧客の足型計測手段と、木型工場にラスト製作手段と、靴下工場にアッパー部製造手段と、製靴工場にソール部製造手段とを備え、顧客の足型データに基づき顧客の足に合わせたラストを製作する木型作成工程と、アッパー生地を無縫製で一体的且つ立体的に編成した後、前記ラストを挿入した状態でアッパー部を保形するシューズアッパー編成・成形工程と、前記アッパー部にインソール及びアウトソールを選択可能に取り付けるシューズ完成工程とを含み、上記各工程を連携させることにより、顧客の足に合わせたフィット感が得られるシューズを短期間で提供可能にし、前記木型作成工程は、女性用パンプスの爪先形状及びサイズのパターンオーダーに対応した標準ラストを製作する工程を含み、前記シューズアッパー編成・成形工程は、前記アッパー生地を、表糸にナイロン糸・ポリエステル糸・アクリル糸又はウール糸を使用し、裏糸に融着糸と伸縮力を調節する高伸縮性糸とを使用して横編機により無縫製で一体的且つ立体的に編成し、前記アッパー部の踵部及び爪先部の両方において、融着糸の使用量を増やして強度を高め、前記アッパー部は、シューズアッパーの外側部分となる外側生地と、シューズアッパーの内側部分となる内側生地とが、それぞれ船底形状を呈すると共に前記両生地の爪先部が同じ方向を向いて左右に並んだ状態で且つ両生地の履き口部が繋がった状態で編成され、前記内側生地を前記外側生地の内側に入れ込み、次に前記アッパー部に女性用パンプスの爪先形状及びサイズのパターンオーダーに対応した標準ラストを挿入した状態で前記アッパー生地の外側及び内側の裏面全体に編み込まれた前記融着糸を加熱融解させた後に冷却固着させてアッパー部を保形し、前記シューズ完成工程は、前記アッパー部に前記ラストを挿入した状態でアウトソールを加工することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の前記標準ラストは、足長と足囲の2要素を指標とし80~90種類、爪先形状をポインテッド型・スクエア型・ラウンド型の3種類、合計240~270種類、左右で480~540本からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明にかかるカスタムオーダーシューズの製造方法では、女性用パンプスの爪先形状及びサイズのパターンオーダーに対応した標準ラストを製作する工程を採用することにより、フルカスタムオーダーだけでなく顧客の足型データから最適なラストの組み合わせを選ぶことが可能となり、製作時間の短縮及びコストの削減を図ることができる。また、顧客の足に合わせたフィット感が得られ且つ女性用パンプスのデザイン性のカスタマイズを実現することができる。
【0015】
また、アッパー生地を無縫製で一体的且つ立体的に編成した後、ラストを挿入した状態でアッパー部を保形するシューズアッパー編成・成形工程を採用することにより、靴下の如く一定範囲のサイズに対応可能なためシューズサイズの種類を減らすことができる。また、ラストを用いてアッパー部を保形するため、作業の合理化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】カスタムオーダーシューズの生産・販売事業の概要を示す説明図である。
【
図2】本発明にかかるシューズ製造工程の一例を示すフロー図である
【
図3】本発明にかかる木型作成工程で製作された女性用パンプスの右足用ラストのポインテッド型の一例を示す平面図(上)及び側面図(下)である。
【
図4】本発明にかかる木型作成工程で製作された女性用パンプスの右足用ラストのスクエア型の一例を示す平面図(上)及び側面図(下)である。
【
図5】本発明にかかる木型作成工程で製作された女性用パンプスの右足用ラストのラウンド型の一例を示す平面図(上)及び側面図(下)である。
【
図6】本発明にかかるシューズアッパー編成・成形工程で編立てられたアッパー部の一例を示す説明図である。
【
図7】
図6に示すアッパー部の内側生地を外側生地の内側に入れ込んだ状態を示す説明図である。
【
図8】
図7に示すアッパー部にラストを挿入した状態を示す説明図である。
【
図9】
図8に示すアッパー部にラストを挿入した状態のままで加熱融解させた後に冷却固着させてアッパー部を保形した状態を示す説明図である。
【
図10】
図9に示すアッパー部にラストを挿入した状態のままでアウトソールを加工した状態を示す説明図である。
【
図11】シューズの完成した状態を示す説明図である。
【
図12】
図3に示すラスト(ポインテッド型)を挿入した状態のままアッパー部を保形した状態を示す平面図(上)及び側面図(下)である。
【
図13】
図4に示すラスト(スクエア型)を挿入した状態のままアッパー部を保形した状態を示す平面図(上)及び側面図(下)である。
【
図14】
図5に示すラスト(ラウンド型)を挿入した状態のままアッパー部を保形した状態を示す平面図(上)及び側面図(下)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参酌しながら説明する。なお、本発明にかかるカスタムオーダーシューズの製造方法の各構成については、以下の実施例に限定されるものではなく、使用状況によって適宜変更することができる。
【0018】
図1は、カスタムオーダーシューズの生産・販売事業の概要を示す説明図である。本事業は、靴に足を合わせるのではなく、お客様の足にあったお客様最高シューズを適正価格で提供することを目的としており、後述するように販売店20に顧客10の足型計測手段と、木型工場30に足型データAに基づくラスト製作手段と、靴下工場40にアッパー部製造手段と、製靴工場50にソール部製造手段とを備える。
【0019】
また、
図2は、本発明にかかるシューズ製造工程の一例を示すフロー図である。
図2に示すように、シューズ製造工程は、顧客の足型を測定してその情報をデータ化する足型測定・データ化工程(S10)と、顧客の足型データに基づき顧客の足に合わせたラストを製作する木型作成工程(S20)と、アッパー生地を無縫製で一体的且つ立体的に編成した後、ラストを挿入した状態でアッパー部を保形するシューズアッパー編成・成形工程(S30)と、アッパー部にインソール及びアウトソールを選択可能に取り付けるシューズ完成工程(S40)とを含み、各工程(S10、S20、S30、S40)を連携させることにより、顧客の足に合わせたフィット感が得られるシューズを短期間で提供可能にしたことを特徴とする。
【0020】
(S10:足型測定・データ化工程)
カスタムオーダーを可能にするため、3D足形計測装置を用い、個人の足型計測を行う(
図2:S101)。得られたスキャンデータをもとに、削り出し木型(ラスト)を製作することにより、フルカスタムオーダーによる木型(ラスト)とすることが可能になる。
一方、得られたスキャンデータをもとに、顧客のシューズ用途や姿勢習慣・運動機能に対応した足型をいくつかの要素(足長・足幅・足囲等)に分けて、それぞれに選択肢を用意することにより、パターンオーダーの対応が可能になる(
図2:S102)。
【0021】
ここで、パターンオーダーの対応例としては、日本人100万人足型データの分析結果に基づいて、1つのシューズのフィッティング許容範囲を足長±2.5mm、足囲±3mmと仮定し、男性の場合は足長235mmから280mmまで足幅をCから4Eまで展開し、女性の場合は足長210mmから250mmまで足幅をBから3Eまで展開すると、男性60種類、女性54種類、合計114種類の木型(ラスト)で男女共に90%以上の人の足をカバーできるのではないか、という考え方に立って予め一定種類の木型(ラスト)を製作する。そして、3D足型スキャンデータから本人の足型に最適な組み合わせを選ぶことにより、製作時間の短縮化や汎用性の無い木型(ラスト)を製作するコストを削減することが可能になる。
【0022】
(S20:木型作成工程)
カスタムオーダーを可能にするため、顧客の足型データに基づき顧客の足に合わせた木型(ラスト)を製作する(
図3~
図5参照)。
図3は女性用パンプスの右足用ラストのポインテッド型の一例、
図4は女性用パンプスの右足用ラストのスクエア型の一例、
図5は女性用パンプスの右足用ラストのラウンド型の一例を示す。
このように、女性用パンプスの爪先形状及びサイズのパターンオーダーに対応した標準ラストを製作する工程(
図2:S201)では、上記のパターンオーダーの対応例の考え方に従って、足長と足囲の2要素を指標とし80~90種類、爪先形状をポインテッド型・スクエア型・ラウンド型の3種類、合計240~270種類、左右で480~540本の標準ラストを製作して管理する。
【0023】
(S30:シューズアッパー編成・成形工程)
先ず、アッパー生地を裏糸に融着糸を使用して横編機により無縫製で一体的且つ立体的に編成する(
図2:S301)。 具体的には、
図6に示すように、アッパー部1は、シューズアッパーの外側部分となる外側生地11と、シューズアッパーの内側部分となる内側生地13とが、左右に並んだ状態(船底形状)で且つ両生地の履き口部15が繋がった状態で編成される。
また、アッパー生地の外側及び内側の表糸についてはナイロン糸・ポリエステル糸・アクリル糸又はウール糸を使用し、アッパー生地の外側及び内側の裏糸については融着糸と伸縮力を調節する高伸縮性糸(FTY)とを使用することができる。さらに、アッパー部1の踵部又は/及び爪先部12,14において、融着糸の使用量を増やすことにより、高い強度を備えた丈夫なシューズを作ることができる。
【0024】
次に、
図7に示すように、内側生地13を外側生地11の内側に入れ込み、
図8に示すように、アッパー部1にラスト2を挿入(
図2:S302)した状態でアッパー生地の外側及び内側の裏面全体に編み込まれた融着糸を加熱融解させた後に冷却固着させてアッパー部1を保形する(
図2:S303)。このように、アッパー生地は靴下のように柔軟性があり、ラストサイズやラストの爪先形状に馴染みやすく、この特徴を利用することでカスタマイズが可能になる。また、立体成型されたアッパー部1にラスト2を挿入した状態(
図8参照)で昇温・冷却によって保形(
図9参照)する工程を採用することより、従来のシューズには無い個人の足に合わせた究極のフィット感が得られる。
ここで、
図12は、
図3に示すラスト2(爪先部の形状がポインテッド型)を挿入した状態のままアッパー部1を保形した状態(爪先部12の形状がポインテッド型)を示す。
図13は
図4に示すラスト2(爪先部の形状がスクエア型)を挿入した状態のままアッパー部1を保形した状態(爪先部12の形状がスクエア型)を示す。
図14は、
図5に示すラスト2(爪先部の形状がラウンド型)を挿入した状態のままアッパー部1を保形した状態(爪先部12の形状がラウンド型)を示す。
【0025】
(S40:シューズ完成工程)
図10に示すように、アッパー部1にラスト2を挿入した状態で顧客に適したアウトソール3(EVAやゴム製底)を接着剤で貼り付ける(
図2:S401)。最後に、アッパー部1をラスト2から外すと完成する(
図11参照)。また、顧客の着用感に合ったインソール(図示省略)を挿入してもよい。このように、インソールやアウトソールに選択肢を用意することで、使用目的によりマッチしたシューズのカスタマイズを可能にする。
【符号の説明】
【0026】
1 アッパー部
11 外側生地
12 爪先部
13 内側生地
14 爪先部
15 履き口
2 ラスト
3 アウトソール