(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】ポリエチレングリコール化量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20220818BHJP
C08G 65/328 20060101ALI20220818BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20220818BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220818BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20220818BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C09K11/08 A ZNM
C08G65/328
B82Y20/00
B82Y40/00
C09K11/88
C09K11/08 G
C09K11/56
(21)【出願番号】P 2018173191
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】510000390
【氏名又は名称】株式会社 ケア・フォー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山内 健嗣
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/016289(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/208456(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/081037(WO,A1)
【文献】特開2007-262215(JP,A)
【文献】特開2011-131350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
C08G 65/
B82Y 20/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットにポリエチレングリコールが結合したポリエチレングリコール化量子ドットを製造する方法であって、
前記量子ドットをブタノールに浸漬した後に回収する第1工程、
前記第1工程で回収した量子ドットをクロロホルムに浸漬した後に回収する第2工程、
前記第2工程で回収した量子ドットをメタノールに浸漬した後に回収する第3工程、
前記第3工程で回収した量子ドットに
正珪酸四エチルを反応させ、TEOS化量子ドットを得る第4工程、
水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中で前記TEOS化量子ドットにチタンテトラブトキシドを反応させ、TTB化量子ドットを得る第5工程、
水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中で前記TTB化量子ドットにグリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応させ、GOPS化量子ドットを得る第6工程、及び
前記GOPS化量子ドットにメトキシポリエチレングリコールを反応させ、ポリエチレングリコール化量子ドットを得る第7工程、
を含む、ポリエチレングリコール化量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記第4工程で得られたTEOS化量子ドットを、前記第5工程に供する前に、エタノールによる洗浄処理を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程~第7工程が遮光条件下で行われる、請求項1又は2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
前記量子ドットが、CdSe/ZnS量子ドットである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
CdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットの表面にポリエチレングリコールが結合したポリエチレングリコール化量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノマテリアルは、既存技術の高度化や新技術の開発を導くものとして、様々な分野において大きく期待されている。ナノマテリアルの一つである蛍光性の量子ドットは、高い輝度を示し、また従来の蛍光色素と比較して退色が遅いなどの利点を有する。また、量子ドットは、粒径や組成に応じて異なる蛍光色を発するという特徴を有する。
【0003】
特に、CdSe量子ドットは、広い波長域の発光スペクトルを持つことが知られており、標識物質、温度感受性物質、蛍光イメージング、機能性磁気共鳴イメージング、陽電子放射断層撮影(PET)用材料、共焦点顕微鏡、光学顕微鏡、バイオセンシング、光増感作用、蛍光性ダイオード、太陽光増感バッテリー、蛍光性ナノ粒子を用いた紫外線吸収用人工ガラス、光学スイッチ等の分野での応用が期待されている。
【0004】
従来、CdSe量子ドットの製造方法について、精力的に研究がおこなわれている。例えば、特許文献1には、ホットインジェクション法による単一反応において、所望の粒径を有し、かつ半値幅が狭く、シャープなスペクトルを有するCdSe量子ドットを選択的かつ再現性良く形成させる製造方法が報告されている。
【0005】
また、CdSe量子ドットは、水中での安定性が低く量子効率が低下することがあるため、水中での安定性を備えさせるために、ZnSでCdSe量子ドットを被覆したコア/シェル構造のCdSe量子ドット(CdSe/ZnS)も報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、CdSe量子ドットやCdSe/ZnS量子ドットは、無機物質であり、本来的に水との親和性が低いために、水中で量子効率が低下することがある。このような量子効率の低下を抑制する手法として、量子ドット表面を様々な物質を用いてコーティングすることが有効であると考えられている。しかしながら、CdSe量子ドットやCdSe/ZnS量子ドットをコーティングする従来手法では、量子効率の低減等を生じさせることがある。
【0007】
一方、従来、ポリエチレングリコールは、疎水性物質に親水性を付与するための親水化剤として使用されている。しかしながら、CdSe量子ドットやCdSe/ZnS量子ドットの量子効率の低減を引き起こすことなく、これらの量子ドットにポリエチレングリコールを複合化させて親水化する技術については確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hines, M.A., Guyot-Sionnest, P. J. Phys. Chem. 1996, 100: 468-471.
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、CdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットの量子効率の低減を引き起こすことなく、その表面にポリエチレングリコールを結合させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、CdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットを、ブタノール、クルロロホルム、及びメタノールの順に各溶媒に浸漬した後に回収し、その後、正珪酸四エチル(TEOS)による反応、水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中でのチタンテトラブトキシド(TTB)による反応、水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中でのグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOPS)による反応、及びメトキシポリエチレングリコール(mPEG)による反応に供することによって、量子効率が高く、ポリエチレングリコールが結合したCdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供する。
項1. CdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットにポリエチレングリコールが結合したポリエチレングリコール化量子ドットを製造する方法であって、
前記量子ドットをブタノールに浸漬した後に回収する第1工程、
前記第1工程で回収した量子ドットをクロロホルムに浸漬した後に回収する第2工程、
前記第2工程で回収した量子ドットをメタノールに浸漬した後に回収する第3工程、
前記第3工程で回収した量子ドットにチタンテトラブトキシドを反応させ、TEOS化量子ドットを得る第4工程、
水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中で前記TEOS化量子ドットにチタンテトラブトキシドを反応させ、TTB化量子ドットを得る第5工程、
水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中で前記TTB化量子ドットにグリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応させ、GOPS化量子ドットを得る第6工程、及び
前記GOPS化量子ドットにメトキシポリエチレングリコールを反応させ、ポリエチレングリコール化量子ドットを得る第7工程、
を含む、ポリエチレングリコール化量子ドットの製造方法。
項2. 前記第4工程で得られたTEOS化量子ドットを、前記第5工程に供する前に、エタノールによる洗浄処理を行う、項1に記載の製造方法。
項3. 前記第1工程~第7工程が遮光条件下で行われる、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記量子ドットが、CdSe/ZnS量子ドットである、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、量子効率が高く、ポリエチレングリコールが結合したCdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法は、CdSe量子ドット及び/又はCdSe/ZnS量子ドットにポリエチレングリコールが結合したポリエチレングリコール化量子ドットを製造する方法であって、下記第1工程~第7工程を含むことを特徴とする。
第1工程:前記量子ドットをブタノールに浸漬した後に回収する。
第2工程:前記第1工程で回収した量子ドットをクロロホルムに浸漬した後に回収する。
第3工程:前記第2工程で回収した量子ドットをメタノールに浸漬した後に回収する。第4工程:前記第3工程で回収した量子ドットに正珪酸四エチルを反応させ、TEOS化量子ドットを得る。
第5工程:水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中で前記TEOS化量子ドットにチタンテトラブトキシドを反応させ、TTB化量子ドットを得る。
第6工程:水分含量が0.001%以下の脱水エタノール中で前記TTB化量子ドットにグリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応させ、GOPS化量子ドットを得る。
第7工程:前記GOPS化量子ドットにメトキシポリエチレングリコールを反応させ、ポリエチレングリコール化量子ドットを得る。
【0015】
以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0016】
[量子ドット]
本発明の製造方法では、表面にポリエチレングリコールを結合させる対象となる量子トッドとして、CdSe量子ドット、及び/又はCdSe/ZnS量子ドットを使用する。
【0017】
本発明の製造方法において、CdSe量子ドットは、ホットインジェクション法、ゾルーゲル法等の公知の製造方法で得られたものを使用できる。
【0018】
また、CdSe/ZnS量子ドットとは、CdSe量子ドットをコア、ZnSをシェルとしたコア/シェル構造の量子ドットである。本発明の製造方法において、CdSe/ZnS量子ドットは、公知の製造方法で得られたものを使用できる。
【0019】
本発明の製造方法において、ポリエチレングリコールを結合させる対象となる量子トッドとして、好ましくはCdSe/ZnS量子ドットが挙げられる。
【0020】
[第1工程]
第1工程では、前記量子ドットをブタノールに浸漬した後に回収する。具体的には、第1工程では、ブタノールに前記量子ドットを添加して浸漬させ、必要に応じて撹拌した後に、前記量子ドットを回収すればよい。
【0021】
第1工程において、ブタノールに浸漬させる際の前記量子ドットの濃度については、特に制限されないが、例えば、0.001~5mg/ml、好ましくは0.01~2mg/ml、より好ましくは0.05~0.6mg/ml、更に好ましくは0.08~0.4mg/mlが挙げられる。
【0022】
第1工程において、量子ドットをブタノールに浸漬させる時間については、特に制限されないが、例えば、1~900秒、好ましくは1~480秒、より好ましくは5~240秒、更に好ましくは10~180秒、特に好ましくは30~120秒が挙げられる。
【0023】
量子ドットをブタノールに浸漬させる際の温度条件については、特に制限されず、例えば、室温であればよい。
【0024】
ブタノールに浸漬させた後に、量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4000rpmで5~10分間、更に好ましくは3500~5000rpmで10~20分間が挙げられる。
【0025】
なお、第1工程は、少なくとも1回行えばよいが、必要に応じて2回以上繰り返し実施してもよい。
【0026】
第1工程で最終的に回収された量子ドットは、後述する第2工程に供される。
【0027】
[第2工程]
第2工程では、前記第1工程で回収した量子ドットをクロロホルムに浸漬した後に回収する。具体的には、第2工程では、前記第1工程で回収した量子ドットをクロロホルムに添加して浸漬させ、必要に応じて撹拌した後に、前記量子ドットを回収すればよい。
【0028】
第2工程において、クロロホルムに浸漬させる際の前記量子ドットの濃度については、特に制限されないが、例えば、0.001~5mg/ml、好ましくは0.01~2mg/ml、より好ましくは0.05~0.6mg/ml、更に好ましくは0.08~0.4mg/mlが挙げられる。
【0029】
第2工程において、量子ドットをクロロホルムに浸漬させる時間については、特に制限されないが、例えば、1~900秒、好ましくは1~480秒、より好ましくは5~240秒、更に好ましくは10~180秒、特に好ましくは30~120秒が挙げられる。
【0030】
量子ドットをクロロホルムに浸漬させる際の温度条件については、特に制限されず、例えば、室温であればよい。
【0031】
クロロホルムに浸漬させた後に、量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4000rpmで(5~10分間、更に好ましくは3500~5000rpm以上で10~20分間が挙げられる。
【0032】
なお、第2工程は、少なくとも1回行えばよいが、必要に応じて2回以上繰り返し実施してもよい。
【0033】
第2工程で最終的に回収された量子ドットは、後述する第3工程に供される。
【0034】
[第3工程]
第3工程では、前記第2工程で回収した量子ドットをメタノールに浸漬した後に回収する。具体的には、第3工程では、前記第2工程で回収した量子ドットをメタノールに添加して浸漬させ、必要に応じて撹拌した後に、前記量子ドットを回収すればよい。
【0035】
第3工程において、メタノールに浸漬させる際の前記量子ドットの濃度については、特に制限されないが、例えば、0.001~5mg/ml、好ましくは0.01~2mg/ml、より好ましくは0.05~0.6mg/ml、更に好ましくは0.08~0.4mg/mlが挙げられる。
【0036】
第3工程において、量子ドットをメタノールに浸漬させる時間については、特に制限されないが、例えば、1~900秒、好ましくは1~480秒、より好ましくは5~240秒、更に好ましくは10~180秒、特に好ましくは30~120秒が挙げられる。
【0037】
量子ドットをメタノールに浸漬させる際の温度条件については、特に制限されず、例えば、室温であればよい。
【0038】
メタノールに浸漬させた後に、量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4000rpmで5~10分間、更に好ましくは3500~5000rpmで10~20分間が挙げられる。
【0039】
なお、第3工程は、少なくとも1回行えばよいが、必要に応じて2回以上繰り返し実施してもよい。
【0040】
第3工程で最終的に回収された量子ドットは、後述する第4工程に供される。
【0041】
[第4工程]
前記第3工程で回収した量子ドットに正珪酸四エチルを反応させ、TEOS化量子ドットを生成させる。
【0042】
第4工程における反応に使用される溶媒については、量子ドットに正珪酸四エチルが反応できることを限度として特に制限されないが、例えば、トルエン、クロロホルム、プロパノール等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、好ましくはトルエンが挙げられる。
【0043】
第4工程における反応は、例えば、溶媒中に量子ドットを添加して撹拌しながら、正珪酸四エチルを添加することによって開始される。正珪酸四エチルの添加前に溶媒中で量子ドットを撹拌する際には、量子ドットが凝集するのを抑制するために、必要に応じて超音波処理を行ってもよい。
【0044】
量子ドットの添加量については、特に制限されないが、例えば、溶媒中で量子ドットが0.0001~100mg/ml、好ましくは0.001~10mg/ml、より好ましくは0.001~1mg/ml、更に好ましくは0.005~1mg/mlとなるように設定すればよい。
【0045】
また、正珪酸四エチルの添加量については、例えば、量子ドット1mg当たり、0.5~1000μl、好ましくは1~500μl、より好ましくは10~300μl、更に好ましくは30~200μl、特に好ましくは50~150μlが挙げられる。
【0046】
第4工程における反応は、撹拌条件下で行うことが望ましい。撹拌条件については、特に制限されないが、例えば100~1500rpm、好ましくは400~1200rpm、更に好ましくは900~1000rpmが挙げられる。
【0047】
第4工程における反応温度については、特に制限されないが、例えば10~35℃、好ましくは15~30℃、更に好ましくは20~25℃が挙げられる。
【0048】
第4工程における反応時間については、特に制限されないが、例えば11~45時間、好ましくは17~36時間、更に好ましくは24~30時間が挙げられる。
【0049】
また、第4工程において、反応の開始時又は反応の途中に、界面活性剤及びアンモニアを添加してもよい。このように、界面活性剤及びアンモニアを添加することによって、より一層効率的に、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを製造することが可能になる。
【0050】
添加する界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド、アルキルポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが挙げられる。また、界面活性剤の添加量については、例えば、溶媒中で0.000001~1重量%、好ましくは0.00001~0.1重量%、より好ましくは0.00005~0.01重量%、更に好ましくは0.00005~0.001重量%、特に好ましくは0.0001~0.001重量%となるように設定すればよい。
【0051】
また、アンモニアの添加量については、例えば、溶媒中で0.001~5重量%、好ましくは0.005~2重量%、より好ましくは0.01~1重量%、更に好ましくは0.1~0.75重量%となるように設定すればよい。
【0052】
界面活性剤及びアンモニアの添加は、これらをそれぞれ添加してもよいが、これらの混合液を予め調製しておき、当該混合液を添加することが望ましい。
【0053】
界面活性剤及びアンモニアの添加タイミングは、反応の開始時又は反応の途中のいずれであってもよいが、好ましくは反応の途中が挙げられる。反応の途中に界面活性剤及びアンモニアを添加する場合、例えば、反応開始から1~10時間後、好ましくは2~6時間後、更に好ましくは4~5時間後に界面活性剤及びアンモニアを添加し、その後、10~35時間、好ましくは15~30時間、更に好ましくは20~25時間反応を継続すればよい。
【0054】
斯くして第4工程を行うことによりTEOS化量子ドットが生成する。生成したTEOS化量子ドットは、回収された後に第5工程に供される。TEOS化量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4000rpmで5~10分間、更に好ましくは3500~5000rpmで10~20分間が挙げられる。
【0055】
[第5工程の前処理]
前記第4工程で得られたTEOS化量子ドットは、第5工程に供する前に、水分含量が0.001%以下の脱水エタノール(超脱水エタノール)による洗浄処理に供してもよい。このような洗浄処理を行うことによって、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットをより一層効率的に製造することが可能になる。
【0056】
当該洗浄処理は、超脱水エタノール中に前記第4工程で得られたTEOS化量子ドットを添加し、必要に応じて超音波処理や撹拌を行いながら、1~30分間、好ましくは3~20分間、更に好ましくは4~15分間実施すればよい。
【0057】
当該洗浄処理の温度条件については、特に制限されず、例えば、室温であればよい。
【0058】
TEOS化量子ドットを洗浄処理した後に、TEOS化量子ドットを回収して、第5工程に供される。TEOS化量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4500rpmで5~40分間、更に好ましくは3500~4000rpmで10~15分間が挙げられる。
【0059】
なお、当該洗浄処理は、少なくとも1回行えばよいが、必要に応じて2回以上繰り返し実施してもよい。
【0060】
[第5工程]
第5工程では、水分含量が0.001%以下の脱水エタノール(超脱水エタノール)中で、前記第4工程で得られたTEOS化量子ドット(又は、前記洗浄処理後のTEOS化量子ドット)にチタンテトラブトキシドを反応させ、TTB化量子ドットを得る。第5工程と後述する第6工程において、溶媒として超脱水エタノールを採用することによって、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に製造することが可能になる。
【0061】
第5工程における反応は、例えば、チタンテトラブトキシドを添加した超脱水エタノール中に、TEOS化量子ドットを添加することによって開始される。チタンテトラブトキシドを添加した超脱水エタノールは、アルゴンガス等の不活性ガスを注入して混合しておくことが望ましい。また、チタンテトラブトキシドを添加した超脱水エタノール中に、TEOS化量子ドットを添加する際にも、アルゴンガス等の不活性ガスを注入し、超音波処理と撹拌を行っておくことが望ましい。
【0062】
TEOS化量子ドットの添加量については、特に制限されないが、例えば、超脱水エタノール中でTEOS化量子ドットが0.001~5mg/ml、好ましくは0.01~2mg/ml、より好ましくは0.05~0.6mg/ml、更に好ましくは0.08~0.4mg/mlが挙げられる。
【0063】
また、チタンテトラブトキシドの添加量については、例えば、TEOS化量子ドット1mg当たり、1~800mg、好ましくは5~500mg、より好ましくは10~300mg、更に好ましくは20~150mg、特に好ましくは10~130mgが挙げられる。
【0064】
第5工程における反応は、撹拌条件下で行うことが望ましい。撹拌条件については、特に制限されないが、例えば200~2000rpm、好ましくは300~1500rpm、より好ましくは600~1200rpmが挙げられる。
【0065】
第5工程における反応温度については、特に制限されないが、例えば10~35℃、好ましくは15~30℃、更に好ましくは20~25℃が挙げられる。
【0066】
第5工程における反応時間については、特に制限されないが、例えば2~48時間、好ましくは10~30時間、更に好ましくは15~25時間が挙げられる。
【0067】
斯くして第5工程を行うことによりTBB化量子ドットが生成する。生成したTBB化量子ドットは、回収された後に第6工程に供される。TBB化量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4500rpmで5~20分間、更に好ましくは3500~4000rpmで10~15分間が挙げられる。
【0068】
[第6工程]
第6工程では、水分含量が0.001%以下の脱水エタノール(超脱水エタノール)中で、前記第5工程で得られたTTB化量子ドットにグリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応させ、GOPS化量子ドットを得る。本発明では、第5工程と第6工程において、溶媒として超脱水エタノールを採用することによって、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に製造することが可能になっている。
【0069】
第6工程における反応は、例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加した超脱水エタノール中に、TTB化量子ドットを添加することによって開始される。グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加したエタノール中に、TTB化量子ドットを添加する際には、超音波処理と撹拌を行っておくことが望ましい。
【0070】
TTB化量子ドットの添加量については、特に制限されないが、例えば、超脱水エタノール中でTTB化量子ドットが0.001~5mg/ml、好ましくは0.01~2mg/ml、より好ましくは0.05~0.6mg/ml、更に好ましくは0.08~0.4mg/mlが挙げられる。
【0071】
また、グリシドキシプロピルトリメトキシシランの添加量については、例えば、TTB化量子ドット1mg当たり、1~800mg、好ましくは5~500mg、より好ましくは10~300mg、更に好ましくは20~150mg、特に好ましくは10~130mgが挙げられる。
【0072】
第6工程における反応は、撹拌条件下で行うことが望ましい。撹拌条件については、特に制限されないが、例えば200~2000rpm、好ましくは300~1500rpm、より好ましくは600~1200rpmが挙げられる。
【0073】
第6工程における反応温度については、特に制限されないが、例えば10~35℃、好ましくは15~30℃、更に好ましくは20~25℃が挙げられる。
【0074】
第6工程における反応時間については、特に制限されないが、例えば1~10時間、好ましくは3~6時間、更に好ましくは4~5時間が挙げられる。
【0075】
斯くして第6工程を行うことによりGOPS化量子ドットが生成する。生成したGOPS化量子ドットは、回収された後に第7工程に供される。GOPS化量子ドットを回収する手法については、特に制限されないが、量子効率が高いポリエチレングリコール化量子ドットを効率的に得るという観点から、遠心分離が好ましい。遠心分離の条件については、特に制限されないが、例えば3000rpm以上で5分間以上、好ましくは3200~4500rpmで5~20分間、更に好ましくは3500~4000rpmで10~15分間が挙げられる。
【0076】
[第7工程]
第7工程では、GOPS化量子ドットにメトキシポリエチレングリコールを反応させ、ポリエチレングリコール化量子ドットを生成させる。
【0077】
第7工程で使用されるメトキシポリエチレングリコールは、最終的に量子ドットの表面に結合して量子ドットに親水性を付与する役割を果たす。メトキシポリエチレングリコールにおけるエチレンオキサイドの平均付加モル数については、量子ドットに結合させるべきポリエチレングリコールの分子量に応じて適宜設定すればよいが、例えば、5~40個、好ましくは5~20個、より好ましくは9~15個、更に好ましくは10~14個、特に好ましくは11~12個が挙げられる。
【0078】
第7工程における反応に使用される溶媒については、GOPS化量子ドットにメトキシポリエチレングリコールが反応可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、水、リン酸緩衝液等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは水(特に、純水)が挙げられる。
【0079】
第7工程における反応は、例えば、メトキシポリエチレングリコールを添加した溶媒中に、GOPS化量子ドットを添加することによって開始される。メトキシポリエチレングリコールを添加した溶媒中に、GOPS化量子ドットを添加する際には、超音波処理と撹拌を行っておくことが望ましい。
【0080】
GOPS化量子ドットの添加量については、特に制限されないが、例えば、溶媒中でGOPS化量子ドットが0.001~5mg/ml、好ましくは0.01~2mg/ml、より好ましくは0.05~0.6mg/ml、更に好ましくは0.08~0.4mg/mlが挙げられる。
【0081】
また、メトキシポリエチレングリコールの添加量については、例えば、GOPS化量子ドット1mg当たり、1~1000mg、好ましくは10~500mg、より好ましくは20~300mg、更に好ましくは40~160mgが挙げられる。
【0082】
第7工程における反応は、撹拌条件下で行うことが望ましい。撹拌条件については、特に制限されないが、例えば200~2000rpm、好ましくは300~1500rpm、より好ましくは600~1200rpmが挙げられる。
【0083】
第7工程における反応温度については、特に制限されないが、例えば10~35℃、好ましくは15~30℃、更に好ましくは20~25℃が挙げられる。
【0084】
第7工程における反応時間については、特に制限されないが、例えば1~100時間、好ましくは5~~50時間、より好ましくは10~40時間、更に好ましくは12~25時間が挙げられる。
【0085】
斯くして第7工程を行うことによりポリエチレングリコール化量子ドットが生成する。生成したポリエチレングリコール化量子ドットは、遠心分離等の公知の方法に従って回収すればよい。
【0086】
なお、本発明のポリエチレングリコール化量子ドットの製造方法において、全ての工程を遮光条件下で行うことが望ましい。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
1.ポリエチレングリコール化CdSe/ZnS量子ドットの製造
[実施例1]
以下に示す方法でポリエチレングリコール化CdSe/ZnS量子ドットの製造を行った。なお、本製造では、全ての工程を遮光下で行った。
【0089】
室温で、CdSe/ZnS量子ドット(CdSe量子ドットをコア、ZnSをシェルとしたコア/シェル構造の量子ドット)を0.175mg/mlになるようにブタノールに添加して120秒間浸漬した後、遠心分離(3500rpmで10分間)によりCdSe/ZnS量子ドットを回収した(第1工程)。
【0090】
次いで、室温で、ブタノール浸漬後に回収したCdSe/ZnS量子ドットを0.175mg/mlになるようにクロロホルムに添加して120秒間浸漬した後、遠心分離(3800rpmで10分間)によりCdSe/ZnS量子ドットを回収した(第2工程)。
【0091】
更に、室温で、クロロホルム浸漬後に回収したCdSe/ZnS量子ドットを0.175mg/mlになるようにメタノールに添加して120秒間浸漬した後、遠心分離(3500rpmで10分間)によりCdSe/ZnS量子ドットを回収した(第3工程)。
【0092】
その後、に添加して浸漬後に回収したCdSe/ZnS量子ドットを0.0125mg/mlになるようにトルエンに添加して900rpmで撹拌しながら超音波処理を5分間行った。次いで、正珪酸四エチルを1.1μl/mlとなるように添加し、25℃の温度条件下で900rpmで撹拌しながら、24時間反応を行った。なお、反応中に、正珪酸四エチルの添加から4.5時間後の時点で、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルとアンモニアの混合液を添加した(反応液中で、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの終濃度は0.00017重量%、アンモニアの終濃度は0.25重量%)。斯くして、TEOS化CdSe/ZnS量子ドットを生成させた後に、遠心分離(3800rpmで20分間)によりTEOS化CdSe/ZnS量子ドットを回収した(第4工程)。
【0093】
前記で回収したTEOS化CdSe/ZnS量子ドットを0.175mg/mlになるように脱水エタノール(超脱水、水分含量が0.001%以下)に添加して室温で12分間撹拌しながら洗浄を行い、遠心分離(3500rpmで10分間)により洗浄後のTEOS化CdSe/ZnS量子ドットを回収した。
【0094】
次いで、22℃の温度条件下で脱水エタノール(超脱水、水分含量が0.001%以下)にアルゴンガスを注入しつつ超音波処理を行いながらチタンテトラブトキシドを11.5mg/mlになるように添加した。その後、20分以内にアルゴンガスの注入と超音波処理を継続しながら、洗浄後のTEOS化CdSe/ZnS量子ドットを0.175mg/mlになるように添加し、22℃の温度条件下で900rpmで撹拌しながら19時間反応を行った。斯くして、TBB化CdSe/ZnS量子ドットを生成させた後に、遠心分離(3500rpmで10分間)によりTBB化CdSe/ZnS量子ドットを回収した(第5工程)。
【0095】
その後、超音波処理と900rpmでの撹拌を行いながら、前記で回収したTBB化CdSe/ZnS量子ドットを0.175mg/mlになるように脱水エタノール(超脱水、水分含量が0.001%以下)に添加し、22℃の温度条件下で900rpmで撹拌しながら、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン11.5mgに対して脱水エタノールを1.0mlを添加して調製したグリシドキシプロピルトリメトキシシラン溶液を添加して、4.5時間反応を行った。斯くして、GOPS化CdSe/ZnS量子ドットを生成させた後に、遠心分離(3500rpmで12分間)によりGOPS化CdSe/ZnS量子ドットを回収した(第6工程)。
【0096】
その後、メトキシポリエチレングリコール(エチレンオキサイドの平均付加モル数(11個)14mg/mlを含む水溶液(溶媒は純水)に、超音波処理と900rpmでの撹拌を行いながら、前記で回収したGOPS化CdSe/ZnS量子ドットを0.175mg/mlになるように添加した。その後、22℃の温度条件下で900rpmで撹拌しながら17時間反応を行った。斯くして、ポリエチレングリコール化CdSe/ZnS量子ドットを生成させた後に、遠心分離(3500rpmで10分間)によりポリエチレングリコール化CdSe/ZnS量子ドットを回収した(第7工程)。
【0097】
[比較例1]
第5工程において、溶媒として、脱水エタノール(超脱水、水分含量が0.001%以下)の代わりに、通常のエタノール(水分含量が0.5重量%、特級品)を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件でポリエチレングリコール化量子ドットを製造した。
【0098】
[比較例2]
第6工程において、溶媒として、脱水エタノール(超脱水、水分含量が0.001%以下)の代わりに、通常のエタノール(水分含量が0.5重量%、特級品)を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件でポリエチレングリコール化量子ドットを製造した。
【0099】
2.ポリエチレングリコール化量子ドットの量子効率の評価
前記で獲られた各ポリエチレングリコール化量子ドットの量子効率を、蛍光分光光度計(JASCO社製FP-6300)を用いた蛍光強度によって評価した。蛍光強度の測定では、励起波長350nmに設定し、250~700nmの範囲で最大の蛍光強度が認められた550nmを測定波長として測定を行った。
【0100】
得られた結果を表1に示す。この結果、実施例1で得られたポリエチレングリコール化量子ドットの蛍光強度は、原料として使用した量子ドット(ポリエチレングリコール化前の量子ドット)の蛍光強度に比べて、1.46倍になっていた。即ち、実施例1で得られたポリエチレングリコール化量子ドットは、ポリエチレングリコール化によって量子効率の低下の抑制に止まらず、量子効率を向上させることができていた。一方、比較例1及び2で得られたものでは、蛍光強度はほぼ喪失しており、量子ドットとして使用できるものではなかった。
【0101】