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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】二次電池及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20220818BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220818BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220818BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20220818BHJP
   C01B 32/22 20170101ALI20220818BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/1393
C01B32/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018204297
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020071959
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 健博
(72)【発明者】
【氏名】山見 慎一
(72)【発明者】
【氏名】金武 史弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-285623(JP,A)
【文献】特開2013-225501(JP,A)
【文献】特開2016-178074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 4/1393
C01B 32/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯体と、前記負極芯体の少なくとも一方の表面に設けられた負極活物質層とを有する負極を備え、
前記負極活物質層は、結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含む負極活物質と、平均一次粒子径が120~250nmのゴム系結着材とを含み、
前記負極活物質は、水銀ポロシメーターにより測定される細孔径0.2~1μmにおける細孔容量が0.5ml/g以下であり、
前記負極活物質の細孔容量に対する、前記ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(前記ゴム系結着材の粒子径/前記負極活物質の細孔容量)が、1.15~1.70g/mである、二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛は鱗片状黒鉛であり、
前記負極活物質は、複数の折れ曲がった前記鱗片状黒鉛を含む請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質は、前記負極活物質の細孔に充填された炭素質材料を含む、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記炭素質材料は、非晶質炭素を主成分とする、請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
水銀ポロシメーターにより測定される細孔径0.2~1μmにおける前記負極活物質の細孔容量が、0.1~0.2ml/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
水銀ポロシメーターにより測定される前記負極活物質の平均細孔径が、0.1~0.2μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記ゴム系結着材の平均一次粒子径が、150~230nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含む負極活物質に、加圧、又は前記負極活物質の細孔への炭素質材料の充填の少なくともどちらか一方を施し、水銀ポロシメーターにより測定される細孔径0.2~1μmにおける、前記負極活物質の細孔容量を0.5ml/g以下とする工程と、
前記負極活物質と、平均一次粒子径が120~250nmのゴム系結着材とを混練し、負極活物質スラリーを調製する工程と、
前記負極活物質スラリーを負極芯体に塗布して負極活物質層を形成する工程とを含み、
前記負極活物質の細孔容量に対する、前記ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(前記ゴム系結着材の粒子径/前記負極活物質の細孔容量)が、1.15~1.70g/mである、二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記黒鉛は鱗片状黒鉛であり、
前記負極活物質は、複数の折れ曲がった前記鱗片状黒鉛を含む請求項8に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料を負極活物質として用いる二次電池は、広く利用されているが、低温回生特性や高温耐久特性等の問題があった。例えば、特許文献1は、低温回生特性の向上を目的として、黒鉛粒子を核として、カーボンブラックを含む表面被覆をした炭素材料を開示している。また、特許文献2は、電極活物質層の剥離強度の向上を目的として、平均粒子径が100nm以下のスチレンブタジエンゴム(SBR)を含有する負極活物質層を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-60148号公報
【文献】特開2013-4241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二次電池において、低温回生特性を維持しつつ、高温耐久特性を向上させることは重要な課題である。特許文献1、2に開示された技術は、高温耐久特性の向上という面では未だ改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である二次電池は、負極芯体と、前記負極芯体の少なくとも一方の表面に設けられた負極活物質層とを有する負極を備え、前記負極活物質層は、結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含む負極活物質と、平均一次粒子径が120~250nmのゴム系結着材とを含み、前記負極活物質は、水銀ポロシメーターにより測定される細孔径0.2~1μmにおける細孔容量が0.5ml/g以下であり、前記負極活物質の細孔容量に対する、前記ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(前記ゴム系結着材の粒子径/前記負極活物質の細孔容量)が、1.15~1.70g/mである。
【0006】
本開示の一態様である二次電池の製造方法は、結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含む負極活物質に、加圧、又は前記負極活物質の細孔への炭素質材料の充填の少なくともどちらか一方を施し、水銀ポロシメーターにより測定される細孔径0.2~1μmにおける、前記負極活物質の細孔容量を0.5ml/g以下とする工程と、前記負極活物質と、平均一次粒子径が120~250nmのゴム系結着材とを混練し、負極活物質スラリーを調製する工程と、前記負極活物質スラリーを負極芯体に塗布して負極活物質層を形成する工程とを含み、前記負極活物質の細孔容量に対する、前記ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(前記ゴム系結着材の粒子径/前記負極活物質の細孔容量)が、1.15~1.70g/mである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、低温回生特性、及び高温耐久特性に優れた二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例である二次電池の正面図であって、電池ケース及び絶縁シートの正面部分を取り除いた状態を示す。
図2】実施形態の一例である二次電池の平面図である。
図3】実施形態の一例である負極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、二次電池において低温回生特性と高温耐久特性を両立させることは重要な課題である。なお、高温耐久特性とは、実施例で後述する高温保存特性、及び高温サイクル特性を意味する。
【0010】
特許文献1に開示された技術は、カーボンブラックを含む表面被覆により、負極の反応面積を増やすことで、低温回生特性を向上させている。しかし、反応面積が増えると、電解液と活物質の反応による不可逆的なリチウム化合物の生成等の副反応が増加するため、特許文献1に開示された技術は、高温耐久特性に課題がある。
【0011】
また、特許文献2に開示された技術を用いると、活物質内部に粒子径の小さいSBRが多く侵入してしまい、負極芯体との密着強度に寄与できるSBRの量が減るので、密着強度の維持のために、負極活物質層におけるSBRの含有量を多くしなくてはならない。そのため、特許文献2に開示された技術は、低温回生特性に課題がある。
【0012】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含む負極活物質と、平均一次粒子径が120~250nmのゴム系結着材とを含み、水銀ポロシメーターにより測定される負極活物質の細孔径0.2~1μmにおける細孔容量が0.5ml/g以下であり、負極活物質の細孔容量に対する、ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(ゴム系結着材の粒子径/負極活物質の細孔容量)が、1.15~1.70g/mとすることで、低温回生特性と高温耐久特性に優れた二次電池が得られることを見出した。
【0013】
負極活物質に対しては、加圧により負極活物質の細孔径を小さくする、又は負極活物質の細孔に炭素質材料を充填しつつ、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びその変性体等のゴム系結着材の粒子径を一定以上とすることで、ゴム系結着材の負極活物質の細孔内への侵入を抑制できるので、負極活物質層におけるゴム系結着材の含有量を少なくすることができる。その結果、低温回生特性を維持しつつ、高温耐久特性を向上させることができる。
【0014】
結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛は、結晶性が非常に高い。このような結晶性が非常に高い黒鉛を使用することにより、より電池容量が高い優れた二次電池となる。
【0015】
なお、負極活物質は、黒鉛として鱗片状黒鉛を含み、複数の鱗片状黒鉛が集まり合って構成されたものであることが好ましい。また、複数の鱗片状黒鉛が折れ曲がり、それぞれ重なり合うようにして負極活物質の粒子を形成していることが好ましい。このような、負極活物質を用いる場合、本願発明は特に効果的である。
【0016】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。本実施形態では、角形の金属製ケースである電池ケース200を備えた角形電池を例示するが、電池ケースは角形に限定されず、例えば金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された電池ケースであってもよい。また、正極及び負極の両方において、各活物質層が各芯体の両面に形成される場合を例示するが、各活物質層は、各芯体の両面に形成される場合に限定されず、少なくとも一方の表面に形成されればよい。なお、本明細書において、「略~」との記載は略同一を例に説明すると、完全に同一の状態、及び実質的に同一であると認められる状態の両方を意味する。
【0017】
図1及び図2に例示するように、二次電池100は、正極と負極がセパレータを介して巻回され、平坦部及び一対の湾曲部を有する扁平状に成形された巻回型の電極体3と、電解液と、電極体3及び電解液を収容する電池ケース200とを備える。電池ケース200は、開口を有する有底筒状の角形外装体1、及び角形外装体1の開口を封口する封口板2を含む。角形外装体1及び封口板2はいずれも金属製であり、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0018】
角形外装体1は、底面視略長方形状の底部、及び底部の周縁に立設した側壁部を有する。側壁部は、底部に対して垂直に形成される。角形外装体1の寸法は特に限定されないが、一例としては、横方向長さが130~160mm、高さが60~70mm、厚みが15~18mmである。本明細書では、説明の便宜上、角形外装体1の底部の長手方向に沿った方向を角形外装体1の「横方向」、底部に対して垂直な方向を「高さ方向」、横方向及び高さ方向に垂直な方向を「厚み方向」とする。
【0019】
電解液は、溶媒と、溶媒に溶解した電解質塩とを含む。溶媒は、例えば非水溶媒である。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。
【0020】
正極は、金属製の正極芯体と、芯体の両面に形成された正極活物質層とを有する長尺体であって、短手方向における一方の端部に長手方向に沿って正極芯体が露出する帯状の芯体露出部4aが形成されたものである。同様に、負極は、金属製の負極芯体と、芯体の両面に形成された負極活物質層とを有する長尺体であって、短手方向における一方の端部に長手方向に沿って負極芯体が露出する帯状の芯体露出部5aが形成されたものである。電極体3は、軸方向一端側に正極の芯体露出部4aが、軸方向他端側に負極の芯体露出部5aがそれぞれ配置された状態で、セパレータを介して正極及び負極が巻回された構造を有する。
【0021】
正極の芯体露出部4aの積層部には正極集電体6が、負極の芯体露出部5aの積層部には負極集電体8がそれぞれ接続される。好適な正極集電体6は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。好適な負極集電体8は、銅又は銅合金製である。正極端子7は、封口板2の電池外部側に配置される鍔部7aと、封口板2に設けられた貫通穴に挿入される挿入部とを有し、正極集電体6と電気的に接続されている。また、負極端子9は、封口板2の電池外部側に配置される鍔部9aと、封口板2に設けられた貫通穴に挿入される挿入部とを有し、負極集電体8と電気的に接続されている。
【0022】
正極端子7及び正極集電体6は、それぞれ内部側絶縁部材10及び外部側絶縁部材11を介して封口板2に固定される。内部側絶縁部材10は、封口板2と正極集電体6の間に配置され、外部側絶縁部材11は封口板2と正極端子7の間に配置される。同様に、負極端子9及び負極集電体8は、それぞれ内部側絶縁部材12及び外部側絶縁部材13を介して封口板2に固定される。内部側絶縁部材12は封口板2と負極集電体8の間に配置され、外部側絶縁部材13は封口板2と負極端子9の間に配置される。
【0023】
電極体3は、絶縁シート14に覆われた状態で角形外装体1内に収容される。封口板2は、角形外装体1の開口縁部にレーザー溶接等により接続される。封口板2は電解液注液孔16を有し、この電解液注液孔16は電池ケース200内に電解液を注液した後、封止栓17により封止される。封口板2には、電池内部の圧力が所定値以上となった場合にガスを排出するためのガス排出弁15が形成されている。
【0024】
以下、電極体3を構成する正極、負極5、及びセパレータについて、特に負極5について詳説する。
【0025】
[正極]
正極は、上述のように、正極芯体と、正極芯体の両面に形成された正極活物質層とを有する。正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、正極活物質、導電材、及び結着材を含む。正極は、正極芯体の表面に正極活物質、導電材、結着材、及び分散媒等を含む正極活物質スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて分散媒を除去した後、塗膜を圧縮して正極活物質層を正極芯体の両面に形成することにより製造できる。
【0026】
正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。なお、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面には、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0027】
正極活物質層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素質材料が例示できる。正極活物質層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などの増粘材が併用されてもよい。
【0028】
[負極]
以下、図3を参照しながら、負極5について、特に負極活物質22について詳説する。図3は、負極5の長手方向中央を通る当該長手方向に垂直な断面を示す。
【0029】
負極5は、上述のように、負極芯体20と、負極芯体20の両面に形成された負極活物質層21とを有する。負極芯体20には、銅、銅合金など、負極5の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極芯体20の厚みは、例えば5~20μmである。
【0030】
負極活物質層21は、負極活物質22、ゴム系結着材23を含む。負極活物質層21の厚みは、負極芯体20の片面側で、例えば50~150μmであり、好ましくは80~120μmである。
【0031】
負極活物質は、黒鉛を主体とすることが好ましい。例えば、負極活物質における黒鉛の含有量は、体積比で60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。負極活物質22の原料としては、天然黒鉛が使用できる。負極活物質22は、10nm以上の大きさの結晶子を有し、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含むことが好ましい。この黒鉛としては、複数の鱗片状黒鉛を含むものが好ましい。また、複数の鱗片状黒鉛がそれぞれ折り畳まれるようにして、それぞれ重なりあった状態で負極活物質22を構成することが好ましい。負極活物質22の外形は、略球状が好ましい。負極活物質22の中心粒子径(D50)は、例えば5~30μmである。本明細書において、中心粒子径とは、特に断らない限り、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる粒子径(D50)を意味する。
【0032】
負極活物質22の細孔容積、及び平均細孔径は、水銀ポロシメーター(例えば、マイクロメチテックス社製、オートポアIV9510型)を用いて測定できる。水銀ポロシメーターにより測定される細孔径0.2~1μmにおける、負極活物質22の細孔容量は、0.5ml/g以下であり、0.1~0.2ml/gが好ましい。
【0033】
負極活物質22の細孔径は、加圧によって小さくすることができる。加圧の方法は、プレス等の機械的な方法等が採用できる。圧縮により細孔径を小さくした負極活物質22を用いた場合、二次電池100の入出力特性、電池容量のどちらもバランス良く向上させることができる。
【0034】
負極活物質22の細孔には、炭素質材料を充填することができる。充填の方法は、加圧下、又は減圧下でピッチを細孔に染み込ませた後に、例えば、50~2000℃窒素雰囲気で焼成する方法等が採用できる。これにより、負極活物質22の細孔がピッチの焼成物が充填された状態となる。炭素質材料は、非晶質炭素又は結晶質炭素を含むことができる。非晶質炭素は、二次電池100の入出力特性向上の観点から好適である。結晶質炭素は、電池容量の向上と耐久性向上の観点から、好適である。炭素質材料は、非晶質炭素を主成分とすることがより好ましい。主成分とは、含有される成分の内、多く含まれる主要な成分を意味し、非晶質炭素を主成分とするとは、非晶質炭素が結晶質炭素よりも多く含まれていることを意味する。非晶質炭素と結晶質炭素の割合は、焼成温度等の充填方法によって変化させることができる。
【0035】
負極活物質22の細孔に充填された炭素質材料の非晶質炭素と結晶質炭素の割合は、負極活物質層21をラマン分光法にて測定することで得られる。炭素質材料のラマンスペクトルには、1590cm-1付近にグラファイト構造に由来するGバンド(G-band)のピークが、1350cm-1付近に欠陥に由来するDバンド(D-band)のピークがそれぞれ現れる。D-band/G-bandのピーク強度比は、非晶質炭素量の指標として使用でき、当該比率が高いほど非晶質炭素量が多いことを意味する。
【0036】
負極活物質層21に含まれるゴム系結着材23には、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びその変性体等が用いられる。ゴム系結着材23の平均一次粒子径は、120~250nmが好ましく、150~230nmがより好ましい。負極活物質層21には、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどの結着材がさらに含まれてもよい。また、負極活物質層21には、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、PVAなどが含まれていてもよい。CMC又はその塩は、負極活物質スラリーを適切な粘度範囲に調整する増粘材として機能し、また、結着材としても機能する。
【0037】
SBR又はその変性体、CMC又はその塩の含有量は、負極活物質層21の質量に対して、それぞれ、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。SBR又はその変性体、CMC又はその塩を、それぞれ0.1質量%以上含有することが、負極芯体20と密着強度の観点から好ましく、5質量%以下含有とすることが、低温回生特性の観点から好ましい。
【0038】
負極活物質の細孔容量に対する、ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(ゴム系結着材の粒子径/負極活物質の細孔容量)は、1.15~1.70g/mである。
【0039】
負極活物質22に対しては、加圧により負極活物質22の細孔径を小さくする、又は負極活物質22の細孔に炭素質材料を充填しつつ、SBR、及びその変性体等のゴム系結着材の粒子径を一定以上とすることで、ゴム系結着材の負極活物質22の細孔内への侵入を抑制でき、低温回生特性、及び高温耐久特性に優れた二次電池を提供することが可能となる。負極活物質22を加圧した後に、非晶質炭素を主成分とする炭素質材料を細孔に充填してもよい。
【0040】
負極5は、負極芯体20の表面に負極活物質22、及びゴム系結着材23を含む負極活物質スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて分散媒を除去した後、塗膜を圧縮して負極活物質層21を負極芯体20の両面に形成することにより製造できる
【0041】
[セパレータ]
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。セパレータ(多孔性シート)は、例えばポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、及びアラミドから選択される少なくとも1種を主成分とする多孔質基材を含む。中でも、ポリオレフィンが好ましく、特にポリエチレン、及びポリプロピレンが好ましい。
【0042】
セパレータは、樹脂製の多孔質基材のみで構成されていてもよく、多孔質基材の少なくとも一方の面に無機物粒子等を含む耐熱層などが形成された複層構造であってもよい。また、樹脂製の多孔質基材が、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン等の複層構造を有していてもよい。セパレータの厚みは、例えば10~30μmである。セパレータは、例えば、平均孔径が0.02~5μm、空孔率が30~70%である。一般的に、巻回型の電極体3は2枚のセパレータを含むが、各セパレータには同じものを用いることができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.35Co0.35Mn0.30で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、97:2:1の固形分質量比で混合し、分散媒にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた正極活物質スラリーを調製した。次に、当該正極活物質スラリーを、帯状のアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧縮して芯体の両面に正極活物質層を形成した。当該芯体を所定の電極サイズに切断して正極を作製した。
【0045】
[負極活物質の作製]
X線広角回折法で測定される結晶子サイズ(Lc(002))が、15nmであり、(002)面の面間隔(d002)が、0.3356nmの鱗片状の天然黒鉛を原料とした。当該天然黒鉛を粉砕し、外観が略球状になるように調製した。プレスにて加圧することで細孔径を小さくした負極活物質を得た。当該負極活物質の中心粒子径(D50)は、10μmであった。当該負極活物質は、鱗片状黒鉛を造粒した物である。より具体的には、当該負極活物質は、複数の折れ曲がった鱗片状黒鉛を含む。複数の折れ曲がった鱗片状黒鉛が、それぞれ重なり合うように粒子を形成している。
【0046】
[負極の作製]
上記負極活物質と、増粘材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩と、ゴム系結着材としてスチレンブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンとを、98.9:0.7:0.4の固形分質量比で混合し、分散媒に水を用いた負極活物質スラリーを調製した。次に、当該負極活物質スラリーを、厚み8μmの帯状の銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し(塗布量:70mg/10cm)、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラを用いて塗膜を圧縮して芯体の両面に、充填密度が1.1g/mlの負極活物質層を形成した。当該芯体を所定の電極サイズに切断して負極を作製した。
【0047】
負極活物質層の充填密度は、以下のようにして算出した。
(1)負極から10cmの試料片を切り出し、当該試料片の質量A(g)、及び厚みC(cm)を測定する。
(2)負極から化学的又は機械的手段によって活物質層を取り除き、負極芯体の質量B(g)、及び厚みD(cm)を測定する。
(3)次式から充填密度を算出する。
充填密度(g/ml)=(A-B)/[(C-D)×10cm
【0048】
[電極体の作製]
上記正極及び上記負極を、幅120mmの帯状のセパレータを介して巻回した後、巻回体を径方向にプレスして扁平状に成形し、巻回型の電極体を作製した。巻回体は、セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に重ね合わせたものを、円筒状の巻芯に巻き付けて形成した(2枚のセパレータには同じものを用いた)。また、正極及び負極を、それぞれの芯体露出部が互いに巻回体の軸方向反対側に位置するように巻回した。巻回体のプレス条件は、プレス温度75℃、プレス圧100kN、プレス時間30分とした。
【0049】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、3:3:4の体積比(25℃、1気圧)で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/lの濃度になるように添加し、さらにビニレンカーボネートを0.3質量%の濃度となるように添加して、電解液を調製した。
【0050】
[二次電池の作製]
上記電極体、上記電解液、及び角形の電池ケースを用いて、二次電池(角形電池)を作製した。電池ケースを構成する封口板に正極端子を取り付けると共に、正極端子に正極集電体を接続した。また、封口板に負極端子を取り付けると共に、負極端子に負極集電体を接続した。そして、正極の芯体露出部に正極集電体を、負極の芯体露出部に負極集電体をそれぞれ溶接した。封口板と一体化された電極体を、箱状に成形した絶縁シート内に配置した状態で、電池ケースを構成する角形有底筒状の外装缶(横方向長さ148.0mm(内寸146.8mm)、厚み17.5mm(内寸16.5mm)、高さ65.0mm(内寸64.0mm))内に収容し、外装缶の開口部を封口板で塞いだ。封口板の電解液注液孔から、65gの電解液を注液した後、電極体に電解液を十分浸漬させたのち、仮性充電を行い、注液孔に封止栓を取り付けて、二次電池(電池容量:8Ah)を得た。
【0051】
[負極活物質の細孔容積、及び平均細孔径]
負極活物質の細孔容積、及び平均細孔径は、水銀ポロシメーター(マイクロメチテックス社製、オートポアIV9510型)を用いて測定した。圧力を4kPaから400MPaまで昇圧させた際の水銀圧入量から算出した。
【0052】
[ゴム系結着材の平均一次粒子径]
ゴム系結着材であるSBRの平均一次粒子径は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置(大塚電子社製、FPAR-1000)を用いて測定し、積算分布の値が50%となる粒子径をSBRの平均一次粒子径とした。
【0053】
<実施例2~3、及び比較例1~8>
負極活物質の細孔容積、及び平均細孔径、並びにゴム系結着材の平均一次粒子径を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、二次電池を作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
[高温保存特性の評価]
初期放電容量を測定した電池について、下記方法で高温保存後の容量維持率を求めた。
(1)電池電圧が4.1Vになるまで5Aで定電流充電し、その後、4.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。
(2)70℃、SOC80%の状態で56日間保存した。
(3)電池電圧が2.5Vになるまで5Aの定電流で放電した。
(4)電池電圧が4.1Vになるまで5Aの定電流で充電し、その後、4.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。
(5)電池電圧が2.5Vになるまで5Aの定電流で放電した。このときの放電容量を保存後放電容量とし、保存後放電容量を初期放電容量で除して、高温保存後の容量維持率を算出した。表2には、高温保存後の容量維持率として、比較例1の電池の高温保存後の容量維持率を100としたときの相対値を示す。
【0056】
[高温サイクル特性の評価方法]
初期放電容量を測定した電池について、下記方法で高温サイクル後の容量維持率を求めた。
(1)60℃の条件下で、2It(10A)の定電流で電池電圧4.1Vまで充電し、2It(10A)の定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。この充放電を400サイクル繰り返した。
(2)電池電圧が2.5Vまで5Aの定電流で放電した。
(3)電池電圧が4.1Vになるまで5Aの定電流で充電し、その後、4.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。
(4)電池電圧が2.5Vになるまで5Aの定電流で放電した。このときの放電容量をサイクル後放電容量とし、サイクル後放電容量を初期放電容量で除して、高温サイクル後の容量維持率を算出した。表2には、高温サイクル後の容量維持率として、比較例1の電池の高温サイクル後の容量維持率を100としたときの相対値を示す。
【0057】
[低温回生特性の評価]
各電池を下記の条件で充電し、低温回生値を求めた。
(1)25℃の条件下で、SOCが50%となるまで充電した。
(2)SOC50%の電池を、-30℃の条件下で、1.6C、3.2C、4.8C、6.4C、8.0C、及び9.6Cの電流でそれぞれ10秒間充電した。
(3)10秒充電した直後の電池電圧をそれぞれ測定し、各電流値に対して当該電池電圧をプロットし、SOC100%相当の電池電圧(V)となる電流値IP(A)を求めた。電流値IPをSOC100%相当の電池電圧(V)に乗じて、回生値(W)を算出した。表2には、低温回生値として、比較例1の電池の低温回生値を100としたときの相対値を示す。
【0058】
[負極芯体と負極活物質層の密着強度の評価]
樹脂プレートに貼り付けた両面テープに負極活物質層を接着させた後、一定速度で負極を引き上げ、活物質層が芯体から剥離する際の負荷をロードセルにより測定した。当該測定値を密着強度とした。表2には、密着強度として、比較例1の電池の密着強度を100としたときの相対値を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2から分かるように、実施例1~3はいずれも、比較例1~8と比較して、低温回生特性の低下を抑制しつつ、高温特性が向上した。したがって、結晶子サイズが10nm以上、層間距離d002が0.3356~0.3360nmの黒鉛を含む負極活物質と、平均一次粒子径が120~250nmのゴム系結着材とを含み、水銀ポロシメーターにより測定される負極活物質の細孔径0.2~1μmにおける細孔容量が0.5ml/g以下であり、負極活物質の細孔容量に対する、ゴム系結着材の平均一次粒子径の比率(ゴム系結着材の粒子径/負極活物質の細孔容量)が、1.15~1.70g/mである負極活物質層により、低温回生特性の低下を抑制しつつ、高温特性を向上することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 角形外装体、2 封口板、3 電極体、4a,5a 芯体露出部、5 負極、6 正極集電体、7 正極端子、7a,9a 鍔部、8 負極集電体、9 負極端子、10,12 内部側絶縁部材、11,13 外部側絶縁部材、14 絶縁シート、15 ガス排出弁、16 電解液注液孔、17 封止栓、20 負極芯体、21 負極活物質層、22 負極活物質、23 ゴム系結着材、100 二次電池、200 電池ケース
図1
図2
図3