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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20220818BHJP
   B60R 19/48 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
B62D25/08 D
B60R19/48 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019143027
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021024396
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正盛
(72)【発明者】
【氏名】谷口 剛士
(72)【発明者】
【氏名】吉田 研一
【審査官】岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-202891(JP,A)
【文献】特開2011-121437(JP,A)
【文献】特開2019-089360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60R 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に配置されて車幅方向に延びるアッパー部と、下方に配置されて車幅方向に延びるロア部と、車幅方向に間隔を置いて配置されて車両上下方向に延びる一対のサイド部と、からなる枠状の部分を有するとともに車両の前部に配置されたフレーム部材と、
前記アッパー部における車幅方向の中間部分に取り付けられたフードロック装置と、
前記アッパー部における車幅方向の中間部分と前記フレーム部材における前記アッパー部よりも下方に配置される下方部材との間に架設されたブレース部と、を有する車両前部構造において、
前記ブレース部は
上部が車両前後方向に延びるとともに下部が車両上下方向に延びる態様で、前記車両の前方に向けて凸となるように曲がった形状をなしており、
前記上部の後端部分であって且つ第1ねじ部材によって前記アッパー部に締結固定される部分である第1固定部と、前記下部の下端部分であって且つ第2ねじ部材によって前記下方部材に締結固定される部分である第2固定部と、を有し、
前記第1ねじ部材による前記第1固定部の締結固定方向は車両上下方向になっており、
前記第2ねじ部材による前記第2固定部の締結固定方向は車両前後方向になっている
ことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記フレーム部材は、前記一対のサイド部の間に架設されるとともに前記枠状の部分の前方において車幅方向に延びるバンパー部を有しており、
前記下方部材は前記バンパー部である
請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記第1固定部と前記フードロック装置とは、前記第1ねじ部材によって、前記アッパー部に共締め固定されている
請求項1または2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記アッパー部は、前記一対のサイド部の間に架設される態様で、第3ねじ部材によって前記一対のサイド部に締結固定されている
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記アッパー部は合成樹脂材料によって構成されており、
前記一対のサイド部および前記ロア部は金属材料によって構成されている
請求項1~4のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両のエンジンルームの前端には四角枠状の部分を有するフレーム部材が設けられている。この四角枠状の部分は、車両上下方向に間隔を置いて車幅方向に延びるアッパー部およびロア部と、それら部材の間において車両上下方向に延びる一対のサイド部とからなり、例えば内部にラジエータが配置されるラジエータサポートとして機能する。また、上記アッパー部の上部における車幅方向中央には、エンジンフードを閉状態でロックするためのフードロック装置が取り付けられている。
【0003】
特許文献1に記載の車両では、フレーム部材の一部として、四角枠状の部分の前方に配置されて車幅方向に延びるバンパー部が設けられている。そして、このバンパー部とアッパー部の車幅方向における中央との間に、車両上下方向に延びるブレース部が架設されている。このブレース部により、アッパー部におけるフードロック装置の取付部分が下方から支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-126381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両の組み立てに際してはフードロック装置の位置調整が行われる。特許文献1に記載の車両では、フレーム部材が、四角枠状の部分や、アッパー部とバンパー部との間に架設されるブレース部を有している。このことから、上記車両では、フードロック装置の取付対象であるアッパー部の位置が一対のサイド部やブレース部などといった周囲の部材の配設位置によって定まる構造になっているため、同アッパー部の位置調整が困難になっていると云える。そして、これがフードロック装置の位置調整の自由度を低下させる一因になっている。
【0006】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フードロック装置の位置調整を高い自由度で行うことのできる車両前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車両前部構造は、上方に配置されて車幅方向に延びるアッパー部と、下方に配置されて車幅方向に延びるロア部と、車幅方向に間隔を置いて配置されて車両上下方向に延びる一対のサイド部と、からなる枠状の部分を有するとともに車両の前部に配置されたフレーム部材と、前記アッパー部における車幅方向の中間部分に取り付けられたフードロック装置と、前記アッパー部における車幅方向の中間部分と前記フレーム部材における前記アッパー部よりも下方に配置される下方部材との間に架設されたブレース部と、を有する車両前部構造において、前記ブレース部は、第1ねじ部材によって前記アッパー部に締結固定される第1固定部と、第2ねじ部材によって前記下方部材に締結固定される第2固定部と、を有し、前記第1ねじ部材による前記第1固定部の締結固定方向である第1方向、および、前記第2ねじ部材による前記第2固定部の締結固定方向である第2方向のうちの一方は車両上下方向になっているとともに他方は車両前後方向になっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態の車両前部構造の斜視図。
図2】同車両前部構造の分解斜視図。
図3】ブレース部の第1固定部およびその周辺の断面図。
図4】車両前部構造の組み立て手順を示すフローチャート。
図5】車両前部構造の側面図。
図6】他の実施形態のフードロック装置およびその周辺の斜視図。
図7】その他の実施形態の車両前部構造の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、車両前部構造の一実施形態について説明する。
図1および図2に示すように、車両10は骨格部位の一部をなす一対のサイドメンバ11を有している。これらサイドメンバ11は、車幅方向に間隔を置いて車両前後方向(以下、単に前後方向)において平行に延びている。サイドメンバ11は金属材料によって形成されている。
【0010】
サイドメンバ11の前端には下部フレーム部材12が一体に設けられている。下部フレーム部材12は、下方に向けて略U字状で突出する態様で、一対のサイドメンバ11の間に架設されている。下部フレーム部材12は金属材料によって形成されている。下部フレーム部材12は、詳しくは、車幅方向に間隔を置いて配置されて車両上下方向(以下、単に上下方向)に延びる一対の下方サイド部13を備えている。それら下方サイド部13は、サイドメンバ11の前端から下方に向けて延びている。また、下部フレーム部材12は、車幅方向に延びる態様で、一対の下方サイド部13の下端の間に架設されたロア部14を備えている。
【0011】
また各サイドメンバ11の前端には、上方サイド部20が設けられている。上方サイド部20は金属材料によって形成されている。各上方サイド部20は上下方向および車幅方向に延びる平板状の平板部21を有しており、この平板部21がサイドメンバ11の先端に固定されている。また、各上方サイド部20は、上下方向および前後方向に延びる平板状の固定壁部22を有している。固定壁部22は、平板部21の車幅方向内側の端部における上端に、車両10の前方に突出する態様で立設されている。なお本実施形態では、下方サイド部13および上方サイド部20が、車幅方向に間隔を置いて配置されて上下方向に延びる一対のサイド部に相当する。
【0012】
一対の上方サイド部20の固定壁部22の間には、それら固定壁部22に挟まれた状態で車幅方向に延びるアッパー部30が架設されている。このアッパー部30は合成樹脂材料によって形成されている。
【0013】
アッパー部30は一対の上方サイド部20に対してねじ部材31によって締結固定されている。詳しくは、アッパー部30の車幅方向における両端部分には、車幅方向に延びる雌ねじ30A(図2)が設けられている。また、各上方サイド部20の固定壁部22には、断面円形状で車幅方向に貫通する貫通孔22Aが設けられている。そして、固定用の第3ねじ部材としてのねじ部材31が、上方サイド部20の貫通孔22Aに挿通された状態で、アッパー部30の雌ねじ30Aに螺合される。このようにして、一対の上方サイド部20にアッパー部30が締結固定されている。
【0014】
ここで、ねじ部材によって締結固定される部分では、貫通孔にねじ部材が挿通される構造になるため、ねじ部材の外周面と貫通孔の内周面との間隙の分だけ、締結固定対象の部材同士の相対位置をずらして調整することが可能になる。
【0015】
本実施形態では、アッパー部30を上方サイド部20に締結固定する部分において、上記ねじ部材31と上方サイド部20の貫通孔22Aとの隙間の分だけ、上方サイド部20に対するアッパー部30の固定位置の前後方向における調整や上下方向における調整が可能になっている。そして本実施形態では、こうした上方サイド部20に対するアッパー部30の固定位置の調整を適正に行うことが可能になるように、貫通孔22Aの大きさが定められている。
【0016】
なお本実施形態では、上方に配置されて車幅方向に延びるアッパー部30と、下方に配置されて車幅方向に延びるロア部14と、車幅方向に間隔を置いて配置されて上下方向に延びる一対のサイド部(下方サイド部13および上方サイド部20)とからなる「枠状の部分」が、車両10の前部に配置されている。この「枠状の部分」は、内部にラジエータ(図示略)が配置される部分、いわゆるラジエータサポートとして機能する。
【0017】
各上方サイド部20の平板部21の前面にはクラッシュボックス23が一体に形成されている。このクラッシュボックス23は四角筒状で前後方向に延びている。これらクラッシュボックス23の前端の間にはバンパー部24が架設されている。バンパー部24は、上記「枠状の部分」の前方において車幅方向に延びている。このように上記車両10では、クラッシュボックス23を介して、一対の上方サイド部20の間にバンパー部24が架設されている。クラッシュボックス23およびバンパー部24は金属材料によって形成されている。なお本実施形態では、上方サイド部20、下方サイド部13、アッパー部30およびロア部14からなる枠状の部分と、クラッシュボックス23およびバンパー部24がフレーム部材に相当する。
【0018】
アッパー部30とバンパー部24との間には、上記フレーム部材を補強するためのブレース部40が架設されている。ブレース部40は金属材料によって形成されている。ブレース部40は断面ハット形状で延びている。ブレース部40は、詳しくは、上部が上方に向けて凸の断面ハット形状で前後方向に延びるとともに下部が前方に向けて凸の断面ハット形状で上下方向に延びる態様で、前方に向けて凸となるように曲がった形状をなしている。ブレース部40の延設形状は、同ブレース部40における上下方向に延びる部分が前記「枠状の部分」から離れた位置において延びるように定められている。
【0019】
ブレース部40の上部における後端部分は、アッパー部30に固定される第1固定部41になっている。第1固定部41には断面円形状で上下方向に貫通する貫通孔41Aが設けられている。アッパー部30はその前部を構成するとともに車幅方向および前後方向に延びる前壁部33を有しており、この前壁部33における車幅方向の中央には上下方向に延びる雌ねじ33Aが設けられている。そして、第1ねじ部材としてのねじ部材43が、ブレース部40の第1固定部41の貫通孔41Aに挿通された状態で、アッパー部30の前壁部33の雌ねじ33Aに螺合されている。これにより、ブレース部40の第1固定部41がアッパー部30に締結固定されている。本実施形態では、ねじ部材43の締結方向、すなわちねじ部材43による第1固定部41の締結固定方向が上下方向になっており、この締結固定方向が第1方向に相当する。
【0020】
本実施形態では、ブレース部40の第1固定部41の貫通孔41Aと上記ねじ部材43との隙間の分だけ、アッパー部30に対するブレース部40の固定位置の前後方向における調整や車幅方向における調整が可能になっている。そして本実施形態では、そうしたアッパー部30に対するブレース部40の固定位置の調整を適正に行うことが可能になるように、貫通孔41Aの大きさが定められている。
【0021】
ブレース部40の下部における下端部分は、バンパー部24に固定される第2固定部44になっている。第2固定部44には、断面円形状で前後方向に貫通する貫通孔44Aが設けられている。バンパー部24の上部における車幅方向の中央にはフランジ25が突設されており、このフランジ25には前後方向に延びる雌ねじ25Aが設けられている。そして、第2ねじ部材としてのねじ部材27が、ブレース部40の第2固定部44の貫通孔44Aに挿通された状態で、バンパー部24のフランジ25の雌ねじ25Aに螺合されている。これにより、ブレース部40の第2固定部44がバンパー部24に締結固定されている。本実施形態では、ねじ部材27の締結方向、すなわちねじ部材27による第2固定部44の締結固定方向が前後方向になっており、この締結固定方向が第2方向に相当する。
【0022】
本実施形態では、ブレース部40の第2固定部44の貫通孔44Aと上記ねじ部材27との隙間の分だけ、バンパー部24に対するブレース部40の固定位置の上下方向における調整や車幅方向における調整が可能になっている。そして本実施形態では、こうしたバンパー部24に対するブレース部40の固定位置の調整を適正に行うことが可能になるように、貫通孔44Aの大きさが定められている。
【0023】
アッパー部30の上面における車幅方向の中央には、エンジンフード(図示略)を閉状態でロックするためのフードロック装置50が取り付けられている。
詳しくは、アッパー部30はその後部を構成するとともに上下方向および車幅方向に延びる後壁部35を有しており、この後壁部35には車幅方向に間隔を置いて前後方向に延びる雌ねじ35Aが設けられている。また、フードロック装置50の車幅方向の両端にはサイドフランジ51が突設されており、それらサイドフランジ51には断面円形状で前後方向に貫通する貫通孔51Aが設けられている。そして、ねじ部材53がフードロック装置50のサイドフランジ51の貫通孔51Aに挿通された状態で、アッパー部30の後壁部35の雌ねじ35Aに螺合される。これにより、フードロック装置50のサイドフランジ51がアッパー部30の後壁部35に締結固定されている。
【0024】
また、フードロック装置50の下端には前方に向けて突出するロアフランジ54が設けられており、このロアフランジ54には断面円形状で上下方向に貫通する貫通孔54Aが設けられている。そして、図3に示すように、前記ねじ部材43が、ブレース部40の第1固定部41の貫通孔41Aとフードロック装置50のロアフランジ54の貫通孔54Aとに挿通された状態で、アッパー部30の前壁部33の雌ねじ33Aに螺合される。これにより、ブレース部40の第1固定部41とフードロック装置50のロアフランジ54とが、ねじ部材43によって、アッパー部30の前壁部33に共締め固定されている。
【0025】
このようにしてブレース部40とフードロック装置50とをアッパー部30に共締め固定することにより、車両10の衝突などに起因してアッパー部30が変形した際に、アッパー部30の変形部分ともどもフードロック装置50が移動してしまうことが、同フードロック装置50に連結された状態のブレース部40によって抑えられるようになる。
【0026】
以下、本実施形態の車両前部構造の組み立て手順を、その作用とともに説明する。
図4に示すように、車両前部構造を組み立てる際には先ず、第1工程が実行される。
この第1工程では、図1および図2に示すように、クラッシュボックス23、バンパー部24、一対の上方サイド部20、およびアッパー部30が一つのアッセンブリとして一体に組み付けられる。具体的には、図2に示すように、クラッシュボックス23、バンパー部24、および一対の上方サイド部20が予め一体形成されている。そして、ねじ部材31を上方サイド部20の貫通孔22Aに挿通した状態でアッパー部30の雌ねじ30Aに螺合することにより、上方サイド部20の間にアッパー部30が架設される。
【0027】
図4に示すように、第1工程の後には、第2工程が実行される。
この第2工程では、図1および図2に示すように、上記アッセンブリが車両10の前部に固定される。詳しくは、一対の上方サイド部20の平板部21がサイドメンバ11の前端にねじ締結によって固定される。
【0028】
図4に示すように、第2工程の後には、第3工程が実行される。
この第3工程では、図5に示すように、アッパー部30の位置調整が行われる。具体的には、アッパー部30に上方サイド部20を締結固定しているねじ部材31が一旦緩められる。そして、サイドメンバ11に設定された基準面とアッパー部30の後面37との位置関係が予め定められた正規の関係になるように、上方サイド部20に対するアッパー部30の位置が調整される。こうした位置調整の後に、ねじ部材31の再度の締め付けが行われる。
【0029】
本実施形態では、前記フレーム部材におけるアッパー部30以外の部分が金属材料によって形成されているのに対して、アッパー部30は合成樹脂材料によって形成されている。そのため、フレーム部材を構成する各構成部品の中でもアッパー部30の寸法精度が低くなり易く、同アッパー部30の配設位置がずれ易い。本実施形態では、アッパー部30が、一対の上方サイド部20の間に架設される態様で、ねじ部材31によって一対の上方サイド部20に締結固定されている。これにより、ねじ部材31と上方サイド部20の貫通孔22Aとの間隙の分だけ、上方サイド部20に対するアッパー部30の取付位置をずらして調整することが可能になっている。
【0030】
図4に示すように、第3工程の後には、第4工程が実行される。
この第4工程では、図1および図2に示すように、アッパー部30にフードロック装置50が固定される。詳しくは、フードロック装置50の各サイドフランジ51がアッパー部30の後壁部35にねじ締結によって固定される。
【0031】
この固定に際しては、フードロック装置50の車幅方向の位置調整が次のように行われる。先ず、雌ねじ35Aが緩められた状態にされる。これにより、ねじ部材53とフードロック装置50のサイドフランジ51の貫通孔51Aとの間隙の分だけ、アッパー部30に対するフードロック装置50の位置を車幅方向にずらして調整することが可能な状態になる。そして、この状態でエンジンフードが閉じられる。このとき、エンジンフードの下面に設けられたフックがフードロック装置50のロック溝の内部に接触しつつ進入することにより、同フックがロック溝に嵌まる位置、すなわちフードロック装置50によってエンジンフードをロックすることが可能になる位置まで同フードロック装置50が車幅方向に移動するようになる。その後、エンジンフードが開かれるとともに雌ねじ35Aの締め付けが行われる。
【0032】
図4に示すように、第4工程の後には、第5工程が実行される。
この第5工程では、車両10にブレース部40が取り付けられる。
詳しくは、図1図3に示すように、ねじ部材43がブレース部40の第1固定部41の貫通孔41Aおよびフードロック装置50のロアフランジ54の貫通孔54Aに挿通された状態でアッパー部30の雌ねじ33Aに螺合される。これにより、ブレース部40の第1固定部41とフードロック装置50のロアフランジ54とがアッパー部30に共締め固定される。また、図1および図2に示すように、ねじ部材27がブレース部40の第2固定部44の貫通孔44Aに挿通された状態でバンパー部24のフランジ25の雌ねじ25Aに螺合されて、ブレース部40の第2固定部44がバンパー部24に締結固定される。
【0033】
本実施形態では、ブレース部40とアッパー部30との固定部分である第1固定部41や同ブレース部40とバンパー部24との固定部分である第2固定部44が、ねじ部材43,27によって締結固定される構造になっている。そのため、ブレース部40が設けられているとはいえ、第1固定部41におけるねじ部材43と貫通孔41Aとの間隙の分だけ、アッパー部30に対するブレース部40の取付位置の調整が可能になる。また、第2固定部44におけるねじ部材27と貫通孔44Aとの間隙の分だけ、バンパー部24に対するブレース部40の取付位置の調整が可能になる。
【0034】
ここで本実施形態では、第2工程においてアッパー部30の位置調整が行われるため、この位置調整に起因してアッパー部30とバンパー部24との相対位置に個体差(ずれ)が生じる。この点をふまえて本実施形態では、図1図2および図5に示すように、ブレース部40の第1固定部41におけるねじ部材43の締結方向が上下方向にされるとともに、第2固定部44におけるねじ部材27の締結方向が前後方向にされるといったように、ブレース部40の固定に用いる二つのねじ部材43,27の締結方向が異なる方向になっている。
【0035】
そのため、ねじ部材43の締結方向が上下方向になるブレース部40の第1固定部41においては、ねじ部材43の外周面と第1固定部41の貫通孔41Aの内周面との間隙が前後方向や車幅方向に幅を有する間隙になる。これにより、第1固定部41においては、アッパー部30の位置調整に起因して生じる同アッパー部30とバンパー部24との相対位置のずれ分のうちの前後方向のずれ分や車幅方向のずれ分が許容されるようになる。
【0036】
一方、ねじ部材27の締結方向が前後方向になるブレース部40の第2固定部44においては、ねじ部材27の外周面と第2固定部44の貫通孔44Aの内周面との間隙が上下方向や車幅方向に幅を有する間隙になる。そのため、第2固定部44においては、アッパー部30の位置調整に起因して生じる同アッパー部30とバンパー部24との相対位置のずれ分のうちの上下方向のずれ分や車幅方向のずれ分が許容されるようになる。
【0037】
このように本実施形態によれば、第2工程においてアッパー部30の取付位置を調整した結果、同アッパー部30とバンパー部24との相対位置が変化した場合であっても、第1固定部41によって前後方向の位置ずれ分と車幅方向の位置ずれ分とを許容するとともに第2固定部44によって上下方向の位置ずれ分と車幅方向の位置ずれ分とを許容することによって、ブレース部40を取り付けることができるようになる。これにより、ブレース部40の取付構造に起因するアッパー部30の位置調整についての規制を緩めることができるため、フードロック装置50の取付対象であるアッパー部30の位置調整を高い自由度で行うことができるようになり、ひいてはフードロック装置50の位置調整を高い自由度で行うことができるようになる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)ブレース部40の第1固定部41におけるねじ部材43の締結方向を上下方向にするとともに、第2固定部44におけるねじ部材27の締結方向を前後方向にするといったように、ブレース部40の固定に用いる二つのねじ部材43,27の締結方向を異なる方向にした。そのため、フードロック装置50の位置調整を高い自由度で行うことができる。
【0039】
(2)ブレース部40の第1固定部41の締結固定方向を上下方向にするとともに同ブレース部40の第2固定部44の締結固定方向を前後方向にした。そして、ブレース部40を車両10の前方に向けて凸となるように曲がった形状にした。これにより、ブレース部40を、同ブレース部40における上下方向に延びる部分が前記枠状の部分、すなわちラジエータが配置される部分から離れた位置において延びるように設けることができる。
【0040】
(3)ブレース部40の第1固定部41とフードロック装置50のロアフランジ54とをアッパー部30に共締め固定するようにした。そのため、車両10の衝突などに起因してアッパー部30が変形した際に、アッパー部30の変形部分ともどもフードロック装置50が移動してしまうことを、同フードロック装置50をバンパー部24に連結した状態のブレース部40によって抑えることができる。
【0041】
(4)アッパー部30を、一対の上方サイド部20の間に架設される態様で、ねじ部材31によって各上方サイド部20に締結固定するようにした。これにより、ねじ部材31と上方サイド部20の貫通孔22Aとの間隙の分だけ、上方サイド部20に対するアッパー部30の取付位置をずらして調整することができる。
【0042】
(5)合成樹脂製のアッパー部30を金属製のサイド部(上方サイド部20および下方サイド部13)およびロア部14に組み付けることによって前記「枠状の部分」が形成される構造の車両10において、アッパー部30を一対の上方サイド部20に組み付ける際に同アッパー部30の位置調整を行うことができる。しかも、この位置調整に起因するアッパー部30の組付位置のずれ分をブレース部40の第1固定部41や第2固定部44において許容しつつ、同ブレース部40をアッパー部30およびバンパー部24に固定することができる。
【0043】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0044】
・ブレース部40の断面形状としては、断面ハット形状を採用することに限らず、断面U字状や断面円弧状、断面階段状など、任意の断面形状を採用することができる。
・ブレース部40を合成樹脂材料によって形成するようにしてもよい。
【0045】
・各貫通孔22A,41A,44A,51A,54Aの形状は、断面長孔形状や断面楕円形状など、任意に変更可能である。
・ブレース部40の第1固定部41とフードロック装置50のロアフランジ54とを、異なる位置で各別にアッパー部30に締結固定するようにしてもよい。
【0046】
図6に示すように、フードロック装置60の車幅方向の両端のサイドフランジ61の一部を、車幅方向および前後方向に延びる平板状をなすとともに上下方向に貫通する貫通孔を有する構造にしてもよい。この場合には、アッパー部65の後壁部66の上部に上下方向に延びる雌ねじを設けるようにすればよい。こうした構成によっても、ねじ部材62をサイドフランジ61の貫通孔に挿通した状態でアッパー部65の雌ねじに螺合することにより、フードロック装置60をアッパー部65に締結固定することができる。上記構成によれば、フードロック装置60の取り付けのために三箇所の固定部67,68,69においてねじ部材を締め付ける作業を、車両10の上方側から行うことができる。
【0047】
図7に示すように、ブレース部70の第1固定部71の締結固定方向を前後方向にするとともに、同ブレース部70の第2固定部74の締結固定方向を上下方向にしてもよい。同構成によれば、締結固定方向が前後方向になるブレース部70の第1固定部71においては、ねじ部材73と第1固定部71の貫通孔との間隙が上下方向や車幅方向に幅を有する間隙になる。そのため、第1固定部71においては、アッパー部75の位置調整に起因して生じる同アッパー部75とバンパー部76との相対位置のずれ分のうちの上下方向のずれ分や車幅方向のずれ分が許容されるようになる。また、締結固定方向が上下方向になるブレース部70の第2固定部74においては、ねじ部材77と第2固定部74の貫通孔との間隙が前後方向や車幅方向に幅を有する間隙になる。これにより、第2固定部74においては、アッパー部75の位置調整に起因して生じる同アッパー部75とバンパー部76との相対位置のずれ分のうちの前後方向のずれ分や車幅方向のずれ分が許容されるようになる。
【0048】
・上記実施形態の車両前部構造は、ロア部とアッパー部との間にブレース部が架設される構造の車両にも適用することができる。同構成においては、ロア部が下方部材に相当する。
【0049】
・上記実施形態の車両前部構造は、アッパー部が金属材料によって形成される車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…車両、11…サイドメンバ、12…下部フレーム部材、13…下方サイド部、14…ロア部、20…上方サイド部、21…平板部、22…固定壁部、22A…貫通孔、23…クラッシュボックス、24…バンパー部、25…フランジ、25A…雌ねじ、27…ねじ部材、30…アッパー部、30A…雌ねじ、31…ねじ部材、33…前壁部、33A…雌ねじ、35…後壁部、35A…雌ねじ、37…後面、40…ブレース部、41…第1固定部、41A…貫通孔、43…ねじ部材、44…第2固定部、44A…貫通孔、50…フードロック装置、51…サイドフランジ、51A…貫通孔、53…ねじ部材、54…ロアフランジ、54A…貫通孔、60…フードロック装置、61…サイドフランジ、62…ねじ部材、65…アッパー部、66…後壁部、67,68,69…固定部、70…ブレース部、71…第1固定部、73…ねじ部材、74…第2固定部、75…アッパー部、76…バンパー部、77…ねじ部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7