(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】同系交配の遺伝子導入キャノーラ系統NS-B50027-4及びその種子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220818BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20220818BHJP
A01H 6/20 20180101ALI20220818BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20220818BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220818BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220818BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20220818BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220818BHJP
C12Q 1/6895 20180101ALI20220818BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220818BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20220818BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20220818BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20220818BHJP
A61K 36/31 20060101ALI20220818BHJP
C11B 1/06 20060101ALI20220818BHJP
C11B 1/10 20060101ALI20220818BHJP
A01G 22/00 20180101ALI20220818BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20220818BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20220818BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220818BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220818BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
A01H5/10 ZNA
A01H6/20
C12N5/04
A01H5/00 A
A01H5/00 Z
C12N5/10
A01H1/00 A
C12Q1/686 Z
C12Q1/6895 Z
C12Q1/68
A23D9/02
A23D9/00 506
A23D7/00 504
A61K36/31
C11B1/06
C11B1/10
A01G22/00
A23K50/80
A23K20/147
A23K20/158
A23K10/30
(21)【出願番号】P 2019518179
(86)(22)【出願日】2017-06-16
(86)【国際出願番号】 US2017037997
(87)【国際公開番号】W WO2017218969
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-05-29
(32)【優先日】2016-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】ATCC PTA-123186
(73)【特許権者】
【識別番号】522058486
【氏名又は名称】ニューシード ニュートリショナル オーストラリア ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ウェンシャン
(72)【発明者】
【氏名】ディヴァイン,マルコム
(72)【発明者】
【氏名】レオンフォルテ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ゴロロ,ネルソン
(72)【発明者】
【氏名】バッザ,グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】タン,シュンシェー
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-509059(JP,A)
【文献】特表2015-528027(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2014年01月21日,9(1):e85061,p. 1-8,doi:10.1371/journal.pone.0085061
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
A01H 5/00
A01H 6/00
C12N 5/00
A01H 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4
由来の分離個体であって、
同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子は、ATCC受託番号PTA-123186の下で寄託されており、ここで、前記NS-B50027-4は、
M.プシラΔ6-デサチュラーゼ、P.コルダタΔ5-エロンガーゼ、P.サリナΔ5-デサチュラーゼ、およびP.パストリスΔ15/ω3-デサチュラーゼ遺伝子の各々の1つのコピーを含む、
クロモソームA02に位置する第1の遺伝子導入遺伝子座と、
ミクロモナス・プシラΔ6-デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタΔ5-エロンガーゼ、パブロバ・サリナΔ5-デサチュラーゼ、ピキア・パストリスΔ15/ω3-デサチュラーゼ、パブロバ・サリナΔ4-デサチュラーゼ、ラカンセア・クルイヴェリΔ12-デサチュラーゼ、およびP.コルダタΔ6-エロンガーゼ遺伝子の各々の2つのコピーを含む、
クロモソームA05に位置する第2の遺伝子導入遺伝子座と、をゲノム内に含み
、
前記分離個体は、前記第1の遺伝子導入遺伝子座
を含むクロモソ―ムA02または前記第2の遺伝子導入遺伝子座
を含むクロモソ―ムA05のいずれかを含む、分離個体。
【請求項2】
請求項1に記載の分離個体のゲノムを含む、キャノーラ植物又はその部分。
【請求項3】
前記部分は、種子、葉、花粉、胚、根、根端、鞘、花、胚珠、柄、細胞、原形質体、子葉、半子葉、胚軸、幼根、細胞培養物、組織培養物、または生殖体の少なくとも1つである、請求項2に記載のキャノーラ植物又はその部分。
【請求項4】
キャノーラ近交系を得るための方法であって、該方法は
、
(a)(i)
同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子から成長した第1の植物を(ii)第2のキャノーラ系統の植物と交雑させることにより雑種植物を生産する工程であって、
前記同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子は、ATCC受託番号PTA-123186の下で寄託されており、
ここで、前記NS-B50027-4は、
(1)M.プシラΔ6-デサチュラーゼ、P.コルダタΔ5-エロンガーゼ、P.サリナΔ5-デサチュラーゼ、およびP.パストリスΔ15/ω3-デサチュラーゼ遺伝子の各々の1つのコピーを含む、第1の遺伝子導入遺伝子座と、
(2)ミクロモナス・プシラΔ6-デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタΔ5-エロンガーゼ、パブロバ・サリナΔ5-デサチュラーゼ、ピキア・パストリスΔ15/ω3-デサチュラーゼ、パブロバ・サリナΔ4-デサチュラーゼ、ラカンセア・クルイヴェリΔ12-デサチュラーゼ、およびP.コルダタΔ6-エロンガーゼ遺伝子の各々の2つのコピーを含む、第2の遺伝子導入遺伝子座と、をゲノム内に含み、
ここで、前記第1の遺伝子導入遺伝子座はクロモソームA02遺伝子導入遺伝子座であり、および前記第2の遺伝子導入遺伝子座はクロモソームA05遺伝子導入遺伝子座であり、
前記雑種植物はNS-B50027-4の少なくとも1つの遺伝子導入遺伝子座を含む、工程、
(b)前記雑種植物を前記第2のキャノーラ系統の植物と交雑させる工程、及び
(c)前記キャノーラ近交系を得るために、少なくとも一度は工程(b)を繰り返す工程、を含む方法。
【請求項5】
前記同系交配のキャノーラ系統は、同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の両方の遺伝子導入遺伝子座を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
植物の種子においてエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、またはドコサヘキサエン酸(DHA)を生産する方法であって、該方法は、請求項1に記載の第1の遺伝子導入遺伝子座および/または第2の遺伝子導入遺伝子座を含む植物を栽培する工程を含み、ここで、前記遺伝子導入遺伝子座の一方または両方の導入遺伝子は前記植物の種子において発現される、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の第1の遺伝子導入遺伝子座および/または第2の遺伝子導入遺伝子座を含む植物の種子であって、遺伝子導入遺伝子座の一方または両方の導入遺伝子は前記植物の種子において発現され、前記植物は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、またはドコサヘキサエン酸(DHA)を生産する、植物の種子。
【請求項8】
ドコサヘキサエン酸(DHA)含有キャノーラ油を作る方法であって、該方法は、
(a)ATCC受託番号PTA-123186の下で寄託されるNS-B50027-4のDHA形質を雄性不稔性であるエリートブラッシカ系統へと遺伝子移入する工程
、
(b)NS-B50027-4のDHA形質を稔性である第2のエリートブラッシカ系統へと遺伝子移入する工程
、
(c)雑種後代を得るために2つの系統(a)及び(b)を交雑する工程
、
(d)雑種後代の種子を栽培する工程
、
(e)栽培された雑種後代により生産される穀物を収穫する工程
、及び
(f)雑種種子の後代から油を抽出する工程
を含む方法。
【請求項9】
長鎖多不飽和脂肪酸(LC-PUFA)を生産するブラッシカ中の長鎖多不飽和脂肪酸(LC-PUFA)の生産を増大させる方法であって、該方法は、
(a)同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子がATCC受託番号PTA-123186の下で寄託されている、近交系NS-B50027-4の分離個体を得る工程
であって、前記分離個体は、M.プシラΔ6-デサチュラーゼ、P.コルダタΔ5-エロンガーゼ、P.サリナΔ5-デサチュラーゼ、およびP.パストリスΔ15/ω3-デサチュラーゼ遺伝子の各々の1つのコピーを含む、クロモソームA02遺伝子導入遺伝子座を含む工程、及び、
(b)レシピエントであるLC-PUFA生合成遺伝子及び前記
分離個体における前記クロモソームA02遺伝子導入遺伝子座の両方を含む遺伝子移入された後代のブラッシカを得るために、LC-PUFA生合成遺伝子を含むレシピエントであるブラッシカで分離個体を遺伝子移入する工程
であって、前記遺伝子移入されたブラッシカの後代は、LC-PUFAの増大をもたらす工程、を含む、方法。
【請求項10】
前記ブラッシカはB.ジュンセアまたはB.ナパスである、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
LC-PUFAはドコサヘキサエン酸(DHA)よりも多くドコサペンタエン酸(DPA)を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
雑種後代は、除草剤耐性、虫害耐性、細菌性疾患耐性、菌類病耐性、ウイルス病耐性、又は不稔性から選択される、少なくとも1つの形質をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
請求項4に記載の方法によって生産されるキャノーラ近交系であって、前記キャノーラ近交系は、除草剤耐性、虫害耐性、細菌性疾患耐性、菌類病耐性、ウイルス病耐性、又は不稔性から選択される、少なくとも1つの形質を含む、キャノーラ近交系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年6月16日出願の米国仮特許出願第62/351,250号の利益を主張するものであり、これは全ての目的のために参照により本明細書に完全に組み込まれるものである。
【0002】
配列表
本出願は配列表を包含しており、これは、EFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出され、その全体を引用することで本明細書に完全に組み込まれるものである。
【0003】
技術分野
本実施形態は、キャノーラの育種及び農作物の分野に関し、具体的には、同系交配の遺伝子導入キャノーラ系統の指定されたNS-B50027-4の同系交配の種子及び植物、並びにそのような同系交配の植物の誘導体;及び、同系交配の遺伝子導入キャノーラ系統NS-B50027-4を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
キャノーラは、世界の多くの区域で重要な油料作物である。キャノーラ油の脂肪酸組成物は、短鎖オメガ-3を含む一不飽和及び多不飽和両方の脂肪酸が豊富であるが、長鎖オメガ-3脂肪酸は不足している。長鎖オメガ-3(LC-ω3)脂肪酸には健康上の利益が確立されているが、現在ではLC-ω3脂肪酸は、主として藻類から直接、或いは藻類を食べる海水魚から得られる。LC-ω3脂肪酸、具体的にドコサヘキサエン酸(22:6 n-3;DHA)、ドコサペンタエン酸(22:5 n-3;DPA)、及びエイコサペンタエン酸(20:5 n-3;EPA)の食物性の重要さの認識は、消費可能な魚油の需要の劇的な増加に寄与した。故に、ヒトによる消費のために、LC-ω3脂肪酸の代替的で直接的なソースが必要とされている。加えて、タイセイヨウサケなどの養殖魚は食物由来の脂肪酸に比例して脂肪酸を蓄積させるので、魚用飼料のLC-多不飽和脂肪酸(LC-PUFA)の量を維持し、その次に、養殖魚中のこれらの脂肪酸の存在を確保する必要がある。従って、水産養殖に使用され得るLC-PUFAが豊富なソースが必要とされている。例えば、水産養殖での使用の他、ヒトによる直接消費のために、LC-PUFA、具体的にDHAなどのLC-ω3脂肪酸を生産することができるキャノーラが必要とされている。しかし、分子遺伝学による植物の育種及び操作の達成にもかかわらず、野生の魚で生産されたものに近いLC-PUFAの含有量を持つキャノーラ油の商用の供給源は存在しない。更に、キャノーラ栽培品種(F1雑種ではない)は、商品作物の信頼のおける生産に有用となるように、均質であり、同型接合性であり、且つ再分化可能でなければならない。それ故、維持可能な作物として成長することができるキャノーラ系統が必要とされ、その種子は商業上実行可能な量のDHAなどのω3脂肪酸、LC-PUFA、及びLC-ω3脂肪酸をもたらすものである。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載される実施形態は、同系交配の組み換え型キャノーラ系統を提供するものであり、NS-B50027-4が指定され、その種子はω3及びLC-ω3脂肪酸の有利なレベルをもたらし、それにより、これら価値のある油を生産するための再分化可能で地上ベースのシステムをもたらす。同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子の代表的なサンプルは、2016年6月9日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC(登録商標))(Manassas、VA)にてブダペスト条約に従い受託され、受託番号PTA-123186を割り当てられた(付録Aを参照)。本明細書には、同系交配のキャノーラNS-B50027-4系統の細胞、組織、種子、及び油も記載される。遺伝子組み換え操作を伴う選択及び育種の組み合わせにより、変異が存在しない種における変異が可能になる。例えば、本明細書に記載されるキャノーラ系統NS-B50027-4の脂肪酸プロファイルは、B.ナパスなどの天然の植物には存在せず;そして、本明細書に記載される形質、具体的にDHAを生産するのに都合の良い形質は、人によるかなりの技術的な介入によって発達した。
【0006】
本実施形態の態様は、キャノーラ(ブラッシカ・ナパスL.)系統NS-B50027-4の種子、即ち、全脂肪酸含有量に対するω3及びLC-ω3脂肪酸、特にDHAなどのLC-ω3PUFAの高い割合(重量パーセント)をその種子の中に蓄積する安定した均一な育種系統へと選択され且つ育種された、栽培品種AV Jadeの遺伝子組み換えキャノーラを提供する。近交系NS-B50027-4は、一部の野生の魚油に見出されるものに近いレベルでLC-ω3PUFA、具体的にDHAを含む種子を生産するキャノーラ植物を提供するために開発された。NS-B50027-4由来の食用油には、他のB.ナパス植物よりも著しく高いDHA含有量がある。新たな均一な育種系統NS-B50027-4は、安定した高収量の形態学的に適当なキャノーラ系統における高いDHA形質のために、初期の遺伝子形質転換、その後、厳格な選択及び育種によって開発された。
【0007】
従って、本明細書に記載される少なくとも1つの実施形態は、同系交配のキャノーラNS-B50027-4系統の種子;同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子から栽培された植物、及びその花粉、胚珠、又は種子などの一部;及び、同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4を栽培することにより、又は、同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4をそれ自体或いは別のキャノーラ又はブラッシカの系統(B.ジュンセアなど)と交雑させることにより、及び栽培された後代から種子を得ることによりキャノーラ植物から種子を生産するための方法に関する。関連する実施形態は、NS-B50027-4の少なくとも1つの遺伝子導入遺伝子座の遺伝子移入により、NS-B50027-4に由来するキャノーラ又はブラッシカの系統から種子を提供する。
【0008】
少なくとも1つの実施形態は、本明細書に記載される方法により生産されたキャノーラ植物の集団から種子を提供するものであり、前記集団は、キャノーラ系統NS-B50027-4からその対立遺伝子を、平均で10%から100%導き出す。同様に、本実施形態は、種子、油、粉末、又はタンパク質の生産のために植物を育種、又は栽培するための、キャノーラ系統NS-B50027-4、NS-B50027-4の亜系統、NS-B50027-4又は亜系統の後代、或いは、NS-B50027-4を別のキャノーラ又はブラッシカ植物と交雑することによって生産された植物の使用を提供する。
【0009】
少なくとも1つの実施形態は、ゲノム中に同系交配のNS-B50027-4のゲノムの少なくとも一部を含んでいる、ブラッシカ・ナパス植物などの菜種植物の種子を提供する。少なくとも1つの実施形態は、ゲノム中に同系交配のNS-B50027-4のゲノムの少なくとも一部を含んでいる、B.ナパス又はB.ジュンセア植物を提供する。少なくとも1つの実施形態は、ゲノム中に同系交配のNS-B50027-4のゲノムの少なくとも一部を含んでいる、B.ナパス又はB.ジュンセア植物などの菜種植物の細胞を提供する。別の実施形態は、系統NS-B50027-4のゲノムの少なくとも一部、例えば少なくとも1つの遺伝子導入遺伝子座を含んでいる、B.ナパス又はB.ジュンセア植物などの菜種植物のゲノムDNAを提供する。少なくとも1つの実施形態は更に、受託番号PTA-123186を持つATCC(登録商標)にて寄託された種子から成長される、NS-B50027-4のゲノムの少なくとも一部を含む植物の種子、細胞、組織、組織培養、後代、及び子孫に関連する。別の実施形態は更に、(受託番号PTA-123186を持つATCC(登録商標)にて寄託された種子から成長された植物などの)NS-B50027-4のゲノムの少なくとも一部を含むキャノーラ植物から(その繁殖又はそれとの育種などにより)得ることが可能な植物を提供する。
【0010】
本実施形態の近交系NS-B50027-4の基準種子は、受託番号PTA-123186の下でATCC(登録商標)により寄託されている。少なくとも1つの実施形態は、受託番号PTA-123186として寄託されたNS-B50027-4の種子を提供し、これは、種子の全脂肪酸の重量%(wt.%)として、種子が従来の収穫時に少なくとも約5%のDHA、約6%のDHA、約7%のDHA、約8%のDHA、約9%のDHA、約10%のDHA、約11%のDHA、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%のDHA、16%のDHA、列挙した値の中に含まれる量、又はそれ以上のDHAを含んでいるキャノーラ植物へと成長する。
【0011】
少なくとも1つの実施形態において、ATCC(登録商標)に寄託された受託番号PTA-123186の種子は、NS-B50027-4のエリートイベントの導入遺伝子を持つ少なくとも約95%の同系交配の遺伝子導入種子から成る種子のロットであり、これは、種子の全脂肪酸の重量%として、種子が少なくとも5%のDHA、約6%のDHA、約7%のDHA、約8%のDHA、約9%のDHA、約10%のDHA、約11%のDHA、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%のDHA、約16のDHA、又はそれ以上のDNAを含んでいるキャノーラ植物へと成長する。
【0012】
ATCC(登録商標)受託番号PTA-123186の種子は、NS-B50027-4のエリートイベントを含む、導入遺伝子DNAと同型接合性の約95%以上の遺伝子導入種子から成る種子のロットであり、これは、種子の全脂肪酸の重量%として、種子が少なくとも約5%のLC-PUFA、約6%のLC-PUFA、約7%のLC-PUFA、約8%のLC-PUFA、約9%のLC-PUFA、約10%のLC-PUFA、約11%のLC-PUFA、約12%のLC-PUFA、約13%のLC-PUFA、約14%のLC-PUFA、約15%のLC-UFA、約16%のLC-PUFA、約17%のLC-PUFA、約18%のLC-PUFA、約19%のLC-PUFA、約20%のLC-PUFA、又はそれ以上のLC-PUFAを含むキャノーラ植物へと成長する。この系統の種子又は種子油は、約20重量%から約35重量%のLC-PUFAを含み得る。
【0013】
少なくとも1つの実施形態は、雄性不稔のキャノーラ又はブラッシカ系統を第2のキャノーラ又はブラッシカ系統と交雑させることにより得られる雑種種子の種子のロットを提供し、その両方はNS-B50027-4のエリートイベントと同型接合性であり、ここで、雑種種子は、種子の全脂肪酸の重量%として、少なくとも約5%のDHA、約6%のDHA、約7%のDHA、約8%のDHA、約9%のDHA、約10%のDHA、約11%のDHA、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%のDHA、約16%のDHA、約17%のDHA、約18%のDHA、約19%のDHA、約20%のDHA、又はそれ以上のDNAを含んでいる。
【0014】
本実施形態の態様は、栽培され、且つ、別のキャノーラ又はブラッシカと少なくとも1回交雑(例えば、同じ又は異なる遺伝子バックグラウンドを持つ別のキャノーラ又はブラッシカ植物での遺伝子移入)させた、寄託された種子から入手可能又はそこから入手される種子又は後代種子を提供し、その種子は蒔く及び栽培することができ、そのような後代から得られる種子は、NS-B50027-4と同じ種子油表現型(形質)を実質的に有しているかもしれない。幾つかの実施形態において、そのような後代種子の種子又は種子油中の脂肪酸含有量の相対的な割合は、NS-B50027-4のものと同様であるが、NS-B50027-4よりも高収量である。幾つかの実施形態において、そのような後代種子又は種子油は、NS-B50027-4種子のものよりも高い割合の、EPA、DPA、又はDHAなどのLC-PUFAを含む場合がある。幾つかの実施形態において、そのような後代種子は、NS-B50027-4種子又は種子油に含まれるものとは異なる比率の、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、又はリノレン酸などの非LC-PUFAを含む場合がある。幾つかの実施形態において、従来の収穫時に、NS-B50027-4由来の後代種子の脂肪酸含有量は、種子の全脂肪酸の重量%として、少なくとも5%のDHA、約6%DHA、約7%のDHA、約8%のDHA、約9%のDHA、約10%のDHA、約11%のDHA、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%のDHA、約16%DHA、約17%のDHA、約18%のDHA、約19%のDHA、約20%のDHA、約21%のDHA、約22%のDHA、約23%のDHA、約24%のDHA、約25%のDHA、約26%のDHA、約27%のDHA、約28%のDHA、約29%のDHA、約30%のDHA、又はそれ以上のDHAを含む。例えば、そのような後代の種子は、種子の全脂肪酸の重量%として20%から35%のDHAを含む場合がある。幾つかの実施形態において、従来の収穫時に、そのようなNS-B50027-4由来の後代種子の脂肪酸含有量は、種子の全脂肪酸のEPA,DPA、及びDHAの重量%の合計として、少なくとも約5%のLC-PUFA、約6%のLC-PUFA、約7%のLC-PUFA、約8%のLC-PUFA、約9%のLC-PUFA、約10%のLC-PUFA、約11%のLC-PUFA、約12%のLC-PUFA、約13%のLC-PUFA、約14%のLC-PUFA、約15%のLC-UFA、約16%のLC-PUFA、約17%のLC-PUFA、約18%のLC-PUFA、約19%のLC-PUFA、約20%のLC-PUFA、約21%のLC-PUFA、約22%のLC-PUFA、約23%のLC-PUFA、約24%のLC-PUFA、約25%のLC-PUFA、又はそれ以上のLC-PUFAを含む。例えば、そのような後代の種子は、約20%から約40%のLC-PUFA(全脂肪酸の重量%)を含む場合がある。
【0015】
少なくとも1つの実施形態において、NS-B50027-4の種子は、従来のキャノーラ変種よりも実質的に多くのω3 ALAを含む。例えば、従来の収穫時に、NS-B50027-4、又はその後代種子の脂肪酸含有量は、種子の全脂肪酸の重量%として、少なくとも約15%のALA、約16%のALA、約17%のALA、約18%のALA、約19%のALA、約20%のALA、約21%のALA、約22%のALA、約23%のALA、約24%のALA、約25%のALA、約26%のALA、又はそれ以上のALAを含む。
【0016】
本実施形態の別の態様は、都合のよいω3脂肪酸及びLC-ω3脂肪酸レベルを持つ油を提供し、その中の脂肪酸含有量には、通常の商用のキャノーラ油よりも高いω3:ω6脂肪酸の比率が含まれる。例えば、1つの実施形態において、NS-B50027-4の種子油には、約1.25のEPA/DPA/DHA(ω3):LA(ω6)の比率がある。対照的に、AV Jade(EPA/DPA/DHAを含まない)の種子油には約0.5のω3:ω6の比率がある。更に、約0.908のDHA:LAの比率がある養殖のサケの油と比較して、親系統であるAV Jadeの油にはDHAがなく、故にDHA:LAの比率がなく;一方でNS-B50027-4からの一例の油には約1.05のDHA:LAの比率がある。NS-B50027-4のω3脂肪酸の比率は、パルミチン酸に関しては特に都合がよい。より具体的に、親系統であるAV Jadeの油にはDHAがなく、故にDHA:パルミチン酸塩の比率がなく;対照的に、NS-B50027-4からの例となる油には、約2.12のDHA:パルミチン酸塩の比率があり;比較すると、養殖のサケの油には、約0.59のDHA:パルミチン酸塩の比率があり、野生のサケの油には約1.02のDHA:パルミチン酸塩の比率がある。少なくとも1つの実施形態において、NS-B50027-4の種子油中のω3:ω6の脂肪酸の比率は、約3から約7であり、例えば、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.6、又は約7のω3:ω6の脂肪酸の比率である。遺伝子移入ハイブリダイゼーションにより導かれる後代、雑種、植物、及びNS-B50027-4に由来する他のそのような植物は、同様の又は都合のよいω3:ω6の比率を有している。
【0017】
本実施形態の別の態様において、近交系NS-B50027-4、又はそれに由来する後代の種子からの油、脂質、ω3-FA、LC-PUFA、又はDHAは、ヒト又は動物の食料(飲料を含む食物又は食用材料)として又はその中に、或いは栄養剤(食品添加物)として使用される。少なくとも1つの実施形態において、イベントNS-B50027-4の種子の油、脂質、ω3-FA、LC-PUFA、又はDHAは、栄養補助食品に、又は水産養殖に使用するための飼料添加物として使用される。少なくとも1つの実施形態において、近交系NS-B50027-4の種子の油、脂質、ω3-FA、LC-PUFA、又はDHAは、医薬組成物として、又はその中に使用される。他の実施形態において、そのような油、脂質、ω3-FA、LC-PUFA、ω3 LC-PUFA、又はDHAは、NS-B50027-4から育種される系統から得られる。
【0018】
本実施形態の別の態様において、近交系NS-B50027-4、又はそれに由来する後代の種子から得られる種子粉末由来の粉末又はタンパク質は、ヒト又は動物の食料(食物又は食用材料)として又はその中に、或いは栄養剤(食品添加物)として使用される。少なくとも1つの実施形態において、NS-B50027-4、又はそれに由来する後代の種子から処理される粉末は、栄養補助食品に、又は水産養殖で使用するための飼料添加物に使用される。少なくとも1つの実施形態において、NS-B50027-4、又はそれに由来する後代の種子から処理されるタンパク質は、栄養補助食品に、又は水産養殖で使用するための飼料添加物に使用される。
【0019】
本実施形態の態様は、LC-PUFAの生合成経路の「フロントエンド」酵素の幾つかを発現する遺伝子構築物の複数のコピーを植物に(例えば遺伝子形質転換又は育種により)提供することにより、植物中のLC-PUFAを増大させる方法を提供する。例えば、酵素Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、及びω3/Δ15デサチュラーゼの全てがフロントエンドデサチュラーゼ又はエロンガーゼとして排他的に考慮され得るものではないが、特定の実施形態において、これら遺伝子は、LC-PUFAの合成に必要とされる他の遺伝子を発現する遺伝子導入植物において、EPA、DPA、又はDHAなどのLC-PUFAの生産を増強する人工遺伝子座へとアセンブルされる。特定の実施形態において、幾つかのフロントエンド遺伝子を含む人工遺伝子座は、ミクロモナス・プシラ(Micromonas pusilla)由来のΔ6デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタ由来のΔ5エロンガーゼ、パブロバ・サリナ由来のΔ5デサチュラーゼ、又はピキア・パストリス由来のΔ15/ω3デサチュラーゼのうち少なくとも1つを含んでいる。特定の実施形態において、LC-PUFAの生合成経路の幾つかのフロントエンド遺伝子を人工遺伝子座は、ミクロモナス・プシラ由来のΔ6デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタ由来のΔ5エロンガーゼ、パブロバ・サリナ由来のΔ5デサチュラーゼ、及びピキア・パストリス由来のΔ15/ω3デサチュラーゼを含んでいる。特定の実施形態において、この4つの遺伝子のトランスジェニックインサートは、(例えば、A02クロモソームを異系交配することにより)NS-B50027-4から分離され、標準の植物育種技術を使用してレシピエントである植物系統へと導入される。
【0020】
記載された実施形態の態様は、NS-B50027-4が指定された新たなキャノーラ育種系統、核ゲノム中にNS-B50027-4のエリートイベントを含むブラッシカ・ナパスL.又はB.ジュンセアなどの菜種植物を提供する。系統NS-B50027-4の遺伝子イベントを含むキャノーラ植物は、従来のキャノーラ植物中で生産された脂肪酸よりも多くのLC-PUFAを含む脂肪酸の種子に特異的な生産が可能となる。同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4植物は、非遺伝子組み換えの同系のキャノーラ植物系統とほぼ同等である他の農学のパフォーマンス形質を示すが、このよう形質は、独立した系統又は指定されたNS-B50027-4の栽培品種を提供するような他の系統とは異なる。同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の種子の代表的なサンプルは、ATCC(登録商標)に寄託され、受託番号PTA-123186を割り当てられている。
【0021】
少なくとも1つの実施形態は、少なくとも1つのトランスジェニックインサートへと安定して統合される、キャノーラの種子、その植物、植物部分、組織、又は細胞に関するものであり、少なくとも1つのトランスジェニックインサートは16の異種遺伝子を含む発現カセットを含み、導入遺伝子は、植物発現のためにコドンを最適化され、且つ、パブロバ・サリナ由来の△4デサチュラーゼ、パブロバ・サリナ由来のΔ5デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタの△5エロンガーゼ、ミクロモナス・プシラ由来の△6デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタ由来のΔ6エロンガーゼ、ラカンセア・クルイヴェリ由来のΔ12デサチュラーゼ、ピキア・パストリス由来のΔ15/ω3デサチュラーゼ、及び少なくとも1つのニコチアナ・タバカム由来のマトリックス付着領域(MAR)、並びに選択可能なマーカー遺伝子をコードし;並びに、少なくとも1つのトランスジェニックインサートは発現カセットである4つの異種遺伝子を含み、導入遺伝子は、植物発現のためにコドンを最適化され、且つ、ミクロモナス・プシラ由来のΔ6デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタ由来のΔ5エロンガーゼ、パブロバ・サリナ由来のΔ5デサチュラーゼ、ピキア・パストリス由来のΔ15/ω3デサチュラーゼ導入遺伝子、及び少なくとも1つのニコチアナ・タバカム由来のMARをコードする。同系交配の遺伝子導入系統NS-B50027-4はこの実施形態を例証し、これら異種遺伝子を備えた種子の代表的なサンプルは、ATCC(登録商標)にて寄託され、受託番号PTA-123186を割り当てられている。
【0022】
加えて、本実施形態の態様は、同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4の遺伝子導入の特徴(エリートイベント)を含む遺伝子導入植物、或いはその細胞又は組織を同定する方法を提供し、該方法は、特定のヌクレオチド配列を持ち又は特定のアミノ酸をコードすることを特徴とするDNA分子の存在の同定に基づく。例えば、このような特徴を持つDNA分子は、少なくとも15bp、少なくとも20bp、少なくとも30bpの配列を含み、当該配列は、イベントの挿入部位又は接合部、即ち、LC-ω3脂肪酸合成遺伝子を含む挿入された外来DNAの一部及びそれに接触するキャノーラのゲノムの一部(各挿入のための5’又は3’何れかの隣接領域)の両方を含んでおり、NS-B50027-4の特定の同定を可能にする。この態様の別の例として、多くの導入遺伝子及び隣接領域の同定のためのプライマーのセットが、NS-B50027-4を同定する方法において使用され得る。この実施形態はまた、本明細書に記載される方法により同定された植物に関連する。
【0023】
幾つかの実施形態は、競合対立遺伝子特異的(kompetitive allele specific)PCR(KASP)アッセイ(そこで2つの対立遺伝子に特異的なフォワードプライマーがSNPを認識する)、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)アッセイ、定量的PCR(qPCR)アッセイ、パラログ特異的アッセイ、及び偶発的存在(AP)検定のためのアッセイに有用な組成物を提供する。遺伝子移入研究及び雑種発生に特に役立つ、NS-B50027-4遺伝形質を検出するためにKASPアッセイを実行するのに有用なプライマーの特定の実施形態は、SEQ ID NO:1からSEQ ID NO:90に記載されるプライマー、又はその補体を含む。これらプライマー又はその補体の少なくとも一部は、NS-B50027-4、NS-B50027-4の後代、或いは、NS-B50027-4の少なくとも部分的なゲノムを含む他の植物又は植物材料の同定のためのキットに含まれ得る。
【0024】
関連する態様は、系統NS-B50027-4のゲノムDNAの少なくとも一部、具体的にはゲノムを組み込む導入遺伝子又はその接合部の領域を含む、植物から得られる又はそこから由来するゲノムDNAを提供する。このようなゲノムDNAは、例えば、本明細書に記載される同定アッセイにおける基準対照物質として使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】DHAの合成のための生合成の経路を提供するために遺伝子導入植物に導入された酵素を示すスキームである。
【
図2】8つの栽培部位にわたる、kg/haでの予測されたDHAに対してプロットされた穀物収量のグラフである。◆はDHA kg/haであり;--は線形DHA kg/haであり;y=29.296x+2.8315であり;R
2=0.8567である。
【
図3】8つの部位にわたる、kg/haでの予測されたLC-PUFA(EPA、DPA、及びDHA)に対してグラフ化された穀物収量を表す。◆はLC-PFU kg/haであり;--は線形LC-PFUA kg/haであり;y=34.043x+3.4049であり;R
2=0.8636である。
【
図4】ω3脂肪酸を含む収穫された遺伝子導入キャノーラ種子からの可能な処理及び生成物流を表すフローチャートである。角が丸い長方形は生成物又はプロセスの分画を示し;楕円形は処理工程を示し;角がとがった長方形は可能な生成物の使用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、及び試薬などには限定されず、これらは変動し得ることを理解されたい。本明細書で使用された用語は、特定の実施形態のみについて記載するためのものであり、且つ、請求項により単独で定義される本発明の範囲を制限するようには意図されていない。
【0027】
確認された全ての特許及び他の刊行物は、例えば、本発明に関連して使用され得るそのような刊行物に記載される方法論を記載且つ開示するために参照により本明細書に組み込まれるが、本明細書で提示されるものと一致しない用語の定義を提供するものではない。これら刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のために単独で提供される。この点に関しては何れも、先行発明により又は他の理由のためにそのような開示に先行する権利を発明者が有していないという承認として解釈されるべきでない。日付に関する声明、又はこれら文書の内容に関する表現は全て、出願人に利用可能な情報に基づくものであり、これらの文書の日付又は内容の正確さに関する承認を構成するものではない。
【0028】
本明細書及び請求項で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、他に内容が明確に指示しない限り、複数の言及を含む。本明細書の全体にわたって、他に示されていない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含むこと(comprising)」は、排他的よりも包括的に使用されるものであり、それにより、明言された整数又は整数の群は、1つ以上の他の明言されていない整数又は整数の群を含み得る。用語「又は」は、例えば「何れか」によって修飾されない限りは包括的である。故に、文脈が示していない限り、単語「又は」は、特定のリストの1つの員を意味し、及びそのリストの員の任意の組み合わせも含む。
【0029】
全ての値は、環境条件によって脂肪酸組成物に幾つか変動が生じるため、およそのものである。値は典型的に、全脂肪酸の重量パーセント、又は全種子の重量パーセントとして表わされる。従って、操作の例以外に、又は他に示されている場合、本明細書で使用される質量又は反応条件を表わす全ての数は、反対に明言されていない限り、用語「約」により全ての例で修飾されると理解されたい。「約」は一般的に、指定された値の±1%を指すが、当業者により関連する文脈で受け入れられるような指定された値の±5%又は±10%も可能であり得る。
【0030】
組み換えDNA技術は、当該技術分野で知られているような標準プロトコルに従い実行することができる。例えば、Sambrook et al., MOLECULAR CLONING: LAB. MANUAL (2nd Ed. , Cold Spring Harbor Lab. Press, NY (1989); Ausubel et al., CURRENT PROTOCOLS MOLEC. BIOL. (1994 and updates); DNA CLONING: PRACTICAL APPROACH, Vols. 1-4 (Glover & Hames, Eds., IRL Press 1995, 1996), Croy, PLANT MOLEC. BIOL. LABFAX (BIOS Sci. Pub. Ltd. & Blackwell Sci. Pub., UK, 1993); WO 2015089587を参照。
【0031】
見出しは、利便性のためだけに提供されるものであり、任意の方法で本発明を制限すると解釈されるべきではない。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により共通して理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用された用語は、特定の実施形態のみについて記載するためのものであり、且つ、請求項により単独で定義される本発明の範囲を制限するようには意図されていない。本開示をより容易に理解することが可能となるために、特定の用語が最初に定義される。追加の定義は詳細な説明の全体にわたって説明される。
【0032】
定義
「系統」は、その明示を共有する個体間の全体的な変異をほとんど表示しない植物の群である。「系統」はまた、少なくとも1つの形質のための個体間の遺伝的変異をほとんど又は全く表示しない同じ遺伝物質を実質的に運ぶ、植物の均質の集合体を指す。「変種」又は「栽培品種」は、「系統」と互換的に使用されてもよいが、一般的に、前者の2つの用語は商業上の生産に適切な系統を指す。例えば、句「親系統に遺伝的に由来する」で使用されるような、「遺伝的に由来する」は、問題の特徴が、問題の植物の遺伝的構成の態様によって全体的又は部分的に指示されることを意味する。
【0033】
本明細書で使用されるような「ブラッシカ」植物は、アブラナ科の植物を指す。ブラッシカ植物は、B.ナパス、B.ラパ(或いはカンペステリス(campestris))、又はB.ジュンセアの種のうち1つに属する場合がある。代替的に、この植物は、B.ナポカンペストリス(B.napocampestris)などのこれらブラッシカ種の交雑、或いは、これらブラッシカ種のうち1つのクルシフェラセア(Cruciferacea)の別の種との人工的な交雑から生じる種に属することができる。倍数性は、栽培品種により示されたクロモソームの数が二倍体又は四倍体であるかどうかを指す。ブラッシカ・ナパスは、ブラッシカ・ラパ(以前のB.カンペステリス)及びB.オレラセア両方のゲノムの交雑及び維持から生じる異質四倍体(複二倍体)であるので、導入遺伝子イベントNS-B50027-4を含むブラッシカ・ナパス植物は、NS-B50027-4イベント、及び故に、LC-ω3脂肪酸を生産し、又は本明細書に記載されるようにLC-ω3脂肪酸の発現をブラッシカ属の他の員へと増大させる「形質」を導入するための様々な又は従来の育種方法と共に使用され得る。従って、本実施形態を実行するのに有用なブラッシカ属の員の例は、限定されないが、属ブラッシカに属する他の植物と同様にB.ジュンセア、B.ナポブラッシカ、B.オレラセア、B.カリナタ、B.ナパス、B.ラパ、及びB.カンペステリスの他、ブラッシカ種間の育種を可能にするブラッシカ属に属する他の植物を含む。通常、「油料種子植物」は、B.ナパス、B.ラパ(又はカンペステリス)、又はB.ジュンセアの種のうち1つを指す。
【0034】
ブラッシカ・ナパスは一般的にナタネ(rapeseed)又は菜種として知られており、特定の栽培品種はキャノーラと称されることもある。本明細書で使用されるように、用語「キャノーラ」又は「キャノーラ植物」は、キャノーラ油(即ち、2%未満のエルカ酸を含む特定の品質指定を満たす油)を生産するために使用可能なブラッシカ植物を指し、B.ナパス、B.ナポブラッシカ、B.ラパ、B.ジュンセア、及びB.カンペステリスの変種が含まれる。キャノーラ植物は、典型的にゲノムAACCと共に示される、各親の形態から設定される完全な二倍体クロモソームを持つ種間雑種を指す、複二倍体(異質四倍体とも称される)である。
【0035】
「キャノーラ」及び「キャノーラ植物」は典型的にブラッシカ・ナパスを指すが、キャノーラで育種され得る全ての植物変種を含む。「キャノーラ」及び「キャノーラ植物」は植物部分も含む。「キャノーラ油」は2%未満のエルカ酸(Δ13-22:1)、30μモル未満のグルコシノレート/g風乾(g air-dry)、油の無い固形キャノーラ種子(即ち粉末)を含まなければならない。例えば、CODEX ALIMENTARIUS: FATS, OILS & RELATED PRODUCTS, VOL. 8 (2nd ed., Food & Agriculture Org. United Nations, Rome, Italy, 2001)を参照。
【0036】
「植物部分」は、植物細胞、植物器官、植物原形質体、植物が再分化可能な植物細胞組織培養物、植物カルス、植物凝集塊、及び、胚、花粉、胚珠、種子、鞘、葉、花、枝、果実、柄、根、根端、葯、子葉、胚軸、幼根、単細胞、生殖体、細胞培養物、組織培養物などの植物又はその部分において無傷の植物細胞を含む。子葉は子葉(seed leaf)の一種であり;小さな葉が植物胚上に含まれている。子葉は、種子の食品貯蔵(food storage)組織を含む。胚は、成熟種子内に含まれる小さな植物である。「植物細胞」はまた、非再分化可能な植物細胞を包含する。これらの部分が少なくとも一部のイベントNS-B50027-4核酸分子、典型的にはNS-B50027-4のエリートイベントの1又は2つの遺伝子座を含む場合、再分化された植物の後代、誘導体、変異体、及び突然変異体も、本実施形態の範囲内に含まれる。本実施形態はまた、植物の細胞培養物及び組織培養物でのエリートイベントNS-B50027-4導入遺伝子の使用に関する。この実施形態は、エリートイベントNS-B50027-4系統由来の植物及び植物部分の他、NS-B50027-4、又はNS-B50027-4の2つの遺伝子導入の遺伝子座のうち少なくとも1つを含む後代の遺伝子構築物を付加する記載された方法によって生産される他の植物も含む。
【0037】
「アレル」は、1つの形質又は特徴に関連する遺伝子の代替的な形態である。二倍体細胞又は生物体において、与えられた遺伝子の2つのアレルは、1組の相同染色体上の対応する遺伝子座を占有する。
【0038】
「遺伝子座」は、例えば修飾された脂肪酸代謝、修飾されたフィチン酸代謝、修飾された糖質代謝、雄性不稔、除草剤耐性、虫害耐性、耐病性、又は修飾されたタンパク質代謝などの1つ以上の形質を付与する。この形質は、例えば、戻し交雑、天然又は誘発突然変異、或いは形質転換技術を通じて導入された導入遺伝子により、系統のゲノムへと導入される自然に生じる遺伝子によって付与されることもある。遺伝子座は、単一の染色体位置にて統合された1つ以上のアレルを含む場合がある。「量的形質遺伝子座」(QTL)は、表現型(量的形質)における変異に相関するDNAの部分(遺伝子座)を指す。QTLは頻繁に、その表現型を制御する遺伝子に結合されるか、又はそれを含んでいる。QTLは、どの分子マーカー(SNP又はAFLPなど)が観察された形質に相関するのかを同定することによりマッピングされる。
【0039】
「率同一性」は、2つのキャノーラ又はブラッシカの変種の同型接合体のアレルの比較を指す。率同一性は、2つの発達した変種の統計的に有意な数の同型接合体のアレルの比較により判定される。例えば、NS-B50027-4と第2のブラッシカとの間の90%の率同一性は、2つのブラッシカがそれらの遺伝子座の90%にて同じアレルを有していることを意味する。定義されたDNA分子又はタンパク質に関して、%同一性、即ち同定された配列(SEQ ID NO)の最小限の%同一性は、SEQ ID NOで指定される関連する指名された配列に対し、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.1%、少なくとも99.2%、少なくとも99.3%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%同一である、ヌクレオチド配列を含む。
【0040】
遺伝子コードの縮退は、与えられたタンパク質をコードすることができるヌクレオチドの無数の組み合わせにより、典型的にタンパク質に許容可能となり得るものよりもポリヌクレオチド配列に関して広範囲の%同一性を可能にする。更に、アミノ酸置換は、タンパク質の主要なアミノ酸構造、例えば酵素の機能を妨害しないアミノ酸置換の、多くの非物質的な変化を可能にする。加えて、ポリヌクレオチドは、自然に発生する分子と比較すると、ヌクレオチド残基の欠失、挿入、又は置換である1つ以上の突然変異を持つこともある。基準配列に関して突然変異があるポリヌクレオチドは、自然発生(即ち、自然のソースから単離される)又は合成(例えば、部位特異的突然変異誘発又はDNAシャフリングを行なうことにより)の何れかであり得る。
【0041】
一般的に、「イベント」は、遺伝子操作の結果、対象の遺伝子(導入遺伝子)を含む外来DNAを運ぶ人工遺伝子座である。イベントの典型的なアレルの状態は、外来DNAの存在又は不在である。イベントは、1つ以上の導入遺伝子の発現により表現型的に特徴とされ得る。遺伝子レベルでは、イベントは植物の遺伝的構成の一部である。分子レベルでは、イベントは、制限マップ、導入遺伝子の上流又は下流の隣接配列、又は導入遺伝子の分子配置により特徴づけられることもある。通常、形質転換するDNAを伴う植物細胞又は植物部分の形質転換は多くのイベントにつながり、その各々は固有のものである。
【0042】
用語「遺伝子」は、共にプロモーター領域を形成するプロモーター及び5’非翻訳領域(5’UTR又は5’非コーディング配列);コーディング領域(タンパク質をコードする、又はしない場合がある);及びポリアデニル化部位を含む非翻訳3’領域(3’UTR又は3’非コーディング配列)など、様々な操作可能に結合されたDNA領域を典型的に含むDNA分子を指す。典型的に、植物細胞において、5’UTR、コーディング、及び3’UTR領域は、タンパク質コード化遺伝子の場合にはタンパク質に翻訳されるRNA分子へと転写される。「コーディング配列」は故に、アミノ酸の特異的配列を(メッセンジャーRNA、リボソーム、及び関連する翻訳装置を介して)翻訳するコドンを提供するDNA分子におけるヌクレオチドの配列を指す。遺伝子は、例えばイントロンなど追加のDNA領域を含む場合がある。「遺伝子型」は、細胞又は生物体の遺伝子構造を指す。「遺伝子座」は一般的に、植物のゲノムにおいて与えられた遺伝子又は遺伝子のセットの位置である。
【0043】
用語「導入遺伝子」は、植物のゲノムに組み込まれるような対象の遺伝子を指す。従って、「遺伝子導入植物」は、その細胞の全てのゲノムにおける少なくとも1つの導入遺伝子を含む。本実施形態の導入遺伝子は、系統NS-B50027-4におけるLC-PUFAの生合成において発現される以下の酵素の少なくとも1つのコピーを含む:海洋微細藻類パブロバ・サリナに由来するΔ4デサチュラーゼ、P.サリナに由来するΔ5デサチュラーゼ、微細藻類ピラミモナス・コルダタに由来するΔ5エロンガーゼ、微細藻類ミクロモナス・プシラに由来するΔ6デサチュラーゼ、P.コルダタに由来するΔ6エロンガーゼ、酵母ラカンセア・クルイヴェリに由来するΔ12デサチュラーゼ、及び酵母ピキア・パストリスに由来するΔ15/ω3デサチュラーゼ。代替的に又は付加的に、本実施形態の導入遺伝子は、P.サリナに由来するΔ5デサチュラーゼ、P.コルタダに由来するΔ5エロンガーゼ、M.プシラに由来するΔ6デサチュラーゼ、及びP.パストリスに由来するΔ15/ω3デサチュラーゼを含む。NS-B50027-4の導入遺伝子は、適切な調節領域を含む発現カセットにおいてバイナリーの様式で配置される。NS-B50027-4の導入遺伝子は、コドン最適化戦略を使用して設計されたという点で人工的であり、故に導入遺伝子は自然界に存在しない。遺伝子導入の発現カセットは、ニコチアナ・タバカム由来の少なくとも1つのマトリックス付着領域(MAR)を含んでいた。導入遺伝子カセットは、選択可能なマーカー遺伝子も含んでいた。例えば、WO2013185184;US2015/0166928;米国仮特許出願第62/351,246合の優先権を主張する2017年6月16日出願のPCT/US2017/_____を参照。
【0044】
「外来」又は「異種」は、植物種に関して遺伝子又はDNA分子を指す時に、遺伝子又はDNA分子、或いはその部分(例えば特定の領域)がその植物種には自然に見出されず、又はその植物種の遺伝子座に自然に見出されないことを示す。用語「外来DNA」はまた、形質転換の結果として植物のゲノムに組み込まれる又は組み込まれているDNA分子を指す。本開示の文脈において、導入遺伝子、トランスジェニックカセット、又は遺伝子導入発現カセットは、少なくとも1つの外来又は異種のDNAを含む。
【0045】
用語「キメラ」は、遺伝子又はDNA分子を指す時、遺伝子又はDNA分子が、少なくとも1つのDNA領域がキメラDNA分子において別のDNA領域にとって異質となるように、自然には互いに関連せず且つ異なるソースから生じる少なくとも2つの機能的に関連するDNA領域(プロモーター、5’UTR、コーディング領域、3’UTR、イントロンなど)を含むことを示すために使用される。
【0046】
用語「プラスミド」又は「ベクター」は、細胞の中央代謝の一部でない遺伝子を頻繁に運ぶ余分な染色体エレメントを指し、通常は円形の二本鎖DNA分子の形態である。そのようなエレメントは、任意のソースに由来する一本鎖又は二本鎖DNAの自己複製配列、ゲノム統合配列、ファージ又はヌクレオチド配列、線形又は円形であってもよく、そこでは、多くのヌクレオチドが、例えば発現カセットを細胞へと導入可能な固有の構成物へと、結合又は再結合されている。遺伝子導入植物に関連して、そのようなプラスミド又はベクターは、植物ゲノムへの導入遺伝子の挿入を容易にするT-DNAの領域を含む場合がある。
【0047】
「発現カセット」は、導入遺伝子を含み、且つ、外来宿主(例えば、5’プロモーター(随意にエンハンサーを伴う)非翻訳(「UTR」)DNA、選択された遺伝子産物をコードするDNA、及び適切な3’UTR DNAにおける遺伝子の発現を可能にする外来遺伝子を加えたエレメントを持つ、遺伝子構築物を指し;及び植物のゲノムへの挿入前後のカセットを指すこともある。言いかえれば、遺伝子導入のインサートは発現カセットを含む。従って、「挿入DNA」は、形質転換プロセスを介して植物材料に導入される異種DNAを指し、本明細書で説明されるような形質転換のために使用される(本来の/野生型/天然のDNAとは異なる)DNAを含んでいる。挿入DNAは典型的に遺伝子導入の発現カセットである。
【0048】
「形質転換DNA」は、形質転換のために使用される組み換えDNA分子、例えば発現ベクターを指す。形質転換DNAは通常、形質転換された植物に1つ以上の特定の特徴を付与することができる、少なくとも1つの「対象の遺伝子」(例えばキメラ遺伝子)を含む。
【0049】
「形質転換」は、宿主生物体への核酸分子の移動を指し、遺伝的に安定した遺伝をもたらす。核酸分子は、例えば自律的に複製するプラスミドであり、又は、宿主生物体のゲノムへと統合する場合もある。形質転換された核酸フラグメントを含む宿主生物体は、「遺伝子導入」、「組み換え型」、又は「形質転換した」生物体として言及される。
【0050】
用語「組み換えDNA分子」は例証のために使用され、故に、DNAであり且つ合成DNAの合成又はPCRなどの組み換え或いは他の手順を介して得ることができる、単離された核酸分子を含み得る。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、標的ポリヌクレオチドの複製コピーが、「上流」及び「下流」プライマーから成るプライマー、DNAポリメラーゼなどの重合の触媒、及び典型的に熱により安定するポリメラーゼ酵素を用いて作られる反応である。PCRのための方法は当該技術分野で知られている。例えば、PCR (McPherson & Moller, eds., BIOS Sci. Publ. Ltd., Oxford, 2000)を参照。PCRはゲノムDNA又はcDNAの上で行なわれ得る。
【0051】
「適切な調節エレメント」又は「適切な調節配列」は、転写、RNAの処理又は安定性、或いは関連するコーディング領域の翻訳に影響を及ぼす、コーディング配列の上流(例えば5’UTR)、その中、又はその下流(3’UTR)に位置するヌクレオチド配列を指す。調節エレメントは、プロモーター、エンハンサーエレメント、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNA処理部位、エフェクター結合部位、及びステムループ構造を含んでもよい。
【0052】
「プロモーター」は、コーディング領域又は機能的RNAの発現を制御することができるDNAエレメントを指す。一般に、コーディング領域はプロモータエレメントに対して3’に位置する。プロモーターは、全体的に天然の遺伝子に由来し、自然に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントで構成され、或いは合成DNAセグメントをも含む場合がある。異なるプロモーターが、異なる組織又は細胞タイプにおいて、異なる開発段階にて、又は異なる環境或いは生理学的条件に応じて遺伝子の発現を方向付ける場合があることは、当業者に理解される。多くの場合に大半の細胞型にて遺伝子を発現させるプロモーターは一般的に、「構成的プロモーター」と呼ばれる。大半の場合、調節エレメントの正確な境界が完全には定められていないことから、異なる長さのDNAフラグメントが同一のプロモーター作用を持つ場合があることが、更に認識される。
【0053】
用語「3’非コーディング配列」及び「転写ターミネーター」又は「3’UTR」は、DNA分子のコーディング領域の下流に位置するDNAエレメントを指す。これは、ポリアデニル化認識配列、及び、mRNA処理又は遺伝子発現に影響を与えることができる調節シグナルをコードする他の配列を含む。ポリアデニル化シグナルは通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸部分(tracts)の付加に影響を及ぼすことにより特徴づけられる。3’領域は、転写、RNAの処理又は安定、或いは関連するコーディング領域の翻訳に影響を及ぼすことができる。
【0054】
「操作可能に結合した」は、一方のエレメントが他方により影響を受けるような単一の核酸分子又はその部分上での核酸エレメントの会合を指す。例えば、プロモーターは、コーディング領域の発現に影響を及ぼすことが可能な場合、コーディング領域と操作可能に結合される(即ち、コーディング領域はプロモーターの転写調節の下にある)。コーディング領域は、センス又はアンチセンスの配向で調節エレメントに操作可能に結合され得る。
【0055】
「突然変異生成」は、遺伝物質中に突然変異を引き起こすと知られるメタンスルホン酸エチルなどの薬剤が、種に新たな遺伝的変異性を引き起こすために植物材料に適用されるプロセスであり、且つ、通常は考慮される特的の形質と共に行なわれる。Swanson et al., 7 Plant Cell Rep. 83 (1988)を参照。他の技術は、特定のヌクレオチド又はアミノ酸の変化(置換、欠失、又は付加)に向けられる突然変異体の生成を含む。そのような核酸配列変化を導入する方法は、用語「突然変異生成」に含まれる。突然変異生成は、遺伝子発現を妨害する「ノックアウト」実験に有用であり得る。
【0056】
「プライマー」は、例えばポリメラーゼ連鎖反応によって増幅されるポリヌクレオチドの一部に相補的な、比較的短いポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドである。典型的に、プライマーは、長さが約30未満のヌクレオチド、又は長さが約24未満のヌクレオチドなど、長さが50以下のヌクレオチドである。
【0057】
本明細書で使用されるように、「発現」は、本発明の核酸に由来するセンス(mRNA)の転写及び安定した蓄積を指す。発現はまた、ポリペプチドへのmRNAの翻訳を指す場合もある。
【0058】
細胞に対する言及は、他に明示されない又は文脈から明らかでない限り、単離され、組織培養物中にあり、或いは植物又は植物の部分に組み込まれているかにかかわらず、植物細胞を含む。
【0059】
「再分化」は、選択された植物又は変種からの再分化が可能な細胞(例えば、種子、花粒粉、胚珠、花粉、植物の部分)の選択を含む。これら細胞は随意に、形質転換又は突然変異生成にさらされる場合があり、その後、植物は、遺伝子組み換え細胞の型に基づいて再分化、受精、又は成長技術を使用して、細胞から発育される。適用可能な再分化技術は当業者に知られており;例えば、Armstrong & Green, 165 Planta 322 (1985); Close & Ludeman, 52 Planta Sci. 81 (1987)を参照
【0060】
「後代」は、植物の子孫及び誘導体を含む全ての末裔を意味し、且つ、第1世代、第2世代、第3世代、及びその後の世代を含み;並びに、自家受粉、或いは、同じ又は異なる遺伝子型を持つ植物との交雑により生産され、且つ、様々な適切な遺伝子工学技術により改質されることもある。成長種は一般的に、ヒトにより意識的に変質され且つ選択された植物に関連する。「T0」は形質転換された植物材料の第1世代を指し、「T1」はT0植物上で生産された種子を指し、T1種子は後のTx後代にT2種子等を生産する植物を生じさせる。
【0061】
「育種」は、植物を発育又は繁殖させる方法を全て含み、種間と種内及び系統間と系統内両方の交雑の他、全ての適切な従来の育種及び人工育種技術を含む。望ましい形質(例えばNS-B50027-4 DHAの形質)は、従来の育種方法を介して、他のキャノーラ又はB.ナパスの系統、栽培品種、又は培養種へと導入され;及び、種間交雑を介してB.ジュンセアとブラッシカ・ラパなどの他のブラッシカ種へと導入され得る。従来の育種方法と種間交雑方法の両方の他、植物間で遺伝物質を導入する他の方法も、当該技術分野で周知である。
【0062】
「戻し交雑」は、育成者が繰り返し雑種の後代を親の系統に戻して交雑させるプロセスである。例えば、F1雑種の親の遺伝子型のうちの1つでの第1世代の雑種F1の交雑は、戻し交雑である。戻し交雑は、供与親(遺伝子導入の親)の対象の形質を回帰性の(recurrent)親(修飾されるエリート系統)に導入するために使用することができ:供与親は反復親に交雑され;その後、この交雑の後代は反復親に戻し交雑され;これら交雑の後代は対象の形質のために選択され、その後反復親に交雑され;このプロセスは、反復親が供与親からの形質に同型接合性である系統を作るために必要とされるのと同じくらい多くの戻し交雑のために繰り返される。戻し交雑はまた、劣性遺伝子を導入する時に都合が良い場合がある自殖と組み合わされ得る。
【0063】
「遺伝子移入」は、1の遺伝子プールから別の遺伝子プールへの遺伝子の安定した組み込みである。「移入雑種形成」は、1つの実体から別の異なる実体の遺伝子プールへのアレルの組み込み(通常は雑種形成と戻し交雑を介する)を指す。遺伝子移入系統は、量的形質遺伝子座の研究を可能にし、また、ブラッシカ・ナパス又はB.ジュンセアなどの他のキャノーラ或いはブラッシカに、新たな形質、即ちNS-B50027-4形質を導入する手段を提供する。対象のレシピエントである系統は、トリアジン耐性(TT)などの自然受粉(OP)の除草剤耐性のある系統;Roundup Ready(登録商標)(RR);積み重ねられたTT及びRR;イミダゾリノン(IMI)耐性のあるOP系統;又はIMI修復(restorer)(Rf)系統;高い割合の種子油系統;DHA系統に最適なバックグラウンド;或いは領域の順応のために選択される系統を含む。このような系統は、雑種又はエリートイベントとして発育され得る。既存の同系のキャノーラ系統が45%の種子油の潜在性(potential)を示すため、NS-B50027-4遺伝子座の遺伝子移入は、そのような積み重ねられたイベントにおいて多くの収量で20%のDHAを含有する種子油を生成し得る。更なる育種イベントの積み重ねは、EPA又はDPAの生産のために選択され得る。実際に、NS-B50027-4遺伝子(1又は両方の遺伝子座のいずれか)は、NS-B50027-4を生成するために使用される同じ又は同様のベクターでの形質転換を介して、少なくとも1つの7又は8-遺伝子インサート(即ち、7つの酵素、及び随意に1つのマーカー)を含む他の遺伝子導入ブラッシカで積み重ねることができ、その結果、例えばLC-PUFAの生産を提供する3つの遺伝子座を持つ植物がもたらされる。代替的に、本明細書で更に記載されるように、A02とA05の遺伝子座はNS-B50027-4から分離され、A02遺伝子座は、LC-PUFA生産を増大させるために他のLC-PUFAを生産する系統(例えば、EPA、DPA、又はDHAの生産のために単一のインサートを備えた系統)において積み重ねられ得る。
【0064】
「疾患耐性」は一般的に、植物が昆虫、真菌類、ウイルス、又は細菌などの指定された害虫の活動を制限する能力である。「耐病性」は、植物が指定された有害生物(昆虫、真菌類、ウイルス、又は細菌など)により引き起こされる障害、或いは有害な環境条件に耐え、それでもなお、その障害にかかわらず活動と生産を行なう能力である。
【0065】
「脂肪酸組成物」又は「脂肪酸含有量」は一般的に、成熟した全体的又は部分的に乾燥した種子の内生的に形成された油に存在する、様々な脂肪酸の重量パーセントを指す。共通の工業的手法は、絶対量率ではなく、面積率(標準化された面積)として脂肪酸組成物を報告することであるが、前者は後者に近似している。絶対的な結果は、既知の濃度の個々の参照標準、及びmg/kgの方式で結果を計算するための内標準を使用して計算され得る。個々の脂肪酸標準を使用することなく脂肪酸の質量を計算するために補正係数を使用することも可能であるが、未だに内標準が必要な場合がある。一般的に、脂肪酸含有量は、種子を砕くことにより、及び、面積パーセントとしてデータを生成する、或いは面積パーセントが由来し得る、様々な技術によって脂肪酸含有量について分析可能な、脂肪酸メチルエステル(FAME)として脂肪酸を抽出することによって、判定される。例となる分析手法には、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC質量分析法(GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、NMR(NMR)、又は近赤外線反射分光法が挙げられる。脂質の合計は、例えばTAG分画などの分画を精製するための、当該技術分野で知られる技術によって分離され得る。脂肪酸組成物を特徴付ける他の方法が、当業者に知られている。例えば、CANOLA: CHEM., PRODUCTION, PROCESSING & UTILIZATION (Daun et al., eds., AOCS Press, Urbana, IL, 2011) (Daun et al., 2011); US 2015/0166928; US 20160002566を参照。
【0066】
同様に、「油含有量」は、成熟した全体的又は部分的に乾燥した種子(典型的には約6%又は7%の水分を含む)に存在する油の典型的な重量パーセントである。パーセント油は、油含有量としても称されており、標準化された水分含有量での種子の重量で割られる油の重量として計算される。油含有量は異なる植物変種の特徴であり得る。これは、核磁気共鳴(NMR)、近赤外線反射(NIR)、及びソックスレー抽出などの様々な分析技術を使用して判定され得る。例えば、キャノーラ油の含有量は、水分含有量を同時に測定する、パルス波NMS 100 MinispecNMR(Balker Pty Ltd Scientific Instruments, )によるNMR技術(Rossell & Pritchar, ANALYSIS OF OILSEEDS, FATS & FATTY FOODS 48-53(Elsevier Sci. Pub. Ltd, London, 1991))によって測定され得る。種子油の含有量も、NIR分光法により測定され得る。Li et al. 67 Phytochem. 904 (2006)を参照。
【0067】
句「抽出された植物脂質」、「単離された植物脂質」、「抽出された脂質」などは、例えば、種子等の砕かれた植物又は植物部分から抽出された脂質を含む組成物を指す。抽出された脂質は、例えば種子などの植物材料を砕くことによって得られる比較的天然のままの組成物;又は、植物材料由来の水、核酸、タンパク質、又は炭水化物の全てではないが大半が油から取り除かれている、更に精製された組成物であり得る。精製方法の例は当該技術分野で知られている。幾つかの実施形態において、抽出又は単離された植物脂質は、組成物の少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、又は少なくとも約95重量%(wt./wt.)の脂質を含む。抽出された脂質は室温の固体又は液体でもよく、後者は本明細書で「油」と考慮される。幾つかの実施形態において、抽出された脂質は、別のソースにより生産されたDHAなどの別の脂質(例えば魚油のDHA)とは混合されていない。幾つかの実施形態において、抽出後、DHAに対するオレイン酸、DHAに対するパルミチン酸、又はDHAに対するリノール酸の比率、或いは、総ω3脂肪酸に対する総ω6脂肪酸の比率は、無傷の種子又は細胞における比率と比較して、著しく(例えば、10%又は5%以下の変化)変えられていない。言いかえれば、抽出された油は、特定の脂肪酸、例えばDHAが豊富ではない。他の実施形態において、抽出された植物脂質は、無傷の種子又は細胞における比率と比較すると、DHAに対するオレイン酸、DHAに対するパルミチン酸、DHAに対するリノール酸、或いは総ω3脂肪酸に対する総ω6脂肪酸の比率を変える、水素化又は分画などの手順に晒されていない。言いかえれば、抽出された油は、特定の脂肪酸、例えばDHAが豊富ではない。本実施形態の抽出された植物脂質が油である時、油はステロールなどの非脂肪酸分子を更に含むこともある。
【0068】
上述のように、句「抽出された植物油」及び「単離された植物油」は、室温では液体である抽出された植物脂質又は単離された植物脂質を含む、組成物を指す。油は、植物又は種子などの植物部分から得られる。抽出又は単離された油は、例えば種子などの植物を砕くことによって得られる比較的天然のままの組成物;又は、植物材料由来の水、核酸、タンパク質、又は炭水化物の全てではないが大半が油から取り除かれている、更に精製された組成物であり得る。組成物は、脂質又は非脂質であり得る他の成分を含む場合がある。一実施形態において、油組成物は、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、又は少なくとも約95重量%(w/w)の抽出された植物脂質を含む。一実施形態において、本発明の抽出された油は、別のソースにより生産されないDHAなどの別の油(例えば、魚油のDHA)とは混合されていない。1つの実施形態において、抽出後、DHAに対するオレイン酸、DHAに対するパルミチン酸、又はDHAに対するリノール酸の比率、或いは、総ω3脂肪酸に対する総ω6脂肪酸の比率は、無傷の種子又は細胞における比率と比較して、著しく(例えば、10%又は5%以下の変化)変えられていない。別の実施形態において、抽出された植物油は、無傷の種子又は細胞における比率と比較すると、DHAに対するオレイン酸、DHAに対するパルミチン酸、DHAに対するリノール酸、或いは総ω3脂肪酸に対する総ω6脂肪酸の比率を変える、水素化又は分画などの手順に晒されていない。これらの実施形態の抽出された植物油は、ステロールなどの非脂肪酸分子を含むこともある。
【0069】
本明細書で使用されるように、「油」は、主に脂質を含み且つ室温では液体である組成物である。例えば、本発明の油は、好ましくは少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%の脂質を含む。典型的に、精製された植物油は、油の中に脂質の少なくとも90重量%のトリアシルグリセロール(TAG)を含む。ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、リン脂質、又はステロールなどの油の小さな成分が、油に存在することもある。NS-B50027-4に由来する食用油は、以下の特徴のうち1つ以上により特徴付けられる場合がある:少なくとも約7重量%のDHA含有量、少なくとも約1重量%のDPA含有量、少なくとも約0.4重量%のEPA含有量、約46重量%のオレイン/シス-バクセン酸含有量、約8.2重量%のリノール酸含有量、少なくとも約19重量%のALA含有量、約21重量%の組み合わせたALA/アラキジン酸/SDAの含有量、少なくとも約9%の組み合わせたEPA/DPA/DHAの含有量(全脂肪酸の重量%)。幾つかの実施形態において、組み合わせたEPA/DPA/DHAの含有量は約16%である。
【0070】
本明細書で使用されるように、用語「脂肪酸」は、飽和又は不飽和の何れかの長鎖(long)脂肪族末端を頻繁に伴うカルボン酸を指す。典型的に、脂肪酸には、長さが少なくとも8の炭素原子、例えば長さが少なくとも12、16、18、20、22、又は24の炭素の炭素炭素結合された鎖がある。大半の自然に生じる脂肪酸は、その生合成が2つの炭素原子を持つ酢酸塩を含むことから、偶数の炭素原子を持つ。脂肪酸は、遊離状態(エステル化されない);トリグリセリド(TAG)、ジアシルグリセリド(DAG)、モノアシルグリセリドの一部などのエステル化形態;アシル-CoA(チオエステル)結合の形態、又は別の結合形態であり得る。脂肪酸は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、又はジホスファチジルグリセロールなどのリン脂質としてエステル化され得る。
【0071】
「飽和脂肪酸」は、炭素炭素二重結合(アルケン)又は鎖に沿った他の官能基を含んでいない。「飽和した」は故に、あらゆる炭素(カルボン酸[-COOH]基とは別)での水素の存在を指す。言いかえれば、飽和脂肪酸において、脂肪酸のオメガ(ω)末端(n-末端とも呼ばれる)は、3つの水素(-CH3)を含み、鎖内の炭素はそれぞれ2つの水素(-CH2-)を含む。「総合的な飽和」は典型的に、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びテトラコサン酸(C24:0)の脂肪酸の、組み合わせたパーセンテージを指す。
【0072】
「不飽和脂肪酸」は、炭素鎖中に少なくとも1つのアルケン基(-CH=CH-)を含むこと以外、飽和脂肪酸と同様の骨格を共有する。2つの隣接する炭素原子(アルケン基の一方の側に結合される)が、シス又はトランス配置に生じる場合がある。「単不飽和脂肪酸」は、炭素鎖中に少なくとも12の炭素原子を持つがアルケン基は1つしか持たない脂肪酸を指す。「多不飽和脂肪酸」又は「PUFA」は、炭素鎖中に少なくとも12の炭素原子及び少なくとも2つのアルケン基を持つ脂肪酸を指す。「長鎖多不飽和脂肪酸」及び「LC-PUFA」は、炭素鎖中に少なくとも20の炭素原子及び少なくとも2つのアルケン基を持つ脂肪酸を指す。「非常に長い鎖の多不飽和脂肪酸」及び「VLC-PUFA」は、炭素鎖中に少なくとも22の炭素原子及び少なくとも3つのアルケン基を持つ脂肪酸を指す。LC-PUFAに対する言及はVLC-PUFAを含む。通常、脂肪酸の炭素鎖中の炭素原子の数は、非分枝炭素鎖を指す。炭素鎖が分枝される場合、炭素原子の数は側基の中のものを除外する。
【0073】
1つの実施形態において、LC-PUFAは、「ω3脂肪酸」又は「オメガ-3脂肪酸」であり:これは、脂肪酸のメチル末端から第3の炭素炭素結合に脱飽和(アルケン基、二重結合、又はC=C)を有している。別の実施形態において、LC-PUFAはω6脂肪酸であり:これは、脂肪酸のメチル末端から第6の炭素炭素結合に脱飽和(アルケン基)を有している。脂肪酸鎖中のアルケンの位置はまた、Δ(又はデルタ)を使用して注釈され、そこでは、アルケンの位置は、脂肪酸のカルボン酸末端に関して番号付けされる。例えば、「シス-Δ9、シス-Δ12のオクタデカジエン酸」、又は「Δ9,12のオクタデカジエン酸」といったリノール酸も指定することができる。脂肪酸はまた、「C:D」の脂質の数に関して同定することができ、ここでCは炭素の数であり、Dは炭素骨格中の二重結合の番号である。例えば、アラキドン酸は、脂肪酸のカルボン酸末端から炭素5、8、11、及び14に位置する、4つのアルケン基を伴う12の炭素鎖を意味する、20:4Δ5,8,11,14で注釈され得る。この名称はまた、カルボン酸末端からC14にて20の炭素及び1つのアルケンがある場合にメチル末端の第1のアルケンがC6になければならないため、アラキドン酸がω6脂肪酸であることを示している。
【0074】
更なる実施形態において、LC-PUFAは以下から成る群から選択される:アラキドン酸(ARA、20:4Δ5,8,11,14;ω6)、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4Δ8,11,14,17;ω3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5Δ5,8,11,14,17;ω3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5Δ7,10,13,16,19;ω3)、又はドコサヘキサエン酸(DHA、22:6Δ4,7,10,13,16,19;ω3)。LC-PUFAはまた、ジホモγ-リノール酸(DGLA)又はエイコサトリエン酸(ETrA、20:3Δ11,14,17;ω3)であり得る。本実施形態に従い生産されたLC-PUFAは、上述の何れか又は全ての混合物であり、且つ、他のLC-PUFA、又はこれらLC-PUFAの何れかの誘導体を含むこともある。少なくとも1つの実施形態において、ω3脂肪酸は、DHA;DPAとDHA;又は、EPA、DPA、及びDHAのうち、少なくとも1つである。
【0075】
更に、上述のように、LC-PUFA及びVLC-PUFAは、遊離脂肪酸形態(エステル化されていない)、エステル化形態、又は別の結合形態であり得る。故に、本実施形態のLC-PUFAは、細胞の脂質、抽出された脂質、又は精製された油における形態の混合物として存在する場合もある。少なくとも1つの実施形態において、油は少なくとも75%又は少なくとも85%のトリアシルグリセロール(「TAG」)を含み、残りは言及されるものなどの脂質の他の形態として存在し、TAGは少なくとも1つのLC-PUFAを含む。油はその後、例えば遊離脂肪酸を放出するために強塩基を用いた加水分解、又は蒸留などにより、更に精製或いは処理されてもよい。
【0076】
従って、「総ω3脂肪酸」、「総ω3脂肪酸含有量」などは、文脈が定めるように、抽出された脂質、油、組み換え型細胞、植物部分又は種子において、エステル化された又はエステル化されていない全てのω3脂肪酸の合計を指し、典型的に全脂肪酸含有量のパーセンテージとして表わされる。これらω3脂肪酸は、ALA、SDA、ETrA、ETA、EPA、DPA、又はDHAを含んでおり、任意のω6脂肪酸又は単不飽和脂肪酸を除外している。「新たなω3脂肪酸」、「新たなω3脂肪酸含有量」などは、文脈が定めるように、抽出された脂質、油、組み換え型細胞、植物部分又は種子において、エステル化された又はエステル化されていない、ALAを除く全てのω3脂肪酸の合計を指し、全脂肪酸含有量のパーセンテージとして表わされる。これら新たなω3脂肪酸は、エリートイベント導入遺伝子構築物の発現によって本実施形態の細胞、植物、植物部分、及び種子に生産される脂肪酸であり、存在する場合、SDA、ETrA、ETA、EPA、DPA、又はDHAを含むが、ALA、任意のω6脂肪酸、又は単不飽和脂肪酸を除く。典型的な総ω3脂肪酸含有量及び新たなω3脂肪酸含有量は、サンプル中の脂肪酸のFAMEへの変換、及び当該技術分野で既知の方法を用いるGCによる分析によって、判定され得る。例えばAmerican Oilseed Chemists’ Society (AOCS) method Celd-91を参照。
【0077】
同様に、「総ω6脂肪酸」、「総ω6脂肪酸含有量」などは、文脈が定めるように、抽出された脂質、油、組み換え型細胞、植物部分又は種子において、エステル化された又はエステル化されていない全てのω6脂肪酸の合計を指し、全脂肪酸含有量のパーセンテージとして表わされる。「総ω6脂肪酸」は、存在する場合、LA、GLA、DGLA、ARA、EDA、又はω6-DPAを含むが、任意のω3脂肪酸又は単不飽和脂肪酸を除く場合がある。「新たなω6脂肪酸」、「新たなω6脂肪酸含有量」などは、文脈が定めるように、抽出された脂質、油、組み換え型細胞、植物部分又は種子において、エステル化された又はエステル化されていない、LAを除く全てのω6脂肪酸の合計を指し、全脂肪酸含有量のパーセンテージとして表わされる。これら新たなω6脂肪酸は、エリートイベント導入遺伝子の発現を介して、本明細書に記載されるような細胞、植物、植物部分、又は種子に生産される脂肪酸であり、且つ、GLA、DGLA、ARA、EDA、又はω6-DPAを含むが、LA、任意のω3脂肪酸、又は単不飽和脂肪酸を除く場合がある。
【0078】
「半分種子分析(Half-seed analysis)」は、2つの子葉のうちの1つ(半分の種子)に脂肪酸分析が行なわれ、且つ、分析の結果が陽性の場合に、第2の子葉を運ぶ残りの苗木が植物を形成するために使用される、手順である。
【0079】
「タンパク質含有量」は、当該技術分野で知られる方法により判定されるように、油の無い粉末、又は実質的に油の無い粉末中のタンパク質の典型的な重量パーセントであり、油のうち95%又は99%が、成熟した全体的に乾燥した種子から取り除かれている。例えば、Daun et al., 2011; AOCS Official Meth. Ba 4e-93 Combustion Meth. Determination Crude Proteinを参照。
【0080】
種を成長又は複製する以外の目的のために成長業者により作られた成熟種子は時に、「穀物」と称される。
【0081】
当業者は、例えば、本実施形態のプロセスの工程として用語「植物部分を得る工程」が、このプロセスでの使用のために種子等の1つ以上の植物部分を得る工程を含み得ることを認識する。植物部分を得る工程は、収穫機などにより植物から植物部分を収穫する工程、植物部分を購入する工程、供給業者から植物部分を受け取る工程、又はその他には、植物部分を収穫した他人から植物部分を獲得することにより植物部分を得る工程を含む。従って、例えば、NS-B50027-4又はNS-B50027-4の後代から種子を得る工程は、植物を栽培する工程、植物から種子を収穫する工程、種子を購入する工程、種子を受け取る工程、種子を獲得する工程、容器に種子を入れる工程、種子を保管する工程、又は種子を異なる場所に移す工程を含む場合もある。
【0082】
「親の生理学的及び形態学的な特徴のほぼ全て」は、変換された形質に由来する特徴を除いて、反復親の生理学的及び形態学的な特徴をほぼ全て有している植物を指す。
【0083】
同系交配のキャノーラ系統NS-B50027-4
本明細書に記載されているように、キャノーラ系統NS-B50027-4は安定した均一の育種系統である。NS-B50027-4は、植物型の均一性に対しかなりの注意を払うことで育種され、この系統は均一性についての継続的な観察により増大されている。NS-B50027-4は、オーストラリアとカナダの主なキャノーラ成長領域における10の敷地にて、規制当局の認可の下で検定される分野である。発生、苗木の活力、植物の高さ、倒伏、及び収量などの特徴を測定するために、農学的パフォーマンス評価が、複数の敷地での現地調査において行なわれた。全ての現地試行も、日和見疾患又は昆虫のストレス要因の他、通常の表現型の特徴について観察された。
【0084】
系統NS-B50027-4は、葉、花、及び長角果に関してオーストラリアの栽培品種AV Jade(親の同質遺伝子系統)と同様であり、成熟時に同様の高さ及び習性の植物を生産する。系統NS-B50027-4には、気腫疽(レプトスフェリア)に対する許容可能な耐性があり、典型的なオーストラリアのキャノーラ収穫環境において同様の種子の生産力があり、且つ、AV Jadeに比べて種子の花振るい又は植物の倒伏に関する傾向の増大を示さない。病虫害特徴についてDHAキャノーラとAV Jadeとの間に有意差は観察されず、且つ、NS-B50027-4キャノーラの雑草化の可能性の増大を結果としてもたらし得る選択的な利点は示されなかった。
【0085】
LC-PUFAの形質に加えて、系統NS-B50027-4は、開花段階に達するまでのわずかに長い時間でAV Jadeと識別可能であり、この点でオーストラリアの栽培品種ATR Wahooと同様である。NS-B50027-4は、特にLC-PUFAの種子、具体的にはLC-ω3脂肪酸、及びより具体的にはDHAにおける生産のために識別される。キャノーラ系統NS-B50027-4は、この系統NS-B50027-4に関する特許出願の時点で商業化された他のキャノーラ栽培品種の親ではない。
【0086】
同系交配の遺伝子導入キャノーラ系統NS-B50027-4には、以下の形態学的及び生理学的な特徴がある(主に2015の間にオーストラリアの8つの異なる場所から集められて平均化されたデータに基づく):
【0087】
【0088】
本実施形態の別の態様は、NS-B50027-4由来のブラッシカ又はキャノーラ植物、或いはその種子などの部分を生産する方法を提供し、該方法は、NS-B50027-4の種子又は上述の新たなブラッシカ・ナパス系統の種子を得る工程、及び、ブラッシカ又はキャノーラの成長条件下で種子を植物へと成長させる工程を含む。別の実施形態は、NS-B50027-4の種子又は上述のようなブラッシカ・ナパス系統の種子を得ることにより雑種種子を得る工程、植物を成長させる工程、植物に異花受粉させる工程、及び、異家受粉から成熟する種子を得る工程を提供する。種子はその後、雑種のブラッシカ又はキャノーラ植物、或いはその種子を含む部分を得るために、ブラッシカ植物又はキャノーラの成長条件下で栽培することができる。従って、別の態様は、ブラッシカ・ナパス系統NS-B50027-4(ATCC(登録商標)受託番号PTA-123186の下で寄託されている前記系統の代表的な種子)、NS-B50027-4の亜系統、NS-B50027-4又はその亜系統の後代、或いはNS-B50027-4を別のブラッシカ植物と交雑させることにより生産された植物を成長させる方法を提供し、該方法は、ブラッシカNS-B50027-4の種子又は上述のようなブラッシカ・ナパス系統の種子を得る工程、及びブラッシカ植物成長条件下で種子を成長させる工程を含む。NS-N50027-4を産出するための後代、雑種、及び遺伝子移入雑種形成に関する更なる態様が、本明細書に記載されている。
【0089】
エリートイベント
キャノーラにおける導入遺伝子の形質発現は、導入遺伝子カセット自体の構造、及び植物ゲノムにおけるそのインサートの場所の両方によって判定され:植物ゲノムにおける特定の場所での導入遺伝子の存在は、導入遺伝子の発現及び植物の全体的な表現型に影響を及ぼすこともある。植物ゲノムにおける組み換えDNA分子の組み込みは典型的に、細胞又は組織の形質転換から(或いは別の遺伝子操作から)結果として生じる。組み込みの特定の部位は、(標的とされた結合のプロセスが使用される場合)運任せ(matter of chance)であるか、又は予め定められる場合もある。遺伝子操作による植物における商業上興味深い形質の、農学的又は産業的に成功した導入は、異なる要因に依存して長い手順となり得る。遺伝的に形質転換された植物の実際の形質転換及び再分化は、一連の選択工程において最初のものにすぎず、これは、温室又は実地検定に広範囲な遺伝子の特徴付け、育種、及び評価を含み、最終的にエリートイベントの選択につながる。
【0090】
NS-B50027-4は、LC-PUFAの、具体的にはLC-ω3脂肪酸、及びより具体的にはDHAを生産するキャノーラの発育においてエリートイベントとして選択される。「エリートイベント」は、導入遺伝子構築物の発現及び安定、そのような構築物を含む植物の最適な農学的特徴との適合性、及び望ましい表現型の形質の実現に基づいて、同じ形質転換DNAでの形質転換により、又は、そのような形質転換により得られる植物と戻し交雑させることにより得られる、イベントの群から選択されるイベントである。故に、エリートイベント選択の基準は、以下のうち少なくとも1つ、及び都合の良い場合は全てである:(a)導入遺伝子の存在が、農学的パフォーマンス又は商品価値に関連するものなど、植物の他の望ましい特徴を過度に損なわない;(b)イベントが、安定して遺伝され且つ同一性制御に適切な診断ツールが開発され得る、定義された分子配置により特徴づけられる;(c)導入遺伝子カセットにおける対象の遺伝子が、イベントを運ぶ植物が通常の農学的用途において晒される可能性がある様々な環境条件における商業上許容可能なレベルにて、合格水準で、正確で、適切で、且つ安定した空間的及び時間的な形質発現を示す。導入遺伝子はまた、更に望ましい商業上の遺伝的バックグラウンドへの遺伝子移入を可能にする植物ゲノムにおける位置に関連つけられる場合がある。
【0091】
エリートイベントとしてのイベントの状態は、異なる関連する遺伝的バックグラウンドでのエリートイベントの遺伝子移入により、及び、例えば上記(a)(b)、及び(c)のうち少なくとも1つの順守を観察することにより確認される場合がある。加えて、エリートイベントの選択はまた、適合性、より具体的には、NS-B50027-4と少なくとも1つの他のイベントを持つ植物との交雑から結果として生じる後代に基づいて決定され、それにより後代は両方のイベントを持つ。従って、「エリートイベント」は、上述の基準に見合うトランスジェニックカセットを含む遺伝子座を指す。植物、種子、植物材料、又は後代は、そのゲノムにおける1つ以上のエリートイベントを含み得る。
【0092】
導入遺伝子の発現は、(対象の遺伝子の一部又は全ての構造と機能に基づいて)形質転換DNAの導入によって与えられるように意図された、1つ以上の表現型の形質(例えばLC-ω3脂肪酸の生産)を植物に与える。本実施形態において、様々な導入遺伝子が、形質転換された植物におけるLC-ω3脂肪酸の生産のための、生合成の経路を提供する。
【0093】
本実施形態の態様は、NS-B50027-4ゲノムにおける発現可能な導入遺伝子の、驚くべき数のコピーに関連する。「発現可能な」は、活性タンパク質をコードすることをDNA分子の主な構造、即ち導入遺伝子のコーディング配列が示すことを意味する。しかし、「遺伝子サイレンシング」がインビボで同族の導入遺伝子不活性化の様々な機構を介して生じるので、発現可能なコーディング配列は発現されない場合もある。同族の導入遺伝子不活性化は、導入遺伝子がセンス配向で挿入される植物に記載されており、遺伝子及び導入遺伝子両方がダウンレギュレートされたという予測されなかった結果が伴う。Napoli et al., 2 Plant Cell 279 (1990)を参照。同族の遺伝子配列の不活性化のための可能な機構は、複製されたDNA領域が遺伝子サイレンシングのための内因的な機構を示す(signal)メチル化を介した転写の不活性化、及び、内因性遺伝子及び導入遺伝子両方のmRNAの組み合わされたレベルが両方のメッセージの閾値で誘発された分解を引き起こす転写後サイレンシングを含む。van Bokland et al., 6 Plant J. 861 (1994)を参照。しかし、驚くことに、NS-B50027-4には様々な導入遺伝子のうち少なくとも3つのコピーが存在するが、その一部は同じ配向に配置され、NS-B50027-4は相乗的なDHA発現を示す。
【0094】
ブラッシカ・ナパスL.(var.AV Jade)から栽培された初期の形質転換体は、脂肪酸生産のレベル、具体的にはEPA及びDHAのレベルにおける広い変動を示した。第2及び第3世代について、選択は主に、遺伝子導入種子のDHA及びEPA含有量に基づいた。場合によっては、特にT2又はT3世代において、分離パターン(1つの植物から20~40の個々の種子を20~40の子孫へと成長し、その後、それら子孫の個々の種子のDHA及びEPA含有量を測定することによって判定される)はまた、複雑な又は複数コピーの挿入が生じたことを示す散漫な結果を示した。植物の初期のT2又はT3世代の多くはこのように切り捨てられた。初めに、トランスジェニックインサートの複数のコピーが不安定な形質転換体をもたらし、上記で議論されるような同型接合体の遺伝子型に見られる古典的な遺伝子サイレンシングも示すと、結論付けられた。故に、形質転換した植物のPCR分析が>1のコピー数を示した場合、これらの形質転換体は頻繁に切り捨てられた。
【0095】
驚くことに、エリートイベントNS-B50027-4は、安定した(及び機能的な)複数のコピーのイベント:バイナリーの(反転した)左の境界から左の境界への様式(binary (inverted) left-border-to-left-border fashion)(広範囲な回文構造に類似している)で配される2つの8遺伝子T-DNAで境界をつけたカセット(7つの酵素及び1つのマーカーをコードするそれぞれ8-遺伝子インサート)を含む16-遺伝子挿入;及び別個のより小さな4-遺伝子カセットを含むことが分かり;及び、導入遺伝子インサートのこの組み合わせは、近交系NS-B50027-4でのDHAの生産において相乗的に作用する。より具体的に、交雑、戻し交雑、及び自己交雑の組み合わせは、クロモソームA05(N05とも称される)に対して16-遺伝子インサートおよびクロモソームA02(N02とも称される)に対して4-遺伝子インサートを分離した。個々の遺伝子導入クロモソームの寄与は、各イベントの純粋な同型接合体系統を得ために各分離個体を育種することによって判定された。例えば、1つの実験において、16-遺伝子インサートを含む分離個体は約4%のDHAを生産し;4-遺伝子インサートを含む分離個体はDHAを生産せず;しかし、分離個体が遺伝子導入クロモソームA02遺伝子座及び遺伝子導入クロモソームA05遺伝子座を組み合わせるために育種された時、2つのトランスジェニックインサートの組み合わせは、その種子において少なくとも約7%から少なくとも約14%のDHAを生産した植物を提供した。この結果は予期されなかった。注記されるように、エリートイベントNS-B50027-4の異常な遺伝的構築にもかかわらず、系統は、脂肪酸生産において安定し且つ一貫していると証明された。
【0096】
本明細書で注記されるように、LC-PUFAのための生合成経路は、LC-PUFAの発現及び生産を、種子を発育させることに制限するために、種子に特異的なプロモーターを含んでいた。7つの導入遺伝子のうち何れの発現も、NS-B50027-4の植物全体、根、花、又は、種子とは別の他の植物組織(例えば花芽、若い長角果)では検出されなかった。種子を発育させる際に、遺伝子導入タンパク質は、最高から最低の含有量(ng/mgの合計タンパク質):Pavsa―Δ4D>Lackl-Δ12D>Picpa-ω3D>Micpu-Δ6D>Pavsa-Δ5D>PyrcoΔ6Eで存在し、Pyrco-Δ5Eは検出可能でなかった。成熟種子において、遺伝子導入タンパク質は、最高から最低の含有量(ng/mgの合計タンパク質):Pavsa―Δ4D>Lackl-Δ12D=Picpa-ω3D>Pavsa―Δ5D>Micpu-Δ6D>Pyrco-Δ5Eで存在し、一方でPyrco-Δ5Eは検出可能でなかった。
【0097】
本実施形態の態様は、LC-PUFAの生合成経路の「フロントエンド」の幾つかの酵素を発現する遺伝子構築物の複数のコピーを植物に(例えば遺伝子形質転換又は育種により)提供することにより、植物中のLC-PUFAを増大させる方法を提供する。Napier et al., 330 Biochem. J. 611 (1998)を参照(3つの高度に保存されたヒスチジンボックスを持つ、N末端チトクロームb5ドメイン及び典型的な脂肪酸不飽和化酵素ドメインとして構造を特徴付ける)。例えば、酵素Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、及びω3/Δ15デサチュラーゼ(生合成経路において第2、第3、第5、及び第6と考慮される)の全てが排他的にフロントエンドデサチュラーゼと見なされるわけではないが、特定の実施形態において、これら遺伝子は、DHAなどのLC-PUFAの生産を増強する人工遺伝子座へとアセンブルされる。特定の実施形態において、幾つかのフロントエンド遺伝子を含む人工遺伝子座は、ミクロモナス・プシラ(Micromonas pusilla)由来のΔ6デサチュラーゼ、ピラミモナス・コルダタ由来のΔ5エロンガーゼ、パブロバ・サリナ由来のΔ5デサチュラーゼ、及びピキア・パストリス由来のΔ15/ω3デサチュラーゼを含んでいる。NS-B50027-4のクロモソームA02上のこの人工遺伝子座の場所は、植物系統(分離個体)へとこの遺伝子座を分離する手段を提供し、従来の植物育種技術により別の植物への遺伝子移入を可能にする。
【0098】
油及びω3脂肪酸
キャノーラ系統NS-B50027-4植物を用いて、本実施形態に従い、ω3及びLC-ω3脂肪酸は、NS-B50027-4キャノーラ種子から商業上の量で生産され得る。故に、形質転換された植物の選択及び繁殖のための技術は、従来の方式で収穫されるNS-B50027-4の都合の良い形質を持つ複数の植物をもたらし、及び、脂肪酸は対象の組織、例えば種子から抽出される。
【0099】
更なる実施形態において、抽出された植物脂質は、全脂肪酸含有量の割合としてDHAのレベルを増大させるように処理され得る。例えば、その処理は、遊離脂肪酸を生成するためのエステル化された脂肪酸の加水分解、又はTAG成分を修飾するためのエステル交換反応を含む。例えば、NS-B50027-4又はその後代の種子からの油は、DHA含有量が豊富であり、又は、メチルエステル或いはエチルエステルなどのアルキルエステルに油中の脂肪酸を変換するように処理される場合があり、その後、DHAのために脂質又は油を富化するように精製或いは分画され得る。幾つかの実施形態において、そのような処理後の脂質の脂肪酸組成物は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のDHAを含む。
【0100】
本実施形態はまた、系統NS-B50027-4からの、このような新たなブラッシカ・ナパス系統の後代及び末裔を含む。後代又は末裔は、当業者に知られるような育種又は組織培養の方法により発育され得る。例えば、後代又は末裔は、これらの系統において発育されるキャノーラの脂肪酸プロファイルを含み得る。従って、末裔又は後代は、発育された系統から任意の数の遺伝子を有することができる。末裔又は後代は、本明細書で提供されるキャノーラの脂肪酸表現型を提供する遺伝子、又は追加の遺伝子のみを含み得る。これは、当業者に知られるような分子の分析によって判定され得る。
【0101】
一態様は、NS-B50027-4の表現型を持つB.ナパス又はB.ジュンセアなどのブラッシカ種子を発育させる方法を提供し、例えば、そのDHA種子含有量は、少なくとも5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%、約16%のDHA、約17%のDHA、約18%のDHA、約19%のDHA、約20%のDHA、約21%のDHA、約22%のDHA、約23%のDHA、約24%のDHA、約25%のDHA、又はそれ以上のDHA(全脂肪酸の重量%として)を含み;又は例えば、LC-PUFA脂肪酸含有量は、少なくとも5%のLC-PUFA、約6%のLC-PUFA、約7%のLC-PUFA、約8%のLC-PUFA、約9%のLC-PUFA、約10%のLC-PUFA、約11%のLC-PUFA、約12%のLC-PUFA、約13%のLC-PUFA、約14%のLC-PUFA、約15%のLC-PUFA、約17%のLC-PUFA、約18%のLC-PUFA、約19%のLC-PUFA、約20%のLC-PUFA、約21%のLC-PUFA、約22%のLC-PUFA、約23%のLC-PUFA、約24%のLC-PUFA、約25%のLC-PUFA、又はそれ以上のLC-PUFA(全脂肪酸の重量%としてのEPA、DPA、及びDHAの合計)を含む。
【0102】
別の態様は、本明細書に記載される植物から生産される、砕かれたブラッシカ・ナパス種子(即ち、NS-B50027-4の種子又はNS-B50027-4の少なくとも1つの遺伝子座を含む後代の種子)の均質な集合体を提供し、砕かれたB.ナパス種子には、少なくとも約30重量%、約35重量%、又は約36重量%から約40重量%の全脂肪酸(重量%の種子)がある。特定の実施形態において、例えば、NS-B50027-4の種子、又はNS-B50027-4の少なくとも1つの遺伝子座を含む後代から得られる種子の脂肪酸含有量は、少なくとも5%のDHA、約6%のDHA、約7%のDHA、約8%のDHA、約9%のDHA、約10%のDHA、約11%のDHA、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%のDHA、約16%のDHA、約17%のDHA、約18%のDHA、約19%のDHA、約20%のDHA、約21%のDHA、約22%のDHA、約23%のDHA、約24%のDHA、約25%のDHA、又はそれ以上のDHAを含む。特定の実施形態において、例えば、NS-B50027-4の種子、又はNS-B50027-4の少なくとも1つの遺伝子座を含む後代の種子の脂肪酸含有量は、少なくとも5%のLC-PUFA、約6%のLC-PUFA、約7%のLC-PUFA、約8%のLC-PUFA、約9%のLC-PUFA、約10%のLC-PUFA、約11%のLC-PUFA、約12%のLC-PUFA、約13%のLC-PUFA、約14%のLC-PUFA、約15%のLC-PUFA、約16%のLC-PUFA、約17%のLC-PUFA、約18%のLC-PUFA、約19%のLC-PUFA、約20%のLC-PUFA、約21%のLC-PUFA、約22%のLC-PUFA、約23%のLC-PUFA、約24%のLC-PUFA、約25%のLC-PUFA、約26%のLC-PUFA、約28%のLC-PUFA、約29%のLC-PUFA、約30%のLC-PUFA、約31%のLC-PUFA、約32%のLC-PUFA、約33%のLC-PUFA、又はそれ以上のLC-PUFA(LC-PUFAは、全脂肪酸の重量%としてのEPA、DPA、及びDHAの合計である)を含む。他の実施形態において、例えば、NS-B50027-4の種子の脂肪酸含有量は、種子の全脂肪酸の重量%として、少なくとも約18%のALA、約19%のALA、約20%のALA、約21%のALA、約22%のALA、約23%のALA、約24%のALA、約25%のALA、約26%のALA、又はそれ以上のALAを含む。
【0103】
本明細書に開示される、粉砕されたブラッシカ・ナパスNS-B50027-4B.ナパス種子の均質な集合体、または、NS-B50027-4の後代または子孫のブラッシカ・ナパスの粉砕された種子の均質な集合体も提供され、ここで、粉砕されたB.ナパス種子は、少なくとも約5%のDHA、約6%のDHA、約7%のDHA、約8%のDHA、約9%のDHA、約10%のDHA、約11%のDHA、約12%のDHA、約13%のDHA、約14%のDHA、約15%、約16%のDHA、約17%のDHA、約18%のDHA、約19%のDHA、約20%のDHA、約21%のDHA、約22%のDHA、約23%のDHA、約24%のDHA、約25%のDHA、を含めたDHA含有量、またはより多くのDHA(全脂肪酸のうちの重量%として)のDHA含有量を有する。また、そのような粉砕された種子から油、粉末、およびタンパク質が提供される。
【0104】
さらなる実施形態において、抽出された植物脂質(例えば油)は、全脂肪酸含有量の割合として、DHAのレベルを増大させるために処理することができる。例えば、その処理は、遊離脂肪酸を生成するエステル化脂肪酸の加水分解、またはエステル交換反応を含む。例えば、キャノーラ油は、油中の脂肪酸をメチルエステルまたはエチルエステルなどのアルキルエステルに変換するように処理することができ、次いでこれをまたは分別して脂質または油をDHAについて富化することができる。複数の実施形態では、そのような富化後の脂質の脂肪酸組成は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、、少なくとも90%、または少なくとも95%を含めたDHAを含む。
【0105】
別の実施形態は、ブラッシカ・ナパス系統NS-B50027-4、ATCC(登録商標)受託番号PTA-123186で寄託された前記系統の代表的な種子、NS-B50027-4の亜系統、NS-B50027-4または亜系統の後代、または、NS-B50027-4と第2のブラッシカ植物を交雑させることによって生産された植物、から油または粉末を生成する方法を提供し、該方法は:ブラッシカ植物生育条件下で上記のブラッシカ・ナパス植物を成長させる工程と;種子を収穫する工程と;種子から油、粉末またはタンパク質を抽出する工程と、を含む。
【0106】
本明細書に記載されている別の実施形態は、ブラッシカ・ナパス系統NS-B50027-4、ATCC(登録商標)受託番号PTA-123186で寄託された前記系統の代表的な種子、NS-B50027-4の亜系統、NS-B50027-4または亜系統の後代、または、NS-B50027-4と第2のブラッシカ植物を交雑させることによって生産された植物から油を生産する方法を提供し、該方法は:ブラッシカ・ナパス系統NS-B50027-4、ATCC(登録商標)受託番号PTA-123186で寄託された前記系統の代表的な種子、NS-B50027-4の亜系統、NS-B50027-4または亜系統の後代、または、NS-B50027-4と第2のブラッシカ植物を交雑させることによって生産された植物、の種を粉砕する工程と;前述の種子から油を抽出する工程と、を含む。
【0107】
別の態様は、NS-B50027-4種子またはNS-B50027-4由来の後代の種子の種子粉末およびタンパク質、ならびに油を提供する。植物バイオマスからのタンパク質抽出は既知の方法により達成することができる。例えば、以下を参照;Heney & Orr, 114 Anal.Biochem.92(1981)。NS-B50027-4種子からの粉末は、少なくともいくらかのDHAおよび他のω3脂肪酸を含有するために、特に有利であることが証明されうる。同様に、NS-B50027-4種子から得られたタンパク質分画は少なくともいくらかの有益なDHAおよび他のω3脂肪酸を含む。従って、別の実施形態は、NS-B50027-4種子またはNS-B50027-4由来の後代の種子から得られた種子粉末を提供する。一実施形態では、種子粉末はNS-B50027-4のエリートイベントを含む。都合の良いことに、種子粉末は、種子からほとんどの脂質または油を抽出した後に、より低いレベルではあるが種子粉末が得られる種子において生成された脂質または油のいくらかを保持している。種子粉末は、食糧、例えば動物飼料の構成要素または食糧生産における成分、として使用されてもよい。この種子粉末におけるω3:ω6脂肪酸のより高い比率を考慮すると、NS-B50027-4種子の粉末は、他の市販の種子粉末と比較して優れた栄養を提供しうる。
【0108】
上述のように、「脂肪酸含有量」または「脂肪酸組成」は、概して、正規化された面積としての特定の脂肪酸のパーセントとして;または、既知の基準に対して;または、種子のグラムあたりの脂肪酸の重量比(例えばmg DHA/g種子)として;計算される、成熟し部分的に乾燥した(典型的には約6%または7%の水分を含む)種子全体の内因的に形成された油中に存在する種々の脂肪酸の重量パーセントを指す。
【0109】
一般的な業界慣行では、脂肪酸組成を絶対量としてではなく、面積率(正規化された面積)として報告している。例えば、クロマトグラフィーは、しばしばピークとしてデータを生成し、各ピークの下の区域は積分され、クロマトグラムにおける脂肪酸についての全ピークの下の総面積のパーセンテージとして表示される。面積率は簡単に計算でき、業界の他の人が報告した結果と比較することも簡単にできる。面積率は絶対的ではないが、許容可能な近似値を提供する。mg/kgの結果としての絶対的な収量は、例えば既知の濃度の参照基準と内部の基準を含めることで計算できる。補正因子も脂肪酸の質量を計算するために使用することができる。
【0110】
例えば、脂肪酸含有量を測定する際に、種子を粉砕し、オイルトリアシルグリセリド(TAG)を抽出し、続いて、メタノールとナトリウムメトキシドでの鹸化およびメチル化、または、メタノール中1.25%の3(トリフルオロメチル)フェニル-トリメチル-水酸化アンモニウム(Meth Prep II(商標)、Fischer Scientific Cat #AT18007)での反応により、脂肪酸メチルエステルを形成することができる。結果として生じる脂肪酸メチルエステル(FAME)は、不飽和度および脂肪酸鎖長に基づきFAMEを分離するキャピラリーカラムを使用して、気液クロマトグラフィー(GLC)により分析することができる。例えばGC、LC-MS、GC-MS、NMRまたは近赤外反射分光法によりFAMEを分析することができる。脂肪酸組成はまた、例えば種皮を壊して破壊した種子を直接メチル化に供することにより、種子全体から測定されうる。脂質の合計は、当技術分野においてTAG画分などの画分を精製すると知られている技術により分離されうる。例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)が、TAGの脂肪酸組成を特異的に測定するために、DAG、アシルCoAまたはリン脂質などの他の脂質画分からTAGを分離させる分析規模で行なわれうる。当業者に知られているように、多くの他の分析技術が使用されてもよい。例えば、以下を参照;Tinoco et al., 3 Anal.Biochem.514(1962);CANOLA:CHEMISTRY, PRODUCTION, PROCESSING & UTILIZATION(Daun et al., eds., AOCS Press, Urbana, IL, 2011)(Daun et al., 2011);US2015/0166928;US2016/0002566。
【0111】
NS-B50027-4種子の脂質または油も、例えば遊離脂肪酸またはリン脂質の除去によってTAGの割合を増加させるために、精製または富化されうる。少なくとも1つの実施形態では、NS-B50027-4種子の脂質は油の形態であり、本明細書において、重量にして脂質の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、あるいは、約95%~98%が、TAGの形態である。
【0112】
さらなる実施形態では、NS-B50027-4種子(またはその後代)由来の脂質は、総脂肪酸含有量の百分率としてのDHAの量を増加させるために処理される。例えば、その処理はエステル交換反応を含みうる。例えば、脂質は、油中の脂肪酸をメチルエステルまたはエチルエステルなどのアルキルエステルに変換するように処理することができ、次いでこれを分別して脂質または油をDHAについて富化することができる。複数の実施形態では、そのような富化後の脂質の脂肪酸組成は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または、少なくとも90%、のDHAを含む。同様に、NS-B50027-4種子由来の脂質は典型的なキャノーラよりも多い割合でALAを含むので、NS-B50027-4種子由来の脂質は、脂質をALA含有量について富化するように処理されうる。さらに、脂肪酸は、本明細書に記述されるような脂肪酸組成を有する脂肪酸の混合物中にあってもよく、または脂肪酸が、混合物の脂肪酸含有量の少なくとも40%または少なくとも90%を構成するように富化されうる。一実施形態では、脂肪酸はエステル化されない。あるいは、脂肪酸は、例えばメチル、エチル、プロピルまたはブチルなどにエステル化される。
【0113】
高オレイン酸含有量によってDHAおよび他のLC-PUFAに安定性を与えると主張されている油よりもオレイン酸含有量が低いにもかかわらず、NS-B50027-4の種子からのLC-PUFAω3脂肪酸油は驚くべき安定性を示す。より具体的には、LC-PUFAω3脂肪酸は、非常に不安定で、特に酸化しやすいことで悪名高い。LC-PUFAおよびLC-PUFAを含有する食品の貯蔵寿命を延ばすためには、カプセル化、他の油、特に高オレイン酸油とのブレンド、または酸化防止剤の添加が必要であることが、当該分野で理解されている。しかしながら、そのような処置をとらないにもかかわらず、粉砕したNS-B50027-4種子から抽出した油は室温で数ヶ月間新鮮さを保っていることをいくつかのエビデンスが示唆している。さらに、フィトステロール、ビタミンE、ビタミンK1、β-カロチン、およびNS-B50027-4オイルのミネラルなどの栄養素のレベルは、他の市販のキャノーラオイルの加工していない(natural)範囲内にある。NS-B50027-4から得られた油中には、検出可能なレベルの望ましくない物質、例えば農薬、マイコトキシン、またはポリ芳香族炭化水素は見られなかった。さらに、植物のDNAはNS-B50027-4から得られた油中で検出されない。
【0114】
本実施形態の別の態様は、ヒトおよびヒト以外の動物のための栄養剤および食物における使用のためのDHAおよびLC PUFAの供給源を提供する。特に、NS-B50027-4種子由来の油は、水産養殖における使用のためのDHAおよびLC-PUFAの持続可能な供給源を提供する。魚に対する世界的な高い需要および結果として生じる海産物(the seas)の濫獲により、海洋養殖および淡水養殖はますます重要になっている。例えば、以下を参照;Betancor et al., 4 Sci.Rep. 8104(2014)。例えば、サケ科の魚の養殖および消費は過去20年間に劇的に増大した。しかしながら、野生の魚の食料は、水産養殖におけるそれらの仲間の種の食料とは非常に異なる。実際、水産養殖は、魚粉と魚油などの重要な食物由来の栄養素を提供するために、海洋捕獲漁業に依然として大きく依存している。実際、魚油は水産養殖におけるω3-LC PUFAの主要な供給源である。海産魚油は、急成長中(一年あたり5~10%)の養魚業の制限要因を含むため、水産養殖飼料は、動物由来の油に加えて、マメ科植物の種子、油料種子ケーク(oilseed cake)、葉の粉末、およびますます多くの部分を占める植物油などの、様々な代替的な植物系原料を含んでいる。従来からLC-PUFAが少ない植物油と魚油とを置き換えることは、アマニ油など幾つかの油が、限られた程度ではあるにせよ、魚のLC代謝産物へと変換することができる量のALAを含むとしても、あまりLC PUFAは魚の飼料に利用可能でない、ということを示す。一般に、魚の飼料における現行の植物油は魚のFA分布に悪影響を及ぼす可能性があり、これらはω3/ω6比率を変更し、魚肉の総LC PUFAを減らす可能性がある。
【0115】
例えば、典型的な植物油は、主としてリノール酸(C18:2 ω6;LA)として、高量のω6 PUFAを含んでおり、DHA:LAの比率が0.908である養殖のサケからの油と比較して、親系統AV Jadeの油は、DHA:LAの比率が0.016であり;NS-B50027-4の油は、DHA:LAの比率が1.048である。Strobel et al., 11 Lipids Health Dis.144(2012)。興味深いことに、NS-B50027-4由来のω3 FAの比率は、心血管疾患および脂質異常症に関連するパルミチン酸、飽和脂肪酸に関して特に有利である。Diet, Nutrition & Prevention of Chronic Dis., WHO Tech.Rep. Series 916, Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation, 88(World Health Organization, Geneva, 2003)。親系統AV Jade由来の油にはDHAがなく;NS-B50027-4の例示的な油は、DHA:パルミチン酸塩の比率が約2.12であり;DHA:パルミチン酸塩の比率が約0.59である養殖のサケからの油と比較した。及び、野生のサケの油は、DHA:パルミチン酸塩の比率が約1.028である。Strobel et al., 2012。LC-PUFAを含む水産養殖に使用するための食糧の調製は、その他の点では当該技術分野において知られている。以下を参照;Betancor et al., 2014;Petrie et al., 9 PLOS ONE 1, 2014;Tocher,449 Aquaculture 94(2015)。
【0116】
したがって、本実施形態の範囲は、水産養殖材料と、NS-B50027-4およびその後代から得られた油を含むおよび水産養殖材料と、のためのω3脂肪酸のソースとしての、NS-B50027-4からの油の使用を包含する。NS-B50027-4から得られた油の研究によれば、この油は、淡水のサケ(2グラムから25グラムの幼生)に提供される飼料に含まれても安全であり、NS-B50027-4油含有飼料由来のEPAおよびDHAをサケ肉(salmon flesh)に組み入れたということを示した。
【0117】
別の態様では、本実施形態は、NS-B50027-4の脂質、油、脂肪酸、種子、種子粉末、タンパク質、細胞、油料種子植物(oilseed plant)、または、植物の部分の1つ以上を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物はさらに、医薬品、食物、または農業での使用に適している担体、種子処理化合物、肥料、他の食品や飼料の成分、または、追加のタンパク質もしくはビタミン、を含む。
図4は、可能な処理工程、種々の処理工程からの産物または画分、および、そのような画分または産物のための提案された用途の図を提供する。
【0118】
NS-B50027-4から得られた脂質または油、NS-B50027-4から得られた脂肪酸、NS-B50027-4から得られた細胞、または、NS-B50027-4から得られたまたはこれに由来する油料種子植物、種子粉末、または他の組成物、の1つ以上を含む、食糧、化粧品、または化学物質も提供される。別の態様は食糧を生成する方法を提供し、該方法は、少なくとも1つの他の食品成分と、NS-B50027-4またはその後代から得られた脂質または油、NS-B50027-4またはその後代から得られた脂肪酸、NS-B50027-4またはその後代から得られた細胞、植物の部分、種子、種子粉末または油料種子植物、NS-B50027-4またはその後代から得られるかまたはこれに由来するこれらの組成物のいずれかを含む別の組成物、の1つ以上を混合する工程を含む。該方法は、食糧を混合し、調理し、焼成し、押し出し、乳化し、さもなければ処方し、または、食糧を包装し、または、食糧中の脂質または油の量の分析する工程を含みうる。
【0119】
本明細書で構想されている食糧は、本明細書で開示される方法、細胞、植物、または種子の使用によって直接的または間接的に生産された油、脂質、脂肪酸エステル、または脂肪酸、即ちNS-B50027-4由来の少なくとも1つの遺伝子座を含むNS-B50027-4種子由来の油、またはNS-B50027-4由来の後代から得られた種子由来の油、を含む。食糧は、身体に摂取すると組織に栄養を与えたり組織を作り上げたり、エネルギーを供給したりする、または、代謝機能についての適切な栄養状態を維持、回復、または支援する、ヒトまたは動物が消費するための食物や調剤を含む。食糧は、例えば乳児用調製粉乳などの赤ん坊または幼い子どものための栄養的な組成物、および種子粉末を含んでいる。食糧はまた、栄養剤などの食品添加物を含む。さらに、食糧は、特定の使用に適している量の中に可食の多量養素、タンパク質、炭水化物、ビタミンまたはミネラルを含んでもよい。これらの成分の量は、この組成物が、正常な個体での使用、または代謝障害などを患っている個体などの特殊なニーズを有する個体での使用を意図しているかどうかに応じて変動する。食糧は固体、液体、ゲルまたはエマルション形態であってもよい。食糧は、任意の適切な目的のための任意のタイプの食物に加えることができ、つまり、厳密な栄養上の目的のために加えられることを要求されない。
【0120】
本明細書で構想されている食糧はまた、NS-B50027-4由来の少なくとも1つの遺伝子座を含む、NS-B50027-4の種子、またはNS-B50027-4由来の後代から得られた種子由来の、粉砕されたキャノーラ、キャノーラ種子粉末、またはそれらから処理されたタンパク質(即ち粉末、ケーキ、粉末タンパク質)を含む。特定の高付加価値製造飼料におけるキャノーラ粉末の現在の使用は、抗栄養因子、高繊維含有量、限定的な消化性、およびω3-FAまたはLC-PUFAの欠如、またはタンパク質の低密度供給源を含む、一連の問題によりしばしば制限される。キャノーラタンパク質を濃縮するためのキャノーラ種子の粉末ケーキ画分(meal cake fraction)の処理は、このような問題を排除し、その結果、NS-B50027-4またはその後代の種子から得られたキャノーラタンパク質は、魚粉、キャノーラ粉末、ダイズ粉末、またはダイズタンパク質濃縮物、ならびにその他の広範に使用されている飼料成分として適している代替品を提供する。例えば、エビは10の必須アミノ酸を必要とする。キャノーラはエビにとって適切なアミノ酸のバランスを有している。4つの脂肪酸がエビにとって不可欠である:LA、ALA、そしてより重要なEPAおよびDHA。ω3対ω6脂肪酸の比もエビの飼料において重要であり、最適ω3:ω6比は約2.5である。4.5%から7.5%の総脂質飼料含有物が最適であると考えられる。本明細書に記述されたキャノーラ系統由来の粉末由来タンパク質中にいくらかの油を含むことが有利であると分かるだろう。さらに、エビの見かけの粗タンパク質消化率は80%以上と高く;また、歴史的には、植物由来のタンパク質は魚粉由来のタンパク質よりも消化されにくいことが研究により示されている。本明細書に記述されたキャノーラからのケーキ粉末(cake meal)から加工されたタンパク質の画分およびタンパク質の濃縮により、消化率は魚粉とかなり一致すると予想され、現在のキャノーラ粉末より優れている可能性がある。そのようなタンパク質製品はまた、水産養殖と陸生動物のための飼料の魚粉に重要な代替物を供給しうる。
【0121】
別の態様では、本NS-B50027-4は、ω3-脂肪酸またはDHAなどのPUFAから利益を得るであろう症状を処置または予防する方法を提供し、該方法は、NS-B50027-4から得られた脂質または油、NS-B50027-4から得られた脂肪酸、NS-B50027-4から得られた細胞、もしくは、NS-B50027-4から得られたまたはこれに由来する油料種子植物、種子粉末、または他の組成物、の1つ以上を、被験体に投与する工程を含む。別の態様は、薬剤を生成する方法を提供し、該方法は、NS-B50027-4の脂質または油、NS-B50027-4の脂肪酸、NS-B50027-4に係る細胞、NS-B50027-4の油料種子植物、NS-B50027-4の植物の部分、NS-B50027-4の種子、NS-B50027-4の種子粉末、またはNS-B50027-4またはその後代から得られるかまたはこれに由来するこれらの組成物のいずれかを含む別の組成物、の1つ以上を混合する工程を含み;この薬剤を、PUFAのエチルエステルを含む医薬組成物の形態で投与することができる。被験体はヒトまたはヒト以外の動物であってもよい。
【0122】
ω3脂肪酸利益を得るであろう症状の例には、血清トリグリセリドレベルの上昇、LDLコレステロールの上昇などの血清コレステロールの上昇、不整脈、高血圧、冠性心疾患、血管形成後の再狭窄、炎症、喘息、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬、湿疹、血小板凝集、消化管出血、子宮内膜症、月経前症候群、腎臓結石、胎児期アルコール症候群、注意欠陥多動性障害、単極性鬱病、双極性鬱病、攻撃的敵意(aggressive hostility)、統合失調症、副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystophy)、高血圧症、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、アルツハイマー病、慢性閉塞性肺疾患多発性硬化症、嚢胞性繊維症、フェニルケトン尿症、筋痛性脳脊髄炎、後天性免疫不全症障害、ウイルス感染後の慢性疲労、癌、または、目の疾病、が含まれる。
【0123】
薬剤の生産は、本明細書に例証されるような症状の処置のために、薬学的に許容可能な担体とNS-B50027-4から得られた油を混合する工程を含みうる。該方法は、DHAのレベルを増加させるために、油を精製する工程もしくは油のエステル交換または分別を含みうる。特別の実施形態では、該方法は、油中の脂肪酸をメチルまたはエチルエステルなどのアルキルエステルに変換するために脂質または油を処理する工程を含む。分別または蒸留のようなさらなる処理が、DHAについて脂質または油を富化するために適用されうる。例示的な実施形態では、薬剤はDHAのエチルエステルを含む。薬剤中のDHAのエチルエステルの量は、薬剤の、または薬剤の脂肪酸成分の、包括的に30%~約50%、または少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%であり得る。薬剤は、薬剤中の総脂肪酸含有量の包括的に30%~50%、または少なくとも90%などのEPAまたはDPAのエチルエステルをさらに含んでもよい。薬剤は、ALA、EPAまたはDPAのエチルエステルをさらに含んでもよく、その結果、薬剤は、薬剤中の総脂肪酸含有量の包括的に30%~50%、または少なくとも90%などのEPAまたはDPAのエチルエステルをさらに含んでもよい。そのような薬剤は、ヘルスケア専門家によって決定されるようなヒトまたは動物の被験体への投与に適している。脂肪酸を含む製薬の医薬組成物の調製は当技術分野で公知である。さらに、当技術分野で公知なように、1日当たり最低約300mgのω3脂肪酸、特に、例えばEPA、DPAまたはDHAなどのω3 LC-PUFAが望ましく;しかし、ヘルスケア専門家によるアドバイスの通り、1日当たり0.1mgから20g以上の特定の脂肪酸の投与が適切である場合がある。
【0124】
さらに、NS-B50027-4から得られた油は、化粧用途に使用することができ:これは、混合物を形成するように既存の化粧品組成物に添加してもよく、または本明細書に記載されるように製造された脂肪酸を化粧品組成物中の「活性」成分として使用してもよい。例えば、US2008/0241082を参照。
【0125】
さらに、当技術分野で日常的に実施されている技術を使用して、主にNS-B50027-4の種子で産生された油を抽出、加工、および分析することができる。油は、冷間圧縮、水性処理、またはより典型的な処理によって得ることができる。以下を参照;Mansour et al., 6 Nutrients 776(2014);米国特許第6,599,513号;例えば、NS-B50027-4種子は、(例えばスクリュープレスによって)コールドプレスすることができ、油は濾過されうる;そして、残余のケーキ粉末は、粉砕されまたはプレスされたキャノーラ種子から追加の油を得るためにヘキサンで抽出されうる。
【0126】
加工食品生産においては、例えば、キャノーラ種子を加熱(cook)、圧搾(press)、抽出して粗製油を生産し、これを脱ガム、精製、脱色、脱臭する。様々な工程を窒素雰囲気下で行うことができる。一般に、種子を粉砕するための技術は当技術分野で公知である。例えば、油料種子を、(必要ならば)種子の含水量を例えば7%~8.5%に上昇させるために噴霧するかまたは水に浸すことによって混ぜて適度な柔らかさにする(temper)ことができる。柔らかくされた(tempered)種子を、0.23~0.27mmの間隙設定を有する滑らかなローラーを用いてフレーク状にする。酵素を失活させ、細胞を破裂させ、油滴を合体させ、そしてタンパク質粒子を凝集させるために加熱が適用され得る。大多数の種子油はスクリュープレスを介してプレスすることによって放出され、これにより加工種子粉(「ケーキ」)およびプレスされた粗製の油が得られる。プレス操作によって生成された粗製の油は、圧搾作業中に油で発生する固形物を除去するために、スロット付きワイヤドレナージトップを備えた沈降タンクを通過させることによって精製することができる。この精製された油は、板枠式圧濾機に流して残余の微小固形物粒子状物質を除去することができる。スクリュープレスから排出されたケーキはしばしばかなりの油を含み、これを例えばヒートトレースカラムを使用して、例えばヘキサンで溶媒抽出して種子粗粉から追加の油を得ることができる。ケーキから得られた粗製の油から溶媒が除去された後、圧搾および抽出された油を合わせ、さらなる油処理手順に供することができる。例えば、抽出された脂質または油は、脂質/オイル成分の精製を向上させる1つ以上の処理工程に供される場合がある。例えば、精製工程は、脱ガム、脱臭、脱色、乾燥、分別、または酸化防止剤(例えば、混合トコフェロール)による強化のうちの少なくとも1つにより抽出された粗製の油を処理する工程を含み得る。
【0127】
脱ガムは、油の精製における初期段階であり、主に油からリン脂質の大部分を取り除く役目をし、これは全抽出脂質の約1%~2%として存在し得る。リン酸を典型的には2%含む水を70℃~80℃で粗製の油に添加すると、リン脂質、微量金属、顔料、および不溶性レシチンの大部分が分離される。脱ガムはまた、濃縮したリン酸を粗製種子油に添加して、非水和性ホスファチドを水和可能な形態に変換すること、および、存在する微量金属をキレート化することによっても行うことができる。ゴムは遠心分離によって種子油から分離される。
【0128】
中和とも呼ばれることがあるアルカリ精製は、通常、脱ガムの後で行われ、脱臭および脱色に先行する。より具体的には、脱ガムの後、種子油を遊離脂肪酸およびリン酸を中和するのに十分な量のアルカリ溶液で滴定し、トリグリセリド画分を分離する。適切なアルカリ材料には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよび水酸化アンモニウムが含まれる。石鹸を遠心分離または抽出によって石鹸用の溶媒中に除去し、中和した油を水で洗浄する。必要な場合、油中の過剰なアルカリを、塩酸または硫酸などの適切な酸で中和してもよい。
【0129】
大豆油などのいくつかの植物油は、脱ガムおよび中和を組み合わせて処理される。非水和性ホスファチドの調整のために、少量のリン酸またはクエン酸を粗製の非脱ガム油に添加する。集中的に混合した後、希釈しれたカセイソーダ(7%および12%)を加えて遊離脂肪酸を中和する。カセイアルカリの存在下で適切な水によりホスファチドを水和させる。保持ミキサーでの反応時間の後、油を加熱しそして直接ソープストックを分離するための分離器に送る。中性油を約3%から10%の水中で洗浄して残留石鹸含有量を減らし、混合物を洗浄水と油に分離する。残余の油の水分を真空ドライヤーで減少させる。
【0130】
脱臭は、高温(200℃~260℃)および低圧(0.1~1mmHg)での油および脂質の処理であり、典型的には100mLの種子油あたり約0.1mL /分の速度で種子油に水蒸気を導入することによって達成される。そのように散布の約30分間後に、種子油を真空下で冷却する。種子油は、典型的にはガラス製の容器に移され、冷凍保存前にアルゴンで洗い流される(flushed)。この処理はまた、種子油の色を改善し、そして残っている遊離脂肪酸、モノアシルグリセロール、または酸化生成物を含む揮発性または臭気のある化合物の大部分を除去する。
【0131】
脱色は、脱色土(例えば、RISYLR Silicas, W.R. Grace & Co., Columbia, Md., US)の存在下(例えば、0.2%~2.0%)で、および、酸素の不在下で(窒素下または真空中での操作による)90℃~120℃で10~30分間油を加熱する精製プロセスである。この工程は、不要な顔料(カロチノイド、クロロフィル、ゴシポールなど)、ならびに酸化生成物、微量金属、硫黄化合物、微量の石鹸を取り除く。「RDB油」は、精製され、脱臭され、脱色された油を指す。
【0132】
脱ろうは、周囲温度以下での結晶化により油脂を固体(ステアリン)および液体(オレイン)画分へと分離させるために油の商業生産においてしばしば使用される方法である。ヒマワリ油またはトウモロコシ油などのいくつかの植物油は、低温で結晶化し、油中に濁りを生じさせるろう(長鎖脂肪アルコールのエステルと脂肪酸エステル)を含有する。中和と組み合わせた脱ろうは、これらのろうを除去するのに適切である。それは、固形分のない製品を製造するために最初に綿実油に適用され、および、油の飽和脂肪酸含有量を減少させるためにも使用されることができる。
【0133】
TAG内およびその間の脂肪酸を交換するか、または脂肪酸を別のアルコールに移動させてエステルを形成するプロセスにおけるエステル交換。これは、最初に遊離脂肪酸としてTAGから脂肪酸を放出することを含むか、または、脂肪酸メチルエステルまたはエチルエステルなどの脂肪酸エステルを直接生成することがある。メタノールまたはエタノールなどのアルコールによるTAGのエステル交換反応では、アルコールのアルキル基は、TAGのアシル基(DΗΑを含む)とのエステル結合を形成する。分別プロセスと組み合わせて、エステル交換を脂質の脂肪酸組成を改変するために使用することができる。Marangom et al., 6 Trends Food Sci.Technol. 329(1995)。エステル交換は、化学的手段(例えば、強酸または基礎触媒)または酵素的手段を使用することができ、後者は、TAGの脂肪酸に対して位置特異的(sn1/3またはsn-2特異的)であり得るリパーゼを使用し、または、他のものよりもいくつかの脂肪酸を優先する。Adamczak, 13 Pol.J. Food Nutr.Sci.3(2004);Ferreira-Dias Elec. 16 J. Biotechnol.(2013)。
【0134】
あるいは、精製工程は、エステル交換プロセス、または脂質または油の脂肪酸含有量を変える他のプロセスを回避して、総脂肪酸含有量に対するパーセンテージとしてのDHA含有量を増加させることができる。言いかえれば、NS-B50027-4またはその後代の種子から得られた、精製された脂質または油の脂肪酸含有量/プロファイルは、実質的に精製されていない脂質または油のそれと同じである場合がある。
【0135】
随意に、油中のLC-PUFAの濃度を高めるための脂肪酸分別は、例えば、凍結結晶化、尿素を使用する錯体構成、分子蒸留、超臨界流体抽出法、向流クロマトグラフィーおよび銀イオン錯体形成(silver ion complexing)などの、当技術分野で既知の方法のうちのいずれかによって達成することができる。尿素との錯体形成(Complex formation with urea)は、油中の飽和脂肪酸および一価不飽和脂肪酸の濃度を減少させることにおけるその単純さおよび効率のために好ましい方法である。Gamez et al., 36 Food Res.Int’l 721(2003)。最初に、油のTAGは、リパーゼによって、または酸もしくは塩基触媒反応条件下での加水分解によって、しばしば脂肪酸エステルの形態でそれらの構成脂肪酸に分割され、それにより、1モルのTAGを少なくとも3モルのアルコール(例えばエチルエステルの場合はエタノール、またはメチルエステルの場合はメタノール)と反応させて、過剰なアルコールが形成されたアルキルエステルおよび形成されたグリセロールの分離を可能にする。遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、通常、処置により脂肪酸組成において変わることはなく、錯体形成のために尿素のエタノール溶液と混合することができる。飽和および一価不飽和脂肪酸は尿素と容易に錯化し、冷却すると結晶化し、そして続いて濾過により除去することができる。それによって、完成した非尿素画分はLC-PUFAで富化される。
【0136】
上述のように、窒素、他の不活性雰囲気、または真空下で様々なまたは複数の工程を実施することができ、NS-B50027-4またはその後代の種子から得られる所望の油または脂質は、酸化を避けるために窒素、不活性ガスまたは真空下で包装することができる。
【0137】
さらに本明細書に記載のように、NS-B50027-4またはその後代から得られる種子由来の粉砕されたキャノーラ、種子粉末、またはそれから加工されたタンパク質(すなわち、粉末、ケーキ、または粉末タンパク質)は、食物または飼料に使用することができる。高DHAプレスケーキは、高油性ケーキとして使用することができ、または粉末を調製するためにヘキサンで脱脂することができる。ヘキサンで処理した粉末は、典型的には脱溶媒され(desolventized)、焼かれる(toasted)(DT粉末)。
【0138】
NS-B50027-4およびその後代の同定
エリート遺伝子イベントは、植物ゲノムにおける組み換えDNA分子の取り込みの部位での位置と構成により特徴づけられうる。組み換えDNAカセットが挿入された植物ゲノムにおける部位はまた「挿入部位」または「標的部位」と呼ばれる。「隣接領域」または「隣接配列」は、例えば、トランスジェニックカセットのすぐ上流に近接して、またはすぐ下流に近接して位置する植物ゲノムの少なくとも20塩基対、少なくとも50塩基対、または最大5000塩基対のDNAの領域である。外来DNAのランダム組み込みにつながる形質転換は、各形質転換体について特徴的かつ独特であり、異なる隣接領域を有する形質転換体をもたらす(エリートイベント)。
【0139】
別の態様は、NS-B50027-4由来のブラッシカ・ナパス植物、またはその部分を生産するための方法を提供し、該方法は、第1世代の後代の種子を生産するために、第2の植物と上記のブラッシカ・ナパス植物またはその部分を交雑する工程;F2世代植物を生成するために前述の第一世代の後代の種子を成長させる工程;随意に、育種系統NS-B50027-4-由来のブラッシカ・ナパス種子、植物、または、その部分を得るために、交雑と成長の工程を繰り返して、前記種子の連続した雑種世代を得る工程、を含む。この方法により生産された(任意の雑種を含む)植物または植物の部分も提供される。一実施形態において、特定のキャノーラ植物のゲノムへと遺伝子操作された遺伝形質は、植物育種技術においてよく知られている従来の育種技術を用いて、別の栽培品種のゲノムへと移すことができる。例えば、戻し交雑アプローチは、形質転換されたキャノーラ栽培品種から既に高度に開発されたキャノーラ栽培品種へと導入遺伝子を移すために使用されてもよく、そして、得られた戻し交雑転換植物は導入遺伝子を含むであろう。
【0140】
従って、本実施形態の別の態様は、NS-B50027-4の検出のための組成物、方法およびキットを提供する。性的交雑の後代が対象の導入遺伝子を含むかどうか判断するために特定のイベントの存在を検出することができることは都合がよいだろう。加えて、特定のイベントを検出する方法は、例えば、組み換え作物に由来する食品の販売前承認や表示を要求する規制を遵守するのに有用である。核酸プローブを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはDNAハイブリダイゼーションなど任意の周知の核酸検出方法により導入遺伝子の存在を検出することが可能である。これらの検出方法は、一般に、プロモーター、ターミネーター、マーカー遺伝子等など頻繁に使用される遺伝要素に焦点を合わせる。その結果、このような方法は、異なるイベント、特に、挿入されたDNAに隣接する染色体DNA(「隣接するDNA(flanking DNA)」)の配列が知られていない限り、同じDNA構築物を用いて製造されたものを区別するのに有用でないことがある。イベント特異的PCRアッセイが記載される。例えば、以下を参照;Windels et al., Med.Fac.Landbouww, Univ. Gent 64/5b:459(1999)(接合部にまたがるプライマーセットを使用するPCRによるグリフォサート耐性ダイズのイベントの同定: 第1のプライマーはインサート由来の配列を含み、第2のプライマーは、隣接DNA由来の配列を含む)。さらに、NS-B50027-4の16遺伝子インサートは、Pto結合タンパク質(PTI)、クロモソームA05に位置する過敏性応答媒介シグナル伝達に含まれるセリン・トレオニンキナーゼ、をコードするブラッシカ遺伝子の発現を妨害した。表現型の変化は観察されなかったが、これは、NS-B50027-4またはNS-B50027-4由来の後代の同定のための別のマーカーを提供する。
【0141】
本明細書の方法とキットは、生体サンプルにおいて、特にNS-B50027-4の導入遺伝子を含む植物材料、ならびにトランスジェニックキャノーラ植物、植物材料、およびそのようなイベントを含む種子の存在を同定するのに有用である。本明細書に記述したエリートイベントNS-B50027-4は遺伝子型により同定することができ、遺伝子型は、同じ栽培品種または関連する栽培品種の植物を同定することができるか、または血統を判定または検証するために使用することができる、遺伝子マーカー特性を通じて特徴付けられうる。遺伝標識形質特性は、制限酵素断片長多型(RFLP)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、任意プライムポリメラーゼ連鎖反応(AP-PCR)、DNA増幅フィンガープリンティング法(DAF)、増幅領域特徴配列(Sequence Characterized Amplified Regions)(SCAR)、増幅断片長多型(AFLP)、単純反復配列(SSR)(マイクロサテライトとも呼ばれる)、および、一塩基多型(SNP)、などの技術によって得られる。
【0142】
例えば、本明細書に記述したエリートイベントNS-B50027-4は、植物材料のサンプルから遺伝子地図の生成により同定することができる。遺伝子地図は、従来のRFLP、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析、または、外来タンパク質をコードする組み込まれたDNA分子のおよその染色体位置を同定するSSR、によって生成され得る。以下を参照;Glick & Thompson, METHODS IN PLANT MOLEC.BIOL.& BIOTECHNOL.269(CRC Press, Boca Raton, FL, 1993)。染色体位置に関するマップ情報は対象のトランスジェニック植物の専売の保護のために有用である。例えば、組み込み領域のマップは、疑わしい植物についての類似のマップと比較して、後者が対象植物と共通の起源(parentage)を有するかどうかを判定することができる。マップ比較はハイブリダイゼーション、RFLP、PCR、SSRおよび配列決定を含むことができ、これらはすべて従来の技術である。
【0143】
本実施形態の別の態様は、キャノーラ植物が、近交系NS-B50027-4、または、系統NS-B50027-4の遺伝子エリートイベントの少なくとも一部を含むキャノーラ植物、であるかまたはそれらに関連するかどうかを判定するためのキットと方法を提供する。生体サンプル中のエリートイベントNS-B50027-4の同定のための単純且つ明確な技術のための組成物及び方法が、本明細書に記載されている。
【0144】
例えば、キットは、1組のセンス(フォワード)およびアンチセンス(バックワード)プライマーなどの、NS-B50027-4の1つ以上の遺伝子マーカーの同定のための少なくとも1組のプライマーを含み得る。プライマーの特定の実施形態は、特に遺伝子移入研究および雑種開発に有用な、NS-B50027-4の遺伝的形質を検出するためのKASPアッセイを実施するためのキットに有用な、以下のプライマーを含んでいる。実施例2を参照。これらのプライマーは、SEQ ID NO:1からSEQ ID NO:90で示される配列(表14(例3)を参照)の少なくとも10の連続した核酸を含む核酸分子、またはその補体から成ることがある。
【0145】
本発明は、エリートイベントNS-B50027-4キャノーラ植物を同定する方法を提供し、該方法は:(a)キャノーラ植物DNAを含む生体サンプルと、イベントNS-B50027-4特異的核酸分子を増幅することができる第1および第2の核酸プライマーと、を含む混合物を形成する工程と;(b)第1および第2の核酸プライマーがイベントNS-B50027-4特異的核酸分子を増幅することを可能にする条件下で混合物を反応させる工程と;(c)増幅フラグメント核酸分子の存在を検出する工程であって、ここで、キャノーラエリートイベントNS-B50027-4特異的核酸分子の存在は、キャノーラ植物はNS-B50027-4キャノーラ植物であるということを示す、工程を含む。
【0146】
別の実施形態は、生体サンプルにおいてエリートイベントNS-B50027-4核酸分子を検出する方法を提供し、該方法は:(a)DNAを含有する生体サンプルと、イベントNS-B50027-4特異的核酸分子にハイブリダイズすることができる核酸プローブと、を含む混合物を形成する工程と;(b)プローブがイベントNS-B50027-4特異的核酸分子にハイブリダイズすることを可能にする条件下で混合物を反応させる工程と;(c)ハイブリダイズされた核酸分子の存在を検出する工程であって、イベントNS-B50027-4特異的核酸分子の存在は、サンプルがイベントNS-B50027-4核酸分子を含んでいるということを示す、工程を含む。
【0147】
さらに別の実施形態は、生体サンプルにおいてイベントNS-B50027-4核酸分子の存在を検出する方法を提供し、該方法は:(a)DNAを含有する生体サンプルと、イベントNS-B50027-4インサート核酸分子の領域にアニーリングすることができる第1のプライマーと、宿主細胞ゲノム中の隣接する核酸分子にアニーリングすることができる第2のプライマーと、を含む混合物を形成する工程と;(b)第1および第2の核酸プライマーが、イベントNS-B50027-4インサート核酸分子のフラグメントを含む増幅された核酸分子の産生を可能にする条件下で混合物を反応させる工程と;(c)増幅された核酸分子の存在を検出する工程であって、イベントNS-B50027-4インサート核酸分子のフラグメントの存在は、サンプルがイベントNS-B50027-4インサートDNAを含んでいるということを示す、工程を含む。
【0148】
適切な検定はいかなる重大な欠点も検出し、現行の市販のキャノーラ栽培品種を超える優位性または改善のレベルを確立せねばならない。優れたパフォーマンスを示すことに加えて、業界標準と両立する、または新しい市場を創出する、新しい栽培品種に対する需要がなければならない。新しい栽培品種の導入により、種子生産者、栽培者、加工業者と消費者に対し、特別な広告とマーケティング、変化した種子と商業的生産の慣行、および新製品の利用のために、追加の費用がかかるでしょう。新しい栽培品種の発売前の検定では、研究開発コストならびに最終品種の技術的優位性を考慮に入れるべきである。種子で増える栽培品種については、種子を簡単かつ経済的に産生することが実行可能でなければならない。
【0149】
後代
本明細書に記述された系統NS-B50027-4は、他の系統を育種するための親として使用することができる。例えば、原材料として、これを自家受粉し、交雑し、戻し交雑し、使用して、遺伝的形質転換のための原材料として使用され、遺伝的形質転換の対象となり、さらに変異誘発され、当業者に知られているように他の形態の育種に使用される、倍加半数体を生成することができる。他の系統を育種するために原材料材料を使用する方法およびその結果も、これらの実施形態の範囲内である。
【0150】
特異的なタンパク質産物をコードする遺伝子の単離および特徴づけを可能にする分子生物学的技術の出現により、植物生物学の分野の科学者は、特定の方法で植物の形質を変えるために、植物のゲノムを遺伝子操作して、外来の遺伝子、または追加もしくは改変バージョンの天然もしくは内因性遺伝要素(おそらく異なるプロモーターによって駆動される)を含ませおよび発現させることに強い関心を寄せた。形質転換または様々な育種方法を使用してゲノムに導入される任意のDNA配列は、異なる種由来であるか同じ種由来であるかにかかわらず、本明細書においてまとめて「導入遺伝子」と呼ばれる。過去15~20年にわたって、トランスジェニック植物を生成するいくつかの方法が開発されており、本発明も、特定の実施形態において、特許請求の系統の形質転換バージョンに関する。
【0151】
核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、直鎖もしくは分岐、単鎖もしくは二重鎖、またはそのハイブリッド-RNA/DNAハイブリッドを含む-の、RNAまたはDNAの分子を指す。これらの用語はまた、典型的には、遺伝子のコード領域の5 ’末端より上流の少なくとも約1000ヌクレオチドの配列、およびコード領域の3’末端より下流の少なくとも約200ヌクレオチドの配列である、3’UTRおよび5’UTRを包含する。イノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチン、およびその他などのあまり一般的でない塩基もまた、アンチセンス、dsRNA、およびリボザイムペアリングに使用することができる。例えば、ウリジンとシチジンのC-5プロピンアナログを含むポリヌクレオチドは、RNAに高い親和性で結合し、かつ遺伝子発現の有力なアンチセンスの阻害剤であると示されてきた。ホスホジエステル骨格への修飾、またはRNAのリボース糖基中の2’-ヒドロキシなどの他の修飾も行うことができる。アンチセンスポリヌクレオチドとリボザイムは完全にリボヌクレオチドからなることもでき、または、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドの混合物を含むこともできる。本発明のポリヌクレオチドは、ゲノム調製、cDNA調製、インビトロ合成、RT-PCR、および、インビトロまたはインビボでの転写を含む、任意の手段によって生成されうる。
【0152】
植物形質転換は、植物細胞において機能するであろう発現ベクターの構築を含んでいる。そのようなベクターは、調節エレメント(例えば、プロモーター)の制御下にあるか、またはそれに作動可能に連結された遺伝子を含むDNAを含む。発現ベクターは、1つ以上のそのような作動可能に連結された遺伝子/調節エレメントの組み合わせを含み得る。ベクターはプラスミドの形態であってもよく、単独でまたは他のプラスミドと組み合わせて使用して、NS-B50027-4キャノーラ植物を含むキャノーラ植物の遺伝物質に導入遺伝子を組み込むための、当技術分野において公知の形質転換方法を用い、形質転換されたキャノーラ植物を提供することができる。例えば、遺伝子をコードするグリセロール-3-ホスフェートアシルトランスフェラーゼ(GPAT)、 リゾホスファチジン(lysophatidic)酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)、または、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)を含む、導入遺伝子カセットを脂肪酸またはTAG合成を改変するためにNS-B50027-4に変換されうる。例えば、以下を参照;Shrestha et al., 7 Front.Plant Sci.1402(2016)。
【0153】
形質転換技術を用いて特定のキャノーラ植物へと遺伝子操作された遺伝形質を、品種改良分野において周知の従来の育種技術を使用して、別のキャノーラまたはブラッシカ系統に移すことができるだろう。例えば、エリートイベントNS-B50027-4を保有する植物は、例えばATCC(登録商標)に寄託された種子から得ることができる。そのような植物はさらに、同一または関連する植物種の別の栽培品種にイベントNS-B50027-4を導入する(すなわち、LC-PUFAの生合成)ために、従来の育種スキームにおいて使用され、及び/又は繁殖させることができる。寄託された種子は、ブラッシカ・ナパス種に属する。しかしながら、B.ナパスからB.ジュンセアまでのAゲノムまたはC-ゲノムに位置するアレルまたは導入遺伝子を導入する方法は、当技術分野において周知であり、繰り返される戻し交雑を含んでいる。戻し交雑のアプローチを用いて、形質転換されたキャノーラ植物からエリート近交系に導入遺伝子を移すことができ、結果として得られた後代は導入遺伝子を含む。また、近交系が形質転換のために使用される場合、トランスジェニック植物は、トランスジェニック雑種キャノーラ植物を生産するために異なる系統へ交雑することができる。本明細書で用いられるように、「交雑」は、文脈に応じて、単純なXとYの交雑、または戻し交雑のプロセスを指すことができる。
【0154】
様々な遺伝要素はさらに、形質転換を使用して植物ゲノムに導入することができる。これらの要素は、限定されないが:コード配列;誘導性で、構成的な、組織特異的プロモーター;増強配列(enhancing sequences);およびシグナル配列および標的配列、を含む。新しい分子生物学的技術の出現により、特定のタンパク質産物をコードするなど、特定の機能を有する遺伝要素の単離および特徴付けが可能になった。植物生物学の分野の科学者は、特定の方法で植物の形質を変えるために、植物のゲノムを操作して、外来の遺伝要素、または追加もしくは改変バージョンの天然もしくは内因性遺伝要素を含ませおよび発現させることに強い関心を寄せた。形質転換を使用してゲノムに挿入された任意のDNA分子は、異なる種に由来するかまたは同じ種に由来するかにかかわらず、本明細書でまとめて「導入遺伝子」と呼ばれる。「形質転換する」プロセスは、ゲノムへのDNAの挿入である。遺伝子導入植物を生成するいくつかの方法が開発されており、本発明は、特定の実施形態において、特許請求のキャノーラ株NS-B50027-4の形質転換したバージョンに関する。
【0155】
生物学的および物理的な、植物の形質転換プロトコルを含む、植物の形質転換のための多数の方法が開発されている。加えて、植物細胞または組織の形質転換および植物の再分化のための発現ベクターおよびインビトロの培養方法が利用可能である。例えば、以下を参照;Miki et al., Procedures for introducing foreign DNA into plants, in METH.PLANT MOLEC.BIOL.& BIOTECHNOL.at 63(Glick & Thompson, eds., CRC Press, Boca Raton, 1993);Gruber et al., Vectors for plant transformation, id.at R 89;Genetic transformation for the improvement of Canola, PROC.WORLD CONF.BIOTECHNOL.FATS & OILS INDUS.at 43-46(Am. Oil. Chem. Soc., Champaign, IL, 1988)。
【0156】
最も普及しているタイプの植物形質転換は、発現ベクターの構築を含む。そのようなベクターは、調節領域、例えばプロモーター、の制御下にあるコード領域または調節領域に作動可能に連結されたコード領域を含むDNA分子を含む。ベクターは1つ以上の遺伝子および1つ以上の調節要素を含みうる。コーディング領域およびそれぞれの調節要素の少なくとも1つは、ベクター内で反対方向に配置され得、バイナリーベクターを提供する。理論上、遺伝子サイレンシングを受けやすい遺伝子を二元的に配置することによって、遺伝子サイレンシングを最小限に抑えることができる。ベクターはプラスミドの形態であってもよく、単独でまたは他のプラスミドと組み合わせて使用して、NS-B50027-4植物またはNS-B50027-4由来の植物の遺伝物質に導入遺伝子を組み込むための、当技術分野において公知の形質転換方法を用い、形質転換されたキャノーラ植物を提供することができる。
【0157】
例えば、初期の形質転換カセット(pJP3416_GA7-modB)は、キャノーラ種子中にオメガ-3脂肪酸の蓄積を促進することができる7つの遺伝子と、インビトロで推定上のトランスジェニック植物の選択を容易にする、選択可能なマーカー遺伝子を含んでいた。以下を参照;WO2013185184;米国特許出願公開2015/0374654;Petrie et al., 6 Plant Meth.8(2010)。発現された遺伝子はすべて合成-コドン最適化および合成された-ものであり、それゆえトランスジェニックDNA分子はいかなる天然生物にも見られない。コドン最適化のための鋳型として使用された元のDNA配列が記載されている。以下を参照;Petrie et al., 12 Metab.Eng’g 233(2010a);Petrie et al., 11 Plant Methods 6(2010b);Petrie et al., 21 Transgenic Res.139(2012)。
【0158】
当技術分野において周知のように、機能遺伝子プロモーターは、遺伝子転写にとって重要であるがペプチドなどの機能性産物をコードしないDNAの領域である。例えば、構成的発現のための共通のプロモーターはカリフラワーモザイクウイルスに由来する。Kay et al., 236 Sci.1299(1987);Coutu et al., 16 Transgenic Res.771(2007)。発生制御下のプロモーターには、種子、葉、根、繊維、木部血管、気管、または強膜などの特定の組織において優先的に転写を開始するプロモーターが含まれる。特に関連性のあるプロモーターは、主に種子内で、または種子内でのみ転写を開始する「種子優先(“seed-preferred”)」プロモーターである。「種子優先」プロモーターは、「種子特異的」プロモーター(種子貯蔵タンパク質のプロモーターのような種子発育中に活性なプロモーター)、および「種子発芽」プロモーター(種子発芽中に活性なプロモーター)の両方を含む。Thompson et al., 10 BioEssays 108(1989)を参照。このような種子優先プロモーターは、限定されないが、Cim1(サイトカイニン誘導性メッセージ);cZ19B1(トウモロコシ19 kDa zein);milps(myo-イノシトール-1-ホスフェートシンターゼ(WO2000/11177および米国特許第6,225,529号を参照)を含む。双子葉植物については、種子特異的プロモーターは、豆のβ-ファセオリン(β-phaseolin)、ナピン(napin)、β-コングリシニン(β-conglycinin)、ダイズレクチン(soybean lectin)、クルシフェリン(cruciferin)、コリンニン(conlinin)を含むがこれらに限定されない。GA7 modBにおいて使用される種子特異的プロモーターは以前から記載されており:A. サリアナ(A. thaliana)FAE1(Rossack et al., 46 Plant Molec. Biol. 717(2001)); 。L. ウシタチシマム(L. usitatissimum)Cnl1およびCnl2(Chaudhary et al., WO 2001/016340);および、切断型B.ナパスナピンプロモーター(truncated B. napus napin promoter)(Stalberg et al., 23 Plant Molec. Biol. 671(1993))。米国特許第8,816,111号も参照。
【0159】
「誘導性」プロモーターは環境の制御下にあるプロモーターである。誘導性プロモーターに影響を及ぼしうる環境条件の例は、無気的条件または光の存在を含んでいる。組織特異的プロモーター、組織優先(例えば、種子優先)プロモーター、および誘導性プロモーターは、「非構成的」(“non-constitutive”)プロモーターの分類を構成する。以下を参照;Ward et al., 22 Plant Mol.Biol. 361(1993);Meft et al., 90 PNAS 4567(1993)(銅誘導性);Gatz et al., 243 Mol.Gen. Genet.32(1994)(除草剤毒性緩和剤により誘導される);Gatz, et al., 227 Mol.Gen. Genet.229(1991)(テトラサイクリン誘導性);Schena et al., 88 PNAS 10421 (1991)(グルココルチコステロイド誘導性)。また、WO2001/016340および該明細書に開示されたプロモーターを参照。
【0160】
「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境条件下で活性であるプロモーターである。典型的な構成的プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CMV)由来の35Sプロモーターなどの植物ウイルス由来のプロモーター(Odell et al., 313 Nature 810(1985))、およびイネアクチンなどの遺伝子由来のプロモーター(McElroy et al.,2 Plant Cell 163(1990));ユビキチン(Christensen et al., 12 Plant Mol. Biol. 619(1989); Christensen et al., 18 Plant Mol. Biol. 6759(1992));pEMU(Last et al., 81 Theor. Appl. Genet. 581(1991));MAS(Velten et al., 3 EMBO J. 2723(1984))およびトウモロコシH3ヒストン(Lepetit et al., 231 Mol. Gen. Genet. 276 1992; Atanassova et al., 2 Plant J. 291(1992))、が含まれる。ALSプロモーター、ブラッシカ・ナパスALS3構造遺伝子の5’側のXbaI/Ncolフラグメント(または前記XbaI/Ncolフラグメントとのヌクレオチド配列の類似性)は別の構成的プロモーターを提供する。また、WO1996/30530および該明細書に開示されたプロモーターを参照。CMVプロモーターも有用なエンハンサー領域に関連する。例えば、WO1996/30530、WO2013/185184、および該明細書に開示されたプロモーターを参照。
【0161】
ポリアデニル化シグナルを含む終結領域は、完全かつ安定なmRNA分子の産生に必要とされる。例えば、A.ツメファシエンスノパリンシンターゼ(A. tumefaciens nopaline synthase)(NOS)ターミネーターは有用なターミネーターを提供する。Bevan, 12 Nucl.Acid Res.8711(1984);Rogers et al., in BIOTECHNOL.PLANT SCI.at 219(Acad. Press, Inc., New York, NY, 1985);Sanders et al., 15 Nucl.Acids Res.1543(1987)。様々な発現カセットの転写を促進(drive)および終結させるために、一連の調節配列を組み合わせて使用した。
【0162】
導入遺伝子によって産生されるタンパク質を、葉緑体、液胞、ペルオキシソーム、グリオキシソーム、細胞壁、またはミトコンドリアなどの細胞内区画へ、またはアポプラストへの分泌のために、輸送することは、シグナル配列をコードするヌクレオチド配列を目的のタンパク質をコードする遺伝子の5’または3’領域に作動可能に連結することによって達成される。構造遺伝子の5’または3’末端の標的配列は、タンパク質合成およびプロセシングの間に、コードされたタンパク質が最終的に区画化される(compartmentalized)場所を決定し得る。
【0163】
シグナル配列の存在は、ポリペプチドを細胞内オルガネラもしくは細胞内区画のいずれかに、またはアポプラストへの分泌のために方向付ける。多くのシグナル配列が当技術分野で知られている。例えば、以下を参照;Becker et al., 20 Plant Mol.Biol. 49(1992);Knox et al., 9 Plant Mol.Biol. 3(1987);Lerner et al., 91 Plant Physiol. 124(1989);Fontes et al., 3 Plant Cell 483(1991);Matsuoka et al., 88 PNAS 834(1991);Creissen et al., 2 Plant J. 129(1991);Kalderon et al., 39 Cell 499(1984);Steifel et al., 2 Plant Cell 785(1990)。
【0164】
発現ベクターは、典型的には、負の選択、即ち選択マーカー遺伝子を含まない細胞の増殖の阻害により、または、正の選択、すなわち遺伝子マーカーによってコードされる産物についてのスクリーニングにより、マーカーを含む形質転換細胞を回収することができる、調節エレメント(例えば、プロモーター)に作動可能に連結された少なくとも1つの遺伝子マーカーを含む。植物形質転換のための一般的に使用される選択可能なマーカー遺伝子の多くが形質転換技術分野において周知であり、例えば、例えば、抗生物質または除草剤であり得る選択的化学物質を代謝的に解毒する酵素をコードする遺伝子、または、阻害剤に対して非感受性の改変された標的をコードする遺伝子、が挙げられる。正の選択方法も当該技術分野で周知である。
【0165】
植物形質転換のために一般的に使用される選択マーカー遺伝子の1つは、トランスポゾンTn5から単離されたネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子であり、これは植物調節シグナルの制御下に置かれるとカナマイシン耐性を付与する。Fraley et al., 80 PNAS 4803(1983)。別の一般的に使用される選択マーカー遺伝子は、抗生物質ハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子である。Vanden Elzen et al., 5 Plant Mol.Biol. 299(1985)。抗生物質耐性を与える細菌起源の追加の選択可能なマーカー遺伝子は、ゲンタマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ストレプトマイシンホスホトランスフェラーゼ、アミノグリコシド-3’-アデニルトランスフェラーゼ、ブレオマイシン耐性決定基を含んでいる。Hayford et al., 86 Plant Physiol. 1216(1988);Jones et al., 210 Mol.Gen. Genet., 86(1987);Svab et al., 14 Plant Mol.Biol. 197(1990);Hille et al., 7 Plant Mol.Biol. 171(1986).他の選択可能なマーカー遺伝子は、グリフォサート、グルホシネートまたはブロモキシニルなど除草剤に対する耐性を与える。Comai et al., 317 Nature 741(1985);Gordon-Kamm et al., 2 Plant Cell 603(1990);Stalker et al., 242 Sci.419(1988)。細菌の起源でない植物形質転換のための選択可能なマーカー遺伝子は、例えば、マウスジヒドロ葉酸レダクターゼ、植物5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸シンターゼ、および植物アセト乳酸シンターゼ、を含む。Eichholtz et al., 13 Somatic Cell Mol.Genet.67(1987);Shah et al., 233 Sci.478(1986);Charest et al., 8 Plant Cell Rep. 643(1990)。
【0166】
植物形質転換のためのマーカー遺伝子の他のクラスは、抗生物質などの毒性物質に対する耐性のために、形質転換された細胞の直接的な遺伝的選択よりもむしろ、推定される形質転換植物細胞のスクリーニングを必要とする。これらの遺伝子は、特定の組織における遺伝子の発現の分布様式を定量または視覚化するのに特に有用であり、これらは遺伝子発現の調査のために遺伝子または遺伝子調節配列に融合することができるので、しばしばレポーター遺伝子と呼ばれる。推定される形質転換細胞をスクリーニングするために一般的に使用される遺伝子は、α--グルクロニダーゼ(GUS)、α-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼおよびクロラムフェニコール、アセチルトランスフェラーゼ、を含む。Jefferson, 5 Plant Mol.Biol. 387(1987);Teeri et al., 8 EMBO J. 343(1989);Koncz et al., 84 PNAS 131(1987);DeBlock et al., 3 EMBO J. 1681(1984)。GUS活性を視覚化する幾つかのインビボの方法は、植物組織の破壊を必要としない。Molecular Probes, Publication 2908, IMAGENE GREEN, 1-4(1993);Naleway et al., 115 J. Cell Biol. 151a(1991)。GUS活性を可視化するためのインビボ方法は問題が多いが、低感度、高蛍光バックグラウンド、および選択マーカーとしてのルシフェラーゼ遺伝子の使用に関連する制限を示す。緑色蛍光タンパク質(GFP)は、原核生物および真核細胞における遺伝子発現のためのマーカーとして利用されうる。Chalfie et al., 263 Sci.802(1994).GFPおよびGFPの突然変異体はスクリーニング可能なマーカーとして使用されてもよい。
【0167】
NS-B50027-4およびNS-B50027-4後代は、疾患または害虫への耐性を与えるためにさらに形質転換することができる。例えば、植物系統を、クローン化された耐性遺伝子を用いて、特定の病原体株に耐性のある植物を遺伝子操作するために形質転換することができる。例えば、以下を参照;Jones et al., 266 Sci.789(1994)(クラドスポリウム・フルバム(Cladosporium fulvum)に対する耐性のためのトマトCf-9遺伝子のクローニング);Martin, et al., 262 Sci.1432(1993)(シュードモナス・シリンガエ pv.トマト(Pseudomonas syringae pv.tomato)プロテインキナーゼ耐性のトマトPto遺伝子、);Mindrinos et al., 78 Cell 1089(1994)(P.シリンガエ(P.syringae)に対する耐性のためのアラビドプシス(Arabidopsis)RSP2遺伝子);Geiser et al. 48 Gene 109(1986)(バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensi)δ-エンドトキシン遺伝子);Van Damme et al., 24 Plant Mol.Biol. 25(1994)(クリヴィア・ミニアタ(Clivia miniata)マンノース結合レクチン);Sumitani et al., 57 Biosci.Biotech.Biochem.1243(1993)(amylase inhibitor);Abe et al., 262 J. Biol.Chem. 16793(1987)(システインプロテイナーゼ阻害剤);Huub et al., 21 Plant Mol.Biol. 985(1993)(タバコ・プロテイナーゼ阻害剤I);Regan, 269 J. Biol.Chem. 9(1994)(昆虫ジウレチックホルモン受容体);Pratt et al., 163 Biochem.Biophys.Res.Comm.1243(1989)(allostatin);Tomalski et al.,米国特許第5,266,317号(昆虫特異的麻痺性神経毒);Scott et al.,WO1993/02197(callase遺伝子);Kramer et al., 23 Insect Biochem.Mol.Biol. 691(1993)(タバコスズメガキチナーゼ(tobacco hornworm chitinase));Kawalleck et al., 21 Plant Mol.Biol. 673(1993)(パセリubi4-2ポリユビキチン遺伝子);WO1995/16776(タキプレシン(tachyplesin)の誘導体は真菌類を阻害する);WO1995/18855(合成抗菌ペプチド);Jaynes et al., 89 Plant Sci.43(1993)(セクロピン-β、溶解ペプチドはトランスジェニックタバコ植物をシュードモナスソラナセラムに対し耐性にする);Botella et al., 24 Plant Mol.Biol., 24:757(1994)(緑豆カルモジュリン);Griess, et al., 104 Plant Physiol. 1467(1994)(トウモロコシカルモジュリン);Taylor, et al., Abstract #497, 7th Int’l Symp.Molec.植物微生物相互作用(Edinburgh,Scotland(1994))(トランスジェニック単一の鎖抗体によるタバコにおける酵素の不活性化));)Tavladorakiet al., 366 Nature 469(1993)(トランスジェニック抗体によるウイルス耐性);Lamb et al., 10 Bio technol. 1436(1992)(真菌エンド-α-1,4 -D-ポリガラクツロナーゼフラグメントは、植物細胞壁ホモ-α -1,4-D-ガラクツロナーゼを可溶化することによって放出される真菌コロニー形成および植物栄養素を促進する;Toubart et al., 2 Plant J. 367(1992))(マメのエンドポリガラクツロナーゼ-阻害タンパク質);Logemann et al., 10 Bio/technology 305(1992)(10のバイオ/技術305(1992)(オオムギリボソーム不活性化遺伝子を発現するトランスジェニック植物は真菌病に対する耐性が増加している)。
【0168】
上述のように、除草剤耐性は遺伝子の修飾により導入されうる別の有用な特性である。例えば、イミダゾリノンまたはスルホニル尿素など成長点または分裂組織を阻害する除草剤に対する耐性は、突然変異体ALSおよびAHAS酵素により付与できる。以下を参照;Lee et al., 7 EMBO J. 1241(1988);Miki et al., 80 Theor. Appl.Genet.449(1990);グリフォサート耐性は変異型5-エノールピルシキメート(enolpyruvlshikimate)-3-ホスフェートシンターゼ(EPSPS)およびaroA遺伝子によって付与される;グルホシネート耐性はホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子により付与される;および、ACCaseインヒビターコード遺伝子は、ピリジノキシ(pyridinoxy)またはフェノキシプロピオン酸およびシクロヘクソン(cyclohexones)に対する耐性を与える。例えば、米国特許第4,940,835号(EPSPSはグリフォサート耐性を付与する);変異型aroA遺伝子、ATCC(登録商標)受託番号39256、Comai、米国特許第4,769,061号を参照;以下も参照;Umaballava-Mobapathie, 8 Transgen.Res.33(1999)(グルホシネート耐性ラクツカ・サティバ(Lactuca sativa));Kumada et al., EP 0 333 033;Goodman et al.,米国特許第4,975,374号(グルタミン合成酵素は、Lホスフィノトリシンなどの除草剤に対する耐性を与える);Leemans et al., EP0242246(ホスフィノトリシン-アセチル-トランスフェラーゼ);DeGreef et al., 7 Bio/technol.61(1989)(ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼをコードするキメラバー遺伝子);Marshall et al., 83 Theor. Appl.Genet.435(1992)(Acc1-S1、Acc1-S2およびAcc1-S3遺伝子は、セトキシジムとハロキシホップなどのフェノキシプロピオン酸およびシクロヘクソン(cyclohexones)に対する耐性を与える);Przibilla et al., 3 Plant Cell 169(1991)(PsbAおよびgs+遺伝子はトリアジン耐性を与える);Stalker、米国特許第4,810,648号(ニトリラーゼ遺伝子はベンゾニトリル耐性を付与する);Hayes et al., 285 Biochem.J.173(1992)(グルタチオンS-トランスフェラーゼ);Hattori et al., 246 Mol.Gen. Genet.419(1995)(アセトヒドロキシ酸シンターゼは複数の除草剤に対する耐性を付与する);Shiota et al., 106 Plant Physiol. 17(1994)(酵母NADPH-チトクロームP450オキシドレダクターゼ);Aono et al., 36 Plant Cell Physiol. 1687(1995)(グルタチオンレダクターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ);Datta et al., 20 Plant Mol.Biol. 619(1992)(様々なリン酸転移酵素);WO2001/12825;米国特許第6,288,306号;第6,282,837号;第5,767,373号;(プロトックス(protox )活性が変化した植物はプロトックスターゲティング除草剤に耐性がある)。
【0169】
NS-B50027-4およびNS-B50027-4-由来の後代は、当技術分野において知られているように、任意の数の付加価値形質を与えるためにさらに修飾することができる。例えば、以下を参照;Goto, et al., 521 Acta Horticul.101(2000)(大豆フェリチン遺伝子);Curtis et al., 18 Plant Cell Rep. 889(1999)(硝酸レダクターゼ);Knultzon et al., 89 PNAS 2625(1992)(ステアリル-ACPデサチュラーゼ);Shiroza et al., 170 J. Bacteriol.810(1988)(ストレプトコッカス・ミュータンスのフルクトース転移酵素のヌクレオチド配列);Steinmetz et al., 20 Mol.Gen. Genet.220(1985)(バチルス・サブティリスレバン・スクラーゼ遺伝子)(Bacillus subtilis levan-sucrase gene);Pen et al., 10 Bio/technol.292(1992)(トランスジェニック植物はバチルス・リケニフォルミス(Bacillus lichenifonnis)α-アミラーゼを発現する);Elliot et al., 21 Plant Mol.Biol. 515(1993)(トマトインベルターゼ遺伝子);Sogaard et al., 268 J. Biol.Chem. 22480(1993)(大麦α-アミラーゼ遺伝子の部位特異的突然変異誘発);Fisher et al., 102 Plant Physiol. 1045(1993)トウモロコシ内乳デンプン分枝酵素II)。
【0170】
キャノーラ系統NS-B50027-4はまた、機械的方法、化学的方法、自己不和合性(SI)、細胞質雄性不稔性(CMS、オグラまたは別のシステム)または核雄性不稔性(NMS)の使用を含む、当技術分野で公知の多数の方法のいずれかによって雄性不稔であるように遺伝子操作できる。「雄性不稔であるように遺伝子操作された」という用語は、キャノーラ系統NS-B50027-4の雄性不稔バージョンを製造するための任意の利用可能な技術の使用を指す。雄性不稔は部分的または完全な雄性不稔でありうる。例えば、以下を参照。WO2001/29237(タペータム特異的プロモーターの制御下および化学的N-Ac-PPTの適用でのデアセチラーゼ遺伝子の導入);WO1992/13956、WO1992/13957(雄しべ特異的プロモーター);Paul et al., 19 Plant Mol.Biol. 611(1992)(バルナーゼおよびバルスター遺伝子の導入);米国特許第5,859,341号;第6,297,426号;第5,478,369号;第5,824,524号;第5,850,014号;第6,265,640号;Hanson et. al.、16 Plant Cell S154(2004)も参照。
【0171】
生物学的および物理的な、植物の形質転換プロトコルを含む、植物の形質転換のための多数の方法が開発されている。例えば、WO2013/185184を参照。Miki et al., in METHS.PLANT MOLEC.BIOL.BIOTECHNOL.at 67-88(Glick & Thompson, Eds., CRC Press, Inc., Boca Raton, FL, 1993)。加えて、植物細胞または組織の形質転換および植物の再分化のための発現ベクターおよびインビトロの培養方法が利用可能である。例えば、WO2013/185184を参照。Gruber et al., METHS。PLANT MOLEC.BIOL.BIOTECHNOL.at 89-119(Glick & Thompson, Eds., CRC Press, Inc., Boca Raton, FL, 1993)。植物に発現ベクターを導入するための1つの方法は、アグロバクテリウムの天然の形質転換系を使用する;以下を参照:Horsch et al., 227 Sci.1229(1985);Curtis et al., 45 J. Exper.Botany 1441(1994);Torres et al., 34 Plant Cell Tissue Organ Culture 279(1993);Dinant et al., 3 Molec.Breeding 75(1997);Kado, 10 Crit. Rev.Plant Sci.1(1991)(A.ツメファシエンス(A.tumefaciens)およびA.リゾゲネス(A.rhizogenes)のTiおよびRiプラスミドはそれぞれ、植物の遺伝的形質転換の原因である遺伝子を保有する);Gruber et al.;Miki et al.;Moloney et al., 8 Plant Cell Rep. 238(1989)(アグロバクテリウムベクターシステム、アグロバクテリウム媒介性遺伝子移入のための方法);米国特許第5,591,616号;
【0172】
直接遺伝子導入と総称される植物形質転換のいくつかの方法が、アグロバクテリウム媒介性形質転換の代替として開発されてきた。植物形質転換の一般的に適用可能な方法は、DNAが1μmから4μmの大きさの微小発射体(microprojectiles)の表面上に担持されている、微小発射体媒介性形質転換(microprojectile-mediated transformation)である。発現ベクターは、植物細胞壁および膜を貫通するのに十分である300m/s~600m/sの速度まで微小発射体を加速させるバイオリスティック装置を用いて植物組織に導入される。Russell et al., 12 Plant Cell Rep. 165(1993);Aragao et al., 20 Plant Mol.Biol. 357(1992);Aragao et al., 12 Plant Cell Rep. 483(1993);Aragao, 93 Theor. Appl.Genet.142(1996);Kim & Minamikawa, 117 Plant Sci.131(1996);Sanford et al., 5 Part.Sci.Technol. 27(1987);Sanford, 6 Trends Biotech.299(1988);Klein et al., 6 Bio/technol.559(1988);Sanford, 7 Physiol.Plant, 206(1990);Klein et al., 10 Bio/technol.268(1992).
【0173】
植物へのDNAの物理的送達方法もまた当該分野において公知である。例えば、以下を参照;Zhang et al., 9 Bio/technol.996(1991)(sonication);Deshayes et al., 4 EMBO J. 2731(1985)(liposomes);Christou et al., 84 PNAS 3962(1987)(スフェロプラストNHW11915);Hain et al., 199 Mol.Gen. Genet.161(1985)(CaC12 precipitation);Draper et al., 23 Plant Cell Physiol. 451(1982)(ポリビニルアルコールまたはポリL-オルニチン);Saker et al., 40 Biologia Plantarum, 507(1997/98)(原形質体の電気穿孔法)。追加の方法としては、限定されるものではないが、バイオリスティックデバイスによる微小発射体媒介性形質転換、DNA注入、電気穿孔などの直接的な遺伝子導入方法を用いて植物組織に導入された発現ベクターが挙げられる。形質転換に続いて、上記の選択可能な標識遺伝子の発現は、当技術において公知な再分化および選択方法を使用して、形質転換細胞、組織または植物の優先的な選択を可能にしうる。例えば、WO2013/185184を参照。
【0174】
前述の形質転換方法は、典型的にはトランスジェニック系統を産生するために使用されるであろう。次いで、トランスジェニック系統を別の(非トランスジェニック、突然変異、または形質転換の)系統と交配して、新しいトランスジェニックキャノーラ系統を作出することができる。あるいは、周知の形質転換技術を使用して、B.ナパスまたはB.ジュンセアなどの特定の雑種ブラッシカへと遺伝子操作された遺伝形質は、植物育種分野でもよく知られている伝統的な交雑、戻し交雑および自己増殖技術を使用して別の系統に導入できる。 例えば、戻し交雑アプローチを使用して、遺伝子操作された形質を公衆(public)の非エリート近交系からエリート近交系へ、またはそのゲノムに外来遺伝子を含む近交系からその遺伝子を含まない1つ以上の近交系へと移すことができる。本明細書で用いられるように、「交雑」は、文脈に応じて、単純なXとYの交雑、または戻し交雑のプロセスを指すことができる。
【0175】
「NS-B50027-4植物」という用語が本実施形態のコンテキストの中で使用される場合、これはその系統の遺伝子変換も含む。用語「遺伝子変換植物」という用語は、戻し交雑、遺伝子工学、または突然変異によって開発されたNS-B50027-4植物を指し、戻し交雑技術、遺伝子工学、または突然変異を介してNS-B50027-4派生系統に導入された1つ以上の遺伝子に加えて、様々な形態学的および生理学的特性の実質的に全てが回復する。戻し交雑法を本実施形態と共に使用して、植物品種の特性を改善または導入することができる。本明細書で使用される「戻し交雑」という用語は、雑種子孫の反復親への反復交雑、即ち1、2、3、4、5、6、7、8、9回以上の反復親への戻し交雑を指す。所望の特性のために遺伝子に寄与する親植物は、「非反復性」または「供与親」と呼ばれる。この用語は、一回親が戻し交雑プロトコルで1回使用されているため再帰しないという事実を指す。一回親からの1つ以上の遺伝子が移入される親のブラッシカまたはキャノーラ植物は、戻し交雑プロトコルにおいて数ラウンドにわたって使用されるので、反復親として知られる。Poehlman & Sleper, 1994;Fehr, 1993。典型的な戻し交雑プロトコルでは、対象のオリジナルの変種(反復親)は、移入されるべき対象の遺伝子を保有する第2の変種(一回親)と交雑される。その後、この交雑から生じる後代は反復親に再び交雑され、キャノーラまたはブラッシカ植物が得られるまで、このプロセスを繰り返し、ここで、一回親由来の導入遺伝子に加えて、反復親の様々な形態学的および生理学的特性の実質的に全てが、変換された植物において回復される。従って、NS-B50027-4由来の1つまたは2つの遺伝子座を別のキャノーラまたはブラッシカ系統へ移入することができる。
【0176】
適切な反復親の選択は、戻し交雑手順の成功のための重要な工程である。戻し交雑プロトコルの目標は、オリジナルの系統の形質または特性を変更または置き換えることである。これを達成するために、反復親の遺伝子は、一回親由来の所望の遺伝子で修飾または置き換えられているが、所望の遺伝の残りの実質的に全て、したがって元の親系統の所望の生理学的および形態学的特徴が保持される。戻し交雑の目的に応じて特定の反復親が選択されるだろう。遺伝子移入の主な目的は、いくつかの商業的に望ましい、農学的に重要な形質を植物に加えることである。正確な戻し交雑のプロトコルは、適切な検定プロトコルを判定するために変更されている形質または特性によるだろう。移入されている特性が優性アレルである場合、戻し交雑する方法は単純化されるが、劣性アレルもまた移入されうる。この例では、所望の特性がうまく移入されたかどうかを判定するために後代の試験を導入する必要がある場合がある。
【0177】
新しい系統の開発において定期的に選択されていないが戻し交雑技術によって改良することができる遺伝的形質を、同定することができる。そのような形質はトランスジェニックであってもよく、そうでなくともよい。これらの形質の例には、限定されないが、雄性不稔と、糖質代謝の修正と、除草剤耐性、細菌性、菌類またはウイルス疾患についての耐性と、虫害耐性と、栄養価の増強と、工業的用途と、収量安定性と、収量の向上と、が含まれる。これらの遺伝子は、概して核によって継承される。例えば、米国特許第5969212号、第7,164,059号。
【0178】
さらに、近交系NS-B50027-4の複製が組織培養と再分化によって生じる可能性がある。「組織培養物」という用語は、同一または異なる種類の単離された細胞、または植物の部分に組織化されたそのような細胞の集まり、を含む組成物を示す。典型的なタイプの組織培養物は、原形質体と、カルスと、分裂組織細胞と、葉、花粉、胚、根、根の先端、葯、雌しべ、花、種子、葉柄、吸盤などの植物または植物の部分においてそのまま(intact)の組織培養物を生成することができる植物細胞と、である。植物組織培養物を調製し維持するための手段は当技術分野において周知である。キャノーラの様々な組織およびそれらからの植物の再分化の組織培養物は周知である。例えば、以下を参照;Teng et al., 27 HortSci.1030(1992);Teng et al., 28 HortSci.669(1993);Zhang et al., 46 J. Genet.Breeding 287(1992);Webb et al., 38 Plant Cell Tissue Organ Cult.77(1994);Curtis et al., 45 J. Exp. Bot.1441(1994);Nagata et al., 125 J. Am.Soc’y Hort. Sci.669(2000);Ibrahim,et al., 28 Plant Cell Tissue Organ Cult.139(1992);米国特許第5,959,185号;第5,973,234号;第5,977,445号;第8,816,111号;組織培養と、キャノーラ植物の再分化のための小胞子培養と、の達成を成功させることができる。以下を参照:Chuong et al. 4 Plant Cell Rep. 4(1985);Barsby et al., 5 Plant Cell Rep. 101(1986);Kartha et al., 31 Physiol.Plant 217(1974);Narasimhulu et al., 7 Plant Cell Rep. 104(1988);Swanson, 6 Meth.Molec.Biol. 159(1990);Cell Culture Tech.& Canola Improvement, 66 J. Am.Oil Chem. Soc.455(1989)。最新技術がこれらの植物を得る方法が日常的に高い成功率で使用されるようなものであることは文献から明らかである。したがって、本実施形態の別の態様は、成長および分化の際に、同系交配トランスジェニック系統NS-B50027-4の生理学的および形態学的特徴を有するキャノーラ植物を産生する細胞を提供する。
【0179】
一般的に、導入遺伝子が従来の交雑を通じて植物に導入される場合、植物ゲノムにおけるその挿入部位およびその隣接領域は変更されない。「挿入領域」とは(非形質転換)植物ゲノム中の導入遺伝子の上流および下流隣接領域に包含され、挿入部位(および潜在的な標的部位欠失)を含む、少なくとも100の塩基対または最大で10,000を超える塩基対などの、少なくとも40の塩基対に対応する領域を指す。種の内の突然変異によるささいな差異を考慮に入れると、挿入領域は、その種の所与の植物における外来DNAの上流および下流の隣接領域と90%、95%、または100%などの少なくとも85%の配列同一性を保持し得る。しかしながら、植物ゲノムへのトランスジェニックカセットの挿入は、「標的部位欠失」と呼ばれる、植物DNAの欠失をしばしば伴う場合がある。しかしながら、追加の導入遺伝子または他の遺伝子操作を、不適当な実験作業をせずにNS-B50027-4において行うことができる;また、本明細書に記述されるようにNS-B50027-4由来の植物を同定することができる。
【0180】
NS-B50027-4の供給源材料が、例えば、細胞質雄性不稔性供給源、または、雌として近交系を断種するための他の供給源、に戻し交雑される場合、雑種種子生産用の系統を産生するために使用することができる。あるいは、系統を直接使用することができる。例えば、B.ナパス系統NS-B50027-4は、F1植物の第一世代集団を形成するように、別のキャノーラ植物と交雑される場合がある。この方法によって生成された第一世代F1植物の集団も実施形態となる。F1植物のこの第一世代集団は、キャノーラ系統NS-B50027-4のアレルの実質的に完全なセットを含む。典型的には、F1雑種は各親のアレルをすべて有すると考えられる。当業者は、キャノーラ系統NS-B50027-4を使用して生産された特定のF1植物を同定するためにブリーダーブック(breeder books)または分子法のいずれかを利用することができ、任意のそのような個々の植物もまた本発明に含まれる。これらの実施形態はまた、系統NS-B50027-4の遺伝子導入遺伝子または単一の遺伝子の転換によるこれらの方法の使用をカバーする。
【0181】
別の実施形態は、反復親への戻し交配においてキャノーラ系統NS-B50027-4を何度も使用する方法を提供する。本明細書に記載の遺伝子導入方法、戻し交雑方法、または当業者に周知の他の育種方法を用いて、キャノーラ系統NS-B50027-4の遺伝子プロファイルの、少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%を保持する個々の植物または植物の集団を開発することができる。後代中に保持されている遺伝子の割合は、家系分析によって、または分子マーカーもしくは電気泳動などの遺伝学的技術の使用を通じて測定することができる。家系分析では、出発生殖質の平均50%が別の系統への交雑の後に後代系統に継代され、別の系統へのまた別の交雑後には25%がそうなる。後代系統の系図を確認しおよび/または判定するために分子マーカーを使用しうる。
【0182】
キャノーラ系統NS-B50027-4に由来する系統を産生する特定の方法は以下のとおりである。当業者により、キャノーラ系統NS-B50027-4をエリート/同質遺伝子系統などの別のキャノーラ植物と交雑する。この交雑に由来するF1種子を均質な集団を形成するように成長させる。F1種子は、キャノーラ系統NS-B50027-4由来のアレルの50%と、別の植物のアレルの50%と、を含む。F1種子を成長させて自己増殖(self)させ、それによってF2種子を形成する。平均ではF2種子はそのアレルの50%がNS-B50027-4系統に由来し、50%が他のキャノーラ植物に由来するが、該集団の様々な個々の植物は、はるかに高い割合でイベントNS-B50027-4に由来するそれらのアレルを有する。Wang et al., 40 Crop Sci.659(2000);Bernardo et al., 102 Theor. Appl.Genet.986(2001)。このコンテキストの中で使用されるように、集団という用語は統計的に代表的なサンプルを指す。F2種子を成長させ、植物の選択を形質の目視観測または測定に基づいて行った。選択に使用される形質は、キャノーラの種子における高いDHA産生というキャノーラ系統NS-B50027-4の形質であってもよい。所望のNS-B50027-4由来の特性を示すイベントNS-B50027-4由来の後代を選択し、各植物を別々に収穫する。各植物由来のこのF3種子は個々の作条で育てられ、自己増殖させられる。その後、選択された作条または作条の植物を個々に収穫し脱穀する。この選択は、再び、植物表現型の目視観測、または望ましいNS-B50027-4由来の形質などの植物の望ましい形質についての測定に基づく。生育および選択のプロセスは、近交系NS-B50027-4由来のキャノーラ植物が得られるまで何度も繰り返される。
【0183】
NS-B50027-4由来のキャノーラ植物は、キャノーラ系統NS-B50027-4に由来する望ましい形質を含んでおり、そのうちのいくつかは、キャノーラ系統NS-B50027-4が交雑された他のキャノーラ植物によっては発現されなかった場合があり、および、そのうちのいくつかは、両方のキャノーラ系統によって発現されうるが、現在はNS-B50027-4で発現されているレベル以上のレベルである。
【0184】
NS-B50027-4由来のキャノーラ植物は平均でNS-B50027-4に由来するそれらの遺伝子の50%を有しているが、集団の様々な個々の植物は、はるかに高い割合でNS-B50027-4に由来するそれらのアレルを有する。育種、交雑、自家受粉および選択のプロセスを繰り返して、キャノーラ系統NS-B50027-4に由来する平均して25%のそれらの遺伝子を備えたNS-B50027-4由来キャノーラ植物の別の集団を生成するが、しかし、この集団の様々な個々の植物は、はるかに高い割合でNS-B50027-4由来のアレルを有する。本発明の別の実施形態は、高DHAという望ましいNS-B50027-4由来の特性を受け取った同系交配NS-B50027-4由来のキャノーラ植物である。
【0185】
前の例は多くの方法で修正することができ、例えば、あらゆる自家受粉世代で選択をしてもしなくてもよく、実際の自家受粉プロセスが起きる前後に選択してもよく、または、個々の選択を、記載された育種プロセスの間の任意の時点で個々のさや、植物、列または区画を収穫することによって行っても良い。さらに、倍加半数体の育種方法をプロセスの任意の工程で使用しうる。ありとあらゆる世代での自家受粉で生産された植物の集団もまた、本実施形態の実施形態であり、そのような集団はそれぞれ、キャノーラ系統NS-B50027-4由来のその遺伝子の約50%と、交雑、自己増殖、および選択の第2サイクルにおけるキャノーラ系統NS-B50027-4由来のその遺伝子の25%と、交雑、自己増殖、および選択の第3サイクルでは、キャノーラ系NS-B50027-4由来のその遺伝子の12.5%と、などを含む植物からなるだろう。
【0186】
別の実施形態は、別のキャノーラ植物と共にキャノーラ系統NS-B50027-4を交雑し、F1種子もしくはF1植物またはこの交雑の自己増殖によって得られたキャノーラ系統NS-B50027-4の任意の世代に倍加半数体法を適用することにより、ホモ接合NS-B50027-4由来のキャノーラ植物を得る方法である。系統育種は、自家受粉作物または異花受粉作物近交系を改良するために一般的に使用される。好ましく相補的な形質を所有する2つの親がF1を生産するために交雑させられる。F2集団は、1つまたはいくつかのF1集団を自己増殖させること、または 2つのF1集団を異系交配する(同胞交配)ことによって生産される。最良の個体の選択は、F2集団で通常着手される。その後F3に着手し、最良のファミリーにおける最良の個体を選択する。F4世代では、遺伝率の低い形質についての選択の有効性を高めるために、家族の反復試験、またはこれらの家族のうちの個体を含むハイブリッドの組み合わせ(hybrid combinations)がよく行われる。同系交配の進んだ段階(すなわちF6とF7)では、最良の系統または表現型的に同様の系統の混合物が新しい栽培品種としてリリースの可能性についてテストされる。
【0187】
まださらに、本実施形態は、キャノーラ植物と共にキャノーラ系統NS-B50027-4を交雑し、その後代種子成長させ、成長工程によりNS-B50027-4由来のキャノーラ植物と共に交雑を1~2回、1~3回、1~4回、または1~5回繰り返し、そして、第1、第2、第3、第4、または第5の交雑後に何回も自己増殖させることによって、NS-B50027-4由来のキャノーラ植物を生産する方法を対象とする。質量および反復の選択は、自家受粉作物または異花受粉作物のいずれかの集団を改良するために使用できる。ヘテロ接合個体の遺伝学的に変更可能な集団はいくつかの異なる親を異系交配することにより同定または作製される。最良の植物は、個々の優越、優秀な後代、または優れた組合せ能力に基づいて選択される。選択された植物は、選択のさらなるサイクルが継続させられる新しい集団を生産するために異系交配される。このプロセスは、NS-B50027-4を他のLC-PUFAトランスジェニック系統と組み合わせ、ホモ接合系統のコピー数を効果的に増加させて種子中のLC-PUFA産生を増加させるために使用することができる。この技術は、形質転換に適していない、またはトランスジェニック遺伝子座がNS-B50027-4のクロモソームとは異なるクロモソームに存在することが知られている活発な系統に導入遺伝子を導入するのに有利であり、例えば、A06のトランスジェニック遺伝子座をNS-B50027-4遺伝子座A02およびA05と組み合わせることができる。そのような交雑由来のホモ接合系統は、トランスジェニックインサートの6つのコピーを含んでいる。遺伝子サイレンシングが発現を管理不可能な影響にまで抑制しない場合、LC PUFA産生は実質的に増加し得る。実際、6つの遺伝子導入人工遺伝子座を含むホモ接合体のF4実験系統(フルシングル(Full Single)×NS-B50027-4)は、約25%(種子中の全脂肪酸の重量%)のDHAを産生した。
【0188】
簡単に遺伝し、高遺伝性の形質のため遺伝子を、反復親である望ましいホモ接合栽培品種または系統へと伝達するために、戻交雑育種法を使用した。伝達される形質の源は供与親と呼ばれる。結果としてもたらされる植物は、反復親(例えば栽培品種)の特質と、供与親から伝達された望ましい形質とを有することが推測される。初めの交雑後に、供与親の表現型を所有する個体を選択し、反復親に対して繰り返し交雑(戻し交雑)する。結果としてもたらされる植物は、反復親(例えば栽培品種)の特質と、供与親から伝達された望ましい形質とを有することが推測される。
【0189】
厳密な意味での単一種子降下法は、分離集団を植え付け、植物当たり1つの種子のサンプルを収穫し、そして次世代を植えるために1つの種子サンプルを使用することを指す。集団がF2から同系交配の望ましいレベルにまで進んだとき、系統の由来となる植物はそれぞれ異なるF2個体までトレースする(trace)であろう。集団の植物の数は、いくつかの種子が発芽するのに失敗する、またいくつかの植物が少なくとも1つの種子を生産するのに失敗することが原因で、各世代で減少する。その結果、集団において最初にサンプル採取されたF2植物のすべてが、世代の進行が完了したときに、後代によって表現されるとは限らない。
【0190】
さらなる実施形態は、NS-B50027-4の単一遺伝子の変換をもたらす。DNA配列が戻し交雑などの従来の(非形質転換)育種技術によって導入されるとき、遺伝子変換が生じる。DNA配列は、自然発生であって、も導入遺伝子であっても、これらの従来の育種技術を使用して導入され得る。このプロセスを通じて形質転換される所望の形質には、限定されないが、稔性の変更、脂肪酸プロファイルの変更、他の栄養素の増大、産業的増強(industrial enhancements)、耐病性、耐虫性、除草剤耐性、および生産高増大が挙げられる。目的の形質は、供与親から反復親、この場合は、本明細書に開示されるキャノーラ植物に伝達される。単一遺伝子の形質は、優性アレルまたは劣性アレルのいずれかの伝達に起因し得る。目的の形質を含有している後代を選択することは、優性アレルに関連する形質を個別選択(direct selection)することによって行われる。劣性アレルを介して伝達される形質の後代を選択するには、どの植物が劣性アレルを所持するのかを判定するために、第1の戻し交雑世代(the first backcross)を成長およびかつ自己交雑(自己増殖)させることが求められる。劣性形質は、目的の遺伝子の存在を判定するために、連続戻し交雑世代のさらなる後代検定を必要とすることもある。目的の形質を選択すると共に、後代を、反復親の表現型のために選択する。時折、さらなるポリヌクレオチド配列または遺伝子が、目的の単一遺伝子変換形質に加えて、伝達されることが理解されるだろう。本明細書に開示されるキャノーラ植物である反復親からの少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%の遺伝子を含有し、かつその遺伝子変換形質を含有している後代は、NS-B50027-4の遺伝子変換であると考えられる。形質が2つの遺伝子(例えば、いくらかの耐病性)によって制御されるとき、選択は2つの遺伝子について行われる、等々。本明細書に記述された実施形態の特定の態様は、別のトランスジェニック植物におけるLC PUFA産生を増加させるためのNS-B50027-4の4遺伝子分離体(染色体A02に挿入された4遺伝子座)の使用を提供する。
【0191】
突然変異の育種は、キャノーラ変種へ新しい形質を導入する別の方法である。自然発生的または人工的に誘発された突然変異は、植物育種者にとって有用な多様性の源となり得る。人工突然変異生成の目標は、所望の形質についての突然変異率を増加させることである。突然変異率は、温度、長期的種子保存、組織培養条件、放射(X線、γ線、ニュートロン、ベータ線または紫外線など)、化学的突然変異誘発要因(5-臭素ウラシルなどの塩基アナログなど)、抗生物質、アルキル化剤(サルファーマスタード、ナイトロジェンマスタード、エポキシド、エチレンアミン、硫酸塩、スルフォナート、スルホンまたはラクトンなど)、アジ化物、ヒドロキシルアミン、亜硝酸またはアクリジンを含む様々な手段によって増加される場合がある。所望の形質が突然変異生成によって観察されると、その後、該形質は従来の育種技術によって既存の生殖質に組み入れられうる。例えば、Fehr, PRINCIPLES CULTIVAR DEVEL.(Macmillan Pub’l Co., 1993)を参照。例えば、突然変異を使用してΔ4デサチュラーゼ導入遺伝子の発現を妨害することによりNS-B50027-4中のDPAの生産を増加させることができる可能性がある。
【0192】
本実施形態のキャノーラ系統は、細胞質遺伝子、核内遺伝子、または他の因子のルーチン操作によって、前で議論された文献において記載されるように、雄性不稔の形態で生産されることが理解されるだろう。そのような実施形態はまた、本請求項の範囲内である。このように、本実施形態は、キャノーラ系統NS-B50027-4の使用によって生産されたF1雑種の種子および植物を提供する。したがって、別の実施形態は、NS-B50027-4のDHA形質を、雄性不稔であるエリートアブラナ系統へと遺伝子移入し; NS-B50027-4のDHA形質を、多産的な第2のエリートアブラナ系統へと遺伝子移入し; その2つの系統を交雑して雑種後代を獲得し; 雑種後代の種子を栽培し; 栽培された雑種後代により生産された穀物を収穫することにより、DHA含有キャノーラ種子を生産する方法を提供する。雑種種子の後代から油を抽出するさらなる工程によって、DHA含有キャノーラ油が提供される。
【0193】
植物の遺伝子型の分析、比較、およびキャラクタリゼーションが可能な、以下のような多くの研究室ベースの技術が存在する;アイソザイム電気泳動、制限断片長多型(RFLP)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、任意プライムポリメラーゼ連鎖反応(AP-PCR)、DNA増幅フィンガープリンティング(DAF)、配列特徴化増幅領域(SCAR)、増幅断片長多型(AFLP)、単純反復配列(SSR)(マイクロサテライトとも呼ばれる)、および一塩基多型(SNP)。本明細書の実施例3では、NS-B50027-4およびそれに由来する後代を分析するためのKASPアッセイが提供される。SEQ ID NO:1~SEQ ID NO:90で提供されたものから選択されるプライマーは、他の配列ベースの技術にも適し得る。
【0194】
アイソザイム電気泳動およびRFLPは遺伝組成を判定するために広範に使用されてきた。Shoemaker & Olsen, in GENETIC MAPS: LOCUS MAPS OF COMPLEX GENOMES, at 6.131 (O’Brien, Ed. , Cold Spring Harbor Lab. Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1993) (molecular genetic linkage map consisted of 25 linkage groups with  ̄365 RFLP, 11 RAPD, 3 classical markers, and 4 isozyme loci)を参照されたい;Shoemaker, in DNA-BASED MARKERS IN PLANTS, 299 (Phillips &Vasil, Eds., Kluwer Acad. Press, Dordrecht, Netherlands, 1994)も参照されたい。
【0195】
現在では、SSR技術が、効率的かつ実践的なマーカー技術であり;より多くのマーカー遺伝子座が慣例的に使用でき、RFLPと比較して、SSRを使用して、標識座当たりより多くのアレルが発見され得る。例えばDiwan & Cregan, 95 Theor. Appl. Genet. 22 (1997)を参照されたい。SNPも、発明の特有の遺伝組成、およびその特有の遺伝組成を保持する後代品種を同定するために使用されることもある。様々な分子マーカー技術が、全体的な分析を増強するために併用して使用されてもよい。分子マーカーが、アイソザイム電気泳動、RFLP、RAPD、AP-PCR、DAF、SCAR、AFLP、SSR、およびSNPのような技術の使用によって同定されたマーカーを含み、品種改良において使用されることもある。分子マーカーを1回使用することが、量的形質遺伝子座(QTL)マッピングである。QTLマッピングは、定量的形質対する測定可能な効果を有するアレルに緊密に結合されることが知られているマーカーを使用することである。育種プロセスの選択は、好ましい効果を奏するアレルに結合されたマーカーの蓄積、または植物のゲノムからの、好ましくない効果を奏するアレルに結合されたマーカーの排除に基づく。
【0196】
分子マーカーも、育種プロセスの間に、質的形質を選択するために使用できる。例えば、アレルに緊密に結合されたマーカーまたは目的の現在のアレル内に配列を含むマーカーが、戻し交雑育種プログラムの間に、目的のアレルを含む植物を選択するために使用され得る。それらのマーカーはまた、反復親のゲノムに向けて、および供与親のマーカーに対して選択するために使用できる。この処理により、選択された植物中に残る供与親からのゲノムの量を最小化することを試みる。その処理は、戻し交雑プログラムにおいて必要であった反復親に対する交雑の数を減らすためにも使用できる。選択プロセスにおける分子マーカーの使用は、遺伝子マーカー増強選択(genetic marker enhanced selection)、またはマーカー利用選抜(marker-assisted selection)としばしば呼ばれる。分子マーカーはまた、交雑によって追跡遺伝子プロファイルの手段を提供することによって、親の品種、または植物の祖先として、生殖質の特定の源を同定し除外するために使用されることもある。
【0197】
したがって、最先端技術である、植物を得るこれらの方法は、それらが慣例的に使用され 高い成功率を有するという点で「従来のもの」であることが明らかである。キャノーラ系統NS-B50027-4の有用性はまた、他の種との交雑にまで及ぶ。一般的には、適切な種はアブラナ科である。従って、育種におけるキャノーラエリートイベントNS-B50027-4を使用する全ての方法は、本実施形態に含まれ、自己増殖、系統育種、戻し交雑、雑種生産、および集団に対する交雑が挙げられる。および、親としてキャノーラ系統エリートイベントNS-B50027-4を使用して生産された全ての植物および植物の集団は、本実施形態の範囲内にあり、キャノーラ系統NS-B50027-4に由来する品種から成長させられたものを含む。特有の分子マーカープロファイルまたは育種記録は、キャノーラ系統NS-B50027-4に由来する後代系統または後代の集団を同定するために当業者によって使用され得る。本実施形態の特定の態様は、NS-B50027-4から分離されたA02遺伝子座が従来の育種技術で導入された、遺伝子導入植物中のLC-PUFA生産における予想できない利点を提供する。
【実施例】
【0198】
実施例1
実験的圃場試験におけるNS-B50027-4系統のキャラクタリゼーションおよび選択
植物育種における困難な作業は、遺伝学的に優秀な個々の植物の同定であるが、これは、ほとんどの形質に対して、真の遺伝子型値に、他の植物形質または環境要因が混同することによって隠されることもあるからである。優秀な植物を同定するための1つの方法が、他の実験の植物および1つ以上の広く成長させられた標準的な栽培品種と比較して、その性能を観察することである。単独観察が決定的でない場合、観察を繰り返すことによって、遺伝学的な価値のより良い評価がもたらされる。
【0199】
B0050-027-18として最初に同定された植物は、植物当たり1つの種子のサンプルを収穫し、 次世代を植えるために単粒サンプルを使用することによる、単粒系統処理に基づいて選択された。一般的には、集団中の植物の数は、ある程度の種子が発芽に、またはある程度の植物が少なくとも1つの種子を生産するのに失敗するために、各世代で減少する。その結果、世代の進行が完了したときに、集団中で最初にサンプルされた全ての植物が後代によって示されるわけではない。さらに、最初の遺伝子導入イベントは、後代の遺伝子型または表現型に関して推算がしばしば不正確となるほど、遺伝の複雑性を悪化させる。したがって、実験的な植物を選択し、特定の系統がホモ接合体になるまで連続する世代のタイプに自家受粉させ、これによって、優れた農学的プロパティを備えた選択された形質が示され、そして純粋品種の後代の一様な集団が生産された。より具体的には、Nuseed Innovation Centre (NIC), Horsham (Victoria, Australia)における育種再選択プログラムに従って、実験的系統を選択した。候補の系統の選択および増進は以下に基づく:
(a)T-DNAインサートのコピー数;
(b)DHA発現の分離パターン;
(c)ホモ接合性(脂肪酸の表現型および遺伝子型に基づく);
(d)LC-ω3-DHAの生産;および(e)冬と夏の位置での後代検定に基づいた、作物生産に関する適切な農業形質。
【0200】
オーストラリアでは、キャノーラは、南部乾燥地域の作物地域にわたって、ほとんどは主に冬に雨が降る環境で栽培される。オーストラリアでの生産は、春化処理をほとんど必要としない春まき性のキャノーラ栽培品種由来である。一般的には、オーストラリアの栽培品種は、一般的には開花の始まりが少し遅れ、冬月にわたって比較的高い草勢またはバイオマス生産を有する。オーストラリアのキャノーラ作物は、第1の主要な降雨事象の後の4月から5月まで一般的には種をまかれ、10月から12月まで収穫される。収穫量は、主として、栽培期の間の可利用水分および栽培品種の水使用効果率によって影響を受ける。レプトスフェリア・マクランズ(Leptosphaeria maculans)に起因する黒あし病に対する主要な病原型遺伝子抵抗力によって、苗の生存率および茎の腐敗の観点から、栽培品種を区別できるが、オーストラリアの栽培品種は、一般的に、推奨された農耕法の下で成長させられた場合に高耐性を有すると考えられる。種子の発育は、5~7ヶ月の栽培期の後、晩春または初夏に始まる。水利用可能性とは別に、収穫量は、種子および種子の鞘の不稔をもたらすこともある広い温度限界(<0℃~>35℃)に著しく影響を受ける可能性がある。
【0201】
本明細書において留意されるように、キャノーラ生殖質の形質転換を、LC-ω3脂肪酸類、特にDHAの、種子特異的な蓄積を結果としてもたらした8つの遺伝子構成(DHA生合成経路に関する7つの酵素、および1つのマーカー) で試みた。おおまかに言えば、表現型を、製品品質(PQ)(生産されたオメガ-3脂肪酸類)によってキャラクタライズしたが、植物はマーカー遺伝子(MG)を保有した。形質転換された材料を、遺伝子座のホモ接合性、種子におけるDHAの発現、および 市販品の生産に適する農業的形質および生産力に関して再度選択した。検定系統は、形質転換された苗木(var. AV Jade)に由来した。実験的な種子を、植物が単離環境(すなわち防虫テント)で自家受粉することを可能にすることによって大きくした。
【0202】
遺伝子導入イベントからの3つのT2世代由来の同胞を、オーストラリアの8つの実験的な畑の位置(現場)にわたって、様々な重要な農学的形質および種子形質のために、8つの他の商業的なキャノーラ栽培品種(系統)と比較した(オーストラリアおよびカナダにおける後の圃場試験を、以下でさらに記載する)。8つのオーストラリアの現場は、現場平均の現場収穫量内の範囲(すなわち、AV Garnet:0.7~2.4t/ha)によって示されるような広範囲の環境的な生産力を示した。トランスジェニック同胞(Transgenic sibs)を、検定系統により以下に示した:NS-B50027-4(T3)、B0050-027-18-36-13(T4)、およびB0050-027-18-105-13(T4)。さらに、NS-B50027-4を、カナダにおける試験区で成長させ、その農学的形質とおよび種子形質を非トランスジェニックキャノーラ系統と比較した。追加のNS-B50027-4 T3およびT5世代も非トランスジェニック系統と比較し、そして2つのトランスジェニック分離固体を、NS-B50027-4から異系交雑した。ここで、各々は、異なるトランスジェニック人工遺伝子座を保有していた(すなわち、分離されたA05およびA02)(実施例2を参照されたい)。検定系統の農業形質変種は、検定された全ての環境にわたって評価された市販の栽培品種と同等であった。この結論は、最も高生産の検定系統の穀物収穫量が、現場間分析(across-site analysis)(MET-REML)に基づいて、最も高生産な市販の栽培品種と統計的に同等であったという結果によって裏付けられた。さらに、各現場に対して、最も高生産な検定系統が、著しい差が無かったある現場を例外として、少なくとも1つの栽培品種よりも著しく生産が多かった。検定系統は、わずかに低い割合の種子油、および変動する脂肪酸組成物を有する種子を生産したが;これは生産高または能楽的性能には影響を与えなかった。LCω3DHA脂肪酸は、検定された環境にわたって非常に安定して発現した。
【0203】
比較のために使用された対照の栽培品種(市販の育種系統)によって、作物地域において広範に成長させられた、農業経済学的に異なる(例えば草性、生物季節学の)範囲の、よく適した(すなわち生産力および含油量は高いが変動する)栽培品種をもたらした。これらの栽培品種を、全て自然受粉させ、例えば、Australian National Variety Testing ProgramおよびRegional annual crop reportsに記載し、大規模に評価した。「nvtonline」というウェブサイトを参照されたい。さらに、植物病害抵抗性の変種は、オーストラリアの黒あし症に関してよく説明されている。Van De Wouw et al., 67 Crop & Pasture Sci. 273 (2015)。オーストラリアでは、黒あし病は、最大90%の収穫損失を引き起こす可能性がある。Marcroft & Bluett, Agricul. Notes, AG1352, Victoria, Dept. Primary Indus. (2008)。特定の種子の脂肪酸組成物および種子油の含有量のための、市販の栽培品種のうちの遺伝変異は、経時的に実証されてきた。Seberry et al., Quality of Australian canola 2011 (Australian Oilseeds Fed., 2012)を参照されたい。栽培品種AV Jadeからの植物を、遺伝子導入T0を生産するために形質転換し、従ってAV Jadeは、本明細書に記載された遺伝子導入イベントの形質転換されていない同質遺伝子系統と考えられ得る。
【0204】
検定系統のための表現型変異を、植物出芽草勢、開花期、開花持続時間、植物丈、種子の脱粒、耐倒伏性、黒あし症の重症度、植物収穫数、穀物収穫量、穀粒水分、種子油の割合、および特に種子LC-ω3多不飽和脂肪酸(LC-PUFA)、 具体的にはEPA、DPAおよびDHAの収穫量に関係する脂肪酸含有量によって、キャラクタライズした。測定されたすべての形質に対して、限定的推定尤度分析(restricted estimated likelihood analysis)を、統計ソフトウェアGenStat中のASREMLを使用して試みた。Gilmour et al., ASREML user guide, release 3.0, Biometric Bulletin (3) (VSV Int’l, Waterhouse Stm Hemel Hempstead, UK, 2009)。線形混合モデルの統計的方法を、広範囲に記載されるような畑の空間的変化を考慮するために使用し、かつ畑での植物育種および遺伝子学的研究のために使用した。Cullis & Gleeson, 47 Biometrics 1449 (1991); Smith et al., 57 Biometrics 1138 (2001); Welham et al., Analysis of linear mixed models by ASReml-R with Applications in Plant Breeding: Course Notes (VSV Int’l, Waterhouse Stm Hemel Hempstead, UK, 2013)。Meta-REML現場間分析を、穀物の収穫量(t/ha)のためにさらに試みて、検定系統のために現場間の最良線形不偏予測(BLUP)を測定した。
【0205】
より頻繁かつ詳細に、測定値をすべての環境でとった。植物の出芽苗立ちの集計(Plant emergence establishment counts)を、種まき後14日目に各区画において、2つのランダムな1平方メートルの四分区間に対して実施した。1平方メートル当たりの出芽した植物を、形質変量として分析した。区画当たりの平均植物密度の視覚的な評価に基づく植物出芽スコアをまた、全ての現場にわたって、各区画について記録し、形質変量として分析した(1:低=0-5植物/m2;5:中=25-30植物/m2;9:高=45-50植物/m2)。1平方メートルごとの数に基づく植物の出芽、および出芽スコアは、8つの現場全ての系統間で著しく(P< 0.05) 変動した。統計的には、トランスジェニック系統の植物出芽、全ての実験にわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく(P< 0.05) 変動した。草勢を、バイオマスに基づき、1(低:区画地面の<10%の葉被覆面積)~9(高:区画地表植被の>90%の葉被覆面積)のスケールでスコア付けし、そして分析した。草勢は、7つの現場のうちの6つの系統間で著しく(P<0.05)変動した。現場植物の平均草勢スコアは、8つの現場全てで6(区画地面の60%~70%の葉被覆)であり;変動は相対的に一貫しており、この形質に対しては環境の影響が低いことを示した。統計的には、検定系統の草勢は、全ての位置にわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく変動した。
【0206】
開花期を、種まきから、試験区内の植物の50%の少なくとも1つの花が開いた時までの日数として記録した。これを、全ての試験にわたって各区画で記録し、形質変量として分析した。開花は、全ての現場にわたって系統間で著しく(P<0.05)変動した。現場平均開花期は、99日から110日まで変動し、この形質のための実験現場にわたる環境的な差異の指標である。統計的には、トランスジェニック系統の開花期は、全ての実験にわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく変動した。
【0207】
開花持続時間は、開花期~開花期の終了(日数として示される)の算出された差とした。これを、全ての試験にわたって各区画で算出し、形質変量として分析した:開花持続時間=開花終了日-開花期(50%。現場平均の開花期は、24日から30日まで変動し、これは、平均よりも短く、種子登熟により優勢な条件を反映した。統計的には、トランスジェニック系統の開花持続時間は、全ての実験にわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく変動した。
【0208】
1平方メートルごとの植物に基づく収穫時の植物は、8つの現場全ての系統間で著しく変動した。トランスジェニック系統の収穫時における植物数は、全ての植付および位置にわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく(P< 0.05)変動した。出芽時の植物の数は、収穫時に記録された植物の数に対して有意に相関した。算出された生存割合のうちのいくつかは100%を超過したが、これは、2つの栽培品種(ATR WahooおよびAV Jade)の遅い幼植物出芽を反映している:全ての苗木が、植物出芽数が記録されたときに出芽していたわけではない。
【0209】
生理的成熟時の、底から、区画の中心にある生長点までの植物の丈を測定した。区画間空間的面積に恐らく関連する交絡効果(エッジ効果)を避けるために区画の中心を使用した。これ形質を、全ての試験にわたって各区画で記録し、形質変量として分析した。成熟時の植物丈(cm)は、現場全ての系統間で著しく(P< 0.05) 変動した。現場平均の植物丈は、63cmから105cm日まで変動し、この形質のための実験現場にわたる環境的な差異を示した。トランスジェニック系統の成熟時の丈は、全ての実験にわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく(P< 0.05) 変動した。
【0210】
成熟時の種子の脱粒(時々鞘脱粒と呼ばれる)を、2週間にわたって記録された、1平方メートルの1/8当たり種子の脱粒の数を使用して分析した。これを、種子をまいた列の間、かつ全ての位置の各区画のキャノピーの下に、2つのトレーを配置することにより試み、形質変量として分析した。種子脱粒スコア(1(皆無)~9(高:+40)のスケールに基づく)を、1つの現場で、収穫直前の地面上で観察された種子の数に基づいて記録し、形質変量として分析した。収穫時の地面上の種子の数に基づく種子の脱粒は、8つの現場のうちの4つの系統間で著しく(P< 0.05)変動した。現場平均の種子の脱粒数は、(1平方メートルの1/8当たり)3から15まで変動し、全ての現場にわたって低レベルの脱粒を示した。現場のうちの1つにおける種子脱粒スコアはまた、系統間で著しく変動し、現場間平均の種子脱粒数に密接に相関した。これは、スコアとして記録された脱粒が種子脱粒の良好な予測因子であったことを示す。統計的には、トランスジェニック系統の、種子数に基づく種子脱粒およびスコアは、実験全てにわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく変動した。
【0211】
成熟時の植物の底から傾く植物の角度に基づいてスコア付けされる耐倒伏性を、1(抵抗力がある)~9(感染しやすい)として記録した。植物倒伏に関する統計的に著しい変動は存在しなかった。この形質に関する変動が無かったのは、恐らく、遅い結莢期(late pod fill stage)において平均雨量が少なかったことに関連する。
【0212】
レプトスフェリア・マクランズおよびレプトスフェリア・ビッグロボサ(Leptosphaeria biglobosa)の代表的な黒あし症葉の重症徴候を、5つの現場にわたる1つの繰り返しについて、1(低<5%)~9(高>40%)スコアとして記録した。顕著な変動が無かったので、全ての区画がスコア付けされたわけではない。腐敗および茎の折損に関連する症状は観察されなかった。黒あし病の葉の症状は、8つの現場全てにおいて、非常に低レベルでしか観察されなかった。むき出しの種子(bare seed)(殺菌剤で未処理の種子)を使用して、1つの現場に種子をまいた。この現場と、種子殺菌剤で処理された他の現場との間では、検定された系統間の植物出芽の相対的な差異はなかった。葉の症状によって、L.マクランズ(L.maculans)(収穫量の減少の主要因であり、オーストラリアの抵抗力レーティングの基礎、Sosnowski et al., 33 Australian Plant Pathol. 401 (2004)を参照されたい。)により引き起こされる茎の腐敗の程度を、常に予測できるとは限らない。いくつかの試験で、子葉、葉、茎(がん腫病)に対する病原体感染、および現場条件下の植物生存率に基づいて黒あし症の抵抗力が評価された。腐敗および茎の折損が無いと仮定して、キャノーラ系統は、本明細書に記載された目的のための、現行の病害圧力(disease pressure)に耐性があるとみなされ得る。
【0213】
植物収穫数を、8つの現場全ての各区画内の、2つの1平方メートルの四分区間における植物を数えることにより推定した。その後、四分区間の両方の平均を、1平方メートルごとの植物の数を推定するために使用し、形質変量として分析した。植物数の現場平均を、植物出芽数の現場平均の%として表すことにより、植物生存パーセント(%)を算出した:植物生存率%=(植物収穫数×100)/Plant出芽数。
【0214】
実験的な種子が生理学的に成熟した時に、穀物を、区画収穫機を使用して収穫した。収穫方向を、各試験で一貫(すなわち各列で前後の範囲)させて、収穫方向よる誤差を避けた。各区画の乾燥穀物重量を測定し、区画面積に基づく単位t/haに変換し、形質変量として分析した。
【0215】
収穫時および研究所サンプルの穀粒水分を記録し、形質変量として分析した。ハンドヘルドの水分計を使用して、実験現場の収穫点でバルクサンプルを直接分析した。Australian Oilseed Federation(AOF)メソッド4-1.5に基づき、オーブン乾燥法を使用して、水分の割合を測定した。この方法は、開いた缶内で、130℃で1時間、5グラムのサンプルをオーブン乾燥することを含んだ。そのサンプルを、40分間デシケーター中で冷却し、重さを測り、水分の割合を、質量のパーセント損失として測定した。収穫時の穀粒水分(パーセント)は、8つの現場全ての系統処理間で著しく変動した。収穫時の現場平均の穀粒水分は9%から12%まで変動し、これによって、種子が同様の穀物期で収穫されたことが示される。統計的には、トランスジェニック系統の収穫時の穀粒水分は、実験全てにわたって、栽培品種により示された範囲内で著しく変動した。収穫時の穀粒水分パーセントは、後の開花系統(すなわちATR WahooとMonola515TT)の種子が、全ての現場にわたって、収穫期において著しく高い穀粒水分%を有するように、開花期と相関した。研究室の種子水分は、全ての現場にわたって、系統間で著しく変動した。しかしながら、系統間および現場間の差異は非常に低く、平均して~7%であった。これは、種子貯蔵の交絡効果を示さない。トランスジェニック系統に関する研究室における種子水分は、非トランスジェニック系統により示された範囲内で著しく(P<0.05)変動した。
【0216】
種子含油量(%)を、6%の水分まで調節された種子上でスピンロックNMR分光測定を使用して分析した。簡潔に言えば、5グラム~10グラムの種子のサンプルをNMR管へと量り取り、核磁気共鳴分光計により分析した。種子油の結果を、重量測定による油抽出により測定されるように、既知の割合の含油量の20の標準サンプルを使用して最初に作られたソフトウェア較正によって測定した。種子含油量は、8つの実験現場全てにわたって系統間で著しく(P<0.05)変動した。現場平均の種子油パーセントは、37.0%から41.5%まで変動したが、これは、概して種をまく環境の典型的な平均以下であった。これは恐らく、種子登熟期の間に雨量が平均以下であり、気温が平均より高かった結果である。相対的な系統差は、現場にわたって十分に一貫していいた。トランスジェニック系統に関する種子含油量の変動は、全ての現場にわたって非トランスジェニック系統と比較して、わずかに小さく:平均して約2%だけであり、このことが遺伝子改良の標的を提示し得る。より低い含油量は、遺伝子導入イベントに遺伝学的に関係しないこともあるが、より低い含油量の栽培品種(すなわちAV Jade)を形質転換した結果である可能性もある。
【0217】
実験的栽培中に集められた非遺伝子導入栽培品種のものと比較したイベントNS-B50027-4の農業形質のキャラクタリゼーションの概要を、表2に示す(分析REML;全ての形質についてF pr<0.001Sig)。
【0218】
【0219】
脂肪酸を、溶剤抽出を用いて測定し、その後に、同時に鹸化およびメチル化を実施し、GC-FIDにより分析した。簡潔に言えば、これは、種子サンプルを粉砕し、 粉砕された種子の副サンプルから溶媒へと油を抽出することを含んだ。その溶媒を窒素下で蒸発させ、油の副サンプルを新しい溶媒で希釈した。アリコートをMeth Prep II(鹸化/メチル化剤)と反応させた。サンプルを、反応を促進させるために40℃で加熱し、その後脂肪酸を測定するためのBPX-70カラムを使用するGC-FID上に注入した。脂肪酸を、各脂肪酸ピークの領域が、クロマトグラムにおける脂肪酸ピークの合計のパーセンテージとして測定された油のパーセントの成分として算出した。これらの推定量を形質変量として個々に分析した。以下の特異的な脂肪酸のパーセントを推定した:パルミチン酸;ステアリン酸;オレイン酸&シス-バクセン酸;リノール酸;αリノレン酸(ALA);アラキン酸(エイコサン酸としても知られる)およびステアリドン酸(SDA);パウリン酸、ゴンドイン酸、およびガドレイン酸;エルカ酸およびエイコサテトラエン酸(ETA)イコサペンタエン酸(EPA);ドコサペンタエン酸(DPA);、ならびにドコサヘキサエン酸(DHA)。
【0220】
表3は、種子脂肪酸含有量の現地缶分析を示す(全ての値はパーセントである;分析REML;全ての形質についてFpr<0.001Sig)。
【0221】
【0222】
ステアリン酸として存在する、種子中の脂肪酸のパーセントは、GC-FIDにより分析されたように、8つの現場全てにわたって系統間で著しく変動した。現場平均の%のステアリン酸は、非常に小さな変動を示し、その範囲は1.6%から2.4%までであった。統計的には、トランスジェニック系統のパーセントのステアリン酸は、現場全てにわたって、非トランスジェニック系統により示された範囲内で著しく変動した。
【0223】
オレイン酸およびシス-バクセン酸としての種子中の脂肪酸のパーセントは、GC-FIDにより分析されたように、8つの現場全てにわたって、系統間で著しく変動した。現場平均のパーセントのオレイン酸およびシス-バクセン酸は、60%から73%まで変動した。トランスジェニック系統のパーセントのオレイン酸およびシス-バクセン酸の変動は、現場全てにわたって、非トランスジェニック系統により示された範囲よりも著しく(P<0.05)小さかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、市販の農学的生産または穀物生産に影響を与えない。高オレイン酸油特化栽培品種であるMonola515 TTは、他の栽培品種と比較した、著しく高いオレイン酸およびシス-バクセン酸を生産したが、これはFad遺伝子内の一塩基多型(SNP)が原因である。
【0224】
リノール酸として存在する、種子中の脂肪酸のパーセントは、GC FIDを使用して分析されるように、8つの現場全てにわたって系統の間で著しく変動した。現場当たりの平均パーセントリノール酸は、12%から21%までの範囲であった。1つのT2イベント(植物NS-B50027-4)に由来するトランスジェニック同胞系統のパーセントのリノール酸の変動は、現場全てにわたる栽培品種および他のイベント同胞に由来する同胞により示された範囲よりも著しく(P<0.05)小さかった。リノール酸の%が著しく異なるのは、恐らく導入遺伝子の発現に関連する。%リノール酸の減少は、恐らくトランスジェニックインサートに関連するが、工業規模の農学的生産または穀物生産には影響を与えない。
【0225】
ALA、アラキジン酸、およびSDAとして存在する脂肪酸のパーセントは、8つの現場全てにわたって、全ての系統の間で著しく変動した。パーセントのALA、アラキジン酸、およびSDAの現場平均は、5%~11%の範囲であった。トランスジェニック系統に対する、%のALA、アラキジン酸、およびSDAの変動は、全ての実験にわたって、非遺伝子導入栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。いくつかの現場でこの形質に関して見られた著しい差は、導入遺伝子の発現に関連した。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、市販の農学的生産または穀物生産に影響を与えない。高オレイン酸油特化栽培品種(Monola515 TT)は、他の栽培品種と比較されて著しく(P<0.05)低い%のALAを生産したが、これはFad遺伝子内のSNPが原因である。
【0226】
パウリン酸、ゴンドイン酸、およびガドレイン酸として存在する脂肪酸のパーセントは、8つの現場全てにわたって系統間で著しく変動した。パーセントのパウリン酸、ゴンドイン酸、およびガドレイン酸に関する現場平均は、1.0%から1.5%までの範囲であった。トランスジェニック系統に対する、パーセントのパウリン酸、ゴンドイン酸、およびガドレイン酸の変動は、全ての実験にわたって、非遺伝子導入栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、市販の農学的生産または穀物生産に影響を与えない。
【0227】
エルカ酸とETAとして存在する脂肪酸存在のパーセントを5つの現場で記録したが、は概して0%ほどであった。トランスジェニックインサートに関連する結果は、農学的生産または穀物生産に商業的には影響を与えない。
【0228】
種子LC-ω3多不飽和脂肪酸(LC-PUFA)、具体的にはEPA、DPA、およびDHAを、各区画サンプルに対するパーセントとして算出し、LC PUFA=EPA%+DPA%+DHA%である、形質変量として分析した。予測されたDHAを、kg/haの単位として、各区画に対して算出し、形質変量として分析した:DHA kg/ha=(油%×0.01)×(DHA%×0.01)×穀物収穫量(t/ha)×1000。予測されたLC-PUFAを、kg/haの単位として、各区画に対して算出し、形質変量として分析した:DHA kg/ha=(油%×0.01)×(LC-PUFA%×0.01)×穀物収穫量(t/ha)×1000。
【0229】
EPAとしての脂肪酸のパーセントは、8つの現場全てにわたって系統間で著しく(P<0.05)変動した。トランスジェニック系統に対するそのパーセントの変動は、非遺伝子導入栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、農学的生産または種子生産に影響を与えず、実際のところ種子の価値をさらに高くすることもある。
【0230】
DPAとしての脂肪酸のパーセントは、全ての現場にわたって系統間で著しく変動した。トランスジェニック系統に対するパーセントの変動は、全ての現場にわたって、非遺伝子導入栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、農学的生産または穀物生産に商業的に影響を与えないだろう。
【0231】
DHAとしての脂肪酸のパーセントは、8つの現場全てにわたって系統間で著しく(P<0.05)変動した。トランスジェニック系統のそのパーセントの変動は、全ての位置における、非遺伝子導入栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、市販の農学的生産または穀物生産に影響を与えない。遺伝子導入同胞系統間の変動を、選択の基準として使用した。
【0232】
現場にわたる、エリートイベントNS-B50027-4と非遺伝子導入栽培品種とを比較したDHAのパーセントを表4に示す(分析REML;全ての位置についてF pr<0.001Sig)。
【0233】
【0234】
kg/haとして表された予測されたDHAは、脂肪酸プロファイル、種子油のパーセント、および穀物収穫量に基づいて算出され、全ての現場にわたって系統間で著しく(P<0.05)変動した。トランスジェニック系統のその%の変動は、全ての位置における、非トランスジェニック系統により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、市販の農学的生産または穀物生産に影響を与えない。遺伝子導入同胞系統間の変動を、選択の基準として使用した。面積当たりの生産の単位(kg/ha)の点で、DHAの安定性は高かったが、これは、種子中で生産された種子油およびパーセントのDHAの現場間変動が小さかったためである。
【0235】
現場にわたる、エリートイベントNS-B50027-4と非遺伝子導入栽培品種とを比較する、DHAの予測された収穫量(kg/ha)を表5に示す(分析REML、全ての位置についてF pr<0.001Sig):
【0236】
【0237】
種子LC-PUFAオメガ3である、パーセントのEPA、DPA、およびDHA(HPLCで測定される)に関して、パーセントのLC PUFAは、8つの現場全てにわたって系統処理間で著しく(P<0.05)変動した。トランスジェニック系統に対する%の変動は、全ての実験にわたって、栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、農学的生産または商業的穀物生産には影響を与えない。遺伝子導入同胞系統間の変動を、選択の基準として使用した。非トランスジェニック系統において観察されるLC-PUFAのトレースレベルは、恐らく、花粉の流れ、種子の移動、またはGC-FIDのエラーに関連した。
【0238】
表6は、GC-FIDにより測定されるようなパーセントの値を示す(分析REML;全ての位置についてF pr<0.001Sig):
【0239】
【0240】
kg/haとして表された予測されたLC-PUFAは、脂肪酸プロファイル、種子油%、および穀物収穫量に基づいて算出され、全ての現場にわたって処理系統間で著しく (P< 0.05)変動した。トランスジェニック系統に対する%の変動は、全ての実験にわたって、栽培品種により示された変動よりも著しく(P<0.05)大きかった。この結果は、トランスジェニックインサートに関連し、農学的生産または穀物生産に商業的には影響を与えない。遺伝子導入同胞系統間の変動を、選択の基準として使用した。栽培品種の種子のトレースレベルは、恐らく、花粉の流れ、種子の移動、またはHPLC のエラーに関連する。面積当たりの生産の単位(kg/ha)の点で、LC-PUFAの安定性は高いが、これは、種子中で生産された種子油およびパーセントのDHAの現場間変動が小さいからである。
図2および
図3も参照されたい。
【0241】
表7は予測されたkg/haのLC-PUFUを示す(全ての現場についてF pr<0.001):
【0242】
【0243】
NMRを使用して測定された種子含油量はまた、栽培現場の各々に関して表にされ、表8に示される(単位はパーセント;分析REML;全ての現場に対して、F pr<0.001Sig):
【0244】
【0245】
NS-B50027-4種子の脂肪酸含有量の更なる分析を表9に示す:
【0246】
【0247】
【0248】
表9のデータによって、LC-ω3脂肪酸に加えて、NS-B50027-4の種子は、従来のキャノーラ変種よりも実質的に多くのω3 ALAも含んでいることが確認される。表3も参照されたい。ALAはLC-PUFAではないが、ω3脂肪酸である。表9におけるNS-B50027-4の種子油中のω3:ω6脂肪酸の比率は、約3.59~約6.12であり;従来のキャノーラ油のω3:ω6脂肪酸の比率は約0.5である。Patterson et al., J. Nutr. Metab. 2012:539426 (2012)を参照されたい。
【0249】
表10は、オーストラリアの実験的な栽培で成長させられたエリートイベントNS-B50027-4の16世代からの種子の、パーセントのDHAおよびLC-PUFAに関するデータを示す。オーストラリアの更なる圃場試験では、9.6%のDHAおよび10.1%のLC PUFAを有するバルク種子を生成した:
【0250】
【0251】
さらに、カナダで成長させる予定のNS-B50027-4の性能を、2016年に、2つの異なる現場において、制御された実験条件下で検定した。表11は、NS-B50027-4といくつかの非遺伝子導入キャノーラ系統を比較する農学的データおよび収穫量データを示す:
【0252】
【0253】
キャノーラ系統NS-B50027-4は、実質的に均質であるので、そのような系統の種子を植え、 十分に単離された自家受粉条件または同胞受粉条件下で結果としてもたらされるキャノーラ植物を成長させ、そして 従来の農耕法を使用して、結果としてもたらされる種子を収穫することによって再生産できる。
【0254】
実施例2
NS-B50027-4の分離個体
上に注記されるように、NS-B50027-4は、16遺伝子インサート(2つの逆位8遺伝子カセット)と 4遺伝子インサートとの両方を含み;各インサートは、植物ゲノム内の別個の遺伝子座を表わす。交雑、戻し交雑、および自己交雑を組み合わせることによって、16遺伝子インサートをクロモソームA05(「分離固体A05遺伝子座」)に分離し、4遺伝子インサートをクロモソームA02(「分離固体A02遺伝子座」)に分離した。これらの分離固体のための耕種学的データを、NS-B50027-4およびオーストラリアの4つの様々な実験的現場で成長させられた非遺伝子導入栽培品種と比較した。4つの実験現場にわたる平均値を示すデータの概要を、表12に示す(分析REML;全ての形質についてF pr<0.001Sig):
【0255】
【0256】
草勢および他の農学的特徴に加えて、表13における示されるように、穀物収穫量(t/ha)をさらにキャラクタライズした。ここで、パーセントの油をNMRによって測定し、AV Garnetを種子油%のための100%の比較対象(comparator)として設定した:
【0257】
【0258】
NS-B50027-4 T3に関する現場間平均のDHAおよびLC-PUFA含有量は、DHAが約6.2%のおよびLC-PUFAが約7.1%であり、そしてNS-B50027-4 T5に関する現場間平均のDHAおよびLC-PUFA含有量は、DHAが約7.4%のおよびLC-PUFAが約8.6%であって、T3からのT5世代までの遺伝獲得量が証明された。
【0259】
さらに分離固体A02遺伝子座に関して、NS-B50027-4に由来するこのトランスジェニック系統は、以下の4つの導入遺伝子を含む:Δ6デサチュラーゼ(M.プシュラに由来)、Δ5エロンガーゼ(P.コルダタに由来)、Δ5デサチュラーゼ(P.サリナに由来)、およびΔ15/ω3デサチュラーゼ(P.パストリスに由来)。この系統は種子油を発現したが、分離固体A02遺伝子座は、LC PUFAおよびDHAの生産に必要な酵素を欠いている(
図1を参照)。特に、それは、初期の基質であるLAを提供するΔ12デサチュラーゼ、SDAをETAに変換するΔ6エロンガーゼ、およびDPAをDHAに変換するΔ4デサチュラーゼを欠いている。予想通りに、制御性の圃場試験は、分離個体A02遺伝子座が、1%未満のLC PUFA(EPA+DPA+DHA)しか生産しなかったことを示した。それに比べて、分離固体A05遺伝子座は、DHA生合成酵素の完全な一式を含み、そしてその制御性の圃場試験は、その遺伝子座が、約4.5%のLC-PUFA中約4%のDHAを生産したことを示した。驚いたことに、同じ制御性の圃場試験において、NS-B50027-4は、約8.4%のLC PUFA中約7.4%のDHAを生産した(この試験の収穫は最適ではなかった)。そのNS-B50027-4は、分離固体A05遺伝子座よりも著しく多くのDHAを生産したが、これは、例えば、分離固体A02遺伝子座が、DPAをDHAに変換する追加のΔ4デサチュラーゼを提供しないからである。分離固体A02遺伝子座は、収穫量を改善する可能性をもたらす。
【0260】
A02とA05の遺伝子座を、NS-B50027-4からを分離できるので、NS-B50027-4由来の後代のさらなる世代のために使用できる。例えば、分離されたA02遺伝子座を、DHA生合成のための単一の7導入遺伝子インサートを含む「フルシングル(Full Single)」系統のような他のLC-PUFA生産系統において積み重ねて(stack)、その系統中のLC PUFA生産を増加させることができる。実際に、フルシングルレシピエントにおけるA02遺伝子座の遺伝子移入により積み重ねられたF4ホモ接合後代からの種子が、レシピエントフルシングル系統(recipient Full Single line)と比較して、DHAの6%の増加を示した。興味深いことに、これらのA02遺伝子座を含むホモ接合後代が、分離されたA05遺伝子座で積み重ねた、F4ホモ接合フルシングルよりも多くのDHAを生産した。NS-B50027-4がフルシングルよりも多くのDHAを生産し、かつNS-B50027-4と積み重ねられたフルシングル(両方の遺伝子座)もまた、フルシングルと比較して、DHA生産の増加を示したことに留意されたい。
【0261】
NS-B50027-4 A02遺伝子座はまた、EPAまたはDPAなどの他のLC PUFAを生産する反復ブラッシカまたは反復キャノーラへと遺伝子移入され、そのブラッシカまたはキャノーラにおけるLC PUFAの生産を増加させることができる。例えば、種子において相当な量のDPAを生産するトランスジェニックB.ジュンセアが記載された。国際公開第2015-089587号。分離されたNS-B50027-4 A02遺伝子座の、このB.ジュンセアへの遺伝子移入は、種子において生産されるDPAの量を増加させた。同様に、EPA生産に関する生合成経路(例えばΔ5エロンガーゼもΔ4デサチュラーゼも含まないトランスジェニックインサート)で形質転換されたブラッシカは、種子において相当な量のEPAを生産し;そして、EPAの生産は、NS-B50027-4のA02遺伝子座を用いる移入交雑によって増大する。
【0262】
実施例3
Kompetitive Allele Specific PCR(KASP)アッセイ
キャノーラの導入遺伝子の表現型発現を、導入遺伝子カセット自体の構造、および植物ゲノムのそのインサート位置の両方により測定する:植物ゲノムの特定の位置における導入遺伝子の存在は、導入遺伝子の発現および植物の全体の表現型に影響を及ぼすこともある。植物ゲノムの組換えDNA分子の取り込みは、一般的には、細胞もしくは組織の形質転換(または別の遺伝子操作)に起因する。取り込みの特定の現場は、(標的とされた組み込みのプロセスを使用する場合)運任せか、予め決められていてもよい。遺伝子操作による植物における商業上関心をそそる形質の農業経済学的にまたは産業上成功した導入は、様々な因子に依存する長い処理である可能性がある。遺伝学的に形質転換された植物の実際の形質転換および再分化は、単に一連の選択工程における第1の工程であり、これらの工程は、圃場試験における広範な遺伝学的なキャラクタリゼーション、育種、および評価を含み、最終的には、エリートイベントの選択につながる。
【0263】
NS-B50027-4を、広範な選択育種および圃場試験の後に発育させ、種子油において約7%-15%のDHA(重量%の全脂肪酸)を生産するキャノーラ栽培品種をもたらす。遺伝子分析によって、NS-B50027-4がクロモソームA02上にトランスジェニックインサートを、クロモソームA05上に別のトランスジェニックインサートを有していたことが示された。A05上のインサートは、向かい合って整列された(RB-LB:LB-RB)、8つの遺伝子(Micpu-Δ6D、Pyrco-Δ5E、Pavsa-Δ5D、Picpa-ω3D、Pavsa-Δ4D、Lackl-Δ12D、Pyrco-Δ6E、およびPATマーカー)の2つの完全なT-DNAボーダーカセットを含む。クロモソームA02上のインサートは、4つの遺伝子であるMicpu-Δ6D、Pyrco-Δ5E、Pavsa-Δ5D、およびPicpa-ω3Dのセットから構成される。驚いたことに、分離交雑(segregation crossing)によって、約11%のDHA生産を達成するために、クロモソームA02およびクロモソームA05の両方の上にインサートが必要であったことが示された。
【0264】
8つの様々なBCからの約1200の後代、およびDHAキャノーラ遺伝子移入育種のF2集団を、WoodlandのNuseed Molecular Labで開発されたLGC Octopure SOPに基づいてDNAを抽出するために使用した。簡潔に言えば、直径0.25インチの2つの凍結乾燥された葉ディスクを、GenoGrinderを用いて、8分間1400rpmで、300μLのDNA抽出バッファ(100mMのTris-HCl、PH8.0;25mMのEDTA、PH8.0;0.5%のSDS、1.5MのNaCl)中で細かく砕いた。55℃の水槽での45分間のインキュベーション、および4500rpmでの30分間の遠心分離の後に、50μLの上澄みを、磁気sbeadexビーズを用いて、100μLのLGC結合バッファに移動させた。結合と洗浄の後に、DNAを、LGC 80μLのDNA溶出バッファに溶出させた。
【0265】
NanoDrop 8000(Thermo Scientific)でDNA濃度を測定すると、5.0-20.0ng/μLの範囲であり、平均は10.0ng/μLであった。DNAサンプルを1×に希釈した。各反応のために、2.0μL(~5.0ng/μL)のゲノムDNAサンプル、およびプライマーを有する2μLのマスターミックスを、KASP遺伝子型判定のための384ウェルプレートに分配した。
【0266】
DHAキャノーラ遺伝子移入の集団からの後代に加えて、8つの対照を遺伝子型判定に含ませた。これらは、2つの非GMO対照(DwarfおよびAV Jade)、2つのヘミ接合性の対照(2.5ngのAv Jadeまたは2.5ngのDwarf + 2.5ngのB0050-027-18-20-12-19);2つのイベント陽性対照(B0050-027-18-20-12-19)、ならびに4つの非鋳型対照(NTC)、陽性対照(T5植物B0050-027-18-20-12-19)を、配列決定によるDHAキャノーライベントのキャラクタリゼーションのために、前もって使用した。
【0267】
KASPアッセイを、単純で、費用対効果の高く、ハイスループットで、柔軟な方法を提供し、8つの導入遺伝子および4つのNS B50027 4―特異的な接合を検出しモニタリングし、そして育種プログラムにおけるNS-B50027-4遺伝子移入をさらに容易とするために、開発した。KASP(商標)の遺伝子型判定化学、アッセイデザイン、遺伝子型判定、およびスコア化を、製造業者(LGC Ltd.,Middlesex,UK)の変更した標準プロトコルに従って実施した。
【0268】
LGC Kraken Workflow Managerへと配列情報をアップロードし、そのアッセイデザインプログラムであるPrimer Pickerを使用して、KASPアッセイを設計した。典型的なKASPアッセイは、2つの対立遺伝子特異的プライマー(遺伝子導入アレルのためのPrimer_Allele X、および非遺伝子導入野生型アレルのためのPrimer_Allele Y)と、1つの一般的な遺伝子座特異的プライマー(Primer_Common)とを含む。Primer_Allele Xは、蛍光性のFAMに関連し、Primer_Allele Yは、蛍光性のHEXに関連する。
【0269】
接合を標的とするほとんどのアッセイは、このタイプの3つのプライマーアッセイ(表14)だった。DHAキャノーラを検出するために、上記された従来の3つのプライマーのアッセイに加えて、4つのプライマーのアッセイも開発した。4つのプライマーのアッセイは、反応において、遺伝子導入アレルに特異的なPrimer_Allele X、野生型アレルに特異的なPrimer_Allele Y、オメガ3遺伝子に特異的なPrimer_Common、および野生型に特異的なPrimer_Common 2を有していた。オメガ3カセット中の8つの遺伝子を検出するために、2つのプライマーである、Primer_Allele XおよびPrimer_Commonだけを、各アッセイ(2つのプライマーのアッセイ)に使用し;両方のプライマーはオメガ3遺伝子に特異的であった(表14):
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
KASP遺伝子型判定システムは、以下の2つの成分を必要とする:アッセイミックスおよびマスターミックス。アッセイミックスは必要とされたプライマーの混合物であり、マスターミックスは、PCRバッファと、ユニバーサル蛍光性レポーティングシステムと、Taqポリメラーゼとを含む、他の必要とされた構成要素の全てを含む。
【0274】
2.0μL(10.0ng)のゲノムDNA、 2.0μLの2×KASPマスターミックス、および 0.06μLのアッセイ(プライマー)ミックスから成る、4.0μLの体積中でKASP反応を実行した。アッセイ(プライマー)ミックスは、2つのプライマーのアッセイのためには、12μMのアレルに特異的なPrimer_Allele X、および12μMのPrimer_Commonの組み合わせ、3つのプライマーのアッセイのためには、12μMのアレルに特異的なPrimer_Allele X、12μMのアレルに特異的なPrimer_Allele Y、および30μMのPrimer_Commonの組み合わせ、ならびに4つのプライマーのアッセイのためには、12μMのアレルに特異的なPrimer_Allele X、12μMのアレルに特異的なPrimer_Allele Y、12μMのPrimer_Common、および12μMのPrimer_Common2の組み合わせである。
【0275】
それらの反応を、以下のサイクリングパラメーターを用いて、LGC Hydrocycler16中384ウェルプレートにおいて実行した:15分間94℃で1サイクル、その後、30秒間94℃と、60秒間64℃-57℃(1サイクル当たり1.0℃低下)との8サイクル、そしてその後、30秒間94℃と、60秒間57℃との30サイクル。透明な遺伝子型判定クラスタが得られていない場合、そのプレートをさらに、30秒間94℃と60秒間57℃との追加の3サイクルで熱的サイクリングに晒した。
【0276】
KASP反応が完了した後に、遺伝子導入アレルをPrimer_Allele XによってFAMで標識し、非遺伝子導入野生型アレルをPrimer_Allele YによってHEXで標識した。蛍光シグナルを、PheraStar microplate reader中で、FAMのためには485nmの励起波長および520nmの発光波長を、 HEXのためには535nm/556nmを読み取った。LGC Kraken databaseを使用して、データを分析した。
【0277】
8遺伝子特異的優性(Eight Gene-specific,dominant)(NBN01-NBN08;1アッセイ/遺伝子)を、構成物カセット中の8つの遺伝子を検出するために開発した。A02上のインサートの上流(NBN57、NBN68、NBN58、NBN85およびNBN14)ならびに下流(NBN16、NBN62およびNBN64)の接合部、および、A05上のインサートの上流(NBN52、NBN51、NBN09、NBN50、NBN48およびNBN10)ならびに下流(NBN83、NBN82、NBN84、NBN66、NBN41およびNBN43)の接合部を標的とした、合計20のインサート特異的共優性KASPアッセイを、NS-B50027-4遺伝子移入集団からの1200の後代を用いて開発し、実証した(表14)。10,000を超えるサンプルの遺伝子型をこれらのマーカーを用いて同定した。
【0278】
DHAキャノーライベントNS-B50027-4の2つのインサートの、8つの遺伝子および4つの接合部を標的とする、Thirty Kompetitive Allele Specific PCR(KASP)アッセイを開発および実証した。これらのアッセイは、検出し、かつ育種プログラム中のNS-B50027-4をモニタリングするために単純で、費用対効果の高く、ハイスループットで、柔軟なアプローチを提示した。
【0279】
実施例4
NS-B50027-4と非遺伝子導入キャノーラとの詳細な比較
2014-2016年の実験用畑区画におけるキャノーラ種子生産からのデータを表した。DHAの範囲、およびEPA+DPA+DHAの合計は、いくつかの検定圃の観察に基づいた。NS-B50027-4および非遺伝子導入「対照(Control)」キャノーラの両方の主要な脂肪酸の含有量は、成長条件に応じていくつかのパーセントポイントにより変動することもある。以下の表15では、「0.0」は、成分の量を正確に測定するのに必要な量未満として識別される微量を指すこともある:
【0280】
【0281】
NS-B50027-4の実験的な栽培から収穫された種子を粉砕し、冷搾によって油を得た。親の同質遺伝子系統から収穫された種子であるAV Jadeを同様に処理し、各油の含有量を表16で示されるように比較した:
【0282】
【0283】
【0284】
特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(1977)に従って、出願人は、2016年6月9日に、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC(登録商標))(Manassas, VA., 20110-2209, U.S.A.)に、キャノーラNS-B50027-4の少なくとも2500の種子を寄託し、その種子には受託番号PTA-123186が割り当てられた。本出願の係属中に、本発明へのアクセスが、求めに応じて米国特許商標庁の長官に付与される可能性があり;公衆に対する利用可能性に際する全ての制限は、特許付与時に取り消しできないように取り消され;系統NS-B50027-4の寄託は、公共の貯蔵場であるATCC(登録商標)貯蔵場において、30年の期間、最近の種子の依頼の5年の期間、または本特許の有効期間のうちのいずれか長い期間維持され;そして種子は、寄託された種子がその期間に育成不可能になった場合、育成可能な種子と交換される。寄託の時点で種子の生産能力を検定した。共に提出した付録Aによって、寄託日、受託番号、および生産能力の確認が提供される。出願人は、37 C.F.R. §§ 1.801-1.809の要件を全て満たした。出願人は、ATCC(登録商標)からの寄託資料の利用可能性に対する制約を加えないが;しかしながら、出願人は、生体物質の運搬または商業目的のその輸送に対する法律により課されたいかなる制限も放棄する権限がない。出願人は、本出願から発行された特許の下、または植物新種保護法(7 U.S.C. § 2321 et seq.)の下で許可されたその権利の侵害を放棄しない。
【0285】
明確性と理解の目的のために、例示および例として前述の実施形態をある程度詳細に記載したが、単一遺伝子の改変および突然変異、ソマクローン変異体、本近交系の植物の大規模な集団からの選択された変異個体、ならびに同種のものなどの特定の変更および修正が、もっぱら添付の請求項により限定された本発明の範囲内で実施されることもあることは、当業者に明白である。
【配列表】