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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20220818BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20220818BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20220818BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20220818BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20220818BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20220818BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20220818BHJP
   D04H 1/413 20120101ALI20220818BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20220818BHJP
   D21H 13/10 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/449
H01M50/489
H01M50/423
H01M50/403 A
H01M50/403 C
H01G11/52
D04H1/4374
D04H1/413
D21H27/00 E
D21H13/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019530552
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2018026772
(87)【国際公開番号】W WO2019017354
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2017139501
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】野口 有由香
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康博
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-219335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0182167(US,A1)
【文献】国際公開第2016/047764(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/047542(WO,A1)
【文献】特開平10-292289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 9/02
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータであって、
前記繊維構造体は、パルプ状ではない短繊維およびパルプ状繊維が絡み合ってなる第一繊維層部分、および、第二繊維層部分を有しており、
前記第二繊維層部分は構成繊維に短繊維を有しており、加熱と共に加圧されることで前記短繊維が融解することなく前記構成繊維同士を繊維接着しており、
前記第一繊維層部分を構成する短繊維およびパルプ状繊維の一部が、前記第二繊維層部分に入り込んでおり、
前記繊維構造体の孔径分布が下記式を満たす、電気化学素子用セパレータ。
0μm<Dmax<18μm
0μm≦(Dmax-Dave)<13μm
{式中、Dmaxは繊維構造体の最大孔径(μm)であり、Daveは繊維構造体の平均孔径(μm)である}
【請求項2】
前記第一繊維層部分の構成繊維に占める前記パルプ状繊維の質量百分率が、10質量%以上である請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
前記パルプ状繊維が、アラミド樹脂のパルプ状繊維である請求項1または請求項2に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
前記繊維構造体が、粒子を備えている請求項1から3いずれか1項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学素子には、ハイレート放電に優れるなど電気出力特性に優れるよう電極間の電気抵抗が低いという特性や、短絡し難いという特性が求められている。
この要望を満たす電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとして、例えば特許文献1には、極細短繊維及び/又はパルプ状繊維を主体とする微細繊維層を繊維補強層上に抄き上げて調製された不織布からなる、リチウムイオン二次電池用セパレータが開示されている。
そして、特許文献1には、厚さが50μm以下の不織布からなる薄い電気化学素子用セパレータであることによって、電極間の電気抵抗が低い電気化学素子を提供できること、平均孔径が15μm以下の不織布からなる電気化学素子用セパレータであることによって、短絡防止性に優れる電気化学素子を提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-48533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、電極間の電気抵抗が低いと共に、短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供するため、特許文献1にかかる電気化学素子用セパレータについて検討した。
検討の結果、特許文献1にかかる電気化学素子用セパレータを構成している不織布は、最大孔径が大きいと共に孔径分布が広いものであることを見出した。そのため、特許文献1に係る従来技術の電気化学素子用セパレータを用いたとしても、より電極間の電気抵抗が低いと共に、より短絡し難い電気化学素子を提供するのには限界があると考えられた。
つまり、最大孔径が大きい不織布からなる電気化学素子用セパレータは、孔径の大きな孔を通して正極と負極が直接接触して短絡が発生し易いと考えられた。また、リチウムイオン電池などデンドライトが生じやすい電気化学素子では、電極から発生したデンドライトが孔径の大きな孔を通過して正極と負極を短絡させ易いと考えられた。
【0005】
また、不織布において孔径の大きな孔とその周辺部分は強度が弱く亀裂が発生し易いことから、最大孔径が大きい不織布からなる電気化学素子用セパレータは、亀裂の発生に起因する短絡が発生し易いと考えられた。
さらに、孔径分布が広い不織布からなる電気化学素子用セパレータは、電気化学素子用セパレータが有する各孔の孔径がそれぞれ大きく異なることで各孔のイオン透過性がそれぞれ大きく異なるため、電気化学素子用セパレータにおける部分ごとのイオン透過性が不均一になり易い。その結果、該電気化学素子用セパレータを備えた電気化学用素子は、電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなる恐れがあると考えられた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来技術にかかる電気化学素子用セパレータよりも、短絡し難いと共に電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供可能な、電気化学素子用セパレータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータであって、繊維構造体は、短繊維および/またはパルプ状繊維が絡み合ってなる第一繊維層部分、および、第二繊維層部分を有しており、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に入り込んでおり、繊維構造体の孔径分布が下記式を満たす、電気化学素子用セパレータである。
0μm<Dmax<18μm
0μm≦(Dmax-Dave)<13μm
{式中、Dmaxは繊維構造体の最大孔径(μm)であり、Daveは繊維構造体の平均孔径(μm)である}
【0007】
本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率は、10質量%以上であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、パルプ状繊維は、アラミド樹脂のパルプ状繊維であってもよい。
【0009】
またさらに、本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、繊維構造体は粒子を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体は、短繊維および/またはパルプ状繊維が絡み合ってなる第一繊維層部分を備えていることによって、小さい孔径を有する。そのため、本発明にかかる繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータは、短絡し難い電気化学素子を提供できる。
【0011】
また、本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体は、第二繊維層部分を有しており、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に入り込んだ構造を有している。そのため、第二繊維層部分によって第一繊維層部分が効果的に補強されており、本発明にかかる繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータは強度に優れ亀裂が発生し難いことで、短絡し難い電気化学素子を提供できる。
そして、本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体は、最大孔径が0μmよりも大きく18μm未満と小さい。そのため、本発明にかかる電気化学素子用セパレータは、正極と負極が直接接触することに起因する短絡、デンドライトに起因する短絡、亀裂の発生に起因する短絡が発生するのを防止できるため、より短絡し難い電気化学素子を提供できる。
【0012】
さらに、本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体は、最大孔径と平均孔径との差が0以上13μm未満であり、狭い孔径分布を有する。そのため、本発明にかかる電気化学素子用セパレータは、電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供できる。
【0013】
また、本発明にかかる第一繊維層部分がパルプ状繊維を含有している場合、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率が多いほど、繊維構造体が緻密となり、各種孔径の値を小さくできると共に、最大孔径と平均孔径の値の差を小さくでき、さらには平均孔径と最小孔径の値の差や、最大孔径と最小孔径の値の差を小さくできる傾向がある。そのため、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率が10質量%以上である、第一繊維層部分を有する繊維構造体を備えた電気化学素子用セパレータによって、さらに短絡し難いと共に電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供できる。
【0014】
さらに、本発明にかかる第一繊維層部分がアラミド樹脂のパルプ状繊維を含有していることによって、電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体が耐熱性や高い強度を有するものとなる。そのため、耐熱性に優れ短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0015】
そして、本発明にかかる繊維構造体が粒子を備えていると、本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体は最大孔径および最小孔径が小さいと共に、狭い孔径分布を有するものとなる傾向がある。そのため、さらに短絡し難いと共に電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供できる。また、本発明の電気化学素子用セパレータによって、備える粒子により発揮される機能性を有する電気化学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1で調製した電気化学素子用セパレータにおける、露出している第二繊維層部分の主面を500倍で撮影した、走査電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例1で調製した電気化学素子用セパレータにおける、露出している第二繊維層部分の主面における図1と異なる部分を500倍で撮影した、走査電子顕微鏡写真である。
図3図3は、比較例1で調製した電気化学素子用セパレータにおける、露出している第二繊維層部分の主面を500倍で撮影した、走査電子顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例1で調製した電気化学素子用セパレータにおける、露出している第二繊維層部分の主面における図3と異なる部分を500倍で撮影した、走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
【0018】
本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体とは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などシート状の布帛であることができる。繊維構造体はこれら一種類の布帛のみから構成されていても、複数および/または複数種類の布帛が積層することで構成されていてもよい。
なお、積層態様は適宜選択でき、ただ重ね合わされているだけの態様、布帛同士の層間がバインダで一体化している態様、各布帛の構成繊維同士が層間を超え絡合することで一体化している態様、布帛の構成繊維が熱溶融することで繊維間接着がなされ布帛同士の層間が一体化している態様、布帛同士の層間が超音波接着などにより一体化している態様などであることができる。
【0019】
本発明にかかる繊維構造体は、短繊維および/またはパルプ状繊維を有する第一繊維層部分を備えている。本発明でいう短繊維とは20mm以下の繊維長を有する繊維のことを指し、パルプ状繊維とは、機械的剪断力などによって1本の繊維から無数の微細繊維(フィブリル)が発生した繊維のことを指す。
短繊維の繊度が小さいほど、および/または、短繊維の繊維長が短いほど、繊維構造体が緻密となり各種孔径の値を小さくできると共に、最大孔径と平均孔径の値の差を小さくでき、さらには平均孔径と最小孔径の値の差や、最大孔径と最小孔径の値の差を小さくできる傾向がある。
そのため、短繊維の繊度は5d以下であるのが好ましく、2d以下であるのがより好ましく、1d以下であるのがさらに好ましい。一方、短繊維の繊度の下限値は適宜選択するが、0.01d以上であるのが現実的である。
また、短繊維の繊維長は15mm以下であるのが好ましく、10mm以下であるのがより好ましく、5mm以下であるのがさらに好ましい。一方、短繊維の繊維長の下限値は適宜選択するが、0.5mm以上であるのが現実的である。
【0020】
短繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を備えた繊維であることができ、一種類の樹脂のみで構成された繊維であっても、混合樹脂など複数種類の樹脂で構成された繊維であってもよい。
これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。
【0021】
また、短繊維は単繊維であっても複合繊維でも構わない。複合繊維として、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維であることができる。また、これらの繊維が分割可能な繊維である場合、繊維構造体は短繊維として、分割していない複合繊維を含有していても、複合繊維が機械的な力などによって分割されてなる繊維を含有していてもよい。
短繊維は横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維であってもよい。なお、異形断面繊維として、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0022】
繊維構造体が短繊維を有する第一繊維層部分を備えた態様(より好ましくは、第二繊維層部分も構成繊維として短繊維を有してなる態様)であることによって、構成繊維としてパルプ状繊維のみを備える態様であるよりも、第一繊維層部分の強度が向上すると共に、短繊維の存在によって電極との積層や巻回時に電極表面から突出した部位が電気化学素子用セパレータを貫通するのを防止でき、短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとなり好ましい。
【0023】
特に、短繊維が加熱等により第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維同士を繊維接着する機能を有すると、第一繊維層部分の構成繊維同士が繊維接着されることで強度が向上し、より短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
このとき、短繊維による繊維接着の態様は適宜選択できるが、短繊維が融解することなく繊維接着がなされていると、第一繊維層部分の開孔が融解した樹脂により閉塞して、電気化学素子用セパレータの電極間の電気抵抗が意図せず高くなるのを防止でき好ましい。
なお、短繊維を構成する樹脂(具体例として、ポリエチレンテレフタレート樹脂など)のガラス転移温度以上、該樹脂の融点未満の温度で短繊維を加熱する(必要であれば、加熱と共に加圧する)ことで、短繊維が融解することなく繊維接着がなされてなる第一繊維層部分を備えた電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0024】
また、第一繊維層部分の開孔が融解した樹脂により閉塞するのを防止できるという観点から、バインダを用いることなく、短繊維が融解することなく短繊維によって繊維接着されてなる第一繊維層部分であるのがより好ましい。
【0025】
第一繊維層部分がパルプ状繊維を含有していることで、パルプ状繊維の濾水度が小さいほど繊維構造体が緻密となり、各種孔径の値を小さくできると共に、最大孔径と平均孔径の値の差を小さくでき、さらには平均孔径と最小孔径の値の差や、最大孔径と最小孔径の値の差を小さくできる。
そのため、第一繊維層部分はパルプ状繊維を含有しているのが好ましく、その際、パルプ状繊維の濾水度は500mlCSF以下であるのが好ましく、400mlCSF以下であるのが好ましく、300mlCSF以下であるのが好ましい。一方、パルプ状繊維の濾水度の下限値は適宜選択するが、0.1mlCSF以上であるのが現実的である。
なお、本発明において「濾水度」は、JIS P8121 カナダ標準ろ水度試験機により測定した値をいう。
【0026】
パルプ状繊維は、短繊維と同様に上述した公知の樹脂を備えた繊維であることができるが、低水分率の観点から、アラミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、液晶ポリエステル樹脂などのパルプ状繊維であるのが好ましい。特に、繊維構造体が耐熱性や高い強度を有すると耐熱性に優れ短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、第一繊維層部分はアラミド樹脂のパルプ状繊維を含有しているのが好ましい。
【0027】
なお、第一繊維層部分は構成繊維として、短繊維および/またはパルプ状繊維を各々一種類ずつ含有するものであっても、複数種類の短繊維および/または複数種類のパルプ状繊維を含有するものであってもよい。
【0028】
本発明の第一繊維層部分は、短繊維および/またはパルプ状繊維が絡み合ってなる構造を有している。
ここでいう、短繊維および/またはパルプ状繊維が絡み合ってなる態様とは、例えば、繊維ウェブや不織布などのように短繊維および/またはパルプ状繊維が不規則に絡合している態様、あるいは、織物や編み物などのように短繊維および/またはパルプ状繊維が規則的に絡み合う態様であることを意味する。
特に、後述するように短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に深く入り込んでなる繊維構造体を容易に提供できるよう、第一繊維層部分は繊維ウェブや不織布由来の繊維層、特に、湿式抄造されてなる繊維ウェブや不織布由来の繊維層であるのがより好ましい。
【0029】
なお、第一繊維層部分を構成する各繊維の態様は適宜選択でき、ただ絡合しあっているだけの態様、上述したように短繊維により繊維接着がなされている態様、繊維同士がバインダで一体化している態様、一部の繊維あるいは全ての繊維が繊維接着されている態様などであることができる。
【0030】
第一繊維層部分がパルプ状繊維を含有している場合、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率が多いほど、繊維構造体が緻密となり、各種孔径の値を小さくできると共に、最大孔径と平均孔径の値の差を小さくでき、さらには平均孔径と最小孔径の値の差や、最大孔径と最小孔径の値の差を小さくできる傾向がある。
そのため、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率は、10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましく、50質量%以であるのがさらに好ましい。また、上限値は適宜調整するものであるが100質量%以下であることができ、95質量%以下であることができ、90質量%以下であることができる。
【0031】
第一繊維層部分は、構成繊維として短繊維および/またはパルプ状繊維のみで構成された繊維層であっても、構成繊維として短繊維および/またはパルプ状繊維に加えて別の繊維を含み構成された繊維層であってもよい。別の繊維の種類は適宜選択できるが、長繊維や連続長を有する繊維を含んでいてもよい。
また、第一繊維層部分は接着繊維を含んでいてもよい。接着繊維の具体例として、高融点樹脂と低融点樹脂の芯鞘繊維やサイドバイサイド繊維などの複合繊維、あるいは前述短繊維および/またはパルプ状繊維の融点や軟化点よりも低い温度で融解あるいは軟化する樹脂のみで構成された例えば未延伸繊維などを採用することができる。第一繊維層部分が接着繊維を含んでいる場合、接着繊維により短繊維および/またはパルプ状繊維が接着されることで、第一繊維層部分の強度が向上することにより、短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供できる。
なお、第一繊維層部分が短繊維および/またはパルプ状繊維以外の繊維を備えている場合、第一繊維層部分の構成繊維に占める短繊維および/またはパルプ状繊維以外の繊維の質量百分率は適宜選択できる。
【0032】
第一繊維層部分はバインダを含んでいてもよい。第一繊維層部分がバインダを含んでいる場合、バインダにより構成繊維が接着されることで、第一繊維層部分の強度が向上することにより、短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供できる。
なお、バインダを含む第一繊維層部分の調製方法は適宜選択するが、第一繊維層部分にバインダパウダーやバインダ溶液あるいは溶融バインダを担持や塗工あるいは含浸により付与する方法を採用できる。第一繊維層部分に含まれているバインダの質量は適宜選択するが、0.1~35g/mであるのが好ましく、0.1~25g/mであるのがより好ましく、0.1~15g/mであるのがさらに好ましい。
【0033】
第一繊維層部分の目付は適宜選択できるが、目付が軽過ぎると構成繊維が少ないことで強度に優れる繊維構造体を提供することが困難となる結果、短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータの提供が困難となる恐れがある。一方、目付が重過ぎると通気度が低下して、意図せずイオン通過抵抗が高くなり、電極間の電気抵抗が低い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータの提供が困難となる恐れがある。
そのため、第一繊維層部分の目付は、0.5~40g/mであるのが好ましく、1~30g/mであるのがより好ましく、2~20g/mであるのがさらに好ましい。
なお、本発明において「目付」はJIS P8124(紙及び板紙-坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量を意味する。
【0034】
繊維構造体において第二繊維層部分は主として、第一繊維層部分を支持し補強する役割を担う部位であり、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などシート状の布帛由来の繊維層であることができる。
【0035】
第二繊維層部分を構成する繊維の種類は適宜選択でき、上述した短繊維やパルプ状繊維以外にも、長繊維や連続長を有する連続繊維などを採用することができる。
繊維構造体が短繊維を有する第二繊維層部分を備えた態様であることによって、第二繊維層部分の強度が向上すると共に、短繊維の存在によって電極との積層や巻回時に電極表面から突出した部位が電気化学素子用セパレータを貫通するのを防止でき、短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとなり好ましい。
【0036】
特に、短繊維が加熱等により第二繊維層部分を構成する短繊維および/または他の繊維同士を繊維接着する機能を有すると、第二繊維層部分の構成繊維同士が繊維接着されてなることで強度が向上し、より短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
このとき、短繊維による繊維接着の態様は適宜選択できるが、短繊維が融解することなく繊維接着がなされていると、第二繊維層部分の開孔が融解した樹脂により閉塞して、電気化学素子用セパレータの電極間の電気抵抗が意図せず高くなるのを防止でき好ましい。
短繊維を構成する樹脂(具体例として、ポリエチレンテレフタレート樹脂など)のガラス転移温度以上、該樹脂の融点未満の温度で短繊維を加熱する(必要であれば、加熱と共に加圧する)ことで、短繊維が融解することなく繊維接着がなされてなる第二繊維層部分を備えた電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0037】
また、第二繊維層部分の開孔が融解した樹脂により閉塞するのを防止できるという観点から、バインダを用いることなく、短繊維が融解することなく短繊維によって繊維接着されてなる第二繊維層部分であるのがより好ましい。
【0038】
特に、後述するように短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に深く入り込んでなる繊維構造体を容易に提供できるよう、第二繊維層部分は繊維ウェブや不織布由来の繊維層、特に、湿式抄造されてなる繊維ウェブや不織布由来の繊維層であるのがより好ましい。
【0039】
なお、第二繊維層部分を構成する各繊維の態様は適宜選択でき、ただ絡合しあっているだけの態様、上述したように短繊維により繊維接着がなされている態様、繊維同士がバインダで一体化している態様、一部の繊維あるいは全ての繊維が繊維接着されている態様などであることができる。
【0040】
第二繊維層部分を構成する繊維の繊度が小さいほど、および/または、該繊維の繊維長が短いほど、繊維構造体が緻密となり、各種孔径の値を小さくできると共に、最大孔径と平均孔径の値の差を小さくでき、さらには平均孔径と最小孔径の値の差や、最大孔径と最小孔径の値の差を小さくできる傾向がある。
そのため、該繊維の繊度は5d以下であるのが好ましく、2d以下であるのが好ましく、1d以下であるのが好ましい。一方、該繊維の繊度の下限値は適宜選択するが、0.01d以上であるのが現実的である。
また、該繊維の繊維長は20mm以下であるのが好ましく、15mm以下であるのがより好ましく、10mm以下であるのがさらに好ましい。一方、該繊維の繊維長の下限値は適宜選択するが、0.5mm以上であるのが現実的である。
【0041】
第二繊維層部分は接着繊維を含んでいてもよい。接着繊維の具体例として、高融点樹脂と低融点樹脂の芯鞘繊維やサイドバイサイド繊維などの複合繊維、あるいは第二繊維層部分の構成繊維の融点や軟化点よりも低い温度で融解あるいは軟化する樹脂のみで構成された、例えば未延伸繊維などを採用することができる。第二繊維層部分が接着繊維を含んでいる場合、接着繊維により構成繊維が接着されることで、第二繊維層部分の強度が向上することにより、短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供できる。
なお、第二繊維層部分が接着繊維を備えている場合、第二繊維層部分の構成繊維に占める接着繊維の質量百分率は適宜選択できる。
【0042】
また、第二繊維層部分はバインダを含んでいてもよい。第二繊維層部分がバインダを含んでいる場合、バインダにより構成繊維が接着されることで、第二繊維層部分の強度が向上することにより、短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供できる。
なお、バインダを含む第二繊維層部分の調製方法は適宜選択するが、第二繊維層部分にバインダパウダーやバインダ溶液あるいは溶融バインダを担持や塗工あるいは含浸により付与する方法を採用できる。第二繊維層部分に含まれているバインダの質量は適宜選択するが、1~50g/mであるのが好ましく、2~40g/mであるのがより好ましく、3~30g/mであるのがさらに好ましい。
第二繊維層部分の目付は適宜選択でき、1~50g/mであるのが好ましく、2~40g/mであるのがより好ましく、3~30g/mであるのがさらに好ましい。
【0043】
本発明の繊維構造体では、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に入り込んでいる。本構造によって、第一繊維層部分が第二繊維層部分と強固に一体化することで、第一繊維層部分が第二繊維層部分によって効果的に補強されていることから、より短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータである。
なお、第一繊維層部分および第二繊維層部分を備える繊維構造体における厚さ方向の断面を観察した際に、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、該繊維構造体における第二繊維層部分に存在する場合(例えば、第一繊維層部分から該繊維構造体における第二繊維層部分側の主面にわたり存在している場合など)、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に入り込んでいると判断できる。
特に、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分における第一繊維層部分側と反対側の主面上に露出するまで、第二繊維層部分に深く入り込んでいると、第一繊維層部分が第二繊維層部分とより強固に一体化でき、より短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
また、このような構造を有する繊維構造体は、第一繊維層部分と第二繊維層との保液量が均一となり保液性能に優れている。そのため、本発明の構成を有する繊維構造体を備えた電気化学素子用セパレータは、電解液の保液性能に優れるため、電解液が不足することなく円滑に起電反応を行うことができ、電池寿命が長い電気化学素子を提供できる傾向がある。
【0044】
なお、後述する(ピンホール有無の判断方法)の項目において、第二繊維層部分由来の主面を撮影した走査電子顕微鏡写真における、第二繊維層部分が露出している主面上に、短繊維および/またはパルプ状繊維が露出しているのが確認された場合、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分における第一繊維層部分側と反対側の主面上に露出するまで、第二繊維層部分に深く入り込んでいるものと判断する。
【0045】
繊維構造体は、上述した第一繊維層部分と第二繊維層部分のみを備えた構造であっても、他にも別途補強層などの部材を備えていてもよい。また、粒子などの機能性材料や、層間や繊維同士を接着する、あるいは、繊維構造体に機能性材料を接着する役割を担うことができるバインダなどの接着成分を備えていてもよい。
繊維構造体が備えることのできる粒子の種類(例えば、無機粒子など)、担持方法や担持質量は、適宜選択できる。例えば、無機粒子の種類は、適宜選択することができるため限定されるものではないが、例えば、酸化鉄、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、アルミナ-シリカ複合酸化物、TiO、SnO、BaTiO、ZrO、スズ-インジウム酸化物(ITO)、チタン酸リチウム(LTO)などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物、および金属酸化物など無機成分の酸化物などを例示することができる。
【0046】
特に、国際公開第2009/066916号(特表2011-503828号)にも開示されているように、不織布などの繊維集合体の少なくとも一面に電気化学的に酸化及び還元反応をする電極活物質粒子(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、炭素質材料、チタン酸リチウム(LTO)、シリコン(Si)及び錫(Sn)、またはこれらのうちの混合物からなる群より選択された、アノード活物質粒子など)をコートしてなる電気化学素子用セパレータであるのが好ましい。このような電気化学素子用セパレータであることによって、熱安定性の向上を図れると共に電池の容量減少の改善を図ることができる。そのため、このような電気化学素子用セパレータを実現できるよう、少なくとも一面に上述した電極活物質粒子を付与してなる繊維構造体であるのが好ましい。
【0047】
なお、少なくとも一面に上述した電極活物質粒子を付与してなる不織布などの繊維集合体を備える電気化学素子用セパレータが発揮する効果については、他にも、国際公開第2009/048263号(特表2011-501349号)、国際公開第2013/021299号(特表2014-527266号)などに開示されている。
【0048】
繊維構造体が備える一次粒子の平均粒子径(D50)は、粒子の種類、電気化学素子用セパレータの種類、電気化学素子用セパレータに求める性能や特性によって適宜調整するが、10μm以下であることができ、8μm以下であることができ、5μm以下であることができ、下限値は適宜調整するが50nm以上であるのが現実的である。また、繊維構造体が備える電極活物質粒子の一次粒子の平均粒子径(D50)もまた、粒子の種類、電気化学素子用セパレータの種類、電気化学素子用セパレータに求める性能や特性によって適宜調整するが、国際公開第2013/021299号(特表2014-527266号)などに開示されているように50nm~2μmの範囲内であることができる。
【0049】
本発明における「一次粒子の平均粒子径(D50)」とは、大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)により、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求めた値をいう。より具体的には、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示した粒子径測定データにおける、粒子の累積値50%点の粒子径を一次粒子の平均粒子径(以降、D50と略して称することがある)とする。なお、測定に使用する測定液は温度25℃に調整し、25℃の純水を散乱強度のブランクとして用いる。なお、測定対象となる粒子の製造メーカーや商社などにより粒子径がウェブページやカタログなどに記載されている場合には、該粒子径を一次粒子の平均粒子径(D50)とみなすことができる。
【0050】
粒子の担持方法は適宜選択でき、バインダなど接着成分を使用することなく、繊維表面上に粒子がただ存在している態様、バインダによって繊維表面に粒子が接着一体化している態様などとすることができる。
なお、繊維構造体における粒子の存在態様も適宜選択でき、粒子が主に第一繊維層部分あるいは第二繊維層部分の何れか一方に存在している態様、繊維構造体全体に略均一に粒子が存在している態様、繊維構造体における一方の主面からもう一方の主面に向い存在量が減少するようにして粒子が存在する態様など例示することができる。
繊維構造体に含まれている粒子の担持質量は特に限定されるべきものではないが、0.1g/m以上であることができ、0.5g/m以上であることができ、1g/m以上であることができる。一方、担持質量の上限値は適宜調整する。
上述のような粒子を担持した繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータは、さらに、最大孔径および最小孔径が小さいと共に、狭い孔径分布を有するものとなる傾向がある。そのため、本構成の電気化学素子用セパレータによって、備える粒子により発揮される機能性を有すると共に、さらに短絡し難いと共に電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供でき好ましい。
【0051】
繊維構造体の厚さは適宜選択するが、厚さが薄いことで内部抵抗が低い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとなるよう、厚さは150μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのが好ましい。一方、厚さが薄過ぎると強度が低下して、電気化学素子用セパレータに亀裂が生じ易くなることから、厚さは5μm以上であるのが現実的である。
なお、本発明における「厚さ」は、JIS B 7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0~25mm)を用いた5N荷重時の測定を、無作為に選んだ10点について行い、その算術平均値をいう。
【0052】
繊維構造体の目付は適宜選択するが、1~50g/mであることができ、2~40g/mであることができ、3~30g/mであることができる。
【0053】
繊維構造体の空隙率は適宜選択するが、イオン通過抵抗が低いことで内部抵抗が低い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとなるよう、空隙率は20%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがより好ましく、40以上%であるのがさらに好ましい。一方、空隙率が高過ぎると強度が低下して、電気化学素子用セパレータに亀裂が生じ易くなることから、空隙率は80%以下であるのが現実的である。
なお、本発明において「空隙率」は次の式により得られる値をいう。
空隙率(P)={1-W/(T×d)}×100
ここで、Wは測定対象物の目付(g/m)を意味し、Tは測定対象物の厚さ(μm)を意味し、dは測定対象物を構成する材料の質量平均密度(g/cm)をそれぞれ意味する。例えば、密度d1の樹脂Aがa質量部と、密度d2の樹脂Bがb質量部存在している場合、質量平均密度(d)は次の式により算出する。
質量平均密度(d)=1/{(a/100/d1)+(b/100/d2)}
【0054】
繊維構造体の通気度は適宜選択するが、通気度が低過ぎると電界液中のイオンが通過し難いことで、電極間の電気抵抗が低い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供することが困難となることから、通気度は0.05cm/cm/sec以上であるのが好ましく、0.07cm/cm/sec以上であるのがより好ましく、0.1cm/cm/sec以上であるのが最も好ましい。イオン通過性能の観点から通気度の上限値は限定されるものではないが、電気化学素子用セパレータの強度が低下し過ぎることがないよう、通気度は50cm/cm/sec以下であるのが現実的である。
なお、本発明において通気度とは、フラジール型通気度試験機による圧力125Paをかけた時の通気度(つまり、JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に規定される空気量)に基づき算出された値である。
【0055】
ピンホールを有する繊維構造体を備えてなる電気化学素子用セパレータでは、ピンホールを流体が通過し易いことによって、高い通気度を示す傾向がある。このような繊維構造体を備えてなる電気化学素子用セパレータは、一見、イオン通過抵抗が低いことで内部抵抗が低い電気化学素子を提供可能のように思われるが、該電気化学素子用セパレータを備えた電気化学素子はピンホールの存在によって短絡が発生し易く、電気化学素子用セパレータの各部分ごとのイオン透過性が不均一になり易い。そのため、上述で規定する好ましいと考えられる通気度の値は、ピンホールのない繊維構造体を用いて調製された電気化学素子用セパレータにおける値である。
【0056】
本発明にかかる繊維構造体は、以下の式を満たす孔径分布を有する。
0μm<Dmax<18μm
0μm≦(Dmax-Dave)<13μm
{式中、Dmaxは繊維構造体の最大孔径(μm)であり、Daveは繊維構造体の平均孔径(μm)である}
なお、本発明において繊維構造体の平均孔径は、バブルポイント法により測定される平均流量孔径をいい、繊維構造体の最大孔径は前述と同法で測定される最大流量孔径を、繊維構造体の最小孔径は前述と同法で測定される最小流量孔径をいう。なお、平均流量孔径、最大流量孔径、最小流量孔径は、ポロメータ(Polometer、コールター(Coulter)社製)を用いることで測定できる。
【0057】
最大孔径が18μm未満である繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータによって、短絡し難い電気化学素子を提供できる。最大孔径が小さいほど、より短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供できることから、その値は17μm以下であるのが好ましく、15μm以下であるのがより好ましく、11μm以下であるのがさらに好ましい。一方、最大孔径の値は0よりも大きいものであるが、最大孔径は0.5μm以上であるのが現実的である。
【0058】
繊維構造体の平均孔径は適宜選択するが、平均孔径が小さいほど短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供できることから、その値は15μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましく、5μm以下であるのがさらに好ましく、4μm以下であるのが最も好ましい。一方、平均孔径の値は0よりも大きいものであるが、平均孔径は0.5μm以上であるのが現実的である。なお、平均孔径の値は最大孔径の値以下である。
繊維構造体の最大孔径と平均孔径の値の差が、0以上13μm未満である繊維構造体は均一的な孔径を有することから、本繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータ内のイオン透過性が均一的であることで、電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した、電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータである。
繊維構造体の最大孔径と平均孔径の値の差が小さいほど、繊維構造体はより均一的な孔径を有するものとなることから、その値は10μm以下であるのが好ましく、8μm以下であるのがより好ましく、7μm以下であるのがさらに好ましく、4μm以下であるのが最も好ましい。
【0059】
繊維構造体の最小孔径は適宜選択するが、0.1~9μmであることができ、0.2~7μmであることができ、0.5~5μmであることができる。なお、最小孔径の値は、平均孔径の値や最大孔径の値以下である。
繊維構造体の最小孔径と平均孔径との値の差が、0以上13μm未満である繊維構造体はより均一的な孔径を有することから、本繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータ内のイオン透過性が均一的であることで、電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した、電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータである。
そのため、繊維構造体の最小孔径と平均孔径との値の差は、8μm以下であるのが好ましく、6μm以下であるのがより好ましく、4μm以下であるのがさらに好ましく、3μm以下であるのが最も好ましい。
【0060】
さらに、狭い孔径分布を有するという観点から、繊維構造体の最小孔径と最大孔径の値の差は、15μm未満であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましく、8μm以下であるのがさらに好ましく、6μm以下であるのがよりさらに好ましく、4μm以下であるのが最も好ましい。
【0061】
本発明の構成を備える繊維構造体は、最小孔径と平均孔径ならびに最大孔径の値の各差が小さいため、構成繊維間の距離が小さく均一で緻密な構造を有しており、一方の主面からもう一方の主面にわたり形成されている直線的な貫通孔である、ピンホールが存在し難い構造である。
そのため、厚さが例えば20μm以下の薄い電気化学素子用セパレータを提供するため、厚さが20μm以下の薄い繊維構造体を備えている場合であっても、ピンホールの無い電気化学素子用セパレータを提供して、より短絡し難い電気化学素子を提供できる。
一方、例えば特許文献1に開示されているような従来技術に係る電気化学素子用セパレータでは、最大孔径と平均孔径の値の差が大きく、さらには平均孔径と最小孔径の値の差や、最大孔径と最小孔径の値の差が大きくなる傾向があるため、構成繊維間の距離が大きく不均一で緻密ではない構造を有しており、ピンホールが存在し易い構造である。
そのため、従来技術の限りでは、厚さが例えば20μm以下の薄い電気化学素子用セパレータを提供するため、繊維構造体の厚さを20μm以下に薄くした場合、ピンホールの無い電気化学素子用セパレータを提供することが困難である。
【0062】
なお、繊維構造体あるいは電気化学素子用セパレータが、ピンホールを有するものであるか否かは、以下の判断方法へ供することで確認できる。
(ピンホール有無の判断方法)
(1)繊維構造体単体をフィルム基材上に置いてなる撮影試料、あるいは、繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータをフィルム基材上に置いてなる撮影試料を用意する。
(2)各撮影試料における、露出している繊維構造体単体あるいは電気化学素子用セパレータ側から、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、500倍に拡大した露出している繊維構造体単体あるいは電気化学素子用セパレータ側の主面のSEM写真を撮影する。
(3)撮影したSEM写真を用いて、該主面中に構成繊維に囲まれておりフィルム基材が露出して見えている部分(ピンホール)の有無を確認する。
【0063】
本発明の電気化学素子用セパレータは上述した繊維構造体を備えており、繊維構造体のみを電気化学素子用セパレータとして使用する、あるいは、繊維構造体に別途補強層などの部材を設けることで電気化学素子用セパレータとして使用してもよい。
さらに、電気化学素子用セパレータは、使用する電気化学素子の形状に合わせて形状を打ち抜いたり、巻回形状を取り得るように加工するなどしてもよい。
【0064】
次に、本発明に係る電気化学素子用セパレータの製造方法について説明する。なお、上述の電気化学素子用セパレータについて説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
電気化学素子用セパレータの製造方法は適宜選択することができるが、一例として、
(1)シート状の布帛を用意する工程、
(2)前記布帛の一方の主面上に、短繊維および/またはパルプ状繊維を含んだ分散液を抄き上げることで、前記布帛に短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が入り込んだ、短繊維および/またはパルプ状繊維が混合してなる繊維堆積層を形成する工程、
(3)前記布帛の一方の主面上に前記繊維堆積層が形成されてなる積層体を、乾燥する工程、
を備える繊維構造体の製造方法を用いることで、本発明に係る繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータを提供することができる。
【0065】
まず、(1)シート状の布帛を用意する工程、について説明する。
シート状の布帛は第二繊維層部分を構成可能な部材であって、例えば、繊維ウェブや不織布、織物や編み物などシート状の布帛を使用することができる。特に、シート状の布帛は湿式抄造してなる繊維ウェブあるいは湿式不織布であるのが好ましい。
シート状の布帛の空隙率は適宜選択するが、布帛に短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が深く入り込むことができるよう、空隙率は20%以上であるのが好ましく、30%以上であるのが好ましく、40%以上であるのが好ましい。一方、空隙率が高過ぎると強度が低下して、電気化学素子用セパレータに亀裂が生じ易くなることから、空隙率は85%以下であるのが現実的である。
【0066】
次いで、(2)前記布帛の一方の主面上に、短繊維および/またはパルプ状繊維を含んだ分散液を抄き上げることで、前記布帛に短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が入り込んだ、短繊維および/またはパルプ状繊維が混合してなる繊維堆積層を形成する工程、について説明する。
短繊維および/またはパルプ状繊維を含んだ分散液の分散媒は適宜選択でき、分散剤および/または活性剤が入った分散液、あるいは、分散剤および活性剤が入っていない水を使用することができる。
次いで、このようにして調製した分散液を、布帛の一方の主面上に流し込み抄き上げる。布帛のもう一方の主面側にサクション装置を設けることで、分散液の分散媒を吸引除去してもよい。このとき、分散液の分散媒が分散剤および活性剤が入っていない水であると、サクションによる分散媒の除去時に分散媒を容易に除去できて、繊維構造体を分散媒が通過することで生じるピンホールが形成されるのを防止できると共に、短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、布帛に深く入り込んでなる繊維構造体を調製でき好ましい。
【0067】
そして、(3)前記布帛の一方の主面上に前記繊維堆積層が形成されてなる積層体を、乾燥する工程、について説明する。
本工程により積層体から、分散液の分散媒を除去することで繊維構造体を調製することができる。乾燥方法は適宜選択するが、例えば、積層体から分散媒を吸引あるいは吹き飛ばすことで除去し乾燥する方法、乾熱加熱機へ供することで積層体から分散媒を除去し乾燥する方法、熱風や赤外線などを作用させることで積層体から分散媒を除去し乾燥する方法、室温環境下や減圧環境下に放置することで積層体から分散媒を除去し乾燥する方法、フェルトなど吸水性を有する布帛に分散媒を吸収させることで積層体から分散媒を除去し乾燥する方法、加熱ロールに接触させる(必要であれば、接触させると共に加熱ロールにより加圧する)ことで分散媒を除去し乾燥する方法などを用いることができる。
なお、積層体がバインダや接着繊維などの接着成分を備えている場合、本工程において加熱機へ供することで接着成分を溶融させ、繊維同士あるいは繊維に粒子を接着してもよい。
【0068】
上述の製造工程を経ることで、布帛由来の第二繊維層部分の一方の主面上に、短繊維および/またはパルプ状繊維が絡み合ってなる繊維堆積層由来の第一繊維層部分が形成されていると共に、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、第二繊維層部分に入り込んだ、本発明が規定する各孔径を有する繊維構造体を調製できる。
また、第二繊維層部分の両主面の各々に短繊維および/またはパルプ状繊維が絡み合ってなる第一繊維層部分を備えており、第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、各々第二繊維層部分に入り込んでなる電気化学素子用セパレータとしてもよい。このような電気化学素子用セパレータは、上述のようにして調製した分散液を、布帛の両主面上に流し込み抄き上げることで調製できる。
【0069】
調製した繊維構造体は、そのまま電気化学素子用セパレータとしてもよいが、繊維構造体に別途補強層などの部材を設けることで電気化学素子用セパレータとしてもよい。
また、繊維構造体、あるいは繊維構造体を備える積層体は、電解液の保持性を付与又は向上させるために、親水化処理工程へ供してもよい。この親水化処理工程としては、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、界面活性剤処理、放電処理、あるいは親水性樹脂付与処理などを挙げることができる。
さらに、繊維構造体、あるいは繊維構造体を備える積層体を、使用する電気化学素子の形状に合わせて形状を打ち抜いたり、巻回形状を取り得るように加工するなどの、各種二次工程へ供することで電気化学素子用セパレータを製造してもよい。
【実施例
【0070】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない
【0071】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)を湿式抄造してなる繊維ウェブを、表面温度を180℃に調整したヒートロールへ供することで加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維によりポリエチレンテレフタレート短繊維同士を繊維接着させて、湿式不織布A(厚さ:10μm、目付:6g/m、空隙率:56%、構成繊維の繊維長:3mm、構成繊維の繊度:0.2d)を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)とアラミド樹脂のパルプ状繊維(濾水度:50mlCSF)を、ポリエチレンテレフタレート短繊維:アラミド樹脂のパルプ状繊維=20質量%:80質量%の比率で、分散剤および活性剤が入っていない水に分散させ、分散液Aを調製した。
そして、湿式不織布Aの一方の主面上に分散液Aを抄き上げた後、湿式不織布A側から分散媒をサクションして除去することで、湿式不織布Aの一方の主面上に、ポリエチレンテレフタレート短繊維とアラミド樹脂のパルプ状繊維が混合してなる繊維堆積層を形成した。
続いて、上述のようにして調製した積層ウェブをコンベアで支持したまま、温度145℃の雰囲気下に曝すことで熱処理し、積層ウェブから分散媒を除去し乾燥させた。その後、表面温度を180℃に調整したヒートロールを用いて加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維によりポリエチレンテレフタレート短繊維同士およびポリエチレンテレフタレート短繊維とアラミド樹脂のパルプ状繊維を繊維接着させて、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0072】
(比較例1)
分散液A中に分散している繊維100質量%に対し粘剤0.7質量%および活性剤0.01質量%の比率となるように、分散液Aへ粘剤と活性剤を混合して分散液Bを調製した。
分散液Aの代わりに分散液Bを用いた以外は、実施例1と同様にして電気化学素子用セパレータを調製した。
【0073】
(実施例2)
湿式不織布Aの一方の主面上に抄き上げる、分散液Aの量を多くしたこと以外は、実施例1と同様にして電気化学素子用セパレータを調製した。
【0074】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)を湿式抄造してなる繊維ウェブを、表面温度を180℃に調整したヒートロールへ供することで加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維によりポリエチレンテレフタレート短繊維同士を繊維接着させて、湿式不織布B(厚さ:8μm、目付:4.5g/m、空隙率:59%、構成繊維の繊維長:3mm、構成繊維の繊度:0.2d)を調製した。
湿式不織布Aの代わりに湿式不織布Bを用いた以外は、実施例1と同様にして電気化学素子用セパレータを調製した。
【0075】
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)を湿式抄造してなる繊維ウェブを、表面温度を180℃に調整したヒートロールへ供することで加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維によりポリエチレンテレフタレート短繊維同士を繊維接着させて、湿式不織布C(厚さ:8μm、目付:4g/m、空隙率:64%、構成繊維の繊維長:3mm、構成繊維の繊度:0.2d)を調製した。
湿式不織布Aの代わりに湿式不織布Cを用いた以外は、実施例1と同様にして電気化学素子用セパレータを調製した。
【0076】
(実施例5)
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)50質量%、別のポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.06d)30質量%、アラミド樹脂のパルプ状繊維(濾水度:50mlCSF)20質量%の繊維を混合し、湿式抄造してなる繊維ウェブを、表面温度を180℃に調整したヒートロールへ供することで加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維によりポリエチレンテレフタレート短繊維同士およびポリエチレンテレフタレート短繊維とアラミド樹脂のパルプ状繊維を繊維接着させて、湿式不織布D(厚さ:11μm、目付:5g/m、空隙率:67%)を調製した。
湿式不織布Aの代わりに湿式不織布Dを用いた以外は、実施例1と同様にして電気化学素子用セパレータを調製した。
【0077】
実施例および比較例で調製した電気化学素子用セパレータを上述した(ピンホール有無の判断方法)へ供した結果、以下のことが判明した。なお、撮影試料を用意する際、フィルム基材上に電気化学素子用セパレータにおける繊維堆積層由来の主面(第一繊維層部分側の主面)が面する態様とした。そのため、SEM写真には電気化学素子用セパレータにおける湿式不織布A~D由来の主面(第二繊維層部分側の主面)が撮影されている。
・実施例の電気化学素子用セパレータを撮影したSEM写真には、いずれにもピンホールは存在してなかったのに対し、比較例の電気化学素子用セパレータを撮影したSEM写真にはピンホールの存在が認められた。
【0078】
なお、実施例1の電気化学素子用セパレータを(ピンホール有無の判断方法)へ供した際に撮影した、互いに異なる部分を撮影した2枚のSEM写真を図1および図2に、また、比較例1の電気化学素子用セパレータを(ピンホール有無の判断方法)へ供した際に撮影した、互いに異なる部分を撮影した2枚のSEM写真を図3および図4に図示した。実施例1のSEM写真にはピンホールが存在していないのに対し、比較例1のSEM写真にはピンホールが存在(図3の破線で囲まれた一箇所の部分、図4の破線で囲まれた二箇所の部分)している。
・繊維堆積層由来の第一繊維層部分を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、湿式不織布A~D由来の第二繊維層部分が露出している主面上に露出するまで、第二繊維層部分へ深く入り込んでいる態様であった。
【0079】
実施例および比較例の電気化学素子用セパレータの各種物性を測定し、表1にまとめた。
【0080】


【表1】
【0081】
実施例の電気化学素子用セパレータは、本発明が規定する孔径分布を満たすものでありピンホールの無いものであった。一方、比較例の電気化学素子用セパレータは、本発明が規定する孔径分布を満たすものではなくピンホールを有するものであった。
以上から、本願発明によって、短絡し難いと共に電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる。
また、本願発明によって、厚さが例えば20μm以下の薄い電気化学素子用セパレータをピンホールの無い態様で提供できるため、より短絡し難い電気化学素子を提供可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0082】
(実施例6)
純水中にシリカ粒子とセルロースナノファイバーを加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、混合後にポリアクリル酸樹脂バインダを加えて攪拌を続け、塗工液(液温:25℃、固形分濃度:27質量%)を調製した。
なお、塗工液中の固形分質量の組成は以下に記載する通りであった。
・シリカ粒子(D50:450nm):98質量部
・セルロースナノファイバー:0.01質量部
・ポリアクリル酸樹脂バインダ:2質量部
グラビアロールを用いて、実施例2で調製した電気化学素子用セパレータにおける、湿式不織布A由来の繊維層側の主面に塗工液を付与した後、100℃で乾燥して塗工液中の分散媒を除去することで、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0083】
(実施例7)
塗工液の付与量を変更したこと以外は、実施例6と同様にして電気化学素子用セパレータを調製した。
【0084】
(実施例8)
純水中にシリカ粒子を加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、混合後にポリアクリル酸樹脂バインダを加えて攪拌を続け、塗工液(液温:25℃、固形分濃度:27質量%)を調製した。
なお、塗工液中の固形分質量の組成は以下に記載する通りであった。
・シリカ粒子(D50:2.1μm):98質量部
・ポリアクリル酸樹脂バインダ:2質量部
グラビアロールを用いて、実施例2で調製した電気化学素子用セパレータにおける、湿式不織布A由来の繊維層側の主面に塗工液を付与した後、100℃で乾燥して塗工液中の分散媒を除去することで、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0085】
上述のようにして調製した、表面に粒子を担持した実施例の電気化学素子用セパレータの各種物性を測定し、表2にまとめた。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例6~8の結果から、表面に粒子を担持した本発明にかかる電気化学素子用セパレータは、さらに、最大孔径および最小孔径が小さいと共に、狭い孔径分布を有するものであった。
そのため、本構成の電気化学素子用セパレータによって熱安定性の向上を図れると共に電池の容量減少の改善を図ることができることに加え、さらに、短絡し難いと共に電極間の電気抵抗が意図するよりも高くなるのを防止した電気化学素子を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の電気化学素子用セパレータは、例えば、一次電池(たとえばリチウム電池、マンガン電池、マグネシウム電池など)、および二次電池(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、亜鉛電池、レドックスフロー電池など)、キャパシタ、燃料電池などの電気化学素子用の、電極間を隔離する電気化学素子用セパレータとして水系、非水系問わずに使用できる。
図1
図2
図3
図4