(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法、および固体酸化物形燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04225 20160101AFI20220818BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20220818BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20220818BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20220818BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20220818BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220818BHJP
【FI】
H01M8/04225
H01M8/02
H01M8/04537
H01M8/04701
H01M8/04746
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
(21)【出願番号】P 2019570245
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004632
(87)【国際公開番号】W WO2019155610
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】福山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】川渕 真理
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和之
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】熊谷 健治
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-533162(JP,A)
【文献】特表2014-523081(JP,A)
【文献】特開2011-96432(JP,A)
【文献】特開2013-77582(JP,A)
【文献】特開2013-161662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00-8/029
H01M8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含有するアノード層、電解質層、カソード層が金属製のメタルサポート部に積層されたメタルサポートセルを有する固体酸化物形燃料電池における前記アノード層を活性化させる方法において、
前記アノード層に酸素含有ガスを導入して前記ニッケルを酸化し、
前記アノード層に水素含有ガスを導入して酸化された前記ニッケルを還元し、還元された前記ニッケルによって形成され前記アノード層内において前記電解質層と前記メタルサポート部とを導通させる導通パスを増加させる、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項2】
前記酸素含有ガスおよび前記水素含有ガスの導入を、400℃~850℃の温度下において実施する、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項3】
前記酸素含有ガスおよび前記水素含有ガスの導入を、前記固体酸化物形燃料電池の運転温度よりも高い温度下において実施する、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項4】
前記水素含有ガスの導入温度は、前記酸素含有ガスの導入温度に比べて低い、請求項1~3の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項5】
前記固体酸化物形燃料電池がバインダを含有する構成部材を備え、
前記ニッケルを酸化するときに、前記構成部材の前記バインダを燃焼させて酸化する、請求項1~4の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項6】
前記酸素含有ガスは空気である、請求項1~5の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項7】
前記酸素含有ガスは、水を含むガスにおける前記水の乖離反応によって得た酸素を含むガスである、請求項1~5の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項8】
前記酸素含有ガスおよび前記水素含有ガスの導入時間をそれぞれ2時間以上とする、請求項1~7の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項9】
前記水素含有ガスを導入する前に、導入した前記酸素含有ガスを前記アノード層から掃気させる、請求項1~8の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項10】
導入した前記酸素含有ガスを不活性ガスを用いて前記アノード層から掃気させる、請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項11】
前記アノード層の酸化処理時および還元処理時のそれぞれの電位は自然電位である、請求項1~10の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項12】
前記アノード層の酸化処理および還元処理は、1回当たり、前記酸素含有ガスを導入した後、前記水素含有ガスの導入への切り替えを1セットのみ実施する、請求項1~11の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法。
【請求項13】
ニッケルを含有するアノード層、電解質層、カソード層がメタルサポート部に積層されたメタルサポートセルを有する固体酸化物形燃料電池と、
前記アノード層に水素含有ガスを導入する燃料導入部と、
前記アノード層に酸素含有ガスを導入する酸化処理部と、
前記燃料導入部および前記酸化処理部の作動を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記アノード層を活性化処理するときに、前記酸化処理部を作動させて前記アノード層に酸素含有ガスを導入して前記ニッケルを酸化させ、前記燃料導入部を作動させて前記アノード層に水素含有ガスを導入して酸化された前記ニッケルを還元させ、還元された前記ニッケルによって形成され前記アノード層内において前記電解質層と前記メタルサポート部とを導通させる導通パスを増加させる、固体酸化物形燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池におけるアノード層の活性化方法、および固体酸化物形燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells:SOFC。以下、単に「SOFC」ということがある。)は、熱効率が高く、貴金属触媒を使わなくても燃料と空気との電気化学反応が可能であり、さらに多種類の燃料を使用できる。SOFCは、このような利点を有する一方、発電当初は発電性能が低く100%の特性が発揮できない、もしくは一定負荷電流の下で長期に亘って運転した場合、電圧が徐々に低下する挙動を示す。SOFCの電圧低下は、アノード層の触媒活性の低下に起因することが知られている。
【0003】
SOFCにおけるアノード層を活性化させる電極活性化方法として、特許文献1に記載されたSOFCの電極活性化方法が知られている。この電極活性化方法によれば、出力電圧の低下時に、まず、アノード層を不活性ガス雰囲気下に配置し、カソード層を酸素ガス含有雰囲気下に配置する。次いで、アノード層およびカソード層の間にパルス電圧を印加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SOFCには、発電セル(アノード層、電解質層、カソード層の積層体)をメタルサポート部によって支持した構造を有するメタルサポートセル型SOFCがある。メタルサポート部は、ガス透過性および電気伝導性を有する多孔質の金属から形成されている。メタルサポートセルは、電解質支持型セルや電極支持型セルに比べて機械的強度に優れている。このため、電解質層を薄膜化して電気抵抗を低減させ、発電効率を向上させることができる。
【0006】
特許文献1に記載された電極活性化方法は、メタルサポートセル型SOFCにも適用できるものの、機械的強度に優れるというメタルサポートセルの特徴を十分に活用したものではない。
【0007】
本発明の目的は、メタルサポートセル型の固体酸化物形燃料電池に適用して好適なアノード層活性化方法、および固体酸化物形燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法は、ニッケルを含有するアノード層、電解質層、カソード層が金属製のメタルサポート部に積層されたメタルサポートセルを有する固体酸化物形燃料電池における前記アノード層を活性化させる方法である。かかるアノード層活性化方法は、まず、前記アノード層に酸素含有ガスを導入して前記ニッケルを酸化する。次に、前記アノード層に水素含有ガスを導入して酸化された前記ニッケルを還元する。これによって、還元された前記ニッケルによって形成され前記アノード層内において前記電解質層と前記メタルサポート部とを導通させる導通パスを増加させる。
【0009】
上記目的を達成するための本発明の固体酸化物形燃料電池システムは、ニッケルを含有するアノード層、電解質層、カソード層がメタルサポート部に積層されたメタルサポートセルを有する固体酸化物形燃料電池を有する。固体酸化物形燃料電池システムはさらに、前記アノード層に水素含有ガスを導入する燃料導入部と、前記アノード層に酸素含有ガスを導入する酸化処理部と、前記燃料導入部および前記酸化処理部の作動を制御する制御部と、を有する。前記制御部は、前記アノード層を活性化処理するときに、前記酸化処理部を作動させて前記アノード層に酸素含有ガスを導入して前記ニッケルを酸化させ、前記燃料導入部を作動させて前記アノード層に水素含有ガスを導入して酸化された前記ニッケルを還元させる。これによって、還元された前記ニッケルによって形成され前記アノード層内において前記電解質層と前記メタルサポート部とを導通させる導通パスを増加させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタルサポートセルの特徴を十分に活用して、アノード層を活性化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】メタルサポートセル型の固体酸化物形燃料電池における燃料電池スタックを示す分解斜視図である。
【
図2】
図1に示すセルユニットの分解斜視図である。
【
図3】
図2に示すメタルサポートセルアッセンブリーの分解斜視図である。
【
図4】
図2の4-4線に沿うメタルサポートセルアッセンブリーの部分断面図である。
【
図5】燃料電池スタックの要部を示す断面図である。
【
図7A】セル活性化前の状態のアノード層を模式的に示す図である。
【
図7B】ニッケルが酸化した状態のアノード層を模式的に示す図である。
【
図7C】酸化されたニッケルが還元された状態のアノード層を模式的に示す図である。
【
図8】固体酸化物形燃料電池の性能を表す電流とセル電圧との関係を模式的に示す図である。
【
図9】アノード層の活性化処理の第1形態を実施する手順を示すフローチャートである。
【
図10】アノード層の活性化処理の第1形態を示すタイムチャートである。
【
図11】アノード層の活性化処理の第2形態を示すタイムチャートである。
【
図12】アノード層の活性化処理の第3形態を示すタイムチャートである。
【
図13】アノード層の活性化処理の第4形態を示すタイムチャートである。
【
図14】アノード層の活性化処理の第5形態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1~
図5を参照して、メタルサポートセル型の固体酸化物形燃料電池における燃料電池スタック10について説明する。本実施形態の燃料電池スタック10は、電解質として例えば、安定化ジルコニアなどの酸化物イオン導電体を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)が用いられる。
【0014】
以下の説明の便宜のため、XYZ直交座標系を図中に示す。X軸およびY軸は水平方向、Z軸は上下方向にそれぞれ平行な軸を示す。
【0015】
図1は、メタルサポートセル型の固体酸化物形燃料電池における燃料電池スタック10を示す分解斜視図である。
図1に示すように、燃料電池スタック10は、複数のセルユニット100を上下方向に積層して構成している。以下、図中にZ軸で示す燃料電池スタック10の上下方向を「積層方向」とも称する。
【0016】
(セルユニット100)
図2は、セルユニット100の分解斜視図である。
図2に示すように、セルユニット100は、メタルサポートセルアッセンブリー110と、アノードガスおよびカソードガスを含むガスの流路Fを区画形成する流路部121を備えるセパレータ120と、集電補助層130と、を順に積層して構成される。なお、メタルサポートセルアッセンブリー110と集電補助層130との間に両者を導通接触させる接点材を配置してもよいし、集電補助層130を省く構造としてもよい。
【0017】
セルユニット100は、メタルサポートセルアッセンブリー110とセパレータ120から構成され、電解質電極接合体に供給されるアノードガスをシールする外縁シール部190(
図5を参照)を有する。外縁シール部190は、耐熱性およびシール性を有する材料から形成される。このような材料としては、例えば、バーミキュライト(蛭石)を主原料とするサーミキュライト(登録商標)が挙げられる。もしくは、ガラス成分からなるシールを用いることも可能である。
【0018】
図3は、メタルサポートセルアッセンブリー110の分解斜視図であり、
図4は、その部分断面図である。
図3および
図4に示すように、メタルサポートセルアッセンブリー110は、メタルサポートセル(Metal-Supported Cell:MSC)110Mと、メタルサポートセル110Mの外周を保持するセルフレーム113と、を有する。
【0019】
図3および
図4に示すように、メタルサポートセル110Mは、電解質電極接合体111と、それを上下方向の一方側から支持する金属製のメタルサポート部112と、を有する。メタルサポートセル110Mは、電解質支持型セルや電極支持型セルに比べて機械的強度、急速起動性等に優れる。
【0020】
(電解質電極接合体111)
電解質電極接合体111は、
図3および
図4に示すように、電解質層111Eの両側に一対の電極であるアノード層111Aおよびカソード層111Cを積層して構成される。
【0021】
アノード層111Aは、燃料極であって、アノードガス(例えば水素)と酸化物イオンを反応させて、アノードガスの酸化物を生成するとともに電子を取り出す。アノード層111Aは、還元雰囲気に耐性を有し、アノードガスを透過させ、電気(電子およびイオン)伝導度が高く、アノードガスを酸化物イオンと反応させる触媒作用を有する。アノード層111Aの形成材料は、例えば、ニッケル等の金属、イットリア安定化ジルコニア等の酸化物イオン伝導体を混在させたものが挙げられる。
【0022】
カソード層111Cは、酸化剤極であって、カソードガス(例えば空気に含まれる酸素)と電子を反応させて、酸素分子を酸化物イオンに変換する。カソード層111Cは、酸化雰囲気に耐性を有し、カソードガスを透過させ、電気(電子およびイオン)伝導度が高く、酸素分子を酸化物イオンに変換する触媒作用を有する。カソード層111Cの形成材料は、例えば、ランタン、ストロンチウム、マンガン、コバルト等からなる酸化物が挙げられる。
【0023】
電解質層111Eは、カソード層111Cからアノード層111Aに向かって酸化物イオンを透過させるものである。電解質層111Eは、酸化物イオンを通過させつつ、ガスと電子を通過させない。電解質層111Eの形成材料は、例えば、イットリア、酸化ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、スカンジウム等をドープした安定化ジルコニアなどの固体酸化物セラミックスが挙げられる。
【0024】
(メタルサポート部112)
メタルサポート部112は、
図3および
図4に示すように、電解質電極接合体111をアノード層111Aの側から支持するものである。メタルサポート部112によって電解質電極接合体111を支持することにより、電解質電極接合体111に面圧分布の偏りがわずかに生じた場合でも、曲げによる発電セル111の破損を抑制できる。メタルサポート部112は、ガス透過性および電子伝導性を有する多孔質の金属である。メタルサポート部112の形成材料は、例えば、ニッケルやクロムを含有する耐食合金や耐食鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。
【0025】
(セルフレーム113)
セルフレーム113は、
図3および
図4に示すように、メタルサポートセル110Mを周囲から保持するものである。
図3に示すように、セルフレーム113は、開口部113Hを有する。セルフレーム113の開口部113Hには、メタルサポートセル110Mが配置される。メタルサポートセル110Mの外周は、セルフレーム113の開口部113Hの周囲に接合される。セルフレーム113の形成材料は、例えば、表面に絶縁処理が施された金属が挙げられる。
【0026】
セルフレーム113は、
図3に示すように、アノードガスが流通するアノードガス流入口113aおよびアノードガス流出口113bと、カソードガスが流通するカソードガス流入口113cおよびカソードガス流出口113dと、を有している。
【0027】
(セパレータ120)
図5は、燃料電池スタック10の要部を示す断面図である。
図5に示すように、セパレータ120は、メタルサポートセル110Mの電解質電極接合体111と対向する領域に流路部121を有する。流路部121は、発電セル111との間にガスの流路を区画形成する凹凸形状を有している。メタルサポート部112に臨む流路部121にはアノードガスAGが流れ、集電補助層130に臨む流路部121にはカソードガスCGが流れる。
【0028】
図2に示すように、セパレータ120の流路部121は、凹凸形状が長手方向Yに延在するように略直線状に形成されている。これにより、流路部121に沿って流れるガスの流れ方向は、長手方向Yである。セパレータ120の形成材料は、特に限定されないが、例えば、金属が挙げられる。
【0029】
図2に示すように、セパレータ120は、アノードガスが流通するアノードガス流入口125aおよびアノードガス流出口125bと、カソードガスが流通するカソードガス流入口125cおよびカソードガス流出口125dと、を有している。
【0030】
(集電補助層130)
図5に示すように、集電補助層130は、メタルサポートセル110Mとセパレータ120との間に配置され、カソードガスCGを通す空間を形成しつつ面圧を均等にして、メタルサポートセル110Mとセパレータ120との電気的な接触を補助する。集電補助層130は、金網状のエキスパンドメタルなどがあげられる。また、本特性や機能を他要素でもたせることができる場合、省くことも可能である。
【0031】
(燃料電池システム200)
次に、
図6を参照して、固体酸化物形燃料電池210を含む燃料電池システム200を説明する。
【0032】
図6は、燃料電池システムを示す概略構成図である。図示する燃料電池システム200は、自動車に搭載されるSOFC210を想定している。水素や炭化水素などの原燃料RFは、燃料タンク221、燃料ポンプ222、蒸発器223、および燃料ガス加熱器224を経て、改質器225に供給される。改質器225は、水蒸気改質によって原燃料RFから水素リッチな改質ガスを生成する。改質ガスは、水素含有ガスHGであり、アノードガスAGとしてSOFC210の燃料電池スタック10に供給される。酸素、あるいは酸素を含有する空気などの酸素含有ガスOGは、ブロワー31、および熱交換器32を経て、カソードガスCGとして燃料電池スタック10に供給される。燃料電池スタック10から排出されたアノードガスAGの排気、およびカソードガスCGの排気はそれぞれ排気燃焼器241に供給される。排気燃焼器241において燃焼された排気は、2つに分岐して流される。一方の排気242は、改質器225、燃料ガス加熱器224、蒸発器223において原燃料RFと順に熱交換した後、排出される。他方の排気243は、熱交換器232において酸素含有ガスOGと熱交換した後、熱交換器232から排出される。蒸発器223および熱交換器232のそれぞれから排出された排気は、混合され排出される。
【0033】
燃料電池スタック10において発電した電力は、FCコンバーター251、DCDCコンバーター(14V)252、DCDCコンバーター(48V)253を経て電圧制御され、インバーター254に供給される。インバーター254は、電圧制御された直流電力を交流電力に変換し、走行駆動用のモーター255に供給する。DCDCコンバーター(14V)252は、自動車に搭載されるアクセサリー類、ポンプ類、センサー類などの補助消費電力機器256に直流電力を供給する。燃料電池スタック10は二次電池などの補助電源257に接続されている。補助電源257は、燃料電池スタック10において発電した電力を蓄電するとともに、自動車の制動エネルギーを回収して蓄電する。
【0034】
燃料電池システム200は、システム全体の作動を制御する制御部260を有している。燃料電池スタック10には、燃料電池スタック10の開放電圧(OCV:Open circuit voltage)を測定する電圧計261が接続されている。開放電圧はSOFC210にモーター255などの負荷が接続されていない状態の電圧である。制御部260には電圧計261によって測定された開放電圧の値が入力される。燃料電池スタック10には、燃料電池スタック10の温度を測定する温度センサー262が接続されている。制御部260には温度センサー262によって測定された燃料電池スタック10の温度の値が入力される。
【0035】
原燃料RFの一部は、燃料ポンプ222によって、排気燃焼器241にも供給可能である。排気燃焼器241への原燃料RFの供給量、排気燃焼器241における燃焼温度、および排気燃焼器241から熱交換器232への高温の排気の供給量を調整することによって、カソード層111Cに供給される酸素含有ガスOGの温度が調整される。
【0036】
カソード層111Cに供給される酸素含有ガスOGを高温にすることによって、燃料電池スタック10の温度を通常の運転温度よりも高くすることができる。燃料電池スタック10の温度は通常運転においては約600℃~650℃である。本実施形態では、燃料電池スタック10の温度を約850℃にすることができる。
【0037】
(アノード層111Aの活性化について)
次に、SOFC210におけるアノード層111Aの活性化について説明する。
【0038】
前述したように、SOFC210は、長期に亘って運転した場合、電圧が徐々に低下する挙動を示す。SOFC210の電圧低下は、アノード層111Aの触媒活性の低下に起因することが知られている。または、スタック組立後の処理前は本来だすことができる発電特性を下回ることがある。
【0039】
本実施形態は、機械的強度に優れるというメタルサポートセル110Mの特徴を十分に活用したアノード層活性化方法を提供するものである。すなわち、本実施形態における固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法は、ニッケルを含有するアノード層111A、電解質層111E、カソード層111Cが金属製のメタルサポート部112に積層されたメタルサポートセル110Mを有する固体酸化物形燃料電池におけるアノード層111Aを活性化させる方法である。かかるアノード層活性化方法は、まず、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入してニッケル(Ni)を酸化し、次に、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入して酸化されたニッケル(NiO)を還元する。
【0040】
図7A、
図7B、
図7Cを参照しつつ、酸化、還元によるアノード層111Aの活性化について説明する。
図7Aは、セル活性化前のアノード層111Aを模式的に示す図、
図7Bは、ニッケルが酸化した状態のアノード層111Aを模式的に示す図、
図7Cは、酸化されたニッケルが還元された状態のアノード層111Aを模式的に示す図である。
【0041】
図7Aに示すように、セル活性化前の状態においては、アノード層111Aは、近接するニッケル同士がつながらずに切れている箇所が比較的多い。このため、アノード層111A内において電解質層111Eとメタルサポート部112とを導通させる導通パスは比較的少ない。
【0042】
図7Bに示すように、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入してニッケルを酸化すると、
2Ni+O
2→2NiO
の酸化反応によって、酸化ニッケル(NiO)となる。ニッケルを酸化することによって形成された酸化ニッケルによって、もともとはつながっていなかったニッケルのネットワークがつながる。酸化ニッケルはニッケルよりも体積が大きくなる(膨張する)ことから、いままで届かなかった(接触していなかった)ニッケルがつながることができる。「つながっていなかったニッケルのネットワークがつながる」とは、もともと接触していないニッケル同士が接触するようになる場合のみならず、接触はしていたが、接触面積がより大きくなるように密着する場合も含む意である。ただし、酸化ニッケルのままでは、触媒活性は低い。
【0043】
ニッケルを酸化することによって形成される酸化ニッケルは、ニッケルよりも体積が大きくなる(膨張する)。このような体積変化が生じても、メタルサポートセル110Mは機械的強度に優れるという特徴を有していることから、メタルサポート部112に支持されるアノード層111A自体や電解質層111Eにクラックが生じることがない。
【0044】
図7Cに示すように、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入することによって、一度つながったニッケルのネットワークを維持したまま、酸化されたニッケルが還元され、比較的多くの導通パスが形成される。酸化ニッケルからニッケルに戻すと体積がまた小さくなるが、一度酸化物としてつながったものを切るように小さくなるのではなく、つながりを維持しながら収縮すると考えられる。導通パスの形成のみならず、ニッケル、電解質、および空孔の三相によって作られる三相界面(Three-PhaseBoundary:TPB)が、セル活性化前の状態(
図7A)よりも増加する。酸化ニッケルがニッケルに還元されることによって、触媒活性がNiOより高くなる。
【0045】
図8は、SOFC210の性能を表す電流とセル電圧との関係を模式的に示す図であり、破線はアノード層111A活性化処理前の電流とセル電圧との関係を示し、実線はアノード層111A活性化処理後の電流とセル電圧との関係を示している。本実施形態のアノード層111Aの活性化方法によれば、アノード層111Aにおける電気化学反応が活性化し、SOFC210の性能が向上する。
【0046】
従来、アノード層111Aには酸素含有ガスOGを導入しないのが常であった。これは、ニッケルが酸化されて酸化ニッケルになるときに、ニッケルないしアノード層111A全体の体積が膨張する結果、アノード層111A自体や電解質層111Eにクラックが生じ、発電セル111の破壊を招く虞があるからである。
【0047】
本件発明者らは、機械的強度に優れるというメタルサポートセル110Mの特徴に着目して新規なアノード層活性化方法を鋭意研究した結果、アノード層111Aには酸素含有ガスOGを導入しないという従来の固定観念を打破して、上述したような固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法を完成させたのである。
【0048】
かかるアノード層活性化方法を具現化する本実施形態の固体酸化物形燃料電池システム200は、ニッケルを含有するアノード層111A、電解質層111E、カソード層111Cがメタルサポート部112に積層されたメタルサポートセル110Mを有するSOFC210と、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入する燃料導入部と、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する酸化処理部と、燃料導入部および酸化処理部の作動を制御する制御部260と、を有する。制御部260は、アノード層111Aを活性化処理するときに、酸化処理部を作動させてアノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入してニッケルを酸化させ、燃料導入部を作動させてアノード層111Aに水素含有ガスHGを導入して酸化されたニッケルを還元させる。
【0049】
図6に示すように、SOFC210は、水素含有ガスHGのアノード層111Aへの導入および導入停止を切り替える第1バルブ271を有する。SOFC210は、カソード層111Cに供給される酸素含有ガスOGのアノード層111Aへの導入および導入停止を切り替える第2バルブ272を有する。第1バルブ271を開き、第2バルブ272を閉じることによって、アノード層111Aに水素含有ガスHGが導入される。この状態から第1バルブ271を閉じることによって、アノード層111Aへの水素含有ガスHGの導入が停止される。第1バルブ271を閉じ、第2バルブ272を開くことによって、アノード層111Aに酸素含有ガスOGが導入される。この状態から第2バルブ272を閉じることによって、アノード層111Aへの酸素含有ガスOGの導入が停止される。
【0050】
図示例の燃料電池システム200にあっては、燃料タンク221から燃料電池スタック10に至るまでの各構成機器(221、222、223、224、225)、第1バルブ271、および第2バルブ272が、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入する燃料導入部を構成する。また、ブロワー231、熱交換器232、第1バルブ271、第2バルブ272が、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する酸化処理部を構成する。
【0051】
(アノード層111Aの活性化処理の第1形態)
次に、アノード層111Aの活性化処理の第1形態について説明する。
【0052】
図9は、アノード層111Aの活性化処理の第1形態を実施する手順を示すフローチャートである。
図10は、アノード層111Aの活性化処理の第1形態を示すタイムチャートである。
図10のタイムチャートにおいて、横軸は時間である。縦軸は、燃料電池スタック10の温度(以下、単に「スタック温度Ts」ともいう)、アノード層111Aに供給する酸素含有ガスOGの流量Q(OG)、およびアノード層111Aに供給する水素含有ガスHGの流量Q(HG)を模式的に表している。符号281の矢印によって示される温度範囲は、酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGを導入する温度域、つまり、ニッケルの酸化・還元を行う処理温度Tpの温度域を示している。
【0053】
図9に示すように、アノード層111Aの活性化処理を開始するとき(
図10のt=0)、制御部260は、第1バルブ271および第2バルブ272を閉じる(ステップS11)。水素含有ガスHGおよび酸素含有ガスOGは、アノード層111Aに導入されていない。なお、アノード層111Aの活性化処理を行うか否かは、SOFC210の積算運転時間が予め設定したしきい値以上になったか否か、電圧計261によって測定された開放電圧が予め設定されたしきい値以下になったか否かなど任意の判断基準を設定することができる。
【0054】
制御部260は、温度センサー262によって測定された燃料電池スタック10の温度が活性化を行う処理温度Tpに達しているか否かを判断する(ステップS12)。スタック温度Tsは、カソード層111Cに供給される酸素含有ガスOGを高温にすることによって、通常の運転温度Tdよりも高くすることができる。制御部260は、スタック温度Tsが処理温度Tpに達するまで待機する(ステップS12「NO」)。
【0055】
制御部260は、スタック温度Tsが処理温度Tpに達すると(
図10のt=t1)、酸化処理部の第2バルブ272を開き、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する(ステップS12「YES」、ステップS13)。アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する時間は予め設定されている。制御部260は、第2バルブ272を開くと、経過時間のカウントを開始する(ステップS14)。
【0056】
アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入し、ニッケルを酸化すると、
2Ni+O2→2NiO
の酸化反応によって、酸化ニッケルとなる。
【0057】
制御部260は、酸素含有ガスOGを導入する時間t(OG)が経過すると(
図10のt=t2)、酸化処理部の第2バルブ272を閉じ、アノード層111Aへの酸素含有ガスOGの導入を停止する(ステップS14「YES」、ステップS15)。
【0058】
制御部260は、燃料導入部の第1バルブ271を開き、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入する(ステップS16)。アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入する時間t(HG)は予め設定されている。制御部260は、第1バルブ271を開くと、経過時間のカウントを開始する(ステップS17)。
【0059】
アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入し、酸化されたニッケル(NiO)を還元する。
【0060】
このようなアノード層111Aの酸化および還元によって、アノード層111Aが活性化され、SOFC210の性能が回復する。
【0061】
制御部260は、水素含有ガスHGを導入する時間t(HG)が経過すると(
図10のt=t3)、スタック温度Tsを運転温度Tdまで下げ、SOFC210を通常運転する(ステップS18)。
【0062】
以上説明したように、本実施形態における固体酸化物形燃料電池におけるアノード層活性化方法は、メタルサポートセル110Mを有する固体酸化物形燃料電池におけるアノード層111Aを活性化させる方法である。かかるアノード層活性化方法は、まず、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入してニッケル(Ni)を酸化し、次に、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入して酸化されたニッケル(NiO)を還元する。
【0063】
また、上記のアノード層活性化方法を具現化する本実施形態の固体酸化物形燃料電池システム200は、メタルサポートセル110Mを有するSOFC210と、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入する燃料導入部と、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する酸化処理部と、燃料導入部および酸化処理部の作動を制御する制御部260と、を有する。制御部260は、アノード層111Aを活性化処理するときに、酸化処理部を作動させてアノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入してニッケルを酸化させ、燃料導入部を作動させてアノード層111Aに水素含有ガスHGを導入して酸化されたニッケルを還元させる。
【0064】
このように構成したアノード層活性化方法および固体酸化物形燃料電池システム200によれば、アノード層111Aのニッケルを酸化および還元することによって、アノード層111A内において電解質層111Eとメタルサポート部112とを導通させる導通パスが比較的多く形成される。さらに、ニッケル、電解質、および空孔の三相によって作られる三相界面が増加する。その結果、アノード層111Aにおける電気化学反応が活性化し、SOFC210の性能が向上する。
【0065】
ニッケルを酸化することによって形成される酸化ニッケルは、ニッケルよりも体積が大きくなる(膨張する)。このような体積変化が生じても、メタルサポートセル110Mは機械的強度に優れるという特徴を有していることから、メタルサポート部112に支持されるアノード層111A自体や電解質層111Eにクラックが生じることがない。
【0066】
また、酸素含有ガスOGはカソードガスCGとして、水素含有ガスHGはアノードガスAGとして、SOFC210に通常使用されていることから、アノード層111Aの活性化処理を行うためだけに使用する専用の機器をSOFC210に組み付ける必要がない。したがって、余分なシステムを追加することなく、アノード層111Aの活性化処理を実施して、SOFC210の性能向上処理を実施することができる。さらに、自動車に搭載されるSOFC210に適用しているため、活性化処理を実施する専用工場などの別の場所において性能向上処理を実施する必要はない。SOFC210の性能向上処理は、自動車に搭載した簡素な燃料電池システム200を使用して実施することができる。また、SOFC210の性能向上処理が必要となったときに、すぐに活性化処理を実施することもできる。
【0067】
酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの導入は、400℃~850℃の処理温度Tp下において実施することが好ましい。酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの温度が400℃未満の場合には、酸化反応および還元反応が進み難く、反応時間も長くなる。また、酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの温度を高くすると、反応が進み易く、処理時間も短くなる。ただし、酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの温度が850℃を超えると、メタルサポート部112やセルフレーム113などが酸化し、アノード層111Aの劣化の原因となり得る。したがって、アノード層111Aの劣化を招くことなく、必要な酸化還元反応を生じさせるために、酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの導入は、400℃~850℃の処理温度Tp下において実施することが好ましい。
【0068】
酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの導入は、SOFC210の運転温度Tdよりも高い処理温度Tp下において実施することが好ましい。運転温度Tdは、例えば、600℃~650℃であり、一例として、運転温度Tdは650℃である。この運転温度Tdの場合、処理温度Tpは、一例として、700℃を挙げることができる。通常の運転温度Tdよりも高い温度においてSOFC210を長時間運転することは好ましくないが、アノード層111Aの活性化処理を行う比較的短時間においては、スタック温度Tsを通常の運転温度Tdよりも高い温度に上昇させても、セルの劣化を招くことはない。また、酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの温度を高くするので、反応が進み易く、処理時間を短縮することができる。したがって、アノード層111Aの劣化を招くことなく、必要な酸化還元反応を促進させるために、酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの導入は、SOFC210の運転温度Tdよりも高い処理温度Tp下において実施することが好ましい。
【0069】
酸素含有ガスOGは空気であることが好ましい。空気はカソードガスCGとしてSOFC210に通常使用されていることから、アノード層111Aの活性化処理を行うためだけに使用する専用の機器をSOFC210に組み付ける必要がない。したがって、余分なシステムを追加することなく、アノード層111Aの活性化処理を実施して、SOFC210の性能向上処理を実施することができる。さらに、自動車に搭載されるSOFC210に適用しているため、活性化処理を実施する専用工場などの別の場所において性能向上処理を実施する必要はない。SOFC210の性能向上処理は、自動車に搭載した簡素な燃料電池システム200を使用して実施することができる。また、SOFC210の性能向上処理が必要となったときに、すぐに活性化処理を実施することもできる。
【0070】
酸素含有ガスOGおよび水素含有ガスHGの導入時間をそれぞれ2時間以上とすることが好ましい。必要な酸化還元反応を十分に起こさせることができ、アノード層111Aの活性化効果を十分に得ることができる。ここで、2時間以上の導入時間は速度論的に反応が完了する時間であり、次のようにして決定することができる。活性化処理をスタートしてからのアノード層111Aの質量変化を計測し、酸化処理のときには、ニッケルが酸化するのにつれて質量が増えることから、それ以上質量が増加しなくなった時間を酸化反応が完了した時間とみなすことができる。そして、酸化反応が完了するまでの経過時間を、酸素含有ガスOGの導入時間(2時間)として決定した。還元処理のときには、酸化ニッケルが還元するのにつれて質量が減ることから、それ以上質量が減少しなくなった時間を還元反応が完了した時間とみなすことができる。そして、還元反応が完了するまでの経過時間を、水素含有ガスHGの導入時間(2時間)として決定した。
【0071】
アノード層111Aの酸化処理時および還元処理時のそれぞれの電位は自然電位である。特許文献1に開示された技術においては、アノード層111Aおよびカソード層111Cの少なくとも一方に外部電源等からパルス電圧を印加してアノード層111Aの活性化処理を行っている。これに対して、本実施形態にあっては、電位を強制的に掃引することなくアノード層111Aの活性化処理を行っている。アノード層111Aの活性化処理を行うためだけに使用する専用の機器をSOFC210に組み付ける必要がない。したがって、余分なシステムを追加することなく、アノード層111Aの活性化処理を実施して、SOFC210の性能向上処理を実施することができる。
アノード層111Aの酸化処理および還元処理は、1回当たり、酸素含有ガスOGを導入した後、水素含有ガスHGの導入への切り替えを1セットのみ実施するのが好ましい。アノード層111Aの活性化処理は複数回実施することはできるが、1回当たり、酸化および還元のセットを複数繰り返すと、ニッケルの焼結が生じたり、ニッケルの粒が大きくなったりする。このような劣化が生じると、アノード層111Aの反応に必要な有効な触媒反応面積が失われる。したがって、アノード層111Aの劣化を防止するために、アノード層111Aの酸化処理および還元処理は、1回当たり、酸素含有ガスOGを導入した後、水素含有ガスHGの導入への切り替えを1セットのみ実施するのが好ましい。
【0072】
(アノード層111Aの活性化処理の第2形態)
次に、アノード層111Aの活性化処理の第2形態について説明する。
【0073】
図11は、アノード層111Aの活性化処理の第2形態を示すタイムチャートである。
【0074】
アノード層111Aの活性化処理の第2形態は、水素含有ガスHGの導入温度を、酸素含有ガスOGの導入温度に比べて低くした点において、第1形態と相違する。酸素含有ガスOGの導入温度Tp1は、例えば750℃であり、水素含有ガスHGの導入温度Tp2は、例えば700℃である。その他の点においては、第1形態と同様である。
【0075】
水素含有ガスHGの導入温度は、酸素含有ガスOGの導入温度に比べて低いことが好ましい。水素含有ガスHGの導入温度を低くしても、酸化ニッケルの還元を起こしながら、焼結等の望まない現象を回避することができる。したがって、アノード層111Aの劣化を招くことなく、必要な還元反応を生じさせるために、水素含有ガスHGの導入温度は、酸素含有ガスOGの導入温度に比べて低いことが好ましい。
【0076】
(アノード層111Aの活性化処理の第3形態)
次に、アノード層111Aの活性化処理の第3形態について説明する。
【0077】
図12は、アノード層111Aの活性化処理の第3形態を示すタイムチャートである。
図12のタイムチャートにおいて、縦軸は、スタック温度Ts、酸素含有ガスOGの流量Q(OG)、および水素含有ガスHGの流量Q(HG)を模式的に表している。符号281の矢印によって示される温度範囲は、ニッケルの酸化・還元を行う処理温度Tpの温度域を示している。符号282の矢印によって示される温度範囲は、SOFC210の構成部材に含有されるバインダの焼成温度域を示している。
【0078】
アノード層111Aの活性化処理の第3形態は、SOFC210がバインダを含有する構成部材を備え、ニッケルを酸化するときに、構成部材のバインダを燃焼させて酸化するようにした点において、第2形態と相違する。
【0079】
バインダを含有する構成部材として、外縁シール部190を一例として挙げることができる。この場合の外縁シール部190の形成材料は、サーミキュライト(登録商標)に代えて、ガラス繊維を主成分とし、バインダとしてカーボンを含んでいる。
【0080】
アノード層111Aの活性化処理の第3形態は、ニッケルの酸化・還元を行う処理温度Tpの温度域と、バインダの焼成温度域とはオーバーラップしていない。スタック温度Tsがバインダの焼成温度域の下限に達すると(
図12のt=t4)、酸化処理部の第2バルブ272を開き、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する。スタック温度Tsの上昇に伴って、バインダは燃焼し酸化される。
【0081】
SOFC210がバインダを含有する構成部材を備え、ニッケルを酸化するときに、構成部材のバインダを燃焼させて酸化することが好ましい。バインダを含有する構成部材を有する場合において、燃料電池スタック10の組み立て時に、ニッケルの酸化と、バインダの燃焼(酸化)とが一度の処理で完了する。アノード層111Aの活性化処理と、燃料電池スタック10のシール処理とを同時に実施することができ、活性化された燃料電池スタック10を短時間で製造することができる。
【0082】
なお、バインダを含有する構成部材として外縁シール部190を例示したが、この場合に限定されるものではない。例えば、他部材においてそのバインダ成分が残っている場合には、ニッケルの酸化と、バインダの燃焼(酸化)とを一度の処理で完了させることができる。
【0083】
(アノード層111Aの活性化処理の第4形態)
次に、アノード層111Aの活性化処理の第4形態について説明する。
【0084】
図13は、アノード層111Aの活性化処理の第4形態を示すタイムチャートである。
【0085】
アノード層111Aの活性化処理の第4形態は、ニッケルの酸化・還元を行う処理温度Tpの温度域と、バインダの焼成温度域とがオーバーラップしている点において、第3形態と相違する。
【0086】
アノード層111Aの活性化処理の第4形態は、スタック温度Tsがバインダの焼成温度域の下限に達すると(
図13のt=t5)、酸化処理部の第2バルブ272を開き、アノード層111Aに酸素含有ガスOGを導入する。スタック温度Tsの上昇に伴って、バインダは燃焼し酸化される。処理温度Tpの温度域と、バインダの焼成温度域とがオーバーラップしているため、ニッケルの酸化と、バインダの焼成とが同時に進行することとなる。
【0087】
(アノード層111Aの活性化処理の第5形態)
次に、アノード層111Aの活性化処理の第5形態について説明する。
【0088】
図14は、アノード層111Aの活性化処理の第5形態を示すタイムチャートである。
図14のタイムチャートにおいて、縦軸は、スタック温度Ts、酸素含有ガスOGの流量Q(OG)、および水素含有ガスHGの流量Q(HG)を模式的に表し、さらに、アノード層111Aに供給する不活性ガスの流量Q(IG)を模式的に表している。
【0089】
アノード層111Aの活性化処理の第5形態は、水素含有ガスHGを導入する前に、導入した酸素含有ガスOGをアノード層111Aから掃気させるようにした点において、第1形態と相違する。
【0090】
アノード層111Aの活性化処理の第5形態はさらに、導入した酸素含有ガスOGを不活性ガスを用いてアノード層111Aから掃気させるようにしている。不活性ガスは、例えば窒素ガスなどを用いることができる。
【0091】
この構成の場合には、不活性ガスを貯留するタンク等が必要となることから、工場等の設備において、アノード層111Aの活性化処理を行う場合に適したものとなる。なお、アノード層111Aを大気開放にする系統と、当該系統に取り付けられるバルブとを備えることによって、導入した酸素含有ガスOGをアノード層111Aから掃気させることができる。この構成の場合には、自動車に搭載されるSOFC210に適用することもできる。
【0092】
図14に示すように、酸素含有ガスOGを導入する時間t(OG)が経過すると(
図14のt=t2)、酸化処理部の第2バルブ272を閉じ、アノード層111Aへの酸素含有ガスOGの導入を停止する。
【0093】
次に、アノード層111Aに不活性ガスを導入し、導入した酸素含有ガスOGをアノード層111Aから掃気させる。
【0094】
不活性ガスを導入する掃気時間が経過すると(
図14のt=t6)、不活性ガスの導入を停止する。
【0095】
燃料導入部の第1バルブ271を開き、アノード層111Aに水素含有ガスHGを導入する(ステップS16)。水素含有ガスHGを導入する時間t(HG)が経過すると(
図14のt=t3)、スタック温度Tsを運転温度Tdまで下げ、SOFC210を通常運転する。
【0096】
水素含有ガスHGを導入する前に、導入した酸素含有ガスOGをアノード層111Aから掃気させることが好ましい。酸素含有ガスOGの導入と水素含有ガスHGの導入との間に掃気プロセスを挿入することによって、酸素と水素とが直接反応する機会を回避し、アノード層111Aの活性化に必要のない反応(発熱)などを抑止することができる。したがって、活性化に必要な反応を安全かつ確実に起こさせるために、水素含有ガスHGを導入する前に、導入した酸素含有ガスOGをアノード層111Aから掃気させることが好ましい。
【0097】
その実現方策として、導入した酸素含有ガスOGを不活性ガスを用いてアノード層111Aから掃気させることが好ましい。不活性ガスを用いた掃気プロセスとすることによって、活性化に必要な反応をより安全かつより確実に起こさせることが可能となる。
【0098】
<他の変形例>
酸素含有ガスOGは、水を含むガスにおける水の乖離反応によって得た酸素を含むガスでもよい。空気をアノード層111Aに導入できないような場合であっても、水を含むガスを供給することによって、酸素含有ガスOGをアノード層111Aに導入することができる。水を含むガスにおける水として、エタノール混合水のように水を有している燃料ガスにおける水や、燃料電池反応で生成された水を例示することができる。
【0099】
酸素含有ガスOGとして空気を使用する場合と同様に、余分なシステムを追加することなく、アノード層111Aの活性化処理を実施して、SOFC210の性能向上処理を実施することができる。さらに、SOFC210の性能向上処理は、自動車に搭載した簡素な燃料電池システム200を使用して実施することができる。また、SOFC210の性能向上処理が必要となったときに、すぐに活性化処理を実施することもできる。
【0100】
図6に示した燃料電池システム200においては、カソード層111Cに供給する酸素含有ガスOGをアノード層111Aに導入するために、第2バルブ272を備えている。酸素含有ガスOGをアノード層111Aに導入する構成はこの構成に限定されるものではない。例えば、排気を酸素含有ガスOGの供給源として使用することができる。また、アノード層111Aを大気開放にする系統と、当該系統に取り付けられるバルブとを備え、アノード層111Aを大気開放し、アノード層111Aの中を大気(空気)によって置換する形態とすることができる。
【符号の説明】
【0101】
10 燃料電池スタック、
100 セルユニット、
110 メタルサポートセルアッセンブリー、
110M メタルサポートセル、
111 電解質電極接合体、
111A アノード層、
111C カソード層、
111E 電解質層、
112 メタルサポート部、
113 セルフレーム、
120 金属製セパレータ、
121 流路部、
190 外縁シール部(バインダを含有する構成部材)、
200 固体酸化物形燃料電池システム、
210 固体酸化物形燃料電池(SOFC)、
221 燃料タンク、
222 燃料ポンプ、
223 蒸発器、
224 燃料ガス加熱器、
225 改質器、
231 ブロワー、
232 熱交換器、
241 排気燃焼器、
257 補助電源、
260 制御部、
261 電圧計、
262 温度センサー、
271 第1バルブ、
272 第2バルブ、
221、222、223、224、225、271、272 燃料導入部、
231、232、271、272 酸化処理部、
AG アノードガス、
CG カソードガス、
OG 酸素含有ガス、
HG 水素含有ガス、
IG 不活性ガス、
RF 原燃料、
Ts スタック温度(燃料電池スタックの温度)、
Tp ニッケルの酸化・還元を行う処理温度、
Td 固体酸化物形燃料電池の運転温度、
t(OG) 酸素含有ガスOGの導入時間、
t(HG) 水素含有ガスHGの導入時間。